判例検索β > 平成29年(ワ)第24598号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)24598
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日令和2年3月26日
裁判所名東京地方裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2020-03-26
情報公開日2020-04-09 14:00:48
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令和2年3月26日判決言渡

同日原本交付

平成29年(ワ)第24598号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

令和2年1月30日
判決原古城春実同加治梓子
上記補佐人弁理士

松井佳章被告日
上記訴訟代理人弁護士

荒井俊行同三井睦貴同清水
上記訴訟復代理人弁理士

井出桂子
上記補佐人弁理士

香島拓也同旭
上記訴訟代理人弁護士

告山崎主化本成製株紙株式式会会社社航亨文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。
2被告は,別紙方法目録記載の方法で,別紙物件目録記載の製品を製造し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。
3被告は,その占有に係る別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。
4被告は,原告に対し,474万3679円及びこれに対する平成29年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,
発明の名称を
セルロース粉末
とする特許の特許権者である原告が,
被告が製造・販売等するセルロース粉末である別紙物件目録記載の各製品(以下,

同目録1記載の製品を被告製品1と,同目録2記載の製品を被告製品2といい,併せて被告各製品という。
)及び被告が被告各製品を製造するために
使用する方法(以下被告方法という。
)は,原告の上記特許権に係る特許発明
の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき被告各製品の製造等及び被告方法の使用の差止並びに被告各製品の廃棄
を求めるとともに,民法709条及び特許法102条3項に基づき,損害賠償474万3679円及びこれに対する平成29年8月5日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
易に認められる事実)
原告は,医薬品,医薬部外品,農薬,化学製品及び食品添加物などの製造,加工及び販売を業とする株式会社である。
被告は,紙,パルプ,木材及び機能性化成品などの製造,加工及び販売を業とする株式会社である。

原告は,以下の特許権(以下,
本件特許権といい,本件特許権に係る特許
を本件特許という。
)を有している(甲1,2)

特許番号
発明の名称

セルロース粉末

優先日

平成12年7月5日

出願日
特許第5110757号

平成13年6月28日

登録日

平成24年10月19日

本件特許権の特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである(以下,請求項1に記載された発明を本件発明1という。また,本件特許権に係る明細書及び図面を本件明細書と総称する。。

天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって,平均重合度が150~450,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0~4.平均粒子径が20~250μm,5,見掛け比容積が4.0~7.0㎤/g,見掛けタッピング比容積が2.4~4.5㎤/g,安息角が54°以下のセルロース粉末であり,該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするセルロース粉末。同請求項を分説すると,
以下のとおりである。
(以下,
分説された構成要件の
符号に従い,
構成要件1Aなどという。

1A:天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって,

1B:平均重合度が150~450,
1C:75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0~4.5,1D:平均粒子径が20~250μm,
1E:見掛け比容積が4.0~7.0㎤/g,
1F:見掛けタッピング比容積が2.4~4.5㎤/g,

1G:安息角が54°以下のセルロ~ス粉末であり,
1H:該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,
粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~30
0高いことを特徴とする
1I:セルロース粉末。


本件特許権の特許請求の範囲の請求項2の記載は以下のとおりである。(以
下,請求項2に記載された発明を本件発明2という。


平均重合度が230~450である請求項1に記載のセルロース粉末。

同請求項を,引用される請求項1(本件発明1)と併せて分説すると,以下のとおりである。
2A:天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって,

2B:平均重合度が230~450,
2C:75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0~4.5,2D:平均粒子径が20~250μm,
2E:見掛け比容積が4.0~7.0㎤/g,
2F:見掛けタッピング比容積が2.4~4.5㎤/g,

2G:安息角が54°以下のセルロース粉末であり,
2H:該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,
粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~30
高いことを特徴とする
2I:セルロース粉末。



本件特許権の特許請求の範囲の請求項6の記載は以下のとおりである。(以
下,請求項6に記載された発明を本件発明3といい。本件発明1及び2と併せて本件各発明という。

i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより,a)平均重合度が150~450b)湿潤状態の平均L/Dが3.0~5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程,ⅱ)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程,を含むセルロース粉末であり,該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするセルロース粉末の製造方法。同請求項を分説すると,以下のとおりである。
3A:天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより,

3B:平均重合度が150~450
3C:湿潤状態の平均L/Dが3.0~5.5
3D:であるセルロ~ス粒子を含むセルロース分散液を得る工程,3E:得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程,3F:を含むセルロース粉末であり,

3G:該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,
粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~30
0高いことを特徴とする
3H:セルロース粉末の製造方法。


被告は,平成27年12月から,
NPミクロースの商品名で,食品添加物
用途に使用される結晶セルロースである被告各製品の製造,販売,販売の申出を行っている。

3争点
本件の主要な争点は,以下のとおりである。
被告製品1は構成要件1B(平均重合度150~450)及び2B(平均重合度230~450)を充足するか(争点1)


被告製品2は構成要件1F及び2F(見掛けタッピング比容積2.4~4.5㎤/g)を充足するか(争点2)



被告方法は構成要件3E(セルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程)を充足するか(争点3)



本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4)ア
実施可能要件に違反しているか(争点4-1)


サポート要件に違反しているか(争点4-2)


明確性要件に違反しているか(争点4-3)


本件各発明は本件特許出願前に頒布された公刊物である特開平6-316535号公報(乙29,以下乙29公報という。
)に記載された発明

(以下乙29発明という。
)により新規性又は進歩性を欠くか(争点4
-4)
損害の数額(争点5)
4争点に対する当事者の主張


争点1(被告製品1は構成要件1B(平均重合度150~450)及び2B(平均重合度230~450)を充足するか)について

(原告の主張)

厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書である日本薬局方
(第十三改正後のもの。十三薬局方
以下
という。

の結晶セルロース
確認試験
⑶には,結晶セルロースに関する平均

重合度の測定に関して,銅エチレンジアミン溶液粘度法と呼ばれる方法(以下,十三薬局方結晶セルロース
確認試験
⑶記載の測定方法を本件測定方法という。
)が規定されているところ,本件測定方法を用いた測
定結果によれば,被告製品1の平均重合度は321であるから,構成要件1B及び2Bをいずれも充足する。


被告は,ISO5351所定のパルプ–銅エチレンジアミン(CED)溶液における極限粘度数測定方法によって極限粘度を測定し,この極限粘度値に相関式である[η]=0.909×DP^0.85(以下本件相関式という。)を適用して平均重合度を算出する方法(以下,この測定方法
を被告測定方法という。
)によれば,被告製品1の平均重合度は522
以上であり,構成要件1B及び2Bを充足しないと主張する。しかし,本件
明細書には特許請求の範囲に記載した平均重合度が本件測定方法で測定されるものであることが記載されているといえるのであり,
これと異なる方法
で測定した値は意味がない。

被告は,
本件測定方法は平均重合度350超のもの,
十三薬局方掲載の
相対粘度ηから極限粘度と濃度の積[η]Cを求める表
(甲11の2253

頁。以下十三薬局方換算表という。
)の表示範囲外のものは測定できな
いと主張するが,以下に述べるとおり,十三薬局方換算表は平均重合度350超の場合にも使用することができる。
すなわち,
十三薬局方においては,
粉末セルロースの平均重合度の測定に,
結晶セルロースに係る確認試験である本件測定方法が準用されており,十三

薬局方換算表を用いて440~2250の平均重合度を測定すると記載されている。このように,十三薬局方に記載された平均重合度の測定方法(平均重合度を求める式及び用いる換算表)は,結晶セルロースも粉末セルロースも共通であり,異なるのは,銅エチレンジアミン水溶液に溶かすセルロース粉末の量を,結晶セルロースの場合は約1.3g,粉末セルロースの場合
は約0.25gとして溶液の濃度を変える点である。十三薬局方を理解している当業者にとって,
溶液の濃度を適宜調整することで十三薬局方換算表を
用いて平均重合度を測定できることは自明である。

被告測定方法とは,要するに,①自動粘度測定器を用いて極限粘度を測定し,
②測定された極限粘度値に本件相関式を適用して平均重合度を算出するというものである。しかし,ISO5351が標準として規定しているのは上記①の極限粘度の測定方法だけであり,
本件相関式を用いて平均重合度を
算出することはISO5351が規格として定めている内容ではない。また
本件相関式は従来推奨されてきた換算式に対して暫定的な代替式として提案されたものにすぎず,国際的に承認されたものではないし,いずれかの規格で採用されたものでもない。

本件測定方法と被告測定方法は,
極限粘度を求める実験手法は同じであり,
求められる極限粘度値も実質的に同じである。これに対し,極限粘度から重合度の算出に用いる相関式は大きく異なる。
被告測定に係る極限粘度値に十
三薬局方に基づく相関式(極限粘度×1.9=平均重合度)を適用して平均重合度を求めると350~400となり,
構成要件1B及び2Bを充足する。

(被告の主張)

被告測定方法を用いた測定結果によれば,
被告製品1の平均重合度は52
2~584,あるいは540~573であるから,構成要件1B及び2Bをいずれも充足しない。


構成要件1B及び2Bの平均重合度の測定方法について,
特許請求の範囲
には何の記載もなく,また,本件明細書にも,本件特許に係るパラメータの測定方法を定義等する記載はないし,
実施例記載のものによるべきとする記
載もない。そうすると,本件明細書の記載を参酌したとしても,平均重合度の測定方法が本件測定方法に限定されているとは解されないから,構成要件

1B及び2Bの平均重合度の測定方法は,
当業者が適宜合理的に選択した測
定方法であるということができる。
そして合理的に採用し得る平均重合度の
測定方法が技術的に複数あり得る場合には,
いずれの方法を採用した場合で
あっても本件発明1及び2の構成要件の数値範囲内にあるときでなければ,当該構成要件を充足するとはいえない。

これに対し,原告は,本件明細書には特許請求の範囲に記載した平均重合度が本件測定方法で測定されるものであることが記載されていると主張するが,
本件明細書において本件測定方法は平均重合度の定義として記載されたものではなく,かつ,

実施例により本発明を詳細に説明するが,これらは本発明の範囲を制限しない。(

【0032】)という前提において,実施例
の説明において記載されたにすぎない。

また本件測定方法は,
Pは350以下であり,かつ表示範囲内である
ことが条件として記載されており,
十三薬局方換算表の表示範囲内かつ平均
重合度350以下の範囲でのみ妥当する測定方法であるため,
この範囲を超
える場合には用いることができない。構成要件1B及び2Bは,いずれも平均重合度350を超える数値範囲をクレームするものであるから,本件測定
方法は同構成要件に係る平均重合度の測定方法としては不合理である。
これに対し,原告は,試料濃度という測定条件を適宜調整し直せば,十三薬局方換算表を用いて350超の平均重合度を測定できると主張するが,実
施例においては,十三薬局方の結晶セルロース
確認試験
⑶に記載
された測定方法であること,すなわち試料溶液の濃度,粘度計の定数,温度という3つの測定条件により測定するものであることが明示されているの
であって,そのうち試料濃度という重要な測定条件を変更するのであれば,それはもはや実施例に記載された測定方法とはいえない。また,原告の主張は,
適宜調整した任意の試料濃度における粘度と濃度の定量的関係についても十三薬局方換算表が妥当することを前提とするが,
粘度測定について十三
薬局方換算表が妥当するのは,
十三薬局方の
結晶セルロース
確認試験

⑶所定の試料濃度条件(平均重合度350以下の場合),又は粉末セルロース
確認試験
⑶所定の試料濃度条件(平均重合度440~22
50の場合)のいずれかによって相対粘度を測定した場合である。原告は,上記所定の試料濃度によらず任意の試料濃度に対しても十三薬局方換算表が検証なしに妥当するという技術常識が存在することを立証できていない。

一方,ISO5351に準拠した被告測定方法によれば,350を超える場合についても平均重合度を求めることができるから,
構成要件1B及び2
Bに係る平均重合度の測定方法として合理的である。
そして,
極限粘度から平均重合度を求めるための換算式には統一的な見解
が存在しないため,
ISO5351の付属書に掲載された論文において提案
されている本件相関式を採用した。
このように国際規格及びその付属書に掲

載されている論文に提案された技術に基づく平均重合度の測定方法は,技術
的にあり得る測定方法の一つであり,
被告が合理的に選択し得る方法である。


争点2(被告製品2は構成要件1F及び2F(見掛けタッピング比容積2.4~4.5㎤/g)を充足するか)について

(原告の主張)

ホソカワミクロン製のパウダーテスターPT-R(以下PT-Rという)で測定した被告製品2の見掛けタッピング比容積は2.4であるから,構成要件1F及び2Fをいずれも充足する。
本件明細書にはPT-Rで測定した測定値が記載されており,
特許請求の
範囲には,
これを基にした見掛けタッピング比容積が記載されているのであ

るから,
被告製品2の測定値としてはホソカワミクロン製のパウダーテスターPT-X(以下PT-Xという。
)による測定値ではなく,PT-R
の測定値が採用されるべきである。なお,PT-XはPT-Rの後継機とはいっても,パーツ類を改良しており,PT-Rと完全に互換性を有しているわけではない。


被告が提出するPT-Rによる測定結果(乙34)は,第三者の立会いもなく,被告の従業員が行ったとされる測定結果であるのに対し,原告の測定結果は,第三者である測定機関によるものであるから,原告の測定結果の方が信頼できる。

(被告の主張)

PT-Xで測定した被告製品2の見掛けタッピング比容積は,2~2.2.
3㎤/gであり,
PT-Rで測定した被告製品2の見掛けタッピング比容積
は2.2~2.3㎤/gであるから,構成要件1F及び2Fをいずれも充足しない。

前記⑴イと同様に,
構成要件1F及び2Fの見掛けタッピング比容積の測
定方法についても,特許請求の範囲には何の記載もなく,また,本件明細書
にも,
本件特許に係るパラメータの測定方法は実施例記載のものによるべきとする記載もない。そうすると,本件明細書の記載を参酌したとしても,見掛けタッピング比容積の測定方法がPT-Rによるものに限定されているとは解されないから,
構成要件1F及び2Fの見掛けタッピング比容積の測
定方法は,
当業者が適宜合理的に選択した測定方法によるものということが

できる。
そして合理的に採用し得る見掛けタッピング比容積の測定方法が技術的に複数あり得る場合には,
いずれの方法を採用した場合であっても本件
発明1及び2の構成要件の数値範囲内にあるときでなければ,
当該構成要件
を充足するとはいえない。

PT-Rは平成14年頃に製造中止となっており,
平成23年にメーカー
によるメンテナンスサポートも終了しているところ,
本件発明1及び2にお
ける見掛けタッピング比容積は,
PT-Rの後継機であり測定精度も向上し
たPT-Xで測定するのが合理的であり,少なくとも,PT-Xを用いることは当業者が合理的に選択し得る測定方法である。


原告が提出するPT-Rによる測定結果(甲20の2)は,測定対象が,製造年月,ロット番号,保管状況等のいずれも不明である各1つのサンプルにすぎず,
被告製品2の通用的な物性を適切に示したものであるか不明であ
り,検証もできないから,信用性は低い。


争点3(被告方法は構成要件3E(セルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程)を充足するか)について

(原告の主張)

被告方法は,別紙方法目録記載のとおりである。
噴霧乾燥とは,液状試料を高温気流中に噴霧し,瞬間的に乾燥させる方法であるところ,セルロース分散液を噴霧すると,水は表面張力によって概球形の液滴となり,
瞬時の乾燥により液滴内部のセルロース粒子に全方向から
熱収縮応力が加わり,概球形の二次粒子となる。被告方法を用いて製造され
た被告各製品の顕微鏡写真においては,
概球形の二次粒子が確認できるとこ
ろ,
上記のとおり概球形の二次粒子が得られることは噴霧乾燥の特徴の一つであるから,被告各製品は噴霧乾燥によって製造された蓋然性が高い。イ
また,一般的な結晶セルロースは噴霧乾燥によって得られる。被告は,被告方法は噴霧乾燥ではないと否定するのみであり,
特許法104条の2に規

定する具体的態様の明示義務に反し,
被告方法を一切明らかにしようとしな
いが,工業的にセルロース粉末を製造する方法・装置が限られている中において,一切の説明や資料開示を拒む被告の上記態度は,被告方法が噴霧乾燥工程を含んでいることを優に推認させる。

これらによれば,被告方法は構成要件3Eを充足する。

(被告の主張)

被告各製品の製造工程における乾燥方法は噴霧乾燥ではないから,被告方
法は構成要件3Eを充足しない。


原告は,
被告各製品の乾燥方法が噴霧乾燥である蓋然性が高いとして報告
書(甲7)を提出するが,同報告書は,
噴霧乾燥すると全方向からの熱収縮応力が加わるために概球形の二次粒子が得られるという一般的な知見と,
単なる顕微鏡写真が掲載され,何の根拠も示されずに写真被写体が

概球形の二次粒子を確認することができます。

と断定されているだけであり,なぜ写真被写体が当該概球形の二次粒子であるといえるかについては何ら立
証されていない。また,原告が自らの立証責任を果たしたというためには,上記報告書における写真被写体の塊は,
噴霧乾燥以外には生じ得ない概球形
の二次粒子であることまで立証することが必要といえるが,
上記写真被写体
同様の粒子は,
噴霧乾燥以外の乾燥方法によっても普通に得られるものであ
る。

被告製品の乾燥方法は,被告の秘密管理下にある営業秘密であり,微結晶セルロースの製造販売業者である原告に当該方法を推知させる開示はでき
ないから,特許法104条の2ただし書により,被告は具体的態様の明示義務を負わない。


争点4-1(実施可能要件に違反しているか)について

(被告の主張)
本件明細書の発明の詳細な説明は,以下に述べるとおり,当業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく,特許法36条4項1号に違反する。

レベルオフ重合度を測定できないこと
本件各発明の特許請求の範囲には,レベルオフ重合度という用語を用
い,当該セルロース粉末の平均重合度がレベルオフ重合度より5~300高いことを内容とする構成要件が存在するが(構成要件1H,2H,3G,以下本件差分要件という。,レベルオフ重合度は,標準的なもの)
でも当業者が慣用するものでもない,いわゆる特殊パラメータである。そして,本件明細書の記載(
【0015】
【0016】
)に照らせば,本

件各発明にいうレベルオフ重合度とは,2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件(以下本件加水分解条件という。
)で加水分解した後,粘度法
(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度を意味するものではなく,
加水分解時間を延長しても低下せず一定となる重合度を意味す
ると解される。すなわち,本件加水分解条件には,本件各発明の課題との
関係で技術的意味が見出されない反面,重合度が一定となってそれ以上は低下しない(少なくとも5という差分が有意である程度に低下しない)という性質は,本件差分要件における差分が5以上あるかどうかの検証をするために必要な性質である。
そうすると,
本件各発明を実施するには,
本件明細書【0015】に記載されている通り,当該セルロース粉末につき,
本件加水分解条件で加水分解した後に重合度を測定し,
当該重合度が
加水分解時間を延長しても低下しないかどうか(レベルオフ重合度になっているか否か)を確認する必要がある。そして,本件加水分解条件で加水分解した後においてもさらに重合度が低下するようであれば,それはまだ本件各発明におけるレベルオフ重合度ではないと判断することになる。

しかしながら,
優先日当時の技術常識及び科学的事実に照らして,
本件
各発明におけるレベルオフ重合度を当業者が実施することはできない。すなわち,本件明細書【0015】中の引用論文であるBattistaにより執筆されたHydrolysisandCrystallizationofCellulose(INDUSTRIALANDENGINEERINGCHEMISTRY,Vol.42,No.3,p.502-507(1950)」
(昭和25年。乙23。以下BATTISTA論文という)には,重量減少(又は結晶化度)とレベルオフ重合度を同時に測定して比較評価するのに適した条件として,過酷な条件である2.5N塩酸,沸騰温度において加水分解を15分行うこと(本件加水分解条件)を推奨しており,本件加水分解条件は,
これによって加水分解した後には非結晶領域が完全に

除去されて重合度がそれ以上は低下しない等といった意義を有するものではない。そうすると,優先日当時の技術常識として,本件加水分解条件で加水分解した後でも加水分解は進行し続け,セルロース分子の重合度は低下してしまうのであるから,当業者は,どのようにすればレベルオフ重合度を測定できるのか不明である。

これに対し,
原告は,
セルロースの結晶構造は不変であることを前提と
して,本件加水分解条件による加水分解によって非結晶領域がすべて除去され,
残った結晶領域は分解されないので,
重合度はセルロースの結晶
構造に由来する結晶領域に対応した値として試料ごとに一定の値で下げ止まるところ,この重合度がレベルオフ重合度であると主張する。しかしながら,実際には,セルロースの結晶構造は変化し得るし,結晶領域は非結晶領域に比べて加水分解への耐性が高いだけであって,全く
分解されないわけではないため,重合度は完全に一定の値に下げ止まるわけではなく,レベルオフ重合度の概念には本来的に数値的な幅がある。さらに,
レベルオフ重合度は,
加水分解における再結晶化によって形成
された結晶性物質の平均重合度に応じても変化するというのが優先日当時の技術常識であることから,セルロースの元々の結晶構造に由来する
結晶領域に完全に対応する測定値となるものではない。
そうすると,
原告が主張するレベルオフ重合度の概念は,
実際のセルロ
ースに適合するものではなく,技術的に不正確に単純化された架空のモデルであるから,
当業者は,
本件明細書の発明の詳細な説明に従って本件
各発明を実施することができない。


平均重合度350超を測定できないこと
本件各発明は,
セルロース粉末の平均重合度が150~450または23
0~450であるという要件で特定されているところ
(構成要件1B,
2B,
3B)
,前記⑴ウのとおり,本件明細書の実施例等記載の測定方法(【003
2】
,本件測定方法)の測定が妥当する平均重合度の範囲は350以下であ
ることから,
少なくとも平均重合度350超の数値範囲
(350超~450)
の測定条件について,
本件各発明を実施することができる程度に十分な説明
が記載されているとはいえない。

安息角及び平均粒子径を所望の数値範囲に制御できないこと
本件発明1及び2は,
安息角が54°以下であるという要件(構成要
件1G,2G)及び平均粒子径が20~250μmという要件(構成要件1D,2D)で特定されている。
本件明細書の発明の詳細な説明には,
本件発明1及び2の他の構成要件を
満たしつつ,かつ,安息角及び平均粒子径に係る上記各要件をも満たすセルロース粉末として実施例のものが記載されているが,
実施例のもの以外には,
他の構成要件とともに安息角及び平均粒子径に係る上記要件をも満たすセ
ルロース粉末を得るための手がかりが何ら記載されていない。実際,発明の詳細な説明には,
結果として所望される安息角や平均粒子径の数値範囲に関
する記載はあるものの(
【0018】
【0016】,どのようにすれば他の構

成要件を満たしつつ安息角や平均粒子径を所望の数値範囲に制御することができるのか,その制御方法については何ら記載されていない。

そのため,当業者は,発明の実施に当たって無数のものを製造し,それぞれについてその数値を確認するという過度の試行錯誤を強いられることになる。
(原告の主張)

レベルオフ重合度を測定できないとの主張について
本件各発明におけるレベルオフ重合度は,
特許請求の範囲に
セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度と明確に規定されており,
本件明細書の
発明の詳細な説明においても,

本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。(

【0015】)と定義さ
れている。
したがって,
本件各発明でいうレベルオフ重合度は,
セルロース粉末を
本件加水分解条件で加水分解したときの重合度であり,このように条件
を定めれば,レベルオフ重合度の値が一義的に定まることは明らかである。
また,
上記の条件はBATTISTA論文でも推奨された条件であっ
て合理的なものである。
そして,本件加水分解条件として特定された2.5N塩酸,沸騰温度,15分は,酸の種類と濃度,加水分解反応温度,加水分解の時間のいずれも当業者にとって明確であり,重合度の測定法も,周知の粘度法(銅エチレンジアミン法)
によるものであるから,
本件各発明におけるレベルオフ

重合度の意味及び測定法は明確であり,
本件差分要件について,
当業者に
とって実施困難な事情は存在しない。
これに対し,被告は,
【0015】の記載を根拠に,本件各発明におけ
るレベルオフ重合度は本件加水分解条件で加水分解した後,さらに加水分解時間を延長しても重合度の低下が起きない重合度であると主張する
が,
特許発明の技術的範囲は,
願書に添付した特許請求の範囲に基づいて
定めなければならず,明細書において特許請求の範囲に記載した用語について明確な定義があるときには,その用語の解釈は明細書の定義に従うのが原則であるから,その定義と異なる意味に読むことを前提とした被告の主張は失当である。【0015】
また
には,
15分加水分解した後,

さらに加水分解時間を延長するという記載は存在しない。
また被告は,レベルオフ重合度の概念には本来的に数値的な幅があるから,
レベルオフ重合度の数値は定まらず,
当業者はこれを測定できない
旨主張するが,
仮に,
加水分解時間の延長等により重合度の変動が起きる
ことを前提としたとしても,本件各発明におけるレベルオフ重合度は1
5分という加水分解時間を特定して定義されているのであるから,その値が不定ないし測定不能であるとする余地はない。

平均重合度350超を測定できないとの主張について
前記⑴ウのとおり,当業者であれば,試料濃度を変えることにより本件測
定方法で平均重合度350超も測定可能であるから,
実施可能要件違反をい
う被告の主張には理由がない。

安息角及び平均粒子径を所望の数値範囲に制御できないとの主張について
安息角及び平均粒子径は当業者にとって一般的なパラメータであり,当業
者ならばその制御方法について当然に理解しているものであるから,本件発
明1及び2の実施にあたって過度の試行錯誤を要することはない。


争点4-2(サポート要件に違反しているか)について

(被告の主張)
本件各発明については,以下に述べるとおり,本件明細書における発明の詳細な説明に,
当業者が本件各発明の課題を解決できると認識できる程度に記載
されているとは認められないから,特許法36条6項1号に違反する。ア
本件差分要件の算定に必要な本件セルロース粉末のレベルオフ重合度が記載されていないこと
仮に,本件各発明におけるレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分で加水分解した後,粘度法により測定される重合度であり,B
ATTISTA論文におけるレベルオフ重合度と同義であると解するとしても,以下に述べるとおり,本件差分要件は発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
本件差分要件におけるレベルオフ重合度の測定対象物は,天然セルロース質物質(以下,
原料パルプということがある。
)の加水分解によっ

て得られるセルロース粉末である該セルロース粉末
(以下,
本件セルロース粉末ということがある。
)であるところ,実施例によれば,本件
セルロース粉末は市販SPパルプ(原料パルプ)を細断し,4Nという高濃度の塩酸による長時間の加水分解,
アンモニア水での中和,
分散液の調
製等という処理に付した後に乾燥して得られるものである(
【0040】。


ところが本件明細書の発明の詳細な説明では,
セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつ【0015】(
)と説明され,実施例においても
原料パルプのレベルオフ重合度が記載されているものの(実施例1~7),
本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は一切記載されていない。セルロースに一定の処理を施してセルロース分子の状態に一定の変化が生じると,加水分解による分子切断が余計に進行してレベルオフ重合度が顕著に低下することが知られており,原料パルプのレベルオフ重合度よりも一定の処理を行った後の本件セルロース粉末の方が,レベルオフ重合度が顕著に低くなる。

すなわち,
本件特許の優先日当時,
①BATTISTA論文においては
綿のレベルオフ重合度はマーセル化綿のレベルオフ重合度よりも高いと報告した天然(セルロース)の方が再生(セルロース)よりもレベ,ルオフ重合度が高い等と指摘されていたこと,
②セルロース繊維のレベ
ルオフ重合度は乾燥によっても低下することが報告されていたこと,③
特許第6247207号公報の実施例5,6,7,10,比較例3では,原料パルプを加水分解して得られるセルロース粉末の重合度は原料パルプのレベルオフ重合度よりも低いことが記載されていたこと,④BATTISTA論文においては,温和な条件で加水分解した後に過酷な条件で加水分解すると,温和な条件による加水分解の際に生じた再結晶化に
よる結晶性物質が,過酷な条件で加水分解しただけの場合よりも短鎖の結晶性物質となり,結果として過酷な条件で加水分解しただけの場合よりも短鎖の結晶性物質が多く含まれることになるため,本来的な結晶領域由来の平均重合度と再結晶化による結晶性物質の平均重合度のトータルとしてのレベルオフ重合度は,過酷な条件による加水分解のみの場合
よりも低下する旨の説明がされていることが認められる。
そうすると,

料パルプに細断,
4Nという高濃度の塩酸による長時間の加水分解,
アン
モニア水
(アルカリ)
での中和等といった処理に付すことにより得られる
本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプのレベルオフ重合度よりも低下する。
以上のように,一定の処理によりセルロースのレベルオフ重合度は変化するとの技術常識が存在することに鑑みても,
当業者は,
実験データ等
の実測による裏付けもなく,本件セルロース粉末と原料パルプのレベルオフ重合度が同一であると理解することはできない。
そうすると,
本件明細書の発明の詳細な説明には,
本件差分要件の算定
に必要な本件セルロース粉末のレベルオフ重合度の根拠が記載されてい
ないから,本件各発明は発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
また,本件差分要件においては,
レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない【0015】,(
)5未満では粒子L/Dを特定範囲に制御することが困難【0016】(
)になるとして,本件各
発明の課題を解決するための差分の数値として最小値5が記載されている。
しかしながら,本件測定方法は測定誤差が生じる点で必ずしも正確とはいえないから,本件セルロース粉末の平均重合度とレベルオフ重合度
の差分が5以上といってみても,5未満かどうかは誤差の範囲に埋没してしまう。
したがって,
本件差分要件により特定される本件各発明は,
レベルオフ
重合度に達している範囲
(すなわち差分0)
等が算定誤差の範囲内に含ま
れるものであるから,その課題が解決できることを当業者において認識
できる程度に発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
本件明細書の発明の詳細な説明には,本件差分要件と得られる効果との関係について,

レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。【0015】,



レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めておく必要があるかということについては,5~300程度であることが好ましい。(中略)5未満では粒子L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好ましくない。【0016】等と記載(

されている。
しかしながら,
発明の詳細な説明からは,
本件差分要件に示された本件
セルロース粉末に係る本件加水分解条件におけるレベルオフ重合度と平均重合度との差分が,なぜ本件セルロース粉末の粒子L/Dの値と関係
するのか,その技術的意味を理解することができない。
また,仮に原料パルプと本件セルロース粉末のレベルオフ重合度が同一であると仮定したとしても,
比較例においては,
本件差分要件を満たし
ていなくても粒子L/Dが所望の結果となっている例がある反面,本件差分要件を満たしているのに粒子L/Dについて所望の結果が得られて
いない例もある。
実施例を参照しても,
実施例1~7記載の原料パルプの
レベルオフ重合度はすべて220であるため,どの実施例も差分は平均重合度から一律に220を引いた数値になるにすぎないから,本件セルロース粉末の平均重合度とは区別される本件差分要件独自の粒子L/Dとの関連性を確認することができない。

したがって,
実施例及び比較例にも,
本件差分要件における数値範囲の
臨界的意義はおろか,本件各発明の課題との関連性すら示されていないのであって,本件差分要件により所望の効果が得られると当業者が認識できる程度に具体例が開示されているとは言えない。

平均重合度350超の測定条件が記載されていないこと
前記⑷イのとおり,平均重合度350超の数値範囲(350~450)の測定条件は発明の詳細な説明に記載されていない。

安息角及び平均粒子径を制御する方法が記載されていないこと
前記⑷ウのとおり,
安息角及び平均粒子径を構成要件所定の数値範囲に制
御する方法は発明の詳細な説明に記載されていない。


クレームされたパラメータの全範囲にわたって課題が解決できることを当業者は認識できないこと
本件各発明がサポート要件を満たすためには,特許請求の範囲に記載されたパラメータ(平均重合度,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)
,平均粒子径,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積,安息角

及び平均重合度とレベルオフ重合度の差。以下本件特許パラメータという。
)の数値範囲の全範囲において,当該セルロース粉末を含有する成型体の硬度
(成形性)崩壊時間

(崩壊性)重量均一性

(CV値,
流動性)
が所望の数値となることを当業者が認識できることが必要であるところ,成型体の硬度,崩壊時間,重量均一性(CV値)の数値が開示されている
具体例は表3~表6(
【0059】ないし【0062】
)の実施例8~15
であり,
これらの実施例はいずれも,
実施例3又は実施例5のセルロース
粉末のみを賦形剤として使用したものである(
【0047】ないし【00
50】。そうすると,本件明細書【0022】には,粒子の平均L/Dが)
下限値に近づくほど十分な成形性が得られなくなるとの技術常識が示さ
れているにもかかわらず,課題解決の効果が示されているのは実施例3(75μm以下粒子L/Dは3.0,乾燥前粒子L/Dは4.0)及び実施例5(75μm以下粒子L/Dは3.5,乾燥前粒子L/Dは4.6)のみであるから,当業者には,75μm以下粒子L/Dが3.0よりも小さい範囲(本件発明1及び2)及び乾燥前粒子L/Dが4.0よりも小さい範
囲(本件発明3)においても,成型体に十分な硬度(=成形性)が確保でき,本件各発明の課題が解決できるのかを認識することができない。これに対し,
原告は,
流動性の指標はCV値ではなく安息角であると主
張するが,
仮にそうであるとしても,
優先日当時の技術常識からすれば,
安息角が46°~54°である実施例2,3,5~7は,いずれも流動性があまり良くないと評価されることになり,当業者が課題を解決できると認識することはできない。
また,
安息角を流動性の指標と考えるとしても,
実施例2~7を比較例
2,4,9,11と比較すると,実施例はいずれも硬度(成形性)が優るのみで,安息角(流動性)と崩壊時間(崩壊性)は劣っているのであり,本件各発明が従来技術に対して,成形性,流動性,崩壊性という諸物性の
バランスに優れているとは評価できない。
これに対し,原告は,安息角55°以下,破壊荷重(錠剤硬度)170N以上,崩壊時間130秒以下をすべて満たすとの課題解決の基準を示すが,
仮にそうであれば,
請求項1ないし2によってクレームされた本件
発明1及び2の全範囲にわたって,上記基準が全て満たされていなけれ
ばサポート要件違反の無効理由があることになる。
しかしながら,
例えば,
成形性や崩壊性に影響すると記載されている75μm以下の粒子平均L/Dについて,本件発明1及び2では2.0~4.5までクレームされているにもかかわらず,実施例では2.5~4.3のデータしか開示されていないのであるから,当業者は,破壊荷重(錠剤硬度)170N以上,崩
壊時間130秒以下という数値基準がクレームの全範囲において達成されているのかを認識することができない。
原告の主張する,安息角55°以下,破壊荷重(錠剤硬度)170N以上,崩壊時間130秒以下をすべて満たすとの課題解決の基準を前提とすると,構成要件の一つである安息角の要件は54°以下となっており,
上記課題における流動性に関する物性をそのままクレームしたものである。
このように課題を解決するための手段【0013】

)であるはずの
発明特定事項に,当該手段で解決すべき結果を先取りして取り込んだ構成を有する特許請求の範囲について,サポート要件に適合するというためには,①安息角を除く6つのパラメータの数値範囲で特定されるセルロース粉末は,
成形性について硬度170N以上,
崩壊性について崩壊時

間130秒以下という物性を実現するものであることが当業者に認識できることに加え,②当該セルロース粉末は,同時に,高い蓋然性をもって安息角54°以下という物性を満たし得るものであることを認識できることが必要である。
しかしながら,
上記②について,
本件明細書の発明の詳細な説明には,

他の6つのパラメータと安息角の関係について記載がなく不明である上に,実施例・比較例を参照してみても,比較例1及び8にあっては,他の6つのパラメータはいずれもクレームの数値範囲にありながら,安息角はそれぞれ56°
(比較例1)59°

(比較例8)
という数値であって,
安息角54°以下という物性を満たしていないことから,真の課題解決
手段である他の6つのパラメータの数値範囲を満たしても,必ずしも安息角について求められる物性
(54°以下)
は満たされないことが明らか
である。
したがって,
当業者は,
真の課題解決手段である他の6つのパラメータ
の数値範囲で特定されるセルロース粉末は,高い蓋然性をもって安息角
54°以下という物性を満たし得るものであることを認識できない。オ
本件特許パラメータ以外の物性の特定を要せずして課題を解決できることを当業者は認識できないこと
セルロース粉末の物性は,本件特許パラメータ以外にも,例えば,平均
降伏圧,
水蒸気吸着による比表面積,
窒素吸着法による比表面積等のパラ
メータによっても左右されることが本件明細書に記載されているから(
【0017】~【0019】,これらのパラメータが課題解決の可否に)
重要な影響を与えることは優先日当時の技術常識であるといえる。そうすると,当業者が本件各発明により課題が解決できると認識できるためには,
請求項に記載された発明特定事項を満たせば,
上記各パラメ
ータについて何ら制御しなくても,本件各発明の所望の効果が奏されることが理解できなければいけない。
しかしながら,
本件明細書には,
本件特許パラメータ以外のパラメータ
の数値如何によっては課題解決が困難になることが認められる場合,例えば,
成形性が低下すると懸念される平均降伏圧が35MPa超の場合や,
崩壊性が低下すると懸念される水蒸気吸着による比表面積が85m2/g未満の場合,成形性や崩壊性が低下すると懸念される窒素吸着法による比表面積が0.
5~4.0m2/gの範囲を超える場合等であっても,
請求
項に記載された発明特定事項を満たしさえすれば,所望の効果が奏されることが理解できる記載が一切ない。

そのため,
当業者は,
本件特許パラメータ以外のパラメータの数値範囲
を特定する必要はないということを理解することができず,本件各発明の数値範囲内であれば,課題が解決できると認識することはできない。本件明細書に記載されているパラメータ(本件特許パラメータ以外のパラメータを含む。
)について,実施例・比較例のデータを参照すると,

比較例3は,
65%という高い圧縮度で成形された錠剤であるところ,

件特許パラメータとして採用されている成形性に影響するパラメータ(平均重合度,75μm以下の粒子平均L/D,見掛け比容積。本件差分要件は本件セルロース粉末のレベルオフ重合度が不明であるため除く。)
の数値範囲はいずれも満たしていないにもかかわらず,本件各発明の課
題のうち成形性に関する物性
(錠剤硬度が170N以上)
を実現している。
これは,成形性に影響するとされている本件特許パラメータの数値に関係なく,
圧縮度が37%以上であれば,
錠剤硬度が170N以上という物
性が達成されており,
逆に,
圧縮度が37%未満であると当該物性が達成
されていないことが示している。
そうすると,当業者は,本件明細書の記載(実施例・比較例のデータ)に鑑み,本件各発明の課題のうち成形性に求められる物性を実現するには,圧縮度を適切な範囲に設定することが重要な影響を与えると認識する一方,
請求項1又は2に記載された発明特定事項を満たせば,
他の手段
を採用しなくても本件各発明に係る課題を解決できると認識することはできない。

また,比較例1及び8は,本件特許パラメータのうち,崩壊性に影響するとされるパラメータ(平均重合度,75μm以下の粒子平均L/D,見掛け比容積,
見掛けタッピング比容積。
本件差分要件は該セルロース粉末
のレベルオフ重合度が不明であるため除く。
)の数値範囲を充足している
にもかかわらず,
崩壊時間が130秒以下に該当せず,
反対に比較例4は,

これらを充足していなくても,崩壊時間が130秒以下に該当する。一方,
本件明細書には,
本件特許パラメータには採用されていないが,
崩壊性に影響すると記載されているパラメータとして,水蒸気吸着による比表面積及びKa値があるところ(
【0018】
【0020】,実施例,

比較例における水蒸気吸着による比表面積及びKa値と崩壊時間との関
係をみると,崩壊性に影響するとされている本件特許パラメータの数値に必ずしも関係なく(比較例1,4,8参照)
,水蒸気吸着による比表面
積が85㎡/g以上又はKa値が0.0200min-1以上であれば,崩壊時間が130秒以下という物性が達成されており,
逆に,
水蒸気吸着
による比表面積又はKa値が上記数値範囲にないと当該物性が達成され
ていないことが示されている。
そうすると,当業者は,本件明細書(実施例・比較例)の記載に鑑み,本件各発明の課題のうち崩壊性に求められる物性を実現するには,水蒸気吸着による比表面積又はKa値を適切な範囲に設定することが必要であると認識する一方,請求項1及び2に記載された発明特定事項を満たせば,他の手段を採用しなくても本件各発明に係る課題を解決できると認識することはできない。


独立項として課題が解決できることを当事者は認識できないこと
本件発明3においては,本件明細書【0016】ないし【0018】の記載によれば,課題解決に重要な影響を与えるはずの平均粒子径,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積,安息角といった各パラメータについて,何ら
発明特定事項となっていない。そして,本件明細書には,本件発明3の請求項に記載された発明特定事項による方法によって製造されたセルロース粉末であれば,
自動的に上記各パラメータに係る物性も満たされることになる
のか,あるいは,上記各パラメータの数値と関係なく本件各発明の課題が解決されるのかについて何ら記載がなく,
実施例についても本件発明1の数値

範囲を満たす例しか記載されていないため,
当業者にはこれを理解すること
ができない。
また,本件発明1及び2についても,本件明細書には噴霧乾燥では反応後のセルロース分散液中の凝集粒子が全方向からの熱収縮応力によって圧密され,緻密化(重質化)して流動性が良好なものとなり,また凝集粒子間の水素結合が弱いために崩壊性が良好なものになる【0023】(
)等とし
て,本件発明1及び2の発明特定事項になっていない凝集粒子間の水素結合の強さ等といった噴霧乾燥による独特の因子が,発明の効果に影響を及ぼすことが記載されている。
したがって,本件発明3を引用せず,独立した請求項としてクレームされ
た本件発明1及び2についても,
噴霧乾燥による独特の因子と無関係に所望
の効果を得ることができるのか当業者には理解することができない。(原告の主張)

本件差分要件の算定に必要な本件セルロース粉末のレベルオフ重合度が記載されていないとの主張について
被告は,本件明細書の実施例に記載されたレベルオフ重合度が本件セ
ルロース粉末のレベルオフ重合度ではなく,原料パルプのレベルオフ重合度であるから,本件各発明は発明の詳細な説明に記載されていないと主張する。
しかしながら,
サポート要件との関係では,
本件明細書に実際に測定し
た本件セルロース粉末のレベルオフ重合度のデータが記載されている必
要はない上,原料パルプのレベルオフ重合度と本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は,実施例に記載された比較的低温で結晶領域まで分解が進まない条件を前提とした場合,
等しいと見てよく,
少なくとも大きく
異なるはずがない。
すなわち,
非晶質領域が分解されて結晶領域のみが残
った状態に達した時の重合度であるレベルオフ重合度は,途中に原料パ
ルプから本件セルロース粉末という加水分解過程を経ると否とにかかわらず,同じ値となるのであり,当業者であれば,原料パルプと,そこから温和な加水分解によって得られる本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解することができる。
したがって,
本件明細書に,
原料パルプのレベルオフ重合度と本件セル

ロース粉末の重合度との差の記載があれば,その原料パルプから加水分解で得られた本件セルロース粉末のレベルオフ重合度と本件セルロース粉末の重合度の差も記載されているのに等しいといえるから,当業者が本件差分要件によって特定される発明により課題を解決できると認識できない理由とはなり得ない。

これに対し,被告は,原料パルプのレベルオフ重合度と,この原料パルプから作られた本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は異なり得る旨主張し,その根拠として複数の文献(乙23,25,26,36,37)を挙げるが,
これらの文献は,
いずれも本件各発明が対象とするセルロー
ス粉末とは関係がないものについて記載したものであるから,被告の主張の裏付けとなるものではない。
被告は,本件測定方法(銅エチレンジアミン溶液粘度法)では,本件差分要件について5以上の測定誤差が生じるため,本件差分要件を測定することができない旨主張するが,
被告のいう測定誤差は,
技術的範囲論に
おいては問題になる場合があるとしても,特許請求の範囲の記載が明細書の詳細な説明でサポートされているかというサポート要件とは関係の
ない事柄である。
また,
日本薬局方とISO5351で採用されている銅
エチレンジアミン溶液による溶液粘度法による極限粘度の測定(一点法)は,
精度の高い測定方法であるから,
差分5が測定誤差に埋没するとの被
告の主張は誤りである。
被告は,本件差分要件とセルロース粉末の粒子L/Dとの関係が不明
であるとして,本件差分要件の技術的意義が理解できないと主張するが,被告の主張は,
本件各発明の一つの要件を取り上げて,
効果との関係にお
ける技術的意義が不明であるとしている点において,サポート要件違反の意味を取り違えている。
サポート要件は,
特許請求の範囲に記載された
発明が明細書に開示された発明であることを要求するものであって,発
明の個別の構成要件だけを取り上げて,その技術的意義や特定の効果との結び付きの有無や効果を奏する機序等を問題とするものではない。しかも,本件差分要件は,それ自体が単独で所望の効果をもたらす要件として記載されているわけではなく,他の要件と相俟ってセルロース粉末の好ましい物性を得るための要件として規定されているものであるか
ら,被告主張の点はサポート要件違反の理由にならない。
また被告は,
本件明細書に本件差分要件を満足しても平均L/D
(長径
短径比)
の要件を満たさない例があることや,
反対に本件差分要件を満た
さないでも平均L/D
(長径短径比)
の要件を満足する例があることを指
摘するが,
本件各発明が規定する各要件は,
それぞれに関連しあっていて,
どれか一つの要件を定めれば他の要件が一義的に定まるような単純な相関関係を持つものではなく,
平均L/Dにしても,
本件差分要件との関係

のみで決まるわけではないから,
他の要件との関係で,
被告指摘のような
場合が生じることも当然あり得るが,サポート要件違反の理由にはならない。

平均重合度350超の測定条件が記載されていないとの主張について前記⑷イのとおり,当業者であれば,試料濃度を変えることにより本件測
定方法で平均重合度350超も測定可能であるから,
サポート要件違反をい
う被告の主張には理由がない。

安息角及び平均粒子径を制御する方法が記載されていないとの主張について
前記⑷ウのとおり,安息角,平均粒子径は当業者にとってごく一般的なパ
ラメータであり,
当業者ならばその制御方法について当然に理解しているも
のであるから,サポート要件違反をいう被告の主張には理由がない。エ
クレームされたパラメータの全範囲にわたって課題が解決できることを当業者は認識できないとの主張について

被告は,成形体の硬度,崩壊時間,重量均一性(CV値)の数値が開示されているのは実施例8~15であると主張するが,本件明細書の表1及び表2には,本件各発明のセルロース粉末を含有する成形体について,実施例及び比較例に記載された全てのセルロース粉末について,安息角,成形体にしたときの硬度及び崩壊時間が開示されている。

被告はCV値が流動性の指標であるとも主張するが,CV値は機械で錠剤を量産するときのみに用いる流動性の二次的指標にすぎないから,安息角が流動性の指標である。
そして,
実施例2~7のセルロース粉末は,
安息角54°以下という良好な流動性を保ちながら,同時に優れた成形性(硬度)と崩壊性のバランスを示していることが理解できるから,当業者は,本件各発明が,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供するという本件各発明の課題を解決できると認識することができる。
また被告は,
平均L/Dが実施例3
(75μm以下粒子L/Dは3.
0,
乾燥前粒子L/Dは4.よりも小さい範囲において成形体に十分な硬0)
度(=成形性)が確保できるか確認できないと主張するが,表1及び表2
を見れば実施例2及び実施例4(いずれも75μm以下粒子L/Dは2.5,乾燥前粒子L/Dは3.4)が良好な成形性を達成していることは明らかであるから,被告の上記主張は誤りである。そもそも,被告が本件各発明のセルロース粉末におけるL/Dと成形性の関係について引用している本件明細書
【0022】
の記載は,
本件発明3に係る記載箇所であり,

そこに記載されたL/D3.0も製造工程における湿潤状態の粒子の平均L/Dについて記載されたものである。セルロース粉末における75μm以下粒子L/Dについて記載した箇所は
【0016】
の後半部分で
あるから,
良好な成形性を達成する上で,
75μm以下の粒子の平均L/
Dが3.0以上である必要があるなどと当業者が誤解することはあり得
ない。
被告は,
乙51~54の記載に基づいて,
本件各発明のセルロース粉末
の流動性が不良と判断され,
課題を解決していない旨主張するが,
乙51,
52は粉体の流動性だけに着目した文献であって,成形性,流動性,崩壊性という諸物性のバランスを考慮した上での流動性の指標を記載したも
のではない。また,乙53,54は,優先日後,数年を経た時期に出願,公開された公報であるから,考慮の対象とならない。
また被告は,実施例2~7を比較例2,4,9,11と比較したときの成績は,いずれも硬度(成形性)が優るのみで,安息角(流動性)と崩壊時間(崩壊性)は劣っている旨主張するが,本件各発明は,流動性,成形性及び崩壊性という諸物性においてバランスの取れたセルロース粉末を得ることを課題としているところ,段落【0018】
【0019】におい

て,安息角(流動性)
,錠剤硬度(成形性)
,崩壊時間(崩壊性)について
好適といえる範囲(安息角55°以下,破壊荷重(錠剤硬度)170N以上,崩壊時間130秒以下)が記載されているから,諸物性のバランスに優れたセルロース粉末であるか否かは,それらの好適といえる範囲に基づいて判断すれば足りる。
本件明細書の表1をみると,
実施例2~7はい

ずれも上述した三つの値を同時に満たしているのに対し,比較例1~11の中に上述した三つの値を同時に満たすものはないから,本件各発明の課題を解決していることは明らかである。
被告は,
比較例1及び8を取り上げて,
真の課題解決手段である安息角
以外の6つのパラメータの数値範囲を満たしても,必ずしも安息角につ
いて求められる物性が満たされないことは明らかであるとも主張するが,比較例1及び8は本件差分要件を満たさない例であり,実際には本件特許パラメータのうち5つのパラメータの数値範囲しか満たしていないから,被告の上記主張は誤りである。

本件特許パラメータ以外の物性の特定を要せずして課題を解決できることを当業者は認識できないとの主張について
本件明細書には,平均降伏圧,水蒸気吸着による比表面積,窒素吸着法による比表面積というセルロース粉末の物性についての記載があるが,それらは本件各発明のさらに好ましい形態について記載したものである
から(
【0017】~【0019】,それらが特許請求の範囲に記載され)
ていないからといってサポート要件違反ということはできない。
また,

れらのパラメータが成形性,
流動性,
崩壊性の諸物性をバランスよく併せ
持つセルロース粉末を提供するという課題の解決に不可欠であるという技術常識も存在しない。
被告は,
圧縮度が錠剤の成形条件であるかのような主張をするが,
圧縮
度とは見掛け比容積,見掛けタッピング比容積を用いて計算式により求
めた数値であり(
【0033】,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積

が定まれば一義的に定まる粉体固有の物性値の一つであるから,錠剤の成形条件ではない。
また,被告は本件特許パラメータに係る数値範囲を全て満たすにもかかわらず,成形性が劣る例を何ら具体的に示していない。


独立項として課題が解決できることを当事者は認識できないとの主張について
被告は,本件発明3は,課題解決のためにパラメータ及びその数値範囲を特定したはずの本件発明1又は2を何ら引用せず,
独立した請求項としてク

レームされているため,当業者は,本件発明3の請求項に記載された発明特定事項のみで課題が解決できると認識することができない旨を主張する。しかしながら,
本件発明3の方法によって得られるセルロース粉末が成形
性,流動性,崩壊性の諸物性のバランスに優れていることは,
【0023】

【0024】
,実施例2~7などを参照すれば明らかである。

また,被告は,本件発明3に記載されていない発明特定事項として,平均粒子径,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積,安息角といった各パラメータを列挙し,これらが発明特定事項とされていないことをもって,サポート要件違反があるとも主張するが,
本件発明3は製法に特徴のある発明であ
り,
製造方法の各工程を実施する上で関連性が深いものは取り上げる意味が
あるとしても,
その製造方法によって得られる結果物の特徴でしかない平均
粒子径,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積,安息角といったパラメータによって製造方法を特定する必要はない。そもそも,製法に関連する指標をどこまで特許請求の範囲に記載するかは,
発明を特定する出願人の選択に
委ねられている事項であり,
被告が主張するようなパラメータをすべて記載
しなければならない理由はない。
なお,被告は,本件発明1及び2についても,本件発明3を引用せず,当
業者は,
噴霧乾燥による独特の因子と無関係に所望の効果を得ることができるのか理解することができないと主張するが,
【0023】は本件発明3に
ついて説明したものであり,
本件発明3の製造方法により得られるセルロー
ス粉末が優れた成形性,流動性,崩壊性を示す推定メカニズムを記載したものであるから,
【0023】の記載をもとに,本件発明1及び2のサポート

要件違反を主張するのは見当違いである。


争点4-3(明確性要件に違反しているか)について

(被告の主張)
ア加水分解によって得られるセルロース粉末とはPBPクレームであること
本件発明1及び2は
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末という要件(構成要件1A及び2A)で特定されているところ,
この要件はセルロース粉末に係る物の発明をその物の製造方法で特定した,いわゆるPBPクレーム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)
である。PBPクレームが明確性要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的ではないという事情(以下,
不可能・非実際的事情と
いうことがある。
)が存在するときに限られるところ,セルロース粉末に係
る物の発明については,例えば,平均重合度や平均粒子径等,本件発明1及
び2の他の構成要件に記載されている構造又は特性のほか,
平均降伏圧【0

017】,
)窒素吸着法による比表面積【0019】,

)吸着特性【0020】


等といった構造又は特性によっても特定することができるから,不可能・非実際的事情が存在するとはいえない。
したがって,本件発明1及び2は不明確である。

本件特許パラメータの意義が不明確であること
本件各発明は,
セルロース粉末を本件特許パラメータの値で特定するとこ
ろ,本件特許パラメータには,当業者において慣用されているとはいえないパラメータが含まれているし,
パラメータ自体は当業者に用いられることが
あるとしても,
パラメータ値の測定方法や測定条件によって大きく異なり得
るものである。

しかしながら,本件明細書を参酌しても,発明の詳細な説明には,実施例及び比較例における各物性の測定方法の記載はあるものの,
その記載は不十
分である上に,
本件特許パラメータの測定方法が実施例記載のものによらな
ければならない旨は一切記載されず,逆に

これらは本発明の範囲を制限しない。(

【0032】)と明記され,測定方法等を限定していない。

そうすると,
本件特許パラメータの測定に当たっては当該分野で公知の方
法や任意の方法・条件等をもって測定できると解されるところ,その測定値は,それら測定方法等に応じて大きく変動するのであるから,本件特許パラメータの意義は不明確であるといえる。
(原告の主張)

ア加水分解によって得られるセルロース粉末とはPBPクレームであるとの主張について
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるとの記載は,日本薬局方の記載や当業者の常識に照らせば,
機械的粉砕により得られるセルロ
ース粉末とは別種のセルロース粉末(一般に結晶セルロースと呼ばれる
物)を特定するものであることは明らかであり,少なくとも,その記載があることによって本件発明1及び2を不明確にするものではない。
また,明細書,クレーム及び図面の記載並びに技術常識に照らし,その製法的記載が意味するものの構造,特性が明確なものについては,これをPBPクレームと解する必要はないところ,
①工業的に生産されるセルロース粉
末が,
実際問題としてパルプの機械的粉砕により得られるものとパルプの加水分解により得られるものの2種類しか存在せず,②両者は,粉末における
重合度,
非結晶領域の残存程度及びその他の特性において大きく異なっており,③日本薬局方等でも加水分解によって得られるセルロース粉末(結晶セルロース)
は機械粉砕によって得られるセルロース粉末とは区別されており,④業界のメーカーも両者を別物として区別しているのであるから,天然セルロース質物質の加水分解によって得られる
は機械粉砕物からは区別され

る特定の構造,特性,性状等を有する物を特定している記載であり,PBPクレームと解釈されるべきではない。
したがって,本件発明1及び2は,その特許請求の範囲に製法的記載を含んでいてもPBPクレームではないから,不明確ではない。

本件特許パラメータの意義が不明確であるとの主張について
本件特許パラメータは,粉体の分野(とりわけセルロースに関する分野)において粉体の特性を特定するために一般的に用いられるパラメータである。レベルオフ重合度と本件差分要件は一般的とはいえないが,レベルオフ重合度という概念自体は当業者に既に知られたものであるから,
その意義に

別段不明確なところはないし,
本件明細書にはレベルオフ重合度の測定方法
についても詳細に記載されている。
被告は,本件特許パラメータの意義は明確であっても,測定方法・条件によって測定値が大きく異なり得るとも主張するが,
それが測定誤差やばらつ
きのことを言っているのであれば,
それはどのようなパラメータにおいても

不可避的に生じるものであるから,
そのことをもって本件特許パラメータが
不明確となるわけではない。また,本件明細書の実施例に記載された測定方法は十分に合理的かつ明確であり,
その方法に代えて他の測定方法を採用す
る理由はない。
したがって,
本件特許パラメータの意義が不明確であるという被告の主張
には理由がない。


争点4-4(本件各発明は乙29発明により新規性又は進歩性を欠くか)について

(被告の主張)
本件各発明は,以下のとおり,乙29発明と同一であるか,何らかの相違点があるとしても,当業者が容易に想到できたから,新規性又は進歩性を欠き,本件特許には,
特許法29条1項3号又は同条2項に違反する無効理由がある。

本件発明1及び2について
新規性
a
乙29公報には,
精製木材パルプ,竹パルプ,コットンリンター,ラミーなどのセルロース質物質を酸加水分解…して得られるものであって,
平均重合度は100~375平均粒径は30~120μ,m見掛け比容積が4.0~6.0㎤/g見掛けタッピング比容,,積が2.4㎤/g以上であるセルロース粉末が記載されており(乙29公報【0016】
【0030】
【0032】
【0057】,構成

要件1A・2A,1B・2B,1D・2D,1E・2E,1F・2F,1I・2Iの範囲の数値のものが記載されており,これらの構成要件
に相当する構成が記載されているといえる。
b
また,乙29公報には,構成要件1C・2C(75μm以下の粒子の平均L/D)は直接的には記載されていないようにみえるが,乙29公報における実施例1のセルロース粉末は本件明細書における比較例
1のセルロース粉末であり(本件明細書【0042】,その75μm)以下の粒子の平均L/D(長径短径比)の値は2.3であるから(本件明細書【0057】
,表1)
,乙29公報には,構成要件1C・2Cが
記載されている。
c
また,乙29公報には,構成要件1G・2G(安息角)は,直接的には記載されていないようにみえるが,前記bのとおり,乙29公報における実施例1のセルロース粉末は本件明細書における比較例1にお
けるセルロース粉末に相当し,同セルロース粉末の安息角は56°であり,平均粒径は47μmである(本件明細書【0057】
,表1)
。そ
して,平均粒子径と安息角はその大小が基本的に反比例の関係にあるという本件特許の優先日当時の技術常識に照らすと,平均粒径47μmを超えるものは,原則的に安息角が56°よりも低くなるところ,
乙29公報のセルロース粉末は,平均粒子径の当該範囲(30~120μm,
【0030】のうち47μmを超える相当範囲において,

安息
角が54°以下になるものを含むことが当然に認められる。
したがって,
構成要件1G・2Gに相当する構成は,
乙29公報に内
在的に開示されているといえる。

d
また,構成要件1H・2Hについては,仮に,本件発明1及び2におけるレベルオフ重合度を,十分に加水分解したときに到達する低下下限
(=それ以上重合度が低下しないという意味)
の重合度,
すなわち単
量体の連結が全て切断された状態
(=重合度1)
であるとすると,
数値

1(単量体)となることがあり得る。そうすると,乙29公報のセルロース粉末におけるレベルオフ重合度との差分は,平均重合度100~375から一律に1を差し引いた99~374となるから,乙29公報には,5~300という本件差分要件の範囲のものが,記載されている。

また,本件発明1及び2におけるレベルオフ重合度を,BATTISTA論文におけるレベルオフ重合度と同義であると解した場合でも,本件差分要件は,乙29公報に内在的に開示されているといえる。すなわち,前記bのとおり,乙29公報における実施例1のセルロース粉末は本件明細書における比較例1におけるセルロース粉末に相当するから,
同セルロース粉末の重合度は220であり
(本件明細書
【00
57】
,表1)
,その原料パルプ(市販SPパルプ)のレベルオフ重合度

は220である(本件明細書【0042】。そして,加水分解処理後の)
セルロース粉末のレベルオフ重合度は原料パルプのレベルオフ重合度より顕著に低下するという科学的事実に照らすと,乙29公報記載の実施例1のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプのレベルオフ重合度である220よりも顕著に低下した数値となる。そうす
ると,同セルロース粉末の平均重合度は220であり,レベルオフ重合度は205以下(理論的最小値1)であるから,その差分は15(レベルオフ重合度が205の場合)ないし219(レベルオフ重合度が1の場合)であり,乙29公報には本件差分要件も記載されている。e
したがって,本件発明1及び2のセルロース粉末は,乙29公報に記載されたセルロース粉末において,その構成が全て開示されているから,新規性を欠く。

進歩性
仮に,
本件発明1及び2のセルロース粉末が,
乙29公報に記載された
セルロース粉末と相違するとしても,本件発明1及び2と乙29発明の相違点は次の2点である。
相違点1

本件発明1は,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短
径比)が2.0~4.5であるのに対し,乙29発明は,
この点について記載がなく不明であること。

相違点2

本件発明1は,
セルロース粉末の安息角が54°以下であ
るのに対し,
乙29発明は,
この点について記載がなく不
明であること。
原告は,相違点1及び2以外に相違点3(本件差分要件)を挙げる
べきではない。
a
相違点1(構成要件1C・2C)
本件特許の優先日(平成12年7月5日)よりも前に頒布された公刊物である乙30
(特開平11-152233号。
以下
乙30公報
といい,乙30公報に記載された発明を乙30発明という。
)があ
り,
崩壊性,
成形性に優れたセルロース粉末に関して,
75μm以下の
粒子の平均L/D
(長径短径比)
を2.
0以上とすることが記載されて

いる。
したがって,当業者は,乙29公報のセルロース粉末において75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)を2.0~4.5の範囲とすることは,容易に想到することができる。
b
相違点2(構成要件1G・2G)
乙29公報には,従来から高い成形性と良好な崩壊性が認められた結晶セルロースについて,さらに粉体物性を制御して成形性と崩壊性のバランスをとることにより完成されたものであることが記載され(乙29公報【0009】
【0010】,流動性が高いセルロース粉末


が好ましいことが周知であること,および流動性に影響を与えるパラメータとして安息角があることが記載されている(乙29公報【0005】
【0006】。そうすると,乙29公報には,成形性と崩壊性の

バランスに加え,流動性が高いという特性を備えるセルロース粉末を提供すること,および流動性の高さを安息角の調節により実現するこ
との動機付けが認められる。
また,乙29公報には,粉末(造粒)の流動性に影響を与える因子として安息角の他に平均粒子径があり,平均粒子径が小さくなると流動性が悪化することも記載されている(乙29公報【0031】。そし)
て,平均粒子径と安息角はその大小が基本的に反比例の関係にあるという優先日当時の技術常識,及び,基本的に安息角が小さいほど流動性が高いという優先日当時の技術常識に照らせば,平均粒子径を大き
くすれば,基本的に安息角は小さくなり,流動性が高くなることがわかる。
したがって,
当業者であれば,
平均粒径47μm,
安息角56°であ
る乙29公報のセルロース粉末において,高い流動性という周知の好特性をさらに備えさせるため,平均粒径を47μmより高い範囲に適
宜設計変更することにより,安息角が54°以下となる,流動性がより高いセルロース粉末を容易に想到することができる。
c
加えて,乙29公報には,乙29公報のセルロース粉末によれば,重量変動係数
(重量CV)
が低く,
重量均一性の高い錠剤の作成が可能で

あることが記載されている(乙29公報【0049】
【0062】
【00
63】
【0069】
【0071】
【0073】
【0074】
【0075】
【0
079】
【0081】
【0083】。そして,乙29公報のセルロース粉

末と本件発明1及び2のセルロース粉末の重量CVの具体的な値に着目すると,乙29公報のセルロース粉末の0.3~1.0%という値
(乙29公報【0071】
【0081】
)は,本件発明1及び2のセルロ
ース粉末の0.5~0.9%という値(本件明細書【0059】~【0062】
)と比較しても,流動性について必ずしも劣るものではなく,
むしろ優れる場合(0.3%以上0.5%未満の範囲)すらある。そうすると,本件発明1及び2について,乙29公報のセルロース
粉末と比較したときに,これと明らかに異なる良好な圧縮成形性を保ちながら,流動性,崩壊性にも優れている本件明細書(
【0065】

という有利な効果を奏するものである,という予想外に有利な効果が示されているとはいえない。

本件発明3について
新規性

a
乙29公報には,天然セルロース質物質の加水分解反応工程が記載され(乙29公報【0016】,また,天然セルロース質物質の加水分)
解反応工程又はその後の工程において,セルロース粒子水分散体が得られたことが記載されている(乙29公報【0051】
【0053】
)と
ころ,セルロース粒子水分散体を得るためには,水中でのセルロース粒子の分散のための適切な撹拌が当然に必要であり,溶液撹拌力が制
御されているから,構成要件3Aに相当する構成が記載されている。b
また,乙29公報には,平均重合度が150~450であるセルロース粒子を含むセルロース分散液(セルロース粒子水分散体)を得る工程が記載されているから(乙29公報【0016】
【0051】
【005
3】
【0057】,構成要件3B及び3Dに相当する構成が記載されて)

いる。
c
また,
本件明細書においては,
75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0~4.5であるセルロース粉末は,湿潤状態の平均L/Dが3.0~5.5
であるセルロース粒子を含むセルロース

分散液を得る工程
(構成要件3C,
3D)
を含む製造方法により得られ
るとされている
(本件明細書
【0021】。
)つまり湿潤状態の平均L/
Dは,セルロース粉末の75μm以下の粒子の平均L/Dよりも1.0ほど大きい値になる。乙29公報の実施例1のセルロース粉末は,75μm以下の粒子の平均L/Dが2.3であるものを含むという特
性を有するから,その湿潤状態の平均L/Dが3.3(=2.3+1.0)程度であるものを含むという特性を有している。
したがって,乙29公報におけるセルロース分散液に含まれるセルロース粒子には,
湿潤状態の平均L/Dが3.0~5.5
(構成要件
3C)という特性が含まれているから,乙29公報には構成要件3Cに相当する構成が記載されている。
d
また,乙29公報には,セルロース分散液を噴霧乾燥により品温100℃未満で乾燥させる方法が記載されているから(乙29公報【0026】
【0029】
【0053】
【0066】,構成要件3Eが記載さ

れている。

e
また,
乙29公報には,
セルロース粉末の製造方法
(構成要件3F,
3H)が記載されているおり(乙29公報【0016】
【0020】
【0
026】
【0051】
【0053】
【0057】,


のと

おり,構成要件3Gに相当する構成も記載されている。
進歩性
仮に,
本件発明3が乙29発明と相違するとしても,
本件発明3と乙2
9発明の相違点は次の1点である。
相違点4

本件発明3は,
セルロース分散液におけるセルロース粒子
の湿潤状態の平均L/Dが3.
0~5.
5であるのに対し,
乙29発明には湿潤状態の平均L/Dの記載がなく,不
明であること。

原告は,相違点4以外に相違点5(構成要件3C)及び相違点6(構成要件3E)を挙げるが,相違点5については,本件発明3は,
水分散状態で100℃以上に加熱処理するという工程が含まれてはいけないとして,
この工程を積極的に除外する構成要件では特定されておらず,
乙2
9公報が
水分散状態で100℃以上に加熱処理する
という工程を必須

としているかどうかは,
引用発明の認定において問題にならないから,

違点として認定することはできない。
また相違点6については,
前記

のとおり,
相違点として認定される

べきではない。
a
相違点4(構成要件3C)
乙29公報には,品温100℃未満で噴霧乾燥する場合には,乾燥後の粒子L/Dが小さくならないように一定の工夫をすべきことの動
機づけが認められる(乙29公報【0028】
【0029】。そして,

乙30公報には,
前述のとおり,
崩壊性,
成形性に優れたセルロース粉
末に関して,75μm以下の粒子の平均L/Dを2.0以上とすることが記載されているところ,これを実現するために,湿潤状態の平均L/Dを一定以上の数値に最適化することは当業者が適宜なし得る設
計変更に過ぎない。
したがって,当業者であれば,乙29公報のセルロース分散液に含まれるセルロース粒子について,
湿潤状態の平均L/Dが3.
0~5.
5の範囲とすることは,容易に想到することができる。
(原告の主張)

本件発明1及び2について
新規性
乙29発明は,
成形性と崩壊性のバランスをとるという課題を,
平均重
合度,酢酸保持率,特定の式で規定される圧縮特性,見掛け比容積,タッ
ピング比容積,比表面積,粒子径等々のパラメータに着目し,それらを特定の範囲の値とすることによって解決しようとするものであり,本件発明1及び2のように安息角やセルロース粒子のL/D,レベルオフ重合度との差分にも着目することで,セルロース粉末の流動性,成形性,崩壊性の諸機能のバランスを実現した発明とは,発明の課題及び解決手段に
おいて異なる。
乙29発明を正しく認定すれば,
乙29公報には少なくと
も構成要件1C・2C,1G・2G,1H・2H(本件差分要件)に相当する構成は記載されておらず,この点で本件発明1及び2と相違することは明らかである。
したがって,被告の新規性欠如の主張には理由がない。
進歩性
本件発明1及び2は,
前記被告の主張

の相違点1及び2に加え,

29発明と少なくも以下の点で相違する。
相違点3

本件発明1は,セルロース粉末における平均重合度が,該
セルロース粉末を2.
5N塩酸,
15分煮沸して加水分解
させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度よ
り5~300高いのに対し,乙29発明にはレベルオフ

重合度の記載がなく,平均重合度とレベルオフ重合度の
差分が不明であること。
当業者にとり,
乙29公報及び技術常識に基づいて,
相違点1~3を同
時に満たし,かつ本件発明1又は2の効果(崩壊性,流動性,成形性のバランス)を奏する構成に想到することは容易ではない。
a
相違点1(構成要件1C・2C)
被告は,乙29公報及び乙30公報の組み合わせによる本件発明1及び2の想到容易を主張するものと思われる。
乙30発明は,所定範囲内の平均重合度を有する結晶セルロースに
ついて,粒子の長径短径比に着目することで,圧縮成形性を改良するという発明である。
そして,
被告が指摘する乙30公報の
【0013】

錠剤の破壊強度を高めるために粒子の長径短径比(L/Dに相当)を増大させることを述べたものであり,続く段落【0014】でも,長径短径比を2.0以上とすることで錠剤の錠剤硬度が向上すること
が述べられている。
一方,
乙29発明は,
セルロース質物質を加水分解
して得られ,
平均重合度が100~375,
酢酸保持率が280%以上,
平均粒径が30~120μm,
見掛け比容積が4.
0~6.
0㎤/g,
見掛けタッピング比容積が2.4㎤/g以上であることによって,所定の成形性と崩壊性を備えたセルロース粉末である。そうすると,仮に乙29発明に乙30公報に記載された発明を組み合わせることが可能(容易)とした場合でも,その組み合わせの結果は,本件発明1及び
2と乙29発明の一致点に係る構成に加えて,
粒子の長径短径比が2.
0以上とすることにより,破壊強度を乙29発明よりも高めたセルロース粉末ということになる。
同セルロース粉末は,
せいぜい,
本件明細
書の比較例8
(L/D2.安息角59°)
5,
に相当するものに過ぎず,
本件発明1及び2のすべての構成要件を満たすものは得られない。
したがって,乙29公報及び乙30公報に基づいて,相違点1を満たす構成を容易に想到することはできない。
b
相違点2(構成要件1G・2G)
被告は,平均粒子径と安息角は,その大小が基本的に反比例関係に
あるという優先日当時の技術常識を根拠に,乙29発明において安息角を54°以下とすることは容易である旨主張するが,平均粒子径のみで安息角が決まるかのような単純な関係は技術常識として成り立たない。
また,被告は,乙29公報のセルロース粉末(平均粒径47μm,安
息角56°)を,平均粒径をより大きくして47μm超に設計変更することにより,安息角54°以下となるセルロース粉末に想到することは容易であるとも主張するが,セルロース粉末においては,個々の物性値が互いに絡みあって粉末の特性が実現されるのであり,一つの特性を改善するためにある物性値を変えれば,それによって他の物性
値が変化し,
結果として他の特性が犠牲になる可能性が高い。
実際,

29公報には,
特定の平均重合度,
酢酸保持率等,
圧縮特性等を備える
発明が記載されており,上記のような特性を有することで成形性と崩壊性のバランスを向上させるという効果が得られたとするものであるが,この発明を出発点に,さらにどのようなパラメータをどう設定することで,崩壊性,成形性,さらには流動性を,互いに悪化させることなくバランスを保って向上させられるかについて,乙29公報には何
の示唆もない。
したがって,乙29発明において,安息角を54°以下とすることが当業者にとって想到容易であるということはできない。
c
相違点3(構成要件1H・2H)
乙29公報には本件差分要件について開示も示唆もなく,まして,
本件差分要件を達成するための具体的な手段についても一切開示がない以上,相違点3を満たす構成について,乙29発明に基づいて容易に想到し得ない。

本件発明3について
新規性
被告は乙29公報に本件発明3が記載されていると主張するが,乙29公報には,少なくとも構成要件3C(湿潤状態の平均L/D)及び3G(本件差分要件)
に相当する構成について開示も示唆もないから,
本件発
明3は新規性を有する。

被告は,乙29発明におけるセルロース分散液に含まれるセルロース粒子は,
湿潤状態の平均L/Dは3.
3であったはずである旨主張するが,
乙29公報にはセルロース粉末の製造工程における湿潤状態の平均L/Dは記載されていないし,当業者が技術常識に基づいて乙29公報の記載から当然に理解し得る事項でもない。

進歩性
乙29公報に記載されているのは,
平均重合度,
結晶セルロースの酢酸
保持率,
特定の式で表される圧縮特性
(さらには平均粒径,
見掛け比容積,
見掛けタッピング比容積等)
を特定の範囲とすることで,
所定の成形性と
崩壊性を備えるようにした高成形性賦形剤の製造方法である。すなわち,乙29公報には,製造方法の発明として,
セルロース質物質を酸加水分解あるいはアルカリ酸化分解し,精製して得られたセルロース粒子を,固形分濃度が40重量%以下,pHが5~8.5,電気伝導度が300μS/cm以下の湿潤状態あるいは水分散状態で100℃以上に加熱処理し,乾燥することを特徴とする高成形性賦形剤の製造方法(請求項7)が記
載されており,当該製造方法によって得られる結晶セルロースは平均重
合度が15~375であるとされている。
そうすると,
本件発明3は,
被告の主張の前記

の相違点4に加え,

乙29発明と少なくとも次の点で相違する。
相違点5

本件発明3は,
セルロース分散液を品温100℃未満で噴
霧乾燥する工程を含むのに対し,乙29発明では水分散
状態で100℃以上に加熱処理し,乾燥することが必須

とされていること
相違点6

本件発明3は,
セルロース粉末の平均重合度がレベルオフ
重合度より5~300高いのに対し,乙29発明ではこ
の点が不明であること

a
相違点4(構成要件3C)
被告は,乙29公報には品温100℃未満で噴霧乾燥する場合には乾燥後の粒子L/Dが小さくならないようにする動機付けが記載されており,乙30公報にはL/Dを2.0以上とすることが記載されていることから,乾燥時のL/Dの低下を考慮して湿潤状態のL/Dを
最適化することは当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎない旨主張する。
しかしながら,乙29公報には粒子の長径短径比についての開示は一切なく,平均L/Dを小さくすべき旨の示唆もない。また乙30公報は特定の粒径の粒子を篩い分けにより集めることによりL/D2.0以上を達成することが記載されているものの,乾燥時のL/Dの低下を考慮して湿潤状態のL/Dを予め調整しておくことについては,
開示も示唆もない。
したがって,構成要件3Cは乙29公報及び乙30公報に基づいて容易に想到し得るものではない。
b
相違点5(構成要件3E)
被告は乙29公報にセルロース分散液を噴霧乾燥により品温10

0℃未満で乾燥させる方法が記載されている旨主張するが,乙29公報には,従来技術として品温100℃未満で噴霧乾燥する方法が記載されているに過ぎない。乙29発明は,セルロース質物質を酸加水分解あるいはアルカリ酸化分解し,
精製して得られたセルロース粒子を,
固形分濃度が40重量%以下,
pHが5~8.
5,
電気伝導度が300

μS/cm以下の湿潤状態あるいは水分散状態で100℃以上に加熱処理し,乾燥することを必須要件とするものである。このような乙29発明において必須要件とされている事項を変更することについては,少なくとも動機付けの欠如,
ないし阻害事由があるというべきである。
c
相違点6(構成要件3G)
前記

で述べたとおり,相違点6を満たす構成について,乙2

9発明に基づいて容易に想到し得ない。


争点5(損害の発生及び数額)について

(原告の主張)

特許法102条3項により推定される損害額
被告各製品の売上
被告は,
遅くとも平成27年12月頃から現在に至るまで,
被告各製品
の製造販売を行なっているところ,平成27年12月から令和元年10月までの被告各製品の売上は●(省略)●円を下らない。
実施料率
本件特許権に係る実施料率は●(省略)●%を下らない。

損害額
特許法102条3項による原告の損害額は,損害額●(省略)●円に上記実施料率●(省略)●%を乗じた●(省略)●円を下らない。

消費税相当額
知的財産権の侵害に基づく損害賠償金は,
消費税法上の資産の譲渡等の対

価に該当し,消費税の課税対象になると解されるから(消費税法4条,消費税法基本通達5-2-5)
,上記損害額に対する消費税相当額(8%,●(省
略)●円)も請求することができる。

弁護士費用
弁護士費用相当額の損害は●(省略)●円を下らない。


よって,原告は,被告に対し,損害賠償として474万3679円及びこれに対する訴訟送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

特許法102条3項により推定される損害額
被告各製品の売上
争う。
実施料率
①実施料率に関するアンケート結果は4.
3%が平均であるものの,

件各発明は過大なクレームとなっており,
その価値が低いこと,
②被告各
製品の訴求点は,
硬度・摩耗度が優れており錠剤に強度を付与させること
ができる点にあり,本件発明の効果である流動性・成形性・崩壊性のバランスを備えていないし,宣伝もしていないから,本件特許の被告各製品の売上に対する貢献はないこと,
③本件特許の実施品
(セラオスKG-
802)
は食品添加物用途のセルロースではなく,
食品添加物用途のセル
ロースである被告各製品は市場において競合していないこと等の諸事情
を総合するならば,本件における実施料率は2%とするのが相当である。イ
消費税
争う。


弁護士費用
争う。

第3当裁判所の判断
1本件各発明及びその意義
本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(甲2。なお,明白な誤記と思われる箇所については修正した。。


発明の属する技術分野
本発明は,医薬,食品,工業用途において使用される圧縮成形用賦形剤に適するセルロース粉末に関する。より詳細には,医薬用途において,良好な圧縮成形性を保ちながら,流動性,崩壊性にも優れる圧縮成形用賦形剤に適するセルロース及びそれからなる賦形剤に関する。(【0001】



従来の技術
医薬品の錠剤化は生産性が高いということのほか,輸送や使用時に取扱い易いという利点がある。そのため圧縮成形用賦形剤には,輸送や使用に際して錠剤が磨損や破壊しない程度の硬度を付与するための成形性が必要である。また医薬品用途における錠剤は,薬効の正確な発現のために1錠中の医薬品含量が均一であることが求められ,医薬品と圧縮成形用賦形剤の混合粉体を打錠して錠剤化する際には,該粉体が打錠機の臼に均一量充填される必要がある。そのため圧縮成形用賦形剤は成形性に加えて十分な流動性が必要となる。さらに医薬品錠剤はこれらの性質に加えて,服用後の速やかな薬効発現のために崩壊時間が短くなければならない。崩壊が速いほど,医薬品はそれだけ速く消化管液に溶解しやすいため,血中への移行が速くなり薬効を発現しやすくなる。そのため圧縮成形用賦形剤は,成形性,流動性に加え,速やかな崩壊性を備えている必要がある。多くの活性成分原料は圧縮しても成形ができないために,圧縮成形用賦形剤を配合して錠剤化される。一般に,錠剤中の圧縮成形用賦形剤の配合量が多いほど錠剤硬度は高くなり,また,圧縮応力が高いほど錠剤強度は高くなる。安全性や上記観点より,圧縮成形用賦形剤としては結晶セルロースがよく使用される。(【0003】)
ところが,例えば医薬分野において成形性の乏しい活性成分等を錠剤化する場合には,実用的な錠剤硬度を得るために過剰の圧縮応力をかけざるを得ず,打錠機に負担をかけるため臼杵の消耗を早め,また得られた錠剤の崩壊時間が遅延するという問題があった。薬物等の活性成分の配合量が多い場合,漢方薬等の比容積の大きな原末を配合した場合,錠剤の飲み易さを改善するために小型化する場合等では,賦形剤の配合量が著しく制限されるため,所望の錠剤硬度を得られず輸送中の磨損や破壊といった問題が生じる。また,さらには打圧感受性の活性成分,例えば酵素,抗生物質等では打圧による発熱や圧力によって活性成分が失活するため,実用硬度を得ようとすると含量が低下して錠剤化できない等の問題がある。上記の問題解決のためには,十分な流動性や崩壊性を備え,かつ少量添加でも十分な錠剤硬度を付与できる,あるいは低打圧でも十分な錠剤硬度を付与できる等の従来よりも優れた成形性を有する圧縮成形用賦形剤が必要となる。従って医薬用賦形剤として使用されるセルロース粉末の機能としては圧縮成形性,崩壊性,流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいのであるが,圧縮成形性と他の崩壊性,流動性とは相反する性質であるため,成形性が高いにもかかわらず崩壊性,流動性にも優れるセルロース粉末は知られていなかった。(【0004】)
従来セルロース粉末としては結晶セルロース,粉末セルロースが知られており,医薬,食品,工業用途で使用されてきた。特公昭40-26274号公報には平均重合度が15~375,見掛け比容積が1.84~8.92㎤/g,粒度が300μm以下の結晶セルロースが記載されている。また特公昭56-2047号公報には平均重合度が60~375,見掛け比容積が1.6~3.1㎤/g,見掛け密比容積が1.40㎤/g以上,200メッシュ以上が2-80重量%であり,安息角が35-42°である結晶セルロースが記載されている。またDE2921496号公報には流動可能な非繊維性,水不溶性のセルロース粉末としてセルロース物質を酸加水分解し,固形分濃度を30-40重量%とし,次いで140-150℃で棚段乾燥することによって平均重合度150のセルロース粉末を製造するという記載がある。さらにはRU2050362号公報には粉末セルロースの安定なゲル生成を目的として,セルロースを含む原料に鉱酸又は酸性塩の溶液を含浸させて,高温で加水分解を行うと同時に原料層を10-1000s-1の剪断速度で1-10分間攪拌することにより平均重合度が400以下の粉末セルロースを得るという方法について記載がある。しかしこれらの公報に具体的に開示されている結晶セルロース,粉末セルロースでは乾燥後の75μm以下の粒子の平均L/D,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積が小さく圧縮成形性に劣るという課題があった。(【0005】)

また特開昭63-267731号公報には特定の平均粒径(30μm以下),比表面積が1.3㎡/g以上であるセルロース粉末が記載されているが,粉砕工程を経るために75μm以下の粒子の平均L/Dが小さく成形性が不十分であり,また粒子が小さく軽質なため流動性が悪く,さらには見掛けタッピング比容積が小さくなりすぎて崩壊性が著しく悪いという課題があった。また,特開平1-272643号公報には特定の結晶形(セルロースI型)を有し,直径0.1μm以上の細孔の気孔率が20%以上で,かつ350メッシュ以上が90%以上であるセルロース粉末について,特開平2-84401号公報には結晶形がI型で,比表面積が20㎡/g以上,直径0.01μm以上の細孔の全容積が0.3㎤/g以上,平均粒径が大きくとも100μmであるセルロース粉末について記載がある。しかしこれらは成形性が比較的高いものの乾燥粉体のL/Dが2.0未満であり本発明のものと異なる。また粒子の窒素比表面積が大きすぎるため,圧縮時に導水管が減少してしまい,崩壊性が悪くなり好ましくない。さらに該発明のセルロース粉末は加水分解後,乾燥前のスラリー媒体として有機溶媒を使用し噴霧乾燥したものであるが,有機溶媒を使用するため防爆構造の乾燥機や有機溶媒の回収システムが必要になる等,コスト高となり実用化されていない。(【0006】)
また特開平6-316535号公報には,セルロース質物質を酸加水分解又はアルカリ酸化分解して得られる平均重合度100-375,酢酸保持率280%以上,かつ,定数a及びbがそれぞれ0.85-0.90,0.05-0.10の川北の式で表される圧縮特性を有する結晶セルロースであって,見掛け比容積が4.0-6.0㎤/g,見掛け密比容積が2.4㎤/g以上,比表面積が20㎡/g未満であり,実質的に355μm以上の粒子がなく平均粒径が30-120μmである結晶セルロースについての記載がある。該公報の結晶セルロース粉末は成形性と崩壊性のバランスに優れるものとの記載があるが,具体的に開示されている,最もバランスに優れる実施例について安息角を実測すると55°を超えており流動性は十分満足のいくものではない。また該公報の結晶セルロースでは,特に高打圧下で成形した場合に高硬度を付与できるものの,乾燥後の粒子の水蒸気比表面積が低く錠剤中の導水管が減少しているため,崩壊が遅延するという問題や,流動性の不良な活性成分が多く配合される処方等では,流動性に劣るために錠剤重量の変動係数が大きくなり薬物の含量均一性に影響を及ぼすという課題があった。(【0007】)
さらに特開平11-152233号公報には平均重合度が100-375,75μm篩を通過し38μm篩上に残留する粒子が全重量の70%以上で,かつ,粒子のL/D(長径短径比)の平均値が2.0以上である結晶セルロースについての記載がある。しかし該公報の結晶セルロースは安息角の記載がなく,具体的に開示されている,特開平6-316535号公報の結晶セルロースを篩分する結晶セルロースでは特開平6-316535号公報の結晶セルロースよりもさらに一層流動性,崩壊性が悪くなるという欠点を有していた。また特開昭50-19917号公報には精製パルプを前処理によって平均重合度が450-650になるまで解重合させ,見掛けタッピング比容積が1.67-2.50㎤/g,200メッシュ篩を50%以上が通過する粒度にまで機械的粉砕処理を行う錠剤成形用添加剤の製造方法が記載されている。しかし該公報のセルロース粉末では重合度が高く繊維性が発現するために,75μm以下の粒子の平均L/Dや見掛け比容積が大きくなりすぎて,崩壊性,流動性に劣るという欠点があった。また見掛け比容積のわりに見掛けタッピング比容積が小さいことも圧縮した錠剤の崩壊性を悪化させる原因である。(【0008】)

以上のように従来のセルロース粉末では,成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランス良く併せ持つものは知られていなかった。(後略)(

【0009】



発明が解決しようとする課題
本発明は,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することを目的とする。また,このセルロース粉末を含有することで,特に高打圧下で成形した場合に高硬度であり,かつ崩壊遅延を助長しない錠剤や,圧縮成形したときに顆粒の破壊,顆粒の被膜の損傷が少なく薬物放出特性の変化が少ない顆粒含有錠剤,さらには薬物含有量が多い場合においても錠剤重量にばらつきを生じることなく,硬度崩壊のバランスのとれた錠剤を提供することを目的とする。(【0012】


課題を解決するための手段
本発明者らは上述した現状に鑑み鋭意検討した結果,セルロース粉末の粉体物性を特定範囲に制御することに成功し,成形性,流動性,崩壊性の諸性質のバランスに優れるセルロース粉末を見出し,本発明を達成したものである。即ち本発明は,下記のとおりである。(1)平均重合度が150~450,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0~4.5,平均粒子径が20~250μm,見掛け比容積が4.0~7.0㎤/g,見掛けタッピング比容積が2.4~4.5㎤/g,安息角が55°以下であるセルロース粉末,(2)平均重合度が230~450である(1)のセルロース粉末,(3)・・・(8)ⅰ)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより,a)平均重合度が150~450,かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0~5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程,ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程,を含むセルロース粉末の製造方法,(9)・・・【0013】【0014】(



発明の実施の形態
以下本発明について詳細に説明する。本発明のセルロース粉末は,その平均重合度が150~450,好ましくは200~450,さらに好ましくは230~450である必要がある。平均重合度が150未満だと成形性が不足するので好ましくなく,また450を超えると繊維性が強く現れるため粉体の流動性及び崩壊性が低下するので好ましくない。平均重合度が230~450の場合は成形性,崩壊性,流動性のバランスが特に優れるので好ましい。・・・【001(
5】



発明の効果
本発明のセルロース粉末は,良好な圧縮成形性を保ちながら,流動性,崩壊性にも優れているので,特に高打圧下で成形した場合であっても,高硬度であってかつ崩壊遅延を助長しない錠剤を提供することができる。さらには薬物含有量が多い場合においても錠剤重量のばらつきを損なうことなく,硬度と崩壊性とのバランスのとれた錠剤を提供することが可能となる。そのため,本発明のセルロース粉末は,比容積の大きな活性成分を含む錠剤又は活性成分配合量の多い錠剤等の小型化にも大変有用であり,また,被覆した活性成分を含む顆粒含有錠剤においては,圧縮成形したときに顆粒の破壊,顆粒の被膜の損傷が少なく薬物放出特性の変化が少ないという効果も奏する。(【0065】)
本件各発明の意義

のとおりであると認められる。
多くの活性成分原料は圧縮しても成形ができないため,圧縮成形用賦形剤を配合して錠剤化されるところ,この圧縮成形用賦形剤としてはセルロース粉末が使用されることが多く,特に医薬品に使用される圧縮成形用賦形剤として使用されるセルロース粉末については,輸送や使用に際して錠剤に磨損や破壊しない程度の硬度を付与するための成形性,医薬品含量が均一な錠剤を製造するための流動性,服用後の速やかな薬効発現のための崩壊性をそれぞれ備えている必要がある。従来技術における圧縮成形用賦形剤であるセルロース粉末は,高い成形性と優れた崩壊性・流動性という相反する性質をいずれも有するものが知られておらず,成形性の乏しい活性成分等を錠剤化する場合には過剰の圧縮応力をかけざるを得ず,打錠機に負担をかけるため臼杵の消耗を早め,また得られた錠剤の崩壊時間が遅延するという問題,薬物
等の活性成分の配合量が多い場合等には賦形剤の配合量が著しく制限されるため,所望の錠剤硬度を得られず輸送中の磨損や破壊が生じるという問題,酵素や抗生物質等の打圧感受性の活性成分では打圧による発熱や圧力によって活性成分が失活するため,実用硬度を得ようとすると含量が低下して錠剤化できないという問題があった。

本件各発明は,セルロース粉末の粉体物性を特定範囲に制御することによって成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末及びその製造方法を見出したものである。本件発明3はそのようなセルロース粉末の製造方法であり,また,本件発明1及び2のセルロース粉末は,良好な圧縮成形性を保ちながら,流動性,崩壊性にも優れているため,高打
圧下で成形であっても高硬度かつ崩壊遅延を助長しない錠剤の提供,薬物含有量が多い場合においても錠剤重量のばらつきを損なわずに硬度と崩壊性のバランスがとれた錠剤の提供を可能とし,その結果として,比容積の大きな活性成分を含む錠剤又は活性成分配合量の多い錠剤等の小型化にも大変有用であり,また,被覆した活性成分を含む顆粒含有錠剤においては,圧縮成形
したときに顆粒の破壊,顆粒の被膜の損傷が少なく薬物放出特性の変化が少ないという効果も奏する。
2争点1(被告製品1は平均重合度150~450
(構成要件1B)及び
平均重合度230~450
(構成要件2B)を充足するか)について
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。ア
重合度の意義
セルロースは,植物細胞膜の主成分をなす多糖類であり,繊維素とも
呼ばれる。セルロース分子は,グルコースが直鎖状に連なった構造の重合体である(甲9)

重合度とは,重合体を構成する単量体の量を意味する。平均重合度とは,対象物に含まれる多数の重合体の重合度の平均を表し,セルロースの場合には,セルロース分子が平均して何個のグルコースで構成されて
いるかの指標である(争いのない事実)


平均重合度の測定方法に係る本件明細書の記載

てセルロースの平均重合度の値の記載があるが,平均重合度の測定方法については,以下の各段落中に記載があるほかには,記載がない。
以下,実施例により本発明を詳細に説明するが,これらは本発明の範囲を制限しない。なお,実施例,比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。1)平均重合度第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験⑶に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値。2)乾燥前粒子のL/D乾燥前のセルロース分散液中の粒子の平均L/Dは以下のように測定した。・・・3)乾燥減量[%]・・・4)250μm篩に残留する粒子の割合[%]・・・5)75μm以下の粒子の平均L/D・・・6)見掛け比容積[㎤/g]・・・7)見掛けタッピング比容積[㎤/g]市販粉体物性測定機(ホソカワミクロン製,パウダーテスターT-R型)を用い,100㎤カップに粉体を充填し,180回タッピングした後,カップの体積を,カップに充填されて残る粉体層の重量で除して求めた。・・・18)錠剤の摩損度[%]・・・19)薬物の溶出率[%]・・・【0032】~【0038】(

また,
実施例比較例のうち,実施例1ないし7(ただし実施例1

は参考例)
,比較例1ないし11について,平均重合度の値の記載があり,
それらについての物性の値の一覧は【表1】に記載されていて,その内容は別紙一覧表のとおりである。それらの実施例,比較例の重合度は,実施例について220(実施例1)から440(実施例7)までであり,比較例について145(比較例4)から488(比較例3)までであり,実施例6は375,実施例7は440,比較例3は488,比較例10は380,比較例11は356である。


本件測定方法
日本薬局方は,
医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律41条により,医薬品の性状及び品質の適正を図るため,厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書である(争いのない事実)

十三薬局方の結晶セルロースの項目には,

本品は繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを鉱酸で部分的に解重合し,精製したものである。

との記載があり,確認試験として,3つの試験が記
載されている。その(1)は,塩化亜鉛,ヨウ化カリウム,ヨウ素を加えた水溶液に本品を時計皿上で分散するとき,分散物は青紫色を呈するというものであり,(2)
は,本品をかき混ぜ機を用いて高速で5

分間かき混ぜ,3時間放置するとき,液は白色不透明で,気泡のない分散状を呈し,液の分離を認めない。
」というものである。(3)
は,本
件測定方法と平均重合度を定めるものであり,(a)本品約1.3gに水25ml及び1mol/L銅エチレンジアミン試液25mlを加えて溶かし,(b)粘度計の概略の定数が,それぞれ0.03及び0.01の毛細
管粘度計を用いて2つの動粘度を求め,(c)その2つの動粘度から計算式により相対粘度を求め,(d)その相対粘度から,十三薬局方換算表により極限粘度と濃度の積(
[η]C)を求め,(e)平均重合度Pを以下の
式で求めることが記載されている。
P=(95)
[η]C/乾燥物に換算した試料の量(g)

そして,

P(判決注:平均重合度)は350以下であり,かつ(判決注:十三薬局方換算表の)表示範囲内である。

との記載がある。十三薬局方換算表は,1.100から19.9の範囲の相対粘度について,極限粘度と濃度の積(
[η]C)を示している表である。
(甲1
1)

十三薬局方には,
結晶セルロースとは別に粉末セルロースの
項目があり,そこには,粉末セルロースについて,

本品は繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを機械的に分解し,精製したものである。

との記載があり,確認試験として,(1)
には,結晶セ
ルロースと同じ試験方法で分散物が青紫色を呈することが記載されており,(2)
には,かき混ぜ機を用いてかき混ぜた後,記載された条件
で1時間放置すると液は分離し,上澄み液と沈殿を生ずることが記載さ
れている。(3)
には,(a)本品約0.25gを水25ml及び1mol
/L銅エチレンジアミン試液25mlを加えて溶かした上で,結晶セルロースにおける確認試験の上記(b)ないし(e)と同じ試験を行ったとき,

平均重合度(p)が440~2250であり,かつ(判決注:十三薬局方換算表の)表示範囲内である。

との記載がある。(甲11)


被告測定方法
ISO(国際標準化機構)は,国家規格機構(ISOメンバー機構)の世界規模の連合であり,技術委員会が国際基準を定める(甲24)。
ISO5351:2010は,国際基準としてパルプ―銅エチレンジアミン(CDE)溶液における極限粘度数測定方法を定めるところ,同方法は,希釈銅エチレンジアミン溶液内のパルプの極限粘度数の推定する数値を算出する方法である(甲24)

また,ISO5351:2010は,
附属書C(参考)重合度の計算において,いくつかの式は,極限粘度数と重合度の関係について提
案されてきたとし,複数の参考文献(論文)を掲載している(甲24)
。この参考文献のうち一つであるEVANS,R.,WALLIS,A.F.AComparisonofcellulosemolecularweightsdeterminedbyhighperformancesizeexclusionchromatographyandviscometry.FourthInt.Symp.WoodChem.,Paris,pp.201-205,1987-04(高速サイズ排除クロマトグラフィと粘度測定法により測定されるセルロース分子量の比較)には,
暫定的な代替式として本件相関式(
[η]=0.909
×DP^0.85)が提案されている(甲24,乙7・別紙2)


極限粘度と極限粘度から重合度の算出に用いられる相関式
極限粘度は,
固有粘度といわれることもあり,試料ごとに固有の値を
持つものであり,測定時の試料濃度の違いは本質的には極限粘度の値に影響しないと考えられている(甲28)


セルロースの極限粘度から重合度又は平均重合度を求めるための相関式は,これまで様々な実験に基づき,多数の式が提案されており,遅くとも平成20年から現在に至るまで,統一的な見解には至っていない(甲28,乙18,33)

十三薬局方は,式を変形すると,極限粘度に1.9を乗じるという相関
式を用いて平均重合度を算出しているといえるものであって,同相関式は米国試験材料協会(ASTM)が策定する国際規格に記載されている相関式である(甲28ないし30)

いずれの相関式を用いるかによって,極限粘度の数値から算出される重合度の値は相当に異なる(甲19の1ないし19の4,28,乙7,1
1,12,14,16)


被告等を出願人とする明細書の記載
特開2004-115700号公報(甲22)は,被告を出願人とする粉末状セルロース及びその製造法の発明であり,特許請求の範囲には,当
該セルロースの平均重合度が500以上であることが記載されており,実施例,比較例には,得られた粉末状セルロースの平均重合度が,実施例においては,1400,1450,1500であったことが記載され,比較例においては,370,400,480,800,1500であったことが記載されている。発明の詳細な説明において,平均重合度は,

第13改正日本薬局方解説書,結晶セルロース確認試験(3)記載の銅エチレンジアミンを用いた粘度測定法によって平均重合度を求めた。(

【0048】【0049】
)ことが記載されているが,この記載以外に,平均重合度の測
定方法や測定条件についての記載はない。
特開2005-29627号公報(甲23)は,日本製紙ケミカル株式会社を出願人とする粉末状セルロースの製造方法の発明であり,同製造方法による粉末状セルロースの平均重合度は,実施例について,413,4
27,436,450,564,597であり,比較例について,311,391,479,601,612であることが記載されている。そこには平均重合度について,
第13改正日本薬局方解説書,結晶セルロース確認試験(3)記載の銅エチレンジアミンを用いた粘度測定法によって平均重合度を求めた【0027】(
)との記載があるが,この記載以外に,平

均重合度の測定方法や測定条件についての記載はない。
その他,被告及びその関連会社を出願人とする公開特許公報(ただし,このうち1件は国際公開)において,セルロース粉末の平均重合度の測定を本件測定方法によって測定する旨の記載があるものについて,その平均重合度が350を超えるものは13件存在する(甲32)



原告による測定結果
株式会社島津テクノリサーチが,平成29年12月,原告の依頼により本件測定方法により測定した結果によれば,被告製品1の平均重合度は323であった(甲19の1,19の2)

株式会社島津テクノリサーチが,平成30年1月,原告の依頼により
十三薬局方粉末セルロース
確認試験
⑶記載の測定方法により
測定した結果によれば,被告製品1の平均重合度は324であった(甲19の3,19の4)


被告による測定結果
被告が,平成29年12月ないし平成30年1月及び同年5月,一般財団法人日本食品分析センター及び株式会社島津テクノリサーチに対し,本件測定方法により被告製品1の平均重合度の測定を依頼したところ,相対粘度が十三薬局方換算表の範囲を超えたために測定不能である旨の報告を受けた(乙11,12の1ないし12の21,14の1,14の2,16の1ないし16の7)

51記載の測定方法により極限粘度を測定し,本件相関式を用いて極限粘度から平均重合度を算出する方法)により測定した結果によれば,被告製品1の極限粘度は,186~204(ml/g)であり,平均重合度は522~584であった(乙7)

被告が,平成30年3月頃,被告測定方法により測定した結果によれ
ば,被告製品1の極限粘度は,191~201(ml/g)であり,平均重合度は540~573であった(乙11)

⑵ア

本件明細書の特許請求の範囲には平均重合度の測定方法は記載されていないが,発明の詳細な説明には,前記⑴イのとおり,実施例・比較例にお
ける各物性の測定方法が記載されており,平均重合度は第十三改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定された値という具体的な本件測定方法により測定された値である旨の記載がある。そして,本件明細書において,本件測定方法に基づいて測定された各実施例,比較例の平均重合度が記載された
上で,それらのセルロースが持つ諸機能,すなわち本件各発明の効果が検証されている。
セルロースの極限粘度から重合度又は平均重合度を求めるための相関式は,これまで多数の式が提案され,用いる相関式によって同じ物の平均重合度の値が相当に異なる場合もあるところ(前記⑴オ),平均重合度等の物

性等で特定された本件発明1及び2において,具体的に特定された本件測定方法により測定された平均重合度の値を有する実施例,参考例について発明の効果が検討されているなど,上記に記載した事情がある。これらに照らせば,特段の事情がない限り,当業者は,本件測定方法による平均重合度が本件発明1及び2の構成要件1B・2Bの範囲に入れば当該要件を充足すると考えるといえ,また,そのように解することによって第三者に不測の不利益が生じるとはいえないから,本件測定方法により測定された
平均重合度が本件発明1及び2の構成要件の範囲内であれば,当該セルロースは同構成要件を充足する。

被告は,本件明細書に

実施例により本発明を詳細に説明するが,これらは本発明の範囲を制限しない。

という記載があることを挙げて,平均重
合度の測定方法が本件測定方法に限定されない旨主張する。
しかし,上記は,発明の範囲が実施例に記載した具体的な値を有するセルロースに限定されないことを記載したものともいえるし,本件明細書には,平均重合度について,具体的な測定方法である本件測定方法の記載がある一方で,他の方法についての記載がなく,また,用いる式等によって
同じ物の平均重合度の値が相当に異なる場合もあるなど,前記アに述べた事情から,上記記載は,特段の事情がない限り,本件測定方法により測定された平均重合度が本件発明1及び2の構成要件の範囲内であれば,当該セルロースは同構成要件を充足するという判断を左右するものではない。
は350以下であり,かつ(判決注:十三薬局方換算表の)表示範囲内である。
」との記載を根拠に,本件測定方法は,平均重合度350以下であり十三薬局方換算表の表示範囲内でのみ妥当する測定方法であることなどを挙げて,平均重合度350超の数値範囲をクレームする構成要件1B及び2Bの測定方法としては不合理であると主張する。

しかし,被告が指摘する上記記載は,十三薬局方の結晶セルロースの確認試験の項目に記載されているものであり,厚生労働大臣が定める特定の規格を満たした結晶セルロースは本件測定方法による平均重合度が350以下であるということを示すものであり,平均重合度が350を超える場合に本件測定方法が妥当しなくなることを直ちに意味するものとはいえない。
ただし,本件測定方法は,十三薬局方に記載された十三薬局方換算表に基づくところ,十三薬局方換算表には,1.100から19.9の範囲の相対粘度について極限粘度と濃度の積(
[η]C)を示す十三薬局方換算表
が記載されており,上記の範囲外の相対粘度についての記載はない。ここで,極限粘度は試料ごとに固有の値を持つため,測定時の試料濃度
の違いは本質的には極限粘度の値に影響しないと考えられており(甲28)
,本件測定方法の平均重合度は極限粘度と濃度の積を求め,これを乾燥物に換算した試料の量で除しているのであるから,基本的には試料の濃度(試料の量)を変更することで平均重合度の値が変わるものとはいえない。十三薬局方の粉末セルロース
確認試験
⑶には,試料の濃度

(銅エチレンジアミン水溶液に溶かすセルロースの量)のみを変更し,その他を本件測定方法の方法として平均重合度を求めることが記載されている。これらによれば,平均重合度を本件測定方法により測定するとされた場合,当業者は,相対粘度が十三薬局方換算表の範囲外となった場合は,測定時の試料の濃度(銅エチレンジアミン水溶液に溶かすセルロースの
量)を変更して,十三薬局方換算表に記載された相対粘度の範囲になるように調整した上で平均重合度を求めるものといえる。そして,現に,被告や被告の関係会社も,複数の特許明細書において,セルロースについて本件測定方法を用いて平均重合度を測定しているところ,そこで算出された平均重合度は前記⑴カのとおり350を超えるものが多数あり,本件測定
方法で平均重合度を求める式に照らすと,そこで測定されたとする平均重合度は,試料の濃度(銅エチレンジアミン水溶液に溶かす結晶セルロースの量)を本件測定方法で定められたものとした場合には,十三薬局方換算表に記載された相対粘度の範囲を超えているはずである。そうすると,それらの平均重合度の測定に当たっては,試料の濃度(銅エチレンジアミン水溶液に溶かす結晶セルロースの量)を本件測定方法で定められた濃度から変更し,十三薬局方換算表に記載された相対粘度の範囲の値とした上で平均重合度を求めていると認められるものであり,上記各特許明細書にはそのような試料の濃度の変更についての記載がないことからも,それらは技術常識として当業者が当然に行っていたものと認められる。また,原告が株式会社島津テクノリサーチに同一の試料の平均重合度の測定を依頼し
たところ,本件測定方法により測定した結果によれば,当該製品の平均重合度は323であり,十三薬局方粉末セルロース
確認試験
⑶記

晶セルロースの量を本件測定方法で規定された1.3gから0.25gに減らして試料の濃度を下げる。
)により測定した結果によれば,当該製品の
平均重合度は324であり(甲19の3,19の4)
,ほぼ同一であった。
これらによれば,平均重合度を本件測定方法により測定するとされる場合,当業者は,技術常識として,試料の濃度を変更して相対粘度を十三薬局方換算表の範囲とすることが行われていたと認められ,また,それが技術常識であることからも,このように解したとしても第三者に不測の損害
を与えるとはいえない。したがって,本件特許の優先日当時,当業者は,

第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験⑶に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値。(

【0032】)との本件明
細書の記載を,本件測定方法のうち試料の濃度(前記

(a)記載の銅

エチレンジアミン水溶液に溶かす結晶セルロースの量)を適宜変更する測定方法を含むものと理解し,これにより本件測定方法を用いて平均重合度350を超えるセルロース粉末の平均重合度を測定することができたと認められる。
そうすると,本件測定方法は,本件発明1及び2の測定方法として不合理なものとは認められないから,被告の上記主張には理由がない。⑶
前記のとおり,本件測定方法による平均重合度が本件発明1及び2の数値の範囲内であれば,当該構成要件を充足すると解される。また,本件測定方法は,本件発明1及び2の充足性を判断するに当たって不合理な方法ではない。
前記⑴カのとおり,株式会社島津テクノリサーチが本件測定方法により測定した結果によれば,被告製品1の平均重合度は323である。また,極限
粘度は,試料ごとに固有の値を持つものであり,本件測定方法は極限粘度に乗じる係数を1.9とするものであるところ(前記⑴オ),被告が提出する証
拠によっても,被告製品1の極限粘度
本件発明1及び2の平均重合度の範囲内である。
以上によれば,被告製品1は,
(平均重合度150~450)
(構成要件1

B)及び平均重合度230~450
(構成要件2B)を充足する。
3争点2(被告製品2は見掛けタッピング比容積2.4~4.5㎤/g(構
成要件1F・2F)を充足するか)について


後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。ア
見掛けタッピング比容積の意義
比容積は,単位質量当たりの容積(体積)であり,容積(㎤)/質量
(g)として表される。見掛けタッピング比容積とは,充填した容器を一定高さより一定速度で繰り返し落下させるなどして粒子同士の隙間がそれ以上自重で詰まらないところまで密充填(タップ充填)した状態における比容積である(争いのない事実)


見掛けタッピング比容積の測定方法に係る本件明細書の記載
本件明細書には,前記2⑴イの記載につづけて,以下の記載がある。7)見掛けタッピング比容積市販粉体物性測定機(ホソカワミクロン製,パウダーテスターT-R型)を用い,100㎤カップに粉体を充填し,180回タッピングした後,カップの体積を,カップに充填されて残る粉体層の重量で除して求めた。(【0033】)


PT-RとPT-X
PT-Rはホソカワミクロン株式会社が平成10年4月から平成17年3月まで販売していた粉体特性評価装置であり,PT-Xは同社が平成23年6月から販売するPT-Rの後継機である(甲26,乙20)。PT-
Xは,PT-Rを全面的に改良し,測定の精度,安定性,操作性が向上さ
れている(乙20)


原告による測定結果
株式会社東洋環境分析センターが,平成30年2月,原告の依頼により,宮崎県食品開発センターが保有するPT-Rを用いて,前記イの記載に従って,同じロットナンバーの被告製品2について,3回測定した結果
によれば,被告製品2(1ロット)の見掛けタッピング比容積は,いずれも2.4㎤/g(2.45㎤/g,2.46㎤/g,2.46㎤/g)であった(甲20の1,20の2)


被告による測定結果
株式会社住化分析センターが,平成30年2月,被告の依頼により,PT-Xを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナンバーが異なる5つの被告製品についてそれぞれ1回ずつ測定した結果によれば,被告製品2(製造時期の異なる5ロット)の見掛けタッピング比容積は2.2~2.3㎤/g(2つの製品について2.2㎤/g,
3つの製品について2.3㎤/g)であった(乙11)

被告が,平成30年10月頃,宮崎食品開発センターが保有するPT-Rを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナンバーが異なる5つの被告製品2について,それぞれ3回ずつ測定した結果によれば,その見掛けタッピング比容積は2.2~2.3㎤/g(3つの製品について3回とも2.3㎤/g,1つの製品について2.2㎤/g,2.2㎤/g,2.3㎤/g)
,1つの製品について,2.2㎤/

g,2.3㎤/g,2.3㎤/g)であった(乙34)



本件明細書の特許請求の範囲には見掛けタッピング比容積の測定方法は記載されていないが,発明の詳細な説明には,前記⑴イのとおり,実施例・比較例における見掛けタッピング比容積はPT-Rを用いて測定された値であ
る旨の記載がある。
原告は,PT-Rを用いて測定した結果(前記⑴エ)によれば,被告製品2の見掛けタッピング比容積は2.4㎤/gであるから,構成要件1F及び2Fをいずれも充足すると主張する。

て測定した結果によれば,製造時期の異なる5ロットの被告製品2につき,いずれも見掛けタッピング比容積が2.4㎤/gに達していなかった。その実験の信用性が否定されることを裏付ける客観的な証拠はない。上記のとおり,5ロットという複数の被告製品2について,それぞれ3回ずつ検査した結果,いずれも見かけタッピング比容積が構成要件1F・2Fの下限である
2.4㎤/gに達していなかったというのであるから,被告製品2は構成要
定対象,測定方法による測定結果に照らして,原告の同エの測定結果によって被告製品2の見掛けタッピング比容積が2.4㎤/gであることを認めるに足りない。
4争点3(被告方法は構成要件3E(セルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程)を充足するか)について


原告は,被告方法が噴霧乾燥工程を含むと主張し,その根拠として,被告各製品の顕微鏡写真においては概球形の二次粒子が見られること,一般的な結晶セルロースは噴霧乾燥によって得られることを挙げ,これらを裏付けるものであるとして証拠(甲7,乙24)を挙げる。
しかしながら,証拠(乙24,40,41)によれば,概球形の二次粒子
は必ずしも噴霧乾燥のみによって生じるものではないこと,結晶セルロースの製造方法には噴霧乾燥の他にも回転乾燥機や気流乾燥機等を使用する方法があることが認められる。そして,上記の他に,被告方法が噴霧乾燥工程を含むことをうかがわせる証拠の提出はなく,他方,被告は,公証人が被告方法は噴霧乾燥でないことを確認した旨の公正証書(乙15)
,被告各製品の製

造に使用されている乾燥機の販売業者が同乾燥機の乾燥方法は噴霧乾燥ではないことを述べる陳述書(乙35)を提出している
これらによれば,被告方法が噴霧乾燥工程を含んでいることを認めるには足りない。
したがって,被告方法が構成要件3Eを充足するとは認められない。


原告は,被告が使用している具体的方法の説明を拒むという態度から被告方法が噴霧乾燥工程を含んでいることが推認されると主張する。
しかし,乾燥工程に係る被告方法の具体的内容が被告の営業秘密に該当するところ,原告が提出等する証拠は被告方法が噴霧乾燥工程を含むことを直ちにうかがわせるものとはいえない一方,被告方法が噴霧乾燥工程を含むも
のではないことに関する証拠が提出されているのであり,これらによれば,原告の上記主張には理由がない。


したがって,被告方法が構成要件3Eを充足するとは認められない。
5小括
以上によれば,被告製品1は構成要件1B及び2Bを充足する。
また,被告製品1は微結晶セルロースと称して販売されているところ,微結晶セルロースとは綿セルロースあるいは漂白木材セルロースを希酸で部分的に加水分解して得るセルロース粉末であると認められるから(甲3の1ないし3の3,6,12)
,被告製品1は天然セルロース質物質の加水分解によって
得られたセルロース粉末であり,天然セルロース質物質の加水分解によって得られたセルロース粉末の有する特性等を有することは明らかであるから,構成要件1A及び2Aを充足する。
また,前記2⑷のとおり,被告製品1の平均重合度は323であり,また被告製品1を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定したレベルオフ重合度は180と認められるから(甲6)
,平均重合度とレ

ベルオフ重合度の差分は143であり,構成要件1H及び2Hを充足する。また,PT-R(測定間隔3°)で計測した被告製品1の安息角は50°と認められるから(甲6,37,38)
,構成要件1G・2Gを充足する。
被告製品1が本件発明1及び2のその余の構成要件を充足することは,当事者間に争いがない(第3回弁論準備期日調書)

そうすると,被告製品1は,本件発明1及び2の技術的範囲に属すると認め
られる。
一方,被告製品2は,構成要件1F及び2Fを充足しないから,本件発明1及び2の技術的範囲に属するとは認められない。
また,被告方法は,構成要件3Eを充足しないから,本件発明3の技術的範囲に属するとは認められない。
6争点4-1(実施可能要件違反)について
前記5に照らし,本件発明1及び2について検討する。


レベルオフ重合度に係る実施可能要件違反について
本件発明1及び2の特許請求の範囲は,いずれも,
該平均重合度(判決注:セルロース粉末の平均重合度)が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いとの記載を含む。本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており,その後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。【0015】イ
被告は,本件明細書の上記記載に照らせば,本件差分要件にいうレベルオフ重合度とは,加水分解時間を延長しても低下せず一定となる重合度を
意味するところ,優先日当時の技術常識に鑑みれば,本件明細書に記載された本件加水分解条件でセルロースを加水分解した後でも重合度は低下し続けるから,加水分解時間を延長しても重合度が低下しないという本件明細書におけるレベルオフ重合度は測定できず,本件各発明には実施可能要件違反の無効理由があると主張する。

しかし,本件発明1及び2の特許請求の範囲には,
該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度と記載されている。また本件明細書の発明の詳細な説明にも

本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。(

【0015】)と記載され
ている。
これらの記載に照らせば,本件発明1及び2におけるレベルオフ重合度は,セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸という本件加水分解条件で加水分解したときに測定される重合度であると特定されているということが相当である。そして,当業者は,このように特定された本件加水分解条件で加水分解を行ってこの重合度(平均重合度)を測定することがで
きる。被告の上記主張は採用することができない。
また,被告は,レベルオフ重合度の概念には本来的に数値的な幅があるとし,一定の値として特定することはできないとも主張する。しかし,本件発明1及び2にいうレベルオフ重合度は,2.5N塩酸,沸騰温度で15分間加水分解するという本件加水分解条件の下で加水分解されたときに
測定される重合度(平均重合度)であり,特定の値を測定することができるものといえる。被告の上記主張には理由がない。


平均重合度350超の測定に係る実施可能要件違反について
本件発明1及び2の特許請求の範囲には,平均重合度が150~450の
セルロース粉末(本件発明1)
,230~450のセルロース粉末(本件発明
2)が記載されているところ,被告は,本件測定方法が妥当する平均重合度の範囲は350以下であるから,平均重合度350超の数値範囲(350~450)の測定条件について,本件発明1及び2を実施できる程度に十分な説明が記載されていない旨主張する。

しかし,前記2のとおり,十三薬局法の記載は直ちに350を超える平均重合度を測定することができないことを意味するものではないし,当業者は,

第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験⑶に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値。(

【0032】)との本件明細
書の記載を,本件測定方法のうち試料濃度を適宜変更する測定方法を含むも
のと理解し,これにより本件測定方法を用いて平均重合度350を超えるセルロース粉末の平均重合度を測定することができたと認められるから,被告の上記主張には理由がない。


安息角や平均粒子径の制御に係る実施可能要件違反について
被告は,本件発明1及び2につき,本件明細書の発明の詳細な説明には,安息角及び平均粒子径を所望の数値範囲に制御する方法について記載されて
いないから,当業者は,発明の実施にあたって無数のものを製造し,逐一その数値を確認するという過度の試行錯誤を強いられることになると主張する。
安息角とは粉体の流動性を表す指標であり,水平な面に粉体を落下させて堆積させてできる山の稜線と水平な面のなす角度を測定する。流動性が高い
粉体であれば安息角は小さい値を示し,流動性が低い粉体であれば安息角は大きい値を示す(甲38,弁論の全趣旨)
。また平均粒子径とは,粒子の大き
さに関する指標であり,平均粒子径を算出する場合には,粒子をふるい分けることにより,ある大きさの粒子が占める重量割合(重量%)の分布を得た上,これに基づき平均粒子径を得るという方法が用いられる(弁論の全趣
旨)

そして,前記1⑴のとおり,①本件明細書【0005】には

特公昭56-2047号公報には(中略)安息角が35-42°である結晶セルロースが記載されている。

との記載があること,②【0006】には特開平6-316535号公報には,セルロース質物質を酸加水分解又はアルカリ酸化分解して得られる・・・実質的に355μm以上の粒子がなく平均粒径が30-120μmである結晶セルロースについての記載がある。との記載があり,
【0007】には特開平6-316535号公報には,セルロース質物質を酸加水分解又はアルカリ酸化分解して得られる・・・実質的に355μm以上の粒子がなく平均粒径が30-120μmである結晶セルロースについての記載がある。との記載があること,③優先日前に頒布された公刊物である乙30公報には,
見掛け比容積が4.0~6.0㎤/g、見掛けタッピング比容積が2.4㎤/g以上、比表面積が20m2/g未満であり、実質的に355μm以上の粒子が無く、平均粒径が30~120μmであることを特徴とする請求項1あるいは2の高成形性賦形剤。(請求項3)が開示されていることが認められる。
これらによれば,優先日当時,既に安息角及び平均粒子径の値を一定の範
囲に制御することによって特定の物性のセルロースを得る発明が複数存在した。このことによっても,当業者は,安息角及び平均粒子径の各数値を所望の範囲に制御することができたと認めるのが相当である。
したがって,本件発明1及び2を実施するに当たり,当業者が過度の試行錯誤を強いられるとは認められず,被告の上記主張には理由がない。


以上によれば,本件発明1及び2に係る特許について実施可能要件に違反するとは認められない。

7争点4-2(サポート要件違反)について
前記5に照らし,本件発明1及び2について検討する。
本件差分要件に係るサポート要件違反について

被告は,発明の詳細な説明において本件各発明の実施例には,原料パルプのレベルオフ重合度のみが記載され,本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は記載されていないことを指摘した上で,一定の処理によりセルロースのレベルオフ重合度が変化するとの技術常識を前提とすれば,当業者は原料パルプと本件セルロース粉末のレベルオフ重合度が同一で
あるとは理解できず,本件各発明は発明の詳細な説明に記載されているとは認められないと主張する。

本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
本発明のセルロース粉末は,その平均重合度が150~450,好ましくは200~450,さらに好ましくは230~450である必要がある。平均重合度が150未満だと成形性が不足するので好ましくなく,また450を超えると繊維性が強く現れるため粉体の流動性及び崩壊性が低下するので好ましくない。平均重合度が230~450の場合は成形性,崩壊性,流動性のバランスが特に優れるので好ましい。また平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ましい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(INDUSTIAL・・・(判決注:BATTISTA論文),そ)の後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。【0015】レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めておく必要があるかということについては,5~300程度であることが好ましい。さらに好ましくは10~250程度である。5未満では粒子L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好ましくない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって好ましくない。【0016】
実施例1(参考例)~実施例7について,以下の記載がある。また,
それらで得られたセルロース粉末A~Gの物性(重合度,乾燥前粒子L/D等の各測定値)及び各セルロース粉末を圧縮して得られた円形柱状成形体の物性(降伏圧等の各測定値)は,
【表1】
(本判決別紙一覧表)
のとおりである。他の実施例も,これらのセルロース粉末A~Gを用いている。
実施例1(参考例)市販SPパルプ(重合度1030、レベルオフ重合度は220)2kgを細断し、4N塩酸水溶液30L中に入れ、低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製、30LGL反応器、翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度10rpm)しながら、60℃、72時間加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し、ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し、アンモニア水で中和後、90Lのポリバケツに入れ純水を加え、スリーワンモーター(HEIDON製、タイプ1200G、8M/M、翼径約5cm)で攪拌(攪拌速度100rpm)しながら濃度10%のセルロース分散液とした(pH;6.7、IC;45μS/cm)。これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温度180~220℃、出口温度50~70℃)してセルロース粉末A(乾燥減量3.5%)を得た。(後略)【0039】実施例2パルプを市販SPパルプ(重合度790、レベルオフ重合度は220),加水分解条件を4N,40℃、48時間、セルロース分散液濃度を8%,pHを6.0、ICを35μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末B(乾燥減量4.2%)を得た。・・・)実施例3反応中の攪拌速度を5rpm、セルロース分散液濃度を12%(この時の攪拌速度50rpm)、pHを6.5、ICを40μS/cm、とする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末C(乾燥減量3.8%)を得た。・・・

実施例4セルロース分散液濃度を16%、pHを6.9、ICを65μS/cmとする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末D(乾燥減量3.2%)を得た。・・・

【0040】
実施例5加水分解条件を3N塩酸水溶液、40℃、40時間、セルロース分散液濃度を8%、pHを6.3、ICを38μS/cmとする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末E(乾燥減量4.0%)を得た。・・・
実施例6パルプを市販SPパルプ(重合度870、レベルオフ重合度は220)、加水分解条件を3N塩酸水溶液、40℃、24時間、反応中の攪拌速度を15rpm、セルロース分散液濃度を8%、pHを5.7,ICを30μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末Fを得た。・・・
実施例7加水分解条件を3N塩酸水溶液、40℃、20時間、反応中の攪拌速度を20rpm、セルロース分散液濃度を6%、pHを7.1,ICを180μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末Gを得た。・・・【0041】

特許請求の範囲には,当該セルロース粉末について,その平均重合度が本件加水分解条件で加水分解後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いという本件差分要件が記載されている。
本件明細書の発明の詳細な説明には,セルロース粉末について,その重合度とレベルオフ重合度の差が5未満では粒子L/Dを特定範囲に制御す
ることが困難となり成型形が低下して好ましくなく,300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって好ましくないと記載されている。しかし,それらの数値に基づく上記の効果等について具体的な例がなくとも当業者が理解することができたことを認めるに足りる証拠はない。そこで,本件明細書の発明の詳細な説明において,特許請求の範囲に記載
された上記範囲内であれば所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体的な例が開示して記載されているかを検討する。
ここで,特許請求の範囲には,セルロース

について,その平均重

合度とレベルオフ重合度との差についての本件差分要件が記載されている。ところが,本件明細書の実施例には,原料パルプのレベルオフ重合度は記載されており,また,それを加水分解して得られた粉末セルロースの
平均重合度は記載されているが,当該セルロース粉末のレベルオフ重合度は記載されていない。また,上記原料パルプのレベルオフ重合度とセルロース粉末のレベルオフ重合度の関係も明示的には記載されていない。そうすると,発明の詳細の説明には,実施例のセルロース粉末について,その平均重合度とレベルオフ重合度との差は明示的には記載されていないこと
となる。
この点について,原告は,当業者は,原料パルプのレベルオフ重合度と本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解することができるから,本件明細書には,本件セルロース粉末について,その平均重合度とレベルオフ重合度との差も記載されているのに等しいと主張す
る。

セルロース粉末やレベルオフ重合度について,優先日頃までの文献及びその頃の技術常識等に触れる文献等として,以下のものがある。
岩波理化学辞典「セルロース第3版
(昭和46年発行。甲9)

・・・セルロース繊維は,ミセル状の構造をもち,セ

ルロース分子が一定の排列をした結晶部分と,乱雑に集合した非結晶部分とから成り,両者の適当な配合により繊維に強度,易撓性,弾力性,染色性,吸湿性などが生ずるものと考えられている。
・・・希酸と煮沸
すれば加水分解されてついにはD-グルコースとなるが,この分解は他の多糖類に比べて容易でない。

A編セルロースの科学
(平成15年発行。甲12)
セルロース試料・・・微結晶セルロースは,綿セルロースあるいは漂白木材セルロースを希酸で部分的に加水分解して重合度を低下させ,同時にセルロース純度を上げて,後処理で粉体化した試料で,食品,医薬錠剤などとして利用されている。また,
セルロース試料の種類と特徴の表には,綿由来の微結晶セル
ロース粉末について結晶化度が85%,重合度が200~300,針葉樹材由来の微結晶セルロース粉末について,結晶化度80%,重合度200~300と記載されている。
十三薬局方
(平成8年4月発行。甲11)

結晶セルロース本品は繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを鉱酸で部分的に解重合し,精製したものである。

BATTISTA論文(昭和25年。乙23)
温和な条件(5.0N塩酸,5℃,18℃,40℃)及び過酷な条件(2.5N及び5.0N塩酸,沸騰)で加水分解を行い,セルロースの代表的なサンプル10種の重量減少と重合度における時間の影響の包括的な研究を行った。・・・酸加水分解後に測定した(残渣の重量に基づく)結晶化度(%)とレベルオフ重合度は,加水分解の条件,すなわち,温和な条件,過酷な条件,あるいは温和な条件の後に引き続き行う過酷な条件,に依存することを示す。この文献に記載された器具と組み合わせた際の,重量減少又は相対結晶化度とレベルオフ重合度を測定するための最過酷適条件として,2.5N塩酸,105℃,15分の条件を推奨する。比較的最近になって,再生セルロースの不均一相加水分解が顕著に注目されている。・・・セルロース繊維の分子鎖構造を特徴づけるための化学的方法として酸加水分解が,Nickerson及び後のNickersonとHabrleによる一連の論文を通じて開発された。・・・原料サンプルに存在する非晶性物質が徐々に酸可溶性の最終生成物に変化し,耐酸性の結晶成分が残渣となることが当時提唱された。・・・BattistaとCoppickは,セルロース微細構造の化学的特徴づけのためのより温和な加水分解条件(5N塩酸,18℃)の使用を提案しており,長時間の温和な条件での酸加水分解では,ほとんどの天然セルロース構造の基本重合度は,再生セルロース構造(40-80)の場合よりも高い値(225-275)で安定化する傾向にあること,及び,マーセル化セルロース構造は(75-125)の間のどこかの基本重合度の範囲で安定化する傾向にあることを彼らは示した。X線データに基づき,比較的温和な加水分解では,セルロース鎖の分割と同時にセルロース鎖の結晶化を引き起こすかもしれないとIngersollは提唱した。・・・Howsmonは,セルロース微細構造を特徴づけるための物理的方法と化学的方法を比較し,セルロース鎖の付加的な結晶化が加水分解で起こるという理由で,加水分解方法がセルロースの結晶化度を高めることを提唱した。Brenner,Frilette,及びMarkは,加水分解したセルロースに行った比容積と密度の測定に基づいて同様の結論に達した。より最近,加水分解時の結晶性の変化を観測するための改良されたX線技術を使用して,HermansとWeidingerは,再生セルロースでは,少なくともセルロースの結晶化は,酸加水分解によるセルロース鎖の分割と同時に起こるという考えを裏付けるデータを得た。
今回の研究では,天然セルロースと再生セルロースの両微細構造の加水分解に対する,時間,温度,及び酸濃度などの変数の効果を研究している。・・・重量減少と重合度のデータの組合せを用いて,加水分解を伴う結晶化のメカニズムが2つの相互依存プロセス-加水分解と結晶化-により制御されることを論証する。温和な加水分解条件は,1,4-グルコシド結合が比較的緩やかに分割する間に,より長く,酸溶解性が低い結晶性物質の形成を促進することを,データに基づいて提唱する。レベルオフ重合度。天然セルロース(精製綿)及び再生セルロース(ビスコースタイヤヤーン),それぞれに対する2.50N塩酸,沸騰の加水分解条件の時間依存の重合度の変化を表Ⅱ(判決注:判決別紙表1)に示し,図5にプロットする。これに関連して,かなり長時間温和な条件で加水分解した後,またはかなり短時間過酷な条件で加水分解した後に到達する比較的一定の重合度を称するために,「限界重合度の代わりにレベルオフ重合度という用語を使用することを著者は好む。もし,セルロースが十分に加水分解されたなら,真の限界重合度である1まで減少するはずである。
加水分解による結晶化度(%)
。図4および5から認識する特に重要な
ことは,
(1)かなり一定の値に見える基本重合度にどの程度の速さで到
達するのか,
・・・これらのデータに基づいて,加水分解の重量減少-即
ち,加水分解による残渣の結晶化度(%)-とレベルオフ重合度の両方を測定する最適条件として,2.5N塩酸,沸騰温度,15分の加水分
解条件を基準とする。

表Ⅳ(判決注:判決別紙表2)のデータは,(1)温和な加水分解(5N塩酸,18℃)(2)過酷な加水分解(2.5N塩酸,10,5℃),そして(3)温和な加水分解の後に引き続き行う過酷な加水分解(5N塩酸,18℃に続いて2.50N塩酸,105℃)に曝したレーヨングレードの木材パルプの重量損失と重合度のデータを示す。(判決注:表Ⅳ(判決別紙表2)には,木材パルプを本件加水分解条件(2.5N塩酸,沸騰温度,15分)で加水分解したときの重合度が290であるのに対し,木材パルプを5N塩酸,18℃で24時間から44週間加水分解した後,2,5N塩酸,沸騰温度で加水分解したときの重合度
が188~198であったことが示されている。

表Ⅳ,Ⅴ及びⅥに示すデータは,セルロースの温和な加水分解は,ほとんど或いは全く重量減少を伴わない結晶化を誘導することを示しているようである。

温和な加水分解条件及び過酷な加水分解条件でのセルロース微細構造の加水分解に対し提唱されたメカニズムの模式図を図6(判決注:判決別紙図面)に表す。セルロース微細構造の酸分解のこの図は,この文献で記載した重合度と重量減少の全てのデータを説明可能である。加水分解条件が比較的温和であるときは,図6のA部で図示したメカニズムが適用されると考えられる。この条件下では,アクセシブルなセルロース鎖のごくわずかな1,4-グルコシド結合が単位時間あたりに分割する。これにより,結晶成長が可能となり,そして,更なるセルロース鎖の分割が起こる前に,微細構造の非晶質領域のセルロース鎖のより長いセグメントが「結晶化し得,次第にアクセシビリティに乏しい微細構造となる。
しかしながら,加水分解条件が過酷であるときは,図6のB部で図示
したメカニズムがよりふさわしい。これらの条件では,1,4-グルコシド結合の分割がきわめて速く起こるので,極めて短いセグメントのセルロース鎖しか実質的には結晶化されない。言い換えると,過酷な加水分解により,比較的小さく,塩酸溶解性のより高いセルロース部分が形成される。
・・・さらに,図6のA部に図示されたメカニズムに従って加水

分解された微細構造が,続いて図6のB部に提案したメカニズムを支持する過酷な加水分解条件に付されるなら,A部に図示したメカニズムだけに従った場合や,B図に図示したメカニズムに直接従った場合より,水和セルロース残渣の平均基本レベルオフ重合度と重量減少が低下すると予想し得る。過酷な加水分解単独(PartB)では,残渣の平均基本重
合度を下げるよう作用するであろう極めて短鎖フラグメントが除かれ,過酷な加水分解単独の場合の重合度が高くなるはずであるし,一方,温和な加水分解条件の後に続いて過酷な加水分解条件を行う場合,結晶化された短いセルロース鎖の材料は残渣に保持され,平均基本重合度を下げる傾向にある。

松崎啓ミクロクリスタリンセルロース
(昭和40年4月。乙24)
酸の水素イオンは非結晶領域にまず侵入して非結晶領域中のセルロース分子を切断崩壊させるが,結晶領域内には水分子,または和水した水素イオンは侵入できず,結晶領域はその表面より徐々に侵されるにすぎない。したがって,ある時間後には非結晶領域は完全に加水分解されて溶解し,結晶領域がその表面より徐々に侵されていく過程のみとなるので,結晶領域の分解曲線を時間0に外挿して結晶領域を求める方法が試みられた。しかし,この方法によって得られる結晶領域量が,他の方法による値に比して高いことから,非晶領域中のセルロース分子が切断により分子運動が自由になって再結晶化し,結晶領域が増すことが多くの研究者により明らかにされた。・・・ビスコースレーヨンでは,原試料に対し加水分解前の結晶領域量は39%であるが,加水分解30分で49.5%に上昇し,以後一定値を保つ。すなわち,約10%が再結晶化したことを示している。・・・加水分解におけるセルロースの再結晶化現象は,IngersollのX線的研究,Markによる比重の測定によっても明らかにされている。また,再結晶化は加水分解条件によりかなり変化する。一般に,穏やかな条件で加水分解すると再結晶化量は大きくなる。第2表に,Mellerが種々のセルロースを,種々の温度で加水分解して結晶領域量を求めた結果を示したが,低温ほど,再結晶化量が大きいため,結晶領域量が大きくなっている。Battistaら(判決注:Battistaらによる昭和22年の論文)は,加水分解における重量減少を追跡する代わりに,重合度を追跡してセルロースの微細構造を研究した。加水分解条件として5NHCL,18℃という非常に温和な条件を用い,平均重合度800の木綿リンターを加水分解すると,加水分解初期に重合度は急激に低下し,重合度250~350に至ってその低下が非常にゆるやかになる。この重合度をレベルオフ重合度(level-offdegreeofpolymerization)と名付けた。・・・Battistaら(判決注:BATTISTA論文及び昭和31年にBattistaらが発表した論文)はその後,2.5NHCLで105℃,15分加水分解する方法でレベルオフ重合度を求め,第3表に示すような結果を得ている。Aセルロースの材料科学
(平成13年2月発行。甲39)
酸加水分解処理で残存しているセルロースの重合度は酸加水分解初期に急激に200-300に低下し,その後は重量減少が続いても変化しない。この一定になる重合度をレベルオフ重合度といい,高等植物由来の綿セルロース,木材セルロース,麻のセルロース等では常に観察される現象である(図1.9)。
同書のセルロースの希酸加水分解による処理時間と収率,重合度の変化を示すグラフには,酸加水分解時間がおおよそ30分まで重合度が直線的に減少し,おおよそ30分経過後から,250付近の重合度で一定の値をとる図が記載されている。なお,同図には具体的な加水分解の条件の記載はない。
A作成の意見書
(令和元年5月22日付け。乙55)


レベルオフ重合度は1950年代には提唱されていた概念であり,かつてはセルロースの結晶構造を推知するための指標の一つとして利用されていたこともある概念である。しかし,1950年代当時から前提となる試料の酸分解条件により値が異なることは広く知られているところであり,酸分解の回数や時間等の条件が異なれば,いわゆるレベルオフ重合度として報告される値は異なって測定されることとなる。また,粘度法により測定された重合度を評価に用いる際には,粘度分析の測定誤差についても考慮する必要がある。そのため,木材由来のセルロースのレベルオフ重合度は,約200~300といったように,種々の報告値の平均をとった値として示されていることが多い。実際に,絶対分子量測定が可能な,最新の分析方法である多角度光散乱検出器付のサイズ排除クロマトグラフィー法により,針葉樹漂白クラフトパルプを,1M硫酸中で,4時間,105℃の条件で酸加水分解後の分子量分布を測定すると,重合度は30から3000の広範囲に及ぶ(本方法で得られる重量平均重合度は384,数平均重合度は71,一方,粘度法による平均重合度は230;添付の・・・(判決注:平成30年の論文)原料パルプを「2.5N塩酸,15分,沸騰温度という条件で酸

分解を行った場合の平均重合度をレベルオフ重合度として,該セルロース粉末を同条件で酸分解を行った場合のレベルオフ重合度と比較した場合,仮に1990年代頃の技術的知見に基づいて考えたとしても,両者の値は同じにならず,該セルロース粉末の方がより低いレベルオフ重合度が測定されるのではないかと予想される。その理由は,1990年代
においても現在同様,
2.5N塩酸,沸騰温度という酸分解条件で
いわゆるレベルオフするためには2時間程度の酸分解時間を要すると一般的に考えられており,15分という酸分解時間では非晶領域はまだ完全に解重合されておらず,実際にレベルオフするまでに圧倒的に時間が不足していると考えられるからである。そのため,該セルロース粉末を
生成する過程において事前に酸分解を行っていることに照らせば,原料パルプよりも該セルロース粉末の方がより多く酸加水分解されていると考えられるから,
2.5N塩酸,15分,沸騰温度という条件で測
定した場合には,該セルロース粉末の方がより低い測定値を示す可能性が高いと一般的に推測されることになる。



優先日当時,セルロース繊維は,セルロース分子が一定の規則的な配列をした結晶領域と,乱雑に集合した非結晶領域とから成ること,結晶セルロースは原料パルプを鉱酸で部分的に解重合し,非結晶領域を除去して生成されるものであることは技術常識であったと認められる(前記
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,
セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており・・・,その後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。との記載があり,また,セルロースの重合度が酸加水分解初期に急激に200-300に低下し,その後は重量減少が続いても変化しない重合度であるレベルオフ重合度となることを述べる優先日の少し後の文献(前記エ
)もあった。
もっとも,レベルオフ重合度は,加水分解の条件に依存することが指は複数のものが提唱等されて

Acidhydrolysisof
cellulosicfibres:Comparisonofbleachedkraftpulp,dissolvingpulpsandcottontextilecellulose」
(乙25)には,2gのサンプルを100
ml,4M塩酸,80℃で2時間又は4時間加水分解してレベルオフ重合度を求めたことが記載されている。また,前記エ

には,少なくと

も,現在,2.5N塩酸,沸騰温度でいわゆるレベルオフするためには2時間程度が必要であると考えられていることが記載されている。,それらにより値が異なることがあり得ることがうかがえる。ま)

がある一方,レベルオフ重合度について,
比較的一定の重合度低下,TA論文は別紙表1等を記載し,精製綿(天然セルロース)を2.5N塩酸,沸騰温度で加水分解したときの平均重合度について,15分(本件加水分解条件)で242,20分で233,30分で230であったとする。)があった。本件発明1及び2は,前記のとおり,2.5N塩酸,15分,沸騰温度という具体的な本件加水分解条件で測定された重合度(平均重合度)をレベルオフ重合度とするものである(そのような具体的な本件加水分解条件で測定されることを前提として実施可能要件を充足する。。した)がって,本件では,本件加水分解条件という具体的な条件で加水分解された後に測定されるレベルオフ重合度について,優先日当時,当業者が,技術常識に基づいて,発明の詳細な説明に記載された原料パルプのレベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題となるといえる(なお,本件加水分解条件は,レベルオフ重合度を求めるものとして,当該酸濃度温度条件では比較的短時間といえる時間の加水分解を定めたものであることがうかがえる。。)ここで,優先日当時,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合度について,天然セルロースとそれを加水分解して生成されたセルロース粉末とが同じレベルオフ重合度となることを直接的に述べた文献があったことを認めるに足りる証拠はない。他方,本件明細書においてレベルオフ重合度の説明において現に引用されている文献であり,種々の対象について本件加水分解条件を含む条件で加水分解をした上で本件加水分解条件(2.5N塩酸,沸騰温度,15分)を提唱したBATTISTA論文は,①木材パプルについて,温和な加水分解条件での加水分解を経た後に2.5N塩酸,沸騰という過酷な条件で加水分解した重合度と,温和な加水分解条件での加水分解を経ずに2.5N塩酸,沸騰温度という条件で加水分解した重合度を実際に測定して,前者の値が後者の値より低かったこと,②セルロースを加水分解した際には結晶化がされるという他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,上記①等の実験結果は温和な加水分解は重量減少を伴わない結晶化を誘導することを示しているようであること,③温和な加水分解や過酷な加水分解で起こるメカニズムを提唱した上で,温和な加水分解を経た後に過酷な加水分解がされた場合には結晶化された短いセルロース鎖の残渣が保持されるため,温和な加水分解を経ずに過酷な加水分解がされた場合よりもレベルオフ重合度が低下すると予想されることなどを述べていた。なお,セルロースの加水分解において再結晶化が起こることは他の文献でも紹発明の詳細な説明の実施例2ないし7のセルロース粉末は,前記のとおり,原料パルプを4N塩酸,40℃,48時間という条件,3N塩酸,40℃,40時間という条件,3N塩酸,40℃,24時間という条件などで加水分解したものであり,天然セルロースを温和な条件で加水分解したものといえる。前記のとおり,本件では本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が問題となるところ,本件加水分解条件を提唱し,本件明細書でも引用しているBATTISTA論文は,上記のとおり,他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度については,温和な加水分解を経た場合にはその過程を経ていないものに比べて,値が低下することが予想されると述べていた。その内容とは異なり,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合度について,天然セルロースと,それを温和な条件で加水分解して生成されたセルロース粉末とが同じレベルオフ重合度であるという技術常識があったことを認めるに足りる証拠はない。に述べられるレベルオフ重合度は本件加水分解条件により測定されたものではないし,同文献の著者は,優先日頃においても,著者が考える「レベルオフするためには本件加水分解条件の時間では足りないと考えられていた旨述べる(同




また,本件明細書に記載された実施例のセルロース粉末は,原料パルプを加水分解した後,攪拌,噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温度180~220℃、出口温度50~70℃)して得られたものである。当該セルロース粉末の本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度の明示的な記載が明細書にない以上は,上記加水分解,攪拌,噴霧乾燥の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条件下でのレ
ベルオフ重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識がある場合に,当該セルロース粉末のレベルオフ重合度が本件明細書に記載されているに等しいといえる。上記の加水分解,攪拌や噴霧乾燥を経たセルロース粉末の本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度が原料パルプのそれとの関係でどのような値になるかについての技術常識を認めるに
足りる証拠はない。
これらを考慮すれば,優先日当時,当業者が,本件明細書に記載された原料パルプのレベルオフ重合度とそこから加水分解して生成されたセルロース粉末の本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が同じであると認識したと認めることはできない。また,発明の詳細な説明の実施例
は,具体的な原料パルプから明細書記載の特定の条件の加水分解,攪拌,噴霧乾燥を経て得られたセルロース粉末である。当業者が,優先日当時,技術常識に基づいて,記載されている当該原料パルプのレベルオフ重合度に基づいて,上記具体的な条件で得られたセルロース粉末について,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度の値を認識することが
できたとも認められない。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,セルロース粉末について,本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度の記載があるのに等しいとは認められない。

原告は,非晶質領域が分解されて結晶領域のみが残った状態に達したときの重合度であるレベルオフ重合度は,途中に原料パルプから本件セルロ
ース粉末という加水分解過程を経ると否とに関わらず同じ値となるのであり,当業者であれば,原料パルプとそこから温和な加水分解によって得られる本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解することができる旨主張し,また,BATTISTA論文における上記実験結果における温和な加水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプ
からセルロース粉末を生成する温和な加水分解の条件と同じものではないことを指摘する。
しかし,本件においては具体的な本件加水分解条件による加水分解がされたセルロースの重合度(平均重合度)が問題となる。本件加水分解条件を提唱し,発明の詳細な説明でも引用されるBATTISTA論文が,本
件加水分解条件によるレベルオフ重合度について前記のように述べていたところ,優先日当時,そこに記載されているのと異なる内容の技術常識があったことを認めるに足りる証拠はない。また,BATTISTA論文は,セルロースを加水分解した際には結晶化がされるという他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,前記の予想をしているのであり,そ
こに記載されているのと異なる技術常識があったことを認めるに足りる証拠がない本件で,BATTISTA論文においてされた実験での温和な加水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプから粉末セルロースを作成する加水分解の条件と全く同じものではないことは上記の結論を直ちに左右するものではない。

なお,原告は,実験をした結果,原料パルプを本件加水分解条件で加水分解したときの平均重合度と,当該原料パルプを実施例2と同じ加水分解条件で加水分解して得たセルロース粉末を本件加水分解条件で加水分解したときの平均重合度は実質的に同じであったとして,平成30年8月頃に測定された結果を記載した平成31年3月20日付け報告書(甲56の1)を提出し,また,上記でセルロース粉末を得る際の写真やセルロース粉末を得た際に80℃の熱風を当てる工程を含む24時間の乾燥処理をし
たことなどが記載された同年4月9日付け報告書(甲57)を提出する。しかし,本件では,優先日当時,本件明細書に記載された加水分解,攪拌,噴霧乾燥の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条件下での重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識の存否が問題となるところ,上記時点の上記実験結果によって同技術常識を認める
ことはできない。

以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるところ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの
本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく,また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しいとはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された
本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえない。
以上によれば,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから,特
許法36条6項1号に違反する。
8争点4-3(本件各発明に係る特許は明確性要件に違反してされたものか)について
前記5に照らし,本件発明1及び2について検討する。


PBPクレームに関する明確性要件違反について

被告は,本件発明1及び2は天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末という要件(構成要件1A及び2A)によって特定されているところ,この要件はセルロース粉末に係る物の発明をその物の製造方法で特定した,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)であり,本件発明1及び2は,明確性要件に違反すると主張する。

本件発明1及び2の構成要件1A・2Aは天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であってというものであり,特許請求の範囲に記載されたセルロース粉末は,
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるものであることが記載されている。甲13は,遅くとも平成9年頃までに作成された,海外企業が製造す
るセルロースを販売する代理店が作成したパンフレットである。そこには,医薬品及び健食錠剤の生産の用途におけるセルロースは,結晶セルロースと粉末セルロースの2種類に大別できること,粉末セルロースは乾式プロセスで機械的に粉砕された高純度のセルロースであり,結晶セルロースは酸を使った加工処理及び湿式プロセスで機械的に粉砕された
ものであることが記載されている。
平成8年4月には第十三改正日本薬局方条文と注釈が発行されて
いるところ,十三薬局方は,
結晶セルロースとの項目を設けて,結晶
セルロースについて

繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを鉱酸で部分的に解重合し,精製したものである。

と記載し,粉末セルロースとの項目を設けて,粉末セルロースについて

繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを機械的に分解し,精製したものである。

と記載し,結晶セルロースについて

粉末セルロースと比較して,水への分散・安定性にすぐれるほか,結晶化度,重合度,純度などの点でも著しい違いがあり,この特性から広範な用途が見いだされている。

と説明している(甲11)。
なお,第十四改正日本薬局方,第十五改正日本薬局方,第十六改正日本薬局方,第十七改正日本薬局方では,粉末セルロースについて,繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを,必要に応じて,部分的加水分解などの処理を行った後,精製し,機械的に粉砕したものと記載されている(乙9の1ないし4)


本件明細書には,
従来セルロース粉末としては結晶セルロース,粉末セルロースが知られており,医薬,食品,工業用途で使用されてきた。特公昭40-26274号公報には平均重合度が15~375,見掛け比容積が1.84~8.92㎤/g,粒度が300μm以下の結晶セルロースが記載されている。また特公昭56-2047号公報には平均重合度が60~375,見掛け比容積が1.6~3.1㎤/g,見掛け密比容積が1.40㎤/g以上,200メッシュ以上が2~80重量%であり,安息角が35~42°である結晶セルロースが記載されている。またDE2921496号公報には流動可能な非繊維性,水不溶性のセルロース粉末としてセルロース物質を酸加水分解し,固形分濃度を30~40重量%とし,次いで140~150℃で棚段乾燥することによって平均重合度150のセルロース粉末を製造するという記載がある。さらにはRU2050362号公報には粉末セルロースの安定なゲル生成を目的として,セルロースを含む原料に鉱酸又は酸性塩の溶液を含浸させて,高温で加水分解を行うと同時に原料層を10~1000s-1の剪断速度で1~10分間攪拌することにより平均重合度が400以下の粉末セルロースを得るという方法について記載がある。との記載がある(
【0005】。


上記イによれば,当業者には,原料パルプから医薬分野等で使用されるセルロースを得るに当たっては,原料パルプを機械的に粉砕するという工程を経てセルロースを得ることのほか,加水分解の工程を経てセルロースを得ることが知られていた。そして,十三薬局方や本件明細書等において
加水分解に特段の説明が付されていないことからすれば,本件特許の優先日当時,加水分解は,当業者にとってセルロースの一般的な製造方法であったと認められるのであり,かつ,構成要件1A・2Aには加水分解の工程に関して,条件その他の特別な限定はない。
加水分解の工程を経たことによって得られたセルロース自体は既に広く
知られていたものといえ,そのようなセルロースについて,機械的に粉砕されて得られたセルロースとは特性等において異なるなど,その一般的な特性等についても知られていたと認められる。これらを考慮すると,天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末との記載に接した当業者は,そこに記載されているセルロース粉末の特性等を理解
することができたといえる。そうすると,そのセルロース粉末について不明確なところはない。被告の上記主張には理由がない。


パラメータに関する明確性要件違反について

被告は,本件特許パラメータには,当業者において慣用されているとはいえないパラメータ又はパラメータ自体は当業者に用いられることがある
としても,測定方法や測定条件によって測定値が大きく異なり得るものが含まれているにもかかわらず,実施例及び比較例における各物性の測定方法の記載は不十分である上に,これらのパラメータの測定方法が実施例記載のものに限定されるとは記載されていないから,本件各発明のパラメータの意義は不明確であると主張する。


本件特許パラメータのうち,平均重合度,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)
,平均粒子径,見掛けタッピング比容積,見掛け比容積
及び安息角については,本件明細書に従来技術として挙げられた特許公報(
【0005】~【0008】
)及び優先日前に頒布された公刊物である乙
29公報記載の各発明においても用いられており,本件特許の優先日当時,粉体の特性を特定するために一般的に用いられるパラメータであった
と認められる。また,本件明細書において,これらのいずれのパラメータに関して,測定方法が明らかにされている(平均重合度につき【0032】
,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)につき【0032】
,平均粒子径につき【0034】
,見掛けタッピング比容積につき【0
033】
,見掛け比容積につき【0033】
,安息角につき【0033】。


本件差分要件は一般的なパラメータであるとは認められないが,特許請求の範囲に該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いと特定されているから,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは評価できない。

したがって,被告の上記主張には理由がない。


小括
以上によれば,本件発明1及び2は明確であるといえ,特許法36条6項2号の違反があるとは認められない。

9争点4-4(本件各発明は乙29発明により新規性又は進歩性を欠くか)について
前記5に照らし,本件発明1及び2が乙29発明により新規性又は進歩性を欠くかについて検討する。


新規性について

乙29公報には次の記載がある。
特許請求の範囲
セルロース質物質を酸加水分解あるいはアルカリ酸化分解して得られる平均重合度100~375の白色粉末状結晶セルロースであり,その酢酸保持率が280%以上で,かつ,下記⑴式(判決注:粉体の加圧による体積の変化を表した「川北の式と呼ばれる実験式)の圧縮特性を有することを特徴とする高成形性賦形剤。(請求項1)

見掛け比容積が4.0~6.0㎤/g,見掛けタッピング比容積が2.4㎤/g以上,比表面積が20㎡/g未満であり,実質的に355μm以上の粒子が無く,平均粒径が30~120μmであることを特徴とする請求項1あるいは2の高成形性賦形剤。(請求項3)
発明の属する技術分野
本発明は,圧縮成形用の賦形剤に関する。特に医薬品分野における錠剤の賦形剤に関する。より詳細には,本発明は,結晶セルロースの粉体物性を制御し,成形性と崩壊性のバランスが良い圧縮成形用の賦形剤に関する。【0001】
従来の技術
ところで,多くの粉体原料は圧縮しても成形しないために,圧縮成形性をもつ賦形剤を配合する必要がある。そして錠剤に所望の強度を付与するためには,賦形剤の配合量,および圧縮成形力を適宜決定することが必要である。通常,賦形剤配合量を増すほど,また,圧縮成形力を上げるほど錠剤強度は高くなる。【0003】しかしながら,錠剤中の主剤(粉体原料)の配合量を多くしたい場合,例えば医薬品分野における小型錠の製造の場合などには,賦形剤の配合量を著しく制限されてしまうし,また,過剰な圧縮成形力は圧縮成形機(打錠機)に負担を掛け,部品の消耗を早める事になるので好ましくなく,さらにはフィルムコーティングを施した顆粒と賦形剤を混合し,打錠して錠剤(このような錠剤を顆粒含有錠という)を得る場合,あるいは酵素や抗生物質を錠剤化する場合には,フィルムの損傷や酵素,抗生物質の変質を防ぐために,より低い圧縮成形力で成形する必要が生じる。そのために賦形剤はより少量で,より高い圧縮成形性を示すことが要求される。【0004】従来,このような目的に使用される賦形剤としては結晶セルロースが知られている。結晶セルロースは安全性が高く,高い圧縮成形性を有し,さらに崩壊性が良いことから医薬品分野において広く使用されている賦形剤の一つである。(後略)【0005】

しかしながら,これらの中でより成形性の高いものは崩壊性も悪いという欠点を有する。(後略)【0007】

発明が解決しようとする課題
以上のように,従来の結晶セルロースあるいはセルロース粉末は,成形性が高ければ崩壊性が悪く,また,崩壊性が良い場合は成形性が低いという欠点を有しており,これらの性質のバランスがとれた賦形剤は知られていなかった。前述の通り,医薬品分野において使用される賦形剤は成形性が高く,かつ崩壊性が良いというものである必要がある。【0009】
課題を解決するための手段

本発明者はこうした現状に鑑み,結晶セルロースの粉体物性を制御し,成形性と崩壊性のバランスをとることを鋭意検討した結果,本発明に到達したものである。【0010】

発明の詳細な説明
本発明でいう結晶セルロースとは,精製木材パルプ,竹パルプ,コットンリンター,ラミーなどのセルロース質物質を酸加水分解,あるいはアルカリ酸化分解して得られるものであって,平均重合度は100~375,好ましくは180~220の白色粉末状の物質である。この物質は特定の重合度を有するために,セルロース粉末の中でも特に高い成形性を有するものであるが,その平均重合度は100~375の範囲である必要がある。平均重合度が100未満だと成形性が不足するので好ましくなく,また,375を超えると繊維性が現れるため,粉体としての流動性が低下するので好ましくない。平均重合度が180~220の場合は特に成形性と崩壊性のバランスが良好なので好ましい。【0016】
こうして得られた粉体は必要に応じて粉砕,篩分などを行い,粒度分布を調整して使用に供する。本発明の高成形性賦形剤は,篩分法によって粒度分布を測定する場合,実質的に355μmの目開きの篩にとどまる留分は無く,累積50重量%の粒度で表される平均粒径は30~120μmであることが,特に40~100μmであることが好ましい。【0030】さらに,本発明の高成形性賦形剤は見掛け比容積が4.0~6.0㎤/g,好ましくは4.5~5.0㎤/g,見掛けタッピング比容積が2.4㎤/g以上,好ましくは1.5㎤/g以上の結晶セルロースであることが好ましい。見掛け比容積が4.0㎤/g未満であると成形性が低下し,6.0㎤/gを超えると粉体の流動性が低下するので好ましくない。見掛けタッピング比容積が2.4㎤/g未満であると,錠剤が圧密化されて崩壊性が悪化するので好ましくない。見掛けタッピング比容積の上限は見掛け比容積の値より自動的に6.0㎤/gと決められるが,この値以下であれば特に支障ない。【0032】実施例
(実施例1)市販DPパルプを細断し,10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過,洗浄,pH調整,濃度調整を行い,固形分濃度17%,pH6.4,電気伝導度120μS/cmのセルロース粒子水分散体を得た。これをドラム乾燥機(楠木機械製作所(株)製,KDD-1型,スチーム圧力3.5kgf/㎠,ドラム表面温度136℃,ドラム回転速度2rpm,溜め部水分散体温度100℃)で乾燥後,ハンマーミルで粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,試料Aを得た。試料Aの基礎物性を表1に示す。【0051】発明の効果
本発明の高成形性賦形剤によると,該賦形剤は圧縮成形性に優れるので,錠剤の成形に適用した場合に少量の配合で成形が可能なので,小型錠やかぜ薬のような賦形剤の配合に制限があるような場合に有用である。また,該賦形剤は低い圧縮力で成形が可能であるから,顆粒含有錠のような高い圧縮力を避けなければならない場合にも有用である。さらに,該賦形剤は同時に崩壊性に優れるので,特に崩壊剤を配合することなく錠剤を製すること可能である。【0084】イ
前記アの記載によれば,乙29発明は圧縮成形用の賦形剤として用いられる結晶セルロースに関する発明であり,乙29公報には,成形性と崩壊性のバランスのとれた結晶セルロースとして,以下の物性を有する発明が記載されているといえる。
平均重合度100~375,見掛け比容積が4.0~6.0㎤/g,見掛けタッピング比容積が2.4㎤/g以上,比表面積が20㎡/g未満で
あり,実質的に355μm以上の粒子が無く,平均粒径が30~120μmであり,その酢酸保持率が280%以上で,かつ,定数a及びbが夫々0.85~0.90,0.05~0.10の川北の式で表される圧縮特性を有する結晶セルロース。

上記イの乙29発明と本件発明1及び2は,以下の点で相違し,その余の点で一致する。
相違点1

本件発明1及び2は,
75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0~4.5であるのに対し,乙29発明は,この点について記載がなく不明であること。

相違点2

本件発明1及び2は,セルロース粉末の安息角が54°以下で
あるのに対し,乙29発明は,この点について記載がなく不

明であること。
相違点3

本件発明1及び2は,セルロース粉末における平均重合度が,該セルロース粉末を2.5N塩酸,15分煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いのに対し,乙29発明にはレベルオフ重
合度の記載がなく,平均重合度とレベルオフ重合度の差分が
不明であること。

これに対し,被告は,乙29公報には相違点1ないし3に係る本件発明1及び2の構成についても内在的に開示されているから相違点は存在しな
いと主張する。そして,乙29公報における実施例1のセルロース粉末は本件明細書における比較例1のセルロース粉末に相当するところ,本件明細書の比較例1のセルローズ粉末が75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)の値が2.3であることから(本件明細書【0057】,相違)
点1に係る本件発明1及び2の構成が乙29公報に記載されているといえ
ること,本件明細書の比較例1のセルローズ粉末の安息角が56°であり平均粒径が47μmであるところ(本件明細書【0057】,このことと)
技術常識から相違点2に係る本件発明1及び2の構成が乙29公報に内在的に記載されているといえること,本件明細書の比較例1のセルロース粉末が平均重合度220,原料パルプのレベルオフ重合度220)であると
ころ(本件明細書【0042】,乙29公報における実施例1のセルロー)
ス粉末のレベルオフ重合度は原料パルプのレベルオフ重合度(220)より顕著に低下した205以下となるから,相違点3に係る本件発明1及び2の構成である本件差分要件(差分15~219)が乙29公報に記載されているといえることを主張する。
しかし乙29公報には,乙29公報の実施例1のセルロース粉末について,相違点1ないし3に係る本件発明1及び2の構成を有することについ
ての記載はなく,その記載がないにも関わらず,技術常識等から,乙29公報に接した当業者において,乙29公報に相違点1ないし3に係る本件発明1及び2の構成を有することが記載されているのに等しいと認めるに足りる証拠もない。相違点3に係る本件発明1及び2に係る構成について,乙29公報には,平均重合度の記載はあるが,本件発明1及び2にい
うレベルオフ重合度についての記載や平均重合度とそのレベルオフ重合度の差分に着目した記載は全く存在しないのであり,乙29公報に,本件発明1及び2でいうレベルオフ重合度の数値や本件差分要件が記載されているに等しいということはできない。被告の上記主張は採用することはできない。


以上によれば,本件発明1及び2と乙29発明との間には,前記ウの相違点1ないし3が存在する。本件発明1及び2と乙29発明は同一であるとはいえない。
したがって,新規性欠如をいう被告の上記主張には理由がない。



進歩性について

存在する。

そして,本件特許の優先日当時,相違点3に係る本件発明1及び2の構成を当業者において容易に想到し得たと認めるに足りる証拠はない。そう
すると,相違点1及び2について判断するまでもなく,当業者が本件発明1及び2を容易に発明することができたとはいえない。



したがって,進歩性欠如をいう被告の主張には理由がない。

小括
以上によれば,本件発明1及び2について新規性又は進歩性が欠如するとは認められない。

第4結論
以上によれば,被告製品2は本件発明1及び2の技術的範囲に属さず,被告方法は本件発明3の技術的範囲に属さず,本件発明1及び2に係る特許は特許法36条6項1号に違反し,特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123条1項4号)
,原告は,同法104条の3第1項により,本件発明1

及び2に係る特許権を行使することはできない。
よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官


裁判官


裁判官

古田岡義美明香子川善敬
(別紙)
物件目録
1被告製品1

NPミクロースW-200M

2被告製品2

NPミクロースW-400M

(別紙)
方法目録
以下の工程からなる,セルロース粉末の製造方法
a:天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより,
b:平均重合度が150~450
c:湿潤状態の平均L/Dが3.0~5.5
d:であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程,
e:得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程,
f:を含むセルロース粉末であり,
g:該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とする
h:セルロース粉末の製造方法。

(別紙)
一覧表(本件明細書【表1】


(別紙)

1(BATTISTA論文[表Ⅱ]


加水分解時間に伴う定量的重量減少データ
(2.5N塩酸、沸騰温度)
精製綿

タイヤヤーン

%

%

加水分解

基本
水和セルロース

基本
水和セルロース

時間(分)

重合度
残渣

重合度
残渣

参照

92.01

78.5

91.42

73.1

91.03

70.9

90.05

61.5

89.79

53.6

(別紙)

2(BATTISTA論文[表Ⅳ]


(別紙)

面(BATTISTA論文[図6]


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