判例検索β > 平成24年(た)第3号
殺人被告事件
事件番号平成24(た)3
事件名殺人被告事件
裁判年月日令和2年3月31日
裁判所名・部大津地方裁判所
裁判日:西暦2020-03-31
情報公開日2020-06-04 22:14:54
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主文
被告人は無罪

第1
1由
再審開始事由があるとされた公訴事実等
本件公訴事実

本件再審開始決定において,再審開始事由があるとされたのは,平成17年11月29日,大津地方裁判所が言い渡した判決であり,その公訴事実は,被告人は,滋賀県愛知郡a町大字bc番地d所在のX病院において看護助手として勤務していたものであるが,同病院看護師らの自己に対する処遇等に憤まんを募らせていたところ,そのうっ積した気持ちを晴らすため同病院の入院患者を殺害しようと企て,平成15年5月22日午前4時過ぎころ,同病院3階B22号室において,慢性呼吸不全等による重篤な症状で入院加療中のA(当時72歳)に対し,殺意をもって,同人に装着された人工呼吸器の呼吸回路中にあるL字管からこれに接続するフレックスチューブを引き抜いて同人工呼吸器からの同人への酸素供給を遮断し,同人を呼吸停止の状態に陥らせ,よって,そのころ,同病室において,同人を急性低酸素状態により死亡させて殺害したものである。というものである。なお,以下においても,地名は確定判決当時のものを用いる。また,平成15年5月22日を本件当日,同月21日を本件前日ということがある。
2
本件再審公判に至るまでの経緯
判決確定まで


Aは,平成14年10月4日,X病院(以下本件病院という。)に救
急搬送され,以降,平成15年5月22日に死亡するに至るまで,7か月余りにわたり,本件病院に入院していた。死亡当時の病室は本件病院3階B病棟22号室であった。本件当日午前4時30分頃,当直看護師のB(以下B看護師という。)は,同病室のベッド上にいるAの異変を発見し,その際,Aは心停止の
状態にあった。医師が救命措置を施したものの,Aは蘇生せず,その死亡が確認された。当時Y医科大学法医学教室教授であったC医師は,同月23日,Aの遺体の解剖を行い,後にAの死因等について鑑定書を作成した(地甲12。以下C鑑定という。)。

被告人は,A殺害を認める供述をして平成16年7月6日逮捕され,勾留
を経て同月27日に起訴された。被告人は,公判では否認に転じたが,大津地方裁判所は,平成17年11月29日,Aに対する殺人について,被告人を有罪と認定し,懲役12年に処する旨の判決を言い渡した(大津地方裁判所平成16年(わ)第471号事件)。その理由の骨子は,①C鑑定及びC医師の確定第1審における証言(以下,C鑑定と併せてC鑑定等という。)によって,Aの死因が意図的な酸素供給途絶による低酸素状態に起因する急性心停止であると認定できることを前提に,②同酸素供給途絶の原因として考えられるのは,機械の誤作動,何者かの過失行為又は故意による加害行為であるところ,関係証拠によれば,故意による殺害行為以外の可能性は否定される一方で,被告人は,犯行の機会や人工呼吸器に関する知識の面から犯行が可能であったと考えられ,被告人の捜査段階の自白には信用性が認められる,というものである。控訴,上告及び上告棄却決定に対する異議申立てはいずれも棄却され,前記大津地方裁判所判決が確定した(確定判決)。被告人は,平成29年8月24日,刑の執行を受け終えた。
第1次再審請求
被告人は,平成22年,本件について無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとして,第1次再審請求をした(大津地方裁判所平成22年(た)第2号事件)。大津地方裁判所は,平成23年3月30日,同再審請求を棄却する旨の決定をした。即時抗告,特別抗告はいずれも棄却され,前記再審請求棄却決定が確定した。
第2次再審請求

被告人は,平成24年,本件について無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとして,第2次再審請求をした(大津地方裁判所平成24年(た)第3号事件)。大津地方裁判所は,平成27年9月30日,同再審請求を棄却する旨の決定をした。被告人が即時抗告したところ,大阪高等裁判所は,平成29年12月20日,原決定を取り消し,本件について再審を開始する旨の決定をした。その理由の要旨は,新証拠により,①まず,被告人の自白を除いて検討すると,Aの死亡の原因が酸素供給途絶であることは証明されておらず,②被告人の自白を加えて検討しても,被告人の自白には,それ単独でも,他の証拠を併せてみても,Aの死亡の原因が酸素供給途絶であると認め得るほどには信用性はないから,Aが自然死した合理的疑いが生じたというものである。検察官が特別抗告したところ,最高裁判所第二小法廷は,平成31年3月18日,同抗告を棄却する旨の決定をし,前記再審開始決定が確定した。
3
前提事実

関係証拠によれば,Aの本件病院における診療経過,人工呼吸器の仕様,死亡時の状況やその後の事実経過等について,以下の事実が認められる。なお,本判決でいうところの関係証拠には,確定審で取り調べられ,あるいは事実調べされた証拠のうち当審に引き継がれたもの及び当審において初めて取り調べられた証拠の双方が含まれる。以下,確定第1審で取り調べられた証拠の証拠番号に地,確定控訴審で事実の取調べをされた証拠の証拠番号に高をそれぞれ付して呼称する。また,当審で初めて取り調べられた証拠の証拠番号に再を付して呼称する。なお,符号番号は,各審級における証拠等関係カード記載の符号番号である。
Aは,平成14年10月4日,前日から寝たきり状態となったことで受診した近医からの紹介を受けて本件病院のICUに入院し,後に3階B22号室(本件当時の病室番号。以下同じ)に移った。同病室はベッド数4床の共同部屋であり,幅員2.3メートルの廊下を隔てた真向いにナースステーションが位置
していた。
救急搬送に係る前記入院時のAの病名は急性呼吸不全で下顎呼吸の状態であり,心肺停止,JCS(日本式昏睡尺度)Ⅲ-300(強い痛み・刺激にも全く反応しない深昏睡状態)と認められ,四肢・体幹の自発運動は全く見られない状態であった。呼吸に関しては,Aは意識がない上,自発呼吸が困難な状態であり,人工呼吸器を装着することによって酸素供給を保つことができる状態であった(以下,本件前日及び本件当日時点で装着されていた人工呼吸器を本件呼吸器という。)。担当医のDは,前記入院当初より,Aの親族に対し,病状を説明する際,Aが回復する可能性は少なく,近いうちに死亡する可能性も十分ある旨説明し,診療記録にもその旨記載した。また,Aは痰が出るため,看護師による定期的な痰吸引が必要な状態であった。
本件呼吸器は,支柱台の上に載せられ,操作ボタン等が並ぶパネルを備えた本体機器に,フレックスチューブ(以下,単に管という。)等の接続により構成された呼吸回路や,アーム等が付属した機器一式である(地甲4)。管の患者側の先端はL字管となっており,着脱可能なカニューレをこれに取り付け,患者の気管に挿入するなどの方法で使用される。本件呼吸器は,カニューレが管から外れた場合を含め,供給されるガスの圧力低下やガス流量減少等の場合には,警報としてのアラームが吹鳴する機能を備えており(再弁49),本件病院3階B病棟において,同アラームは,仮眠室を除いて十分に聞き取れる音量であった(設定により変動し,本件当時の音量設定によれば45~83デシベル)(地甲5)。併せて,本件呼吸器は,アラームの消音機能も備えており,消音ボタン(操作パネルの左上部分に位置する)を押すと1分間アラームが鳴らない状態にできる上,次にアラームが鳴る前に消音ボタンを押せばアラームが鳴らない状態(異常な状態を生じているのに,アラームが鳴らない状態)を延長することができた(以下消音状態維持機能ということがある。)。そして,消音ボタンによりアラームの吹鳴を止めた場合,本件呼吸器の異常発報を示す赤色ランプが,
点滅から点灯に切り替わる仕様であった(地甲5,20)。
本件前日夜から本件当日午前9時までにかけての本件病院B病棟3階の当直は,B看護師,E看護師及び看護助手である被告人の計3名であった。B看護師は,本件前日午後11時頃に,Aの痰吸引を行い,その旨を看護記録に記載した。その後,B看護師は,本件当日午前4時30分頃,ベッド上でAが顔面蒼白となっている異変を発見して,当直医らにこれを急報し,医師が心マッサージ等の救命措置を施したものの,Aは蘇生せずに死亡した。その際,看護師らにより痰の吸引も行われた(再甲1)。
B看護師は,本件当日,D医師や当直医に対し,Aに装着されていた本件呼吸器の管が外れていた旨述べ,看護記録にもその旨記載した。B看護師は,警察官に対しても,同日以降,その旨の供述を続けていたが,平成16年7月6日頃までに,管が外れていたか否かは確認しておらず明確ではない旨へと供述を変遷させ,その後,一貫して同様の供述をした。
Aの遺体は,平成15年5月23日,C医師の執刀により解剖された。C医師は,鑑定書作成に先立ち,本件呼吸器の管が外れていたと看護師が説明している事実を警察官から聞いて知った。C医師は,Aの死因について,本件呼吸器の管の外れ等に基づく酸素供給欠乏が一義的な原因であると判断し,その旨の鑑定書を作成した(C鑑定)。そして,C医師が,解剖に際し,Aの血液につき生化学的検査を行ったところ,血液中のカリウムイオンは1.5MMOL/L(ミリモル・パー・リットル)であった。
第2

当事者の主張及び当裁判所の判断の各骨子

検察官は,当審において,取調済みの証拠に基づいて適切な判断を求めるとして,新たな立証は行わなかったものの,確定審で行っていた従来の主張を撤回しておらず,本件は,実質的には,検察官・弁護人間で争いのある事件である。本件の争点は,①Aの死因並びに②被告人の捜査段階の自白供述の任意性及び信用性の2点である。

このうち,争点①(Aの死因)について,検察官は,Aは,本件呼吸器からの酸素供給が遮断されたことによる急性低酸素状態によって死亡した旨主張するのに対し,弁護人は,致死性不整脈を含むその他の原因で死亡した合理的な疑いがある旨主張する。換言すれば,両当事者の主張の分岐点は,被告人の犯人性以前に,そもそもAの死亡に事件性が認められるのかという点にある。また,争点②(自白の任意性,信用性)について,検察官は,被告人の捜査段階の自白につき,任意性に疑いがないのはもとより,高い信用性がある旨主張するのに対し,弁護人は,供述の任意性に疑いがあるとして,地乙3ないし23(被告人の警察官調書,検察官調書及び供述書。以下,まとめて本件自白供述という。)について証拠排除の申立てをするほか,その信用性も争っている。当裁判所は,争点①について,被告人の自白を除いて検討した結果では,C鑑定等の死因に関する判断部分は信用できず,むしろ,解剖所見や診療経過等を踏まえると,Aが,低カリウム血症に起因する致死性不整脈を含む他の原因で死亡した具体的な可能性があると判断した上,争点②については,本件自白供述は,その信用性に重大な疑義があるばかりか,任意にされたものでない疑いがあるとして,これらを証拠排除することとし,以上を踏まえ,本件については,そもそもAが何者かによって殺害されたという事件性を認める証拠すらなく,犯罪の証明がないことに帰するものと結論付けた。以下,その理由について詳述する。第3

Aの死因(争点①)

被告人の自白供述を除く関係証拠の下で検討すると,C鑑定等のうち,Aの死因が人工呼吸器の管の外れ等に基づく酸素供給欠乏であるとする判断部分については信用性に疑問があり,それ以外に検察官の主張に沿う事実を認めるに足りる証拠はない。かえって,他の信用性が高い証拠によれば,Aが機能性の致死性不整脈を含む,酸素供給欠乏以外の原因で死亡した具体的な可能性があるものと認められる。その判断過程を示すと次のとおりである。
1
C鑑定等の信用性について

C鑑定等の骨子

C鑑定は,Aの死因について,

急性の心停止状態が発生し,死亡した所見は残されているが,疾病が原因で心停止を生じた事を示す検査結果が得られていない。人工呼吸器停止,管の外れ等に基づく酸素供給欠乏が一義的原因と判断される。

と結論付けている。その理由の要旨は,解剖所見に基づき,本件事歴を参考として判断するに,急性の心停止を生じる所見がなく,肺は高度に水腫状であるものの疾病の急激な悪化に基づく呼吸機能低下を示す所見もない上,その他の臓器にも死亡を生じさせる疾病を見出せないことから,本件事歴に記載の人工呼吸器の管が外れ,酸素供給低下状態で心臓が停止したと考えられるというものである。そして,解剖所見として,Aの気管部右側には痰が多量にある(細気管にも痰粘液が多量に見られる)旨,Aの心臓内から採取した血液の検査結果として,カリウムイオン1.5MMOL/L(不整脈を生じ得る)と記載されている。また,乙・本件事歴欄に,遺体発見時の状況として,平成15年5月22日午前4時30分頃看護師らが人工呼吸器の管が外れ,心肺停止の状態になっていることに気付き,当直医らが救急蘇生を行い,いったん心拍動が再開したものの,後に死亡確認された旨記載されている。

C医師の確定第1審における証言も,上記アと大筋において同旨であるが,
痰詰まりによる窒息の可能性について,次のとおり,補足して説明している。すなわち,痰詰まりで窒息したのであれば,その痕跡があるはずであるが,解剖時には,それなりの痰があったものの,窒息する程度の量ではなかった,異変発生後に痰が吸引されていたのかどうかは知らないが,吸引されていたのだとしても,痰詰まりで窒息したのだとすれば,末梢の方にもう少し痰が残っているなり,細菌が繁殖した兆候があるなりの痕跡があるはずである,痰が詰まれば,人工呼吸器のアラームが鳴るので,窒息する前に看護師が気づくはずである,何かが詰まって亡くなったが,死亡後に詰まったものが吸引されたという可能性も否定はし
ないが,確率的には低い,などと説明している。


信用性の判断

C医師は,Aの遺体につき,C鑑定の甲・解剖検査所見欄に記載のとおり,各種検査や観察を行っており,これらの部分は基本的に信用することができる。他方,C鑑定等のうち,Aの死因についての判断部分は,次に述べる理由から,信用することができない。

他の原因で死亡した可能性を排斥する合理的な説明の欠如

C鑑定等の判断は,解剖の結果,急性の心停止状態が発生し,死亡した所見はあるものの,疾病が原因で心停止を生じたことを示す検査結果が得られなかったことを根拠とするものである。
しかし,上記検査結果によっても,形態学的な変化をもたらさない機能性疾患により死亡した可能性は排斥されない。また,仮に,酸素供給欠乏による死亡であると診断し得たとしても,客観的な証拠や解剖所見による裏付けがなければ,それが人工呼吸器の管の外れ等に基づくと判断することはできない。この点,C鑑定中には,検査結果や客観的な解剖所見として,Aの血中カリウムイオン濃度が不整脈を生じ得るほどの異常低値であることや,気管に痰が多量にあったことが記載されており,これらの所見からは,後記のとおり,人工呼吸器の管の外れ等に基づく酸素供給欠乏以外の死因として,低カリウム血症に起因する致死性不整脈や痰詰まりによる酸素供給低下が想定される。にもかかわらず,C鑑定等においては,それらの可能性を排斥すべき合理的な理由が十分に説明されているとはいい難い。
まず,致死性不整脈の点については,C医師自身が,その鑑定書に血中カリウムイオン濃度について不整脈を生じ得ると記載しながら,確定第1審における証言時を含め,低カリウム血症に起因する致死性不整脈により死亡した可能性を排斥すべき理由について何ら説明すらしていない。
しかし,低カリウム血症に起因する不整脈は,心臓の形態的異常と無関係に発
生する機能的疾患であるから,そもそも,解剖所見のみから発症の有無を判断することはできない。心電図モニターを装着していれば,これを鑑別することが可能であるが,異変発生時,Aには同モニターが装着されていなかった。したがって,C鑑定等が,いかなる理由で低カリウム血症に起因する致死性不整脈の可能性を排斥したのかは不明というほかない。
次に痰詰まりの点については,救命措置として異変発見直後のAから痰の吸引が行われているから,それ以前のAの気管部には,解剖時に観察されたものよりも多量の痰があったことは明らかである。
C医師は,痰詰まりの可能性について,前記⑴イのとおり説明するものの,同医師自身,確率は低いとしつつも,何ものかが詰まって窒息した可能性を否定していない。しかも,その供述内容そのものから,異変発見直後の吸引の事実や本件呼吸器の高圧アラームの設定状況等を把握せずに,仮定的な説明をしているにすぎないことは明らかであり,痰詰まりによる酸素供給低下によって死亡した可能性を排斥する合理的な説明とはなり得ない。関係証拠(再弁105)によれば,平成16年3月2日時点で,C医師は,F警察官から,解剖所見から判断されるAの死因について聴取を受けた際,管の外れのほか,管内での痰の詰まりによる酸素供給低下状態で心臓停止したことも十分に考えられると説明していた事実も認められる。
以上のとおり,C鑑定等は,人工呼吸器停止,管の外れ等に基づく酸素供給欠乏以外の原因による死亡の可能性を排斥できる合理的な理由を十分に説明するものとはいえない。

疑わしい事実を前提条件とした誤り

C鑑定の前記結論部分の記載ぶりを見ると,解剖結果のみではなく本件事歴記載の事情,すなわち死亡前に本件呼吸器の管が外れた状態が生じていた(と看護師が述べた旨の)事情を併せて死因を判断していると理解するのが素直である。そして,C医師は,確定第一審において,

外れてたのを発見したということでしたら,その可能性が非常に大きいというふうに私の方は判断しました。

などと,解剖結果に本件呼吸器の管が外れた状態が生じていたという事情を加えて死因を判断した旨の供述もしている。
ところが,本件当日,Aの異変発見後,医師らに急報するとともに救命活動に従事したB看護師は,当初は,本件呼吸器の管が外れていたと述べていたものの,後に,異変発見直後に管に触れたのは覚えているが,外れていたかどうかははっきりしないと供述を変遷させており,真実,異変発見時に本件呼吸器の管が外れていたかは疑わしい。
C鑑定等は,解剖所見外の真偽が疑わしい事実を前提条件としているといえ,この点からも死因の判断部分は疑わしくなる。

結論との整合性に疑問のある事実の存在

C医師は,確定第1審の証人尋問において,酸素供給が遮断されて低酸素状態となったときの顔色はチアノーゼとなり,黒ないし赤黒い色になると供述していた。この点は,医学文献(再弁5,52)によって裏付けられている。しかしながら,

Aの顔色は

蒼白であったと認められる。C医師がAの遺体の解剖に基づく鑑定をした際に,異変発見時のAの顔面が蒼白であったとの証拠ないし情報が基礎とされていないことは明らかであるところ,C鑑定等の死因に関する判断部分は,B看護師により異変を発見された際のAの顔色との整合性に疑問を生じさせる。C医師が,この情報を知っていれば,前記結論を導いたかは疑わしく,この点も,C鑑定等の信用性を低下させる事情である。

まとめ

C鑑定等のうちAの死因に関する判断部分は,人工呼吸器の管の外れによる酸素供給途絶以外の死因を排斥する合理的な理由が特に示されていない上,本件呼吸器の管が外れていたという真偽が疑わしい事情を前提に導かれたものである疑いがあって,信用することができない。

2
証拠上合理的に想定し得る死因について

信用性の高い複数の専門家の意見書を含む関係証拠(G医師作成の意見書〔再弁12。以下G意見書という。〕,H医師作成の鑑定意見書〔再弁74。以下H意見書という。〕,I医師作成の鑑定書〔再弁1,15〕,J医師作成の鑑定意見書〔再弁17,18〕,K医師ほか1名作成の鑑定意見書〔再弁13〕,電話聴取書〔再弁39。受話者L医師〕等)によれば,Aの解剖・検査所見や死亡に至るまでの診療経過等を踏まえると,Aが,低カリウム血症に起因する致死性不整脈により死亡した具体的可能性のほか,慢性閉塞性肺疾患(COPD),冠動脈狭窄,肺水腫等を要因とする致死性不整脈を生じたことにより死亡した具体的可能性もあると認められる上,管への痰の詰まりや人工呼吸器のウォータートラップの不完全な接続等を原因として遷延性低酸素状態に陥ったことがAの死因である可能性も肯定できると判断した。
低カリウム血症に起因する致死性不整脈による死亡の可能性
前記のとおり,解剖時に測定されたAの血中カリウムイオン濃度は,1.5MMOL/Lであった。関係証拠(再弁12,17)によれば,その正常値は,概ね3.6ないし5.0MMOL/Lであり,3.5MMOL/L以下の場合に低カリウム血症とされ,このうち2.5MMOL/L以下は重度と分類されることが認められるから,Aの上記血中カリウムイオン濃度は,重度の低カリウム血症に分類される数値である。そして,I医師らが作成した鑑定書等の関係証拠(再弁1,12,13,14,15,16,17,23,24)が一致するところによれば,血中カリウムイオン濃度が低い場合は致死性不整脈が起きる典型的場合であると認められるほか,低カリウム血症の重症度が増すにつれて,不整脈が重症化することも認められるから(再弁23),前記血中カリウムイオン濃度は異常低値であり,致死性不整脈を生じ得る数値であると認められる。上記数値は,携帯型簡易生化学分析システムによって測定されたものではあるものの,他の多数の検査項目は正常値であり,機器の操作の誤りなどがあったと
は考え難いから,多少の測定誤差はあるにせよ,血中カリウムイオン濃度が異常低値であった限りでは揺るがない。また,上記血中カリウムイオン濃度は,死後約1日後に採取された心臓血の計測値であり,同濃度が死後に変動した可能性も想定できるものの,関係証拠(再弁12,74)から認められる一般的な医学的知見によれば,血中カリウムイオン濃度の値は,死亡後に上昇する可能性が有意に高いと認められる一方,心肺蘇生中に投与された薬剤(ボスミン及びメイロン)の薬理効果により血中カリウムイオン濃度が大幅に低下することは考え難い。したがって,血中カリウムイオン濃度が死後に変動した可能性を踏まえても,死亡時における濃度が致死性不整脈を生じ得るほどに低い値であったことが強く推認され,むしろ,解剖時の濃度の値がそれよりもさらに低かった可能性も相当程度認められる。
また,G意見書によれば,Aは,入院後,人工呼吸管理及び人工栄養管理の下に置かれ,多量のカルシウムを含むミルクを大量摂取する一方で,利尿剤の連日投与により体内カリウム貯蔵が減少しており,高カルシウム血症とこれに随伴する低カリウム血症の存在をうかがわせる事情があったと認められ,そのことは,解剖時の血中カルシウム濃度が異常高値を示していたことにも裏付けられている。さらに,Aの診療記録には,本件当日,心停止後に心拍再開を認めた旨の記載があるものの(再甲1),関係証拠によれば,致死性不整脈を生じたとしても電気活動としての心拍が再開することは一般的な医学的知見として認識されており(再弁74),臨床現場でも日常的に観察されるものと認められるから(再弁19),心拍再開の事実は,上記認定を左右するものではない。その他,診療経過や解剖所見を精査しても,Aが,低カリウム血症に起因する致死性不整脈により死亡したことを否定すべき事情も認められない。
以上によれば,C鑑定自体がそもそも不整脈の可能性があると指摘していた血中カリウムイオン濃度に照らし,Aが低カリウム血症に起因する致死性不整脈により死亡した具体的可能性があるといえる。



低カリウム血症以外の要因による致死性不整脈による死亡の可能性
低カリウム血症以外の要因による機能性不整脈で死亡した場合にも,解剖結果のみから死因を判別することはできない。そこで,次に,低カリウム血症以外の要因による致死性不整脈でAが死亡した可能性についても検討する。G意見書は,Aのように診療経過が長期にわたる事例の死因究明のためには,その診療経過を分析することが必要であるとした上,Aには,慢性閉塞性肺疾患,低酸素血症,冠動脈狭窄及び肺水腫が確認され,これらはいずれも致死性不整脈の要因となり得るものであるから,Aの死に不整脈が関与した可能性が高く,Aが不整脈誘発により容態が急変して死亡した可能性が高いという内容である。また,H意見書は,Aの脳の変化の状態に着目すると,平成14年10月4日に搬送されICUに入院した際,既にAの脳は損傷されていた可能性が高い,解剖所見からAには肺水腫と左心不全が認められる上,全身浮腫等も持続していたから,それらを要因とする致死性不整脈を引き起こし得るという内容である。さらに,J医師作成の鑑定意見書(再弁17,18)によれば,Aの年齢や,入院当初から高CO2血症が見られ,人工呼吸器から離脱を試みても成功しなかった点,下顎呼吸が認められた点,入院3日後の胸部CT所見で肺気腫と診断されている点,さらに入院時心電図で右室肥大を認め,肺性心と考えられることから,Aが慢性Ⅱ型呼吸不全であったことはほぼ確定的であり,しかも肺水腫等の慢性の心機能不全兆候を示す解剖所見があって,Aは慢性閉塞性肺疾患状態に陥っていたため,慢性閉塞性肺疾患と心不全とが高頻度に併存する結果,致死性不整脈の発生リスクが高まっていたとする。
このように,3名の医師が,Aの診療経過や医学的知見に基づく合理的な推論により,低カリウム血症以外の致死性不整脈の要因を指摘しており,特に慢性閉塞性肺疾患と肺水腫については2名ないし3名が一致して指摘しているから,その信用性は高い。
したがって,Aに,低カリウム血症以外の要因による致死性不整脈が生じた可
能性も相当程度具体的なものである。


遷延性低酸素状態による窒息死の可能性


管への痰詰まりによる酸素供給低下による窒息死の可能性

前記のとおり,C鑑定の解剖所見によれば,Aの気管部右側に痰が多量に認められた上,異変発見後の看護師による痰吸引を踏まえると,急変時には解剖時より多量の痰があったことが認められる。C医師自身も,捜査段階の初期においては本件呼吸器の管に痰が詰まって酸素供給低下が生じた可能性を指摘していた。ところで,Aの本件当日の看護記録中の,B看護師が異変発見後にまとめて記載した事項には午前3時痰吸引という記載があるが,E看護師は実際にはAの痰吸引を行っていなかったと供述等しているし(再弁95,96),B看護師は確定控訴審において本件当日午前1時に痰吸引を行った旨供述するが,本人がまとめて記載した看護記録にその記載がないことから同供述はたやすく信用できない。そうすると,本来,頻回の痰吸引が必要なAについて,本件前日午後11時頃以降,看護師による痰吸引が行われていなかった可能性が高いから,異変発見時に吸引される以前は,気管部に相当多量の痰があった現実的可能性がある。また,本件呼吸器の高圧アラームの設定値は50㎝H2Oであったと認められるところ(地甲17,20,22),人工呼吸器の高圧アラームは,回路の閉塞等に起因する過剰な圧による合併症を予防する安全機構であり,設定値の目安は,基本的に35ないし40㎝H2O未満にすべきとする文献がある(再弁60)。本件呼吸器の設定値は,上記目安よりも少なくとも10cmH2O程度高かったから,合併症予防のためにアラームを吹鳴させるべき上記目安以上に気道内圧が上昇したとしても,前記設定値に至らなければ,アラームは吹鳴しないことになる。そうすると,本件呼吸器の機種や設定に照らして,痰が詰まっているにもかかわらず,アラームが吹鳴しなかった現実的可能性も否定できない。
以上を総合すると,Aについて,本件前日午後11時頃以来吸引が行われていなかった痰の管への詰まりによりガス交換が不十分となって酸素供給低下となり,
これに基づく遷延性低酸素状態が死因となったものの,高圧アラームが吹鳴するほどには気道内圧を上昇させなかったためにアラームが鳴らなかった具体的可能性があるというべきである。

接続不良等による酸素供給低下による窒息死の可能性

本件病院は,本件呼吸器の検査を行い,その結果を平成16年5月14日付けで捜査機関に提出しているところ(再弁59),L字管と人工鼻のわずかな外れ(人工鼻の半分が1㎜外れていた場合)に起因するエアリークでは,本件呼吸器の低圧アラームが吹鳴しないが,換気量が4分の1ないし3分の1程度に低下し,換気機能が阻害されるとされている。また,本件呼吸器と同一機種の人工呼吸器について,ウォータートラップの不完全な接続により,低圧アラームが鳴らない程度に気道内圧が低下し,患者の呼吸状態が悪化する事故が複数発生した事実が認められる(再弁57)。
そうすると,L字管と人工鼻の外れ又はウォータートラップの不完全な接続若しくはこれらの複合を原因として,Aの酸素供給が低下し,遷延性低酸素状態が死因となった可能性は,抽象的なものにとどまらないといえ,その可能性は無視することができないと認められる。


まとめ

C鑑定等のうちAの死因に関する判断部分は,解剖所見や診療経過から見て,人工呼吸器の管の外れ等に基づく酸素供給欠乏以外の死因として,低カリウム血症に起因する致死性不整脈等の複数の死因の具体的可能性が想定されるにもかかわらず,それらの可能性を排斥すべき合理的な理由が十分に説明されているとはいい難い上,解剖所見外の真偽が疑わしい事情を前提に導かれたものである疑いがあることなどから信用することができない。被告人の自白供述以外の証拠に基づき検討した場合,Aの死因について,人工呼吸器の管の意図的な抜去による酸素供給遮断であると認めるに足りる証拠はない。一方,Aが,低カリウム血症に起因する致死性不整脈を含む他の原因で死亡した具体的可能性が認められる。し
たがって,被告人の自白供述を除いて検討した場合,本件事件性を認めるに足りない。
第4

被告人の自白供述の任意性及び信用性(争点②)について
ここまでは,争点①につき,被告人の捜査段階における自白供述を除いた証拠関係の下で検討を行ってきた。その結果,C鑑定等によっても,Aの死因が,人工呼吸器の管の外れ等に基づく酸素供給欠乏にあったと認めることができない結論に至ったが,他方,診療経過等を併せ考慮しても,致死性不整脈等,他の原因で死亡したと断定することもできないのであって,管の外れ等に基づく酸素供給欠乏により死亡した可能性を完全に排斥することもできない。被告人は捜査段階において管を意図的に抜去した旨の自白供述をしているところ,仮に,このような被告人の供述の信用性が高いとすれば,死亡の原因が酸素供給欠乏であるというC鑑定等を補強証拠とするなどして,事件性及び被告人の犯人性が肯定できる可能性が生じ得る。
そこで,上記被告人の供述(本件自白供述)の任意性,信用性を検討することとする。
なお,ここで任意性,信用性の判断対象とする本件自白供述は,平成16年7月10日から同月26日までの間に作成された被告人の警察官調書,検察官調書及び供述書(被告人の作成した文書の中には,標題がないものや,作成日付が明確でないものもあるが,被告人が自筆で作成した本件に関する書面を全般的に供述書という。)であり,弁護人は,本件自白供述は,いずれも任意性を欠くとして,その証拠排除を申し立てている。当裁判所は,後記のとおり,本件自白供述の信用性には重大な疑義があるばかりか,任意にされたものでない疑いがあると判断し,これらを証拠排除することとした(なお,一般的には証拠能力の問題である任意性について先行して検討すべきであるが,本件においては任意性と信用性の判断要素が相当程度重複することから,便宜上信用性の判断を先行させることとした。)。

1
自白の信用性について



被告人供述の変遷


任意捜査段階(平成15年7月)から確定第1審第2回公判期日(平成1
6年10月19日)に至るまでの本件に関する被告人の供述状況及びその内容の骨子は,別紙被告人の供述経過一覧表のとおりである。なお,同一覧表においては,被告人の供述を時系列順に整理するとともに,備考欄において,それらの供述がされた時期における捜査状況等の客観的な事情を認定している。イ
被告人の供述経過をみると,任意捜査の段階から,否認供述を含めて変遷
を繰り返している。Aの死亡への被告人の関与の有無及び程度,アラームが鳴り続けたのかどうか,本件呼吸器の管を外したのか外れたのかなど,複数の重要な点でめまぐるしく,かつ,大幅に変遷している。この変遷状況のみを取り上げても,その中から真の体験に基づく供述を選別することは極めて困難である。ウ
他方,確かに,死亡への関与を被告人が認めるようになった以降の変遷の
うち,当初の平成16年6月29日,同月30日に過失に基づくと供述した点は,自らの責任を軽減したい心理が働いた結果とみることも一応可能ではある。また,アラームを鳴らさずに故意に酸素供給遮断状態を作出した旨の同年7月10日以降の被告人の供述は,アラームが鳴り続かないように作為を加えつつAを殺害したという根幹部分では一貫しているともいい得る。
しかしながら,かかる殺害方法の前提とされているアラームの消音状態維持機能をいつ知ったのかという部分についての被告人の供述には,以下のとおり重要な変遷が含まれている。すなわち,被告人は,同日にA殺害に際してアラームの消音状態維持機能を利用した旨を供述した後,消音状態維持機能をいつ,どのように知ったのかについて,同月20日に,消音ボタンを押してアラームを消しても,管が外れたままだと1分後に再び鳴り出すという仕組みは仕事を通じて自然に覚えた旨の供述をし(地乙6),同月21日の再現見分を経た同月22日には,これに加え,消音ボタンを押して1分を経過する前に再度消音ボタンを押せばア
ラームが鳴らないようになっていることも自然に覚えた旨を供述した上(地乙11),同月23日(地乙13,17),同月24日(地乙14,15)にも以上と同旨の供述をするなど,予め消音状態維持機能の存在を知っていたという内容を述べていた。そうであるにもかかわらず,同月25日の検察官の取調べでは,消音ボタンを押して1分くらいが経過すると再度アラームが鳴ることは経験上知っていた,アラームの消音時間が1分であることは看護師の誰かから聞いた記憶がある,この1分が経過する前に再度消音ボタンを押すとアラームが鳴らない状態が続くことは知らなかったが,大体1分が経過するのを数えて,たまたまアラームが鳴る前に再び消音ボタンを押すと,アラームが鳴らない状態が続いたなどと,前日までの供述と異なり,消音状態維持機能の存在は知らなかったとの内容に変遷している(地乙19)。
ところで,被告人がAを殺害しようとする場合,廊下を挟んで真向いにナースステーションがあり,また,Aと同じ病室には他の患者も入院していたから,前記アラームの音量の大きさ及び3階でのアラーム音の識別状況も踏まえると,犯行発覚を免れるために,本件呼吸器のアラームをなるべく鳴らさないことに思い至ると考えられる。したがって,アラームが鳴る前に消音状態を維持する方法を知っていたか否かの点は,故意に管を外したという自白の信用性を判断する上でとりわけ枢要な部分と考えられる。
しかも,この点に関する変遷については,その合理的な動機が想定できない。すなわち,管を外して殺害したことを認めているにもかかわらず,犯意の発生時期とも無関係に,消音状態を維持する方法を事前に知っていたのか,犯行時に,しかもたまたま知ったのかについて虚偽を述べる動機自体を想定し難い(自らの責任を軽減したいという意図が働いた可能性は低い。)。管を外して殺害したことを体験に基づいて供述しているのであれば,この点が変遷する理由も考え難い。エ
そうすると,前記枢要部分が変遷する前記自白に対しては,その点のみな
らず,管を外したとする点も含めて,体験に基づく供述ではないのではないかと
の疑いを生じさせる。また,被告人は,管を外したとの供述を始めた当初は,管を引っ張り上げて外したと供述していた(地乙4等)が,平成16年7月20日以降は,管を真っすぐ手前に引っ張って外したと供述するようになっている(地乙10,11等)。管を外して殺害したことを認めつつ,具体的な外し方が変遷する理由は前同様に想定し難く,この点も,被告人の自白が体験に基づく供述ではないのではないかとの疑いを基礎付けるものといえる。
供述内容の不合理性
死亡に至る際のAの表情変化等について,被告人は,Aが,眉間にしわを寄せて苦しそうにし,口をはぐはぐさせ,口を縦に大きく開け目を上向きにして白目になったと供述し,さらにその際のAの顔色は蒼白であったと供述する(地乙5)。
しかし,H意見書は,看護記録等に照らし,Aの顔面神経は機能を失っており,表情筋が動くことはないとする。すなわち,平成14年12月19日の看護記録には吸引にて顔をしかめるとの記載があるから顔面神経が残存していたと考えられるが,それ以外には,診療記録中に顔面の動きに関する記載がない。そして,同年10月27日にはJCSⅢ-300とあることから,同日から平成15年1月10日までの間,JCSⅢ-200から300の間で揺れ動いていたものの,同日にはⅢ-300で固定化したと考えられるから,本件当日にAが苦悶の表情をすることはあり得ないとする。H意見書の上記部分は,看護記録(再甲1)の記載に整合する上,解剖所見(地甲12)によれば,Aには広範な大脳皮質の壊死が認められ,Aは本件当時顔面神経が機能を失っていたと認められる点にも整合する。すなわち,解剖所見によれば,Aの脳は,正常構造類似の形状を残しているのは脳橋部以下の延髄,脊髄部分のみであり,眼球運動の中枢を担う中脳の機能が失われていたと認められる。これに反し,本件当時にAの表情筋や眼球が動いた可能性をいうC医師の供述部分は信用し難い。Aの表情変化に関する被告人の前記供述は,必ずしも明確ではなく,反射や筋肉の弛緩を見間違えた可能性
も皆無とはいえないが,H意見書に基づく上記検討を踏まえれば,少なくとも,Aが眉間にしわを寄せたとする点については,反射や筋肉の弛緩の見間違いとして説明することは困難であり,不合理であるというべきである。
また,被告人の供述どおり,真に,被告人が本件呼吸器の管を意図的に抜去して酸素供給を遮断し,これによりAが窒息死したのであれば,その際の顔色はチアノーゼとなり,黒ないし赤黒い色になるものと認められる(C証言,再弁5,52)。これに反し,死亡時のAの顔面は蒼白であったとする被告人の前記供述は不合理である。
以上のとおり,被告人の前記供述は,医学的知見に照らし,明らかに不合理である。
まとめ
以上のとおり,被告人の供述は,任意捜査段階を通じ,合理的理由がなく大幅に変遷している上,このうち自白供述については死亡に至る際のAの表情変化等の点で医学的知見と矛盾する不合理な内容でもあるから,本件自白供述の信用性には重大な疑義がある。
被告人の自白供述単独で,Aが人工呼吸器の管の外れ等に基づく酸素供給欠乏により死亡したと認め得るほどの信用性はない。そして,これにC鑑定等を併せてみても,Aは,上記死因によって死亡したことが,合理的疑いなく認められると評価することはできない。
2
自白の任意性について
任意にされたものでない疑の意義及び判断の在り方

被告人が作成した供述書及び被告人の供述を録取した書面であって,被告人の自白や不利益事実の承認を内容とするものは,任意にされたものでない疑があると認めるときは証拠とすることができない(刑訴法322条1項)。そして,刑訴法は,任意にされたものでない疑いがある自白の例として,強制,拷問又は脅迫による自白,不当に長く抑留又は拘禁された後の自白を列挙しているが(同
法319条1項),典型的な場合の例示列挙にすぎず,上記疑いがあるとされるのは,これらの場合に限られるものではない。
任意にされたものでない疑がある場合に該当するか否かについては,任意性のない自白の証拠能力を否定すべき趣旨(人権擁護,違法排除,虚偽排除)を踏まえ,人権侵害及び捜査手続の違法・不当性の有無・程度を中心に据えた上,虚偽供述である可能性の点も付加して,総合的に検討・判断するのが相当である。より具体的には,①自白供述がされた経緯,過程における人権侵害の有無・程度,②捜査手続の違法・不当性の有無・程度に加え,③それらが当該自白供述に与えた影響の有無・程度(因果性),④それらの事情により虚偽供述が誘発されたおそれ等の事情を総合考慮して判断すべきである。そして,その際には,捜査機関側の事情のみならず,供述者側の事情,例えば,年齢,精神障害の有無・内容も考慮しつつ,具体的かつ実質的に判断すべきであり,外形的には自発的に供述されているかのように見える場合でも,実質的には,違法,不当な捜査手続等によって誘発されたものであるとして,任意性を否定すべき場合もあり得る。⑵

本件自白供述がされた経緯,背景等

確定審及び当審における被告人の公判供述を除く関係証拠によれば,本件自白供述がされた経緯,背景等について,以下の事実が認められる。

初期段階の捜査経過

本件の捜査は,当初,Aの死亡時に当直に当たっていたB看護師及び被告人を被疑者とする業務上過失致死事件として進められた。B看護師及び被告人は,任意の事情聴取において,いずれも本件呼吸器のアラームは鳴っていなかった旨供述していたが,捜査機関は,本件呼吸器の管が外れていた以上,アラームは鳴っていたはずであるとの見立てに基づき,両名に対する厳しい追及を続けた。そのような中,B看護師及び被告人は,精神的な不調を来し,被告人においては,平成15年7月11日にZ病院精神科を受診し,不安,軽度抑うつ気分などを症状とする適応障害と診断され,その後も断続的に通院するなどしていた(再弁64,
65)。

任意捜査段階におけるF警察官の取調べ及び被告人の供述状況等

被告人の取調べ担当官は,従前のM警察官からF警察官に変わり,平成16年5月10日,F警察官による初めての取調べが行われた。被告人は,同日の取調べにおいても,前記アと同様の厳しい追及を受け,当初は,否定していたものの,最終的には,アラームが鳴っていたことを認めるに至り,翌11日にはその旨の供述調書(地弁12)が作成された。
被告人の取調べについては,その後も一貫してF警察官が担当することとなったが,被告人は,取調べが重ねられる中で,被告人の身の上話等にも耳を貸してくれるF警察官に次第に信頼と好意を寄せるようになり,同月24日から同年6月中旬にかけて,呼出しを受けてもいないのに,何度も警察署に出頭したり(地弁49),F警察官に宛てて書いた手紙(地弁28)を他の警察官に預けたりした。F警察官の気を惹こうと考えた被告人が,自殺未遂を装って,手首に包帯を巻いて警察署を訪れることもあった(F警察官の確定第1審における証言。以下F証言という。)。
被告人の供述内容は,任意捜査の間を通じ,アラームの吹鳴の有無,本件呼吸器の管を外したのか外れたのか,アラームが吹鳴した後の行動など,複数の重要な点でめまぐるしい変遷を重ねた。

被告人の特性とF警察官の認識
ところで,被告人には,軽度知的障害,発達障害(注意欠如多動症)及び
気分循環性障害が併存している。一般に,知的障害者は,権威者に依存する傾向があるほか,回答方法や範囲が限定された質問に対して誘導されやすい特性があるとされるところ,被告人にも同様の特性が認められる。
また,被告人には,性格的な特徴として,愛着障害がある。生来の知的・発達障害のために目の前の出来事に捉われ,自分の言動がどのような結果を招来するのかに考えが及びにくい中,長年持ち続けていた劣等感と表裏一体をなす愛着障
害に基づく強い承認欲求と相まって,迎合的な供述をする傾向がある(N医師作成の意見書〔再弁63〕。なお,同医師は,経験豊富な精神保健指定医であり,その専門的知見や公正さに問題はない上,前記判断は,直接被告人と複数回面談し,必要な諸検査を行った結果,合理的な判断過程を経て導かれた内容であるから,信用することができる。)。
F警察官は,被告人の取調べの担当を引き継ぐ際に,前任のM警察官から,被告人は取調べ中に暴れたり,泣きわめいたりする大変な子である旨の引継ぎを受けていたほか,平成16年5月10日以降の上記のような経緯から,遅くとも同年6月下旬頃までには,被告人の迎合的な供述態度を認識するとともに,被告人が自身に好意と信頼を寄せ,その関心を惹くためにいくつもの嘘をついたことにも気付いていた(F証言)。

被告人による初めての殺害自白

そのような中,被告人は,平成16年6月29日,おむつ交換をした際に,管が外れたように思ったが,確認せずに部屋を離れたなどとの,自己の過失を認める内容の供述書(地弁29)を作成し,同年7月2日には,F警察官に対し,本件呼吸器の管を引っ張り上げて外してAを殺害した旨の供述をし,その旨の供述調書(地弁15)が作成された。

捜査方針の転換とその後の捜査経過

捜査機関は,被告人が,平成16年7月5日にも故意に管を外して殺害したとの供述を維持したこと等を踏まえ,以降,殺人被疑事件として捜査する方針を固め,同月6日,被告人を逮捕した。被告人は,同月8日,勾留され,接見等禁止が付された。
捜査機関は,それまでの捜査等により,本件呼吸器自体には故障その他の異常がないことを確認していたほか,遅くとも同月10日までの間には,Aの入院していた病棟の他の入院患者やその家族等からの事情聴取などの結果,Aの死亡した頃にはアラームが鳴っていなかった事実を把握していた(再弁104)。
このため,その後の捜査は,本件呼吸器の管が外されたのに,アラームが鳴らなかった理由,原因に焦点を当てて進められた。

弁護人の選任とその後の接見状況

被告人は,両親の依頼により被告人を訪れた弁護士と接見し,平成16年7月8日に1名,同月9日に2名の弁護人を選任した。同月8日の初回接見において,被告人は,弁護人に対し,Aの死亡は事故であり,殺していない旨述べた(地弁40)。
被告人は,翌9日以降も,ほぼ連日にわたり弁護人と接見した(なお,検察官による接見指定がされ,接見時間は,1回につき約1時間とされた。)。キ
初回接見以降の被告人の取調べ及び供述の状況等
被告人は,同月8日,初回接見後にF警察官の取調べを受け,その際,F
警察官に対し,弁護士との接見において殺していない旨述べたことを伝えるとともに,弁護士さんが来た時に自分から逃げようと嘘をついてしまった旨の供述書(地弁40)を作成した。同日の取調べは,当初の予定時刻を超えて午後10時40分まで行われた(地弁4)。
被告人は,その後も,弁護人との接見時には,殺害を否定し,その直後のF警察官の取調べにおいても,同様に否認供述をすることが繰り返されたが,その都度,最終的には,F警察官の取調べで再度殺害を認める供述に転じ,自白調書が作成された。
また,F警察官は,弁護人の接見が行われる度に,被告人から聴取するなどして,その内容を把握していた。接見の内容とともに弁護士には嘘をついた旨の供述が記載された調書や供述書(地弁18,43,44,45)が作成されることもあった。
被告人は,同月14日頃及び同月22日頃,接見等禁止の一部解除決定を得て,両親からの手紙を受け取った。それらの手紙には,両親が弁護人を信頼しており,被告人にも弁護人を信頼してほしい旨が記載されていた。
被告人は,同月15日,F警察官と弁護士のどちらを信用したらよいのか分からない,いろいろなことを詳しく聞いてくれるF警察官の言うことを信用する旨記載した供述書(地弁47)を作成した。翌16日,検察官の取調べにおいては,殺害を否認したが,その後のF警察官の取調べにおいて,検察官の取調べで嘘をついた旨の供述書(地弁48)を作成し,再度自白に転じた。被告人の逮捕後の供述調書や供述書には,

刑事さんは私を見捨てずに真剣になって私の話を聞き,私のことを考えてくれて,嬉しかった。

(地弁17:逮捕当日の警察官調書),

F警察官は親身になって事情を聴いてくれた。初めて私のことを理解しようとしてくれる人がいると思った。

(地弁21:逮捕翌日の検察官調書),

私のことでこんな真剣になってくれる人は初めてでした。刑事さん,私を見捨てないでください。こんな私を最後まで見守ってください。

(地乙6:同月17日の警察官調書),

なんでこんな私の為に一生けんめいしてくれるのだろう。本当にうれしい。こんな人ははじめてや。私はどうしたらいいんでしょう。

(再弁106:同日付の供述書)など,F警察官に対する恋愛感情や信頼感をうかがわせる記載が多数あるほか,

これから私は自分に自信が持てるように精一杯努力していき,これからの人生を楽しく行けるようにしていきたい。

(地弁38:逮捕翌日の供述書)など,殺人罪で逮捕された直後にもかかわらず,前向きな気持ちが記載されたものがある。
被告人の供述は,上記のとおり,弁護人との接見や両親から受け取った手紙等を契機に,幾度も否認と自白との間で揺れ動き,検察官の面前でも否認供述が述べられたこともあった。しかし,被告人の逮捕後には,起訴後に作成されたものも含めて30通に迫る警察官調書,検察官調書が作成されたにもかかわらず,1通たりとも否認調書は作成されなかった。また,被告人は,逮捕後のF警察官による取調べの中で,同人の面前で30通余りに上る供述書を作成しているが,そのほとんどはその前後において作成された供述調書とほぼ同じ内容のものであり,少なくとも本件再審公判手続までの間に検察官から弁護人に開示された逮捕
後の供述書の中には,犯行を否認する内容のものは存在しない。
同月20日のF警察官による取調べにおいては,殺害を認める旨の詳細な供述調書が2通作成されたが,その日の午前の取調べにおいては,被告人は,

私の書いたもん(注:供述書のことを意味すると解される。)全部返して

と泣き叫び,F警察官の腕を掴んだり,勝手に退出しようとしたことがあった(再弁129)。

捜査の具体的な進捗状況と本件自白供述の供述経過等
平成16年7月10日午後3時45分から午後5時までの間に,本件病院
の臨床工学技士の立会の下,本件呼吸器の実況見分が行われ,捜査機関において,アラームの消音状態維持機能を含む本件呼吸器の仕様等を把握した(地甲4)。被告人は,同日,午後7時5分から午後11時25分までF警察官の取調べを受けた。その際,管を外した後,B看護師らに気づかれないよう,消音ボタンを押し続けて消音状態を維持しながらAが死んでいくのを待っていた旨の供述をし,その旨の供述調書が作成された(地乙3)。翌11日には,

消音ボタンを1回押せば1分の間,アラームの音は消え,私は,その度に消音ボタンを押してAさんの側でAさんが死んで行くのを待っていたのです。

との供述が記載された供述調書が作成された(地乙4)。
被告人は同月12日,管を外した後,アラームが鳴る1分が経過する前に消音ボタンを押してAが死んでいく様子を見届けた,Aは眉間にしわを寄せ,口をはぐはぐして苦しそうにしていた,最後に,Aは目を大きく見開いて瞳が上の方に行って白目をむき,口を縦に大きく開いて本当に苦しそうに死んだ旨の供述をし,その旨の供述調書(地乙5)及び供述書(地乙23)が作成された。同月17日には,管を外した後,消音ボタンを押し続けてアラーム音を消しながらAの死んでいく姿を見ていた,その後,管を繋ぎ直し,管が外れていたことを示す赤ランプを消すために消音ボタンを押した旨の供述をし,その旨の供述調書(地乙6)が作成された。

その後も,被告人は,同月25日の検察官の取調べに至るまで,管を外し,ピッと一回鳴ったアラーム音を消音ボタンで消し,次にアラームが鳴るまでの時間を数えて1分になる前に消音ボタンを押すことを繰り返した,3回目の消音ボタンを押したところ,Aが死んでいたとの趣旨の供述を維持していた(地乙11,13ないし15,17)。
他方,消音状態維持機能をいつ,どのように知ったのかという点についての被告人の供述経過は,前記1⑴ウで述べたとおりであり,同月24日と25日を境に,消音状態維持機能の存在を予め知っていたという内容から,これを知らなかったとの内容に変遷している。
なお,前記第1の3前提事実⑵のとおり,本件呼吸器は,①消音ボタンによるアラームの消音時間は1分間であり,②消音状態維持機能を搭載するものであったが,本件病院の看護師の中には,消音時間が1分間であることを正確に認識していた者は居なかった上,消音状態維持機能を利用していた者はおろかその存在を知っていた者も居なかった(再弁90ないし103,地甲20。なお,B看護師は,確定控訴審における証人尋問において,看護業務の際,消音状態維持機能を利用することがあるかのような供述をしているものの,公判供述全体を子細に検討すれば,消音状態維持機能を知っていたとの趣旨の供述であるとはいえない。)。そうすると,被告人が,上記①及び②の事実を看護師から教えてもらったり,その手技を見たりして知ったということは考えられない。そして,被告人は看護助手であって,人工呼吸器の操作は禁止されており,その使用方法の講義を受けることも当然ないのであるから,上記①及び②の事実は被告人において知り得ない内容であったといえる。

利益供与等の不当・不適切な取調べ

F警察官は,少なくとも任意捜査中の平成16年6月30日の取調べの際,長時間にわたる取調べの合間に,息抜きをさせるためとして被告人にジュースを提供した。

また,F警察官は,被告人の取調べを行うに当たり,他の捜査員が居ると拒んで話をしないということがあったので,取調室のドアにごみ箱を挟んで開いたままにしつつ,ドアの外側に女性警察官を待機させ,室内では1対1の状態で取り調べることがあった(F証言)。

被告人のF警察官に対する身体的接触

被告人は,本件起訴の二,三日前に行われたF警察官の取調べの際に,取調べが終わってF警察官が離れていくのが寂しいという旨を口にしながら,調書を作成しているF警察官の左手を撫でるように触ることがあった。
また,被告人は,留置施設から滋賀刑務所への移監を控えた平成16年8月25日,F警察官の取調べを受けた際,寂しくなると言ってF警察官に抱きついた。F警察官は,これをあからさまに拒絶することはせず,頑張れよと言いながら被告人の肩を叩いた(F証言)。

起訴後の被告人の精神状態等

被告人は,起訴後,接見等禁止が解けて連日のように両親と接見していたが,その中で,供述を覆して殺意はなかったと否認するようにと言われたことから,困惑し,精神的に動揺している状況にあった(地弁4,59)。そのような中で,平成16年8月18日弁護人と接見した際には,弁護人に対し,初めからAを殺すつもりはなかった旨伝えるなどしており(地弁67),同月24日の時点でも,弁護士や父母が否認を勧めるので戸惑っていると述べるなど,情緒不安定な状態であった(地弁4,25)。
以上のような状態で迎えた同年9月24日の確定第1審の第1回公判期日において,被告人は,精神的に不安定であるとの理由で罪状認否を留保し,その後同第2回公判期日までの間には,針金を嚥下して自殺を図ったり,自分で壁に頭をぶつけたりといった行動に出ることもあった(地弁5)。そして,同年10月19日に行われた同第2回公判期日において,犯行を否認した。

起訴後の取調べ・検察官への手紙とその内容

F警察官は,捜査本部の方針の下,検察官の許可も得て,起訴後も被告人の取調べを続けており,両親や弁護人が否認を勧めるので迷っているが,自分がAを殺したことに間違いないから公判では事実を認める,もし公判で否認したとしてもそれは自分の本当の気持ちではない,との趣旨の供述調書(地弁23,25)を作成したほか,同旨の供述書(検察官宛の手紙の体裁。地弁59,62,67,68,70)も作成させるなどした。また,F警察官は,被告人の前記第1回公判期日を傍聴した(F証言)。
本件自白供述の動機,経緯に関する被告人供述等
被告人は,当審公判廷において,前記⑵のとおり殺害を認め,その供述を維持した理由等について,以下のとおり供述する。

まず,最初に殺害を認めるに至った経緯については,平成16年5月10
日の取調べでF警察官から絶対にアラームが鳴っていたはずだと厳しく追及されていたところ,これから逃れるためにアラームが鳴っていたことを認める供述をすると,その態度が優しくなり,身の上話を聞いてくれたり,優しい言葉をかけてくれたりしたため,F警察官に好意を抱くようになった,その後,F警察官と話がしたくて自分から警察署に出向いたり,同情を誘うための嘘をつくなどしていたが,同年6月下旬にかけて段々とF警察官の自分への関心が薄れているように感じ,管を自分で外したなどと大それたことを言えば関心を持ってくれて,自分の話を聞いてくれると考え,同年7月2日,本件呼吸器の管を自分で外したと述べた,などと供述する。

そして,その後もAを殺害した旨の供述(本件自白供述を含む)を維持し
ていた経緯について,平成16年7月9日の弁護人との初回接見後,弁護人の助言を受けて本件呼吸器の管は抜いていないと否認したこともあったが,F警察官やその上司の警察官から,逃げるな,両親は警察を信用していて弁護士なんか信用していない,起訴前に来るような弁護士は聞いたことがない,そんな弁護士は信用するなと言われたため,弁護人ではなくF警察官を信用して否認を撤回した,
その後も,F警察官は,弁護人との接見が終わる度にその様子を聞いてきて,前同様にそんな弁護士は信用できないと繰り返すので,そのとおりなのかと思った,同月14日頃には,母から,両親は弁護士を信用している旨の手紙を受け取ったが,F警察官がそれは弁護士が書かせたもので,両親の本当の気持ちではないと言うので,その手紙は信用しなかった,同月16日の検事の取調べで,この人なら本当のことを言っても分かってくれると思い,故意に本件呼吸器の管は外していないと否認したが,その後のF警察官の取調べで,そんなことを言ったら大変なことやと言われ,F警察官の指示で,検事宛に,否認は嘘である旨の供述書を作成した,F警察官から,殺人でも無罪から死刑まであり,執行猶予になる場合もあるし保釈になる場合もある,僕に任しておけば間違いはないと言われていたため,このまま自分が殺人犯になって大変なことになるとは思っていなかった,起訴の前後を問わず,F警察官が供述書の作成及びその記載内容を指示し,毎回これに従って作成していたなどと供述している。
また,そのほかにも,F警察官による取調べに関し,F警察官が毎日のようにオレンジジュースを差し入れてくれていたことや,F警察官が右手で調書を作成している際に,その左手に触れたりしていたが,F警察官はこれを嫌がることはなかった旨も供述する。

被告人が供述する内容は,警察官の関心を惹くためにやってもいない殺人
を自白したというものであり,一見して不自然なものである感は否めないが,F警察官に対する恋愛感情の存在を前提に,軽度知的障害や発達障害,愛着障害等の被告人の前記特性を踏まえて検討すれば,必ずしもあり得ない内容ではなく,むしろ,前記⑵の認定事実に裏付けられ,あるいはこれに沿うものであるといえる。
他方,被告人の当審公判供述の中には,F警察官が弁護人との信頼関係を損ねるような発言をしたとする点や,供述書はF警察官の指示に基づいて作成していたとする点など,一部F警察官の供述と整合しない部分もある。もっとも,F警
察官は被告人の取調べに当たって誘導は一切行っていないと断言するものの,前記⑵クの事実を踏まえると,被告人が知っていたはずのない消音状態維持機能を利用してアラームを鳴らさずにAを殺害した旨の供述をした際にはF警察官からの誘導があったと考えるほかないのであって,誘導はしていない旨のF警察官の供述は信用することができない。また,F警察官の供述には,被告人が否認する内容の供述調書や供述書が存在するか否かの点で,確定審の公判供述中に特段の理由なく変遷している部分もあり,これらの点に鑑みると,本件再審公判においてF警察官の証人尋問が行われていないことを踏まえる必要性はあるものの,F警察官が捜査の適正さを強調するなどの目的で不当,不適切な手続を糊塗し,あるいは矮小化する供述をした具体的な可能性が認められる。
そうすると,そのほかに被告人の当審公判供述に反する証拠がないことも併せ考慮すれば,被告人の当審公判供述を信用できないとして排斥することはできない。


検討


まえると,被告人

が,平成16年7月2日,F警察官に,初めて本件呼吸器の管を外してAを殺害した旨の供述をしたのは,F警察官の関心を惹くためであったと認められ,その供述内容の真偽はともかく,上記供述が自発的になされたものであることは明らかである。

一方,逮捕後にもその供述を維持した理由,経緯,その際の捜査手続につ
いては下記の各事実が認められる。
F警察官は,検察官による接見指定により弁護人の接見が1回につき約1時間程度とされる状況の下,自らは,連日にわたり,ときに深夜近くにまで及ぶ長時間の取調べをして,被告人から弁護人との接見内容を聞き出すとともに,そんな弁護士は信用できないなどと繰り返し述べて被告人と弁護人との信頼関係を損ねるような発言を繰り返した(前記⑵カ)。

F警察官は,被告人から,弁護人との接見や検察官の取調べで殺害を否認した旨を聞いたり,その後,自身に対して否認供述を続けたりしても,逃げるななどと言ってこれを聞き入れようとせず,被告人が再び自白に転じるまで供述調書を作成することはなかった。その結果,F警察官は,多数の自白調書を作成するとともに,被告人に指示して,これとほぼ同内容の多数の供述書を作成させたほか,接見時等における否認供述について,弁護人や検察官に嘘をついた旨の供述調書等を作成するなどした一方で,被告人の否認供述を証拠化することはなく,)。
F警察官は,被告人に対する取調べにおいて,捜査の過程で判明した具体的事実等を被告人に伝えつつ,これと整合する捜査機関側のストーリーを示唆するなどした。被告人の自白供述は,捜査の進展に連動して,捜査機関側の見立てやストーリーに沿うように変遷している上,消音状態維持機能については,Aの死亡当時,被告人が知り得ず,およそ創作することもできない内容の供述を含んでいる。

そこで,以上の事実を踏まえ,さらに当時の捜査機関,特に,F警察官の
意図について検討すると,上記イのような捜査手続の内容,経緯自体から,それら捜査が,被告人の自白の獲得・維持を目的として行われたことや,捜査状況に応じ,捜査機関の描くストーリーに沿う自白供述をするよう誘導する意図に基づいて行われたことが強く推認される。
加えて,F警察官が,遅くとも平成16年6月下旬頃までには,被告人の迎合的な態度や自身に対する恋愛感情を認識していたこと(前記⑵ウ),接見等禁止中で弁護人としか接見できない被告人に対し,接見毎にその内容を聞き出した上,弁護人に対する不信感を煽るような言動を繰り返すなどしたこと(前記被告人供述),その一方で,事件に関する供述以外に,被告人の自身に対する恋愛感情を記載した供述調書を多数作成したり(前記⑵キ),取調べ中,毎日のように,被告人にジュースを差し入れて飲ませたり,取調べにおいて,本来,立ち会わせる
べき女性警察官を取調べ室外に待機させて,被告人と2人きりの状態にし,被告人が自身の手を触ってくるのを黙認したりしたこと(同コ,前記被告人供述)等の事情を併せ考慮すれば,F警察官が,逮捕後の取調べを通じて,被告人の特性や恋愛感情に乗じて,被告人に対する強い影響力を独占し,その供述をコントロールして,自白供述を維持させようとする意図を有していたことが推認される。さらに,F警察官が,起訴後も,被告人に対して幾度も取調べを行ったこと,弁護人や両親との接見を重ね,公判期日において否認をしようと考えていることを知るや,被告人に指示して,公判でも事実を認める旨の検察官宛の手紙等を複数作成させた上,確定第1審の第1回公判期日を傍聴したこと(同シ)などの本件自白供述以降の事情は,F警察官の被告人に対する影響力を独占し,その供述をコントロールしようとする意図の存在を裏付け,かつ,それが強固なものであったことを示すものといえる。


本件自白供述の任意性(あてはめ)について

そこで,以上を踏まえ,前記⑴の規範に照らし,本件自白供述が,任意にされたものでない疑があるといえるか否かについて検討する。ア
まず,本件捜査手続及び捜査官の意図について検討すると,F警察官は,
被告人の迎合的な供述態度や自らに対する恋愛感情等を熟知しつつ,これを利用して,被告人の供述をコントロールしようとの意図の下,連日にわたり長時間の取調べを重ねるとともに,その過程で,弁護人との接見内容を把握し,かつ,弁護人との信頼関係を損なうような言動をすることにより,弁護人以外との接見等が禁止されていた被告人に対し,強い影響力を独占的に行使し得る立場を確立した上,捜査の過程で把握した具体的な情報を逐次提供するなどしつつ,これと整合的な自白供述を引き出そうと誘導し,あるいは,捜査機関の描くストーリーを暗に示唆するなどしたものと認められる。

そこで,それら捜査の人権侵害性や違法・不当性についてみると,接見内
容の把握や弁護人との信頼関係を損なうような言動は,それ自体,被告人の秘密
接見交通権や弁護人による弁護を受ける権利を実質的に侵害するものといえる上,上記のような状況・意図の下,否認してもその調書は作成せず,長時間の取調べを経て,あくまでも自白調書や自白の供述書のみを積み重ねていくという姿勢を堅持する中で,知的障害や愛着障害等から迎合的な供述をする傾向が顕著である被告人に対し,上記のような誘導的な取調べを行うことは,虚偽供述を誘発するおそれの高い不当なものであったというべきである。

次いで,それら捜査が本件自白供述に与えた影響の有無・程度(因果性)
について検討すると,被告人が,現に,弁護人と接見する度に否認に転じ,検察官に対しても否認供述をしていることに照らしても,F警察官の言動により被告人と弁護人との信頼関係が揺らぐことがなければ,F警察官が,上記特性を有する被告人に対し,自身に対する恋愛感情等に乗じて強い影響力を独占的に行使し続けることは困難であったと考えられ,日々,弁護人との接見を重ねる中で,被告人が,自白供述を維持したかどうかは疑問である。F警察官が否認供述にも耳を傾け,否認供述を内容とする調書も作成する姿勢を示していたとすれば,なおのことである。しかも,被告人は,上記取調べの過程で,F警察官から提供された,自らの知り得ない情報に基づく具体的な内容をも含む詳細な自白供述をしているのであって,その供述は,まさにF警察官の上記のような取調べによって誘発されたものであると評価すべきである(なお,一般論としては,客観的な証拠や関係者の供述内容を教示しつつ,被疑者の言い分を聴取する捜査手法がおよそ許容されないものではなく,むしろ,そのような手法が必要かつ合理的な場合もあり得る。しかし,自発的な供述を引き出すためには,まずもって,被疑者に自らの記憶に基づく供述を自由にさせ,その上で,必要に応じ,上記のような手法を用いるのが相当である。特に,被暗示性や迎合的な供述傾向が強い供述者に対しては,自由に体験事実を供述させる前に,客観的な証拠の内容等を教示すれば,そのこと自体により証拠内容に沿う供述を誘発するおそれがあることに留意すべきである。)。

以上によれば,本件自白供述のうちF警察官に対する供述調書(地乙3ないし16)は,上記のような防御権侵害や不当性を伴う捜査によって誘発されたものである疑いが強い。
また,本件自白供述のうち供述書(地乙21ないし23)についても,外形的には,被告人自身が作成したものではあるものの,いずれもF警察官の指示により,その面前で,ほぼ同趣旨の自白調書が作成されるのと相前後して作成されたものであり,同様に上記捜査の影響によって誘発された疑いが強い。さらに,本件自白供述のうち,検察官に対する自白調書(地乙17ないし20)も,その中に

私のことを一生懸命考えてくれるF警察官の言葉を信用し,正直にありのままを話した。

という記載がある(地乙20)ことからも明らかなとおり,F警察官の取調べによる上記のような影響が排除されることはなく,むしろ,その影響が強く残存する中で作成されたものであると認められる。エ
以上に加え,F警察官は,消音状態維持機能の例を含め,Aの死亡当時,
被告人が知り得なかった情報を教示するなどして供述を誘導したことにより,現に,虚偽供述を誘発したことも認められる。

総合評価

そこで,以上の事情を総合して評価すると,本件における防御権侵害や捜査手続の不当・不適切性は,これらを主たる理由として任意性を否定されたこれまでの事案ほどに深刻なものとまではいえないとしても,被告人の特性・恋愛感情やこれに乗じて被告人に対する強い影響力を独占してその供述をコントロールしようとするF警察官の強固な意図と相まって,虚偽供述を誘発するおそれがあるものであったというべきであり,かつ,現に明白な虚偽供述を含む本件自白供述を誘発した疑いが強いというべきである。防御権侵害及び捜査手続の不当・不適切性の有無,程度等の捜査機関側の事情に加え,知的障害・愛着障害等の特性や恋愛感情等,供述者たる被告人側の事情をも含む,上記供述がなされた経緯,過程に関わる諸事情を総合すると,本件自白供述は,実質的にみて,自発的になされ
たものとはいえず,上記防御権侵害や捜査手続の不当・不適切性によって誘発された疑いが強いというべきであるから,任意にされたものでない疑があるというべきである。
なお,F警察官に対する恋愛感情は,少なくとも初期の段階では被告人の自発的な感情であり,Aを殺した旨を初めて述べた時点では,その供述が外形的にも実質的にも自発的になされたものであることは前記のとおりであって,恋愛感情の存在は,それ自体が直ちに任意性を疑わせる事情になるものではない。しかし,F警察官は,被告人が,弁護人との接見後,否認に転じると,被告人の恋愛感情や迎合的な供述態度を熟知しつつ,これに乗じて被告人の供述をコントロールしようとの意図の下で,不当・不適切な手段を用いて,恋愛感情を増進させつつ,他方で弁護人への不信感を醸成させ,被告人に対する影響力を独占し,その供述を誘導,コントロールしようとしたものであって,そのような状況の下でなされた供述は,もはや実質的には,自発的に行われたものとはいえず,不当・不適切な捜査等によって誘発されたものと評価するのが相当であるから,前記認定を左右しない。


証拠排除

以上の次第であって,当審において取り調べた証拠を踏まえる限り,本件自白供述(乙3ないし23)については,いずれも任意にされたものでない疑があるというべきであるから,これらを証拠排除することとする。
第5

結論

以上によれば,被告人の自白供述以外の証拠によっては,そもそも事件性を認めるに足りず,むしろ,Aが致死性不整脈その他の原因により,死亡した具体的な可能性があることが認められる。そして,本件呼吸器の管を外してAを殺害した旨の本件自白供述は,いずれも任意にされたものでない疑があるものとして証拠排除した以上,本件公訴事実については,被告人の犯人性以前の問題として,そもそも,Aが何者かによって殺害されたという事件性すら証明されておら
ず,犯罪の証明がないことに帰する。
したがって,刑訴法336条により,被告人に無罪の言渡しをする。
令和2年3月31日

大津地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

大西直樹
裁判官

今井輝幸
裁判官

進藤諭
被告人の供述経過一覧表
年月日
(元号は平成)

書面の種類

供述内容

証拠

証拠上認められる出来事等

A死亡
人工呼吸器のアラームに気付かなかったことによる業務上過失致死の疑いで捜査開始15.5.22
B看護師が,Aの発見時,本件呼吸器の管が外れていたが,アラームは鳴っていなかった旨供述(高弁2,再弁90)。
C鑑定書が作成される。事歴欄にB看護師の供述を前提とした内容の記載あり(地甲12)。

15.6.9

15.7.8

警察官調書
(M)

Aの発見時,管が外れていたのを見た。アラームは鳴っていなかったが,赤ランプは点灯していた。ランプの意味はわからない。
B看護師は居眠りをしており,そのことを口止めされていた。

地弁10

15.7.9

警察官調書
(M)

Aの発見時,管が外れていたのは見ていないし,B看護師が繋げたのも見ていない。アラームは鳴っていなかったが,赤ランプは点灯していた。ランプは抜けた管を繋いだことを意味する。

地弁11

15.7.11

被告人が,Z病院精神科を受診。精神科医に対し,8日の警察官調べで,「機械は問題なかった,アラームに気付かなかっただけだろう,遺族の気持ちになったらアラームが鳴っていないとは言えないだろうと詰め寄られ,どうでもよいと思い,Bを裏切った」と述べる(再弁64,65)。

16.2.3

本件呼吸器に異常がなかったことが確認された(地甲17)。
警察は,本件呼吸器に異常がなかった以上,アラームが鳴っていたはずであるとの前提で捜査。アラームに気付かなかった業務上過失致死を念頭に,B看護師及び被告人を容疑者としてそれぞれ取調べが行われていた(高弁2,被告人質問)。
16.5.10頃

F警察官による最初の被告人の取調べが行われる。以降,警察で
の被告人の取調べは全てF警察官が担当した(地甲49)。

16.5.10
警察官調書
(F)

Aのおむつ交換をした際にアラームが鳴り出したので,消音ボタンを押してアラームを消した。管が外れていたかどうかは確認していない。その後,再度アラームが鳴りだしたが,B看護師が対応すると思った。

地弁12

供述書

Aのおむつ交換をした際にアラームが鳴り出したので,消音ボタンを押してアラームを消した。管が外れていたかどうかは見ていない。その後,再度アラームが鳴りだしたが,B看護師が対応すると思った。

地弁26

16.5.11

被告人が,呼出がないにもかかわらず,自ら警察署に出頭。供述調書は作成せず(地甲49)。

(別紙)

16.5.20

年月日
(元号は平成)

16.5.22

書面の種類

警察官調書
(F)

供述内容

証拠

Aのおむつ交換をした際にアラームが鳴り出した。仕事に追われていたので,本件呼吸器を確認せずに部屋を離れた。アラームにはB看護師が対応すると思った。
本件後,B看護師から,アラームは鳴っていなかったよねと言われ続けていた。
地弁13

16.5.24
16.5.26
16.6.8
16.6.10
16.6.13
16.6.14

証拠上認められる出来事等

被告人が,呼出がないにもかかわらず,自ら警察署に出頭。供述調書は作成せず(地甲49)。

16.6.19

供述書

実はアラームは鳴っていなかった。アラームが鳴っていたと言えば取調べがなくなると思い,嘘をついていた。

地弁27

16.6.21

警察官調書
(F)

アラームは鳴っていなかったと言ったのは嘘で,本当は以前話していた通りアラームは鳴っていた。

地弁14

16.6.29

供述書

Aのおむつ交換時,布団をめくった際に管が外れてアラームが鳴ったので繋ぎなおした。その後,布団をかけた際に管が外れたように思ったが確認しなかった。部屋を離れた後アラームが鳴ったが無視した。

地弁29

供述書

Aのおむつ交換時,布団をめくった際に管が外れてアラームが鳴ったので繋ぎなおした。その後,やけくそになって布団を掛けた際に管が外れたように思ったが確認しなかった。アラームが鳴っていたが無視した。しばらくしてAの部屋に戻るとAは亡くなっていた。消音ボタンを押し,B看護師を呼びに行った。
地弁30

警察官調書
(F)

事故ではなく,私が管を引っ張り上げて外してAを殺した。その後,部屋を出たが,アラームは鳴り続けていた。約10分後,B看護師が気付いてAの部屋に向かったので付いていくとAは死んでいた。B看護師が外れていた管を繋ぎ,私はアラームが鳴っていたことを示す赤ランプを消すために消音ボタンを押した。
地弁15

供述書

Aの呼吸器の管を引っ張って外した。当然,アラームは鳴り続けていた。アラームに気付いて起きたB看護師とAの部屋に行くと,Aが急変していた。B看護師が管を触ったりしているうちに,私が消音ボタンを押した。

地弁31

供述書

Aのおむつ交換時,荒っぽく布団をめくった際に管が外れてアラームが鳴ったので繋ぎなおした。その後,布団をかける際も荒っぽくやると何かに触った気がしたが放っておいた。部屋を離れた後アラームが鳴ったが無視した。

再弁124

日付なし

16.7.2

関係証拠からH16.6.30に作成したものと認められる。

年月日
(元号は平成)

書面の種類

供述内容

証拠

警察官調書
(F)

Aの管を外した後,別の部屋でおむつ交換をしていた。アラームは鳴り続けていた。B看護師が起きてこないので,管を繋ぎ直してナースステーションに戻った。B看護師が起きたので一緒におむつ交換に行くと,Aが死んでいたことに気付いた。

地弁16

供述書

Aの管を故意に外した。動機は病院への不満等である。

地弁32

供述書

Aの管を外した後,別の部屋でおむつ交換をしていた。アラームは鳴り続けていたのでAの部屋に行くと,Aは死んでいた。

証拠上認められる出来事等

地弁33

16.7.5

B看護師が,遅くとも被告人が逮捕されるまでの間に,Aの発見時に管が外れていたか否かははっきりしない旨の供述に変更(高弁
2)。
被告人逮捕(逮捕場所愛知川警察署)
警察官調書
(F)

Aの管を故意に外し,そのまま放置して殺した。
刑事さんは私を見捨てずに真剣になって私の話を聞き,私のことを考えてくれて,嬉しかった。

地弁17

供述書

Aの管を故意に外した。

地乙21

供述書

Aの管を外した後,別の部屋のおむつ交換をしている間,アラームは鳴り続けていた。Aの部屋に戻ると,管は外れており,その顔面が青白くなっていた。
地弁34

供述書

Aが亡くなっていたので,B看護師に報告しようとしたができなかった。その後,B看護師とおむつ交換のためにAの部屋に行くと,B看護師はAの急変に気付き慌てていた。このとき,本件呼吸器の赤ランプが点灯していたので,B看護師に気付かれないうちに消音ボタンを押してランプを消した。B看護師はアラームが鳴っていたことは知らないと思う。

地弁35

供述書

動機として,病院への不満があった。
本当に私の話を真剣に聞いてくれる人がいるんだと思い,すごくうれしかった。
地弁36

16.7.6

年月日
(元号は平成)

書面の種類

供述内容

証拠

供述書

これから私は自分に自信が持てるように精一杯努力していき,これからの人生を楽しく行けるようにしていきたい。

地弁38

弁解録取書
(O検察官)

管を外したまま病室を出た。アラームが鳴り続けていたがBが気付いてくれると思って放置し,5分後くらいに戻ると死んでいたので管をつないだ。
地乙25

検察官調書
(O)

Aの管を外した後,すぐに別の部屋に行った。5分間くらいアラームが鳴り続けており,怖くなってAの様子を見に行くと死んでいた。自分の行為がばれないように,管を繋ぎ直した。
警察での取調べの間,少しでも私のことを分かって欲しいという気持ちがあった。F警察官は親身になって事情を聴いてくれた。初めて私のことを理解しようとしてくれる人がいると思った。

証拠上認められる出来事等

地弁21

16.7.7

勾留質問調書
事実はそのとおり間違いない。
(P裁判官)

地弁26
被告人勾留,接見等禁止決定(大津警察署)

16.7.8
供述書

16.7.9

弁護士さんが来たときに自分から逃げようと嘘をついてしまった。
警察官調書
(F)

Aの管を外して殺したことは間違いない。警察官や,検事,裁判官には正直に話したが,父母が私のために頼んでくれた弁護士には,故意に外していない,ミスだったと嘘をついた。

地弁40

午後4時30分頃から20分程度弁護人と初回接見(地弁4)。
この日の最後の取調べでは,核心に触れる供述に至ったことを理
由として,取調べの終了が予定時刻を1時間40分超過している(地弁4)。

地弁18

午前9時頃から1時間程度,午後8時頃から45分程度,それぞれ弁護人接見あり(地弁4)。
この日の最後の取調べでは,核心に触れる供述に至ったことを理
由として,取調べの終了が予定時刻を1時間5分超過している(地弁4)。
入院患者の付き添いをしており,本件当日の午前3時半から4時頃に複数回ナースコールをしたQが,司法警察員に対し,本件が発生した午前4時過ぎ頃,アラーム音は聞いていない旨供述(再弁6
9)。
本件呼吸器の実況見分において,消音状態維持機能の存在が確
認される(地甲4)。なお,捜査機関は,消音機能の存在及び消音時間が1分であることはH15.5.29に把握していた(再弁125)。
16.7.10

警察官調書
(F)

Aの管を外した後,B看護師らに気付かれないよう,消音ボタンを押し続けてAが死んでいくのを待っていた。アラームは鳴っていない。
刑事さん,こんな悪い私を見捨てないでくださいね。

地乙3

午前10時20分頃から1時間程度,午後5時頃から40分程度,それぞれ弁護人接見あり(地弁4)。
この日の最後の取調べでは,核心に触れる供述に至ったことを理
由として,取調べの終了が予定時刻を2時間25分超過し,午後11時25分となっている。なお,午後10時53分には,打ち切り検討要請が実施されている(地弁4)。

年月日
(元号は平成)

証拠

Aの管を引っ張り上げて外した後,消音ボタンを押し続けてAが死んでいくのを待っていた。消音ボタンを押せば1分間アラームの音が消えるので,その度に消音ボタンを押し続けていた。

地乙4

供述書

Aの管を外し,音が鳴ったら見つかると思い,消音ボタンを押し続けた。Aが亡くなった後に管を元に戻して放置した。

地乙22

供述書

周囲の気を引こうと嘘ばかりついていた。

地弁42

警察官調書
(F)

Aの管を外した後,アラームが鳴る1分経過前に消音ボタンを押して死んでいく様子を見届けた。Aは眉間にしわを寄せ,口をはぐはぐして苦しそうにしていた。最後に,Aは,目を大きく見開いて瞳が上の方に行って白目をむき,口を縦に大きく開いて本当に苦しそうに死んだ。
アラームが鳴っていたという話をしていたのは,B看護師を道連れにするための嘘である。

地乙5

供述書

弁護士から殺人になったら10年以上は刑務所に入ることになると聞いたり,逮捕されたときの新聞を見せられてショックを受けた。事実から逃げるために嘘をつきとおすことを考えた。

地弁43

供述書

弁護士には故意ではないと言った。刑事から酷い取調べを受けているとも言った。明日は弁護士にもすべて正直に話す。

地弁44

供述書

16.7.12

供述内容

警察官調書
(F)
16.7.11

書面の種類

Aの管を外した後すぐに消音ボタンを押した後,また鳴ると困ると思いボタンを押すことを繰り返していた。Aを見ると眉間にしわを寄せ苦しそうにもがいているように見えた。次にAを見たときには目が上を向いて口を大きく開いて顔面が青白くなって死んでいた。その後,管を繋ぎ直して放置した。

地乙23

16.7.13

午後6時頃から30分程度弁護人接見あり(地弁4)。

午前9時頃から30分程度,午後6時頃から1時間程度,それぞれ弁護人接見あり(地弁4)。

午後4時頃から1時間程度弁護人接見あり(地弁4)。
供述書

弁護士に本当のことを言った。弁護士は私が嘘をついていたことを怒っていた。
地弁45

供述書

A以外の患者のベッドの柵を外して事故に見せかけようとしたり,布団で口を押さえたこともあったが,いずれも思いとどまった。

地弁46

供述書

A以外の患者のベッドの柵を外して事故に見せかけようとしたり,布団で口を押さえたこともあったが,いずれも思いとどまった。
弁護士から,故意にやったと言ってしまうと罪が重くなる,調書さえ書かれなければ困らない,検事には本当のことを言えばよい,と言われ,気持ちが揺れている。どっちを信用したらいいかわからない。私は,いろんなことを詳しく聞いてくれている刑事さんの言うことを信用する。

地弁47

16.7.14

16.7.15

証拠上認められる出来事等

午後6時頃から40分程度弁護人接見あり(地弁4)。

午後6時頃から1時間程度弁護人接見あり(地弁4)。

年月日
(元号は平成)

供述書

今日,検事の取調べで嘘をついた。検事が真剣に話を聞いてくれるので,来週にはありのままを話そうと思う。

地弁48

午後6時頃から1時間程度弁護人接見あり(地弁4,再弁129)。この日の最後の取調べでは,核心に触れる供述に至ったことを理
由として,取調べの終了が予定時刻を48分超過している(地弁4)。
警察官調書
(F)

Aの管を外した後,消音ボタンを押し続けてアラーム音を消しながらAの死んでいく姿を見ていた。その後,管を繋ぎ直し,管が外れていたことを示す点灯ランプを消すために消音ボタンを押した。
(自白に至った心境に関し)刑事さんはこんな私に,お前を信じている,俺がお前の不安を取り除いてやると言ってくれました。本当に本当に嬉しかった。私のことでこんな真剣になってくれる人は初めてでした。刑事さん,私を見捨てないでください。こんな私を最後まで見守っていてください。

地乙6

なんでこんな私の為に一生けんめいしてくれるのだろう。本当にうれしい。こんな人は,はじめてや。私はどうしたらいいんでしょう。

再弁106

Aの管を外そうと思ったが,詰所のB看護師が気になり,止めた。その後,B看護師と詰所で話をした後,一人でAの部屋に戻って管を抜いた。

地弁53

供述書

刑事さんが真剣になって私の話を聞いてくれるので,信用して本当のことを話した。

地弁54

本件前日に,Aや他の患者を殺そうとしたができなかった。

地弁55

警察官調書
(F)
16.7.19

証拠上認められる出来事等

供述書

16.7.18

証拠

供述書

16.7.17

供述内容

供述書

16.7.16

書面の種類

いじめの対象になるなどして病院への不満が溜まっていた。

地乙7

警察官調書
(F)

いじめの対象になるなどして病院への不満が溜まっていた。

地乙8

供述書

いじめの対象になるなどして病院への不満が溜まっていた。

地弁56

午後6時頃から1時間程度弁護人接見あり(地弁4,再弁129)。この日の最後の取調べでは,核心に触れる供述に至ったことを理
由として,取調べの終了が予定時刻を1時間8分超過している(地弁4)。

午後6時頃から30分程度弁護人接見あり(地弁4,再弁129)。この日の最後の取調べでは,核心に触れる供述に至ったことを理
由として,取調べの終了が予定時刻を1時間25分超過している(地弁4)。

午後6時20分頃から40分程度弁護人接見あり(地弁4,再弁129)。
この日の最後の取調べでは,核心に触れる供述に至ったことを理
由として,取調べの終了が予定時刻を1時間25分超過している(地弁4)。

年月日
(元号は平成)

書面の種類

警察官調書
(F)

16.7.20
警察官調書
(F)

供述内容

証拠

おむつ交換時に管が外れてアラームが鳴っても消音ボタンを押せば消え,外れたままだと1分後に再び鳴り出すことがあって,このアラームの仕組みは自然と覚えていた。事故に見せかけて殺すにはどうしたらよいか考え,本件呼吸器の管を外して消音ボタンを押しながら死んでいくのを見届けた後,管を元通りはめ直し,事故に見せかけることとした。

地乙9

Aの管を引っ張って外した。この管が簡単に外れること,管を外すとアラームが鳴り,赤ランプが点滅すること,消音ボタンを押すとアラームが止まり,赤ランプが点灯状態になること,管を繋ぎ直した後,再度消音ボタンを押すと赤ランプが消えることは今までの経験から知っていた。
Aの管を外し,ピッと1回鳴ったアラーム音を消音ボタンで消し,次にアラームが鳴るまでの時間を数えて1分になる前に消音ボタンを押した。Aは前同様の顔の動きをさせて死んでいった。消音ボタンを押したのは合計3回。その後,管を繋ぎ直し,消音ボタンを押して赤ランプを消した。

地乙10

この日の午前の取調べでは,被告人は,私の書いたもん全部返してと泣き叫び,F警察官の腕を掴んだり,勝手に退出しようとしたりして,供述調書の作成を阻害したことがあった(再弁129)。
午後6時頃から1時間程度弁護人接見あり(地弁4,再弁129)。この日の最後の取調べでは,本件実行行為の調書を作成すること
を理由として,取調べの終了が予定時刻を1時間40分超過している(地弁4)。

本件病院において,被告人の指示・説明に基づく再現見分が行わ
れた(地乙11)。

16.7.21
Aの管は,繋ぎ目を持って,真っすぐ引っ張ると簡単に外せた。
人工呼吸器のアラームの仕組みについては,別の患者を車いすに乗せる際,管を外せばアラームが鳴り,消音ボタンで消すと1分後にまたアラームが鳴るが,1分経過前に消音ボタンを押せばアラームは鳴らないようになっていることを自然に覚えた。
Aの管を外して最初のアラームが鳴った後,1,2,3と数え続けて1分になる前に消音ボタンを押し,Aが前同様の動きをさせた後表情もなくなり青白い顔になって死んだのを確認した。

地乙11

検察官調書
(O)

前回の検事調べではAを殺すつもりはなかったと述べたが,本当はAを殺すつもりで管を外して,Aを殺した。嘘をついていた理由は,弁護士から,殺意を認めれば10年以上刑務所に行かなければならないなどと言われて不安になったからである。

地弁22

警察官調書
(F)

犯行動機は病院への不満である。

地乙12

警察官調書
(F)

前同様の人工呼吸器のアラームの仕組みについては,自然に覚えた。Aの管を一気に手前に引っ張って外し,死んでいく姿を見届けながら殺した。
地乙13

検察官調書
(O)

人工呼吸器の操作方法等については,看護師の操作を見たり,看護師から聞いたりして覚えた。

地乙17

警察官調書
(F)
16.7.22

16.7.23

証拠上認められる出来事等

午後6時頃から1時間程度弁護人接見あり(地弁4,再弁129)。
午後6時20分頃から40分程度弁護人接見あり(地弁4,再弁129)。
年月日
(元号は平成)

証拠上認められる出来事等

Aの管を真っすぐ手前に引っ張って外した。管を外して最初のアラームを消し,1,2,3と指折り数えて時間を数え続け,1分経過する前に消音ボタンを押すことを繰り返した。Aが前同様の顔の動きをさせ,顔色も段々青白くなっていった。そのまま消音ボタンを押し続け,Aが死んでいく姿を見届けた。

地乙14

警察官調書
(F)

Aの管を外して最初のアラームを消し,1,2,3と指折り数えて時間を数え続け,1分経過する前に消音ボタンを押すことを繰り返した。Aが前同様の顔の動きをさせ,顔色も段々青白くなっていったほか,目を大きく開け瞳をギョロギョロさせていた。3回目の消音ボタンを押したところ,Aは死んでいた。

地乙15

午後6時10分頃から40分程度弁護人接見あり(地弁4,再弁129)。
被告人は,取調べ中,調べが進む毎にFさんが遠くなっていくと
述べて,F警察官の手に触れるなど甘えた仕草をすることがあった(再弁129)。
この日の最後の取調べでは,核心に触れる供述に至ったことを理
由として,取調べの終了が予定時刻を2時間10分超過している(地弁4)。

病院に対する不満が溜まっており,事故に見せかけて患者を殺そうと考えるようになった。

地弁57

警察官調書
(F)

Aを殺したことに間違いない。刑務所に行くことや父母を悲しませることが怖くて嘘をついていた。

地弁20

検察官調書
(O)

病院に対する不満が溜まっており,事故に見せかけて患者を殺そうと考えるようになった。

地乙18

検察官調書
(O)

1分経過した頃に再びアラームが鳴り,その後消音ボタンを押せば消えることは知っていた。1分という時間は,看護婦の誰かから聞いた記憶がある。頭の中で1秒,2秒と時間を数え,1分たった頃再び消音ボタンを押した。アラームが鳴らない状態が続いた。1分経過後に消音ボタンを押すとアラームが鳴らない状態が続くことは知らなかったが,たまたま鳴る前に消音ボタンを押すと,アラームが鳴らない状態が続いた。3回目の消音ボタンを押した後で,Aは前同様の顔の動きをした後,目を上向きにして白目をむいた状態で,青白い顔になり,目も口も動かなくなって死んだと思った。管をつないで赤ランプを消した。

地乙19

検察官調書
(O)

16.7.26

証拠

供述書

16.7.25

供述内容

警察官調書
(F)

16.7.24

書面の種類

F警察官は,私がどんなことを言っても,一生懸命私の言うことを聞いて信じてくれようとしていた。私のために何とかしてくれようとしていることが分かり,初めて信用できる人に会ったという気持ちだった。私のことを一生懸命考えてくれるF警察官の言葉を信用し,正直にありのままを話した。

地乙20

警察官調書
(F)

正直に本当のことを話せず,わざと気が狂ったふりをしたりしていたが,刑事さんはそんな私を見捨てようとはせず,一生懸命に私の話を聞いてくれた。24年間でこんなに私のことを思って話を聞いてくれる人は初めて。

地乙16

午後6時頃から40分程度弁護人接見あり(地弁4)。
被告人は,取調べの当初は,申述書用の紙を千切ったり,途中で
急に立ち上がって退出しようとしたりして,取調べに応じない態度に出ていたが,その後,刑事さんが離れていくのが寂しいと述べて
供述を始めた(再弁129)。

本件公訴提起
16.7.27
午後5時50分頃から20分程度弁護人接見あり(地弁4)。

年月日
(元号は平成)
16.8.1

書面の種類
検事宛手紙

供述内容

証拠

両親が公判では殺意はなかったと言うよう勧めるので迷っている。
証拠上認められる出来事等

地弁59
F警察官が取調べを行う。留置施設の記録には,被告人は,両親
の面会により供述をくつがえせ等言われ,精神的に動揺していると記録されている(地弁4)。

16.8.2

検事宛手紙

Aを殺したことは間違いない。弁護士の話を聞いて否認した方がよいと思うときもあるが,ありのままを話して罪を償いたい。

地弁62

警察官調書
(F)

私が弁護士さんの言葉に従って否認してしまっても,それは私の本当の気持ちではない。

地弁23

16.8.4

F警察官が取調べを行う。この日の最後の取調べでは,余罪取調
べを理由として,取り調べの終了が予定時刻を55分超過している(地弁4)。

16.8.10

F警察官が取調べを行う。この日の午前の取調べでは,余罪取調
べを理由として,取り調べの終了が予定時刻を55分超過している(地弁4)。

16.8.18

午後2時40分頃から40分程度弁護人接見あり(地弁4)。

16.8.23

検事宛手紙

弁護士に渡された被疑者ノートには酷い取調べをされている旨の嘘を書いていた。8月18日には,弁護士に,今の気持ちとして,殺意はなかったし,初めから殺すつもりはなかったと言ってしまった。
こんな私なので,裁判の時にAを殺していないと言ってしまっても嘘なので,どうか分かってほしい。

地弁67

16.8.24

警察官調書
(F)

起訴後,弁護士や父母が否認を勧めるので戸惑っている。もし裁判の時にAを殺していないということを言ってしまっても,それは本当の私の気持ちではない。
地弁25

午後1時20分頃から50分程度弁護人接見あり(地弁4)。
F警察官が取調べを行う。留置施設の記録には,被告人が入房を
拒絶したことが記載されているほか,被告人が熱がある旨申立て,情緒不安定なため,動静監視を徹底すべきである旨の申し送りがされている(地弁4)。

16.8.25

検事宛手紙

弁護士に被疑者ノートの内容は嘘だと伝えても取り合ってもらえなかった。私の気持ちになって裁判で弁護してくれるか,不安だ。

地弁68

午後4時頃から15分程度弁護人接見あり(地弁4)。
F警察官が取調べを行う。留置施設の記録には,被告人が入房を
拒絶したことが記載されている(地弁4)。

被告人移監(移監先:滋賀刑務所)

16.8.27
16.9.21
16.9.24

検事宛手紙

もし罪状認否で否認してもそれは本当の私の気持ちではない。

地弁70

確定第1審第1回公判 精神的に不安定という理由で罪状認否を留保(F警察官傍聴)。
年月日
(元号は平成)

書面の種類

供述内容

証拠

証拠上認められる出来事等

16.9.28

被告人,うつ状態と診断。保護房に収容。針金を嚥下(地弁5)。
16.10.7

被告人,自分で壁に頭をぶつけるなどして保護房に収容(地弁5)。確定第1審第2回公判 公訴事実を否認。

16.10.19

凡例:

ゴシック体で表記

本件自白供述(弁護人が証拠排除を申し立てているもの)

注:同日付の供述調書,供述書の作成の先後は証拠上不明であり,便宜上,供述調書を先に記載した。
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