判例検索β > 平成29年(わ)第3106号
詐欺、詐欺未遂
事件番号平成29(わ)3106
事件名詐欺,詐欺未遂
裁判年月日令和2年2月19日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第7刑事部
裁判日:西暦2020-02-19
情報公開日2020-06-04 22:27:13
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文
被告人Xを懲役5年に,被告人Yを懲役3年に処する
被告人両名に対し,未決勾留日数中各200日を,それぞれその刑に算入する。
被告人Yに対し,この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中,平成29年9月11日付け起訴状記載の各公訴事実について,被告人Yはいずれも無罪。
理由
(罪となるべき事実)
第1【平成29年8月21日付け起訴状記載の公訴事実】
被告人Xは,学校法人P学園(以下P学園という。)の理事長として,その業務全般を統括していたもの,被告人Yは,P学園のため,被告人Xが行う業務を補佐するなどしていたものであるが,P学園が大阪府豊中市(住所省略)所在の土地に小学校の校舎等を建設することに関し,有限会社A1(以下A1という。)の取締役であるA2らが,国土交通省から事務事業者に選定された一般社団法人B1(以下B1という。)が先導的な木質化建築事業を実施する建築主等に対して補助金対象事業の採択以降に着手した実施設計及び建設工事を対象として交付する間接補助金であるサステナブル建築物等先導事業(木造先導型)補助金(以下サステナブル補助金という。)について,P学園の代理人として,あらかじめ同省及びB1に対して,実際の設計報酬額及び予定された工事代金額よりも過大な見積額を記載した設計見積書及び工事見積書と共に事業提案申請書を提出するなどして,同省に平成27年9月4日付けで補助限度額を6194万4000円として同事業提案を採択させ,さらに,B1に同年10月8日付けで平成27年度分の補助金交付予定額を5644万8000円と決定させていたところ,被告人両名は,B1からサステナブル補助金をだまし取ろうと考え,A2らと共謀の上,真実は,平成26年7月頃にP学園とA1との間で報酬額を3200万円(税抜)とする建築設計・監理業務委託契約を締結した上で,遅くとも平成27年3月頃には実施設計に着手していたのに,かつ,同年12月頃にP学園とC1株式会社(以下C1という。)との間で締結した建設工事請負契約の工事代金額は14億4000万円(税抜)であったのに,平成28年2月下旬頃,京都市内から東京都港区(住所省略)所在のB1事務所に対し,前記採択日である平成27年9月4日以降に実施設計に着手し,建築設計・監理業務委託契約の報酬額が1億4125万円(税抜)であるかのように装った内容虚偽の同日付けP学園とA1間の建築設計・監理業務委託契約書の写し,建設工事請負契約の工事代金額が22億800万円(税抜)であるかのように装った内容虚偽の同年12月3日付けP学園とC1間の工事請負契約書の写し等と共に平成27年度におけるサステナブル補助金の前記交付予定額5644万8000円のうちの4829万8000円を申請額とする中間実績報告書,請求書等を郵送送付し,その頃,B1代表理事のB2らに,前記各契約書の契約内容及び申請内容は真実であり,前記申請額どおりにサステナブル補助金をP学園に交付すべきである旨誤信させて,P学園に交付すべきサステナブル補助金の額を4829万8000円と決定させ,平成28年3月22日,B1職員に同額を大阪市(住所省略)所在の株式会社D銀行E支店に開設されたP学園名義の普通預金口座に振込入金させ,さらに,前記代表理事らが前記各契約書の契約内容は真実であると誤信しているのに乗じ,平成29年1月下旬頃,京都市内から前記B1事務所に対し,建設工事が平成27年度の予定出来高に達した旨記載した実施報告書と共に前記交付予定額5644万8000円のうち未交付であった815万円を申請額とする実績報告書,請求書等を郵送送付し,その頃,前記代表理事らに,前記同様に誤信させ,平成27年度におけるP学園に交付すべきサステナブル補助金の額を5644万8000円であると確定させた上,P学園に更に交付すべきサステナブル補助金の額を815万円と決定させ,平成29年2月21日,B1職員に同額を前記口座に振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させた
第2【平成29年9月11日付け起訴状記載の公訴事実第1】
被告人Xは,P学園の理事長であり,P学園が運営するQ幼稚園の園長として,P学園及びQ幼稚園の業務全般を統括していたものであるが,大阪府が,同府内に私立幼稚園を設置する学校法人等に対して,幼稚園での勤務日数が平均週5日以上であることなどの要件を満たした専任教員の人数等に応じて交付する大阪府私立幼稚園経常費補助金(以下経常費補助金という。)をだまし取ろうと考え,別表1(省略)記載のとおり,平成26年5月27日頃から平成29年2月1日頃までの間に,6回にわたり,大阪市住之江区南港北1丁目14番16号所在の大阪府咲洲庁舎等において,同府の担当職員に対し,真実は,Q幼稚園における勤務実態がないなど,前記要件を満たしていない延べ16名の者につき専任園長又は専任教員であるかのように装った内容虚偽の基礎資料調査と題する書面(以下基礎資料調査という。),経常費補助金交付申請書,経常費補助事業変更承認申請書等を提出するなどして経常費補助金合計1億1543万4000円の交付を申請し,大阪府知事の代行決裁権限を有する大阪府府民文化部私学・大学課長又は大阪府教育長の代行決裁権限を有する大阪府教育庁私学課長らに,前記各書面等の記載内容及び申請内容が真実のものであり,前記申請額どおりの経常費補助金をP学園に交付すべきである旨誤信させて,平成26年7月2日頃から平成29年2月16日頃までの間に,6回にわたり,P学園に交付すべき経常費補助金の額を合計1億1543万4000円と決定させ,平成26年7月10日から平成29年3月1日までの間に,9回にわたり,同府職員に,同額を前記第1記載のP学園名義の普通預金口座に振込入金させ,真実交付されるべき経常費補助金合計9345万1000円との差額である合計2198万3000円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた
第3【平成29年9月11日付け起訴状記載の公訴事実第2】
被告人Xは,P学園及び学校法人R1学園(以下R1学園という。)の理事長であり,P学園が運営するQ幼稚園及びR1学園が運営するS1幼稚園の園長として,両学校法人及び両幼稚園の業務全般を統括していたものであるが,大阪府が,障がいのある幼児を就園させている同府内の私立幼稚園等の設置者に対して,特別支援教育担当教職員を配置するなどして同幼児に教育上特別な支援を行っていること,同幼児の保護者から補助金申請の同意を得ることなどを要件として同幼児の人数に応じて交付する大阪府私立幼稚園特別支援教育費補助金等(以下府特別支援教育費補助金という。)をだまし取ろうと考え1
別表2(省略)番号1ないし5記載のとおり,平成23年5月26日頃から
平成28年3月11日頃までの間に,10回にわたり,前記大阪府咲洲庁舎等において,同府の担当職員に対し,真実は,延べ90名の幼児につきQ幼稚園における前記支援を行っておらず,かつ,前記同意を得るなどしていなかったにもかかわらず,これらがあるかのように装った内容虚偽の副申書,保護者説明等実施状況報告書,特別支援教育担当教職員調査票,特別支援教育費補助金交付申請書等を提出するなどして府特別支援教育費補助金合計7056万円の交付を申請し,前記大阪府府民文化部私学・大学課長らに,前記各書面等の記載内容及び申請内容が真実のものであり,前記申請額どおりの府特別支援教育費補助金をP学園に交付すべきである旨誤信させて,平成24年3月27日頃から平成28年3月23日頃までの間に,5回にわたり,P学園に交付すべき府特別支援教育費補助金の額を合計7056万円と決定させ,平成24年3月30日から平成28年3月31日までの間に,5回にわたり,同府職員に,同額を別表2(省略)記載のP学園名義の普通預金口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた2
別表2(省略)番号6記載のとおり,平成28年5月16日頃から平成29
年3月1日頃までの間に,2回にわたり,前記大阪府咲洲庁舎等において,同府の担当職員に対し,真実は,29名の幼児につきQ幼稚園における前記支援を行っておらず,かつ,前記同意を得るなどしてなかったにもかかわらず,これらがあるかのように装った内容虚偽の副申書,保護者説明等実施状況報告書,特別支援教育担当教職員調査票,特別支援教育費補助金交付申請書等を提出するなどして府特別支援教育費補助金2273万6000円の交付を申請したが,同府が府特別支援教育費補助金の不交付決定をしたため,その目的を遂げなかった3
別表3(省略)記載のとおり,平成23年5月26日頃から平成26年3月
17日頃までの間に,6回にわたり,前記大阪府咲洲庁舎等において,同府の担当職員に対し,真実は,延べ24名の幼児につきS1幼稚園における前記支援を行っておらず,かつ,前記同意を得るなどしていなかったにもかかわらず,これらがあるかのように装った内容虚偽の副申書,保護者説明等実施状況報告書,特別支援教育担当教職員調査票,特別支援教育費補助金交付申請書等を提出するなどして府特別支援教育費補助金合計1881万6000円の交付を申請し,前記大阪府府民文化部私学・大学課長らに,前記各書面等の記載内容及び申請内容が真実のものであり,前記申請額どおりの府特別支援教育費補助金をR1学園に交付すべきである旨誤信させて,平成24年3月27日頃から平成26年3月25日頃までの間に,3回にわたり,R1学園に交付すべき府特別支援教育費補助金の額を合計1881万6000円と決定させ,平成24年3月30日から平成26年3月31日までの間に,3回にわたり,同府職員に,同額を大阪市(住所省略)所在の株式会社F銀行G支店に開設されたR1学園名義の普通預金口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた
第4【平成29年9月11日付け起訴状記載の公訴事実第3】
被告人Xは,P学園の理事長であり,P学園が運営するQ幼稚園の園長として,P学園及びQ幼稚園の業務全般を統括していたものであるが,大阪市が,障がいのある幼児を就園させている同市内の私立幼稚園等の設置者のうち,大阪市要支援児受入促進指定園以外の設置者に対して,特別支援教育担当教職員を配置するなどして同幼児に教育上特別な支援を行うこと,同幼児の保護者から補助金申請の同意を得ることなどを要件として同幼児の人数に応じて交付する大阪市私立幼稚園特別支援教育費補助金(以下市特別支援教育費補助金という。),又は同指定園の指定を受けた設置者に対して,前同様の要件の下に同幼児の人数に応じて交付する大阪市私立幼稚園特別支援教育費交付金等(以下市特別支援教育費交付金という。)をだまし取ろうと考え
1
別表4(省略)番号1ないし3記載のとおり,平成26年9月24日頃から
平成27年9月7日頃までの間に,3回にわたり,同市北区中之島1丁目3番20号所在の大阪市役所等において,同市の担当職員に対し,真実は,延べ44名の幼児につきQ幼稚園における前記支援を行っておらず,かつ,前記同意を得るなどしていなかったにもかかわらず,これらがあるかのように装った内容虚偽の教育上特別な配慮が必要である旨の園長所見(表題は副申書)等とともに特別支援教育費補助金交付申請書又は特別支援教育費交付金交付申請書を提出するなどして市特別支援教育費補助金及び市特別支援教育費交付金合計920万9600円の交付を申請し,大阪市こども青少年局長らに,前記各書面等の記載内容及び申請内容が真実のものであり,前記申請額どおりの市特別支援教育費補助金又は市特別支援教育費交付金をP学園に交付すべきである旨誤信させて,平成27年3月24日頃から平成28年3月31日頃までの間に,3回にわたり,P学園に交付すべき市特別支援教育費補助金及び市特別支援教育費交付金の額を合計920万9600円と決定させ,さらに,平成27年3月27日頃から平成28年3月31日頃までの間に,3回にわたり,前記大阪市役所等において,前同様に装った内容虚偽の保護者説明等実施状況報告書,特別支援教育担当教職員調査票,特別支援教育費補助金実績報告書等を提出するなどし,前記大阪市こども青少年局長らに,前同様に誤信させて,P学園に交付すべき市特別支援教育費補助金及び市特別支援教育費交付金の額を前記決定額と同額である合計920万9600円と確定させ,平成27年5月20日から平成28年5月25日までの間に,3回にわたり,同市職員に,同額を前記第1記載のP学園名義の普通預金口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた
2
別表4(省略)番号4記載のとおり,平成28年9月22日頃,前記大阪市役所等において,同市の担当職員に対し,真実は,5名の幼児につきQ幼稚園における前記支援を行っておらず,かつ,前記同意を得るなどしていなかったにもかかわらず,これらがあるかのように装った内容虚偽の教育上特別な配慮が必要である旨の園長所見等とともに特別支援教育費交付金交付申請書を提出するなどして市特別支援教育費交付金180万円の交付を申請し,前記大阪市こども青少年局長らに,前記各書面等の記載内容及び申請内容が真実のものであり,前記申請額どおりの市特別支援教育費交付金をP学園に交付すべきである旨誤信させて,平成29年1月13日頃,P学園に交付すべき市特別支援教育費交付金の額を180万円と決定させ,さらに,同年3月14日頃,前記大阪市役所等において,前同様に装った内容虚偽の保護者説明等実施状況報告書,特別支援教育担当教職員調査票,特別支援教育費交付金実績報告書等を提出するなどしたが,同市が市特別支援教育費交付金の交付決定を取り消したため,その目的を遂げなかったものである。
(証拠の標目)省略
(争点に対する判断)
第1
1
基本的事実関係(関係証拠により認められる)
被告人両名について

被告人Xと被告人Yは,昭和54年に婚姻した夫婦である。
2
P学園及びQ幼稚園について

P学園は,被告人Yの実父が昭和46年に設立した学校法人である。被告人Xは,平成7年1月に同学園の理事に就任し,平成23年2月に理事長に就任した後,平成29年3月に理事長を退任した。被告人Yは,平成14年7月に理事に就任し,平成17年4月に理事長に就任し,平成23年2月に理事長を辞任した。Q幼稚園は,P学園が設置する幼稚園である。被告人Xは,平成7年頃から園長として同幼稚園を運営し,被告人Yは,遅くとも平成16年頃から副園長として同幼稚園の運営に携わっていたが,平成29年3月,被告人両名は,それぞれ園長及び副園長の職を退いた。
3
R1学園及びS1幼稚園について

R1学園は,P学園の関連法人として昭和57年に設立された学校法人である(設立当初の名称は学校法人R2学園であり,平成23年にR1学園へと名称が変更された。以下では,名称変更前も含めてR1学園という。)。被告人Xは,平成4年11月に同学園の理事に就任し,平成23年2月に理事長に就任した。被告人Yは,平成4年11月に理事に,平成17年4月に理事長に就任し,平成23年2月に理事長を辞任した。
S1幼稚園は,R1学園が設置する幼稚園である(設置当初の名称はS2幼稚園であり,平成21年の名称変更を経て,平成23年にS1幼稚園へと名称が変更された。)。被告人Xは,平成5年頃から園長として同幼稚園を運営し,被告人Yは,遅くとも平成16年頃から副園長として同幼稚園の運営に携わっていたが,平成26年3月に同幼稚園は休園した。
4
社会福祉法人T及びU保育園について

社会福祉法人T(以下Tという。)は,平成21年に設立され,被告人Xが遅くとも平成25年より理事を務める社会福祉法人であり,U保育園はTが経営する保育園である。
5
被告人両名は,平成29年8月21日付けで詐欺罪で起訴され(以下,この
事件をサステナブル補助金事件という。),同年9月11日付けで詐欺罪及び詐欺未遂罪で起訴された(以下,同起訴に係る公訴事実第1の各事件を経常費補助金事件といい,同第2及び第3の各事件を特別支援教育費事件という。)。第2

刑法246条1項と補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下
補助金適正化法という。)29条1項の適用関係について
1
被告人両名の弁護人は,本件各公訴事実について,補助金適正化法29条1
項(以下,同項の罪を補助金等不正受交付罪という。)は刑法246条1項の特別規定であって,欺罔行為による補助金等の詐取については特別法である補助金等不正受交付罪が問われるべきであり,詐欺罪の成否は問題とならないという見解を前提にして,仮に被告人両名に何らかの犯罪該当性が問題となるとしても,それは刑法上の詐欺罪ではなく,補助金等不正受交付罪のみであると主張する。そこで,以下,補助金等不正受交付罪と詐欺罪の適用関係について検討する。2
まず,詐欺罪と補助金等不正受交付罪とでは,構成要件や法定刑等において,
一方が他方を包摂する関係にはない点を指摘することができる。すなわち,補助金等不正受交付罪は,不正受交付の客体について,国が交付する補助金等又はそれを直接もしくは間接に財源とする間接補助金等に限っており,そのような限定のない詐欺罪と比べて処罰範囲が狭い。他方,補助金等不正受交付罪は,偽りその他不正の手段により,補助金等又は間接補助金等の交付を受ける行為を処罰するものであり,詐欺罪のように,被欺罔者を誤信させ,その錯誤に基づき処分行為を行わせる点を構成要件として含んでいない点では,詐欺罪よりも処罰範囲が広い。補助金等不正受交付罪は法人に対する両罰規定があるという点で,詐欺罪よりも処罰範囲が広いという面がある。また,法定刑についても,補助金等不正受交付罪は,5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はそれを併科するとしているのに対し,詐欺罪は,10年以下の懲役のみを法定刑としているのであって,補助金等不正受交付罪は,懲役刑の刑期及び罰金刑が選択できる点では詐欺罪より軽いが,選択刑として懲役刑と罰金刑の任意的併科があり得るという点では詐欺罪より重い面がある。このように,両罪は,構成要件と法定刑等のいずれの面においても,一方が他方を包摂する関係にはない。
両罪の保護法益についてみると,補助金適正化法は,補助金等の交付の申請,決定等に関する事項を規定することにより,補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止等を図ることを立法目的に掲げており(同法1条),同法の罰則が保護しようとする法益は,詐欺罪と異なり,必ずしも財産的利益に止まるものではないと解される。
実際上も,補助金適正化法29条1項が刑法246条1項の特別規定であると解した場合,補助金適正化法の対象となる補助金等を詐取した場合と,同法の対象とならない地方公共団体の補助金等を詐取した場合とでは,実質的な違いはないのに,前者に補助金等不正受交付罪が適用され,後者に詐欺罪が適用される結果,処罰の内容に大きな不均衡が生じることになるが,それを合理的に説明することは困難である。
3
これに対し,被告人両名の弁護人は,補助金適正化法の立法過程における国
務大臣の答弁に照らすと,同法29条1項が刑法246条1項の特別規定であるという前提で成立したものであり,大蔵省の担当官による補助金適正化法の解説においてもそのような説明がなされていることなどを指摘する。
しかし,立法経緯等は法解釈に当たっての参考とはなり得ても,絶対的な基準ではない。現時点において上記のとおり補助金適正化法29条1項が刑法246条1項の特別規定であるという立場に合理性が乏しいと考えられる以上,仮に立法経緯等が弁護人の主張するとおりであるとしても,必ずしもこれに沿った解釈をしなければならないわけではない。したがって,弁護人の主張はいずれも採用できない。4
以上によれば,補助金適正化法29条1項が刑法246条1項の特別規定で
あるという関係にはなく,両罪が競合する場合で,本件のように検察官が詐欺罪として訴追しているときは,詐欺罪に該当する事実が認定できれば,これについて刑法246条1項を適用して同罪として処断することができると解される。第3

サステナブル補助金事件(平成29年8月21日付け起訴状記載の公訴事実)
について
この項において,特に断りがない場合,補助金とはサステナブル補助金のことを指す。また,特に断りがない場合,見積書及び契約書の金額は,税抜きである。1
サステナブル補助金事件の争点は,被告人両名の詐欺の故意の有無及びA1
の取締役であるA2らとの間の共謀の成否である。
当裁判所は,被告人両名につき,いずれも,詐欺の故意が認められ,かつ,A2らとの間に共謀が成立すると判断したので,以下,その理由を説明する。2
前提事実

前掲各証拠によって認められる,サステナブル補助金事件の前提となる事実関係,特に一般的な補助金の申請及び交付手続並びにP学園による補助金の申請経緯及び交付状況等は,以下のとおりである。


補助金の申請及び交付手続の概要等


サステナブル補助金について

サステナブル補助金は,国土交通省(以下国交省という。)が所管し,同省住宅局住宅生産課木造住宅振興室が実務を担当するサステナブル建築物等先導事業(木造先導型)の一環として交付される補助金である。同事業では,木造建築物等に係る技術の進展や普及啓発を図ることを目的として,構造・防火等の先導的な設計・施工技術が導入される一定規模以上の建築物の木造化又は木質化を実現する事業計画の提案を公募し,そのうちこの目的に沿う提案に対し,その事業の実施に要する設計費と建設工事費の一部を補助するという取組みである。同事業は間接補助の形式で実施されており,国からその事業者としてB1が選定されて,B1が,建築主からなされる事業提案の評価や補助金の交付事務を行っていた。イ
サステナブル補助金の一般的な申請,交付手続の概要

サステナブル補助金の一般的な申請,交付手続は,以下のとおり,大別して,①建築主による事業提案申請及び国交省による事業採択,②建築主による補助金交付申請及びB1による補助金交付決定,③

建築主による補助金請求及びB1による

補助金の交付という3つの段階に分けられる。
建築主による事業提案申請及び国交省による事業採択
補助金の交付を受けようとする建築主は,まず,B1に対し,事業提案申請書を提出する。事業提案申請書には補助金の要望額を記入し,その根拠として設計費と建設工事費の各見積書を添付する。これを受けて,B1が当該事業の審査,評価を行い,B1の評価結果を踏まえ,国交省が当該事業を補助事業として採択するか否か,また,採択する場合はその補助限度額を決定する。
補助限度額は当該事業に対して交付する補助金総額の上限として定められるものであり,その額は事業提案書に添付された各見積書の額に補助率を乗じるなどして算出される。したがって,事業提案申請書に記載された見積りの金額が高くなれば補助限度額も高くなるという関係にある。
なお,補助の対象となる設計費は,実施設計に要する費用である(実施設計とは,実際に建物を建築することを前提に進められる設計のことをいい,その前の段階の設計である基本設計と区別される。)。もっとも,サステナブル補助金の募集要項(甲6資料5)においては,事業採択の時点ですでに実施設計に着手している場合は,設計費は原則として補助金の対象外になる旨規定されている。この規定の趣旨は,国等が事業者に種々の義務や条件を課した上,その下でなされる事業に対して補助をするという補助金(一般的な意味のもの)の性質からの要請であり,原則としてとされてはいるものの,実際の運用においてはその例外はまれなものと解されている(証人B3)。
建築主による補助金交付申請及びB1による補助金交付決定
その後,建築主は,年度ごとに,B1に対し,設計費及び建設工事費の見積書とともに補助金の交付申請書を提出し,これを受けたB1は,申請内容を審査した上,補助金交付決定を行う。補助金交付決定は,B1が建築主に補助金を交付する根拠になるとともに,交付する補助金の予算を確保したことを意味するものである。補助金交付申請に当たって,建築主は,補助限度額を前提に,当該年度の予定出来高に応じた額について補助金の交付を申請する。このように,補助金交付決定の額は補助限度額と連動して定まるものになっており,補助限度額が高くなれば補助金交付決定の額も高くなるという関係にある。
建築主による補助金請求及びB1による補助金の交付
その後,建築主は,年度末に,B1に対し,実績報告書と補助金請求書を提出し,当該年度の出来高を報告するとともに,その出来高に見合った補助金を請求する。その際,建築主は,実績報告の必要書類として,調査設計の請負契約書の写しと建設工事の請負契約書の写しを提出する必要がある。そして,B1は,実績報告書の内容等を審査した上,建築主に補助金を交付する。
補助金交付変更承認申請について
実際に締結した工事請負契約に係る建設工事費が,事業提案申請や補助金交付申請の際に提出した見積額を下回った場合には,建築主は,B1に対し,補助金交付変更承認申請書を提出する必要がある。同申請書の提出によって補助限度額が変更されることはないが,B1は補助金交付決定額を減額変更する決定を行い,それに伴って建築主に交付される補助金額も減額されることになる。


P学園による補助金の申請経緯及び交付状況等


事業提案申請を行うまでの小学校の開校準備状況について
P学園は,かねてより小学校の開校を計画しており,平成25年9月頃には,
大阪府府民文化部私学・大学課(大阪府の私立小中高校の許認可関係の申請の受付や,私立小中高校に関する各種相談の受付,指導等の業務を所掌する部署である。同課は後に大阪府教育庁私学課へと名称変更したので,以下では私学課という。)に対し,判示第1の豊中市所在の土地に小学校を設置する計画を相談していた。
設計監理業者の決定
P学園は,平成26年1月頃,小学校の建設工事の設計監理業者をA1に決めた。同工事の設計監理業務に関し,A1では,当初,A2とA3が担当していたが,平成26年夏頃からA4が担当に加わり,平成27年3月頃に上記A3が担当から外れて,同年5月頃からA5が関与するようになり,また,平成28年1月頃にA2が担当から外れてA5とA4が引き続いて担当するようになった。大阪府の審査基準等について
大阪府では,平成26年当時,既存の小中高校を設置していない学校法人が借入れをして新たに私立学校を新設する場合,借入金額が校地取得費及び校舎建築費の3分の2以下であることや,借入後において,学校法人の総資産額に対する前受金を除く総負債額の割合が30パーセント以下であり,かつ,学校法人の負債に係る各年度の償還額が当該年度の帰属収入の20パーセント以下であることなどの審査基準を満たす必要があった。
ところが,平成26年4月以前の段階でP学園から私学課に提出されていた資金計画表では,学校設置に係る事業費のうち建物の建設費用が7億4000万円とされ(その旨のA1作成の見積書添付),その財源のうち借入金が5億円とされていたことなどから,私学課の担当者は,当時のP学園の財務状況を踏まえ,被告人Xに対し,このままでは審査基準を満たさない旨を伝え,被告人Xは,資金計画を見直す旨を述べた。
P学園は,同年3月頃,株式会社H1に対し,小学校設立に関する設置認可申請書類の作成を依頼し,以後,同社の代表者H2の助言を受けながら,審査基準に合致するように小学校の設置計画を進めた。
建築設計・監理業務委託契約等の締結
被告人Xは,P学園代表者として,A1との間で,小学校校舎の建設について,平成26年7月8日付けで建築設計・監理業務委託契約及び開発業務委託契約を締結した(職6,8はそれらの契約書であり,いずれもA1が保管していた。)。建築設計・監理業務委託契約の報酬額は3200万円とされ,開発業務委託契約の報酬額は800万円とされた。
P学園による小学校設立認可申請等
P学園は,平成26年8月20日付けで,私学課に対し,平成28年4月を開校予定とする,V小学校(仮称)設置計画書を提出した(以下,V小学校(仮称)については本件小学校という。)。同計画書に添付された資金計画表は,審査基準を満たすため,学校設置に係る事業費のうち建物の建設費用が従前の7億4000万円から4億円に下がり,かつ,借入金を財源としない内容になっていた。私学課は,平成26年8月29日付けで,同設置計画書を正式に受理した。その後,P学園は,同年10月31日付けで,私学課に対し,小学校認可申請書を提出した。私学課は,同日付でこれを受理し,同年12月18日の大阪府私立学校審議会(以下私学審議会という。)に諮問したが,私学審議会では,委員から4億円という学校建設費用の妥当性等について疑問が出され,P学園の財政状況が危惧されたことから,継続審議となった。
このことを受けて,P学園は,私学課に対し,私学審議会で出された疑問点に対する説明資料として,I株式会社が小学校建設工事を受注した場合は4億円の見積書に基づき前向きに取り組んでいく旨のI株式会社社員名義の覚書(甲1資料5-3中の資料2)等を提出するなどしたため,平成27年1月27日の私学審議会において,小学校建設に係る工事請負契約の締結状況等を次回以降の私学審議会で報告することなどの条件付きで設置認可適当の答申がなされた。
実施設計への着手
P学園は,平成27年3月25日付けで,J1に設備設計業務を,J2に構造設計をそれぞれ発注し,これにより,遅くとも同日頃,小学校建設工事の実施設計に着手した。
小学校の建設予定地の確保
P学園は,平成27年5月頃,本件小学校の建設予定地として,近畿財務局から判示第1の土地を賃借した。
小括
以上のとおり,P学園による事業提案申請時(平成27年7月頃)までの本件小学校の開校準備状況は,平成28年4月の開校を予定し,私学審議会から条件付き設置認可適当の答申を受け,実施設計に着手し,近畿財務局から本件小学校の建設予定地を賃借した一方で,小学校の校舎等の建設工事の請負業者が決まっておらず,建設工事には着手していないなどというものであった。

事業提案申請及び国交省による採択
事業提案申請の経緯

被告人両名は,平成26年3月ないし4月頃から,A2に対し,本件小学校建設に関する補助金(一般的な意味のもの)を探すように依頼していた。被告人両名及びA2は,平成27年2月か3月頃にサステナブル補助金制度の存在を知り,同年6月頃までに,同補助金の申請を行うことを決めた。
事業提案申請書の提出等
A1は,P学園の代理人として,B1に対し,平成27年7月17日付けの事業提案申請書(甲6資料3。以下本件事業提案申請書といい,また,同申請書に基づく事業提案を本件事業提案という。)等を提出した。
a
本件事業提案申請書の内容等

P学園の事業提案は,本件小学校の校舎を鉄骨造としつつ,柱等を木材で覆うなどして木造校舎のような内観・外観を実現するという木質化の提案であった(以下本件事業という。)。
本件事業提案申請書には,設計費の合計額が1億4125万円であり,そのうち実施設計料が8000万円である旨の工事内訳統括表(設計見積書に相当するもの)及び建設工事費の総額が22億円である旨の工事見積書が添付されていた。これらの見積書は,A2の指示によりA5又はA4が作成したものであった。本件事業提案申請書には,A1側が募集要項の基準を参照して計算した補助金の要望額として,1億1875万円(設計費に対する要望額4000万円と建設工事費に対する要望額7875万円の合計)が記載されていた。
設計費に対する要望額の4000万円は,補助の対象となる実施設計料8000万円を基礎として,これに補助率である2分の1を乗じて算出されたものである。建設工事費に対する要望額の7875万円は,建設工事費22億円から補助の対象とならない外構工事費1億円を除いた費用である21億円を基礎として,これに補助率である3.75パーセントを乗じて算出されたものである。b
B1による審査について

B1で研究主幹を務めるB3は,本件事業についての書類審査の結果を踏まえ,同年8月上旬頃,A4に対し,質問事項をメールで送信した。この質問事項には,実施設計の着手時期についての質問があり,質問に併せて事業の採択時点で,既に着手している実施設計等は原則として対象とならない旨が記載されていた。A2,A5及びA4は,同月中旬頃,B1によるヒアリング審査に出席し,実施設計や構造計算等にはまだ着手していない旨記載した回答書を提出するとともに,口頭でも,実施設計には着手していない旨を述べた。
これらを受けて,B1は,P学園は実施設計に着手していないものと考えた。小学校の開校予定時期の延期
被告人Xは,同年8月頃,小学校の開校予定時期を,それまでの平成28年4月から平成29年4月へと延期することを決めた。
国交省による本件事業の採択及び補助限度額の決定
国交省は,平成27年9月4日付けで本件事業を採択し,本件事業に対する補助限度額について,合計6194万4000円(設計費に対するもの698万円と,建設工事費に対するもの5496万4000円の合計)と決定した。このように,本件事業に対する補助限度額(6194万4000円)は,本件事業提案申請書に記載された補助金の要望額(1億1875万円)よりも低い額となった。それは,国交省が補助限度額を算出するに当たって,補助の対象となる設計費及び建設工事費に対して上記各補助率を乗じるほか,建物全体の床又は天井の延べ面積に対する木質化に係る面積の割合も乗じるなどしたためであった。ウ
平成27年度分の補助金の交付申請等について
P学園は,平成27年10月頃,B1に対し,平成27年度の補助金交付申
請書(甲4資料2-1)等を提出した(以下本件交付申請という。)。平成27年度の補助金交付申請の内容等
同交付申請書には,平成27年度交付申請額が5644万8000円であること,その内訳として,設計費に対する補助金が698万円(補助限度額の全額)であり,建設工事費に対する補助金が4946万8000円であることなどが記載されていた(なお,上記4946万8000円は,平成28年9月末までの予定出来高に相当する分として,補助限度額の90パーセントに相当する額として算定されたものである。)。また,同交付申請書には,設計費の合計額が1億4125万円である旨の設計見積書(工事内訳統括表も含む。以下同じ。)及び建設工事費の総額が22億円である旨の工事見積書(工事内訳統括表も含む。以下同じ。)が添付されていた。
B1は,平成27年10月8日,P学園に対する平成27年度の補助金として,同交付申請書どおりの5644万8000円を交付することを決定した。このように,平成27年度の補助金交付決定に係る補助金交付予定額は,外構工事費を除く建設工事費が21億円であること,設計費が1億4125万円であり,そのうち実施設計の費用が8000万円であること,事業採択の時点で実施設計に着手していないことを前提に算出された補助限度額のうち,平成28年9月末までの予定出来高に相当する分として決定されたものであった。

本件小学校の校舎等の工事請負契約の締結等

以上のような手続と並行して,建設業者間での相見積もりなどにより本件小学校の校舎等の建設工事を請け負う業者の選定が行われていたが,平成27年秋頃,工事費を14億4000万円とする見積書を提出したC1が工事請負業者となることが決まった。
そして,被告人Xは,P学園代表者として,同年12月頃,C1との間で,本件小学校の校舎等の建設工事について,工事価格を14億4000万円(税込みだと15億5520万円)とする工事請負契約を締結し,同契約に係る契約書(同月3日付けの工事請負契約書(本工事契約書)(職2はP学園が保管していたものであり,職3はC1が保管していたもの。以下14億4000万円の契約書という。)を作成した。なお,同契約書中の契約条項の契約者記名押印がある箇所は,その下に印字があるもの(職3(C1が保管していたもの)はこれと実質的に同一のものの写し)の上に紙が貼られて作成されている。
加えて,P学園(代表者被告人X)とC1(代表者C2)は,上記契約書の作成と同時に,私学審議会に提出するためのものとして,工事価格を7億円とする工事請負契約書(職4はP学園が保管していたもの。職10はC1が保管していたもの。以下7億円の契約書という。)も作成した。

平成27年度分の補助金請求等
平成27年度の補助金の交付方法について

ところで,上記ウのとおり,平成27年度の補助金は平成28年9月末までの予定出来高を含めた申請に基づき交付決定されていたことから,B1は,平成27年度末における交付をするに当たっては,実績報告書に基づいて交付額を確定させるのでなく,同年度末時点での出来高についての中間実績報告書に基づき概算払いの方法で暫定的・中間的に補助金を交付した上,その後,建設工事の進行により平成27年度の補助金交付決定額に見合った出来高に達した時点で,その旨の実績報告書に基づいて,平成27年度の補助金交付決定額から概算払いとして支払った額を控除した残額を交付するという方法を採ることとした。
B3は,平成28年2月上旬頃,A4に対し,その旨を伝えて,中間払い請求をするよう促した。
P学園による補助金の中間払い請求等
A4は,平成28年2月下旬頃,B1に対し,以下のaからcまでの書面等(職9はこれについてB1が保管していたものの写し)を郵送送付して,P学園の補助者として補助金の中間払いを請求した(以下本件中間払い請求という。)。a
中間実績報告書及び請求書

それぞれP学園作成名義であり,被告人Xが押印した。補助申請額ないし請求額について,4829万8000円とされている。
この4829万8000円は,本件事業に対する平成27年度の補助金交付決定額(5644万8000円)のうち,平成27年度末時点での出来高に応じた額(設計費については補助限度額の全額,建設工事費については補助限度額の約75パーセント)として記載された。
b
建築設計・監理業務委託契約書(以下1億円余の設計監理契約書とい
う。)の写し(職7はA1が保管していたもの)
P学園(委託者)及びA1(受託者)作成名義であり,P学園作成分については被告人Xが押印した。報酬額の総額が1億4125万円であり,契約締結日が平成27年9月4日付けであり,実施設計業務の期間が同日から同年11月30日である旨の記載及び報酬額のうち実施設計料が8000万円である旨の記載がある。c
工事請負契約書(以下22億800万円の契約書という。)の写し(職
5はC1が保管していたもの)
P学園(発注者),C1(受注者)及びA1(監理者)作成名義であり,P学園分については被告人Xが押印した。契約締結日が平成27年12月3日であり,建設工事費の総額が22億800万円である旨の記載がある。
B1による補助金の中間払い
B3は,本件設計監理契約に記載された契約締結日及び実施設計業務の始期が国交省による事業採択日以後の時期であること,1億円余の設計監理契約書に記載された実施設計料が事業提案申請時及び平成27年度の補助金交付申請時に提出された各見積書と同額であることを確認し,また,22億800万円の契約書に記載された建設工事費の総額から外構工事費を除いた補助対象額が事業提案申請時及び平成27年度の補助金交付申請時に提出された各見積書を上回っていることを確認した上で,平成27年度の補助金交付決定額を変更する必要はないと判断した。このようなB3の判断等を前提に,B1は,P学園に対して請求どおり4829万8000円を交付することを決定し,平成28年3月22日,同額をP学園名義の口座に振込入金した。
P学園による補助金の残額請求等
B3は,平成28年11月下旬頃,P学園の小学校の校舎等の建設工事の現地検査を行い,同工事が同年12月中に平成27年度交付決定額に対応する予定出来高(建設工事全体の90パーセント)に到達する見込みであることを確認した。A4は,平成29年1月下旬頃,B1に対し,平成27年度の予定出来高に到達した旨が記載された事業実施報告書,補助申請額が815万円と記載された実績報告書及び同額を請求額とする請求書を郵送送付して,P学園の補助者として補助金の残額を請求した(以下本件残額請求という。また,本件中間払い請求と本件残額請求とを合わせて本件補助金請求という。)
これを受けて,B1は,平成29年1月下旬頃,P学園の平成27年度の事業が予定出来高に到達したと認定し,同年度に交付すべき補助金の額を交付決定額のとおり5644万8000円と確定し,既にP学園に交付した4829万8000円との差額である815万円をP学園に交付する旨を決定した。そして,B1は,平成29年2月21日,P学園名義の口座に815万円を振込入金した。⑶

本件後の事情

P学園は,平成29年3月中旬頃,B1に対し,本件小学校の設置認可申請の取下げを理由に本件事業の中止の承認を申請した。
B1は,国の承認を得た上,平成27年度のP学園に対する補助金交付決定を取り消すとともに,P学園に対して交付済みの補助金全額の返還を求めたところ,平成29年3月下旬頃,P学園から5644万8000円が返還された。3
本件の争点について



本件公訴事実における欺罔行為は,概要,①

真実は,P学園とA1との間

の設計監理業務委託契約に係る報酬額が3200万円,P学園とC1との間の建設工事請負契約に係る工事代金額が14億4000万円であったのに,それぞれ1億4125万円,22億800万円であるように装って本件補助金請求を行った(以下欺罔行為①という。),及び②

真実は,本件小学校の実施設計は,本件事

業が採択された平成27年9月4日よりも早い同年3月頃までに着手されたものであるのに,同年9月4日以降に実施設計に着手したもののように装った虚偽の内容の設計監理業務委託契約書の写しを添付して本件補助金請求を行った(以下欺罔行為②という。),というものである(なお,本件公訴事実においては,あらかじめ実際の設計報酬額及び予定された工事代金額よりも過大な見積額を記載した設計見積書及び工事見積書と共に本件事業提案申請書を提出するなどして本件事業提案を採択させ,さらに,本件交付申請を行って補助金交付予定額を5644万8000円と決定させた上という趣旨の記載もあるが,検察官が,第7回公判前整理手続期日において,本件の実行行為は請求書等の郵送送付行為である旨釈明していることや,本件公訴事実にはこれらの行為がなされた日付等が明示されていないことに照らすと,上記記載は,公訴事実において,実行行為そのものではなく,その準備段階における行為として記載されたものと解される。)。


被告人両名の弁護人は,それぞれ,被告人両名において上記の各欺罔行為に
関する認識を有していたこと(詐欺の故意)及び共犯者とされるA2らとの共謀の成立を争う。
そこで,本件の争点は,欺罔行為①及び②についてそれぞれ,被告人両名について詐欺の故意及び共犯者らとの共謀の成否である。
4
客観的な欺罔行為の内容について

まず,故意及び共謀についての判断の前提として,客観的な欺罔行為の内容について検討する。


欺罔行為①(工事代金額及び設計監理業務委託契約に係る報酬額を偽った点)
について

準備段階における行為について

上記2⑵イのとおり,平成27年7月の本件事業提案申請書には,実施設計の設計報酬額(監理業務に対するものも含む。以下同じ)が8000万円である旨の書面及び工事代金額が22億円(外構工事費を除くと21億円)である旨の書面が添付されている。しかし,設計報酬額については,真実は,それ以前に既に報酬額を3200万円として建築設計・監理業務委託契約を締結しているし(上記2⑵アまた,工事代金額については,その時点では,被告人Xは概ね7億5000万円から10億円程度の額を想定していたから,本件事業提案申請における設計報酬額及び工事代金額は実際の想定よりも過大なものであった。
また,同年10月頃,本件事業提案申請と同旨の前提で本件交付申請が行われている(上記2⑵ウ

)。

実行行為について

被告人Xは,平成28年2月頃及び平成29年1月頃の本件補助金請求に当たり,設計報酬額及び工事代金額についてそれぞれ正規の金額に係る契約書等を添付するなどして補助金交付変更承認申請(上記2⑴イ

設計報酬額が

1億4125万円,工事代金額が22億800万円であるという本件事業提案での金額とほぼ同額の金額を申告して本件補助金請求を行った。
しかし,上記補助金請求における設計報酬額及び工事代金額は,いずれも真実に反する過大なものである。その理由は以下のとおりである。
まず,設計報酬額については,実際には報酬額を3200万円とする契約が本件補助金請求の前に締結されている。
また,工事代金額については,実際には,上記2⑵エのとおり,平成27年12月頃に工事代金額を14億4000万円とする14億4000万円の契約書が作成されているところ,以下の理由により,同契約書が,契約当事者が法律効果を発生させる意思で作成した真正なものであると認められる。
すなわち,①

上記2⑵エのとおり,建設業者間での相見積もりが実施され,工
事代金額を14億4000万円とする見積書を提出したC1が工事請負業者となり,その見積額に沿って,工事代金額を14億4000万円とする建設工事請負契約書(14億4000万円の契約書)が作成されたことや,②
14億4000万円の

契約書(職2)には,7点目の項目として,上に貼られた紙には

7.その他発注者と受注者との間の本工事請負契約書の内容については,この工事請負契約書の条項に定めるものが最終合意されたものである。

と記載され,上記の紙を貼った下には,7.その他発注者と受注者との間の本工事請負契約書の内容については,この工事請負契約書の条項に定めるものが最終合意されたものである。なお,工事請負契約書(本工事契約書)で合意された工事のうち,発注者が私学助成金を利用する予定の工事については,別途に私学審議会提出用に工事請負契約書を作成するものとするが,工事の内容はこの工事請負契約書(本工事契約書)が最終合意である。と記載されていること,③
7億円の契約書(職10)には,被告人XとC2は,本件小学校新築工事について,請負代金額1,555,200,000円の工事請負契約書(本工事契約書)が両名の間で合意された工事請負契約の内容であるが,被告人Xが私学助成金を利用予定の工事について,別途に私学審議会提出用の請負代金額756,000,000円の契約書を作成する旨が記載されたP学園及びC1作成の覚書が添付されていること(ここでいう私学審議会提出用の契約書とは,7億円の契約書のことである。),その他,同契約に関与したC1及びA1の関係者らの供述に照らすと,14億4000万円の契約書が,契約当事者が法律効果を発生させる意思で作成した真正なものであると認められる。以上によれば,被告人Xは,あらかじめ過大な見積りに基づく本件事業提案の採択を受けて本件交付申請を行った上,真実と異なる過大な設計報酬額及び工事代金額を申告して本件補助金請求を行ったといえるから,客観的には,欺罔行為①のとおり,詐欺の実行行為としての欺罔行為が行われたと認められる。⑵

欺罔行為②(事業採択以降に実施設計に着手したもののように装った点)に
ついて
小学校建設工事の
遅くとも平成27年3月25日頃には実施設計に着手していたと認められる。一方,被告人Xは,平成28年2月下旬頃の本件中間払い請求においては,上記契約締結日が平成27年9月4日であり,実施設計業務の期
間が同日から同年11月30日である旨の記載及び報酬額のうち実施設計料が8000万円である旨の記載がある1億円余の設計監理契約書の写しを提出している。この行為は,同年9月4日の事業採択以降に実施設計に着手したもののように装ったものといえる。
以上によれば,客観的には,欺罔行為②のとおり,詐欺の実行行為としての欺罔行為が行われたと認められる。
5
故意及び共謀についての判断の前提となる事実経緯について

被告人両名,A1関係者及びC1関係者その他の者の打合せ等の録音記録を反訳した捜査報告書(甲132ないし170。特に関係する部分を文中に掲記することがある。)並びにA2,A5,A4,C2及びC3の各公判供述を始めとする関係証拠によれば,欺罔行為①及び②に至る経緯のうち,特に被告人両名の故意の有無及び共謀の成否(特に正犯性)等の判断に当たって重要と考えられる事実関係として,以下の事実が認められる。


本件事業提案申請の前後頃

被告人両名は,本件小学校の開設を計画するに当たり,その校舎の建設工事について,自己資金や借入金で賄えない部分を各種の補助金で賄おうと考えていた。そして,平成27年6月10日,A2に対し,多めにもらう,国からぼったくってなどと,本来よりも多額の補助金をもらいたいという趣旨の話をした(A2供述,甲148号証の資料3)。
上記2⑵イのとおり,同年7月17日付けで建設工事費を22億円として事業提案申請がなされており,これはA2らがP学園を代理して行ったものである。被告人両名は,別紙1のとおり,同月23日のA2らとの打合せにおいて,A2から,建設工事費を約20億円として申告した事実を説明されるとともに,建設工事費の額が少ないと補助金の額も少なくなることについても説明を受けた(A2供述,甲150号証の資料1,2)。
一方,被告人Xが,建設工事費を約20億円として申告した事実を本件事業提案申請書提出時点より前に知っていたとは認められない(この点,A2及びA4は,公判において,本件事業提案申請書の提出前に被告人両名に対して建設工事費及び設計費の申告額を報告したと供述するのに対し,被告人Xはそれを否定する供述をしている。検察官は,上記のような同年6月10日の被告人両名の発言や,同年7月23日の会話の際に被告人Yから

なんぼで出してはるの先生…20億とか。

という発言があることに照らすと,被告人Xが,建設工事費を約20億円として申告した事実を本件事業提案申請書提出時点より前に知っていたと主張する。しかし,同年6月10日の発言は本件事業提案申請における虚偽申告を具体的に意識したものとまでは考えられないし,同年7月23日の発言は,むしろ申告の金額を知らないためにその金額を尋ねたものと解されるから,A2及びA4の上記供述の十分な裏付けとはなり得ない。その他,A2及びA4の上記供述を裏付ける証拠はないから,これらの供述は直ちに信用できない。)。


平成27年12月の14億4000万円の契約書の締結時

被告人Xは,C1との間で,上記契約書により真正な契約を締結した。同契約書における工事代金額は14億4000万円であるから,被告人Xは,この契約の代金額と本件事業提案における工事代金額である約20億円との間でそごを生じていることを認識した。


平成28年1月から同年2月の中間払い請求まで


平成28年1月13日,Q幼稚園において,被告人両名,A2,A5,A4,
C2,C1の従業員であるC3らが出席した年明け最初の打合せが行われ,その際,被告人両名は,平成29年4月の開校を遅らせるわけにはいかないなどと話すとともに,補助金の補助限度額が要望額の約1億2000万円から約6000万円へと減額されたことなどについて,A2らを責めた。また,被告人Yは,約6000万円の補助金がこれ以上減額されることのないよう,A2らA1関係者に言った。A2は,この打合せを最後に,P学園との打合せに出席しなくなった。イ
被告人Xは,上記アの打合せの後,A5に対して電話で,補助金がいつ,幾
ら支払われるか,また,補助金請求にどのような書類が必要かの確認を求めた。A4は,平成28年1月14日及び15日頃,A5から指示を受けてB1のB3と連絡を取り,補助金請求にどのような書類が必要かという点や,事業提案申請時よりも工事金額が下がった場合に交付される補助金額が下がるかという点を確認したところ,契約書及び見積書が必要であるが領収書や入金証明は必要でないことや,契約書の金額が既に提出している見積書の見積額よりも下がった場合は補助金が減額されることを教示され,これをA5に伝えた。A5が被告人Xに電話でその旨を報告した際,被告人XとA5は,22億円の工事契約書と見積書を作成することについて互いに了解した。これを受けて,A4は,A5の指示により,C1に対し,22億円の工事契約書と見積書の作成について協力してもらうよう依頼したところ,C1から協力するという回答を得た。A5が,被告人Xに対してその旨を伝えたところ,被告人Xが,ああよかった,ありがとうと言った。同月27日,A1とC1の関係者らによる打合せの場で,被告人Xらの全員のいる場である後記第1回現場定例会議において,補助金申請用の契約書と見積書の作成を議題にして,被告人Xから明確に指示をもらおうという話になった。

同月29日,被告人両名,A5,A4,C3,C1のC4その他関係者多数
が出席して,本件小学校校舎建設についての第1回現場定例会議(以下第1回現場定例会議という。)が開かれた。この場において,被告人両名,A1の担当者及びC1の担当者らの間で,別紙2のとおりの会話等がなされ,補助金請求に用いるための22億円の工事契約書を作成することについて,被告人両名,C1関係者及びA1関係者が了承した(甲157)。

その後,A1とC1は,22億800万円の契約書及び1億円余の設計監理
契約書(いずれも押印前のもの。A4証人尋問調書別紙16はこれに関する電子データについてのもの)を作成した。A4及びC3は,平成28年2月18日,上記2通の契約書を被告人Xのところに持参した。被告人Xはこれらに押印するとともに,中間実績報告書にも押印した。


上記⑶イの認定についての補足説明

上記⑶イの認定のうち,A5が被告人Xに電話でその旨を報告した際,被告人XとA5は,22億円の工事契約書と見積書を作成することについて互いに了解したという点について,補足して説明する。ア
この点について,証人A5は,被告人Xから,22億円の工事契約書と見積
書の作成をC1に協力してもらえるか聞いてくれと言われたと供述する。これに対し,被告人Xは,平成28年1月14日にA5に電話をしたことがあるが,その内容は,補助金がどのような段取りでどうなるのかを教えてほしいというものであって,A5らとの間で虚偽の契約書や見積書を作るという話になった記憶がないと供述する。

そこで上記各供述の信用性を検討する。
まず,A5の上記供述は,そのうち上記認定の限度では,A5が第1回現場
定例会議の場で架空の契約書を作成する旨の話を持ち出すに至った背景を合理的に説明するものである。特に,同会議でのちょっとお電話ではお話させてもらってたんやけどというA5の冒頭の発言は,同会議の前に同旨のやり取りが被告人Xとの間でなされていたことを強くうかがわせるものである。同会議での被告人両名の発言内容を見ても,架空の契約書の作成の話を聞いた時,初めてその話を聞いた時のような抵抗やちゅうちょを示した様子がない。そうすると,第1回現場定例会議より前に,架空の契約書を作成することについて被告人両名は了承していたと強く推認されるのであり,上記認定はこの推認に沿うものである。
他方,A5の上記供述のうち,22億円の工事契約書と見積書の作成をC1に協力してもらうことについて話を持ちだしたのが被告人Xであるという点は,全く裏付けがない上,この話をA5が被告人Xとの電話で持ち出したとしても,第1回現場定例会議でのやり取りと矛盾しない。
加えて,供述内容の合理性についてみると,次のような点が指摘できる。すなわち,当時の被告人両名にとって,サステナブル補助金等の補助金の額が下がるかどうかは重大な関心事であったと考えられるところ,被告人Xは,A5から,工事金額が下がれば補助金額が下がること及び入金証明は不要だが契約書及び見積書が必要であることを内容とするB1からの回答結果を教えられたことにより,交付決定に基づく補助金額を確保するためには架空の契約書及び見積書を作成することが必要であり,かつそれで足りることが分かったのであるから,本件補助金請求に当たって,補助金額が減額されないためには,本件事業提案時点における工事金額に相当する金額の契約書を作成しなければいけないという状況にあることを十分理解していたと考えられる。一方,A5は,このような状況にあることを理解しつつも,既に作成した真正な契約書(14億4000万円の契約書)とは別に架空の契約書を作成するということは,本件事業提案時点での多めの額の見積書を作成したことに比べて格段に違法性のレベルが高い上,補助金の交付を受けるのはP学園であるから補助金額が下げられてもA1側に直接の財産的不利益はないから,できれば架空の契約書の作成はしたくないという気持ちにあったと考えられる。確かに,もともと本件事業提案において22億円という見積額を設定したことはA2の発案によるものであるが,上記⑴認定の経緯に照らすと,上記の見積書の作成についても,多額の補助金を取得したいという被告人両名の意向に沿って行われたものであると考えられる。以上の点からすれば,A5の上記供述の内容にはかなりの程度合理性が認められる。
しかしながら,A5としても,これから行うべき補助金請求のために契約書や見積書が必要であり,かつ,工事金額が下がれば補助金額が下がることを知っていたのだから,補助金額を維持するためには虚偽の契約書を作らないといけないという状況にあることは十分に分かっていた。その頃,A1側は,当時,施主である被告人両名から補助金額の減額は避けたいという意向に基づく強い圧力を受けており,仮に補助金額が下がる事態となれば,被告人両名から厳しく叱責されると予想していたと考えられるから,被告人Xの側から虚偽の契約書の作成を指示されなくても,上記のような被告人側の意向を実現するためには虚偽の契約書を作成しなければならないと考えるに至ったとみてもあながち不合理ではない。
加えて,A4がB3に確認する前の時点において被告人XがA5に対して確認を求めた内容は,上記⑶イのとおり,補助金がいつ,幾ら支払われるか,補助金請求にどのような書類が必要かの確認という程度である。そして,これは,弁護人が主張するとおり,この補助金の支払いを受けてから工事代金の支払いをすることができるかどうかの判断のための確認である可能性を否定できない。そうすると,被告人XがB3からの回答を聞く前から虚偽の契約書の作成を意識していたとまで認めることはできない。
以上によれば,A5の上記供述は,22億円の工事契約書と見積書を作成することについて被告人Xとの間で了解したという限度では信用できるが,22億円の工事契約書等の作成の話を持ちだしたのが被告人Xの側であったという点については直ちに信用できない。
一方,被告人X

1
回現場定例会議の場での話の流れとそぐわないから,信用できない。ウ
以上の次第で,被告人XとA5との電話の内容については,上記⑶イの認定
のとおり,A5が被告人Xに電話でその旨を報告した際,被告人XとA5は,22億円の工事契約書と見積書を作成することについて互いに了解したと認定するのが相当である(この認定によると,A5が,補助金額の減額は避けたいという被告人側の意向を実現するためには虚偽の契約書を作成しなければならないと考えて,被告人Xにその旨を提案した可能性があることになる。)。
6
被告人両名の詐欺の故意の有無について



欺罔行為①についての故意の有無について


準備段階の行為における認識

上記5⑴のとおり,被告人両名は,平成27年7月23日のA2らとの打合せにおいて,A2から,建設工事費を約20億円として申告した事実を説明されて知るとともに,このとき,A2から,建設工事費の額が少ないと補助金の額も少なくなることについて説明を受けて,建設工事費の額が交付される補助金額に影響するという補助金額決定の仕組みの概要を理解したものと認められる(被告人Yの弁護人は,同被告人は補助金の交付要件等を認識していなかったと主張するが,採用できない。)。

実行行為時点での認識

上記5⑶ウのとおり,平成28年1月29日の第1回現場定例会議において,別紙2のとおりの会話等がされたと認められるところ,これらの会話は,その文言自体から明らかなように,A5が木質の補助,すなわちサステナブル建築物等先導事業に係る補助金に関し,工事代金額を22億円としている関係で,その旨の架空の工事契約書を作成する必要性がある旨を説明して,事業主である被告人側の了承を求めたのに対し,被告人Yから,責任の所在が全部こっちになる,すなわち,P学園側が責任を負う結果になることを懸念する旨が述べられながらも,A5から全員が責任を負うものであるという説明がなされ,最終的には,被告人両名が話を前に進めてほしいと述べたというものである。このような会話内容に照らすと,被告人両名は,補助金の請求に当たり,工事代金額及び設計報酬額について,事業採択時の見積額より下回らないようにすることにより,平成27年10月になされた交付決定額どおりの補助金の交付を受けるため,架空の契約書等の作成に了承を与えたものと解される。このような第1回現場定例会議における会話内容だけからでも,被告人両名は,欺罔行為①について詐欺の故意を有していたと認められる。加えて,上記5⑶イのとおり,被告人Xは,第1回現場定例会議の前に,A5との間での電話の際,22億円の工事契約書と見積書を作成することについて了解したことも認められるから,被告人Xについては,その時点から欺罔行為①についての故意を有していたと認められる。


欺罔行為②についての被告人両名の故意の有無について
証拠(甲152,153)によると,平成27年8月26日及び同年9月2日,被告人両名及びA1の担当者らとの間で,別紙3のとおりの会話等がされたことが認められる。これらの会話は,同年8月頃に被告人Xが本件小学校の開校の延期を決めたことを受けたものであるところ,その内容は,A2が,既に実施設計に着手しているから本来であれば補助金を受けられない状況であったが,開校の延期を決めたことにより実施設計の着手時期を偽れば補助金を受給する可能性が残ることになった旨を被告人両名に説明し,被告人両名も,安堵した様子を示したというものである。事業提案申請の時点で実施設計に着手していた場合にはそもそも補助金全部の受給資格がなくなるというのはA2の誤解であるが,少なくとも,被告人両名は,上記の会話により,実施設計の着手の有無が補助金の受給の可否に影響するということ及びその時点で既に実施設計に着手していることについて,具体的な認識を有するに至ったと認められる。
そして,A4の公判供述によれば,被告人Xは,平成28年2月18日,サステナブルの採択までに実施設計をしていてはいけないので,実施設計期間を採択後にしている旨説明を受けて,実施設計の時期を偽った虚偽内容の1億円余の設計監理契約書(実施設計業務の期間が平成27年9月4日から同年11月30日である旨の記載及び報酬額のうち実施設計料が8000万円である旨の記載がある。)について,空欄となっていた契約書の作成日付に手書きで平成27年9月4日と記入した上,これの記名欄に押印していると認められるから,被告人Xは実施設計の着手の点を偽ることについて認識していたと認められる。また,A4の公判供述によれば,被告人Yもこれに同席していたと認められるから,被告人Yにも同様の認識があったと認められる。


以上によると,被告人Xには,上記のA1との間の架空の設計監理業務委託
契約書を作成し,B1に提出して補助金申請を行うに当たり,実施設計の着手時期を偽ることについても認識を有していたと認定することができる。そして,被告人Yも,上記のとおり,A4による上記の説明の場に同席しており,本来は実施設計に着手していたから補助金を受けることができないという理解をしながら,虚偽の契約書の作成場面にも同席してそれに関与していたのであるから,被告人Xと同様,実施設計の着手時期を偽ることにつき,未必的な認識を有していたと認めるのが相当である。
7
被告人両名とA2らとの間の共謀の成否について



以上の関係者間の会話内容及びそれに至る被告人Xと関係者らとの電話連絡等の状況に照らすと,被告人Xは,平成28年1月,22億円の工事契約書と見積書を作成することについてA5との間で了解し,さらに,被告人両名は,第1回現場定例会議の席上で,A1及びC1の担当者から,補助金請求に用いる22億円の工事契約書と虚偽の設計監理契約書を作成することについて確認を求められ,それに応じて虚偽の契約書の作成を進めることを了承したものであって,これらの事情によると,被告人両名が,虚偽の内容の契約書の作成につき,A1及びC1の関係者らと通謀したことは明らかである。


次に,被告人両名の正犯性について検討する。

まず,犯行による利益を受ける主体についてみると,補助金の減額がないことにより直接に利益を受けるのは被告人両名が経営に携わるP学園である。これに対し,P学園が交付を受けた補助金を優先的にA1に対する設計報酬額の支払いに充てるという状況ではなかったと考えられるから,A1側が受ける財産的利益は間接的かつごくわずかである。
次に,被告人両名とA1関係者の関係や補助金不正受給に対する関与の程度等についてみると,上記5認定の事実経過に照らすと,確かに,①
平成27年7月の

本件事業提案申請に当たっては,A2らが被告人両名に知らせずに,実際の見込み額等よりも多額の見積書を提出するなどしたことや,②
平成28年1月に,22

億円の工事契約書と見積書を作成することについて,A5が被告人Xに提案した可能性があること,という点では,A2やA5らA1関係者が,被告人両名による指示等がない段階で補助金の不正受給に関する具体的行為を行ったという面がある。しかし,①については,それに先立つ平成27年6月時点で,被告人両名が,必ずしも違法行為の趣旨とは限らないものの,本来よりも多額の補助金をもらいたいという趣旨の話をしており,A2らの行為はその意思を受けてのものと考えられる上,本件事業提案申請の約1週間後には被告人両名も事後的に説明を受けていたものである。また,②については,それに先立って,被告人両名が,A1側に対し,補助金額の減額は避けたいという意向を示して強い圧力を加えており,もし補助金額が下げられる事態となれば被告人両名からの厳しい叱責が予想される状況であったことに照らすと,仮に上記提案がA5からなされたとしても,それは,被告人両名の上記意向を受け,補助金に関する実務を担当する者として,手続上必要となる事柄を示したにすぎないと考えられる。加えて,打合せ等の録音記録を反訳した捜査報告書(甲132ないし170)によれば,被告人両名がA1の担当者等に対して強い態度で要望を伝えることが多かったことがうかがわれる。
このように,本件の補助金の不正受給は,A2やA5らA1関係者がこれを主導して被告人両名を引っ張ったというものではなく,同関係者が,多額の補助金を受給したいという被告人両名の強い意向を受け,実務を担当する者としてやむなく手続を進めたものであり,他方,被告人両名は,事業主かつ建築主として,A1関係者がそのような行動をとらざるを得ないような状況を作っていき,その結果として得られる利益の全てを享受したとみるのが相当である。
したがって,被告人両名は,単にA2らの犯罪を手助けしたというものではなく,自己の犯罪として犯行に関与したものであると認められる。


以上によると,被告人両名とA2らとの間で共謀が成立したと認められる。
8
小括

以上の次第で,被告人両名につき,いずれも,欺罔行為①及び欺罔行為②について,詐欺の故意が認められ,かつ,A2らとの間に共謀が成立すると認められる。第4

経常費補助金事件(平成29年9月11日付け起訴状記載の公訴事実第1)
について
この項において,上記公訴事実を本件公訴事実という。
また,この項においては,経常費補助金を単に補助金ということがある。1
本件公訴事実の要旨及び争点の概要等

本件公訴事実は,要するに,判示第2の詐欺について,被告人両名が共謀の上で行ったというものである。
被告人Xは,上記の事実を大筋で認める一方,被告人Yとは犯行を共謀していないと主張し,被告人Yは,経常費補助金の不正受給に加担したことも,その認識もなかった,被告人Xとその共謀をしたこともなかったとして,詐欺の故意及び被告人Xとの共謀を争う。
当裁判所は,被告人Yについては,虚偽の経常費補助金の申請をしてこれを詐取することについて,故意も被告人Xとの共謀も認められないから,経常費補助金事件の全事実について無罪であると判断した。以下,その理由を説明する。2
前提事実

経常費補助金交付に関する関係書類の写しを編綴した捜査報告書(甲125)や,経常費補助金の事務を担当する府職員の供述調書を始めとする関係各証拠(甲125号証中の主なページや同証拠以外の主な証拠を文中に掲げることがある。)によって認められる,経常費補助金事件の前提となる事実関係は,以下のとおりである。⑴

経常費補助金制度の概要

甲125号証中の経常費補助金に係る交付要綱や府が幼稚園設置者に対して発する各種文書等によれば,経常費補助金制度の概要として以下の事実が認められる。ア
交付対象等

経常費補助金は,大阪府(以下府という。)が,府内に所在する私立幼稚園の教育条件の維持向上及び幼稚園に在園する幼児に係る修学上の経済的負担の軽減を図るとともに,幼稚園の経営の健全性を高め,もって幼稚園の健全な発達に資するため,幼稚園を設置する学校法人等に対して交付する補助金である。経常費補助金の交付の対象となる経費は,幼稚園における教育に係る経常的経費のうち,人件費(役員報酬は除く。),教育研究経費,管理経費,借入金等利息である。

交付金額の算出方法の概要

経常費補助金の交付金額は,一般補助(幼稚園の教職員数,学級数,園児数等に応じた補助),特別補助(3歳児の就園の促進等を目的とした補助)及び調整措置の区分に分けて算出されている。そのうち,一般補助の区分は,人件費関係と運営費関係に分けられ,さらに,人件費関係のうち,専任教員の人件費に係る要素(教員要素,3歳児学級要素,加配教員要素)は,専任教員(以下,専任園長及び専任教員を合わせて専任教員等という。)の員数をもとに補助対象教員数を定め,補助対象教員数に補助単価を乗じるなどして算出される。
このように,専任教員等の員数は,経常費補助金の交付額算出の基礎となっている。

申請,交付手続

幼稚園設置者は,各年度5月頃,府に大阪府私立幼稚園経常費補助金交付申請書(以下経常費補助金交付申請書という。)及び私立幼稚園基礎資料調査と題する書類(以下基礎資料調査という。)を提出し,府は,審査の上,各年度7月頃,前年度の交付額を基準とする概算額での経常費補助金の交付決定を行い,幼稚園に対し,その概算額分を同月頃と12月頃の2回に分けて交付する。一方,府は,基礎資料調査等をもとに経常費補助金額を算出する基礎となる数値を取りまとめ,各年度12月頃,幼稚園設置者に対し,私立幼稚園経常費補助金の基礎数値の確認についてと題する書面を発出して,その数値に誤りがないかの回答を求め,その回答を受けて幼稚園の当該年度の正式な経常費補助金額を算出し,これを記載した内示表を作成して幼稚園設置者に配付する。幼稚園設置者は,各年度2月頃,内示表で示された正式な経常費補助金額と既に交付を受けた概算額との差額について,府に経常費補助事業変更承認申請書等を提出して交付を請求し,府は,審査の上,各年度3月頃,幼稚園に上記差額を交付する。
その後,幼稚園設置者は,翌年度4月頃,府に対し,経常費補助金の使用状況等を記載した大阪府私立幼稚園経常費補助金実績報告書を提出し,府の審査を経て,最終的な経常費補助金額が確定する。

専任教員等の要件及び専任教員等の員数等の申告方法
専任教員等の要件

補助の対象となる専任教職員(専任園長,専任教員及び専任職員)のうち,専任園長の要件は,①

勤務日数が週平均5日以上であること(保育所等の他業種で働

いて勤務している場合はこれに該当しない。),②
原則として私立学校教職員共

済組合(以下私学共済という。)に加入していること,③主たる給与の支給を受けていること,④

当該学校法人から

府に専任として届出を行っていることで

あり,専任教員の要件は,上記①ないし③のほか(なお,時間給・日給制の者は①に該当しない。),⑤

幼稚園教諭免許状等を有することである(以下,専任教員

及び専任園長の要件を併せて専任要件という。)。
専任教員等の員数等の申告方法
幼稚園設置者は,各年度5月頃,府に対し,経常費補助金交付申請書において,専任教員等の員数を申告する。
そして,専任教員等の員数及びそれぞれの給与額については,同申請書と同時に提出する基礎資料調査中の前年度の教員組織・給与額調(以下前年度調べという。)と当年度の教員組織・給与額調(以下当年度調べという。)とにより申告する。すなわち,前年度調べには職員ごとにその氏名及び前年度の年間給与支払総額等を記入するとともに,当年度調べには職員ごとにその氏名及び当年度5月の給与支払月額等を記入して,申告する(以下,前年度調べに記載された年間給与支払総額や,当年度調べに記載された当年度5月の給与支払月額の数額を,単に給与額という。)。
前年度調べ及び当年度調べの記入用紙は府から幼稚園に送付されるが,これには,前年度の基礎資料調査に基づき,専任教員等の氏名があらかじめ印字されている。そして,前年度に申告していた専任教員等が当年度では専任教員等に該当しない場合には,幼稚園設置者において,印字されている当該専任教員等の氏名を二重線で消すこととされている。
そして,幼稚園設置者は,各年度12月頃,府からの照会に対し,基礎資料調査等をもとに特定した専任教員等の員数に誤りがないかを回答することによって,最終的な専任教員等の員数を申告する。


P学園による平成26年度から平成28年度までの経常費補助金の交付申請

交付申請行為等


P学園は,別表1(省略)の基礎資料調査・交付申請書等提出日(頃),経常費補助事業変更承認申請書提出日(頃)欄各記載のとおり,Q幼稚園について,平成26年度,平成27年度及び平成28年度の経常費補助金に係る基礎資料調査及び交付申請書等を提出したり,経常費補助事業変更承認申請書を提出したりした(甲125号証151頁,259頁,264頁,325頁,366頁,479頁,483頁,531頁,600頁,719頁,724頁等)。イ
専任教員等の員数についての虚偽申告
申告内容の概要

上記ア記載の各書類における専任教員等の員数等についての申告内容の概要は以下のとおりである。
P学園が府に提出した平成26年度の基礎資料調査中の当年度調べには,専任園長として被告人Xが,専任教員として被告人Y,K1,K2,K3及びK4(以下K1,K2,K3,K4の4名を合わせてK1ら4名といい,K1,K2,K3の3名を合わせてK1ら3名という。)がそれぞれ申告されるとともに,給与額等のほか,これらの者が私学共済に加入している旨や週平均勤務日数が5日である旨も申告されていた(甲125号証164頁,166頁,職22)。また,平成27年度及び平成28年度の各基礎資料調査中の当年度調べには,専任園長として被告人Xが,専任教員として被告人Y及びK1ら3名がそれぞれ申告されるとともに,給与額等のほか,これらの者が私学共済に加入している旨及び週平均勤務日数が5日である旨も申告されていた(甲125号証340頁,342頁,546頁,548頁)。
また,基礎資料調査と同時に提出された経常費補助金交付申請書には,平成26年度は,被告人X,被告人Y及びK1ら4名が,平成27年度及び平成28年度は被告人X,被告人Y及びK1ら3名がそれぞれ専任教員等であるという前提で算定した専任教員等の員数が記載されていた(甲125号証187頁,364頁,572頁)。
各年度の11月頃,P学園から府に提出された私立幼稚園経常費補助金の基礎数値の確認について(回答)と題する書面には,各年度とも,数値等に誤りがないという回答に丸印が付されている(甲125号証218頁,414頁,670頁)。
専任教員等該当性について
a
被告人両名について

被告人両名は,それぞれQ幼稚園の園長・副園長として勤務する一方,社会福祉法人Vが運営するU保育園にも勤務して相当額の給与等を受け取っていたため,平成26年度から平成28年度の間,いずれも専任要件を満たしていなかった(被告人Xの公判供述,証人L1の公判供述)。
b
K1ら4名について

これらの者は,以前にはQ幼稚園又はS1幼稚園に勤務したことがあったが,そのうち,K1は,Q幼稚園では平成26年度に2日ほど授業の手伝いをしただけ,K2は,Q幼稚園で,平成6年4月から平成10年3月までと平成19年5月から平成20年3月まで勤務した後,わずかに手伝いをしていただけ,K3は,Q幼稚園では,平成25年度の二,三か月の間に月10日程度勤務しただけ,K4は,Q幼稚園で平成25年4月から平成27年3月までパートタイムの教員として稼働しただけであった。すなわち,平成26年4月以降については,K2及びK3はQ幼稚園で勤務したことがなく,K1はわずかに手伝ったにとどまり,K4は,平成26年度にパートタイムの教員として稼働したにとどまっていた。また,これら4名はいずれも,平成26年度から平成28年度の間,私学共済に加入していなかった。したがって,これらの者は,平成26年度から平成28年度の間,専任要件を満たしていなかった(甲55ないし61,121など)。
小括
以上のとおり,P学園は,府に対し,平成26年度は被告人X,被告人Y及びK1ら4名の合計6名,平成27年度と平成28年度はそれぞれ被告人X,被告人Y及びK1ら3名の合計5名ずつ(以上延べ16名),専任教員等でない者を専任教員等と装う内容虚偽の経常費補助金の申請に関する書類を提出して,同補助金の交付申請等を行った。


府によるP学園に対する補助金の交付金額の決定及び振込入金の内容等
府は,各年度の7月頃,上記基礎資料調査及び交付申請書等に基づき,P学園に対し,Q幼稚園について,別表1(省略)の交付決定日(頃),交付決定額(円)欄記載のとおり,概算額としての経常費補助金の交付金額を決定し,別表1(省略)の振込入金日,振込入金額(円)欄記載のとおり振込入金を行った(甲125号証191頁,194頁,221頁,368頁,371頁,408頁,602頁,605頁,663頁)。
府は,各年度の1月頃,それまでに提出された書類等に基づき,上記のように専任教員等として申告された者をいずれも専任教員等として扱った上で,経常費補助金の金額を記載した内示表を作成・配布した。そして,これに記載された金額と同額の金額が記載されたP学園作成の経常費補助事業変更承認申請書に基づき,別表1(省略)の変更交付決定日(頃),変更交付決定額(円)欄記載のとおり,当該年度の補助金交付額を決定した上,別表1(省略)の振込入金日,振込入金額(円)欄記載のとおり振込入金を行った(甲125号証266頁,269頁,485頁,488頁,726頁,729頁)。
以上によれば,各年度の申請合計額及び交付合計額は,別表1(省略)の各年度申請合計額及び交付合計額欄記載のとおりとなる。このように,各年度とも,P学園が提出した書類に記載された,真実と異なる専任教員等の員数を前提にして,当該年度の経常費補助金の交付金額が決定・交付された。


真実の専任教員等の員数を前提にした補助金額

L1の公判供述及び同人の検察官調書(甲38)によれば,真実の専任教員等の員数,すなわち,専任要件を満たす者のみを専任教員等として扱った場合の員数を前提にして算定した平成26年度から平成28年度までの経常費補助金の金額は,別表1(省略)の真実交付されるべき経常費補助金額欄のとおりである。⑸

府の担当者による補助金調査等


平成27年度

府職員であるL2,L3及びほか1名の府職員は,平成27年9月8日,Q幼稚園を訪問し,同幼稚園に対する補助金調査を行った(以下,この項(第4)においては,平成27年度の補助金調査という。)。そして,その調査結果として,K1ら4名に係る平成26年の給与台帳並びに平成26年及び平成27年の私学共済の加入が確認できないとして,幼稚園側にその資料の提出を求めるなどした(証人L2,甲125号証378頁)。

平成28年度

L2及びほか2名の府職員は,平成28年9月15日,Q幼稚園を訪問し,同幼稚園に対する補助金調査を行った(以下,この項(第4)においては,平成28年度の補助金調査という。)。そして,その調査結果として,K1ら3名に係る私学共済の加入が確認できないとして,幼稚園側にその資料の提出を求めるなどした(証人L2,甲125号証612頁)。
3
被告人Xについての詐欺罪の成否



P学園による虚偽申請及び不正受給

上記2⑵及び⑶のとおり,P学園は,専任教員等でない者を専任教員等と装う内容虚偽の経常費補助金の申請に関する書類(基礎資料調査,経常費補助金交付申請書,経常費補助事業変更承認申請書等)を提出して同補助金の交付申請等を行い,府の担当者は,上記書類に記載された,真実と異なる専任教員等の員数を真実と誤信し,それを前提にして経常費補助金の交付金額を決定し,交付した。⑵

被告人Xによる関与


書類の作成及び提出等

一般に,補助金交付申請者は,平成26年度から平成28年度まで,毎年度,5月頃に基礎資料調査及び経常費補助金交付申請書を府の担当部署に持参すること,1月頃に大阪府私立幼稚園経常費補助金配分基準等説明会に出席して内示表の配布を受けること,1月又は2月頃に大阪府私立幼稚園経常費補助事業変更承認申請書及び補助金請求書を持参することになっているが,平成26年度から平成28年度において,これらの手続は全て被告人Xが行った(甲43)。これらの提出書類はいずれも,その作成名義人である被告人Xが,その内容を確認して完成させたものと合理的に推認される。

府による補助金調査及びその後の対応
平成27年度

平成27年度の補助金調査の調査結果告知の場において,府担当者がQ幼稚園側にK1ら4名に係る書類の事後提出を求めた際,被告人Xはその場に出席していた(証人L2,同L3)。
被告人Xは,Q幼稚園の事務職員に対し,私学共済の加入者を示す確認通知書という書類にK1ら4名を書き加えることにより,同人らが私学共済に加入している旨の虚偽の書類を作成するよう指示した(甲63)。
そして,平成27年10月6日頃,Q幼稚園から府に対し,私学共済加入についてK1ら4名が書き加えられた虚偽の確認通知書と,K1ら4名に係る給与集計表とが送付された(甲125号証380頁)。
平成28年度
平成28年度の補助金調査の調査結果告知の場において,府担当者がQ幼稚園側にK1ら3名に係る書類の事後提出を求めた際,被告人Xはその場に出席していた(証人L2)。
被告人Xは,Q幼稚園の事務職員に対し,私学共済の加入者を示す加入者証等検認該当者一覧と題する書類にK1ら3名を書き加えることにより,同人らが同共済に加入している旨の虚偽の書類を作成するよう指示した(甲63)。そして,平成28年11月11日頃,Q幼稚園から府に対し,私学共済加入についてK1ら3名が書き加えられた虚偽の加入者証等検認該当者一覧と題する書類が送付された(甲125号証615頁)。
なお,平成28年度の補助金調査においては,府から給与台帳の事後提出が求められていないが,これは,Xが補助金調査の際,府職員に対し,あらかじめP学園の顧問税理士であるM1(以下M1又はM1税理士という。)に依頼して作成していたK1ら3名の分が記載された虚偽の給与集計表(証人M1,甲52により認められる。)を示したためと推認される。

その他の関与

府の担当者が経常費補助金についてQ幼稚園に電話連絡するとき,その電話の相手方は,基本的に被告人Xであった。


詐欺罪の成否

以上によれば,被告人Xは,P学園の代表者として,判示第2のとおり,平成26年度から平成28年度まで,延べ16名の者について専任要件を満たさないのに,これらの者が専任教員等であると装った内容虚偽の書類を提出するなどして,真実交付されるべき経常費補助金の金額(別表1[省略]の真実交付されるべき経常費補助金額欄記載)を上回る金額の経常費補助金(別表1[省略]の各年度申請合計額及び交付合計額欄記載)の交付を受けたものと認められ,かつ,これについて故意も認められる(このことは被告人Xも認めており,同弁護人も争っていない。)。
そうすると,これらの事実について,被告人Xに,別表1(省略)の差額(詐取金額)欄記載の金額を詐取額として,詐欺罪が成立する。4
被告人Yの故意の成否について



当事者の主張の概要等
検察官は,被告人Yは,平成26年度から平成28年度において,被告人Xが,専任要件を満たさない者についてその要件を満たすと偽って経常費補助金を申請すること,すなわち,①

基礎資料調査記載の専任教員等の員数等に応じて経常費補

助金が交付されること,②
と,③

被告人両名及びK1ら4名が専任要件を満たさないこ

被告人Xが当年度もそれらの者を専任教員等とする虚偽の申請を行うこと
を認識していたから,詐欺の故意が認められると主張する。
これに対し,被告人Yの弁護人は,被告人Yがそのような認識を有していなかったと主張して,詐欺の故意を争う。
そこで,以下,被告人Yが上記①から③の各点についての認識を有していたと認められるかどうかについて検討する。


前提事実

M1及び被告人Yの各公判供述並びにM2(甲46),M1(甲51)及びM3(甲53)の各検察官調書を始めとする関係各証拠によれば,Q幼稚園における被告人Yの基本的な業務の内容や基礎資料調査の作成過程等について,以下の事実が認められる。

Q幼稚園における被告人Yの基本的な業務の内容

被告人Yは,Q幼稚園の副園長であり,経理面の事務として,小口現金及び預貯金の管理や出納を行っており,また,P学園の会計業務を担当していたM1税理士に宛てて,毎月,通帳の写しや領収証等を郵送し,給与計算に必要な情報をその都度伝えるなどしていた。また,労務面の事務として,社会保険労務士を通じて教職員の私学共済や雇用保険の資格変更手続等を行っていた。幼稚園教育に関しては,主任教員や担任教員から必要に応じて業務の報告を受け,園児の保護者の対応を行うこともあった。

平成26年度から平成28年度までの基礎資料調査,特にその中の前年度調
べ及び当年度調べの作成過程(特に被告人Yの関与)等について
基礎資料調査中の前年度調べ及び当年度調べの記入用紙については,それぞれ,府からP学園に,その氏名等の欄に,前年度に専任教員等として申告された者の氏名等があらかじめ印字され,かつ,年間給与支払総額の欄(前年度調べの場合)又は5月の給与支払月額の欄(当年度調べの場合)が空欄となった記入用紙が送られていた。そして,上記の印字された者の中には,平成26年度については,被告人X,K3,K4及びK2が,平成27年度については,被告人両名及びK1ら4名が,平成28年度については,被告人両名及びK1ら3名が含まれていた(甲125号証160頁,164頁,334頁,336頁,340頁,342頁,540頁,542頁,546頁,548頁)。
まず,前年度調べについては,被告人Yは,以前から,M1税理士に対し,前年度調べの記入用紙に給与額等を記入してQ幼稚園にファクシミリ送信してもらっていたので,平成26年度から平成28年度までも,被告人Yが,前年度調べの記入用紙の写しをM1税理士に送り,下書きとして年間給与支払総額の欄への記入を依頼した。M1税理士は,この記入をするに当たって,K1ら4名あるいはK1ら3名以外の教職員については,被告人両名を含め,前年度の申請に基づく額を年間給与支払総額の欄に記入する一方,K1ら4名あるいはK1ら3名については,これらの者のうち平成26年度及び平成27年度申請分のK4の分以外については年間給与支払総額の欄を空欄のままとし,平成26年度及び平成27年度申請分のK4の分については年間給与支払総額の欄にパートタイム教員としての給与を記入していた。被告人Yは,M1税理士からこれらの記入がなされた書面の返送を受けると,それを記入用紙の原本に転記して清書した。
一方,当年度調べについては,被告人Yが,給与台帳の記載に基づいて,実際に勤務している教員について,その給与額等を記入した。
そして,被告人Yは,記入後の前年度調べ及び当年度調べ等を被告人Xに渡した。また,被告人Yは,平成27年度と平成28年度については,基礎資料調査表紙の緊急連絡先の欄に被告人Xの氏名や電話番号等を記入して被告人Xに渡した。被告人Xは,前年度調べ及び当年度調べ等にK1ら4名あるいはK1ら3名に係る虚偽の給与額や,これらの者が私学共済に加入している旨及び週平均勤務日数が5日である旨を記入するなどして基礎資料調査を作成した(被告人Xが公判でこの事実を自認しているほか,平成27年度と平成28年度は被告人XからK1ら4名又はK1ら3名に係る虚偽の給与表を作成するよう依頼された旨のM1の供述(公判供述,甲50)からも裏付けられる。)(ただし,被告人Xは,平成27年度の当年度調べ中のK4の給与支給月額の欄には退職と記入した(甲125号証342頁)。)。そして,被告人Xはそれらを府に提出した。


基礎資料調査記載の専任教員等の員数等に応じて経常費補助金が交付される
ことに関する被告人Yの認識について(上記①)

まず,専任教員等の員数等に応じて経常費補助金が交付されることについて
被告人Yが概括的な認識を有していたことについては,経常費補助金が園児数及び教員数に応じて交付される幼稚園の運営費に対する補助金であると認識していたという被告人Yの公判供述により認められる。

次に,専任教員等の員数が基礎資料調査に基づいて把握されるものであると
いう点についての被告人Yの認識について検討する。
この点,被告人Yは,基礎資料調査は統計調査にすぎないと思っていた旨供述する。また,同被告人の弁護人も,同被告人が,平成27年4月にM1税理士に前年度調べへの給与額の記載を依頼するファクシミリを送信した際,用紙の欄外に文部省にわたす書類と記載したことは上記供述を裏付けるものである旨主張する。しかしながら,被告人Yが上記のとおり経常費補助金が園児数及び教員数に応じて交付されるものであることを認識している以上,幼稚園から経常費補助金の交付事務を担当する公的機関に園児数及び教員数を報告する手続があることは想定していると考えられるところ,被告人Yが,基礎資料調査以外にそのような手続があると誤信するような事情はうかがわれない。そうすると,被告人Yにおいて,少なくとも,基礎資料調査が経常費補助金交付事務の参考資料になるかもしれないとの未必的認識を有していたと認められる。
さらに,以下に述べるとおり,被告人Yは,平成23年度の補助金調査におけるやり取りにより,経常費補助金に関係する教員の把握が基礎資料調査の記載に基づいてなされることを認識したと認められる。
すなわち,府職員であるL4の公判供述によれば,L4ら府職員が,平成23年8月25日にQ幼稚園を訪問した補助金調査において,経常費補助金の対象として報告されていた教員が年度途中で退職していることが判明したため,被告人両名に対しその点の報告を求めたこと,その際,経常費補助金は1年間勤めた教員の人件費を補助するものであり,年度途中で退職している場合は経常費補助金の対象外となる旨説明したこと,また,上記の教員を指摘するに当たっては,基礎資料調査記載の教員の固有番号を記載した書面を渡して説明したことが認められる。そうすると,被告人Yは,遅くとも上記の平成23年度の補助金調査での指摘によって,教員の退職が経常費補助金の額に影響することや,経常費補助金に関係する教員の把握が基礎資料調査の記載に基づいてなされることを理解するに至ったと認められる。
そして,被告人Y
ったことをうかがわせるような事情は認められないことや,文部科学省への統計資料という面と府への補助金資料という面とは両立し得ることに照らすと,被告人Yの弁護人が指摘するように,同被告人がM1税理士に対し前年度調べの記入用紙を文部省にわたす書類と伝えたからといって,経常費補助金に関係する教員の把握が基礎資料調査の記載に基づいてなされるという認識がなかったことにはならない。
以上によれば,基礎資料調査は統計調査にすぎないと思っていた旨の被告人Yの供述は信用できず,被告人Yが,平成26年度以降,専任教員等の員数が基礎資料調査に基づいて把握されるものであることについての概括的な認識を有していたと認められる。


被告人両名や勤務実態のない者ら(K1ら4名あるいはK1ら3名)が専任要件を満たさないことに関する被告人Yの認識について(上記②)ア
K1ら3名について

まず,一般に,厳密な専任要件を認識していなくても,K2,K3及び平成27年度以降のK1のような勤務実態のない者や,平成26年度のK1のようにごく短期間しか勤務していない者が専任要件を満たさないということは,専任という用語及び経常費補助金制度の趣旨から容易に認識し得るということができ,被告人Yも同様であると認められる。

被告人両名及び平成26年度のK4について

次に,被告人Yが,平成26年度のK4のようなパートタイム教員や,他の保育園と兼務していた被告人両名が専任要件を満たさないとの認識を有していたと認められるかどうかについて検討する。
検察官は,専任という用語からすれば,これらの者も専任教員等に該当しないことは容易に認識し得ると主張する。
しかし,専任教員等という用語が補助金交付に係る専門用語である以上,それなりの勤務実態がある者が専任教員等に該当するかどうかについては,一般的な専任という言葉の意味だけからは判断がつかない可能性がある。検察官の上記主張は採用できない。
また,検察官は,前年度調べ及び当年度調べの記入上の注意に専任要件が記載されていることを指摘して,被告人Yが上記認識を有していたと主張する。確かに,前年度調べ及び当年度調べには,記入上の注意において,他法人で勤務している者は専任園長や専任教員に該当しない旨や,時間給の者や私学共済に加入していない者は専任教員に該当しない旨の記載がある(甲125号証159頁ないし164頁,333頁ないし342頁,539頁ないし548頁)。しかしながら,被告人Yが前年度調べ及び当年度調べの記入に関して担当した具体的な作業は,上記⑵のとおり,給与台帳やM1税理士の作成した下書きに基づき,教員の氏名に対応する報酬額等の数字を単純に転記するというものにすぎない。このような作業は,専任教員と兼任教員のいずれに該当するかという判断を要するものではなく,記入上の注意を参照しながら行う必要はないから,専任教員等の要件について特段の注意を払わないことが不自然であるとはいえない。そうすると,被告人Yが,記入上の注意を参照せず,したがって,専任教員等として扱われるべき条件を理解していなかったという可能性を否定することができない。さらに,検察官は,平成27年度及び平成28年度の各補助金調査において,被告人Yが府職員からの指摘に対して反論したり説明を求めなかったことは,専任教員等の要件を認識していたことの現れであると主張する。
しかし,平成27年度の補助金調査における指摘は,共済加入及び給与額に関する資料の補充を求めるものであるが(証人L2),それが専任要件であるとの説明がなされたというわけではない。平成28年度の補助金調査における指摘は,週5日常勤でない場合には補助金調整となる可能性があるというものであるが(証人L2),兼務の者やパートタイム教員が週5日勤務している場合に常勤に当たらないとの説明がなされたというわけではない。したがって,検察官の上記主張は採用できない。
以上によれば,被告人Yが,平成26年度のK4のようなパートタイム教員や,他の保育園と兼務していた被告人両名が専任要件を満たさないとの認識を有していたと認めることはできない。


勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることについての被告人Yの認
識について(上記③)

K1ら3名を専任教員として申請したことについて

検察官は,①

府から送られてきた前年度調べ及び当年度調べの記入用紙の専任

教員欄に氏名が印字されていることは,その者がその前年度に専任教員として申告されたことを意味しているところ,被告人Yは平成26年度,平成27年度,平成28年度とも,それらの記入用紙の上記印字を見ていることや,②
平成27年9

月8日と平成28年9月15日の補助金調査において,府職員が,K1ら3名の給与台帳や私学共済関係書類の提出を被告人両名に求めたのに,被告人Yは,それらの者が勤務していない事実や私学共済に加入していない事実を告げず,その場をしのいでいることなどからすれば,被告人Yは,遅くとも平成26年度には専任教員数を水増しして偽る意思を有していたと主張する。
そこで,以下,基礎資料調査の作成関与や補助金調査の時点ごとに,被告人Yの認識について検討する。
平成26年度における認識について
被告人Yが,上記2⑵

K1ら3名の勤務実態を認識していたこと

は証拠上明らかに認められる。
また,上記⑵のとおり,被告人Yは,平成26年度において,前年度調べ及び当年度調べに一定の記入をして被告人Xに渡しているから,検察官の主張①にあるとおり,その専任教員欄に,上記⑵のような前年度に勤務していない者の氏名が書かれていることは認識していたものと認められる。
しかし,上記⑵のとおり,前年度調べ及び当年度調べ中の前年度に勤務していない者の氏名に対応する給与額の欄等は被告人Xが記入したものであって,被告人Yは,これらの欄を空白のままで被告人Xに渡したものである。
そうすると,被告人Yにおいて,基礎資料調査を被告人Xに渡す時点で,被告人Xがその後上記⑵のような前年度に勤務していない者の給与額の欄等に虚偽記入することを予期していたと認めるべき事情がない限り,勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることの認識が被告人Yにあったと推認することはできない。そこで,以下,上記の事情が認められるかどうかについて検討する。
a
まず,検察官は,被告人Yは教員組織・給与額調による申告が前年度分
も必要であることを理解していたから,その印字を見た被告人Yは,被告人Xが前年度に専任教員数を水増しして経常費補助金を申請したことを認識したと主張する。しかし,上記3⑵や4⑵で認定したとおり,被告人Yは,教職員の給与額等の数字をM1税理士作成の書面から転記するという比較的単純な作業に従事していたにすぎず,その他の記載や申請そのものは被告人Xが行っていたものであるから,被告人Yにおいて,経常費補助金の申請手続に関する詳しい知識があったとは認められない。そのような被告人Yが,各様式に教員の氏名が印字されていることの意味合いを,検察官の主張するようなものとして理解していたと推認することは困難である。
b
次に,検察官は,被告人Yが,被告人Xとの間で専任教員数を水増しして申
請しようという意図を共有していない限り,専任教員欄にK2及びK3の氏名が印字されていることについて何も指摘せずに同じ頁の他の欄を記入するのは不自然であるとも主張する。
しかし,被告人Yは,平成26年度の当年度調べでは,K2及びK3以外にも206番の教員も空欄にしたと認められるところ,206番の教員については,その後被告人Xが退職と記入したと認められることに照らすと,K2及びK3についても同様に被告人Xが退職と記入する可能性が十分あったといえる。そうすると,被告人YがK2及びK3の氏名の印字を被告人Xに指摘しなかったからといって,被告人Xとの間で専任教員数を水増しして申請しようという意図を共有していたとみるべきことにはならない。
c
以上によれば,被告人Yが,平成26年度の基礎資料調査の前年度調べ及び
当年度調べに印字されたK2及びK3の氏名を認識したことによっては,被告人Xがその後前年度に勤務していない者の給与額の欄等に虚偽記入することを予期していたと認めるべき事情があるとは認められない。よって,被告人Yにおいて,被告人Xが平成26年度に勤務実態のない者らについて虚偽の申請を行う意思があることの認識があったと認めることはできない。
平成27年度における認識について
a
基礎資料調査記入時点

被告人Yは,上記⑵のとおり,平成27年度も,前年度調べ及び当年度調べに一定の記入をしており,その際,これにK1ら3名の氏名が印字されているのを認識したと考えられるが,前年度調べ及び当年度調べ中の前年度に勤務していない者の給与額の欄等については,空白のままで被告人Xに渡したのであって,その後この欄に虚偽記入したのは被告人Xである。
そうすると,平成26年度について述べたのと同様の理由により,被告人Yにおいて,基礎資料調査を被告人Xに渡す時点で,被告人Xがその後虚偽記入することを予期していたと認めるべき事情は認められず,したがって,勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることの認識が被告人Yにあったと推認することはできない。
したがって,この時点で,被告人Yが,被告人Xが平成27年度に勤務実態のない者らについて虚偽の申請を行う意思があることの認識を有していたと認定することはできない。
b
補助金調査時点

上記2⑸アのとおり,L2及びL3ほかの府職員は,平成27年度の補助金調査の際,K1ら4名に係る平成26年の給与台帳並びに平成26年及び平成27年の私学共済の加入が確認できないとして,幼稚園側にそれらの資料の提出を求めるなどの指摘をしたことが認められる。
そして,L3の公判供述によれば,府職員がその調査の最後に調査結果を幼稚園側に伝える場に,被告人X,被告人Y及びM4(被告人両名の娘であり,Q幼稚園の主任教員を務めていた者である。)がいたことや,その際被告人両名から,K1ら4名がQ幼稚園で勤務していない旨の説明はなかったことが認められる(これに対し,被告人Yの弁護人はこのL3供述の信用性を争っている。しかし,まず,平成27年度(実施)私立幼稚園振興助成費等補助金調査報告書(甲125号証376頁)の幼稚園側の立会者の記載欄には,園の事務担当者の欄に被告人Xの氏名が,園の経理担当者の欄にM4の氏名が記載されているほか,その他関係者の欄に,立ち会った者がいる旨記載されていることからすると,被告人X及びM4のほかにも立ち会った者があることは明らかである。その上で,被告人Yが,副園長であり,かつ,経理担当者であるとともに,他の教職員の給与を把握しているのに対し,被告人両名及びM1税理士以外の者が教職員の給与を知っていなかったこと(被告人Y被告人質問調書66頁)や,経常費補助金の補助金調査の結果告知の場は,教職員の給与等の勤務実態に言及する可能性が十分あることに照らすと,被告人Yが結果告知の場に立ち会っていたというL3供述の内容は十分合理的である。なお,被告人Yが経理担当者であったのに,上記報告書(甲125号証376頁)の園の経理担当者の欄に被告人Yの氏名が記載されていないが,上記の供述内容の合理性の高さに照らすと,L3供述の信用性を揺るがすものではない(これを記入した幼稚園側の者が何らかの理由により被告人Yの氏名を書かなかっただけであると考えられる。)。また,L2は,調査を続けようと思っていたが,被告人Yが園内の放送で5時である旨告げてきたので,同日の調査を終了したと供述しているが,これは,その放送の時点では調査継続中であったというものにすぎず,その時点で調査から離席していたとしても,その後に行われる調査結果の告知の場に立ち会っていないことにはならないから,この点もL3供述の信用性を揺るがすものではない。したがって,L3の上記供述は信用することができる。)。以上に加えて,上記⑶のとおり,被告人Yは基礎資料調査の記載に応じて補助金が交付されることについて認識していたことも併せ鑑みると,被告人Yは,府職員から指摘を受けることにより,被告人Xが基礎資料調査においてK1ら3名に係る経常費補助金を水増しして申請したのかもしれないという認識を抱くに至ったと推認することができる。
しかし,そうだとしても,経常費補助金の申請手続を中心的に行っていたのは被告人Xであるから,被告人Yが,上記指摘に対してK1らの勤務の有無について申告しなかったのは,被告人Xに対応を任せて口出しをしなかったと考える余地が十分ある。
しかも,補助金調査において,府職員の指摘で給与台帳等の資料の提出が求められたことにより,その後虚偽の給与台帳等を提出しない限り,経常費補助金の水増し申請を撤回せざるを得ない状況になっていたところ,上記⑵のとおり,その後虚偽の給与台帳等の作成や提出を行ったのは被告人Xであるから,被告人Yとしては,被告人Xがその後水増し申請を撤回するだろうと思ったとしても不合理ではない。よって,平成27年度の補助金調査の時点で,被告人Yにおいて,被告人Xがその後虚偽の給与台帳等を作成等するつもりであると認識していたと認めることはできない。
平成28年度における認識
a
基礎資料調査記入時点

被告人Yは,平成28年度も,前年度調べ及び当年度調べ中の前年度に勤務していない者の給与額の欄等については,空白のままで被告人Xに渡しているが,その他の欄に一定の記入をしており,その際,これにK1ら3名の氏名が印字されているのを認識したと考えられる。
しかし,被告人Yが前年度調べ及び当年度調べの各様式に教職員の氏名が印字されていることの意味を理解していたとは認められないことは平成26年度について述べたのと同様であるから,被告人Yが,その印字を契機として,被告人Xが前年度に専任教員数を水増しして経常費補助金を申請したと認識したと認めることはできない。
そうすると,被告人Yにおいて,被告人Xが,平成27年度の補助金調査の後,水増し申請を撤回したかもしれないと思った可能性が否定できないから,被告人Yが,平成28年度の基礎資料調査記入時点で,被告人Xがその後勤務実態のない者らについて虚偽の申請を行うことを予期していたと認めるべき事情は認められず,したがって,勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることの認識が被告人Yにあったと推認することはできない。
b
補助金調査時点

上記2⑸イのとおり,L2及びほか2名の府職員は,平成28年度の補助金調査の際,K1ら3名に係る私学共済の加入が確認できないとして,幼稚園側にその資料の提出を求めるなどの指摘をしたものである。また,この場に被告人Yがいたことは,L2の公判供述及び府の調査報告書(甲125号証610頁)から明らかである。
したがって,被告人Yは,平成28年度の補助金調査での指摘を受けることにより,被告人Xが,平成28年度でも,基礎資料調査においてK1ら3名に係る経常費補助金を水増しして申請したのかもしれないという認識を抱いたと推認することができる。
しかし,そうであるとしても,被告人Yは,被告人Xが平成27年度の調査の後に水増し申請を撤回したかもしれないと思った可能性があるという点では上記aのときと同様であるから,被告人Yは,平成28年度の補助金調査の時点で,被告人Xがその後その調査での指摘を受けて専任教員数の水増し申請を撤回するかもしれないと思った可能性を否定できない。
そうすると,平成28年度の補助金調査の時点で,被告人Yにおいて,被告人Xがその後私学共済の加入に関する虚偽の書類等を作成等するなどして,専任教員の数を水増しして偽る意思を有すると認識していたと認めることはできない。小括
以上によれば,平成26年度,平成27年度及び平成28年度において,被告人Yが,被告人Xが専任教員数を水増しして偽る意思を有することについての認識を有していたと認めることはできない。

被告人両名及びK4を専任教員等として申請した点について

上記⑷のとおり,被告人両名及びK4が専任教員等に該当しないことについての認識を被告人Yが有していたとは認められないから,勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることについての認識を検討するまでもなく,被告人Yに経常費補助金詐欺についての故意は認められないから,上記の認識の有無は検討しない。⑹

小括

以上を総合して,経常費補助金詐欺に関する被告人Yの故意の有無について検討する。

K1ら3名を専任教員として申請した点について

被告人Yは,上記⑶のとおり,専任教員等の員数が基礎資料調査に基づいて把握されるものであることについての概括的な認識を有していると認められ,かつ,上記⑷のとおり,K1ら3名が専任教員に該当しないことについての認識を有していると認められる。
しかし,上記⑸のとおり,被告人Yは,平成26年度,平成27年度及び平成28年度において,被告人Xが専任教員数を水増しして偽る意思を有することについての認識を有していたと認めることはできないから,結局,いずれの年度においても,被告人Yが,勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることについて認識していたと認めることはできない。

被告人両名及びK4を専任教員等として申請した点について

被告人Yは,上記⑶のとおり,専任教員等の員数が基礎資料調査に基づいて把握されるものであることについての概括的な認識を有していたと認められる。しかし,上記⑷のとおり,被告人両名及びK4が専任教員等に該当しないことについての認識を被告人Yが有していたとは認められない。

小括

以上によれば,経常費補助金事件の各公訴事実については,被告人Yにおいて詐欺罪の成立に必要な事実を認識していたとは認められないから,同被告人については詐欺罪の故意は認められない。
5
被告人Yと被告人Xとの共謀の成否について

上記4で述べた点だけでも被告人Yについて詐欺罪が成立すると認めることができないが,加えて,被告人Yについて被告人Xとの共謀が成立すると認めることもできないから,付言する。


検察官は,被告人Yについて被告人Xとの共謀が成立する根拠として,①
被告人Yが,各基礎資料調査において,虚偽と分かるはずの教員組織・給与額調に給与額等を記入していること,②

被告人Yが,平成27年度及び平成28年度

の各補助金調査において,府職員の指摘に対し,K1ら4名又はK1ら3名がQ幼稚園で勤務していない事実を述べなかったこと,③
被告人Yが,経常費補助金の

入金先であるP学園の預金口座を管理していたことなどを指摘する。⑵

まず,検察官の主張①についてみると,上記4⑵イで説示したとおり,被告
人Yが基礎資料調査の各教員組織・給与額調への記入において従事した作業は,給与台帳やM1税理士の作成した下書きに基づき,給与額等を各教員組織・給与額調に転記するという比較的単純なものであり,しかも,前年度及び当年度調べ中の勤務していない者の給与額の欄等について空白のままで,パートタイム教員の給与額等の欄についてはパートタイム教員としての給与額を書いた上で被告人Xに渡しただけであって,虚偽の経常費補助金の申請に関連するものは含まれていない。⑶

次に,検察官の主張②について検討する。上記3⑵で説示したとおり,経常
費補助金の申請手続を中心的に行っていたのは被告人Xであるから,被告人Yとしては,府職員による補助金調査での指摘事項に対する対応を被告人Xに任せて,口を出さなかったものとみる余地がある。
また,経常費補助金の申請手続は,そのほとんどを被告人Xが行っていたものであって,同被告人が名実ともに経常費補助金の申請者というべきである。一方,被告人Yは,Q幼稚園の副園長という立場ではあるが,上記のとおり経常費補助金の申請手続にはほぼ関与しておらず,その詳細を知り得る状況ではなかったと認められる。
そうすると,このような被告人両名の立場や状況の違いに照らすと,被告人Yが,平成27年度及び平成28年度の補助金調査での指摘を受けても事実を告げなかったことが,経常費補助金を被告人Xと共同してだまし取ったと評価し得るほどに重要な関与と評価することはできない。


検察官の主張③についてみると,経常費補助金が被告人Yの個人的な用途に
利用・支出されたというならともかく,P学園の運営資金として利用・支出されたのであれば,共謀の有無にかかわらず,経理業務を担当していた被告人Yが支出に関与するのは当然であるから,この点が共謀の成立を基礎付ける事情とはいえない。⑸

小括

その他,検察官が主張するところを踏まえても,平成26年度から平成28年度のいずれについても,被告人Yには,虚偽の経常費補助金の申請をしてこれを詐取することについて,被告人Xとの間での意思の連絡や被告人Yの正犯性を認めることはできないから,被告人Yと被告人Xとの間に共謀があったとは認められない。6
結論

よって,被告人Yに対する経常費補助金事件の各公訴事実については,犯罪の証明がないから,刑事訴訟法336条により被告人Yに対し無罪の言渡しをする。第5

特別支援教育費事件(平成29年9月11日付け起訴状記載の公訴事実第2
及び第3)について
この項において,上記各公訴事実を本件各公訴事実という。
また,この項においては,府特別支援教育費補助金を府補助金といい,市特別支援教育費補助金を市補助金といい,市特別支援教育費交付金を市交付金といい,府補助金,市補助金及び市交付金を総称する場合は府市補助金等といい,市補助金及び市交付金を総称する場合は市補助金等といい,補助金及び交付金を総称する場合は補助金等という。
そして,Q幼稚園とS1幼稚園とを合わせて,両幼稚園ということがある。1
公訴事実の要旨及び争点の概要等



本件各公訴事実は,要するに,判示第3及び第4の詐欺及び詐欺未遂につい
て,それぞれ,被告人両名が共謀の上で行ったというものである。⑵

検察官は,本件各公訴事実において,欺罔行為として,①
特別支援教育担

当教職員を配置するなどして障がいのある幼児に教育上特別な支援を行っていなかったのにこれを行っていたように装ったり,②

保護者同意を得るなどしていなか

ったのにこれを得ているように装ったりした,内容虚偽の書類(副申書,教育上特別な配慮が必要である旨の園長所見,保護者説明等実施状況報告書,特別支援教育担当教職員調査票,府市補助金等の交付申請書,実績報告書(市補助金等の場合)等)を提出するなどしたことを掲げている。


これに対し,被告人Xの弁護人は,①

園児に対して教育上特別な支援を行

っていなかったとはいえないし,特別な配慮の存否は不正の有無を決する指標にならず,重要事項を偽ったとはいえない,②

保護者同意は補助金等交付の本質

的要素ではなく,これを仮装したとしても不正受給の実行行為に当たらない,③平成28年度については補助金等の申請に必要な行為を最後までは行っておらず,不正受給の実行に着手していたとはいい難い,などと主張して,欺罔行為を争う。被告人Yの弁護人は,被告人Xの弁護人の上記主張に加えて,被告人Yの故意及び同被告人と被告人Xとの共謀を争う。


このように,特別支援教育費事件の主な争点は,①
教育上特別な支援を行

っていたように装った内容虚偽の書類を提出するなどしたと認められるか,②

護者同意を得ているように装った内容虚偽の書類を提出するなどしたことが詐欺の実行行為に当たるか,③
認められるか,④

平成28年度について不正受給の実行に着手していたと

被告人Yの故意が認められるか,⑤

被告人Xと被告人Yとの

共謀が認められるか,である。


当裁判所は,上記①ないし③までは肯定でき,④の一部は肯定できるが,⑤
は肯定できないとして,被告人Xについては,判示第3及び第4のとおり,いずれも詐欺罪及び詐欺未遂罪の成立が認められるが,被告人Yについてはいずれも無罪であると判断したので,以下,その理由について説明する。
2
前提事実

府市補助金等の交付に関する関係書類の写しを編てつした捜査報告書(甲126,127)や,府市補助金等の事務を担当する府及び市の職員の供述調書を始めとする関係各証拠によって認められる,特別支援教育費事件の前提となる事実関係として,以下の事実が認められる。


府市補助金等の制度の概要(甲66,67等)


府補助金について

平成23年度ないし平成28年度(以下,これらの年度を総称して各年度ということがある。)に府補助金に関して適用される交付要綱並びに平成23年度における私立幼稚園の特別支援教育に係る助成のための調査について(照会)などと題する書面及び各年度のこれと同趣旨の書面(以下,これらの書面を本件調査文書(府)という。)など,府が作成した各種文書によれば,府補助金の制度の概要は,以下のとおりであると認められる。
交付対象等
府補助金は,大阪府が,同府内に所在する私立幼稚園に就園する所定の障がいのある幼児(以下障がい幼児という。)の特別支援教育の充実を図るため,障がい幼児を就園させている幼稚園を設置する学校法人等に対して交付する補助金である。
府補助金の交付の対象となる事業は,障がい幼児を就園させている幼稚園を設置する学校法人等が当該幼稚園における障がい幼児の特別支援教育の充実を図るための事業である。
府補助金の交付の対象となる経費は,幼稚園における障がい幼児の教育・保育に直接必要な経費(ただし,経常費補助金等の他の補助事業の対象となる経費は除く。)のうち,人件費と教育研究経費である。
ここでいう障がい幼児とは,障がいの状況について専門的見地からの診断があり,かつ,教育上特別な配慮(教職員の加配措置など)を要すると認められる幼児をいう(本件調査文書(府)における説明)。
交付金額
府補助金の額は,上記の交付対象となる経費の範囲内の額で,当該年度の5月1日時点で就園する障がい幼児の人数に年度ごとに定める額(補助単価。本件の対象となる平成23年度から平成28年度においては,学校法人で対象園児が2名以上の場合,対象園児1人当たり78万4000円と定められていた(甲66)。)を乗じた額以内の額である。
申請,交付手続
幼稚園設置者は,毎年度5月頃,府に対し,①
や教育の取組状況等を記入する書面),②

調査票(障がい幼児の受入状況

各対象園児ごとの副申書(園児の障が

いの状態や幼稚園が特別に配慮している事項についての園長所見を記入する書面),③

各対象園児ごとの診断書等(専門医師等作成のもの。副申書の添付書類とし
て),④

保護者説明の実施状況の確認書(対象園児ごとに,保護者に対する府補
助金の趣旨内容の説明並びに府補助金の申請及び診断書等の提出について保護者の同意を得ていること(以下,これらを合わせて保護者同意という。)の有無を確認する書面)等を提出する。
また,④に関して,平成28年度においては,その年度中に,各対象園児の保護者から幼稚園に対して同意書を提出してもらうこととし,府への提出までは求められていないものの,これを幼稚園で保管しておくこととされた(甲77,甲126号証1589頁)。
府は,5月頃から11月頃までの間に,申請予定とされている各対象園児について上記交付要件を満たしているかを審査し,幼稚園設置者に対して交付要件を満たしていない園児は申請予定から外すように指導するなどの調整を行った上,幼稚園設置者との間で申請予定の最終的な対象園児数を確認する。
その上で,幼稚園設置者は,毎年度3月頃,府に対し,⑤書のほか,その添付書類として,⑥

府補助金の交付申請

補助対象経費内訳表(対象経費として支出し

た人件費や教育研究経費の金額や内訳を申告する書面),⑦
障がい幼児一覧表,



保護者説明等実施状況報告書(保護者同意を得ていることを報告する書面),


特別支援教育担当教職員調査票(特別支援教育担当教職員の氏名,給与額及び
手当額等を申告する書面)等を提出して府補助金の交付を申請する。府は,これらを審査の上,府補助金を交付する。
その後,幼稚園設置者は,翌年度4月頃,府に対し,府補助金の実績報告書を提出し,府の審査を経て,府補助金の額が確定される。

市補助金等について

甲127号証中の平成26年度の市補助金や平成26年度ないし平成28年度の市交付金に関して適用される交付要綱や,各年度の特別支援教育の充実(私立幼稚園)申請の手続きなどと題する書面(以下本件調査文書(市)という。)など,市が作成した各種文書によれば,市補助金等の概要は,以下のとおり認められる。
交付対象等
市補助金は,大阪市(以下市という。)が,私立幼稚園に就園する障がい児等特別に支援の必要な幼児(以下要支援児という。)の特別支援教育の充実を図ることを目的として,同市内に所在する後記指定園以外の私立幼稚園の設置者に対して交付する補助金である。市補助金の交付の対象となる経費は,要支援児の保育に直接必要な経費(人件費,教材費,教育研究費,設備費等)である。(甲127号証242頁)
市交付金は,市が,私立幼稚園に就園する要支援児の特別支援教育の充実を図ることを目的として,大阪市要支援児受入促進指定園(要支援児の受入れにより積極的に取り組む幼稚園として市から指定を受けた園。以下指定園という。)の設置者に対して交付する交付金である。市交付金の交付の対象となる経費は,要支援児の保育に直接必要な経費(人件費,教材費,教育研究費,設備費等)である。(甲127号証302頁,309頁,371頁)
本件調査文書(市)では,ここでいう要支援児について,専門的見地からの診断があり,かつ,教育上特別な配慮(教職員の加配措置など)を要すると認められる幼児とする(府補助金と同様)旨規定されており,府補助金における障がい幼児と実質的に同一のものとされている。(甲127号証375頁,584頁,715頁)(以下では,障がい幼児と要支援児とを合わせて,単に障がい幼児ということがある。)。
市補助金と市交付金の適用関係
市補助金は指定園以外の私立幼稚園に適用され,市交付金は指定園に適用される。Q幼稚園は,平成26年10月1日付けで指定園に指定されたため,平成26年度の前期は市補助金の交付を受け,同年度の後期は市交付金の交付を受けた(甲109,甲127号証501頁)。
交付金額
市補助金の交付金額は,交付要綱において,補助対象経費の額を上限として,要支援児の数に,市長が毎年度別に定める額を乗じて得た金額以内の額とする旨定められていた。そして,上記の市長が定める額については,平成26年度は対象園児1人当たり年額16万6000円とされていた。
市交付金の交付金額は,交付要綱において,要支援児の数に,市長が毎年度別に定める額(月額)を乗じて得た金額以内の額とする旨定められていた。そして,上記の市長が定める額については,平成26年度ないし平成28年度とも,対象園児1人当たり月額3万円と定められていた。
申請,交付手続
幼稚園設置者は,毎年度9月頃,市に対し,市補助金等の交付申請書とともに事業計画書を提出し,事業計画書の添付書類として,事業計画内容(府補助金における調査票と同様の書面),各園児ごとの診断書等を添付した副申書又は教育上特別な配慮が必要である旨の園長所見(副申書と教育上特別な配慮が必要である旨の園長所見とは実質的には同様の性質のものであるから,以下,これらを合わせて単に副申書ということがある。),保護者説明の実施状況の確認書等を提出する。市は,申請対象とされている各園児について上記交付要件を満たしているかを審査し,幼稚園設置者に対して交付要件を満たしていない園児は申請対象から外すように指導するなどの調整を行った上,毎年度3月頃に交付決定を行う。その後,幼稚園設置者は,市に対し,実績報告書とともに事業報告書を提出し,事業報告書の添付書類として,要支援児一覧表,保護者説明等実施状況報告書及び特別支援教育担当教職員調査票を提出し,市は,審査の上,交付すべき額を確定して,幼稚園設置者からの請求により,市補助金等を交付する。
また,上記保護者説明の実施状況の確認書に関して,平成28年度においては,各対象園児の保護者から幼稚園に対して同意書を提出してもらうこととし,市への提出までは求められていないものの,これを幼稚園で保管しておくこととされた(甲127号証712,722,724頁)。

小括

以上によれば,府市補助金等の制度の概要について,次のようにまとめることができる。
府市補助金等は,障がい幼児の教育に経費を支出したことに対する補助金又は交付金である。そして,障がい幼児であるためには,①ついて専門的な診断があること,②

障がいの状況に

教育上特別な配慮を要することの2点が

必要である。
そして,その申請に当たっては,①について専門医師作成の診断書等(後記副申書に添付するもの)が必要とされ,②について園長作成の副申書が必要とされる。さらに,保護者から保護者同意を得ていることを報告する書面も必要とされる。⑵

Q幼稚園及びS1幼稚園に係る府市補助金等の申請等の経過

平成23年度から平成28年度までの間における,両幼稚園に係る府市補助金等に関する各種書類の提出及びその内容は,別表5ないし13(省略)に記載のとおりである。
なお,これらの書類により当該年度において最終的に障がい幼児として申請されている園児を,以下,本件対象園児という。


提出書類の作成行為及び申請行為を行った者について

まず,判断の前提として,府市補助金等の提出書類の作成行為及び申請行為を誰が行ったかについて検討する。
府市補助金等の申請に必要な
が,これらの提出書類の作成行為や申請行為は,下記の被告人Yによる作成行為及び申請行為を除いて全て,その作成名義人である被告人Xが,P学園又はR1学園の代表者として行った(被告人Xの公判供述)。
一方,被告人Yによる作成行為及び申請行為については,被告人YがQ幼稚園の平成23年度の府補助金の申請に係る各副申書(1名分を除く。甲83資料1)の園長名の欄にXと記入したことと,平成26年度市特別支援教育費交付金の請求書(甲54資1)の振込先の口座名義の欄に学校法人P学園理事長Xなどと記入したことは認められるが,これらを除いては,平成23年度から平成28年度までの間,被告人Yが提出書類の作成行為自体や申請行為自体を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
3
争点①(教育上特別な支援を行っていたように装った内容虚偽の書類を提
出するなどしたと認められるか)について


はじめに

本件各公訴事実においては,障がいのある幼児に教育上特別な支援を行っていたように装った内容虚偽の副申書,特別支援教育担当教職員調査票,交付申請書,実績報告書(市補助金等の場合)等を提出するなどしたことが欺罔行為とされている。
そして,上記2⑴ウのような府市補助金等の交付要件及び検察官の主張内容に照らすと,上記の教育上特別な支援を行っていたように装うとは,交付要件である障がい幼児の特別支援教育に経費を支出したことを装うこと,すなわち,①障がいの状況について専門的な診断があることや,②
教育上特別な配慮を行

っていることに経費を支出したことを装うという意味であると解される。その上で,検察官は,上記の特別な配慮とは,教職員の加配措置などの継続的な支援措置を意味すると解されると主張する。これに対し,被告人両名の弁護人は,①について,被告人Xが一部の診断書を偽造・変造したことは争わないが,本件対象園児について疾患や障がいが全くないのに架空の障がいを偽って申請したという事実はないと主張し,②について,両幼稚園とも,教職員らが協力して本件対象園児の健康上の特性に関する情報を共有した上,その特性に見合った相応の配慮を継続的に行っていたことなどから特別な配慮の存否に関して殊更に虚偽を申請して府市補助金等をだまし取ろうとした欺罔行為はなかったと主張する。
そこで,以下,①の障がいの内容と②の特別な配慮のそれぞれについて欺罔行為があると認められるかどうかについて検討する。


障がいの内容についての欺罔行為について

上記2で述べたとおり,障がい幼児に当たるためには,障がいの状況について専門的診断があることが必要とされており,その判定のために副申書の添付資料として診断書等を提出することとされている。
そして,本件対象園児について両幼稚園から府や市に提出された副申書添付の診断書の中には,被告人Xが,Q幼稚園に関しては平成24年度から平成28年度において,S1幼稚園に関しては平成25年度において,それぞれ,前年度の診断書の日付を改ざんして当年度の日付にしたり,診断内容のうち障がいが治ゆした旨の記載や運動制限や生活制限は必要ない旨の記載を消して改ざんしたりしたものが相当数存在する(具体的には,甲130号証中の園児番号16,17,22,32,41,46,48,49,52,57,60,62,66,67,69,71,88,甲131号証中の園児番号18の園児に係る診断書)(甲125,130,131。また,甲130号証中の園児番号71については,証人L5の公判供述及び甲119号証により改ざんと認められる。)。
補助金等の申請に当たって提出する書類が改ざんされていない真正なものでなければならないことは自明であることに加えて,障がい幼児の認定という専門的判断の直接的な証拠である診断書が重要であることに鑑みると,府市補助金等の申請に当たって改ざんされた診断書を提出することは,手続上重要な点を偽ったものといえる。
したがって,上記のような改ざんされた診断書を添付資料とした副申書を提出したことは,障がいについて事実を偽る行為であると認められる。


特別な配慮についての欺罔行為について


特別な配慮の解釈について

特別な配慮の解釈について,検察官は,上記のとおり,教職員の加配措置などの継続的な支援措置を意味すると解されると主張する。これに対し,弁護人は,補助の対象となる特別な配慮と対象外の行為を峻別する基準を類型的かつ一義的に定義することは不可能又は著しく困難であると主張する。加配措置の位置づけ
まず,本件調査文書(府)においては,上記2⑴アのとおり,教育上特別な配慮について(教職員の加配措置など)という説明が加えられており,また,本件調査文書(市)においてもこれと同様とされている。また,補助金という性質上,補助金交付の前提として,経費,特に人的支援については人件費が発生していることが必要であるところ,加配措置は正に人件費の発生を伴うものであり,かつ,障がい幼児への支援に資するものである。しかも,府による実際の審査の運用においても,加配措置という観点から特別な配慮の有無が判断されている(証人L4)。また,交付金についても特別な配慮の解釈について補助金と同様と解される。
そうすると,府市補助金等の制度において,教職員の加配措置は,例示として掲げられたものであるとしても,特別な配慮の有無を判断するための正に中心的な要素であると解される。
次に,ここでいう加配の意味について検討する。
まず,府補助金における調査票や市補助金等における事業計画書添付の事業計画内容の各書面において,教職員の氏名を記入する欄が,学級担任氏名の欄と障がい幼児に対し,教育上特別に配慮するために加配している教員・職員の状況の欄とに区別されており,後者の欄に記載された教職員のみが加配教職員と取り扱われていることや,L4が,クラス担任はクラス全体を見る人であって,特定の障がい幼児に特別に付き添って支援することは不可能であると供述していることなどに照らすと,ここでいう教職員に担任教員が含まれないことは明らかである。さらに,L4は,教職員の加配措置とは,障がいを持つ園児に日常的,継続的に付き添うなどの支援を行う教職員を配置することであると供述する。また,市の担当者であったL6も,教育上特別な配慮については日常的に継続して行われることが必要とされる旨供述する(甲115)。
そして,L4及び上記L6が供述するような解釈及び運用に合理性がある上,次のような文書による裏付けもある。すなわち,平成25年度以降は,本件調査文書(府)において,「教育上特別な配慮は,継続した配慮をおこなっていること」という説明が付加されている。また,本件調査文書(市)においても,「教育上特別な配慮は,継続した配慮を行っていること」という説明が付加されているほか,平成27年度及び平成28年度の同文書では,「教育上特別な配慮を継続して要することについて」と題して,疾病及び障がい等の理由により,幼稚園での生活上継続的に支援や見守りを必要とする旨の園長による所見が必要であるとされている(甲127号証589頁,720頁)。
以上によれば,府市補助金等における教職員の加配措置とは,障がいを持つ園児に日常的,継続的に付き添うなどの支援を行う教職員(担任教員を除く。)を配置するという趣旨であると解される。
罪刑法定主義に違背するという弁護人の主張に対して
なお,被告人両名の弁護人は,補助の対象となる特別な配慮と補助対象外の行為とを峻別する基準を類型的かつ一義的に定義することは不可能又は著しく困難であるから,罪刑法定主義による処罰基準明示の要請を満たさないと主張する。しかし,そもそも上記のような特別な配慮の解釈は,補助金等の詐欺が問題となっている事件で欺罔行為という刑罰法規のあてはめの場面において補助金等の支給要件を解釈しているにすぎないのであって,欺罔行為という刑罰法規の内容が不明確というわけではないから,何ら罪刑法定主義(特に明確性の原則)に違背するものではない。

特別な配慮の判断資料について

上記のとおり,府市補助金等の申請に当たっては診断書を添付した副申書の提出が求められているところ,副申書には,教職員が各園児の障がいの状態に応じて見守りや付き添い等の配慮を行っている旨を園長が記載することとされている。このように,副申書は,各障がい幼児ごとに,その障がいの内容等や,幼稚園における必要な配慮及びその配慮の状況などという具体的な事実関係について報告する中心的な資料であるといえる。
一方,特別支援教育担当教職員調査票によって,各副申書記載の配慮を行うための教職員の配置(加配)状況や給与額を報告することとされている。このように,特別支援教育担当教職員調査票は,教職員の加配状況や人件費の額を報告するものである。また,府市補助金については,これに加えて補助対象経費内訳表(書)も人件費を報告するものである。なお,この人件費の額をもって補助金等申請の対象経費とすることが予定されている。

欺罔行為性について

以上によれば,幼稚園設置者が,府市補助金等の申請に当たり,副申書(添付の診断書を含む。)に虚偽の記載をすることにより障がいの内容や幼稚園による配慮状況等を偽った場合や,特別支援教育担当教職員調査票に虚偽の記載をすることにより教職員の配置状況を偽った場合には,その内容や程度によっては,教職員の加配措置ひいては府市補助金等の交付要件である特別な配慮についての重要な事項を偽ったものとして,詐欺罪の実行行為としての欺罔行為に該当し得ると解される。

特別な配慮についての欺罔行為の有無の具体的検討

以上を前提にして,本件において特別な配慮についての欺罔行為があったと認められるかどうかについて検討する。
以下のとおり,本件各公訴事実に係る府市補助金等に関し,Q幼稚園及びS1幼稚園に係る特別支援教育担当教職員調査票に記載された教職員のうち,一部の者については,そもそも勤務の実態がなく,また,その他の者についても,個別の園児との関係で日常的,継続的に付き添うなど,副申書に記載された配慮を行うために配置されるという実態はなかったといえるから,本件に係る府市補助金等の全てについて教職員の加配措置はなく,したがって,上記特別支援教育担当教職員調査票は,教職員の加配がないのにこれを偽った内容虚偽のものであると認められる。その上で,特別支援教育担当教職員調査票に記載された加配教職員に係る人件費を前提とした交付申請を行ったといえる。以下,個別に検討する。
Q幼稚園について
各年度の特別支援教育担当教職員調査票(府関係につき,甲126号証の276頁(平成23年度),670頁(平成24年度),958頁(平成25年度),1210頁(平成26年度),1464頁(平成27年度),1776頁(平成28年度)。市関係につき,甲127号証の471頁(平成26年度),699頁(平成27年度),816頁(平成28年度))に特別支援教育担当教職員として記載された者の供述(甲128)によれば,これらの者のQ幼稚園における勤務内容は,申請年度において既に幼稚園を退職していた者,U保育園で勤務する保育士及び職員,幼稚園バスの運転手及び用務員,将棋や剣道等を園児に教える外部講師,教員補助や事務職員その他の者に大別できる。
a
申請年度までにQ幼稚園を退職するなどしていた者(1N1,2N2,3N3,
7N4,21N5,22N6,24N7,47K1,50K3,51K2。番号は甲128号証の一覧表のものを指す。以下,この項において同様である。)
これらの者は,申請に係る年度において,Q幼稚園での勤務実態がないのであるから,加配措置の対象とはなり得ず,これらの者を上記調査票に記載してその人件費に係る補助金を請求する行為が欺罔行為となることは明らかである。b
U保育園で勤務する保育士及び職員(13N8,16N9,17N10,18N11,
19N12,41N13,45N14)や事務職員(23N15,26N16,42N17)これらの者も,Q幼稚園における勤務実態がなく,一時的にQ幼稚園で園児の世話を手伝ったことがあるという程度の関係があるにすぎないから,加配措置の対象となり得ないことは明らかである。
c
幼稚園バスの運転手及び用務員(4N18,5N19,6N20,8N21,12
N22,30N23,33N24,34N25,36N26,37N27,38N28,39N29,40N30,52N31,53N32,54N33)
これらの者(N18を除く。)は,いずれも,バスの運転による園児の送迎とか,植木の手入れや園内の清掃等,用務員的な仕事や雑用等の業務を本来業務とする者であって,それ以外に園児との関わりを持っていなかったり,関わりがあるとしても,教職員から頼まれて園児がけんかしたりけがしたりしないように見守っていたという程度である。
このような業務内容は,特定の園児に対し,継続的に付き添ったり,障がいの内容に応じて園児の行動を支援するというものではないし,障がい幼児への対応として職員を追加的に配置するものともいえない。したがって,これらの者も加配措置の対象となるとは考えられない。
また,N18は,甲103号証添付のおかあさん新聞によると,平成23年当時S1幼稚園の園内植木担当員であったと認められるから,同人が仮にその後Q幼稚園で勤務していたとしても,障がいをもつ園児に付き添うなどの継続的支援を担当していたとは考えられない。
d
外部講師(10N34,14N35,15N36,20N37,29N38,43N39,
44N40)
これらの者は,いずれも,Q幼稚園に派遣されるなどして園児らに将棋や剣道等を教えていたというものであり,そのような業務自体からみて,園児一般に対する指導教育を内容とするものであり,特定の障がい幼児に対する継続的な付添い等の支援を内容とするものとは認められないから,これらの者も加配措置の対象に該当しないことは明らかである。また,N38及びN40は,幼稚園バスの添乗員にも従事したが,業務内容に照らし,障がい幼児への配慮としての加配に該当しないことは同様である。
e
教員補助,事務職員その他の者(9N41,11N42,25N43,27N44,
28N45,31N46,32N47,35N48,46N49,48N50,49N51)上記のうち,事務職員であるN41は,文書作成等の事務作業や園児の世話をする傍ら,給食業者から送られてくる献立をチェックする際に栄養士の資格を活かしていたと供述する。M4及びM2は,この点に関し,N41が,園児に対してアレルギー除去食を提供するに当たり,園児のアレルギーの情報を給食業者に伝えたり,献立をチェックしたりしていた,給食のメニューについて給食業者とのやり取りに関わっていた旨供述する。これらのN41の関与は,食物アレルギーを持つ園児に対する配慮という面を持つものであるが,N41自身,自身の仕事はほぼ事務仕事であったと供述しており,食物アレルギーへの対応それ自体を目的として配置されていたものではなく,この点について追加的な人件費が発生していたものでもない。そうすると,N41の上記業務が加配に該当するとはいえない。
そして,その余の職員らの業務は,担任教員を補助して園児と遊ぶ,園児のトイレを手伝う,園児をあやしたりする,幼稚園バスの添乗員として園児の送迎をする,などといったものであって,いずれも園児一般に対する指導教育を内容とするものであり,障がい幼児への配慮としての加配に該当しない。また,N50及びN51は,小学校の開設準備をしたというだけの者であり,Q幼稚園における勤務の実態はない。
f
N52及びN53の2名について
N52及びN53は,それぞれ,平成27年度の府関係の特別支援教育担当教職
員調査票及び平成28年度の市関係の同調査票に氏名が記載されているが,Q幼稚園において特別支援教育担当教職員とされた者らの同幼稚園における勤務内容等に関する供述を集約した甲128号証には,上記両名の供述は記載されていない。もっとも,甲123号証によれば,N53は,P学園から平成27年9月分の給与の支払を受けているだけであり,平成28年度におけるQ幼稚園での勤務実態はなく,同年度の加配措置の対象とはなり得ない。N52については,平成27年6月分から10月分までの給与の支払があり,平成27年度における同幼稚園での勤務の実態は認められる。しかし,M2及びN54は,Q幼稚園において,診断書が提出された園児に特定の教職員を配置するという状況自体を否定しており,現に,これまで説示したとおり,これ以外の教職員らについては,加配措置に該当しないと認められることに照らすと,このN521名の勤務内容だけをもって,障がい幼児に日常的,継続的に付き添うなど教育上特別な配慮があり,加配に該当するという合理的な疑いは生じない。
g
小括

以上のとおり,Q幼稚園の特別支援教育担当教職員調査票に記載のある者は,いずれも障がい幼児に対する特別な配慮として配置されたものとは認められず,加配措置には該当しない。
S1幼稚園について
平成23年度ないし平成25年度の特別支援教育担当教職員調査票(府関係につき,甲126号証の522頁(平成23年度),803頁(平成24年度),1062頁(平成25年度))に特別支援教育担当教職員として記載された者の供述(甲129。以下の番号は甲129号証の一覧表のものを指す。以下,この項において同様である。)によれば,これらの者のうち,11N55,15N46については,申請年度における勤務実態はない。バスの運転手や用務員(1N56(N54の公判供述及び甲103号証添付のおかあさん新聞により,上記N56はバス運転手であったと認められる。),2N57,10N30,13N58,16N59),体操等の外部講師(3N60,4N61,17N40,18N62),ホームクラス(延長保育),担任の補助,幼稚園バスの添乗員や将棋の講師(5N63,6N34,14N64),事務職員(12N65)についても,上記エと同様,その業務内容に照らし,障がい幼児への配慮としての加配に該当しない。
また,平成23年度及び平成24年度申請分に係る7N66及び8N67並びに平成23年度申請分に係る9N68については,N54の公判供述によれば,これら3名には会ったことがないとされており,しかも,同人が平成23年度にS1幼稚園で,平成24年度にQ幼稚園でそれぞれ勤務していたことに鑑みると,少なくともこれら3名が障がい幼児に対する日常的,継続的支援を行うために配置されていたことはなかったと認められ,加配に該当しない。
小括
以上のとおり,両幼稚園の特別支援教育担当教職員調査票に記載された者は,いずれも,勤務実態がないか,又は,障がい幼児に対する保育のための教職員の加配措置に明らかに該当しないものであるから,被告人Xが,これらの者を特別支援教育担当教職員調査票に記載した上,これらの者に係る給与及び手当の人件費を補助対象経費として府市補助金等の交付を申請したことは,特別な配慮についての重要な事項を偽ったものといえるのであって,府又は市の担当者に対する欺罔行為に当たると認められる。

弁護人の主張について

以上に対し,被告人両名の弁護人は,両幼稚園とも,園児に対する相応の配慮を行っていたと主張し,①

既往症がある園児の心身の健康上の特性や障がいを,

担任教員だけでなく,できる限り多くの教職員が共有し,担任教員がクラス全体を見ている間は,副担任,フリー教員,職員,被告人Yがフォローの必要な園児の世話に当たっていたこと,②

混入による誤食が原因のアレルギー反応を避けるため,

給食の献立作りや配膳に,担任だけでなくフリー教員が補佐することもあったこと,③

お泊り保育では,解熱用座薬や喘息予防の吸引器を預かることもあったことを
主張する。
そこで検討すると,確かに,被告人両名の公判供述のほか,M2,N54及びM4の各公判供述等の関係各証拠によれば,両幼稚園では,各担任教員が中心となって,職員らの協力も得ながら,保護者から提供された情報や健康診断等に基づいて,食物アレルギー,小児喘息,アトピー,熱性けいれん等の園児の健康上の特性等を把握した上,各園児の健康上の特性に応じた一定の配慮や対処を行っていたことが認められる。
しかし,教職員の加配措置の有無という点からみると,①及び②については,上記エのとおり,特別支援教育担当教職員調査票に記載された教職員はいずれも加配教職員ではないし,上記⑶

の同調査票に記載されてい

ない者は加配教職員に当たらない。③については,お泊り保育の機会は年に一,二度であったというのであるから,日常的,継続的な配慮といえないことは明らかである。よって,弁護人の上記主張は採用できない。
また,弁護人らは,加配要件は園児の障がいや疾患の特性に応じて相応の配慮をするために生じた人的コストの増加に対応する実質的な意味合いであって,教職員の労力についての人件費の掛かり増しの部分については実質的に補助金要件を満たしていた可能性があるとも主張するが,前述のような加配の解釈と相いれないから,これを採用することはできない。
以上のとおり,被告人両名の弁護人の主張を踏まえても,両幼稚園において,教職員の加配措置が講じられていなかったことに合理的な疑いはないといえる。カ
小括

以上のとおり,被告人Xは,Q幼稚園及びS1幼稚園について,それぞれ,本件対象園児に対し,先に述べたような意味での教育上特別な配慮を行っていないのに,これを行っているように装った内容虚偽の特別支援教育担当教職員調査票を提出したと認められる。
また,そうすると,各副申書の記載も,これに記載された本件対象園児への配慮が加配した教職員によって行われていることを前提としているという意味で,いずれも事実に反しているといえる。


小括

以上のとおり,被告人Xが,上記⑵で指摘した改ざんされた診断書を添付資料とした副申書を提出したことは,それらに係る年度及び幼稚園についての府市補助金等の申請に当たって障がいの内容について欺罔したものといえる。また,Q幼稚園については平成23年度から平成28年度において,S1幼稚園については平成23年度から平成25年度において,いずれも,教育上特別な配慮を行っていないのに,これを行っているように装った内容虚偽の特別支援教育担当教職員調査票や,これとともに,本件対象園児への配慮が加配した教職員によってなされていることを前提とする副申書を提出した上,特別支援教育担当教職員調査票に記載された加配教職員に係る人件費を対象経費として府市補助金等の交付申請を行うなどしたことにより,教育上特別な支援を行っていたように装った内容虚偽の書類を提出するなどしたといえる。そして,その上で,特別支援教育担当教職員調査票に記載された加配教職員に係る人件費を前提とした交付申請を行ったといえる。これらを総合すると,被告人Xは,Q幼稚園については平成23年度から平成28年度において,S1幼稚園については平成23年度から平成25年度において,いずれも,内容虚偽の書類(副申書,特別支援教育担当教職員調査票,府市補助金等の交付申請書,実績報告書(市補助金等の場合)等)を提出するなどして,欺罔行為を行ったと認められる。
4
争点②(保護者同意を得ているように装った内容虚偽の書類を提出するなど
したことが詐欺の実行行為に当たるか)について


本件対象園児の保護者の供述内容をまとめた捜査報告書(甲130,131)
によれば,同園児の保護者らは,いずれも,Q幼稚園(平成23年度ないし平成28年度)やS1幼稚園(平成23年度ないし平成25年度)から補助金の制度趣旨の説明を受けておらず,また,補助金を申請すること及び診断書等を府や市に提出することについて同意していなかったと認められる(これに対し,被告人Xは,保護者同意を得ていたこともあったなどと供述するが,時期や相手があいまいである上,保護者らや被告人Yらの供述に反しており,信用できない。)。⑵

一方,別表5ないし13(省略)の各保護者説明等実施状況報告書欄記
載のとおり,Q幼稚園において平成23年度から平成28年度まで,S1幼稚園において平成23年度から平成25年度まで,いずれの年度においても,府市補助金等の申請において,本件対象園児の保護者による保護者同意を得ている旨の保護者説明等実施状況報告書を提出したことが認められる。
したがって,被告人Xが両法人の代表者として上記保護者説明等実施状況報告書を提出して補助金等の申請を行う行為をしたことは,保護者同意がないのに,これがあると事実を偽ったものといえる。


次に,この行為が詐欺罪の欺罔行為を構成するかどうかについて検討する。
この点,被告人両名の弁護人は,保護者同意は,個人情報の保護という観点から求められる付随的・補助的な手続要件にすぎず,府市補助金等を交付するための実体的な要件ではないから,保護者同意の有無を偽っても重要事項を偽ったことにならず,詐欺罪の実行行為には当たらない旨主張する。
そこで検討すると,

府は,幼稚園設置者に対し,保護者説明の実施状況の確認書と保護者説明等実施状況報告書を提出させており,さらに,平成28年度からはこれに加えて,保護者同意を書面で取得するように取扱いが改められている。また,市においても,これと同様の措置が取られている。そして,府や市が府市補助金等の申請予定者に向けて発出する文書には,平成26年度の市補助金等に関するものを除き,保護者説明が実施されていない場合は府市補助金等の申請を受け付けられない旨が明記されており(甲126号証108,567,850,1086,1292,1586頁,甲127号証593頁,724頁など),また,その趣旨が個人情報保護のためであることも記載されている(甲126号証110頁,甲127号証377頁など)。
このように,府や市が保護者同意の存在の確認を求めた趣旨に照らすと,府及び市の担当者が保護者同意の有無について重大な関心を寄せていたことは明らかである。
そして,上記のような府及び市作成の書面中の保護者同意に関する記載内容やL4の公判供述に照らすと,府及び市が幼稚園設置者に対して保護者同意を求めた趣旨は,障がいのある園児の氏名や障がいの内容などの個人情報を第三者である府や市に提供することについては保護者の同意が必要であるとすることにより,個人情報の適正な取扱いを担保する目的に基づくものであると認められる。そうすると,保護者同意がなければ補助金の交付を拒絶することになる旨のL4の公判供述は十分合理性を有する。
以上によれば,保護者同意の有無は,府市補助金等の交付の判断の基礎となる重要な事項であるといえるから,この点を偽って府市補助金等を申請した行為は欺罔行為に該当する。
5
争点③(平成28年度に係る実行の着手の有無)について
被告人Xの弁護人は,平成28年度においては,被告人Xは,事実と異なる書類を作成して申請手続に供する行為をしておらず,詐欺の実行行為に着手したとはいえないとして,判示第3の2及び第4の2の詐欺未遂罪は成立しないと主張する。しかし,被告人Xは,府に対しては,平成28年5月16日,加配措置を講じている旨の内容虚偽の各副申書や診断書を提出し,平成29年3月1日付けで,府補助金の交付申請書とともに,内容虚偽の特別支援教育担当教職員調査票及び保護者説明等実施状況報告書を提出し,また,市に対しては,平成28年9月22日付けで,市交付金の申請書とともに内容虚偽の各副申書や診断書を提出して,市から交付決定を受け,平成29年3月14日付けで実績報告書とともに,内容虚偽の特別支援教育担当教職員調査票及び保護者説明等実施状況報告書を提出している。このように,平成28年度においても,被告人Xは,詐欺罪の実行行為それ自体に及んだことが明らかであるから,弁護人の上記主張は採用できない。
6
被告人Xの罪責について

以上の検討によれば,P学園及びR1学園から提出された各副申書,特別支援教育担当教職員調査票,保護者説明等実施状況報告書は,教職員の加配措置の有無や保護者同意の有無という,交付の判断の基礎となる重要な事項について,内容虚偽のものであったと認められる。
そして,被告人Xは,P学園及びR1学園の代表者として,申請に当たって府や市から発出された申請手続に関する文書に目を通していたほか,府の担当者とのやり取りを通じて,教職員の加配措置や保護者同意が要件となることを認識していたことは明らかである。また,両幼稚園の園長である被告人Xが,両幼稚園で加配措置が講じられていないことや保護者同意を得ていないことを認識していたことも明らかである。その上で,被告人Xは,内容虚偽の各副申書,特別支援教育担当教職員調査票,保護者説明等実施状況報告書のほか,副申書に添付する改ざんされた診断書の作成も行っていたのであるから,本件各公訴事実についていずれも,被告人Xに詐欺罪(平成28年度については詐欺未遂罪)が成立すると認められる。7
争点④(被告人Yの故意)について



当事者の主張等

検察官は,被告人Yは,①

補助金等が特別支援教育にかかった人件費等を対象

としており,府市補助金等の交付を受ける要件として,特別支援教育(すなわち,上記3⑴及び⑶で述べたとおり,障がい幼児に対して教職員の加配など経費が発生する特別の支援措置)を行っている必要があること,②ても特別支援教育が行われていないこと,③

両幼稚園のいずれにおい

府市補助金等の交付を受ける要件と

して,障がい幼児等の保護者から保護者同意を得る必要があること,④のいずれにおいても,保護者同意が得られていないこと,⑤
両幼稚園

P学園やR1学園が

府市補助金等の交付を申請したこと,の全てについて認識していたなどとして,被告人Yは府市補助金等の詐欺の故意を有していたと主張する。
これに対し,被告人Yの弁護人(以下,この項(7)においては単に弁護人という。)は,被告人Yの故意を争う。
当裁判所は,被告人Yに,上記①の認識は認められないが(したがって,上記②については判断しない。),上記③,④及び⑤の認識は認められ,その限度で詐欺の故意は認められると判断したので,以下,その理由を述べる。


補助金等が特別支援教育にかけた人件費等をその対象としており,府市補助
金等の交付を受ける要件として,特別支援教育を行っている必要があることについての認識の有無(上記⑴①)についてア
まず,被告人Yは,公判において,府市補助金について,養護の補助金とい
う名称で,アトピー等の障がい幼児の世話のために支給されるものであると思っていたと供述している。このように,被告人Yには,身体的疾患を有する園児の保育に関し,教職員が援助をすることにより補助金等を受けるという程度の認識はあったと認められる。

次に,

加配

要件の認識として,担任教員以外の教職員による付添い等が必要であることについての認識が必要であると解されるところ,被告人Yがこのような認識を有していたと認められるかどうかについて検討する。
平成23年度のL4とのやり取りについて
a
証人L4は,公判において,被告人Yとの間で,平成23年度の補助金申請
に関して,要旨,次のような電話でのやりとりがあったと供述する。すなわち,私は,被告人Yに対し,食物アレルギーの園児の具体名を挙げながら,その副申書の内容について,具体的に園でどのような配慮,すなわち加配等をしているのかを教えてほしいと尋ねた。すると,被告人Yは,食物アレルギーの園児のために専門の栄養士を雇っている,隣の子が卵を触った手で当該園児に触れただけでもアレルギーのショックが出るから,現場ではそのように触れたりしないかどうかというところまで付き添って気を配らないといけない旨熱心に語った。私はこれを聞いてとても勉強になった。私は,問い掛けの際に副申書とか加配という言葉を出したが,被告人Yから意味が分からないなどとは言われなかった。というものである。検察官は,上記L4供述によれば,被告人Yは加配措置の意味が分からないとは言っていなかったから,加配措置の意味を理解し,かつ,加配措置を講じるなどしていなければ,補助金の交付対象にならないことを理解していたと主張する。これに対し,弁護人は,被告人YがL4との間で上記のようなやり取りをしたことはないと主張し,上記L4の供述の信用性を争う。
b
そこで,L4の上記供述の信用性を検討する。

まず,L4の上記供述を客観的に裏付ける証拠はない。
次に,本件捜査段階での検察官による事情聴取におけるL4の供述経過を検討すると,①

平成29年6月14日には,園児の症状や配慮の状況を確認していた相
手はほとんどが理事長(被告人X)であり,うっすらとした記憶であるが,副園長(被告人Y)と話したこともあったと思う旨供述し,②
同年7月6日,特別支援

の要件に関して,調査票等の書類によるだけではなく,理事長に連絡して確認していた旨供述し,③

同年8月18日には,配慮の必要性等に関して幼稚園側と行っ

たやり取りのうち,どれが園長(被告人X)とし,どれが副園長としたものかを区別することは今となっては難しいが,園長とも副園長ともそのようなやり取りをしたことは間違いないなどと供述したことが認められる(L4の公判供述)。このように,L4は,捜査段階では,上記公判供述で述べられた被告人Yとの具体的やり取りについて述べていない。もし公判で供述するような印象に残る出来事があったのであれば,3回にわたり事情聴取を受けながらこの出来事を思い出さなかったというのはいささか不自然である。しかも,捜査段階における検察官も,被告人Yの故意が重要な捜査対象であることは十分理解していたはずであり,府職員の供述の中に,府市補助金等の要件や虚偽申告の認識につながるような被告人Yとのやり取りなどがないかについて関心を払って事情聴取していたはずであるから,その意味でも不自然である。平成23年当時の出来事に関する記憶が曖昧であるからこそ上記のような供述経過となったという疑いを払しょくすることができない。したがって,被告人Yと上記のような電話でのやり取りをしたというL4の上記供述を直ちに信用することはできず,L4と被告人Yとの間で上記のやりとりがあったと認定することはできない。
c
しかも,仮にL4の上記供述にあるような被告人Yとのやり取りがあったと
しても,園児に対する付添い等がそこでのテーマであって,付添い等をする教職員が担任以外の者でなければならないという認識を基礎付けるような内容であるとはいえない。
d
以上の次第で,L4の上記供述に基づいて,被告人Yが,加配要件を認識し,
かつ,加配措置を講じるなどしていなければ,補助金の交付対象にならないと認識していた,と認定することはできない。
被告人Yが加配措置に関する偽装工作に関与したという検察官の主張についてa
検察官は,以下のとおり主張する。すなわち,平成28年6月10日,府職
員がQ幼稚園を訪問して補助金調査を行った際(以下,この調査を,平成28年6月の補助金調査という。),Q幼稚園では,教職員ではない関係者2名をQ幼稚園に呼ぶなどして,府の担当者に対して加配職員がいるように見せかけるための偽装工作が行われたところ,被告人Yは,上記関係者2名に対して謝礼金を支払い,上記偽装工作に主体的に関与していたから,加配職員がいなければ補助金が交付されないことを認識していた,というのである。
これに対し,弁護人は,上記補助金調査に際し,加配教職員がいるようにみせかける偽装工作はなされていないと主張する。
b
そこで,上記偽装工作の有無及び被告人Yによる関与について検討する。
関係証拠(証人L2,M2及びN54並びに被告人Yの各公判供述)によれば,L2ら府職員が,Q幼稚園を訪問して平成28年6月の補助金調査を実施したこと,その際,L2が保育現場を見たところ,複数の教員が動き回るようにして園児に接する様子が確認できたこと,その当日に,同幼稚園で将棋を教えていた前記N40の弟子であるN69及び同幼稚園の卒園生であるN70が授業を手伝い,被告人Yが,お礼の名目で両名に現金を支払い,両名から領収証を徴したこと,同日以前では,N70は,N40に連れられて幼稚園の将棋大会に来たことがあり,N69は,ホームクラスや送迎バスの添乗員のアルバイトをしたことがあったこと,同補助金調査の前日である同月9日,N54とM2との間で,明日の監査が無事に終わることを祈るのみです,ホントに教室まわられるんですかね?ほんとに,教室廻るのか,一人一人の養護のことについて,覚えておかないといけないとか,配慮するとか,アトピーの子とか,どうするの?って感じですがなどというメールのやり取りがされたことが認められる。
以上に基づき検討する。確かに,府職員が視察する面前で教員が動き回るという状況は,加配措置の存在を見せかけようとしたものと見ることも可能であり,これに上記のN54とM2とのメールの内容を併せ考えると,Q幼稚園が,府の職員に対して,加配の教職員が存在するかのように見せかける偽装工作を行ったものであるとみることも可能である。
しかしながら,N70とN69による手伝いについては,両名がこの日に幼稚園を訪れるに至った経緯や幼稚園による具体的な指示内容等は証拠上不明であって,両名が監査対応による人手不足を補ったにすぎないとみる余地もあるから,そもそも両名が加配を装う行動をしたと認定することはできない。N54とM2とのメールも,監査で実情をきちんと説明できるかという不安からのものと解することも可能であって,偽装工作の存在を前提としなければ理解できないというものではない。したがって,上記の状況をもって,園児への配慮を偽装したものとみることはできない。
また,仮に,上記の状況が園児への配慮を偽装したものであるとみたとしても,その具体的経緯についての証拠がない。N54とM2とのメールには監査の件について被告人Xが説明したとの記述があることや,平成28年6月の補助金調査において,L2に加配の教員の配置状況について説明していたのは被告人Xであることに照らすと,上記の関係者や教職員の行動は基本的に被告人Xの指示によるものであると考えられる。一方,被告人Yによる関与は,N70とN69に現金を渡したことに止まり,被告人Yが経理事務として小口現金の管理や出納に携わっていたことも踏まえると,被告人Yが,詳しい事情を知らないまま,単に経理担当者として金銭を交付したと見る余地がある。
以上の点に照らすと,上記偽装工作がなされ,かつ,被告人Yが偽装工作に関与したことを認めることはできない。よって,検察官の上記主張は採用できない。被告人Yによる各種書類作成への関与
検察官は,以下のとおり,被告人Yが平成23年度より前から各種書類作成に関与しており,補助金等の交付要件を認識していたと主張する。
a
まず,検察官は,被告人Yが,平成14年度の大阪府私立幼稚園養護教育費
補助金(府特別支援教育費補助金へと改称する前の名称)交付申請書(甲54資12-1),同年度の補助金(概算払)請求書(甲54資12-3),同年度の実績報告書(甲54資12-4)の幼稚園名欄にQ幼稚園と記入したり,代表者名欄にXなどと記入したりしたこと,平成19年度の私立幼稚園の養護教育に係る助成のための調査票(甲80資1)の幼稚園名欄にQ幼稚園,記入責任者欄に園長Xなどと記入したこと,平成22年度の実績報告書(甲54資4)の幼稚園名欄にS2幼稚園などと記入したこと,平成26年度市特別支援教育費交付金の請求書(甲54資1)の振込先の口座名義の欄に学校法人P学園理事長Xなどと記入したことを主張する。これらの記入が被告人Yによりなされたことは,証拠上認められる。
しかし,被告人Yが行った記入自体は,幼稚園や代表者の名前等という事項にすぎない上,これらの書面全体の記載内容を見ても,具体的に教職員の加配措置などの特別な配慮が交付要件となる旨を示したものではなく,書面を見たからといって,当然にその認識につながるものではない。
b
次に,検察官は,被告人Yが,Q幼稚園の平成23年度の府補助金の申請に
係る各副申書(甲83資料1)の園長名の欄にXと記入したと主張している。被告人Yも,設置者名及び幼稚園名のスタンプを押し,被告人Xの氏名を記入したことを認めている。
しかしながら,これらの副申書につき,被告人Yは,印字以外の部分が白紙の状態であったものの作成名義人欄に記入したものである旨供述する。この供述は,被告人Yによる上記記入の後に,被告人Xが内容面の記載事項(園長所見としての障がいの状態欄や日常,特別に配慮している事項欄)を記入したという趣旨と解されるところ,そのような事務処理が一概に不合理なものとはいえないから,上記の被告人Yの供述を排斥することはできない。そして,副申書の様式には,園児について,教育上特別な配慮を要しますという記載や,園長所見の記入欄があるだけであって,これらの記載だけでは,補助金を交付する要件である教職員の加配措置などの教育上特別な配慮の内容を理解することはできない。したがって,被告人Yが上記の副申書への記載をしたことは,交付要件の具体的な内容を認識したことを推認する十分な根拠であるとはいえない。
c
検察官は,被告人Yが平成15年度の私立幼稚園の養護教育に係る助成のための調査票(被告人Y被告人質問調書別紙9の1枚目)の記入責任者欄にXと記入するとともに,これと一体となる障害幼児の概要の書面(同別紙9の2枚目)に園児ごとにその氏名や障害の種別(例えば,卵アレルギーとか,ぜんそくなど)を記入していることを指摘する。被告人Yは,これらを自らが記入したことを認めている。
しかし,そうだとしても,これらの書面の記載事項は,障がい幼児の障がいの種別の概要に関するものにすぎないから,上記の記入をしたことによっても,交付要件として教職員の加配措置が必要であることについての認識の存在を基礎付けるものとはなり得ない。
d
以上のとおり,被告人Yが平成23年度より前から各種書類作成に関与して
いることをもって,被告人Yが補助金等の交付要件として教職員の加配措置が必要であることを認識していたと認定することはできない。
その他,被告人Yが,府市補助金等の申請のためには担任教員以外の教職員による付添い等が必要であることについて認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告人Yが,補助金等の交付要件として,特別支援教育の存在,特に加配要件が要求されていることについて認識していたと認めることはできない。⑶

両幼稚園のいずれにおいても特別支援教育が行われていないことについての
認識の有無(上記⑴②)について
上記⑵のとおり,被告人Yが補助金等の交付要件として加配措置が要求されていることについて認識していたと認められない以上,被告人Yに特別支援教育に関する限度において故意は認められないから,被告人Yが両幼稚園において特別支援教育が行われていないことについての認識を有していたかどうかについて検討する必要はない。


府市補助金等の交付を受ける要件として,障がい幼児等の保護者から保護者
同意を得る必要があることについての認識の有無(上記⑴③)について検察官は,以下のアとイで指摘する2通の書面に被告人Yが一定の記入をしたことを根拠にして,被告人Yが上記の認識を有していたと主張する。ア
平成14年度のQ幼稚園の補助金申請に係る保護者説明等実施状況報告書に
ついて
証拠によれば,被告人Yが,平成14年度において,保護者説明等実施状況報告書と題する書面(被告人Y被告人供述調書別紙10)の幼稚園名欄にQ幼稚園,代表者名欄にXなどと記入したこと,同書面には,私立幼稚園養護教育費補助金(以下「補助金という。)に関する保護者説明等の実施状況について,下記のとおり報告します。1.対象園児の保護者に対して,補助金の趣旨内容を説明し,補助金の交付を行うことについて,同意を得ている。2.補助金交付申請書の添付書類として対象園児の診断書等を大阪府に提出することについて,当該園児の保護者の同意を得ている。」との記載があることが認められる。この点,弁護人は,被告人Yが上記報告書の幼稚園名欄等に上記のとおり手書きしたのは,被告人Yには外部に提出する書面の名前欄等に反射的に記入してしまう癖があるためであって,内容を知らないまま記入したものである旨主張する。しかし,上記書面の記載は,ほとんど,上記のような表題と上記のような記載程度のものしか書かれていないのであって,このような記載の体裁に照らすと,被告人Yが幼稚園名等の記入を行った際,上記の報告書が養護教育費補助金に関して保護者説明を実施したという事実を報告する文書であるという程度の認識すら抱かなかったとは考え難い。

平成15年度におけるQ幼稚園の補助金申請に係る保護者説明の実施状況の
確認書について
次に,証拠によれば,被告人Yが,平成15年度の養護教育費補助金に関する保護者説明の実施状況の確認書と題する書面(被告人Y被告人供述調書別紙9の4枚目)について,いったん必要事項が記入された書面に園児の氏名の加削を記載した上,L7様これは皆OKですと付記して,平成15年12月5日頃,
府の担当者にファクシミリ送信したこと,この書面には,保護者同意に関する記載が付されており,被告人Yが上記の加削を付した時点では,既に全員に説明済み又は全員分の同意を得ているの項目にチェックが入っていたものであることが認められる。
この書面の送信時期や修正内容等に照らすと,この書面は,被告人Yが,府の担当者から申請対象となる園児の記載につき修正を指示されて再提出したものと認められるところ,保護者説明の実施状況を確認するという書面の表題及びこれは皆OKですという記載内容が積極的な了承を与える意味のものであることも併せれば,府の担当者からの指示に従ったという点を考慮しても,被告人Yが上記の記載等を行った際,この書面が補助金関係の保護者説明の実施に関する書面であるという程度の認識すら抱かなかったとは考え難い。

以上アとイを総合すると,被告人Yは,平成15年度時点において,養護教
育費補助金の受給に当たっては保護者への説明が必要であることを認識していたものと推認できる。そうすると,平成23年度以降においても,被告人Yは,府市補助金等の交付を受ける要件として,障がい幼児等の保護者から保護者同意を得る必要があることについて認識していたものと認められる。


両幼稚園のいずれにおいても,保護者同意が得られていないことについての
認識の有無(上記⑴④)について
上記4のとおり,平成23年度ないし平成28年度にQ幼稚園において,平成23年度ないし平成25年度にS1幼稚園において,それぞれ保護者同意を得ていないことが認められる。
そして,被告人Yは,上記⑷のとおり,府市補助金等の交付を受ける要件として,障がい幼児等の保護者から保護者同意を得る必要があることについての認識を有しており,かつ,後記⑹のとおり,府市補助金等の交付を申請したことについての認識及びその交付がなされたこと(平成28年度を除く。)についての認識を有しているのであるから,保護者同意があったものとした上で府市補助金等の申請がなされているとの認識を有していたものと推認される。加えて,被告人Yが両幼稚園において,副園長として,日常的に教職員,園児及びその保護者と接していたことや,保護者同意が正当に得られていると誤信するような具体的状況がないことに照らすと,被告人Yは,平成23年度ないし平成28年度にQ幼稚園において,平成23年度ないし平成25年度にS1幼稚園において,それぞれ保護者同意を得ていないことについて認識を有していたものと認められる。


P学園やR1学園が府市補助金等の交付を申請したことについての認識の有
無(上記⑴⑤)について
被告人Yは,両幼稚園において,経理担当者として,小口現金及び預貯金の管理や出納を行っていたのであるから,府市補助金等が交付されていることを認識していたことは明らかに認められ,そうすると,その前提としての申請行為がなされていることについての認識も有していたと認められる。


小括
以上によれば,被告人Yは,上記7⑴で指摘した故意の認識対象のうち,①についての認識を有していたとは認められないが,③,④及び⑤についての認識を有していたとは認められる。すなわち,被告人Yは,府市補助金等の交付を受ける要件として,障がい幼児等の保護者から保護者同意を得る必要があるのに,両幼稚園のいずれにおいても保護者同意が得られていないまま,P学園やR1学園が府市補助金等の交付を申請したという認識を有していたと認められ,その限度で,詐欺の故意を肯定することができる。
8
争点⑤(被告人両名の共謀)について

既に述べたとおり,被告人Xが,保護者同意の存在を偽って府市補助金等の申請をしており,かつ,被告人Yはこのことについて認識していたものであるが,このことについて,被告人Xと被告人Yとの間に共謀が成立していたと認められるかどうかについて検討する。
検察官は,被告人Xと被告人Yとの間で,遅くとも平成14年頃には,府市補助金等を申請するに当たり,特別支援教育や保護者同意の存否を偽り,補助金等を申請することについて,意思を通じ合っていたと主張し,その根拠として,①
被告

人Yが被告人Xと特別支援教育や保護者同意の点を偽ることにつき意思を通じていなかったとすれば,補助金が交付される理由を尋ねたり,書面の作成をやめるなどするはずであるのに,実際には府市補助金等の交付申請を続けている,②
被告人

Yは,L4に対し,専門の栄養士を雇っているなどと述べ,被告人Xの作成する書面と整合する申告をした,③被告人Yは,平成24年度において,府職員から送付された書面に

養護にメスが入りましたね。

などと記載してM1税理士に送付した,という点を指摘する。
しかし,①については,既に述べたとおり,府市補助金等の申請に関する行為については,そのほとんどを被告人Xが行っていたのであって,被告人Yは,補助金等の交付がなされたときに,それを前提にして両幼稚園の経理処理を行っていたにすぎないとみる余地が十分あるから,被告人Yが,被告人Xに対し,補助金等が交付される理由を尋ねたり,書面の作成をやめるよう言ったりしなかったからといって,被告人Xと被告人Yが補助金等の不正受給について意思を通じていたと推認すのとおり,被告人Yが上記の主
張に係る発言をした事実が認められないから,検察官の主張は前提を欠く。③については,

養護にメスが入りましたね。

という文言は,府職員による補助金交付に関する判断が厳しくなったという認識を示すものとは理解できるとしても,それまでの両幼稚園に係る府市補助金等の申請が要件を欠くものであったとか,被告人Yにそのような認識があったと当然に解釈できるものではないから,被告人Yの故意を根拠付けるものではなく,したがって,被告人Xと意思を通じ合っていたことを示すものであるとはいえない。
その他,検察官が主張するところを踏まえても,被告人Yに,虚偽の府市補助金等の申請をしてこれを詐取することについて,被告人Xとの間での意思の連絡や正犯性を認めるに足りる証拠はないから,被告人Xと被告人Yとの間に共謀があったとは認められない。
よって,被告人Yに対する特別支援教育費事件の各公訴事実については,犯罪の証明がないから,刑事訴訟法336条により被告人Yに対し無罪の言渡しをする。第6
1
本件各公訴提起の違法及び違法収集証拠の排除に関する主張について違法な司法取引に関する主張について

被告人両名の弁護人は,被告人両名が起訴当時の内閣総理大臣の妻と親しくしていたことや,小学校開設において,財務省職員らの行動がマスコミで大きく取沙汰されたことから,検察官がサステナブル補助金事件の公訴提起をしたのは,被告人両名を標的として,A1関係者らとの間で,被告人両名の訴追に協力させるのと引換えにその訴追を免れさせるという違法な司法取引に基づくものであるという合理的疑いが残るから,同事件は公訴棄却されるべきであり,また,それにより得られたA1関係者ら(A2,A5及びA4)の供述は,違法収集証拠として排除されるべきであると主張する。
そこで検討すると,上記第3で説示したとおり,被告人両名は,A1関係者らに対し,事業主かつ建築主として,多額の補助金を受給したいという強い意向を示し,A1関係者がそのような行動をとらざるを得ないような状況を作っていき,そしてその結果として得られる利益の全てを享受したとみるのが相当である。他方,確かに,A2やA5らA1の関係者らは,被告人両名による指示がない段階で補助金の不正受給に関する具体的行為を行った上,虚偽の契約書の作成に加担したという面があるが,これは,上記のような被告人両名の強い意向を受け,実務を担当する者としてやむなく手続を進めたものである。そうすると,弁護人が主張するように,被告人両名がA1関係者らとの関係で従的な立場にあったと見ることはできない。A1の関係者らが身柄拘束や公訴提起されなかったのも,同人らの関与状況及び役割等に照らし,それらの必要がないと判断されたためと考えられる。そうすると,被告人両名と比較して,その捜査過程及び検察官による訴追裁量の行使等の点で,著しい不公平があったとはいえず,したがって,弁護人が主張するような違法な司法取引の存在を疑うべき事情には当たらない。
被告人両名に対する捜査手続についても,刑事訴訟法が通常予定する手続から逸脱したものと認めるべき事情はなく,被告人両名が不当に不利益な扱いを受けたとは認められない。
その他弁護人の主張を踏まえて検討しても,検察官とA1関係者らとの間の違法な司法取引があったとの合理的疑いはない。したがって,弁護人の違法収集証拠排除の主張及び公訴棄却の主張は,いずれも前提を欠くから,採用できない。2
起訴裁量の逸脱に関する主張について

次に,被告人両名の弁護人は,検察官が,①

経常費補助金事件及び特別支援教

育費事件につき,特別法である補助金適正化法29条1項の罪(補助金等不正受交付罪)でなく,一般法であり,かつ法定刑の重い詐欺罪により起訴したこと,②特別支援教育費事件につき,不正受給額が算定可能であるにもかかわらず,被告人両名を重く処罰する目的で,意図的に不正受給額を過大に算定して起訴したことは,検察官の訴追裁量を逸脱するものであると主張して,いずれも公訴棄却されるべきであると主張する。
しかし,上記①の主張については,上記第2で説示したとおり,検察官は,経常費補助金事件及び特別支援教育費事件につき,詐欺罪を適用して起訴することができると解されるから,前提を欠く。また,上記②の主張についても,上記第5で説示したとおり,本件の証拠関係によれば,公訴事実記載の金額につき詐欺罪の成立を認定することができるから,やはり前提を欠く。したがって,被告人両名の弁護人の主張はいずれも採用できない。
(法令の適用)
1
被告人Xについて



判示第1の行為
刑法60条,246条1項(包括一罪)
判示第2,第3の1,第3の3及び第4の1の各行為
別表1の番号1ないし6,別表2の番号1ないし5,別
表3の番号1ないし3,別表4の番号1ないし3の各番
号ごとに刑法246条1項(ただし,別表1の番号1と
番号2,番号3と番号4,番号5と番号6,別表4の番
号1と番号2はそれぞれ包括して)
判示第3の2,判示第4の2の各行為
それぞれ刑法250条,246条1項

併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い
判示第1の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入

刑法21条

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

2
被告人Yについて


判示第1の行為
刑法60条,246条1項(包括一罪)

未決勾留日数の算入

刑法21条

刑の全部執行猶予

刑法25条1項

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
1
サステナブル補助金事件について(被告人両名関係)
サステナブル補助金事件は,木造・木質建築物の普及等のためのサステナブル補
助金を,工事代金等の額や実施設計の着手の時期について偽って詐取したというものであるところ,上記の各点を偽るために虚偽の契約書の作成まで行っており,手口は巧妙かつ大胆である。詐取額は5644万円余りと高額である。交付された補助金は被告人X経営の学校法人が計画する小学校建設の資金の不足に充てることが予定されていたものであるところ,私的流用を目的とするものではないとはいえ,無理な資金計画を補助金の詐取によって補おうとすることは安易である。被告人両名は,建築主として,多額の補助金を受給したいという強い意向を示し,設計業者及び建築業者の共犯者らがそのような行動をとらざるを得ないような状況を作っていき,そしてその結果として得られる利益の全てを享受したとみられるから,犯行の中心的立場にあったと認められ,その刑事責任は,他の共犯者らのそれと比して格段に重いというべきである。もっとも,被告人Yの言動には被告人Xに同調して振る舞ったという面が多分に認められるから,被告人Yの刑事責任は,建築事業の責任者である被告人Xのそれと比べると一段低いと考えられる。他方で,P学園が受給額の全額である5644万円余りを返還したことが,酌むべき事情として認められる。
2
経常費補助金事件及び特別支援教育費事件について(被告人X関係)経常費補助金事件は,私立幼稚園の教育条件の維持向上等を図るための経常費補助金を,専任教員等の員数を偽ることにより詐取したというものであり,特別支援教育費事件は,障がい幼児に対する特別支援教育の充実を図るための特別支援教育費補助金等を,加配職員による特別支援の有無及び保護者同意の有無を偽ることにより詐取し,又は詐取しようとしたというものである。その手口は,経常費補助金事件においては,専任教員の員数の根拠資料となる給与集計表や共済加入に関する書類を改ざんして提出し,また,特別支援教育費事件においては,多くの職員の勤務実態を偽ったり,一部の診断書の改ざんを行ったりしているのであって,いずれも巧妙かつ大胆というべきである。
詐欺の対象となった補助金の期間及び額は,経常費補助金につき,3年度分合計2198万円余り,府特別支援教育費補助金につき,6年度分合計8937万円余り,市特別支援教育費補助金等につき,3年度分合計920万円余りであって,長期間にわたり多額の補助金を詐取しており,結果は重大である。
交付された補助金等はいずれも各幼稚園の運営資金に充てられており,私的流用を目的とするものでないが,だからといって犯行が正当化されるものではない。他方で,P学園の民事再生手続において,同学園が,過去に交付を受けた補助金等の返還債務につき,一部の免除を受けた後,府に対して60万円を,市に対して32万4752円をそれぞれ弁済し,さらに,その残額を再生計画に基づき弁済することが見込まれる点は,酌むべき事情として認められる。
3
被告人両名の刑事責任について
被告人Xについては,前科前歴がないこと,経常費補助金事件及び特別支援教育
費事件の一部については不正受給を認めて謝罪の気持ちを表していることなど,有利に酌むべき事情が認められる。しかし,1及び2で述べた諸事情,特に全事件の犯行の手口の悪質さ及び結果の重大性や,サステナブル補助金事件において犯行の中心的立場にあったことに鑑みると,同事件について補助金が全額返還されたことを考慮しても,被告人Xに対しては,主文の実刑をもって臨むほかない。被告人Yについては,見るべき前科がないことなど,有利に酌むべき事情が認められる。そして,1で述べた諸事情,特に犯行の手口の悪質さ及び結果の重大性は認められるものの,被告人Yの刑事責任が被告人Xのそれと比べると一段低いことや,補助金が全額返還されたことも考慮すると,被告人Yに対しては,主文の刑に処した上,その刑の執行を猶予するのが相当である。
(求刑

被告人両名につきいずれも懲役7年)

令和2年3月4日
大阪地方裁判所第7刑事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

口井志丈谷卓嗣喬
別紙1(被告人両名とA1関係者との打合せにおける会話内容・工事費関係)平成27年7月23日の打合せ(甲150)
A2

あれで条件からすると1億2000ぐらいかなとは。

A2

…木質化してよい建物をするのに,いろんなことで全体の工事こうなるから,それに対して,なにがしかの補助を出しますっていう格好なんですけど。もろもろ含めて。

A2

それぐらいの金額,1億なにがしくらいの金額でいくようにちょっと,工事費とを問わず,それこそこれはもう絶対繋がらないんで,大阪府とかに出してある書類とそっちに出してあるのはこれが。

被告人X

繋がらへんね。


A2繋がらないので,それで工事費とかこんだけ掛かりますやんとか色んなもんあれして,ちょっと,取れる,無理ないところでそれこそ取れる。誰が見とっても納得のいく金額で一応申請はかけてます。それで1億2000くらい出てるんです。(中略)
被告人Y

え,なんぼで出してはるの先生。…20億とか。

A2

20億の工事費って出して,計算式があるんですよ。それで,その,5億とか10億とかで書いたら全然安なっちゃうんで,せめて1億ぐらいは取っていけるようにしようっていうので,工事費とかも。

被告人X

まぁ嘘も方便やね。


A2

膨らまして,結局諸々の費用という格好で1億2000ぐらい,それより工事費とか事業費を増やしていくと,今度は見る方がなんぼほど掛かんねんということになってくるんで。…

(中略)
被告人Y例えば20億の工事で出したらね,木のやつ使ってたら,なんぼ補助金もらえんの?A2それ1億2000…
被告人Y

え,20億で出して。

A2

書いて,書いてですよ。


被告人Y「1億だけ。
A2

それ以上はちょっと。それより膨らませたら,もうちょっと極端になるので。


別紙2(平成28年1月29日の第1回現場定例会議での会話内容)A5前の第1回の打合せのときに言ってた補助金を交付してもらうことについて,どのタイミングでというのと,あと,領収書関係がいるのかいらないのかっていうところの整理をちょっとさせていただいていてて。…1個作らないといけないのが,木質の補助については,契約書をその補助金で,まあ,今22億で本体工事として提出していますよと。で,ちょっとお電話ではお話させてもらってたんやけど,それの工事契約書というものを,まあテンプラで作る必要性がある。で,それをまずC1さんとしてまぁやってもらえる,協力してもらえるのかどうか。ま,うちの設計料の分の契約書もまたテンプラで作らな…それはうちが協力させてもらうんですけど。C1さんがどうなんやっていうのをちょっとまあC2社長の方も含めて,で,あの,C3さんともお話しをさしていただいてて,最終的にはイエスの回答をいただきましたので。被告人X

よろしくどうぞ。


被告人Y

A5さんの手腕やね。

A5

それで,協力していただけることになったんですけれども,…ちゃんとした金額でいくのか22億にふかすのかっていうのは,もらえるだけもらいましょうよというような形なので。

A5そこらへんの判断っていうのはうちはうちで判断して出しますよと言って,言っているんですけども,最終的な判断はやっぱり,事業主さんにしていただかないといけないので。…そこら辺の判断だけ,ま,もう一度,ちょっと一度考えていただいてね,あの,こちらとしてはオッケーやという返事があるという前提で最終結論を出していただいたらいいかなと。被告人X

前に進めてほしいわけやな。

被告人Y

もう任せてますのでそこのところは,任せてくれってA2先生言うてはったから…。

(中略)
被告人Y

責任の所在が全部こっちになるので。きっと。

A5

責任の所在っていうのはね,全部そっちにならないんで。…全員です。…全員がリスクを背負う話なので。だからゼロじゃないですよっていう。

被告人X

まあ前進めて下さい。

被告人Y「前進めて。
(中略)
C3…木質化によるサスティナブル建築物に関しましては,…我々の方で再度見積書を今14.4億の契約になっておりますけれども,それを22億という形にまで,えーっと増幅というか,膨れ上がらさしていただいて,今,14.4億で本工事契約書をですね,締結させていただいているものがもう1通出来上がるというふうにご認識ください。…被告人X

作られるものについては,いうことやね。

C3

はい。その今回の22億円の。

被告人X

22億のね。


C3

はい。それは張りぼてのでございますのでね。

被告人X

はいはい,そりゃ了解了解。


別紙3(被告人両名とA1関係者との打合せにおける会話内容・実施設計関係)1
平成27年8月26日の打合せ(甲152)
A2…今現時点での実施設計っていうか,基本計画じゃ実施設計やってる建物が補助金の対象外ですっていう。そんなこと聞いてないですって言ったんですけど。逆に実施設計やってるんですけどね。ただ,そこで次年度っていう話になったので,それはちょっと助かった。被告人X

それは大きなことや。

被告人Y

おっきいで。A2先生にとっては。

被告人X

初めから門前払いなるとこやった。

A2「そうそう。
被告人Y

先生ね,幸いするんですよ。

(中略)
A2先週,東京に行くときも,その件がね,何が内容はどうこう以前に,今もう実施設計やってるんですけど,我々はほんとにもう。当然ですから確認申請も出せる段階なんですよ。それで,まあ,慌てて出さん方がええ。調べてもう出してるやろこいつらって言われたらまずいんで,…被告人X

天が味方してくれてるんやな。

2
平成27年9月2日の打合せ(甲153)
A2木質の関係で,要するに,副園長ね,実施設計,今も言ったように,実施設計しているものっていうのは,対象外だっていう規定が今年できたのが向こうから来たんですよ。去年まで入ってなかった。実施設計って何ですかっていうと,今,我々がやってる作業です,色々と。…これから計画するんですと,だいたいこんなもの建てること決まっとるんですけど,まだ何もやってませんと,ただこんな面白いことあるんで,お金出してくださいよというので出すものなんです。…実際,構造事務所も動き,何も動き,我々も動き,詳細も詰めてっていうの,それを実施設計って言うんですけど,これをやってると,この補助金の,補助金の受ける,これにエントリーする資格がないっていう文言を僕知ったんです。A2

そうすると,表向きには実施設計やってませんと。この前ヒアリングに行って話したのは。

被告人Yが

***じゃなくて良かったなぁ。

(中略)
被告人X

実施設計している人らも,もしかしたら,去年と同じようやと思ってた人があった思った人もいるんやろね。


トップに戻る

saiban.in