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詐欺(変更後の訴因 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反)
事件番号平成31(う)83
事件名詐欺(変更後の訴因 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反)
裁判年月日令和2年5月13日
裁判所名・部福岡高等裁判所  第2刑事部
結果棄却
裁判日:西暦2020-05-13
情報公開日2020-06-04 22:14:50
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令和2年5月13日宣告

福岡高等裁判所第2刑事部判決

平成31年(う)第83号

詐欺(変更後の訴因

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収

益の規制等に関する法律違反)被告事件
主文
本件各控訴を棄却する
被告人Aに対し,当審における未決勾留日数中400日を原判決の刑に算入する。

第1


本件各控訴の趣意
被告人Aの控訴の趣意は,弁護人作成の控訴趣意書及び弁論要旨各記載のとおりであるからこれらを引用するが,控訴理由は,法令適用の誤り及び量刑不当である。これに対する検察官の答弁は,検察官作成の答弁書及び弁論要旨各記載のとおりであるからこれらを引用する。
被告人Bについての検察官の控訴の趣意は,検察官作成の控訴趣意書及び弁論要旨各記載のとおりであるからこれらを引用するが,控訴理由は事実誤認である。これに対する被告人Bの答弁は,弁護人作成の答弁書及び弁論要旨各記載のとおりであるからこれらを引用する。
そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討する。
第2
1
事案の概要
本件公訴事実(原審における訴因変更後のもの)の要旨は次のとおりである。被告人Aは,福岡市a区内に本店を置き,営業目的を非鉄金属地金の売買仲介業務等として登記され,ロンドン金属取引所(以下LMEという。)におけるアルミニウムの委託売買取引を行っているかのように装って,同取引を行うために必要な保証金名目で現金をだまし取ることを共同の目的とする,被告人両名及び従業員らで構成される多人数の継続的結合体であって,被告人Aの指揮命令に基づき,あらかじめ定められた各任務の分担に従って一体として行動する組織により,その目的を実現する行為を反復して行っていた団体である株式会社C(以下本件会社という。)の実質的経営者として本件会社の業務全般を統括管理するとともに,現金をだまし取ることを任務としていたもの,被告人Bは,本件会社の代表取締役であるとともに,被告人Aらが現金をだまし取る際に用いる資料等の作成や被告人Aらがだまし取った現金の管理を任務としていたものであるが,被告人両名は,本件会社がLMEにおけるアルミニウムの委託売買取引を行っているかのように装って,同取引を行うために必要な保証金名目で現金をだまし取ろうと企て,現金をだまし取ることを任務としていた従業員らと共謀の上,本件会社の意思決定に基づく行為であって,だまし取った現金は本件会社に帰属するものとして,被告人Aの指揮命令の下,あらかじめ定められた各任務の分担に従い,平成27年6月から平成28年5月までの間に,5人の被害者らに対し,真実は,本件会社がLMEにおけるアルミニウムの委託売買取引を行っている事実はなく,交付を受けた現金を同取引を行うために必要な保証金に充てるつもりもないのに,これらがあるように装い,かつ,交付を受けた現金は本件会社の運営費や被告人らの遊興費等に費消するつもりであるのに,その情を秘し,本件会社が上記被害者らから交付を受けた現金を保証金に充てて,LMEにおけるアルミニウムの委託売買取引を行い,同取引によって生じた利益があればそれを上記被害者らに支払うなどとうそを言い,上記被害者らにその旨誤信させ,よって,上記被害者らから現金合計4400万円の交付を受け,もってそれぞれ団体の活動として,詐欺の罪に当たる行為を実行するための組織により,人を欺いて財物を交付させた。2
原判決は,被告人Bについては,本件会社がLMEにおける取引を行っていないとの認識を有していたとはいえないから,詐欺の故意を認めることができず,犯罪の証明がないとして,無罪を言い渡し,被告人Aについては,被告人B及び従業員らとの共謀の点を除き,上記公訴事実とおおむね同一の事実を認定した上で,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下組織的犯罪処罰法という。)違反(同法3条1項13号)の罪(以下組織的詐欺罪という。)により懲役7年6月に処した。第3
1
被告人Bの詐欺の故意について
被告人Bについての検察官の論旨は,要するに,被告人Bには詐欺の故意が認められるのに,これを認めることができないとして被告人Bに無罪を言い渡した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。

2
原判決は,要旨,以下のとおり説示して,被告人Bに詐欺の故意を認めることはできないから,無罪であると判断した。

被告人Aは,自ら又は営業員が各顧客から買い付けの注文を受けた後,LMEに注文を取り次ぐことなく,各顧客ごとに架空の買い付け価格を決め,当該価格でアルミニウムを買い付けた旨の注文伝票を自ら作成するか,営業員又は被告人Bに価格を指示してこれを作成させ,これらの注文伝票をもとに被告人B又は事務員がアルミニウムを買い付けた旨の顧客宛ての報告書を作成していた。その一方で,被告人Bは,アルミニウム等非鉄金属の市場価格を情報配信会社や新聞掲載の情報に基づき日々記録していた。検察官は,①平成23年2月24日から平成28年6月21日までの間におけるアルミニウムの市場価格の1日の高値と安値の差は最大165ドル,平均35.4ドルであったにもかかわらず,被告人B自らが記載した注文伝票には同じ日の取引であるのに顧客によって454ドルや309ドルもの価格差が生じているものが存在すること,②注文伝票記載の取引価格は,市場価格の範囲外のものが大半を占めていること,③被告人Bは,被告人Aから頼まれて,市場価格を偽った顧客向けの資料を作成したことがあったことなどから,被告人Aが恣意的に取引価格を設定しており,実際には海外市場で取引をしていないことを被告人Bが認識していたものと推認できる,と主張する。

①については,検察官が指摘する事実は認められるものの,被告人Bは,被告人Aの指示を受けて市場価格の記録を作成するようになったもので,これに基づき作成したグラフなどを被告人Aらが営業用の資料とするものと考えていた旨供述しており,この供述を排斥するに足る証拠はないから,被告人Bにおいて,1日の値動きの幅等に関心を持つ契機があったとはいえない。同じ日でも顧客によって100ドルを超える価格差が生じているのは,買い付けに係る2件にとどまっているから,被告人Aが指示した取引価格の異常性を被告人Bが認識していたとはいい難い。


②については,被告人Bは,上記のとおり1日の値動きの幅等に関心を持つ契機があったとはいえない中で,他の事務員と同じく,被告人Aや営業員が作成した注文伝票を渡されると,これをもとに顧客宛ての報告書を作成することを日常業務としていたのであって,注文伝票上の個々の取引価格についてLMEの市場価格と照合するなどの作業を行っていたことはうかがえず,検察官が指摘する価格の状況を被告人Bが認識していたかには疑問が残る。


③については,被告人Bは,被告人Aから顧客に示す資料であるとの説明を受け,その指示に基づき,アルミニウムの価格の推移を記した二つの表を併記したデータ及びこれに関連するグラフを作成したところ,一方の表は実際のLMEの市場価格に,他方の表は被告人Aが指示した価格にそれぞれ係るものであって,両者の数値は相違していたから,顧客に示す資料中にLMEの市場価格と相違するものが含まれていたことを被告人Bが知る契機があったことは否定できない。しかし,被告人Bは,もともと作成していた市場価格のデータから転写するとともに,被告人Aから受け取ったメモの内容を打ち込んで表を作成し,そこから自動的にグラフを作成していただけで,特に2種類の価格を比較したりせず,市場価格と被告人Aに指示された価格との差に関心を払うこともなかったと供述し,被告人Aも,単に顧客に示す資料であるとしか被告人Bに説明していなかった旨,被告人Bの供述に沿う供述をしており,被告人Bは営業活動を行ったことがないこと,上記表やグラフのデータは顧客5人分という少数のものにとどまっていることにも照らせば,被告人Bの上記供述を排斥することはできない。

結局,①ないし③の事実を総合しても,被告人Bは,被告人Aが指示する価格等に従って書類等を作成していただけであって,指示された取引価格に関心を払うことがなかったという合理的な疑いが残り,被告人Aが実際には取引を行っていないとの認識を被告人Bが有していたと推認することは困難である。


検察官は,被告人Bが,事務員が作成した手書きの各金銭出納帳(金庫用及び銀行用)及びこれらを基にしたエクセルデータの収支状況管理一覧(以下,併せて収支一覧表という。)を確認するなどしていたことを前提に,④収支一覧表には,顧客のために取引所における委託売買取引業務をすることで発生するはずの手数料収入や経費の支出等について記載がないこと,⑤同表によれば,形式的には本件会社の役員でも従業員でもない被告人Aに対して,顧客から支払われた保証金の大部分が本件会社から貸し付けられ,しかもその大部分が未回収であること,⑥本来であれば海外取引の担保とされるはずの顧客からの保証金が,そのまま従業員の給与等の経費の支払に流用されたこと,以上の④ないし⑥などに照らして,本件会社の収支の不自然さを被告人Bが認識していた,⑦被告人Bは,その作成資料から,顧客の大部分において本件会社に拠出した保証金よりも返金額が少なく損をしていたことを把握していたことも加味すれば,本件会社が委託売買取引を実際には行っていないために,新規の保証金を食い潰さなければ営業できない状況にあったことも当然に認識し得た,⑧営業員と事務担当者のみであって英語を話すことができる者もいないなど,本件会社の人員体制等からしても本件会社がLMEにおける取引を行っていない実態は明らかであったなどと主張する。

④及び⑤については,被告人Bの経理に関する業務内容は,収支一覧表の確認,経費や顧客に対する支払予定の把握等にとどまり,損益算定のための帳簿作成や損益計算書等の商業帳簿の作成等までは行っていない。顧客からの保証金は被告人Aに貸し付ける形で渡し,本件会社が支払うべき経費や,顧客に対する利益金及び返金すべき保証金を,そこから支払う形がとられていたから,上記業務を担当していたにすぎない被告人Bが,手数料収入は被告人Aに対する貸付けからその返済に至る過程において処理されていると考えたとしても,不自然とはいい難い。被告人Aへの貸付金について未回収の部分がある点についても,半分以上は返済されている上,顧客への保証金の返金を含めて本件会社が支払うべき金銭の支払がされていたことからすれば,被告人Bにおいて,本件会社に収益がないと推認するに足る事情とはいえない。LMEでの取引に伴う経費等について収支一覧表に記載がないことも,被告人Aの指示に従い上記業務を担当していたにすぎない被告人Bの立場に照らせば,かかる事実から取引の実態がないことまで認識するのは困難である。


⑥については,現に顧客に対する利益金の支払や保証金の返金も行われていたから,保証金の一部が経費に使われたとしても,一時的な立替えとして処理できる状態にあったと認識したとしても不自然ではなく,被告人Aの方で顧客の保証金を補てんとか立替えみたいなことをしていたのではないかという被告人Bの供述を排斥できない。また,顧客からの保証金がそのまま給与等の本件会社の経費に充てられたことが複数回存在したことはうかがわれるものの,その規模は200万円程度であり,平成26年度から平成28年度における保証金の入金が月平均2000万円以上に及んでいることとの対比からすれば,経費への流用があるから本件会社の経営状況が厳しいとの認識に直ちにつながるともいい難い。

⑦については,顧客と本件会社との契約は継続しており,将来保証金の返還等が行われる可能性もあり,現に,保証金の返還が行われ,支出した保証金以上の額が支払われた顧客も相当数いることから,本件会社において顧客側が必ず損をするような契約を結んでいるとの認識につながるとはいい難い。


⑧については,被告人Aの指示の下で,各顧客について逐一注文伝票,報告書等が作成されていることなどに照らせば,被告人Aがパソコン等を用いるなどして取引を行っていたと考えていたとの被告人Bの供述を排斥できない。


結局,④ないし⑧の事実を総合しても,被告人Bが,本件会社の業務実態がないと認識していたと認めることはできず,その他検察官が指摘する,本件会社が,前身の会社が次々と業務停止した後に設立され,同じ業務を営んでいたことや,前身の会社の営業当時から従業員が偽名を用いるなどしていたことも,せいぜい本件会社の業務に不審を抱かせる事情にとどまるものである。

3
当裁判所の判断
原判決の説示のうち,保証金の一部が経費に使われたとしても,一時的な立替えとして処理できる状態にあったと被告人Bが認識したとしても不自然ではなく,被告人Aの方で顧客の保証金を補てんとか立替えみたいなことをしていたのではないかという被告人Bの原審供述を排斥できないとする点一部であっても保証金が経費に流用されたことを被
告人Bが認識した場合,他方で,顧客に対する利益金の支払や保証金の返金が行われていたとしても,流用時点において本件会社に全部の経費を賄うだけの収入がないとの認識に至るのが通常であるから,保証金の流用が一時的な立替えとして処理することができる状態にあったと被告人Bが認識したとしても不自然ではないというためには,流用に係る保証金を補てんできるだけの保証金以外の原資があることなどの認識について相応の根拠が必要である。ところが,被告人Bは,原審において,被告人Aが本件会社の前身の会社である株式会社D(以下Dという。)等の顧客に係る取引でかなりの額の手数料収入を得ていると思っていた,保証金を経費に流用した分は被告人Aが補てんや立替えをしていたのではないか,などと供述するにとどまり,D等における手数料収入の具体的な額についての認識や,同手数料収入以外に被告人Aが調達可能な原資を有していたと考える具体的な根拠を明らかにしておらず,それにもかかわらず原判決が被告人Bの上記原審供述を排斥できないとの結論に至った根拠は必ずしも明らかでない。
この点に関して,原審で取り調べられた証拠の中には,被告人Bが,収支一覧表とは別に,D,その前身の会社である株式会社E(以下Eという。)及び本件会社において,委託売買取引により生じた利益として顧客に支払った金額を差引損益金(以下利益金ともいう。),同取引により生じた手数料収入を決済手数料として,会社ごとに日々記録して管理していたデータファイルを印字出力したもの(以下限定累計一覧という。)があり,これは,被告人AがD等の取引によってどの程度の手数料収入を得ているものと被告人Bが認識していたかを推知する資料となり得るものであるが,原判決はこの証拠には言及していない。
また,原判決では,後記のとおり,顧客からの保証金が相当程度の規模でそのまま本件会社の経費等の支払に充てられていたことについて検討がされていない。
原判決に上記のとおりの問題はあるものの,当裁判所は,原審及び当審において取り調べられた証拠によれば,本件において,証拠上認められる事実中に,被告人AがLMEにおける取引を行っていないことを被告人Bが認識していなかったとしたならば合理的に説明することができないか,少なくとも説明が極めて困難である事実関係が含まれているとはいえず,被告人Bについて詐欺の故意を否定した原判決の判断は,経験則,論理則等に照らして不合理であるとはいえないと判断した。以下,所論に鑑み,補足して説明する。

所論は,④ないし⑦に係る原判決の説示について
保証金を経費に流

用した額と手数料収入額との差からすれば,流用した額を手数料収入で埋め合わせることは困難であり,原判決は,保証金の流用の補てんを別の顧客からの保証金を流用することにより行うという自転車操業の実態をそのまま弁解として是認した点で,論理則に反する,

収支一覧表に本件会社

の収入に当たるはずの手数料収入を記載していないといった被告人Bの経理処理を客観的に見れば,本件会社への入金は保証金以外になく,本件会社の出金は保証金からの支出であるとの認識の下に経理処理が構築されていたことは明らかである,

においては,保証金全額の返還がさ

れていない顧客が大部分を

総合

すれば,被告人Bにおいて,本件会社は,顧客から受け取った保証金のみに基づいて自転車操業をしており,ひいては,LMEにおける取引を行っていないことを認識してしかるべきである,という。

以上の所論について検討するに,原審及び当審の関係証拠により容易に認められる客観的事実を踏まえると,被告人Bが原審及び当審において

保証金を本件会社の経費に流用した分については,被告人Aが手数料収入とかから補てんしていると思った。被告人Aは,特にD等の顧客に係る取引でかなりの額の手数料収入を得ていると思っていた。

旨供述するところが信用できるとした場合,本件会社の取引等の実態に関する被告人Bの認識としては,例えば次のようなものが考えられる(以下,この認識を本件認識という。)。
すなわち,顧客から本件会社に預けられた保証金の多くは被告人Aに貸し付けられる。被告人Aがこれを用いてLMEにおける委託売買取引を行い,それにより得た利益から手数料収入を差し引いた利益金を顧客に支払い,手数料収入は従業員への給与等の経費の支払に充てる。保証金が被告人Aに貸し付けられず会社経費に流用されることもあるが,その場合被告人Aが直ちに手数料収入等で補てんする。被告人Aが利益金を顧客に支払い,会社経費を負担し,保証金を顧客に返還した場合には,その分だけ被告人Aの本件会社に対する借入れ債務が減少する。
以下,所論の観点から,本件認識(被告人の上記供述を含む。以下同じ。)を否定し得るか検討する。

できるかについて見ると,被告人Bが作成し管理していた限定累計一覧によれば,特にDにおいて,本件会社の設立日である平成25年7月9日以降も,多額の決済手数料の収入が計上されていることが認められる。当審において取り調べた,警察官が収支一覧表及び限定累計一覧に係る各データファイルに基づいて作成した,本件会社の設立日である平成25年7月9日から平成28年6月22日までの間における,本件会社,D及びEの決済手数料の収入額並びに経費及び差引損益金の支出額等
の累計表によれば,弁護人が弁論要旨で指摘するとおり,平成28年4月14日以降,上記3社の決済手数料の累計額が,経費及び差引損益金の累計額を上回っており,同月13日以前において経費及び差引損益金の累計額が決済手数料の累計額を上回る額が最も大きい平成27年8月11日頃においても,その差額が,その時点における経費及び差引損益金の累計額の約9%にとどまることが認められる。
さらに,本件認識を前提とすると,本件会社が保証金を経費に流用することで成り立っていると被告人Bが認識していたか否かを検討するに当たっては,上記3社の決済手数料の収入で,差引損益金を含まない
純然たる経費を賄えたか否かを問題とすべきであり,上記累計表に基づき,差引損益金を控除した純然たる経費について労をいとわずこれを累計していくと,上記3社の決済手数料の累計額は,平成25年10月下旬には差引損益金を含まない純然たる経費の累計額を上回り,更に決済手数料の累計額に創業費合計450万円を加えると,同月上旬には差引損益金を含まない純然たる経費の累計額を上回っており,数字上は,本件会社の設立後3か月程度で,創業費及び上記3社の手数料収入により本件会社の全ての経費支出を賄える状態になっていたことが認められる。
このように,被告人Bが作成し管理していた限定累計一覧において,特にDにおける多額の決済手数料の収入が計上され,数字上はこれらの手数料収入によって本件会社設立後の早い段階から全ての経費支出を賄える状態になっていたことからすれば,被告人Bが,上記累計表に類するものを作成して手数料収入及び経費支出の累計額を常時把握して比較していなかったとしても,本件会社に預けられた保証金を会社経費に流用した分の補てんが上記3社に係る手数料収入によってされていたと体感し,そのように思っていたことが不合理であるとはいえない。所論の観点から本件認識を否定することはできない。
ところで,原判決は,平成25年8月から平成28年6月まで本件会社が顧客から預かった保証金総額約6億5000万円のうち被告人Aに貸付けがされたのは約5億7500万円であったと認定しているが,被告人A以外ではLMEでの取引をする者はいなかったのであるから,本件認識を前提としたとしても,その差額約7500万円は本件会社に残されたままであり,少なくともLMEでの取引に使用されることなく本件会社の経費の支払又は他の顧客への保証金の返金等に流用された(以下,これらの流用を本件流用という。)ものと推認され,本件被害者らについて見ても,原判示第1の被害者については保証金名目で交付した1000万円のうち5万円が,同第2の被害者については1500万円のうち900万円が,同第3の被害者については500万円のうち200万円がいずれも被告人Aに貸し付けられることなく本件会社に残されたまま,本件流用に使われたものと推認される。そこで,このような規模の本件流用の存在をもって,本件認識を否定し得るかについて検討する。
本件認識を前提として考えるに,原判示第1ないし第3の被害者らに係る売買取引計算書及び報告書,顧客の注文状況に関するデータファイル及び手数料収入額等に照らすと,保証金名目で交付された額全額をLMEでの取引に用いたものと推認し得る上,上記のとおり,数字の上では上記3社の手数料収入をもって本件会社の経費を十分賄える状態にあったから,上記の規模で保証金が本件流用に使われたとしても,その都度直ちに被告人Aの下で手数料収入をもって流用分相当額を流用に係る保証金に振り替えるなどして補てんしたと考えることが不合理であるとはいえない。本件流用をもって,本件認識を否定することはできない。

次に,収支一覧表に手数料収入を記載していない経理処理に関する所論について見ると,そもそも被告人Bは,本件会社が掲げていたのと同様の委託売買取引を実際に行う会社で勤務した経験を有しておらず,D及びEには勤務していたものの,これらの会社も本件会社と同様に,被告人Aが実質的に経営する,実際にはLMEでの取引を行っていない会社であり,それよりも前の職歴を見ても,被告人Bが,委託売買取引を行う会社において本来あるべき経理処理についての知識を有していたと認めるに足りない。また,本件認識を前提とすると,被告人Bにおいて,本件会社は被告人Aのワンマン会社であるから,自分としては相応の給与等の報酬を継続してもらえればいいと割り切り,ひたすら被告人Aの指示に従って業務を遂行しても不思議ではない。
そうすると,被告人Bが本件会社の経理に関して作成していた収支一覧表に形式的に手数料収入についての記載がないことについても,被告人Aの指示に従ったもので,この一覧表に手数料収入について記載しなければならないという意識がなかった旨の被告人Bの原審供述を排斥できず,本件会社の出金が保証金からの支出であるとの認識の下に経理処理が構築されていたとは断定できない。所論の観点から本件認識を否定することはできない。

本件会社では,保証金全額が返還されていない顧客が大部分を占めてい,顧客と本件会社との契約が継続していたこ
とからすれば,本件認識を前提とすると,被告人Aにおいて,いまだ保証金を運用中であることになるから,保証金全額の返還がされていない顧客が大部分を占めるのはむしろ当然である。所論の観点から本件認識を否定することはできない。
所論は,①ないし③に係る原判決の説示について,被告人Bが,Eで稼働
していた平成23年2月24日からアルミニウムの市場価格についてのデータを日々記録し続ける中で,平成24年2月下旬当時の新聞記事の日付を改ざんして,アルミニウムの市場価格が1t当たり1800ドル台から1400ドル台に下がり続けていた平成27年当時も2300ドル台に上昇しているかのような顧客向け資料を作成したことがあり,また,被告人Aの指示する取引価格が,特定の顧客について,ほとんどの取引で買付価格より売付価格の方が上昇して多額の利益を生じさせていたことや,被告人Bが,被告人Aから顧客に示すための資料であるとの説明を受け,その指示に基づいて二つの相違する価格表を併記したデータ及びこれに関連するグラフを作成したことなどを考慮すれば,全顧客についての全取引等のデータを作成していた被告人Bにおいて,本件会社における,あるいは本件会社設立以前からの数年にわたる日々の業務の中で,被告人Aが指示した取引価格の異常性,被告人Aが恣意的に取引価格を設定していること,ひいてはLMEにおける取引が実在しないことを十分に認識していたと認められるというのが論理則・経験則の示すところである,という。
しかしながら,

Bの業務遂行の姿勢等を前提とすると,原判

決がおおむね説示するとおり,被告人Bが,本件会社の業務全般を実質的経営者として取り仕切る被告人Aの指示に従って,機械的に,市場価格を記録したり,営業用ないし顧客向け資料としてのグラフなどを作成したり,注文伝票をもとに顧客宛ての報告書を作成したりしていたにすぎず,取引の内容に何らかの目的や関心を持って立ち入り,その是非について主体的に考えることをせず,あるいは,注文伝票上の個々の取引価格についてLMEの市場価格と照合するなどの作業もしなかったため,同じ日の取引価格が顧客ごとに異なることがあっても,あるいは,注文伝票上の取引価格がLMEの市場価格の範囲内に収まっていないものがあっても,取引価格の異常性や被告人Aが恣意的に取引価格を設定していることに思い至らなかったということがないとはいえない。別の見方としては,所論が指摘する事実は,被告人Aが顧客から新規あるいは追加の保証金を預かり,委託売買取引の規模を拡大してより多額の手数料収入を獲得したいがために,あるいは,取引で損をした顧客に納得してもらうために,上記顧客向け資料や報告書等を示すなどして顧客らに対し説明しているのではないかとの疑義を被告人Bに抱かせる契機になり得るものであり,被告人Bがそのような疑義を抱いていた可能性も考えられるが,いずれにしても,被告人Bをして,更に進んでLMEにおける取引が実在しないことまで当然に認識させるものとは認め難い。
このことは,上記顧客向け資料等の意味するところについては営業員の方がより理解していると思われるにもかかわらず,その営業員については誰一人として本件においてLMEにおける取引が実在しないことを認識していたと認めるに足りる証拠はないのであるから,ましてや,営業活動を行ったこもって本件会社の経費を賄っていける
との経理事務担当者としての感覚を有し,そのように思っていたことを否定できない被告人Bの場合,本件において,LMEにおける取引が実在しないことの認識を有する可能性はより一層なかったという見方もできることによっても裏付けられる。
以上に検討したところのほか,所論が主張するその余の点について検討しても,本件認識を否定することはできないのであって,本件において,証拠上認められる事実中に,被告人AがLMEにおける取引を行っていないことを被告人Bが認識していなかったとしたならば合理的に説明することができないか,少なくとも説明が極めて困難である事実関係が含まれているとはいえない。したがって,被告人Bについて,詐欺の故意を認めることができないとした原判決の判断が,経験則,論理則等に照らして不合理であるとはいえない。
所論はいずれも採用できない。
被告人Bの詐欺の故意についての検察官の論旨は理由がない。
第4
1
法令適用の誤りの主張について(被告人A)
被告人Aの法令適用の誤りの論旨は,要するに,本件各犯行は,被告人A以外の本件会社の構成員が詐欺の故意を有しないから,組織的犯罪処罰法3条1項柱書の当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたものではないにもかかわらず,同組織により行われたとして同項13号を適用し,組織的詐欺罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。

2
原判決は,検察官が,本件会社の代表取締役である被告人B及び主要な3名の営業員について,組織的詐欺罪の故意及び被告人Aとの共謀が認められると主張したのに対し,被告人B及び上記3名の営業員において,本件被害者らから保証金を集める行為が詐欺に当たることについて認識があったといえるかには合理的な疑いが残り,詐欺の故意及び被告人Aとの共謀はいずれも認められないとしたものの,以下の理由により,被告人Aについて組織的詐欺罪の成立を認めた。
本件会社は,その設立以来,営業員が顧客に対して,交付を受けた現金を保証金に充てて,LMEにおける委託売買取引を行い,生じた利益があれば支払う旨を伝えて交付させた金銭について,実際には委託売買取引を行うことなく,被告人Aの遊興費あるいは本件会社の運営費(従業員の給与等)に充てる状況になっていたのであり,客観的には,平成27年6月以降の本件会社の従業員の営業活動は全て人を欺いて財物を交付させる行為の一環に当たることになるから,そのような行為を実行することを目的として成り立っている本件会社は,詐欺罪に当たる行為を実行するための組織に当たる。
本件会社の中で,詐欺行為に加担していることを認識しているのが被告人Aにとどまっていたとしても,顧客から保証金を集めるという統一の意思の下で多数人が被告人Aの指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従うなどして営業活動等が行われることで,被告人Aの現金詐取という目的実現の可能性が高まっていることに変わりはなく,組織的犯罪処罰法3条1項で詐欺罪等について加重類型が定められた趣旨からすれば,本件において,被告人Aに組織的詐欺罪が成立することに妨げはない。
3
所論は,組織的犯罪処罰法3条1項柱書の当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたとして組織的詐欺罪の成立を認めるには,被告人Aだけでなく,少なくとも幹部従業員も詐欺の故意を有していたことが必要であり,幹部従業員の詐欺の故意を不要として組織的詐欺罪の成立を認めた原判決は,同項柱書の当該罪に当たる行為を実行するための組織の解釈適用を誤ったものである,という。
そこで検討すると,被告人Aが,本件会社を実質的に経営する被告人A及び被告人Bを含む本件会社の従業員らによって構成される組織を用いて,本件被害者らから原判示の保証金の名目で現金をだまし取る行為をした事実は争いがなく,原審証拠からも認められ,また,被告人Aが詐欺罪を犯したことや,上記行為が同項柱書の団体の活動として行われたことも争いがない。次に,上記行為が,詐欺罪に当たる行為を実行するための組織により行われたかについて検討すると,原判決がおおむね説示するとおり,本件会社は,LMEにおけるアルミニウムの委託売買取引を行うために必要な保証金の名目で金銭を集めることなどを共同の目的とする,上記のとおり構成される組織により,営業活動を行うものであり,その設立以来,実際には,委託売買取引を行うことなく,顧客から交付を受けた現金は,本件会社の運営費等に充てる状況にあったにもかかわらず,被告人Aの指示に基づき,営業員が顧客に対し,交付を受けた現金を保証金に充てて,LMEにおける委託売買取引を行い,生じた利益があれば支払う旨を伝え,顧客から保証金名目で現金の交付を受ける行為をしてきたものである。その上で,本件訴因に係る平成27年6月以降について見ると,本件会社の従業員らの上記営業活動は,客観的には全て人を欺いて財物を交付させる行為に当たることとなるから,そのような行為を実行することを目的として成り立っている上記組織は,詐欺罪に当たる行為を実行するための組織に当たるというべきである。そして,被告人Aは,本件詐欺を実行するに当たり,その従業員らの営業活動が客観的には全て人を欺いて財物を交付させる行為に当たるという上記組織を用いたものであり,また,そのことにより,被告人Aによる多額の現金の詐取という目的実現の可能性が高まっており,詐欺罪に当たる行為が,詐欺罪に当たる行為を実行するための組織により行われることで,財物の詐取という目的実現の可能性が著しく高まり,重大な結果が生じやすくなるがゆえに,詐欺罪の加重類型として組織的詐欺罪が設けられたという趣旨にも合致することに照らすと,上記組織の中に被告人A以外に詐欺行為に加担している旨の認識のある者がいない場合であっても,別異に解すべき理由はなく,組織的詐欺罪の成立が妨げられるものではないというべきである。
所論が引用する最高裁判例(最高裁判所平成27年9月15日第三小法廷決定・刑集69巻6号721頁)は,団体の実質オーナーである被告人のほか主要な構成員が詐欺行為に加担している認識を有していた事例において,組織的詐欺罪の成立を認めたものであるが,そのような主要構成員が詐欺行為に加担している認識を有することが組織的詐欺罪の成立において必要であるとまでの判断を示しているものとは解されない。
以上のとおりであるから,原判決が,被告人Aの本件犯行について,組織的犯罪処罰法3条1項柱書の当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたものとして,組織的詐欺罪の成立を認めたのは正当である。所論は採用できない。
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第5
1
被告人Aの法令適用の誤りの論旨は理由がない。
量刑不当の主張について(被告人A)
被告人Aの量刑不当の論旨は,要するに,①本件では組織的詐欺罪ではなく単純詐欺罪が成立するにとどまるから,当然量刑が軽くならなければならない,②被告人Aは,公訴事実を全面的に自白しており,争点であった組織的詐欺罪の成否は法令の解釈適用問題であって,別段証拠調べを要することではなかったから,原審は,被告人Aの共犯者として起訴され詐欺罪の犯意を否認する被告人Bの事件と被告人Aの事件を分離して公判審理を進めるべきであったのであり,そうしていれば,被告人Aの事件の審理は合計60日間もあれば終了することができたから,起訴後判決宣告前日までの未決勾留日数672日のうち,ほぼ600日を未決勾留日数として算入すべきであり,仮に被告人Bの事件との併合審理を前提としても,540日を算入すべきであって,原判決が刑に算入した未決勾留日数450日は少な過ぎて不当である,というのである。
2
しかしながら,①については,既に見たとおり,本件では組織的詐欺罪の成立が認められるから,所論は採用できない。
3
②については,本件公訴事実は,被告人Bを含む本件会社の従業員らとの共謀に基づく組織的詐欺罪の共同正犯を内容とするものであり,被告人Aは,組織的詐欺罪の成否を争う中で,被告人Bらとの共謀の有無についても争っていたから,公訴事実を全面的に自白していたものではない。また,同共謀の有無は,被告人Aの犯情にも影響する重要な事実である。したがって,原審が,被告人Bらとの共謀を否定する被告人Aの事件と,自身の詐欺の故意及び被告人Aらとの共謀を否定する被告人Bの事件とを分離することなく,被告人Aにおける組織的詐欺罪の成否についての主張及び証拠の整理と併せて,被告人Bにおける詐欺の故意及び被告人Bと被告人Aらとの共謀の有無についての主張及び証拠の整理を行い,これらの整理の結果に基づいて,引き続き被告人Aと被告人Bの事件を併合したまま審理を行ったことは不合理ではない。また,原審の審理経過を見ると,平成29年4月3日に被告人両名の詐欺罪について最初の起訴がされ,詐欺罪の追起訴及びこれらの起訴に係る訴因の組織的詐欺罪への訴因等変更許可決定がされるまでに2回の打合せが行われ,同年5月30日に同許可決定がされた後,原審裁判所が,被告人両名の事件について併合審理を行う方針として,本件を公判前整理手続に付し,平成30年3月12日に第1回公判期日が開かれるまでに更に6回の打合せ及び3回の公判前整理手続期日が行われ,第1回公判期日から判決宣告期日までに10回の公判期日が開かれ,その間,証人として召喚された本件会社の複数の元従業員が公判期日に出頭せず,進行についての協議等のために更に2回の打合せが行われたことが認められる。特に,公判前整理手続において,被告人Bにおける詐欺の故意を推認させる間接事実をめぐる主張及び証拠の整理に日数を要したことが認められるが,被告人Bが本件会社及びその前身の会社において長期間経理業務を担当していたことからすれば,その整理に相応の日数を要することはやむを得ないというべきであり,整理後の間接事実についての立証を当事者に尽くさせるために上記のとおり公判期日を重ねたことについてもやむを得ないというべきであるから,原判決が,当初の起訴日(平成29年4月3日)から判決宣告日の前日(平成31年2月3日)までの被告人Aの未決勾留日数672日のうち,450日を刑に算入したことが,その裁量権の範囲を逸脱して未決勾留日数を不当に過少に算入したものとはいえない。所論は採用できない。4
第6

被告人Aの量刑不当の論旨は理由がない。
結論
よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却することとし,被告人Aの当審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を適用し,主文のとおり判決する。
令和2年5月20日
福岡高等裁判所第2刑事部
裁判長裁判官

伊名波

宏仁
裁判官

武林仁美
裁判官

倉知泰

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