判例検索β > 令和1年(わ)第237号
過失運転致死傷、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反、脅迫、強要未遂被告事件
事件番号令和1(わ)237
事件名過失運転致死傷,ストーカー行為等の規制等に関する法律違反,脅迫,強要未遂被告事件
裁判年月日令和2年2月17日
裁判所名・部大津地方裁判所
裁判日:西暦2020-02-17
情報公開日2020-03-30 16:00:25
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主文
被告人を禁錮4年6月に処する
未決勾留日数中20日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

令和元年5月8日午前10時14分頃,普通乗用自動車を運転し,大津市ab丁目c番d号先の信号機により交通整理が行われている交差点を同市e方面から同市fg丁目方面に向けて右折進行するに当たり,対向直進車両の有無に留意し,その安全を確認しながら右折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,対向直進車両の有無に留意せず,その安全を確認しないまま漫然時速約10kmで右折進行した過失により,折から青色信号に従って対向直進してきたB運転の普通乗用自動車を至近距離に迫って発見し,急制動の措置を講じたが間に合わず,前記Bに自車との衝突を回避するため左転把させるとともに,前記B運転車両の右前側部に自車右前部を衝突させて,同人運転車両を左前方に暴走させ,同車左前方の歩道上で信号待ちをしていたC(当時2歳)及びD(当時2歳)ほか14名の保育園児等の列に突入させ,同人らに同車を衝突させるなどし,前記Cを心破裂により即死させ,前記Dに大動脈破裂等の傷害を負わせ,同日午前11時56分頃,同市hi丁目j番k号E病院において,同人を同傷害により死亡させたほか,別表1(添付省略)記載のとおり,Fら14名にそれぞれ傷害を負わせた。
第2

Aに対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で

1
別表2(添付省略)記載のとおり,令和元年8月27日午後9時44
分頃から同日午後10時25分頃までの間,10回にわたり,滋賀県内又はその周辺において,携帯電話機のアプリケーションソフトLINEを使用して,Aが使用する携帯電話機に対し,悪になる晒す
全てなどと記載したメッセージを送信し,いずれもその頃,Aにこれを閲覧させ,もってAの名誉等に危害を加える旨告知して脅迫するとともに,著しく粗野又は乱暴な言動をし
2
同年9月2日午後8時4分頃,同県内において,携帯電話機を使用して,Aの勤務先であるGに電話をかけ,同日午後8時6分頃,応対のため電話をかけ直してきたAに対し,

こんなに好きやのに。苦しい。処分がないようにちゃんと言っておくからLINEを繋げて。2ちゃんねるに写真をあげたらどうするの。写真は消さへんよ。2人で話したい。

などと申し向け,さらに,同月5日午前10時21分頃,同県内において,携帯電話機を使用して,上記勤務先に電話をかけ,応対に出たAに対し,

弁護士に言っていいの。写真もLINEも全部見せることになるよ。電話番号を教えて下さい。

などと申し向け,それぞれ自己との連絡を継続するように要求し,その要求に応じなければ,Aの名誉等に危害を加えるかもしれない気勢を示して脅迫し,Aに義務のないことを行わせようとしたが,Aが応じなかったため,その目的を遂げず
もってAの身体の安全,住居等の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により,つきまとい等を反復して行い,ストーカー行為をした。

(法令の適用)
1




判示第1の行為について
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条本文(被害者ごとに)



判示第2の行為について

1及び2のうち,ストーカー行為の点
ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下,ストーカー行為等規制法という。)18条,2条1項3号,4号,2条3項

1のうち,脅迫の点
刑法222条1項


2のうち,強要未遂の点
刑法223条1項,3項

2
科刑上一罪の処理


判示第1について
刑法54条1項前段,10条(被告人の行為は,1個の行為が16個の罪名に触れる場合であるところ,各過失運転致死罪は各過失運転致傷罪よりも犯情が重く,各過失運転致死罪は被害者ごとの犯情に軽重をつけることができないから,いずれの過失運転致死罪かを特定することなく,1罪として過失運転致死罪の刑で処断)



判示第2について
刑法54条1項前段,10条(1のストーカー行為と脅迫,2のストーカー行為と強要未遂は,いずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,1及び2のストーカー行為は単純一罪であるから,結局以上を1罪として最も重い強要未遂罪の刑で処断)

3刑種の選
択(判示第1の罪について)

禁錮刑を選択(後記のとおり,被告人の過失は基本的な注意義務の懈怠を内容とする重大なものではあるものの,酒酔い,無免許,著しい速度違反などの無謀運転に起因して事故を惹起した事案のように故意事犯に比肩するほどの高度の社会的非難に値するとまではいえず,この種事案につき懲役刑が選択刑に加えられた際の立法経緯やそれを踏
まえた同種事案における量刑の運用に照らし,禁錮刑を選択するのが相当である。)
4
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(重い過失運転致死罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)

5
未決勾留日数の算入

刑法21条

6
訴訟費用の処理

刑事訴訟法181条1項本文(負担)

(量刑の理由)
1
過失運転致死傷事件について
被告人は,信号機により交通整理が行われている交差点を右折するに際し,
視界を遮るものはなく,前方を見てさえいれば,青色信号表示に従って進路前方に迫っている対向直進車両の存在に気付くことは容易であったにもかかわらず,衝突直前まで対向直進車両に全く気付かず,漫然と右折進行をして本件事故を惹起した。交差点を右折するに際し対向直進車両の有無に留意し,安全確認をした上で右折進行するという,自動車運転者としての最も基本的な注意義務の1つを完全に怠った被告人の過失の程度は重大である。また,本件事故により,2名の保育園児の命が失われ,11名の保育園児と3名の保育士の合計14名が傷害を負った。その傷害内容等をみても,うち1名の保育園児は加療期間不明で意識障害等の重い後遺症を伴う重篤な傷害を,その他10名の保育園児は骨折やくも膜下出血等を伴う,最長で全治約4か月間を要する傷害を負うなどしたもので,その程度も重い。本件事故の結果は極めて重大である。
被害者らは,道路から十分に距離をとった歩道上で隊列を組んで信号待ちをする中,本件被害に遭ったもので,保育園児らはもとより,引率していた保育士らにも何らの落ち度もない。にもかかわらず,2名の保育園児は,突如として幼い命と未来を奪われたものであり,その無念さはいかばかりかと
思われ,その遺族らの心痛は察するに余りある。傷害を負った保育園児や保育士らがそれぞれ心身に被った苦痛も大きい。当公判廷における意見陳述等からも明らかなとおり,死亡した保育園児の遺族らを始めとする被害関係者らは一様に強い被害感情を抱いており,被告人の厳罰を求めるのも当然である。
なお,弁護人は,対向直進車両の運転者の過失や衝突防止柵の不存在等の事情も量刑上考慮されるべきである旨主張する。しかし,仮に対向直進車両の運転者に過失が認められる余地があるとしても,前記のような本件事故直前の現場交差点の交通状況等に照らせば,弁護人も認めるとおり,対向直進車両の有無を確認せずに右折進行した被告人の過失が対向直進車両の運転者よりも圧倒的に重いことは明らかであり,被告人の過失に関する前記評価を左右するものではない。また,被告人の本件運転行為は,周辺の走行車両や歩行者の死傷結果を惹起する危険性が高く,本件事故は,まさに,その危険性が現実化したものであるというべきであり,弁護人の指摘する事情は,被告人の刑事責任を軽減するものとはいえない。
本件の過失及び結果がともに重大であるとの犯情に鑑みると,本件は,同種の過失運転致死傷事件の中でも相当に重い部類の事案であるというべきであり,同事件のみの刑事責任の重さだけからしても,被告人は相当期間の実刑を免れない。
2
ストーカー行為等規制法違反等事件について
被告人は,判示第1の過失運転致死傷事件が起訴されて保釈された後,ネ
ット上で交際していたAから別れを切り出されると,関係の継続を狙って判示第2の1の脅迫等に及び,それに屈しないAに対し,勤務先にまで電話する策を弄して同第2の2の強要未遂等に及んだ。Aの勤務先を巻き込んだ犯行態様は悪質であり,本件事故からわずか4か月ほどの過失運転致死傷事件の公判係属中に判示第2の犯行に及んだことも踏まえると,被告人はその意
思決定について強い非難を免れない。
なお,弁護人は,Aの行動にも問題があり,同人の側にも多分に落ち度がある旨主張する。しかし,被告人とAとはいわゆる出会い系サイトを通じて知り合い,互いに好意を募らせて,ネット上で交際する関係にあったものである。仮に,被告人が主張し,弁護人も指摘するようなAの行動があったとしても,それは上記交際継続中のものであって,本件ストーカー行為等を誘発するようなものでないことはもとより,これに関する被告人の刑事責任を減少させるようなものともいえない。道徳的な評価はともかく,Aに落ち度があるとの弁護人の主張は採用できない。
3
その他の事情について
他方,過失運転致死傷事件については,被告人運転車両に付された対人賠
償額無制限の任意保険により,今後,死亡した保育園児の遺族を始めとする被害関係者らに対し,適正な金額での賠償がなされることが見込まれる。被害関係者らの意見陳述等においても指摘されているとおり,被告人は未だ自らの過ちの重大さに十分に向き合えておらず,その内省は深まっていないといわざるを得ないものの,公訴事実を認め,被告人なりの反省の弁を述べるとともに,運転免許証を返納した上,公判廷において,今後は自動車を運転しない旨誓約している。
被告人の兄が遠路広島から出廷し,被告人の2人の子とも連絡を取り合いながら,被告人の立ち直りを支えたい旨述べている。被告人には,前科前歴もない。
これらは,被告人のために一定程度酌むことのできる事情である。4
結論
そこで,以上を踏まえて,被告人の量刑を検討すると,本件各犯行の犯情,
とりわけ判示第1の過失運転致死傷事件の犯情の重さに照らし,被告人のために酌むことのできる諸事情も併せ考慮すると,前記のとおり禁錮刑を選択
した上,主文掲記の刑に処するのが相当である。
(求刑-禁錮5年6月)
令和2年2月17日
大津地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

大西直樹
裁判官

髙橋孝治
裁判官

進藤諭
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