判例検索β > 平成29年(ワ)第451号
謝罪広告等請求事件
事件番号平成29(ワ)451
事件名謝罪広告等請求事件
裁判年月日令和元年12月10日
裁判所名・部京都地方裁判所  第3民事部
結果棄却
裁判日:西暦2019-12-10
情報公開日2020-06-04 22:31:00
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平成29年(ワ)第451号

謝罪広告等請求事件(第1事件)

平成29年(ワ)第453号

謝罪広告等請求事件(第2事件)

平成29年(ワ)第3008号

損害賠償請求事件(第3事件)

主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
第1事件,第2事件
被告ダイヤモンド社は,被告ダイヤモンド社が提供するインターネットウェブサイトDIAMOND

ONLINE内の記事(http://diamond.jp/

articles/-/117642)を削除せよ。
被告ダイヤモンド社,被告a及び被告bは,連帯して,被告ダイヤモンド社の発行する週刊ダイヤモンドに別紙謝罪広告文案記載の謝罪広告を,見出し及び被告ダイヤモンド社の社名は3号活字をもって,その他は4号活字をもって1回掲載せよ。
被告ダイヤモンド社,被告a及び被告bは,連帯して,被告ダイヤモンド社が提供するインターネットウェブサイトのトップページ

(http://dw.diamond.ne.jp/)に,別紙謝罪広告文案記載の謝罪広告を,見出し及び被告ダイヤモンド社の社名は3号活字をもって,その他は4号活字をもって掲載開始の日から1年間掲載せよ。
被告ダイヤモンド社,被告a及び被告bは,原告京山に対し,各自1100万円及びこれに対する平成29年2月13日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。(第1事件)
被告ダイヤモンド社,被告a及び被告bは,原告JA京都中央会に対し,各自1100万円及びこれに対する平成29年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(第2事件)
被告ダイヤモンド社,被告a及び被告bは,原告JA全農に対し,各自1100万円及びこれに対する平成29年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(第2事件)

被告ダイヤモンド社,被告a及び被告bは,原告JA京都に対し,各自1100万円及びこれに対する平成29年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(第2事件)
2
第3事件
被告ダイヤモンド社,被告a,被告b,被告c及び被告dは,原告京山に対
し,各自6億4560万6745円並びにこれに対する被告ダイヤモンド社,被告a,被告b及び被告cは平成29年2月10日から,被告dは同年11月10日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2
1
事案の概要等
事案の概要
本件は,米の販売会社である原告京山,原告JA京都中央会,原告JA全農及び原告JA京都(以下,原告京山を除く原告らを併せて原告JA京都中央会らという。)が,被告ダイヤモンド社の発行する週刊誌である週刊ダイヤモンド(以下,単に週刊ダイヤモンドという。)第105巻7号(平
成29年2月13日発売)に掲載された告発スクープ売りも産地偽装疑惑に投げJAグループの深い闇と題する別紙記事(以下本件記事とい
う。)及び被告ダイヤモンド社が提供するウェブサイトDIAMOND
ON

LINE(以下ダイヤモンドオンラインという。)に掲載された本件記事と同旨の記事(以下本件ウェブ記事といい,本件記事と併せて本件各記事という。)について,本件各記事が,①原告京山が自らの販売する米に意図的に中国産米を混入したという事実,②原告JA京都中央会らが原告京山の株主としての立場等でこれに関与したという事実を摘示し,原告らの名誉を棄損したと主張して,
原告らが,被告ダイヤモンド社に対し,民法723条に基づき,本件ウェブ記事の削除並びに週刊ダイヤモンド及びダイヤモンドオンラインへの謝罪広告の掲載を求め(第1事件,第2事件),

原告らが,被告ダイヤモンド社並びに本件各記事を執筆した記者である被告a及び被告bに対し,不法行為(民法709条,同法710条及び同法715条)に基づく損害賠償として,各原告につきそれぞれ1100万円(慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円)及び上記各金員に対する平成29年2月13日(上記週刊誌発行日)から各支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め(第1事件,第2事件),原告京山が,被告らに対し,被告a,被告b,編集長であった被告c及び被告ダイヤモンド社について不法行為(民法709条,同法710条及び同法715条)に基づき,被告ダイヤモンド社の取締役である被告dについて会社法429条1項に基づき,損害賠償として6億4560万6745円
(逸失利益5億4442万9581円,調査費用4317万7164円及び弁護士費用5800万円)及びこれに対する被告dを除く被告らについては平成29年2月13日から,被告dについては同年11月10日(訴状送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める(第3事件)

事案である。
2
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。
当事者等


原告ら原告京山は,米穀の売買,搗精,加工等を目的とする株式会社である。原告JA京都中央会は,組合員の組織事業及び経営の指導等を目的とする法人であり,原告JA全農は,会員又は会員の組合員の農業の経営及び技術の向上に関する指導等を事業の目的とする法人である。原告JA京都は,組合員のためにする農業の経営及び技術の向上に関する指導
等を事業の目的とする法人である。
原告JA全農の京都府本部は,平成29年3月31日時点で,原告京山の発行済株式総数(60万株)のうち約14.8%(8万9000株)を保有していた。原告JA京都中央会は,平成28年頃までは原告京山の株式のうち約35.5%(21万3080株)を保有していたが,そ
の頃,JAグループ京都の関連会社に対して同株式を譲り渡した。(甲15,23,乙11,証人e)

被告ら
被告ダイヤモンド社は,日刊新聞,雑誌及び通信の販売等を目的とする株式会社であり,週刊ダイヤモンドを発行している。被告dは,被告
ダイヤモンド社の代表取締役である。
被告c,被告a及び被告bは,平成29年2月当時,被告ダイヤモンド社の従業員であった。被告cは週刊ダイヤモンドの編集長,被告aは本件記事のデスクであり,被告bは,本件各記事の執筆者である。ウ
株式会社同位体研究所(以下同位体研究所という。)
同位体研究所は,食品の産地判別等を事業として行う株式会社である。被告bは,平成29年1月頃,同位体研究所に米6種(No1産コシヒカリ,No2しひかり,No4かり及びNo6京都丹後こしひかり,No3滋賀こしひかり,No5福井県京都丹波こ新潟県魚沼産こしひ新潟県産こしひかり)を送付し,これらについて,
炭素,窒素,酸素,水素の安定同位体比値の多変量解析による産地判別分析を依頼した。安定同位体比による産地分析とは,検体の組織中の元素の安定同位体(質量が異なる元素)の比を調べることにより,検体の産地を判別する手法である。
同位体研究所は,平成29年1月26日頃,被告b
の産地

分析の結果を記載した報告書(乙35(枝番含む。以下同じ)。以下本件報告書という。)を郵送で送付し,同月27日,被告bはこれを受領した。本件報告書には,概要以下の記載があった。

No1福井県産コシヒカリについて

判別得点

-1.46

判別

国産<0

外国産>0

国産

判別精度

92.8%

本検体10粒検査にて10粒が国産と判別された。

No2京都丹後こしひかりについて

判別得点

-1.94

判別

国産<0

外国産>0

国産/外国産

判別精度

92.8%

本検体10粒検査にて7粒が国産と判別され,3粒が中国産と判別された。

京都丹波こしひかり」について

判別得点

No3-0.30判別国産<0外国産>0国産判別精度92.8%本検体10粒検査にて10粒が国産と判別された。エ「No4滋賀こしひかり

について
判別得点

0.44

判別

国産<0

外国産外国産>0

判別精度

92.8%

本検体10粒検査にて4粒が国産と判別され,6粒が中国産と判別された。

新潟県魚沼産こしひかり」について

判別得点

No5-0.49判別国産<0外国産>0国産/外国産判別精度92.8%本検体10粒検査にて6粒が国産と判別され,4粒が中国産と判別された。本検体の安定同位体比値は,魚沼産コシヒカリの安定同位体比値群と合致せず,他府県産である可能性が高い。カ「No6新潟県産こしひかりについて
判別得点

-1.47

判別

外国産>0

国産

判別精度
国産<0

92.8%

本検体10粒検査にて10粒が国産と判別された。
被告bは,『JAのコメ』に産地偽装の疑い,魚沼産に中国産混入と題した本件ウェブ記事を執筆し,被告ダイヤモンド社は,平成29年2月10日,ダイヤモンドオンラインにこれを掲載した(甲2,弁論の全趣旨)。被告bは,本件記事を執筆し,被告ダイヤモンド社は,平成29年2月1
3日,本件記事が掲載された週刊ダイヤモンド第105巻7号を発行し,販売した。
本件記事の内容は,概略,次のとおり(本件ウェブ記事の内容も概ね同旨)である。なお,記事中の京山は原告京山を,全農京都は原告JA全農の京都本部を,京都中央会は原告JA京都中央会を,f氏は原告
JA京都中央会代表者会長であるf´を指し,JAグループ京都は,原告JA京都中央会及び原告JA全農(京都府本部)を含むグループの総称である。(甲1,15)ア
見出し
本件記事は,告発スクープ産地偽装疑惑に投げ売りもJAグループの深い闇との大見出しの下に,“魚沼産”に中国産混入の疑い疲弊するコメ流通の末路との中見出し,及び,

本誌はJAグループ京都の米卸が販売するコメの産地判別検査を実施した。その結果,「滋賀産

や魚沼産として販売されていたコメに中国産が混入している疑いがあることが分かった。」との小見出しがある。

記載部分A
本件記事の本文中には,

JAグループ京都の米卸『京山』が精米・販売したコシヒカリ4袋(各5キロ)を『京都ひがしやまいちば楽天市場店』で購入。産地判別において実績がある同位体研究所に検査を依頼した。

2週間後,検査結果を見て目を疑った。『滋賀こしひかり』の10粒中6粒が中国産と判別されたのだ(左ページ図参照)。

との記載がある(以下記載部分Aという。)。


記載部分B
本件記事の2ページ目(見開き左ページ)の上段には,偽装が疑われるコメが三つも発覚との表題で,原告京山が販売している米である滋賀こしひかり京都丹後こしひかり魚沼産こしひかり新潟産こしひかりの写真等(以下,原告京山が販売し,本件記事において写真が掲載されている米をそれぞれ本件滋賀米本件京都丹後米本件魚沼米及び本件新潟米といい,これらを併せて本件京山米という。)及び検査の結果!!として本件報告書の写真を合わせた図が掲載され,それぞれにつき,以下のとおり同位体研究所のコメントが付され
ている(以下,写真とコメントを併せて記載部分Bという。)。
滋賀こしひかり(本件滋賀米)10粒中6粒が中国産と判別された。本検体は外国産米と判別される。京都丹後こしひかり(本件京都丹後米)
10粒中3粒が中国産と判別された。本検体は,国産米と判別されるが,外国産米の混入の可能性がある。
魚沼産こしひかり(本件魚沼米)

10粒中4粒が中国産と判別された。本検体の安定同位体比値は,魚沼産コシヒカリの値と合致せず,他府県産である可能性が高い。
新潟産こしひかり(本件新潟米)
10粒中10粒が国産と判別された。

記載部分C及びD
本文中に,

今回のように『10粒中6粒』という混入割合を,“意図せざる”混入とするのはかなり無理がある。

との記載(以下記載部分Cという。)に続けて,安定同位体比による産地判別について説明がされ,同位体研究所は,行政検査や司法鑑定などで1000件以上の精米の産地判別を行ってきたこと,同位体研究所の米の産地判別の精度は92.
8%であるとした上で,

今回の検査では米10粒のうち6粒を中国産と判別したが,これが間違いで,実は6粒とも国産だったという確率は7.2%の6乗であり,事実上0%である。

との記載(以下記載部分Dという。)がある。

記載部分E
“偽装米”を食べ比べセットで販売する大胆不敵との小見出しで,本文中に

疑惑は,中国産米のブレンドだけにとどまらない。『魚沼産こしひかり』のうち国産と判別されたコメも,『他府県産である可能性が高い』との検査結果だった。

との記載がある(以下記載部分Eという。)。


記載部分F本文中に,

疑惑の米が3商品も発覚したことからも,何らかの意思が働いて表示とは異なる米が混入したと考えるのが自然だろう。

との記載がある(以下記載部分Fという。)。

記載部分G
本文中に,

京山は1951年創業の米卸だが,01年に全農京都が米販売部門を譲渡する形で統合した。

,京山の法人登記によれば,株式の55%を京都中央会が,23%を全農京都が保有する。京山の歴代の役員には,京都中央会の元理事やf氏の地元農協であるJA京都の幹部が名を連ねる。JAグループ京都と京山は一蓮托生の関係にあるとみていいようだ。との記載がある(以下記載部分Gという。)。
原告京山は,平成29年2月15日,第1事件を提起し,原告JA京都中央会らは,同日,第2事件を提起し,原告京山は,同年10月6日,第3事件を提起した。
2
争点及び当事者の主張
争点1(本件記事で摘示された事実は何か)
(原告らの主張)
一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてみれば,本件記事は,JAグループ京都の米卸である原告京山が,そのインターネット上の店舗である京都ひがしやまいちば楽天市場店において,①意図的に中国産米を混入
させた滋賀こしひかり京都丹後こしひかり及び魚沼産こしひかり
を販売していた事実,及び,②意図的に他府県産の米を魚沼産こしひかりとして販売していたとの事実を摘示するものである。すなわち,本件記事は,原告らが,意図的に表示と異なる産地の米を混入した袋詰精米を消費者に販売したとの事実を摘示することにより,一般の読者に対し,原告らが米トレ
ーサビリティ法又は食品表示法に違反する米の産地偽装をしたか,その疑いが濃厚であるとの印象を与えて,原告らの社会的評価を著しく低下させるものである。(被告らの主張)
本件記事が原告らの社会的評価を低下させるものであることは争わないが,本件記事が摘示した事実については争う。
本件記事が摘示する事実は,原告京山が精米・販売した米を同位体研究所
で検査したところ,本件京都丹後米については10粒中3粒,本件滋賀米については10粒中6粒,本件魚沼米については10粒中4粒が,それぞれ中国産と判別されたとの事実,又は,原告京山が精米・販売した米の中に外国産(中国産)の米が混入していたとの事実である。本件記事のうち,

『10粒中6粒』という混入割合を“意図せざる”混入とするのはかなり無理がある。

との記載(記載部分C)や,

実は6粒とも国産だったという確率は7.2%の6乗であり,事実上0%である。

との記載(記載部分D),

疑惑の米が3商品も発覚したことからも,何らかの意思が働いて表示とは異なる米が混入したと考えるのが自然だろう。

との記載(記載部分F)は,
いずれも意見ないし論評であって,本件記事は,原告らが意図的に混入させたことを事実として摘示したものではない。争点2(公共性及び公益目的の有無)
(被告らの主張)

米の産地が正しく表示されることは一般国民にとって重大な関心事であ
るから,米の産地の表示が誤っている可能性を報じる本件記事には高度の公共性があり,かつ,被告らには公益を図る目的があった。

被告bが原告京山の販売する複数の米について産地判別検査を行ったの
は,米穀卸売事業者(以下米卸という。)であるA社のB社長(取材源は秘匿する)に取材をした結果,原告京山の米について外国産米が混入しているとの疑いを持つに至ったからであり,本件記事がJAグループ京都に対する意趣返しであるというような事情はない。(原告らの主張)ア
被告らが公益目的で本件記事を執筆,掲載したとの主張は争う。


原告JA京都中央会は,被告bが週刊ダイヤモンドに執筆した特集儲かる農業Part4データ編生き残る農協はここだ!全国JA支持率ランキングとの記事(第104巻6号(平成28年2月1日発売)。以下前件記事という。)について,JAグループ京都の名誉を毀損するものであるとして抗議したことがあった。そこで,被告bは,JAグループ京都に対する意趣返しのために産地偽装疑惑の記事を執筆することを計画し,その対象を同グループの米卸であると誤信していた原告京山に定
め,精度の低いスクリーニング用の検査を同社の精米について実施したものである。本件記事は,上記のとおり,JAグループ京都を批判,攻撃することを目的として,原告京山を狙い撃ちしたものであるから,被告らが本件記事を執筆,掲載等した意図が専ら公益を図る目的にあったとはいえない。
争点3(真実性又は真実であると信じたことについての相当な理由(以下,
併せて真実性等という。)の有無)
(被告らの主張)

原告京山が精米・販売した米を同位体研究所で検査したところ,10粒中6粒,4粒又は3粒が中国産と判別された事実は,同位体研究所作成の本件報告書から明らかである。

仮に,本件記事が摘示した事実を原告京山が精米・販売した米の中に外国産(中国産)の米が混入していた事実と捉えたとしても,本件報告書において原告京山が精米・販売した米に中国産の米が混入していると判別されたこと,同位体研究所の米の産地判別の精度が92.8%であることからすれば,同事実も真実といえる。


上記アの事実と被告bによる取材経過を総合すれば,少なくとも,被告らにおいて,本件記事の摘示した事実がその重要な部分について真実と信じるにつき相当な理由があった。

外国産と判別された場合に別ロットで再検査をすることが推奨されるのは,農産物の場合は均質に混合されていない可能性があるためであり,分析結果の信用性に問題があるからではない。また,本件では,判別得点が
判別境界付近にはなかったため,本件報告書には別ロットでの検査を推奨する旨の記載はなかった。
仮に,原告JA京都中央会が同位体研究所に分析を依頼した米が,本件で被告らが分析を依頼した米と同じ日に精米された同じ米であったとしても,粒状穀物は均一に混合されていないため,その結果が異なったからと
いって本件報告書の信用性が否定されるものではない。
また,農林水産省(以下農水省という。)が行った仕入及び販売の記録等の調査の結果,中国産米の混入が認められなかったとしても,農水省は独自の産地判別検査を行ったわけではないこと,原告京山の仕入及び販売の記録の信用性には疑いがあること,原告JA京都中央会の専務は,
農水省による原告京山への立入検査を指揮した元農水省消費安全局長と飲食するなど近しい関係にあることなどに照らせば,上記摘示事実の真実性を否定する根拠にはならない。
原告らは,混入が可能な中国産米が存在しなかったと主張するが,平成28年12月に入札されたSBS米(国家貿易の枠内で海外から輸入され
る主食用の米)が本件の米の搗精日までに輸入されていなかったことや,平成24年に搗精された米が混入していれば容易に判別することができることなど,原告らの主張を裏付ける証拠はない。
(原告らの主張)

JAグループ京都の米卸である原告京山が,そのインターネット上の店舗である京都ひがしやまいちば楽天市場店において,①意図的に中国産米を混入させた滋賀こしひかり(本件滋賀米),京都丹後こしひかり(本件京都丹後米)及び魚沼産こしひかり(本件魚沼米)を販売していた,②意図的に他府県産の米を魚沼産こしひかりとして販売していたとの事実は,いずれも真実ではない。
仮に,本件記事において摘示された事実が,原告京山が精米・販売した米の中に外国産(中国産)の米が混入していた事実であるとしても,これも真実でないことは,以下の事実から明らかである。
検体の軽元素安定同位体比を分析・測定し,統計解析の手法によって産地を判別する方法については,熟練を要すること,産地を代表する検
体を入手することが困難であること,産地判別が困難な地域があること,データベースの更新が複雑であることなどの問題点が指摘されており,信頼性に欠ける。同位体研究所が判別に用いた安定同位体比データベースの信頼性,合理性について立証ができておらず,合理的な疑いをさしはさむ余地がある。

本件記事が掲載された後,農水省は,原告京山の販売した平成28年産の国産米4品種(本件滋賀米,本件京都丹後米及び本件魚沼米を含む)に外国産米の混入が疑われるような点は確認されなかった旨の調査結果を公表し,原告JA京都中央会は,平成26年4月1日から平成29年2月末日までのすべての品目の仕入及び販売について調査を行った結果,
中国産米及び産地不明の米の混入はなかった旨を報告した。
原告京山は,本件滋賀米及び本件魚沼米と同じ日に搗精された同じ銘柄の米を小売店から買い戻し,穀物検定協会,株式会社ビジョンバイオ及び同位体研究所にその分析試験を依頼したところ,いずれも日本産のこしひかりであるとの結果が出た。

中国産米短粒種(こしひかりは短粒種である)のSBSによる入札は,平成25年3月から平成28年11月までは全くない。平成28年12月に入札されたものは輸入まで少なくとも2か月程度要するから,本件記事の米の搗精日である平成29年1月5日にはいまだ輸入されておらず,平成24年に搗精されたものが混入していれば,その鮮度や食味から容易に判別することができる。したがって,原告京山が,SBS輸入米を国産米に混入することは現実的に不可能であった。


以上の事実に加え,被告bは,原告京山が産地偽装をしたものと決めつけ,同位体研究所が推奨している別ロットでの再検査(甲144号証の2頁)も行わず,また,原告京山の精米工程等についてはあえて取材をすることなく,本件記事を執筆し,被告らはこれをそのまま掲載したものであ
るから,被告らにおいて,本件記事が摘示した事実がその重要部分において真実であると信じるにつき相当な理由もない。
争点4(意見論評の域を逸脱したものか)
(原告らの主張)
仮に,本件記事のうち,

『10粒中6粒』という混入割合を,“意図せざる”混入とするのはかなり無理がある。

との記載,

実は6粒とも国産だったという確率は7.2%の6乗であり,事実上0%である。

との記載及び

疑惑の米が3商品も発覚したことからも,何らかの意思が働いて表示とは異なる米が混入したと考えるのが自然だろう。

との記載が意見ないし論評であるとしても,これらの記載は,前提となる事実から論理的に導かれ
るものではなく,誤りであるから,公正な論評とはいえない。
(被告らの主張)
争う。
争点5(被告bの通報による不法行為の成否)
(原告らの主張)

被告bは,前件記事について原告JA京都中央会から抗議されたことに対する意趣返しのため,平成29年2月10日,農水省を訪れ,農水省をして原告京山に対する立入検査を実施させるために,同省の事務次官であった者に本件記事を示し,JAグループ京都の米卸である原告京山が表示と異なる産地の米を意図的に混入した袋詰め精米を消費者に販売したとの内容虚偽の事実を伝えた。本件記事及び被告bが伝えた内容は,原告らの社会的評価を低下させるものであるから,被告bが農水省の事務次官であった者に上記事実を伝えて通報したことは,原告らに対する不法行為を構成する。(被告bの主張)
争う。
争点6(被告らの責任原因)

(原告らの主張)

被告c,被告a,被告b及び被告ダイヤモンド社の責任
本件各記事の公表は,原告らの社会的評価を著しく低下させるから,原告らに対する名誉棄損に該当し,本件記事を執筆した被告b,本件記事の担当デスクであった被告a,週刊ダイヤモンドの編集長であった被告c及び本件記事をその発行する雑誌に掲載した被告ダイヤモンド社は,原告ら
に対し,不法行為(民法709条,同法710条,同法715条)に基づく損害賠償責任を負う。

被告dの責任
雑誌の出版という企業活動は,その性質上他者の社会的評価や名誉感情
を侵害する危険性を常に有するから,雑誌の出版を行う会社の取締役は,同社の出版する雑誌に掲載された記事によって他人の名誉を棄損することのないように注意し,これを防止する社内体制を整備する義務を負う。この義務には,従業員である記者による名誉棄損を防止する注意義務が含まれる。被告dは,この義務を怠り,原告らの名誉を毀損する本件記事が週
刊ダイヤモンドに掲載されることになったから,取締役としての任務を懈怠したものであり,会社法429条に基づき,損害賠償責任を負う。(被告c,被告a,被告b及び被告ダイヤモンド社の主張)争う。本件記事は原告らの名誉を違法に毀損するものではない。
(被告dの主張)
争う。取締役が負うのは,自社の出版ないし報道行為によって第三者の権利が侵害されないような体制を構築すべき義務であって,個々の出版や報道内容を調査すべき義務ではない。被告ダイヤモンド社の具体的な体制が,求められる水準を満たしていないとはいえない。
争点7(原告らに生じた損害等)

原告JA京都中央会らの損害

(原告JA京都中央会らの主張)
本件記事により,原告JA京都中央会らの社会的評価を著しく低下した結果,原告JA京都中央会らが被った無形の損害の額は,各原告につき,それぞれ1000万円を下らない。
また,原告JA京都中央会らは,本件記事により損なわれた名誉を回復するため,やむを得ず代理人弁護士にその処理を依頼して本件訴訟を追行
したものであり,本件記事と相当因果関係のある弁護士費用の額は,各原告につきそれぞれ100万円とするのが相当である。
(被告a,被告b及び被告ダイヤモンド社の主張)
争う。

原告京山の損害

(原告京山の主張)
原告京山は,被告らによる名誉棄損の結果,以下の損害を被った。逸失利益
本件記事及び本件立入検査が公表されたことによって,原告京山の取引先は原告京山商品の取扱いを中止した。これによる原告京山の逸失利益は,平成29年2月から平成30年1月までの逸失利益として4億7620万9001円及び平成30年2月から令和4年1月までの逸失利益として19億0483万6004円(平成29年2月から平成30年1月までの月次売上総利益〈月次〉と過去3年間〈平成26年2月から平成29年1月まで〉の平均月次売上総利益との差額合計4億7620万9001円を1年分とし,これに4を乗じたもの)の合計23億8104万5005円である。
なお,平成26年に売上高が減少したのは,米の相対取引価格が下落したからである。また,平成20年の事故米不正転売事件発覚後も原告京山の売上高は下がらなかったから,これは売上減少の原因ではない。
本件では,逸失利益の一部として平成29年2月から平成30年3月までの逸失利益である5億4442万9581円を請求する。
調査及び信頼回復に要した費用
原告京山は,本件記事により損なわれた名誉を回復するため,原告JA京都中央会に対し,中国産米及び産地不明の米の混入について調査を
依頼し,本件の経緯及び調査結果を取引先その他の関係各所に周知するために報告書の作成及び配布の業務を依頼した。その費用は合計4317万7164円である。
無形の損害
本件記事により,原告京山の社会的評価が著しく低下した結果,原告
京山が被った無形の損害の額は,1000万円を下らない。
弁護士費用
被告らの不法行為等により,原告京山は弁護士にその処理を依頼して本件訴訟を追行せざるを得なかったから,弁護士費用として5900万に対応する額は

100万円)が,相当因果関係のある損害である。
小括原告京山には以上の損害が発生しているところ,原告京山は,被告a,被告b及び被告ダイヤモンド社に対し,逸失利益の一部

及び

らに対応する弁護士費用の合計6億4
560万6745円を
に対応する弁護士費用の合計1100万円を請求する。

(被告らの主張)
争う。
逸失利益については本件記事との関連性が明らかではない。
本件記事発行後の原告京山の取引の減少の理由は,要するに原告京山が他の米卸売会社との値引き合戦に敗れたからであって,本件記事とは
関係がない。
原告京山の売上高は,平成22年度から平成27年度まで一貫して減少していたから,平成29年度の売上高が平成28年度の売上高より24%減少したとしても,その減少と本件記事との因果関係を問うのは困難である。また,平成20年の事故米不正転売事件も売上高の減少の原
因と考えられる。
調査及び信頼回復に要した費用については否認する。原告らは,実際に金員を支出した者の陳述書等の証拠を提出しない。
弁護士費用については争う。
第3
1
当裁判所の判断
争点1(本件記事で摘示された事実は何か)について
記載部分A及びBについて
本件記事は,告発スクープJAグループの深い闇との大見出し,“魚沼産”に中国産混入の疑い産地偽装疑惑に投げ売りも疲弊するコメ流通の末路との中見出し,

本誌はJAグループ京都の米卸が販売するコメの産地判別検査を実施した。その結果,「滋賀産

や魚沼産として販売されていたコメに中国産が混入している疑いがあることが分かった。」と京山が精米・販売したコシヒカリ4袋を
インターネット店舗で購入し,同位体研究所に検査を依頼したところ,滋賀こしひかりの10粒中6粒が中国産と判別されたこと(記載部分A同位体研究所による産地判別の結果,①本件滋賀米につき,10粒中6粒が中国産とされ(本検体は外国産米と判別される),②本件京都丹後米につき,10粒中3粒が中国産と判別され(本検体は,国産米と判別されるが,外国産米の混入の可能性がある),③本件魚沼米につき,10粒中4粒が中国産と判別され(本検体の安定同位体比値は,魚沼産コシヒカリの値と合致せず,
他府県産である可能性が高い),④本件新潟米につき,10粒中10粒が国産と判別されたこと(記載部分B)を記載するものである。
記載部分A及びBは,その記載のみからは,原告京山が精米・販売した米を同位体研究所で検査したところ,判別結果が上記のとおりであったとの事実を摘示するにすぎないものとも解されるけれども,上記のとおり,客観的
な数値だけでなく同位体研究所のコメント(本検体は外国産米と判別されるなど)も併せて記載されていること,本文中の他の箇所で,同位体研究所について,1000件以上の精米の産地判別を行った実績がありその精度は92.8%であると紹介されていることなどに加えて,上記見出しの記載内容等をも総合すると,記載部分A及びBは,一般の読者の普通の注意と読み方
とを基準として,JAグループ京都の米卸会社である原告京山が精米・販売した米のうち3種(本件滋賀米,本件京都丹後米及び本件魚沼米)に外国産米(中国産米)が混入していたとの事実を摘示するものと受け取るのが通常である。
記載部分C,D及びEについて

原告らは,本件記事が,原告らが意図的に中国産米を混入させた米を国産米(滋賀こしひかり等)として販売していた事実,及び,意図的に他府県産の米を魚沼産こしひかりとして販売していたとの事実を摘示するものであると主張する。
そこで検討するに,本件記事中には,

『10粒中6粒』という混入割合を,“意図せざる”混入とするのはかなり無理がある。

(記載部分C),

実は6粒とも国産だったという確率は7.2%の6乗であり,事実上0%である。

(記載部分D),

疑惑の米が3商品も発覚したことからも,何らかの意思が働いて表示とは異なる米が混入したと考えるのが自然だろう。

(記載部分F)との記載部分がある。しかしながら,これらの記載は,上記のとおり,同位体研究所による産地判別検査の結果,本件滋賀米の10粒中
6粒,本件京都丹後米の10粒中3粒,本件魚沼米の10粒中4粒がそれぞれ中国産と判別されたこと,同位体研究所における中国産と国産の米を判別する精度が92.8%であることなどを具体的な事実として摘示した上,これらを受けての評価的言明という体裁で記載されているものであるから,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,記載部分C,D及びEは,
原告らが意図的に中国産米又は他府県産米を混入させたとの事実を断定的に摘示するものではなく,同位体研究所による判別結果等の具体的事実を前提とした執筆者の意見として記載されたものと受け取るのが通常であると考えられる。
したがって,上記の記載部分は,いずれも意見ないし論評であって,これ
らの記載をもって,原告らが意図的に中国産米又は他府県産米を混入したことを事実として摘示したものと解することはできないというべきである。そして,他に,本件記事中に上記の事実を摘示したものと認めるべき記載はない。
記載部分Eについて

記載部分Eは,本件魚沼米について他府県産である可能性が高いとの検査結果であったとするものであり,記載部分Bのうち本件魚沼米に関する検査結果(10粒中4粒が中国産と判別された。本検体の安定同位体比値は,魚沼産コシヒカリの値と合致せず,他府県産である可能性が高い。)の記載と併せて,本件魚沼米については他府県産米が混入していた可能性が高いと判別されたことを事実として摘示したものと解される。
記載部分Gについて

記載部分Gは,原告京山の株式を原告JA京都中央会及び原告JA全農が保有していること,原告京山の歴代の役員の中に原告JA京都中央会の元理事や原告JA京都の幹部がいることなど,原告京山と原告JA京都中央会らが資本ないし役員等の面で密接な関係にあるとの事実を摘示したものと解される。

以上によれば,本件記事は,同位体研究所による判別結果という形で,原告京山が精米・販売した米3種(本件滋賀米,本件京都丹後米及び本件魚沼産米に外国産米(中国産米)が混入していたこと,本件魚沼産については他府県産米が混入していた可能性が高いと判別されたこと,原告京山が原告JA京都中央会らとの間で資本ないし米の取引を通じて密接な関係にあること
を事実として摘示した上,これらの事実を前提として,原告らが米の産地偽装に関与していたことが疑われるとの意見ないし論評を公表したものと解するのが相当である。
2
判断枠組み
本件各記事が原告らの社会的評価を低下させるものであることについては争いがない。
特定の事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,当該意見ないし論評の前提としている事実が重
要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきである。そして,仮に当該意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも,行為者において当該事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定されると解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁等参照)。

以上を前提に,公共性及び公益目的の有無(争点2)及び真実性等の有無(争点3)について判断する。
3
争点2(公共性及び公益目的の有無)について
本件各記事は,米の産地について,表示が事実と異なる旨(産地偽装の疑惑)を報じるものであるところ,食品の産地,とりわけ米の原産国(国内産か,外
国産か)は,一般の消費者にとって重大な関心事であると考えられるから,本件各記事は,公共の利害に関する事実に係り,その公表目的は専ら公益を図ることにあったと認められる。
これに対し,原告らは,被告らが,原告JA京都に対する意趣返し等のために,専ら原告らを批判,攻撃することのみを目的として,内容が真実でないと
認識しながらあえて本件各記事を公表したものであり,公益を図る目的ではないなどと主張するけれども,本件各記事の記載内容や表現等に照らしても,米の産地偽装に関する疑惑という上記主題を離れて殊更に原告らを誹謗中傷するようなものとまではいえず,また,被告らにおいて本件各記事の内容が真実でないと認識しながらこれを公表したとの事実を認めるに足りる証拠はない。そ
の他,前件記事に係る経緯(甲70~74)を踏まえて検討しても,上記認定判断を覆すには至らない。
4
争点3(真実性等の有無)について
認定事実

前提事実に証拠(後掲各証拠のほか,証人g,被告b本人〔ただし,いずれも後記認定に反する部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。ア
安定同位体比を用いた産地判別の仕組み等について(甲30,144,乙51,54)
植物や動物の組織を構成する主な元素である水素,炭素,窒素や酸素(軽元素)には,同じ元素でありながら,わずかながら重さ(質量)の
違うもの(同位体)が存在し,水や空気中の水素,炭素,窒素及び酸素の同位体比(重い元素と軽い元素の割合)は地域により異なっていることから,植物や動物の組織中の水素,炭素,窒素及び酸素の同位体比を調べれば,その生育した地域が分かる。
食品中の安定同位体比を分析して産地を判別するためには,あらかじ
め産地の由来が明確な食品の安定同位体比を分析してデータベースを作成し,産地のグループを判別する関数(判別式)を算出する必要がある。この判別式に,検査対象のサンプルを分析して得られた安定同位体比のデータ(数値)を代入することにより,そのサンプルがいずれの産地のグループに入るかを判別する。安定同位体比値を判別式に代入して得ら
れた数値を判別得点(判別点)といい,この数値と判別基準の値との比較により産地を判別する。多くの場合,判別基準の値は0であり,判別得点の値がプラスかマイナスかにより当該サンプルの所属する産地グループを判別する。
産地を判別する場合,それぞれの産地のサンプルの安定同位体比のデ
ータが重なり合わずに明瞭に分かれているほど,判別の精度が高くなり,誤判別の確率が小さくなる。判別する産地間の環境が類似している場合,サンプルの安定同位体比のデータは重なり合う部分が大きくなり,重なり合う部分では誤判別の可能性が生じる。

同位体研究所について
同位体研究所は,安定同位体比検査による産地判別検査及び放射能測定検査を業務として行う株式会社であり,平成26年12月31日まではgが,本件当時(平成29年)はh(gの配偶者)が,その代表取締役を務めていた。(乙2,3)
農水省の産地表示適正化対策委託事業を受託した者は,産地(国産又は外国産)が明確な精米10サンプル×3往復のブラインドテストを行ってその結果を報告し,その精度が90%以上であることの確認を受けなければならないところ,同位体研究所は,平成24年度から平成28年度まで,上記事業を独占して受託し,精度についての確認を受けた。(乙45,46,証人g)
同位体研究所が保有する米の産地分析のためのデータベースは,国産,
外国産1(中国東北部及び高緯度・高高度地域)及び外国産2(中国中部,米国,豪州及びパキスタン等)からなり,国産のサンプル数は636,外国産2のサンプル数は250である。国産と外国産2との間の産地分析に係る精度は,国産の米について97.48%(国産の米を国産と判別する割合),外国産2の米について81.20%(外国産2の米を外国産2と判別する割合),総合的には92.89%であるが,国産と外国産1との間の産地分析に係る精度は,これよりも低い。(乙55)同位体研究所のホームページには,以下の記載がある(甲30,144,乙9)。


安定同位体分析には,サーモフィッシャーサイエンス社の高精度安定同位体比質量分析計を使用している。同社は,20年を超える歴史を有し,世界70か国以上で900台以上の納入実績を有しており,安定同位体比質量分析計の事実上のスタンダードと言われている。

同位体研究所の提供する検査では,判別用データベースに使う産地の明確なサンプル数は最低100以上,統計的判別分析で判別した正答率は90%以上という検査実施上の基準を設定しているが,大半のデータベースは数百単位のデータで構成され,同位体研究所が保有する産地の安定同位体比データの総数は5万件に及ぶ。

同位体研究所は,海外へも自社社員を派遣し,産地でサンプルを収集して安定同位体比データベースを作成している。


検査報告書に記載される判別精度が例えば95%とある場合,A産地とB産地を95%は正しく判別できるが,判別得点が二つの産地の境界(判別基準)付近で重なり合う部分が全体の5%あり,この部分には誤判別の可能性が生じる。


国産・輸入判別検査において,表示と異なる産地と判別された場合は,農産物のロット毎のばらつきも考慮し,別ロットでの確認検査の
実施を推奨する。判別得点が判別境界付近の場合も,別ロットでの検査を推奨する。その場合には,検査報告書に補足が追記される。


検査料金は,1検体4万円(税別)である。

取材の経緯等について(乙62)
被告bは,平成16年4月,株式会社日本農業新聞に入社し(甲69),平成26年10月,被告ダイヤモンド社に入社した。被告bは,週刊ダイヤモンドにおいて,JAや農業に関する記事を多く執筆していた。
被告bは,市場に出回る米の品質について取材をしていたところ,平
成28年12月2日,関西の米卸会社の社長を取材し,関西では卸による米のダンピングが行われ,米の品質の低下が起きていること,その一例として,大阪のスーパーマーケット万代においては10キロ3002円という安い値段で福井県産こしひかりが販売されているとの情報を得た(乙1)。

被告bは,平成28年12月14日,農水省消費・安全局消費者行政課食品表示・規格監視室(米穀流通監視室)を取材し,農水省が食品の産地の表示が適正にされているかを調べるに当たっては安定同位体比による産地判別を利用しており,同位体研究所に委託している旨の情報を得た。被告bは,その際の取材メモとして,

同位体研究所でやってる結果が100%じゃない。正しかったとしても,誰がやったのか?国産が「外国産

だとしても,ちゃんと調べてみないとわからないが,検査を行う端緒としてとらえている。」などと記載した。(乙1)
被告b

を基に,流通している米の産地を独自に

調査するための依頼先として同位体研究所を候補に考え,同位体研究所のホームページを参照したり,帝国データバンクによる調査結果を参照したりするなどの取材を行った。被告bが参照した帝国データバンクによる同位体研究所の企業情報(調査日

平成27年6月9日)には,概

略以下の記載があった。(乙3)

同位体研究所は,安定同位体比検査による産地判別検査,放射能測定検査を行っており,産地判別が可能な食品はコメなど36品目である。


国内最大規模の産地判別検査機関であり,各食品の膨大なデータを蓄積することで,他社にはない産地判別基礎データを保有することにより高い精度を維持できている。


産地判別検査は農水省からの受注が中心で,同省の産地表示適正化対策事業を安定的に受注しているほか,都道府県の警察関係から押収品の鑑定調査の受注を受けることもある。
被告b,被告a及び被告ダイヤモンド社の社員であるiは,平成28
年12月22日,同位体研究所を訪問し,同位体研究所の顧問であるg(平成26年までは同位体研究所の代表取締役)及び取締役であるjを取材した。その際,被告bは,g及びjから,同位体研究所は国内の行政検査による産地判別のほとんどを実施していること,判別精度が9割以上であることの結果を示して農水省の受託事業を請け負っていること,米の産地判別検査においては一粒ずつ検査が可能であり,10粒検査すればそのうち何粒が国産か,そうでないかがわかること,米の安定同位体比データは,5000件を超える規模と国内で随一であること,米には若干の中国産,米国産等の混入があることが考えられ,意図的にやっ
ているという判断をする際には50%が水準となることについて説明を受けた。(乙9)
他方で,被告bは,流通している米の品種及び品質を調べる検査(DNA検査,鮮度判定,及び性状分析等)については,一般財団法人日本穀物検定協会東京分析センター(以下穀物検定協会という。)に依
頼することを検討し,平成28年12月以降,穀物検定協会との間で条件等を調整していた。
被告bは,平成29年1月4日,原告京山に係る帝国データバンクによる企業情報(調査日

平成28年8月29日)を調査した。同企業情

報によれば,原告京山の株主は,原告JA京都中央会(21万3080
株),原告JA全農京都本部(8万9000株)等であった。(乙11)エ
同位体研究所で検査したとされる米の入手について
被告b

基に,平成28年12月2日,万代

α店において福井県産こしひかり(10キロ,3002円。以下福井米という。)を購入し(乙5),これを被告ダイヤモンド社内の自席近くの書庫スペースで保管していた。
被告bは,平成28年12月29日,原告京山が運営するインターネット店舗であるラ・マルシェ京都ひがしやま(京都ひがしやまいちば楽天市場店)において,平成28年滋賀県産こしひかり5kg
(本件滋賀米),平成28年京都丹後こしひかり5kg(本件京都丹後米),平成28年度産新潟県魚沼産こしひかり5kg(本件魚沼米)及び平成28年度産新潟県産こしひかり5kg(本件新潟米)を購入した(乙21)。被告bは,本件京山米を被告ダイヤモンド社内で宅配便によって受領し,その箱を開封しないまま,自席近くの書庫スペースで保管していた。
被告bは,平成28年12月29日頃,原告京山が販売する京都府丹
波産こしひかり(以下京都丹波米という。)をインターネットサイト(アマゾン)で購入し(乙62),平成29年1月4日に被告ダイヤモンド社に持参して自席近くの書庫スペースで保管していた。

被告らが依頼して行った検査の経緯について
被告bは,上記ウの情報収集等を経て,市場で流通している米について,穀物検定協会に品種,食味及び鮮度等の検査を,同位体研究所に産地分析を依頼することとした。
被告bは,平成29年1月6日,穀物検定協会に対し,福井県産コシヒカリ,京都丹後こしひかり,京都丹波こしひかり,滋賀県産こしひかり,新潟県魚沼産こしひかり及び新潟県産こしひかりについての分析(穀粒判別,鑑定対象品種名をこしひかりとするDNA鑑定(SNPs法),食味及び鮮度の検査)を依頼し,その頃,同位体研究所に対し,安定同位体比による米の産地分析を依頼した。(乙20,24)

被告bは,平成29年1月10日,被告ダイヤモンド社内の週刊ダイヤモンド編集部において,本件京山米の宅配便を開封した。
被告bは,同日,本件京山米,福井米及び京都丹波米について,いずれも米袋を開封することなく穀物検定協会に持ち込んだ(乙26~28)。

被告bは,客観性を担保するため,穀物検定協会を介して同位体研究所にサンプルを送付することとした。そこで,被告bは,込みに際し,穀物検定協会の職員に対し,穀物検定協会の職員自身が本件京山米,福井米及び京都丹波米を開封した上,その各一部を同位体研究所に送付するためのサンプルとして取り分け,封印するよう依頼した(乙26)。
穀物検定協会の職員は,上記依頼に応じ,同日,職員自ら米袋を開封
し,それぞれを均分機にかけて均分し,各検体につき一袋ずつ(計6袋)のサンプルを作成して,それぞれの袋にサンプル名(No1産コシヒカリ,No2こしひかり,No4こしひかり及びNo6京都丹後こしひかりNo3滋賀こしひかり,No5福井県京都丹波新潟県魚沼産新潟県産こしひかり)を記載し,同協会
内において箱に詰め,ガムテープを用いて封印した。これに引き続き,被告bは,穀物検定協会の職員を同行して宅配業者の受付窓口を訪れ,その箱をそのまま同位体研究所に宛てて送付した。(乙25ないし29,62)
同位体研究所は,上記

で送付を受けた各サンプル(以下サンプル米という。)について,安定同位体比による産地分析を行った(乙25,29)。

検査の結果について
同位体研究所の検査結果について


同位体研究所は,平成29年1月24日,被告bに対し,サンプル米について産地分析を行った結果を記載した報告書(乙34(枝番含む)。以下乙34報告書という。)をファックスで送付した。乙
34報告書は,本件報告書とほぼ同内容であるが,本件京都丹後米及び本件魚沼米について,それぞれ中国産と判別された(本件報告

書)との部分が外国産と判別された(乙34報告書)と記載され
ていた。被告bは,同月25日,同位体研究所のjに架電し,乙34報告書について,判別精度92.8%とは,10回測ると1回は誤判別の可能性があるということ,外国産と判別された疑わしい検体は別ロ
ットでも検査を行うこともあることの説明を受けた。被告bは,jに対し,同報告書に外国産と記載のある部分について,具体的国名

がわかるのであれば記載してほしい旨を伝えた。(乙34(枝番含む))

同位体研究所は,本件滋賀米,本件京都丹後米及び本件魚沼米のうち,産地判別において外国産と判別された米について,その形状
及び安定同位体比の各数値から中国産であると判断し,乙34報告書
のうち外国産と記載のある部分を中国産と変更して,本件報
告書(乙35(枝番含む))を作成し,被告bに対して送付した。穀物検定協会の検査結果について
穀物検定協会が行った品種,食味及び鮮度等の検査結果は,概要以下のとおりであった(乙30~32(いずれも枝番含む))。

福井県産こしひかりについて
性状分析
品種鑑定


正常粒95.9%,食味測定
コシヒカリ

京都丹後こしひかりについて
性状分析


正常粒93.4%,食味測定

品種鑑定

コシヒカリ

正常粒95.6%,食味測定

品種鑑定

スコア80

京都丹波こしひかりについて
性状分析

スコア83

スコア80

コシヒカリ

滋賀県産こしひかりについて
性状分析

正常粒92.8%,食味測定スコア82

品種鑑定

コシヒカリ

新潟県魚沼産こしひかりについて
性状分析
品種鑑定


正常粒94.4%,食味測定
コシヒカリ

新潟県産こしひかりについて
性状分析

正常粒95.6%,食味測定

品種鑑定

スコア82

スコア84

コシヒカリ

その後の取材の経緯
被告c及び被告bは,平成29年2月2日,原告京山に対し,週刊ダ
イヤモンドの農業に関する特集の取材の一環で原告京山が精米及び販売した滋賀こしひかり魚沼産こしひかり京都丹後こしひかり
について安定同位体比による産地判別検査を実施したところ,それぞれ6割,4割,3割の比率で中国産米と判別される米が検出されたことから,同月13日に発売予定の週刊ダイヤモンドにおいて原告京山が精
米・販売する米に産地偽装の疑いがあることを報じる予定であることを前提として,①原告京山が中国産米をブレンドした米を国産のコシヒカリとして販売した事実の有無,②中国産米を調達した経路及びSBS輸入米をどのような商品として販売したか,③輸入米を加工・販売している実態についてどのレベルの職位の従業員が把握していたか,④原告京
山の株式55パーセントを保有する原告JA京都中央会及び23パーセントを保有する原告JA京都は原告京山が輸入米を仕入れた事実やその販売方法について把握していたか,について質問し,同月6日18時までに返答を願う旨の文書をファクシミリで送信した(甲65)。
原告京山は,平成29年2月9日,上記

の質問に対し,①原告京山

が中国産米をブレンドした米を国産のコシヒカリとして販売した事実はないこと,②SBSで輸入した米については輸出国で袋詰めされたものをそのまま販売しており,中国産米などの輸入米が通知人の精米工場に搬入されることはなく,輸入米を新たに加工して販売することはないこと,③輸入米を加工して販売している事実はないこと,④輸入米を販売していないので,当然に原告JA京都中央会も原告JA全農もそのような事実を把握していないこと,を返答する旨の文書をファクシミリで送
信した(甲66(枝番含む))。
被告c及び被告bは,平成29年2月2日,原告JA京都中央会に対と同様,①原告京山が中国産米をブレンドした米を国産のコシヒカリとして販売した事実の有無,②原告京山の株式55パーセントを保有する原告JA京都中央会,23パーセントを保有する原告JA京
都は偽装の事実を把握していたか,③原告京山が扱う輸入米の加工・販売の実態について,原告JA京都中央会専務のk及び会長のf´は把握していたか,について質問し,同月6日18時までに返答を願う旨の文書をファクシミリで送信した(甲67)。
原告JA京都中央会は,平成

の質問に対し,

原告京山が中国産米をブレンドした米を国産のコシヒカリとして販売した事実はないこと,かかる記事が掲載された場合には,被告ダイヤモンド社並びに関与した編集者及び記者に対し,しかるべき法的手続をとる予定であることを回答する旨の文書をファクシミリで送信した(甲68(枝番含む))。


本件記事及び本件ウェブ記事の発表
被告ダイヤモンド社は,平成29年2月10日,本件ウェブ記事を発表し,同月13日,本件記事が掲載された週刊ダイヤモンドを発行した。

その後の経緯等
被告bは,平成29年2月10日,農水省を訪問し,複数の幹部と面談した。農水省消費・安全局長であったlは,同日,本件記事が公表されることを知り,原告京山に対し,米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法(以下米トレーサビリティ法という。)に基づく立入検査(以下本件立入検査という。)を行うこととし,農水省近畿農政局は,同日から同年3月24日にかけて,本件立入検査を行った(甲86,99,128)。
原告JA京都中央会は,平成29年2月27日,穀物検定協会に対し,本件滋賀米,本件京都丹後米及び本件魚沼米とそれぞれ同じ日に精米され,原告京山が保有していたキープサンプルとされたもの(それぞれ滋賀米サンプル京都丹後米サンプル魚沼米サンプルとい

う。)並びに本件滋賀米及び本件魚沼米とそれぞれ同じ日に精米された同商品を小売店から買い戻したとされたもの(それぞれ買戻し滋賀米及び買戻し魚沼米という。)について,重元素同位体比組成及び多元素濃度を用いた方法並びにDNA品種鑑定技術を用いた方法による産地判別を依頼した。穀物検定協会による産地判別の結果は概要以下のと
おりであった。(甲8,9)

各検体における重元素の同位体比組成を測定し,3種類の多変量解析を行ったところ,いずれの解析方法によっても,全ての試料について原産国は日本と判別された。


各試料から25粒ずつ取り出してDNA品種鑑定を行ったところ,全ての試料についてコシヒカリであると判定された。

原告JA京都中央会は,平成29年3月27日,同位体研究所に対し,買戻し滋賀米及び買戻し魚沼米について,炭素,窒素,酸素,水素の安定同位体比値の多変量解析による産地判別分析及び定性検査PCR法(対象品種:コシヒカリ)を依頼した。その検査結果は概要以下のとおりであった。(甲11,12の4,12の5,118)

買戻し滋賀米(精米D)について判別得点

-1.70

国産<0

外国産>0

本検体10粒検査にて10粒が国産と判別された。
本検体にはコシヒカリ以外の品種の混入はないと判別される。

買戻し魚沼米(精米E)について
判別得点

-0.49

国産<0

外国産>0

本検体10粒検査にて10粒が国産と判別された。
本検体にはコシヒカリ以外の品種の混入はないと判別される。
原告JA京都中央会は,平成29年3月28日,ビジョンバイオ株式会社に対し,買戻し滋賀米及び買戻し魚沼米について,国産米表示確認検査を依頼した。その検査結果は,概要以下のとおりであった。(甲10の4,10の5,11,119)

買戻し滋賀米(精米D)について
総評及び判定

本試料には外国産米の特徴が認められないため,日
本産米であると判定された。

微量元素分析

試料の分析データが国産米グループに属する確率は
99.9%である。

DNA品種判別

10粒中10粒がコシヒカリである。

買戻し魚沼米(精米E)について
総評及び判定

本試料には外国産米の特徴が認められないため,日
本産米であると判定された。

微量元素分析

試料の分析データが国産米グループに属する確率は
99.9%である。

DNA品種判別

10粒中10粒がコシヒカリである。

農水省及び京都府は,平成29年6月27日,本件立入検査の結果について公表した。その内容は,概要以下のとおりである。(甲6)ⅰ
農水省近畿農政局及び京都府は,原告京山及びその子会社を含む取引業者に対し,米トレーサビリティ法10条に基づく立入検査(本件立入検査)を行い,直近5年間の外国産米の仕入れ及び販売について,帳簿等を検査し,関係者に質問を行った。

原告京山の仕入れについては原告京山と仕入先業者双方の記録等を取引ごとに突き合わせて検証を行ったが,仕入先業者のうち一部の業
者では3年を経過した記録を保存しておらず,当該業者との取引については原告京山が保存している記録等による確認にとどまった。原告京山の販売については原告京山と販売先業者双方の記録等を取引ごとに突き合わせて検証を行ったが,販売先業者のうち一部の業者は廃業し,又は3年を経過した記録を保存しておらず,当該業者との取引に
ついては原告京山が保存している記録等による確認にとどまった。ⅲ
外国産米が混入している疑いなどの報道がされた平成28年産の国産米4品種については,加えて仕入先業者の記録により,国内の米生産者から集荷されたものであることを確認し,原告京山の記録により,米の仕入れから精米の袋詰めに至るまでの工程の検証を行った。


以上の検証の結果,平成24年以降の原告京山の外国産米の仕入
れ・販売に関して疑わしい点は確認されず,平成28年産の国産米4品種に外国産米の混入が疑われるような点も確認されなかった。


SBS米について(甲33~61)
農水省は,そのホームページにおいて,SBS輸入米(国家貿易の枠内で海外から輸入される主食用の米)の輸入実績等を公表している。原告京山は,平成23年度から平成25年度まで,SBS輸入米買受人として,中国から中国産米(短粒種)を買い受けた(乙14)。平成26年度及び平成27年度は,SBS輸入米としての中国産米
(短粒種)の輸入はなかった。
平成28年度は,平成28年12月16日に第2回SBS輸入米の見積合せが行われ,中国産米(短粒種)が落札された。検討

前記のとおり,本件記事は,原告京山が精米・販売した米3種(本件滋賀米,本件京都丹後米及び本件魚沼産米に外国産米(中国産米)が混入していたこと,本件魚沼産については他府県産米が混入していた可能性が高
いと判別されたことを事実として摘示し,これらの事実と,原告京山が原告JA京都中央会らとの間で資本ないし米の取引を通じて密接な関係にあるとの事実を前提として,原告らが米の産地偽装に関与していたことが疑われるとの意見ないし論評を公表したものである。そして,本件記事は,冒頭の中見出し及び小見出しにおいては中国産の米の混入についてのみ記
載しており,他府県産の米の混入には触れていないこと,本文中でも,その記載の大部分は外国産(中国産)の米の混入に関するものであることなどに照らすと,本件記事の主眼は,原告京山が精米・販売した米3種に外国産米(中国産米)が混入していたことに関する疑惑を公表することにあったと考えられるから,本件各記事における意見ないし論評の前提として
いる事実のうち重要な部分(真実性等の証明の対象となる事実)は,①原告京山が精米・販売した米3種(本件滋賀米,本件京都丹後米及び本件魚沼産米)に外国産米(中国産米)が混入していたとの事実,及び,②原告京山と原告JA京都中央会らが資本ないし米の取引を通じて密接な関係にあるとの事実であると解するのが相当である。


原告京山と原告JA京都中央会らが資本ないし米の取引を通じて密接な関係にあるとの事実(以下本件摘示事実1という。)について
前記前提事実によれば,本件記事掲載時点において,原告京山の株式の約50.3%をJAグループ京都(原告JA京都中央会及び原告JA全農
を含む)が保有していたことが認められ,また,原告京山が原告JA京都の取り扱う米穀の大部分を仕入れて販売する会社であることについては,原告らも争っていない。したがって,原告京山と原告JA京都中央会らが資本ないし米の取引を通じて密接な関係にあるとの事実(本件摘示事実1)は,真実であると認められる。

原告京山が販売した米(本件滋賀米,本件京都丹波米及び本件魚沼米)に外国産米(中国産米)が混入していたとの事実(以下本件摘示事実2という。)について
真実性について
i
被告bは,本件京山米を原告京山
が運営するインターネット店舗において購入した後,届けられた米袋
を開封することなく穀物検定協会に持ち込んだこと,上記米袋は,同協会の職員によって開封され,その場で取り分けてサンプル米が作成されたこと,サンプル米は,同協会の職員立会いのもとで同位体研究所に宛てて送付され,それぞれ10粒が同研究所における検査の対象とされたことが認められる。そして,各サンプル米の名称(前記認定
事実オ
合わせれば,本件報告書に記載のNo2本件京都丹後米であり,「No4あり,「No5京都丹後こしひかりは
滋賀こしひかり」は本件滋賀米で

新潟県魚沼産こしひかり」は本件魚沼米であると認

めることができる。

そうすると,原告京山が精米・販売した米3種(本件滋賀米,本件京都丹後米及び本件魚沼米)について,各10粒を同位体研究所で検査した結果,本件滋賀米については10粒中6粒が,本件京都丹後米については10粒中3粒が,本件魚沼米については10粒中4粒が外国産(中国産)であると判別された事実が認められる。

ii

しかしながら,本件報告書には判別精度92.8%との記載

があり,これは,同位体研究所が有する米の産地分析のためのデータベースについて,国産の米を国産と,外国産2の米を外国産2と判別する割合が92.8%であることを意味するものであるところ(上記いうことはできるものの,100%
確実とまではいえない。他方で,農水省等の調査では,原告京山の帳簿上,外国産米の混入を疑わせるような点は認められないとされたこ
を同位体研究所で検査した結果,全て国産と判別されたこと(上記認定事実ケ
原告京山が販売した米(本件滋賀米,本件京都丹波米及び本件魚沼米)に外国産米(中国産米)が混入していたとの事実(本件摘示事実2)が真実であるとまでは認められないというべきである。
真実と信ずるにつき相当な理由について
iのとおり,原告京山が精米・販売していた米3種(本件滋賀

米,本件京都丹後米及び本件魚沼米)について,各10粒を同位体研究所で検査した結果,本件滋賀米については10粒中6粒が,本件京都丹後米については10粒中3粒が,本件魚沼米については10粒中4粒が外国産(中国産)であると判別された事実が認められる。被告らは,上記判別結果に加え,同位体研究所による米の産地分析の判別精度(国産
の米を国産と,外国産2の米を外国産2と判別する割合)が92.8%であること(被告bは,遅くとも本件報告書を受領した時までに本件報告書に記載の判別精度の意味を了知していたと認められる。上記認さらに,被告bがあらかじめ同位体研究所について調査
により入手していた情報(同位体研究所が複数年度にわたり農水省の産
地表示適正化対策事業を受注しており,その他の公的機関からも産地判別の検査を受注していること等)等を踏まえ,同位体研究所による上記判別結果は信頼に足りるものと考えたものであって,そのように考えたことには合理性があるといえる。したがって,被告らにおいて,同位体研究所による上記判別結果を信頼し,原告京山が販売した米(本件滋賀米,本件京都丹波米及び本件魚沼米)に外国産米(中国産米)が混入していた事実(本件摘示事実2)が真実であると信じたことについては,相当な理由があるというべきである。
これに対し,原告らは,軽元素安定同位体比の分析・測定による産地判別方法については問題点が指摘されており,信頼性に欠けると主張するけれども,同位体研究所による米の産地判別方法及びその結果が信頼
性に乏しいものであり,被告らにおいてそのことを認識し得たとの事実を認めるに足りる証拠はない。
原告らは,また,被告bが再検査を依頼しなかったことを指摘するので,この点について検討するに,同位体研究所のホームページには,国産・輸入判別検査において,表示と異なる産地と判別された場合は,農産物のロットごとのばらつきも考慮し,別ロットでの確認検査の実施を推奨するとの記載がある。しかし,同記載は,一般に,農産物の場合は個体差が大きいことから,あるサンプル(個体)について表示と異なる産地と判別された場合には,他のサンプル(個体)についても検査をすることによって全体としての産地判別の精度を高めるためであると
考えられるところ,本件は,当初の検査において各10粒を検査しており,それぞれが別の個体であるから,当初から複数個体を検査したのと同視することができる。なお,粒状穀物の場合,均一に混合されていないことが考えられるため,どの10粒をサンプルとするかによって外国産(中国産)と判別される米の混合割合は異なり得るから,全体として
外国産か国産かを判別するという意味においては,複数の異な
るサンプルで検査した上で混合割合の平均を取るなどして正確性を担保することが望ましいということはできるとしても,本件のように,例えば検査をした米10粒中の6粒が外国産(中国産)と判別された場合,他のサンプルを検査したからといって,それによって外国産(中国産)米が混入していたとの上記判別結果自体の信用性が高められたり減殺されたりする関係にはないというべきである。このことに加えて,判別得点が判別境界付近であったとか,本件について同位体研究所から再検査が推奨されていたとかいった事情も認められないことなどを総合すれば,被告bが別ロットでの確認検査を依頼しなかったことをもって,被告bが本件摘示事実2を真実であると信じるについて相当な理由がなかった
ということはできない。
その他,本件報告書の信用性を吟味するために考えられる検査としては,DNA検査及び重元素同位体比による産地判別が挙げられる。しかし,DNA検査は,米の品種を検査する方法であり,原則として米の産地を判別することはできないとされていることからすれば,被告bにお
いて,さらに追加してDNA検査を行うべきであったとはいえない(例外的に,コシヒカリBLという新種が主として新潟県内において栽培されており,その県外への流出は制限されていること(甲14,弁論の全趣旨)からすれば,コシヒカリBLを判別するDNA検査によって新潟県産の米のみは判別し得る可能性があるが,他県の米は判別で
きないことからしても,本件においては意味をなさない。)。また,重元素同位体比による産地分析の方法が,同位体研究所の行っている産地分析の方法(軽元素(水素,炭素,窒素及び酸素)の安定同位体比によるもの)に比して精度が高いことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,正確性が必要とされる農水省の米の産地判別検査においては同位体
研究所による産地分析の方法が採用されていることに照らしても,被告bにおいて,重ねて重元素同位体比による産地分析方法による再検査を行うべきであったともいえない。なお,SBS米(中国産短粒種)については,平成26年度及び平成27年度においては輸入がなかったことが認められるが,被告らが上記事実を認識していたとは認められないし,また,上記事実のみでは,本件当時に中国産米を混入することが不可能であったとまでいうことはで
きないから,上記事実があっても,真実相当性についての上記判断を左右するには至らない。

以上判断したところからすれば,本件記事における意見ないし論評の前提とされた事実のうち重要な部分(本件摘示事実1及び2)については,真実であるか(本件摘示事実1),真実であると信ずるにつき相当な理由
がある(本件摘示事実2)ものと認められる。
4
争点4(意見論評の域を逸脱したものか)について
原告らは,本件記事のうち,

『10粒中6粒』という混入割合を,“意図せざる”混入とするのはかなり無理がある。

(記載部分C),

実は6粒とも国産だったという確率は7.2%の6乗であり,事実上0%である。

(記載部分D),

疑惑の米が3商品も発覚したことからも,何らかの意思が働いて表示とは異なる米が混入したと考えるのが自然だろう。

(記載部分F)は,前提となる事実から論理的に導かれるものではなく,誤りであるから,公正な論評とはいえないと主張する。しかしながら,意見ないし論評
の前提とされた事実が真実であるか,真実であると信ずるにつき相当な理由がある場合には,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,自由な意見の表明として保護されるべきものであって,このことは,当該意見ないし論評が,合理的な推論に基づくものとはいえず,又は,誤りを含むものであったとしても,異なるものではないというべきで
ある。したがって,仮に,記載部分C,D及びFが前提とした事実から合理的に導かれる結論とはいえず,誤りであったとしても,そのことのみでは論評としての域を逸脱して違法であるということはできない。そして,他に,本件各記事の記載が原告らの人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものであると評価すべき事情は認められない。5
小括
以上によれば,被告らが執筆ないし掲載した本件各記事は,それによって原
告らの社会的評価を低下させるものではあるが,特定の事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損であるところ,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認められ,当該意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であるか(本件摘示事実1),被告らにおいて真実と信ずるについて相当の理由があっ
た(本件摘示事実2)と認められるから,違法性が阻却され,又は故意過失が否定される結果,原告らに対する不法行為は成立しないというべきである。6
争点5(被告bの通報による不法行為の成否)について
原告らが主張する被告bによる不法行為の内容は,要するに,被告bが農水省の事務次官に対して本件記事を見せたというものであるが,上記5のとおり,
本件記事の公表(執筆及び掲載)については違法性又は故意過失がなく,原告らに対する不法行為を構成しないものであるから,被告bが本件記事を第三者に見せた行為についても,不法行為は成立しないというべきである。7
まとめ
以上によれば,原告らの被告らに対する請求は,その余の点につき判断する
までもなく,いずれも理由がない。
第4

結論
以上の次第で,原告らの被告らに対する請求は理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官

森珠美
裁判官

佐藤彩香
裁判官

増藤野真歩子
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