判例検索β > 平成31年(ラ)第48号
伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立却下決定に対する即時抗告事件
事件番号平成31(ラ)48
事件名伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立却下決定に対する即時抗告事件
裁判年月日令和2年1月17日
裁判所名・部広島高等裁判所  第4部
結果その他
原審裁判所名山口地方裁判所  岩国支部
原審事件番号平成29(ヨ)5
原審結果却下
裁判日:西暦2020-01-17
情報公開日2020-06-04 22:29:57
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主文1
原決定を取り消す。

2
相手方は,本案訴訟の第一審判決の言渡しまで,愛媛県西宇和郡伊方町九町字コチワキ3番耕地40番地3において,伊方発電所3号機の原子炉を運転してはならない。

第1
1由
事案の概要
申立ての概要
本件は,抗告人らが,相手方の設置・運用する発電用原子炉施設である伊方発電所(以下本件発電所という。)3号機の原子炉(以下本件原子炉という。)及びその附属施設(本件原子炉と併せて,以下本件原子炉施設と総称する。)は,地震,火山の噴火等に対する安全性に欠けるところがあるため,その運転により重大な事故が発生し,これにより大量の放射性物質が放出されて,抗告人らの生命,身体等の重大な法益に対する侵害が生ずる具体的な危険性があるとして,人格権に基づく妨害予防請求権を被保全権利として,本件原子炉の運転の差止めを命ずる仮処分命令を申し立てた事案である。原審は,地震,火山の噴火等抗告人らの主張する事象により,本件原子炉施設から大量の放射性物質が放出されて抗告人らの生命,身体等の重大な法益に対する侵害が生ずる具体的危険性があるとはいえないとして,抗告人らの本件仮処分命令の申立てをいずれも却下した。そこで,抗告人らがこれを不服として本件抗告をした。

2
本件抗告の趣旨は,主文と同旨である。

3
前提事実
次のとおり補正するほか,原決定理由欄の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原決定5頁6行目の40番地3にを40番地3所在の本件発電所内に発電用原子炉であると改める。(2)原決定6頁3行目の「という。」を

といい,大別して次の2種類がある。

と改める。(3)原決定10頁8行目の乙の次に3,を加える。
(4)原決定10頁11行目の福島事故を踏まえ,の次にそれまで原子力の安全の確保に関する事項について企画し,審議し,及び決定することを任務としていた原子力安全委員会が廃止されてを加える。(5)原決定10頁17行目の同法附則の次に12条,を加える。(6)原決定11頁1行目の規定しており,の次に規制委員会が平成25年1月9日に作成したを加える。(7)原決定14頁7行目の『設置許可基準規則』を

『実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則』(以下『設置許可基準規則』という。)

と改める。(8)原決定21頁7行目の債務者は,の次に本件原子炉施設建設時の耐震設計において,を加える。(9)原決定22頁10行目の以下を

乙25。その後改訂されて乙149。以下

と改める。(10)原決定26頁20行目の39の次に,50を加える。
(11)原決定27頁9行目の規制委員会は,の次に発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計方針に関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則,設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用する目的で,を加える。(12)原決定28頁9行目冒頭に地震ガイドでは,を加える。
(13)原決定30頁3行目の6-5-31の次に,,6-5-131を加える。
(14)

原決定31頁13行目の基本ケースとしてはから15行目末尾までを基本ケースとして鉛直のケースを想定するとともに,不確かさの考慮として断層傾斜角が北傾斜30度のケースをも想定し,これらを上記の断層の長さに関する4ケースと組み合わせたそれぞれのケースについて応答スペクトルの評価を行った。と改める。(15)原決定31頁23行目の95頁を95,111~142,194~197,222~228頁と改める。(16)原決定32頁8行目の23頁を23,44頁と改める。
(17)原決定32頁末行の6-5-33の次に,6-5-69を加える。
(18)原決定36頁16行目の応答スペクトルをから18行目末尾までを応答スペクトルを包絡し,さらに裕度を考慮して設計用応答スペクトルを策定し,これをもとに基準地震動Ss-1(1波)を策定した(乙13[6-5-48,50,51,107~109,197,199,200,233頁,乙36[93~142,221~228頁]])。と改める。
(19)原決定39頁12行目の1回の噴火のから15行目末尾までを1回の噴火の噴出量が104m3未満(0.00001km3未満)をVEI0,106m3未満(0.001km3未満)をVEI1とし,1012m3以上(100km3以上)をVEI8として,VEI1からVEI8の間を噴出量が10倍増えるごとに1段階上がるようにし,全部で9段階に分けている。と改める。(20)原決定39頁末行末尾に(乙324,382)を加える。(21)原決定40頁6行目の150km3を50km3と改める。(22)原決定40頁16行目から18行目までを次のとおり改める。規制委員会は,新規制基準が求める火山の影響により原子炉施設の安全性を損なうことのない設計であることの評価方法の一例を示すとともに,火山影響評価の妥当性を審査官が判断する際の参考とするため,原子力発電所の火山影響評価ガイド(以下「火山ガイドという。)を作成した。その内容は,次のとおりである。(甲966,乙322)」
(23)原決定41頁16行目の個別評価対象外とし,の次に

当該火山については影響評価のみを行う。

を加える。(24)原決定46頁17行目の甲の次に761,を加える。
(25)原決定49頁3行目の一定量のから5行目の

されている。

までを一定の線量以上の放射線を受けることにより,必ず現れる影響をいう。人が放射線を短時間で一度に受けると,多数の細胞が死に,組織や臓器の働きが悪くなることに加え,自らの生命を維持するためのDNAや,細胞を修復する能力が失われてしまう可能性がある。と改める。(26)原決定49頁19行目の(乙73)を削除する。
(27)原決定49頁22行目末尾に(乙73)を加える。
(28)原決定52頁5行目の内小町を内子町と改める。
4
争点及び当事者の主張
争点は,①司法審査の在り方(争点1),②本件原子炉の必要性(争点2),③地震に対する安全性(争点3),④火山事象の影響に対する安全性(争点4),⑤避難計画等(争点5)及び⑥保全の必要性(争点6)である。当事者の主張は,原決定理由欄の第5のとおりであるから,これを引用する。
当審においては,争点1,争点4及び争点5並びに争点3のうち中央構造線の評価及びこれに関連する問題が主要な争点とされた。これらの争点について,抗告人らの当審における補充的主張は,仮処分申立書,準備書面1~9,準備書面1・2・7の補充書1~5,準備書面3の補充書1~3,準備書面4の補充書1~5,準備書面4の補充書3の訂正申立書,準備書面5の補充書1~4,準備書面6の補充書1~3,準備書面(訂正書),準備書面8の補充書1,訂正書(準備書面8(補充書1)),抗告理由書1,同補充書1,抗告理由書2,同補充書1・2,抗告理由書3,同補充書1,3,4(2は欠番),抗告理由書4,同補充書1に各記載のとおりであり,相手方の当審における補充的主張は,平成29年4月7日付け答弁書(原審),準備書面(1)~(7),準備書面(1)の補充書(1)・(2),準備書面(2)の補充書(1),準備書面(3)の補充書(1)~(4),準備書面(4)の補充書(1)~(7),準備書面(5)の補充書(1)~(3),準備書面(7)の補充書(1),裁判所の釈明事項に対する回答書,債権者らの求釈明に対する回答書,令和元年6月28日付け答弁書(当審),即時抗告準備書面(1)~(6)に各記載のとおりであるから,これらを引用する。第2
1
当裁判所の判断
司法審査の在り方

(1)

認定事実
次のとおり補正するほか,原決定理由欄の第6の1項(1)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原決定124頁18行目の冒頭に福島事故の根源的原因は,歴代の規制当局と東京電力との関係において,規制する立場とされる立場が逆転関係となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊が起きた点に求められるとの指摘があり,これに続き,を加える。

原決定125頁17行目末尾に(甲212,228,237,293,審尋の全趣旨)を加える。

原決定126頁12行目末尾及び128頁5行目末尾にそれぞれ(乙115[45~51頁],450[45~51頁])を加える。

原決定129頁17行目の[1~4頁]を[1~4,51~52頁],450[1~4,51~52頁]と改める。

原決定131頁14行目末尾に(乙115[52~54頁],450[52~54頁])を加える。カ
原決定133頁2行目末尾に

(乙115[54~56頁],450[54~56頁])を加える。キ原決定134頁16行目末尾に「乙115[56,129,233頁],450[56,139,279頁]

を加える。

原決定136頁2行目の(ア)の次にIAEA報告書は,を加

える。
(2)

人格権に基づく差止請求の要件
本件は,抗告人らが,相手方の設置する本件原子炉の運転によりその生
命,身体等に対する侵害が生ずる具体的危険性があるとして,人格権に基づいて本件原子炉の運転の差止めを命ずる仮処分命令を求める事案であり,抗告人らが主張する被保全権利は人格権に基づく妨害予防請求権としての差止請求権である。人の生命,身体はいうまでもなく重大な保護法益であり,また,これまで居住してきた生活環境の中でその生活を維持していき,その意思によらずにその生活環境を一方的に奪われないことも,人が個人として生きていくための基礎であって,重大な保護法益というべきであるから,人の生命,身体,生活の上記のような保護法益に係る権利は,人格権として,物権の場合と同様に排他性を有するものと解される。したがって,人は,上記人格権が違法に侵害され,又は違法に侵害されるおそれがある場合には,現に行われている違法な侵害行為を排除し(妨害排除請求),又は将来生ずべき違法な侵害行為を予防する(妨害予防請求)ため,上記人格権に基づいて当該侵害行為の差止めを求めることができると解するのが相当である。ところで,発電用原子炉施設は,前提事実(前記補正の上で引用した原決定理由欄の第3。以下同じ。)のとおり,核分裂反応によって生じるエネルギーを利用して発電を行うため,運転に伴って必然的に放射性物質が発生するものである。本件原子炉施設を含む発電用原子炉施設においては,原子炉を止める冷やす,放射性物質を閉じ込めるという安全上
重要な機能を有する設備を用いて事故防止に係る安全確保対策を講ずることにより,異常発生時においても放射性物質を発電用原子炉施設内に閉じ込め,放射性物質を環境へ大量に放出する事態を防止することが予定されているが,上記安全確保対策の失敗により,原子炉の停止又は冷却ができず,かつ,放射性物質の閉じ込めにも失敗した場合には,大量の放射性物質を外部に放出することとなる。また,前提事実のとおり,人が放射線を短時間で一度に受けると,多数の細胞が死に,組織や臓器の働きが悪くなることに加え,自らの生命を維持するためのDNAや,細胞を修復する能力が失われてしまう可能性があるから,その生命,身体に対する影響は重大,かつ,不可逆的なものであるということができ,また,前記(1)の認定事実によれば,大量の放射性物質が外部に放出された事故である福島事故においては,政府の避難指示によって避難した住民が約15万人に達し,事故から約4年3か月が経過した時点でも福島県全体の避難者は約11万2000人に及んでおり,この経験に照らしても,このような事故が起これば周辺の環境を放射能によって汚染されるなど,地域住民の生活基盤が破壊され,その回復には多くの困難を伴うことも明らかである。したがって,発電用原子炉施設の安全性に欠けるところがあり,その運転によって放射性物質が周辺の環境へ大量に放出される事態が発生すると,その周辺に住む住民らの生命,身体や生活基盤に回復し難い重大な影響を及ぼすおそれがあるから,当該住民らは,このような重大な被害を受ける具体的な危険性があると認められるときには,上記発電用原子炉施設を運転することが上記住民らの人格権を違法に侵害するおそれがあるものとして,人格権に基づく妨害予防請求としてその差止めを求めることができる。
(3)

差止請求の要件としての具体的な危険性
発電用原子炉施設において,放射性物質を放出させることによりその周辺住民に深刻な被害を引き起こすことになる原因としては,当該発電用原子炉施設の設計,施工の瑕疵から自然現象に至るまで,テロリズム等も含め様々なものが考えられる。そして,どのような事象が生じても発電用原子炉施設から放射性物質が周辺の環境に放出されることのない安全性を確保することは,少なくとも現在の科学技術水準をもってしては不可能であり,当該事象が当該発電用原子炉施設の運用期間,すなわち,発電用原子炉施設に核燃料物質が存在する期間のうちに生じる可能性が零ということができないことは,当事者間に争いがない。

そこで,現在の科学技術水準をもってしては対処できないようなリスクを許容するか否か,許容するとしてどの程度まで許容するかが問題になるので,現在の発電用原子炉施設の設置,運用に係る規制基準が作成されるに至った経緯についてみると,次のとおりである。
前提事実及び前記補正の上で引用した原決定理由欄の第6の1項
(1)の認定事実(本項において,以下認定事実という。)のとおり,我が国においては,福島事故以前から,原子炉施設の安全性について,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的な判断を必要とする審査を経た上で,発電用原子炉施設の設置,運用を認めてきたものであるが,福島事故が,福島第一原発の周辺に居住等する多数の者に対し,その生命,身体等の重要な法益を侵害されるという甚大な被害をもたらしたことを受けて,政府及び国会により,福島事故が発生しこれによる被害が拡大した原因について,詳細な調査,分析が行われ,これに引き続いて,新たに設置された規制委員会において,発電用原子炉施設の設置,運用に係る規制基準の内容が検討され,その検討結果を踏まえて設置許可基準規則等のいわゆる新規制基準が策定され,施行された。また,原子炉等規制法についても,最新の科学的技術的知見を規則に反映し,これを踏まえた基準に許可済みの発電用原子炉施設等を適合させる,いわゆるバックフィット制度を導入するなどして,事故の発生防止はもとより,万一炉心の著しい損傷等の重大な事故が起きたとしても,放射性物質が異常な水準で周辺の環境へ放出されるような事態に進展しないように多様かつ重層的な対策を要求するなどの改正が行われ,これにより重大事故対策を強化したものである。
このように,福島事故の教訓を生かして,原子炉等規制法の改正,新規制基準の策定が行われ,危険性を管理しつつ安全性を高めていくことを前提として,強化された安全規制の下において最新の科学的技術的知見を踏まえた基準に適合する発電用原子炉施設のみを運用していく方針が明らかにされたということができる。そして,上記のとおり原子炉等規制法を改正し,新規制基準を策定した経緯及びその内容に照らすと,上記改正後の原子炉等規制法は,発電用原子炉施設等の安全規制に最新の知見を反映させ,発電用原子炉が常に最新の科学的技術的知見を踏まえた基準に適合することを求めるとともに,科学的,技術的手法に限界があることを前提として,想定外の事象が発生して発電用原子炉施設の健全性が損なわれる事態が生じたとしても,放射性物質が周辺の環境へ放出されるような重大事故に至らないよう,重大事故対策の強化を求めるものであると解される。以上のような原子炉等規制法の改正の経緯及びその内容からすると,同法は,①最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求め,②その上で想定を超える事態が生じた場合の対処を求めるものであり,同法43条の3の6第1項4号の災害は上記①の自然災害を意味するものである。そして,差止請求の要件としての具体的な危険性については,原則として,上記のような原子炉等規制法の改正の経緯及びその内容を踏まえ,そこで求められている安全性を具備しているか否かが重要な指標になるということができる。ただし,その一方で,どの範囲までの危険が許されるかについては,社会通念をもって判断せざるを得ないことも否定できない。ウ
この点について,抗告人らは,発電用原子炉施設に求められる安全性の程度は,ゼロリスクという意味での絶対的安全性までが求められるわけではないが,福島事故のような過酷事故は絶対起こさないという意味での限定的絶対的安全性,ないし,絶対的安全性に準じる極めて高度な安全性が求められており,具体的には,事業者が,①科学の不確実性等を排除するために,工学上の経験則に準拠するだけでなく,科学(理論)的な想定や計算に過ぎないものを考慮に入れていないこと,②支配的・通説的な見解に寄りかかって,全ての代替可能な科学的知見を考慮することを怠っていること,③十分に保守的な想定でリスク調査やリスク評価に残る不確実性を考慮していないこと,のいずれかに当てはまる場合には,安全が確保されていないという基準を用いるべきであると主張する。
抗告人らの上記主張のうち,発電用原子炉施設について,福島事故のような過酷事故は絶対起こさないという意味での高度な安全性を要求すべきであるという理念については,傾聴に値するものがある。しかし,抗告人らが主張する具体的な判断基準,特に判断基準①や②は,これを文字通りの意味に捉えれば,理論や計算として提示されたものについて,他の専門家による賛同のない独自の見解なども含めて全て考慮しなければならないという,困難なことを要求することになり,上記イのような,最新の科学的技術的知見を踏まえて安全性を管理した上で,原子力の平和利用を認める我が国の法体系の下においては,採用できるものではない。
もっとも,上記のとおり,発電用原子炉施設について,福島事故のような過酷事故は絶対起こさないという意味での高度な安全性を要求すべきであるという理念は尊重すべきものであり,上記イにみた原子炉等規制法の改正及び新規制基準の策定においても,事故の発生防止はもちろんのこと,仮に想定外の事象が発生して発電用原子炉施設の健全性が損なわれる事態が生じた場合にも,放射性物質が環境へ放出されるような重大事故に至らないようにすることを目的として,各種の対策を強化すべきものとされたのであり,上記理念に通ずるところがあるといわなければならない。したがって,上記理念に基づいて抗告人らが主張した具体的な判断基準も,これをそのまま採用することは現実的に不可能であるとしても,発電用原子炉施設による具体的危険性の有無を判断するに当たり,その理念ないし精神に則った解釈適用が必要となることは否定できないところであり,ある問題について専門家の間で見解が対立している場合には,支配的・通説的な見解であるという理由で保守的でない設定となる見解を安易に採用することがあってはならない。このような理念ないし精神の適用については,それぞれの問題ごとに個別に検討する必要があるが,一般論としては上記のように指摘することができる。
(4)

主張・疎明責任
前記(2)のとおり,本件申立ては,抗告人らが,相手方の設置する本件原子炉の運転によりその生命,身体等に対する侵害が生ずる具体的危険性があるとして,人格権に基づいて本件原子炉の運転の差止めを命ずる仮処分命令を求めるものであるから,上記の具体的危険性があることについては,抗告人らに主張・疎明責任があるというべきものである。
しかし,前提事実のとおり,発電用原子炉施設の設置・運転等を行うについては,原子炉等規制法に基づいて,その安全性について規制委員会による許可・認可等のための様々な審査を経る必要があること,発電用原子炉施設の設置許可の要件の一つとして,発電用原子炉設置者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷等)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があることが定められていること(原子炉等規制法43条の3の6第1項3号),発電用原子炉設置者は,自ら当該発電用原子炉施設等の安全性についての評価を行い,その結果等を規制委員会に届け出ることが義務付けられ,また,発電用原子炉設置者が当該届出をした評価の結果等を公表しなければならないこと(同法43条の3の29)に照らすと,当該発電用原子炉施設を設置,運転等する事業者は,発電用原子炉施設の安全性に関する専門技術的知見及び資料を十分に保持しているということができる。他方,発電用原子炉施設の周辺住民には,同施設の安全性に関する専門技術的知見及び資料が十分にあるとはいえない。そして,発電用原子炉の設置許可の基準に関する原子炉等規制法43条の3の6第2号から4号までが,原子炉施設周辺に居住し,放射性物質が周辺の環境へ放出される事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個人的利益として保護すべきものとする趣旨を含んでいると解されること(同法24条1項についての判例であるが,最高裁平成元年(行ツ)第131号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号1090頁参照)等も併せ考慮すると,発電用原子炉施設の運転差止めに係る保全処分の申立てにおいては,債権者において,自らが発電用原子炉施設の安全性の欠如に起因して生じる放射性物質が周辺の環境へ放出されるような事故によってその生命,身体又はその生活基盤に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住していることを疎明すれば,当該発電用原子炉施設の設置運転の主体である債務者(事業者)の側において,まず,当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺の環境に放出され,その放射線被ばくにより債権者ら当該発電用原子炉施設の周辺に居住等する者がその生命,身体,生活基盤に重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠,資料に基づき,主張・疎明する必要があり,債務者がこの主張,疎明を尽くさない場合には,上記の具体的な危険性の存在が事実上推定されるというべきである。

これを本件についてみると,前提事実のとおり,抗告人らは,いずれも本件原子炉施設から海を隔てておおむね三十数kmから四十数kmの距離の地域に居住していること,本件原子炉は出力89万kwの原子炉であること,福島事故においては,年間5mSv以上の空間線量となる可能性のある土地が福島県内の1778k㎡,20mSv以上となる可能性のある土地も515k㎡であったこと(甲621[330頁])に鑑みると,福島第一原発で事故のあった1号機~4号機(甲621[61,125頁])と本件原子炉との発電力の相違を考慮に入れても,抗告人らは,本件原子炉施設について放射性物質が周辺の環境へ放出される事故が起こったときには,その生命,身体又はその生活基盤に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する者であるということができる。
したがって,本件申立てにあっては,事業者である相手方において,本件原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺の環境に放出され,その放射線被ばくにより抗告人らがその生命,身体,生活基盤に重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠,資料に基づき,主張・疎明する必要がある。

もっとも,発電用原子炉施設の設置,運用については,前提事実のとおり,事故の発生を防止し,また,万一事故が発生した場合でも大量の放射性物質が周辺の環境へ放出されるような事態に至ることを防止する目的で,原子炉等規制法により,発電用原子炉の設置及び変更の許可,工事の計画の認可,使用前検査,保安規定の認可,施設定期検査等の多段階の規制が定められている。そして,具体的な審査基準の設定及び当該審査基準への適合性の審査において,原子力工学に限らず自然科学分野を含む多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要であるところ,各段階における審査は,前提事実及び認定事実のとおり,その委員長及び委員が原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから任命され,独立して職権を行使するものとされている規制委員会によって行われることとされ,さらに,最新の科学的技術的知見を規制に反映し,既に許認可等を受けている発電用原子炉施設についてもこれを踏まえた基準に適合させる制度(バックフィット制度)が導入されている。以上の法規制を前提にすると,事業者は,その設置,運用する発電用原子炉施設が,規制委員会において用いられている具体的な審査基準に適合する旨の判断が規制委員会により示されている場合には,①現在の科学技術水準に照らし,当該具体的審査基準に不合理な点のないこと,②当該発電用原子炉施設が上記審査基準に適合するとした規制委員会の判断について,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落がないなど,不合理な点がないこと,以上の2点を相当の根拠,資料に基づき主張,疎明することにより,前記アの具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠に基づき主張・疎明をしたということができるというべきである。
これに対し,相手方は,事業者は規制委員会から所要の許認可を受けるなどして現在の安全規制の下でその設置及び運転等がされていることを主張,疎明すれば足りると主張するが,事業者が発電用原子炉施設の安全性に関する専門技術的知見及び資料を十分に保持しており,他方,周辺住民らにはそのような専門技術的知見や資料がないことなどに照らすと,同主張は採用できない。
債務者事業者による上記の主張・疎明に対し,債権者である周辺住民は,債務者事業者の上記疎明を妨げる疎明(反証)を行うことができ,債務者事業者が上記の点について自ら必要な主張・疎明を尽くさず,又は債権者による反証の結果として債務者事業者による疎明が成功しなかった場合には,債務者事業者は,改めて,規制委員会の判断とは別に,当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺の環境に放出され,その放射線被ばくにより債権者の生命,身体,生活基盤に重大な被害を受ける具体的危険がないことを主張,疎明しなければならないことになる。エ
上記ウに対し,抗告人らは,①基準の合理性や基準適合判断の合理性は,人格権侵害の具体的危険が存在しないことの間接事実の一つに過ぎず,基準が合理的で,かつ,基準適合判断が合理的であれば直ちに具体的危険がないものとして扱われるのは不合理である,②このような代替疎明を許すと,新規制基準において考慮の対象とされていない具体的危険(避難計画の問題)については,事業者は何ら疎明責任を負わないこととなり不合理である,③そもそも疎明責任を転換した上,債務者事業者に代替疎明を許すという判断枠組みは,行政訴訟において用いられている手法であって,これを民事訴訟である人格権に基づく差止請求訴訟や民事保全訴訟において用いるべきではないと主張し,また,④原子力発電の必要性が低ければ,発電用原子炉施設によるリスクを許容する余地は乏しくなり,その運転差止請求が認められる余地が広がると解すべきであるとも主張する。
そこで検討するに,まず,①の点については,基準の合理性及び基準適合判断の合理性の存在は,人格権侵害の具体的危険が存在しないことの間接事実の一つであって,それ自体が論理必然的に要証事実となるものでないことは抗告人らが主張するとおりである。しかし,原子炉等規制法43条の3の6第1項4号が,発電用原子炉の位置,構造及び設備が災害の防止上支障がないものであることを審査するための基準を原子力規制委員会規則で定めることとしているのは,具体的な審査基準の設定及び当該審査基準への適合性の審査において,原子力工学に限らず自然科学分野を含む多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的な判断が必要であることに鑑み,具体的な審査基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する規制委員会の科学的,専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨であると解される。そうすると,このようにして策定された具体的審査基準に不合理な点がなく,かつ,問題となっている発電用原子炉施設が上記審査基準に適合するとした規制委員会の判断について,手続面でも判断過程にも不合理な点がないということができれば,原則として,人格権侵害の具体的危険が存在しないと評価できるというべきである。
②については,上記ウの判断枠組みに従っても,抗告人らの指摘する点が具体的審査基準に含まれていないことが不合理でないことを事業者において疎明する必要があるのであって,その疎明ができなければ,事業者は改めて当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺の環境に放出され,その放射線被ばくにより債権者の生命,身体,生活基盤に重大な被害を受ける具体的危険がないことを主張,疎明しなければならないことになるのであり,新規制基準において考慮の対象とされていない具体的危険につき事業者が何ら疎明責任を負わない結果になるという抗告人らの主張は当たらない。
③については,上記判断枠組みが行政訴訟である,いわゆる伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求事件の最高裁判決(最高裁昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁)と類似することは否定できないが,それは当該事件と本件が発電用原子炉施設の設置,運用の当否を問題にする点で共通し,したがって,その判断において,原子力工学に限らず自然科学分野を含む多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的な判断が必要となることも共通しているからであって,行政訴訟と民事訴訟との違いを看過して同様ないし類似の判断枠組みを用いているわけではない。また,抗告人らは,これに関連して,本件のような発電用原子炉施設の差止を命ずる仮処分命令の申立てにおいては,証明度軽減の法理を用いるべきであると主張するが,その論拠となる文献(甲650)を見ても,被保全権利の存在について,まず債権者においてどの程度の疎明をなすべきかが必ずしも明確でなく,これを採用することはできない。
④についてみると,本件の争点は,本件原子炉の運転により抗告人らの人格権が侵害される具体的危険性があるか否かであり,これが認められる場合には,相手方が本件原子炉の運転を継続することは違法であり,原子力発電の必要性や公益性が高いことを理由として,本件原子炉の運転を継続することは許されない反面,仮に原子力発電の必要性や公益性が低いとしても,そのことだけで本件原子炉の運転差止めが認められるものではない。原子力発電の必要性や公益性の程度は,具体的危険性の有無を左右するものではないというべきである。

さらに,抗告人らは,新規制基準が手続面及び内容面(ただし,確率論的リスク評価手法が盛り込まれていないこと並びに大規模な自然災害,適切,適正といった不明確な基準が多いこと)において合理性に欠けると主張するが,当裁判所も,原審と同じく,抗告人らの上記主張は採用できないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほか,原決定理由欄の第6の1項(6),(7)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(ア)

原決定143頁7行目の以上からすればから8行目の策定されているのでありまでを次のとおり改める。以上のとおり,福島事故の発生及び進展に関する基本的な事象はおおむね明らかにされ,それを踏まえて新規制基準が策定されている。加えて,疎明資料(乙450)によれば,例えば,設計基準対象施設として要求されている交流動力電源(非常用ディーゼル発電機)が機能喪失する具体的な原因は無数に考えられ,その原因をすべて特定し,機能喪失の可能性を完全に排除し得ると考えることは不適当であることから,新規制基準は,設計基準対象施設の持つ安全機能が喪失することをあえて仮定し,その場合でも,重大事故等対処施設等により,炉心の著しい損傷や格納容器の破損を防止すること等を要求しているのであって,福島事故における具体的な損傷設備や損傷箇所の解明自体は,新規制基準を策定する上で必ずしも必要でないと考えられたことが認められ,したがって(イ)

原決定144頁22行目のしかし,の次に

両評価のうち前者が後者よりも合理的であると断ずべき理由はなく,地震等の災害についてのデータの量等の違いにより,国によって異なる評価方法を採用することがあっても,不合理とはいえない。そして,

を加える。(5)

小括
以上のとおり,事業者の設置,運用する発電用原子炉施設が,原子炉等規
制法に基づく設置の変更の許可工事の計画の認可等を通じて,規制委員会において用いられている具体的な審査基準に適合する旨の判断が規制委員会により示されている場合には,事業者は,現在の科学技術水準に照らし,当該具体的審査基準に不合理な点のないこと及び当該発電用原子炉施設が上記審査基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠,資料に基づき主張,疎明すれば足りる。
これを本件についてみると,相手方は,前提事実のとおり,本件原子炉施設につき規制委員会から,平成27年7月15日に発電用原子炉設置変更許可を,平成28年3月23日に工事計画認可を,同年4月19日に保安規定変更認可をそれぞれ受け,新規制基準に適合するとの判断が規制委員会により示されているから,新規制基準に不合理な点のないこと及び本件原子炉施設が新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点がないことについて疎明すべきこととなる。
そして,新規制基準に不合理な点がある,又は,本件原子炉施設が新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点があると認められた場合には,相手方は,それにもかかわらず,本件原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され,その放射線被ばくにより抗告人らがその生命,身体,生活基盤に重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠,資料に基づき,主張・疎明する必要がある。2
地震に対する安全性
(1)

認定事実
次のとおり補正するほか,原決定理由欄の第6の3項(2)アに記載の
とおりであるから,これを引用する。

原決定153頁20行目末尾に改行の上次のとおり加える。
(乙13[6-3-65~66,6-3-70~73,6-5-24~25,6-5-31~32頁])

原決定154頁19行目から20行目にかけての考えたの次に
(乙13[6-3-59~60頁])を加える。


原決定154頁25行目の変位の累積性が顕著に見られることを
変位の累積性(より深い層(古い層)における変形の程度が顕著であること)が顕著であり,同所に繰り返し活動する震源断層が存在していることを示していることと改める。

原決定155頁7行目の考えたの次に(乙13[6-3-64~65頁])を加える。

原決定155頁12行目の判断したの次に(乙13[6-3-70~73頁],126)を加える。

原決定155頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
e中央構造線断層帯の震源断層の傾斜角を北傾斜30度とした場合を基本ケースとして他の不確かさと重畳考慮した場合について相手方は,平成31年4月頃,中央構造線断層帯の長期評価の改訂による地震動評価への影響について検討した際,中央構造線断層帯の断層の長さを87km,震源断層の傾斜角を北傾斜40度とした場合を基本ケースとして,①応力降下量につき1.5倍又は20MPaとする不確かさ,②アスペリティの平面位置に関する不確かさ,③破壊伝播速度に関する不確かさのそれぞれと重畳考慮した場合の地震動評価についても検討したところ,本決定別図1~3のとおりであった。これによると,最も地震動評価が大きくなる上記①の不確かさについても,相手方の想定する基準地震動Ss-1を超過するには至っていない。キ
原決定155頁13行目末尾に改行の上次のとおり加え,これに伴い,原決定155頁14行目から169頁21行目のaからgまでの
符号をbからhまでに繰り下げる。
a中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)の記載内容(甲792[23頁],乙38[23頁])中央構造線断層帯における地下の断層面の傾斜は,東端部の金剛山地東縁では,深さ約300m以浅において西傾斜15~45°,和泉山脈南縁から紀淡海峡を経て淡路島南部に至る範囲では,深さ1kmよりも浅いところでは北傾斜15~45°,また,四国の讃岐山脈南縁では,地質境界が活断層の断層面であるとすれば深さ5km以浅では北傾斜30~40°と推定される。しかし,中央構造線断層帯(金剛山地東縁を除く)のような活動的な横ずれ断層の場合,力学的にみて一般には断層面の傾斜は高角度と考えられていることから,今後さらに検討が必要である。これより西側の石鎚山脈北縁から愛媛県西部に至る区間は地表及び海底付近に限れば高角であると推定されるが,地下深部については資料が得られていない。また,伊予灘では深さ2km以浅では高角度で北傾斜の可能性がある。

原決定156頁1行目及び161頁22行目の湯布院をいずれも
由布院と改める。

原決定156頁4行目の伴うの次に,

が,断層帯の最東端の①金剛山地東縁区間では断層の西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層で,断層帯の西端部の⑩豊予海峡-由布院区間では主として北側低下の正断層である。

を加える。

原決定160頁14行目の30から50°を35から50°と
改める。


原決定161頁12行目末尾に改行の上次のとおり加える。
iiiなお,上記iiと同様の表現は,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の結論部分の『今後に向けて』と題する部分(甲973[3~4頁],乙343[3~4頁])にもみられる。すなわち,『地震動予測に重要な断層深部の傾斜に関しては,ほとんどの区間が中角度である可能性が高いと判断したが,高角度の可能性を否定する確実な証拠も存在しないことから,両論を併記した。』,『⑨伊予灘区間では断層が海域に位置しており,陸域に近い沿岸浅海域の調査も必要となる。本断層帯(注・中央構造線断層帯のこと)の深部での傾斜を最終的に解明するためには,断層の深部延長をボーリング調査などによって直接確認することが望ましい。』との記載がある。シ
原決定163頁17行目の224,227頁を223,224,227頁と改める。

原決定167頁13行目の佐田岬半島北岸部のの次に沖合いすぐのを加える。

原決定167頁21行目の変異を変位と改める。


原決定170頁12行目の震源断層が高角であるのか,中角度であるのかをその横ずれ型の断層運動を担っている震源断層が,横ずれ型の断層運動に適した鉛直に近い高角の震源断層であるのか,それとも断層の強度や摩擦係数等が他の断層より小さい等の理由により中角度で傾斜した地質境界断層がそのまま震源断層として横ずれ型の断層運動を担うことができているのかと改める。タ
原決定173頁3行目のまた,の次に

沿岸部に海底谷(凹地状の地形)が認められるが,凹地状地形の下位層であるD層に全く変形がないことから活断層ではなく,この地形は沿岸流によって削剥されて形成されたものと考えられる。さらに,

を加える。

原決定173頁12行目の15頁を8,15~16頁と改め
る。


原決定174頁12行目から13行目にかけての地租の変異を地層の変位と改める。

原決定174頁14行目末尾に改行の上次のとおり加える。
i四国電力,株式会社四国総合研究所ほかの研究員による実験結果(乙432)四国電力職員及び株式会社四国総合研究所研究員らの研究グループは,平成4年,未固結被覆層が分布する地域において,地震時の基盤の断層変位に伴い,地表及び未固結被覆層がどのように変形するかを明らかにするために,あるいは,既に得られた地表変形に関する情報から,基盤の地震断層の性状を推定するために,斜めずれ(右横ずれ成分+正断層成分)について室内で断層模型実験を実施し,平成10年,その結果及び中央構造線断層帯の深部構造との関係について,次のとおり報告した。(a)実験は,底盤の断層傾斜角度につき30°と75°の2つのケースを,右横ずれ断層変位成分と正断層変位成分との比を5:1と1:1の2つのケースを想定し,これらの組み合わせで4通りの実験を行った。その結果は次のとおりである。①傾斜角30°,横:縦=5:1のケース底盤の断層変位量が一定程度に達すると,地盤表面のマーカーのずれ変位及び砂地盤表面の段差によりせん断面が認められる。せん断面は,右横ずれ断層特有の「杉型の雁行配列を示すRiedel

Shearsであり,周期的に発達するRiedel

Shearsに挟まれた断層直上の領域では,幅を変えながら凹
みが発達している。地盤内部でも,せん断面は,底盤の断層上端
からペアーをなして発達し,底盤での断層変位量が増すに従っ
て,共に地盤表面にまで達している。このせん断面に挟まれた領
域は凹みを形成し,断面上はそれぞれ正断層の形態として確認さ
れる。


傾斜角30°,横:縦=1:1のケース
底盤の横ずれ変位量が一定程度に達すると,せん断面が確認さ
れるが,せん断面は,まず下盤側(相対的上昇側)で形成され,
せん断面は直線的で,右横ずれ断層にみられる杉型の雁行配
列は明瞭でない。その後,断層変位量の増加に伴い,せん断面は
上盤側(低下側)にも平行して形成され,2本のせん断面に挟ま
れた断層直上の領域には凹みが形成される。地盤内部でも,せん
断面は,底盤の断層上端からペアーをなして発達し,底盤での断
層変位量が増すに従って,共に地盤表面にまで達している。この
せん断面に挟まれた領域は凹みを形成し,断面上はそれぞれ正断
層の形態として確認される。



傾斜角75°,横:縦=5:1のケース
底盤の断層変位量が一定程度に達すると,地盤表面のマーカー
のずれ変位及び砂地盤表面の段差によりせん断面が認められる。
せん断面は,右横ずれ断層特有の杉型の雁行配列を示すRi
edel

Shearsとして確認される。底盤の断層変位量の

増大に伴い,せん断面は発達し,横ずれ断層模型実験同様,断層
面直上に主変位せん断が連続して確認される。地盤内部でも,せ
ん断面は,底盤の断層上端から弧を描くように上盤側砂層中に形
成され,底盤での断層変位量が増すに従って,地盤表面にまで達
している。この断面形態は,底盤の断層傾斜角の急な正断層の形
態とほぼ同様である。


傾斜角75°,横:縦=1:1のケース
底盤の断層変位量が一定程度に達すると,地盤表面のマーカー
のずれ変位及び砂地盤表面の段差によりせん断面が認められる。
せん断面は,極めて直線的であり,右横ずれ断層にみられる
杉型の雁行配列は確認されない。なお,このケースは正断層
模型実験とほぼ同様の変形形態であったため,模型地盤内部の変
形過程の観察は行われていない。

(b)

上記実験結果と伊予灘海域の中央構造線活断層系の変形形態と

を比較すると,海底面の変形形態は,平行又は断続する直線的な断層列が雁行配列を示していること,雁行する断層が地溝を伴っていることから,上記(a)①のケースと整合的である。また,深部変形形態は,伊予灘海域の深部地質構造解釈図によると,最も西側の測線では上記(a)①あるいは②のケースと整合的であり,真ん中の測線は上記(a)③あるいは④のケースと整合的であり,いずれも右横ずれ断層運動だけでなく,断層の北側が落ち込む正断層成分も有していたものと推定される(なお,断層傾斜角度については,実験では2種類しか実施していないため,伊予灘海域での実際の角度を明確に議論するようなものではなく,一つの傾向を示すものと考え
る。)。これに対し,最も東側の測線では,今回実施した斜めずれ断層模型実験とは異なっており,地溝の内部を除き鉛直方向の変形は認められず,過去に実施した横ずれ変位のみの模型実験においても,部分的には模型地盤表面には凹みが形成されることが確認されており,上記測線では横ずれ断層運動が主体であったと考えられ
る。
(c)

底盤の断層傾斜角が緩く,横ずれ成分が卓越する場合,砂地盤

表面には雁行するRiedel

Shearsが確認され,更にそ

れに挟まれた領域では,幅を変えながら凹みが確認される。地盤内部でも,せん断面が底盤の断層上端から地盤表面までペアーをなして形成され,このせん断面に挟まれた領域が凹みを形成している状況が明瞭に確認される。これに対し,底盤の断層傾斜角が急で,横ずれ成分が卓越する場合,砂地盤表面には雁行するRiedel
Shearsが確認されるが,凹みは形成されず,地盤内部でも,せん断面が底盤の断層上端から地盤表面まで形成されるが,この発生形態は,底盤の断層傾斜角が急な場合の正断層の形態とほぼ同様である。また,底盤の断層傾斜角によらず,右横ずれ断層変位成分と正断層変位成分の比が1:1の場合,砂地盤表面での右横ずれ変形等を除き概ね正断層の場合の変形形態と同様である。
これを伊予灘海域の中央構造線活断層系に当てはめると,平行又
は断続する断層列が杉型配列を示していること,中央構造線活
断層系の直下に境界断層(中央構造線本体)が推定され,この断層面は北に傾斜していること,伊予灘海域の中央構造線活断層系は海底では地溝を形成しているが,地下では境界断層に収斂されていること,中央構造線の活動は,伊予灘海域東部では,古くから右横ずれ断層運動が卓越するのに対し,中央部から西部にかけては正断層運動も認められる。これは,伊予灘海域が,中央構造線の活動が別府湾以西の正断層運動が卓越する区間から,四国の右横ずれ断層運動が卓越する区間へ移る場所であることを示している。
(エ)
a
新規制基準における活断層の扱い等について
新規制基準においては,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について,内陸地殻内地震について選定した検討用地震に関し,震源として考慮する活断層の評価に当たっては,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し活断層の位
置・形状・活動性等を明らかにすることを考慮し(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号②),また,検討用地震のうち,震源が敷地に極めて近い場合は,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとともに,これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,さらに十分な余裕を考慮して基準地震動を策定することが求められている(同別記2の4条5項2号⑥)。

b
また,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計方針に
関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則,設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用する目的で作成された地震ガイド(甲783,乙4
3)には,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動につい
て,震源が敷地に近く,その破壊過程が地震動評価に大きな影響を与えると考えられる地震については,断層モデルを用いた手法が重視されている必要があるとの方針を明らかにした上(Ⅰ.3.1
(2)),検討用地震の選定について,内陸地殻内地震について,各種の調査及び観測等により震源として想定する断層の形状等の評価が適切に行われていることを確認することとし(Ⅰ.3.2.2
(1)),断層モデルを用いた手法による地震動評価については,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価について,地表に変位を伴う断層全体(地表地震断層から震源断層までの断層全体)を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討されていることを確認すること,設置許可基準規則解釈と同様の記述に続けて,特に,評価地点近傍に存在する強振動生成領域(アスペリティ)での応力降下量などの強振動の生成強度に関するパラメータ,強振動生成領域同士の破壊開始時間のずれや破壊進行パターンの設定において,不確かさを考慮し,破壊シナリオが適切に考慮されていることを確認すること,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を取り込んだ手法により,地表に変位を伴う国内外被害地震の震源極近傍の地震動記録に対して適切な再現解析を行い,震源モデルに基づく短周期地震動,長周期地震動及び永久変位を十分に説明できていること(特に,永久変位・変位についても実現象を適切に再現できているこ
と)を確認すること,浅部における断層のずれの進展の不均質性が地震動評価へ及ぼす影響を検討するとともに,浅部における断層のずれの不確かさが十分に評価されていることを確認すること,破壊伝播効果が地震動へ与える影響について,十分に精査されていること,水平動成分に加えて上下動成分の評価が適切に行われていることを確認することを求める記載がある(Ⅰ.3.3.2(4)④)。c
上記aの設置許可基準規則解釈別記2の定め及び上記bの地震ガ
イドの記述中の,震源が敷地に極めて近い場合についての記載を裏付けるものとして,規制委員会による次の研究がある。すなわち,規制委員会は,平成27年1月,『福島第一事故を踏まえた震源極近傍の地震動評価の高度化』(乙296。以下震源極近傍の地震動評価という。)において,地表地震断層から震源断層までの浅部地盤(震源断層とはならない比較的軟らかい地盤)が活動することの影響について,震源から2km以上離れていれば浅部地盤の影響は無視し得るものの,敷地から2km程度以内の浅部地盤が変位する場合には,比較的軟らかい地盤の活動といえどもその影響を無視できないという研究結果を示した。震源極近傍の地震動評価に
は,次の記載がある。
(a)研究の目的及び前提条件
内陸地殻内地震を対象とした断層モデルを用いた手法による地
震動評価に際しては,活断層の長さと地震発生層の厚さを始め,
各種断層パラメータ間の理論的又は経験的関係式に基づき,深さ
が数km~15km程度の地震発生層における震源断層のモデル
が設定されている。一般的に,構造物等に被害を与える強振動は
地震発生層の断層破壊に支配されると考えられるため,それより
も浅い地盤(表層地盤)から放出される地震波を考慮することが
なかったが,新規制基準では,震源が敷地に極めて近い場合の地
震動評価についての規定が加えられた。しかし,参考となる震源
極近傍での地震観測記録が乏しいため,定量的評価を解析的に実
施して,震源極近傍の地震動の特徴を理解するべく,鉛直横ずれ
断層と傾斜60度の逆断層を対象として,アスペリティを地震発
生層に設定した上で,地表までの断層全体の破壊を再現する動力
学的断層破壊シミュレーションを実施し,その分析結果を用いた
強振動評価を行い,表層地盤の震源域による地震動解析への影響
を評価した。
(b)横ずれ断層を対象とした震源極近傍の地震動評価
断層面の形状と位置に関して,長さ25km,幅18kmの矩
形断層面を設定し,解析領域の地盤モデルは,厚さ3kmの表層
地盤と厚さ15kmの地震発生層から構成される水平成層モデル
として,動力学的破壊シミュレーションにより地表面各部の地震
動の計算を行い,地中深くの震源域の破壊が生じた地震動と表層
地盤の震源域の破壊が生じた地震動とが足し合わされた地震動を
得るとともに,波数積分法により表層地盤と地震発生層における
それぞれの震源域の寄与分に分けて,断層近傍の評価地点(地表
断層からの水平距離0.05km,約0.1km,約0.2k
m,約0.5km,約1.0km,約2.2km,約4.7km
及び10kmの8地点)における理論波形の解析を行ったとこ
ろ,断層極近傍において,断層直交成分(FN成分)においては
地震発生層の地震動が全体の90%程度を占め,平行成分(FP
成分)は表層地盤の震源域の地震動が全体のほぼ100%を占め
ていた。また,断層から2km以上離れると,表層地盤の震源域
による影響は無視できる程度に下がる。上下成分(UD成分)は
FP成分とほぼ同じ傾向にあるが,地震動の大きさは小さい。
(c)逆断層を対象とした震源極近傍の地震動評価
長さ25km,傾斜角60度の逆断層を対象とし,断層上端が
地表に達するモデルを設定し,深さ方向において,横ずれ断層と
同様,表層地盤を深さ0~3km,地震発生層を深さ3~18k
mの範囲に仮定し,アスペリティの上端深さを5kmとして,動
力学的破壊シミュレーションにより地震動の計算を行い,波数積
分法に基づく理論波形を計算し,表層地盤と地震発生層における
それぞれの震源域による地震動の寄与度を調べたところ,FN成
分は,地表断層からの距離に関わらず深い震源域からの地震動が
支配的であり,表層地盤の震源域からの地震動の影響は無視でき
る程度であり,また,FP成分でも地表断層からの距離が0.2
~1kmの範囲で,表層地盤からの地震動に比べておおむね深い
震源域からの地震動が支配的となっているのに対し,UD成分に
ついては,地表断層からの距離が2km以下では,表層地盤の震
源域からの地震動が深い震源域からの地震動を部分的に上回る。
しかし,地表断層から2km以上離れると,表層地盤の震源域に
よる影響は無視できる程度に下がる。このように,逆断層におけ
る震源極近傍の地震動は,横ずれ断層と異なり,表層地盤の震源
域による地震動の影響が小さいといえる。
(d)まとめ
横ずれ断層の場合,断層極近傍において断層直交成分は地震発
生層の震源域に,断層平行成分は表層地盤の震源域に支配され
る。地震動に与える震源域の影響として,本検討の設定条件で断
層から2km程度以上離れると,表層地盤の震源域による影響は
無視できる程度に下がること,逆断層の場合は,おおむね地震発
生層の震源域からの地震動が支配的であり,表層地盤の震源域か
らの影響が小さいことが示された。」
(2)

震源断層の傾斜角について
相手方は,前提事実のとおり,本件発電所敷地至近距離にある中央構造線断層帯の震源断層について,三波川帯と領家帯の会合部の下方に鉛直な震源断層が存在することを前提として本件原子炉に係る原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可に係る各申請を行い,規制委員会もこれらの申請について法令で定める基準を満たすものとして,それぞれ許可・認可したものである。

上記各申請の時点及びこれらにつき許可・認可がされた時点では,中央構造線断層帯長期評価(第二版)及び四国長期評価は未だ公表されておらず,当時公表されていた中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)には,前記(1)で補正の上引用した原決定理由欄の第6の3項(2)アの認定事実(本項において,以下認定事実という。)のとおり,本件発電所敷地よりも東側の讃岐山脈南縁については,地質境界が活断層の断層面である可能性も指摘されていたものの,中央構造線断層帯のような活動的な横ずれ断層の場合,力学的にみて一般には断層面の傾斜は高角度と考えられていることから,さらなる検討を要すると付記されており,また,これより西側の石鎚山脈北縁から愛媛県西部に至る区間は地表及び海底付近に限れば高角であると推定されるが,地下深部については資料が得られていないこと,本件発電所敷地に近い伊予灘においては深さ2km以浅では高角度で北傾斜の可能性があることが指摘されていたのみであったから,このような中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)の記載を前提にすると,力学的観点,地下浅部の活断層及び海上音波探査の結果を基に,本件発電所敷地至近距離にある中央構造線断層帯の震源断層の傾斜角が鉛直であることを前提とした相手方の上記各申請は不合理なものとはいえず,したがって,これを法令で定める基準を満たすものとした規制委員会の判断も不合理なものではなかったということができる。
しかし,人格権に基づく差止めに係る訴訟及び仮処分事件においては,具体的審査基準及び規制委員会の判断の合理性は,前記1で説示したとおり,現在の科学技術水準に照らして判断されるべきところ,現時点においては,中央構造線断層帯長期評価(第二版)及び四国長期評価が公表されている。そして,前提事実のとおり,中央構造線断層帯長期評価(第二版)は,中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)の改訂版として地震調査委員会が公表したものであるから,これは,地震調査委員会において,中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)の記載を踏まえて検討が加えられた結果をまとめたものであると認められる。
そうすると,現在の科学技術水準としては,中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)ではなく中央構造線断層帯長期評価(第二版)をもとに検討すべきであり,規制委員会の上記判断が合理的なものといえるか否かは,その記載に照らして判断されなければならない。

そこで,中央構造線断層帯長期評価(第二版)及び四国長期評価の記載についてみるに,中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,認定事実のとおり,中央構造線の特に②五条谷区間から⑨伊予灘区間における断層深部の傾斜角について,これまでに指摘された中角度(約40度)とする主張の根拠と高角度(ないし,ほぼ鉛直)とする主張の根拠とを比較し,中央構造線そのものが地下深部まで中角傾斜であること,中央構造線断層帯(活断層)が高角傾斜であることは両論とも一致していることを指摘した上で,公表されている反射法地震探査断面の中で,高角である中央構造線断層帯が下方において中角である中央構造線を切断していることを示す事実が確認されていないこと,中央構造線が数千万年間以上にわたり断層活動を行ってきたと推定され,断層の強度や摩擦係数等が他の断層よりも小さいと想像されること,中角度の横ずれ断層も理論的には可能であり,海外の事例ではあるが,実際に中角度の断層が横ずれした事例が紹介されていること,中央構造線に平行してごく近傍にのみ活断層帯が随伴する事実から,中角である中央構造線の活動に伴って浅部における中央構造線断層帯が形成・成長しているという考えが支持されること,中央構造線より南側には活断層はほとんど存在せず,その延長部が中央構造線直下に分布することは高角の断層が形成しにくいことを示唆していることを根拠として,上記区間における中央構造線断層帯の傾斜角について,中角度の可能性が高いと判断したとの記載がある。
そうすると,これと異なる相手方の主張及びこれを正当とした規制委員会の判断が不合理ではないというためには,相手方において,この点について相当の根拠,資料に基づきこの点を主張,疎明する必要がある。エ
相手方は,三波川帯と領家帯の会合部の下方に鉛直な震源断層が存在すると想定した具体的根拠として,①中角度に傾斜する断層面が横ずれすることが考えにくいという力学的観点,②領家花こう岩類と三波川変成岩類の会合部が存在する沖合い約8kmの地点のほぼ鉛直の活断層に変位の累積性が顕著であり,同所に繰り返し活動する震源断層が存在していることを示していることなどから,地下深部の震源断層も鉛直である方が自然であること,③海底下浅部に見られる高角度の断層の下方において,北傾斜する地質境界が高角度の断層によって変位を受けている可能性が示唆されるという海上音波探査の結果を挙げる。
しかし,上記①の点については,中央構造線断層帯長期評価(第二版)が,中央構造線断層帯のような活動的な横ずれ断層の場合,力学的にみて一般には断層面の傾斜は高角度と考えられるという,正に相手方の主張と同様の指摘をしていた中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)の記載を踏まえて検討を加えた結果,上記ウのとおり,中央構造線では数千万年以上にわたって断層活動を行ってきたと推定され,断層の強度や摩擦係数等が他の断層よりも小さいと想像されることから,中角度の横ずれ断層も理論的には可能である,海外の事例ではあるが,実際に中角度の断層が横ずれした事例が紹介されていることなどを根拠として,中央構造線断層帯の傾斜角について中角度の可能性が高いという結論を導き出しているのであるから,上記①の点は,相手方の主張が不合理ではないというための根拠として十分なものということはできない。
また,上記③は,公表されている反射法地震探査断面の中で,高角である中央構造線断層帯が下方において中角である中央構造線を切断していることを示す事実が確認されていないという中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載と整合しない主張であるし,相手方の主張自体,北傾斜する地質境界が高角度の断層によって変位を受けている可能性が示唆されるというものであって,相手方の主張を裏付ける明確な海上音波探査の結果があることを指摘するものではないから,上記③の点も,相手方の主張が不合理ではないというための根拠として十分なものということはできない。他方,上記②については,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の中にこれと矛盾する記載はない。しかしながら,中央構造線断層帯長期評価(第二版)は,既にみた,高角である中央構造線断層帯が下方において中角である中央構造線を切断していることを示す事実が確認されていないこと,中央構造線においては断層の強度や摩擦係数等が他の断層よりも小さいと想像されること,中角度の横ずれ断層が理論的に可能であることなどのほか,中央構造線に平行してごく近傍にのみ活断層帯が随伴する事実から,中角である中央構造線の活動に伴って浅部における中央構造線断層帯が形成・成長しているという考えが支持されること,中央構造線より南側には活断層はほとんど存在せず,その延長部が中央構造線直下に分布することは高角の断層が形成しにくいことを示唆していることといった複数の根拠に基づいて,中央構造線断層帯の傾斜角について,中角度の可能性が高いと判断しており,上記②はこれらの事実を否定するものではない。そして,中央構造線断層帯の傾斜角が中角度であることを示すと考えられるこれらの事実の存在にもかかわらず,上記②の点のみから,中央構造線断層帯の傾斜角が高角度,ないしほぼ鉛直であると断ずることは困難であるといわなければならない(むしろ,相手方は,横ずれ断層であれば,中角度に傾斜した震源断層が浅部において高角の活断層を生じさせることが実験結果からも明らかになっていると主張するが,このことは,中央構造線断層帯の傾斜角が中角度であることを裏付ける事実であるといえる。)。そして,上記以外に,中央構造線断層帯の傾斜角が高角度,ないしほぼ鉛直であることをうかがわせる事情は見当たらない。

以上のとおりであるから,中央構造線断層帯の震源断層の傾斜角は,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載どおり,中角度の可能性が高いというべきであり,これと異なる相手方の主張が合理的であるとはいい難い。
もっとも,中央構造線断層帯長期評価(第二版)は,断層深部の傾斜角が鉛直である可能性を否定していない。そして,相手方も,中央構造線断層帯の震源断層の傾斜角が中角度北傾斜である可能性もあるとして,この点を不確かさとして考慮して基準地震動を策定している(前提事実7(6)ア(イ)b,7(6)ア(ウ)b)から,相手方の主張が不合理であるといえるか否かは,中央構造線断層帯の傾斜角が高角度,ないしほぼ鉛直であることを基本ケースとして,中央構造線の震源断層が中角度である可能性を不確かさとしてのみ考慮したことが合理的といえるか否かによることになる。そこで,次に,この点について検討を加える。

(3)

相手方が中央構造線断層帯の震源断層が中角度である可能性を不確かさ
としてのみ考慮したことの適否

応答スペクトルに基づく地震動評価について
相手方は,応答スペクトルに基づく地震動評価をするについては,前提事実(7(6)ア(イ)b,イ(イ),ウ(イ),カ(ア))のとおり,中央構造線断層帯の震源断層の傾斜角につき,基本ケースとしては鉛直のケースを想定するとともに,不確かさの考慮として北傾斜30度のケースをも想定し,この二つのケースを断層の長さに関する4つの想定ケースと組み合わせた,それぞれのケースについて応答スペクトルの評価を行った上,これらの応答スペクトルと,プレート間地震及び海洋プレート内地震についての応答スペクトルとを包絡し,さらに裕度を考慮して策定した設計用応答スペクトルをもとに基準地震動Ss-1を策定した。このように,断層傾斜角が中角度であることは,不確かさとして考慮されたものであるとはいえ,応答スペクトルの評価においては,基本ケースである断層傾斜角が鉛直であるケースとの間に差異はなく,両者は同等に評価が行われているということができ,その検討過程に不合理な点はない。
したがって,応答スペクトルに基づく地震動評価においては,中央構造線断層帯の震源断層が中角度であることを基本ケースとせず,不確かさとしてのみ考慮したことによる影響はないものと認められる。

断層モデルを用いた手法による地震動評価について
(ア)

相手方は,断層モデルを用いた手法による地震動評価をするについ
ては,前提事実(7(6)ア(ウ)b)のとおり,断層の長さについては応答スペクトルに基づく地震動評価と同様に約480km,約130km,約54kmのケースを全て基本震源モデルとして位置づける一方で,断層傾斜角については,鉛直を基本震源モデルと位置づけ,北傾斜30度のケースについては,基本震源モデルに重畳させる不確かさ,換言すれば独立した不確かさとして考慮している。その結果,震源断層が北傾斜30度であることは,断層の長さについての4ケースとはそれぞれ組み合わせて考慮されているものの,断層傾斜角以外に独立した不確かさとして考慮されている,①応力降下量につき1.5倍又は20MPaとする不確かさ,②破壊伝播速度に関する不確かさ,③アスペリティの平面位置に関する不確かさとは重畳考慮されていない。
(イ)

抗告人らは,特に上記①の不確かさの考慮の影響が圧倒的に大きいため,この不確かさと震源断層が北傾斜30度であることとを重畳考慮しないことは不合理であると主張する。
しかし,中央構造線断層帯長期評価(第二版)は,認定事実のとおり,震源断層の傾斜角が中角度とする見解について,中角である中央構造線が横ずれ卓越の運動を担えるかという点が指摘されているが,中央構造線が数千万年間以上にわたり断層活動を行ってきたと推定され,断層の強度や摩擦係数等が他の断層よりも小さいと想像されることなどを理由に上記指摘に対する説明としている。すなわち,中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)にも指摘されているとおり,中央構造線断層帯のような活動的な横ずれ断層の場合,力学的にみて一般には断層面の傾斜は高角度と考えられているけれども,中央構造線断層帯の場合,中角度の断層面が,高角度の断層面よりも横ずれ運動を担いやすい,換言すれば断層の強度や摩擦係数等が相対的に小さいために,これが断層面となっていることが考えられる(佐藤比呂志ほか地球物理学的にみた中央構造線活断層系の深部形状と震源断層(2017年)(乙430)もこれに沿う内容である。)。
このように,中央構造線断層帯の震源断層の傾斜角が中角度であるといえる場合には,当該断層面に係る断層の強度や摩擦係数等は相対的に小さいものと考えられるから,応力降下量,すなわち,震源断層がずれることによって解放されるエネルギーにつき1.5倍又は20MPaとする不確かさを,中央構造線断層帯の震源断層の傾斜角につき北傾斜30度とする不確かさと重畳して(組み合わせて)考慮しないことを理由に,相手方による地震動評価が不合理であるということはできない。(ウ)

抗告人らは,震源断層の傾斜角につき北傾斜30度とする不確かさ
と応力降下量以外の不確かさ(破壊伝播速度及びアスペリティの平面位置前記(ア)の②及び③)についても重畳考慮して地震動評価を行うべきであったと主張する。
しかし,これらの不確かさを考慮することによる影響が応力降下量の不確かさを考慮することによる影響よりも小さいことは抗告人らも自認するものであるところ,認定事実のとおり,相手方は,平成31年4月頃,中央構造線断層帯の長期評価の改訂による地震動評価への影響について検討した際,中央構造線断層帯の断層の長さを87km,震源断層の傾斜角を北傾斜40度とした場合を基本ケースとして,①応力降下量につき1.5倍又は20MPaとする不確かさ,②アスペリティの平面位置に関する不確かさ,③破壊伝播速度に関する不確かさのそれぞれと重畳考慮した場合の地震動評価についても検討した結果,本決定別図1~3のとおりであったのであり,上記の検討に不合理な点があったとうかがわせる事情はない。このように,応力降下量の不確かさと震源断層の傾斜角につき北傾斜30度とする不確かさとを重畳考慮しても,なお相手方が想定した基準地震動を超過するには至っていないことに照らすと,仮に震源断層の傾斜角につき北傾斜30度とする不確かさと応力降下量以外の不確かさとを重畳考慮したとしても,相手方が想定した基準地震動を超過するとは認められない。
(エ)

そうすると,断層モデルを用いた手法による地震動評価について

も,中央構造線断層帯の震源断層が中角度であることを基本ケースとせず,不確かさとしてのみ考慮したことにより,基準地震動の評価に影響があったとは認められない。

以上のとおりであるから,相手方が中央構造線断層帯の震源断層につき中角度である可能性を,不確かさとしてのみ考慮したことが不合理であるということはできない。

(4)

佐田岬半島沿岸の活断層について
認定事実のとおり,設置許可基準規則解釈別記2は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について,内陸地殻内地震について選定した検討用地震に関し,活断層の位置・形状・活動性等を明らかにすることを求めている。そして,同別記2や地震ガイドは,震源が敷地に極めて近い場合について,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとともに,これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえ,更に十分な余裕を考慮して基準地震動を策定すべきこと,その場合の地震動評価について,地表に変位を伴う断層全体(地表地震断層から震源断層までの断層全体)を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討されていることを確認すること,特に,評価地点近傍に存在する強振動生成領域(アスペリティ)での応力降下量などの強振動の生成強度に関するパラメータ,強振動生成領域同士の破壊開始時間のずれや破壊進行パターンの設定において,不確かさを考慮し,破壊シナリオが適切に考慮されていることを確認すること,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を取り込んだ手法により,地表に変位を伴う国内外被害地震の震源極近傍の地震動記録に対して適切な再現解析を行い,震源モデルに基づく短周期地震動,長周期地震動及び永久変位を十分に説明できていること(特に,永久変位・変位についても実現象を適切に再現できていること)を確認すること,浅部における断層のずれの進展の不均質性が地震動評価へ及ぼす影響を検討するとともに,浅部における断層のずれの不確かさが十分に評価されていることを確認すること,破壊伝播効果が地震動へ与える影響について,十分に精査されていること,水平動成分に加えて上下動成分の評価が適切に行われていることを確認することを求めている。
相手方は,佐田岬半島北岸部に活断層は存在せず,活断層が敷地に極めて近い場合の評価は必要がないと判断して,活断層が敷地に極めて近い場合の地震動評価を行っておらず,具体的な数値も持ち合わせていないことから,仮に相手方の上記判断が不合理である場合には,相手方による断層モデルを用いた手法による地震動評価が全体として不合理なものである疑いを生ずることになり,断層モデルを用いた手法による地震動評価が応答スペクトルに基づく地震動評価の数値を超えないという判断自体,ひいては相手方による地震動評価そのものが不合理なものであって,これを正当とした規制委員会の判断も不合理であるということになる。
そこで,本件原子炉施設について,佐田岬半島北岸部に活断層は存在しないか否か,また,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価をする必要があるか否か,換言すれば震源が敷地に極めて近い場合に該当するか否かを検討する必要がある。

相手方は,詳細な海上音波探査を行い,本件発電所敷地沿岸部に活断層がないことを確認しているなどとして,佐田岬半島北岸部に活断層は存在しないと主張する。
これに対し,抗告人らは,①中央構造線断層帯長期評価(第二版)に三波川帯と領家帯上面の接合部以浅の中央構造線も活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要と考えられる。伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。との記載があるのは,正に相手方による調査では不十分と判断したものである,②相手方による海上音波探査は,活断層を認定するための探査にしては荒すぎるし,産業技術総合研究所(以下産総研という。)等が行った音波探査では,他のグループが発見した中央構造線断層帯を見つけることができておらず,また,本件発電所沖周辺である佐田岬半島中心部が調査対象となっていないし,同中心部に係る部分では沿岸部の調査がされていないから調査範囲及び正確性に疑問がある,③活断層の有無の最終判断はボーリング等の海底堆積物調査が原則である,と指摘して,相手方による探査によって本件発電所敷地から極めて近い場所に活断層がないことが確認されたとはいえないと主張する。
そこで検討するに,認定事実のとおり,相手方は,本件発電所の敷地前面海域で各種音源を用いた調査を実施しており,また,伊予灘においては,相手方をはじめ産総研,国土地理院,大学グループなど各調査機関により,調査対象深度及び分解能の異なる各種の音源を用いた音波探査が実施されており,このような音波探査の結果については,四国電力(2014)にまとめられ,中期~後期更新世相当層と推定されるD層に変形が認められないことなどから,佐田岬半島の北岸部に活断層が存在していないことが確認できるとの判断が示されている。
しかし,認定事実のとおり,中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,伊予灘海域部について相手方により詳細な調査がされたことが記載されているのに対し,伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については,

現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。

との記載があり,これによれば,佐田岬半島沿岸に活断層が存在するか否かについて,相手方その他の上記音波探査では不十分であることを前提にしたものと認めることができる。
この点について,相手方は,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の上記記載が,当該見解を述べた委員の個人的な見解にとどまり,今回の改訂で採用された結論ではない上,当該意見を述べた委員は相手方による海上音波探査の結果を見落としたものであると主張し,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の策定に関わったA教授及びB教授もこれに沿う意見を述べる(乙344,442)。しかし,認定事実のとおり,伊予灘区間における陸域に近い沿岸浅海域の調査の必要性をいう記載は,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の結論部分にも見られるから,これが一部の委員の個人的な見解にとどまると認めることはできない。また,中央構造線断層帯長期評価(第二版)を策定するに当たり,相手方による海上音波探査の結果を見落としたままの記載を残すことは考えにくい。これに対し,B教授は,地震調査委員会は基本的に学術論文を評価対象としているために原子力発電所の審査資料,特に,正式な審査会合ではなくヒアリングの資料として示された,相手方による海上音波探査の結果が正確に考慮されていない面があるとの意見を述べる(乙442)のであるが,中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,伊予灘区間の海域部について,相手方の音波探査を基に中央構造線断層帯を説明する記載もあり,それを踏まえた上で伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないとしている(なお,そこに記載されているのは四国電力(2015)(乙119)であるが,これにも相手方その他前記各機関による音波検査についての記載がある。)のであって,学術論文のみを評価対象としているとは断じ得ない。
そして,相手方などが行った音波調査が佐田岬半島沿岸に活断層がないと判断する上で十分な調査であるか否かについては,A教授及びB教授はこれを肯定する意見を提出し,他方で,C教授及びD教授はこれを否定する意見を提出しており,専門家の間で意見が分かれているところ,その当否は,上記の調査結果について,専門的知識を踏まえた上での評価が必要になるが,中央構造線断層帯長期評価(第二版)が佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないとの判断を示していること,規制委員会が中央構造線断層帯長期評価(第二版)の上記の記載も検討した上で佐田岬半島沿岸に活断層がないとの相手方の判断を合理的と判断したとまでは認められないこと(乙431,457,458によれば,中央構造線断層帯長期評価(第二版)が出た後に,規制委員会でその内容が検討されたことが認められるが,その際,専ら中央構造線断層帯の長さ,活断層区間の見直し,活断層の傾斜角が検討されたにすぎず,佐田岬半島沿岸に活断層があるか否かが検討された様子はない。)に照らすと,上記の探査で十分な調査がなされたと断ずることはできない。ウ
ところで,前記アの設置許可基準規則解釈別記2の定め及び地震ガイドの記述には,震源が敷地に極めて近いと認められた場合について特別の規定があるところ,相手方は,三波川変成岩類と領家花こう岩類との会合部以深が震源断層であって,それより浅い部分は比較的軟らかい浅部地盤であるから,固い深部地盤同士が変位する場合とは異なり震源断層にはなり得ないので,震源断層とは分けて考慮する必要があると主張するので,前記アの設置許可基準規則解釈別記2の定め及び地震ガイドの記述における震源が敷地に極めて近いの意義について検討を加える。
震源が敷地に極めて近い場合の評価に関しては,認定事実のとおり,表層地盤(震源断層とはならない比較的軟らかい地盤)の震源域の影響について,地表断層から2km以上離れていればその影響は無視し得るものの,敷地から2km程度以内の表層地盤が変位する場合には,比較的軟らかい地盤の活動といえどもその影響を無視できないという震源極近傍の地震動評価の研究成果があるところ,同研究成果は,横ずれ断層(鉛直の断層を想定しているものと認められる。)のケースと逆断層(傾斜角60度)のケースとを検討した結果,横ずれ断層においては,断層から近い場所では表層地盤の震源域の影響が大きいものの,断層から2km以上離れると,その影響は無視できる程度に下がること,逆断層においては,表層地盤の震源域からの影響は横ずれ断層ほど大きくないが,地表断層からの距離が2km以下では,表層地盤の震源域からの影響が深い震源域からの地震動を部分的に上回り,地表断層からの距離が2km以上離れると,表層地盤の震源域からの影響は無視できる程度に下がるというものであって,横ずれ断層のケースについては,上記2kmの起算点について断層としか記載されていないものの,これは鉛直の断層を想定しているために,震源域の直上からの距離であるか,地表断層からの距離であるかを明記する必要がなかったに過ぎないものと考えられ,逆断層のケースに関する記述をも併せ考慮すると,上記知見にいう震源とは,地震発生層における震源域ではなく,表層地盤の震源域をいうものと解するのが相当である。
そうすると,上記知見が裏付けとされる前記アの設置許可基準規則解釈別記2の定め及び地震ガイドの記述も同様に解釈すべきであって,上記定めないし記述にいう震源が敷地に極めて近い場合とは,表層地盤の震源域から敷地までの距離が2km以内である場合をいうものと解するのが相当である。
前示のとおり,佐田岬半島沿岸に活断層があるか否かについての調査が十分にされたとは認められないのであるが,仮にその調査がされて同沿岸に活断層がある場合,上記解釈のもとにおける震源が敷地に極めて近い場合に該当することになるのか否かを検討する。エ
抗告人らは,地質境界としての中央構造線自体が活断層である可能性があり,少なくとも三波川変成岩類と領家花こう岩類との会合部より浅い場所においては,三波川変成岩類と和泉層群との地質境界が活断層である可能性があると主張する。そして,中央構造線断層帯長期評価(第二版)にも,中央構造線そのものの活動に伴う断層についての検討として,三波川帯と領家帯上面の接合部以浅の中央構造線も活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要であると考えられるとの記載があり,この記載は,抗告人らの上記主張と符合するものである。
抗告人らの上記主張内容について更に検討を加えると,抗告人らが上記主張の根拠として挙げているのは,①中央構造線においては,現在もハーフグラーベンを形成する正断層運動が継続している,②重力異常調査の結果によれば,中央構造線が再び活動していることが明らかである,③地質境界としての中央構造線のうち,本件発電所敷地付近の部分の両端に存在する部分に活断層がある,の3点である。
(ア)
a
ハーフグラーベンを形成する正断層運動
抗告人らは,本件発電所敷地付近の伊予灘にハーフグラーベンを形成する運動が現在も続いており,扇状の層をなすような変位の累積があるし,主断層が典型的な円弧状となっていない場合に,堆積盆内に生じるひずみを解消するために副次的断層が発生し,これに伴い,副次的断層周辺に陥没が生じることがあり,その場合には,陸地近傍側には扇状の層をなすような変位の累積性がみられないことがあるところ,本件発電所敷地付近の伊予灘においては,中央構造線断層帯が上記副次的断層をなしているため,その陸地近傍側(南側)に扇状の層をなすような変位の累積性がみられなくても,中央構造線において正断層運動が継続していることが否定されるものではないと主張する。そこで検討するに,抗告人らが指摘する図面(乙442[13
頁]。本決定に別図4として掲げる。)をみても,本件発電所敷地付近の伊予灘の,特に陸地近傍側において,抗告人らが主張する扇状の層をなすような変位の累積があると認めることはできないが,疎明資料(甲1056[17頁],乙480[17頁],乙484[195頁])及び審尋の全趣旨によれば,ハーフグラーベンを形成するような正断層運動においても,その付近に副次的断層が発生して堆積盆内に生じるひずみを解消するとともに,副次的断層より陸地近傍側においては扇状の層をなすような変位の累積性がみられないことがあり得ること(別図5)が認められる。この点,相手方は,別図5においては,主断層付近の正断層変位を見ても主断層側に向かって堆積層が扇状に厚くなる構造が認められ,本件発電所付近の伊予灘の地形構造とは異なると主張するが,別図5を見ると,主断層側に向かって堆積層が扇状に厚くなる構造になっている場所と,そうではない場所とがあることから,副次的断層が発生した場合にも主断層側に向かって堆積層が扇状に厚くなる構造が認められると断ずることはできない。そして,中央構造線断層帯の構造が別図5の副次的断層と類似していることは否定できない。そうすると,相手方の上記主張は採用できない。なお,中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,中央構造線の五条谷区間から伊予灘区間における断層深部の傾斜角について論じる中で,地震本部の見解として,中角である中央構造線の活動に伴って浅部における中央構造線断層帯(活断層)が形成・成長しているという考えを支持するとの記載もあり,この記載は,中央構造線が現在も活動しているというものであって,本件発電所敷地付近の伊予灘にハーフグラーベンを形成する運動が現在も続いているとの抗告人らの主張と符合する。
b
これに対し,相手方は,中央構造線断層帯長期評価(第二版)は,中央構造線断層帯における断層運動としては,横ずれ運動が卓越することを明記しているところ,中央構造線において正断層運動が継続しているという抗告人らの主張はこれと矛盾すると主張する。しかし,中央構造線断層帯長期評価(第二版)においては,認定事実のとおり,中央構造線断層帯は右横ずれを主体とするものの,上下方向のずれを伴うものであって,断層帯の最東端では逆断層であるが,伊予灘に近い断層帯の西端部では主として北側低下の正断層とされており,伊予灘においても正断層成分を含む断層である可能性があることに照らすと,地質境界としての中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できないというべきである。
(イ)

重力異常調査の結果
抗告人らは,重力異常調査の結果,本件発電所敷地直近の中央構造線
(地質境界)に沿って重力異常の急変帯があることから,この地質境界に沿ってハーフグラーベンが形成されていること,すなわち,この地質境界が断層であることの証左になるというD教授の見解をもとに,上記重力異常調査の結果から地質境界としての中央構造線が活断層である可能性を直接立証できる旨主張する。
この点,確かに,重力異常の急変帯は,密度の異なる物質が隣り合っていることを示すものであるというD教授の知見を覆すに足りる証拠はないが,本件発電所敷地直近の佐田岬北部沿岸に地質境界としての中央構造線が存在すること自体は争いがなく,上記知見に照らすと,重力異常の急変帯はこの地質境界を示すものに過ぎないとも考えられ,重力異常の急変帯がすなわち活断層の存在を直接立証するものとはいい難い。抗告人らの上記主張は採用できない。
(ウ)

両端が活断層
抗告人らは,中央構造線のうち本件発電所敷地付近の部分の東寄りの
地域には下灘-長浜沿岸活断層帯が存在し,反対側の九州側では,佐賀関断層という活断層が地震本部によっても示されており,構造的な連続性が確認される別府湾から伊予灘にかけての地質境界としての中央構造線は,その両端が活断層であるから,常識的にその全体が活断層であると合理的に推測できるというD教授の見解をもとに,上記東西の活断層の存在から本件発電所敷地至近距離の中央構造線も活断層であると主張する。
もっとも,D教授自身,両端が活断層だから真ん中もそうだというふうに,単純には推定というか認定はできないと証言するところであり(D証人[52頁]),また,疎明資料(甲885[15頁])によれば,本件発電所敷地の沖合い5~8kmに存在する中央構造線断層帯が下灘-長浜活断層につながっているようにも見えることも併せ考慮すると,地質境界としての中央構造線が本件発電所の東西で活断層と一致する場所があるからといって,ここから直ちに本件発電所敷地至近距離の中央構造線(地質境界)も活断層であるということはできない。しかし,上記(ア)で説示したとおり,本件発電所敷地付近の伊予灘の地質構造から,同所における地質境界としての中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できないところであり,地質境界としての中央構造線が本件発電所付近の東西で活断層と一致する場所があることは,上記可能性を補強する事情となり得るものである。(エ)

以上によれば,本件発電所敷地至近距離において,地質境界として
の中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できないというべきである。

これに対し,相手方は,横ずれ断層であれば,中角度に傾斜した震源断層が浅部において高角の活断層を生じさせることは,実験結果(乙432)からも明らかになっているから,中角度の震源断層の延長部に当たる佐田岬半島北岸部に活断層は生じないと主張する。
そこで検討するに,四国電力の職員ほかの研究グループによる実験結果(認定事実(ウ)i)によれば,伊予灘海域の中央構造線活断層系は,右横ずれ成分と正断層成分とを併せ持つ斜めずれ断層であり,特に底盤の断層傾斜角が緩く,横ずれ成分が卓越する場合の実験結果と整合的であり,また,上記実験結果によれば,底盤の断層傾斜角が緩く,横ずれ成分が卓越する場合,右横ずれ断層特有の杉型の雁行配列を示す2つのせん断面が断層直上の領域に発生し,これらに挟まれた断層直上の領域に凹みが発達するところ,これが本件発電所敷地の沖合い約8kmの位置に存在する中央構造線断層帯の形状と類似していることは否定できない。しかし,上記実験結果は,断層直上の領域にせん断面が発生することを指摘してはいるが,中角度の震源断層の延長部に当たる位置に活断層が発生しないことまでを明示するものではないし,上記実験結果では,伊予灘海域東部では,古くから右横ずれ断層運動が卓越するのに対し,中部から西部にかけては正断層運動も認められると考えられるとの指摘もされているから,伊予灘海域の中部ないし西部に位置する本件発電所敷地付近においては,中央構造線断層帯には正断層成分が相当程度含まれることは否定できないところである。そうすると,上記実験結果により中角度の震源断層の延長部に当たる佐田岬半島北岸部に活断層が生じないと断ずることまではできないというべきである。

上記エで説示したとおり,本件発電所敷地付近において,地質境界としての中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できないところ,地質境界としての中央構造線自体を断層とみた場合に,地表断層から本件発電所敷地までの距離を正確に測ることは困難であるが,疎明資料(乙126[10頁],乙442[13頁])によれば,遠くとも本件発電所敷地から2km以内であると認められる。そうすると,本件発電所敷地は中央構造線の表層地盤の震源域から2km以内にあることとなり,したがって,本件原子炉施設については,前記アの設置許可基準規則解釈別記2の定め及び地震ガイドの記述に従い,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価をする必要があったことになる。しかし,相手方は,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価を行っていない。
そうすると,相手方は,震源が敷地に極めて近い場合に該当する可能性があるのに,佐田岬半島北岸部の活断層の有無を十分に調査しないまま,これが存在しないとして本件原子炉に係る原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請をし,規制委員会はこれを問題ないとして判断したものであるから,このような規制委員会の判断には,判断の過程に過誤ないし欠落があったといわざるを得ない。
したがって,相手方は,上記のとおり,本件原子炉施設が新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点があると認められるにもかかわらず,本件原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺の環境に放出され,その放射線被ばくにより抗告人らがその生命,身体や生活基盤に重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠,資料に基づき,主張・疎明する必要があるが,相手方は,前記の相手方ほかの音波探査による調査以外の調査をしないまま,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価に関する具体的な数値を持ち合わせていないとして,この点に関する主張・疎明をしないから,上記主張・疎明責任を尽くしたとはいえない。したがって,本件原子炉の運転により抗告人らの生命,身体等に対する侵害が生ずる具体的危険性が認められる。
この点,相手方は,本件原子炉施設における安全上重要な機器の固有周期は概ね0.1秒程度以下であり,最も周期の長いものでも0.3秒未満であるところ,浅部地盤は短周期の地震動を生じにくいから,本件原子炉施設の耐震安全性への影響は軽微であると主張する。確かに,疎明資料(乙299)によれば,本件原子炉施設における安全上重要な機器の固有周期は概ね0.1秒程度以下であり,最も周期の長いものでも0.3秒未満であることが認められるが,疎明資料(乙296)によれば,浅部地盤が短周期の地震動を生じにくいとは必ずしもいえない。すなわち,震源極近傍の地震動評価(乙296の図7[6頁])をみると,別図6のとおり,むしろ短周期側では断層までの距離が地震動評価に大きく影響していることがうかがわれる(この点,相手方は,0.5秒よりも短周期側の地震動レベルが示されていないため比較のしようがないと主張するが,同図を見る限り,浅部地盤は短周期の地震動を生じにくいとはいい難い。)し,相手方がその主張の根拠とする疎明資料(乙298,435)は,影響が長周期成分に限られると仮定しているに過ぎないもの,あるいは,地表地震断層が出現するような規模の大きい地殻地震が発生した場合,断層極近傍域において長周期地震動が生成される可能性が高いとしているに過ぎないものであって,いずれも浅部地盤が短周期の地震動を生じにくいことを明示した知見とはいえない。したがって,相手方の上記主張は採用できない。
そうすると,抗告人らの申立ては,中央構造線の評価に係る危険性の評価について,被保全権利の疎明がなされたというべきである。
(5)

本件発電所敷地の地盤について
抗告人らは,中央構造線の位置に関連する争点として,本件発電所敷地の地盤に関する主張をする。すなわち,本件発電所は中央構造線のダメージゾーンに位置するものと考えられ,本件発電所敷地の岩盤もボロボロであり,もし中央構造線の断層が活動した場合には,本件発電所の地盤を構成している岩盤が地震動によって深層崩壊する危険性があると主張する。この点,疎明資料(乙13[6-3-8~19,73~82,112~123頁])によれば,相手方は,本件発電所敷地周辺の地質図をもとに,本件発電所敷地周辺陸域の地質構造が安定していること,本件発電所敷地内において,地表地質調査,地表弾性波探査,ボーリング調査,試掘坑調査,掘削面観察,深部ボーリング調査,地下水位調査等を実施した結果に基づいて,本件発電所敷地の地盤は三波川変成岩類のうち主に塩基性片岩で構成されており,本件発電所敷地内の塩基性片岩は片理があるものの,一般に剥離性が弱く,塊状かつ堅硬であること,本件発電所敷地の地盤はほぼ水平で,その岩盤は深度約50mから少なくとも約2000mまでは堅硬かつ緻密な泥質片岩を主体とする結晶片岩が連続しており,塊状かつ堅硬で安定していること,本件発電所敷地内にみられる断層はほとんどが10cm未満と小さく,地下深部への連続性もないこと,本件原子炉施設に係る基礎地盤が支持力,すべり安全性,変形に対する抵抗力を有し,基準地震動による地震力が作用した場合においても地耐力があるといえること,本件原子炉の周辺斜面もすべり安全性を有し,基準地震動による地震力が作用した場合においても安定性があると認められることを確認し,本件原子炉に係る設計基準対象施設及び重大事故等対処施設の地盤が設置許可基準規則3条及び38条に適合するものと判断し,規制委員会もその判断を正当と認めたことが認められる。

これに対し,抗告人らは,相手方が自ら伊方ビジターズハウスに展示している苦鉄質片岩について,表面が新鮮な破壊面でなく,マンガン焼けが認められ,また,上面が光沢のある鏡肌となっているというC准教授の意見と,伊方最高裁判決の事案において,第1審の松山地方裁判所が採用した鑑定人生越忠氏の鑑定書(甲890。以下生越鑑定という。)の記載を根拠として,上記アのとおり主張する。
しかし,C准教授の意見の根拠として挙げられている,伊方ビジターズハウスに展示されている苦鉄質片岩の表面が新鮮な破壊面でないこと,マンガン焼けが認められること,及び上面が光沢のある鏡肌となっていることについては,C准教授の意見(甲1035,1056,乙480)を見ても明らかではなく,これらの事実を認めるに足りる的確な資料は見当たらない。
また,生越鑑定は,本件原子炉施設の敷地の地盤は三波川結晶片岩から構成されているが,同結晶片岩は片理が著しく発達し,また,節理や断層で切られ,さらに,低角度のすべり面によって大小のレンズ状岩体に破断されているところが少なくないため,巨視的には,いわゆる一枚岩的岩質を有するとはいえず,上記断層のうちのかなり多くのものは,中央構造線の運動に伴って生成された可能性が高いから,敷地の地盤は堅硬なものではなく,むしろ脆弱であるというものであり,生越鑑定に写真が添付されていたことは,その記述から明らかであるが,疎明資料(甲890)にはその添付がないため,写真が本件発電所敷地のどこを撮影したものかも不明である。また,生越鑑定の意見は,レンズ状岩体については,直径数十cmから数m,ときにはそれ以上に達し,小レンズ状岩体はみかけ上も破断を受けている印象が明瞭であるが,大きなレンズ状岩体でも,多くの小レンズ状岩体に分断されているという,全体として印象を述べたものに過ぎず,測定された数値に基づいた判断ではない。さらに,破砕帯の多くは幅40cm以下の小規模なもので,最大規模の破砕帯は70cm内外に達し,断層粘土の幅も数cmに及んでいるとはいうものの,上記断層が地下深部に及んでいるかどうかは明らかにされていないため,この程度の大きさの破砕帯が地盤の地耐力に影響するとは認め難い上,そもそも上記70cmの破砕帯は2号炉の基礎に存在したようであり(甲890[43頁]),本件原子炉施設の基礎周辺で発見されたものとは認められない。
加えて,生越鑑定が昭和51年に作成されたものであること(甲890)に照らすと,これが依拠した各種知見及び調査結果の精度が,現在の科学技術水準に照らして十分であるとは認め難いし,相手方による地盤調査や周辺斜面の安定性評価が生越鑑定の依拠した調査及び知見に劣るとも考え難い。
以上によれば,C准教授の意見及び生越鑑定によっても,相手方による上記アの地盤評価の信用性が覆るものではない。したがって,本件発電所敷地の地盤に関する抗告人らの主張は採用できない。
(6)

以上によれば,前記(4)で検討したところから,その余の点について検討
するまでもなく,被保全権利が認められる。しかし,本件の審理の経過に鑑み,火山事象に対する安全性(争点4)についての検討も,次に行うことにする。
3
火山事象の影響に対する安全性
(1)

認定事実
次のとおり補正するほか,原決定理由欄の第6の4項(1)に記載のと
おりであるから,これを引用する。

原決定249頁23行目の乙の次に324,を加える。


原決定250頁21行目末尾に改行の上次のとおり加える。
・約14万年前の阿蘇2噴火(50km3以上)


原決定251頁1行目を削除する。


原決定251頁2行目の前野を前のと改める。


原決定252頁5行目のこのNagaoka(1988)から8行目末尾までを相手方は,後記のとおり,現在の阿蘇は,多様な噴火様式の小規模噴火を繰り返しているとして,これを上記知見の噴火ステージに当てはめると後カルデラ火山噴火ステージに相当するものと判断した。ただし,カルデラ噴火一般について,大規模火砕流噴火に先行してプリニー式噴火があることが多いが,プリニー式噴火を伴わずいきなり火砕流噴火になることもあるとされる(乙372,373)。と改める。

原決定252頁14行目の366,376を365,366,372,376と改める。

原決定253頁8行目の373,の次に376,を加える。


原決定255頁2行目から3行目にかけてのマグマ溜まりのから5行目末尾までをマグマ溜まりの形成によって壁岩が過熱されると脆性破壊強度よりも塑性変形強度が小さくなり得るため,増圧による開口割れ目が形成される前に,母岩(周辺の岩石全体)が流動変形して応力集中を解消することが考えられ,その場合,母岩が大きな変形をこうむるため,マグマ溜まりの拡大に伴って地表に大きな変形をもたらすと期待されるとの指摘がある。と改める。ケ
原決定255頁21行目の『階段ダイヤグラム』の次に

(横軸に時間,縦軸に噴出量をとった折れ線グラフを作成し,長期的な噴火の見通しを立てる手法のこと《乙366》。)

を加える。

原決定259頁16行目の行政機関を及びを行政機関及びと改
める。


原決定260頁5行目の基本的な考え方』の次に(以下「基本的な考え方という。)」を加える。

原決定261頁11行目末尾に改行の上次のとおり加える。
d規制委員会は,平成30年12月19日に『実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について』(以下「新規制基準の考え方という。)を改訂した。そこでは,巨大噴火を原子炉等規制法43条の3の6第1項4号の『災害』に含めるとした上で,上記bと同様の考え方から,巨大噴火の発生可能性が相応の根拠をもって示されない限り,巨大噴火によるリスクは,社会通念上容認される水準であると判断できるとした上で,科学技術的判断のため必要な範囲内で巨大噴火を考慮するとして,現在の火山学の知見に照らした火山学的調査を十分に行った上で,火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態ではないことが確認でき,かつ,運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるといえない場合は,少なくとも運用期間中は,『巨大噴火の可能性が十分に小さい』と判断できるとしている(乙450[346~349頁])。」


原決定268頁7行目の2~3万年の次にに1回を加える。

原決定270頁14行目の[15頁]を[6,9~10,13,15頁]と改める。

原決定270頁15行目の現在の阿蘇火山の噴火活動は,を次のとおり改める。
草千里ヶ浜降下軽石が噴出した3万年前以降のマグマ噴出量に注目すると,苦鉄質マグマ2.3km3に対し,珪長質マグマはわずかに0.2km3に過ぎず,噴出の頻度も非常に乏しい。火山噴出物の岩石学的特徴を見ても,ストロンチウム同位体組成が,阿蘇2~阿蘇4にかけては比較的均質であるのに対し,阿蘇4以降は不均質となっている。ここから,阿蘇2~阿蘇4においては一つのマグマ溜まり(つまり,巨大なマグマ溜まり)が存在したのに対し,阿蘇4以降は複数のマグマ溜まりが存在した(つまり,巨大なマグマ溜まりはなかった)ことがうかがわれる。また,1930年代以降,地殻が沈降しており,マグマ溜まりが収縮していることがうかがわれる。さらに,珪長質な巨大マグマ溜まりが存在する場合,深部から供給される苦鉄質マグマは珪長質マグマにトラップされることでカルデラ中央部から噴出できないはずであるが,阿蘇カルデラにおいてはカルデラ中央部で主に苦鉄質マグマが噴出している。以上にみたとおり,現在の阿蘇火山の噴火活動は,

原決定271頁19行目の現在の阿蘇においてこのような前兆現象はを次のとおり改める。
2016年の熊本地震と阿蘇カルデラの関係から,阿蘇カルデラの深部には,カルデラ噴火を引き起こすような巨大なマグマ溜まりが存在していないことが示唆されること,過去数百年以内に珪長質マグマの流出的噴火が発生していないことなどに照らすと,現在の阿蘇において上記モデルに合致するような前兆現象はチ
原決定272頁20行目を次のとおり改める。
将来の阿蘇4タイプの噴火について,数値的な発生可能性を明らかにすることは困難であるが,私の意見としては,入手可能な最善の科学的知見を用いることによって,本件発電所の健全性や安全性評価のためにこのような噴火が起こることを考慮すべきかどうかを判断することが可能である。すなわち,

原決定273頁12行目から13行目にかけての地下約6kmのマグマ溜まり等が検出されているところをいくつかの小規模なマグマ溜まり等が検出されているにもかかわらずと改める。
(2)

立地評価について
相手方は,火山ガイドにしたがい,本件原子炉施設に影響を及ぼし得る火山の抽出について,半径160kmの地理的領域内にある42の第四紀火山のうち,完新世に活動を行った火山として鶴見岳,由布岳,九重山,阿蘇及び阿武火山群と,完新世に活動を行っていないが将来の活動可能性を否定できない火山として姫島,高平火山群を抽出し,規制委員会は,その評価を妥当であると判断した(前提事実8(3)ア)。そして,上記抽出(特に阿蘇の抽出)の過程及び規制委員会の判断に問題とされるべき点は見受けられない。


上記の各火山(検討対象火山)の個別評価について
(ア)火山ガイドは,前提事実(8(2)イ)のとおり,上記の個別評価について,過去の火山活動履歴とともに,必要に応じて,地球物理学的調査(マグマ溜まりの規模や位置,マグマの供給系に関係する地下構造等について分析)及び地球化学的調査(火山噴出物等について分析)により現在の火山の活動の状況も併せて把握した上で,①以上の調査結果と上記アの火山の抽出の際に行った文献調査,地形・地質調査及び火山学的調査結果を基に,原子力発電所の運用期間中における検討対象火山の活動の可能性を総合的に評価し,その結果,活動の可能性が十分小さいといえない場合には,さらに,②噴火規模を推定し,噴火規模における設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価し,これにより原子力発電所の立地の適否を判断するというものである。
以上の内容に照らすと,火山ガイドは,文献調査,地形・地質調査及び火山学的調査により過去の火山活動を分析した結果に加えて,必要に応じて地球物理学的及び地球化学的調査を行うことにより,検討対象火山が原子力発電所の運用期間中に活動する可能性が十分に小さいかどうか,活動する可能性が十分に小さいとはいえない場合には,その火山活動の規模(噴火規模)を判断できること,すなわち,噴火の時期及び規模について,少なくとも発電用原子炉の運転の停止及び核燃料物質の敷地外への搬出に要する期間の余裕を持って,予測できることを前提としているものと解さざるを得ない。
これに対し,相手方は,火山ガイドは,将来の活動可能性が否定できない火山について,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいか?を評価するものであって,検討対象火山の噴火の時期及び程度が相当前の時点で予測できることを前提とするわけではない旨主張するが,検討対象火山の噴火の時期も程度も予測できないのに,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいか?を評価できるとは考え難いというほかなく,相手方の上記主張は採用できない。
(イ)

そこで,現在の科学技術水準に照らし,上記(ア)のような予測が可能
かどうかについて検討するに,阿蘇については今後数百年間以内に巨大噴火が発生するような状況にはないと明言するなど,少なくとも阿蘇については原子力発電所の運用期間中に巨大噴火が発生する可能性は相当低いといえるとする専門家もいるものの(上記(1)のとおり補正の上引用した原決定理由欄の第6の4項(1)の認定事実(本項において,以下認定事実という。)ウ(オ),(キ),(ク)),火山検討チームにおける検討では,通常の噴火では予知は難しく,巨大噴火についても,その時期や規模を予測することは困難であり,少なくとも燃料の搬出等に間に合うだけのリードタイム(数年あるいは10年という単位)をもって巨大噴火の時期及び規模を予測することは困難であるという意見が大半を占め,招へいされた専門家の意見をまとめた原子力施設に係る巨大噴火を対象とした火山活動のモニタリングに関する基本的考え方にもその旨記載されていること(認定事実イ),火山検討チームに招へいされたメンバーの一人である藤井教授は,数十年単位の噴火可能性を議論すること自体に無理がある,原子力発電所の稼働期間中にカルデラ噴火の影響をこうむる可能性が高いか低いかという判定そのものが不可能なはずであるとの見解を示し,これと同旨の意見を述べる専門家が複数いること(認定事実ウ(ア),(イ),(エ))に照らすと,現在の科学技術水準においては噴火の時期及び規模についての的確な予測は困難であり,VEI6以上の巨大噴火についても中長期的な噴火予測の手法は確立しておらず,原子力発電所の運用期間中に検討対象火山が噴火する可能性やその時期及び規模を的確に予測することは困難であるとの見解が多数を占めており,原子力発電所の設置等の許否の判断に際しては,保守的見地から,このような見解を前提にして検討される必要があるといわなければならない。
したがって,火山ガイドの個別評価についての定めのうち,上記予測が可能であることを前提とする部分は,不合理であるといわざるを得ない。そうすると,①原子力発電所の運用期間中における検討対象火山の活動の可能性が十分小さいといえないのであるから,②設計対応不可能な火山事象の評価に進むが,噴火規模を推定することもできないから,検討対象火山の過去最大の噴火規模を想定して,設定対応不可能な火山事象の本件発電所敷地への到達可能性が十分に小さいか否かを判断すべきことになる。
(ウ)

基本的な考え方及び新規制基準の考え方において示された巨大噴火
の可能性の評価に関する考え方について
以上に対し,相手方は,巨大噴火については,火山の現在の活動状況について巨大噴火が差し迫った状態ではないことを確認し,これが確認できた場合は,巨大噴火によるリスクが社会通念上容認される水準であることを踏まえると,運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるといえなければ,運用期間中において巨大噴火の可能性が十分に小さいと評価できると主張し,規制庁による基本的な考え方及び規制委員会の平成30年12月19日に改訂された新規制基準の考え方を援用する。
しかし,火山ガイドには,巨大噴火とそれ以外の噴火を分けた記載はなく,むしろ,設計対応不可能な火山事象の評価において,影響範囲を判断できない場合には,設計対応不可能な火山事象の国内既往最大到達距離を影響範囲とするとしており,これは当然に巨大噴火による影響範囲を評価する内容である。しかも,上記(イ)で説示したとおり,現在の科学技術水準においては,運用期間中において巨大噴火の可能性が十分に小さいと評価することが困難であるにもかかわらず,上記の主張によれば,火山の現在の活動状況について巨大噴火が差し迫った状態ではないことを確認できれば,運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠のない限り(前記の科学的知見によれば,噴火の時期及び規模を事前に予測することは困難であって,運用期間中に巨大噴火が発生することに具体的な根拠のある場合は,容易に想定できない。),運用期間中において巨大噴火の可能性が十分に小さいとみなすというものであって,火山ガイドが想定している各種の科学的調査の結果を基にした火山活動の可能性評価からは逸脱しているといわざるを得ない。本件原子炉の再稼働に当たってされた本件原子炉に係る原子炉設置変更許可等の申請並びにこれに対する規制委員会の審査及び許可等の処分においても,阿蘇4噴火について,巨大噴火であるという理由で通常の噴火と別の扱いがされた様子は見受けられない。したがって,相手方の上記主張は,採用できない(ただし,以上を前提にして検討した結果,当該発電所の立地が不適と判断される場合でも,想定された噴火規模によっては,社会通念に照らし,それだけで立地不適とするのが相当でない場合があり,この点は,後記(オ)で検討する。)。
(エ)

以上で検討したところによれば,本件においても,検討対象火山の
過去最大の噴火規模を想定して,設定対応不可能な火山事象の本件発電所敷地への到達可能性が十分に小さいか否かを判断すべきことになる。そうすると,阿蘇については,過去最大の噴火規模である阿蘇4噴火を想定して,上記判断をすべきことになる。
この点,相手方は,前提事実(8(3)ア)のとおり,火砕物密度流に関し,阿蘇4噴火によって発生した火砕物密度流の堆積物は本件発電所敷地に達していないと評価した。
しかし,町田教授は,認定事実ウ(ウ)のとおり,噴出中心から約150km離れた山口県秋吉台でも阿蘇4火砕流堆積物が厚く残っていることからすると,噴出中心から半径約150kmの範囲内に火砕流が到達したとみるのは,ごく常識的な判断であるところ,阿蘇カルデラから本件発電所敷地まで約130kmしかないので,本件発電所敷地は阿蘇4火砕流が到達した範囲に入るといえる,火砕流にとって,海面は摩擦が少なく,水域は障害にならない,佐田岬半島が急斜面からなる山地の続きでテフラは残り難く,積もっても海水や風雨ですぐに浸食される地形であるため,伊方の周辺地域に火砕流堆積物がなくても火砕流が来なかったとはいえないとの見解を述べている。また,日本第四紀学会編(1987)及び町田・新井(2011)において,阿蘇4噴火の火砕物密度流が本件発電所敷地の位置する佐田岬半島に到達した可能性を示唆していることは,相手方も自認するところである。これらの事実に照らすと,阿蘇による設計対応不可能な火山事象が本件発電所敷地に及ぶ可能性はあるというべきである。
これに対し,相手方は,①Dr.Brittainが,火砕物密度流が海に接することで火砕流としては存在し得なくなる,山口県下で阿蘇4火砕物密度流堆積物が認められたのは,阿蘇4噴火の当時,周防灘海域に水がなく,上記地域まで阿蘇から陸続きであったからであり,阿蘇4噴火当時も海域が存在した佐田岬半島周辺とは事情が異なる,したがって,阿蘇4火砕物密度流が本件発電所敷地に到達したとは考えられない旨の意見を述べていること(乙423),②香川大学工学部教授長谷川修一及び駒澤大学非常勤講師柳田誠(以下長谷川教授らという。)が,山口県下で阿蘇4噴火の火砕流堆積物が発見されている一方,佐田岬半島では発見されていない理由として,㋐阿蘇4の火砕物密度流は同心円状に拡がったのではなく,偏在して分布していること,㋑阿蘇から東方向の火砕物密度流は大野山地・佐賀関半島にぶつかってその多くが南側(臼杵市方面)に流れ,本件発電所のある北側(大分市方面)には少ししか流れなかったことを挙げ,更に㋒Dr.Brittainと同様,九州と山口は陸続きであったのに対し,四国は海を隔てていたため,火砕流が四国には到達しなかった可能性が高い旨の意見を述べていること(乙419)を根拠として,阿蘇4噴火の火砕流は本件発電所に到達していないと主張する。しかし,上記のうち①及び②㋒は町田教授の見解と相反する見解であり,いずれの見解が正しいとも断じ得ないし,②㋐は一般論としては否定し難いものの,佐田岬半島に阿蘇4火砕流が到達していないことを積極的に根拠づけるものではない。一方,②㋑は阿蘇に近い地域における火砕流堆積物の分量の比較に基づいた知見であって,その合理性は否定し難いが,大野山地・佐賀関半島から見て同じく北側にある山口県下で阿蘇4火砕流堆積物が発見されていることに照らすと,佐田岬半島に阿蘇4火砕流が到達していない根拠にはなり得ないといわざるを得ない。
以上によれば,相手方の上記主張を考慮しても,阿蘇による設計対応不可能な火山事象が本件発電所敷地に及ぶ可能性について,これを否定することまではできないというべきである。
そうすると,本件原子炉について,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいとはいえないことになるから,火山ガイドによれば,立地が不適ということになる。(オ)

以上によれば,相手方において,本件原子炉施設について,新規制
基準に適合するとの規制委員会の判断に不合理な点がないことについて疎明することができなかったということになる。
しかし,規制委員会のした処分の適否自体が問題になる訴訟とは異なり,本件で問題になっているのは,人格権に基づく差止め請求との関係での具体的危険性であって,前記1(3)イで説示したとおり,具体的危険性については,どの範囲までの危険が許されるかという社会通念をもって判断する必要があることも否定できないところである。
そこで,この点について検討すると,次のとおりである。
a
我が国においては,火山の噴火自体は決して珍しい自然現象ではないが,規模が大きくなればなるほど発生頻度は低下し,特にVEI7以上の破局的噴火については,日本列島全体で1万年に1回程度しか発生していない(認定事実ウ(ア),(イ),(エ)。なお,九州全体では約2~3万年に1回程度,阿蘇については6万年に1回程度とする知見もある。)という著しく発生頻度の小さい自然現象である。そして,破局的噴火によって噴出する大量の火砕流は,広域的な地域に重大かつ深刻な災害を引き起こすものであり,例えば,現時点で阿蘇カルデラにおいて阿蘇4噴火のような破局的噴火が起きた場合には,九州の中部以北は火砕流の直撃でほぼ全滅し,死者は1000万人を超え,北海道を含む日本列島全体が15cm以上の厚い火山灰で覆われて,家屋の倒壊が相次ぎ,また,ライフラインが機能停止するとともに食料生産も不可能となって,かろうじて生き残った人々も火山灰に覆われた日本列島から海外への避難・移住が必要となるといわれている(認定事実ア(イ)a)。そうすると,破局的噴火が起きた場合には,これにより原子力発電所から放射性物質が周辺の環境へ放出される事故が起きるか否かにかかわらず,周辺住民は,その生命,身体又はその生活基盤に重大な被害を受けるといわなければならない。にもかかわらず,これを想定した法規制や行政による防災対策が原子力規制以外の分野において行われているという事実は認められない。
以上によれば,破局的噴火の場合におけるリスクに対する社会通念,すなわち,わが国の社会における受け止め方は,それ以外の自然現象に関するものとは異なっており,相当程度容認しているといわざるを得ず,破局的噴火による火砕流が原子力発電所施設に到達する可能性を否定できないからといって,それだけで立地不適とするのは,社会通念に反するというべきである。もっとも,前示のとおり,巨大噴火には何らかの短期的前駆現象が発生することが予想されるという知見があり,そのような現象が認められる場合にまで,原子力発電所の設置等を認めるのが社会通念に合致するとは到底いえないから,破局的噴火の短期的前駆現象があることを相応の根拠に基づき示された場合には,原則に戻り,立地不適とし,周辺住民の人格権侵害についての具体的危険性を否定できないと解される。
b
これに対し,抗告人らは,①破局的噴火が低頻度であるとしても,その被害の甚大さからすれば,破局的噴火を考慮しないのは不合理であり,国際的な基準にも反する,②原子力規制に関する他の外部事象(断層,竜巻,航空機事故)との整合性を考慮すべきである,③破局的噴火に対する国民の関心の低さを根拠とすべきではなく,多くの火山学者は巨大噴火について国家的対策が必要であると指摘している,と主張する。
そこで検討するに,上記①については,先に説示したとおり,火山の噴火については,その規模が大きくなればなるほど,発生頻度は低下する関係にあるが,その最大規模の自然現象の発生頻度(リスク)が零になることはないから,そのようなリスクを許容するか否か,許容するとしてどの程度まで許容するかについて,社会通念をもって判断せざるを得ないことも否定するわけにはいかないのであって,被害が甚大であるからといって,このような判断手法自体が否定されるものではない。抗告人らは,佐藤暁作成に係る鑑定意見書(甲1013。以下佐藤意見書という。)をもとに,国際的な基準からすれ
ば,設計対応不可能な火山事象が敷地に到達する可能性は10-7/年,すなわち,1000万年に1回を超えないことが確認される必要があると主張するが,佐藤意見書においても,炉心損傷頻度(CDF)や大規模早期放出頻度(LERF。10-5/年)を十分に下回る必要があることなどから,10-7/年が妥当な水準と考えられる(甲1013[6頁])というもので,このような表現ぶりからすると,上記水準が国際的な基準として確定しているとはいえない。もっとも,佐藤意見書は,あるハザードが当該の原子力発電所にとって有意なリスクとなり得るか否かの閾値として,1000万年に1回の襲来頻度が多くに用いられていると指摘するが,例えば,地震ハザードについては,このような設計基準を設定するのに現実的な困難があるとして,上記水準が用いられていないとも記載されていること(甲1013[22頁])からすると,国際的な基準として現に上記水準が用いられているということはできない。したがって,抗告人らの上記①の主張は採用できない。
次に,上記②(他の外部事象との整合性)について検討すると,認定事実によれば,規制委員会において,更田委員長が,地震の観測記録は日常的と言っていいぐらいにあるが,巨大噴火は有史以来,人類が経験しておらず,記録がないという巨大噴火のハザードとしての特性に留意した議論が必要であり,他のハザードとの比較の議論は危険をはらんでいる旨の意見を述べ,この点につき他の委員から異論は出ていない(認定事実イ(ウ)c)。また,IAEAの安全ガイドの主著者であるDr.Brittainも,阿蘇4タイプの噴火の発生確率について,正確な数値を計算することは困難であり,地震ハザードを評価するために使われるような数値計算法は,阿蘇4タイプのような将来のカルデラ噴火の数値的な発生確率を算定するためには使用することができない旨,更田委員長の上記意見に合致する意見を述べている(認定事実ウ(ケ))。これらの知見に照らすと,火山の噴火の発生頻度について,地震など他のハザードと同様の閾値を用いるべき必然性があるとは認められないから,抗告人らの上記②の主張も採用できない。
他方,上記③(国民の関心等)については,認定事実のとおり,石原教授及び藤井教授が内閣府の委員会においてカルデラ噴火が非常に危機的なものであるとの提言をしたこと(認定事実イ(ア)d),火山検討チームが,国として巨大噴火の可能性を考慮した処置を講ずるため,調査・研究を推進していくべきであるという基本的な考え方を示したこと(認定事実イ(イ))が認められるから,今後,破局的噴火を想定した防災対策等についての立法的,行政的措置が進められ,国民の間でも破局的噴火を想定した取組みが行われるなど,破局的噴火のリスクに対する社会通念が変化していく可能性があることは否定できない。しかし,少なくとも現時点においては,わが国において,破局的噴火について地震等と同程度のハザードとして認識するという社会通念が形成されているとは認め難いから,抗告人らの上記③の主張も採用できない。
c
以上によれば,破局的噴火による火砕流が原子力発電所施設に到達する可能性を否定できないからといって,それだけで立地不適として,具体的危険性が存在しないとするのは,社会通念に反するというべきである。したがって,本件原子炉についても,阿蘇4噴火による火砕流が本件原子炉施設に到達する可能性を否定できないとの前記(エ)の判断から,立地不適とすることはできない。
もっとも,前示のとおり,破局的噴火の短期的前駆現象があることを相応の根拠に基づき示された場合には,原則に戻り,立地不適として,具体的危険性を否定できないことになる。しかし,疎明資料及び審尋の全趣旨によっても,阿蘇において破局的噴火の短期的前駆現象があることを示す相応の根拠があると認めることはできない。なお,須藤氏は,安部氏の博士号論文で草千里南部のマグマ溜まりの下に体積500km3の巨大な低速度領域があることが検知されており,こういった低速度領域がマグマ溜まりであり,近い将来にVEI7級の噴火を引き起こす可能性も決して否定できないとの見解を述べる(認定事実ウ(エ))が,須藤氏の上記意見のもととなる知見を述べた安部氏は,上記低速度領域について,最大数十km3のマグマが存在する可能性があるものの,熱源が存在していない部分もあり,マグマ溜まりが新たに形成されていく傾向にもないと述べているし(認定事実ウ(カ)),その点を措いても,上記の知見だけでは,破局的噴火の短期的前駆現象があることを示す相応の根拠とはいい難い。
(カ)

以上のとおり,阿蘇については,本来,過去最大の噴火規模である
阿蘇4噴火を想定して,設定対応不可能な火山事象の本件発電所敷地への到達可能性が十分に小さいか否かを判断し,その結果,阿蘇による設計対応不可能な火山事象が本件発電所敷地に及ぶ可能性は否定できないという結果になり,本来立地不適となるところであるが,破局的噴火に相当する阿蘇4噴火(VEI7)による火砕流が原子力発電所施設に到達する可能性を否定できないことを理由に,立地不適として具体的危険性を認めるのは社会通念に反して許されないことになる。
そこで,このような場合は,改めて阿蘇で阿蘇4噴火に準ずる規模の噴火を前提にして設計対応不可能な火山事象が本件発電所敷地に及ぶ可能性について検討すべきである。すなわち,阿蘇については,本来,阿蘇4噴火と同等の噴火規模の噴火が起こる可能性が十分小さいとはいえないことを前提にして,設計対応不可能な火山事象の到達可能性を検討すべきなのだから,それが社会通念に反することになった場合は,これに準ずるVEI6の噴火,すなわち噴出量数十km3の噴火が起こる可能性も十分小さいとはいえないとして,この噴火規模を前提にして立地評価をするのが当然のことである。
これに対し,相手方は,基本的な考え方に従い,検討対象火山の過去最大の噴火規模を最後の巨大噴火以降の最大の噴火規模に限定し,Nagaoka(1988)でいう後カルデラ火山噴火ステージにおける既往最大規模である阿蘇草千里ヶ浜噴火の規模(噴出量約2km3
)を用いて立地評価をすべきである旨主張する。その理由として,相
手方は,①阿蘇においては,阿蘇4噴火の後は,後カルデラ期噴火ステージにあって,噴火の態様がカルデラ形成期と異なるし,統計的にも噴火活動に相当な変化があったと解釈するほうが妥当な状況にあること,②巨大噴火が発生するためには,地下に大規模な珪長質のマグマ溜まりがあることが必要であるが,近年の阿蘇の火山活動からすると,現在阿蘇のマグマ溜まりに蓄積されているマグマは,巨大噴火を起こしにくい玄武岩質マグマが主体であると考えられること,③マグマの成因の違いを示す指標となる,噴出物に含まれる微量元素(ストロンチウム)の傾向の違いからも,巨大なマグマ溜まりはないことが推察されること,④阿蘇カルデラ内の地殻変動データ等に照らすと,阿蘇のマグマ溜まりは縮小傾向にあり,今後の阿蘇の火山活動は,1930年代のような大規模なものではなく,ましてや大規模なカルデラ噴火が起こるような状態ではないと考えられることを指摘する。
しかし,上記①は,Nagaoka(1988)が提唱したいわゆる噴火ステージ論を前提とした主張であるところ,火山学に関する専門家の中でも,小山氏は,噴火ステージ説は噴火史上のパターン認識にもとづいた仮説に過ぎないとの意見を(認定事実ウ(イ)),町田教授は,Nagaoka(1988)で記されている噴火ステージのサイクルは,テフラ整理のための一つの考え方に過ぎず,これによって破局的噴火までの時間的猶予を予測できる理論的根拠にはならないとの意見を(認定事実ウ(ウ)),須藤氏は,噴火ステージは,テフラ層序について整理するための作業仮説に過ぎず,将来の噴火の予測のためには全く使えない概念であるとの意見を(認定事実ウ(エ))それぞれ述べている。このように,噴火ステージ論に対しては,複数の専門家からこれを噴火の予測に用いることにつき疑問を呈されているのであるから,少なくとも,噴火ステージ論に基づいた主張だからといって直ちに合理的であるということはできない。また,上記②~④については,確かに同主張を裏付ける知見がある(認定事実ア(ウ)b)けれども,火山検討チームにおいて,現在の科学技術水準ではマグマ溜まりの規模を的確に推測することが難しいという意見が出され,また,火山検討チームは,噴火がいつ・どのような規模で起きるかといった的確な予測は困難な状況にあるという基本的な考え方を取りまとめており(認定事実イ(ア)d,(イ)),これらの知見に照らすと,上記各指摘を理由に,阿蘇4噴火以降の最大規模の噴火のみを考慮するということにはなり得ず,相手方の主張に合理性はないといわなければならない。そして,阿蘇が,過去に阿蘇4を初めとして巨大噴火を繰り返してきた火山であること,現在の科学技術水準ではマグマ溜まりの規模を的確に推測することが難しく,そのため,噴火がいつ・どのような規模で起きるかといった的確な予測も困難な状況にあることに照らすと,阿蘇において,破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火が発生する可能性は否定できないというべきである。
そこで,阿蘇において噴出量数十km3の噴火規模における設計対応不可能な火山事象の噴火が本件発電所敷地に到達する可能性が十分に小さいか否かを検討するに,阿蘇4噴火の火砕流が本件発電所に到達したといえるか否かについてすら,専門家の間で意見が分かれていること,阿蘇において噴出量数十km3の噴火規模の噴火で本件発電所敷地に火砕物密度流が到達することを裏付ける知見が存在しないことに照らすと,阿蘇における上記の規模の噴火で火砕物密度流が本件発電所敷地に到達する可能性は十分小さいと認めるのが相当である。
(キ)

相手方は,検討対象火山の個別評価として,火災物密度流以外の設計対応不可能な火山事象は問題とならず,火災物密度流についても,阿蘇以外の火山は火山活動の履歴や敷地までの離隔距離等から考慮する必要がないと判断し,規制委員会もこれを妥当であると評価したが,この判断に不合理な点はない。
(ク)

以上によれば,火山ガイドの中には一部不合理なところがあるが,
その部分を修正することにより火山ガイドの基準を適用することができ,その結果,本件発電所について,設計不可能な火山事象が到達する可能性は十分小さいと評価することができ,この点についての規制委員会の判断は,結果的には不合理なものではない。
(3)

影響評価について
前提事実(8(3)ア,イ)のとおり,相手方は,阿蘇について本件原子炉施設の運用期間中に巨大噴火が発生する可能性が十分に小さいとした上で,阿蘇については最後の巨大噴火である阿蘇4噴火以降最大規模の噴火である草千里ヶ浜軽石噴火(噴出量約2km3)を考慮するが,本件発電所敷地からは九重山の方が近いことなどから,約5万年前の九重第一軽石による影響の方が大きいとして,九重第一軽石の噴出量を保守的に6.2km3と想定した上でシミュレーションを行い,これをもとに降下火砕物の層厚を15cmと想定した。


しかし,前記(2)で検討したとおり,阿蘇については,阿蘇4噴火に準ずる噴出量数十km3の噴火規模を考慮すべきである。そうすると,その噴出量を20~30km3としても,相手方が想定した九重第一軽石の噴出量(6.2km3)の約3~5倍に上り,本件発電所からみて阿蘇が九重山よりやや遠方に位置していることを考慮しても,相手方による降下火砕物の想定は過小であり,これを前提として算定された大気中濃度の想定(約3.1g/m3)も過小であるといわなければならない。
この点,相手方は,非常用ディーゼル発電機の火山灰フィルタの性能を大きく向上させ,気中降下火砕物濃度として想定する約3.1g/m3に対して大きな余裕をもって対応できるように対策工事を完了したこと,万一非常用ディーゼル発電機が機能喪失した場合にも,動力源がなくてもタービン動補助給水ポンプに給水が可能な水源によって約17.1日間にわたり原子炉の冷却が可能であり,さらに,給水に動力源が必要な水源や本件原子炉のみならず本件発電所の1号機及び2号機に係る水源をも活用すれば,さらに本件原子炉を冷却できる期間が延びることを主張する。確かに,疎明資料(乙329)によれば,本件原子炉の非常用ディーゼル発電機の吸気消音機の周囲に設置する火山灰フィルタは,相手方が気中降下火砕物濃度として想定する約3.1g/m3に対応するために必要な表面積を上回っている(必要表面積5.9m2に対し,約6.1m2を確保している)ことが認められるが,上記のとおり,阿蘇において,破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火が発生する可能性を否定できないとすれば,相手方が気中降下火砕物濃度として想定する約3.1g/m3の約3~5倍もの噴出量が想定されるところであって,上記フィルタの性能がこのような噴出量まで想定しているとは認められない。また,相手方は,想定される気中降下火砕物濃度が約3.1g/m3であり,ディーゼル発電機の機能が喪失しないことを前提として本件原子炉に係る原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請を行い,規制委員会もこれを前提として上記各申請を許可ないし認可しているのであるから,上記気中降下火砕物濃度の想定が不合理といえるならば,これを前提とした上記各申請及びこれに対する規制委員会の判断自体も不合理であるというべきであって,非常用ディーゼル発電機が機能喪失した場合にも本件原子炉の冷却が一定期間可能であるからといって,上記判断が覆るものではない。そうすると,相手方による原子力発電所への火山事象の影響評価は過小であって,これを前提とした相手方による本件原子炉に係る原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請も合理性を欠くというべきであるから,規制委員会がこれを問題ないとして行った判断は不合理であったといわざるを得ない。
したがって,相手方は,上記のとおり,本件原子炉施設が新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点があると認められるから,規制委員会の判断とは別に,本件原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺の環境に放出され,その放射線被ばくにより抗告人らがその生命,身体や生活基盤に重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠,資料に基づき,主張・疎明する必要があるが,疎明資料及び審尋の全趣旨によっても,原子力発電所への火山事象の影響評価につき,相手方による具体的危険の不存在の主張疎明がされたとは認められない。
そうすると,抗告人らの申立ては,原子力発電所への火山事象の影響について,被保全権利の疎明がなされたというべきである。
4
保全の必要性及び担保の要否
(1)

本件原子炉は,現在稼働中であり,前示のとおり,その運用によって抗
告人らの生命,身体等に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険があるから,保全の必要性が認められる。
これに対し,相手方は,本件申立てについて保全の必要性があるというためには,本案訴訟の確定判決が得られるまでの間において,本件発電所に影響を及ぼし得る火山において本件原子炉で放射性物質を大量に放出するような事故を引き起こす巨大噴火が発生することが疎明されなければならないと主張する。しかし,上記主張は,当裁判所が認めた被保全権利のうち,地震を原因とする事故に係る部分には影響しないものであるし,火山事象の影響評価についてみても,先に説示したとおり,現在の科学技術水準によれば,火山の噴火の時期及び規模を的確に予測することは困難であり,仮に予測が可能であるとしても精々数日から数週間程度前にしか予測できないというべきであって,本案訴訟の確定判決が得られる前にそのような事態が生じることもあり得るのであるから,本件において保全の必要性が否定されるとはいえない。したがって,相手方の上記主張は採用できない。
もっとも,本件は,証拠調べの手続に制約のある仮処分手続であるから,相手方に運転停止を命じる期間を,本案訴訟の第一審判決の言渡しまでと定めるのが相当である。
(2)
5
本件においては,事案の性質に鑑み,担保を付さないこととする。
よって,以上と異なる原決定は相当でないからこれを変更することとし,主文のとおり決定する。
令和2年1月17日
広島高等裁判所第4部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

沖一岳木雄輔本尚紀
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