判例検索β > 平成29年(行ウ)第51号
障害者投票権確認等請求事件
事件番号平成29(行ウ)51
事件名障害者投票権確認等請求事件
裁判年月日令和2年2月27日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第2民事部
裁判日:西暦2020-02-27
情報公開日2020-04-09 16:00:25
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主1
原告の請求をいずれも棄却する。

2文
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
原告が,次回の衆議院議員,参議院議員並びに豊中市及び大阪府の議会の議員及び長の選挙において,投票所の事務に従事する者に限らず,原告が投票の補助を希望する者を,投票管理者から投票を補助すべき者として選任を受けた上で投票をすることができる地位にあることを確認する。

2
被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成28年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,
脳性麻痺により両上肢機能の障害を有し,
豊中市に居住する原告が,
成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律(平

成25年法律第21号。以下平成25年改正法という。)による改正前の公職選挙法(以下,改正前のものを改正前公選法,改正後のものを改正後公選法といい,
改正前後にかかわらず,
公職選挙法を指す場合は
公選法
という。)48条2項が改正されたことにより,選挙人の投票を補助すべき者(以下補助者という。)を投票所の事務に従事する者(以下投票事務従事者という。)から選ぶ方法に変更され,自らの希望しない者を補助者として投票をせざるを得なくなったものであるから,改正後公選法48条2項は,憲法15条1項,4項,43条,44条及び14条1項(以下,これらを併せて憲法15条4項等という。)に違反するとして,(ア)次回の衆議院議員,参議院議員並びに豊中市及び大阪府の議会の議員及び長の選挙において,投票
事務従事者に限らず,原告が投票の補助を希望する者を,投票管理者から補助者として選任を受けた上で投票をすることができる地位にあることの確認を求める(以下本件確認請求という。)とともに,(イ)①国会議員が平成25年改正法を制定して改正前公選法48条2項を改正後公選法48条2項に改正した行為(以下本件立法行為という。)及び②第24回参議院議員通常選挙(以下本件選挙という。)までに平成25年改正法を改正しなかった不作為(以下本件立法不作為という。)は,国家賠償法(以下国賠法という。)の適用上違法であり,本件選挙において自らの希望する補助者の協力の下で投票をできなかったことにより精神的苦痛を被った旨を主張して,国賠法1条1項に基づき,損害賠償金110万円及びこれに対する違法行為の後の日である平成28年7月11日(本件選挙の投票日の翌日)から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
(以下
本件国賠請求
という。)事案である(なお,前記①及び②の国家賠償請求は,選択的併合の関係にあると解される。)。
1
関係法令等の定め

(1)

平成25年改正法による公選法改正の概要
東京地方裁判所平成25年3月14日判決は,成年被後見人は選挙権を有
しないと定めた公選法11条1項1号の規定が憲法の規定に反し,違憲であると判断した。
当該判決を受けて,成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律案(衆法第16号)が国会において審議され,平成25年5月27日,平成25年改正法が成立し,同月31日に公布,同年6月30日に施行された。
平成25年改正法は,選挙権者の欠格事由として成年被後見人を定めていた改正前公選法11条1項1号を全部削除し,成年被後見人の選挙権を回復するとともに,
改正前公選法48条2項の代理投票の要件等を改正した。

(乙1)
(2)

公選法の自書投票に係る定め

44条1項は,選挙人は,選挙の当日,自ら投票所に行き,投票をしなければならない旨を規定する。


46条1~3項は,選挙人は,投票所において,投票用紙に,①衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙の投票については,当該選挙の公職の候補者一人の氏名を,②衆議院(比
例代表選出)
議員の選挙の投票については,
一の衆議院名簿届出政党等
(8
6条の2第1項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。以下同じ。の同項の届出に係る名称又は略称を,

③参議院
(比例代表選出)
議員の選挙の投票については,公職の候補者たる参議院名簿登載者(86条の3第1項の参議院名簿登載者をいう。以下同じ。)1人の氏名等を,
それぞれ自書して,これを投票箱に入れなければならない旨を規定する。(3)

改正前公選法の代理投票に係る定め
(下線部分は平成25年改正法による

改正部分である。後記(4)において同じ。)

48条1項は,身体の故障又は文盲により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名(衆議院比例代表選出議員の選挙の投票にあっては衆議院名簿届
出政党等の名称及び略称,参議院比例代表選出議員の選挙の投票にあっては公職の候補者たる参議院名簿登載者の氏名又は参議院名簿届出政党等の名称及び略称)を記載することができない選挙人は,46条1項から3項まで,50条4項及び5項並びに68条の規定にかかわらず,投票管理者に申請し,代理投票をさせることができる旨を規定する。


48条2項は,前記アの規定による申請があった場合においては,投票管理者は,投票立会人の意見を聴いて,当該選挙人の投票を補助すべき者(補助者)2人をその承諾を得て定め,その1人に投票の記載をする場所において投票用紙に当該選挙人が指示する公職の候補者(公職の候補者た
る参議院名簿登載者を含む。)1人の氏名,1の衆議院名簿届出政党等の名称若しくは略称又は1の参議院名簿届出政党等の名称若しくは略称を記載させ,他の1人をこれに立ち会わせなければならない旨を規定する。(4)

改正後公選法の代理投票制度に係る定め
48条1項は,心身の故障その他の事由により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名(衆議院比例代表選出議員の選挙の投票にあっては衆議院名簿届出政党等の名称及び略称,参議院比例代表選出議員の選挙の投票にあ
っては公職の候補者たる参議院名簿登載者の氏名又は参議院名簿届出政党等の名称及び略称)を記載することができない選挙人は,46条1項から3項まで,50条4項及び5項並びに68条の規定にかかわらず,投票管理者に申請し,代理投票をさせることができる旨を規定する。

48条2項は,前記アの規定による申請があった場合においては,投票管理者は,投票立会人の意見を聴いて,投票所の事務に従事する者(投票事務従事者)のうちから当該選挙人の補助者2人を定め,その1人に投票の記載をする場所において投票用紙に当該選挙人が指示する公職の候補者(公職の候補者たる参議院名簿登載者を含む。)1人の氏名,1の衆議院名簿届出政党等の名称若しくは略称又は1の参議院名簿届出政党等の名称
若しくは略称を記載させ,他の1人をこれに立ち会わせなければならない旨を規定する。
(5)

郵便等投票制度等に関する公選法の定め
49条2項は,選挙人で身体に重度の障害があるもの(身体障害者福祉法4条に規定する身体障害者,戦傷病者特別援護法2条1項に規定する戦傷病者又は介護保険法7条3項に規定する要介護者であるもので,政令で定めるものをいう。)の投票については,48条1項及び49条1項の規定によるほか,
政令で定めるところにより,
42条1項ただし書,
44条,
45条,
46条1項から3項まで,
48条及び50条の規定にかかわらず,

その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし,これを郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律2条6項に規定する一般信書便事業者,同条9項に規定する特定信書便事業者若しくは同法3条4号に規定する外国信書便事業者による同法2条2項に規定する信書便(以下郵便等という。)により送付する方法により行わせることができる旨を規定する(以下,この制度を郵便等投票制度という。)。

49条3項は,選挙人で身体に重度の障害があるもの(身体障害者福祉法4条に規定する身体障害者,戦傷病者特別援護法2条1項に規定する戦傷病者又は介護保険法7条3項に規定する要介護者であるもので,政令で定めるものをいう。)で49条2項に規定する方法により投票をしようとするもののうち自ら投票の記載をすることができないものとして政令で定めるものは,68条の規定にかかわらず,政令で定めるところにより,あ
らかじめ市町村の選挙管理委員会の委員長に届け出た者(選挙権を有する者に限る。以下代理記載人という。)をして投票に関する記載をさせることができる旨を規定する
(以下,
この制度を
代理記載制度
という。。

(6)

その他の公選法の定め
46条4項は,投票用紙には,選挙人の氏名を記載してはならない旨を規定し,68条1項6号,2項6号及び3項8号は,衆議院議員,参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙の投票について,公職の候補者の氏名等の所定の事項のほか,他事を記載したものは無効とする旨を規定する。


52条は,何人も,選挙人の投票した被選挙人の氏名又は政党その他の政治団体の名称若しくは略称を陳述する義務はない旨を規定する。

58条1項は,選挙人,投票事務従事者,投票所を監視する職権を有する者又は当該警察官でなければ,
投票所に入ることができない旨を規定し,
同条3項は,選挙人を介護する者その他の選挙人とともに投票所に入るこ
とについてやむを得ない事情がある者として投票管理者が認めた者については,同条1項の規定にかかわらず,投票所に入ることができる旨を規定する。

226条2項は,国又は地方公共団体の公務員等が選挙人に対し,その投票しようとし又は投票した被選挙人の氏名等の表示を求めたときは,6月以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する旨を規定する。
また,227条前段は,中央選挙管理会の委員,選挙事務に関係のある
国又は地方公共団体の公務員,立会人(48条2項の規定により投票を補助すべき者(補助者)を含む。以下同じ。)等が選挙人の投票した被選挙人の氏名等を表示したときは,2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する旨を規定する。
(7)

障害者の権利に関する条約(以下障害者権利条約という。)の批准及
びその内容等

障害者権利条約は,平成18年12月13日,国連総会において採択され,平成20年5月3日に発効した。国(被告)は,平成19年9月28日,障害者権利条約に署名し,平成25年12月4日に国会において批准を承認した上,平成26年1月20日,批准書を国連に寄託し,同年2月
19日,障害者権利条約は我が国について効力を発生した。

障害者権利条約3条は,
その原則として,
(a)固有の尊厳,
個人の自律
(自
ら選択する自由を含む。)及び個人の自立の尊重,(e)機会の均等を規定している。


障害者権利条約29条は,締約国は,障害者に対して政治的権利を保障し,及び他の者との平等を基礎としてこの権利を享受する機会を保障するものとし,次のことを約束する旨を規定する。

(a)

特に次のことを行うことにより,障害者が,直接に,又は自由に選んだ代表者を通じて,他の者との平等を基礎として,政治的及び公的活動
に効果的かつ完全に参加することができること(障害者が投票し,及び選挙される権利及び機会を含む。)を確保すること。
(ⅰ)

投票の手続,設備及び資料が適当な及び利用しやすいものであり,
並びにその理解及び使用が容易であることを確保すること。
(ⅱ)

障害者が,
選挙及び国民投票において脅迫を受けることなく秘密投

票によって投票し,選挙に立候補し,並びに政府のあらゆる段階において実質的に在職し,及びあらゆる公務を遂行する権利を保護するこ
と。この場合において,適当なときは支援機器及び新たな機器の使用を容易にするものとする。
(ⅲ)

選挙人としての障害者の意思の自由な表明を保障すること。
このた

め,必要な場合には,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めること。

(8)

障害者基本法の定め
28条は,国及び地方公共団体は,法律又は条例の定めるところにより行
われる選挙,国民審査又は投票において,障害者が円滑に投票できるようにするため,投票所の施設又は設備の整備その他必要な施策を講じなければならない旨を規定する。

(9)

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
(平成25年6月26日

公布,平成28年4月1日施行。以下障害者差別解消法という。)の定めア
3条は,国及び地方公共団体は,障害者差別解消法の趣旨にのっとり,障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し,及びこ
れを実施しなければならない旨を規定する。

6条1項は,政府は,障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため,障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下基本方針という。)を定めなければならない旨を規定する。

2
前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

原告
原告は,大阪府豊中市に居住し,脳性麻痺による両上肢機能の著しい障害
(身体障害者障害程度等級表の2級)及び体幹機能障害により歩行困難(同表の3級)を有し,同表による障害の級別につき1級との記載がされた
身体障害者手帳の交付を受けている。原告は,前記の両上肢機能の障害のため,比較的大きな書面に自らの氏名を自書することはできるものの,投票用紙の大きさが小さいことや筆圧の調整が困難で投票用紙を破くおそれがあることから,
投票用紙に候補者の氏名等を自書することはできない。
(甲17,
18,原告本人,弁論の全趣旨)

(2)

本件選挙の実施
原告は,平成28年7月10日に実施された本件選挙において,改正後公
選法48条1項に基づき,豊中市内の所定の投票所の投票管理者に対し,同行したヘルパー又は原告訴訟代理人である大川一夫弁護士を補助者として代理投票をする旨の申請をしたが,投票管理者は,当該申請を認めなかった。
(甲3,4,原告本人)
3
争点
(1)

本件確認請求に係る争点
原告が,憲法15条4項等に基づき,自らの希望する者を代理投票の補助
者として選任を受けて投票をできる地位にあるか否か(争点(1))
(2)

本件国賠請求に係る争点

アイ4
本件立法不作為に係る国賠法上の違法の有無(争点(3))


本件立法行為に係る国賠法上の違法の有無(争点(2))

損害の有無及び額(争点(4))

争点に関する当事者の主張の要旨
(1)

争点(1)(原告が,憲法15条4項等に基づき,自らの希望する者を代理投票の補助者として選任を受けて投票をできる地位にあるか否か)について(原告の主張の要旨)

改正後公選法48条2項が原告の憲法上の権利を制限すること
憲法15条1項,4項,43条及び44条は,一体として,選挙権の自
由な行使を確保するため,成年者全てに秘密投票を保障しているから,公選法が投票の方法を原則として自書式とし,自書能力を有しない者に代理投票による投票を行わせる場合においては,自書能力を有しない者の秘密投票権(選挙人がいずれの候補者又は政党等に投票したかについて選挙人と結び付く形で第三者から知られないという主観的権利をいう。
以下同じ。


が保障されなければならない。なお,憲法15条4項は,選挙人の意思を問うことなく投票の秘密を制度的に確保することを要請する制度的保障を定めたにとどまるものとは解されない。
そして,秘密投票権の保障は,選挙人が選挙権を行使するに当たって投票内容を開示しなければならない場合に,その相手方を選挙人自らが選択
できるか否かについて及び,秘密投票を保障する趣旨が,社会的弱者が公権力の圧力によって自由な選挙権行使を妨げられることを防止するものであることに照らせば,公務員である投票事務従事者に対する投票内容の開示は,秘密投票権の制限に当たるというべきである。
改正前公選法48条2項は,前記の解釈を踏まえ,自書能力を有しない
者が代理投票をする場合,投票管理者による補助者の選任権が憲法上保障された選挙人の秘密投票権を侵害しない範囲のみで行使できる旨を規定したものであり,改正前公選法48条2項によれば,選挙人が補助を希望する者がいる場合において,同人が選挙人の投票の補助を行うことによって選挙の公正な実施が害されると認められない限り,これを補助者として選
任する権利を有する。
これに対し,改正後公選法48条2項は,選挙人が希望する補助者がいるにもかかわらず,同人を補助者として選任することをおよそ認めないものであるから,憲法15条1項,4項,43条及び44条により保障された秘密投票権を制限する。
そして,選挙権の行使の機会を確保する点において代理投票制度自体は合理性を有するものの,改正後公選法48条2項は,代理投票の補助者を
投票事務従事者に限定するものであって,秘密投票権が制限されない自書投票を行う選挙人や代理記載制度を利用して自ら代理記載人を選択できる選挙人との比較において,
憲法14条1項の平等権を制限するものである。

(ア)

違憲審査基準について
最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁(以下最高裁平成17年判決という。)によれば,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限を
することがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
そして,秘密投票権は,選挙権の一部として憲法15条1項,4項,43条,44条により保障されているから,秘密投票権に対する制約が憲法上許容されるためには,秘密投票権を制限する投票制度を採用し,又は維持することがやむを得ないと認められる事由が必要であり,具体
的には,秘密投票権を制限することなしには選挙の公正を確保しつつ選挙を行うことが事実上不能ないし著しく困難であると認められることが必要である。
(イ)
最高裁平成4年
(オ)
第2148号同9年3月28日第二小法廷判決・
裁判集民事182号715頁(以下最高裁平成9年判決という。)の福田博裁判官の補足意見によれば,①投票の秘密は,憲法において明文で保障されている制度であって,選挙人の自由な意思による投票の確保を目的とし,代表民主制を直接支えるものであるのに対し,選挙犯罪の捜査は,選挙犯罪を取り締まることによって将来同じような不正が行われることを抑止し,もって選挙の公正の確保を図ることを本来の目的とするものであって,代表民主制を支える役割はより間接的なものであ
るから,投票の秘密の保持の要請の方が選挙犯罪の捜査の要請より一般的には優越した価値を有し,②選挙犯罪の捜査において投票の秘密を侵害するような選挙方法を採ることが許されるのは極めて例外的な場合に限られ,当該選挙犯罪が選挙の公正を実質的に損なう重大なものである場合において,投票の秘密を侵害するような捜査方法を採らなければ当
該犯罪の立証が不可能ないし著しく困難であるという高度な捜査の必要性があり,かつ,投票の秘密を侵害する程度の最も少ない捜査方法が採られるときに限って,これが許されるものである。
前記の補足意見に照らせば,改正後公選法48条2項は,補助者を制限し,選挙人が自ら選択していない補助者に投票の内容を知らせること
を強いるもので,秘密投票権を侵害するから,憲法に違反するか否かについては,厳格な違憲審査基準によって審査されなければならない。ウ
改正後公選法48条2項が憲法15条4項等に違反すること
改正後公選法48条2項は,選挙の公正を確保することを目的として,
代理投票において,
補助者を投票事務従事者に一律に限定しているところ,
以下のとおり,このような限定に必要性・合理性はないから,前記イの違憲審査基準に照らして,憲法15条4項等に違反する。そして,仮に被告が主張する違憲審査基準に照らしても,補助者を投票事務従事者に限定することに必要性・合理性はないから,改正後公選法48条2項は憲法15
条4項等に違反するというべきである。
(ア)

補助者による不正投票が行われるおそれがあるのは,選挙人が十分な判断能力を有しない場合であって,原告のように判断能力を有するが自書能力を有しない者については,
このようなおそれはない。
そうすると,
選挙の不正防止という立法目的と補助者を投票事務従事者に一律に限定するという手段の間に合理的関連性がないというべきである。
現に,原告は,平成30年4月19日,自らの希望するヘルパーに代
筆を依頼して,豊中市長選等の期日前投票を行うことができ,何らの問題も生じなかった。このことからすれば,原告の希望する補助者によって投票を行うことが選挙の公正を害しないことは明らかである。
(イ)

選挙人自らが希望する者を補助者に選任して投票をすることを申し出た場合,選挙人に確認することにより,選挙人が判断能力を有し,自由
な意思・判断で当該補助者を選任したか,当該補助者が選挙人の投票行動に介入するおそれがないかを容易に判断できることに加え,障害者差別解消法6条1項に基づき政府が策定した障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27年2月24日閣議決定)において,障害者に対する合理的配慮が多様かつ個別性の高いものであるとされて
いることに鑑みれば,投票管理者が選挙人の能力を個別に判断した上,判断能力に問題のない選挙人については,当該選挙人が希望する者を補助者に選任することを認めるべきである。
(ウ)
守秘義務や中立性の観点から,補助者を投票事務従事者に限定することは合理的であるとはいえない。すなわち,ヘルパーや弁護士といった公務員でない者は,補助者となった場合に,選挙人に対して契約又は法律に基づいて守秘義務を負うとともに,政府機関に属しない者として公務員より高度の中立性を保つことが可能である一方で,投票事務従事者は,臨時職員として任用されており,守秘義務や政治的中立性の要請に
自覚的であるか疑わしい。
なお,被告は,ヘルパーや弁護士等が個々の選挙人との関係で守秘義務を負うか否か,当該守秘義務を発生させる契約を締結する意思能力の確認・判断については,短期間のうちに極めて多数の投票行為が行われるという選挙の性質上,
一定の時間的制約や人的物的設備面の制約等,

考慮すべき技術事項が多く,投票管理者が選挙人の意思能力を個別に判断することは困難であると主張する。しかしながら,私人間の契約に公
権力が過度に介入すべきではなく,行政庁の恣意的な運用によりかえって選挙の公正を害するおそれがあること,選挙人が希望する者を補助者として選任を受け,任意に投票内容を開示すれば,投票の秘密の侵害は生じないことに照らせば,投票管理者が守秘義務の有効性について調査する必要はない。

(エ)

改正後公選法48条2項に基づき補助者が投票用紙に記載をする場合に,選挙人が補助者を定めることができないのは,代理記載制度との比較において合理性を欠くというべきである。代理記載制度における代理記載人は,その氏名,住所及び生年月日を届け出て,同意書及び代理記載人となるべき者が選挙権を有することを誓う旨の宣誓書を添付するこ
とで代理記載が認められるのであるから,代理投票制度において補助者が投票用紙に記載をする場合であっても,選挙の不正防止のために,補助者の限定は不要であるといわざるを得ず,補助者の限定と選挙の不正防止という目的には何ら合理的な関連性が認められない。なお,代理投票制度においては,選挙人自らが投票所に足を運び,自ら投票できない
旨を投票管理者に説明することが可能であるため,代理記載制度と同様の事前登録手続は不要であるというべきである。

原告が,投票の補助を希望する者を投票管理者から投票の補助者として選任を受けた上で投票をすることができる地位にあること

(ア)

主位的主張
前記ア~ウによれば,改正後公選法48条2項は,憲法上保障された秘密投票権を侵害するとともに,
憲法14条1項に違反して無効であり,
原告は,
憲法上保障された秘密投票権により,
事前の手続等を要せずに,
自らの希望する者を代理投票の補助者として選任を受けて投票をできる地位にあるというべきである。
(イ)

予備的主張
仮に前記(ア)の地位が認められないとしても,
代理記載制度との比較に
照らせば,障害の程度の公的な証明や補助者の事前の届出等を要件とすることによって補助者を選択できる地位があるというべきである。
(被告の主張の要旨)

平成25年改正法は,投票管理者による補助者の選任に当たっての裁量を限定するものであって,原告を含む選挙人の権利を制限するものではないこと
憲法15条4項前段は,選挙人の意思にかかわりなく,投票内容を知られないことを制度的に保障することを要請するものである一方で,選挙人
に対してその意に反して投票の内容を第三者に知られないことについて個人的かつ任意の放棄が可能な権利を付与するものではなく,代理投票において選挙人の意に沿った補助者を選任できる権利ないし法的地位を付与するものでもない。
代理投票制度は,本来,選挙権を有する者であるにもかかわらず,当該
選挙時に心身の故障その他の事由によって自書することができない選挙人のため,その投票の機会を確保し,選挙権の行使を実質的に保障するために設けられた例外的な制度であり,補助者が誰であるかにかかわらず,候補者の氏名を告げることが必須であるという点において,投票の秘密の制約を不可避的に伴うものである。そして,改正前公選法48条2項は,補
助者を決定する権限を投票管理者のみに与えており,
代理投票の補助者は,
投票所に入ることができる者,すなわち,選挙人,投票立会人,投票事務従者等でなければならず(58条2項),補助者の選任に当たっては,補助者の承諾を要するものの,選挙人については,その承諾すら必要とされず,補助者の選任について何らの権利も与えられていなかった。
したがって,改正後公選法48条2項は,選挙の公正を図るため,投票管理者による補助者の選任に当たっての裁量を限定したものであって,原
告を含む選挙人の権利を制限するものではない。

(ア)

違憲審査基準について
憲法は,選挙制度に関し,普通選挙の原則(15条3項),平等原則(14条1項,44条ただし書),秘密投票及び選挙人の公私にわたる
無答責(15条4項)を定める一方で,投票の方法を含む両議員の議院の選挙に関する事項については,個別具体的に規定することなく,単に法律で定める旨を規定し(47条),選挙制度に関する事項の具体的決定を国会の広汎な裁量に委ねている。これは,投票の方法を含む選挙制度を具体的にどのように制度設計するかについては,短期間のうちに極
めて多数の投票行為が行われるという選挙の性質上,一定の時間的制約や人的・物的設備面の制約等,考慮すべき技術的事項が多いこと,選挙制度の具体的決定には,我が国の政治的・社会的な状況等に応じて,考慮すべき政策的事項が少なくないこと,選挙権は公務としての法的性格も有しており,選挙の公正の確保及び選挙の適正な管理執行にも配慮す
る必要があることによるものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁(以下最高裁昭和60年判決という。)参照)。
以上のとおり,
投票の方法の具体的決定については,
憲法14条1項,
15条3項及び4項並びに44条ただし書の規定に照らして一定の限度
があるものの,立法府の広汎な裁量に委ねられている。そして,投票の方法と同様に,その決定が立法府の広汎な裁量に委ねられている両議院の議員及びその選挙人の資格の憲法適合性については,
立法府の判断が,
合理的裁量の範囲内にあるか否か,具体的には,立法目的が合理的であり,その手段が立法目的を達成するために必要かつ合理的なものであるか否かという基準によって判断するものと解されている。そうすると,投票の方法を定めた立法の憲法適合性についても,これと同様の基準に
よって判断されるべきである。
(イ)

憲法14条1項は,法の下の平等を定めているが,国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別を禁止するものではないと解される。そして,投票の方法の具体的決定については,立法府の広汎な裁量に委ねられているもので
ある。
そうすると,投票の方法については定める立法によって生じた区別が憲法14条1項に違反するといえるのは,このような立法府の広汎な裁量権を考慮してもなお,そのような区別が合理的な理由のない差別的取扱いに当たると認められる場合に限られる。具体的には,立法目的に合
理的な根拠が認められない場合,又は当該立法目的とその区別との間に合理的関連性が認められない場合に限り,当該区別は,合理的な根拠を欠く不合理な差別として,憲法14条1項に違反するものと解すべきである。このことは,最高裁昭和60年判決が,選挙権の行使を可能にするために設けられた投票の方法という点で,代理投票と事案を共通にす
る不在者投票の事案において,不在者投票が権利ではなく救済措置であることに鑑みて,合理的関連性の基準を適用したと解されることに照らしても明らかである。
(ウ)
原告は,最高裁平成17年判決の厳格な違憲審査基準が本件に妥当する旨を主張する。しかしながら,最高裁平成17年判決の事案は,国外に居住し,国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権行使の全部又は一部を認めないことの憲法適合性が争われた事案であり,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書の趣旨に鑑みれば,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,国民の選挙権又は選挙権の行使を制限することは原則として許されないものと解すべきこ
とは当然であり,
それゆえに,
最高裁平成17年判決は,
当該制限に
やむを得ないと認められる事由がなければならない旨を判示したものである。これに対し,本件は,選挙人に選挙権及び選挙権行使の機会が与えられていることを前提として,改正後公選法48条2項により,代理投票の補助者が投票事務従事者に限定されていることの憲法適合性(選
挙権の行使を制限する規定ではなく,自書能力を有しない者の選挙権の行使を可能とするための救済的措置として設けられた投票の方法に関する規定の憲法適合性)が争われている事案であるから,最高裁平成17年判決の事案とは事案を異にすることが明らかである。したがって,最高裁平成17年判決の射程は本件に及ばないことは明らかである。
(エ)

原告は,最高裁平成9年判決の補足意見に照らせば,改正後公選法48条2項は,補助者を制限し,選挙人が自ら選択していない補助者に投票の内容を知らせることを強いるもので,投票の秘密を侵害するから,憲法に違反するか否かについては,厳格な違憲審査基準によって審査さ
れなければならない旨主張する。
しかしながら,最高裁平成9年判決は,選挙人の選挙権が行使されたことを前提として,選挙犯罪の捜査のため,投票の秘密との関係で,いかなる捜査が許されるかが問題になったものの,そもそも上告人らの法的利益の侵害がないとして上告人らの損害賠償請求が否定された事案で
あり,自書能力を有しないために選挙権の行使をすることができない選挙人の選挙権の行使を保障するため,代理投票制度を定めた改正後公選法48条2項の憲法適合性が問題になる本件とは事案が異なる。また,最高裁平成9年判決の補足意見は,投票の秘密は,絶対無制限に保障されるものではなく,選挙の公正の確保を理由として,一定の制約を受けることを認めており,同補足意見に照らしても,改正後公選法48条2項が投票の秘密を侵害するとはいえない。


改正後公選法48条2項の立法目的が合理的であり,これを達成するためには,代理投票の補助者を投票事務従事者に限定することが必要かつ合理的であること

(ア)

改正後公選法48条2項の目的は,選挙の公正な実施を確保する点にあり,改正後公選法48条2項は民主主義の根幹をなす公職選挙の公正
な実施を確保するという極めて重要な法益を実現するためのものであるから,その立法目的が合理的なものであることは明らかである。
(イ)

改正後公選法48条2項の立法目的を達成するためには,以下のとおり,代理投票の補助者を投票事務従事者に限定することが必要かつ合理
的である。
a
公選法における代理投票制度の位置づけ
公選法において,選挙人は,選挙の当日,自ら投票所に行き,投票をしなければならないとされ(44条1項。本人投票主義),また,投票用紙に当該選挙の公職の候補者1人の氏名等を自書して,これを
投票箱に入れなければならないとされている(46条1~3項。自書主義)。このように,我が国の選挙制度において本人投票主義及び自書主義の原則が採られている趣旨は,投票の秘密を保護するとともに選挙の自由・公正を確保しようとする点にある。
前記の原則に対し,代理投票制度は,選挙権を有し,心身の故障等
により自書できない状態にある者について,投票の機会を確保し,選挙権の行使を実質的に保障するため,本人投票主義及び自書主義の例外として設けられた制度であり,また,選挙人は,補助者に候補者の氏名等を指示することにより投票する以上,補助者に候補者の氏名等を指示するという限度で,投票の秘密が制限されることを当然に予定する制度である。他方で,代理投票制度においては,選挙人以外の第三者が候補者の氏名等を記載するため,選挙人の指示に基づかずに候
補者の氏名が投票用紙に記載されるなど不正投票等がされ,補助者が選挙人が指示した候補者の氏名を第三者に口外するなど投票の秘密が侵害される危険性を内包する制度であることから,その手続には,前記のような選挙の公正を害する行為を防止するため,相当の厳格性が要請されることもやむを得ない。

b
平成25年改正法制定の経緯等
平成25年改正法の制定にあたり,選挙権を行使する能力を有しながら,その者による選挙権の行使を認めない事態は,憲法上保障された選挙権行使の妨害となるため絶対に避ける必要がある一方で,選挙
権を行使するに足る能力がどのようなものであるかを速やかに定めることは困難であること等から,平成25年改正法は,成年被後見人の選挙権を一律に回復することとした。また,平成25年改正法により成年被後見人の選挙権を回復することとした場合,平成24年4月12日時点で,13万6484万人の成年被後見人が選挙権を有し,将
来的には,認知症を有する国民や知的障害を有する国民等,多数の国民が成年被後見人となる可能性があることが議論され,代理投票制度の利用の比率が高まることが予想されていた。
そして,平成25年改正法の制定に至るまでも,選挙人が十分な判断能力を有しないこと等に乗じた公選法違反事件が続いており,平成
25年改正法制定直前の同年2月にも,
特別養護老人ホームにおいて,
不在者投票における代理投票の補助者を務めた同ホームの職員が,意思表示のできない高齢者の投票用紙に候補者の氏名を記載した事件が発生していた。
改正後公選法48条2項は,前記の選挙権回復の状況及び公選法違反の状況等を受けて制定されたものである。
c
代理投票の補助者は,中立性等の観点からみて,投票事務従事者に限定することが合理的であること
代理投票においては,前記bのとおり,必ずしも中立的な立場にあるとはいえない立場にある者が十分な判断能力を有しない選挙人の補助者となることにより不正投票等がされる事案が継続的に発生してお
り,代理投票の補助者については,これを中立的な立場にある者に限定しなければ,選挙の公正な実施を確保することができない状況にあったということができる。これに加え,投票は,飽くまでも選挙人本人の自由意思に基づいてしなければならないことから,代理投票においては,補助者が選挙人に候補者等の氏名を確認するときは,特に慎
重を要し,
選挙人本人の意思を確実に確認することが求められること,
補助者は,補助者として知った選挙人の投票の秘密を厳守できる者であること,
公選法に従った取扱いをすること等といった要請が存する。
しかしながら,補助者となろうとする者に対してその政治的中立性を個別に確認することは,思想良心の自由(憲法19条)との関係で
問題が生じる上,短期間のうちに極めて多数の投票行為が行われるという選挙の性質上,投票管理者において,自書能力を有しない選挙人の補助者が政治的中立性を有する者か否か,前記の要請に応える能力等を有する者か否かを投票所で適切に判断することは,時間的・技術的にも困難であるといえる。

この点に関し,投票所における代理投票の補助者として想定されている投票事務従事者は,選挙管理委員会や市役所等の職員(地方公務員)であり,前記のような要請に応えることが可能である上,選挙人の指示した選挙人の氏名等について守秘義務が課され,一定の政治的中立性が法律上要請されている(地方公務員法34条1項,36条1項,公選法136条)。そして,投票事務従事者は,政治的中立性が法律上要請されている投票管理者(公選法88条,135条)の指揮
命令系統下にあることからすれば,投票所における代理投票の補助者として想定されている投票事務従事者は,法律上,政治的中立性が要求されておらず,投票管理者の指揮命令関係も存在しない者と比較して,
その政治的中立性が強く担保されているものということができる。そうすると,選挙の公正な実施を確保するためには,投票所における
代理投票の補助者を投票事務従事者に限定することが必要かつ合理的であるといえる。
代理投票制度は,選挙人が補助者に候補者の氏名等を指示することにより投票する以上,補助者に候補者の氏名等を指示するという限度で,投票の秘密が制限されることを当然に予定する制度であって,自
書能力を有しない者が投票管理者の定める補助者に対して投票しようとする候補者の氏名等を明らかにせざるを得ないという点では,平成25年改正法前後において何ら変わりはない。他方で,代理投票制度において,秘密投票の侵害が問題となるのは,選挙人の補助者が選挙人の指示した候補者の氏名等を第三者に表示する場合であるところ,
代理投票の補助者として想定されている投票事務従事者は,地方公務員であり,守秘義務を負っているから,刑罰により投票の秘密が担保されている。
d
改正後公選法48条2項は代理記載制度における代理記載と比較しても不合理とはいえないこと
代理記載制度は,物理的に投票所に行くことができない者の投票の機会を確保するため,投票管理者等が存在しない場所で投票を行うことを認める必要がある一方で,投票の記載に際し,第三者が介在することに伴う不正行為のおそれが存在し,中立的な立場にある投票管理者等が記載を行うなどの方法の実現が困難であることから,投票の対象者を身体障害の程度が重度であると公的に認められた者に限定し,
代理記載人を事前に届け出させ,代理記載人に同意書や宣誓書を提出させ,投票用封筒の表面に代理記載人の署名を求めるなどの不正防止手段を講じた上で,選挙人が代理記載人を選ぶという現行の制度が創設されたものであるから,投票の秘密を確保する要請によるものではない。

これに対し,代理投票制度は,対象者が厳格に制限される郵便等投票制度や代理記載制度と異なり,投票所に行くことができるが心身の故障により自書ができない者全般が利用でき,投票所において,投票管理者が代理投票制度の対象であるか否かを判断することとされており,代理記載制度のように,公的書類によって適用対象者であること
の証明を求め,事前登録等の手続を採ることで不正投票の防止を図るのが極めて困難である一方,投票管理者の適切な管理で不正投票の防止を図ることができる。したがって,代理投票制度と代理記載制度の取扱いの違いは,物理的に投票所に行くことができる選挙人を対象とするか否か,投票管理者の管理の下で投票をできるか否かといった区
分に応じ,投票の機会の確保や不正投票防止の要請に基づいて生じる合理的な区別であって,代理投票制度における補助者を投票事務従事者に限定することは合理性を欠くものとはいえない。
(ウ)
以上のとおり,平成25年改正法の制定時点では,選挙人が十分な判断能力を有しないことに乗じた公選法違反事件が続いており,しかも,平成25年改正法に伴い,多数の成年被後見人による選挙権行使が予想されていたことから,代理投票の補助者については,これを中立的な立場にある者に限定しなければ,選挙の公正な実施を確保することができない状況にあったというべきであり,
改正後公選法48条2項のとおり,
自書能力を有しない者の補助者を中立公正な立場にある投票事務従事者に限定するという法的措置を講ずることには,十分な合理性がある。ま
た,改正後公選法48条2項によって生じた区別が事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別であることも明らかである。

原告の主張について
a
改正後公選法48条2項が憲法15条4項に違反するとの原告の主張に理由がないこと
原告は,改正後公選法48条2項において障害者が自ら筆記できない場合に代筆を行う補助者を自ら選択できないことは秘密投票権を侵害する旨を主張する。
しかしながら,そもそも,憲法15条4項は,投票の秘密を制度的に
確保することを要請するものであって,選挙人にその自由な意思で処分できるような個人的権利を付与する趣旨ではなく,選挙人に対し,代理投票の補助者の決定権を付与する規定ではないから,代理投票制度において,補助者を決定するのは誰か,補助者となる資格を誰に与えるかについては,投票の方法に関する事柄として,その具体的決定が国会の広
汎な裁量に委ねられている。また,秘密投票主義は,誰に投票したかを秘密にする制度をいうのであるから,選挙人が投票する被選挙人の氏名等を伝える補助者が,誰であるかによって,投票の秘密が害されるか否かが変わるものではない。さらに,選挙人が補助者を個人的に信頼しているとしても,その者が補助者として,選挙人の指示通りに投票するな
ど適切に行動するか否かは別の問題であり,投票事務従事者は,政治的中立性及び守秘義務が法律上要請されている者として,補助者として適切に行動することが期待できる。
したがって,原告の前記主張には理由がない。
b
改正後公選法48条2項は,憲法14条1項,15条1項,43条及び44条に違反しないこと
憲法15条1項は,公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国
民固有の権利であるとする規定であって,秘密投票を保障する規定ではない。そして,改正後公選法48条2項は,投票の方法に関する規定であり,憲法15条1項にいう公務員の選定・罷免権を剥奪し,又は制限するような規定ではないから,
憲法15条1項に違反するものではない。
また,憲法43条及び44条は,両議院の議員の定数や,両議院の議
院及びその選挙人の資格についての規定であって,いずれも秘密投票を保障する規定ではない。そして,改正後公選法48条2項は,投票の方法に関する規定であって,両議院の議員の定数や,両議院の議院及びその選挙人の資格について規定するものではないから,憲法43条及び44条に違反するものではない。

そして,
前記aに述べたところによれば,
改正後公選法48条2項は,
憲法14条1項にも違反しない。

本件確認請求に理由がないこと
選挙権は,憲法上,その具体化が法律に委ねられており,憲法上の選挙
権は,具体的な立法による選挙制度の形成に依存しているところ,代理投票において,
選挙人が,
投票管理者に対し,
投票事務従事者以外の者から,
希望する者を投票の補助者として選任を受けた上で投票をする地位は,憲法上の選挙権から直ちに帰結するものではなく,当該地位は,公選法上も保障されていない。

また,代理投票制度は,選挙権行使の確保のため,本人投票主義,自書主義及び秘密投票主義の例外として設けられた制度であり,選挙人に,具体的に立法化された代理投票制度によって投票する権利があるとしても,それを超えて,
選挙人が投票管理者に対し,
投票事務従事者以外の者から,
希望する者を投票の補助者として選任を受けた上で投票をする地位が認められるものではない。
なお,原告の予備的主張については,前記ウ(イ)dのとおり,代理投票制
度と代理記載制度の取扱いの違いは,対象となる選挙人や投票方法が相違することから,投票の機会の確保や不正投票防止の要請に基づいて生じる合理的な区別であって,補助者の事前届出等を要件として代理投票の補助者を選挙人が選択できる制度を設けていないことをもって,立法裁量を逸脱する不合理なものであるということはできない。

したがって,本件確認請求には理由がない。
(2)

争点(2)(本件立法行為に係る国賠法上の違法の有無)について
(原告の主張の要旨)

憲法違反について
前記(1)(原告の主張の要旨)のとおり,改正後公選法48条2項は,憲
法15条4項等に違反するものである。

障害者基本法違反について
前記(1)(原告の主張の要旨)に主張したところによれば,平成25年改正法を制定することは,国及び地方公共団体は,法律又は条例の定めるところにより行われる選挙等において,障害者が円滑に投票できるようにす
るため,投票所の施設又は設備の整備その他必要な施策を講じなければならない旨を定めた障害者基本法28条に違反するものである。

その他の事情について
日本政府は,平成25年改正法の制定当時,障害者権利条約に署名して
おり,必要な場合には,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することが求められていたほか
(29条(a)(ⅲ))

その3年後の平成28年4月には障害者差別解消法が施行されるなど,障害者が代理投票の際に希望する者を補助者に選択できるようにすることが求められる状況にあった。

まとめ
以上によれば,国会議員が,平成25年改正法を制定し,改正前公選法
48条2項のうち,その承諾を得てという文言を削り,投票所の事務に従事する者のうちからという文言を加える旨の改正をした本件立法行為は,国賠法1条1項の適用上違法である。
(被告の主張の要旨)

憲法違反について
前記(1)(被告の主張の要旨)のとおり,改正後公選法48条2項は,憲法15条4項等に違反せず,本件立法行為が改正後公選法48条2項の内容が国民に憲法上保障されている権利である秘密投票権
(憲法15条4項)
を違法に侵害するものであることが明白であるとは認められないから,国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるとはいえない。


障害者基本法違反について
国会は,既存の条約や法令と異なる法令を定め,又は既存の法令を改廃することを含め,立法に関して広汎な裁量を有する上,障害者基本法は,平成25年改正法と同位の効力を有する法律であるところ,
本件において,
原告が,障害者基本法28条に違反する国会議員の立法行為が国賠法1条
1項の適用上違法であるとする根拠は不明である。また,障害者基本法28条によって,原告にどのような具体的権利が認められ,前記立法行為によりいかなる侵害を受けたかは不明である。したがって,原告の主張は主張自体失当である。

まとめ
以上によれば,本件立法行為は,国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるとはいえない。
(3)

争点(3)(本件立法不作為に係る国賠法上の違法の有無)について
(原告の主張の要旨)

憲法違反について
前記(1)(原告の主張の要旨)によれば,改正後公選法48条2項は,本
件選挙時までに憲法15条4項等に違反する状態にあった。

障害者権利条約違反について
障害者権利条約3条及び29条(a)(ⅲ)によれば,障害者は,一般原則として,固有の尊厳及び自ら選択する自由を含む個人の自律を保障された上,他の者と平等に政治活動に参加する権利の保障を受け,選挙人として
の障害者の意思の自由な表明を保障するため,必要な場合には,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めることが締約国に求められるところ,改正後公選法48条2項は,障害者が代理投票をする際の補助者を投票事務従事者に限定するものであって,当該障害者により選択される者が代理投票の援助をすることを認め
ていないから,本件選挙時までに施行された障害者権利条約3条及び29条(a)(ⅲ)に違反する状態となっていた。
なお,
被告は,障害者権利条約29条(a)(ⅲ)に係る義務の履行については,締約国に一定の裁量が認められる旨を主張するが,同項は,障害者権利条約における個人の自律の原則を具体化したものであって,自由な意思
による投票を保障するためには,被選挙人の氏名等を記載する際の援助が障害者により選択される者によってされる必要があることに照らせば,代理投票の援助をする者をいずれの者とするかについて,裁量の余地はないというべきである。

障害者基本法及び障害者差別解消法違反について
前記(1)(原告の主張の要旨)によれば,改正後公選法48条2項は,本件選挙時までに障害者基本法28条に違反する状態となっていた。また,障害者差別解消法3条は,国及び地方公共団体は,障害者差別解消法の趣旨にのっとり,障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し,及びこれを実施しなければならない旨を定めるところ,改正後公選法48条2項は,本件選挙時までに施行された障害者差別解消
法3条に違反する状態となっていた。

まとめ
以上によれば,国会議員は,本件選挙までに改正後公選法48条2項を改正し,選挙人が,投票の補助を希望する者を,投票管理者から投票の補助者として選任を受けた上で投票をすることができるように公選法を改正
すべきであったにもかかわらず,これを怠った。したがって,本件立法不作為は,国賠法1条1項の適用上違法であるというべきである。
(被告の主張の要旨)

憲法違反について
前記(1)(被告の主張の要旨)のとおり,改正後公選法48条2項は,憲
法15条4項等に違反する状態にあったということはできず,本件選挙時までに改正後公選法48条2項の改正を必要とする新たな立法事実が生じたとはいえない。

障害者権利条約違反について
障害者権利条約29条(a)(ⅲ)は,

選挙人としての障害者の意思の自由な表明を保障すること。このため,必要な場合には,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めること。

と定めるものであり,障害者により選択される者による援助の具体的な方法までは明示されていないところ,各締約国における選挙制度や障
害者に関する制度が異なることに鑑みれば,
その義務の履行に当たっては,
各締約国に一定の裁量が認められる。そして,前記条項は,選挙人としての障害者の自由な意思の表明を保障するために援助を認めることを締約国に求める趣旨であると解されるところ,公選法においては,48条において代理投票制度を設ける一方で,58条3項において選挙人の介護等のためやむを得ない事情がある者については,投票に際し,投票所に入ることができ,選挙人に随行して入場した者は,投票所内での移動や代理投
票の申請等の援助をすることができるから,公選法の定めは,障害者の自由な意思の表明を保障するものであって,障害者権利条約の規定に反するものではない。

障害者基本法及び障害者差別解消法違反について
改正後公選法48条2項は,障害者基本法及び障害者差別解消法と法形
式上同順位にある法律であるから,これらに違反すると評価されることはない。また,改正後公選法48条2項は,自ら投票の記載をすることができない障害者につき,投票の機会を確保しようとするものであり,障害者差別解消法3条に反しない。

まとめ
以上によれば,本件立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるとはいえない。

(4)

争点(4)(損害の有無及び額)について

(原告の主張の要旨)
原告は,本件立法行為及び本件立法不作為により,選挙権という重要な権利を行使することができず,精神的苦痛を被っており,これに対する慰謝料は100万円を下らない。
また,原告は,本件訴えの提起を余儀なくされ,弁護士費用10万円の損害を被った。

(被告の主張の要旨)
原告の主張は争う。
平成25年改正法の前後において,原告の権利関係や法的地位に何ら変更はないから,本件立法行為又は本件立法不作為により,原告が権利を侵害され,損害を被ったとは認められない。すなわち,改正前公選法48条2項においても,補助者を決定するのは投票管理者であり,その承諾を得る相手方は,補助者であると解されていたものであって,選挙人に補助者を選任
し,又は自らの希望する補助者を選任するよう投票管理者に求める権利や法的地位が与えられていたものではない。
また,代理投票制度は,選挙人が補助者に候補者の氏名等を指示することにより投票する以上,当該指示をする限度で,投票の秘密が制限されることを当然に予定する制度であり,代理投票制度を利用することにより制限され
る投票の秘密については,その秘密を担保する制度が備えられているのであるから,投票事務従事者をもって補助者とし,選挙人が補助者に対し,候補者の氏名等を指示したとしても,秘密投票権が侵害されたと評価すべきではない。原告が主張する精神的苦痛は,投票事務従事者を補助者とした場合の具体的弊害を根拠とするものではなく,漠然とした不安感を根拠とするもの
にすぎない。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(原告が,憲法15条4項等に基づき,自らの希望する者を代理投票の補助者として選任を受けて投票をできる地位にあるか否か)について
(1)

秘密投票の性質等について
憲法は,前文及び1条において,主権が国民に存することを宣言し,国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに,43条1項において,国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め,44条ただし書において,両議院の議員及
びその選挙人の資格を人種,信条等により差別してはならないと定め,93条2項において,地方公共団体の長,その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は,
その地方公共団体の住民が,
直接これを選挙すると定め,
15条1項において,公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利であると定めて,国民に対し,主権者として,両議院の議員並びに地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙において投票をすることによって,国及び地方公共団体の政治に参加することができる権利を保障
している。

ところで,憲法15条4項は,全て選挙における投票の秘密は,これを侵してはならず,選挙人は,その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない旨を定め,選挙人がいずれの候補者又は政党等に投票したかについて選挙人と結び付く形で第三者から知られない方法で選挙を行うことを選
挙の基本原則としているところ,その趣旨は,社会的に弱い立場にあり得る選挙人が他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれがあることから,前記の方法で選挙を行うことにより,このようなおそれを排除して,選挙人の投票意思の自由を確保することにあると解される(最高裁昭和41年(行ツ)第61号同42年3月23日第一
小法廷判決・民集21巻2号419頁参照)。

前記ア及びイで説示したところによれば,憲法は,国民主権の原理に基づき,両議院の議員の選挙並びに地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙において投票をすることによって国及び地方公共団体の政治に参加す
ることができる権利を国民に対して固有の権利として保障し,このような重要な権利を自由な意思に基づいて行使する前提として,個々の国民に対して投票の秘密を保障しているものというべきである。このことに加え,投票の秘密は,憲法第3章の国民の権利及び義務において規定されていることを併せ鑑みれば,憲法15条4項は,投票の秘密を確保する選挙
制度を保障するにとどまらず,選挙人がいずれの候補者又は政党等に投票したかについて選挙人と結び付く形で第三者から知られないという主観的権利(秘密投票権)をも保障しているものと解される。

そして,公選法は,秘密投票権を具体的に保障する制度として,無記名投票主義(記名投票の禁止)を採用するとともに(46条4項),秘密投票の趣旨を貫くため,本人投票の原則(44条1項)を定め,投票用紙への他事記載に関しては,選挙人を推知させる機縁となることから,これを
投票の無効原因と定め(68条1項6号,2項6号,3項8号),何人も,選挙人の投票した被選挙人の氏名又は政党その他の政治団体の名称若しくは略称を陳述する義務を負わず(52条),公務員等が選挙人に対し,その投票しようとし又は投票した被選挙人の氏名等の表示を求めたときや,公務員,立会人(補助者を含む。)が選挙人の投票した被選挙人の氏名等
を表示したときは当該公務員を処罰する(226条2項,227条前段)こととしたものと解される。

(2)

以上説示した秘密投票権の性質を踏まえて,以下,検討する。
改正後公選法48条2項による秘密投票権の制約の有無
改正後公選法48条は,心身の故障その他の事由により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名等を記載することができない選挙人は,投票管理者に対し,代理投票の申請をすることができ(1項),当該申請があった場合においては,投票管理者は,投票立会人の意見を聴いて,投票事務従事者のうちから当該選挙人の補助者2人をその承諾を得て定め,その1人に
投票の記載をする場所において投票用紙に当該選挙人が指示する公職の候補者1人の氏名等を記載させ,他の1人をこれに立ち会わせなければならない(2項)旨を規定する。
このような改正後公選法48条2項の定めによれば,心身の故障その他の事由により,自書することができない選挙人は,1人の投票事務従事者
に対し,公職の候補者の氏名等を告げた上で,当該投票事務従事者に投票用紙の記載をさせ,他の1人の投票事務従事者は,これに立ち会わなければならないものとされている。そうすると,前記選挙人は,いずれの候補者又は政党等に投票したかについて,補助者たる投票事務従事者に知られざるを得ないものというべきであるから,秘密投票権を制約されているものというべきである。そして,原告は,脳性麻痺による両上肢機能の著しい障害(身体障害者障害程度等級表の2級)及び体幹機能障害により歩行
困難(同表の3級)を有し,同表による障害の級別につき1級との記載がされた身体障害者手帳の交付を受けており,投票用紙に候補者の氏名等を自書することはできない(前記前提事実(1))から,心身の故障その他の事由により,自書することができない選挙人であって,いずれの候補者又は政党等に投票したかについて選挙人と結び付く形で,補助者たる投票
事務従事者に知られざるを得ない地位にあり,秘密投票権を制約されているものということができる。

なお,改正前公選法48条2項は,代理投票の申請があった場合においては,投票管理者は,投票立会人の意見を聴いて,当該選挙人の補助者2
人をその承諾を得て定め,その1人に投票の記載をする場所において投票用紙に当該選挙人が指示する公職の候補者の氏名等を記載させ,他の1人をこれに立ち会わせなければならない旨を規定しており,補助者となるべき者に承諾を得るべき旨を定めている。そうすると,改正前公選法48条2項は,①補助者を定める(選任する)のが投票管理者である点,②
補助者を定めるに当たり,選挙人から補助者となるべき者等についての意見,意向等を聴取すべきことを定めていない点において,改正後公選法48条2項と異なるところはない(同項と異なるのは,補助者を投票事務従事者のうちから選ぶものとされていない点のみである。)のであって,平成25年改正法によって,過去におよそ制約を受けていなかった秘密投票
権が新たに制約されたものであるということはできない。
すなわち,
仮に,
改正前公選法48条2項の下において,投票管理者が,原告の希望する者を原告の補助者として定めていた
(選任していた)
事実があったとしても,
原告の希望する者を補助者として定める(選任する)ことが権利として保障されていたものではないというべきである(もっとも,前記アで説示したとおり,憲法によって保障される秘密投票権は,選挙人がいずれの候補者又は政党等に投票したかについて選挙人と結び付く形で第三者から知ら
れないという主観的権利であるから,改正後公選法48条2項は,秘密投票権を制約するものであるというべきである。)。
(3)

改正後公選法48条2項の憲法15条1項,
4項,
43条及び44条適合

性ア
判断枠組み
まず,国民の選挙権の行使を制限することは原則として許されず,国には,国民が選挙権を行使することができない場合,そのような制限をすることなしには選挙の公正の確保に留意しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,国民の
選挙権の行使を可能にするための所要の措置を採るべき責務があるというべきである(最高裁平成17年判決参照)。そして,前記(1)ア及びイで説示した憲法の趣旨に鑑みれば,選挙権の行使の機会を保障した上で,選挙人の投票意思の自由を確保するために秘密投票権を保障することが憲法上の原則であると解される。そうすると,憲法は,選挙権の行使の機会を保
障することを最も基本的な原則としているものというべきであって,個々の選挙人について,投票所への移動,投票意思の表示等に関する能力等の各事情によっては,第三者に対して投票意思を表示する方法によらなければ,選挙権の行使の機会を確保することが実質的に困難な場合があることから,前記の各事情に応じ,当該方法によって選挙権を行使する機会を保
障した上で,選挙人の投票意思の自由を確保するためにその他の措置を設けることを許容しているものと解される。
ところで,選挙人が第三者に対して投票意思を表示する方法によって選挙権を行使した場合,当該第三者が,投票管理者等の当該選挙人以外の者によって定められたときのみならず,当該選挙人自身によって定められたときであっても,当該選挙人がいずれの候補者又は政党等に投票したかについて当該選挙人と結び付く形で当該第三者から知られることになるから,必然的に秘密投票権が制約されることになる。そして,一般的には,障害者に対する支援に際してはその意見,意向等を尊重する必要が大きいということができるとしても,第三者に対して投票意思を表示する方法によって選挙権を行使するための具体的な方策を策定するに当たっては,当該方
法により選挙権が行使されることによって必然的に秘密投票権が制約されることにはなるものの,前記(1)イ及びウで説示したとおり,憲法15条4項によって秘密投票権が保障された趣旨が,社会的に弱い立場にあり得る選挙人が他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれを排除して,選挙人の投票意思の自由を確保することにあるこ
とに鑑みると,選挙人が,当該第三者を含む他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避するよう十分配慮することが必要であると考えられるのであって,そのために,当該具体的な方策において当該第三者の選定等に関する選挙人の意向が尊重されないこととなってもやむを得ない場合もあるものと考えられ
る。他方,憲法15条4項に加えて,同条1項,43条1項,44条ただし書及び93条2項その他の規定を通覧しても,選挙人に対して,第三者に投票意思を表示する方法によって選挙権を行使する場合に,当該第三者を定める(選任する)権利を付与する旨の規定は見当たらない。
以上の諸点に鑑みれば,第三者に対して投票意思を表示する方法による
選挙権の行使を定めた立法措置が採られ,これによって選挙人の秘密投票権に対する制約が生じた場合に,当該制約が憲法上許容されるためには,①第三者に対して投票意思を表示する方法によらなければ,当該選挙人の選挙権の行使を確保する機会を保障することが実質的に困難となる事情があり,かつ,②当該立法措置において定められた方法によって第三者に対して投票意思を表示することが必要かつ合理的であることを要することをもって足り,
前記①又は②が認められない場合に限って,当該立法措置は,

憲法15条4項に反するものと解される(なお,憲法15条1項,43条及び44条は,秘密投票権を直接的に根拠付けるものではないから,前記①又は②が認められない場合であっても,当該立法措置が当該各条項に反することにはならない。)。このことを前提として,以下,検討する。イ
第三者に対して投票意思を表示する方法によらなければ,選挙権の行使を確保する機会を保障することが実質的に困難となる事情の有無
改正後公選法は,選挙人は,選挙の当日,自ら投票所に行き,投票をしなければならず(44条1項。本人投票の原則),投票所において,投票用紙に,その選挙の公職の候補者一人の氏名等を自書して,これを投票箱
に入れて投票しなければならない(46条1~3項)とする一方で,心身の故障その他の事由により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名等を記載することができない選挙人は,代理投票の申請をすることができ,この場合において,投票管理者は,投票立会人の意見を聴いて,投票事務従事者のうちから当該選挙人の補助者2人を定め,その1人に投票の記載をする
場所において投票用紙に当該選挙人が指示する公職の候補者等を記載させ,他の1人をこれに立ち会わせなければならない旨を規定する(48条1項及び2項)。そうすると,改正後公選法は,選挙人が,投票所において,投票用紙に公職の候補者の氏名等を自書する方法によって投票を行うことを原則としているところ(自書投票),自書投票は,①印章や印刷による
候補者等の記載を排除し,自らの意思による記載を要求することにより,投票が自由意思に基づくものであることを担保するとともに,不正投票があった場合にその判明が容易となること,②補充立候補等,候補者の変更があった場合に速やかに対応することができるなど選挙の管理執行が容易になり,選挙権の行使の機会を広くかつ容易に確保することができるといった利点を有することに鑑みれば,合理的な方法であるということができる。そして,このような自書主義を採用する場合に,心身の故障その他の事由により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名等を記載することができない選挙人については,第三者に対して投票意思を表示する方法によらなければ,選挙権の行使を確保する機会を保障することが実質的に困難となる事情があると認められる。

ところで,例えば原告の場合には,投票用紙程度の大きさに候補者の氏名等を自書することはできないものの,比較的大きな書面に自らの氏名を自書することができる(前記前提事実(1))のであるから,手の動作や投票用紙に記号を記載する方法によって投票意思を表示することも必ずしも不可能ではないと考えられる。そして,現行の選挙制度においても,地方自
治体の選択によって,当該地方公共団体の議会の議員又は長の選挙の投票において,
(ア)投票用紙に氏名が印刷された公職の候補者のうちその投票しようとするもの一人に対して,投票用紙の記号を記載する欄に〇の記号を記載する方法による投票(以下記号式投票という。公選法46条の2参照),(イ)電磁的記録式投票機(機械を操作することにより,当該機械に
記録されている公職の候補者のいずれかを選択し,かつ,当該公職の候補者を選択したことを電磁的記録として電磁的記録媒体に記録することができる機械をいう。以下同じ。)を用いた投票(以下電磁的記録式投票という。地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律
(以下
特例法
という。


参照)を採用することが認められているところである。
しかしながら,(a)記号式投票については,時として数十以上の多数となる候補者及び政党名等を投票用紙に印刷せざるを得ず,全ての選挙についてこれを実行することが困難であること,
(b)電磁的記録式投票については,
選挙管理委員会の選挙管理上の過誤に加え,電磁的記録式投票機の不具合により,二重投票の発生,投票内容の記録の失敗,投票内容の記録保護の不備等があったこと等から,選挙結果に異動を及ぼすおそれがあるとして
選挙が無効となった事例があり(名古屋高裁平成16年(行ケ)第3号同17年3月9日判決・判例時報1914号54頁参照),現時点において電磁的記録式投票による選挙を実施している地方公共団体は存在せず(公知の事実),選挙の公正を確保しつつ電磁的記録式投票を直ちに導入することが困難であると考えられること,
(c)記号式投票及び電磁的記録式投票

においても,心身の故障その他の事由により,記号の記載や電磁的記録式投票機の操作ができない者については,なお第三者に対して投票意思を表示する方法によらなければ選挙権の行使の機会を確保することが実質的に困難であり(公選法46条の2第2項により準用される48条,特例法7条参照),前記各投票方式の採用によって,選挙人全ての秘密投票権を保
障することも困難であると考えられることを併せ鑑みれば,公選法が,現時点において,記号式投票や電磁的記録式投票ではなく,自書投票を原則としていることが選挙権の行使の方法に係る立法権の裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるということはできない。
したがって,改正後公選法48条が対象とする心身の故障その他の事由
により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名等を記載することができない選挙人については,第三者に対して投票意思を表示する方法によらなければ,選挙権の行使を確保する機会を保障することが実質的に困難となる事情があると認められる。

改正後公選法48条2項において補助者として定められた投票事務従事者に対して投票意思を表示することの必要性及び合理性
(ア)

平成25年改正法が,改正後公選法48条2項において,補助者を投票事務従事者に限定することとした趣旨は,補助者を中立的な立場にある投票事務従事者に限定することにより,補助者に対して投票意思を表示する方法によって選挙権を行使する選挙人が,当該補助者を含む他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれ
が生じる結果の発生を回避することにあるものと解される
(乙2参照)

(イ)

そこで,不正投票の実態についてみると,投票の偽造・増減,代理投票における記載義務違反,詐偽登録,虚偽宣言等及び詐偽投票の送致人員は,平成19年には169人,平成21年には70人,平成22年に
は26人,平成23年には56人,平成24年には16人であったと認められる(乙6の1~6)。また,投票の秘密侵害,投票干渉に関する検挙件数は,平成19年~平成23年の5年間で25件であったところ(乙2),このうち,選挙人の判断能力が不十分なこと等に乗じたと考えられる公選法違反の事案として,平成16年7月の特別養護老人ホー
ム職員による投票偽造事件,平成17年9月の知的障害者更生施設職員らによる投票干渉事件や特別養護老人ホーム職員らによる投票偽造事件,平成25年2月の不在者投票の際に代理投票の補助者を務めた特別養護老人ホーム職員が意思表示のできない高齢者の投票用紙に特定の候補者の氏名を記載した投票偽造事件等があったと認められる
(乙5の1・6・

10,7)。
そして,国会においては,平成25年改正法の法律案により成年被後見人が一律に選挙権を有することとなった場合,平成24年4月12日現在で,13万6484人の成年被後見人が選挙権を有することとなること,認知症高齢者の数は,平成24年の推計で305万人,20歳以
上の精神障害者の数は,平成23年の推計で301万人(ただし,病院に入通院している認知症高齢者を含む。),18歳以上の知的障害者の数は,平成17年の推計で41万人であって,将来的に認知症を持つ国民や知的障害を持つ国民等,多数の国民が成年被後見人となる可能性があることが議論され,成年被後見人の数は,平成27年12月末日現在で15万2681人に増加していたことが認められる(乙2,4)。加えて,アメリカ,フランス,ドイツ等においては,成年後見制度に
おいて選挙権を行使する能力の有無を判断する立法例も存在するものの,平成25年改正法においては,①選挙権を行使するに足る能力がどのようなものであるかについて速やかに一義的に定めるのが困難であること,②この能力につき,誰が,いかなる手続で,いかなる基準によって判断するのかといった問題があること等から,成年被後見人が一律に選挙権
を回復されたものである(乙1~3)。
これらの事情によれば,平成25年改正法の制定前から,選挙人の判断能力が不十分なこと等に乗じたと考えられる投票偽造事件があったところ,平成25年改正法によって成年被後見人が一律に選挙権を回復した後は,判断能力が必ずしも十分でない選挙人が代理投票によって投票
をする例も多数増加することが想定されたと認められるのであって,このことに鑑みると,補助者に対して投票意思を表示する方法によって選挙権を行使する選挙人についても,補助者となる者を含む他者から不当な圧力や干渉を受けることなく,その自由な意思に基づき投票できることを確保する必要性が高いものということができる。

(ウ)

そこで,さらに進んで,補助者となるべき者を投票事務従事者に限定することが合理的といえるかについて検討する。
もとより,代理投票をすることができる選挙人は,心身の故障その他の事由により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名等を記載することが
できない者(改正後公選法48条1項参照)であって,その対象には,身体障害者,知的障害者,精神障害者,認知症患者等といった様々な障害や疾患を有する者が含まれるところ,個々の障害や疾患の内容に応じて,当該選挙人の判断能力,意思疎通能力等は様々であり,一見すると同様の症状に見えても,一方は判断能力に問題があるのに対し,他方は判断能力に問題はなく,意思疎通が困難であるという場合もあり得るものであって,投票管理者等が,投票所において,代理投票の申請をした個々の選挙人の障害や疾患の内容・程度を把握することは容易なものではないから,選挙人が,代理投票において,投票管理者に対し,自らの希望する者を補助者と定めるよう求めた場合であっても,投票管理者において,真に当該選挙人が当該者を自由な意思に基づいて選任したのか
否かを正確に判断することは困難であるといわざるを得ない。また,選挙人が補助者として希望する者について,投票管理者において,当該選挙人と補助者となるべき者の人的関係等を前提として,その者が当該選挙人の投票に不当な圧力や干渉を加えるおそれがないかといった補助者としての適格性,中立性等を投票所で正確に判断することも容易ではな
いと考えられる。これらのことに加え,投票所においては,短期間のうちに極めて多数の投票行為が行われるものであって,選挙の施行にはおのずから人的,物的設備面の制約を伴うこと等の諸事情に鑑みれば,選挙人が代理投票によって選挙権を行使する際にその希望する者を補助者として選任することとした場合,
投票管理者において,
当該者について,

真に当該選挙人の自由な意思に基づき選任されていることや,当該選挙人に不当な圧力や干渉を加えるおそれがないかといった補助者としての適格性,中立性等を有することを正確に確認することは困難であるというべきである。
そして,選挙人が,代理投票の補助者を含む他者から不当な圧力や干
渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避するためには,補助者が他の者に対し,選挙人の投票した被選挙人の氏名等を表示することを阻止する必要があるところ,改正前公選法及び改正後公選法の各227条前段において,補助者が当該表示をすることは罰則をもって禁じられているものの,当該表示を可及的に回避するためには,選挙人が代理投票によって選挙権を行使する際にその希望する者を補助者として選任することとした場合,当該者について,その
資質,属性等の観点からも,当該表示を行わないことが期待できるか否かを確認する必要があると考えられるところ,前記諸事情に鑑みれば,投票管理者においてこの点を正確に確認することは困難であるというべきである。
これに対し,改正後公選法48条2項において補助者となるべき者と
される投票事務従事者は,選挙管理委員会や市役所等の公務員であり,職務上知り得た秘密について守秘義務を負い
(地方公務員法34条1項)

一定の政治的行為の制限を受け,政治的中立性を確保することが要請されているとともに(同法36条,選挙管理委員会の職員につき公選法136条1号)政治的中立性の保持が義務付けられている投票管理者,
(公

選法88条,135条参照)の指揮監督下にある。そうすると,投票事務従事者については,政治的中立性が確保されるとともに,投票内容についての守秘義務が課されているから,
補助者となった場合,
選挙人が,
代理投票の補助者を含む他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避できることが相
当高度に期待できるということができる。
以上検討したところによれば,代理投票において,補助者となるべき者を投票事務従事者に限定することは合理的であるというべきである。(エ)
ところで,郵便等投票制度において,選挙人で身体に所定の重度の障害があるもので自ら投票の記載をすることができないものは,その現在する場所において,あらかじめ市町村の選挙管理委員会の委員長に届け出た者(代理記載人)をして投票に関する記載をさせ,これを郵便等により送付する方法によって投票をすることができるところ(代理記載制度。公選法49条2項及び3項),代理記載制度を利用する場合には,選挙人が代理記載人として届け出た者が投票に関する記載を行うものとされ,投票事務従事者が当該記載を行うものとはされていない。
しかしながら,前記アで説示したとおり,憲法は,選挙権の行使の機会を保障することを最も基本的な原則としているものというべきであって,個々の選挙人について,投票所への移動,投票意思の表示等に関する能力等の各事情によっては,第三者に対して投票意思を表示する方法
によらなければ,選挙権の行使の機会を確保することが実質的に困難な場合があることから,前記の各事情に応じ,当該方法によって選挙権を行使する機会を保障した上で,選挙人の投票意思の自由を確保するためにその他の措置を設けることを許容しているものと解される。
そこで,代理記載制度の具体的内容についてみると,その対象者は,
①被保険者証に要介護状態区分が5である者として記載されている介護保険法上の要介護者等,障害の程度が重大で投票所に行くことが困難であり,その障害の程度が公的書類等によって証明され(公選法49条2項,公職選挙法施行令(以下公選法施行令という。)59条の2),かつ,②上肢又は視覚の障害の程度が1級であるなど自書が困難な程度の障害にあり,その障害の程度が公的書類等によって証明された者(公選法49条3項,公選法施行令59条の3の2第1項)である。また,代理記載制度を利用する手続については,選挙人は,(A)あらかじめ選挙人名簿登録がされている市町村の選挙管理委員会(以下「名簿登録地選管という。)の委員長に対し,障害の程度を証明する公的書類を提出
して郵便等投票証明書に代理記載人をして投票に関する記載を行わせることができる選挙人に該当する旨の記載を受け(公選法施行令59条の3の2),(B)あらかじめ代理記載人となるべき者1人を定め,その者が署名した代理記載人となることについての同意書及び選挙権を有することを誓う旨の宣誓書を添えて当該者の氏名等を名簿登録地選管の委員長に届け出て,郵便等投票証明書に代理記載人となるべき者の氏名の記載を受け(公選法施行令59条の3の3),(C)選挙の期日前4日までに,名簿登録地選管の委員長に対して郵便等投票証明書を示して投票用紙及び投票用封筒の交付を受け(公選法施行令59条の4),(D)投票に際しては,代理記載人に投票の記載をさせ,記載した投票用紙を投票用封筒に入れて封をし,投票用封筒の表面に投票の記載の年月日及び場所並び
に当該選挙人の氏名を記載させ,更にこれを他の適当な封筒に入れて封をし,その表面に投票が在中する旨を記載させ,届け出られた代理記載人が代理記載を行ったことを確認するため,投票用封筒の表面に,代理記載人が署名しなければならない(公選法施行令59条の5の2)。そして,
代理記載制度が設けられた経緯についてみると,(a)昭和27年に
在宅投票制度が廃止され,
(b)昭和49年に身体障害者手帳に一定以上の
重度障害者であると記載されている者について選挙の公正を確保する観点から代理記載を認めない郵便等投票制度が導入されたが,(c)ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者等が,郵便等投票制度に代理記載制度を認めていないことが選挙権の侵害である旨を主張して,国(被告)に損害賠償
を求める訴訟を提起し,東京地方裁判所において,当該患者等が選挙権を行使できる投票制度が設けられていなかったことが憲法に違反する状態であったとしつつ,請求を棄却する判決(東京地裁平成12年(ワ)第502号同14年11月28日判決訟務月報49巻8号2213頁)・
がされたことから,国会において公選法の改正が議論され,対象者を物
理的に自書できないことが公的に証明された者に限定し,代理記載人について事前の届出を行わせるなどの不正防止手段を講じた上で代理記載制度が創設され,
(d)その立案過程においては,
選挙の公正を確保する観
点から,投票管理者等の第三者の管理の下で投票が行われる巡回投票制度の創設についても検討されたが,多数の対象者が存在する地域や離島等の交通至難の地域を含め,選挙管理機関が全ての対象者を巡回することが困難であること等から,郵便等投票制度のうちの一制度として代理記載制度が創設されたというものである(乙12~16)。
以上説示したところによれば,代理記載制度は,憲法が選挙権の行使の機会を保障することを最も基本的な原則としていることを踏まえ,選挙人で身体に所定の重度の障害があって投票所に行くことが困難であり,
自ら投票の記載をすることができない者を対象として,その現在する場所において,あらかじめ市町村の選挙管理委員会の委員長に届け出た代理記載人をして投票に関する記載をさせる方法によって選挙権の行使の機会を確保するとともに,その対象者を公的書類等によって障害の程度が証明された者に限定し,あらかじめ代理記載人となるべき者を届け出
るという仕組みによって,選挙の公正や選挙人の投票意思の自由を可及的に確保する趣旨に出たものと解される。
これに対し,投票所における代理投票制度については,(a)前記(イ)及び(ウ)で説示したとおり,
平成25年改正法によって成年被後見人が一律
に選挙権を回復した後は,判断能力が必ずしも十分でない選挙人が代理
投票によって投票をする例も多数増加することが想定されたことに鑑みると,当該選挙人が,補助者となる者から不当な圧力や干渉を受けることなく,その自由な意思に基づき投票できることを確保する必要性が高い一方で,
(b)①選挙人が代理投票によって選挙権を行使する際にその希望する者を補助者として選任することとした場合,
投票管理者において,

当該者について,真に当該選挙人の自由な意思に基づき選任されていることや,当該選挙人に不当な圧力や干渉を加えるおそれがないかといった補助者としての適格性,中立性等を有することに加えて,その資質,属性等の観点から,選挙人の投票した被選挙人の氏名等の表示を行わないことが期待できるか否かを正確に確認することは困難であるところ,②政治的中立性が確保され,投票内容についての守秘義務が課されているため,補助者となった場合,選挙人が,代理投票の補助者を含む他者
から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避できることが相当高度に期待できる投票事務従事者を補助者と定めることが可能かつ合理的であることから,補助者を投票事務従事者に限定したものであるということができる。
そうすると,代理記載人による選挙人の現在する場所における代理記
載制度と補助者による投票所における代理投票は,憲法が選挙権の行使の機会を保障することを最も基本的な原則としていることを踏まえ,各制度の対象とする選挙人の投票所への移動,投票意思の表示等に関する能力等の各事情に応じ,第三者に対して投票意思を表示する方法によって選挙権を行使する機会を保障した上で,それぞれの制度において可及
的に選挙人の投票意思の自由を確保するために前記の各措置を設けたものと解される。
したがって,
代理記載制度が設けられていることをもって,
前記(イ)及
び(ウ)で説示したところが左右されるものということはできない。(オ)

以上検討したところによれば,代理投票制度を規定する改正後公選法48条2項において補助者として定められた投票事務従事者に対して投票意思を表示するものとしたことは,必要かつ合理的なものであるということができる。


以上によれば,平成25年改正法による秘密投票権の制約については,①第三者に対して投票意思を表示する方法によらなければ,心身の故障その他の事由により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名等を記載することができない選挙人の選挙権の行使を確保する機会を保障することが実質的に困難となる事情があり,かつ,②当該立法措置において定められた方法である第三者(投票事務従事者)に対して投票意思を表示することが必要かつ合理的であると認められる。
そうすると,改正後公選法48条2項が憲法15条4項に反するもので
あるということはできない。
(4)

改正後公選法48条2項の憲法14条1項適合性
判断枠組み
憲法14条1項は,法の下の平等を定めているところ,この規定は,事
柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解される(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。

原告は,選挙権の行使の機会を確保する点において代理投票制度自体は合理性を有するものの,改正後公選法48条2項は,代理投票の補助者を投票事務従事者に限定するものであって,秘密投票権が制限されない自書投票を行う選挙人や代理記載制度を利用して自ら代理記載人を選択できる選挙人との比較において,憲法14条1項の平等権を制限するものである
旨を主張する。
そこで検討すると,前記(3)アで説示したとおり,憲法は,選挙権の行使の機会を保障した上で,選挙人の投票意思の自由を確保するために秘密投票権を保障することを原則とする一方で,個々の選挙人について,投票所への移動,投票意思の表示等に関する能力等の各事情によっては,第三者
に対して投票意思を表示する方法によらなければ,選挙権の行使の機会を確保することが実質的に困難な場合があることから,
前記の各事情に応じ,
当該方法によって選挙権を行使する機会を保障した上で,選挙人の投票意思の自由を確保するためにその他の措置を設けることを許容しているものと解される。
また,
一般的には,
障害者に対する支援に際してはその意見,
意向等を尊重する必要が大きいということができるとしても,第三者に対して投票意思を表示する方法によって選挙権を行使するための具体的な方
策を策定するに当たっては,選挙人が,当該第三者を含む他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避するよう十分配慮することが必要であると考えられるのであって,そのために,当該具体的な方策において当該第三者の選定等に関する選挙人の意向が尊重されないこととなってもやむを得ない場合もあるも
のと考えられる。これらのことに加え,選挙の施行にはおのずから人的,物的設備面の制約を伴うこと,個々の選挙人の投票所への移動,投票意思の表示等に関する能力等の各事情に応じ,選挙人の投票意思の自由を確保するために採り得る措置が大きく異なり得ることを併せ鑑みれば,第三者に対して投票意思を表示する方法の具体的内容をどのように定めるかにつ
いては,
立法府の合理的な裁量権に委ねられているものというべきである。そうすると,第三者に対して投票意思を表示する方法の具体的内容について生じた区別については,立法府に与えられた前記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と前記の立法目的との間に合理的
関連性が認められない場合には,合理的な理由のない差別として,憲法14条1項に反するものと解される。このことを前提に,以下,検討する。イ
自書投票を行う選挙人との比較
改正後公選法48条2項において,選挙人は,代理投票の方法による場
合,補助者たる投票事務従事者に対して投票意思を表示して投票を行うものとされているから,代理投票の方法によって投票をする選挙人である原告は,自書投票を行う選挙人と比較した場合において,秘密投票権を制約されている地位にある。
そこで検討すると,代理投票制度は,自ら投票の記載をすることのできない選挙人について,補助者が投票の記載を行うことによって選挙権を行使する機会を保障する制度であって,このような制度が憲法上許容されることは前記(3)イで説示したとおりである。そして,同ウで検討したところによれば,平成25年改正法が,改正後公選法48条2項において,代理投票の補助者を投票事務従事者に限定することとした立法目的は,補助者を中立的な立場にある投票事務従事者に限定することにより,選挙人が,
当該補助者を含む他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避することにあるところ(同(ア)),平成25年改正法の制定前から,選挙人の判断能力が不十分なこと等に乗じたと考えられる投票偽造事件があり,認知症高齢者,精神障害者及び知的障害者が多数に及んでおり,平成25年改正法によって成年被後
見人が一律に選挙権を回復した後は,判断能力が必ずしも十分でない選挙人が代理投票によって投票をする例も多数増加することが想定されたことに鑑みると,当該選挙人が,補助者となる者を含む他者から不当な圧力や干渉を受けることなく,その自由な意思に基づき投票できることを確保する必要性が高いものということができる(同(イ))。そうすると,前記の立
法目的に合理的な根拠が認められないものということはできない。そして,
選挙人が代理投票によって選挙権を行使する際にその希望する者を補助者として選任することとした場合,投票管理者において,当該者について,真に当該選挙人の自由な意思に基づき選任されていることや,当該選挙人に不当な圧力や干渉を加えるおそれがないかといった補助者としての適格
性,中立性等を有することに加えて,その資質,属性等の観点から,選挙人の投票した被選挙人の氏名等の表示を行わないことが期待できるか否かを正確に確認することは困難であること(同(ウ))に鑑みれば,政治的中立性が確保されるとともに,投票内容についての守秘義務が課されているため,補助者となった場合,選挙人が,代理投票の補助者を含む他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避できることが相当高度に期待できる投票事務従事者に補
助者を一律に限定することにも合理性があるものということができる。そうすると,具体的な区別と前記の立法目的との間に合理的関連性が認められないということもできない。

代理記載制度を利用する選挙人との比較
代理記載制度において,選挙人で身体に所定の重度の障害があって自ら投票の記載をすることができないものは,その現在する場所において,代理記載人をして投票に関する記載をさせ,これを郵便等により送付する方法によって投票をすることができるところ,代理記載制度を利用する場合には,選挙人が代理記載人として届け出た者が投票に関する記載を行うも
のとされる。これに対し,改正後公選法48条2項において,選挙人は,代理投票制度による場合,補助者たる投票事務従事者に対して投票意思を表示して投票を行うものとされているから,代理投票制度によって投票をする選挙人である原告は,代理記載制度を利用できる選挙人と比較した場合において,投票のために投票内容を表示する相手方たる第三者を選択で
きない地位にある。
そこで検討すると,前記(3)ウ(エ)で説示したところによれば,改正後公選法は,憲法が選挙権の行使の機会を保障することを最も基本的な原則としていることを踏まえ,代理記載人による選挙人の現在する場所における代理記載制度と補助者による投票所における代理投票制度とを設け,前記
各制度の対象とする選挙人の投票所への移動,投票意思の表示等に関する能力等の各事情に応じ,第三者に対して投票意思を表示する方法によって選挙権を行使する機会を保障した上で,それぞれの制度において可及的に選挙人の投票意思の自由を確保することを前記各制度に関する立法目的としているものということができる。そうすると,前記各制度において,投票のために投票内容を表示する相手方たる第三者(代理記載制度における代理記載人と代理投票制度における補助者)に区別を設けるという立法目
的に合理的な根拠が認められないということはできない。
そして,
前記(3)
ウ(エ)で説示したとおり,
代理記載制度は,
選挙人で身体に所定の重度の障
害があって投票所に行くことが困難であり,自ら投票の記載をすることができないものを対象として,その現在する場所において,あらかじめ市町村の選挙管理委員会の委員長に届け出た代理記載人をして投票に関する記
載をさせる方法によって選挙権の行使の機会を確保するとともに,その対象者を公的書類等によって障害の程度が証明された者に限定し,あらかじめ代理記載人となるべき者を届け出るという仕組みによって,選挙の公正や選挙人の投票意思の自由を可及的に確保する趣旨に出たものであるのに対し,投票所における投票においては,政治的中立性が確保され,投票内
容についての守秘義務が課されている投票事務従事者を補助者と定めることが可能でかつ合理的であることから,補助者を投票事務従事者に限定したものである。このことに鑑みれば,投票のために投票内容を表示する相手方たる第三者(補助者と代理記載人)について生じている区別と前記の立法目的との間に合理的関連性が認められないということもできない。

以上によれば,改正後公選法48条2項が憲法14条1項に反するものであるということはできない。

(5)

原告の主張に対する判断
原告は,補助者による不正投票が行われるおそれがあるのは,選挙人が十分な判断能力を有しない場合であって,原告のように判断能力を有するが自書能力を有しない者については,このようなおそれはないから,選挙の不正防止という立法目的と,補助者を投票事務従事者に一律に限定するという手段の間に合理的関連性がない旨を主張し,その根拠として,原告が,平成30年4月19日,自らの希望するヘルパーに代筆を依頼して,豊中市長選等の期日前投票を行うことができ,何らの問題も生じなかったことを挙げる。

しかしながら,前記(3)ウ(ウ)で説示したとおり,選挙人が代理投票によって選挙権を行使する際にその希望する者を補助者として選任することとした場合,投票管理者において,当該者について,真に当該選挙人の自由な意思に基づき選任されていることや,当該選挙人に不当な圧力や干渉を加えるおそれがないかといった補助者としての適格性,中立性等を有する
ことに加えて,その資質,属性等の観点から,選挙人の投票した被選挙人の氏名等の表示を行わないことが期待できるか否かを正確に確認することは困難であることに鑑みれば,代理投票制度における補助者を投票事務従事者に一律に限定することが立法目的との間の合理的関連性を欠くものということはできない。
そして,
原告が,
改正後公選法48条1項に基づき,

代理投票の申請をした際に,投票管理者により,原告の希望するヘルパーが補助者として定められた事実が存するとしても,それは,当該投票管理者が同条2項を看過して違法な運用を行ったというだけのことであって,当該事実の存在をもって,同項の立法目的と代理投票制度における補助者を投票事務従事者に一律に限定するという手段との間に合理的関連性がな
いということはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。

原告は,選挙人自らが希望する者を補助者に選任して投票をすることを申し出た場合,選挙人に確認することにより,選挙人が判断能力を有し,
自由な意思・判断で当該補助者を選任したか,当該補助者が選挙人の投票行動に介入するおそれがないかを容易に判断できることに加え,障害者差別解消法6条1項に基づき政府が策定した障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27年2月24日閣議決定)において,障害者に対する合理的配慮が多様かつ個別性の高いものであるとされていることに鑑みれば,投票管理者が選挙人の能力を個別に判断した上,判断能力に問題のない選挙人については,当該選挙人が希望する者を補助者に選任
することを認めるべきである旨を主張する。
しかしながら,前記アで説示したとおり,選挙人が代理投票によって選挙権を行使する際にその希望する者を補助者として選任することとした場合,投票管理者において,当該者について,真に当該選挙人の自由な意思に基づき選任されていることや,当該選挙人に不当な圧力や干渉を加える
おそれがないかといった補助者としての適格性,中立性等を有することに加えて,その資質,属性等の観点から,選挙人の投票した被選挙人の氏名等の表示を行わないことが期待できるか否かを正確に確認することは困難であるといわざるを得ないことに鑑みると,前記基本方針において障害者に対する合理的配慮が多様かつ個別性の高いものであるとされていること
等を考慮しても,代理投票制度における補助者を投票事務従事者に一律に限定する改正後公選法48条2項が,憲法15条4項,14条1項に反するということはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。

原告は,ヘルパーや弁護士といった公務員でない者は,補助者となった場合に,
選挙人に対して契約又は法律に基づいて守秘義務を負うとともに,政府機関に属しない者として公務員より高度の中立性を保つことが可能である一方で,投票事務従事者は,臨時職員として任用されており,守秘義務や政治的中立性の要請に自覚的であるか疑わしいから,守秘義務や中立
性の観点から補助者を投票事務従事者に限定することは合理的であるとはいえない旨を主張する。
しかしながら,前記アで説示したとおり,選挙人が代理投票によって選挙権を行使する際にその希望する者を補助者として選任することとした場合,投票管理者において,当該者について,真に当該選挙人の自由な意思に基づき選任されていることや,当該選挙人に不当な圧力や干渉を加えるおそれがないかといった補助者としての適格性,中立性等を有することを
正確に判断することも困難であるところ,選挙人から補助者として選任する旨の希望が出された者が弁護士等であるときであっても,このような事情が存することに変わりはない。他方,投票事務従事者については,政治的中立性が確保されるとともに,投票内容についての守秘義務が課されているから,補助者となった場合,選挙人が,代理投票の補助者を含む他者
から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避できることが相当高度に期待できることは,前記(3)ウ(ウ)のとおりであって,原告の前記主張は独自のものであるといわざるを得ない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。


原告は,改正後公選法48条2項に基づき補助者が投票用紙に記載をする場合に,選挙人が補助者を定めることができないのは,代理記載制度との比較において合理性を欠く旨を主張する。
しかしながら,前記(3)ウ(エ)で説示したとおり,代理記載制度と投票所
における代理投票制度は,憲法が選挙権の行使の機会を保障することを最も基本的な原則としていることを踏まえ,各制度の対象とする投票所への移動,投票意思の表示等に関する能力等の各事情に応じ,第三者に対して投票意思を表示する方法によって選挙権を行使する機会を保障した上で,それぞれの制度において可及的に選挙人の投票意思の自由を確保するため
に前記の各措置を設けたものと解され,改正後公選法48条2項に基づき補助者が投票用紙に記載をする場合に,選挙人が補助者を定めることができないことについて,代理記載制度との比較において合理性を欠くものということはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。
(6)

小括
以上説示したところによれば,改正後公選法48条2項が憲法15条4項
及び14条1項に反するものであるということはできないから,原告が,憲法15条4項等に基づき,自らの希望する者を投票管理者から投票の補助者として選任を受けた上で投票をすることができる地位にあるということもできない。
2
立法行為又は立法不作為に係る国賠法上の違法性の判断枠組み
国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどう
かは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり,立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして,前記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作
為が直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。しかしながら,立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期に
わたってその改廃等の立法措置を怠る場合等には,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国賠法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,
最高裁平成13年
(行ツ)
第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁平成26年(オ)1023号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2586頁参照)。
以上を前提として,争点(2)及び(3)について検討する。
3
争点(2)(本件立法行為に係る国賠法上の違法の有無)について(1)

憲法違反の主張について
原告は,改正後公選法48条2項が憲法15条4項等に反することから,
本件立法行為は,国賠法1条1項の適用上違法である旨を主張する。しかしながら,前記1で説示したとおり,改正後公選法48条2項が憲法15条4項等に反するものとはいえないから,平成25年改正法の内容が,国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であるとはいえず,本件立法行為は,国賠法1条1項の規定の適用上,違法の
評価を受けるものということはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。
(2)

障害者基本法違反の主張について
原告は,改正後公選法48条2項が,国及び地方公共団体は,法律又は条
例の定めるところにより行われる選挙等において,障害者が円滑に投票できるようにするため,投票所の施設又は設備の整備その他必要な施策を講じなければならない旨を定めた障害者基本法28条に違反するから,本件立法行為は,国賠法1条1項の適用上違法である旨を主張する。
しかしながら,公選法と障害者基本法はいずれも同順位の効力にある法律であるから,国会議員が障害者基本法28条に基づき本件立法行為をしては
ならない職務上の法的義務を負うものということはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。
(3)

その他の事情の主張について
原告は,日本政府は,平成25年改正法の制定当時,障害者権利条約に署
名しており,必要な場合には,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することが求められていたほか,その3年後の平成28年4月には障害者差別解消法が施行されるなど,障害者が代理投票
をする際に希望する者を補助者に選択できるようにすることが求められる状況にあったことから,本件立法行為は,国賠法1条1項の適用上違法である旨を主張する。
しかしながら,障害者権利条約は,平成26年2月19日に施行されたものであって(関係法令等の定め(7)ア参照),平成25年改正法の制定当時,
日本において法的効力を有しなかったのであるから,国会議員が障害者権利条約に基づき本件立法行為をしてはならない職務上の法的義務を負うものということはできない。また,平成28年4月に障害者差別解消法の施行が予定されているという事情があることをもって,立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合に準ずるも
のであるということはできないから,原告が指摘する事情をもって,国会議員が原告に対して負う職務上の法的義務に違反するものということはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。
(4)

以上によれば,本件立法行為について,国賠法上の違法があるということ
はできない。
4
争点(3)(本件立法不作為に係る国賠法上の違法の有無)について(1)

憲法違反の主張について
原告は,改正後公選法48条2項は,本件選挙時までに憲法15条4項等
に反する状態にあったことから,本件立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法である旨を主張する。
しかしながら,前記3(1)で説示したとおり,改正後公選法48条2項は,憲法15条4項等に反するものとはいえないから,改正後公選法48条2項が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っているということはできない。そうすると,本件立法不作為は,国賠法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものということはできない。したがって,原告の前記主張は採用することができない。
(2)


障害者権利条約違反の主張について
原告は,障害者権利条約3条及び29条(a)(ⅲ)によれば,障害者は,一般原則として,固有の尊厳及び自ら選択する自由を含む個人の自律を保障された上,他の者と平等に政治活動に参加する権利の保障を受け,選挙人としての障害者の意思の自由な表明を保障するため,必要な場合には,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めることが締約国に求められるところ,改正後公選法48条
2項は,障害者が代理投票をする際の補助者を投票事務従事者に限定するものであって,当該障害者により選択される者が代理投票の援助をすることを認めていない点において,本件選挙時までに施行された障害者権利条約3条及び29条(a)(ⅲ)に違反する状態にあったことから,本件立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法である旨を主張する。


憲法は,
条約について,
立法府たる国会による締結の承認
(73条3号)
に加え,公布を要することとし(7条1号),日本国が締結した条約を誠実に遵守することを必要とする(98条2項)旨を規定していることに鑑みれば,国会の承認を経て公布された条約は我が国において国内的効力を
有するものと解される。もっとも,条約は,一般に締約国相互において権利義務を発生させる国際法規であり,直接,各締約国とその国民個人との間の権利義務を規律するものではないから,条約が個人の権利に言及している場合であっても,締約国に対し相互に自国の国民個人の権利を保障するための措置等を採ることを義務付ける趣旨と解され,国民個人に対して直接に条約の定める権利を付与するものではなく,当該権利を具体化するために国内法による立法措置を要することが通常であり,例外的に,条約
において,直接,個人に対して権利を付与することが明確に規定されている場合に国内裁判所において適用可能である(直接適用可能性ないし自動執行力がある)ものと解される。
そして,国会議員の立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職
務上の法的義務に違反したかどうかの問題であるところ(前記2参照),前記のとおりの条約の一般的性質に加え,国会議員の立法過程における行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であることに鑑みれば,仮に立法不作為が条約の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法不作為が直ちに国賠法1条1項の適
用上違法の評価を受けるものではない。もっとも,条約が,直接,締約国の個々の国民に対し具体的な権利を保障するものである場合に,法律の規定が条約上保障され又は保護されている権利を合理的な理由なく制約するものとして条約の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る
場合等には,例外的に,国会議員の立法不作為は,国賠法1条1項の規定の適用上,
違法の評価を受けるものと解する余地があるというべきである。

そこで,まず,障害者権利条約が,直接,我が国の個々の国民に対し,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助
することを求める権利を保障しているといえるか否かについて検討する。(ア)

前記イで説示した条約の一般的性格に鑑みれば,特定の条約が,直接に個人の所属する締約国に対する権利を保障するものとして国内裁判所において適用可能である(直接適用可能性ないし自動執行力がある)というためには,①当該条約によって保障され又は保護されている個人の権利の内容が条約で明白,確定的,完全かつ詳細に定められており,かつ,②条約の文言及び趣旨等から解釈して,個人の権利を定め,直接に
国内裁判所で執行可能な内容のものとする締約国の意思が確認できることが必要であると解される。
(イ)

そこで,障害者権利条約の内容について検討する。
障害者権利条約29条柱書きは,締約国は,障害者に対して政治的権利を保障し,及び他の者との平等を基礎としてこの権利を享受する機会を保障するものとし,次のことを約束すると定め,その約束の対象として特に次のことを行うことにより,障害者が,直接に,又は自由に選んだ代表者を通じて,他の者との平等を基礎として,政治的及び公的活動に効果的かつ完全に参加することができること(障害者が投票し,及び選挙される権利及び機会を含む。)を確保すること(同条(a))と定めた上,選挙人としての障害者の意思の自由な表明を保障すること。このため,必要な場合には,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めること(同(ⅲ))と定めている。

前記の定めによれば,障害者権利条約29条は,締約国が障害者に対して政治的権利を保障するものとする旨を定めるものの,投票の際の援助については必要な場合という抽象的な要件の下で,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めることを約束する旨を規定する一方で,直接,障害者の要
請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを求める権利を付与する旨の文言を有しないから,締約国相互間において,国内法の整備を通じて,投票の際に援助を求める権利を確保する義務を定めた趣旨であると解される。
そうすると,
障害者の要請に応じて,
当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを求める権利については,①個人の権利の内容が条約で明白,確定的,完全かつ詳細に定められているとはいえず,かつ,②障害者権利条約の文言及び趣旨
等から解釈して,個人の権利を定め,直接に国内裁判所で執行可能な内容のものとする締約国の意思が確認できるものであるとはいえない。(ウ)

以上によれば,
障害者権利条約が,
直接,
我が国の個々の国民に対し,
障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを求める権利を保障しているものと解することはできない。

なお,仮に,障害者権利条約が,直接,締約国の個々の国民に対し,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを求める権利を保障するものであると解されるとしても,次に説示するところによれば,
本件立法不作為は,
国賠法1条1項の規定の適用上,

違法の評価を受けるものということはできない。
(ア)

障害者権利条約29条(a)(ⅲ)は,
締約国に対して

選挙人としての障害者の意思の自由な表明を保障すること。このため,必要な場合には,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めること

を求めており,投票の際の援助は,飽くまで
選挙人としての障害者の意思の自由な表明を確保するための手段とされている。しかしながら,前記1(3)ウで説示したとおり,選挙人が代理投票によって選挙権を行使する際にその希望する者を補助者として選任することとした場合,投票管理者において,当該者について,真に当該選挙人の自由な意思に基づき選任されていることや,当該選挙人に不当な
圧力や干渉を加えるおそれがないかといった補助者としての適格性,中立性等を有することに加えて,その資質,属性等の観点から,選挙人の投票した被選挙人の氏名等の表示を行わないことが期待できるか否かを正確に確認することは困難であることに鑑みれば,全ての選挙人について,当該第三者を含む他者から不当な圧力や干渉を受け,自由な意思の表明ができなくなるおそれが生じる結果の発生を回避しつつ,選挙人の希望による補助者の選任を認め,障害者の意思の自由な表明を確保する
制度を確立することは容易であったということはできない。
(イ)

そして,障害者権利条約は,我が国において,平成26年2月19日に効力を生じたものであって(関係法令等の定め(7)ア参照),その発効から本件立法不作為の時点である平成28年7月10日(本件選挙の実施日)までに経過した期間は約2年5箇月であり,その間に,我が国の
司法機関において,改正後公選法48条2項が障害者権利条約29条(a)(ⅲ)に違反すると判断された判決等は存在しない。
また,障害者権利条約によれば,締約国は,自国について条約が効力を発生した後2年以内に,条約に基づく義務を履行するために採った措置及びこれらの措置によりもたらされた進歩に関する包括的な報告を,
障害者の権利に関する委員会(34条1項参照)に対して提出し(35条1項),同委員会から,適当と認める提案及び一般的な性格を有する勧告を受けるものとされている(36条1項)。そして,前記の提案及び勧告に係る法的拘束力の有無を措くとしても,日本は,障害者権利条約が発効した後,本件立法不作為の時点である平成28年7月10日ま
での間に,同委員会から,前記の提案及び勧告を受けたことはなく(弁論の全趣旨)改正後公選法48条2項が障害者権利条約29条(a)(ⅲ),
に適合するものであるか否かについて,何らの知見も得ていないものである。
(ウ)

前記(ア)及び(イ)で説示したところによれば,
仮に,
障害者権利条約が,
直接,締約国の個々の国民に対し,障害者の要請に応じて,当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを求める権利を保障するものであると解されるとしても,改正後公選法48条2項が障害者権利条約上保障され又は保護されている権利を合理的な理由なく制約するものとして障害者権利条約の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立
法措置を怠っていたと評価することはできない。
(エ)

以上によれば,本件立法不作為は,国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないというべきである。


(3)

したがって,原告の前記主張は採用することができない。
障害者基本法及び障害者差別解消法違反の主張について
原告は,改正後公選法48条2項は,本件選挙時までに,①障害者基本法
28条に違反するとともに,②国及び地方公共団体は,障害者差別解消法の趣旨にのっとり,障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し,及びこれを実施しなければならない旨を規定する障害者差別解消法3条に違反する状態にあったことから,本件立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法である旨を主張する。
しかしながら,前記①については,前記3(2)で説示したとおり,公選法と障害者基本法はいずれも同順位の効力にある法律であるから,国会議員が障害者基本法28条に基づき改正後公選法48条2項を改正すべき職務上の法
的義務を負うということはできない。
また,前記②については,障害者差別解消法3条は,国及び地方公共団体の一般的な責務を定めたものであって国会議員に個別具体的な義務を課すものとは解されない。この点を措くとしても,前記1(4)で説示したとおり,改正後公選法48条2項は,憲法14条1項に反するものではなく,投票の方
法に係る区別は,
事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものであるから,
障害者差別解消法3条に違反するものではないというべきである(なお,仮に,改正後公選法48条2項がその後に制定された同順位の効力を有する障害者差別解消法に抵触するのであれば,同項はその抵触の限度で効力を失うものと解されるから,本件立法不作為を観念することはできないと考えられる。)。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。

(4)

以上によれば,本件立法不作為について,国賠法上の違法があるというこ
とはできない。
第4

結論
よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由
がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部

裁判長裁判官
三輪方大黒田吉人
裁判官
裁判官
山﨑岳志
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