判例検索β > 令和1年(わ)第593号
傷害、窃盗
事件番号令和1(わ)593
事件名傷害,窃盗
裁判年月日令和2年2月4日
裁判所名・部福岡地方裁判所  小倉支部  第2刑事部
裁判日:西暦2020-02-04
情報公開日2020-06-04 22:27:48
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文
被告人を懲役7年に処する
未決勾留日数中220日をその刑に算入する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,
第1

A,B,C,D,E及びFと共謀の上,平成24年8月10日午前2時30分頃,北九州市(以下省略)駐車場において,前記Cが,Gに対し,持っていたアイスピック様のもので同人の左大腿部を1回突き刺し,よって,同人に加療約7日間を要する左大腿部刺創の傷害を負わせ

第2
1
Hと共謀の上,
平成25年12月6日午後1時32分頃,福岡県遠賀郡(以下省略)路上において,同所に駐車中のI所有に係る軽四輪乗用自動車1台(時価約50万円相当)を窃取し

2
平成26年4月25日,福岡県遠賀郡(以下省略)駐車場において,同所に駐車中のJ介所有に係る軽四輪乗用自動車1台(時価約30万円相当)を窃取した

ものである。
【事実認定の補足説明】
1
判示第2の各窃盗の事実について,弁護人は,被告人の供述に即して,被告人が判示各窃盗に関与していない旨主張するので,当裁判所が判示のとおり認定した理由を補足して説明する。

2
共犯者であるHは,いずれも被告人の指示を受けて窃盗行為に及んだ旨供述している。
H供述の信用性について検討すると,Hは,被告人がKの幹部であり,本件で盗んだ車両がKにおいて組織的に行った犯罪に使用されたと認識しているのである。そのような中,本件が被告人の指示により行われた旨の虚偽供述をすると,K側の報復等無用の後難を招くばかりであり,Hが被告人の関与について虚偽供述をする動機はない。また,Hは,自ら実行行為に及んだことを認め有罪判決を受けており,自己の刑事責任を回避しようとする姿勢は見受けられない。
供述内容をみると,詳細については曖昧なところはあるものの,被告人から指示を受けた内容,受領金額,犯行状況,犯行後の状況について供述するところは相応に明確であり,客観的証拠と齟齬をきたしたり,それ自体不自然不合理と思われるところはない。
Hは,被告人の関与を否定したり,供述を回避したりしたこともあったが,報復を恐れて逡巡したという供述内容は理解できるところであり,Hの供述経過にその信用性を損なうような事情はない。
これに対し,弁護人は,被告人からの指示状況が不合理である,Hには虚偽供述の動機がある,報酬を受領した場面の供述内容に臨場感・合理性がない,客観的な裏付けがないことなどを指摘し,H供述は信用できないと主張する。しかしながら,盗難車を用意するようにという指示内容が不合理とはいえない。また,受領した金額や被告人が使用していた財布の形状に関する供述内容が曖昧ではあるものの,時間の経過とともに記憶が曖昧になったりそもそもの記憶が明確ではなかったりしてもやむを得ない部分であって,このことが被告人の関与に関するH供述の信用性に影響するとはいえない。さらに,Hに虚偽供述の動機がないことは前述したとおりである。そして,指示そのものに関して客観的な裏付けがないことがH供述の信用性を損なうともいえない。以上によると,H供述は信用できる。これを否定する被告人供述は信用できない。
3
そうすると,被告人は,Hに本件犯行を指示して実行させたと認められるから,本件の故意及び共謀は優に認められる。
よって,判示第2のとおり認定した。
【量刑の理由】
1
本件は,K傘下の暴力団組長であった被告人が,ほかの組長や組員らと共謀の上,飲食店を統括していた被害者に対し,同店が暴力団立入禁止標章を掲示したことを理由に,アイスピック様のものでその左大腿部を刺して傷害を負わせたという事案(判示第1),被告人が共犯者に指示をして自動車2台を盗んだという事案(判示第2)である。

2
判示第1の事実についてみると,同標章を掲示した店舗関係者に危害を加えて標章掲示をやめさせ,Kに対する恐怖心をあおるために行われた犯行であり,その反社会的な動機は強く非難されなければならない。
犯行態様をみると,被害者の行動を確認し,下見をして犯行計画を立て,実行犯のほか,被害者が退店したことの連絡,実行犯の送迎,証拠品の処分等,それぞれが役割を分担して手際よく行われている。組織性,計画性は顕著であり,かなり悪質である。
被害者の傷害自体も刺創であって軽微とはいえない上,恐怖を感じて引越しを余儀なくされるなど,被害者の精神的苦痛には大きなものがある。また,本件は,Kが一般市民を標的とした犯行であって,厳正な対応が求められる。
被告人は,ほかの暴力団組長から協力を求められると,これに応じ,それぞれが配下の組員に指示をして本件犯行に至っているのであって,主犯としての責任を免れない。

3
判示第2の各事実についてみると,本件の動機,経緯等は必ずしも明らかではないが,特に酌むべき事情は見当たらない。また,その財産的被害は自動車2台(時価合計約80万円相当)に及んでいるところ,被害弁償も行われておらず,本件による結果には大きなものがある。被告人は,共犯者に指示をして本件各犯行を実行させており,本件の主犯としての責任を免れない。4
被告人は,暴力団関係の事件で長期の服役を経験していながら,本件犯行に至っていることも看過しがたい。
以上によると,被告人の刑事責任は重い。
そうすると,判示第1の事実については,真相解明に貢献しているわけではないが,当公判廷に至って公訴事実そのものは認めるに至ったこと,前述したように本件は社会的な影響を与えることを意図して行われた犯行であり,一定の限度はあるものの,被害者との間では82万円を支払って示談が成立し,被害者の処罰感情が和らいでいること,被告人が今後暴力団とは関わらない旨供述していることなど,被告人のために酌むことのできる事情を十分に考慮しても,主文の刑はやむを得ないものと判断した。
よって,主文のとおり判決する。

(求刑・懲役9年)
令和2年2月4日
福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部
裁判官

鈴嶋晋一
トップに戻る

saiban.in