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監禁、保護責任者遺棄致死
事件番号平成30(わ)124
事件名監禁,保護責任者遺棄致死
裁判年月日令和2年3月12日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第7刑事部
裁判日:西暦2020-03-12
情報公開日2020-06-04 22:22:22
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主文
被告人両名をそれぞれ懲役13年に処する
被告人両名に対し,未決勾留日数中各140日を,それぞれそ
の刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人両名は,昭和59年に婚姻した夫婦であるが,両名の実娘であるA(同年▲月▲日生)の幼い頃から,Aとの関係をうまく築けないなどとして負担感を感じており,感情的になって厳しく接することがある一方で,Aへの接し方を変えるなどしてAとの関わりを持とうと努めたこともあったが,Aとの関係を改善するには至らなかった。
Aは,平成8年の冬以降,学校に登校しなくなり,自宅で1日中過ごすようになったが,次第に,常に下を向いた状態でいたり,同じ行動を反復したりするなど奇異な行動を示すようになった。被告人両名は,Aに精神科医師の診察を受けさせたところ,統合失調症及び自閉症と診断された。
被告人両名は,Aの症状や特徴に合わせた生活を送らせるとともに,Aとの間に距離を置きたいと考え,平成14年ないし平成15年頃,大阪府寝屋川市(住所省略)当時の被告人両名方敷地内に所在するプレハブ小屋(以下本件プレハブ小屋という。)内に,内側から解錠できない扉及び監視カメラを備えた居室(以下本件居室という。)を設置し,Aを本件居室に入れて外側から基本的に扉を施錠し,その動静を前記カメラで様子を見るとともに,生存のための最小限の世話をするほかは関わりを持たない生活を続けた。(罪となるべき事実)
被告人両名は
第1

共謀の上,平成19年3月12日頃,大阪府寝屋川市(住所省略)当時の被告人両名方敷地内に所在する本件プレハブ小屋内に設置した,内側から解錠できない扉及び監視カメラを備えた本件居室内でAを生活させるに当たり,前記扉を基本的に外側から施錠し,その動静を前記カメラで監視するなどし,その頃から平成29年12月18日頃までの間,同人を前記居室内から脱出不能にさせ,もって人を不法に監禁
第2

その実娘であるAを前記のとおり監禁していたものであるが,平成29年12月上旬頃,本件居室の暖房装置に接続されたサーモスタットを前年の冬期よりも低温に設定したため本件居室内の室温が低下し,同人が極度にやせた状態で,かつ,衣服を身に着けることなく生活していたことを認識したのであるから,同暖房装置を操作して本件居室内の室温を適切に管理し,かつ,医師による治療を受けさせ,十分な栄養を摂取させるなどのAの生存に必要な保護を与えるべき責任があったにもかかわらず,共謀の上,その頃以降,本件居室内において,同人に対し,同暖房装置を操作して本件居室内の室温を適切に管理し,かつ,医師による治療を受けさせ,十分な栄養を摂取させるなど生存に必要な保護を与えずに放置し,よって,同月18日頃,本件居室内において,同人を低栄養及び寒冷環境曝露により凍死させ

たものである。
(証拠の標目)省略
(争点に対する判断)
第1

争点の概要

本件の争点は,判示第1につき,①

被告人両名が本件居室にAを入れた上,

本件居室の二重扉を外側から施錠し,Aの動静を監視カメラで見る行為(以下本件行為という。)が客観的に監禁に当たるか否か,及び被告人両名の監禁罪の故意の有無,②

本件行為が社会的に相当な行為として違法性が阻却さ

れるか否か,判示第2につき,③
凍死であるか否か,④

Aの死因が低栄養及び寒冷環境曝露による

被告人両名の不保護罪の故意の有無である。
第2

前提事実

関係各証拠によって認められる,争点判断の前提となる事実関係は,以下のとおりである。
1
Aが死亡するまでの事実経過の概要
(1)

身上等

被告人両名は,昭和59年3月に婚姻した夫婦である。
Aは,昭和59年▲月,被告人両名の長女として出生した。
被告人両名,A及びB(被告人両名の二女。平成元年▲月生まれ)は,数回転居を行った後,平成7年8月頃に大阪府寝屋川市内の判示第1の当時の被告人方(以下被告人方という。)に転居した。
(2)

Aは同市内の小学校に通学していたが,平成8年度の冬頃から小学校
に登校しなくなり,中学校に入学してから卒業するまでの間は一度も中学校に登校しなかった。
(3)

被告人Yは,Aの幼少期から,Aとの関係をうまく築けないなどとし
て育てにくさや負担感を感じており,感情的になって厳しく接することがあった。同被告人は,Aが小学生の頃は,児童相談所からの助言を受け,Aへの接し方を変えるなどしてAとの関わりを持とうと努めたこともあったが,改善するに至らず,Aとの関係に苦痛を感じるようになっていった。
(4)

Aは,平成11年頃から平成13年頃にかけて,常に下を向いたまま
の状態でいたり,自宅の庭で立ち止まる,屈伸運動とか口の開閉など同じ動作を繰り返す,周囲の状況に反応せずに食事を食べ続ける,動かずに口を開けてよだれを垂れ流すなどといった奇異な行動を示すようになった。
(5)

医療機関での診察状況等
被告人両名は,平成13年10月から11月にかけて3回,Aを連
れて,精神科のC医師による診察を受けた。

被告人両名は,平成13年11月,Aを連れて,C医師に紹介してもらったD病院のE医師の診察を受けた。
その後,被告人両名は,平成18年7月31日までの間,断続的にE医師を訪問し,Aの状況等を相談して薬の処方を受けるなどしていた。このうち,被告人両名がAを連れて同医師の診察を受けたのは,平成13年11月から平成14年2月にかけての3回であった。
E医師は,当時,Aを統合失調症と診断するとともに,被告人両名から聴取した話に基づきAを自閉症と診断した。

被告人Yは,平成27年10月,Aを連れることなくD病院を訪問
してF医師にAの今後の状況について相談し,F医師から,行政や福祉施設に相談するように助言を受けた。

被告人両名は,上記アないしウに係る期間中,行政や福祉施設に相
談することはなかった。
(6)

Aの生活状況等
Aは,平成7年に家族と共に被告人方に転居した後,どこかの時点
以降は基本的に敷地内に設置された本件プレハブ小屋内で生活するようになった。

その後,Aは,一時期は被告人方家屋内の一室で生活していた。


Aは,平成13年頃には,被告人方家屋の玄関横の,被告人両名が
乗り台と呼んでいるスペースで過ごすようになった。そこで,被告人Xは,同所に壁や扉を設置してAのための部屋を作った(以下,この部屋を乗り台の部屋という。)。同部屋は概ね正方形の形状であり,Aがその中で身体を伸ばせない程度の広さであった。同部屋の扉は内側から開けることができ,Aはそこから出入りしていた。

その後,被告人両名は,遅くとも平成14年7月頃には,被告人方
敷地内の庭にコンパネで部屋を作り(以下,この部屋をコンパネの部屋という。),Aをコンパネの部屋に入れて外側から扉を施錠するとともに,コンパネの部屋に監視カメラを設置してAの様子を見るようになった。同部屋はかなり細長い長方形の形状であり,その短辺はAの身体の幅に若干の長さを加えた程度の長さであった。

その後,被告人両名は,平成14年ないし平成15年頃,本件プレ
ハブ小屋内に後記2のような本件居室を設置し,その中にAを入れた。以後,Aは,平成29年12月18日頃に死亡するまで,本件居室から外に出ることはなかった。
(7)

本件居室に入ってから死亡するまでの間,Aは衣服を身に着けておら
ず,トイレに行ったり,身体を動かしたりするほかは,毛布を身にまとって横になるなどして過ごしていた(平成29年12月7日以降についてみると,同日以前に被告人Yから毛布1枚を追加されていたため,毛布の枚数は2枚であった。)。また,食事については1日1回与えられていた。
(8)
2
Aは,平成29年12月18日頃,本件居室内で死亡した。

本件プレハブ小屋及び本件居室の構造等
(1)

本件プレハブ小屋の構造等

本件プレハブ小屋は被告人方家屋に隣接して設置されており,約3畳ほどの広さがある。本件プレハブ小屋の内部は更に壁等によって仕切られ,通路,本件居室及び本件居室とは別の空間(以下,この空間を便宜上空調部屋という。)が設けられている。
(2)

本件居室の構造等
本件居室の基本的な構造

本件居室は,南北150センチメートル,東西112センチメートル,高さ165センチメートルの空間である。
本件居室の北東側には壁及び扉によって仕切られたトイレ(南北55センチメートル,東西50センチメートル)が設けられている。
本件居室に窓は存在しない。
本件居室の北側には二重扉が設けられており,その先は通路へとつながっており,同扉が本件居室からの唯一の出口である(以下,本件居室内からみて本件居室側を内側,通路側を外側といい,二重扉のうち内側の扉を内側扉,外側の扉を外側扉という。)。イ
二重扉の鍵の状況

内側扉は,外側に取り付けられた丸ラッチ錠によって外側から施錠できる。内側扉を施錠した場合は,本件居室内から内側扉を解錠することはできない。一方,外側扉は,外側に取り付けられたフックに金具を掛けることによって外側から施錠できる。しかし,外側扉を施錠しても,本件居室内から外側扉を押すと容易にその施錠が外れ,外側扉を開くことができる。

その他の設備等

本件居室の東側壁面の床から約26センチメートルの位置にチューブが取り付けられており,このチューブを通して空調部屋に設置されたペットボトル内の水を飲むことができる仕組みとなっていた。
その他,床にカーペットが敷かれ,毛布が差し入れられているほかは,本件居室内には物品が置かれていなかった。
(3)

本件居室を暖房する仕組み等について

空調部屋にはハロゲンヒーターが設置され,これにより暖めた空気をダクト及び本件居室の天井の通風口を通じて本件居室に送ることによって本件居室を暖房する仕組みとなっていた。そして,このハロゲンヒーターの電源にサーモスタットを接続して,サーモスタットの温度センサーが感知した本件居室内の温度が設定温度を一定程度下回るとハロゲンヒーターの電源が入り,本件居室内の温度が一定程度上昇するとハロゲンヒーターの電源が切れるよう設定する方法により,本件居室の室温を管理していた。なお,サーモスタットの温度センサーは,本件居室内の上記(2)ウのチューブ付近に取り付けられていた。(4)

監視カメラの設置状況等について

本件居室の天井に監視カメラが設置され,これによりAの生活状況
が撮影されていた。

空調部屋にも監視カメラが設置され,これにより本件居室の室温を
表示したデジタル温度計が撮影されていた。デジタル温度計の温度センサーは,本件居室内の上記(2)ウのチューブ付近に取り付けられていた。ウ
その他,被告人方敷地には複数台監視カメラが設置され,これによ
り被告人方の庭や敷地の外の道路の様子が撮影されていた。

上記アないしウのとおり撮影された各映像は,被告人方の各所に設
置されたモニターに同時に映し出すことができるようになっていた。被告人両名は,これらの映像を通じて,Aの様子や本件居室内の温度を把握し,必要に応じて映像を録画していた。
第3

争点①(本件行為が監禁に当たるか否か及び被告人両名の監禁罪の故意)
について
1
まず,本件公訴事実では,要旨,平成19年3月12日頃,内側から解錠できない二重扉及び監視カメラを備えた本件居室内にAを入れた上,前記扉を外側から施錠し,その後もその動静を前記カメラで監視するなどしとされているように,検察官は,本件行為が監禁行為に当たると主張する。しかし,上記のとおり,外側扉を施錠しても,本件居室内から外側扉を押すと容易にその施錠が外れ,外側扉を開くことができるから,二重扉のうち外側扉については,内側から解錠できないとは認められない。よって,本件行為のうち,本件居室が外側扉を備えているという点は監禁行為に当たらない。以下,本件行為のうち,それ以外の点についての監禁行為該当性及び監禁罪の故意について検討する。
2
検察官は,被告人両名は普段から内側扉を施錠していたなどとして,本
件行為(ただし,外側扉の施錠の点を除く。以下同じ。)は監禁に当たると主張する。これに対し,被告人両名の弁護人(以下,単に弁護人という。)は,内側扉が常に施錠されていたとは認められないなどとして,本件行為は客観的には監禁に当たらない旨主張する。そこで,以下,検討する。3
証拠(甲57,58,証人Gの供述)によれば,平成26年以降の本件
居室内の映像には,被告人X又は被告人YがAに食事を出し入れするために本件居室の内側扉を開閉する場面が7回(被告人Xが5回,被告人Yが2回)記録されていること,その場面の全てではないものの,その場面のほとんどで,内側扉が開く直前と内側扉が閉まる直後に,内側扉を解錠及び施錠する音が確認できることが認められる。上記の場面が,いずれもAの食事の出し入れという,被告人両名が日々繰り返し行っていた作業に係るものであることにも照らすと,このような解錠及び施錠の状況は,被告人両名が基本的に内側扉を施錠していたことを推認させるものである。
また,内側扉に取り付けられていた丸ラッチ錠(甲55)には,長年にわたり施錠に使用されることにより付くと思われる傷などの痕跡があることが認められる。
さらに,鍵の設置目的を見ると,乗り台の部屋には鍵がついていなかったため,Aが裸で被告人方の敷地の外に出ることがあったことから,被告人両名が本件居室を作る際にはそのような事態を防ぐために本件居室の内側扉及び外側扉に鍵を設置したというのであり(被告人Xの供述),このような設置目的に照らすと,Aが本件居室から外に出ないよう,各扉の鍵を掛けるのが通常であると思われる。
これらを総合すると,被告人両名が基本的に内側扉の施錠をしていたことが認められる。
4
また,上記のとおり,本件居室内や被告人方敷地の内外に複数台の監視
カメラを設置し,Aの動静を把握することが可能であったことに照らすと,被告人両名は,仮にAが本件居室から外に出た場合,それに気付いて本件居室に連れ戻すことを予定していたものと考えられる。
5
そこで,本件行為が監禁に当たるか否かについて検討する。

確かに,被告人両名が常に内側扉を施錠していたとまでは認められない。しかし,基本的に施錠されていれば,中にいる者はその中から出ることを諦めてもおかしくないことに加え,現に,Aは,本件居室から外に出ることを諦めていたか,又は外に出たいという意欲を持てないような精神状態になっていたと考えられること,さらに,上記のような監視カメラの存在も併せ考えると,本件行為は客観的に監禁に当たると認められる。
また,被告人両名は,ともに,基本的に内側扉を施錠するとともに,監視カメラでAの様子を見ていたから,監禁罪の故意もあったと認められる。第4
1
争点②(本件行為の社会的相当性の有無)について弁護人は,本件居室におけるAの生活は,Aの統合失調症の症状や自閉
症の特徴に合わせたものであって,Aを療養させる目的でなされたものであったことや,Aの黙示の承諾があったことから,本件行為は社会的に相当な行為であって,本件行為の違法性は阻却されると主張する。
そこで,以下,検討する。
2
まず,本件行為は,上記第2,2で述べたような極めて狭い空間に約1
0年間も監禁するというものであって,客観的に見て,Aの行動の自由を奪っただけでなく,Aを社会から隔絶して心身の健全な成長を阻害したと評価すべきである。E医師も供述するとおり,統合失調症の治療の場面であっても,生活空間を隔離して監禁するというのは,自傷他害のおそれを踏まえ,医師の判断で必要最低限の範囲で行うべきものであって,そのような事情もないのに自由を奪うことは,本人の尊厳を害する極めて不適切なものというべきである。食事の量は,1日1食だけで,成人女性であるAが生活するのに必要な量を満たしていたとはいえない。約10年間という想像を絶する長期間にわたり,このような劣悪な生活環境が継続された結果,平成29年頃時点は,Aの身体は,極度に痩せ,歯が幾つも脱落するなど,年齢相応の健康を保っていない状態に至っている。のみならず,被告人両名は,本件行為の期間中,医療機関に相談したことがわずか1回あるのみであり,その他公的機関等にも相談していなかったのであって,社会的に見て,被告人両名がAの療養のために尽力していたとは到底評価できない。被告人両名は,Aが本件居室に入ってからは安定していたと供述するが,これは,E医師の供述するとおり,むしろ統合失調症の症状を悪化させてきたものと見るほかない。被告人両名においては,Aがかろうじて生存するのに必要な程度の配慮しか施していなかったというべきである。また,Aによる黙示の承諾の有無についてみると,まず,Aが狭い場所で過ごすことを好んでいたからといって,本件居室に閉じ込められることを承諾していたことにはならない。また,本件居室に入れられた時点で既にAは統合失調症にり患し,監禁されることについて正常な判断ができる状態ではなかったのであるから,本件居室から出ようとする行動を取らなかったことは監禁に対する有効な承諾の存在を示すものとはいえない。したがって,Aによる黙示の承諾があるともいえない。
以上によれば,被告人両名が本件行為に及んだ主観的目的の内容にかかわらず,本件行為が療養行為であるとか,Aの黙示の承諾があったと見ることはできないから,本件行為が社会的に相当な行為であるとして違法性が阻却される余地はないというべきである。
3
もっとも,被告人両名がAを本件居室で生活させていた目的は,本件の
犯情に関わる情状事実にもなるので,更に検討する。
(1)

まず,平成14年ないし平成15年に被告人両名が本件居室を設置し
た頃の目的について検討する。
関係証拠によると,Aが,平成13年当時,乗り台の部屋という非常に狭い空間で過ごすことを受け入れるとともに,衣服を身に着けることを嫌がっていたこと,その当時,幻覚及び幻聴があるほか,自傷行為に及んだこともあったこと,Aが,平成13年12月,E医師に対し,囲われたところでいたい旨述べたこと,平成14年2月,Aが本当は家の中の囲われたところがあればそこにいたい旨述べ,これに対してE医師が,囲われたところを作ってあげて見てほしい旨を述べたことが認められる。
このような経過や上記第2のような事実経過に加え,被告人両名が,E医師を受診するのと並行して,乗り台の部屋,コンパネの部屋を経て,本件居室といった大掛かりな設備を製作したという経緯や,本件プレハブ小屋内にわざわざ仕切りを作るなどして本件居室を設置したことに照らすと,本件居室が極度に狭い空間であったのは,Aが狭い場所で一人でいたがるとか,動かずにじっとするなどという状態に沿うようにするためであったと認められる。また,本件居室の構造について,被告人Xは,部屋に窓を作らなかったのは,外部からの刺激で幻覚や幻聴が生じることに配慮したものであり,また,コンパネの部屋や本件居室に鍵を取り付けたり,監視カメラを設置したりしたのは,乗り台の部屋にいたときにAがそこから地面に頭を打ち付けたり,裸で自宅の外に出たりしたということを踏まえ,Aがそのような行動に出ないようにしたものであるなどと説明しているところ,このような説明が不合理であるとはいえない。
以上によれば,被告人両名がAを本件居室に入れて住まわせた目的の一つには,被告人両名なりの考えとして,統合失調症を発症したAの症状や特徴,行動傾向に対応して,多少なりとも安定した生活を送らせようとしたという面があったと認められる。
他方で,上述した被告人両名のAへの養育の経過,特に,被告人Yが,幼少期におけるAの行動状況から,Aとの関係の持ち方に苦労し,負担感を感じていたことなどを踏まえると,被告人両名に,Aが自宅で生活するとしても,Aと同じ場所で生活することを避け,なるべく距離を置きたいという意図が存在したことも否定できない。
このように,平成14年ないし平成15年頃に被告人両名が本件居室を設置して,そこにAを入れた目的としては,統合失調症を発症したAの症状や特徴,行動傾向に対応して,多少なりとも安定した生活を送らせようとしたという側面があった一方,Aと同じ場所で生活することを避け,なるべく距離を置こうとしたという側面があったと認めることができる(したがって,この当時の被告人両名の主観としては,Aを劣悪な環境に置くことにより同人につらい思いをさせることを目的としたものではなかったと認められる。)。
(2)

次に,被告人両名が,E医師を訪問することがなくなった平成19年
以降,平成29年12月にAが死亡するに至るまでの間,本件行為を続けた目的について検討する。
この間,Aは,意思を表明したり外界に反応を示すことがなくなり,1日1回の食事と排泄や睡眠といった,生存にとってごく最低限の行動しか行わないような状態が長年にわたり続いているのに,被告人両名は,Aに対して,声を掛けることもほとんどなく,本件居室内に食事を差し入れるだけで,Aと触れ合うといった関わり合いを持っておらず,また,医療機関に相談したことがわずか1回あるのみであり,その他公的機関にも相談していなかった。このように,被告人両名は,Aに対する監護意欲を失い,Aが特段暴れたりしなくなったことに甘んじて,漫然とその状態を続け,Aの心身の健康に対する必要最小限の配慮をすることもなく,Aを周囲から隔絶した生活環境に置き続けていたのであるから,他方でこのままの状態を続けていては良くないと思ってはいたものの,被告人両名が,Aの統合失調症の症状に適切に対処したり,症状を改善させたりする目的で本件行為を続けていたとみる余地はない。(3)

以上のとおり,被告人両名が本件居室にAを入れた目的については,
平成14年ないし平成15年に被告人両名が本件居室を設置した頃は,統合失調症を発症したAの症状や特徴,行動傾向に対応しようという側面とAからなるべく距離を置こうとしたという側面があったものの,その後その状態を続けるうち,平成19年頃以降は,Aに対する監護意欲を失い,漫然とその状態を続けていたのであって,Aの統合失調症の症状に適切に対処したり,症状を改善させたりする目的で本件行為を続けていたものではないとみるのが相当である。
第5
1
争点③(Aの死因について)
Aの遺体を解剖したH医師は,Aの死因について,概要,次のとおり供
述する。
すなわち,Aには筋肉や脂肪がほとんどなく,著しい低栄養の状態にあったこと,Aの遺体には,凍死の場合に比較的見られる所見である左右心臓血の色調差及び胃粘膜の出血斑が認められたこと,Aが裸で摂氏10度ないし12度の低温環境下にいたこと,Aは低温環境から逃避することができない状況であったこと,他に死因になり得るような病変や損傷等がないことを総合すると,Aの死因は低栄養及び寒冷環境曝露による凍死と判断される。というものである。
以上のH医師の見解は,法医学の専門家としての知識や経験に基づくものであり,判断手法にも不合理な点はないから,信用性が高いといえる。2
これに対し,弁護人は,①

左右心臓血の色調差は遺体が低温に保たれ

ていた場合にも生じるところ,被告人両名がAの死後に本件居室の暖房を止めたことによりAの遺体は低温に保たれていたから,左右心臓血の色調差は凍死の決定的な所見とはならない,②

Aの胃粘膜の出血斑はごく少数であり,ま

た,この出血斑は衰弱等によっても生じるものであるから,凍死の決定的な所見とはならない,③

H医師の当初の鑑定は,毛布や暖房の存在を前提として

いないなど不十分な情報に基づくものであること,④
Aの死因はリフィーデ

ィング症候群(極端な飢餓状態にある者が急に栄養を摂取することによって,重篤な身体的合併症が生じて致死的な状態に至るというもの)である疑いがある,などと主張し,H医師の見解の信用性を争っている。
しかし,①②については,H医師は,上記のとおり,遺体の状況だけでなく,A自身の要因やAの置かれた環境を総合的に判断しているのであって,左右心臓血の色調差及び胃粘膜の出血斑を凍死の決定的な所見としているわけではないから,弁護人が主張する点は,H医師の見解の信用性を揺るがすものではない。③については,H医師は,鑑定後に本件居室に毛布や暖房が存在していたことを知らされたが,そのことを踏まえても当初の鑑定の結論に変更はない旨供述しているところ,Aが死亡した平成29年12月頃の本件居室内の室温(後記第6の2(2)のとおり。)に照らすと,毛布や暖房の存在を前提としても,本件居室内がAの体温を奪う低温環境であったことに変わりはないと考えられるから,当初の鑑定に変更はない旨のH医師の供述は不合理ではない。④については,被告人両名の供述や監視カメラ映像によれば,Aは平成29年12月頃は1日1回の食事を続けており,Aが急に栄養を摂取するような状況はなかったことが認められるから,Aがリフィーディング症候群にかかるような状況になかったと考えられる。
3
以上によれば,H医師の見解は信用できる。したがって,Aの死因は,
低栄養及び寒冷環境曝露による凍死であると認められる。
第6
1
争点④(不保護罪の故意の有無)について
弁護人は,平成29年12月当時,被告人両名にはAが生存のために特
定の保護行為を必要とする状況(以下要保護状況という。)にあることの認識はなかったと主張して,不保護罪の故意を争っている。
そこで,以下,検討する。
2
故意の判断の前提として,本件における要保護状況及び行うべき保護行
為の内容を検討する。
(1)

Aの解剖時である平成29年12月25日における遺体の状況は,腹
部の皮下脂肪及び内臓脂肪並びに筋肉が非常に乏しく,身長が145センチメートルであるのに対して体重が19キログラムであり,そのBMIの9.0という数値は,摂食障害の治療ガイドラインにおいて緊急入院が必要とされる指標(BMI:12.0)を大きく下回るものであった。また,遺体の外見は,頬がこけ,胸部はあばら骨が,背部は背骨及び肋骨が浮き出ており,手足は骨や関節の形が一見して明らかに分かるほど極端に細くなっていた。そして,上記の解剖がAの死亡から約7日後に行われたことを考慮に入れても,死亡直前のAの身体状況は上記の解剖所見と大きく異ならない(H医師の供述によれば,その間に体重が何キログラムも変化するようなものではないと認められる。)。一方,Aの死亡から10日前頃に当たる同月8日に撮影されたAの映像によれば,Aの手足は極めて細く,その背部には背骨が浮き出ているなど,極度に痩せていることが認められる。
しかも,Aは,長年にわたり,多いとはいえない量の食事を基本的に1日1食程度とっていたにすぎなかった。
以上によれば,Aは,遅くとも同月7日頃には,重度の低栄養状態であったものと認められる。
(2)

また,被告人両名の供述及び本件居室のデジタル温度計による計測値
等をまとめた捜査報告書(甲42)によれば,被告人両名は,遅くとも平成29年12月7日頃には,サーモスタットの設定温度を摂氏10度に設定したこと,同日以降の本件居室内の室温が概ね摂氏10度ないし12度であったことが認められる(これに対し,弁護人は,本件居室内におけるAがいた場所の温度は,デジタル温度計の温度センサーのある場所の温度よりも高温であった可能性があると主張する。しかし,サーモスタットを作動させた場合の本件居室内の温度上昇状況に関する実験(弁83)によれば,Aがいた場所の温度が温度センサーのある場所の温度よりもむしろ低くなるという結果になっていることや,本件居室が狭小な空間であることに照らすと,Aがいた場所の温度はデジタル温度計の温度センサーのある場所の温度と変わらないか,仮に高温になることがあったとしてもわずかなものにすぎないと考えられる。したがって,本件居室内の室温が概ね摂氏10度ないし12度であったという判断は揺るがない。)。
(3)

小括
上記(2)の事実及び上記第2の前提事実によれば,Aは,平成29年
12月7日頃以降,重度の低栄養状態で,かつ,室温が概ね摂氏10度ないし12度という低温環境の本件居室内に,衣服を着けず,毛布2枚を与えられた状態で監禁されていたと認められる。
そして,Aの死因が低栄養及び寒冷環境曝露による凍死であることに鑑みると,Aの両親であり,Aを本件居室に監禁した被告人両名において,サーモスタットを操作して本件居室内の室温を適切に管理し,かつ,医師による治療を受けさせ,十分な栄養を摂取させるなどする行為が,Aの生存に必要な保護行為であったと認められる(以下,上記行為を本件保護行為という。)。そして,被告人両名が本件保護行為を行っていなかったことは証拠上明らかに認められる。

なお,検察官は,被告人両名による不保護行為の犯情として,被告
人両名が,同日頃にサーモスタットの設定温度を摂氏10度に下げる前である同年11月頃,設定温度が摂氏15度の状態でいったんサーモスタットを作動させていたと主張し,その根拠として,甲42号証に基づき,①
同年11月

16日には,外気温が上がっているのに,本件居室の室温が下がっている状況が認められること,②

同月28日は外気温が摂氏7.4度であるのに,本件

居室の室温が摂氏14.6度ないし14.7度であったことを挙げる。しかし,①については,検察官が指摘する温度変化は,午前6時前後から午前10時42分前後にかけてのものであるが,この時間帯において,外気温が上昇に転じても,本件居室の室温は断熱効果等によりしばらくの間下がり続けるという可能性が否定できないから,サーモスタットが作動していなくても,外気温の変化と本件居室の室温の変化とが連動しないこともあり得るといえる。また,②については,サーモスタットが作動していない場合に外気温と室温の差がどの程度になるのかは証拠上明らかでないから,検察官が指摘するような温度差が,サーモスタットが作動していなければ説明がつかない温度差であると言い切ることはできない。よって,検察官の上記主張は採用できない。3
次に,被告人両名の不保護罪の故意の有無について検討する。
(1)

まず,被告人両名が基本的に監視カメラを通じてAの様子を見ていた
ことからすれば,被告人両名は,平成29年12月7日頃,Aの身体が上記のとおり極度に痩せていることを認識していたことが認められる。また,被告人両名は,同日頃,相談の上でサーモスタットの設定温度を前年の冬期における設定温度(摂氏15度程度)よりも低い摂氏10度に設定したのであるから,本件居室が摂氏10度程度の低温の環境になることを認識していたことも認められる。以上によれば,被告人両名において,Aが生存に必要な保護として本件保護行為を必要とする状況にあることを認識していたことが強く推認される。なお,被告人両名がこのような行為に及んだ理由について,検察官は,自分たちよりAが長生きしないことを意図したものである旨主張するが,被告人Yが平成29年に二女宛てに記した携帯電話のメモの草稿やF医師への相談内容からは,むしろ自分たちの死後にAが公的機関等の援助を受けることを願っていたと認められるから,検察官の主張は採用できない。
(2)

これに対し,弁護人は,①

不保護罪の故意の成立のためには,Aの

生存に関わる危険があることの認識が必要であるとした上で,②る前日まで食事を残さずに食べていたこと,③
たりということが何度かあったこと,④

Aが死亡す

Aは過去にも痩せたり回復し

毎日Aの様子を見ていた被告人両名

にとって,Aが極度に痩せていることを顕著に意識することは難しかったといえること,⑤

被告人両名は,Aに生存に関わる危険がある状態であると分か

っていればAを病院に連れて行ったはずであることなどから,被告人両名にはAが要保護状況にあることの認識はなかったと主張する。
しかし,①については,不保護罪の故意の成立のためには,Aが生存に必要な保護として本件保護行為を必要とする状況にあることを被告人両名が認識していることがあれば足りると解されるから(最判平成30年3月19日刑集72巻1号1頁参照),弁護人の主張は失当である。②については,Aが1日1回しか与えられない食事を残さずに食べていたという程度の事情が上記推認を覆すに足りる事情になるとは考えられない。③及び④については,平成29年12月頃のAの痩せ方は上記2(1)のとおり顕著なものであって,被告人両名がこのような痩せている様子を見ている以上,痩せ方の変化等の認識にかかわらず,低栄養の状態の認識を基礎付ける事実の認識としては十分であるといえる。⑤については,上記①について述べたとおり,要保護状況の認識として,Aが生存に関わる危険がある状態であるという認識までは必要ない。その他,弁護人が主張するところを検討しても,上記の推認を覆すに足りる事情はないと認められる。
(3)

したがって,被告人両名において,Aが生存に必要な保護として本件
保護行為を必要とする状況にあることを認識していたことが認められる。また,被告人両名が本件保護行為を行っていないことを認識していたことも明らかに認められる。
(法令の適用)
被告人両名につき


判示第1の行為

刑法60条,220条

判示第2の行為

刑法60条,219条(218条),10条(同
法218条所定の刑と同法205条所定の刑とを
比較し,重い傷害致死罪の刑により処断)

併合罪の処理

刑法45条前段,47条,10条(重い判示第2
の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加
重)
未決勾留日数の算入

刑法21条

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
1
本件は,被告人両名が,共謀の上,実娘である被害者を約10年間にわ
たり本件居室内に監禁した監禁の事案及び被害者が極度に痩せた状態となった上被告人両名が本件居室の室温を低温に設定するなどしたため,被害者が生存に必要な保護を要する状況となったのに,それをせず,同人を死亡させたという保護責任者遺棄致死の事案である。
2
まず,監禁事件についてみると,被告人両名は,被害者に対し,畳1畳
分の広さより若干広い程度の極めて狭小な空間で,かろうじて生存するのに必要な程度の世話しかしないまま,約10年間という長期間にわたり監禁行為を継続したものであって,人間としての最低限の尊厳をも否定する非人道的な行為というべきである。被告人両名は,本件居室に被害者を入れた当初こそ,被害者の統合失調症等の状態に対応した空間を提供するという面があったものの,その後は監護意欲を失い,医師の診察を受けさせることのないまま,精神疾患への対処として全く不適切な方法を継続したものであって,犯行の経緯に酌量できる余地は乏しい。被告人両名は,判示の監禁時期より前の時期には,被害者の状態を思い悩み,医療機関に相談していたこともあったが,思うような対処が得られないなどと考えて受診意欲を失い,ひいては監護意欲も失っていったと考えられる。しかし,被害者を上記のような劣悪な生活環境に置き続け,意思を表すことすらなくなった被害者の状態を見ていながら,被害者が特段暴れたりしなくなったことに甘んじて,自分たちから遠ざけ,被害者が落ち着いているなどと勝手な解釈をした上,医師の診察に被害者を連れていくという最低限の対処をほとんどしないどころか,人間的な関わりすらほとんど持たないまま監禁を続けたというのは余りに無関心であって,本件は精神障害者の治療に思い悩む通常の家族の場合とは質的に異なっているというべきである。監禁期間を通じて,被害者は,極度に痩せ衰え,股関節等が伸びない状態で身体が固まってしまうなど,心身の健康が極限まで損なわれる状態に至っている。被害者は,表面的には,自ら本件居室からの脱出を試みることなく,与えられた食事を食べたりして,室内で過ごしているが,これは,同人が正常な意思能力を欠いた状態に至っていたためであるにすぎず,この点は監禁の犯情を軽減するものではない。
3
次に,保護責任者遺棄致死事件についてみると,上記のような監禁行為
によって被害者が明らかに衰弱しているのに,被告人両名は,1日1食の食事を与えるのみで,医師による治療を受けさせないどころか,室温の低下が被害者にもたらす影響に配慮することなく,前年の室温より約5度も低い室温になるようサーモスタットを設定したのであって,被害者の生存に必要な行為を著しく怠ったというべきである。検察官が主張するように自分達より被害者が長生きしないことを意図した犯行であるとはいえないものの,事態の発覚をおそれ,被害者の状態を憂慮することなく漫然と現状を維持し続けようとした態度は余りに無責任である。被害者は,人間らしく扱われないまま本件居室で死亡したものであって,その結果は重大である。
4
被告人両名が本件を悔いていることはうかがわれるが,他方で,公判廷
で不合理な弁解を述べるなどしており,本件に真摯に向き合っているとはいい難い。一方,被告人両名には前科前歴がないなど,有利に酌むことができる事情もある。
5
そこで,以上の事情を総合考慮し,保護責任者遺棄致死事件の量刑傾向
を参考にした上,監禁事件の犯情の重さも考慮して,被告人両名をそれぞれ主文の刑に処するのを相当と判断した。
(求刑

被告人両名につきいずれも懲役13年)

令和2年3月26日
大阪地方裁判所第7刑事部
裁判長裁判官


裁判官


裁判官

口井志丈谷卓嗣喬
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