判例検索β > 令和1年(行ケ)第2号
選挙無効請求事件
事件番号令和1(行ケ)2
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和元年11月13日
裁判所名・部広島高等裁判所
結果棄却
裁判日:西暦2019-11-13
情報公開日2020-06-04 22:31:39
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主文1
原告らの各請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求の趣旨
原告A(以下原告Aという。

令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙の広島県選挙区における選挙を無効とする。

2
原告B(以下原告Bという。)
令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙の山口県選挙区における選挙を無効とする。

3
訴訟費用は被告らの負担とする。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下本件選挙という。について,

広島県選挙区の選挙人である原告A及び山口県選挙区の選
挙人である原告Bが,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め,
定数配分規定という。
)は憲法に違反し無
効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。

2
前提事実(争いのない事実,公知の事実並びに括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

当事者
原告Aは,本件選挙における広島県選挙区の選挙人であり,原告Bは,本件選挙における山口県選挙区の選挙人であった。

被告広島県選挙管理委員会は,本件選挙に関する事務を管理する広島県の選挙管理委員会であり,被告山口県選挙管理委員会は,本件選挙に関する事務を管理する山口県の選挙管理員会である。

(2)

参議院議員の選挙制度の仕組み及び定数等に関する公職選挙法改正の経

参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,選挙区ごとの議員定数については,憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると定めていることに応じて,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し,定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に,
各選挙区の人口に比例する形で,
2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下平成6年改正という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和
57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下昭和57年改正という。により,

参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比
例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎず,選出方法に変更はなかった。
その後,
平成12年法律第118号による公職選挙法の改正
(以
下平成12年改正という。
)により,参議院議員の総定数が242人とさ
れ,
比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。
さらに,
平成30年法律第75号(以下平成30年改正法という。
)による公職選
挙法の改正(以下平成30年改正という。
)により,参議院議員の総定数
が6増の248人とされ,比例代表選出議員100人(4増)及び選挙区選出議員148人(埼玉県選挙区で2増)とされた。
(3)

平成21年までの選挙区間の最大較差の状況及び定数配分規定の合憲性
に関する最高裁判所大法廷判決
参議院議員選挙法制定当時,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の選挙区間の最大較差というときは,この人口の最大較差をいう。
)は2.62倍(以下,較差に関する数値は,全て概数
である。
)であったが,人口変動により次第に拡大を続け,平成4年に施行された参議院議員通常選挙(以下,単に通常選挙といい,この通常選挙を平成4年選挙という。
)当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人
数の最大較差(以下,各選挙当時の選挙区間の最大較差というときは,この選挙人数の最大較差をいう。
)が6.59倍に達した後,平成6年改正に
おける7選挙区の定数を8増8減する措置により,平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.
81倍に縮小した。
その後,平成12年改正における3選挙区の定数を6減する措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正
(以下
平成18年改正
という。

における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,平成7年から同19年までに施行された各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。
しかるところ,最高裁判所大法廷は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下昭和58年大法廷判決という。
)において基本的な判
断枠組みを示した後,平成4年選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁),平
成6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)その後,

平成12年改正後の定数配分規定の下で施行され
た2回の通常選挙及び平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても,最高裁判所大法廷は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)もっと。
も,上掲最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,上掲最高裁平成21年9月30日大法廷判決においては,当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされるなど,選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で,較差の状況について投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていた。(4)

平成24年の最高裁判所大法廷判決
平成22年7月11日,選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において施行された通常選挙(以下平成22年選挙という。
)につき,最高裁平成
23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下平成24年大法廷判決という。
)は,結論において同
選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており,都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし,それにもかかわらず平成18年改正後は投票価値の大きな不平等がある状態の解消に向けた法改正が行われることのないまま平成22年選挙に至ったことなどの事情を総合考慮すると,同選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。(5)

平成26年の最高裁判所大法廷判決
平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成24年法律第94号。以下平成24年改正法という。,同月26日に施行された。平成24年改正法)
の内容は,平成25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,平成28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。
平成25年7月21日,平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下での初めての通常選挙が施行された
(以下
平成25年選挙
という。。

同選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。

平成25年9月,参議院において平成28年に施行される通常選挙に向けた参議院選挙制度改革について協議を行うため,選挙制度の改革に関する検討会の下に選挙制度協議会が設置された。同協議会においては,平成26年4月に選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案として座長案が示され,その後に同案の見直し案も示された。これらの案は,基本的には,議員1人当たりの人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われた(上記各会派の提案の中には,上記の案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか,都道府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれていた。。そして,同協議会に)
おいて,更に同年11月以降,意見集約に向けて協議が行われたが,各会派の意見が一致しなかったことから,同年12月26日,各会派から示された提案等を併記した報告書が参議院議長に提出された。


このような協議が行われている状況の中で,平成25年選挙につき,最高裁平成26年(行ツ)第155号,第156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁
(以下
平成26年大法廷判決
という。

は,平成24年大法廷判決の判断に沿って,平成24年改正法による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ず,したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。
(6)

平成29年の最高裁判所大法廷判決
選挙制度の改革に関する検討会は,
前記(5)イの報告書の提出を受けて協
議を行ったが,各会派が一致する結論を得られなかったことから,平成27年5月29日,
各会派において法案化作業を行うこととされた。
そして,
各会派における検討が進められた結果,各会派の見解は,人口の少ない選挙区について合区を導入することを内容とする①4県2合区を含む10増10減の改正案と②20県10合区による12増12減の改正案とにおおむね集約され,同年7月23日,上記各案を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案がそれぞれ国会に提出された。上記①の改正案に係る法律案は,選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県の選挙区をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに,3選挙区の定数を2人ずつ減員し,5選挙区の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり,その附則7条には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。
平成27年7月28日,上記①の改正案に係る公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し
(平成27年法律第60号。平成27年改正法
以下
という。,
)同年11月5日に施行された。
同法による公職選挙法の改正
(以
下平成27年改正という。
)の結果,平成22年10月実施の国勢調査
結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった。イ
平成28年7月10日,平成27年改正法による改正後の定数配分規定の下での初めての通常選挙が施行された
(以下
平成28年選挙
という。。

同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であった。


平成28年選挙につき,最高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下平成29年大法廷判決という。)は,まず,憲法が選挙における投票価値の平等を要求してい
ること,しかしながら,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有する限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえないこと,そして,不断に生ずる人口変動の結果,現在の選挙制度の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解されることを判示し,これらは昭和58年大法廷判決以降の参議院議員選挙に関する累次の最高裁判所大法廷判決の趣旨とするところであり,基本的な枠組みとしてこれを変更する必要は認められないと判示した。その上で,平成27年改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して行われたものであり,これによって数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差が2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小したのであるから,同改正は,憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなどの参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができ,また,平成27年改正法は,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができる旨判示し,そうすると,平成27年改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができ,したがって,平成28年選挙当時の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない旨判示した。
(7)

本件選挙の施行に至る経緯
(乙1の1,
乙11の2,
乙13の2,
乙15,

乙16等)

平成28年選挙後の参議院選挙制度改革に係る取組
(ア)

平成27年改正法附則7条を受け,平成28年選挙後の平成29年2
月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,各会派代表による参議院改革協議会
(以下
本件協議会
という。が設置され,

同年4月,
参議院選挙制度改革について集中的に調査検討を進めるため,
本件協議会の下に,
選挙制度に関する専門委員会
(以下本件専門委員会という。
)が設置された。
本件専門委員会は,平成29年5月12日から平成30年4月27日までの間,17回にわたり開催され,そこでは,計7名の参考人からの意見聴取及び質疑や平成29年大法廷判決の概要説明が行われたほか,参議院の在り方との関係一票の較差選挙制度の枠組み議,,,員定数の在り方などについて様々な意見交換が行われた。その過程で議論となった選挙制度の枠組みについては,選挙区及び比例代表の二本立てとする場合選挙区及び比例代表の二本立てとしない場合ブ,,ロック選挙区の範囲等,多岐にわたっていた。本件専門委員会の委員長は,平成30年4月27日,以下の所感を述べた。
すなわち,
現行の一部合区を含む都道府県選挙区の制度について,
人口の少ない特定の県のみが参議院議員を選出できなくなる不合理や弊害が生じているとの指摘があり,合区を積極的に支持する意見は少なかった。その上で,合区解消の方法については,選挙区の単位を都道府県単位とする意見と,もっと広く,ブロック単位とするべきであるとの意見があり,中には,現行の選挙区及び全国比例の二本立てを前提とせずに,ブロック単位の選挙区における選挙に一本化するべきとの意見もあった。ただ,各会派の意見を伺うと,総じて都道府県単位を重視すべきとの意見が多く聴かれた。現時点で,なお意見の隔たりがあるが,各会派の考えがお互いに認識され,整理されてきており,残された時間も考慮すれば,本件協議会から与えられたテーマについて報告する時期に来ていると判断している。
本件専門委員会は,上記所感に対する委員の意見を受けた後,本件協議会に対し,平成30年5月7日,議論の状況を整理した報告書を提出した。
(イ)

本件協議会の座長は,
本件協議会における意見交換の後,
参議院議長
に対し,協議の状況を報告した。
(ウ)

参議院議長は,各会派代表者懇談会における協議及び議長による各
会派からの個別の意見聴取によっても会派間の意見の隔たりがあったため,平成30年7月4日の各会派代表者懇談会において,具体案のある会派は法律案を提出し,委員会において議論を進めることを要請した。(エ)

このような状況の中で,
7会派から5法律案が発議された。発議され

た5法律案は,選挙区に関する部分については,①埼玉県選挙区の定数を2増する案(自由民主党・こころ及び無所属クラブの法律案,国民民主党・新緑風会の法律案〔平成27年国勢調査結果に基づく選挙区間の最大較差2.985倍〕,②埼玉県選挙区の定数を2増し,石川県選挙)
区と福井県選挙区を合区する案(立憲民主党・民友会及び希望の党の法律案〔同2.816倍〕,③現行の比例代表選挙及び選挙区選挙の制度)
に代え,
全国の区域を分けて11の選挙区とする案
(公明党の法律案
〔同
1.122倍〕
,日本維新の会の法律案〔同1.189倍〕
)の3案に大
別された。
上記5法律案は,いずれも参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託された。自由民主党・こころ及び無所属クラブの案の提案者は,同特別委員会における審査において,(平成27年改正に従い平成28年選挙を施行してみると)やはり対象県では投票率の低下あるいは合区反対などと書かれた多くの無効票が出ると,こうした合区への不平等感,不満感というものが地域から際立ってまいったわけであります。そして,地方六団体の合区解消に関する決議,現時点(平成30年7月9日)で35もの県議会で採択されている意見書のとおり,都道府県単位の地方の声を国政に届けられる選挙制度を望む,そうした地方の声にどう応えるかということも,現実に今我々に求められていることだと思います。決して法律を軽視することなく,この4県2合区の単純な解消ということは,我々今回それを見送ったわけであります。しかしながら,やはり必ず一票の較差を再び以前のように大きくならないようにするという努力はしなければなりません。投票価値が最も軽くなっている埼玉県選挙区の定数を2増加して,選挙区間の最大較差を3倍未満の2.985に是正するのはこうしたゆえんであります。,今回の改正案は,平成27年改正公職選挙法の附則やこの改正を合憲とした平成29年最高裁判決の趣旨を踏まえて,一つには一票の較差を是正しながら,もう一つは地方六団体の合区解消に関する決議や県議会等の意見を受けて,都道府県単位の地方の声を国政に届けるという,また現代社会における民意の多様化にも対応しようとするものでありなどと説明した。
平成30年7月11日,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において,自由民主党・こころ及び無所属クラブの法律案が可決され,その後,参議院本会議,衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会及び衆議院本会議における各可決を経て,同月18日,同法律案が成立し(平成30年改正法)
,同年10月25日に
施行された(以下,同法による改正後の定数配分規定を本件定数配分規定という。。)
(オ)

なお,平成30年7月11日の参議院政治倫理の確立及び選挙制度
に関する特別委員会において,自由民主党・こころ及び公明党の各会派から附帯決議案が提出され,可決された。その内容は,下記のとおりである。

本院は,本法施行に当たり,次の事項についてその実現に努めるべきである。一,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うこと。二,参議院議員の定数の増加に伴い,参議院全体の経費が増大することのないよう,その節減について必要かつ十分な検討を行うこと。右決議する。イ
令和元年7月21日,本件定数配分規定の下での初めての通常選挙として,本件選挙が施行された。
本件選挙当時の選挙区間の最大較差は,3.002倍であった。
なお,本件選挙当時,広島県選挙区の議員1人当たりの選挙人数は,議員1人当たりの選挙人数が最少であった福井県選挙区の1.814倍,山口県選挙区の議員1人当たりの選挙人数は,福井県選挙区の1.797倍であった。

3
争点
本件の主たる争点は,
本件定数配分規定が憲法に違反する無効なものであり,
本件定数配分規定に基づいて実施された本件選挙の広島県選挙区及び山口県選挙区における各選挙が無効であるかである。

4
争点に関する当事者の主張
(1)

原告らの主張
憲法は,主権を有する国民(1条)が,両議院の議事につき,
正当に選挙された国会における代表者を通じて
(前文第1文)

出席議員の過半数でこれを決
(56条2項)するという方法により,主権を行使することを
定めているところ,人口に比例していない選挙が行われれば,主権を有する国民ではなく,主権を有しない国会議員が主権を行使し得ることになるから,
人口に比例していない選挙の結果は,
憲法の上記各規定に違反する。
本件選挙における選挙区間の最大較差は,3.002倍であったから,本件選挙は,人口に比例していない選挙として,憲法56条2項,1条,前文第1文に違反しており,憲法98条1項により無効である。

平成30年改正は,平成27年改正法による2つの合区をそのまま維持するにとどまるものであり,選挙区割の抜本的見直しがなされたものではないから,平成27年改正法附則7条のいう抜本的見直しがされたものとはいえない。
また,
選挙区間の最大較差も,
平成28年選挙当時の3.
08倍から3.002倍に変化するという微細なものにとどまり,この点でも,平成30年改正は,
抜本的見直しからほど遠いものである。さら
に,平成30年改正法の附則には,平成27年改正法附則7条に相当する規定は置かれていない。
以上のとおり,平成30年改正法は平成27年改正法が示す更なる是正の方向性と立法府の決意を全く欠いているから,平成29年大法廷判決の判示に従ったとしても,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた。
なお,参議院議員の選挙であること自体以外の合理的な理由の存在を被告らが立証できない限り,参議院議員の選挙における投票価値の平等の要請は,衆議院議員の選挙におけるそれに劣後しないと解される。このことは,昭和22年から平成17年までの間に衆議院の議決と参議院の議決が異なった15の事例において,参議院議員の多数意見が衆議院議員の多数意見に優越して法律案が成立又は廃案となっていることからも明らかである。
おって,選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたかを判断するに当たっては,専ら,客観的に,当該選挙が施行された日を基準日として,上記不平等状態に至っていたかを判断すべきであり,当該選挙の後に行われることが予想される較差是正のための立法措置に関する事情を考慮すべきではない(上記事情は,選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている場合,
すなわち違憲状態である場合において,
当該選挙までの期間内に定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえるかの判断で考慮すべき事項である。。平)
成29年大法廷判決は,この点において,また,各選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体が不合理なものとして許されないものではないとした点において,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決に反しているが,判例変更をした旨及び判例変更の理由が明らかにされておらず,
判例変更の在り方に関する最高裁昭和43年
(あ)
第2780号同48年4月25日大法廷判決・刑集27巻4号547頁)に反している。

平成24年大法廷判決や平成26年大法廷判決は,対象となった各選挙当時において,選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとしつつ,当該各選挙までの期間内に各定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないとして,当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと判断したが,選挙当時において違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判断される定数配分規定を合憲と判断することは,憲法98条1項に反して許されない。


選挙が無効である旨の判決がされたとしても,参議院は,半数改選であり,かつ,比例代表選出議員を含めて構成されており,憲法56条1項の定める3分の1の定足数は満たされるので,参議院は,国会活動を有効に行い得る。また,当該選挙は将来に向かって形成的に無効になるから,それまでに成立した法律や行政権の行使は有効である。さらに,憲法は,内閣総理大臣が地位を失う場合があり得ることを想定して,70条及び71条の規定を設けている。
以上のとおり,選挙が無効である旨の判決がされたとしても,社会的混乱は生じないので,本件選挙が憲法に違反する定数配分規定の下に行われた点において違法である旨を判示する(いわゆる事情判決をする)にとどめるのではなく,憲法98条1項に従い,選挙が無効である旨の判決をすべきである。
(2)

被告らの主張
判断枠組み
憲法は,投票価値の平等を要求しているが,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているのであるから,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
憲法が二院制を採用した趣旨及び定数の偶数配分という参議院議員の選挙制度における技術的制約等に照らすと,国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反して違憲と評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られるものと解すべきである。


本件選挙当時において,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえないこと国会が,選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた旨判断した平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿い,一部の選挙区について合区を創設することなどを内容とする平成27年改正が行われたことにより,最大較差は2.97倍となり,上記不平等状態は解消された。
平成27年改正後の定数配分規定に基づいて施行された平成28年選挙に係る平成29年大法廷判決においても,最大較差が3.08倍であった平成28年選挙当時,投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,平成27年改正後の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示された。さらに,平成30年改正は,参議院選挙区選出議員選挙に関しては,平成27年改正による選挙区割りを維持しつつ,埼玉県選挙区の定数を2人増員するものであり,
その結果,
平成28年選挙当時の最大較差である3.
08倍から,平成27年実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差として2.985倍にまで縮小した。
平成27年改正法に続いて平成30年改正法においても,参議院選挙区選出議員について都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持したことは,両議院の選挙制度が同質的なものとなっている中で,参議院選挙区選出議員の選挙基盤について衆議院議員のそれとは異なる要素を付加し,地方の民意を含む多角的な民意の反映を可能とするものであるから,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものといえる。
さらに,そもそも,選挙権は,民主主義国家において,治者でもあり被治者でもある国民が自らの意見等を国政に反映させることを可能にする極めて重要な権利であるところ,人口の多い都市部に居住する多数者のみならず,山間部などのいわゆる過疎地域を含む地域に住む少数者の意見も十分に国政に届くような定数配分規定を定めることもまた,国会において正当に考慮することができる政策的目的ないし理由になるものというべきである。
平成29年大法廷判決においても,選挙制度の仕組みを決定するに当たり,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することについては,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,直ちに国会の合理的な裁量を超えるとは解されない旨判示している。
さらに,立法府においては,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会の附帯決議として,平成30年改正後も参議院選挙制度改革に向けた検討を継続していく決意を表明しており,このことは,再び過去にあったような大きな較差を生じさせないという配慮がなされているものとして評価すべきである。
以上の諸点に,参議院議員については,憲法上,3年ごとに議員の半数を改選するものとされ
(46条)定数の偶数配分が求められるなどの技術

的制約があること等を併せ考慮すると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとはいえず,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。

仮に,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとしても,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないこと
(ア)

憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,ある定数
配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている場合において,当該定数配分規定に基づいて実施された選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきである。
そうすると,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか否かは,裁判所において当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を基準(始期)として,上記の諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
(イ)

これを本件についてみると,
平成29年大法廷判決において,
都道府

県単位の選挙区を一部改めて合区を創設した平成27年改正後の定数配分規定に基づき施行された平成28年選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に当たらない旨判断が示された。本件選挙は,平成29年大法廷判決後,さらには,最大較差の更なる縮小を目指した平成30年改正による定数配分規定に基づく初めての参議院議員通常選挙である上,本件選挙当時における最大較差は3.002倍であり,平成28年選挙当時の最大較差3.08倍から更に縮小したことなどを踏まえると,国会において,本件選挙までの間に前記状態に至っていたことを認識し得たとは到底いえない。
そうすると,仮に本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったとは認められないから,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。

以上によれば,本件定数配分規定は憲法の規定に違反する無効なものとはいえないから,本件定数配分規定に基づいて実施された本件選挙の広島県選挙区及び山口県選挙区における各選挙は有効である。
第3
1
当裁判所の判断
判断枠組みについて
(1)

憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人
の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。
前提事実(2)の参議院議員の選挙制度の仕組みは,
このよ
うな観点から,参議院議員について,全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は,平成29年大法廷判決が判示するところであり,昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところである。
(2)

前記(1)に対し,原告らは,人口に比例していない選挙は,憲法56条2
項,1項,前文第1文に違反すると主張するが,前記(1)で説示したところによれば,投票価値の平等は,憲法が要請するところであるが,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではないから,選挙が人口に比例していないという一事をもって憲法に違反するということはできず,上記の原告らの主張を採用することはできない。
2
本件選挙当時において,選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたかについて
(1)ア

憲法は,
二院制を採用し,
一定の事項について衆議院の優越を認める反

面,参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)
。その趣旨は,立
法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。このような趣旨に立つ二院制の下では,衆議院と参議院は,いずれも民意を反映することが要請されるという点では共通であるべきであるものの,両院で異なるそれぞれの性格や機能を発揮させる必要があり,そのために,それぞれの選挙について,どのような制度を採用し,どのようにして憲法が要請する投票価値の平等と調和させていくかについては,国会の合理的な裁量に委ねられていると解される。
ところで,平成26年大法廷判決が指摘するとおり,参議院議員の選挙制度の変遷を衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると,
両議院とも,
政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ,その結果として同質的な選挙制度となってきており,急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきているといえることに加えて,衆議院については,この間の改正を通じて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていること(衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条1項)にも照らすと,参議院についても,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。なお,上記のとおり,参議院議員のうち選挙区選出議員(昭和57年改正前は地方選出議員)の選挙の選挙区割は,平成27年改正によって合区された選挙区を除き,都道府県を選挙区の単位としてきており,また,衆議院議員のうち小選挙区選出議員の選挙の選挙区割においても,平成6年法律第10号及び第104号による小選挙区比例代表並立制採用前後を通じ,都道府県を複数の選挙区に分割する方法がとられており,これらによれば,国政選挙において,都道府県という単位が選挙区割において重要な要素とされていることが認められる。これは,都道府県が,政治的に一つのまとまりを有する単位となっており,
また,
政治的のみならず,
歴史的,
経済的,社会的に独自の意義と実体を有し,かつ,一般的に住民の都道府県への帰属意識が高いことなどによるものであると解される。
以上の点を考慮すれば,
具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,
一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から,都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することは合理的というべきであり,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない(原告らは,平成29年大法廷判決が,各選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体が不合理なものとして許されないものではないとした点において,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決に反していると主張するが,平成29年大法廷判決が平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の判例変更をするものではないことは,その判示に照らして明らかである。。


前記アに関し,原告らは,昭和22年から平成17年までの間に衆議院の議決と参議院の議決が異なった15の事例において,参議院議員の多数意見が衆議院議員の多数意見に優越して法律案が成立又は廃案となっていることを挙げ,参議院議員の選挙であること自体以外の合理的な理由の存在を被告らが立証できない限り,参議院議員の選挙における投票価値の平等の要請は,衆議院議員の選挙におけるそれに劣後しないと主張する。前記アの憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は,衆議院とともに,国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する機関としての責務を負っているというべきであり,原告ら指摘の事例を持ち出すまでもなく,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,参議院についても更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められることは明らかである。しかしながら,前記アの憲法の趣旨,役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなど,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制に係る前記アの憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであることに変わりはないというべきである。
(2)ア

参議院では,平成27年改正法附則7条を受け,参議院選挙制度改革に
ついて集中的に調査検討を進めるため,本件協議会の下に本件専門委員会が設置され,本件専門委員会においては,約1年間,17回にわたり,計7名の参考人からの意見聴取及び質疑や平成29年大法廷判決の概要説明が行われたほか,様々な意見交換が行われた。その過程においては,合区を積極的に支持する意見は少なく,合区解消の方法については,総じて都道府県を重視すべきとの意見が多かった。そして,本件専門委員会での議論を経て提出された自由民主党・こころ及び無所属クラブの法律案は,都道府県単位の地方の声を国政に届けられる選挙制度を望むという地方の声に応える必要がある一方で,一票の較差を再び以前のように大きくならないようにするため,埼玉県選挙区の定数を2増して選挙区間の最大較差を3倍未満に是正することを目的としたものであり,上記法律案が両議院で可決されて平成30年改正が行われたものである(前提事実(7)ア(エ))。こ
のように,平成30年改正は,平成27年改正法附則7条や平成29年大法廷判決を踏まえ,選挙区間の最大較差が平成25年選挙以前のような大きな較差を生ずることのないよう配慮したものであるといえる。

そして,本件選挙は,このような平成30年改正法による改正後の本件定数配分規定の下で初めて施行されたものであり,本件選挙当時の選挙区間の最大較差は3.002倍であったところ,この較差は,平成30年改正法による改正前の定数配分規定の下で施行された平成28年選挙当時の選挙区間の最大較差3.08倍(これ自体,平成27年改正により,平成25年選挙当時の選挙区間の最大較差4.77倍から大きく縮小したものである。
)に比べて縮小したものとなっていた。

さらに,平成30年改正法の審査の過程においては,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において,参議院選挙制度改革について,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行う旨の附帯決議がされており,引き続き投票価値の較差を含めた改善が行われることが期待される(この附帯決議は,平成27年改正法附則7条と異なり,法律の規定ではないが,参議院議員の選挙制度に関する問題を扱う特別委員会における附帯決議であることからすれば,その重みは決して軽くない。なお,このような附帯決議がされたことは,本件選挙が施行される以前の事情として考慮するものであって,本件選挙が施行された後に行われることが予想される較差是正のための立法措置に関する事情としてこれを考慮するものではない。。



もっとも,平成30年改正は,埼玉県選挙区の定数を2増するという平成27年改正法より前の改正と同様の手法によるものであり,選挙区間の最大較差が縮小したとはいえ,その幅はごくわずかなものにとどまったといわざるを得ない。
この点,上記のとおり,平成29年大法廷判決は,平成27年改正法が合区という新たな手法を導入したことのほか,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び5倍前後という大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができることを摘示し,これらの事情を総合して,選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,平成28年選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと判示しており,単に,5倍前後であった選挙区間の最大較差が,概ね3倍にまで縮小したということのみをもって憲法に違反しないと判断したものではなく,平成27年改正法が,合区というこれまでにない手法を導入したことや附則7条を定めたことをもって,今後の投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されていること,再び5倍前後といった大きな較差を生じさせないように配慮されていることなど,更なる較差の是正を指向するものと評価できることをも理由として,合憲判断をしたものである。そのような観点からみると,平成30年改正は,上記のとおり小規模のものであり,平成27年改正法附則7条でいうところの抜本的な見直しに当たるとはいい難いものであって,平成29年大法廷判決のいう更なる較差の是正の指向が十分であるとはいえず,ひいては,本件定数配分規定の合憲性に疑いを生ぜしめることも否定できない。
しかしながら,選挙区間の最大較差を平成28年選挙当時のものに比べて縮小させる平成30年改正法が成立しており,何らの結論が得られなかったものではないことに加え,
前提事実(7)記載のとおり,
平成28年選
挙後,参議院選挙制度改革に向けた取組がなされており,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において,引き続き検討を行うことなどの附帯決議がなされていること,平成27年改正の際に導入された合区については,較差を縮小する効果は認められるものの,合区対象地域の民意が十分に反映されないなどの批判があるところであり,
国会内部で,
その取扱い等に関して意見の統合を図ることが困難であったことなどの事情があり,これらの事情を踏まえれば,平成30年改正が平成27年改正法附則7条でいうところの抜本的な見直しに当たるとはいい難いからといって,そのことから直ちに本件選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたということはできない。

以上のような事情を考慮すると,本件選挙当時において,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとまでは認められない。


付言するに,投票価値の平等の重要性に鑑みれば,平成25年選挙当時までの5倍前後もの選挙区間の最大較差を生じさせることが許されないのはいうまでもないが,本件定数配分規定の下での選挙区間における最大較差は約3倍であり,
投票価値の不均衡はなお大きなものである。
前記1(1)
のとおり,投票価値の平等が選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではないが,現状のような約3倍といった選挙区間の最大較差が継続するときは,投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態と評価せざるを得ない可能性が高いといわざるを得ない。これまでの経緯をみると,国会は,少なくとも平成24年改正法による改正以降,最大較差の縮小に向けた法改正を行い,平成27年改正では,合区を導入し,
最大較差を大きく縮小したが,
平成30年改正では,
再び,
小規模な法改正にとどまっており,平成29年大法廷判決が摘示した投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が継続していることに疑問が生じかねない状況にある。通常選挙は3年ごとに実施されることからすれば,国会においては,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえ,選挙制度について,迅速に,真摯かつ適切な検討を行い,最大較差の更なる縮小を実現することが求められているというべきである。その場合,合区を活用することも考えられるが,合区については,合区対象地域の民意が十分に反映されないなどの批判があって,慎重な検討が求められており,合区による解決が困難であれば,従来の選挙制度にとらわれない検討が行われるべきであり,立法府の主体的な意志と叡智が期待されるところである。

3
結論
以上によれば,
その余の点について判断するまでもなく,
原告らの各請求は,
いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。

広島高等裁判所第3部

裁判長裁判官

金村敏彦
裁判官

絹川泰毅
裁判官

近藤義浩
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