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損害賠償請求事件
事件番号平成25(ワ)2710
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年8月2日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  民事第8部
裁判日:西暦2019-08-02
情報公開日2020-06-04 22:34:07
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令和元年8月2日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官


同第5238号
口頭弁論終結日

損害賠償請求事件

平成31年3月12日
判主1決文
被告東電は,別紙認容額等一覧表原告番号欄記載の各原告(原告番号1-4,原告番号3-1,原告番号3-2,原告番号3-3,原告番号3-4,原告番号8-7,原告番号13-4,原告番号18-2,原告番号19,原告番号20-1,原告番号20-3,原告番号21-1,原告番号24-1,原告番号24-2,原告番号30-1,原告番号30-2,原告番号30-3,原告番号30-4及び原告番号41-2を除く。)に対し,各原告に係る同表認容額欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
前項の原告らの被告東電に対するその余の請求並びに原告番号1-4,原告番号3-1,原告番号3-2,原告番号3-3,原告番号3-4,原告番号8-7,原告番号13-4,原告番号18-2,原告番号19,原告番号20-1,原告番号20-3,原告番号21-1,原告番号24-1,原告番号24-2,原告番号30-1,原告番号30-2,原告番号30-3,原告番号30-4及び原告番号41-2の被告東電に対する請求をいずれも棄却する。
3
原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,被告東電に生じた費用の10分の9及び被告国に生じた費用を原告らの負担とし,別紙認容額等一覧表原告番号欄記載の各原告に生じた費用の各原告に係る同表訴訟費用負担割合欄記載の割合の費用を当該各原告の負担とし,被告東電及び第1項の原告らに生じたその余の費用を被告東電の負担とする。
5
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
ただし,被告東電が同項の原告らに対し,各原告に係る別紙認容額等一覧表担保額欄記載の各金員の担保を供するときは,その執行を免れることができる。
事実及び理由

【目次】
第1部

請求及び事案の概要

第1章

請求

第2章

事案の概要

第2部

前提事実

第1

福島第一原発の施設の概要等

1
福島第一原発の概要

2
福島第一原発の設置許可処分又は変更許可処分,運転開始

第2

本件事故の概要

1
本件地震とそれに伴う津波の発生

2
本件事故の発生状況

3
放射性物質の拡散

4
避難指示,避難区域の設定等

5
警戒区域の設定等

6
警戒区域及び計画的避難区域の見直し等

7
避難指示区域等の解除

8
SPEEDIについて

第3

関連法令等の要旨

1
総論

2
原子力基本法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)

3
炉基法(平成24年法律第47号による改正前のもの。以下旧炉基法という。)
4
安全設計審査指針等

5
電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)

6
省令62号

7
原賠法

8
原災法

第4

安全審査に関する各種指針等

1
発電用軽水型原子炉施設などに関する各種の指針

2
昭和39年原子炉立地審査指針

3
昭和45年安全設計審査指針

4
平成13年安全設計審査指針

5
平成13年耐震設計審査指針

6
平成18年耐震設計審査指針

7
本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針

第5

規制機関等

1
原子力委員会・原子力安全委員会

2
原子力安全・保安院(保安院)

第6

知見及びその発展

1
過去の原子力発電所事故に関する知見

2
地震に関する知見等

3
津波に関する知見

4
放射線に関する基本的な知見

第7

我が国のシビアアクシデント対策

1
シビアアクシデント対策の意義等

2
シビアアクシデントに関する知見の進展

3
我が国におけるシビアアクシデント対策の導入
4
定期安全レビュー(PSR)の創設

5
被告東電によるシビアアクシデント対策及び保安院の対応

第8

本件事故後の関連法令等の変更

1
炉基法(平成24年法律第47号による改正後のもの。以下新炉基法という。)

2
省令62号の改正

3
技術基準規則の制定

第3部
第1

争点及び当事者の主張
被告国の責任

1
本件設置等許可処分の違法性

2
規制権限不行使の違法性の判断枠組み

3
省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性
原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限の有無
予見可能性
結果回避可能性

4
省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性

5
シビアアクシデント対策についての規制権限不行使の違法性

6
本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性

7
本件事故後の避難指示の違法性

8
本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性
9
相互保証

第2
1
被告東電の責任
民法709条及び民法717条1項に基づく請求の可否
2
被告東電の過失

第3

損害論(総論)

1
精神的損害

2
弁済の抗弁

3
被告東電及び被告国の共同不法行為の成否及び賠償額の差

第4

損害論(各論)

第4部

責任論に関する当裁判所の判断

第1章

認定事実

第1

我が国における原子炉設置許可に係る法体制

1
本件設置等許可処分当時の炉規法(以下処分時炉規法という。)の定め
2
本件設置等許可処分当時の体制

第2

設置許可・変更許可処分

1
1号機


設置許可申請



設置許可審査及び認可

2
2号機ないし4号機


変更許可申請



変更許可申請審査及び認可

第3

原子力発電所における安全対策及び電源喪失の危険性についての知見
1
原子力発電所における安全対策の考え方

2
原発施設における冷却の必要性及び非常用電源設備の重要性

3
原子力発電所における電源喪失に係る事故及び同事故を踏まえた対策⑴

被告東電における平成3年の海水漏えい事故



フランスのルブレイエ原子力発電所事故



台湾の馬鞍山原子力発電所事故



インドのマドラス原子力発電所の津波による電源喪失事故
4
国内の溢水による電源喪失についての知見


平成5年の全電源喪失事象の研究



溢水勉強会

第4

地震・津波に関する知見

1
本件設置等許可処分時の地震・津波に関する知見及びその後の進展等
2
4省庁報告書


策定経緯等



概要

3
7省庁手引及び津波災害予測マニュアル


策定経緯等



概要

4
津波浸水予測図


策定経緯等



概要

5
津波評価技術


策定経緯等



概要
被告東電の対応

6
長期評価



概要



長期評価の性質



長期評価の信頼度について



中央防災会議に採用されなかったこと


7
策定経緯等

長期評価の見解に対する専門家の評価
平成18年耐震設計審査指針


策定経緯等



バックチェックルール

8
貞観津波に関する知見

9
被告東電の対応


平成6年における被告東電による津波想定



太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査への対応について



7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針



津波評価技術に関わる検討(2002年推計)



長期評価の見解についての平成14年当時の検討



2008年推計



長期評価についての検討委託

第5

本件事故後のSPEEEDI情報の活用及び公表に関する状況

1
本件事故発生直後の状況

2
3月15日以前のSPEEDIの活用・公表の状況

第2章

本件設置等許可処分の違法性

第1

国賠法1条1項の違法

第2

原子炉設置許可処分及び変更許可処分に係る違法性の判断基準

第3

本件設置等許可処分の違法性

1
具体的審査基準

2
調査審議及び判断の過程について

3
原告らの主張について

第4

結論

第3章

経済産業大臣が規制権限を行使しなかったことの違法性

第1

規制権限不行使の違法性の判断枠組み

第2

省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性
1
原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限の有無

2
規制権限を定めた法令の趣旨,目的

3
被害法益の性質,重大性

4
予見可能性

5
結果回避可能性

6
規制権限行使における専門性,裁量性

7
まとめ

第3

省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性

第4

シビアアクシデント対策についての規制権限不行使の違法性

第5

本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性

第6

結論

第4章

被告国の本件事故後の対応の違法性

第1

本件事故後の避難指示の違法性

第2

本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性
第5章

被告国の責任に関するまとめ

第6章

被告東電の責任(民法709条及び民法717条1項に基づく請求の可否)
第5部

損害論に関する当裁判所の判断

第1章

認定事実

第1

本件事故前の原告らの居住地等

第2

本件事故後の状況

1
環境放射能状況

2
本件事故による避難者数の推移

3
本件事故後の新聞報道等の状況

4
除染状況
5
事業所や学校等の再開状況等

第3

賠償に関する各種基準の概要

1
中間指針

2
中間指針第一次追補

3
中間指針第二次追補

4
中間指針第四次追補

5
避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方

6
被告東電の賠償基準

第4

放射線に関する知見等

1
ICRPの勧告の概要

2
本件事故に関するICRPの勧告

3
本件事故後の我が国の放射線防護体制等

4
IAEA国際フォローアップミッション最終報告書

5
文部科学省通知

6
低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書
(平成23年1
2月22日)

7
UNSCEAR2013年報告書

8
帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置具体化のために)

9
10
第2章
第1

被ばく状況に関する調査の結果
本件事故による避難の合理性及び被害の分析
損害の総論に関する争点について
基本的な考え方

1
はじめに

2
財産的損害

3
精神的損害
4
弁済の抗弁等について

5
中間指針等について

第2

避難の相当性について

1
帰還困難区域

2
旧居住制限区域

3
旧避難指示解除準備区域

4
旧緊急時避難準備区域

5
自主的避難等対象区域

6
区域外

7
避難の合理性に関する原告の主張について

第3

財産的損害について

1
避難費用


交通費



宿泊費・謝礼



引越費用



敷金・礼金



一時立入・帰省費用



面会交通費

2
生活費増加費用


家財道具購入費



生活費増加分

光熱費


交通費


通信費


被服費


食費


家賃増加分



教育費

3
就労不能損害

4
財物損害

5
生命・身体的損害

6
その他(被ばく検査費用,線量計購入費用,除染費用等)

第4

精神的損害について

1
被侵害利益

2
避難に伴う慰謝料


帰還困難区域



旧居住制限区域



旧避難指示解除準備区域



旧緊急時避難準備区域



自主的避難等対象区域



区域外

3
慰謝料増額事由の有無

第3章

各原告の損害額

第6部

結論

第1部

請求及び事案の概要(以下使用する略語・用語については,別紙略語・用語一覧の例による。)第1章

請求

被告らは,別紙認容額等一覧表原告番号欄記載の各原告に対し,連帯して各原告に係る同表請求額欄記載の各金員及びこれらに対する平成23年3月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2章

事案の概要
本件は,平成23年3月11日に発生した本件地震及びこれに伴う津波の影響で,被告東電が設置し運営する福島第一原発から放射性物質が放出されるという本件事故が発生したことにより,福島県内から愛知県,岐阜県及び静岡県へ避難を余儀なくされたと主張する者又はその相続人である原告らが,被告東電に対しては,福島第一原発の敷地高さを超える津波の発生等を予見しながら,福島第一原発の安全対策を怠ったと主張して,原賠法3条1項,民法709条又は民法717条1項に基づき,被告国に対しては,経済産業大臣が被告東電に対して電気事業法に基づく規制権限を行使しなかったこと等が違法であると主張して,国賠法1条1項に基づき,各原告番号に対応する別紙認容額等一覧表請求額欄記載の各損害賠償金及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求めた事案である。
第2部
第1

前提事実
福島第一原発の施設の概要等
被告東電は,福島県双葉郡大熊町及び同郡双葉町に福島第一原発を設置し,運
転してきた東京電力株式会社が会社分割及び商号変更を経た株式会社であり,本
件事故に関し,原賠法2条3項の原子力事業者である。
1
福島第一原発の概要


施設の概要,規模,性能,設置経緯等(甲A1の1・本文編9頁)福島第一原発は,福島県双葉郡大熊町及び同郡双葉町に位置し,東は太平洋に面している。敷地は海岸線に長軸を持つ半長円状の形状となっており,敷地全体の広さは約350万㎡である。福島第一原発は,被告東電が初めて建設・運転した原子力発電所であり,昭和42年4月に1号機の建設に着工して以来,順次増設を重ね,平成23年3月時点で6基の沸騰水型原子炉(BWR)を有していた。各号機の発電設備の規模,性能等については別紙1(甲A1の1・資料編Ⅱ-1)のとおりである。なお,BWRを使用した発電の仕組みは別紙2(甲A1の1・資料編Ⅱ-2)のとおりであり,原子炉で水を沸騰させ,発生した蒸気で直接タービンを回す構造となっている(なお,発電の仕組みの。


施設の配置,構造,高さ等(甲A1の1・本文編9,19,25,28頁,
資料編Ⅱ-20)

1号機から4号機までは福島県双葉郡大熊町に,
5号機及び6号機は同郡
双葉町に設置されている。各号機の配置は,別紙3(甲A1の1・資料編Ⅱ-3)のとおりである。各号機は,原子炉建屋(R/B),タービン建屋(T/B),コントロール建屋,サービス建屋,放射性廃棄物処理建屋等から構成されている。これら建屋のうち一部については,隣接プラントと共用となっているものがある。各建屋の配置は,別紙4(甲A1の1・資料編Ⅱ-4)のとおりである。


1号機ないし4号機側主要建屋設置エリアの敷地高さは,O.P.+10mであり,5号機及び6号機側主要建屋設置エリアの敷地高さは,O.P.+13mである。
福島第一原発各号機の非常用海水系ポンプ及び非常用ディーゼル発電設備冷却系ポンプが設置されている海側部分の敷地高さは,いずれもO.P.+4mである。



施設運営の体制等(甲A1の1・本文編9,10頁)

通常運転時の体制
平成23年3月11日現在の被告東電の組織については,別紙5(甲A1の1・資料編Ⅱ-5)のとおりである。福島第一原発には,発電所長の下に,ユニット所長2人,副所長3人が置かれており,その下に総務部,防災安全部,広報部,品質・安全部,技術総括部,第一運転管理部,第二運転管理部,第一保全部及び第二保全部が置かれている(甲A1の1・資料編Ⅱ-6参照)。また,原子炉施設の運転は,被告東電の従業員から成る当直が担当している。当直は,第一及び第二運転管理部長の下で,それぞれ1号機及び2号機,
3号機及び4号機,
5号機及び6号機の各担当に分かれる。
各担当は,
原則として,当直長1人,当直副長1人,当直主任2人,当直副主任1人,主機操作員2人及び補機操作員4人の合計11人で一つの班を構成し,更に
5個班による交代制勤務をとることにより24時間体制で原子炉施設の運転に従事している(甲A1の1・資料編Ⅱ-7参照)。
次に,福島第一原発に所属する被告東電の従業員は約1100人であり,このほかに,プラントメーカーや防火,警備等を担当する協力企業の従業員が常駐しており,
その数は約2000人である。
なお,
本件地震発生当時は,
被告東電の従業員約750人が構内に勤務していたほか,
4号機から6号機
までの定期検査等により,常駐する協力企業の従業員数を含めて,約5600人の協力企業の従業員が構内に勤務していた。

緊急時の体制
福島第一原発では,原災法7条1項に基づき,福島第一原子力発電所原子力事業者防災業務計画が定められており,原災法10条の特定事象の通報を行った場合には第1次緊急時態勢,
原災法15条の特定事象の報告を行
った場合又は同条の特定事象に基づく原子力災害の情勢に応じて,事故原因
の除去,
原子力災害の拡大の阻止その他必要な活動を迅速かつ円滑に行うとされている。
第1次緊急時態勢が発令された場合には,
福島第一原発では緊急時対策本
部が設置される。緊急時対策本部は,情報班,通報班,広報班,技術班,保安班,復旧班,発電班,資材班,厚生班,医療班,総務班及び警備誘導班により構成され,
それぞれの役割に応じて原子力災害に対応する防災体制を確
立することとしている(甲A1の1・資料編Ⅱ-6参照)。この体制は,第2次緊急時態勢が発令された場合においても同一である。
また,原子力施設の運転は発電班に組み込まれた当直が担い,その体制は通常運転時と同様である。


原子力発電の仕組み
ウラン235などの原子核(核分裂性原子核)は,中性子を吸収するなどして不安定な状態になると,
分裂して二つ以上の別の原子核
(核分裂生成物)
に変わるとともに,数個の中性子を放出する(核分裂反応)ことがあるが,このとき分裂前の原子核が質量として持っていた結合エネルギーの一部が新しく発生した原子核等の運動エネルギーに変わる。
こうして発生した中性
子は光速に近い速度を持つが,これを別の物質(減速材)に衝突させて十分に減速すれば(このように減速された中性子を熱中性子という。),別の核分裂性原子核に吸収され易くなり,核分裂反応を継続させることができる。また,核分裂反応により発生した原子核等が周囲の物質に衝突すると,周囲の物質の熱運動を増大させる(温度を上昇させる)から,核分裂性物質の周囲を別の物質(冷却材)で満たしておけば,核分裂性物質が冷却材を暖める燃料として働き,熱エネルギーを取り出すことができる(丙A1・19ないし23頁)。


原子力発電においては,原子炉内で核分裂反応を発生させ,取り出した熱エネルギーを用いて水蒸気を発生させ,
これを発電機のタービンに吹き付け
て回転させるという方法で発電している。自然界に存在するウランは,大部分
(約99.
3パーセント)
が核分裂反応を起こし難いウラン238であり,
核分裂性物質であるウラン235は約0.7パーセントにすぎない。我が国の原子力発電所では,一般に,燃料としてウラン235の濃度を数パーセントに高めた二酸化ウランを円柱状に焼き固めてペレットにして用いている(丙A1・20ないし22頁)。


原子力発電所は,原子炉の出力を一定にするため,核分裂反応の量が一定に維持されるよう(臨界状態)に制御しながら運転する。BWRは,中性子を吸収するための制御棒の出し入れと,炉心を流れる冷却水の流量(再循環流量)の調節により,炉心の出力(核分裂反応の量)が一定になるように制御し運転する。すなわち,制御棒は,原子炉の反応度を制御するための中性子吸収材と構造材から構成されており,
制御棒を燃料集合体の間に入れると
中性子が吸収され,
核分裂反応が抑制され,
原子炉の出力が低下する。
また,
BWRでは冷却水中に沸騰による気泡が存在するので,
再循環流量が変化す
ると単位体積当たりの減速材(冷却水)の量が変化する。このため,再循環流量を変化させることにより,熱中性子の量,つまり核分裂反応の量を調節することができる。そこで,運転を継続することにより燃料中のウラン235の濃度が低くなると,
制御棒を若干引き抜いてこれに吸収される中性子の
量を減らすとともに再循環流量を減らして中性子の量を調節し,
運転時間に
応じて再循環流量を増加していく(丙A1・25頁)。
原子炉施設の安全を確保するための仕組み(甲A1の1・本文編11ないし14頁,25頁)
原子炉施設には,
ウランの核分裂により生じた強い放射能を持つ放射性物質
が原子炉内に存在する。そこで,何らかの異常・故障等により放射性物質が施設外へ漏出することを防止するために,
原子炉施設には多重防護の考え方に基
づいて複数の安全機能が備え付けられている。具体的には,異常の発生の防止,異常の拡大及び事故への進展の防止及び周辺環境への放射性物質の異常放出防止を図ることにより周辺住民の放射線被ばくを防止することで
あり,異常の拡大及び事故への進展の防止の観点からは,異常を検出して原子炉を速やかに停止する機能(止める機能)が,周辺環境への放射性物質の異常放出防止の観点からは,原子炉停止後も放射性物質の崩壊により発熱を続ける燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける機能(冷やす機能)及び燃料から放出された放射性物質の施設外への過大な漏出を抑制する機能(閉じ込める機能)がそれぞれ備え付けられている。

止める機能(原子炉停止機能)
原子炉を止める機能を担う設備は,原子炉停止系と呼ばれ,原子炉停止系は,
原子炉に異常が発生した際に炉心における核分裂反応を停止させて出力を急速に低下させるため,炉心に大きな負の反応度を与える設備である。制御棒は,原子炉停止系の代表的な設備であり,原子炉の異常時には燃料の損傷を防ぐため急速に制御棒を炉心に挿入して,
原子炉を緊急停止
(スクラム)
させる。また,原子炉停止系の設備であるほう酸水注入系は,ほう酸貯蔵タンク,ポンプ,テストタンク,配管,弁等から構成され,制御棒が挿入不能の場合に,
原子炉に中性子吸収材であるほう酸水を注入して負の反応度を与
えて原子炉を停止する機能を有する。

冷やす機能(原子炉冷却機能)
炉心に制御棒を挿入して原子炉を停止させた場合においても,
燃料棒内に
残存する多量の放射性物質の崩壊により発熱が続くことから,
燃料の破損を
防止するために炉心の冷却を続ける必要がある。そこで,原子炉施設には通常の給水系の他に様々な注水系が備えられている。かかる注水系は,原子炉で発生する蒸気を駆動源とするタービン駆動ポンプ又は電動ポンプにより,原子炉へ注水する。また,注水系には,原子炉が高圧の状態の場合でも注水が可能な高圧のものと,
原子炉の減圧をすることによって初めて注水が可能
となる低圧のものがある。
福島第一原発の各号機に設置されている原子炉冷却機能を有する主な設備は,以下のとおりである。
1号機
1号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,炉心スプレイ系(CS)2系統,非常用復水器(IC)2系統,高圧注水系(HPCI)1系統,原子炉停止時冷却系(SHC)1系統及び格納容器冷却系(CCS)2系統が設置されている(甲A1の1・資料編Ⅱ-8参照)。炉心スプレイ系(CS)とは,何らかの原因により冷却材喪失事故によって炉心が露出した場合に,
燃料の過熱による燃料及び被覆管の破損を防
ぐために,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,炉心上に取り付けられたノズルから燃料にスプレイすることによって,
炉心を冷却する設備
である。
非常用復水器(IC)とは,主蒸気管が破断するなどして主復水器が利用できない場合に,
圧力容器内の蒸気を非常用の復水器タンクにより水へ
凝縮させ,その水を炉内に戻すことによって,ポンプを用いずに炉心を冷却する設備であり,最終的な熱の逃し先は大気である。
高圧注水系(HPCI)とは,配管破断等を原因として冷却材喪失事故が発生したような場合に,
圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるター
ビン駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク又は圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,
圧力容器内へ注水することによって炉心を冷却する設備で
ある。
原子炉停止時冷却系(SHC)とは,原子炉停止後,炉心の崩壊熱並びに圧力容器及び冷却材中の保有熱を除去して,
原子炉を冷却する設備であ
る。
格納容器冷却系(CCS)とは,冷却喪失事故が発生した際に,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,格納容器内にスプレイすることによって,格納容器を冷却する設備である。
2号機から5号機
2号機から5号機までには,原子炉冷却機能を有する主な設備として,前記炉心スプレイ系(CS)2系統及び高圧注水系(HPCI)1系統のほか,原子炉隔離時冷却系(RCIC)1系統及び残留熱除去系(RHR)2系統が設置されている(甲A1の1・資料編Ⅱ-8参照)。
原子炉隔離時冷却系(RCIC)とは,原子炉停止後に何らかの原因で給水系が停止した場合等に,
圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるタ
ービン駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク又は圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,蒸気として失われた冷却材を原子炉に補給し,炉心を冷却する設備である。
残留熱除去系(RHR)とは,原子炉停止時の残留熱の除去を目的とするもので,
弁の切替操作により使用モードを変え,
原子炉停止時冷却系
(S
HC),低圧注水系(LPCI)及び格納容器冷却系(CCS)として利用できるようになっている。
6号機
6号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,前記原子炉隔離時冷却系(RCIC)1系統及び残留熱除去系(RHR)3系統のほか,高圧炉心スプレイ系(HPCS)1系統及び低圧炉心スプレイ系(LPCS)1系統が設置されている(甲A1の1・資料編Ⅱ-8参照)。高圧炉心スプレイ系(HPCS)とは,配管破断等を原因として冷却材喪失事故が発生したような場合に,復水貯蔵タンク又は圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,燃料にスプレイすることによって,炉心を冷却する。
低圧炉心スプレイ系(LPCS)とは,配管破断等を理由として冷却材喪失事故が発生したような場合に,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,
炉心上に取り付けられたノズルから燃料にスプレイすることによって,炉心を冷却する。
非常用海水系ポンプ
CCS(1号機)及びRHR(2号機ないし6号機)の熱交換器を除熱するために冷却水となる海水を供給する冷却用海水ポンプを非常用海水系ポンプという。
いずれの非常用海水系ポンプも作動するためには690
0Vの交流電源を必要とする。

閉じ込める機能(格納機能)
原子炉施設の潜在的な危険性は,
原子炉内に蓄積される放射性物質の放射
能が極めて強いことにある。したがって,放射性物質の施設外への過大な放出を防止するための機能が原子炉施設には備えられている。
格納機能を有するものの第一はペレットであるが,これは,原子炉の燃料そのものであり,
化学的に安定した物質である二酸化ウランの粉末を陶器の
ように焼き固めたもので,
放射性物質の大部分をこの中に留めることができ
る。
第二は,燃料棒の周りを覆う被覆管である。ペレットは,被覆管の中に納められて燃料棒を構成している。この被覆管は気密に作られており,ペレットの外に出てくる放射性物質を被覆管の中に留めることができる。第三は,燃料棒が格納されている圧力容器である。何らかの原因により,被覆管が破損すると放射性物質が冷却材中に漏出することとなるが,圧力容
器は高い圧力にも耐えられる構造となっており,また気密性も高いことから,その中に漏出した放射性物質を留めることができる。
第四は,圧力容器を包み込む格納容器である。格納容器は,鋼鉄製の容器であり,圧力容器を含む主要な原子炉施設を覆っている。
第五は,格納容器が納められている原子炉建屋(R/B)である。⑸

電源設備

外部電源設備(甲A1の1・本文編31,32頁,甲A1の2・本文編111頁,資料編Ⅱ-4-1,2)
発電所の運転に必要な電気は,通常,発電所で発電された電力の一部が利用される。しかし,定期検査中及び何らかの原因で原子炉が緊急停止(スクラム)した際など発電が停止している間については,発電所で消費される電気は,外部から供給される。
福島第一原発が受電する外部電源は,
主に福島第一原発の南西約9㎞の場
所に位置する東京電力猪苗代電力所新福島変電所(以下新福島変電所という。)から供給を受けていた。
具体的には,1号機及び2号機には,新福島変電所から,大熊線1号線及び同2号線を通じて27万5000Vの電気が供給され,この電気は,1号機の原子炉建屋(R/B)の西側に設置された1・2号機超高圧開閉所(以下1/2号開閉所という。)を経由して,1号機及び2号機の各タービン建屋
(T/B)
西側に設置された起動変圧器
(STr1S及びSTr2S)
で6900Vに降圧され,1号機及び2号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C)(常用M/Cの一つであり,常用M/Cを介して,非常用M/Cに供給するもの。1号機の共通M/Cは1号機タービン建屋(T/B)1階に,2号機の共通M/Cの一つは2号機原子炉建屋(R/B)南側に設置された専用建屋1階に,もう一つは2号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていた。)に供給されていた。
また,1号機には,予備線として,東北電力株式会社富岡変電所から東北電力原子力線を通じて,6万6000Vの電気が供給されており,それは,福島第一原発構内の予備変電所に設置された変圧器で6900Vに降圧され,1号機の共通金属閉鎖配電盤(M/C)に供給されていた。
3号機及び4号機には,
新福島変電所から大熊線3号線及び同4号線を通
じて27万5000Vの電気が供給され,この電気は,3号機の原子炉建屋(R/B)の西側に設置された3・4号機超高圧開閉所を経由して,3号機のタービン建屋(T/B)西側に設置された起動変圧器(STr3SA及びSTr3SB)で6900Vに降圧され,3号機及び4号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C,3号機及び4号機のコントロール建屋(C/B)地下1階に設置されていた。)に供給されていた。
1号機用の共通金属閉鎖配電盤(M/C)と2号機用との間,2号機用と3,4号機用との間は,相互に接続され,電力融通が可能であった(甲A1の2・資料編Ⅱ-4-1,丙A5の1・Ⅳ-30頁)。
5号機及び6号機には,
新福島変電所から夜の森線1号線及び同2号線を
通じて6万6000Vの電気が供給され,
この電気は,
6号機原子炉建屋
(R
/B)の西側に設置された5・6号機66kV開閉所(以下66kV開閉所という。)を経由して,5号機及び6号機のコントロール建屋(C/B)西側に設置された起動変圧器(STr5SA及びSTr5SB)で6900Vに降圧され,5号機及び6号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C,5号機及び6号機のコントロール建屋(C/B)地下1階に設置されていた。)に供給されていた。

非常用ディーゼル発電機(DG)(甲A1の1・本文編27,28頁,434頁)
非常用ディーゼル発電機(DG)は,外部電源が喪失したときに原子炉施設に交流電源(6900V)を供給するための非常用予備電源設備であり,ディーゼルエンジンで駆動する発電機である。非常用ディーゼル発電機(DG)は,非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)に電源を供給し,外部電源が喪失した場合でも,原子炉を安全に停止するために必要な電力を供給する。本件事故の発生時点の福島第一原発には,
非常用ディーゼル発電機
(DG)
が各号機2台ずつ各号機専用として設置されていた。
非常用ディーゼル発電機(DG)には,海水冷却式(水冷式)のものと空気冷却式(空冷式)のものがあり,水冷式のものには,これを冷却するための海水ポンプが付属している。2号機B系,4号機B系及び6号機B系は空冷式であり,これら以外は全て水冷式であった(6号機にはさらに高圧炉心スプレイ系(HPCS)用1台が設置されていた。)。
1号機,
3号機及び5号機については,
空冷式非常用ディーゼル発電機
(D
G)が設置されていなかったが,1号機については2号機の空冷式非常用ディーゼル発電機(DG)による電源の融通を,3号機については4号機の空冷式非常用ディーゼル発電機(DG)による電源の融通を,5号機については6号機の空冷式非常用ディーゼル発電機(DG)による電源の融通をそれぞれが受けることができる仕組みになっていた。
各号機に設置されている非常用ディーゼル発電機(DG)の設置場所は,別紙6(甲A1の1・資料編Ⅱ-21)の表1のとおりであり,水冷式の非常用ディーゼル発電機(DG)に付属する冷却用海水ポンプの設置場所は,別紙7(甲A1の1・資料編Ⅱ-20)のDGSWポンプ記載のとおりである。

金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)(甲A1の1・本文編30頁)
金属閉鎖配電盤(M/C)とは,6900Vの所内高電圧回路に使用される動力用電源盤で,
遮断器,
保護継電器,
付属計器等を収納したものであり,
常用,共通及び非常用の3系統に分かれて設備されている。
パワーセンター(P/C)とは,金属閉鎖配電盤(M/C)から変圧器を経て降圧された480Vの所内低電圧回路に使用される動力用電源盤で,遮
断器,保護継電器,付属計器を収納したものであり,常用,共通及び非常用の3系統から成る。
常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,通常運転時に使用される設備に接続されているものであり,そのうち,隣接号機等への給電にも用いられている系統を共通系という。
非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,外部電源が喪失した際に非常用ディーゼル発電機
(DG)
から電気が供給され,
非常時に使用する設備及び通常運転時に使用する設備のうち非常時にも使用するものに接続されている。
各号機に設置されている非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)の設置場所及び設置高さは,別紙6(甲A1の1・資料編Ⅱ-21)の表2のとおりである。
2
福島第一原発の設置許可処分又は変更許可処分,運転開始


設置許可処分又は変更許可処分(争いのない事実)
福島第一原発1号機ないし4号機の設置許可処分又は変更許可処分(以下本件設置等許可処分という。)は,以下のとおりされた。


昭和41年12月1日設置許可処分



2号機

昭和43年3月29日変更許可処分



3号機

昭和45年1月23日変更許可処分




1号機

4号機

昭和47年1月13日変更許可処分

運転開始及びその後の運転状況
被告東電は,前記のとおり,福島県双葉郡双葉町及び大熊町に福島第一原発を建設し,昭和46年3月に1号機,昭和49年7月に2号機,昭和51年3月に3号機,昭和53年4月に5号機,同年10月に4号機,昭和54年10月に6号機の運転をそれぞれ開始し,平成23年3月時点で,1号機から6号機までの合計6機の沸騰水原子炉(BWR)が完成していた(甲A1の1・資料編Ⅱ-1)。
本件事故発生前までに,福島第一原発について,法令・通達に基づいて被告国に対して報告されたトラブルは,1号機54件,2号機51件,3号機31件,4号機20件,5号機21件,6号機29件の合計206件であった(丙A16)。また,福島第一原発において,運転開始から平成23年2月末までに,1号機については26回,2号機については25回,3号機ないし5号機についてはいずれも24回,
6号機については22回の定期検査が実施されて
いる(丙A17)。

第2

本件事故の概要

1
本件地震とそれに伴う本件津波の発生


本件地震の概要(甲A1の1・本文編15,16頁)
平成23年3月11日午後2時46分,
三陸沖を震源とするマグニチュード
(以下Mという。)9.0の本件地震が発生した。震源は,牡鹿半島の東南東約130㎞付近(北緯38°06.2’,東経142°51.6’),深さ約24㎞である。本件地震は,国内観測史上最大規模であり,宮城県栗原市で震度7,宮城県,福島県,茨城県及び栃木県の4県37市町村で震度6強を観測したほか,東日本を中心に,北海道から九州地方にかけての広い範囲で震度6弱から震度1を観測した。
気象庁は,本件地震を平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震と命名した。また,政府は,本件地震による災害について東日本大震災と呼称することを閣議了解した。
本件地震は,西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で,太平洋プレートと陸のプレートの境界の広い範囲で破壊が起きたことにより発生した。地震活動は,本震-余震型で推移しており,M7.0以上の余震が5回,M6.0以上の余震が82回,M5.0以上の余震が506回発生するなど余震活動は非常に活発であった。
余震は,
岩手県沖から茨城県沖にかけての北北東-南南西方向に延びる長さ約500㎞,幅約200㎞の範囲に密集して発生しているほか,震源域に近い海溝軸の東側,
福島県及び茨城県の陸域の浅い場所も含めた広い範囲で発生し
ている。観測された最大余震は,平成23年3月11日午後3時15分に茨城県沖で発生したM7.7の地震である。


本件津波の概要(甲A1の1・本文編16頁)
本件地震により,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に,北海道から沖縄県にかけての広い範囲で津波を観測した。
各地の津波観測施設では,福島県相馬で高さ9.3m,宮城県石巻市鮎川で高さ8.6mなど,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に非常に高い津波が観測されたほか,
北海道から鹿児島にかけての太平洋沿岸や小笠原諸島
で1m以上の津波を観測した。
気象庁が,津波観測施設及びその周辺地域において,各地の津波による被害や津波の到達状況等について現地調査を実施したところ,
岩手県沿岸では10
mを超える津波が到達していたことが判明したほか,
北海道から四国に至る太
平洋沿岸各地で数mの津波の痕跡を観測した。
本件地震に伴う津波は,カナダ,アメリカ合衆国(以下米国という。),中南米等の太平洋沿岸においても観測され,米国,チリ等では最大高さ2mを超える津波が観測されている。


本件地震とそれに伴う本件津波による被害の概観
(甲A1の1・本文編16,
17頁)
国土地理院の調査によれば,本件津波による浸水範囲面積は,宮城県が327㎢と最も大きく,次いで福島県が112㎢,岩手県が58㎢となっており,青森県,岩手県,宮城県,福島県,茨城県及び千葉県の6県62市町村の浸水範囲面積の合計は561㎢である。本件地震及びそれに伴う本件津波により,1都1道10県で死者1万5840人,6県で行方不明者3547人,1都1道18県で負傷者5951人の人的被害が発生している
(平成23年12月1
日現在)。



福島第一原発の被災状況の概要(甲A1の1・本文編17ないし19頁)ア
本件地震発生直前の福島第一原発の運転状況
1号機は,定格電気出力一定運転を行っており,地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は25℃であった。2号機及び3号機は,定格熱出力一定運転を行っており,地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位はいずれも満水,2号機のプール水温は26℃,3号機のプール水温は25℃であった。
4号機は,平成22年11月30日から定期検査中であり,シュラウド取替え等の圧力容器内の工事が予定されていたことから全燃料が圧力容器から使用済燃料プールに取り出されていた。また,地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は27℃であった。5号機は,平成23年1月3日から定期検査中であり,原子炉では燃料が装荷され,かつ,制御棒が全挿入された状態で圧力容器内に窒素を封入する耐圧漏えい試験を実施しており,原子炉圧力が7.2MPaまで昇圧されていた。
また,
地震発生前の当直による確認で使用済燃料プールの水位は満水,
水温は24℃であった。
6号機は,平成22年8月14日から定期検査中であり,原子炉は燃料が装荷され,かつ,制御棒が全挿入された冷温停止状態であった。また,地震発生前の当直による確認で使用済燃料プールの水位は満水,
水温は25℃で
あった。

福島第一原発で観測された地震動及び津波
地震動
本件地震に際し,
福島第一原発が位置する福島県双葉郡大熊町及び双葉
町において観測された最高震度は6強であり,
震度5弱以下の余震が多数
回観測された。なお,地震情報の詳細は別紙8(甲A1の1・資料編Ⅱ-10)のとおりである。福島第一原発では,敷地地盤,各号機の原子炉建屋(R/B)及びタービン建屋(T/B)並びに地震観測室に地震計を設置し,計53か所で地震動の観測を行っている。これらの地震計により得られた観測記録のうち,各号機の原子炉建屋(R/B)基礎版上で得られた最大加速度は別紙9(甲A1の1・18頁表Ⅱ-1)のとおりである。観測記録によると,2号機,3号機及び5号機において,東西方向の最大加速度が基準地震動(Ss)に対する最大応答加速度値を上回っている。津波
本件津波の第1波は,平成23年3月11日午後3時27分頃,福島第一原発に到達している。また,第2波は,同日午後3時35分頃に到達しており,その後も断続的に福島第一原発に津波が到達している。これらの津波により,
福島第一原発の海側エリア及び主要建屋設置エリアはほぼ全
域が浸水した。
浸水域,
浸水高及び浸水深の詳細は別紙10
(甲A1の1・
資料編Ⅱ-11)のとおりである。
1号機から4号機側主要建屋設置エリアの浸水高
(小名浜港工事基準面
(O.P.)からの浸水の高さ)は,O.P.+約11.5mないし+約15.5mであった。同エリアの敷地高はO.P.+10mであることから,浸水深(地表面からの浸水の高さ)は約1.5mないし約5.5mであった。同エリアの南西部では,局所的に,O.P.+約16mないし+約17mの浸水高が確認されており,
浸水深は約6mないし約7mであっ
た。また,5号機及び6号機側主要建屋設置エリアの浸水高は,O.P.+約13mないし+約14.5mであった。同エリアの敷地高はO.P.+13mであることから,浸水深は約1.5m以下であった。
2
本件事故の発生状況


地震発生から津波到達前までの各号機の稼働状況等(甲A1の1・本文編17,28,30,32ないし34,215,236頁,丙A5の1・Ⅳ-76)平成23年3月11日午後2時46分頃,本件地震が発生し,地震発生後1分以内に,1号機,2号機及び3号機の原子炉は自動停止した。4号機は,本件地震発生当時施設定期検査中であり,
使用済み燃料プールには比較的崩壊熱
の高い燃料が1炉心分貯蔵されていた。
また,1号機及び2号機については,大熊線1号線系統の1/2号開閉所内の遮断器の損傷,
大熊線2号線系統の1/2号開閉所内遮断機及び断路器の損
傷及び東北電力原子力線系統のケーブル不具合により,
3号機及び4号機につ
いては,
大熊線3号線系統及び大熊線4号系統の新福島変電所の遮断器の作動停止により,いずれの号機においても外部電源が喪失した。
このため,同日午後2時47分頃から同日午後2時49分頃までの間に,定期検査中であった4号機A系を除いて,
全ての非常用ディーゼル発電機
(DG)
が起動し,各号機へ非常用電源が供給された。
なお,非常用ディーゼル発電機(DG)が給電している非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,地震による損傷を受けなかった。他方で,共通系を含む常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,地震発生とほぼ同時に外部電源の供給が停止されたことから,その機能を喪失するに至った。


津波到達後の各号機のディーゼル発電機(DG)の機能(甲A1の1・本文編28,29頁)
津波到達後,
1号機から6号機までに設置された13台の非常用ディーゼル
発電機(DG)のうち,2号機B系,4号機B系及び6号機B系を除いた全ての非常用ディーゼル発電機(DG)が機能を喪失した。各非常用ディーゼル発電機(DG)の被害状況は以下のとおりである。

1号機
1号機A系及びB系は,1号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていたことから,津波により非常用ディーゼル発電機(DG)そのものが被水し,機能を喪失した。


2号機
2号機A系は,2号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていたところ,津波により非常用ディーゼル発電機(DG)が被水し,機能を喪失した。また,2号機B系については,運用補助共用施設(以下共用プールという。)1階に設置されていたことから,非常用ディーゼル発電機(DG)の被水は免れた。ただし,その給電する金属閉鎖配電盤(M/C)の損傷・機能の状態については,後記⑶アのとおり。


3号機
3号機A系及びB系については,3号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていたことから,津波により非常用ディーゼル発電機(DG)が被水し,機能を喪失した。

4号機
4号機A系については,定期検査中であったことから,機能していない状況であった。4号機B系については,共用プール1階に設置されていたことから,非常用ディーゼル発電機(DG)の被水は免れた。ただし,その給電する金属閉鎖配電盤(M/C)の損傷・機能の状態については,後記⑶アのとおり。


5号機
5号機A系及びB系については,5号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されており,非常用ディーゼル発電機(DG)は被水しなかったものの,冷却用海水ポンプ又は電源盤の被水により機能を喪失した。


6号機
6号機A系及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)用については,6号機原子炉建屋
(R/B)
地下1階に設置されており,
非常用ディーゼル発電機
(D
G)の被水は免れた。しかし,非常用ディーゼル発電機(DG)の冷却に必要な冷却用海水ポンプが被水したことから機能を喪失した。B系については,ディーゼル発電機6B建屋1階に設置されており,津波による被害を受けず,機能を維持していた。



津波到達後の各号機の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)の機能(甲A1の1・本文編30,31頁)

金属閉鎖配電盤(M/C)
1号機から6号機までに設置された15台の非常用金属閉鎖配電盤(M/
C)のうち,6号機原子炉建屋(R/B)に設置されていた6号機C系,D系及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)用を除く全ての金属閉鎖配電盤(M/C)が津波により被水し,機能を喪失した。


パワーセンター(P/C)
1号機から6号機までに設置された15台の非常用のパワーセンター(P
/C)のうち,2号機タービン建屋(T/B)1階に設置されていた2号機C系及びD系,4号機タービン建屋(T/B)1階に設置されていた4号機D系,6号機原子炉建屋(R/B)地下2階に設置されていた6号機C系,原子炉建屋(R/B)地下1階に設置されていた6号機D系及び6号機ディーゼル発電機専用建屋地下1階に設置されていた6号機E系を除く全てのパワーセンター(P/C)が,津波により被水し,機能を喪失した。⑷

津波到達後の各号機の稼働状況等
上記⑵及び⑶のとおり,津波到達後間もなく,非常用ディーゼル発電機(DG)や電源盤の多くが津波により被水し,それらの機能を喪失するに至った結果,1号機から5号機は全交流電源を喪失するに至った。加えて,1号機及び2号機では直流電源も喪失する全電源喪失の状態となった。(甲A1の1・本文編34頁)

1号機
1号機は,全電源喪失の状態となったことにより,制御盤上の操作による非常用復水器
(IC)
の隔離弁の操作ができない状態となり,
高圧注水系
(H
PCI)も起動不能となった。また,この時期に原子炉格納容器冷却系,機器の冷却に必要な非常用海水系も機能喪失し,炉心の冷却が不可能となった。(甲A1の1・本文編92ないし94頁)
平成23年3月11日午後5時30分頃までには,炉心上部が露出し,更にその1時間後には炉心損傷が始まり,水素の発生も起こり始めていた(甲A2・146頁,丙A5の1・Ⅳ-40頁)。さらに,同日午後9時50分頃には,放射性物質が,充満した原子炉格納容器から原子炉建屋(R/B)への流出を既に開始していた(甲A2・145,146頁)。
同月12日午後3時36分頃,
水素ガスによる爆発が原子炉建屋
(R/B)
内で起き,原子炉建屋(R/B)の屋根及び5階部分の外壁が吹き飛び,原子炉建屋(R/B)内に充満していた放射性物質も拡散した(甲A1の1・本文編165頁,甲A1の2・本文編47頁)。

2号機
2号機は,平成23年3月11日午後3時36分頃から,津波の影響を受けて,残留熱除去系(RHR)ポンプが運転を順次停止したことにより,残留熱除去系の機能が喪失,
崩壊熱を最終ヒートシンクである海に移行させる
ことができない状態となった。さらに,同月14日午後1時25分頃,原子炉隔離時冷却系(RCIC)が停止した。同日午後6時22分には,炉心が完全に露出したが,その後,消防車による海水の注入が開始され,原子炉圧力の上昇と降下が反復され,同日午後9時20分に2台の逃し安全弁(SR弁)を開くことで原子炉の減圧を加速し,これが効を奏して原子炉圧力容器への注水が進むようになった。このような中,同月15日午前6時頃,圧力抑制室(S/C)付近において水素爆発によるものと思われる衝撃音が確認された。原子炉建屋(R/B)には外観上損傷はないが,隣接する廃棄物処理建屋の屋根が破損していることが確認された。
これらの過程で放射性物質
が放出された。(甲A2・149,150頁,丙A5の1・Ⅳ-51,52頁)


3号機
3号機は,平成23年3月11日午後3時38分頃には,津波の影響を受けて,残留熱除去系(RHR)ポンプが運転を順次停止したことにより,残留熱除去系の機能が喪失,
崩壊熱を最終ヒートシンクである海に移行させる
ことができない状態となった。もっとも,3号機は,バックアップ用の蓄電池により,他号機と比較して長時間,直流電源を要する負荷(原子炉隔離時冷却系(RCIC)弁や記録計等)に電流を供給した。
しかし,原子炉隔離時冷却系(RCIC)が,同月12日午前11時36分に停止し,同日午後零時35分に高圧注水系(HPCI)が自動起動したが,それも同月13日午前2時42分に停止した。そのため,原子炉への注水手段がなくなり,原子炉圧力が急上昇し,同日午前4時15分頃には炉心の露出が始まった。
同日午前9時25分頃から消防車による注水が開始され
たものの,同月14日午前11時1分,原子炉建屋(R/B)上部での水素爆発と思われる爆発が発生し,
オペレーションフロアから上部全体とオペレ
ーションフロア1階下の南北の外壁及び廃棄物処理建屋が損壊した。これら
の過程で放射性物質が放出された。(甲A2・148頁,丙A5の1・Ⅳ-63ないし65頁)

4号機
4号機は,定期検査中であり,原子炉内から全燃料を使用済燃料プールに取り出した状態であった。4号機は,津波の影響により,平成23年3月11日午後3時38分頃には全交流電源喪失の状態となり,
使用済燃料プール
の冷却機能及び補給水機能が喪失した。これにより,同月14日午前4時8分には水温が84℃に上昇し,
同月15日午前6時頃,
原子炉建屋
(R/B)
において水素爆発と思われる爆発が発生し,
オペレーションフロア1階下か
ら上部全体と西側と階段沿いの壁面が損壊した。(丙A5の1・Ⅳ-76,77頁)

3
放射性物質の拡散
本件事故により拡散した放射性物質の状況は以下のとおりであった。⑴

保安院は,平成23年4月12日,事故の重大さを0から7の8段階にレベル分けした国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)に基づき,本件事故をレベル7(深刻な事故)と評価したことを公表した(甲A1の1・本文編348,349頁)。



保安院は,
福島第一原発1号機ないし3号機から大気中に放出された放射性
物質の総量を推計し,平成23年4月12日と6月6日の2回にわたり,その結果を公表した。6月6日に公表された総量は,ヨウ素131が約16万テラベクレル,セシウム137が約1.5万テラベクレルであり,これらのヨウ素換算値は約77万テラベクレルとなる。また,原子力安全委員会も,大気中に放出された放射性物質の総量を推計し,
同年4月12日と8月24日の2回に
わたり,その結果を公表した。8月24日に公表された総量は,ヨウ素131が約13万テラベクレル,セシウム137が約1.1万テラベクレルであり,これらのヨウ素換算値は約57万テラベクレルとなる。(甲A1の1・本文編37,38,345,346頁)
4
避難指示,避難区域の設定等


被告東電は,平成23年3月11日午後4時36分頃,原災法(平成24年法律第47号による改正前のもの。以下同じ。)15条1項の特定事象(同法施行規則21条1号ロ参照)が発生したと判断し,同日午後4時45分頃,保安院に対し,その旨報告した(甲A1の2・本文編192,193頁,丙A113・3ないし6頁,丙A114・2,3頁)。



保安院は,
本件事故が原災法15条1項に規定する原子力緊急事態に該当す
ると判断し,平成23年3月11日午後5時35分頃,保安院次長らは,原災法15条2項に基づく原子力緊急事態宣言を発出することにつき,経済産業大
臣の了承を得た(甲A1の2・本文編193頁,丙A113・3ないし6頁,丙A114・2,3頁)。



経済産業大臣は,平成23年3月11日午後5時42分頃,保安院長らとともに,内閣総理大臣に対し,原災法15条1項に規定する原子力緊急事態の発生について報告するとともに,
原子力緊急事態宣言の発出について了承を求め
た(甲A1の2・本文編193頁,丙A113・3ないし6頁,丙A114・3,4頁)。



内閣総理大臣は,平成23年3月11日午後7時3分,原災法15条2項に基づき,福島第一原発について,原子力緊急事態宣言を発出し,同法16条1項に基づき,
内閣総理大臣を本部長とする原災本部及び原子力災害現地対策本
部を設置した(甲A1の2・本文編193,194,229頁)。⑸

福島県災害対策本部は,原子力緊急事態宣言を受け,通常の原子力防災訓練で行うこととなっている原子力発電所から半径2㎞圏内に避難指示を発出することを検討し,福島県知事は,平成23年3月11日午後8時50分,双葉町及び大熊町に対し,
福島第一原発から半径2㎞圏内の居住者等に対する避難
指示を要請した。ただし,この要請は,法令に基づくものではなく,事実上の措置として行われたものである。(甲A1の2・本文編229頁)


原災本部は,平成23年3月11日午後9時23分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径3㎞圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び福島第一原発から半径10㎞圏内の居住者等に対して屋内退避を指示した(甲A1の2・本文編230頁,乙B15)。



原災本部は,平成23年3月12日午前5時44分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径10㎞圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示した(甲A1の
2・本文編230頁)。



内閣総理大臣は,平成23年3月12日午前7時45分,原災法15条2項に基づき,福島第二原発について,原子力緊急事態宣言を発出し,同条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発から半径3㎞圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び半径10㎞圏内の住民の屋内退避を指示した(甲A1の2・本文編232頁)。



原災本部は,平成23年3月12日午後5時39分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発から半径10㎞圏内の住民の避難を指示した(甲A1の2・本文編233頁,乙B16)。

原災本部は,平成23年3月12日午後6時25分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径20㎞圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示した(甲A1の
1・本文編265頁,甲A1の2・本文編231頁,乙B17)。⑾
原災本部は,
平成23年3月15日午前11時,
原災法15条3項に基づき,
福島県知事及び関係自治体の長に対し,
福島第一原発から半径20㎞以上30
㎞圏内の居住者等に対しての屋内退避を指示した(甲A1の1・本文編266頁,甲A1の2・本文編232頁,乙B18)。


南相馬市は,
平成23年3月16日,
市民の生活の安全確保等を理由として,
その独自の判断に基づき,南相馬市の住民に対し,一時避難を要請した(乙B1の1・8頁)。


原災本部は,平成23年4月21日,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発に係る避難指示の対象区域を,福島第二原発から半径10㎞圏内から半径8㎞圏内に変更(縮小)することを指示した。これにより,福島第二原発についての避難区域は,全て福島第一原発についての避難区域に含まれることとなった。(甲A1の1・本文編266,267頁,甲A1の2・本文編233頁,乙B19)

5
警戒区域の設定等


原災本部は,
平成23年4月21日午前11時,
原災法20条3項に基づき,
福島県知事及び関係自治体の長に対し,
福島第一原発から半径20㎞圏内を警
戒区域
(原災法28条2項により読み替えて適用される災対法63条1項の規定による警戒区域)に設定し,緊急事態応急対策に従事する者以外の者に対して,市町村長が一時的な立入りを認める場合を除き,当該区域への立入りを禁止するとともに,当該区域からの退去を命ずることを指示し,同月22日午前零時,福島第一原発から半径20㎞圏内は,警戒区域に設定された(別紙11参照)。なお,警戒区域への立入制限に違反する場合には,10万円以下の罰金又は拘留の刑罰が科されることになる。(甲A1の1・本文編276頁,乙B20)


原災本部は,平成23年4月22日午前9時44分,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,以下のとおりの指示をした(甲A1の1・本文編273頁,乙B21)。

福島第一原発から半径20㎞から30㎞圏内の地域について,
屋内退避指
示を解除すること


葛尾村,浪江町,飯舘村,川俣町の一部及び南相馬市の一部であって,福島第一原発から半径20㎞圏内の区域を除く区域を計画的避難区域に設定したので,当該区域内の居住者等は,原則として概ね1か月程度の間に順次当該区域外へ避難のための立ち退きを行うこと


広野町,楢葉町,川内村,田村市の一部及び南相馬市の一部であって,福島第一原発から半径20㎞圏内の区域を除く区域を緊急時避難準備区域に設定したので,当該区域内の居住者等は,常に緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこと,なお,当該区域においては,引き続き自主的避難をし,特に子供,妊婦,要介護者,入院患者等は当該区域内に入らないようにすること,また,当該区域においては,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,その
場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくこと



原災本部は,本件事故発生以降1年間の積算線量が20mSvに達するおそれのある地点を特定避難勧奨地点とする方針を決め,
対象となる市町村と協議
した上,平成23年6月30日,同年7月21日,同年8月3日及び同年11月25日,原災法20条3項に基づき,伊達市霊山町,月舘町及び保原町における117地点128世帯,
川内村1地点1世帯並びに南相馬市原町区及び鹿
島区における142地点153世帯を,特定避難勧奨地点に設定し,関係地方公共団体に通知した(甲A1の1・本文編275頁,乙B23,24の1・2・4・6ないし8)。
6
警戒区域及び計画的避難区域の見直し等


原災本部は,平成23年8月9日,避難区域等の見直しに関する考え方を公表した。ここでは,緊急時避難準備区域については,ステップ1(安定的な冷却)の達成により原子力発電所の状況が著しく改善し,安全性の確認ができたことから,それぞれの市町村において復旧計画の策定が完了した段階で,政府として緊急時避難準備区域を一括して解除する方針が示された。また,警戒区域及び計画的避難区域については,
ステップ2
(冷温停止状態)
を達成し,
放射性物質の放出が一層厳格に管理された時点で,
警戒区域の縮小の可否及び
計画的避難区域の見直しについて検討することとされた。(乙B265)


原災本部は,平成23年9月30日,緊急時避難準備区域を解除した(乙B22)。



原災本部は,平成23年12月16日,福島第一原発の1号機ないし3号機について,冷温停止状態(圧力容器底部及び格納容器内の温度がおおむね100℃以下になっており,格納容器からの放射性物質の放出を管理し,追加的放出による公衆被ばく線量を大幅に抑制し,
環境注水冷却システムの中期的安全
が確保されている状態)
の達成,
使用済燃料プールのより安定的な冷却の確保,
滞留水全体量の減少,
放射性物質の飛散抑制などの目標が達成されていること
から,放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられているというステップ2の目標達成と完了を公表した(乙B25,26)。


原災本部は,平成23年12月26日,ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題についてを公表し,
①警戒区域を基本的に解除する手続に入る方針を明らかにし,また,②年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された地域を避難指示解除準備区域に,年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり,
住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することを求める地域を居住制限区域に,5年間を経過してもなお,年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある,現時点で年間積算線量が50mSv超の地域を帰還困難区域に,それぞれ設定する方針を明らかにした。また,除染,インフラ復旧,雇用対策,損害賠償等についても国が積極的に関与していくこととした。(乙B26)


原子力災害からの福島復興の加速に向けて
原災本部は,平成25年12月20日,原子力災害からの福島復興の加速に向けてを公表した(乙B266)。同指針において,①国が率先して行う個人線量水準の情報提供,測定の結果等の丁寧な説明なども含めた個人線量の把握・管理,②個人の行動による被ばく低減に資する線量マップの策定や復興の動きと連携した除染の推進などの被ばく低減対策の展開,
③保健師等による身近な健康相談等の保健活動の充実や健康診断等の着実な実施などの健康不安対策の推進,
④住民にとって分かり
やすく正確なリスクコミュニケーションの実施,
⑤帰還する住民の被ばく低減
に向けた努力等を身近で支える相談員制度の創設,
その支援拠点の整備などの
対策を通じ,住民が帰還し,生活する中で,個人が受ける追加被ばく線量を,長期目標として,年間1mSv以下になることを目指していくとした。


原子力災害からの福島復興の加速に向けて改訂
原災本部は,平成27年6月12日,原子力災害からの福島復興の加速に向けて改訂を公表した(乙B46)。ア
同指針において,避難指示解除の要件は次のとおりとされていた。空間線量率で推定された年間積算線量が20mSv以下になることが確実であること
電気,ガス,上下水道,主要交通網,通信等日常生活に必須のインフラや医療・介護・郵便等の生活関連サービスが概ね復旧すること,子供の生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること
県,市町村,住民との十分な協議

また,同指針において詳述しない内容については,原子力災害からの福島復興の加速に向けてに基づいた対応を継続するとされ,除染,モニタリング,健康問題への対応,情報公開等の対策を行い,避難している住民が帰還し,生活する中で,個人が受ける追加被ばく線量を,長期目標として,年間1mSv以下になることを引き続き目指していくとされていた(乙B46,266)。

7
避難指示区域等の解除


平成24年4月1日午前零時,
田村市における平成23年3月12日に設定
された避難指示区域が避難指示解除準備区域に見直され,
平成23年4月21
日に設定された警戒区域が解除された(乙B112の1)。



平成24年8月10日,
楢葉町において設定されていた福島第一原発から2
0㎞圏内の避難指示区域が避難指示解除準備区域に見直され,
福島第一原発か
ら20㎞圏内の警戒区域は解除された(乙B113)。



平成24年12月14日,
川内村及び伊達市において設定されていた特定避
難勧奨地点が解除された(乙B24の3・5)。



平成26年4月1日午前零時,
田村市において平成23年3月12日に設定
された避難指示解除準備区域が解除された(乙B112の2)。



平成26年10月1日午前零時,
川内村において設定されていた避難指示解
除準備区域が解除され,居住制限区域が避難指示解除準備区域に再編された(乙B111の3)。



平成26年12月28日,
南相馬市において設定されていた特定避難勧奨地
点が解除された(乙B24の9)。



平成27年9月5日午前零時,
楢葉町において設定されていた避難指示解除
準備区域が解除された(乙B108)。



平成28年6月12日午前零時,
葛尾村において設定されていた居住制限区
域及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B107)。


平成28年6月14日午前零時,
川内村において設定されていた避難指示解
除準備区域が解除された(乙B107)。


平成28年7月12日午前零時,
南相馬市において設定されていた居住制限
区域及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B107)。


平成29年3月31日午前零時,川俣町,飯舘村及び浪江町において設定されていた居住制限区域及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B109,110,300ないし302)。


平成29年4月1日午前零時,
富岡町において設定されていた居住制限区域
及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B302)。

8
SPEEDIについて


SPEEDIとは(甲A1の1・本文編257,258頁)
SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)とは,原子力発電所等の周辺環境における放射性物質の大気中濃度,被ばく線量等を,放出源情報,気象条件及び地形データを基に迅速に予測するシステムであり,SPEEDI計算の前提となる放出源情報は,緊急時対策支援システム(以下ERSSという。)が提供することとされている。
ERSSとは,
原子力事業者から送られてくる原子炉内の状況等に関する情
報に基づき,事故の状態,その後の事故進展等をコンピュータにより解析・予測するシステムであり,その際,予測される放射性物質の放出量がSPEEDIに受け渡される。
防災基本計画では,文部科学省が,SPEEDIを平常時から適切に整備,維持するとともに,オフサイトセンターへの接続等必要な機能の充実を図ることとしており,特定事象(原災法10条1項前段の規程により通報を行うべき事象)発生の通報を受けた場合,文部科学省は,直ちにSPEEDIを緊急時モードとし,放射能影響予測等を実施し,予測結果を関係省庁等に共有することとしている。
政府の原子力災害対策マニュアル(丙A115)(以下原災マニュアルという。)は,実用炉において事故が発生した場合,保安院は,ERSSを起動して放出源情報を把握し,文部科学省等に連絡することとしており,文部科学省は,この放出源情報を基に,財団法人原子力安全技術センター(以下原子力安全技術センターという。)に設置されたSPEEDIの計算機により放射能影響予測を実施し,その結果を保安院,原子力安全委員会,関係都道府県,オフサイトセンター等に提供することとされている。


本件事故当時のSPEEDIに関する規定

災対法及び原災法にはSPEEDIに関する直接の規定はなく,
その取扱
いは防災基本計画(丙A117)及び防災指針(丙A118)に規定され,具体的な運用については,原災マニュアル(丙A115)及び環境放射線モニタリング指針(以下モニタリング指針という。丙A120)に定められていた(丙A115,117,118,120)。


本件事故当時の防災基本計画(丙A117)では,SPEEDIに関し,災害応急体制の整備の一環として,安全規制担当省庁において,庁舎内に電話回線,ファクシミリ,テレビ会議システム,SPEEDI,ERSS等必要な資機材を備えた十分な広さを有するオペレーションセンターを整備・維持するものとされ(丙A117・255頁),文部科学省において,SPEEDIを平常時から適切に整備,維持するとともに,対策拠点施設への接続等必要な機能の拡充を図り(丙A117・256頁),特定事象発生の通報を受けた場合,直ちにSPEEDIを緊急時モードとして,放射能影響予測等を実施し,安全規制担当省庁,関係都道府県の端末に転送するとともに,関係省庁の迅速な応急対策の実施に資するため,予測結果を関係省庁に伝達するものとされていた(丙A117・270頁)。
防災指針(丙A118)においては,緊急時予測支援システムの整備・維持として,
SPEEDI,
ERSS等の整備を進めることが重要であり,
あらかじめ国,地方公共団体,原子力事業者等の間で十分に協議し,平常時から各種システムのネットワーク化や緊急時の際の協力体制を整えておくことが必要であるとされ(丙A118・10頁),防護対策を執るための一つの指標となる予測線量は,異常事態の態様,放射性物質又は放射線の放出状況,緊急時モニタリング情報,気象情報,SPEEDI等から推定することとされていた(丙A118・21,22頁)。

SPEEDIの具体的な運用について,原災マニュアル(丙A115)では,文部科学省は,原災法10条に基づく通報を受けた場合,原子力安全技術センターに対し,直ちにSPEEDIを緊急時モードとして,原子力事業者又は安全規制担当省庁からの放出源情報が得られ次第,
放射能影響予測を
実施するよう指示し,その結果を安全規制担当省庁,関係道府県,原子力安全委員会及びオフサイトセンターの端末に転送するとともに,
関係省庁の迅
速な応急対策の実施のため,予測結果を関係省庁に連絡することとされた(丙A115・15頁)。また,原子力安全委員会作成のモニタリング指針(丙A120)では,以下のとおりの詳細な運用方法が示されていた(丙A120・51,52頁)。
事故発生直後
一般に,事故発生後の初期段階において,放出源情報を定量的に把握することは困難であるため,
単位放出量又は予め設定した値による計算を行
う。SPEEDIの予測図形を基に,監視を強化する方位や場所及びモニタリングの項目等の緊急時モニタリング計画を策定する。
放出源情報が得られた場合
緊急時の初期において,
防護対策を検討するために早期入手が望まれる
計算結果は,特に風速場図形,空気吸収線量率図形(又は空気カーマ率図形)
及び外部被ばくによる実効線量分布図形であり,
これらの図形の作成・
配信を優先して行う必要がある。また,放射性ヨウ素,ウラン若しくはプルトニウムの放出あるいはそのおそれのある場合には吸入による等価線量分布図形も重要である。
これらの計算に必要な放出源情報は,①原子力緊急事態発生日時,サイト名,発生施設,発生した特定事象の種類,②放出開始時刻又は放出開始予想時刻,③実効放出高さ,④放出核種及び放出量,⑤放出(予想)継続時間,放出時間変化,⑥原子炉施設にあっては,原子炉停止時刻及びその時の平均燃焼度である。中央情報処理機関は,これらの放出源情報が得られたら,オンラインで収集している気象情報を用い,SPEEDIによる予測計算を行い,計算により得られた予測図形を配信する。配信された予測図形は,避難,屋内退避等の防護対策の検討に用いる。
緊急時モニタリング情報が得られた場合
緊急時モニタリングの結果が得られた場合には,
当該結果と予測図形を
用いて,防護対策の検討,実施に用いる各種図形を作成する。
放出終息後
放出源情報及び気象状況等から,SPEEDIによる予測計算を行い,緊急時モニタリング結果とあわせて空気吸収線量率分布図等を作成し,周
辺住民の被ばく線量評価に資する。


本件事故発生直後のSPEEDIに関する事実経過(甲A1の1・本文編253,258ないし263頁,甲A1の2・本文編191頁)

本件地震が発生した後の平成23年3月11日午後3時42分頃,福島第
一原発の全交流電源が喪失の状態となったことから,
被告東電から保安院等
に対し,原災法10条に基づく通報が行われた。


文部科学省は,平成23年3月11日午後4時40分,SPEEDIを管理する原子力安全技術センターに対し,
SPEEDIシステムの緊急時モー
ドへの切替えを指示した。これを受けて,原子力安全技術センターは,同日午後4時49分,SPEEDIを緊急時モードへ切り替えるとともに,原子力安全委員会作成のモニタリング指針(丙A120)に基づき,福島第一原発から1Bq/hの放射性物質の放出があったと仮定し,同日午後4時以降の気象データ等を用いて1時間ごとの放射性物質の拡散予測を行う計算を開始した。原子力安全技術センターは,文部科学省の指示により,単位量放出を仮定した定時計算の予測結果を,同省,ERC,原子力安全委員会,オフサイトセンター,福島県庁及びJAEAに送付し,オフサイトセンターに隣接する原子力センターからの送付依頼があったため,同日午後11時頃,当時断続的に使用できた電子メールを用いて,同センターに対して一度だけ定時計算結果を送付した。

文部科学省は,平成23年3月12日から同月16日にかけて,様々な放出源情報を仮定した38件のSPEEDI計算を行い,
計算結果をEOC内
部で共有するとともに,
一部の計算結果をERC及び原子力安全委員会に送
付した。


原子力安全委員会は,平成23年3月12日夜,原子力安全技術センターに計算を依頼し,同センターから受け取った計算結果を,同委員会内部にいた同委員会委員,
緊急技術助言組織のメンバー及び同委員会事務局職員で共
有した。ただし,原子力安全委員会は,当該計算結果を外部には共有しなかった。


保安院は,平成23年3月11日から同月15日にかけて,本件事故による放射性物質の拡散傾向の把握等を目的として,
様々な仮定の放出源情報を
入力して45件のSPEEDI予測計算を行った。得られた予測結果は,ERC内の各機能班で共有するとともに,最初の数例については,官邸及びオフサイトセンターに送付した。保安院は,福島第一原発1号機からの放射性物質の流出による影響を予測するため,
原子力安全技術センターに対してS
PEEDI予測を依頼し,同月12日午前1時半過ぎ,当該計算結果を官邸地下に詰めていた保安院職員に送付し,これを受け取った保安院職員は,この計算結果を内閣官房職員に渡し,内閣官房職員は,官邸地下にいた各省職員に共有を図った。ただし,保安院は,それ以前に同院が行ったSPEEDI計算結果について,
あくまで仮定の放出源情報に基づく計算結果であるこ
とから信頼性が低い旨を記載した補足資料を作成し,官邸に送付していた。同月12日未明に前記計算結果を保安院職員から受け取った内閣官房職員は,この計算結果を単なる参考情報にすぎないものとして扱い,内閣総理大臣等への報告は行わなかった。また,保安院も,独自にこれを内閣総理大臣等に報告することはしなかった。

文部科学省は,平成23年3月15日,同省政務三役に対してSPEEDI計算に関する説明を行うため,全量一回放出(炉内に存在する全ての放射性物質が一度に放出されること)
等を仮定したSPEEDI及びより広範囲
をカバーする世界版SPEEDI(WSPEEDI)の計算結果を,政務三役が出席した省内協議に提出したが,
SPEEDIの計算結果等の公表の要
否について具体的な決定はされなかった。


平成23年3月16日午前,官邸において,内閣官房長官の下で協議が行われ,
福島第一原発から20㎞以遠の陸域において各機関がモニタリングカーを用いて実施しているモニタリングデータの取りまとめ及び公表は文部科学省が,これらのモニタリングデータの評価は安全委員会が,同委員会が行った評価に基づく対応は原災本部が,
それぞれ行うとの役割分担が決めら
れた。この役割分担の取決めを受け,同日以降,福島県庁に所在する国の現地対策本部は,現地対策本部が取りまとめたモニタリングデータを,ERC及びEOCの両方に送付することとし,文部科学省は,これらのデータを集約の上,評価を行う安全委員会に送付するとともに,同日から,取りまとめたデータの公表を開始した。また,安全委員会は,同委員会が行ったモニタリングデータの評価結果をERC,
EOC及び官邸に送付するなどして関係
省庁と共有した。

平成23年3月16日,文部科学省政務三役会議において,上記キの官邸における各省庁のモニタリングの役割分担に関する協議結果によれば,文部
科学省はモニタリングの評価を行わないことになったのであるから,今後は
SPEEDIの運用・公表はモニタリングデータの評価を行うことになった原子力安全委員会において行うべきであると決定された。
この文部科学省の
決定に関する連絡を受け,原子力安全委員会は,SPEEDIが原子力安全委員会に移管されたわけではないが,今後は,文部科学省に計算依頼を行わなくとも,
同委員会がSPEEDIを用いた計算を行うことができるように
なったと理解し,SPEEDIの運用を開始した。


放出源情報が得られない状況下でのSPEEDIを用いた放出源情報の推定とは,
SPEEDIの単位量放出計算によって得られる特定地点の放射
線量の予測値と,
実際のモニタリングによって同地点で得られた実測値を比
較し,その比率を単位放出量に掛け合わせて,実際に放出量を算出推定するというものである。原子力安全委員会は,平成23年3月15日以前に収集されたモニタリングデータや文部科学省等に依頼して新たに得られたデータを分析し,計算に使用できるデータを選別し,その結果,同月23日午前9時頃,
同月11日から同月24日までの福島第一原発周辺の積算線量等に関する予測計算結果を得た。そして,原子力安全委員会は,当該結果を官邸に報告し,同月23日午後9時頃,記者会見を開催し,当該計算結果を公表した(丙A122)。原子力安全委員会は,その後も,同年4月10日,同月25日及び同月27日の3回にわたり,
3月23日以降に得られたモニタ
リングデータを用いて精度を上げた逆推定によるSPEEDI計算結果等を公表した。


文部科学省,保安院,原子力安全委員会等が様々な仮定をおいて行った計算については,混乱を招くおそれがあるため非公開とされていたが,報道等において,これらの公表に関する関心が集まっていたことなどから,被告国は,
同年4月25日に全てのSPEEDIの予測計算結果を公表することを決定し,
同年5月3日までに各機関のホームページにおいてこれらが公表された。
第3

関連法令等の要旨

1
総論
我が国の原子力安全に関する法体系は,最も上位にあって,我が国の原子力利用に関する基本的理念を定義する原子力基本法の下,
原子力安全規制に関する法
律として,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法),電気事業法,
放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律等が整備されている。また,原子力防災体制に関する法律として,原子力災害対策特別措置法(原災法)等の原子力の安全を確保するために必要な法律が整備されている。法律以外にも,
原子力委員会又は原子力安全委員会が安全審査を行う際に用い
るために策定された各種指針類があり,
それは規制行政庁の安全審査においても
用いられていた。

2
原子力基本法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)


目的(1条)
原子力の研究,開発及び利用を推進することによって,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。



基本方針(2条)
原子力の研究,
開発及び利用は,
平和の目的に限り,
安全の確保を旨として,
民主的な運営の下に,自主的にこれを行うものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする。

3
旧炉規法


目的(1条)
原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,
国際規制物資の使用等に関
する必要な規制等を行うことを目的とする。
なお,平成24年改正(同年法律第47号による。)後は,原子炉施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設の外へ放出されること等の災害を防止すること及び大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行うことを明記している。


原子炉設置の許可(23条1項)
原子炉を設置しようとする者は,原子炉の区分に応じて,主務大臣の許可を受けなければならないとしており,
福島第一原発に設置されている原子炉のよ
うな,発電の用に供する原子炉(実用発電用原子炉)については,経済産業大臣の許可を必要としていた(1号)。



設置許可の基準(24条)
主務大臣(実用発電用原子炉の場合,経済産業大臣)は,原子炉の設置の許可の申請が,①原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと,②許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと,
③事業者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること,④原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること,に適合していると認めるときでなければ,許可をしてはならないとされていた(1項)。
また,主務大臣は,設置の許可をする場合においては,あらかじめ,上記①,②及び③(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会に,上記③(技術的能力に係る部分に限る。)及び④に規定する基準の適用については原子力安全委員会の意見を聴かなければならないものとしていた(2項)。


炉規法の一部適用除外(73条)
電気事業法の適用による検査等を受ける実用発電用原子炉については,炉規
法の定める設計及び工事の方法の認可,使用前検査,溶接の方法及び検査並びに施設定期検査の規定(27ないし29条)適用を除外していた。
4
安全設計審査指針等(甲A1の1・本文編367頁,丙A9,14)⑴

発電用軽水型原子炉の設置許可申請に係る安全審査において,
自然現象等の
外的事象に対して用いられる設計規定として,
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針(以下安全設計審査指針という。)が存在する。これは,最初は原子力委員会(当時)が昭和45年4月に定めたものであり,その後昭和52年6月に,原子力委員会(当時)が,これを全面的に見直して改訂を行った。昭和52年の安全設計審査指針の改定以降,軽水炉の技術の改良及び進歩には著しいものがあり,
米国で発生したスリーマイルアイランド原
子力発電所の事故等の様々な事象から得られた教訓や,
軽水炉に関する経験の
蓄積を踏まえ,
平成2年8月30日付け原子力安全委員会決定により全面改訂
がされた。なお,平成2年に改訂された上記安全設計審査指針は,平成13年3月29日に一部改訂がされた(以下,同改訂後の安全設計審査指針を平成13年安全設計審査指針という。)。その詳細は,後記第4の4のとおりである。



耐震については,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として,発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(以下耐震設計審査指針という。)が存在する。その詳細は,後記第4の5及び6のとおりである。
5
電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)


目的(1条)
電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによって,
電気の使用者の
利益を保護し,
及び電気事業の健全な発達を図るとともに,
電気工作物の工事,
維持及び運用を規制することによって,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ることを目的とする。



事業用電気工作物の維持(39条)
事業用電気工作物を設置する者は,
事業用電気工作物を経済産業省令で定め
る技術基準に適合するように維持しなければならない(1項)(技術基準維持義務)。
また,この経済産業省令は,次に掲げるところによらなければならないとし(2項),①事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること(同項1号),②事業用電気工作物は,他の電気的設備その他の物件の機能に電気的又は磁気的な障害を与えないようにすること(同
項2号),③事業用電気工作物の損壊により一般電気事業者の電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすること(同項3号),④事業用電気工作物が一般電気事業の用に供される場合にあっては,
その事業用電気工作物の損壊によ
りその一般電気事業に係る電気の供給に著しい支障を生じないようにすること(同項4号)と定められていた。
福島第一原発に設置されている原子炉は,事業用電気工作物に当たるところ,経済産業省令において,技術基準が定められており,同原子炉の場合,省令62号がこれに当たる。



技術基準適合命令(40条)
経済産業大臣は,
事業用電気工作物が同法39条1項の経済産業省令で定め
る技術基準に適合していないと認めるときは,
事業用電気工作物を設置する者
に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。


工事計画(47条)
事業用電気工作物の設置又は変更の工事であって,
公共の安全の確保上特に
重要なものとして経済産業省令で定めるものをしようとする者は,その工事の
計画について経済産業大臣の認可を受けなければならない(1項本文)。経済産業大臣は,認可の申請に係る工事の計画が,①その事業用電気工作物が39条1項の経済産業省令で定める技術基準に適合しないものでないこと,②事業用電気工作物が一般電気事業の用に供される場合にあっては,その事業
用電気工作物が電気の円滑な供給を確保するため技術上適切なものであること,③特定対象事業に係るものにあっては,その特定対象事業に係る46条の17第2項の規定による通知に係る評価書に従っているものであること,④環
境影響評価法2条3項に規定する第二種事業(特定対象事業を除く。)に係るものにあっては,
同法4条3項2号
(中略)
の措置がとられたものであること,
のいずれにも適合していると認めるときは,認可をしなければならない(3項)。



使用前検査(49条)
47条1項の認可を受けて設置の工事をする事業用電気工作物であって,公
共の安全の確保上特に重要なものとして経済産業省令で定めるものは,その工
事について経済産業省令で定めるところにより経済産業大臣の検査を受け,こ
れに合格した後でなければ,これを使用してはならない(1項本文)。1項の検査においては,その事業用電気工作物が,①その工事が47条1項の認可を受けた工事の計画に従って行われたものであり,
②39条1項の経済
産業省令で定める技術基準に適合しないものでないときは,合格とする(2項)。
6
省令62号


電気事業法による委任
電気事業法39条1項による委任に基づき,
省令第62号が定められている
(甲B116,丙A89)。なお,福島第一原発は,発電用原子炉のうち実用発電用原子炉に当たり,同原子炉については,平成25年6月,実用発電用原子炉及び附属施設の技術水準に関する規則(原子力規制委員会規則第6号。
以下技術基準規則という。)が制定されており,実用発電用原子炉に関しては,省令62号の内容は,上記規則に引き継がれている。



4条1項(防護施設の設置等,防護措置等)

平成17年経済産業省令第68号による改正前
(平成18年1月1日施行
前)
原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が地すべり,断層,なだれ,洪水,津波又は高潮,基礎地盤の不同沈下等により損傷を受けるおそれがある場合は,
防護施設の設
置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。

平成23年経済産業省令第53号による改正前
(平成23年10月7日施
行前)
原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震を除く。)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。


平成23年経済産業省令第53号による改正後
(平成23年10月7日施
行後)
原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震及び津波を除く。)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。
なお,津波については,5条の2に規定が新設された。その内容は,後記第8の2のとおりである。


5条(耐震性)
原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備は,
これらに作用する地震力による損壊により公衆に放射
線障害を及ぼさないように施設しなければならない(1項)。



33条(保安電源設備)
非常用電源設備及びその附属設備は,
多重性又は多様性,
及び独立性を有し,
その系統を構成する機械器具の単一故障が発生した場合であっても,運転時の
異常な過渡変化時又は一次冷却材喪失等の事故時において工学的安全施設等の設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならない(4項)。



8条(原子炉施設)
原子炉施設に属する設備であって,蒸気タービン,ポンプ等の損壊に伴う飛散物により損傷を受け,
原子炉施設の安全性を損なうことが想定されるものに
は,防護施設の設置その他の損傷防止措置を講じなければならない(4項)。
7
原賠法


目的(1条)
原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。



定義(2条)
原子力損害とは,
核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の
放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。により生じた損害をいう)
(2
項本文)。
原子力事業者には,
炉規法23条1項の許可を受けた者を含む
(3項1号)



無過失責任,責任の集中等(3,4条)
原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,
当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる(3条1項本文)。
前条の場合においては,
同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原
子力事業者以外の者は,その損害を賠償する責めに任じない(4条1項)。
8
原災法
原子力災害の特殊性にかんがみ,
原子力災害の予防に関する原子力事業者の義
務等,
原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実施その他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより,炉規法,災対法(昭和36年法律223号)その他原子力災害の防止に関する法律と相まって,原子力災害に対する対策の強化を図り,もって原子力災害から国民の生命,身体及び財産を保護することを目的とする(1条)。この法律では,原子力災害の予防に関する原子力事業者の義務,原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置,緊急事態応急対策の実施,原子力災害事後対策など原子力災害への対応に特化した規定が置かれており,その他一
般的な災害対策は災対法において規定されている。

第4
1
安全審査に関する各種指針
発電用軽水型原子炉施設などに関する各種の指針
炉規法に基づく原子炉の安全規制に関しては,直接の規制権限は主務大臣(実
用発電用原子炉については経済産業大臣)に属するが,実際の規制は,原子力委員会又は原子力安全委員会の策定する各種の指針類が,経済産業大臣等による規制権限行使の基準としての役割を果たすべきものとして予定されている(旧炉規法24条2項)。これらの指針類のうち,発電用軽水型原子炉施設などに関する主なものは,以下のとおりである(甲A1の1・本文編365頁)。立地に関する指針
原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやす
設計に関する指針
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針
発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針
安全評価に関する指針
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針
線量目標値に関する指針
発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針
2
昭和39年原子炉立地審査指針(丙A8)
同指針は,
万一の事故に関連してその立地条件の適否を判断するための原子炉
立地審査指針を定めるとともに,当該指針を適用する際に必要な放射線量等に関する暫定的な判断のめやすを定めるものである。基本的な考え方として,原子炉は,どこに設置されるにしても,事故を起こさないように設計,建設,運転及び保守を行わなければならないことは当然のことであるが,なお万一の事故に備えて,公衆の安全を確保するためには,原則的立地条件として,①大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないこと,また,災害を拡大するような事象も少ないこと,②原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること,③原子炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じ得る環境にあることを挙げる。
また,基本的目標として,a敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,技術的見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故(以下重大事故という。)の発生を仮定しても,周辺の公衆に放射線障害を与えないこと,bさらに,重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない事故(以下仮想事故という。)(例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し,それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと,cなお,仮想事故の場合にも,国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいことを挙げている。3
昭和45年安全設計審査指針(丙A9)
同指針は,
敷地の自然条件に対する設計上の考慮及び耐震設計についての指針を定めた上で,炉心設計,計測制御設備,原子炉冷却材圧力バウンダリ(起動停止を含む原子炉の通常運転時に原子炉冷却材の存在する範囲のもののうち,苛酷
な事故条件下で弁等により隔離されて圧力障壁を形成する範囲をいう。),工学的安全施設,非常用電源設備,核燃料貯蔵施設,放射性廃棄物処理施設及び放射線監視施設についての設計に係る審査基準を定めている。
敷地の自然条件に対する設計上の考慮(指針2.2)
同指針は,敷地の自然条件に対する設計上の考慮として,①当該設備の故障が,安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系および機器は,その敷地および周辺地域において過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力に耐え得るような設計であること。,②安全上重大な事故が発生したとした場合,あるいは確実に原子炉を停止しなければならない場合のごとく,事故による結果を軽減もしくは抑制するために安全上重要かつ必須の系及び機器は,その敷地および周辺地域において,過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計であること。を求めている。その解説(動力炉安全設計審査指針解説)においては,予測される自然条件とは,敷地の自然環境をもとに,地震,洪水,津浪,風(または台風)凍結,積雪等から適用されるものをいい,自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力とは,対象となる自然条件に対応して,過去の記録の信頼性を考慮のうえ,少なくともこれを下まわらない苛酷なものを選定して設計基礎とすることをいうとされている。耐震設計(指針2.3)
同指針は,耐震設計として,

原子炉施設は,その系および機器が地震により機能の喪失や破損を起こした場合の安全上の影響を考慮して重要度により適切に耐震設計上の区分がなされ,それぞれ重要度に応じた適切な設計であること。

を求めている。その解説では,耐震設計について,重要度により適切に耐震設計上の区分がなされとは,すなわち,①その機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのあるもの及び原子炉事故の際に放射線障害から公衆を守るために必要なもの(Aクラス),②高放射性物質に関連するものでAクラスに属する以外のもの
(Bクラス)並びに③Aクラス及びBクラスに属する以外のもの(Cクラス)により,建物,機器設備が分類されることを指し,Aクラスのうち原子炉格納容器,原子炉停止装置は,Aクラスに適用される地震力を上回る地震力について機能の維持が出来ることを検討することを求めている。
非常用電源設備(指針7)
同指針は,非常用電源設備については,単一動的機器の故障を仮定しても,工学的安全施設や安全保護系等の安全上重要かつ必須の設備が,所定の機能を果たすに十分な能力を有するもので,独立性及び重複性を備えた設計であることを求めている。
その解説では,①単一動的機器の故障の対象には,非常用内部電源設備では,これを構成する遮断器,制御回路の操作スイッチ,リレー,非常用発電機等のうちいずれか一つのものの不作動や故障をとるものとされ,②所定の機能を果たすに十分な能力を有するものとは,原子炉緊急停止系,工学的安全施設等の事故時の安全確保に必要な設備を,それぞれが必要な時期に要求される機能が発揮できるように作動させ得るような容量を具備することをいい,③独立性および重複性とは,単一動的機器の故障を仮定した場合にも,要求される安全確保のための機能が害されることのないよう,非常用発電機を2台とするなどにより,十分な能力を有する系を2つ以上とし,かつ,一方が不作動となるような不利な状況下においても,他方に影響を及ぼさないように回路の分離,配置上の隔離などによる独立性の確保が設計基礎とされることをいうとされている。
4
平成13年安全設計審査指針(丙A14,弁論の全趣旨)
指針の改定経緯
昭和45年安全設計審査指針は,その後の技術的知見の進展を踏まえ,昭和52年6月にその全面改訂が行われた。その後,軽水炉の技術の改良及び進歩には著しいものがあり,米国で発生したスリーマイルアイランド原子力発電所の事故等の様々な事象から得られた教訓や,軽水炉に関する経験の蓄積を踏まえ,平成2年8月30日付け原子力安全委員会決定により全面改訂がされた。この改訂に当たっては,昭和54年から平成2年までの間に66回にわたり,原子力工学の専門家等から成る原子炉安全基準専門部会設計小委員会において,最新の科学的知見を踏まえた議論がされた。なお,平成13年3月29日に国際放射線防護委員会による1990年勧告を受けて一部改訂がされたが(平成13年安全設計審査指針),その内容に大きな変更はない。指針の内容
平成13年安全設計審査指針は,
発電用軽水型原子炉に関する経験と最新の
技術的知見に基づき,発電用軽水型原子炉に係る安全審査に当たって確認すべき安全設計の基本方針を定めたものである。
同指針は,原子炉施設全般(指針1ないし10),原子炉及び原子炉停止系(指針11ないし18),原子炉冷却系(指針19ないし27),原子炉格納容器(指針28ないし33),安全保護系(指針34ないし40),制御室及び緊急時施設(指針41ないし46),計測制御系及び電気系統(指針47及び48),燃料取扱系(指針49ないし51),放射性廃棄物処理施設(指針52ないし55),放射線管理(指針56ないし59)から構成されている。同指針2において,自然現象に対する設計上の考慮として,①安全機能を有する構築物,系統及び機器は,その安全機器の重要度及び地震によって機能の喪失を起こした場合の安全上の影響を考慮して,耐震設計上の区分がなされるとともに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられる設計であること,②安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること,重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であることを求めていた。同指針の解説においては,予想される自然現象とは,敷地の自然環境を基に,洪水,津波,風,凍結,積雪,地滑り等から適用されるものをいうとされ,自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件とは,対象となる自然現象に対応して,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下回らない苛酷なものであって,かつ,統計的に妥当とみなされるものをいい,過去の記録,現地調査の結果等を参考にして,必要のある場合には,異種の自然現象を重畳させるものとされ,自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合とは,最も苛酷と考えられる自然力と事故時の最大荷重を単純に加算することを必ずしも要求するものではなく,それぞれの因果関係や時間的変化を考慮して適切に組み合わせた場合をいうとされている。
同指針27において,電源喪失に対する設計上の考慮として,原子炉施設は,短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であることを求めていた。同指針の解説においては,長期間にわたる全交流動力電源喪失は,送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない。非常用交流電源設備の信頼度が,系統構成又は運用(常に稼働状態にしておくことなど)により,十分高い場合においては,設計上全交流動力電源喪失を想定しなくてもよい。とされている。
同指針48.3において,非常用所内電源系は,多重性又は多様性及び独立性を有し,その系統を構成する機器の単一故障を仮定しても,①運転時の異常な過渡変化時において,燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えることなく原子炉を停止し,冷却すること,②原子炉冷却材喪失等の事故時の炉心冷却を行い,かつ,原子炉格納容器の健全性並びにその他の所要の系統及び機器の安全機能を確保することを確実に行うのに十分な容量及び機能を有する設計であることを求めていた。そして,
独立性とは,
二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないことと定義され,解説において,共通要因とは,二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因であって,例えば環境の温度,湿度,圧力,放射線等による影響因子,及び系統又は機器に供給される電力,電気,油,冷却水等による影響因子をいうと定義されていた。5
平成13年耐震設計審査指針(丙A15の1・2,弁論の全趣旨)発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針は,
発電用軽水型原子炉施設の設
置許可申請に係る安全審査のうち,
耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の
妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として昭和53年9月29日に原子力委員会が定めたものである。その後,昭和56年7月20日の改訂において静的地震力の算定法等について見直しを行い,さらに,平成13年3月29日に国際放射線防護委員会による1990年勧告を受けて一部改訂がされたが,その内容に大きな変更はない(平成13年耐震設計審査指針)。同指針には,地震随伴現象に対する規定は存在しなかった。
6
平成18年耐震設計審査指針(丙A15の2,弁論の全趣旨)
策定経緯
原子力安全委員会は,
昭和56年以降の地震学及び地震工学に関する新たな
知見の蓄積等を踏まえ,平成13年6月,原子力安全基準専門部会に対し,耐震安全性に係る安全審査指針類について必要な調査審議を行い,
結果を報告す
るよう指示した。これを受けて,同年7月,同部会に耐震指針検討分科会が設置され,耐震設計審査指針の改定作業に着手し,平成18年9月19日,原子力安全委員会において,新たな耐震設計審査指針が決定された(平成18年耐震設計審査指針)。
指針の内容等
平成18年耐震設計審査指針は,平成13年耐震設計審査指針から,基準地震動についての策定方法が高度化され,
耐震安全に係る重要度分類の見直し等
が行われたものである。
3基本方針として,耐震設計上重要な施設は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに,施設は,地震により発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点からなされる耐震設計上の区分ごとに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられるように設計されなければならない。また,建物・構築物は,十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない。とされていた。同基本方針の解説には,
残余のリスク(策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に
及ぶことにより,
施設に重大な損傷事象が発生すること,施設から大量の放射
性物質が放散される事象が発生すること,
あるいはそれらの結果として周辺公
衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク)について言及され,
施設の設計に当たっては,策定された地震動を上回る地震動が生起する可能性に対して適切な考慮を払い,基本設計の段階のみならず,それ以降の段階も含めて,この残余のリスクの存在を十分認識しつつ,それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきであるとされている。8地震随伴現象に対する考慮として,①施設の周辺斜面で地震時に想
定し得る崩壊等によっても,
施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがな
いこと,
②施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことを十分考慮した上で設計されなければならないとされている。
7
本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針
本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針は,
前記1ないし6記載
のとおりであり,
福島第一原発1号機から同3号機までの設置変更許可における
安全審査の前提となった指針は,昭和39年原子炉立地審査指針(丙A8)であり,同4号機の設置変更許可における安全審査の前提となった指針は,昭和39年原子炉立地審査指針及び昭和45年安全設計審査指針(丙A9)であった。
第5
1
規制機関等
原子力委員会・原子力安全委員会
原子力基本法に基づき,平成14年から平成24年の同法改正前まで,内閣府に原子力委員会及び原子力安全委員会が設置されていた(4条(平成24年法律第47号による改正前のもの。)。原子力の研究,開発及び利用に関する事項のうち,原子力安全委員会は安全の確保のための規制の実施に関する事項について,原子力委員会は安全確保に係る事項以外の事項について,それぞれについて企画,審議,及び決定することとされていた(5条(上記改正前のもの。))。原子力委員会は,原子力利用に関する政策に関すること,関係行政機関の原子力利用に関する事務の調整に関すること,
関係行政機関の原子力利用に関する経
費の見積り及び配分計画に関すること,
核燃料物質及び原子炉に関する規制に関
すること,原子力利用に関する試験及び研究の助成に関すること,原子力利用に関する研究者及び技術者の養成及び訓練に関すること,
原子力利用に関する資料
の収集,統計の作成及び調査に関すること,その他原子力利用に関する重要な事項に関することについて企画し,審議し,決定することを所掌している(原子力委員会及び原子力安全委員会設置法
(平成24年法律第47号による改正前のも
の。)2条)。
原子力安全委員会は,原子力利用に関する政策のうち,安全の確保のための規制に関する政策に関すること,核燃料物質及び原子炉に関する規制のうち,安全の確保のための規制に関すること,
原子力利用に伴う障害防止の基本に関するこ
と,放射性降下物による障害の防止に関する対策の基本に関すること,その他原子力利用に関する重要事項のうち,
安全の確保のための規制に係るものに関する
ことについて企画し,審議し,及び決定することを所掌している(同法13条1項)。
なお,原子力基本法の平成24年改正によって,原子力規制委員会が新たに設置され,原子力安全委員会は廃止された。
2
原子力安全・保安院(保安院)
我が国の発電用原子炉施設は経済産業大臣が所管しているが,
経済産業省資源
エネルギー庁の特別の機関として原子力エネルギーに係る安全の確保等のために設置されたのが,保安院である。保安院は,炉規法に基づく設置許可や電気事業法に基づく工事計画の認可や使用前検査など経済産業大臣の規制活動を,同大
臣の付託を受けて,独立して意思決定を行うか,又は同大臣に対して意思決定の案を諮ることができることになっていた。保安院の技術支援機関として,独立行政法人原子力安全基盤機構(以下原子力安全基盤機構又はJNESという。平成15年10月設立)があり,法律に基づく原子力施設の検査を保安院と分担して行うほか,
原子力施設の安全審査や安全規制基準の整備に関する技術支
援を行っている。
なお,原子力規制委員会の発足により,保安院は廃止された。JNESも,平成26年3月1日,解散して,その業務を原子力規制委員会に引き継いだ。(甲A1の1・本文編368頁,丙A5の1・Ⅱ-3頁,弁論の全趣旨)第6

知見及びその発展

1
過去の原子力発電所事故に関する知見


スリーマイルアイランド原子力発電所事故(甲B9,10)
昭和54年(1979年)3月28日,米国ペンシルバニア州スリーマイル島上の原子力発電所2号炉(加圧水型原子炉(PWR))が,給水喪失という事象から炉心損傷にまで至った。
事故の重大さを0から7の8段階にレベル分
けした国際原子力事象評価尺度(INES)のレベルは5(広範囲な影響を伴う事故)とされた。この事故における核燃料の損傷により,大量の放射性物質が一次冷却水中に漏出され,環境へ放出された。



チェルノブイリ原子力発電所事故(甲B9,11ないし13)
昭和61年(1986年)4月26日,当時のソビエト連邦ウクライナ共和国のチェルノブイリ発電所4号炉において,原子炉出力が異常に上昇し,燃料の過熱,
激しい蒸気の発生,
圧力管の破壊,
原子炉と建屋の構造物の一部破損,
燃料及び黒鉛ブロックの一部飛散,火災に進み放射性物質がウクライナ,ベラルーシ,ロシア等へ飛散し,半径30㎞圏内の住民約13万5000人が避難した。INESのレベルは7(深刻な事故)とされた。



フランスのルブレイエ原子力発電所事故(甲A20・13頁,94,166の1・2)
平成11年(1999年)12月27日,フランスのルブレイエ原子力発電所において,暴風雨の影響で外部電源が失われ,非常用電源が起動したが,高潮と満潮が重なりジロンド河口に波が押し寄せた結果,河川が増水し,川の水が洪水防水壁を越えて浸入し,
電源が喪失したが,
過酷事故には至らなかった。
INESのレベルは2(異常事象)とされた。


台湾の馬鞍山原子力発電所事故(甲A20・14頁)
台湾の馬鞍山原子力発電所において,平成13年3月,送電線事故により外部電源喪失事故が発生し,
更に非常用ディーゼル発電機の起動失敗が重なった
ことにより,全電源喪失事故となった。



インドのマドラス原子力発電所の津波による電源喪失事故(甲A20・14頁)
インド南部にあるマドラス原子力発電所において,
平成16年12月に発生
したスマトラ島沖地震に伴う津波により,津波でポンプ室が浸水し,非常用海水ポンプが運転不能になる事故が発生した。

2
地震に関する知見等


地震に関する一般的知見(甲A56,100ないし102,丙A26,27,99,弁論の全趣旨)

地震の定義等
地震とは,地下の岩盤に力が加わり,その力に岩盤が耐えきれなくなったときに起こる破壊現象のことをいう。
震源とは,上記の破壊が最初に発生した地点をいい,震央とは,地下の震源を真上の地表へ投影した位置のことをいう。
震源で発生した破壊は周囲へと伝わり,ある範囲で破壊は止まるが,破壊が及んだ範囲のことを震源断層といい,
震源断層を含む破壊が広がった
領域のことを震源域という。
マグニチュードとは,
震源域で生じた断層運動そのものの大きさを表す
尺度をいう。
また,
震源断層の形状や生成過程についてのモデルのことを断層モデル
という。断層モデルは,断層面の向きや傾き,大きさ,断層面上でのずれの量,
破壊の進行速度などの断層パラメーター
(媒介変数)
で表現される。

日本列島やその周辺で発生する地震
日本列島やその周辺で発生する地震には,大きく分けて,プレート境界付近で発生する地震(プレート間地震,
沈み込むプレート内の地震),
と陸のプレートの浅い部分で起こる地震とに分けられる。
プレート境界付近で発生する地震
地球の表面は十数枚の巨大な板状の岩盤(プレート)で覆われており,それぞれが別の方向に年間数cmの速度で移動している
(プレート運動)

日本列島の太平洋側の日本海溝では,
海のプレートが陸のプレートの下
に沈み込み,
陸のプレートの先端部も常に内陸側に引きずり込まれる。

のプレートと海のプレートとが接する部分がひずみに耐えきれなくなると,
そこを巨大な断層面として陸のプレートの先端が跳ね上がるような断層運動が起き,地震が発生する。これをプレート間地震という。
また,
海のプレート内部に蓄積されたひずみにより,
プレート内部で大
規模な断層運動が生じて地震が発生することもある。
これを沈み込むプレ
ート内の地震という。
なお,
海溝付近のプレート境界やその付近で発生する地震のことを海溝
型地震と総称している。
陸のプレートの浅い部分で起こる地震
日本列島が位置する陸のプレートでは,
プレート運動による間接的なひ
ずみが岩盤に蓄積され,
地下数㎞から20㎞程度までの浅い部分で断層運
動が起こり,
地震が発生する。これを陸のプレートの浅い部分で起こる地
震という。


昭和41年頃の地震に関する知見(甲A2・63頁)
福島第一原発1号機を新設するために,
昭和41年7月1日に被告東電から
内閣総理大臣に福島原子力発電所の原子炉設置許可申請書が提出された。その添付書類には,敷地付近の地震について福島県周辺は,会津付近をのぞいては,ほとんど顕著な地震被害を生じておらず,全国的に見ても地震活動性(サイスミシティ)の低い地域の一つであると云えよう,福島原子力発電所敷地付近は,福島県内においても地震活動性(サイスミシティ)の低い地域であると考えることができる,福島発電所敷地付近では,かつて震害を経験したことがないようであると記載されている。


昭和43年頃の地震に関する知見(甲A2・64頁)
地球表層の地震・火山活動や地質・地形変動の原因を説明するプレートテクトニクスという理論が,昭和43年に欧米で一挙に成立し,数年以内に日本列島にも広く適用されるようになった。それによって,北海道ないし東北地方の東方沖の千島海溝ないし日本海溝から東北日本の下へ太平洋プレートが沈み込んでいて,
北海道沖ないし三陸沖ないし茨城県沖でM7ないし8の大地
震が繰り返し発生するという地震発生論が確立した。



昭和56年頃の地震に関する知見(甲A2・66,67頁)
原子力委員会は,昭和53年9月,発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(丙A81)を制定し,同年10月に発足した原子力安全委員会が,昭和56年7月,
建築基準法の改正を取り入れて,
改めて同指針を決定した
(以
下旧指針という。)。もっとも,それぞれの決定前に設置許可された原発に対して遡って適用するバックフィットといわれる法的仕組みはなかったが,一応は,
既設原発が新たな指針に照らしても安全かどうかを確認する耐震バックチェックが原子力事業者に求められた。



平成4ないし6年頃の地震に関する知見(甲A2・67頁)
資源エネルギー庁公益事業部(当時)は,平成4年5月頃,電事連を通じて原発事業者に対し,
耐震バックチェックを実施して結果を報告するように求め
た。これに対し,被告東電は,平成6年3月頃,1ないし6号機のそれぞれについて耐震性評価結果報告書を提出した一方で,同月に許可された別件の設置変更許可申請の中で,旧指針に従って基準地震動を策定した。それらは,S₁-Dが最大加速度180Gal,S₂-Dが最大加速度270Gal,S₂-Nが最大加速度370Galになっていた。


平成7年ないし平成13年頃の地震に関する知見(甲A1の1・本文編38
2頁,甲A2・465頁)
耐震設計審査指針は,
昭和56年に改訂されてから長期にわたって見直しが
されていない状況にあったが,原子力安全委員会は,平成7年1月17日の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)発生の2日後(1月19日)に,平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会(以下「耐震安全検討会という。)」を設置し,耐震設計審査指針の妥当性について検討を行い,同年9月に報告書を取りまとめた。そこでは,原子力施設の耐震設計を規定する関連指針類について,兵庫県南部地震を踏まえても,その妥当性が損なわれるものではないことを確認したとの結論に至りながら,
原子力関係者は,これに安住することなく,耐震設計において常に最新の知見を反映するなど,原子力施設の耐震安全性に対する信頼性を一層向上させるため引き続き努力していくことが必要であるとされ,原子力関係者が取り組むべき調査,研究課題も列挙されていた。
その後,原子力安全委員会は,平成8年から平成12年度までの5年間,財団法人原子力発電技術機構への委託調査等により原子力施設の耐震安全性に関する海外の基準類や文献の収集整理等を行ってきた。これらを踏まえ,原子力安全委員会は,平成13年6月に原子力安全基準専門部会に,耐震関係の指針類への最新の知見の反映についての調査審議を行うよう指示を出すに至り,平成13年7月に耐震指針検討分科会における審議が開始された。⑺三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について(平成14年7月)(以下長期評価という。丙A33)
平成7年に発生した阪神・淡路大震災を踏まえ,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,地震防災対策特別措置法が制定され,行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにし,
これを政府として一
元的に推進するため,同法に基づき総理府(当時)に政府の特別の機関として地震調査研究推進本部(以下推進本部という。)が設置された(甲A1の1・本文編392頁)。
推進本部は,平成14年7月31日,長期評価を発表した。その内容は,後記3

のとおりである。

⑻日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告(平成18年1月)(以下日本海溝・千島海溝報告書という。甲1の1・本文編393頁,丙A37)
中央防災会議は,平成15年10月,特に東北・北海道地方において発生する大規模海溝型地震対策を検討するため,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会(以下日本海溝・千島海溝調査会という。)を設置した。
日本海溝・千島海溝調査会は,平成18年1月25日,特に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に着目し,
防災対策の対象とすべき地震を選定した上で対
象地震による揺れの強さや津波の高さを評価し,
この評価結果を基に予防的な
地震対策及び緊急的な応急対策などについて検討した上で,
地震対策の基本的
な事項についての日本海溝・千島海溝報告書を取りまとめた。
同報告書では,防災対策の検討対象として,大きな地震が繰り返し発生しているものについては,近い将来発生する可能性が高いと考え対象とするが,大きな地震が発生しているが繰り返しが確認されていないものについては,発生
間隔が長いものと考え近い将来に発生する可能性が低いものとして対象から除外することとしている。
その結果として,
海洋プレート内地震及び福島県沖・
茨城県沖のプレート間地震については,
防災対策の検討対象から除外されてい
る。
また,
869年に発生した貞観地震,
1611年に発生した慶長三陸地震,
1677年に発生した延宝房総沖地震及び1933年に発生した昭和三陸地震については,
留意が必要であるとはしているもの防災対策の検討対象とはし
ないこととしている。


耐震設計審査指針の改訂(甲A1の1・本文編384頁,甲A2・70頁)原子力安全委員会は,平成18年9月19日,新たな発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(以下,同日改訂された耐震設計審査指針を平成18年耐震設計審査指針という。丙A96)を正式決定した。平成18年耐震設計審査指針では,基準地震動(S₁とS₂をSsに一本化,検討用地震,地震動評価手法など),活断層の評価期間(過去5万年間から12万ないし13万年間へ),鉛直方向の地震動(上下動)の個別評価,耐震重要度分類(AクラスをAsクラスに統合してSクラスとする),地震随伴事象(周辺斜面崩壊等,津波)の明記などが旧指針から改編された。


保安院による平成18年耐震バックチェックの指示,中間報告書の提出等(甲A2・71頁)
保安院は,平成18年9月20日,原子力事業者に対し,稼働中又は建設中の発電用原子炉施設等についての平成18年耐震設計審査指針に照らした耐震安全性評価(以下平成18年耐震バックチェックという。)の実施と,そのための実施計画の作成を求めた。さらに,保安院は,平成19年7月16日に発生した新潟県中越沖地震(M6.8)を受けて,可能な限り早期かつ確実に評価を完了できるよう,原子力事業者に実施計画の見直しを指示し,同年12月27日,
中越沖地震の知見を平成18年耐震バックチェックに反映する
よう求めた。
これらに対し,被告東電は,平成19年8月20日に平成18年耐震バックチェックの実施計画の見直し結果を報告し,
平成20年3月31日に福島第一
原発5号機及び福島第二原発4号機に係る平成18年耐震バックチェック中間報告書を提出した。さらに,被告東電は,平成21年4月3日に福島第二原発1ないし3号機に係る中間報告書を,
同年6月19日に福島第一原発1ない
し4号機及び6号機に係る中間報告書を提出した。
保安院は,総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会の下に設置されている
地震・津波ワーキンググループ
及び
地震・地盤ワーキンググループによる合同ワーキンググループ並びに構造ワーキンググループに複数のサブグループを設置し,福島第一原発5号機及び福島第二原発4号機については合同Aサブグループ及び構造Aサブグループにおいて平成18年バックチェック中間報告書の妥当性について検討を行った。その結果,平成21年7月21日,保安院としての福島第一原発5号機に係わる評価結果が取りまとめられた。

被告東電の社内会議(甲A2・73頁)
被告東電は,平成21年の社内会議において,福島第一原発及び第二原発については平成18年耐震バックチェック最終報告書が2012年7月(福島第一原発2号機),耐震強化工事の終了はそれ以降という工程である。この状況は平成18年耐震設計審査指針への対応を速やかに行う観点において,国及び地元の許容範囲を超えているという問題点が指摘され,耐震補強工事減少のための合理化や最終報告書提出時期の前倒しを検討していたが,十分な耐震
バックチェックはできなかった。


平成23年頃の地震に関する知見(甲A2・74,75頁)
被告東電は,平成23年2月28日時点で,福島第一原発各号機において耐震補強工事を必要とし,
あるいは耐震補強工事を必要とする可能性を有する設
備等は多岐にわたっていることを認識していた。

3
津波に関する知見


津波に関する一般的知見(甲A56,100ないし102,丙A26,27,
33,99,弁論の全趣旨)
津波
津波は,
海域で発生するプレート間地震などによる海底の変動により発生
する。すなわち,地震が発生すると,地震の震源域では,断層面を境にして地盤がずれることにより,海底が急激に隆起又は沈降すると,その上にある海水も同じだけ上下に移動するが,
この海水を海水の重力により復元しよう
とする動きが津波となって周囲へも伝わる。

津波の大きさ
このように津波は,海底の隆起又は沈降により,その海域の海水が持ち上げられたり沈み込んだりすることによって発生するため,津波の高さは,海底の隆起・沈降の大きさによって決まる。そして,地震は,岩盤がずれ動くことで起こるが,このずれ動く長さ,すなわちすべり量が大きいほど,海底の隆起・沈降も大きくなりやすい。
したがって,このすべり量が大きければ津波も大きくなるという関係に立つ。
なお,津波が陸地の沿岸部に到達したときの波高は,地震の規模だけではなく,海底地形や海岸線の形に大きく影響を受ける。


津波の高さ,浸水高及び遡上高
津波の高さ(津波高)とは,平均潮位(津波がない場合の潮位)から津波によって海面が上昇した高さの差のことをいう。
浸水高(痕跡高)とは,浸水の高さ,すなわち建物や設備に残された変色部や漂着物等の痕跡の基準面からの高さのことをいう。
遡上高とは,津波が内陸へ駆け上がった結果,斜面や路面上に残された変色部や漂着物等の痕跡の基準面からの高さのことをいう。


津波地震
津波地震とは,断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模の大きくなるような地震のことをいう。なお,平成14年に推進本部が公表した長期評価では,
津波マグニチュードがマグ
ニチュードと比べて0.5以上大きいか,津波による顕著な災害が記録されているにもかかわらず,
顕著な震害が記録されていないものを津波地震とし
て扱っている。


福島第一原発設置許可時の津波想定
(甲A1の1・本文編373,
374頁)
昭和41年から同47年にかけて,
被告東電の福島第一原発1号機から6号
機まで順次設置許可申請がされた際,津波対策が必要な波高につき,昭和35年チリ津波のときに小名浜港で観測された最高潮位である小名浜港工事基準面(O.P.)+3.122m及び最低潮位O.P.-1.918mとして設置許可がされ,敷地の最も海側の部分についてはO.P.+4mの高さに整地されて,非常用海水ポンプはこの場所に設置された(福島第二原発1号機についても同様の考え方に基づきO.P.+3.122m,2号機における防波堤の設計波高はO.P.+3.690m,3号機及び4号機における防波堤の設計波高はO.P.+3.705mとされていた。)。なお,これらの発電所の設置許可申請のされた昭和40年代には,
まだ津波波高を計算するシミュレー
ション技術は一般化していなかった。



その後の津波の研究成果及び津波対策の進展(甲A1の1・本文編374,375頁)
明治以来の津波対策は,主に津波から遠ざかる高地移転によって行われたが,1960(昭和35)年のチリ津波は,前年の伊勢湾台風に続く海岸の大災害であったことから,急速な対策が求められ,各地で防潮構造物等の防災施設の建設が開始された。その結果,中規模津波であれば,防災構造物でほぼ完全に浸水を防止することができるようになり,
昭和43年に発生した十勝沖地
震津波では,できたばかりの施設が功を奏し,被害は極めて少なかった。しかしながら,昭和50年代に入ると,東海地震の危険が叫ばれるようになり,津波常襲地帯とみなされる場所(三陸地方)での津波対策の在り方を,発災前に前もって検討しようという動きが現れた。検討の中では,チリ津波以降に建設された防潮堤高さが本当に十分なものなのか,
どのような津波を計画の
対象とすべきなのかについても議論が行われ,建設省(当時)と水産庁が共同で調査研究を実施し,昭和58年に津波常襲地域総合防災対策指針(案)が取りまとめられた。この指針(案)では,対象津波として,過去200年程度の間の確実な資料が数多く得られる津波のうちの最大のものを選ぶとされた。また,防災施設の整備水準は対象津波のレベルに達しないこともあり得るため,防災構造物,防災地域計画,防災体制の3分野における対策を組み合わせ,対象津波に対処することとされた。
なお,電子計算機による津波数値計算(シミュレーション)は,1970年代以降,徐々に利用可能となっていった。


太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書(以下4省庁報告書という。甲A16,17,丙A30の1・2)
被告国の4省庁
(当時の農林水産省構造改善局,
同省水産庁,
運輸省港湾局,
建設省河川局)は,平成9年3月,4省庁報告書を策定した。この報告書は,平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を踏まえ,防災計画見直しの一環として改めて
総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として策定されたものである。そこでは,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定しうる最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行っているが,既往津波や想定津波を対象として津波防災施設の整備を行う場合でも,想定を上回る津波が発生する可能性があることは否定できず,津波防災施設の整備に大きく依存した防災対策には限界がある旨の記載がある(甲A16及び丙A30の1・はじめに)。
また,既往津波について,1600年以降を対象として沿岸別の最大津波高を整理した結果,三陸沿岸では,過去395年間に高さ10m以上の大津波が3回来襲している他に,高さ5m程度の津波は6回来襲しており,被害津波の来襲頻度が高いとされている(甲A16及び丙A30の1・8頁)。⑸

地域防災計画における津波対策強化の手引き(以下7省庁手引という。甲A15)

概要
平成5年7月に北海道南西沖地震が発生し,
その際の地震津波によって奥
尻島に壊滅的な被害がもたらされたことを契機に,被告国の関係省庁間(当時の国土庁,農林水産省構造改善局,同省水産庁,運輸省,気象庁,建設省,消防庁)
で津波対策の再検討が行われるに至り,
その成果として,
平成9年,
7省庁手引が作成され,これが公開された(甲A1の1・本文編374,375頁,甲A15)。
そこでは,津波防災計画の基本目標の中で,対象津波の選定方法につき,既往最大の津波を選定し,それを対象とすることを基本とするが,近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から対象津波を設定することが望ましい。この時,必ずしも最大規模の地震から最大規模の津波が引き起こされるとは限らないことから,地震の発生位置や規模,震源の深さ,指向性,断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波の設定を行う必要がある。としている(甲A1の1・本文編375頁,甲A15・9頁)。
この7省庁手引は,
同手引の別冊とされた
津波災害予測マニュアル
(甲
A113)とともに地方公共団体に提示され,各地での津波対策に活用されるようになっていた。

津波災害予測マニュアル(甲A113)
津波災害予測マニュアルは,津波災害マニュアルに関する調査委員会(委員長東北大学工学部教授首藤伸夫(以下首藤という。))により作成されたものであるが,このマニュアルの中でも,

津波の数値計算には至る所で誤差が入り込み得るから,計算結果を利用するに当たっては,その利用目的毎に判断することが重要となってくる。

防潮堤などの構造物の設計であれば,必ず余裕高をつけ加えることで,大きな間違いの確率を下げることが出来る。ただし,余裕高をつけたとしても,完全に津波を防げるとは限らない。

人命を守る目的ならば,一応安全な津波高という結果を得ても,万一の事があり得るとして,現地の現象を良く見ながら対応する事を勧めるべきである。

と指摘されている(甲A113・85,86頁)。


原子力発電所の津波評価技術(以下津波評価技術という。甲A1の1・本文編375ないし377頁,丙A31の1ないし3)及びこれに基づく被告東電の試算(丙A32)

津波評価部会
平成11年に原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化について検討を行うことを目的として,社団法人土木学会(以下土木学会という。)原子力土木委員会に津波評価部会(主査岩手県立大学総合政策学部教授首藤)が設置された(甲A1の1・本文編375,376頁)。

津波評価技術の概要
土木学会原子力土木委員会は,
平成14年2月,
津波評価技術を刊行した。
そこで示された設計津波水位の評価方法の骨子は,次のとおりである(甲A1の1・本文編376,377頁)。
既往津波の再現
文献調査等に基づき,
評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられ
る既往津波を評価対象として選定し,痕跡高の吟味を行うとともに,沿岸における痕跡高をよく説明できるように断層パラメータを設定し,既往津
波の断層モデルを設定する。
想定津波による設計津波水位の検討
既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルを基に,
津波をもたら
す地震の発生位置や発生様式を踏まえたスケーリング則に基づき,想定す
るモーメントマグニュチュード(Mw)に応じた基準断層モデルを設定する(日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿いを含むプレート境界型地震の場合)。その上で,想定津波の波源の不確実性を設計津波水位に反映させるため,
基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。
このようにして得ら
れた想定津波を設計想定津波として選定し,
それに適切な潮位条件を足し
合わせて設計津波水位を求める。
この津波水位の評価手法については,
日本沿岸の代表的な痕跡高との比
較・検討に基づき,全ての対象痕跡高を上回ることを確認することで,その妥当性を確認している。また,近地津波より遠地津波の方が影響が大きくなることが予想される場合には,
遠地津波についても検討することとし
ていた。
津波評価技術に基づく被告東電の試算(2002年推計)
被告東電は,平成14年3月,津波評価技術に従って津波の検討-土木学会「原子力発電所の津波評価技術に関わる検討-」を策定し,保安院に対し,福島第一原発の設計津波最高水位は,近地津波でO.P.+5.4ないし+5.7m,遠地津波でO.P.+5.4ないし+5.5mであると報告した(以下2002年推計という。)(丙A32)。


長期評価(丙A33)
推進本部は,平成14年7月31日,長期評価を公表した。これは,日本海溝沿いのうち三陸沖から房総沖までの領域(別紙12参照)を対象として,長期的な観点で地震発生の可能性,震源域の形態等について評価してとりまとめたものであり,この中で,次の地震として,以下のような予測を行っていた(甲A1の1・本文編392頁)。

三陸沖北部から房総沖の海溝寄り(以下日本海溝付近という。)のプレート間大地震(津波地震)について(丙A33・5頁)
M8クラスのプレート間大地震は,
過去400年間に3回発生しているこ
とから,
この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定される。
今後30年以内の発生確率は20%程度,
今後50年以内の発生確率は3
0%程度と推定される。
1896年(明治29年)の明治三陸地震についてのモデルを参考にし,断層の長さが日本海溝に沿って200㎞程度,
幅が約50㎞程度の地震が日
本海溝付近の領域内のどこでも発生する可能性がある
(丙A33・10頁)



三陸沖南部海溝寄りについて(丙A33・6頁)
1793年(寛政5年)及び1897年(明治30年)に発生した地震の震源地と考えられており,
これに従えばこの地域における地震の発生間隔は
105年程度となる。
今後30年以内の発生確率は70ないし80%程度,
今後50年以内の発
生確率は90%程度以上と推定される。
この領域の地震は,既に宮城県沖地震の長期評価で評価されているように,宮城県沖の地震と連動する可能性が指摘されている。


福島県沖について(丙A33・7頁)
1938年(昭和13年)の福島県東方沖地震のように,ほぼ同時期に複数回のM7.4程度の規模の地震発生が過去400年に1回あったことから,この地域における同様の地震発生の間隔は400年以上とされる。今後30年以内の発生確率は7%程度以下,
今後50年以内の発生確率は
10%以下と推定される。
次に発生する地震の規模は,過去の事例からM7.4前後と推定され,複数の地震が続発することが想定される。

長期評価に基づく被告東電の試算(2008年推計)
被告東電は,平成20年4月,長期評価に基づいて,1896年明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りに設定して試算を行った。その
設定された波源モデルに基づいて福島第一原発の各号機,
敷地内においてど
の程度の津波高さになるかという具体的な計算段階では,
平成14年2月の
津波評価技術による計算手法(パラメータスタディ等)を用いて,津波高さを算出したところ,最大で,敷地南側O.P.+10m地点においてO.P.+15.7m,4号機原子炉建屋(R/B)中央付近でO.P.+12.604m,4号機タービン建屋(T/B)中央付近でO.P.+12.026mの津波高さ
(解析値)
という結果が出た
(以下
2008年推計
という。。

(甲A141)



溢水勉強会(丙A42ないし52の3)
保安院と原子力安全基盤機構は,
原子力発電所の安全規制に関する情報等を
収集,評価し,必要な安全規制上の対応を行う目的で安全情報検討会を定期的に開催していたが,外部溢水及び内部溢水を問わず溢水問題を検討するため,平成18年1月,溢水勉強会を立ち上げ,調査検討を開始した。
この溢水勉強会は,保安院と原子力安全基盤機構で構成し,電気事業者,原子力技術協会及びメーカーは,オブザーバーで参加するというものであった。溢水勉強会は,平成19年4月,溢水勉強会の調査結果についてと題する報告書(甲A42)をまとめた。
溢水勉強会は,津波対策に係る勉強を進めていたが,検討の過程で,原子力安全委員会が示している耐震設計審査指針が改訂され
(平成18年耐震設計審
査指針),同指針において,地震随伴事象として津波評価を行うものとされたことから,外部溢水に係る津波の対応は耐震バックチェックに委ねることとし,以後,内部溢水に関する調査,検討を行うこととなった。ただし,溢水勉強会では,引き続き津波PSAについて,適宜,検討を進めていくこととなった。
4
放射線に関する基本的な知見(甲B1,丙A1,丙B1,弁論の全趣旨)⑴

放射線の種類と性質

原子核の崩壊や核分裂反応のときに放出される粒子や電磁波のことを放射線という。
放射線を発生する能力のことを放射能といい,放射能を有する
物質のことを放射性物質という。放射線には,以下のとおり,アルファ線,ベータ線,ガンマ線,中性子線等がある。
アルファ線は,陽子2個と中性子2個とが結びついたアルファ粒子の
流れであり,プラスの電気を帯びている。
ベータ線は,
原子核から高速で飛び出す電子の流れであり,
マイナスの電
気を帯びている。
ガンマ線は,
原子核からアルファ粒子やベータ粒子が飛び出した直後など
に,余ったエネルギーが電磁波(光子)の形で放出されるもので,光子の流れである。ガンマ線は電気を帯びていないため,強い透過力(物質を通り抜ける力)がある。
エックス線は,
原子核外で発生する電磁波である。
エックス線は電気を帯
びていないため,強い透過力がある。
中性子線は,
核分裂等に伴い放出される中性子の流れであって,
電気的に
中性である。

上記のとおり,放射線には複数の種類があるところ,透過力に差がある。アルファ線は,
物質の中を通る際の電離作用
(原子が持つ軌道電子をはじ
き出すこと)
によって周囲にエネルギーを与えるなどして急速にエネルギー
を失うため,透過力は極めて小さく,紙によって遮ることができる。ベータ線は,アルファ線より透過力が大きく,空気中でも数十cmないし数cm程度進むことができ,数mmないし1cm程度の厚さのアルミニウムやプラスチックの板で遮ることができる。
ガンマ線及びエックス線は,
物質の中を通る際に,
物質の電磁と作用して
吸収されたり拡散されたりするものの,
アルファ線やベータ線と異なり電気
を帯びていないため,強い透過力があるが,鉛や厚い鉄の板によって遮ることができる。
中性子線は,
電荷を持たないため,
物質の軌道電子と相互作用することな
く,透過力が強いが,物質の中の原子核と衝突を繰り返してエネルギーを失っていくため,水やコンクリートによって遮ることができる。


放射線の量を表す単位
放射線に関する単位としては,以下のとおり,ベクレル(Bq),グレイ(Gy),シーベルト(Sv)等がある。
ベクレル(Bq)は,放射能の強さを表す単位であり,1秒間に1個の原子核が崩壊することを1Bqと数える。
グレイ(Gy)は,放射線のエネルギーがどれだけ物質(人体を含む全ての物質)に吸収されたかを表す単位(吸収線量の単位)であり,1Kg当たり1ジュール(J)のエネルギー吸収があったときの線量を1Gyとする。シーベルト(Sv)は,放射線の生物学的影響を示す単位(等価線量や実行線量の単位)であり,1Gyのガンマ線によって人体の組織に生じるのと同じ生物学的影響を組織に与える放射線の量を1Sv(=1000mSv)とする。等価線量とは,
放射線の種類ごとに影響の大きさに応じた重み付けをした線量のことをいい,
実効線量とは,
放射線防護における被ばく管理のために考案された
ものであり,
等価線量に対して,臓器や組織ごとの感受性の違いによる重み付
けをして,それらを合計することで全身への影響を表す。具体的には,各組織の臓器の吸収線量に,放射線の種類を考慮するための放射線加重係数を乗じて,
等価線量を導き出し,
等価線量に組織や臓器ごとの放射線感受性により重
み付けするための組織加重係数を乗じて足し合わせたものが実効線量であり,組織加重係数の合計は1になるように決められており,
実効線量は全身の臓器
や組織の等価線量について,
重み付け平均をとったものと評価することができ
る。


外部被ばくと内部被ばく
外部被ばくとは,
体外にある放射性物質や放射線発生装置から発生した放射

線による被ばくや体表面に付着した放射性物質による被ばくのことをいう。体
外にある放射性核種や放射線発生装置から発生した放射線によって被ばくする外部被ばくの場合,
体表に当たった放射線は体内に進んでいくに従ってエネ
ルギーを減らしていくため,一般に,体表の被ばく線量の方が体の中心部の被ばく線量よりも大きくなる。
この被ばく線量の差は放射線の種類により大きく
異なり,透過力の高いエックス線やガンマ線ではその差は小さいが,透過力の低いベータ線やアルファ線ではその差は大きくなる。
内部被ばくとは,
体内に取り込んだ放射性物質から放出される放射線による
被ばくのことをいう。内部被ばくの経路には,吸入,経口,皮膚からの3種類の経路がある。吸入摂取とは,ラドンやヨウ素のような気体状の放射性物質や放射性の微粒子を呼吸によって吸い込む場合であり,経口摂取とは,放射性物質を含有又は付着した食物を飲食することによる場合であり,
皮膚からの取込
みは,脂溶性で皮膚からの吸収が大きい放射性化合物に限られ,実際上で最も注意すべきは,創傷部位からの取込みとされている。


日常生活と放射線
放射線や放射性物質は,
人間が原子力の利用を開始したことによって生まれ
たものではなく,人間は自然界に存在する放射線を受けながら生活している。地殻を構成している岩石や土砂等の中には,ウラン系列,トリウム系列,カリウム等の放射性物質が含まれており,これらは放射線を出している。また,ウラン系列,トリウム系列から生じたラドンは気体状の放射性物質であり,空気中に混じっており,呼吸することによって体内に取り込まれ,体の内部で放射線を出す。さらに,宇宙線と呼ばれる宇宙からの放射線も存在している。世界全体でみると,
1人当たり平均して年間約2.
4mSvの放射線を自然界
から受けており,そのうち,宇宙線として飛来してくるものが0.39mSv,土壌から放出されるものが0.48mSv,日常摂取する食物を通じて体内で照射されるものが0.29mSv,空気中のラドン等の吸入によるものが1.26mSvである。
また,
地質等によりその場所ごとの自然放射性核種濃度が異なる
ため,自然界からの放射線量は場所によりその大きさが異なる。
第7

我が国のシビアアクシデント対策

1
シビアアクシデント対策の意義等
(甲A1の1・本文編407ないし410頁)


シビアアクシデント(過酷事故,SA)
原子炉施設には,起こり得ると思われる異常や事故に対して,設計上何段階もの対策が講じられている。この設計上の妥当性を評価するために,いくつかの設計基準事象という事象の発生を想定して安全評価を行う。
この設計基準事象は,実際に起こり得る様々な異常や事故について,放射性物質の潜在的危険性や発生頻度などを考慮し,
大きな影響が発生するような代
表的事象であり,さらに,評価上はこの設計基準事象に対処する機器につき敢えて故障を想定するなどの厳しい評価を行っている(このような評価手法は,評価に当たって想定した事象の起こりやすさにかかわらず,
その事象の発生を
想定して安全評価を行うことから,決定論的安全評価といわれる。)。シビアアクシデントとは,
このような安全評価において想定している設計基
準事象を大幅に超える事象であって,
炉心が重大な損傷を受ける事象のことを
いう。


シビアアクシデント対策(アクシデントマネジメント)
シビアアクシデント対策(アクシデントマネジメント)とは,シビアアクシデントに至るおそれのある事態が万一発生したとしても,
①現在の設計に含ま
れる安全余裕や本来の機能以外にも期待し得る機能,
若しくはその事態に備え
て新規に設置した機器を有効に活用することによって,
その事態がシビアアク
シデントに拡大するのを防止するため(フェーズⅠ),又は②シビアアクシデントに拡大した場合にその影響を緩和するため(フェーズⅡ)に採られる措置(手順書の整備並びに実施体制や教育,
訓練等の整備を含む。のことをいう。

具体的には,①に該当するものとしては,炉心冷却等の安全機能を回復させる操作から構成され,例えば,非常用炉心冷却系(ECCS)の手動起動や原子炉スクラム失敗事象に対するホウ酸水注入系の起動などであり,②に該当す
るものとしては,
フィルター付き格納容器ベント設備や格納容器内注水設備等
である。
シビアアクシデント対策の対象として取り上げられるものの一つに全交流電源喪失事象(SBO)がある。全交流電源喪失事象(SBO)とは,全ての外部交流電源及び所内非常用交流電源からの電力の供給が喪失した状態をいう。



確率論的安全評価(PSA)
確率論的安全評価とは,原子炉施設の異常や事故の発端となる事象(起因事象)の発生頻度,発生した事象の及ぼす影響を緩和する安全機能の喪失確率及び発生した事象の進展・影響の度合いを定量的に分析することにより,原子炉施設の安全性を総合的,定量的に評価する手法である。
シビアアクシデントのように,発生確率が極めて小さく,事象の進展の可能性が広範・多岐にわたるような事象に関する検討を行う上で,確率論的安全評価は有用とされる。



起因事象
原子力発電所での事故による影響が発生する可能性のある原因事象としては,機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミス等の内部事象,地震,津波,洪水,火災,火山や航空機落下等の外部事象,産業破壊活動等の意図的な人為事象がある。
2
シビアアクシデントに関する知見の進展


我が国における検討状況(甲A1の1・本文編416,417頁)原子力安全委員会は,
昭和61年4月のチェルノブイリ原子力発電所事故を
受けて,ソ連原子力発電所事故調査特別委員会を設置し,シビアアクシデント対策の検討を開始し,
昭和62年7月に原子炉安全基準部会に共通問題懇談会
を設置してSA対策について検討し,
平成2年2月に中間報告書を取りまとめ,
平成4年3月に報告書を取りまとめた。



諸外国の状況(甲A1の1・本文編414ないし416頁)
米国,フランス,ドイツなどの海外では,昭和54年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故を受けるなどして,
確率論的安全評価やシビアアクシデ
ント対策が早期に進められており,1980年代から1990年代にかけて,外部事象をも考慮した必要な改善が規制当局より求められており,フィルター
付きベントの整備や全交流電源喪失規制が設けられるなどの対策が順次進んでいた。



国際原子力機関の検討状況及び深層防護(多重防護)(甲A1の2・本文編
297ないし302頁,丙A224)
国際原子力機関(IAEA)は,平成8年,報告書を公表し,シビアアクシデント対策強化のため,5層までの深層防護を行う必要性を示し,その後の平成12年の原子力安全基準(NS-R-1)でも同様の考え方を示している。深層防護(多重防護)とは,原子炉は異なる防護層を重層的に用意することで安全を確保しており,これらの防護層は,互いに独立し,ある層が突破されても次の層で事故を防ぐことができるように意図されるべきであるという考え方のことをいう。
国際原子力機関が策定した原子力安全基準(NS-R-1)は,多重防護の各層を以下のとおりとしている。
第1層

異常運転及び故障の防止

第2層

異常運転の制御及び故障の検出

第3層

設計基準内への事故の制御

第4層

事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和

第5層

放射性物質の放出による放射線影響の緩和

我が国においては,第1層から第3層まで及び第5層を規制しており,第4層のシビアアクシデント対策については,
飽くまでも事業者の自主対応による
知識ベースの対策とされた。
3


我が国におけるシビアアクシデント対策の導入
発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(決定)(丙A58)原子力安全委員会は,

平成4年5月28日,
発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(決定)を決定した(甲A1の1・本文編417頁,丙A58)。
同決定において,シビアアクシデント対策は,原子炉設置者がその知見を駆使して臨機にかつ柔軟に行うことが望まれるものであるとされ,
関係機関及び
原子炉設置者等はシビアアクシデントに関する研究を今後とも継続的に進めることが必要とし,
事業者の自主的なシビアアクシデント対策を強く奨励する
とともに,
具体的方策及び施策について行政庁から報告を受けることとされた。また,同決定は,行政庁に対しても,アクシデントマネジメントの推進,整備等に関する行政庁の役割を明確にするとともに,
その具体的な検討を継続し
て進めることが必要であるとした。


アクシデントマネジメントの今後の進め方について(丙A60)
通商産業省資源エネルギー庁(当時)は,上記⑴の決定を踏まえ,平成4年7月,アクシデントマネジメントの今後の進め方についてを取りまとめ,同月28日付けの
原子力発電所内におけるアクシデントマネジメントの整備についてと題する資源エネルギー庁公益事業部長名の行政指導文書を発出し,事業者に対し,原子炉施設ごとに確率論的安全評価を実施し,アクシデントマネジメントの整備について,検討,報告を求めた(丙A1の1・417頁,丙A60,61)。
アクシデントマネジメントの今後の進め方についてにおいては,原子炉の設置又は運転などを制約するような規制的措置を要求するものではないとしつつも,実施されるアクシデントマネジメントの技術的有効性については,設計基準事象への対応に与える影響を含めて通商産業省による確認,評価等を
行うこととされた。なお,安全規制上の位置付けは,現状の知見に基づくものであり,
今後のシビアアクシデント研究の成果により適宜適切に対応していくものとされた。(丙A60)



軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備について検討報告書(丙A62)通商産業省(当時)は,平成6年10月,電気事業者から提出されたアクシデントマネジメント検討報告書の技術的妥当性を検討し,検討結果を軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備について検討報告書に取りまとめ,原子力安全委員会に報告した。通商産業省資源エネルギー庁(当時)は,同報告書の中で,被告東電を含む電気事業者に対し,
概ね平成12年を目途にアクシデントマネジメントの整備
を促し,また,原子力安全委員会は,通商産業省(当時)からの同報告書を受け,
同委員会が設置した原子炉安全総合検討会及びアクシデントマネジメント検討小委員会において順次検討を行い,これを踏まえて平成7年12月,同報告書の内容を了承した。
(甲A1の1・本文編421,422頁,丙A62)
なお,平成4年当時,我が国において確率論的安全評価の手法が確立されつつあったのは運転時の内的事象PSAのみであったことから,
電力事業者が行
った確率論的安全評価は,内的事象を対象としたものであった(甲A1の1・本文編419,420頁)。


アクシデントマネジメント整備上の基本要件について(丙A64)保安院は,
アクシデントマネジメント整備上の基本要件について検討を行い,平成14年4月,①アクシデントマネジメントの実施体制,②アクシデントマネジメント整備に係る施設,設備類,③アクシデントマネジメントに係る知識ベース,④アクシデントマネジメントに係る通報連絡,⑤アクシデントマネジメントに係る要員の教育等の基本要件を
アクシデントマネジメント整備上の基本要件について
に取りまとめた
(甲A1の1
・本文編424頁,
丙A64)


4
定期安全レビュー(PSR)の創設(甲A1の1・本文編423頁)通商産業省(当時)は,平成4年6月22日,定期安全レビューの実施を事業者に対して,行政指導として要請した。
定期安全レビューは,年1回の原子炉の定期検査に加え,原子力発電所の安全性・信頼性のより一層の向上を目的に,10年を超えない期間ごとに,①運転経験の包括的評価,②最新の技術的知見の反映,③確率論的安全評価(PSA)の実施とアクシデントマネジメントの評価を事業者が実施するものである。
5
被告東電によるシビアアクシデント対策及び保安院の対応


被告東電によるシビアアクシデント対策
被告東電は,
平成6年から平成14年にかけて福島第一原発についてアクシ
デントマネジメントの整備を行い,
その整備状況と代表炉についての確率論的
安全評価(PSA)の結果を取りまとめ,平成14年5月29日,原子力発電所におけるアクシデントマネジメント整備報告書及びアクシデントマネジメント整備有効性評価報告書を保安院に提出した(甲A1の1・本文編431頁,丙A65)。


⑴を受けた保安院の対応
保安院は,
被告東電から提出された上記の両報告書や他の電力事業者の報告
書を受け,総合的見地から評価し,平成14年10月,軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書を取り

まとめ(丙A66),原子力安全委員会へ報告した。
同報告書においては,
事業者が整備したアクシデントマネジメント策につい
て,既存の安全機能への影響の有無,アクシデントマネジメント整備の基本要件の充足の有無,
アクシデントマネジメント整備有効性評価の確認についてそ
れぞれ評価を行い,今回整備されたアクシデントマネジメントは,原子炉施設の安全性を更に向上させるという観点から有効であることを定量的に確認した(丙A66・7ないし14頁)。


⑵以降の被告東電及び保安院の対応
被告東電は,平成14年5月の保安院によるアクシデントマネジメント整備有効性評価報告書で評価した代表炉以外の確率論的安全評価の実施の指示
を受けて,代表炉以外の確率論的安全評価を実施し,平成16年3月26日,アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書
を保安院に提出
した(丙A67)。
保安院は,同報告書の提出を受け,財団法人原子力発電技術機構原子力安全解析所(当時,後の原子力安全基盤機構解析評価部)に委託するなどして,事業者とは独立してアクシデントマネジメントの有効性を確認し,
平成16年1
0月,軽水型原子力発電所における『アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価』に関する評価報告書を取りまとめ,これを公表した(丙A68)。

第8

本件事故後の関連法令等の変更
1
新炉規法


目的
目的(1条)につき,旧炉規法のこれらによる災害を防止しを,新炉規法では
原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止しとした。


規制組織
規制組織としては,保安院と原子力安全委員会が廃止され,安全規制行政を一元的に担う新たな組織として,
平成24年9月19日に原子力規制委員会が
発足した。そこで,新炉規法では,規制行政の責任機関が原子力規制委員会に一元化された(3条,4条,10条,13条等,原子力規制委員会設置法1条,2条,4条,附則1条)。



シビアアクシデント対策の追加
発電用原子炉設置許可の申請に際して,
発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項を記載しなければならないことが追加された(43条の3の5第2項10号)。



設置許可の基準
発電用原子炉設置許可の基準として,申請者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう。中略)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。及び

発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること。

が追加された(43条の3の6第1項3号及び4号)。2
省令62号の改正
経済産業大臣は,平成23年10月7日,省令62号を改正し,5条の2(津波による損傷の防止)を追加した。5条の2第1項において原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が,想定される津波により原子炉の安全性を損なわないよう,防護措置その他の適切な措置を講じなければならないと規定し,5条の2第2項において津波によって交流電源を供給する全ての設備,海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能が喪失した場合においても直ちにその機能を復旧できるよう,その機能を代替する設備の確保その他の適切な措置を講じなければならない。と規定した(甲B116,丙A89)。
3
技術基準規則の制定
原子力規制委員会は,新炉規法43条の3の14第1項に基づき,技術基準規則(平成25年原子力規制委員会規則第6号)を制定し,同規則は平成25年7月8日に施行された。技術基準規則は,従前の省令62号において定められていた規制内容を基にし,
引き継いでいるものの,
これに加えて,
本件事故を踏まえ,
地震・津波対策についての見直しを行い,
また,
シビアアクシデント対策に関し,
炉心損傷防止対策,格納容器損傷防止対策等を定めている。


規則制定による全交流電源喪失に対する対策強化
技術基準規則16条は,全交流動力電源喪失対策設備に関して,発電用原子炉施設には,全交流動力電源喪失時から重大事故等に対処するために必要な電力の供給が交流動力電源設備から開始されるまでの間,発電用原子炉を安全に停止し,かつ,発電用原子炉の停止後に炉心を冷却するための設備が動作するとともに,原子炉格納容器の健全性を確保するための設備が動作することができるよう,これらの設備の動作に必要な容量を有する蓄電池その他の設計基準事故に対処するための電源設備を施設しなければならない。と定める。また,実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(平成25年原子力規制委員会規則5号。以下設置許可基準規則という。丙A98)57条及び技術基準規則72条は,本件事故前には事業者の自主対応に委ねられていた全交流電源喪失に対するシビアアクシデント対策を法規制化した。


津波による損傷の防止の規定
技術基準規則6条は

設置基準対象施設が,基準津波(設置許可基準規則5条に規定する基準津波をいう。以下同じ。)によりその安全性を損なわれるおそれがないよう,防護措置その他の適切な措置を講じなければならない

と規定している。
ここで引用されている設置許可基準規則5条においては,
設計基準対象施設
は,
その供用中に当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれのある津波に対してその安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない旨規定した上で,同条の解釈においては,基準津波について,最新の科学的・技術的知見を踏まえて地震学的見地から想定することが適切なものを策定することとし,設計基準津波の策定方法,策定の際に考慮されるべき事項,基準津波に対する設計基準対象施設(発電用原子炉)の設計方法について詳細に解説されている。
第3部
第1

争点及び当事者の主張
被告国の責任

1
本件設置等許可処分の違法性
(原告らの主張の要旨)


内閣総理大臣は,福島第一原発1号機については昭和41年12月に,2号機については昭和43年3月に,3号機については昭和45年1月に,4号機については昭和47年1月に,当時の炉規法(昭和40年法律78号による改正後,昭和53年法律第86号による改正前のもの)に基づいて,本件設置等許可処分を行った。
そして,
炉規法24条1項4号によれば,
内閣総理大臣は,

原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。以下同じ。),核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。以下同じ。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。

という要件に適合していなければ設置許可処分をしてはならないとされていた。


本件設置等許可処分の安全審査の対象は安全性に関わる事項であるから,自然現象や全電源喪失事象なども考慮すべきであったこと

原子炉施設で万一事故が発生した場合には,人の生命・身体や環境に与える影響は他の施設とは質,量ともに異なっており,人類全体に対する大きな脅威とさえなり得る。このため原子炉施設では安全確保が第一とされ,原子炉施設以外の施設では,事業者が設計・建設・運転の各段階で安全確保の責任を負う。我が国の安全規制では,①原子炉の設置許可にかかる安全審査の段階(前段規制),②設置許可後の後続処分(設計工事方法認可・使用前検査・定期検査)段階(後段規制)に大別され,①においてのみ,炉規法に従って,行政庁である内閣総理大臣(当時)が通商産業省(当時)の安全審査結果を受けて原子力委員会(当時)に諮問し,原子力委員会(当時)はそれを受けて審査し答申することになっており,②以下については,電気事業法に従って,通商産業省が審査し認可することとされていた。このように,原子炉設置許可処分の段階(前段規制)と,許可後の後続処分(後段規制)とでは,処分の重みが大きく異なっている。
安全に関わる事項を審査する,
極めて重要な原子炉設置許可処分の段階(前段規制)で,設計工事方法認可・使用前検査という後続処分の段階(後段規制)で事故防止対策が適切に完全に施されることを仮定し,かつ,事故シークエンスを解析(シミュレーション)する時点において,
起因事象を原子炉施設内にある『内部事象』に限定して自然現象などの『外部事象』を排除し,かつ故障を機器の単一故障指針に基づくもののみに限定し,かつ外部電源喪失は短時間のみ考慮すれば足りるとした安全審査は,安全性に関わる事項を審査したことにはならず,原子力委員会(当時)の判断に依拠した内閣総理大臣(当時)の本件設置等許可処分は違法である。イ安全審査で考慮されたのは単一故障のみであり,共通原因故障ではないこと原子力安全委員会・軽水炉安全性調査専門委員会が調査検討したところによれば,「共通原因故障とは,単一の要因によって,複数の機器又はシステムが同時に故障することをいうとされている。
単一の要因には,設計,
製作・工事,運転・保守の各段階で機器の故障原因となるエラーばかりではなく,そのエラーを露呈させる又は結果的に機能喪失という故障状態とさせる外部事象(火災,浸水,地震,外部電源喪失など)をも含んでいる。そして,原子炉停止系や冷却系はいずれも工学的安全設備であり,安全設計指針においては,冗長性を確保するという理念のもとに,多重性,多様性及び独立性を要求している。しかし,本件においては,地震や津波などの要因によって同時に故障することを考慮していなかった。

安全審査では共通原因故障をもたらす外的要因(自然現象)を考慮していないこと
我が国の軽水炉についての安全設計に関する審査指針について(昭和45年安全設計審査指針)(丙A9)においても,敷地の自然条件に対する設計上の考慮において安全上重要かつ必須の系及び機器は,
その敷地及び周
辺地域において,
過去の記録を参照して予測される自然条件のうち最も過酷
と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,
当該設備の機能が保持でき
るような設計であることとされている。しかし,単一故障指針を設けることによって,事故条件と自然現象との適切な組み合わせを考えることをやめてしまった。被告国は,安全審査において,外部電源からの引き込み回線を2回線としたり,
非常用ディーゼル発電機を複数設置したりする
多重性・多様性・独立性を図ることを仮定又は前提として事故解析を行って安全だという結論を得た。ところが,その後の設計・建設段階において,全電源をハブとして中継している配電盤や複数の非常用ディーゼル発電機を地下に設置するという,多重性,多様性及び独立性の考え方に反する設計・建設を行った。
以上より,
設置許可段階において,
明確に自然現象の影響を審査し,
その後の設計・建設に当たって設備などを具体的に指示していれば,安全性を確保することができた。
国会事故調においても,
安全設計審査指針類は,その内容が不適正であり,今まで十分に原子炉の安全が確保されてこなかったことが明らかになったと結論付けており,発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する安全審査では,安全性を検討するために想定する『事故』を,原因が原子炉施設内にある,いわゆる内部事象,かつ,機器の単一故障によるものと仮定している。本事故のような複合災害による多重故障が想定されていない。と指摘されている。これは,設置許可の安全審査段階において,単一故障のみならず,共通原因故障を考慮しておかなかった安全設計審査指針が誤っていたことを示すものである。

全電源喪失事故の検討が欠落していること
我が国では,
外部電源系の安全機能重要度と耐震設計重要度は低くてよい
とされ,電源喪失時でも非常冷却系は適切に作動するとされていた。また,原子炉安全専門審査会報告には安全上重要な機器の操作に必要な電力は,ディーゼル発電機及び所内バッテリー系からも供給されると記載されてお
り,バッテリー系機器の継続可能時間は短く,ディーゼル発電機は複数のうち,どれかが作動すると仮定され,かつ,外部電源の復旧が短時間で行われるという,非常に甘い前提で事故シークエンスが考えられていた。また,国会事故調には,
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針においては,長時間にわたる全交流動力電源喪失を考慮する必要がないものとされ,非常用交流電源設備の信頼度が十分に高ければ,設計上全交流動力電源喪失は想定しなくて良いものとされたと指摘されており,安全設計審査指針自体の欠陥を指摘した。

原子力発電所敷地及び周辺環境は原発立地としては不適格であること福島第一原発が建設される前の地形は,
標高約35mのほぼ平坦な丘陵地
帯で東が急峻な断崖となって太平洋に面していた。
原子炉建屋等の主要建物
は直接堅固な岩盤に設置されるべきものとされているが,
福島第一原発の敷
地内の泥岩層は,標高4m付近にある。そして,岩盤の性質は比較的脆弱であるにもかかわらず,十分な耐力を有するとされているのであり,判断の妥当性に疑義がある。また,福島第一原発は,渓流や沼沢がある標高約35mの土地を標高10mまで切り下げて整地し,
原子炉建屋などが建設される場
所については,標高-4mの岩盤が露出するレベルまで掘り下げ,ベタ基礎のような形状の人工岩盤のコンクリートを打設し,
原子炉建屋の底部を半ば
岩盤に埋め込んで一体化させて建設された。さらに,軟弱地盤で地下水量の多い土地に原子力施設を建てるということ自体に大きな問題があったといえる。このことは,地震などによって原子炉建屋等に生じた亀裂から地下水が原子炉建屋等に毎日約400トンの地下水が入り込んで,
溶融燃料を冷却
した水と混ざって高濃度汚染水が増え続けるという事態を招いていることからも明らかである。以上より,福島第一原発の敷地は,原子炉設置の敷地として不適格であった。

耐震設計審査は不十分であること
国会事故調は
1ないし3号機の設置許可申請がなされた昭和40年代前半は地震科学が未熟であり,敷地周辺の地震活動性は低いと考えられたとしたものの,クラスAsおよびAの設計は,基盤における最大加速度0.18g(gは重力加速度で980Gal)の地震動に対して安全であるように設計される,クラスAsの施設については,上記の0.18gの1.5倍の加速度の地震動に対して,機能がそこなわれないことを確かめるとして,265Galを決めたが,敦賀原子力発電所が昭和23年の福井地震(マグニチュード7.1)を考慮して最大加速度368Galの機能保持検討用地震動としたことに比べると,相当低い,当時としてはやむをえない面があったとはいえ,これらの想定は著しく甘いもので,当初の耐震設計は明らかに不十分だったと強く批判している。このことから,耐震設計審査も不十分であったといえる。


昭和39年原子炉立地審査指針に基づく審査の誤り
昭和39年原子炉立地審査指針によれば,
立地条件の適否を判断する際に
は,基本目標を達成するため,少なくとも,①原子炉の周辺は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること,
②原子炉からある距離の範囲内
であって,非居住区域の外側の地帯は,低人口地帯であること,③原子炉施設は人口密集地帯からある距離だけ離れていること,
という3条件を充足し
ていることを確認しなければならないとされた。また,重大事故と仮想事故については,いくつかの事故を想定し,その解析の結果,非居住区域及び低人口地帯に放出されるそれらの事故時の放射線量が,
以下の目安線量を超え
ないならば,立地条件を満たすと判断されることになっていた。
重大事故

甲状腺(小児)に対して

1.5Sv

全身に対して

0.25Sv
仮想事故

甲状腺(成人)に対して

3Sv

全身に対して

0.25Sv

本件の安全審査では,仮想事故においても炉心の100%溶融とされているにもかかわらず,格納容器(ドライウェル)に放出されるのは炉心に内蔵されている核分裂生成物中のヨウ素の50%,希ガスの100%のみを仮定し,セシウムやストロンチウム,プルトニウムなどについては全く考慮されておらず,
格納容器からは許容される漏洩率で隙間から漏れるだけ
であって格納容器が破壊されることは仮定していない。このように,放出量を少なくする仮定をおいた結果,
敷地外において線量が最大となる原子炉か
ら約1kmにおける線量は,目安線量よりも十分に小さいとされた。国会事故調では,立地審査指針では,重大事故の発生を想定して原子炉周辺のある範囲を非居住区域とするとともに,仮想事故を想定した上で,非居住区域を越えたある範囲を低人口地帯とすることが要求されている。しかし,非居住区域や低人口地帯の設定の前提となる放射性物質の放出量は,これらの区域・地帯が原子炉施設の敷地内に収まるように逆算されていた疑いがあると指摘し,安全審査自体を強く批判している。また,立地審査指針で想定した事故は,
格納容器の封じ込め機能は維持されていることを前提に
設計上許容される漏洩率で隙間から漏れるという相当軽いものを想定した計算をしていた。以上より,立地審査指針の規定及び適用には誤りがあったといえる。


公衆損害額に関する試算が行われたこと
科学技術庁(当時)は,原子力災害評価についての基礎調査を行い,原子力災害補償確立のための参考資料とするために原子力産業会議に調査を委託し,原子力産業会議は,
アメリカ原子力委員会の解析方法を参考にして試算を行っ
た。放出される放射性物質の種類・量・気象条件などを変えて試算した結果,最大となる人的損害は数百名の死者,数千人の障害,100万人程度の要観察者であり,最大となる物質損害は,農業制限地域が幅20ないし30km,長さ1000kmにも及ぶものであり,
損害額は1兆円以上と試算された。
このよう
に原子力災害による損害は莫大であり,許可権者である内閣総理大臣は,この試算を認識し得る立場にあり,
原発事故が起きることの予見可能性は十分にあ
った。


我が国の原子力損害賠償制度の成立
我が国では,昭和36年,原賠法が定められ,同時に,政府と事業者との間の補償契約を定めた原子力損害賠償補償契約に関する法律が制定された。ここ
では,原子力事業者の責任集中,無限責任が定められた。もっとも,原子力事業者が賠償すべき額が事業者の講じる賠償措置額を超えたときは,国は,事業者保護と被害者保護のために必要があると認める場合,事業者に対し,事業者が損害賠償を行うために必要な援助を行うものとされた。



以上より,原子力災害が甚大かつ永続的であることは,本件設置等許可処分当時においても,核開発の歴史から明らかであり,原子力発電所を設置,稼働させれば,原子力事故が起こる可能性があることは,原子力の研究開発に携わっていた者であれば分かっており,このことから,公衆損害の試算が行われ,原賠法が制定されたのである。そして,内閣総理大臣は,科学技術庁に公衆損害の試算を行わせ,原賠法を成立させ,原子炉設置許可処分をするに当たっては,原子力研究開発に携わっていた者の意見を聞いて,原子炉設置許可の是非を決定するのであるから,原子力事故が発生し,甚大な被害が発生する可能性があることについては,知っていたか,少なくとも知り得る立場にあったといえる。したがって,内閣総理大臣(当時)には,本件設置等許可処分の時点において,事故発生と甚大な被害発生について,予見可能性があったというべきであり,内閣総理大臣(当時)が本件設置等許可処分をしたことは,違法であり,過失と評価できる。

(被告国の主張の要旨)


原子炉設置許可処分に係る国賠法上の違法性判断枠組み
国賠法1条1項にいう違法とは,公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいい,
行為規範違背
を内容とするから,その法的義務違反の有無については,当該職務行為をした時点を基準として判断される。その職務上の法的義務の具体的内容は,対象となる行政行為の内容及び性質に応じて検討されるべきところ,
本件設置等許可
処分当時の炉規法は,原子炉設置許可処分について,①具体的な安全審査の基準あるいは判断基準の策定と,
②炉規法24条1項各号所定の要件該当性の認
定判断について,原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねるものと解される。
このことに照
らせば,本件設置等許可処分が国賠法上違法と評価されるのは,処分当時の科学的,専門技術的知見に照らし,原子力委員会等における調査審議に用いられた具体的審査基準に看過し難い不合理な点があり,あるいは,原子力委員会等の行った調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落があり,内閣総理大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合に限られる。
このような過
誤,欠落等は,請求原因事実である違法を基礎付ける根拠事実であるから,その主張立証責任は,
本件設置等許可処分が違法であるとして損害賠償を求める
原告らが負担する。



本件事故後の専門機関の見解等に基づく原告らの主張が失当であること国賠法1条1項にいう違法は,国民の権利利益を侵害する行為をすることが法の許容するところであるかどうかという見地からする行為規範違背であるから,違法の有無は,当該職務行為の時点を基準として,当時の科学的,専門技術的知見に照らして判断されるべきものであり,当該職務行為がされた後の事情により得られた新たな科学的,専門技術的知見に基づき,遡って当該職務行為を行った公務員におよそ遵守することを期待できない行為規範(職務上の義務)を課し,その義務違背を問うて国に賠償責任を負わせることは法の予定するところでない。それにもかかわらず,原告らが引用する見解等は,
いずれも日本国内で観測された過去最大規模の本件地震及びこれに伴う津波が発生し,
本件事故が発生したという本件設置等許可処分後の事情を踏まえ
た調査,研究等により得られた見解であり,本件設置等許可処分後の新たな科学的知識,専門的知見というべきものである。したがって,本件事故後の専門機関の見解等に基づき本件設置等許可処分が国賠法上違法であるとする原告らの主張は失当である。


調査審議に用いられていない審査基準の瑕疵を指摘する原告らの主張が失当であること
福島第一原発1ないし3号機について設置(変更)許可処分がされたのは昭和41年12月1日から昭和45年1月23日であり,
同4号機について設置
(変更)許可処分がされたのは昭和47年1月13日であるのに対し,昭和45年安全設計審査指針が原子力委員会において了承されたのは3号機の設置(変更)許可処分後の昭和45年4月23日,原子力安全委員会が発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針
(安全機能重要度分類
指針)を決定したのは平成2年8月30日,昭和53年耐震設計審査指針を決定したのは昭和53年9月29日である。すなわち,昭和45年安全設計審査指針は,1ないし3号機の設置許可処分後に策定され,これらの処分における安全審査には用いられておらず,また,上記安全機能重要度分類指針や昭和53年耐震設計審査指針は,本件設置等許可処分後に策定され,いずれの安全審査にも用いられていないといえる。したがって,本件設置等許可処分の調査審議に用いられていない審査基準の内容をもって,
本件設置等許可処分の国賠法
上の違法が基礎付けられるものではなく,
調査審議に用いられていない審査基
準の誤り,瑕疵を指摘する原告らの主張は,失当である。



本件事故における事故原因と関わりのない事由によって,
本件設置等許可処
分が国賠法上違法であるとする原告らの主張が失当であること
当該職務上の法的義務違反によって原告らの主張に係る損害が生じたということができない場合には,
当該職務上の法的義務違反は被告国の国賠法上の
責任を導くことはなく,
当該設置等許可処分の国賠法上の違法を基礎付ける事
情とはなり得ない。したがって,本件設置等許可処分の国賠法上の違法性の有無の判断に当たっては,
本件事故により損害を被ったと主張する原告らとの関
係において,
内閣総理大臣が本件設置等許可処分を行うに当たりいかなる職務
上の法的義務を負担していたかを検討すべきであり,
原告らの主張に係る損害
は当該職務上の法的義務違反によって生じたものであるか否かを問う必要がある。本件においては,原告らは,内閣総理大臣による本件設置等許可処分その他の違法な公権力の行使又は不行使により,
本件地震に伴う津波による全交
流電源喪失を原因として本件事故が発生したことによって損害を受けたとして,被告国に対し国賠法1条1項に基づく賠償を請求しているのである。したがって,
およそ津波に対する安全対策と関わりのない事項に係る安全審査の内容については,それが本件事故の発生に直接影響を与えるものでないから,このような事故原因と関わりのない事項に対する安全対策に係る事由によって本件設置等許可処分が国賠法上違法であるとの原告らの主張は失当である。⑸

本件設置等許可処分当時の科学的,専門技術的知見に照らし,原告らが主張するような過誤,欠落があるとは認められず,本件設置等許可処分における安全審査に不合理な点はないこと

炉規法における安全規制においては,分野別安全規制,段階的安全規制が採用されており,原子炉設置許可の段階における安全審査では,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が審査されるものである。そして,本件設置等許可処分当時の炉規法の規定の下における基本設計ないし基本的設計方針に係る安全確保対策の体系は以下のとおりであり,
これらの考え方は基本的
に今日においても変わっておらず,一般的に妥当性を有するものである。炉規法24条1項4号の規定する原子炉施設の安全の確保とは,
その文言
上,核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることを意味するのは明らかである。したがって,
そこで想定されている原子炉施設の潜在的危険性とは放射性物質に関わる危険である。すなわち,原子炉施設の位置,構造及び設備について,災害の防止上支障がないものとして,放射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させないための対策が適切に講じられていることが安全審査の対象である。このため,安全審査において,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針について確認すべき事項は,
①原子炉施設の平常運転によって放射性
物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,
平常運転時における被ば
く低減対策を適切に講じていること及び②原子炉施設において事故が発生することにより放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,自
然的立地条件との関係も含めた事故防止対策を適切に講じていることである。この事故防止対策とは,原子炉施設を取り巻く自然的立地条件に万全の配慮をした上,いわゆる多重防護の考え方に基づき,原子炉の運転の際に異常状態が発生することを可及的に防止することはもちろんのこと,仮に異常
状態が発生したとしても,それが拡大したり,更には放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態にまで発展することを極力防止するとともに,仮にそのようなおそれのある事態が発生した場合においてもなお,放射性物質の環境への異常放出という結果が防止され公共の安全が確保されるように,その基本設計ないし基本的設計方針において,所要の事故防止対策を講じることである。これら2点が確認されることにより,設置等許可処分の申請があった原子炉施設の位置,
構造及び設備がその基本設計ないし基本
的設計方針において,原子炉等による災害の防止上支障がないものであり,炉規法24条1項4号の要件に適合することが確認される。また,安全審査においては,
上記①及び②の対策が講じられていることを確認するだけではなく,
申請者の実施した①の平常時における被ばく低減対策に係る被ばく線量評価及び②の事故防止対策に係る解析評価
(以下
事故解析評価
という。

の妥当性をも併せて確認する。この事故解析評価は,申請者において,通常運転状態を超えるような異常な事態をあえて想定し,
そのような事態におい
ても,
当該原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針において事故防止対策のために考慮された機器系統などの設計が妥当であることを念のため確認するものである。安全審査において,このような事故解析評価の妥当性についても審査するのは,
原子炉施設が放射性物質を有しているという点を考
慮し,念には念を入れるという考え方に基づくものである。さらに,安全審査においては,
このようにして平常時における被ばく低減対策及び事故防止
対策による安全性確保を確認し,事故解析評価の結果,安全防護設備等の基本設計ないし基本的設計方針の総合的な妥当性が確認されていることを前提に,さらに念には念を入れて安全性の確認をするべく,放射性物質から放出される放射線は,
たとえ放射線を減衰させるための物的障壁が存しなくて
も,離隔によって十分減衰し得るものであることに鑑み,災害評価として,当該原子炉がその安全防護設備との関連において十分に公衆から離れているとの立地条件を満たすものであるかについても審査される。
この原子炉の
公衆との離隔に係る立地条件の適否については,
環境に放射性物質が放出さ
れるような事故をあえて想定した上,
その事故による公衆の被ばく線量を計
算,評価し,これを基礎に判断する方法が採用されており,昭和39年原子炉立地審査指針への適合性の評価は,この災害評価を審査するものである。イ
安全審査の対象である基本設計ないし基本的設計方針の意義
そもそも基本設計ないし基本的設計方針という概念は,
炉規法の法文上定
義されたものではなく,
工学的分野における設計において一般的に認められ
た概念である。ここでいう基本設計ないし基本的設計方針とは,原子炉施設の安全性に係る設計の基本的考え方をいい,これは,本件設置等許可処分当時における炉規法23条2項,原子炉の設置,運転等に関する規則(昭和32年総理府令第83号)1条(昭和35年総理府令第54号による改正後の1条の2)
の定める原子炉設置許可申請書に記載すべき事項などから客観的
に把握し得るものである。基本設計ないし基本的設計方針は,後続の詳細設計等に対して指針を示し枠組みを与えるものであるが,
具体的な個々の原子
炉の安全審査において,上記の基本設計ないし基本的設計方針として,いかなる事項をいかなる程度まで審査すべきかは,
対象となる設備等の災害防止
上の位置付け,安全審査時点における技術的知見,当該設備等の他の産業における利用実績等の事情によって異なり得る。そして,具体的な安全審査の基準あるいは判断基準の策定について処分行政庁に専門技術的裁量が認められることに照らせば,
基本設計ないし基本的設計方針としていかなる事項
をいかなる程度まで審査すべきかの具体的な判別についても,
処分行政庁の
専門技術的な見地からの合理的な判断に委ねられているというべきである。ウ
本件設置等許可処分は,同処分当時における科学的,専門技術的知見の下で,
適正に行われており,
原告らが主張するような過誤,
欠落は認められず,
不合理な点はないこと
本件設置等許可処分における安全審査に当たっては,
原子力委員会に置か
れた原子炉安全専門審査会において,原子力及び関連分野における科学的,専門技術的知見に精通した学識経験者等の審査委員により,
幅広くかつ詳細
な調査審議がされた。内閣総理大臣による本件設置等許可処分は,この調査審議の結果を踏まえた原子力委員会の答申を尊重して行われたものであり,当時の科学的,専門技術的知見に照らし,原子力委員会等における調査審議に用いられた具体的審査基準に看過し難い不合理な点があるとはいえず,原
子力委員会等の行った調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落があ
るともいえない。そのため,原子力委員会等の科学的,専門技術的な意見を基にしてされた内閣総理大臣の判断に不合理な点はなく,
本件設置等許可処
分が国賠法1条1項の適用上違法と評価されることはない。
そして,
原告らが本件設置等許可処分の過誤,
欠落として主張する事由は,
いずれも前提事実や評価等を誤り,本件設置等許可処分当時における科学的,専門技術的知見に照らし,安全審査の過誤,欠落等として本件設置等許可処分の国賠法上の違法を基礎付けるような事情と認めることはできないから,これらの事由に基づく原告らの主張は失当である。
2
規制権限不行使の違法性の判断枠組み
(原告らの主張の要旨)


一般的判断枠組み
規制権限不行使が,
国賠法上違法となるのは,
その権限を定めた法令の趣旨・
目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合である。そし
て,判断の考慮要素としては,規制権限を定めた法令の趣旨・目的,権限の性質,被侵害法益の重要性,予見可能性の存在及び結果回避可能性の存在が挙げられる。



最高裁判例についての検討

宅建業者最高裁判決やクロロキン最高裁判決,
筑豊じん肺最高裁判決及び
関西水俣病最高裁判決についてみると,
具体的な規制権限の行使の在り方に
ついて異なる判断を示している。すなわち,宅建業者最高裁判決及びクロロキン最高裁判決は,行政庁の裁量の存在を問題としているのに対し,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,
行政庁の裁量の存在を問題と
せず,規制権限は適時に適切に行使すべきであることを明確にしている。

各最判の検討
宅建業者最高裁判決の事案は,被害法益が財産権であり,取引関係者が…自助努力により損害を防止することもある程度は可能であるから,違法免許から生ずるすべての取引関係者の具体的な損害まで国又は地方公共団体が当然カバーするとはいえないことから,処分をするか否かの判断,どのような処分をするかの判断,いつ行うかの判断についての行政庁の裁量が強調されたといえる。また,クロロキン最高裁判決の事案は,被害法益が生命・健康であるものの,医薬品の有用性と副作用の比較考慮(生命対生命の比較考慮)が必要であること,また,その当否は別として,当該医薬品を使用する医師の適切な配慮により副作用による被害の防止が図られるこ
とから,処分をするか否かの判断,どのような処分をするかの判断,いつ行うかの判断は,専門的かつ裁量的な判断によらざるを得ないとして,行政庁の裁量が強調されたといえる。
これに対し,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決の事案は,いずれも,一方の被害者側の法益が生命・健康という不可侵の権利であり,他方で規制される側の不利益は,事業者の物的・経済的負担であること,規制権限を付与した根拠法規の趣旨・目的が被害法益を直接保護することを主要な目的の一つとしていることから,処分をするか否かの判断,どのような処分をするかの判断,いつ行うかの判断についての行政庁の裁量の存在を問題とせず,生命・健康被害の発生・拡大を防止するために適時にかつ適切に規制権限を行使することが求められることを明確にしたものといえる。
上記のとおり,宅建業者最高裁判決及びクロロキン最高裁判決は,行政庁の
裁量
の存在を問題とすることから,
規制権限の行使の在り方について,
処分の選択,その権限行使の時期等は,知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられている(宅建業者最高裁判決),問題となった副作用の種類や程度,発現率及び予防方法等を考慮した上,随時,相当と認められる措置を講ずべきものであり,その態様,時期等については,性質上,厚生大臣のその時点の医学的,薬学的知見の下における専門的かつ裁量的な判断によらざるを得ない(クロロキン最高裁判決)との判断につながっているのである。
これに対し,
筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,
規制権限を付与した根拠法規が被害法益を直接保護することを主要な目的の一つとしていることから,行政庁の裁量の存在を問題とせず,規制権限の行使の在り方について,
その健康を確保することをその主要な目的として,できる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく,適時にかつ適切に行使されるべきものである(筑豊じん肺最高裁判決),(規制)権限は…周辺住民の生命,健康の保護をその主要な目的の一つとして,適時にかつ適切に行使されるべきものである(関西水俣病最高裁判決)との判断につながっているのである。
このように,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,規制権限を付与した根拠法規が,生命・健康という不可侵の法益を直接保護することを主要な目的の一つとしている場合には,規制権限を有する行政庁の裁量の幅は極めて狭いことを明らかにしているということができる。ウ
上記のとおり,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,規制権限不行使の違法性判断の考慮要素として取り上げるのは,
被害法益の重大
性,予見可能性の存在及び結果回避可能性の存在だけであり,それ以外の事情は基本的には考慮要素としておらず,
規制権限を有する行政機関の裁量の
存在を問題としていない。そして,それぞれの考慮要素は総合的に判断すべきであるが,被侵害利益を基本として総合的な判断を行うべきである。筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決が,被侵害利益の重大性,予見可能性の存在及び結果回避可能性の存在だけを違法性判断の考慮要素として取り上げ,特に行政機関の裁量を問題としていないのは,上記最判の事案の被害法益が生命・健康という不可侵の重大な法益であり,これに対する規制される側の不利益が事業主や産業界の物的・経済的負担であるからであり,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,国民の生命・健康を保護する行政の在り方は,
行政機関が裁量を理由に介入に消極的になるこ
とは許されず,
適時にかつ適切に介入することが求められる分野であること
を明らかにしている。


以上より,原告らが主張する規制権限不行使の違法性の判断基準は,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決を踏まえたものであり,規制権限の
根拠法規の趣旨・目的が当該被害者の被っている当該被侵害利益を直接的に保護しようとしている場合は,行政庁の有する裁量の存在を問題とせず,行政庁は,適時にかつ適切に規制権限を行使することが求められる。したがって,規制権限を行使するかどうかについて裁量が認められている事項,
規制権限行使
の要件が具体的に定められていない事項については,
第一次的には行政機関の
判断が尊重されるべきであるとする被告国の主張は誤りである。

(被告国の主張の要旨)


規制権限不行使の違法性が問題となった主要最高裁判例

国賠法1条1項は,公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,
違法に他人に損害を加えたことを国家賠償請求権の成立要件としているが,ここでいう違法とは,公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいう。


規制権限不行使の違法性が問われた最高裁判例としては,
宅建業者最高裁
判決,クロロキン最高裁判決,筑豊じん肺最高裁判決,関西水俣病最高裁判決及び大阪泉南アスベスト最高裁判決などがあるが,
上記国賠法1条1項に
いう違法の考え方は,クロロキン最高裁判決において,規制権限の不行使という不作為が国賠法上違法であるというためには,当該公務員が規制権限を有し,規制権限の行使によって受ける国民の利益が国賠法上法的に保護されるべき利益である(反射的利益ではない。)ことに加えて,右権限不行使によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において,当該公務員が規制権限を行使すべき義務(作為義務)が認められ,右作為義務に違反することが必要であるとされているとおり,規制権限不行使の違法性を問う局面においても同様に考えられている。そして,規制権限行使の要件が法定され,右要件を満たす場合に権限を行使しなければならないとされているときは,右要件を満たす場合に作為義務が認められることになるが,規制権限の要件は定められているものの,権限を行使するか否かにつき裁量が認められている場合や,権限行使の要件が具体的に定められていない場合には,規制権限の存在から直ちに作為義務が認められることにはならない。とされており,最高裁判所の判例は,このような場合,原則として作為義務は生じないが,具体的事案の下で,規制権限を行使しないことが著しく合理性を欠く場合には,規制権限行使の作為義務が認められ,権限不行使は違法となるとしている。

このように規制権限を行使するかどうかについて裁量が認められている事項や,権限行使の要件が具体的に定められていない事項については,第一次的には行政機関の判断が尊重されるべきであって,
その規制権限の不行使
が国賠法1条1項の適用上違法となるのは,その権限を定めた法令の趣旨・目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限られるところ,本訴訟で問題となっている電気事業法についても,行政庁に専門技術的な裁量がある。すなわち,平成24年法律第47号による改正前の電気事業法39条1項は,

事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。

と規定し,同条2項は経済産業省令が次に掲げるところによらなければならないとし,その1号で

事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。

と規定している。また,同法40条は,経済産業大臣は,事業用電気工作物が経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業者に対して技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる旨規定している。これらの規定の文言からも明らかなとおり,技術基準適合命令に関する電気事業法の規定は,その内容が一義的に明確に定められているものではなく,しかも,事業用電気工作物(本件では,その中でも現代の科学技術を結集した原子力発電施設)という性質上,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えるか否かの判断は,高度の専門技術的判断を要するから,
同規定は行政庁の専門技術的裁量を許容している
というべきである。さらに,省令の制定・改正については,一般の行政処分と同様の意味での要件規定はなく,行政庁は,諸般の事情を考慮しつつ,その合理的な裁量に基づき,その要否,具体的な内容等について判断すれば足りることや,その内容が公益的,専門的及び技術的な事項にわたることからすれば,
行政庁の裁量は裁量的行政処分の場合よりも更に広いというべきである。したがって,本訴訟においても,規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるのは,炉規法や電気事業法の趣旨・目的や,その権限の性質等に照らし,
権限を行使すべきであったとされる当時の具体的事情の下
において,
その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとき
に限られる。


最高裁判例では,
規制権限不行使の違法性は当該職務行為をした時点を基準
として判断されていること
国賠法1条1項の違法は,
国民の権利利益を侵害する行為をすることが法の
許容するところであるかどうかという見地からする行為規範違反であるから,公務員が個別の国民との関係で負担する職務上の法的義務に違背したかどうかは,当該職務行為をした時点を基準時として判断される。また,予見可能性や結果回避可能性は,
国賠法1条1項の違法の有無を判断する前提としての考
慮要素であるところ,これらは法が当該公務員に対して,結果発生の危険性との関係でどのような職務上の法的義務を課しているかを検討する前提としての考慮要素となるものであることから,その判断も,権限の行使・不行使が問題とされる当時の科学技術水準や確立した科学的知見を離れては論じ得ない。特に,高度の科学知識と科学技術を結集して設計,維持,管理がされる原子炉施設においては核物理学のほか,地震学,地質学,津波学などの理学分野,原子力工学,機械工学,土木工学,津波工学などの工学分野,放射線医学などの医学分野等多方面にわたる専門分野の知識経験を踏まえた将来の事象に係る予測判断が問題とされている。このような予測判断の場面において,これら専門分野における通説的見解においても想定することができなかった事象を予見し,かつ,当時の工学的知見によって導かれる対策とは全く異なった対策が義務付けられるとすれば,
経済産業大臣に不可能を強いる結果となることが明
らかである。
したがって,
本件では,
学識経験者の間でどのような知見が形成,
確立され,通説的見解とされていたのか,取り分け地震予測や津波予測といった,
いまだに未解明の事項が多く残り,
なお発展過程にある学術分野において,
過去のデータの解析,予測条件や予測手法の評価等について,どのような研究成果が通用性を有するものとして専門家において広く受容され,
どのような事
項が今後の研究の継続により解明されるべき課題として認識されていたかを慎重かつ謙虚に吟味する必要があるところ,これらの判断は,本件事故前の科学的知見に照らして評価する必要があり,これを離れ,現時点から回顧的に予見可能性の有無を判断するかのような検討手法は許されない。


最高裁判例において,規制権限の不行使の違法性は,事業者の一次的かつ最終的責任の存在を前提とした判断がされていること
規制権限不行使に基づく国の損害賠償責任は,国が直接の加害者(事業者)ではないものの,直接の加害者(事業者)に対して規制権限を適切に行使していれば国民に損害が発生することを防止できたにもかかわらず,
その行使を怠
ったことによる責任であるから,加害者(事業者)の一次的かつ最終的な責任を前提とした国の二次的かつ補完的な責任が問題とされる構造を本質的に有するものであり,このことは最高裁判例でも前提とされている。


最高裁判例では,規制権限を行使しないことが著しく合理性を欠く場合について,①規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質,②被害の重大性及び切迫性,③予見可能性,④結果回避可能性,⑤現実に実施された措置の合理性,⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性),⑦規制権限行使における専門性,裁量性などの諸事情を総合的に検討して,違法性を判断していること
規制権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くか否かの判断に当たって考慮されるべき事情としては,
被害結果の重大性やその予
見可能性,回避可能性のほか,権限不行使が問題となる当時の一切の事情が評価対象となり,その判断を行うに当たっては,行政権限の行使を行政庁の裁量に委ねた根拠法規及び権限根拠規定の各趣旨・目的,裁量の幅の大小,規制ないし監督の相手方及び方法についての当該法規の定め方を前提として,権限行
使を義務化する上で積極的に作用する事情のみならず,
消極に作用する事情も
含めた諸般の事情が総合考慮される。そして,規制権限の不行使の違法性の判断は,規制権限の行使が問題となる当時の具体的事情の一切が斟酌されるため,本訴訟においても,本件事故前において講じられるべきであったと考えられる措置とは別に,行政庁において実際に講じた措置がある場合には,規制権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるか否かは,行政庁が当該措置に代えて,あるいは当該措置に加えて,別の規制権限を行使しなかったことの不合理性が問われなければならない。また,その判断に際しては,前記⑶で述べたとおり,被告国が負っている責任が二次的かつ補完的責任であることを踏まえても,なお,規制権限を行使しなかったことが不合理であると評価されるか否かが検討されるべきである。



不十分な科学的知見によって原告らの主張する規制権限を行使した場合,そ
の規制権限の行使は違法と評価されかねなかったこと
本件のように被告国に規制権限を行使することについて裁量が認められる場合には,被告国に,当該規制権限を行使する法的義務が常に生じるものではない。すなわち,被告国には,規制権限の行使についての裁量が認められている以上,被告国が規制権限を行使する法的義務を負うのは,規制権限を行使しないことが著しく合理性を欠くと評価される非常に限られた場合だけであって,それ以外の多くの場合は,規制権限を行使することが望ましいか望ましくないかといった当否の問題は生じても,
規制権限を行使することが法的義務に
まで高まることはない。また,当該規制権限行使の相手とされた者の権利を制約することになる関係で,
被告国が十分な根拠を持たずに規制権限を行使すれ
ば,規制権限を行使したことが裁量権を逸脱・濫用したものとして,行政法上違法と評価される余地がある(行政事件訴訟法30条参照)。すなわち,行政庁に規制権限を行使することについての裁量が認められている場合であっても,行政庁が,
その規制権限を行使する前提となる事実が存在しない場合又はその事実についての評価に誤りがある場合には,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものとして違法との評価がされることがあり,
行政庁が十分な根拠を
持たずに規制権限を行使した場合には,
規制権限を行使する根拠となる事実が
存在しないと扱われる又はその事実の評価を誤ったものとして,
その規制権限
を行使したことが違法と評価され得るのである。
本件において,原告らは,被告国が電気事業法40条の技術基準適合命令を発令しなかったことなどの違法を主張するが,技術基準適合命令(修理,改造等の命令)又は処分(一時停止)に違反した者は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられ,又はこれを併科される(同法116条2号。なお,両罰規定が適用されると法人に対しては3億円以下の罰金刑が科せられる。同法121条1号)。このように技術基準適合命令は刑事罰をもって強制されるなど,被規制者の大きな負担となるのであるから,同命令を発令するためには,客観的かつ,合理的な根拠をもって発令を正当化できるだけの具体的な危険性が存在し,かつそれを認識していることが必要であり,更にかかる規制権限の行使が作為義務にまで高まるのは,
この客観的かつ合理的な根拠とし
ての科学的知見が確立している場合に限られると解すべきである。仮に予見可
能性の対象について,
規制権限行使が客観的かつ合理的な根拠をもって正当化
できるだけの具体的な法益侵害の危険性が認められるに至っていないにもかかわらず,
薄弱なエビデンスに基づいて被告国が技術基準適合命令を発した場合,かかる行政処分に対しては,被告東電などの事業者側から行政処分の取消訴訟が提訴されかねない上,その行政処分が裁量権を逸脱したものであり,かかる行政処分によって事業者側に営業損害等が生じた場合には,
事業者側から
の国家賠償請求訴訟が提訴されることにもなりかねない。さらに,事業者に一定の措置を講じることを強制した場合,
その原資は電気料金値上げ等により消
費者である国民の負担に帰することもあり,当該措置を講じるための一時停止,減産により電力の安定供給が損なわれれば,国民生活,産業・経済活動にも影響を及ぼし,混乱を招きかねないことからしても,薄弱なエビデンスに基づく規制権限の行使は許されるものではない。
3
省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性
原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限の有無
(原告らの主張の要旨)

敷地高さを超える津波防護措置を規制することは経済産業大臣の権限の範囲内であること
規制法の体系
実用発電用原子炉の安全規制に関しては経済産業大臣が所管し,
炉規法
が適用されるが,これと並んで,実用発電用原子炉が発電用設備でもあることにより電気事業法の適用を受けることとなる。具体的には,炉規法73条により同法27条から29条までの設計及び工事方法の認可,使用前
検査,溶接検査及び施設定期検査の4つの規制項目が適用除外され,これに相当する電気事業法の規制が適用されることとなる。
これは二重の規制
を回避するための適用除外であり,炉規法が適用除外され,電気事業法が適用される場合でも原子力基本法,炉規法等の趣旨・目的が妥当する。そして,
炉規法及び電気事業法ともいずれも経済産業大臣が規制行政庁である。
規制の目的・趣旨は災害の防止であること
炉規法24条及び37条の
原子炉による災害の防止
における
災害
とは,放射線障害等の被害に着目した概念であり,原子炉による災害の防止とは,原子炉から放射線障害等の被害が発生することを防止することである。そして,原子炉から放射線障害等の被害をもたらす原因には,工学的あるいは人的な内部事象,外部事象等様々なものがあるが,そのいずれを原因とするものであっても,災害の防止上支障があるかどうか,災害の防止上十分であるかどうかは,
災害が万が一にも起こらないようにするため
に最新の科学技術水準に即応した規制基準によって判断される
べきである。
したがって,
規制法の趣旨が,
災害の発生の防止にある以上,
特定の事故や事象に限定をしてその対策を立てれば足りるというものではない。
電気事業法の委任の趣旨
上記の炉規法の趣旨・目的は,電気事業法が適用される運転中の原子力発電所の安全規制に対しても当然妥当するものである。
電気事業法39条
1項は,

事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。

とし,同条2項は,

前項の経済産業省令は,次に掲げるところによらなければならない。

とした上,その要件の1つとして,事業用電気工作物の安全性に関して

事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。

と定めており,この

人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。

というのは,原子力発電所においては,炉規法24条1項の原子炉による災害の防止上支障がないものであることを含むものである。このように,電気事業法39条が経済産業大臣に規制権限(技術基準省令制定権限)を委任した趣旨は,原子力発電所から万が一にも災害が発生しないようにするために,
最新の科学技術基準に即応して安全規制の基準
を作るところにある。
運転中の原子炉の安全確保を規制する法の趣旨
a
炉規法35条,36条,37条,電気事業法39条,40条,46条等の規定が主務大臣である経済産業大臣に権限を委任した趣旨は,原子
炉の設置許可段階と同じく,
万が一にも原子炉による災害を起こさない
ようにするためである。そして,電気事業法39条,40条には,被告国が主張するような経済産業大臣の権限の範囲を限定する要件はない。同法39条2項1号は原子力発電所の施設が

人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。

としており,原子炉による災害を起こす危険性をもたらすものであれば,
その原因が基本設計に関
わる事項であっても,法が求める技術基準を満たさないこととなる。技術基準に適合していない場合に発せられる適合命令の内容も,
原子力発
電所の施設の修理,改造,移転,一時使用停止,使用制限というものであり,
基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項を除外するよう
な内容ではない。むしろ改造,移転,使用制限という規制内容は基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項を包含していると解される。
b
原子炉設置許可の手続は,①まず経済産業大臣が,原子力事業者からの申請を,原子力安全委員会の定める各種指針類を参照して審査する,②その後ダブルチェックとして,
原子力安全委員会が安全性についての
審査を行い,許可の可否について経済産業大臣に意見を述べる,③これを受けて,
経済産業大臣が許可・不許可の判断をするというものである。
この手続においては,経済産業大臣が審査・許可の権限を有し,災害の防止という趣旨から策定した審査・許可基準(指針類が参照基準)に基づいて判断をする。
原子力発電所の設置許可後は,
経済産業大臣は,
省令62号に基づいて,原子炉工事認可の判断をする。そして,運転開始後の原子力発電所の安全規制を担当する主務行政庁も経済産業大臣である。原子炉の設置許可の基準は,その時点における最新の科学技術的知見に基づく水準である必要はあるが,その後,工事認可段階,運転開始段階では,設置段階よりも,知見が発展していることが当然予定されている。被告国は,設置許可段階の安全規制と運転段階の安全規制とを峻別しようとする解釈を主張するが,災害防止という法規制の趣旨・目的は,設置段階,工事認可段階,完成後の運転段階全てにおいて妥当し,徹底されなければならないのであり,経済産業大臣の申請・許可の際の安全基準と経済産業大臣の工事認可・運転段階の技術基準は行政基準として統一的・整合的に策定されるべきである。したがって,経済産業大臣には,仮に指針類(審査基準)と技術基準との間に矛盾があるときには,この矛盾を解消する義務があるというべきである。
炉規法が経済産業大臣に規制権限を委任した趣旨,
電気事業法が経済
産業大臣に規制権限を委任した趣旨は,万が一の災害を防止するために,最新の科学技術的知見に速やかに適合させるためであり,法律が経済産業大臣に付与した裁量も同一の趣旨である。
設置段階で不足してい
た科学技術的知見が,工事認可段階,運転段階で取得できた場合には,当然,
経済産業大臣は,
審査基準・認可基準に反映させるべきであるし,
技術基準にも反映させるべきであり,現に経済産業省保安院は,発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈についてを策定し
て,審査基準・許可基準と技術基準との整合性を取る権限行使をしてきている。また,経済産業大臣が本件事故後である2011(平成23)年3月30日付けで原子力発電所設置者に対し行った指示文書
(甲A8
0)の添付資料福島第一原発事故を踏まえた対策の抜本対策中長期には,完了見込み時期として事故調査委員会等の議論に応じて決定とした上で,具体的対策の例を挙げており,そこには,設備の確保として防潮堤の設置,水密扉の設置,その他必要な設備面での対応との記載がある。これらは被告国の主張によると基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であるが,
経済産業大臣がこれらの対
策をとらせる権限を有していることを前提とした文書といえる。
バックフィットの権限
数十年にわたって稼働する原子力発電所に対し,
万が一にも原子炉によ
る災害が起こらないようにするために最新の科学技術的知見に即応した安全確保をすることが必要な場合に,
経済産業大臣が新しい規制基準を制
定してそれを既設原子力発電所にも適用することは,
それが被告国のいう
ところの基本設計ないし基本的設計方針に関係する事項であろうと,電気
事業法が経済産業大臣に委任した権限の範囲に含まれると解するのがあるべき法の解釈である。規制がどこまで許されるかは,法が経済産業大臣に委任した趣旨に照らして,
規制する必要性と規制を受ける電気事業者の
法的安定性の調整によって決まるものである。
被規制者である電気事業者
からみても,
もともと国の包括的関与なしには原子力発電所の事業が成り
立たないことを承認して,
受容不能なリスクを抱える原子力発電所の事業
を引き受けているのであるから,
最新の科学技術的知見に基づくと炉心損
傷に至る可能性に対応した安全規制を受けるという法的不安定性があることを予め受忍をしているといえる。
この電気事業者の法的安定性をどこ
まで考慮すべきかは個別の規制措置の程度によって決まることであり,こ
のことは炉規法の改正前後で変わりはない。したがって,炉規法の改正により原子炉設置許可基準を既設原子炉にバックフィットする権限が創設されたとの被告国の主張は誤りであり,
改正炉規法は経済産業大臣に権限
があることを確認するために明文化したものである。
必要であった津波防護対策は受忍限度の範囲内
原告らが主張する津波から原子炉施設を防護する対策を採ることを命ずる措置は,
いずれも既設原子炉の存亡に影響を与えるようなものではな
く,最新の津波知見に即応して,津波を原因として万が一の災害が起きないようにするために,
既設の原子炉施設の管理使用の強化をするというレ
ベルの問題であり,
電気事業者に与える不利益は受忍限度の範囲内である
し,
工事のための一定の猶予期間を設けた措置を採ることにより電気事業者も十分に対応可能である。
まとめ
仮に被告国の主張のとおり,経済産業大臣が,原子炉施設の安全規制について,
基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項に対する規制と詳細
設計に関わる事項に対する規制との段階的な規制システムを採っていたとしても,
それは権限行使の運用上そのようなシステムを作っていたにす
ぎず,運転中の原子炉の安全規制に関し,炉規法及び電気事業法が経済産業大臣の権限の範囲を被告国の主張のように定めたものではない。炉規法
及び電気事業法が経済産業大臣に運転中の原子力発電所の安全規制の権限を委任した趣旨は,
万が一にも原子炉による災害が起きないようにする
ために,最新の科学技術知見の到達に即応しながら,原子力発電所の安全規制をするところにある。したがって,経済産業大臣は,電気事業法40条に基づき,事業者に対し,運転中の原子力発電所の基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項についての権限も当然行使することができる。ま
た,運転中の原子力発電所について,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項について疑義が生じた場合には,経済産業大臣は,発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈についてを活用することに
よって,電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を出すことができ,既存の技術基準省令に規定が存在しない場合には,
規定を追加する省令改
正を行った上で,技術基準適合命令によって是正する権限があり,その義務があるといえる。

省令62号4条1項に基づく技術基準適合命令を出すべきであったこと後記

(予見可能性)(原告らの主張の要旨)のとおり,被告国は,遅く
とも平成18年の時点で,
非常用ディーゼルエンジンや配電盤等が機能喪失
し,全電源喪失に至る規模の津波の到来を予見することが可能であったから,経済産業大臣は,被告東電に対し,電気事業法40条,省令62号4条1項に基づき,津波という想定される自然現象により,原子炉施設の安全性が損なわれるおそれがあるとして,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を採るように命じるべきであった。具体的には,①タービン建屋等の人の出入口,大物(機器)搬入口などに強度強化扉の二重扉等を設置すること,
タービン建屋等の換気空調系ルーバーなどの外壁開口部の水密
化等の対策を採ること,
タービン建屋等の貫通部からの浸水防止等の対策を
採ることにより,タービン建屋等自体の防護措置を取ること,②非常用ディーゼル発電機及び配電盤等の重要機器が設置されている機械室への浸水防止等の対策を採ることによりタービン建屋等内の重要な安全機能を有する設備の部屋の防護措置を採ること,③既設の非常用ディーゼル発電機(水冷式)
を冷却するための海水系ポンプを津波から防護するための防水構造の建屋を設置し,
電気系統の配線の貫通口を水密化する対策
(以下,
それぞれ
①の措置,②の措置,③の措置といい,これらを併せて①ないし③の措置という。)を採ることにより,平成18年当時予見し得た津波の到来によっても福島第一原発が長期間の全電源喪失に至らないような対策を採るよう,被告東電に対し,技術基準適合命令を出すべきであった。ウ
電気事業法39条に基づき省令改正を行うべきであったこと
仮に被告国に上記の技術基準適合命令を出す権限がなかったとしても,電
気事業法及び原子力関連法令の趣旨・目的・規制権限の性質からすれば,経済産業大臣は,遅くとも平成18年までには,上記のような技術基準適合命令を行使できるよう,電気事業法39条に基づき,省令改正を行うべきであった。具体的には,津波という自然現象により,原子炉の安全性が損なわれないよう,防護措置,基礎地盤の改良について,より具体的な措置を求める技術基準適合命令を出せるよう省令62号4条1項を改正すべきであったといえる。
(被告国の主張の要旨)

段階的安全規制における技術基準適合命令
炉基法における安全規制は,
原子炉施設の設計から運転に至るまでの過程
を段階的に区分し,それぞれの段階に対応して,一連の許認可等の規制手続を介在させ,これらを通じて原子炉の利用に係る完全の確保を図るという,段階的安全規制の体系が採られている。すなわち,原子炉の設置許可に係る安全審査(前段規制)は,段階的安全規制の冒頭に位置付けられ,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を審査,判断される。そして,これを前提として,
原子炉施設の具体的な工事方法の妥当性等が審査
(後段規制)
される。
実用発電用原子炉について,電気事業者は,電気事業法39条1項に基づき,
実用発電用原子炉施設に係る事業用電気工作物につき技術基準維持義務を負い,経済産業大臣は,電気事業法40条に基づき,事業用電気工作物が経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,実用発電
用原子炉施設の一時使用停止命令を含む技術基準適合命令を発令することができる。上記の技術基準は,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が原子炉設置許可の段階で確認されていることを前提に,
これを踏まえた詳細設
計に基づき,工事がされ,使用に供される事業用電気工作物の具体の部材,設備等の技術基準として省令62号により定められているものであり,工事
計画認可(電気事業法47条3項1号),使用前検査(同法49条1項,2項)等の規制の基準とされるものである。また,原子炉施設に利用された部材,
設備等の経年劣化や磨耗等により当該原子炉施設の機能や安全性が損なわれない状態を維持するため,電気事業法39条は,電気事業者に対し,技術基準維持義務を課しており,定期検査及び立入検査において,それらの部材,設備等の技術基準適合性の有無が確認されることになる。このように,後段規制の段階では,技術基準が,事業用電気工作物としての原子炉施設の工事計画認可から運転開始後に至るまでの全段階にわたり,
当該原子炉施設
の具体の部材,設備等の安全性を確保するための基準として位置付けられ,機能しているのである。電気事業法40条は,同法39条1項が

事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。と規定していることを受け,

主務大臣は,事業用電気工作物が前条第1項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。と規定している。この文理に照らせば,電気事業法40条が事業用電気工作物が技術基準に適合していないと認められる場合に,これを技術基準に適合させるための措置を命ずることを規定した趣旨であることは明らかである。
電気事業法40条はもとよりその他の電気事業法の
規定を見ても,
原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針が炉規法24条
1項4号の設置許可の基準に適合しないことが明らかになった場合に,技術
基準適合命令を発して当該基本設計ないし基本的設計方針の是正を命ずることができると解し得るような規定は存在しない。このように,本件事故当時の法令上,技術基準は,飽くまで後段規制において,事業用電気工作物の具体の部材,
機器等の機能や安全性等を維持するための基準として位置付け
られているものであり,技術基準適合命令は,後段規制により原子炉施設の安全確保を図る方策として,
この技術基準の不適合を是正するものとしての
み規定されていた。

経済産業大臣は,
原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の安全性に
関わる問題を,
技術基準適合命令により是正する規制権限を有していなかっ
たこと
以上の検討によれば,炉規法及び電気事業法は,設置許可処分の際の安全審査において基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が確認されていることを前提に,後段規制においては,電気事業者に対し,事業用電気工作物としての具体の部材,機材等の性能,機能等の技術基準維持義務を課すとともに,技術基準適合性が維持されていない場合には,必要に応じて技術基準適合命令を発することによってこれを是正する仕組みを採用しているものである。
基本設計ないし基本的設計方針の安全性は,
後段規制の前提であって,
これに関わる問題については後段規制の対象となり得ず,
事後的に問題が生
じた場合であっても,
それについて後段規制としての技術基準適合命令によ
って是正する仕組みは採られていない。したがって,仮に既存の原子炉施設において基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項に問題が生じたとしても,
この問題を省令62号の改正や技術基準適合命令により是正
する余地はない。


原告らが主張する各措置はいずれも基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であること
原告らの主張する非常用電源設備を収納している建屋全体及び各部屋の扉等の水密化,配電盤・非常用ディーゼル発電機等の重要機器の水密化,配電盤・非常用ディーゼル発電機の設置場所の変更(津波により機能喪失することのない高位への変更,分散配置等),十分な電源車の配備,これらとは別途津波の到達する可能性のない高さに代替注水冷却に関する設備を配置することについてみると,福島第一原発については,いずれも福島第一原発の建屋の敷地高さを超えて津波が到来することを前提とした措置であり,自
然的立地条件との関係も含めた事故防止対策を根本的に変更することになる。そのため,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であるから,設置許可処分において安全性が確認された基本設計ないし基本的設計方針を前提として,
その詳細設計について規制すべき省令62号を改正することに
より,あるいは,省令62号を改正した上で電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発令することにより,
上記の防護措置を被告東電にとらせる
ことはできなかった。したがって,原告らの主張は,基本設計における安全審査の対象事項と後段規制における対象事項とを混同したものであり,失当
である。

改正後の炉規法においては,
技術基準適合命令を発することによって原子
炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能となったこと
平成24年改正後の炉規法43条の3の23により,
基本設計ないし基
本的設計方針の是正を図ることが可能となったこと
平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,
使用停止等処分を行い
得る場合として,平成24年改正前の電気事業法40条と同様の発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるときに加え,発電用原子炉施設の位置,構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるときを規定
した。つまり,炉規法43条の3の23は,発電用原子炉施設が技術基準に適合しない場合に加え,
最新の科学技術的知見を反映した設置許可要件
として原子力規制委員会規則で定める基準である
発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準を使用停止等処分の基準としても位置付け,これに適合しないと認められる場合には,
使用停止等処分ができることを明
文で規定したものである。したがって,上記改正により,基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能となった。
平成24年改正前の電気事業法40条に基づいて,
設置許可処分の要件
充足性につき技術基準適合命令を発することができなかったとの解釈は,平成24年改正後の炉規法43条の3の23との比較という文言解釈や趣旨解釈からも相当であること
前記のとおり,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止等処分の要件として,技術基準に適合しない場合に加え,新たに設置許可処分の基準に適合しない場合を明記した。このことに照らせば,前者の場合のみを技術基準適合命令の要件と定める平成24年改正前の電気事業法40条に基づいて,設置許可処分の要件充足性につき,技術基準適合命令を発することができなかったとの解釈は,文言解釈としても,趣旨解釈としても相当である。したがって,平成24年改正前の電気事業法40条について,
設置許可処分の要件を充足しないことが判明した場合につい
ても同条に基づいて技術基準適合命令を発してそれを是正することができるという解釈をすることは,相当とはいえない。
以上より,平成24年の炉規法改正前は,法令上,経済産業大臣は,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する事項について,省令62号を改正し,
これを改正した上で技術基準適合命令を発令することにより是
正する規制権限を有していなかったから,上記事項について技術基準適合命令等の規制権限を行使しなかったことは違法とはいえない。
予見可能性
(原告らの主張の要旨)

予見可能性の対象
被告国の規制権限不行使の違法を主張するに当たり問題としている予見可能性の対象は,
福島第一原発の非常用電源設備等の安全設備を浸水さ
せる規模の津波,すなわち,福島第一原発の1号機ないし4号機側主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来であり,実際に発生した本件津波ではない。
地上に遡上する津波の挙動を精緻に予測することは困難であること津波の遡上態様は不確実であるというのが一般的な知見であること,津
波評価技術自体も極めて概括的な把握にとどまること,
津波評価技術の作
成に関与した首藤も遡上態様の不確定性を認めていること,
本件津波の遡
上態様によってもその複雑性が確認されることなどから,
実際に遡上する
津波の複雑な挙動を精緻に予測することは極めて困難である。したがって,
福島第一原発の1号機ないし4号機側主要建屋敷地高さであるO.P.
+10mに近い規模の津波高さの津波が到来する可能性があるのであれば,津波が浸水高(痕跡高)O.P.+10mとなる現実的危険性があり,ひいては建屋への浸水,
さらには地下に設置されている非常用電源設備等
などの重要機器が機能喪失する現実的危険性があった。
陸上に遡上した津波は本来の津波高さを超える浸水高(痕跡高)をもたらす可能性が高いこと
陸上に遡上した津波が採る一般的な挙動,
波長及び周期が長いという特
徴によりもたらされる遡上態様,
福島第一原発の地形は津波高さより高い
浸水高(痕跡高)をもたらし得るものであることなどからすれば,福島第一原発の立地場所においては,
陸上に遡上した津波が本来の津波高さを超
える浸水高(痕跡高)をもたらす可能性が高かったといえる。
以上より,1号機ないし4号機側主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波が到来すれば,施設への浸水により非常用電源設備等が機能を喪失する現実的な危険性があるといえるから,上記のとおり,予見可能性の対象は,福島第一原発の非常用電源設備等の安全設備を浸水させる規模の津波,すなわち,福島第一原発の1号機ないし4号機側主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来である。
一般に,
結果発生の現実的危険性がある事象を予見することが可能であ
れば,当該行為者は当該事象から被害(損害)が発生する現実的危険性を認識できるから,
行為者に結果回避義務を課す前提として要求される予見
可能性については,
結果発生をもたらす現実的危険性のある事象の予見で
足りる。したがって,現実に生じた事象そのものの予見可能性が必要とされるものではない。本件事故においては,因果関係のプロセスとしては,地震と津波の到来(A),外部電源の喪失と内部電源の喪失(全交流電源喪失)(B),炉心の損傷に基づく放射性物質の放出(C),放射性物質が特定の原告の居住域に到達することによる損害(結果)の発生(D)という因果関係のプロセスをたどっている。そして,原告らは,地震と津波の到来(A),全交流電源喪失(B),シビアアクシデントに基づく放射性物質の放出(C),人格権侵害という損害の発生(D)という因果関係のプロセスのうち,いったん全交流電源喪失(B)に至った場合には,人格権侵害という損害の発生(D)に至ることが想定されるという点においては,被告国と同一の立場に立つものである。ただし,原告らは,全交流電源喪失(B)をもたらす現実的危険性を持つ地震・津波については,被告国の主張するように,本件と同規模の地震・津波であることは必要ではないのであり,主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来さえあれば,全交流電源喪失(B)をもたらす現実的危険性があることから,
この程度の津波の到来が予見可能で
あれば,その津波の到来によって,全交流電源喪失(B),シビアアクシデント(C),人格権侵害(D)に至ることが予見できるのであり,結果として,
放射性物質放出による人格権侵害という本件被害の発生について
も予見可能性が認められる。原告らが,結果回避義務の前提となる予見可能性の対象として主張しているO.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来という事象は,実際に本件事故において観察された津波ではなく,
被告らが原子力発電所事故の発生を回避するための措置を取
るという点に視点を置いて,
将来において発生する可能性があるとして予
見可能であった事象であり,実際の津波とは異なる。そして,この結果回避義務を基礎付ける予見可能性との関係で問題とされる
因果関係
とは,
予見が可能であったO.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来から,全交流電源喪失,更には放射性物質の放出というシビアアクシデントが引き起こされる現実的な危険性があるか否かという問題である。以上より,予見の対象は,O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来である。

予見義務について
平成13年までに集積した予見義務を基礎付ける知見と事象
a
平成10年から平成14年の間に,
敷地高さを超える津波襲来の可能
性を示す知見が時間的に近接し連続的に公表されたこと
原告らは,
4省庁報告書が示す津波の想定や平成13年西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元などの知見をもって直
ちに福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来する具体的な危険性を認識できる程度の予見可能性を基礎付ける知見である旨主張するわけではないが,これらは,経済産業大臣が,福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来する可能性について,十分に注視し,情報収集・調査研究の対象とすることを基礎付けるには十分な知見である。
b
4省庁報告書の結果は敷地高さを超える津波の襲来の可能性を示すこと
被告国は,
平成9年3月に
太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書(4省庁報告書)を作成している。この報告書の目的は,総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,推進を図るため,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定し得る最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行ったものである。
この報告書において広域的な地域を対象と
して津波数値解析を行った目的は,今後,上記手引に従って,各地方公共団体において,津波浸水予測手法による津波高さの推計結果をそれぞれの地域における地域防災計画に的確に取り入れることに向けて,まずは,広域的な地域を対象として概略的な精度による把握を行ったというものである。
こうした目的による推計であることから,

報告書による津波推計に際しては,沿岸部まで一律に600m格子の計算方法が採用され,かつ,陸上への遡上計算はされておらず,飽くまで沿岸部に到達する津波高さの推計がされているものである。
4省庁報告書においては,
想定地震の地域区分については,
地震地体
構造論の知見に基づく地域区分を行うこととし,福島県沖を含むG3領域においては,
既往最大の地震を1677年の延宝房総沖地震で
あると特定している。その上で,
想定地震の発生位置は既往地震を含め太平洋沿岸を網羅する
という方針に従って,
G3領域内で発生した
1677年の延宝房総沖地震の断層モデルを,同領域内の全域を対象として南北にずらして波源の設定を行っている。こうした推計の結果として,福島第一原発の立地点である福島県双葉町及び大熊町の沿岸部に到達する津波高さの推計値としては,1677年の延宝房総沖地震が福島県沖で発生したことを想定する推計(G3-2)により,双葉町における津波水位の平均値としてO.P.+6.8m,大熊町においては平均値としてO.P.+6.4mの津波の襲来があり得るとの結果が与えられている。
また,
この推計に基づく津波高さの最大値につ
いては,
想定津波で生じた沿岸最大津波水位の市町村内最大値が整
理されており,それによれば,最大値はO.P.+7.2(双葉町)ないしO.P.+7.0m(大熊町)である。そして,4省庁報告書の推計値は,平均潮位を前提としていることから,潮位変動を考慮して,朔望平均満潮位(O.P.+1.359m)を前提とすると,福島第一原発での最大津波高さは,O.P.+8.6ないしO.P.+8.4mに達することとなる。
一般に,
津波は海岸部に到達するまでは,
海水が標準潮位を超えて盛
り上がっているという位置エネルギーと津波の進行方向に流れる(進行する)という運動エネルギーを持っている。また,一般に津波の高さは水深の4乗に反比例するものであり,沖合から海岸部に到達する過程で水深が浅くなることから津波高さは当然に増幅されることとなる。さらに,海岸部に到達して陸上に遡上する過程においては,護岸への衝突や,陸上にあって津波の流れを阻止する地盤や頑丈な建物などにぶつかることによって,津波の高さは高くなる。また,陸上の複雑な地形や障害物の影響を受けること,津波の流れの方向が変えられること,遡上した波同士がぶつかり合うことなどによっても,海水の遡上は,本来の津波高さ以上に高くなる。そうすると,沖合における平均値でO.P.+6.8ないし6.4m,最大値でO.P.+8.6ないし8.
4mの津波高さの推計結果は,
福島第一原発の主要建屋の所在する
O.+10m盤に遡上する津波の襲来があり得ることを示すものとP.
いえる。
4省庁報告書は,
被告国が批判するところである,
広域を対象にした
津波高さ予測であること,津波高さの推計計算が誤差を含む概略であることに限界はあるものの,一定の範囲における海岸線に到達し得る平均的な津波の高さ(及び最大値)を推定し,敷地高さを超える津波に対する対策の必要性の有無を確認することは十分可能である。そして,双葉町と大熊町の海岸の沖合に到達する平均的な津波高さ
(6.
8ない
し6.4m)という計算結果は,福島第一原発の海岸部(約1.8km)という幅のある地点においても,O.P.+6mを超える津波が襲来する可能性が相当程度あることを示すものである。
そして,
沖合でこの程
度の高さの津波の襲来があった場合には,遡上による津波高さの増幅効果を考慮すれば建屋敷地高さを超える可能性があることは前述のとおりであり,結果として,福島第一原発の所在地においても,敷地高さを超える津波に対する防護対策の必要性について調査研究する必要性を基礎付ける知見である。
c津波浸水予測図
は敷地高さを超える津波の襲来の可能性を示すこ

国土庁は,平成11年3月に,日本全国の海岸部を対象として津波浸水予測図を作成し公表した。これは,

気象庁の津波予報の,予測津波高さに対応させて,沿岸領域での浸水高さ分布をあらかじめそれぞれ数値計算し,その結果を1/25,000地図上に表示したものである。

とされる。津波浸水予測図作成の目的は,沿岸付近の細かな地形による影響をも考慮に入れて,津波の浸水状況を具体的に予測し,その結果を地域防災計画に反映させることにある。すなわち,津波予報区単位の量的津波予報は,飽くまで県単位程度の広がりを対象としていることから,各市町村における個々の湾や海岸の津波の状況との関係を把握しておく必要があるとされており,
こうした必要を
踏まえ,津波浸水予測図が作成されるものである。
津波浸水予測図
の作成手法は,
当時の津波浸水計算の最新の知見を集約した7省庁
手引の別冊とされた
津波災害予測マニュアル
によっているものであ
る。
津波浸水予測図は,津波シミュレーションの初期条件として極
めて重要な意味を持つ地震断層モデル(波源モデル)の設定についても,
気象庁が一般防災を前提として設定した
日本近海に想定した地震断層群の想定を前提として,津波の伝播計算等についても,(防波堤
等を考慮しない点を除けば)
津波災害予測マニュアルが整理した最
新の津波シミュレーションの方法に依拠したものであり,その推計結果には十分な信用性が認められるものである。
福島第一原発の主要建屋が立地する領域の
津波浸水予測図
の最大
の設定津波高は8mとされており,想定される地震断層モデルによって,福島県全域を対象とする津波予報区においては,その沿岸部(水深1m地点)
において,
最大で8mを超える津波の襲来が予測されてい
る。そして,想定される最大の8mの津波高の津波が襲来した場合には,
津波浸水予測図によれば,福島第一原発所在地においては,主
要建屋敷地高さであるO.P.+10mを大きく超えて,同敷地上において2ないし5mの浸水深をもたらす津波の襲来があり得るとされている。また,より控えめな6mの津波高さを前提とする津波浸水予測図によっても,主要建屋敷地高さを大きく超えて,2ないし3mの浸水深をもたらす津波の襲来があり得ることが示されている。
津波浸水予測図は,被告国が批判するように,作成目的が住民に
対する避難勧告・指示の伝達等にあり,福島第一原発の沿岸部に設定津波高の津波が到来することを具体的に予測したものでないこと,

震学的根拠に基づく断層モデルを設定した上での数値計算をしていないこと,
津波計算に不十分性があるという限界はあるものの,
現実に発
生する可能性の高い地震の断層モデルを想定していること,海底地形等を踏まえて詳細な津波伝播計算を行い,想定し得る最大津波高さを検討の結果として設定していることなどから合理性がある。
そして,

島第一原発の立地する福島予報区においては,最大8mの津波高さが想定され,その想定津波によれば,同原発の主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを大きく超えて,同敷地上において2ないし5mの浸水深をもたらす津波の襲来があり得るとされている。津波浸水予この測図の示す津波の予測結果は,福島第一原発の所在地においても,敷地高さを超える津波に対する防護対策の必要性について調査研究する必要性を基礎付ける知見である。
d
以上より,4省庁報告書も津波浸水予測図もそれぞれの目的があ
り,波源の設定と津波計算の方法に科学的知見及び技術としての不十分さがあるとしても,
いずれの知見によっても,
福島第一原発のある地
域において,敷地高さを超える津波が襲来する可能性があることが示されたといえる。
この知見は,
津波対策は既往最大津波の高さよりも敷
地を高くしておけば万全であるとの考えに基づいて津波が敷地高さを超える事象を設計基準事象として設定し続けていることについて問題を提起する知見であることは明らかである。
そして,
この知見の進展過
程で,適切な波源の設定と津波シミュレーションの計算方法が重要な課題であることも共通認識となった。このように,経済産業大臣は,省令62号4条1項の想定される津波について,不断の情報収集・調査研究を行い,原子炉施設の安全性に脅威となり得る津波の可能性が明らかになったときには,
適時に,
発生可能性のある津波について予見
する義務,
そして,
その結果を踏まえて原子炉施設の安全性を確保する
ための基本である設計基準事象として取り入れる義務があるというべきである。
また,
この2つの知見の波源の設定や津波計算の不十分なと
ころは,さらに,適時に,科学的知見と技術の進展に関する情報収集を行い,調査研究をする責務があるというべきである。
e
溢水事故が全交流電源喪失をもたらす現実的可能性があることに関する知見の集積
平成3年の福島第一原発1号機における内部溢水事故により,配管破断による溢水という共通原因に対し,非常用電源設備及びその附属設備が独立性を有していなかったことが明らかとなり,このことも教訓として,
省令62号33条4項が制定され,
非常用電源設備及びそ
の附属設備の独立性が設計基準として明記されることとなった。また,
平成11年のルブレイエ原子力発電所の外部溢水事故は,
設計基準
を超える外部事象が発生して原子炉の重要な安全設備を機能喪失させることがあり得ること,電気系統が被水で機能喪失になることを示したものであり,経済産業大臣は,この外部溢水事故の情報からは,想定を超える外部溢水が発生したときには,全交流電源喪失事態が発生する現実的可能性があることの教訓とすべき事象であったといえる。
平成14年に集積した,予見義務を基礎付ける知見と事象
a
詳細な津波浸水予測計算をする専門的技術の開発
平成14年2月,土木学会原子力土木委員会津波評価部会により津波
評価技術が策定され公表された。陸地に到着する津波高さを正確に予測するためには,適切な波源モデルの設定(対象とする津波の考慮)と計算誤差・断層パラメーターのばらつきの考慮をすることが課題であった。津波評価技術は,津波浸水予測計算の推計手法についての最新の知見を集約し,推計計算の誤差をより少なくし,断層パラメーターのばらつきの考慮をするという計算方法を開発したものであった。
b
被告東電が津波評価技術を活用して,波源モデルを複数設定して津波計算をした上で福島第一原発の津波対策を見直したこと
被告東電は,津波評価技術公表の直後である平成14年3月には,津波評価技術に基づいて,福島第一原発への津波浸水の水位を計算した。この推計に際しては,被告東電は,1938年の塩屋崎沖地震(福島県東方沖地震),1896年の明治三陸地震,及び1677年の延宝房総沖地震の各波源モデルを,それぞれの地震が現に発生した場所で発生するという想定に基づいて計算している。その結果として,塩屋崎沖地震の波源モデルによるO.P.+5.4ないし5.7mの津波水位が最大の推計結果として導かれた(2002年推計)。この津波水位は,被告東電が平成6年3月に推計したO.P.+3.5mという水位を超えるものであり,被告東電は,O.P.+4mの地盤に設置されていた海水取水用ポンプ用モータのかさ上げや建屋貫通部等の浸水防止策などの対策を実施した。これは,福島第一原発の敷地高さが,立地地域への歴史記録に残る既往最大のチリ地震によって発生した津波高さ(O.P.+3.122m)を上回ることが省令62号4条1項の想定される津波とされていたところ,新しく開発された津波評価技術で詳細な計算を行うと従前の想定津波の高さに変動が生じ,新たな津波対策を行う必要が発生したことを示すものである。そして,津波に対する安全設計の基礎とされてきた津波が敷地高さを超えることは想定する必要はないという従前の設計基準津波の考え方について見直しの必要性の有無についての検討が必要となったことを意味する。もっとも,2002年推計に当たっては,被告東電は,上記3つの地震の波源モデルを過去においてそれぞれの地震が現に発生した領域に設定したが,これは,同推計の基礎とされた津波評価技術が,いわゆる既往最大の考え方に基づく波源モデルの設定を基本としていることを前提としていたという点で限界があった。
c
長期評価が,
福島県沖を含む日本海溝寄りにおいてどこでも1896
年の明治三陸地震と同規模の津波地震が起こり得るとの新たな科学的知見を明らかにしたこと
長期評価では,福島県沖を含む太平洋岸の日本海溝寄りにおいて,M8クラスの大地震が三陸沖北部海溝寄りから房総沖海溝寄りにかけてどこでも発生する可能性があるとし,具体的には,M8クラスのプレート間大地震(津波地震)が過去400年間に3回(1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震)発生していることから,
この領域全体では約133年に1回の割合でこれ
らと同様の津波地震が発生すると推定した。
平成14年から30年以内
の発生確率は20%程度としている。震源域,地震の規模などについては,1896年の明治三陸地震の波源モデルに基づいて算出している。波源モデルとして想定された1896年の明治三陸地震は,
津波高さ
の最大値が38.2m,区間平均高の最大値が16m,津波マグニチュード8.2と推定され,津波の波源域を断層モデルから推定すると日本海溝沿いに長さ200ないし220km,
幅50ないし70kmとなる。

治三陸地震による被害は甚大であり,
2万2000人の犠牲者をもたら
し,日本における津波災害史上最大の被害であった。
長期評価は,個々の研究者の個人としての研究成果の知見と異なり,法令に基づいて設置された行政機関が,地震・津波の専門家による集団的な討議と検討を経て,
その結果に基づいて行政機関の判断として提起
したものである。
また,長期評価の提起した津波知見の意義としては,以下の3点が挙げられる。第1に,発生頻度については,長期評価における三陸沖北部から房総沖にかけての海溝寄りの津波地震は,
400年間に3回発生し
ていることから,133年に1回の割合で起きている。また,海溝寄りの地域は,
津波地震の断層がほぼ4個収まる大きさであることから特定
海域では,上記頻度の1/4,すなわち530年に1回の頻度で発生すると想定される。
この頻度は規制の対象としては十分に高い頻度という
ことができる。第2に,発生域については,長期評価では,日本海溝寄りに細長く領域が設定されている。
福島県沖の日本海溝寄りで津波地震
が発生するか否かについては,
1677年の延宝房総沖の津波地震が海
溝寄り南部で発生していることは明らかであり,北部では,1611年の慶長三陸地震と前記明治三陸地震の津波地震が発生していることからして,
この中間にあたる福島県沖においても津波地震の発生の可能性
があると評価される。第3に,規模については,海溝寄りでどこでも我が国で津波災害史上最大の被害を出したとされる明治三陸地震と同様の規模の津波地震が起こるとの判断がされた。
福島第一原発の津波対策は,
立地地域への歴史記録に残る既往最大の
チリ地震によって発生した津波高さ(O.P.+3.122m)を上回ることが省令62号4条1項の設計基準事象とされており,
被告東電が
行った2002年推計においても,
福島県沖の日本海溝寄りに波源モデ
ルを設定した津波計算をしていなかったところ,長期評価は,福島県沖の日本海溝寄りの津波地震が起こり得ることを示し,その発生確率は,今後30年以内の発生確率は6%程度,今後50年以内の発生確率は9%程度という無視しえない数字を示すものであった。d
経済産業大臣は,
長期評価に基づく波源の設定と詳細な津波推計計算
によって津波を予見する具体的義務を負ったこと
仮に福島県沖で,
明治三陸地震規模の津波地震が発生した場合には明
治三陸地震の現実に発生した被害の事実を踏まえれば,福島第一原発の敷地高を超える津波が襲来する現実的な可能性があることを容易に認識できた。平成14年までの技術的知見として津波高さを算出するための簡易な計算式である阿部勝征(以下阿部という。)の簡易式によれば,おおよその目安として福島第一原発の敷地における津波の遡上高を推定できる。その採用する明治三陸地震の津波マグニチュード(Mt8.2ないし9.0)によって値は変わるが,遡上高の平均値で2.8ないし16m,遡上高の最高値で5.6ないし32mとなる。また,平成14年3月には詳細な津波推計を高い精度で行うことができる津波評価技術の開発がされていた。
以上のように,
平成14年まで
に集積された津波に関する知見と事象に加えて,
平成14年には,
精度
高く津波を推計することのできる津波評価技術が実用化され,同時に,福島県沖に明治三陸地震規模の津波地震が発生する現実的な可能性があることを示した長期評価が発表された。経済産業大臣がこの集積された知見と事象を適切に考慮すれば,
長期評価の判断どおり,
福島県沖
に明治三陸地震規模の津波地震が発生した場合には,福島第一原発の主要な施設が設置されている敷地高さO.+10mを大きく超えるP.
津波が襲来する現実的な可能性があったこと,そのような津波が襲来すれば,1ないし4号機の非常用電源設備及びその附属設備が同時に被水して機能喪失し,全交流電源喪失という事態に至ってしまう現実的な可能性があったことを容易に認識できた。
経済産業大臣は,
上記の
知見と事象を考慮して,被告東電が,速やかに長期評価の判断に基づき,
明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りに設定し,

波評価技術の計算式を用いて津波浸水予測の計算を行い,津波予見をすることが必要であること,
さらにその予見の結果に基づいて,
福島第
一原発の1ないし4号機の非常用電源設備及びその附属設備を津波から防護するための対策を採ることが必要であったことを認識すべきであったといえる。

予見可能性について
長期評価の信頼性
a
推進本部と長期評価の意義


長期評価と個々の専門家の見解を同列に論じる被告らの主張の誤

被告らは,
平成14年に推進本部が策定した長期評価について,
長期評価の前提に異を唱える見解が存在した,長期評価には相当の問題があり,専門家の間でコンセンサスを得た見解ではなかったと主張する。しかし,そもそも推進本部は防災のために設置された被告国の組織であり,その推進本部が策定・公表した長期評価は,防災を目的とした被告国の公的な判断であって,
個々の専門家が発表した地
震や津波についての論文や学会での報告類とは,目的,性質
及びその重要性が根本的に異なるものである。



推進本部は行政施策に直結すべき地震に関する調査研究を一元的
に推進する政府機関であること
平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災を契機として,
同年7月,

全国にわたる総合的な地震防災対策を推進すること,及び地震に関する調査研究の推進を図るための体制の整備を目的として(地震防災対策特別措置法1条),地震防災対策特別措置法が制定され,同法13条は,国は,地震に関する観測,測量,調査及び研究のための体制の整備に努めるとともに,地震防災に関する科学技術の振興を図るため必要な研究開発を推進し,その成果の普及に努めなければならないとして,地震に関する調査研究の推進についての被告国の責務を定めている。そして,推進本部は,地震に関する調査研究の成果が国民や防災を担当する機関に十分に伝達され活用される体制になっていなかったという認識の下に,行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにし,これを政府として一元的に推進するため,同法に基づき総理府に設置された政府の特別の機関である。推進本部には地震調査委員会が設置され,同委員会は,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うこと(同法7条2項4号)を目的とし,地震調査委員会の下には,より専門的な検討を行うための機関として,研究調査テーマに沿って,長期評価部会,強震動評価部会,地震活動の予測的な評価手法検討小委員会,津波評価部会及び高感度地震観測データの処理方法の改善に関する小委員会が設置されている。このうち,長期評価部会は,長期的な観点から,地域ごとの地震活動に関する地殻変動,活断層,過去の地震等の資料に基づく地震活動の特徴を把握し明らかにするとともに,長期的な観点からの地震発生可能性の評価手法の検討と評価を実施し,地震発生の可能性の評価を行っている。そして,同部会の下には,さらに専門的な調査研究を目的として,活断層分科会,活断層評価手法等検討分科会及
び海溝型分科会が設置されており,それぞれ専門的な調査研究の
推進を行っている。このように,推進本部は,地震防災対策特別措置法に基づき,地震に関する専門的な調査研究を推進するための十分な組織を備えており,推進本部は,私的諮問機関ではなく,政府の公的機関であるから,地震についての被告国としての評価を行うことを任務としている。
また,地震調査委員会は,地震・津波等に関する公的機関及び私的な研究機関等からの情報を一元的に集約することも重要な目的としているから,地震調査委員会が収集する地震・津波に関する基礎的な情報は,個々の研究者や個別の研究機関が保有するものよりも豊富である。さらに,推進本部は,私的な研究者の団体である個々の学会などとは異なり,被告国が設置した公的機関として,地震・津波に関する我が国を代表する専門家の参加が確保されている。
このように,推進本部は,行政施策に直結すべき地震に関する調査研究を一元的に推進する政府機関といえる。


長期評価は過去の地震の知見を集約し専門家の議論を経て将来の

地震の長期的な予測が取りまとめられたこと
長期評価は地震調査委員会・長期評価部会に招集された地震・津波の専門家の充実した議論を踏まえ,過去の地震の評価と将来の地震の予測についての被告国の判断を示したものであり,地震の専門家の個人的な見解とは比べられない公的性格と重要性を持つものである。そして,推進本部の策定する長期評価等の知見は,それが部分的にでも明らかになれば,可能な範囲で地域防災対策に活用してゆくべきことが当然に予定されていた。
また,
過去の一つの地震の評価を巡っても地震学者の間では見解は
しばしば分かれ得るのであって,統一的見解,つまり,全ての専
門家が賛同する見解には容易に到達しないのが通常であり,地震・津波の防災に活かすべき知見の条件として,地震学者の間での統一的見解であることを求めるとすれば,それは一人でも専門家の異論があればその知見は防災上無視して良いというに等しく,かかる主張は誤りである。
b
長期評価の示した日本海溝沿いにおける地震予測とその高度の信頼性


長期評価に先立つ津波地震の知見の進展
長期評価策定に先立って,第1に近代的観測に基づく津波地震
についての知見の進展,
第2に歴史資料に基づく歴史地震の研究の進
展と歴史地震における津波地震の抽出,第3に津波数値計算の飛
躍的進展があったのであり,
これらの知見は相互に関連し支え合うこ
とにより長期評価の土台となっている。


長期評価は,専門家の集団的な議論を経て領域分けをし,海溝寄りの津波地震の長期評価を取りまとめて作成されたこと
長期評価では,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震が津波地震であると結論付け
ている。また,長期評価は,微小地震等の分布状況を踏まえ,そのデータに基づきプレート境界を推定し,沈み込みの角度等の構造・形状についても確認し,低周波地震についての知見も背景として,海溝型分科会における充実した議論により日本海溝寄りで過去約400年の間に3つの津波地震が発生したとの結論に達し,
プレート境界の日
本海溝寄りを陸寄りと区別される一つの領域として定めた。
上記考え
方をもとに,長期評価は,日本海溝寄りの領域における過去の地震について,
日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震は17世紀以降では,1611年の三陸沖,1677年11月の房総沖,明治三陸地震と称される1896年の三陸沖(中部海溝寄り)が知られており,津波等により大きな被害をもたらした。よって,三陸沖北部~房総沖全体では同様の地震が約400年に3回発生しているとすると,133年に1回程度,M8クラスの地震が起こったと考えられる。これらの地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとは言い難いため,固有地震としては扱わなかった。,過去の同様の地震の発生例は少なく,このタイプの地震が特定の三陸沖にのみ発生する固有地震であるとは断定できない。そこで,同じ構造をもつプレート境界の海溝付近に,同様に発生する可能性があるとし,場所は特定できないとしたと結論付けている。また,長期評価は,日本海溝寄りの領域における将来の地震の評価について,
三陸沖北部から房総沖の海
溝寄りのプレート間大地震(津波地震)につき,M8クラスのプレート間の大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定される。ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定される。と結論付けている。これらの結論は,海溝型分科会に集まった第一線の地震・津波の専門家による充実した議論を経て,
最終的な結論として示されたもので
ある。そして,上記3つのそれぞれの地震について一個一個相当な議論をして津波地震であると結論付け,3つの津波地震に加えプレート境界の地形や形状についても議論をした上で日本海溝寄りを一つの領域としてまとめたものである。
c
被告らの主張に対する反論


被告国は,過去の資料が少ないこと,福島県沖の日本海溝寄りに津波地震が発生した記録がないことを根拠に,
長期評価に基づき福島県
沖の日本海溝寄りに津波地震を想定しなかったことを正当化しようとする。
しかし,
そもそも,
地震・津波の長い歴史に比して,
現在我々
が把握している地震・津波は,近代的観測に基づくものは100年余りの期間のものにすぎない。
また,
歴史記録に基づくものに広げても,
869年の貞観地震・津波についての日本三大実録などの例外を
除けば,東北地方を含む東日本においては,せいぜい江戸時代以降の400年余りの限られた期間のものにすぎない。したがって,福島県沖で過去に津波地震の記録がないからといって,
福島県沖で過去に津
波地震が起こったことはないと断言することはできない。そして,長期評価は,
その時点で把握できている過去の地震には制約があるとい
う正しい前提に立って,
空間軸を広く取って統計的な検討を加えた上
で,将来の地震を予測するものである。既往最大の地震に限定せずに将来の地震・津波を予測するという考え方は,長期評価以前にも示されていたが,被告東電は,各原子力発電所において抜本的な津波対策を迫られることを嫌い,現在把握されている既往最大の地震・津波によって将来起こり得る最大規模の地震津波の上限を画することができるという旧来の考え方に拘泥していた。このような考え方は,被告東電ら電気事業者が主導して作成した津波評価技術にも反映されていたが,上記のような考え方は,何ら根拠がなく重大な誤りである。⒝

被告国は,長期評価の見解において,福島県沖海溝沿いという特定の領域でM8クラスの地震が発生する積極的・具体的な根拠が述べられていない旨主張する。しかし,長期評価の結論のとおり,過去に北では明治三陸地震と慶長三陸地震の2つの津波地震が発生し,
南では
延宝房総沖という津波地震が発生しているところ,
日本海溝の南北を
通じ,
太平洋プレートが陸寄りのプレート境界の下に同様の速度で沈
み込み続け,かつ,プレート境界の形状も共通するという同じ構造を持つことからすれば,
日本海溝寄りの南部と北部で津波地震が現に起
きている以上,
その中間にある福島県沖海溝寄りの領域を含めて津波
地震はどこでも発生し得ると考えられた。したがって,福島県沖海溝沿いでM8クラスの地震が発生する積極的・具体的根拠がなかったということはできない。



被告国は,日本海溝寄りの北部と南部では地形・地質の違い,地震活動の違いがあることを強調する。しかし,日本海溝寄りの領域は,その南北を通じて,プレート境界の形状が同様であること,微小地震や低周波地震の起こり方についても陸寄りの領域とは異なる共通性があることは明白であること,
堆積物の沈み込み方の南北での差異に
ついての仮説は1677年に発生した延宝房総沖津波地震を説明できず採り得ないことなどから,被告国の上記主張は根拠がない。


被告国は,津波地震のメカニズムが未解明であることを理由に,3つの津波地震について整理し日本海溝寄りのどこでも津波地震が起こり得るとした長期評価の信頼性を否定しようとする。しかし,長期評価策定の時点で,
津波地震は海溝寄りのプレート境界において起こ
るということ自体は既に確立した知見であり,
津波被害についての歴
史記録に照らせば,
1611年の慶長三陸地震は1896年の明治三
陸地震よりさらに南北に広く被害を及ぼした津波地震であったことや1677年の延宝房総沖地震は陸寄りではなく海溝寄りの津波地震であったことが明らかとなっていた。したがって,メカニズムが未解明であるとはいえず,
メカニズムの未解明を理由に津波地震に対す
る防護対策に着手する必要がないということにはならない。



被告国は,長期評価の見解については,安全規制としての決定
論的安全評価には取り入れず,
確率論によって評価することに合理性
があったと主張する。しかし,長期評価の公表直後である平成14年はもちろん,
それから8年以上が経過した本件事故に至るまで津波の
確率論的安全評価は手法の研究段階にとどまっていた。したがって,津波に対して確率論的安全評価の手法に基づいて実際の防護措置や法規制が実施される目途は全く立っていなかったのであり,
確率論に
よって評価するという対応は,
およそ実効性のある安全対策を行った
といえるものではない。

長期評価の信頼度について
a
発生領域の評価の信頼度がC(やや低い)の意味について
信頼度についての発生領域の信頼度がC(やや低い)と
されていることの意味は,
その領域内のどこかで地震が起こることは確
実に分かっているが,
その領域内のどこで地震が起きるかが分からない
ということであって,
その領域内で起こらないということを意味するも
のではない。
b
発生確率の評価の信頼度がC(やや低い)の意味について
発生確率の信頼度がC(やや低い)とされているのは,明治三陸
地震の震源域の位置は南北については厳密に定まらないことによるものである。仮に同地震の位置が厳密に確定されているなら,それより南側は,400年間地震が起きていないのであるから,津波地震の発生確率はより高くなるのであって,津波地震が起きない,あるいは起きるかどうか曖昧であるということを意味するものではない。

c
発生規模の評価の信頼度がA(高い)であることについて
発生規模の評価の信頼度がA(高い)とされているのは,想定地
震と同様な地震が3回以上発生し,過去の地震から想定規模を推定でき,地震データの数が比較的多く,規模の信頼度は高いということである。
長期評価公表以降にもその信頼性が確認されたこと
長期評価がその後の知見の進展を踏まえて検討・改訂された過程におい
ても,
日本海溝寄りの津波地震の発生可能性に関する長期評価の見解が再確認され,維持された。また,土木学会原子力土木委員会津波評価部会におけるその後の検討においても日本海溝寄りに津波地震を想定すべきであるとの見解が支持されるに至った。
これらの事情から,長期評価が示し

三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでもM8クラスのプレート間の大地震(津波地震)が発生する可能性があるとの地震・津波想定の信頼性が,その後の経過によっても,さらに確認されたといえる。長期評価の高度の信頼性についての総括
以上のとおり,長期評価は,阪神淡路大震災の反省を踏まえて設置された被告国の推進本部において,地震調査委員会・海溝型分科会に招集された第一線の地震・津波の研究者が議論を尽くし,最終的な結論として示された,
日本海溝沿いにおける過去の地震の評価及び将来の地震の予測についての,被告国自身による法令に基礎を置く公的な判断であった。また,長期評価の内容及び結論(日本海溝寄りと陸寄りを領域分けした上で,海溝寄りにおいて過去に3つの津波地震が発生したこと,
将来においてこの
海溝寄りのどこでも同様の津波地震が発生し得ると評価したこと)は,当時の地震・津波学の最新の知見を踏まえたものであり,高度の信頼性を有するものであった。さらに,長期評価の高度の信頼性は,その公表後にも維持・再確認され,土木学会原子力土木委員会津波評価部会においても,日本海溝寄りにおいては,福島県沖を含む南部の領域を含めて,津波地震を想定すべきとの見解が支持されるに至った。
長期評価の日本海溝寄りの
津波地震の評価と予測は,
平成14年7月の発表と同時に報道機関を通じ
て広く社会的にも周知され,通常の市民生活・経済活動一般を対象とした防災対策(一般防災)に活かされることが期待されていた。したがって,万が一にも重大事故を起こしてはならない原子炉施設の地震・津波に対する防護対策(原子力防災)においては,一般防災にも増して長期評価の知見を重視し,速やかに原子炉施設の地震・津波に対する防護対策に反映させるべきであった。
長期評価による推計で2m程度の浸水深となることが示されたことa
平成20年4月,
被告東電が長期評価の考え方に基づいて明治三陸地
震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りに設定し,
津波評価技術の手
法を用いて津波浸水予測計算を行った結果,福島第一原発の敷地南側で,O.P.+15.7mの津波高が推計された(2008年推計)。この2008年推計においては,
福島第一原発に襲来する津波高さを予
測するに当たって,
どのような波源モデルをどこに設定するかという段
階においては,平成14年7月の長期評価の考え方を採用した上で,1896年の明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りに設定し,そして具体的なシミュレーションに当たっては,平成14年2月の津波評価技術による計算手法(パラメータスタディ等)を用いて,各号機における津波高さを算出している。これに先立って,被告東電は,津波評価技術が公表された平成14年の3月の段階で,
既に津波評価技
術に基づいて福島第一原発の各号機における津波水位を計算している(2002年推計)。この2002年推計においては,1896年の明治三陸地震の波源モデルの具体的な諸元(Mw,断層の長さ,幅,すべり量等)も示されている。また,1ないし6号の各号機における直近に位置する海岸地点での計算水位を時系列変化によって示しており,
既に精
度の高い計算が行われていることが分かる。したがって,長期評価の地震想定も,津波評価技術の計算手法も,いずれも平成14年当時から公に周知されており,
実際に被告東電は同年3月に津波評価技術の計算手
法を用いて明治三陸地震の波源モデルを使って具体的な計算もしているのであるから,この2つを組み合わせて,福島県沖の日本海溝寄りに明治三陸地震の波源モデルを想定して福島第一原発における具体的な津波高さを計算すること自体は,
平成14年7月に長期評価が公表され
て以降,直ちに可能であったものである。
b
被告東電は,電事連の中核をなす企業であり,土木学会に対して津波浸水予測計算の手法をまとめる津波評価技術の作成を依頼した主体として,津波評価技術の内容を熟知していた。また,津波評価技術自体が7省庁手引の示す地震・津波想定に対する対応について電事連を挙げて対応した所産であることに示されるように,被告東電が,被告国の示す地震・津波想定については極めて重大な関心を払っていたことは明らかであり,長期評価の公表の直後からその内容を十分に検討していた。そして,
被告東電の津波想定の担当者は,
長期評価の公表の1週間後には,
長期評価の取りまとめに当たった推進本部・海溝型分科会の委員に対し,推進本部が長期評価を公表した理由を照会しており,長期評価の示す地震・津波想定の持つ意味の重大性を十分に認識していた。
c
被告国(推進本部)は,長期評価を公表した主体であり,長期評価の内容を詳細に把握していた。また,被告国の機関として,原子力発電所の安全規制を所管する保安院においても,
津波評価技術の内容について
は熟知していた。
さらに,
被告国は,
既に津波評価技術公表の直後には,
被告東電より,
塩屋崎沖地震を想定した2002年推計によって設置許
可段階では浸水が想定されていないO.P.+4m盤への津波の遡上があり得るとの報告を受け,その確認をしている。この確認の約
4ヶ月後には,
福島県沖の日本海溝寄りにおいても津波地震が起こり得
るとして,
塩屋崎沖地震の想定では不十分であることを示す長期評価が
被告国の機関によって公表された。したがって,こうした状況を踏まえれば,保安院としては,自ら長期評価の知見を踏まえた津波浸水予測計算を実施するか,又は,被告東電に対して長期評価の地震想定を前提に津波浸水予測計算の再検討を指示するのは極めて容易だったといえる。そして,こうした津波浸水予測計算が実施されていれば,平成14年の時点において,福島第一原発において,2008年推計が示すとおり,主要建屋敷地高さを大きく超える津波の襲来の可能性があることは容易に把握することができた。

d
2008年推計によって示される津波遡上計算は,
被告東電としては
平成14年には既に可能となっていたところであり,被告国としても,長期評価の公表の直後には,
長期評価の示す地震想定を前提とし津波評
価技術に基づく津波浸水予測計算を自ら実施し,又は,その実施を被告東電に指示することによって,同様の津波の予測は可能だったといえる。そして,2008年推計の示す津波の遡上態様は福島第一原発敷地南側でO.P.+15.7mに及び,1ないし4号機立地点においても浸水深1ないし2.6m程度に達している。したがって,被告東電及び被告国のいずれもが,平成14年時点において,福島第一原発の主要建屋敷地高さ(O.P.+10m)を大きく超え,1ないし4号機の立地点においても,
約2m程度の浸水深をもたらす津波の襲来があり得るこ
とは容易に予見することが可能だったといえる。
敷地を超える津波の予見可能性を否定する被告らの主張に対する反論平成10年には,従来の既往最大の想定にとどまらず想定し得る最大規模の地震・津波の想定が可能となったこと,そして7省庁手引が想定し得る最大規模の地震・津波の想定を一般防災を前提とした防災行政に取り入れる方向を示したこと,
これを受けて電事連が原子力防災に
おいても想定し得る最大規模の地震・津波を考慮するものとし,その方針を受けて通商産業省としても電気事業者において自主的な対応にとどまるもののこれに対する対応を求めるに至ったこと,
原子力防災におい
ては一般防災に比して高度の安全性が求められること,
歴史地震の記録は
過去約400年程度にとどまり既往最大の考慮のみでは原子炉施設の安全性の確保の観点からは不十分であること,
津波浸水予測計算の本来の考
え方からすれば基準断層モデルの設定は既往最大に限定されるものではなく,現に2016年の津波評価技術の改訂に際して従前の既往最大の限定が既往最大に限定しないと是正されたこと,精緻な推計を理由として既往最大に限定する被告国の主張に合理性がないことなどからすれば,
被告国が津波評価技術による津波浸水予測計算に際して,原子炉施設の防護のための地震・
津波の想定において既往最大の考え方にとどまる
想定で足りるとしたことに合理性がないことは明らかである。
原子炉施設の安全規制は決定論に基づいて行われており,
規制による安
全上の要求は無条件に確保されるべきものであること
炉規法及び電気事業法等に基づく原子炉施設の安全性確保に関する法規制は,
原子炉施設が巨大な危険性を抱えていることに鑑み,決定論に基
づいて設計基準となる事象を想定して,
これに対する安全性を無条件に確
保することを設置及び運転の最低限の条件として安全性を確保しようとするものであり,
そのための安全性の最低の基準を定めているのが省令6
2号である。したがって,省令62号4条1項に反する状態であれば,経済産業大臣としては,
当然に行政指導や技術基準適合命令を発して安全性
を確保して,
深刻な災害が万が一にも起こらないようにするという法
の趣旨,目的を達することが求められる。そして,長期評価の津波地震の想定が決定論として前提とされれば,
その地震によって福島第一原発
の主要建屋敷地へ浸水することが予見可能である以上,
省令62号4条1
項に反する状態であることは明らかであり,
非常用電源設備等の安全設備
が機能喪失を起こさないために必要な防護措置が講じられることが原子炉施設の稼働の前提条件となるものである。したがって,被告東電が必要な防護措置を講じないままの原子炉施設の稼働を行うことは電気事業法上許されず,
経済産業大臣としては,必要な防護措置を講じるように被告
東電に対して行政指導を行い,
これに従わない場合には電気事業法40条
に基づく技術基準適合命令を発することが要求される。
また,
決定論において想定する設計基準事象に対する安全性は無条件に
確保することが求められるものであり,
規制行政庁や原子力事業者が投資
できる資金や人材等が有限であることや当該事象以外に想定し得るリスクが多数存在することをもって設計基準事象に対する防護措置を不要とし,
他の防護措置を優先して当該設計基準事象に対する防護措置を劣後させることは許されない。
地震と津波はいずれも断層運動に基づいて発生す
るという点では共通し,津波は地震に随伴して発生するものであるから,原子力規制において地震と津波を区別することには合理性がなく,主要建
屋敷地高さを超える津波の襲来があった場合には,
直ちに非常用電源設備
等の機能喪失,すなわち,重大事故の発生の危険に直結することが認識されていたのであるから,安全裕度の有無と程度を対比しても,地震に対する対策を優先するために津波対策を先送りすることに合理性はない。(被告国の主張の要旨)

予見可能性の対象
規制権限不行使の国賠法上の違法は,
結果発生の原因となる事象に対す
る防止策に係る法的義務違背を問うものであるから,
その前提となる予見
可能性は,
結果発生の原因となる事象について判断されるべきであること
規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨・目的や,権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して,著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となる。仮にある特定の事象について規制をしたとしても,
規制の対象である事象と
結果発生との間に因果関係が認められなければ,
そもそも結果を回避する
ことができず,結果回避可能性がないし,被害を受けた者に対する関係で規制が法的に義務付けられるということもできない。そうすると,規制権限は,結果発生の原因となる事象について行使されるものであり,規制権限不行使の国賠法上の違法は,
結果発生の原因となる事象に対する防止策
に係る法的義務違背を問うものということになるから,
その前提となる予
見可能性も,結果発生の原因となる事象について判断されるべきである。本件では,
本件地震及びこれに伴う津波による全交流電源喪失が原因とな
って発生した本件事故により損害を被ったと主張する原告らとの関係において,
被告国が電気事業法に基づく規制権限を行使しなかったことが職
務上の法的義務に違背するものであったか否かが問われているから,本件
で問題とされるべきは,飽くまでも現実に生じた事実経過を前提に,被害を受けたとされる原告らとの関係で,
原告らの主張に係る損害発生の原因
となった本件地震及びこれに伴う津波による全交流電源喪失を未然に防止するために,
被告国が電気事業法に基づく規制権限を行使する職務上の
法的義務を負担していたか否かである。したがって,およそ本件事故の原因と関連しない事象や経過に対する防止策を講じなかったことが,原告ら
に対する被告国の法的義務違背の有無を判断するに当たって問題とはならない。
本件における予見可能性の対象は,
本件地震に伴う津波と同規模の津波
が福島第一原発に発生,到来することであること
本件事故は,本件地震及びこれに伴う津波により,福島第一原発が全交流電源喪失に陥り,
直流電源も喪失又は枯渇するなどして炉心冷却機能を
失い,
外部環境に放射性物質を放出するに至ったものであるから,本件において被告国による規制権限の不行使が違法とされる前提としての予見可能性は,
原告らに対して損害を与えた原因とされる本件地震及びこれに
伴う本件津波と同規模の地震,
津波の発生又は到来についての予見可能性
であることが必要である。
地震及びこれに伴う津波により全交流電源喪失に陥るか否か,
炉心冷却
機能を失い,放射性物質を放出する事故に至るか否かについては,地震及び津波による被災の範囲や程度,津波の遡上経路,各種設備・機器への影響の有無や程度(地震による損傷の有無・程度,津波による浸水の有無・程度・時間等),復旧に要する作業内容や時間等といった様々な要因によって定まるものであり,これらの要因は襲来する地震及び津波の規模(地震の大きさ,津波の水量,水流,水圧等)に大きく左右されると考えられるから,単に敷地高さを超える津波が発生,到来したというだけでは,実際に本件事故が発生したと認める証拠はない。したがって,実際に福島第一原発に発生,
到来した本件地震及びこれに伴う津波と同規模の事象では
なく,このような規模に至らない,単に敷地高さを超える津波が発生,到来したというだけで,本件事故が発生したと認めるに足る証拠はないから,O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来の発生が本件の予見可能性の対象となるものではない。
そもそも,予見可能性は,被告国において具体的な防止策に係る規制権限を行使することが可能な程度に一定規模の範囲の具体的な事象として予見可能であることが必要であるところ,O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波というだけでは,いったいどの程度の規模を想定して対策を講じることを要するのか判断することができない。したがって,本件においては,実際に福島第一原発に発生,到来した本件地震及びこれに伴う本件津波(O.P.+約15.5m)と同程度の地震及び津波の発生,到来について予見可能性があったといえなければならない。原子炉施設には,
他の一般産業施設に比して高度な安全性が求められる
ものであるが,原子力基本法及び炉基法は,飽くまでも原子力技術という科学技術を受け入れて利用することを前提として,
これを規制するもので
ある以上,これらの法令が想定する安全性は,科学技術を利用した施設に求められる安全性,すなわち,
相対的安全性を意味すると考えられる。
そして,原子力発電所に求められる安全性が相対的安全性であることに照らすと,
本件において規制権限を行使する義務を基礎付ける予見可
能性が認められるか否かは,被告国が,津波との関係で,福島第一原発が相対的安全性
を欠いていたことを認識する義務があったかどうかによ
って決まることになる。

予見可能性の有無
本件事故に至るまでの間,
被告国の本件事故に関する予見可能性を基礎
付ける知見が存在しなかったこと
a
福島第一原発1ないし4号機の各設置
(変更)
許可処分当時の考え方
について
本件事故前の時点では,
津波に対する事故防止対策について,
基本設
計ないし基本的設計方針として,敷地高さを想定される津波の高さ以上のものとして津波の侵入を防ぐことを基本とし(ドライサイト),津波に対する他の事故防止対策も考慮して,津波による浸水等によって施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないものとすることを求めていた。
本件設置等許可処分が行われた昭和41ないし47年当時,到来が予測される津波の波高を,コンピューターを用いて計算するシミュレーション技術は一般化していなかったため,
被告東電は,
過去に観測さ
れた最大の津波による潮位を基に原子炉の設計を行った。具体的には,福島第一原発1号機の原子炉設置許可処分に係る安全審査においては,
立地条件として
海象
について調査審議され,
波高の記録として,
水深約10mにおいて最高約8mという記録(昭和40年台風28号)があり,潮位の記録として,小名浜港(敷地南方約50km)における観測記録によれば,チリ地震津波(昭和35年)の最高O.P.+3.122mがあることが指摘されている。
なお,
同審査においては,
地震
についても調査審議され,
福島県近辺は,
会津付近を除いて全国的に見
ても地震活動性の低い地域の一つであり,特に原子炉敷地付近は地震による被害を受けたことがないことがそれぞれ指摘されている。その上で,審査の結果,
本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認めると結論付けられている。また,福島第一原発2号機及び3号機の原子炉設置(変更)許可処分に係る安全審査においても,1号機と同様に地震,津波について調査審議がされた上で安全性が十分確保し得るものと認められている。
さらに,
福島第一原発4号機の原子炉設
置(変更)許可処分における安全審査においては,昭和45年安全設計審査指針が用いられているところ,同指針においては,
2.2敷地の自然条件に対する設計上の考慮として,(1)当該設備の故障が,安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系および機器は,その敷地および周辺地域において過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力に耐え得るような設計であること。(2)安全上重大な事故が発生したとした場合,あるいは確実に原子炉を停止しなければならない場合のごとく,事故による結果を軽減もしくは抑制するために安全上重要かつ必須の系および機器は,その敷地および周辺地域において,過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計であること。を定めている。そして,4号機の原子炉設置(変更)許可処分に係る安全審査においても,昭和45年安全設計審査指針を踏まえ,地震,津波について調査審議がされた上で安全性が十分確保し得るものと認められている。このように,
本件事故前の時点では,
津波に対する事故防止対策につい
て,
基本設計ないし基本的設計方針において,
敷地高さを想定される津
波の高さ以上のものとして津波の侵入を防ぐことを基本とし(ドライサイト),津波に対する他の事故防止対策も考慮して,津波による浸水等によって施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないものとすることを求めていた。
そして,
福島第一原発1ないし4号機について
は,
主要建屋の敷地高さがO.+10mであるのに対し,
P.
各設置
(変
更)許可処分当時の想定津波はチリ地震津波によるO.P.+3.1mであり,津波の性質上,波高等に不確定な要素があることを考慮しても,
敷地高さと想定津波との間に十分な高低差があることをもって,

波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針が妥当なものであると評価されていた。
b
4省庁報告書と7省庁手引について
規制権限の行使において,仮にある特定の事象について規制をしたとしても,規制の対象である事象と結果発生との間に因果関係が認められなければ,
結果回避可能性がなく,
被害を受けた者に対する関係で
規制が法的に義務付けられるということもできない。
そうすると,
規制
権限は,
結果発生の原因となる事象について行使されるものであり,

制権限不行使の国賠法上の違法は,結果発生の原因となる事象に対する防止策に係る法的義務違背を問うものということになるから,その前提となる予見可能性も,結果発生の原因となる事象について判断されなければならない。しかし,本件事故は,本件地震及び本件津波により,
福島第一原発が全交流電源喪失に陥り,
直流電源も喪失又は枯渇す
るなどして炉心冷却機能を失い,外部環境に放射性物質を放出するに至ったものであるから,本訴訟において予見可能性の対象とされるべきは,上記のような経過で本件事故を惹起するに足りる地震及び津波の予見可能性ということになる。
そして,
どのような規模の地震及び津
波であれば本件事故を惹起するに足りる地震・津波であるかについては,
地震及び津波による被災の範囲や程度,
津波の遡上経路,
各種設備・
機器への影響の有無や程度(地震による損傷の有無・程度,津波による浸水の有無・程度・時間等),復旧に要する作業内容や時間等といった様々な要因によって定まるものであり,これらの要因は襲来する地震及び津波の規模(地震の大きさ,津波の水量,水流,水圧等)に大きく左右されるものと解されるため,単に福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波が到来したというだけでは足りないところ,本訴訟において,原告らは,この点の主張立証責任を果たしていない。また,本件事故を惹起するに足りる地震・津波がどのようなものであったとしても,
少なくとも,
津波が主要建屋の敷地高さを超
えない限り,
炉心冷却機能が完全に失われることはあり得ないため,

定の知見に基づいて導き出される津波高さが福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超えるものでない限り,当該知見が本件事故の予見可能性を基礎付ける知見となる余地はない。
しかし,
4
省庁報告書においては,津波高に関する情報等を市町村単位で整理した結果として,福島第一原発1ないし4号機が所在する福島県双葉郡大熊町について想定津波が記載されているところ,これによって計算される想定津波の計算値は平均6.4mと算出されているのであって,福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波高さは導き出されない。したがって,そもそも,4省庁報告書によって導き出される津波高さでは,
津波が主要建屋の敷地高さを超え,
炉心冷
却機能が完全に失われる可能性すらないのであるから,当該知見が本件事故の予見可能性を基礎付ける知見となる余地はない。
また,
4省庁
報告書は,津波高さの点を別としても,
最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見と呼べるまでの精度を有しているものではなく,同報告書自身が最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測とするには精度が足りず,合理的な予測を行うに当たっては,4省庁報告書の考え方をベースに,精緻なモデルの設定や計算を行うべきことを求めている。
7省庁手引は,
現在の技術水準では,津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり,また,津波が発生した場合においても,地域の特性によって津波高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,津波防災対策の検討が極めて難しいものとなっている。さらに,これまでの津波災害は,必ずしも人口稠密な大都市域で発生したものではないため,今後,臨海大都市で発生する危険性がある都市津波災害に対する対策も新たに講ずる必要がある。そのため,津波という災害の特殊性を十分踏まえ,総合的な観点から津波防災対策を検討し,津波防災対策のより一層の充実を図ることが必要不可欠になっているとの認識から
防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についてとりまとめたものであるとされている。この7省庁手引は,既往最大津波だけでなく,理学的根拠に基づいて想定される最大規模の地震津波を考慮した対策を求める方向性を打ち出すものであったが,その具体的な評価方法までは定められておらず,
その結果,
それ自体が特定地点において
想定すべき津波高さを導き出すものではないから,本件事故の予見可能性を基礎付ける知見といえるものではなかった。
そのため,
4省庁報
告書と同様に,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によって津波対策を行うべき津波高さを導き出すためには,
別途,
7省
庁手引の考え方をベースに,理学的根拠に基づいた対象津波の設定を行う必要があった。
以上のとおり,
4省庁報告書から導き出される津波高さは,
そもそも
福島第一原発の主要建屋の敷地高さを超えないものであった上,同報告書自体が,
最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測と
するには精度が足りず,
合理的な予測を行うに当たっては,4省庁
報告書の考え方をベースに,精緻なモデルの設定や計算を行うべきことを求めているのであるから,
4省庁報告書は,
本件事故の予見可能性
を基礎付ける知見とはならない。また,7省庁手引も,具体的な津波評価方法までは定めておらず,4省庁報告書と同様に,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によって津波対策を行うべき津波高さを導き出すためには,別途,7省庁手引の考え方をベースに,理学的根拠に基づいた対象津波の設定を行う必要があった。したがって,これらの報告書は,本件事故の予見可能性を基礎付ける知見とはなり得ない。
c
津波評価技術について


津波評価技術の波源の設定の合理性
津波評価技術は,
個々の原子力施設における具体的な設計津波水位

を求めるための評価手法を取りまとめたものであり,津波評価技術によって求められる設計津波水位は,具体的な津波対策を講じるためのものであり,津波評価技術では,精緻な計算手法が採られているが,精緻な計算を行うためにはその前提として,過去の記録から客観的に明らかになっている情報に基づき,基準断層モデルを設定する必要がある。そこで,津波評価技術の波源の設定においては,波源モデルの構築が可能なものであることを前提に,既往津波からの選定が行われている。その結果,津波評価技術の波源の設定を前提とした福島第一原発における想定津波は,福島県東方沖地震を踏まえたものであり,本件事故前の最終的な最大想定津波は高さ6.1mになるものと評価されている。上記のような波源の設定は地震学,津波学及び津波工学の見地からも合理性を有するものであったし,原子力発電所に高い安全性が求められることを踏まえた安全寄りの考え方に基づいたものであったと評価することができる。そして,地震学及び津波学の分野においては,本件地震発生までは,地震は過去に起きたものが繰り返し発生するという考え方が,地震学者に一般的に受け入れられていた考え方であった。かかる考え方によれば,既往最大の地震を検討対象とした津波評価技術における基準断層モデルの設定手法は,地震学者の一般的な考え方に照らしても十分な合理性を有するものであった。日本海溝・千島海溝報告書も,津波評価技術における津波対策と同様に,工学的な考え方を踏まえ理学的根拠の有無・程度に基づいて防災対策の対象とすべき地震・津波の選定を行ったものであり,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見と評価できるものであったが,このような日本海溝・千島海溝報告書で検討対象外とされた地震・津波であっても,津波評価技術では想定津波を検討する上で取り入れる判断をしていることからも,津波評価技術は原子力発電所に高い安全性が求められることを前提に繰り返し発生が確認されていないものも津波対策の対象とするという安全寄りの考え方に基づいたものであったといえる。


津波評価技術が津波の不確かさを前提とした安全率の存在を踏ま
えつつ,
パラメータスタディの手法を取り入れることによって不確か
さの解消を図るなど,安全寄りの津波想定を行っていること
津波評価技術による設計津波水位の評価は,
想定津波の波源の不確

定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から,評価地点に最も影響を与える波源を選定している。このパラメータスタディは工学的な安全率の存在も踏まえて策定されたものであり,この手順によって計算される設計想定津波は,平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されているのであって,津波評価技術は既往津波を前提にしつつも,常に既往津波プラスアルファで安全対策が考えられているものであったといえる。


津波評価技術が地震学・津波学,津波工学の中でも確立している最
新の知見に基づいて策定されたものであり,国際的にも高い評価を得ていること
津波評価技術は,地震学・津波学,津波工学の中でも確立している最新の知見に基づいて策定されたものであり,NRCが2009年(平成21年)に作成した報告書においても,世界で最も進歩しているアプローチに数えられると評価され,国際原子力機関(IAEA)が本件事故後の平成23年11月に公表した報告書においても,IAEA基準に適合する基準の例として参照されているなど,国際的にも高い評価を受けるものであった。


以上のとおり,津波評価技術は,本訴訟において争いのない計算手
法の精緻性のみならず,理学的な知見の高低に基づいて優先度を判断することで総合的な安全性の確保を最大限に行う工学的な考え方の下,理学的根拠を伴った津波対策の中で最も安全寄りに波源の設定を行っているものである上,補正係数の点においても,パラメータスタディで補える不確実さが,合理的根拠をもって事業者に津波対策を求めることのできる津波水位の上限値だったものであるなど,いわば地震学,津波学,津波工学の第一線の専門家が当時の知識の粋を集めて策定したものである。したがって,津波評価技術は,本件事故前の時点において,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測
によって福島第一原発における津波対策を考えるものとして,最も合理性が認められる知見であったといえる。
d
長期評価の見解について


長期評価の見解の内容
どのような規模の地震及び津波であれば本件事故を惹起するに足

りる地震・津波であるかについては,地震及び津波による被災の範囲や程度,津波の遡上経路,各種設備・機器への影響の有無や程度(地震による損傷の有無・程度,津波による浸水の有無・程度・時間等),復旧に要する作業内容や時間等といった様々な要因によって定まるものであり,これらの要因は襲来する地震及び津波の規模(地震の大きさ,津波の水量,水流,水圧等)に大きく左右されるものと解されるところ,長期評価の見解を前提に,福島県沖で明治三陸地震と
同規模の津波地震が発生するものと仮定したとしても,その場合に起こり得る地震及び津波と本件地震及び本件津波は,規模が全く違うものであり,かつ,長期評価の見解を前提として考えられる地震及
び津波によって本件事故が惹起されることについては具体的な主張・立証がされていないことから,そもそも,長期評価の見解が,被
告国の予見可能性を基礎付けるものであるとする原告らの主張は,前提を欠くものである。
推進本部が公表する長期評価などの複数の知見には,多くの理学的根拠を伴っているものから,理学的根拠が極めて薄弱なものまで幅広い見解が含まれており,玉石混淆の状態であったのであるから,一言で推進本部が出した見解として十把一絡げにその科学的知見とし
ての確立性に係る信頼性を評価できるものではなく,その中で示された個々の知見,すなわち,各領域における将来的な地震の規模・発生確率等に関する見解が最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見と評価できるかについては個別具体的な検討が必要となる。そして,個々の知見が最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見と評価できるかについては,地震学・津波学の理学分野における知見の成熟性の評価や津波工学に基づいた専門技術的判断が必要である。それにもかかわらず,長期評価の中でも,原告らが主張する,M8クラスのプレート間の大地震は,過去400年間に3回発生していることからこの領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定され,ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は20%,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定されるとする長期評価の見解は,これと異なる理学的知見が多く示さ
れていたほか,その策定に関与した専門家を含む地震学,津波学及び津波工学の専門家らも,一様に長期評価の見解が理学的根拠に乏
しいものであった旨の意見を述べており,これを裏付ける事実関係も多々存在することから長期評価の見解はおよそ最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見とは呼べないものであった。


長期評価の見解と異なる理学的知見が多数存在すること
長期評価の見解は,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領

域を一つの領域としてまとめた上,明治三陸地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の存在を前提に当該領域のどこでも津波地震が起き得る旨の見解を示したものであるが,長期評価の見解の前提(明
治三陸地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震がいずれも津波地震で,かつこれらが三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域で発生したこと)については,長期評価の見解公表後も,これと異なる
見解が示されるなどしていた。したがって,長期評価の見解の前
提自体が確立した知見に基づいたものではなかった。
また,我が国で発生した津波地震としては,明治三陸地震がこれに当たると考えられており,多くの地震学者によって研究の対象とされ,本件事故前の地震学・津波学の学術分野における研究の進展状況においては,明治三陸地震のような津波地震は,限られた領域や特殊な条件が揃った場合にのみ発生し得るとするものが大勢を占めていた。したがって,津波地震は,日本海溝沿いでも三陸沖などの特定領域や特殊な条件下でのみ発生すると考える見解が多くを占めており,福島県沖で津波地震が発生する可能性は低いと考える見解が支持されていた。
⒞長期評価の見解を公表した当時の推進本部地震調査委員会委員
長を含め,地震学,津波学及び津波工学の専門家らが,一様に長期評価の見解が理学的根拠に乏しいものであった旨述べていること多数の地震学,津波学及び津波工学の専門家が長期評価の見解
が理学的根拠に乏しいものであった旨を高度の専門的知識に裏付けされた理学的根拠をもとに述べている。
⒟長期評価の見解が理学的根拠に乏しいものであったことは,同
知見公表前後の事実経過が物語っていること
長期評価の見解は前提自体が確立した知見に基づいたものでは
なかったため,長期評価の見解の公表に至るまでの間,推進本部
地震調査委員会長期評価部会海溝型分科会,地震調査委員会及び同委員会長期評価部会のいずれの議論においても,数多くの問題点が指摘されていた。
また,長期評価においては,データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用に当たってはこの点に十分留意する必要がある。とのなお書きが付されており,推進本部自身が,長期評価の中で示された個々の知見には信頼度に差があり,個別具体的な評価検討が必要である旨の注意喚起を行っている。その上で,推進本部は,平成15年3月24日,プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度についてを公表しており,推進本部が公表したプレートの沈み込みに伴う大地震(海溝型地震)に関する長期評価について,評価に用いられたデータは量および質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差があるとして,評価の信頼度をA:(信頼度が)高いB:中程度C:やや低いD:低いの4段階にラン
ク分けしている。そして,推進本部は,
長期評価の見解について,
(1)発生領域の評価の信頼度C,(2)規模の評価の信頼度A,(3)発生確率の評価の信頼度Cと評価しており,推進本
部自身が長期評価の見解の信頼度が高いものではない旨の見解を
示している。ここで,評価の信頼度については,過去の参考事例がほとんどないといった理学的根拠が極めて乏しい知見でなければD
という最低の評価は付けられていなかったのであり,Cという評
価は相当低いものである。推進本部は,南海地震から十勝沖ないし択捉島沖で発生するやや深いプレート内地震に至る18個の大地震について,それぞれ発生領域,規模,発生確率を評価しているが,三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震と福島沖のプレート間地震の発生確率がDという評価になっているのみである。結局,三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)は,発生領域については,最低評価のCが付いた五つの想定地震の一
つであり,発生確率は上記D評価を除いた五つのCが付いた
想定地震の一つであったのであり,極めて信頼性が低い評価しかされなかったのである。
推進本部は,
地震防災対策特別設置法に基づいて設置された機関で
あり,地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策を立案すること等の事務を行っているが,最終的に推進本部が示す見解などを踏まえ,我が国の防災分野において科学的知見に基づいた専門技術的判断を行う機関は中央防災会議であるから,長期評価の中から,どのような見解が最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見と見るべきかを判断するに当たっては,推進本部が特定の見解を示しただけでは足りず,中央防災会議における採否が重要となる。しかし,中央防災会議では,本件事故前に原子力発電所も含めた地震・津波防災対策の検討を行う中で長期評価の見解についても審議をしているとこ
ろ,中央防災会議において長期評価の見解は採用されなかった。
また,長期評価の見解が公表された後,津波評価技術を策定し
た土木学会津波評価部会においても,原子力発電所の津波対策を行う上で長期評価の見解をどのように取り扱うべきかが判断されてい
るところ,前述のとおり長期評価の見解は理学的根拠が極めて乏
しいものと評価されていたことから,決定論において取り込むべき最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリス
クを示唆する知見とは判断されなかった。
さらに,地震・津波ワーキンググループ及び地質・地盤ワーキンググループの合同ワーキンググループや保安院においても,長期評価の見解に基づく検討が必要であるとの意見は述べられていなかった。


以上より,長期評価の中でも原告らが主張する長期評価の見解
は,これと異なる理学的知見が多く示されていたほか,その策定に深く関与した専門家を含む,
地震学・津波学及び津波工学の専門家らも,
一様に長期評価の見解が理学的根拠に乏しいものであった旨の意
見を述べており,これを裏付ける事実関係も多々存在することから長期評価の見解はおよそ最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見とは呼べず,本件事故に関する被告国の予見可能性を基礎付ける知見ではなかったというべきである。



被告国が
長期評価の見解
の科学的根拠について調査したが,
長期評価の見解が客観的かつ合理的根拠に裏付けられたものとは認められず,平成14年8月以降も長期評価の見解を裏付ける客観的
かつ合理的根拠は発表されなかったため,保安院は調査義務を果たした結果,規制権限を行使するとの判断に至らなかったこと
長期評価の見解は,平成14年8月当時において,その知見の
趣旨・目的等に照らして,原子力規制機関が規制に取り入れることを前提とした対応を取らなければならない状況にはなく,被告国が,北海道南西沖地震の発生や4省庁報告書(案)の公表後の対応とは異なり,被告東電に対するヒアリングを直ちに行い,自主的検討や専門家からの意見聴取を求めた上,
被告東電がその検討結果を踏まえて,
長期評価の見解を無視することなく,当時,安全性向上を目指して研究・開発が進んでいた確率論的安全評価の基礎資料に取り入れるとの方針であることを確認するという対応をしたことは,長期評価の見解の科学的根拠の有無・程度等の明確さに応じて適時適切な調査を履行したものと評価されるべきである。
また,三陸沖の海溝寄りの領域から房総沖の海溝寄りの領域までを一体とみなす長期評価の見解については,保安院が審議会等の検
証に耐え得る程度に客観的かつ合理的根拠が伴った地震地帯構造の知見ではないと判断した平成14年8月以降も,それを裏付ける科学的根拠が発表されていなかったことに加え,矛盾する科学的根拠ばかりが発表されていた状況にあったため,推進本部,中央防災会議及び土木学会における様々な専門家の議論においても,科学的根拠を伴った科学的知見であるとは評価されていなかった。
そのため,
保安院は,
平成14年8月以降も,JNESや耐震バックチェック等を通じて継続的に地震や津波に対する科学的知見を調査したものの,長期評価の見解が規制に取り入れられるべき科学的知見として取り上げられなかったのであり,その状況に照らして,長期評価の見解は規制
に取り入れるだけの客観的かつ合理的根拠に裏付けられていないという状況に変化は生じていないと評価し続けていた。したがって,保安院は,
長期評価の見解について調査義務を十分に履行した結果,
長期評価の見解は規制に取り入れるだけの客観的かつ合理的根拠
が伴っていると評価される状況に至っていないと判断していたのであり,その判断は当時の科学的知見の進展状況に照らして合理的であったということができるから,保安院が福島第一原発について,津波に対する安全性の審査又は判断の基準の適合性に変化は生じていないと評価して規制権限を行使しなかったことが著しく不合理であるとはいえない。
e
日本海溝・千島海溝報告書について
日本海溝・千島海溝調査会は,
北海道及び東北地方を中心とする地域
に影響を及ぼす地震のうち,
特に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に
着目して,防災対策の対象とすべき地震を選定し,その結果を日本海溝・千島海溝報告書に取りまとめた。その選定手法と検討結果は,調査対象領域の分類については,
千島海溝沿いの地震活動の長期評価及
び長期評価による分類が基本とされたものの,防災対策の検討対象とする地震(推進地域の指定に当たって検討対象とする地震)については,防災対策の検討対象とする地震の考え方に記載されたとおり,理学的知見の程度に基づいた選定が行われた結果,三陸沖北部の地震,宮城県沖の地震,
明治三陸タイプの地震
(明治三陸地震の震源域の領域
で発生する津波地震)
等が検討対象とされたが,
福島県沖海溝沿いの領
域については検討対象として採用されなかった。したがって,
長期評価の見解
は理学的根拠を十分に伴っていなかったため,
防災計画を策
定すべき対象として採用される段階にないものと専門技術的判断が下されたといえる。
以上のとおり,日本海溝・千島海溝報告書は,我が国の防災分野における地震・津波防災対策の検討として,
長期評価の見解を含む科学
的知見につき専門技術的判断を行った結果を示したものであることから,
最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリ
スクを示唆した知見であると評価できるものである。
もっとも,
日本海
溝・千島海溝報告書では,
繰り返し発生が確認されていないものは津波
防災対策の対象として取り入れていないことから,福島県東方沖地震(塩屋崎沖地震)
がその対象から外されており,
同報告書によって導き
出される津波高さは,福島第一原発周辺の自治体でも5m前後であり,最も安全寄りの考え方に基づいて波源の設定をするために福島県東方沖地震
(塩屋崎沖地震)
も波源として取り込んだ津波評価技術によって
導き出された津波高さを超えないものであった。したがって,日本海溝・千島海溝報告書は最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆した知見であるが,
そこでは敷地高さを超
える津波を想定するものではない以上,同報告書によっても本件事故の予見可能性は基礎付けられるものではない。
むしろ,
津波評価技術で
導き出された津波高さの方が同知見の想定する津波の高さより高くなっていることは,津波評価技術が最も安全寄りの津波対策をするための知見であったことを裏付けるものである。
そして,
結果として津波対
策に関して長期評価の見解が取り入れられなかったということは,当時の専門家の間では,同知見が最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見でなかったと評価されていたことを示すものといえる。
f
溢水勉強会について
溢水勉強会は,津波が到来する可能性の有無・程度や,津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る目的で設置されたものではなく,実際にも,上記の各知見が獲得・集積されたことはなかったのであり,飽くまでも仮定された水位の津波が到来し,かつ,それによる浸水が長時間継続したと仮定した場合における原子力発電所施設への影響を検討したにすぎないものであった。
すなわち,
津波に対するプラ
ントの安全性は,
設計条件にて十分確保されているという考えの下,

のためという位置付けで,想定外津波に対するプラントの耐力について検討を行うもので,
最終的には,
リスクとコストのバランスを踏まえ
た合理的な対策を立案することを目的とするものであり,想定外津波に対するプラントの耐力・対策コストについて概略的なイメージを持つため,代表プラントにて決定論的な検討を行うこととするというものであった。
実際に,
第3回溢水勉強会で報告された福島第一原発につ
いての影響評価の前提としての想定外津波水位の設定についてみても,福島第一原発5号機では,建屋設置レベルがたまたまO.P.+13mであったことから,想定外津波水位がO.P.+14m[敷地高さ(O.P.+13m)+1.0m]と仮定されたにすぎない。同様に,浜岡発電所4号機では,

想定外津波による浸水を敷地高さ+1m(T.P.+7.0m)と仮定する。

,大飯発電所3号機では,

勉強会用に水位を大飯3号機の建屋周辺の敷地高さ(EL+9.7m)に+1mとした。

,泊発電所1・2号機では,T.P.+11m[敷地高さ(T.P.10.0m)+1.0m],女川発電所2号機では,

想定外津波水位は,敷地高さ(O.+14.P.8m)+1mとする。

とされ,
全てのプラントについて,
機械的に等しく建屋の敷地高さ+1
mを仮定水位として設定しているため,それぞれの想定外津波水位は,敷地の高さに応じて異なる高さとなっており,各プラントの地理的状況に応じて,それぞれの発電所においてどのくらいの高さの津波が到来する可能性があるかといった観点からの津波水位の設定は全くされていないのである。さらに,津波水位の継続時間に関して,仮定水位の継続時間は考慮せず,
長時間継続するものと仮定して,
影響評価が行わ
れているなど,現実の津波ではあり得ない想定の下での影響を評価したものでもある。
このように,
津波に関して溢水勉強会で検討されたこ
とは,
机上で一定の津波水位と継続時間を仮定した上で,
当該仮定した
事象が実際に発生するかどうかはさておいて,仮定した事象による建屋,構築物,機器への影響をみることにあったのであり,それ以上に,仮定した水位の津波が到来する可能性があるか否かを検討したり,到来する可能性がある津波の高さについての知見を集約,蓄積したりするものではなかった。福島第一原発についても,他のプラントと同様に,
敷地高を超える津波が到来する可能性や,
到来するおそれのある津
波高さについての調査,検討が行われたものではなかった。また,第4回溢水勉強会では,被告東電がロジックツリーアンケートによる重み付け結果に基づき確率論的津波ハザード評価手法を試行したマイアミ論文を前提に,福島第一原発5号機の評価例のハザード曲線において,同号機においてO.+10mを超える津波高さが到来する年超過確P.
率が10⁻⁴を下回ることを報告したが,かかる評価手法が開発途上のものであり,これに基づいて福島第一原発の主要建屋の敷地高さを上回る津波の発生の予見可能性が基礎付けられるような性質のものではなかった。
以上のとおり,溢水勉強会は,そもそも津波が到来する可能性の有無・程度や津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る目的で設置されたものではなく,実際にも,上記の各知見が獲得・集積されたことはなかったのであり,飽くまでも仮定された水位の津波が到来し,
かつ,
それによる浸水が長時間継続したと仮定した場合におけ
る原子力発電所施設への影響を検討したにすぎない。
そして,
無限時間
津波が襲来するという非現実的な想定がある以上,同想定を前提とした場合に全交流電源喪失のおそれがあるという結果が示されたからといって,
敷地高を越える高さの津波が到来しさえすれば,
当然に全交流
電源喪失の具体的危険があるということにはならず,他の知見と併せて津波対策を導き出すような知見ともいうことはできない。
さらに,

終的には,外部溢水に係る津波に関する事項は耐震バックチェックにおける検討に委ねられることとなっている。
したがって,
溢水勉強会が
被告国の本件事故の予見可能性を基礎付ける知見にならないことはもとより,津波対策を導き出すための知見にもならないといえる。加えて,
溢水勉強会の存在は,
津波評価技術による津波対策の合理性が認め
られてきた中でも,規制機関や事業者が津波の不確かさが残ることを前提に,更なる安全性の向上を図るべく,たゆまぬ検討・研究を続けてきたことを表すものというべきであり,
この点は,
規制権限不行使の違
法性の判断に当たって,被告国が権限行使以外に取り組んできたその他の施策として考慮されるべき事情といえる。
g
貞観津波に関する知見の進展について
貞観津波については,本件事故前までに進展した知見を踏まえても,本件事故を惹起するに足りるような規模の津波の予見が可能となるか否かについて判然とせず,
そもそも貞観津波に関する知見が被告国の予
見可能性を基礎付ける知見といえるか否かについては,
前提からして主
張立証が尽くされているといえない。
また,貞観津波の知見については,津波の堆積物の分布を調査する堆積物調査等により地震の断層モデルを推定する研究が進められてきたが,本件事故に至るまでの間,その詳細は確定せず最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見とし
て成熟するには至らなかったものである。

h
結論
以上のとおり,本件事故前の時点において,津波評価技術は,4省庁報告書や7省庁手引の策定を踏まえつつ,当時の地震学・津波学及び津波工学の知識の粋を集めて策定された知見であり,正に,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によって福島第一原発における津波対策を考えるものとして最も合理性が認められるべきものであった。
したがって,
これに基づき福島第一原発の最大想定津波をO.
P.
+6.
1mとして津波対策を行っていた被告東電の津波対策は十分に合
理的なものであったといえる。また,4省庁報告書や7省庁手引,日本海溝・千島海溝報告書,溢水勉強会などの知見は,何ら本件事故の予見可能性に結び付く知見ではなく,むしろ,津波評価技術による津波対策及び被告国や被告東電の対応の正当性の裏付けとなるべき知見というべきである。他方,原告らが予見可能性の主要論拠としている長期評価の見解や貞観津波に関する知見の進展については,多くの理学者及び工学者が異口同音に最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見ではなかった旨述べている上に,中央防災会議においても,
防災上のハード面での対策の基礎となるべき
知見と評価されず,
この点が議論されて取り入れられることもなかった
から,
これらによって被告国についての本件事故の予見可能性が基礎付
けられる余地はない。したがって,本件事故に至るまでの間,被告国の本件事故に関する予見可能性を基礎付ける知見が存在しなかったといえる。
予見可能性に関する知見の評価について,
被告国の主張と異なる評価を
前提にした場合でも,
切迫性を踏まえた他のリスクとの優先関係や現実に
行われた措置との関係において,
被告国に作為義務が生じるまでには至ら
ないこと
地震学・津波学の理学分野における知見の成熟性の評価や津波工学に基づいた専門技術的判断によって,特定の地震や津波に関する知見が最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見といえたとしても,
原子力発電所において想定されるリスクは無限
にあることから,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によって示されるリスクが複数存在するような場合は,
切迫性の程度に応
じて,
規制権限を行使すべき経済産業大臣の負う義務の内容も当然に異なることになると考えるべきであり,
ある知見の存在のみをもって直ちに作
為義務が生じるほどの予見可能性があるということはできない。そして,相対的安全性を確保する上では,工学的判断に依拠しない対策は,リスクの優先度を考慮しない誤った判断を是認することになるため,リスク
が複数存在するような場合は,
グレーデッドアプローチを踏まえた原子力
工学に基づいた専門技術的判断が必要となってくる。
本件事故前の時点において,
原告らが予見可能性の主要な論拠として主
張している長期評価の見解を含め,本件事故の予見可能性を基礎付けるに足りる知見が存在しなかったが,万が一,長期評価の見解や貞観津波の知見が予見可能性の検討のそ上に載るようなことがあっても,長期評価の見解
や貞観津波の知見によって示されるリスクは切迫性が低い
ものであり,グレーデッドアプローチの観点から検討した場合,他に優先されるべきリスクが存在していた。すなわち,グレーデッドアプローチの観点から検討した場合,本件事故前は,津波のリスクに切迫性はなく,一連の地震対策が優先されるべき状況であったのであるから,
被告国におい
て,被告東電に対し,地震対策に優先して津波対策をさせる作為義務が生じていたとは認められない。しかも,被告東電は,津波のリスクが低い中でも,更なる安全性の向上のため,自ら知見の収集や安全対策のための手法の研究・開発を行っていたほか,未成熟な知見であっても,積極的に土木学会へ審議を依頼するなど,
事業者として工学的正当性が認められる行
動を採っていたため,被告国において,二次的・補完的責任を果たすべく規制権限を行使しなければならないような事情も存在しなかったのであるから,この点を踏まえれば,被告国に作為義務が生じる余地はないといえる。
結果回避可能性
(原告らの主張の要旨)

結果回避義務について
敷地高さを超える津波に対する防護対策義務の内容
福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来したときにおいても,原子
炉を冷やし続けるために不可欠な電源を防護・確保するために,経済産業大臣は,平成14年において,遅くとも平成18年までには,被告東電に対し,①ないし③の措置を採ることを義務付けるべきであり,多重の防護のためには,この3つの義務は並行して課されるべきであった。
技術的可能性と必要な工期
a
①の措置を採ること


タービン建屋等の人の出入り口,大物(機器)搬入口などの水密化対策として,
強度強化扉と水密扉の二重扉を設置する。
この工期見込
みは3年である。



タービン建屋等の換気空調系ルーバーなどの外壁開口部の水密化
対策工事を行う。この工期見込みは2年である。



タービン建屋等の貫通部からの浸水防止対策工事を行う。
この工期
見込みは2年である。

b
②の措置を採ること
①の措置による浸水防止対策が破られて,タービン建屋等内に海水が浸水する事象に備えて,非常用ディーゼル発電機及び配電盤等の重要機器が設置されている機械室への浸水防止対策工事として,出入口への水密扉の設置及び配管貫通部の浸水防止対策工事を行う。この工期見込みは2年である。
c
③の措置を採ること
福島第一原発では,海水系ポンプが,O.P.+4mの海側の位置に設置されており,敷地高を超える津波によりこのポンプが機能喪失する可能性が高い。
その場合に備えて,
緊急時海水系のポンプを防水構造
の建屋に設置する対策工事を行う。この工期見込みは2.5年である。
d
被告東電は,平成14年以降,遅くとも平成18年までに①ないし③の措置の工事に着手すれば,
遅くとも平成21年には全ての工事を完了
することができた。


結果回避可能性について
敷地高さ2mを超える津波を想定して津波対策を採っていれば本件津波による全交流電源喪失を回避することができたこと
敷地高さを2m超える津波を想定して①ないし③の措置を採っておけば,電源の確保が可能であり,結果回避可能であった。①ないし③の措置の津波防護対策を採っていれば,仮にO.P.+4mに位置している非常用ディーゼル発電機(水冷式)を冷却するための海水系ポンプが機能喪失する事態が生じたとしても,
①の措置及び②の措置の防護対策によって共用プール建屋に設置されていた空冷式非常用ディーゼル発電機
(2号機B
系・4号機B系)及び配電盤並びに1ないし4号機の各配電盤が防護されることを前提に,2号機から1号機への,又4号機から3号機への,電源の融通がそれぞれ可能であることから,
1号機から4号機までの全ての号
機において電源の確保が可能であり,結果回避可能であった。
本件津波に対する防護の可能性があったこと
渡辺敦雄氏の意見書(甲A143,以下渡辺意見書という。)によれば,タービン建屋等自体の防護措置を採る際に,原子炉の設計に関し,万全の設計裕度を持つのは当然であり,
工学的に安全率を3以上に設定す
ることは原子力発電所の重要機器の設計枠内であり,
敷地高を2m超える
津波に対する対策と敷地高を5m超える津波に対する対策では,
設計強度
が2.5倍の違いとなるが,これは安全裕度の範囲内であり,タービン建屋等自体の防護について2mの津波に対する対策を採っていれば,5mの
津波にも耐えられる。そして,万が一,タービン建屋等自体の防護が破られて建物内の浸水があったとしても,
タービン建屋等自体の防護によって
相当な防護ができているのであるから,浸水量は限定的である。したがって,
タービン建屋等内の重要な安全機能を有する設備の部屋の防護措置を採っていれば,
確実に本件津波から非常用電源設備及びその付属設備を防
護することができたといえる。
反論
a
原告らの主張する津波防護措置を後知恵とする主張に対する反論
原告らが主張するタービン建屋及び重要機器の設置されていた部屋等の水密化や,非常用電源設備等の防護措置などは,原子炉施設を浸水から防護するための対策として,
本件事故前から既に存在していた設計
思想であった。
渡辺意見書が紹介している浜岡原子力発電所における津
波防護措置の実施例についていえば,
それ自体は本件事故後に実施され
たものではあるが,こうした浸水に対する防護措置の考え方は,それ自体は単純な設計思想であり何ら新規なものではない。
いずれも平成18
年までに技術的にも存在し,
現に水密扉や重要機器の高所配置などは一
部では実施されていた。したがって,原告らは,本件事故後に開発された新たな津波防護対策を本件事故以前にも採用すべきであったなどと主張しているわけではない。そして設計想定の津波が建屋敷地へ遡上することが想定される以上,建屋内部等への浸水を防護するために,事故前から技術的にも可能であった水密化等の対策を採るべきとの発想に至ることは当然のことであった。
こうした水密化等の津波防護措置
の必要性は,事故後に逆算して初めて認識できたというものではない。b
長期評価に基づく津波に対しては防潮堤の設置のみが義務付けられそれ以外の津波防護措置は義務付けられないとし,
かつ防潮堤によって
本件事故は回避できなかったとする主張に対する反論
自然現象を対象とした防護対策を検討する際には,
必然的に伴う不確
実性の考慮が必要とされるのであり,
津波に対する防潮堤によるドライ
サイトの確保という防護策についても,
不確実性を無視することはでき
ない。そして,不確実要因を排除することは困難であり,防潮堤が十分に機能を発揮できない事態も想定して多重の防護措置が講じられる必要がある。
防護の多重化という考え方は,原子炉の開発の当初から,
その安全確保のための基礎的な考え方(設計思想)として求められてきたものであり,
本件事故の教訓がなければ採用が期待できないような高
度なものではない。したがって,このような津波防護対策の多重化によって,本件事故以前においても,原子炉施設の津波による浸水に対する耐性を確保することは十分に可能だったといえる。
防潮堤の設置については,許認可及び工事のために,少なくとも年単位の期間を要するが,
年単位の長期間の施工期間が想定される防潮堤の
建設工事期間中においても,原子炉施設の稼働を続けるのだとすれば,少なくとも短期間で施工し得る建屋の水密化等の内郭防護等の津波防護措置を講じておくことが要請される。そして,これら防潮堤以外の対策については,実行が容易であった。現に被告東電自身による過去の対応として,原子炉施設の敷地への浸水を前提として,平成14年の津波評価技術公表後の2002年推計をもとに,津波に対する防護策として,防潮堤の設置という対応を採ることなく重要機器の高所配置,建屋水密化を短期間で実施し,
国に報告しその確認を経た実例が現にあるの
であり,こうした事実だけからしても,防潮堤のみが考えられる防護策であるとする主張は破綻している。以上より,防潮堤の設置のみが義務付けられるという主張は,原子炉施設において
深刻な災害が万が一にも起こらないようにするという
電気事業法等の趣旨に反するものであり,
敷地高さを超える津波に対し
ては防潮堤の設置とともに建屋の水密化や非常用電源設備等の高所配置等の防護措置も並行して講じられるべきである。
c
2008年推計の津波に対しては敷地南側への防潮堤設置が求められたが本件津波は東側前面から遡上したので結果回避はできなかったとの主張について
本件津波による浸水高は,取水ポンプの位置でO.P.+11m程度であったのに対し,
2008年推計による取水ポンプ位置における浸水
高は,5号機でO.P.+10.182m,6号機で+10.133m,2号機で+9.244m等である。海水取水ポンプの設置されている位置は,いずれも,O.P.+4m盤の最奥部であり,そのすぐ西側で主要建屋敷地の地盤(O.P.+10m等)が立ち上がる付け根部分にあたる。この取水ポンプ位置における浸水高が,(防波堤による防護を受けても)5,6号機前面ではO.P.+10mを超えており,2号機前面でもO.P.+9.244mに達しており,10m盤への遡上とは紙一重の状態である。以上から,取水ポンプ位置における本件津波の浸水高であるO.P.+11mと,2008年推計によるO.P.+9.244mを対比すれば,その間の差は僅かなものにとどまるのである。また,本件地震によって福島第一原発の地盤は津波の襲来の時点においては既に約0.6m沈降しているのであり,2008年推計によるO.P.+9.244mの浸水高は,実質的にはO.P.+9.844mの浸水高に相当するものであり,O.P.+10m盤との差はないに等しい状態といえる。
2008年推計による取水ポンプ位置における浸水高は,5号機でO.P.+10.182m,2号機で+9.244mであり,O.P.+10mを超えるか,又は僅差にとどまる。また,本件地震によって福島第一原発の立地点の地盤は約0.
6mの沈降を示しているが,こうし
た沈降自体は,
現在の地震学においては事前に予測できるものではない
が,
他方で,
日本海溝沿いのプレート間地震に伴って太平洋に面した沿
岸部において相当程度の地盤の沈降が起こる可能性も排除することはできない。そうすると,こうした地盤の沈降の可能性(本件地震では約0.6m)を考慮すれば,上記の5号機,2号機のポンプ位置での浸水高は,O.P.+10m盤への東側からの浸水があり得ることを示すものといえるのであり,
少なくともその可能性を排除し対策を不要とする
ほどの浸水高の余裕はないものといえる。また,2008年試計算結果に基づく確認の結果について(甲A148)の推計によれば,敷地の南北に防潮堤を設置するとその影響で東側前面部分からも2.5
mもの遡上が生じ得るということは,
2008年推計自体によったとし
ても,僅かな条件の変動によって,東側前面からのO.P.+10m盤への遡上が起こり得ることを示しているものである。よって,
敷地南側
のみに防潮堤を設置するだけでは10m盤への浸水は防げない。
以上より,被告国の主張は失当である。
d
2008年推計を前提とすれば大物搬入口等の水密化が求められること
2008年推計においては構造物(建屋等)が考慮に入れられておらず,タービン建屋等の建物が存在しない前提で(平坦な地形として)遡上計算がされているが,
タービン建屋等の存在を考慮に入れた津波の地
上部での遡上の推計計算に比較して,
2008年推計の地点ごとの浸水
高の推計には誤差が生じ得る。しかし,2008年推計は,O.P.+10m盤への遡上があることを前提としているものであり,
地上部での
津波挙動の態様にタービン建屋等の構造物の存在が影響するが,
仮に建
屋等の存在を考慮に入れた場合には,
それを考慮に入れなかった場合に
比較して,
浸水高が低くなる可能性もあるが,逆に高くなる可能性もあ
る。特に,敷地に津波が遡上したことを前提とした場合,平坦地における挙動に比して,
建屋等の構造物が存在した場合に,
これに進行を阻ま
れることによって,遡上高(=浸水高)が増幅することがあり得ることは容易に推定できる。すなわち,
建屋等の構造物の存在を考慮に入れた
場合には,浸水高はより大きくなることも十分に想定できるといえる。したがって,推計される浸水高に過小評価の危険があることを踏まえて,
安全裕度を見込んだ対策が講じられるべきことは当然であり,敷地への浸水が前提とされているにもかかわらず,
構造物の存在が考慮され
ていないことから推計される浸水高の精度に問題があるとして,
対策を
放棄することを正当化する被告国の主張は失当である。
2008年推計においては,4号機において2.6mの浸水深が計算されていること,
1ないし3号機においても1m以上ないし2m前後の
浸水深が計算されていること,
そしてこの浸水深の推計については,

告国も指摘するように建屋等の構造物の存在が考慮に入れられていないことに伴う推計上の誤差が伴うことからすれば,
1ないし4号機の全
ての号機において,
大物搬入口等の開口部の水密化が図られるべきであ
る。
e
本件津波に対しても大物搬入口が相当程度の浸水防護機能を果たし得たこと
本件津波による福島第一原発の1ないし3号機のタービン建屋1階及び共用プール建屋1階に浸水した海水の深さ(浸水深)は,30cmから最大110cmにとどまるものである。
これらの建屋の周囲におい
て観測されている津波自体の浸水深は,2m以上(1号機)又は4ないし5m(2号機及び3号機)であり,外部の浸水深と建屋内の浸水深は大きく異なる。こうした事実は,タービン建屋への海水の浸入経路は,大物搬入口,入退域ゲート,機器ハッチ及びD/G給気ルーバ
であったが,
これらの浸入口となった部分も完全に破壊された
ものではなく,
建屋への海水の浸入を防ぐ機能を相当程度果たしていた
ことを示すものである。また,開口部が完全に開放されれば,当然に建物内においても建屋周囲に近い浸水深となるはずであり,
また,
建屋内
に漂流物が流れ込むこととなる。しかし,1ないし3号機においてはこうした事態は観測されていない。これに対し,4号機においては,定期検査中でありタービン建屋の大物搬入口が開放されていたことから,こ
の開口部から建屋内に流入した海水は建屋の2階にまで到達し2階の手すりを変形させている。
また,
1階部分には大量の漂流物が流れ込み,
機器に衝突し,漂流物の堆積が確認されている。
これらの浸入口となった開口部については,
特別の防水対策も取られ
ておらず,
主要な浸水経路である大物搬入口については,
そもそもシャ
ッター式の構造にすぎず津波の水圧や漂流物の衝突に対しても脆弱な構造であったが,最高4ないし5mの浸水深(2,3号機)に対して相当程度の浸水防護機能を果たしていたこととなる。
こうした事実は,

屋敷地への津波の遡上があり得ることを踏まえて,
敷地に遡上した海水
がタービン建屋等に浸水することを防護するための水密化等の措置を採ってさえいれば,
タービン建屋及び共用プール建屋等への浸水を防護
することは十分可能であったことを示している。
仮に建屋自体の水密化
によっても完全な浸水防護に失敗したとしても,
それによって建屋内に
もたらされることが想定される海水の浸入は,
4号機においてみられた
ような漂流物をも伴った海水の流入という態様ではなく,水密化機能の一部の破綻による漏水にとどまるであろうことは明らかである。こ
のような漏水が生じたとしても,その際の,浸水の影響は波圧等を伴う流入となるとは考えられないのであり,
建屋内に一定の浸水深の浸
水が生じたとしても,それは,
波圧を伴わない静水圧にとどまるといえ
る。
そして,
非常用電源設備及びその附属設備の重要機器が設置されて
いる部屋等の区画について,
想定される浸水深に対応する水密化による
防護措置を講じておけば,
非常用電源設備及びその附属設備が被水によ
って機能喪失するという最悪の事態を回避することは十分に可能だったといえる。
以上より,タービン建屋等の大物搬入口等の水密化による
建屋自体の水密化とともに,
建屋内部の重要機器が設置されていた部屋
等の区画を水密化して津波の影響から防護することによって,
非常用電
源設備及びその附属設備の機能を津波から防護することは,
確実に可能
であったといえる。
f
敷地南側から流入する2008年推計への対応では東側前面からの遡上による本件津波の被害を回避できなかったとの主張について
2008年推計における津波の敷地遡上後の挙動は,
敷地南側から建
屋が所在する北側方向に向かって海水が流入するというものであったのに対し,本件津波の流況(流入方向と流入速度)も,2008年推計と同様に,敷地南側から北側方向への流入が特に大きく,東側前面からの遡上の効果は限定的なものにとどまっている。よって,2008年推計の津波が示す津波波圧と,
本件津波によって建屋に及んだと推定され
る津波波圧は,少なくとも同等程度のものであったと推定される。今村文彦(以下今村という。)教授の意見書(丙A105,以下
今村意見書という。)では,2008年推計の示す浸水深について,1ないし2号機タービン建屋海側前面の浸水深
を推計の基礎として
いる。しかし,2008年推計は,被告国も指摘するとおり,そもそも敷地上の構造物(建屋)の存在を考慮に入れず,O.P.+10m盤が平坦であることを前提に浸水高を推計している。
敷地に遡上した津波の
流れは,
実際にはタービン建屋等の構造物にその流れを妨げられること
によって,
平坦地を流れる以上の浸水高をもたらすことがあり得ること
は当然に想定される。したがって,建屋の存在が考慮に入れられていない2008年推計に基づいて想定すべき浸水深について,
1ないし2号機タービン建屋海側前面で把握すること自体合理性を欠く。2008年推計によって想定される津波波圧を把握しようとするのであれば,1ないし4号機の各号機について,
タービン建屋及び原子炉建屋が立地
している敷地範囲を全体として観察し,
その中で最も浸水深が大きくな
る部分の浸水深を前提として,
想定される最大の津波波圧を推計すべき
である。また,今村意見書が2008年推計による波圧の推計の前提とした浸水深については,その前提の数値自体が不正確であり,今村意見書のおおむね1mくらいという評価は,被告国の主張に誤導されたものと推定されるが,専門家として意見を述べる以上,資料の原典を自ら直接に確認するべきだったのであり,
この点は同意見書の信用性を全
体として低めるものといわざるを得ない。さらに,今村意見書が,本件事故以前における津波波圧推定について最も信頼に足りるものとし,2
008年推計による津波の波圧推計に利用すべきものとする朝倉らの式(今村意見書50頁注19参照)は,浸水深を前提として,浸水深の静水圧の3倍の波圧を評価しておけば動水圧にも十分耐性を持つというものであり,動水圧を含む津波波圧の評価は,浸水深に正比例するものとされている。これを前提とすれば,今村意見書がおおむね1mくらいと(誤って)前提とした浸水深に対し,2008年推計の津波が示す浸水深を正しく読み取ることによって,
2008年推計によって想
定される最大の津波波圧を推計することは可能であるところ,
2008
年推計の津波の示す1ないし4号機の最大の浸水深から推定される津波波圧の推計結果は以下のとおりである。


1号機浸水深は1m以上
約30kN/m2×1以上=約30kN/㎡以上



2号機浸水深は1.5ないし2m程度
約30kN/m2×1.5ないし2程度=約45ないし60kN/㎡程度



3号機浸水深は2m程度
約30kN/m2×2程度=約60kN/㎡程度



4号機浸水深は2.604m
約30kN/m2×2.604=約78.12kN/㎡
以上の結果は,
本件津波によってもたらされる津波波圧と同等以上の

ものである。
2008年推計は地上の構造物の存在を考慮に入れていな
い平坦地を前提としたものであり建屋等の存在によって上記の推計値以上の浸水深となる可能性があることに加えてO.
P.
+10mへの津
波遡上が前提とされ,1ないし4号機のいずれについても,
津波波圧を
考慮に入れた建屋の水密化の防護措置が講じられるべきことからすれば,
1ないし4号機の各号機ごとの推計浸水高に応じて,
各号機ごとに
津波波圧に対する強度を個別に算定して水密扉を設計することは考え難く,
深刻な災害が万が一にも起こらないようにするという観点か
らは,
1ないし4号機のうちで最大の浸水深を示す4号機の浸水深を前
提とした津波波圧(約78.12kN/㎡)を前提とした設計が全号機で採用されることが想定される。これは,今村意見書が推定するところの本件津波による津波波圧
(58kN/㎡)
を大幅に上回るものである。
以上より,
2008年推計の津波が示す津波波圧と,
本件津波によって
建屋に及んだと推定される津波波圧は,
少なくとも同等程度のものであ
ったと推定される。
(被告国の主張の要旨)

予見可能性の存在を仮定しても,
本件事故前の知見を前提に津波対策を行
った場合には,本件事故の結果回避可能性がないこと
規制権限の不行使が違法となるのは,ある時点において,予見可能な被害に応じた適切な結果回避措置を事業者が講じるように,
所管行政庁が規
制権限を行使すべきであったにもかかわらず,
それを怠ったという行為規
範からの逸脱という点に求められるところ,
結果回避可能性を考える上で
も,
行政庁に事後的な知見や事後的に可能となった措置を講じるように求めることは不可能であるから,
その当時の科学的知見に基づいて適切と考
えられていた結果回避措置によって結果を回避できる可能性があったのかどうかを問題としなければならない。また,規制権限の不行使が違法になるということは,
行政庁に一定の規制権限の行使を義務付けるというこ
とであり,それによって,事業者は行使された規制権限の内容に沿って結果回避措置を実施しなければならないことになるのであるから,
事業者に
そのような負担を負わせる以上,
規制権限を行使することで実施されるこ
とになる結果回避措置によって被害の発生を回避できることについて,客
観的かつ合理的な根拠がなければならない。そうすると,ある結果回避措置によって結果回避可能性があるというためには,原則として,規制権限の不行使が問題となっている時点で,
当該結果回避措置を採ることが物理
的に可能であっただけでは足りず,当時の確立した科学的・工学的知見によって,当該結果回避措置が,問題となっている被害を回避できる措置として導かれる状況にあったことが必要となる。
本件事故前の工学的知見に照らし,
津波対策として導かれる結果回避措
置について
a
ドライサイトコンセプトについて
本件事故前の知見に照らして適切と考えられる措置を正しく認定するためには,
その前提として,原子力発電所における津波対策がどのよ
うな考え方の下で行われるものであるのかを理解する必要がある。本件
事故前の時点では,原子力発電所における津波対策は,ドライサイトコンセプトに基づいて行われてきた。
ドライサイトコンセプトとは,安全
上重要な全ての機器が設計基準津波の水位より高い場所に設置されることなどによって,それらの機器が津波で浸水するのを防ぎ,津波による被害の発生を防ぐという考え方である。福島第一原発についても,ド
ライサイトコンセプトに基づいて,
安全上重要な機器のほとんどが設置
される主要建屋の敷地高さを,
想定される津波の高さ以上のものとして
津波の侵入を防ぐことを基本としつつ,
津波に対する他の事故防止対策
も考慮して,
津波による浸水等によって施設の安全機能が重大な影響を
受けるおそれがないものとすることを求めてきた。
福島第一原発の原子
炉設置許可処分における安全審査においては,立地条件として海象について調査審議されているところ,潮位の記録として,小名浜港(敷地南方約50km)
における観測記録によれば,昭和35年のチリ地震津
波の波高が最高でO.P.+3.122mがあった一方,福島第一原発の主要建屋の敷地高さがO.P.+10mであったことから,津波の不確定性を考慮しても,敷地高さと想定津波との間に十分な高低差があり,ドライサイトとして津波対策が図られているものと判断されたほか,
本件事故前における最終的な想定津波の最大値も津波評価技術に基づいたO.P.+6.1mであることから,ドライサイトとして津波対策が図られているものと判断されてきた。

b
本件事故前の科学的・工学的知見に照らした場合,敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持するというものであったこと
本件事故前の科学的知見・工学的知見に照らした判断としては,主要建屋の敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮
堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持することであり,
かつ,
このような対策が最も望ましいとされていた。
これに対し,
本件事故後には,防潮堤以外の津波対策(水密化など)の措置も講じられるべきであった旨の考え方も示されている。しかし,本件事故前までの工学的知見として確立していた事項や種々の見解等の成熟度については,いまだ津波評価技術によって導き出された最大想定津波として,どのような想定外の津波を想定すべきかという知見や当該津波に対する具体的な対応方法に関する知見がなく,これを研究・開発している途中の段階にあったのであり,津波工学の分野において,防潮堤・防波堤等の設置以外の結果回避措置の対策を採るためには研究に約5年,施工に約5年の合計10年程度を要する段階にあったのであり,
本件事
故前までにこれを行うことが不可能であった。そして,本件事故前も現在も,津波工学は,首藤名誉教授や今村教授を中心に研究・発展してきた学術分野なのであり,本件事故以前の段階で,両名とも実質的に想定津波を超えた場合の対策として具体的な仕様を算出するだけの知見が存在していなかった旨述べていることからすると,
他に津波工学的に見
て具体的な津波対策を可能とするような専門的知見は存在していなかったというほかなく,本件事故前の工学的知見に照らして,本件事故後に示されたような津波対策が本件事故前に導かれることはあり得なかったといえる。以上のとおり,本件事故前の科学的・工学的知見に照らした場合,敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持するというものであり,それ以外の対策,あるいはそれに付加した対策が導かれることはあり得ない。
本件事故前の科学的・工学的知見に照らし,適切と考えられた対策を講じた場合,本件事故が防げなかったこと
本件事故前の科学的・工学的知見に照らした場合,敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持するというものになるところ,
仮に被告国
において,
福島第一原発の敷地地盤面を超える何らかの津波の予見が可能
となったために,
ドライサイトコンセプトの下で何らかの規制権限を行使
し,事業者が防潮堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持する対策を講じたとしても,長期評価の見解を前提にした津波対策では,試算津波と本件津波の規模(継続時間の違いを前提にした水量,水圧のほか浸水域や浸水域ごとの浸水深,津波の遡上方向等)が全く異なるものであったことから,本件津波を防ぐことは不可能であったのであり,本件事故の結果回避可能性は認められない。
原告らが主張する結果回避措置が本件事故後の知見を前提とするものであること
本件事故前に津波対策として主要施設の水密化や非常用電源・配電盤・高圧注水系等へ接続するための各種ケーブル等の高所移設を行うべきなどという提言をした者は,事業者,被告国,専門家の中に1人もおらず,そのような発想自体がなかった。したがって,原告らの主張する①ないし③の措置は,本件事故を踏まえて考えられた措置であり,本件事故の知見がない段階で原告らの主張する措置を講ずるべき義務が導き出されるものではないため,原告らの主張は失当である。また,原告らの主張は防潮堤の設置及びその効果を考慮しないものであるが,
防潮堤の設置及びその
効果を無視した水密扉の設計は本件事故後に策定された新規制基準における津波防護対策の考え方とも相反するものであり,
本件事故の知見を踏
まえた新規制基準においても求められていない事項を結果回避措置として講じるものであって,
現在の法規制体系とも整合しない独自の理論であ
るから,本件事故前はもちろん,現在においても現実的な結果回避措置であるとは認められない。
原告らが主張する結果回避措置をもって本件事故を回避できたとは認められないこと
原告らが被告国の予見可能性を基礎付ける中核として平成20年に被告東電が行った2008年推計を据える以上,
結果回避措置も同推計を前
提にして導き出されなければならない。そして,2008年推計で想定された津波は,本件地震に伴う津波と相当異なるものであった上に,そもそも構造物を考慮に入れていないものであるから,
水密扉の設置が想定され
る各地点における浸水高を適切に推計したものとはなっていない。また,2008年推計を前提にした場合,
本件地震に伴う津波において最も建物
内への浸水量が多かったと考えられるタービン建屋東側の大物搬入口等付近の浸水深は,1ないし3号機で浸水深1m前後,4号機で2m前後だったのであり,
このような推計を前提に福島第一原発1号機ないし4号機
の全建屋について一律浸水深2mの水圧に耐えられる使用の水密扉を設ける結果回避義務を講ずべき義務が生ずる根拠が不明である。
福島第一原
発1号機ないし4号機の建屋について敷地高さを2m超える津波を想定して水密化等の結果回避措置を講じていれば,
本件地震に伴う津波のよう
に敷地高さを5m超える津波が到来しても水密機能を維持することができたとする原告らの主張は,
本件事故前の原子力発電所の構造物の安全裕
度が3であったことを前提とするところ,
そのような慣習があったことを
示す証拠はない。さらに,仮に水密扉を設けるとしても,設計条件を決める上で水圧又はその前提となる浸水高が適切に想定されれば足りるというものではなく,
津波が当該水密扉に到達した時の波力や漂流物が衝突し
た場合の衝撃力,いわゆる動的な力についても考慮した上で,適切な安全率を設定するなどして水密扉の設計がされなければならない。
2008年
推計における4号機側からの回り込みによる津波は,
海側に面しているタ
ービン建屋大物搬入口の扉に直接の波力や漂流物の衝撃力が作用する方向にはないことから,
仮に2008年推計に基づきタービン建屋大物搬入
口に水密扉を設置したとしても,
本件津波による波力等に耐え得るような
ものであったかどうかも不明であり,
本件事故前の知見に基づいて波力評
価をした上で水密扉・強化扉を設計した場合,その水密扉・強化扉は本件津波の波圧に耐えられなかった可能性がある。そして,設置される水密扉自体が想定される地震動に対して十分な耐震性を有するか否かも別途計算しなければならないところ,原告らは,いかなる根拠をもって,地震動の影響を踏まえていない推計のみによって水密扉の仕様を定め,
これによ
って本件事故を回避できたと主張するのか明らかでない。
本件事故前の状況及び許認可手続に要する時間等を考慮した場合,本件
津波までに対策工事を終えることができないこと
被告国が,被告東電から2008年推計の結果を受けたのは,本件地震の4日前である平成23年3月7日であり,
2008年推計の試算を根拠
として規制権限を行使したとしても4日間で対策工事を行うことはおよそ不可能である。
また,仮に被告東電が2008年推計を行った時期を起点として,規制権限を行使して対策工事を行わせようとしたとしても,
許認可や設備施設
の設計・施工に要する期間などを全て含めると,全体として,被告国が対策工事を行わせるために規制権限を行使したとしても,
権限行使に向けた
動機付けを受けた時点から被告東電による結果回避措置が完了するまでに,優に約5年を超える期間を要したと考えられる。
したがって,本件事故前の状況下で,被告国が,長期評価の見解を前提に防潮堤設置による対策工事をさせるべく規制権限を行使したとしても,
対策工事終了までは優に5年以上を要したと認められるのであるから,2008年推計時を起算点とした場合,時間的な側面からも本件事故についての結果回避可能性は認められない。
4
省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性
(原告らの主張の要旨)


省令62号33条4項に基づく技術基準適合命令を出すべきであったこと福島第一原発各号機の非常用電源設備及びその附属設備は,
非常用ディーゼ
ル発電機本体については,1号機,3号機及び5号機の各A系・B系は,いずれも各号機タービン建屋地下1階に設置されており,
同フロアへの津波による
浸水に対して,同時に機能喪失に至る配置であり,電源供給の要である非常用高圧配電盤(M/C)も,2号機ないし5号機のC系・D系は,いずれも各号機のタービン建屋地下1階に設置されており,1号機のC系・D系も1階に設置されていた。このように,非常用高圧配電盤(M/C)も,各号機のタービン建屋地下1階への津波による浸水に対して,
同時に機能喪失に至る配置であ
った。非常用高圧配電盤の2号機及び4号機のE系も,いずれも共有プール地下1階に設置されており,同共有プール地下1階への浸水に対して,同時に機能喪失する配置にあった。このように,福島第一原発各号機の非常用ディーゼル発電機及び非常用高圧配電盤は,同じフロアに集中的に設置されており,設置フロアへの津波による浸水によって同時に機能喪失する配置であった。そし
て,非常用ディーゼル発電機及び非常用高圧配電盤は,省令62号33条4項の規定する非常用電源設備及びその附属設備に当たり,これらは上記のとおり,同じフロアに集中的に設置されており,このような配置は,多重性又は多様性,及び独立性の要件,特に独立性の要件を満たしているものとはいえない。したがって,経済産業大臣は,被告東電に対し,電気事業法40条,省令62号33条4項に基づき,非常用電源設備及びその附属設備をその一部でも高い位置に配置するなど分散配置する,
系統の一部でも水密化するな
どし,共通要因たる津波の浸水に対して非常用電源設備及びその附属設備の独立性を確保するように,技術基準適合命令を出すべきであった。⑵

電気事業法39条に基づき省令改正を行うべきであったこと
仮に被告国に上記の技術基準適合命令を出す権限がなかったとしても,電気
事業法及び原子力関連法令の趣旨・目的・規制権限の性質からすれば,経済産業大臣は,遅くとも平成18年までには,上記のような技術基準適合命令を行使できるよう,電気事業法39条に基づき,省令改正を行うべきであった。具体的には,省令62号33条4項の独立性の共通要因に,津波による浸水を対象として加える改正をするなどして,
津波に対しても非常用電源設備及び
その附属設備の独立性を確保させる技術基準適合命令を行使できるように省令を改正すべきであった。
そして,経済産業大臣は,非常用電源設備及びその附属設備をその一部でも高い位置に設置するなど分散配置する,系統の一部でも水密化するなどし,共通原因なる津波の浸水に対して非常用電源設備及びその附属施設の独立性を確保することによって,
本件津波による全交流電源喪失を回避することがで
きた。

(被告国の主張の要旨)


平成13年安全設計審査指針及び省令第62号における溢水対策
平成13年安全設計審査指針及び省令62号においては,
内的事象と外的事
象を分けて規定しており,
溢水対策についても,
機器のランダムな故障や運転・
保守要員の人的ミス等の内的事象と地震,
津波等の自然現象である外的事象と
に分けて考慮されていた。
すなわち,内的事象における溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針4内部発生飛来物に対する設計上の考慮において,安全機能を有する構築物,系統及び機器は,原子炉施設内部で発生が想定される飛来物に対し,原子炉施設の安全性を損なうことのない設計であることを要求しており,同指針の解説で,内部発生飛来物とは,内部発生エネルギーの高い流体を内蔵する弁及び配管の破断,高速回転機器の破損,ガス爆発,重量機器の落下等によって発生する飛来物とし,考慮すべきものとして,二次的影響たる溢水等も挙げ,内的事象における溢水への対策を明示している。電気事業法の委任に基づき技術基準について定めた省令62号は,炉規法に
基づく設置許可段階における原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項について原子力安全委員会が定めた指針類を前提として,原子炉施
設の詳細設計に係る技術基準を定めたものであるから,技術基準の内容は,原子力安全委員会が定めた指針類と整合的,体系的に解されるべきものである。そして,内部発生飛来物(内的事象による溢水を含む。)については,平成13年安全設計審査指針の指針4を前提とする省令62号8条4項は,原子炉施設に属する設備であつて,蒸気タービン,ポンプ等の損壊に伴う飛散物により損傷を受け,原子炉施設の安全性を損なうことが想定されるものには,防護施設の設置その他の損傷防止措置を講じなければならないと規定している。同項は溢水について明示的には規定していないが,上記のとおり同項の前提となる平成13年安全設計審査指針の指針4の解説では内部発生飛来物の二次的影響として溢水を挙げており,省令62号8条4項においても溢水は考慮されているといえる。
これに対し,津波等の外的事象における溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針2自然現象に対する設計上の考慮において,安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であることを要求しており,同指針2の解説では,予想される自然現象として,
洪水,津波等を挙げており,
外的事象による溢水への対策が考慮されている。
加えて,
溢水対策については,
平成13年安全設計審査指針の指針2を前提とする省令62号4条1項において,原子炉施設等が洪水,津波等の想定される自然現象により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合には,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならないと規定している。このように,溢水対策は,基本設計ないし基本的設計方針に関する平成13年安全設計審査指針及び詳細設計に関する省令62号において,
内的事象と外
的事象をそれぞれ明確に区別して規定し,考慮されていた。


省令62号33条4項の独立性においては共通要因として溢水及び浸水は考慮を要しないこと
本件事故当時の省令62号33条4項は,
平成13年安全設計審査指針の指
針48電気系統の3を前提として定められたものであるところ,省令62号33条4項は,
非常用電源設備及びその附属設備について多重性又は多様性
及び独立性を有していなければならない旨規定している。
その
独立性
とは,
平成13年安全設計審査指針における独立性と同義であり,二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,
共通要因又は従
属要因によって,同時にその機能が阻害されないことをいう。ここでいう,共通要因とは,二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因であって,例えば環境の温度,湿度,圧力,放射線等による影響因子及び系統又は機器に供給される電力,空気,油,冷却水等による影響因子をいい,従属要図とは,単一の原因によって必然的に発生する要因をいう。
想定される地震及び津波等の外的
事象に対しては,
平成13年安全設計審査指針の指針2及び平成18年耐震設
計審査指針が定められ,
これらの規定において外的事象に対する安全性が考慮
されており,外的事象である津波による溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針2の2及び省令62号4条1項において考慮される。そし
て,平成13年安全設計審査指針の指針48の3は,内的事象について定めたものであって,外的事象について定めたものではない。したがって,平成13年安全設計審査指針の指針48の3と整合的に解すべき省令62号33条4項にいう独立性の内容として挙げる共通要因においても,外的事象である津波による溢水及び浸水は考慮を要しない。
他方,内的事象による溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針4及びこれを前提とした省令62号8条4項に規定されている。省令62
号8条4項の原子炉施設に属する設備には,省令62号33条4項非常用電源設備及びその附属設備も含まれ,
非常用電源設備及びその附属設備
については,省令62号8条4項において,内的事象による溢水対策が考慮されているため,
内的事象による溢水は省令62号33条4項にいう
共通要因
とならない。したがって,既に省令62号8条4項において,非常用電源設備及びその附属設備についても内的事象における溢水対策が考慮されている以上,改めて省令62号33条4項にいう独立性の内容である共通要因として溢水及び浸水を考慮する必要はない。
平成13年安全設計審査指針の指針48の3及びこれを前提とする省令62号33条4項が規定する独立性に関する共通要因としては,溢水及び浸水は考慮を要しないとされていたのであるから,
溢水及び浸水という事象
を前提として独立性の要件として,同じ建屋及びフロアに非常用電源設備を設置しないことまで求められていたものではない。
平成24年に炉規法が改正される前の安全設計審査指針
(平成13年安全設
計審査指針)における独立性の定義とは,

二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないことをいう。

とされていたところ,設置許可基準規則2条2項19号においても,独立性とは二以上の系統又は機器が,想定される環境条件及び運転状態において,物理的方法その他の方法によりそれぞれ互いに分離することにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機能が損なわれないことをいうと定義されており,独立性の意味内容として位置的分散までは明示していない。
そして,
設置許可基準規則は,
平成24年の炉規法改正によりシビアアクシデントが法規制の対象とされたことを受け,
第二章設計基準対象施設と第三章重大事故等対処施設

を分けて規定しており,従前から法規制の対象であった設計基準対象施設に関する規定である設置許可基準規則33条7項は
非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保し,その系統を構成する機器又は器具の単一故障が発生した場合であっても,運転時の異常な過渡変化時又は設計基準事故時において工学的安全施設及び設計基準事故に対処するための設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならないと規定し,非常用電源設備及びその附属設備の独立性を求めるものの,設置許可基準規則の解釈には,位置的分散を求める記載はない。他方,新たに法規制の対象とされた重大事故等対処施設に関する規定である設置許可基準規則42条の解釈においては,上記3(a)の機能を有する設備は,設計基準事故対処設備及び重大事故等対処設備(特定重大事故等対処施設を構成するものを除く。)に対して,可能な限り,多重性又は多様性及び独立性を有し,位置的分散を図ることと記載され,同様に重大事故等対処施設に関する規定である設置許可基準規則47条の解釈においても,
上記a)及びb)の重大事故防止設備は,設計基準事故対処設備に対して,多様性及び独立性を有し,位置的分散を図ることと記載されている。このように,設置許可基準規則の解釈においては,位置的分散は独立性の内容とは異なるものと理解されており,平成24年の炉規法改正により新たに法規制の対象とされた重大事故等対処施設に関する規定においてのみ求められている。
したがって,平成24年炉規法改正前から法規制の対象であった設計基準対象施設においては,非常用電源設備及びその附属設備の位置的分散までは求めていないと解されるのであり,この点は,上記炉規法改正前においても別異に解すべき理由はないから,
平成13年安全設計審査指針の指針48の3及
びこれを前提とする省令62号33条4項の独立性の内容として,非常用電源設備等を同じ建屋及びフロアに設置しないことまでが求められていたものではない。


以上のとおり,
平成13年安全設計審査指針48の3及びこれを前提とする
省令62号33条4項が規定する独立性に関する共通要因としては,溢水及び浸水は考慮を要しないとされていたのであるから,
溢水及び浸水とい
う事象を前提として,独立性の要件として,同じ建屋及びフロアに非常用電源設備を設置しないことまで求められていたものではない。そして,そもそも,省令62号33条4項は,溢水に対する考慮を求める規定ではなく,非常用電源設備等の位置的分散を求めるものではないから,
複数の非常用ディーゼ
ル発電機,
非常用高圧配電盤が,
同じ建屋及びフロアに設置されたことから
独立性を欠くとの原告らの主張は,平成13年安全設計審査指針及び省令62号の体系や独立性の意味内容を正解しないものであって失当である。そして,仮に原告らの主張する措置を採ったとしても,前記のとおり,本件事故についての結果回避可能性が認められない。

5
シビアアクシデント対策についての規制権限不行使の違法性
(原告らの主張の要旨)


1990年代初めに我が国においてもシビアアクシデント対策の必要性が認識されながらも法規制化が見送られていたところ,経済産業大臣は,万が一にも原子力発電所が地震及びこれに随伴する津波の影響で全交流電源喪失及び原子炉の最終ヒートシンクの喪失という事態が発生しないように,電気事業
法39条によって委任された技術基準省令を適切に改正する権限,同法40条
によって委任された適切な技術基準に適合させる権限に基づき,
被告東電に対
し,福島第一原発の原子炉が,地震及びこれに随伴する津波による全交流電源機能喪失及び原子炉の最終ヒートシンク喪失を回避するために必要な措置をとらせるべきであったにもかかわらず,この規制権限行使を怠ったことは,原子力発電所の原子炉を規制する原子力基本法,炉規法,電気事業法の趣旨・目的及びこの分野における規制権限の在り方を踏まえれば,
その不行使は許容さ
れる限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められ,原告らとの関係において,国賠法1条1項の適用上違法となる。


シビアアクシデント対策の必要性に関する国際的な認識の高まりと被告国の認識

シビアアクシデント対策の必要性に関する国際的な認識の高まり
スリーマイルアイランド原子力発電所事故及びチェルノブイリ原子力発電所事故を経験して,国際社会は,1980年代から1990年代に,運転開始後の原子力発電所について,設計者が責任をもって保障した条件(設計基準事象)を超えるような事態を原因として,安全装置が有効に働かず炉心損傷が起こり得るという現実を直視し,シビアアクシデント対策を研究,法規制化することを急速に進展させた。国際原子力機関(IAEA)が2000(平成12)年に策定した原子力安全基準NS-R-1は,5層の深層防護による対策の必要性を指摘した。
第1層異常運転及び故障の防止
第2層異常運転の制御及び故障の検出
第3層設計基準内への事故の制御
第4層事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和
第5層放射性物質の放出による放射線影響の緩和
第1層から第3層は設計基準内の対策であり,
第4層は設計想定を超える
事象であるシビアアクシデントに対する対策であり,
第5層はシビアアクシ
デントが発生してしまった後の防災対策である。
原子力の安全確保の目的は,伊方原発最高裁判決が指摘するとおり,当該原子炉施設の従業員やその周辺の住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射線によって汚染するなど,深刻な災害を引きおこすおそれがあることにかんがみ,右災害が万が一にも起こらないようにするためである。その基本の考え方が深層防護の安全思想であり,深層防護とは,多層の安全対策を準備しておくこと及び各層の安全対策を考えるときには全体として特定の層に過度に依存せずに有効性を持たせることである。
多層の安全対
策を用意する理由は,前段の対策がどのように厳重なものであっても,それが機能しない可能性があるという不確かさを否定できずその不確かさに備えるためであり,
特定の層に過度に依存しなくても有効であることを求める
理由は,
いずれか1つの層に過度に依存するとその層が機能を失うことにより安全確保に支障をきたすことを防ぐためである。つまり,深層防護とは,設計基準を厳重化することと同時に,
それでも設計基準を超える事象が発生
する可能性があることに備えて,設計基準事象と同列に,第4層,第5層の防護対策を採ることを安全確保の基本とすべきであるとの規範である。代表的なシビアアクシデント対策としては,①原子炉の緊急停止(スクラム)が不能となる過渡的事象(ATWS)に対する対策に関するもの,②炉心損傷の結果,
燃料被覆管と蒸気/水との化学反応により圧力容器内に発生
する水素の制御(水素対策)に関するもの,③全交流電源喪失状態に関するもの及び④格納容器耐圧強化ベント
(格納容器の過圧破損の防止を目的とし
て核分裂生成物〔FP〕を含む格納容器雰囲気を部分的に環境へ放出せざるを得なくなった場合にも,これを管理された状態で行うために,格納容器に専用のベントライン
〔フィルター付の場合を含む〕
を設置して利用すること)
に関するものなどがある。これらについては,フランスにおいては,①ないし④のいずれについても,
既設炉及び新設炉を問うことなく法規制の対象に
取り込んでいる。また,米国においては,1981(昭和56)年に水素制御規則(新設炉・既設炉対象)が,1984(昭和59)年にはATWS規則(新設炉対象)が,そして,1988(昭和63)年はSBO規則(新設炉対象)が制定されて,それぞれ法規制の対象とされている。
米国においては,1991(平成3)年から外部事象を含めた確率論的安全評価:外部要因評価の実施を事業者に要求し,地震,内部火災,強風・トルネード,外部洪水,輸送及び付近施設での事故とい
う外部事象について評価手法を開発し評価を行い,1996(平成8)年にはこの評価を終了した。そして,2002(平成14)年4月に,米国原子力規制委員会(NRC)は,この対策実施をまとめた知見報告書(NUREG―1742)を発表した。原子力規制委員会(NRC)は,1988(昭和63)年6月に,外部電源喪失の発生頻度及び継続時間の評価,非常用交流電源系の信頼性評価等,全交流電源喪失事象(SBO)についての技術的評価を行ったNUREG―1032を発行し,
全交流電源喪失事象
(SBO)
によって炉心損傷が発生する頻度を10-5/炉年以下にすることが望ましく,そのために全交流電源喪失事象(SBO)が発電所によって2ないし8時間程度継続した場合でも耐久能力を有するべきであると結論付けた。これ
を受けて原子力規制委員会(NRC)は,1988(昭和63)年7月連邦規則(CodeofFederalRegulations)10CFR50.63全交流電源喪失(SBO規則)を追加し,SBOに対する耐久能力を有することを示すか,または代替交流電源を設置するかの評価を行うことを法的に要求した。
1975(昭和50)年に公表されたWASH-1400は,原子力発電所によるリスクは,
大部分が設計の範囲を超える事故によってもたらされる
ことを明らかにし,1979(昭和54)年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故,1986(昭和61)年のチェルノブイリ原子力発電所事故がそのことを裏付けた。以後,欧米では,設計基準が万全だったことはないとの認識,すなわち,原子発電所は安全ではないとの思想に立って,設計基準事象の強化とともに,シビアアクシデント対策を規制要件化し,2000年代までに,外的事象の確率論的安全評価(PSA)の技術的基盤を研究開発しながら外部事象を起因とするシビアアクシデント対策を個別プラントに実施させたのである。

シビアアクシデント対策の必要性に関する被告国の認識
被告国は,1980年代後半から,欧米のシビアアクシデント対策の情報を収集し,シビアアクシデント対策が必要であること,規制要件化を含め早期に実効性ある整備が進められていることに関する十分な情報を得ていたこと,
平成4年時点でシビアアクシデント対策の必要性については十分に認識していたこと,
確率論的安全評価手法
(PSA)
の検討も行っていること,
平成12年原子力安全白書の第1編において,原子力は『絶対に』安全とは誰にもいえない。・・原子力の安全確保のための不断の努力には,『これで終わり,もう絶対安全』という安住地は用意されていない。このことを忘れ,謙虚さを失うようなことがあれば,そこには重大な事故・災害が待っている。と総論を述べた上で,安全確保の取組として,初めて多重防護の採用として第4層,第5層に言及していること,平成14年原子力安全白書では,炉規法によれば,原子炉施設の安全確保とは,『核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること』とされております。ここで,原子炉施設のもつ潜在的危険性とは,放射性物質による放射線障害の危険性です。原子炉施設の安全性確保の目的はこの潜在的危険性を顕在化させないことになります。と記述した上で,多重防護として,第4層,第5層にも言及していることに鑑みれば,
被告国もシビアアクシデント対策の必要性について十分に認識していたといえる。



平成4年時点で,
経済産業大臣にシビアアクシデント対策に関する法規制の
権限があったこと

経済産業大臣は,平成23年10月7日改正省令62号に,シビアアクシデント対策を規定したこと
本件事故発生後である平成23年10月7日,経済産業大臣は,省令62号に,5条の2(津波による損傷の防止)を追加し,津波によって交流電源を供給する全ての設備,海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能が喪失した場合においても直ちにその機能を復旧できるよう,その機能を代替する設備の確保その他の適切な措置を講じなければならない。(2項)とした。保安院は,改正理由について,本件地震に付随した津波により福島第一原発が全交流電源喪失に至ったことで炉心損傷などの深刻な事態を引き起こしたことを踏まえ,全ての原子力発電所に緊急安全対策を指示し,省令上の位置付けを明確にしたと説明する。被告国及び被告東電は,本件津波は想定外で,予見可能性のないものであったと主張しているのであるから,
論理的には,
この省令改正は,
いわゆる設計基準事象レベルのものではなく,
それを超える事態に対する対策といえ,
シビアアクシデント対策による措置
といえる。
改正された省令の規定も,5条の2第1項は,想定される津波により原子炉の安全性が損なわれるおそれがあるときとしており,これは設計基準事象レベルの事態に対する防護措置を求める規定である。これに対し,2項は,限定なしに津波によってと規定しているとおり,設計基準事象レベルを超える津波をも対象としており,
1項に基づく防護措置によって防護で
きず,交流電源を供給する全ての設備,海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能が喪失した場合についての規定である。これは,津波という外的事象に限ってはいるが,万が一にも,全交流電源喪失・最終ヒートシンク喪失を回避するためのシビアアクシデント対策の措置を規定したものである。
よって,改正前の電気事業法においても,シビアアクシデント対策を省令に規定することが可能であったことはこの省令改正によっても明らかである。

行政指導の権限と法規制の権限の根拠法令は同一と解すべきこと
行政指導とは,
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の
行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧
告,助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう(行政手続法2条6号)。行政指導も行政の手続行為であり,法律による権限根拠が必要であるところ,
経済産業大臣がシビアアクシデント対策を行政指導する権限は
経済産業省設置法4条1項57号
発電用原子力施設に関する規制その他これらの事業及び施設に関する安全の確保に関することに含意されている。炉規法は,原子炉の設置,運転等に関する規制として,23条で設置の許可を規定し,24条でその許可基準を定めている。同条1項4号では原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることという安全確
保の規制基準が定められている。
また,実用発電用原子炉の安全確保を規制する電気事業法が,運転中の原子力発電所の安全規制に関し経済産業大臣に委任している権限規定についてみれば,電気事業法39条1項は,事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならないと規定し,経済産業大臣に,原子炉等に関する技術基準を経済産業省令で定める権限を委任している。当該規定の委任を受けて,経済産業大臣は,発電用原子力設備に関する省令62号を制定し,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること(同法39条2項1号)と定め,原子炉の設置者は,原子炉をこの技術基準に適合するよう維持しなければならない(同条1項)と定めている。被告国は,組織法である経済産業省設置法4条1項57号発電用原子力施設に関する規制その他これらの事業及び施設に関する安全の確保に関することにシビアアクシデント対策が含意されているというのであるから,規制法である炉規法24条1項4号
原子炉による災害の防止上支障がないものであることにおいても,あるいは電気事業法39条2項1号の人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすることにおいても,組織法である経済産業省設置法4条1項57号において示された
発電用原子炉施設の安全確保にシビアアクシデント対策が含まれると解釈するのが
統一的な解釈である。
このように経済産業大臣がシビアアクシデント対策の措置を採る権限を持つのであるから,これを行政指導で行うか,省令制定で行うかは,経済産業大臣の選択によることになるが,シビアアクシデント対策は,万が一にも炉心損傷事故を起こしてはならない原子炉の安全規制の手段であり,経済産
業大臣がこれを省令で定める権限を否定する法令上の規定は存しない。実際に,通商産業省(当時)は,昭和62年8月に安全裕度評価検討会を設置し,アクシデントマネジメントの在り方等について検討して,平成4年2月の共通問題懇談会の報告書及び同年5月の原子力安全委員会決定を受けて,通産省としての方針を取りまとめ,さらに,同年7月にアクシデントマネジメントの今後の進め方について(丙A60)を発表した。ここでは,
共通問題懇談会の報告書の結論部分と安全委員会の決定がそのまま同省の方針として現時点においては,アクシデントマネジメントに関連した整備がなされているか否か,あるいはその具体的対策内容の如何によって,原子炉の設置又は運転などを制約するような規制的措置を要求するものではないと結論付けられている。そして,同報告書は,経済産業大臣に,シビアアクシデント対策を法規制する権限があることを当然の前提とした上で,

現時点においては,・・・規制的措置を要求するものではない。

という政策選択を示したものにすぎない。

平成24年改正法が規制権限を創出したものでないこと
平成24年改正後の炉規法43条の3の6第1項3号等(許可の基準)はその者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう。第四十三条の三の二十二第一項及び第四十三条の三の二十九第二項第二号において同じ。)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。と規定しているのに対し,改正前の炉規法は

その者に発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。

と規定していた。上記下線部分が追加された条項であり,被告国はこの下線部分がシビアア
クシデント対策を法規制する権限を創設したものであると主張する。しかし,この下線部分文言はその他のと続き,例示となっており,下線部分は

発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。

の例示に過ぎない。したがって,改正前の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があることには,この下線部分が含まれており,経済産業大臣の規制権限の対象であったと解することができる。⑷

被告国が採ったシビアアクシデント対策は万が一の事故への対応策として著しく不合理であること
欧米では,シビアアクシデント対策として,設備の劣化や運転操作の誤りなどの内部事象を起因とするものと同時に,地震,津波,竜巻などの巨大なエネルギーをもつ自然現象などの外部事象を起因とするものに対する対策を規制要件化した。そして,欧米では,全交流電源喪失対策をシビアアクシデント対策の重要な一つとして位置付けたのに対し,被告国は,昭和62年から平成3年時点までの原子力安全委員会内におけるシビアアクシデント対策の検討において,
殊更に検討対象から外部事象を原因とするシビアアクシデント対策を除外した。また,被告国は,外部事象をシビアアクシデント対策から除外したことと連動して,
全交流電源喪失対策をシビアアクシデント対策の中に位置付
けなかった。その結果,全交流電源喪失については,昭和52年に,短時間の全交流電源喪失のみを考慮すればよいとした決定を本件事故まで変更しなかった。
被告国は,事業者の自主的取組とすることが,より有効かつ適切な対策であると主張するが,被告国が取り得る規制手段として,法規制が最も実効性のある規制である。行政指導は,飽くまで事業者の任意の協力を求める点で,規制手段として法規制よりも格段に緩やかなものである。行政手続法32条が行政指導にあっては,行政指導に携わる者は,いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。(1項),

行政指導に携わる者は,その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならない。

(2項)としていることからも明らかである。
また,違法な事故隠しまで行って,安全確保よりも利潤追求を優先する体質の原子力事業者である被告東電に対して実効的な安全規制をするためには,罰
則による実効性を持った省令による規制が必要である。
さらに,シビアアクシデント対策は,設計基準事象を超えた,発生する確率が相対的に低い事象に対する多重の防護措置であり,この対策を採るためには,一定期間原子炉を停止して工事を実施しなければならないところ,電力事業者は,利潤追求を第一としているのであるから,相当な期間原子炉を停止しなければならないシビアアクシデント対策は,本質的に,電力事業者の活動に反する性格を有するものである。したがって,電力事業者の自主的な取組に任せても,
電力事業者が,
自発的に原子力運転停止に伴う経済的負担に優先して,
国民の生命・健康・生存権の基礎としての財産や環境に対する安全確保に取り組む姿勢で行動することは期待できない。よって,利潤追求を第一の目的とする体質の営利企業である被告東電ら電力事業者をして,
実効的なシビアアクシ
デント対策に取り組ませるには,法規制によるべきであった。


被告国の行政指導に,外部事象に起因するシビアアクシデント対策,長時間の全交流電源喪失対策がないこと
我が国においては,平成4年5月28日の原子力安全委員会決定発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(丙A58)により,シビアアクシデント対策が開始されてから現在に至るまで,
外部事象はシビアアクシデント対策に反映されてこ
なかった。一方で,米国においては,1991(平成3)年から確率論的安全評価を事業者に要求し,1996(平成8)年にこの評価を終了し,2002(平成14)年には米国原子力規制委員会(NRC)が,この対策実施をまとめた知見報告書を発表した。
我が国においても,シビアアクシデント対策の検討初期において既に,規制当局である通商産業省や事業者の間で確率論的安全評価(PSA)の必要性が認識されていた。しかし,我が国において唯一実施されたのは地震PSAのみであり,被告東電が行ったシビアアクシデント対策には,平成4年5月から平成16年10月までのものであり,
外部事象に起因するシビアアクシデント対
策は含まれていない。
平成21年に入り,ようやく電力事業者において地震,溢水,火災,津波等の外部事象の確率論的安全評価のスケジュールが検討されているが,平成30年を目途に試評価を実施し,平成35年頃に安全規制を本格化させるといった予定で検討がされている。また,安全設計審査指針が長時間の全交流電源喪失を考慮しなくてよいとし,
同指針に長時間の全交流電源喪失
対策を規定しなかった結果,
被告東電は自主的取組としても長時間の全交流電
源喪失対策を行わなかった。
被告東電は,保安院に対し,平成14年5月に原子力発電所のアクシデントマネジメント整備報告書及びアクシデントマネジメント整備有効性評価報告書を提出した。平成14年10月,保安院は軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書(丙A66)

を取りまとめ,今回整備されたAMは,原子炉施設の安全性を更に向上させるという観点から有効であることを定量的に確認した。また,被告東電は代表炉以外のアクシデントマネジメント導入後の評価を実施し,
アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書(丙A67)を保安院に提出した。保安院はこれを受けて軽水型原子力発電所における『アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価』に関する評価報告書(丙A68)を公表した。保安院はこの中で事業者とは独立してその有効性を確認し,本件をもって,既設原子炉52基のAMに関する確率論的安全評価が全て終了したこととなるが,シビアアクシデントについては物理現象的に未解明な事象もあり,世界的に研究が継続されているところである。したがって,国内外における安全研究等により有用な知見が得られた場合には,AMに適切に反映させていくことが重要である。と指摘した。このように,被告東電が外部事象に起因するシビアアクシデント対策,長時間の全交流電源喪失対策を行っておらず,
被告国はこのことを認識していたに
もかかわらず,保安院はこれを軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書において有効であることを定量的に確認し,軽水型原子力発電所における『アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価』に関する評価報告書において有効性を確認した上で,本件をもって,既設原子炉52基のAMに関する確率論的安全評価が全て終了したと言い切り,

国内外における安全研究等により有用な知見が得られた場合には,AMに適切に反映させていくことが重要である。

などとして,被告東電に対して具体的にどのような対策を採るべきか示すことなく,いわば事業者である被告東電にシビアアクシデント対策を丸投げして,その後外
部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失に対して具体的な対策を行うようにとの行政指導さえ行わないままにした。被告国は,このように具体的に外部事象に起因するシビアアクシデント対策,長時間の全交流電源喪失対策の指示をせず,評価手法について基準も設定せず,期限を定めた対策を促さず,審査をすることもせずに,全ての対策を事業者である被告東電の自主的対策とした結果,
実効性のある対策は全くとられ
なかった。
平成14年原子力安全白書には深層防護の第4層,
第5層についての記述が
あったが,平成15年原子力安全白書,平成16年原子力安全白書には,深層防護の第3層までの記述のみとなった。そして,平成17年の原子力安全白書からは,
深層防護自体の記載が全く消えてしまった。
このように,
被告国が,
シビアアクシデント対策そのものを安全規制から除外したにも等しい状況となった。
そして,前記のとおり,被告東電は,国民の生命・健康・生存権の基礎としての財産や環境に対する安全確保という目的よりも,経済的負担を避け,利潤追求を第一の目的とする体質を有しており,
真摯に事故対策を行うことは期待
できない。
被告国は,
被告東電が行ったシビアアクシデント対策が外部事象に起因する
シビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失対策を含んでいない点において特に不十分であることを認識しながら,
具体的にどのような対策を採
るべきか示さぬまま,シビアアクシデント対策を自主的に行うように促したが,被告東電がこれを速やかに行うはずがないことは明らかであった。また,原子力発電所についての規制は,特に規制の実効性を確保する必要性が高く,原子力規制の法体系が原則として法規制を要請していることからも,被告国は国民の生命・健康・生存権の基礎としての財産や環境に対する安全を確保するためこれを法規制によって行うべきであった。
以上より,
外部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流
電源喪失対策について,実効性のある対策を実施させるために,被告国は被告東電をはじめとする原子力事業者に対して法規制を行うべきであったのに,被
告国は法規制を行わなかった。
(被告国の主張の要旨)


我が国の法制度上,
シビアアクシデント対策が法規制の対象とはされていな
かったこと

シビアアクシデント対策は炉規法の規制の対象とはされていなかったこ

シビアアクシデントについては,
昭和54年に発生したスリーマイルアイ
ランド原子力発電所事故及び昭和61年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故を受けて検討が進められるようになったものであり,
炉規法が制
定された昭和32年当時はシビアアクシデントとして整理された概念自体が存在しなかった。そのため,制定当時の炉規法上,原子炉の規制において,シビアアクシデント対策を要求する規定は置かれていない。原子力安全委員会は,上記各事故を受けてシビアアクシデント対策の検討を進め,平成4年5月28日,
発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(丙A58)を決定し,シビアアクシデント対策を事業者の自主的取組と位置付けた。被告国は,同決定における位置付けの下,
行政指導により種々のシビアアクシデント対策
に係る施策を講じており,本件事故時に至るまで,炉規法上にシビアアクシデント対策を要求する規定が新設されることはなかった。
本件事故後の原子力規制委員会設置法(平成24年法律第47号)附則17条により改正された炉規法1条は,
同改正前の炉規法1条において核原料
物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止しと規定していたところを,
原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止しと改めることで,設計基準の範ちゅうの事象を防止するだけでなく,それを超える重大事故が生じた場合に放射性物質が原子力施設外に大量に放出されることを防止することを法の目的に含めた。また,重大事故対策を強化するに当たっては,
発電用原子炉の設置許可の審査に当たり,
建屋の水密化や電源の多重化,
多様化等のハード面の安全性,健全性の確認に加え,重大事故が発生した場合において,
その影響を緩和するために設備等や緊急時資機材等を有効に活
用する能力(アクシデントマネジメント能力)があらかじめ備わっているか等のソフト面からの審査も同様に重要であると考えた。そこで,改正後炉規法は,発電用原子炉の設置許可基準の一つである原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること(平成24年改正前の炉規法24条1
項3号)を重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう。(中略))の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力(平成24年改正後の炉規法4
3条の3の6第1項3号)と改正し,重大事故対策についても審査の対象とした。この重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力が発電用原子炉を設置しようとする者に備わっているか
どうかの審査及び発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が(中略)災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものである(平成24年改正後の炉規法43条の3の6第1項4号)かどうかの審査は,
新設された43条の3の5第2項10号の規定により申
請に際して記載される
発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項に基づいて行われることとなる。この43条の3の5第2項10号は,同項9号とともに,改正後に新設された事項である。そもそもシビアアクシデント対策の必要性が認識されたのは昭和54年以降であり,こ
れは,昭和32年に炉規法が制定された後のことである。そのため,炉規法が制定された当時,炉規法24条1項3号の原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力としてシビアアクシデント対策の実施に必要な技術
的能力が求められておらず,炉規法24条1項4号の原子炉施設の位置,構造及び設備にシビアアクシデント対策に必要な設備が求められていなか
ったといえる。また,原子力安全委員会は,平成4年5月28日,発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(丙A58)を決定した。これによって,当時の技術的知見に照らし,
既存の安全規制において原子炉施設の安全性は十分確
保されていることを前提として,シビアアクシデント対策は,これまでの対策によって十分低くなっているリスクを更に低減するための措置とし,アクシデントマネージメントを整備し,万一の場合にこれを的確に実施することは,強く奨励もしくは期待されるべきと位置付けられた。
すなわち,
既存の安全規制によって原子炉施設の安全性が十分確保されている場合,さ
らに可能な限りリスクの低減に努めるべきであるということはできるが,こ
れを規制によって実現するか否かは立法政策の問題であり,
原子力安全委員
会は,これを規制により実現するまでのことはないとし,国もこれを是認したのである。そして,本件事故に至るまで,炉規法上,シビアアクシデント対策を要求する規定が新設されることはなかった。また,平成24年改正前後の炉規法の規定の比較や平成24年炉規法改正に当たっての国会審議からしてもシビアアクシデント対策に関する規定は平成24年改正によって創設的に規定されたものといえる。

シビアアクシデント対策を省令62号に規定することはできなかったこと
以上のとおり,炉規法制定時において,いまだシビアアクシデントとして整理された概念はなく,その後も,本件事故に至るまで,シビアアクシデント対策は,事業者の自主的取組と位置付けられ,炉規法上,シビアアクシデント対策を要求する規定が設けられることはなく,
平成24年法律第47号
による改正により,炉規法上,シビアアクシデント対策を要求する規定が新設されたものであり,本件事故以前においては,シビアアクシデント対策は炉規法による規制の対象とされていなかった。
電気事業法の委任に基づき技
術基準について定める省令62号は,
炉規法に基づく設置許可段階における
原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項について原子力安全委員会が定めた安全設計審査指針を前提として,
原子炉施設の詳細設計
に係る審査基準を定めたものであるから,段階的安全規制の下,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を判断するための指針類と詳細設計の妥当性を判断するための省令62号は,整合的,体系的に理解されるべきものである。したがって,平成24年改正前の炉規法上,シビアアクシデント対策は法規制の対象とされていなかったのであるから,
炉規法及び原子力安全委員
会が定めた指針類を前提とした省令62号においてもシビアアクシデント対策を規定することはできなかったのであり,
省令62号を改正してシビア
アクシデント対策を規制すべきであったとする原告らの主張は失当である。ウ
省令62号5条の2はシビアアクシデント対策を規定したものではない
こと
省令62号5条の2は,
本件事故後の平成23年3月30日に保安院が緊
急安全対策として指示した設備に関する対策が電気事業法39条1項の技術基準維持義務の対象となるという省令上の位置付けを明確にするために,同年10月に規定されたものである。したがって,省令62号5条の2は,従前の基本設計ないし基本的設計方針の枠組みの中で講じられたものであって,シビアアクシデント対策を規定したものではない。
平成24年改正前の炉規法は,第4章において原子炉の設置,運転等に関する規制についての規定を定めていたところ,同法24条1項4号は原子炉設置許可の要件として

原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(中略),核燃料物質によつて汚染された物(中略)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。と定めていた。

このような観点から,
従前の基本設計ないし基本的設計方針において,
放射性物質の有する危険性
を顕在化させない対策をどのように講じるかということが原子炉施設の安全の確保の課題であり,確認すべき事項は,①原子炉施設の平常運転によって放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,
平常運転時にお
ける被ばく低減対策を適切に講じていること,
②原子炉施設において事故が
発生することにより放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,
自然的立地条件との関係も含めた事故防止対策を適切に講じていることである。
ここでいう事故とは,『運転時の異常な過渡変化』を超える異常な状態であって,発生する頻度はまれであるが,原子炉施設の安全設計の観点から想定されるものであって,上記②の自然的立地条件との関係も含めた事故防止対策には,
想定している設計基準事象を大幅に超える事象に対する
シビアアクシデント対策は含まれていない。
これに対し,平成24年改正後の炉規法は,前記のとおり,シビアアクシデント対策を創設的に規制の対象としたが,これは,本件事故を受けて,平成23年6月の
原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書において,シビアアクシデント対策を原子炉設置者による自主的な取組とすることを改め,これを法規制上の要求とすべきことなど,シビアアクシデント対策に関する教訓が取りまとめられたことなどを踏まえたものである。平成24年改正後の炉規法43条の3の6第1項4号にいう原子力規制委員会規則である実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(平成25年原子力規制委員会規則第5号。以下設置許可基準規則という。)においては,第二章施設とは別に第三章設計基準対象重大事故等対処施設を設け,格納容器破損防止
対策,炉心損傷防止対策等の重大事故等対策を要求している。具体的な重大事故等対策の要求事項としては,
炉心の著しい損傷が発生した場合の原子炉
格納容器の破損を防止するための設備を設けること(50条),炉心の著しい損傷が発生した場合に原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却する設備を設けること(51条),設計基準事象の収束に必要な水源とは別に,重大事故等の収束に必要となる十分な量の水を有する水源を確保すること(56条)等があり,従来の事故防止対策に加え,新たな重大事故等対策が要求されている。省令62号5条の2は,前記のとおり,緊急安全対策として指示した設備に関する対策について,
技術基準維持義務の対象となること
を明確にするために規定したものにすぎず,
従前の法規制における事故防止
対策にとどまるものである。省令62号5条の2第2項の直ちにとは,津波によって交流電源を供給する設備,海水を使用する冷却設備,使用済燃料貯蔵槽の冷却設備の全てが機能喪失している状態においても,
炉心及び使
用済燃料貯蔵槽にある燃料に損傷が生じない期間をいうと解釈されており,長時間の全交流電源喪失のような直ちに復旧できないような事態に陥った場合に対する対策までも要求しておらず,
設置許可基準規則第二章に規定さ
れる設計基準対象施設に係る対策に相当するものであって,
設置許可基準規
則第三章のような,
炉心の著しい損傷が発生した場合を想定した要求事項で
ない。したがって,省令62号5条の2は,シビアアクシデント対策を規定したものではなく,原告らの上記主張は失当である。


シビアアクシデント対策について,電気事業者の自主的な取組として,被告国が行政指導等を行ってきたことにつき国賠法上の違法性がないことア
被告国のシビアアクシデント対策に関する指導等が不十分であったとは
いえないこと

原子力安全委員会は,昭和54年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故,昭和61年のチェルノブイリ原子力発電所事故を契機として,昭和62年7月に原子炉安全基準専門部会に共通問題懇談会を設置し,シビアアクシデント対策について検討を進め,同懇談会は平成4年3月にシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書-格納容器対策を中心として-と題する報告書を取りまとめた。同報告書においては,それまでに被告国の指導に基づき,原子炉設置者が自主的に整備を進めてきたフェーズⅠのアクシデントマネジメントの一部を考慮したレベル1確率論的安全評価(PSA)によれば,国内原子炉の炉心損傷に至る事象の発生率は,
10-5/炉年より小さく,
この値は,IAEA・INSAG(国際原子力安全諮問委員会)の基本安全原則が示す定量的な安全目標
(炉心損傷の発生率10-4/炉年(既存炉
に対して),10-5/炉年(新設炉に対して))を満足するものである。米国において実施された同型プラントに対するPSAの結果と比較しても,同様の手法により解析を行った我が国のプラントの炉心損傷の発生確率は小さいと評価されている。また,シビアアクシデント対策をこれまでの対策によって十分低くなっているリスクをさらに低減するための措置とし,アクシデントマネージメントを整備し,万一の場合にこれを的確に実施することは,強く奨励もしくは期待されるべきものとさ
れ,
状況に応じて原子炉設置者がその知見を駆使して臨機にかつ柔軟に行われることが望まれる,すなわち,シビアアクシデント対策を原子炉設置者の自主的取組とすることがより有効かつ適切な対策を行い得るとされた。原子力安全委員会は,同報告書を受けて,平成4年5月28日に発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(丙A58)を決定した。同決定に
おいては,既存の安全規制において原子炉施設の安全性は十分確保されており,
シビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分小さなものとなっており,原子炉施設のリスクは十分低くなっていると判断された。このような点を踏まえ,原子力安全委員会は,
シビアアクシデント対策を
この低いリスクを一層低減するもの
と位置付け,
原子炉設置者において効果的なシビアアクシデント
対策を自主的に整備し,
的確に実施できるようにすることを
強く奨励されるべきとした。それ以降,同決定に基づき,規制行政庁が被告東電を含む電気事業者に対し,種々のアクシデントマネジメントの整備を促し,これを受けて,被告東電ら電気事業者が種々のアクシデントマネジメントの整備を施した。
また,シビアアクシデントに至る原因となり得る全交流電源喪失事象(SBO)
については,
平成5年6月に原子力安全委員会の原子力施設事
故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループが取りまとめた原子力発電所における全交流電源喪失事象について
(丙
A90)においては,外部電源喪失頻度について,我が国の実績は約0.01/炉年で米国に比べて10分の1と格段に低く,外部電源復旧時間も全て30分以内で,米国と比べても我が国の外部電源系の信頼性は高い。
非常用ディーゼル発電設備の起動失敗確率も,
当時の直近の実績にお
いて米国に比べて約36分の1にすぎず,我が国の非常用ディーゼル発電機の信頼性は高いとされていた。
さらに,
直流電源についても,
信頼性は高く維持されていると評価さ
れていた。被告国は,
シビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分小さなものであるにもかかわらず,なお,そのリスクを低減させるため,電気事業者によるアクシデントマネジメントの整備を強く求め,その状況を評価することなどにより,適切な行政指導を行い,
これらに加え,
新潟県中越沖地震を踏まえて電気
事業者に対して安全確保体制の指示を行ってきたのであって,これらの被告国の対応に,各時点の知見に照らして著しく合理性を欠くとはいえない。

諸外国においても必ずしも既設炉についてシビアアクシデント対策が法規制の対象とされていたわけではないこと
諸外国においても,昭和54年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故,昭和61年のチェルノブイリ原子力発電所事故によりシビアアクシデント対策の重要性が認識され,各国で検討が行われてきた。しかし,例えば,米国において既設炉に対するシビアアクシデント対策が事業者の自主保安とされたように,本件事故時においても,諸外国において,既設炉について必ずしもシビアアクシデント対策が法規制の対象とされていたわけではない。米国では,1985(昭和60)年に米国原子力規制委員会(NRC)が将来設計及び既存プラントのシビアアクシデントに関する政策声明書を公表し,既存の原子炉については,NRCの研究,産業界炉心損傷研究(中略)及びPRA(確率論的リスク評価)の結果等の現在の情報に基づけば,公衆の安全,健康,財産に対する過度のリスクを有していないと判断し,シビアアクシデントに関する一般的な規則作成,及びこれ以上のバックフィットは要求しないと結論付けて,事業者の自主保安とした。他方,新設の原子炉については,現行のNRC規則の手続上の要件や指針に適合していることを実証すること。崩壊熱除去系の信頼性及び交流/直流電源系の信頼性の確保も含めて,すべての適用し得る未解決安全問題及び優先度が中/高の一般安全問題(中略)を技術的に解決していることを実証すること。PRA(フルスコープ)を実施し,PRAが明らかにするシビアアクシデントに対するプラントの脆弱性について検討すること。また,PRAは,公衆の健康,安全,及び財産に対する過度のリスクはないという保証を与えてくれる可能性がある。プラント設計のスタッフ審査を実施し,決定論的な工学解析及び判断を中心に,PRAで補完したアプローチを使って安全上容認できるという結論を得ること。という指針及び手続上の要件を満たせば容認し得るとし,シビアアクシデントを規制化した。その後,新設炉については,1989(平成元)年に発行した連邦規則(10CFR52)に基づき規制が行われ,シビアアクシデント対策が求められているが,既設炉についてはシビアアクシデント対策が法規制の対象とはなっていない。
以上のとおり,
米国では,
既設炉に対してシビアアクシデント対策は法
規制の対象とされておらず,
諸外国においても,
必ずしも既設炉について
シビアアクシデント対策を法規制の対象としているわけではなかった。ウ
IAEAの総合原子力安全規制評価サービス(IRRS)による我が国の評価結果について
総合原子力安全規制評価サービス(IRRS)は,IAEAが加盟国における原子力利用に当たっての安全を確保するため,安全基準を策定し,加盟国の要請に基づき,種々の安全確保に関して行っているレビューサービスの一つであり,原子力安全規制に係る国の法制度や組織等について総合的にレビューすることを目的とし,各国の専門家により構成されるレビューチームによるピアレビューを行うことにより実施されるものである。我が国に対しても,平成19年6月にIRRSが実施され,同年12月に報告書(丙A92)が公表されている。同報告書は,我が国における原子力規制について8つの分野にわたり,判断根拠を示した上で良好事例,勧告事項,助言事項を挙げて,評価を下している。
法令上及び行政上の責任については,極めて賞賛できるものであるとされている。規制機関の責任及び機能については,我が国においてはハードウェアの技術的課題に関する規制が中心であって,人的及び組織的要因に対する規制がハードウェアの技術的課題に対する規制に比して確立の程度が低いことを述べたものであって,シビアアクシデント対策とはあまり関係のない指摘がされている。規制機関の組織については,保安院は,原子力安全規制に割り当てられる職員の採用及び訓練を積極的に管理しているが,行政部門における5%の人員削減を求める現政府の要求及び職員ローテーション政策は,日本における有効な原子力安全規制の継続にとって潜在的な課題を与えているとされている。許認可については,我が国においてシビアアクシデント対策が法規制の対象となっていないことも踏まえた上で,安全性に寄与するあらゆる要因,特に管理及び人的要因の課題の総合的な審査に向けた改善が進められていると結論付けており,シビアアクシデント対策を法規制とすべきとの言及は一切ない。審査及び評価については,定期安全レビュー,高経年化評価,運転経験フィードバック,人的及び組織的問題,リスクを活用した規制に分けて評価がされている。検査及び強制措置については,保安院は,検査プログラムに対するいくつかの変更を実施中であり,これらは平成14年以降に確認された事象及び問題への先見的な対応であるがこれらの多様な変更は,保安院,産業界及び運転者にとって困難な課題の様相を呈しているとしている。規則及び指針については,現行の日本の規則,指針,重要なルール及び基準は体系的であり,これらは原子力発電所の安全に関するあらゆる側面をカバーしているとされている。規制機関におけるマネジメントシステムについては,保安院は,総合的な品質マネジメントシステムを確立しようと極めて先見的に努力しているが,なすべきことは多く残っているとされている。このように,我が国に対するIRRSによる評価においては,一部課題が指摘されているものの,法令上及び行政上の枠組みの改善努力を絶えず行っていることを賞賛するなど,全般的に良好な評価であった。

以上のとおり,被告国は,シビアアクシデント対策を電気事業者の自主的な取組とした後も継続的に行政指導等を行っており,当該指導等が不十分であったとはいえない。諸外国においては,例えば,米国において,既設炉について,シビアアクシデント対策を事業者の自主的な取組とするなど,シビアアクシデント対策について各国で対応が異なっており,シビアアクシデント対策について世界的にみて共通の確立した見解があったとは認められないこと,IAEAが行うIRRSにおいて,日本の原子力に対する安全規制は良好であると評価され,シビアアクシデント対策の法規制化を求められていないことなどからすれば,
被告国が,
シビアアクシデント対策を電気事業者の自主的な取組として,行政指導等を行ってきたことにつき,著しく合理性を欠くとはいえず,被告国が必要な規制権限を行使しなかったことによる国賠法上の違法があるということはできない。



外的事象である地震や津波をシビアアクシデント対策の対象としていなかったことが著しく合理性を欠くとはいえないこと
シビアアクシデント対策は,PSAを必須とするものであり,外的事象の評
価のためには,原因事象ごとに異なった評価手法が必要である。本件事故は,本件地震及びこれに伴う津波の発生,到来により発生したものであるところ,シビアアクシデント対策を行っていなかったことが違法であるか否かの判断に当たっては,
被告国にシビアアクシデント対策についての規制権限があるこ
とに加え,その不行使が著しく合理性を欠くと認められるか否かが,原因事象ごとに判断されなければならない。
まず,津波について,国際原子力機関(IAEA)が平成23年11月に発表した報告書において,確率論的津波ハザード解析手法について,

津波ハザードを評価するために各国で適用されている現在の実務ではない。確率論的アプローチを用いた津波ハザード評価の手法は提案されているが,標準的な評価手順はまだ開発されていない。

と評価しているとおり,確率論的津波ハザード解析手法は,平成18年当時のみならず,本件事故時においても,国内外で研究,開発途上にあり,確立した手法ではなかった。また,米国において1991(平成3)年から1996(平成8)年までに実施された外的事象を含めた個別プラントごとのPSAに,
津波を原因事象とするPSAは含まれていな
い。
本件事故後の平成23年12月,日本原子力学会において,原子力発電所に対する津波を起因とした確率論的リスク評価に関する実施基準:2011が策定された。これを踏まえて,新規制基準適合性に係る審査において,審査官が審査の参考にするための手引きである
基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド(以下津波審査ガイドという。丙A94)には,4.超過確率の参照として,上記実施基準及び

東北地方太平洋沖地震による津波から得られた知見等を踏まえて,確率論的津波ハザード評価を行い,評価地点における基準津波による水位の超過確率が求められていることを確認する。

としており,津波PSAは,本件地震による津波から得られた知見等を踏まえて行われることとなった。
本件事故当時,
我が国において実施されていたPSAは主に内的事象に関す
るものであり,一部地震についてのPSAも実施されていた。しかしながら,本件事故に至るまで,
原子炉施設に対して重大な影響を及ぼし得る外的事象と
して重視されていたのは津波よりも地震であり,
確率論的津波ハザード解析手
法は,開発途上にあった。原子力安全委員会安全目標専門部会が平成18年3月28日に策定・公表した発電用軽水型原子炉施設の性能目標について-安全目標案に対応する性能目標について-(丙A95)においても,PSA手法は,我が国において,発電炉の定期安全レビューや,内的事象に対するアクシデントマネジメント対策の評価などに,既に活用されている技術であるが,外的事象に対しては,今後,評価実績の積み重ねが必要とされる技術である。とされている。また,原子力安全委員会が同年9月に改定した平成18年耐震設計審査指針(丙A15の2)においても,外的事象に起因するシビアアクシデント発生のリスクについては残余のリスクとして考慮することが求められているにとどまる。そして,残余のリスクの考慮方法としてPSAの手法を用いることについては,
平成18年耐震設計審査指針を発出した際
の原子力安全・指針専門部会の見解は,手法の成熟度に関する認識において専門家間でもかなりのばらつきや不一致があること,原子力安全規制上のリスクに対する明確な定量的目標値が未設定であるという現状等を踏まえ,なお今後の検討に委ねるべき事項があるとの理由により,全面的採用には至らなかった。とされている。上記のとおり,地震については,津波と比較して相対的に研究は進んでいたが,それでも過去の発生実績が乏しい上,手法の確立も不十分であったことから,
地震ですら本件事故時点においてなおPSAの手法に
基づく安全性評価の研究は未確立の状況にあった。
以上のとおり,本件事故当時においては,津波と比較して相対的に研究が進んでいた地震ですらPSAの手法に基づく安全性評価の研究は未確立の状況にあり,本件地震及びこれに伴う津波の発生,到来については予見できない状況にあったのであるから,
被告国が地震や津波を原因事象とするシビアアクシ
デント対策の実施を被告東電に求めていなかったとしても著しく合理性を欠くとはいえない。


安全設計審査指針及び発電用原子力設備に関する省令62号において短時間の全交流電源喪失を規定していたことが不合理ではないこと

省令62号16条5号及び33条5項が平成13年安全設計審査指針の
指針27を前提としていること
平成18年当時の省令62号16条は

原子力発電所には,次の各号に掲げる設備を施設しなければならない。

とし,その同条5号において

原子炉停止時(短時間の全交流動力電源喪失時を含む。)に原子炉圧力容器内において発生した残留熱を除去することができる設備

と規定していた。
また,
省令62号33条5項は,

原子力発電所には,短時間の全交流動力電源喪失時においても原子炉を安全に停止し,かつ,停止後に冷却するための設備が動作することができるよう必要な容量を有する蓄電池等を施設しなければならない。

と規定していた。これらの規定は,いずれも短時間の全交流電源喪失時(省令62号16条5号についてはそれを含む原子炉停止時)に機能するために施設しておかなければならない設備について規定したものであって,長時間の全交流電源喪失の場合について規定したものではない。平成13年安全設計審査指針の指針27は,
電源喪失に対する設計上の考慮
として,

原子炉施設は,短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であること。

と定めていた。省令62号16条5号及び33条5項は,安全設計審査指針27を前提として規定されたものである。

短時間の全交流電源喪失を規定したことが不合理ではないこと
原子炉施設においては,平成13年安全設計審査指針が,全交流電源喪失を防ぐための様々な設計上の要求を課している。具体的には,平成13年安全設計審査指針の指針48電気系統の1は,重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であることを求めている。また,平成13年安全設計審査指針の指針48電気系統の2は,外部電源系について,平成13年安全設計審査指針の指針2及び平成18年耐震設計審査指針により耐震基準をCクラスとし,一般産業施設と同等の耐震安全性を求めた上で,

2回線以上の送電線により電力系統に接続された設計であること。

を求めている。さらに,平成13年安全設計審査指針の指針48電気系統の3は,非常用所内電源系について,
平成13年安全設計審査指針の指針2及び平成
18年耐震設計審査指針により耐震基準をSクラスとして最も高い耐震安全性を求めた上で,非常用所内電源系は,多重性又は多様性及び独立性を有し,その系統を構成する機器の単一故障を仮定しても,運転時の異常な過渡変化時において,設計範囲内で原子炉を停止し,冷却すること及び原子炉冷却材喪失等の事故時の炉心冷却を行い,かつ,原子炉格納容器の健全性並びにその他の所要の系統及び機器の安全機能を確保することを確実に行うのに十分な容量及び機能を有する設計であることを求めている。加えて,平成13年安全設計審査指針の指針9の2及び9の3は,原子炉施設全般について,信頼性に関する設計上の考慮として,重要度の特に高い安全機能を有する系統については,その構造,動作原理,果たすべき安全機能の性質等を考慮して,多重性又は多様性及び独立性を備えた設計であること及び,その系統を構成する機器の単一故障の仮定に加え,外部電源が利用できない場合においても,その系統の安全機能が達成できる設計であることをそれぞれ求めている。このように,原子炉施設においては,平成13年安全設計審査指針の指針9及び指針48において,全交流電源喪失事象(SBO)の発生を防止するため,様々な設計上の要求を課しており,複数回線で接続された外部回線の修復が長時間にわたり期待できず,かつ,非常用所内電源系の系統又は電源機器の全ての機能が阻害され,
その修復が長時間にわたり期待できないとい
う事態が同時発生することはおよそ想定し難いと考えられ,
そもそも全交流
電源喪失事象(SBO)の発生頻度も非常に低いと考えられていた。その上で,平成13年安全設計審査指針は,上記防止策にもかかわらず,万が一にも全交流電源喪失事象(SBO)が発生した場合に備えて,指針27電源喪失に対する設計上の考慮において,外部電源ないし非常用交流電源設備(非常用ディーゼル発電機)が復旧するまでの間,
直流電源を用いることで制
御可能な冷却設備を運転させて炉心の冷却を維持できるように設計上の考慮を求めていたのであり,
平成13年安全設計審査指針が不合理であったと
はいえない。
昭和52年以後の原子炉施設の安全審査においては,
全交流電源喪失事象
(SBO)の発生を防止するため,様々な予防策を講じているにもかかわらず,全交流電源喪失が発生した場合にも,原子炉を安全に停止し,交流電源を必要としない系統,機器を,必要な直流電源の蓄電池を用いて制御することにより,
原子炉を一定時間にわたって冷却することが可能となるように設
計されているかを審査しており,
平成13年安全設計審査指針の指針27が
規定する短時間とは30分間以下のことであると解釈する慣行がとられてきた。我が国では,交流電源喪失事象について,外部電源喪失頻度が極めて低く,
外部電源復旧時間も全て30分以内であり外部電源系の信頼性が極めて高く,
非常用ディーゼル発電設備及び直流電源についても信頼性は高い
と評価されていた。したがって,短時間の全交流電源喪失について規定したことが不合理であるというべき状況にはなかった。

以上のとおり,全交流電源喪失事象(SBO)については,その発生を防止するため,平成13年安全設計審査指針の指針9及び指針48において様々な設計上の要求を課すことにより,
発生頻度が非常に低いと考えられた
にもかかわらず,
そのような事態に備えて平成13年安全設計審査指針の指
針27を設けたものであり,実際にとられた措置を見ても,我が国においては外部電源系及び非常用ディーゼル発電機の信頼性が高かったことからすれば,
同指針27において短時間の全交流電源喪失を規定したことが不合理なものであったとはいえない。したがって,省令62号16条5号及び33条5項が短時間の全交流電源喪失を規定したことは不合理なものであったとはいえず,原告らの上記主張は理由がない。


被告国の行政指導による規制措置が手段として実効性を欠いていたことを指摘する原告らの主張が失当であること
原子力安全委員会は,平成18年9月19日,昭和56年の旧指針策定以降現在までにおける地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに発電用軽水型原子炉施設の耐震設計技術の著しい改良及び進歩を反映し,旧指針を
全面的に見直すとの趣旨から,平成13年耐震設計審査指針を改訂した。上記改訂後の平成18年耐震設計審査指針は,
その後の原子炉設置等許可処分の申
請に対する安全審査において適用されるものであったが,保安院は,同月20日,
平成18年耐震設計審査指針を受け,
被告東電を含む原子力事業者に対し,
既設の発電用原子炉施設等について,
改訂された耐震指針に照らした耐震安全
性の評価を実施し,報告するよう指示した(耐震バックチェック)。他方,経済産業大臣は,
前記耐震バックチェックの作業が進められていた平成19年7
月16日に発生した新潟県中越沖地震を踏まえ,同月20日,被告東電を含む電力会社に対し,
同地震から得られる知見を耐震安全性の評価に適切に反映す
るなどして,
国民の安全を第一とした耐震安全性の確認などを指示した。
また,
被告東電は,平成20年3月31日,保安院に対し,福島第一原発について,耐震バックチェック中間報告書を提出したところ,保安院は,合同WGの議論に基づき,平成21年7月21日付けで,評価書(耐震設計審査指針の改訂に伴う東京電力株式会社福島第一原発5号機耐震安全性に係る中間報告の評価について(丙A72)及び耐震設計審査指針の改訂に伴う東京電力株式会社福島第二原子力発電所4号機耐震安全性に係る中間報告の評価について(丙A73)。以下,両者を併せて本件各評価書という。)を作成し,同日,被告東電にこれを通知した。本件各評価書は,原子力安全委員会により更に審議され,原子力安全委員会は,平成21年11月19日,同月17日に同委員会耐震安全性評価特別委員会で取りまとめられた本件各評価書に対する見解について審議した結果,いずれも妥当なものと認め,その旨の原子力安全委員会決定をした。保安院は,平成22年6月頃,電事連に連絡し,各事業者のバックチェックの進捗状況をまとめた一覧表を作成させた上,
作業が遅れて
いる被告東電等の事業者に対し,
保安院として津波対策を含む最終報告書の早
期提出を促すべく,指示を出すことを検討していることを伝え,平成23年3月7日にも,被告東電に対し,早期に津波対策についての検討を行い,バックチェックの最終報告を提出するよう促した。このように,被告国は,耐震バックチェックに関し,被告東電を含む原子力事業者に対し,耐震バックチェックを指示していた。そして,耐震バックチェックの作業は,当初の計画から遅れてしまっていたものの,それは,新潟県中越沖地震の発生を受けて,被告国が原子力事業者に対し,
同地震から得られる最新知見を耐震安全性の評価に適切
に反映し,国民の安全を第一とした耐震安全性を確認するよう求め,また,調査審議における専門家からの指摘事項について原子力事業者の回答を求め,原
子力事業者において,改めて活断層評価,地震動評価等のための追加の調査等が必要となったためである。耐震バックチェックの遅れは,上記の原子力事業者における追加の調査等や保安院及び原子力安全委員会における調査審議が,バックチェックの対象となる全国23の原子炉施設について同時進行的に行われていたからであり,これは,正に被告国がその時々に得られた知見に基づいた安全対策を講ずるように行政指導を繰り返してきたことを示すものである。
被告国は,
平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震が設計時に算定して
いた地震動を大きく上回ったことや火災が発生したこと等から,
安全確保に万
全を期すべく,同月20日,化学消防車の配置等の自衛消防体制の強化等を各事業者に指示した。この指示を受けて被告東電は,同月26日,改善計画を提出し,
平成20年2月までに化学消防車2台及び水槽付消防車1台を被告東電柏崎刈羽原子力発電所に配備するとともに,防火水槽を複数箇所に設置し,平成22年6月には,
同原発の各号機のタービン建屋等に消火系につながる送水
口を増設した。さらに,平成22年7月頃,発電所対策本部を設置する緊急時対策室を事務本館から免震重要棟に移転した。これらの一連の対応は,一次的には地震と火災などの複合災害発生時等における初期消火活動のより確実な実施を目的とするもので,
シビアアクシデント対策として整備されたものでは
ないが,被告国の指導により,新潟県中越沖地震のような当初想定していた地震動を上回る大規模な震災が発生しても原子炉施設の安全確保をすべく追加で整備されたものである。免震重要棟については,本件地震の際に特段の被害はなく,発電所対策本部が免震重要棟内の緊急時対策室に設置され,その機能を果たすことができた。また,消防車については,本件地震の際の臨機の応用動作として,消防車による原子炉への代替注水及び海水注入が実施された。さらに,福島第一原発6号機の非常用空冷ディーゼル発電機(D/G)については,本件地震及び本件津波到達後もその機能を維持し,かつ,同6号機のみならず,5号機にも電源を融通することができたため,同5号機及び6号機については,各種監視計器の確認や,原子炉内への注水など,プラント制御に必要な操作を行うことができ,その結果,5号機及び6号機は冷温停止に至った。このように,
新潟県中越沖地震後の経済産業大臣の指示とこれによる設備の追
加整備などは,本件事故の被害軽減に大きな効果があった。
以上より,
耐震バックチェックなど被告国の行政指導による規制措置が手段
として実効性を欠いていたことを指摘する原告らの主張は失当である。6
本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性
(原告らの主張の要旨)
原発の設置許可処分の取消しによって保護しようとする権利・利益は,人間の生命,身体,健康,ひいては人間生活そのものであり,重大なものである。また,前記

(予見可能性)(原告らの主張の要旨)のとおり,津波,地震,原子力
発電所事故等に関する知見の蓄積により,被告国は,遅くとも平成18年には,福島第一原発の敷地高さを超える津波によって全交流電源喪失に至り,過酷事故
が発生する危険性を認識し又は認識し得る状況にあり,
海外においては過酷事故
対策が規制化され,
国内でもその必要性が認識されていた。
それにもかかわらず,
我が国においては,内部事象のみを過酷事故対策の対象とし,地震や津波などの外部事象は対象とされなかった。したがって,平成18年当時,被告東電は,津波や過酷事故に対する十分な対策は採っておらず,
原子力発電施設の設置許可処
分の取消しによって保護される利益が上記のとおり重大なものであることに鑑みれば,福島第一原発の各号機が,当時の炉規法24条1項4号(原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質…核燃料物質によって汚染された物…又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること)の要件に適合しない状態にあるものとして,本件設置等許可処分を直ちに取り消すべきであった。それにもかかわらず,経済産業大臣(当時)は,被告東電と一体となって,事業者の利益追求の姿勢を容認し,津波や地震を含めた安全規制を怠り,本件設置等許可処分の取消しを行わなかったのであり,
本件設置等許可処分を取り消さなかったこ
とは違法である。
(被告国の主張の要旨)
前記

(予見可能性)
(被告国の主張の要旨)のとおり,被告国については,

本件地震及びそれに伴う本件津波と同規模の地震及び津波が福島第一原発に発生・到来することはもとより,敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波が到来することについての予見可能性を認めることはできないのであるから,被告国
に本件設置等許可処分を取り消すべき義務は発生せず,
本件設置等許可処分を取
り消さなかったことが違法とはいえない。
7
本件事故後の避難指示の違法性
(原告らの主張の要旨)


被告国による避難指示
被告国は,
福島第一原発における全交流電源喪失及び非常用炉心冷却装置不
能といった事態を受け,
平成25年3月11日午後7時3分原子力緊急事態宣
言を発出した。
同時に,
原災本部を官邸に,
原子力災害現地対策本部
(以下
現地対策本部という。)をオフサイトセンターに,それぞれ設置した。その後,原災本部は,福島県知事及び関係自治体に対し,数次にわたって,原子力発電所から一定の距離の居住者等に対する避難・屋内退避指示をした。平成23年3月11日から同月15日までの間の指示内容は,以下のとおりである。①

3月11日午後9時23分
・半径3km圏内避難指示
・半径3kmないし10km圏内屋内退避指示



3月12日午前5時44分
・半径10km圏内避難指示



3月12日午後6時25分
・半径20km圏内避難指示



3月15日午前11時
・半径20kmないし30km圏内屋内退避指示



上記のような避難指示の伝達は,原子力災害対策マニュアル上は,現地対策本部長が現地オフサイトセンターにおいて決定すべき事項とされているにもかかわらず,
初期段階で現地対策本部がほとんど機能麻痺の状態にあったこと
から,官邸において避難指示の内容が決定された。また,これらの決定にあたり,
SPEEDIの所轄官庁である文部科学省の関係者が官邸に常駐した形跡はなく,結果,SPEEDIについての知見が生かされることはなかった。


被告国は,避難指示を迅速に伝達するために,関係省庁や関係地方自治体と連携して関係組織全体で対応できる体制を整備した上で,
シビアアクシデント
発生時にも十分に機能するホットラインを事前に確保しておかなくてはならなかったところ,被告国はかかる義務を怠った。その結果,被告国による避難指示は,避難対象区域となった地方自治体全てに迅速に届かなかった。また,被告国によってされた指示内容は,

ともかく逃げろ。

というだけに等しく,きめ細かさに欠けていた。各自治体は,原発事故の状況について,テレビ,ラジオ等で報道される以上の情報を得られないまま,
住民避難の決断と避難先探
し,避難方法の決定をしなければならなかった。
被告国の避難指示は,前記⑴①ないし④のとおり,時間の経過につれて,単に同心円状に避難範囲を広げていったものにすぎない非常に大雑把なものであった。実際に,①の避難指示がされたときには,既に対象住民は津波への対応のため,おおむね3km圏外へ避難しており,翌12日零時30分,3kmの避難圏内における住民避難が完了済であることが緊急避難チームにおいて確認されているのであって,被告国による①の避難指示は,本件事故ではなく,津波に対する住民の避難行動を後追いしたにすぎないという,
極めて不十分な
ものであった。また,被告国による避難指示は,単に同心円状に避難範囲を広げていったものに過ぎなかったため,
住民の避難経路と放射性物質の飛散した
方向が一致するという事態すら発生してしまった。
④の避難指示が出された時点では,事故後既に3日を経過しており,風向きなどは分析可能だったのであるから,避難範囲を同心円状に20kmか30kmかの二者択一で判断するのは大まかにすぎる。
また,
20km圏内の者が実際に
避難している一方で,20kmから30kmの範囲内の者は屋内退避としている科学的根拠は薄弱である。このように,本件事故直後から平成23年3月15日までの間に,被告国による具体的な避難指示は,科学的根拠が極めて薄弱であるだけでなく,

ともかく逃げろ。

というだけに等しい,きめ細やかさにも欠けた不適切かつ不十分なものであった。


原災法15条1項は,

主務大臣は,(中略)原子力緊急事態が発生したと認めるときは,直ちに,内閣総理大臣に対し,その状況に関する必要な情報の報告を行うとともに,(中略)第三項の規定による指示の案を提出しなければならない。

と規定しているにもかかわらず,内閣総理大臣の原子力緊急事態宣言は直ちに行われたとはいえなかった。
被告東電は,15条報告(平成23年3月11日午後4時36分)に先立つ同日午後3時42分,保安院等に対し,いわゆる10条通報を行っており,この時点で,保安院は,官邸等に対しその旨の連絡を行うなどしているから,15条報告を受けた時点で,保安院ないし主務大臣たる経済産業大臣は,既に,原子力緊急事態の発生を十分に認識していた。それにもかかわらず,経済産業大臣が内閣総理大臣に対し原子力緊急事態宣言の上申をするまでには,約
1時間もの時間を要しているのであって,直ちにという原災法15条1項の要求は,およそ満たされていない。また,本件における原子力緊急事態宣言は,
経済産業大臣の上申から約1時間20分後にようやく発出されているのであって,かかる内閣総理大臣ないし官邸の対応は,直ちになどと評価されるものでない。
内閣総理大臣は保安院の職員に対し質問をしているが,質この問とは,原子力緊急事態宣言の発出や原災本部の速やかな設置の必要性に直結する質問ではなく,技術的な観点についての質問,法令上の根拠に関する質問,嘆きないし不満レベルの質問等の繰り返しにすぎなかった。さらに,内閣総理大臣は,原子力緊急事態宣言の上申をした経済産業大臣らが,再三にわたり原子力緊急事態宣言の発出を要請したにもかかわらず,これを了解せず,内閣総理大臣は,非常事態の最中にもかかわらず,与野党党首会談に出席するためその場を中座し,原子力緊急事態宣言の発出をさらに遅らせている。以上のように,内閣総理大臣が,即座に答えることが困難な事故の原因に関する質問を繰り返したり,与野党党首会談への出席を優先させたりしたことから,原子力緊急事態宣言の発出を後回しにしたものであり,
内閣総理大臣ないし官邸の
原子力緊急事態宣言の発出は,直ちにされたとは評価できない。


本件事故後の避難指示については,本件事故後の事実であるから,本件事故を発生させた原因ではないが,
不十分な避難指示や後述の放射性物質拡散予測
に関する情報の不開示及び隠避という被告国の行為は,原告らに対し,健康被害の不安を増幅させ,不安に基づく避難を余儀なくさせ,ひいては平穏で安全な生活を奪った。したがって,不十分な避難指示は,原告らの損害を発生・増幅される原因の一つであったといえる。したがって,不十分な避難指示は,本件事故の発生原因である規制権限の不行使などの他の責任原因とあいまって原告らの損害と相当因果関係を有するものである。
(被告国の主張の要旨)


原子力緊急事態宣言の発出に遅れがあったという原告らの主張は理由がないこと
原災法15条1項が,主務大臣は,(中略)原子力緊急事態が発生したと認めるときとして,主務大臣が内閣総理大臣への報告等を行う前提となる原子力緊急事態の発生の有無を主務大臣の主観的判断に係らしめているのは,客
観的に原子力緊急事態が生じていないにもかかわらず,
原子力緊急事態宣言が
発出されるような場合を除外するためである。したがって,飽くまでも主務大臣が原子炉施設の状況等を確認した上で,
原災法15条1項のスキームが発動
することになっている。保安院は,平成23年3月11日午後4時45分頃,被告東電から,
原災法施行規則21条1号ロ所定の事象が発生した旨報告を受
けると,技術的な確認を行い,原子力緊急事態が発生したと判断し,同日午後5時35分頃には,
主務大臣たる経済産業大臣も,
保安院からの報告を受けて,
原子力緊急事態が発生したと判断し,
原子力緊急事態宣言を発出することにつ
いて了承している。このように,主務大臣たる経済産業大臣は,被告東電からの報告を受け,本件地震,これに伴う本件津波及び本件事故によって混乱が生じているにもかかわらず,
原子力緊急事態の発生を約50分足らずで的確に判
断している。
原災法15条1項の直ちにという文言は,法令上,強い時間的即時性を要求する場合に用いられる文言であるところ,主務大臣たる経済産業大臣は,平成23年3月11日午後5時35分頃に原子力緊急事態の発生を認めてから,僅か約7分後である同日午後5時42分頃には,内閣総理大臣に対し,原災法15条1項所定の報告等を行い,
原子力緊急事態宣言の上申を行っている
から,原子力緊急事態の発生を認めた後,直ちに内閣総理大臣に対して報告等をしたといえる。
また,原災法15条2項本文は,内閣総理大臣は,前項の規定による報告及び提出があったときは,直ちに,原子力緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(以下「原子力緊急事態宣言という。)をするものとする。」と規定している。これを本件についてみると,内閣総理大臣は,平成23年3月11日午後5時42分頃,経済産業大臣らから,原災法15条1項に規定する原子力緊急事態の発生について報告を受けるなどした際,
爆発や燃料溶融の
可能性を含めた福島第一原発の事故の状況及び今後の見通し並びに同原発の各号機の出力といった技術的な事項等や原災法及び関連法規の規定等について質問したが,保安院職員らは,明確な回答ができず,やり取りの途中で,内閣総理大臣は,
同日午後6時12分頃から開催された与野党党首会談に出席し
たため,上申手続は一旦中断した。しかし,その中断時間の間に経済産業大臣は内閣総理大臣からの質問に対する回答のために必要な調査や資料収集をするなど無駄な時間を発生させることはなく,結局,内閣総理大臣は,与野党党首会談終了(同日午後6時17分頃)後,遅くとも同日午後6時30分頃までに,原子力緊急事態宣言の発出を了承することができた。一度,原子力緊急事態宣言を発出すれば,様々な社会的影響が予想されるところであり,主務大臣が原子力緊急事態宣言を発出する権限を認めておらず,
飽くまでも主務大臣か
ら報告等を受けるなどした内閣総理大臣のみに原子力緊急事態宣言を発出する権限を認めていることからすれば,これを発出する内閣総理大臣自らが,原災法15条1項に基づく主務大臣からの報告の際に,主務大臣に対し,原子力緊急事態宣言を発出する前提となる事実関係の確認等を行うことをも法が当然予定している。したがって,内閣総理大臣が,主務大臣らに対し,必要な限度で上記のような事実関係の確認等を行うことも許容され,
かかる事実関係の
確認等を行い,上申手続が終了した時点をもって,原災法15条2項の前項の規定による報告及び提出があったものというべきである。本件では,平成23年3月11日午後5時42分頃から,
経済産業大臣らによる内閣総理大臣
に対する原災法15条1項の報告等が開始し,
内閣総理大臣が事実関係の確認
等を行った結果,
同日午後6時30分頃までに原子力緊急事態宣言の発出を了
承したというのであるから,その時点で上申手続が終了したといえ,同日午後6時30分頃に経済産業大臣らによる原災法15条1項の報告等が終了したことになる。そして,内閣総理大臣は,経済産業大臣らによる原災法15条1項の報告等が終了した後,原子力緊急事態宣言の発出の準備等を行い,同日午後7時3分に原子力緊急事態宣言を発出しているから,直ちに原子力緊急事態宣言を発出したといえる。
以上より,
内閣総理大臣は,
経済産業大臣から,
原災法15条1項に基づき,
原子力緊急事態の状況に関する必要な情報の報告
を受けるとともに,
原災法15条2項に掲げる事項の公示及び同条3項の規定
による指示の案の提出を受けてから,
直ちに原子力緊急事態宣言をしたものと
認められる。


内閣総理大臣による避難及び屋内待避指示(以下避難指示等という。)は適時かつ適切に行われたこと

原告らは,きめ細やかさに欠けた,不適切な避難指示と主張するのみで,その主張は全く具体性を欠く上,本件の個別の原告らとの関係でどのように損害を拡大させたのかも何ら明らかにされていない。そのため,原告らの前記主張は主張自体失当というべきである。


原災法は,内閣総理大臣に対し,避難指示等を発出する権限を付与しているものの,
避難指示等をするに当たって考慮すべき情報や避難指示等を発出
する要件は一義的に定めていない。また,原子力災害時には,人命保護の観点から,一刻も早く臨機応変に対策を採ることが必要な場合があるものの,具体的状況下で放射線被ばくの危険性を判断するには専門的知見が必要である。さらに,避難を含む防護対策は,単に線量のみではなく,対策の実現の可能性,実行することによって生じる危険,影響する人口規模及び低減されることとなる線量等の諸事情を総合考慮して臨機応変に決定されるべきものとされている。
そうすると,
原災法に基づく避難指示等の権限の行使は,
その性質上,内閣総理大臣の専門技術的裁量に委ねられており,内閣総理大臣には避難指示等の権限行使の時期及び指示の内容について広い裁量が認められているというべきである。

内閣総理大臣による避難指示等は,
EPZの目安を踏まえつつ状況の進展
に応じて適切に行われた。
福島第一原発から半径3km圏内の居住者等に対する避難指示及び半径10km圏内の居住者等に対する屋内退避の指示
内閣総理大臣は,
福島第一原発における全交流電源喪失及び非常用炉心
冷却装置注水不能という事態を受け,平成23年3月11日午後7時3分,原子力緊急事態宣言を発し,原災法16条1項に基づき,原災本部を設置した。そして,内閣総理大臣及び経済産業大臣らが,原子力安全委員会委員長,保安院次長及び東京電力幹部らに対し,原子炉の状況や避難範囲等について意見を求めたところ,
最悪の場合には炉心損傷もあり得るこ
と,それを避けるためにはベントを行う必要があること,避難範囲については原子力安全委員会が定めた防災指針でEPZの目安が半径10kmとなっているところ,IAEAの文書で示された予防的措置範囲(PAZ)が半径3kmとなっているためベントの実施を前提としても半径3kmを避難範囲とすれば十分であること,
最初から避難範囲を広くすると渋滞が
発生して取り急ぎ避難すべき半径3km圏内の住民が避難できなくなることなどの意見が述べられたほか,保安院次長からは,ベントを行うような事態は通常の避難訓練においても想定されているが,避難範囲は半径3kmとされているとの説明がされた。内閣総理大臣は,これらの意見や説明を踏まえ,福島第一原発から半径3km圏外への避難及び3ないし10km圏内における屋内退避の指示をすることを決定し,同日午後9時23分,各地方公共団体の長に対し,福島第一原発から半径3km圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び同原発から半径10km圏内の居住者等に対して屋内退避を行うことを指示した。
福島第一原発から半径10km圏内の居住者等に対する避難指示
内閣総理大臣は,平成23年3月12日午前5時30分頃,1号機における原子炉格納容器圧力が異常に上昇する等の事態を受け,
原子力安全委
員会委員長,原子力・保安院次長ら同席の下,関係閣僚らとともに,避難範囲について再度検討を行った。内閣総理大臣は,その際,管理された状況下でベントを実施するのであれば避難範囲を拡大する必要はないが,い
まだベントが実施できていないこと,
ベントを実施した場合でもEPZの
半径10kmに避難範囲を拡大すれば相当な事態にも対応できるとの意見が出されたことを踏まえ,避難範囲を半径10kmに拡大することを決め,同日午前5時44分,各地方公共団体の長に対し,福島第一原発から半径10km圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示した。
福島第一原発から半径20km圏内の居住者等に対する避難指示
引き続き1号機のベントが試みられていたところ,
平成23年3月12
日午後3時36分,1号機の原子炉建屋で爆発が発生した。経済産業大臣は,当時,1号機の原子炉を冷却するための淡水が枯渇していたにもかかわらず,1号機に海水注入が行われていなかったことから,同日午後5時55分,東京電力に対し,炉規法64条3項に基づく措置命令として,1号機への海水注入を命じた。その後,経済産業大臣,原子力規制委員会委員長,
保安院次長及び東京電力フェローらがその旨を内閣総理大臣に報告した。これについて,内閣総理大臣が原子炉内に海水を注入した場合の再臨界の可能性を尋ねたところ,同席していた原子力安全委員会委員長は,再臨界の可能性を否定しなかった。内閣総理大臣は,海水注入による再臨界の可能性があるとの発言があったと受け止め,関係閣僚らとともに,海水注入の是非を再度検討するとともに,避難範囲の拡大も検討し,同日午後3時36分に1号機原子炉建屋が爆発していること,
当該爆発の原因が
明らかでなかったことなどから,避難指示の範囲を半径20kmに拡大することを決め,同日午後6時25分,各地方公共団体の長に対し,福島第一原発から半径20km圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示した。
福島第一原発から半径20km以上30km圏内の居住者等に対する屋内退避の指示
関係閣僚らは,
平成23年3月14日午前11時1分頃3号機原子炉建
屋が爆発したこと,
同月15日午前6時頃4号機方向から衝撃音が発生し
たこと,
同日午前8時11分頃4号機原子炉建屋5階屋根付近に損傷が確
認されたこと,
同日午前9時38分同原子炉建屋3階北西付近で火災が発
生したことを受け,同日午前,避難範囲を拡大することについて検討を行った。
その中で,
避難指示の範囲を福島第一原発から半径30kmに拡大す
ることも議論されたが,
そのような拡大を実施すると新たに約15万人が
避難対象者となり避難に数日を要すること,
避難中に大量の放射性物質が
放出された場合は避難中の者が被ばくするリスクのあることなどが考慮され,
いつ放射性物質が大量放出するか分からない緊迫した状況下においては,屋内退避の方が有効であるとの結論に達した。そこで,内閣総理大臣は,同月15日午前11時,各地方公共団体の長に対し,福島第一原発から半径20km以上30km圏内の居住者等に対して屋内待避区域への退避を行うことを指示した。
以上のとおり,
内閣総理大臣は,
放射性物質の漏出が確認されておらず,
また,
放射性物質が大量に放出される原因となるベントや爆発等の発生する前の時点において,EPZの目安やPAZを前提としつつ,原子力安全委員会委員長や保安院次長の専門的な意見や説明を踏まえて,予防的に,避難及び屋内退避という防護対策の選択及びそれらの指示をする範囲について判断した上,それから平成23年3月15日までの間も,福島第一原発で起きた種々の事象について逐次報告を受けて,
状況の進展を認識す
る都度,関係閣僚と検討を行い,避難及び屋内退避を指示する範囲を拡大させていったものである。
このような内閣総理大臣による避難及び屋内退
避の指示は,災対法及び原災法の趣旨・目的に照らし,適時にかつ適切に行われたといえる。
8
本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性(原告らの主張の要旨)


本件では,被告国(文部科学省)は,本件事故が発生した平成23年3月11日以降,緊急時の対応として,SPEEDIを緊急時モードにし,まずは単位量放出を仮定した場合の予測計算を行い,
さらにその後も様々な仮定の数値
を放出源情報とした予測計算を行い,その計算結果という情報を得ていた。かかる計算結果は,
本来モニタリング指針で予定されていたものには及ばないも
のではあったが,少なくとも,原告らを含む住民らが避難の方向を判断する指針としては,十分有用なものであった。仮に被告国が,これらの情報を適時適切に公表していれば,原告らを含む住民は,道路事情に精通した地元ならではの判断で,
より適切な避難経路や避難方向を選ぶことが可能であったはずである。それにもかかわらず,被告国は,①本件事故直後の住民の避難(避難の有無や避難経路を決めること)
に関して極めて有益な情報であった単位量放出定
時計算結果を直ちに公表することを怠り,また,②逆推定計算結果及びそれにより得られた推定放出源情報に基づく被ばく線量の推定結果の性質(リアルタ
イムで算出されたものではないことなど)について十分な説明も怠っている。⑵

SPEEDIの利用がされるような緊急事態に至る原因として地震等の大規模災害は当然に想定されるところ,
このような大規模災害により外部電源を
喪失するなどして放出源情報等が得られなくなる事態は容易に想定されるから,災対法及び原災法,防災基本計画は,放出源情報等が得られる前の段階でも適宜得られる情報を避難指示等に利用することは当然に予定していたといえる。また,SPEEDIの予測結果は,いくつかの有力に想定し得る仮定を出すことが可能であるし,
実際にそのように絞り込みをした上で他省庁に提供
されているのであるから,いくつかの有力に想定し得る仮定から,最悪の予測結果を利用するという使い方も可能である。そして,このような予測結果を直ちに公表しないとしても,
SPEEDIの仕組みや特性を深く理解している専
門家等の協力を得て避難指示等に活かすべきであった。また,情報の確度が低く,避難指示等に利用することが難しい場合でも,専門家の協力を得て,飽くまで仮定であることや様々な可能性があることを明示し,
避難で混乱が生じそ
うな地域については適切な避難方法を地元自治体と協力して目処を立てた上で予測計算結果の公表方法を決めることも考えられた。さらに,被告国は,平成23年3月23日に逆推定結果について公表したものの,
屋内退避地域の居
住者等に対する自主避難要請をしたにとどまったが,
子供などの感受性の強い
者の存在や人の生活態様は様々であることに鑑みれば,
逆推定結果が24時間
屋外に居続けた場合の評価であったとしても,
避難指示等にあたり重視すべき
であった。以上より,被告国はSPEEDIの結果を利用したり,公表したりすることの不利益やそれにより混乱が生じた場合の責任を取ることを恐れるあまり,SPEEDIの結果を避難指示等に利用せず,十分な開示もしないまま先延ばしにした。



被告国は,平成23年3月23日に逆推定結果を公表したが,その際に逆推定結果がリアルタイムで算出されたものではなく再現計算されたものであることや通常のSPEEDIによる予測結果との違いについて十分な説明をせず,単にSPEEDIの試算として公表した。そのため,情報を受け取った住民は,
被告国がSPEEDIによる正確な予測計算の結果を得ていながらこれを隠ぺいした,
被ばくに関する重要な情報を隠しているのではないかという不
信感を持つことになった。また,文部科学省,保安院,安全委員会等が様々な仮定をして行った計算が開示されたのは,
本件事故から10日以上経過した時
期であり,公表方法も五月雨式であり,かえって住民の不安感や不信感を招いた。


以上のように,法は放出源情報が明らかになる前の段階でも,SPEEDIによる予測結果を避難指示等に用いることを予定しており,
被告国には予測結
果を用いた適時適切な避難指示を行うか,
あるいは十分な補足説明を付して情
報を公開することが可能であった。それにもかかわらず,被告国は予測結果を避難指示に用いず,情報の不開示ないし隠避を続け,十分な説明もないまま逆推定結果の公表を行うなどした結果,
国民に対してより一層の不信感と混乱を
招いた。このように,被告国のSPEEDI運用にかかる一連の行為には過失が認められる。
そして,
放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避は本件事故後の事実であるから,本件事故を発生させた原因ではないが,前述の不十分な避難指示や放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避という被告国の行為は,原告らに対し,健康被害の不安を増幅させ,不安に基づく避難を余儀なくさせ,ひいては平穏で安全な生活を奪うものであるから,本件事故の発生原因である規制権限の不行使などの他の責任原因とあいまって原告らの損害と相当因果関係を有するものである。

(被告国の主張の要旨)


原子力災害に関する情報としていかなる情報を提供するかは,
緊急事態応急
対策実施者の専門技術的裁量に委ねられていること
原子力災害に関する情報提供に関しては,内閣総理大臣が,原災法15条2項に基づき,原子力緊急事態宣言(原子力緊急事態が発生した旨及び同項各号に掲げる事項の公示)を行ったり,原災本部長が同法20条5項に基づき,原子力緊急事態宣言において公示された同法15条2項1号及び3号に掲げる事項について変更する公示を行ったりするとされている他にも,
指定行政機関
の長などの防災基本計画等に基づく緊急事態応急対策実施者(以下,単に緊急事態応急対策実施者という。)が,原災法26条1項1号及び2項(災対法51条)に基づき,緊急事態応急対策として,原子力災害に関する情報提供を行うものとされている。しかしながら,原災法26条1項1号及び2項(災対法51条)においては,いかなる時点でいかなる情報をいかなる範囲・方法で伝達すべきかという点については具体的に定められていない。また,防災基本計画(原子力災害対策編)においては,原災本部,現地対策本部,指定行政機関等が,
役割に応じて周辺住民のニーズを十分に把握し,
原子力災害の状況,
安否情報,医療機関などの情報,農林畜水産物の安全性の確認の状況等周辺住民に役立つ正確かつきめ細やかな情報を適切に提供するものとされているが,これによっても,提供すべき情報が具体的に定められているとはいい難い上,提供すべき時期や役割分担も明らかにされていない。さらに,災害時には,得られる情報,対応を迫られる時間,対応できる人員等様々な制約のある中で,必要性に応じた対応を迅速に行う必要がある上,
原子力災害に関する情報には
その有用性,信頼性において様々なものがあり,信頼性の乏しい情報を提供してしまうと,不要な混乱を招いたり,問合せへの対応事務に追われたりする結果,本来の目的である迅速かつ効果的な災害対応に支障を生ずるおそれがある。これらの事情を考慮すると,緊急事態応急対策実施者が,原災法26条1項1号及び2項(災対法51条)に基づいて,いかなる時期にいかなる情報を提供するかは,
発生した原子力緊急事態の内容を踏まえた迅速かつ専門的な判
断が必要となる。
したがって,
原災法26条1項1号及び2項
(災対法51条)
は,
この判断を緊急事態応急対策実施者の専門的な裁量に委ねたものと解される。


被告国のSPEEDIによる予測計算結果の取扱いは指針類に沿ったものであったこと
SPEEDIの取扱いは,
災対法及び原災法において定められたものではな
く,その具体的な運用方法は,原災マニュアル及びモニタリング指針に規定されていたところ,ERSSからの放出源情報が届いている場合には,当該情報等を用いた計算を行った予測図形を,
避難や屋内退避等の具体的防護対策に用
いることが予定されていた(ただし,この場合においても予測図形の公表が義務付けられていたわけではない。)ものの,放出源情報が得られていない場合の仮定の単位放出量等を前提にした計算を行った予測図形は,
監視を強化する
方位や場所,
モニタリングの項目等の緊急時モニタリング計画の策定を行うた
めに用いることが予定されていたにすぎず,
その公表を義務付ける定めも置か
れていなかった。本件事故発生後,ERSSからの放出源情報が入手できなくなったために,放出源情報を用いた計算を行うことが不可能になったのであり,そうである以上,SPEEDIを用いた予測図形を,避難や屋内退避等の具体的防護対策に用いないとしても,
それはSPEEDI本来の運用方法に適
ったものといえる。他方,被告国は,放出源情報が得られていない状態であっても,仮定の単位放出量等を前提にして計算を行った予測図形を,モニタリングの優先順位を判断するための参考資料として用いており,
当時の被告国の対
応は,原災マニュアル及びモニタリング指針に可能な限り沿ったものであった。そして,被告国は,福島第一原発の事故の進展に合わせ避難や屋内退避指示を出したのに引き続き,モニタリング結果などに基づき,自主的避難要請や屋内滞在勧告を出したり,
線量評価に基づいた避難指示等対象区域の指定等を
適切に行ったりしたのであって,
このようなSPEEDIの予測計算結果の取
扱いに何ら不当な点はない。



仮にSPEEDIによる予測計算結果を直ちに公表していた場合,公表によ
る弊害が生じた可能性も高かったこと
原告らは,単位量放出定時計算結果及び被告国(文部科学省)が仮定の放出源情報を入力して行ったSPEEDIの予測計算結果を早期に公表すべきであったと主張するが,
仮に仮定の単位放出量等を前提にした予測図形を直ちに
公表していた場合には,
信頼できない不確実な情報によってかえって様々な弊
害が生じた可能性が高い。また,SPEEDIの図は,飽くまでも特定の時点におけるものにすぎず,
風向きや風速等によって拡散予測の結果は随時変わっ
ていくものである。それにもかかわらず,これが公表された場合,多くの住民が一時的な風向きを踏まえたものであることを正解せずに図面の内容だけを過度に重視した結果として,
同心円状に出された避難指示に従わない住民が増
えたり,逆に,本来的に避難の必要がない距離に居住する住民が,風向きのみのデータで多量の放射性物質が飛来してくるかもしれないと考えてパニックに陥り,
多数の住民が一気に避難を開始するなどして交通機能の麻痺が更に深刻化したりするなど,
被告国による避難指示等の実効性が薄れるものになった
可能性もある。そして,このように十分な信頼性が担保されていない情報を当該情報が入手される都度公表していった場合,
その都度仮定した条件や結果に
ついて詳細な説明をしなければ,深刻化する被災地の医療崩壊,ガソリン・医薬品の枯渇,
被災地に悪影響を及ぼす関東圏でのガソリン・生活物資の買占め,交通機能の麻痺等が更に増大し,被災地で進行中の救命・救急活動へ悪影響を与えかねない危険性すらあった。さらに,拡散予測方向を知った住民が,拡散予測方向とは異なる方向に避難をしようとしたとしても,
数時間後には拡散予
測方向が変化してしまうため,
避難をする方向を適切に判断し得たとは考え難
い。しかも,本件地震や津波の影響により,被災地では道路の寸断などが多々あり,避難をする自動車で道路が大渋滞となっていたため,避難開始から数時間後に,拡散予測方向が変わったとの情報を知ったとしても,直ちに避難方向や目的地を変更し,
拡散予測方向と異なる方向への避難を行うことは極めて困
難であったと解される。したがって,SPEEDIによる予測計算結果を早期に公表していたとしても,これが有効適切な避難に結び付いたとはいえない。また,SPEEDIによる予測計算結果は風向きも含めて飽くまで予測であり,これを直ちに公表した場合には,これが一人歩きし,住民らが誤った避難をする可能性もあった。このように,単位放出量等を仮定しただけの拡散計算の結果には信頼性がないことや,気象予測についても不確実性が伴うため,プルームの放出方向を確実に予測することは不可能である。そして,本件事故の経験を踏まえた現在の原子力災害発生時における防護措置の考え方においては,原子力災害発生時に,予測に基づいて特定のプルームの方向を示すことは,かえって避難行動を混乱させ,被ばくの危険性を増大させることとなる。さらに,避難行動中に,避難先や避難経路を状況の変化に応じて変えるということは不可能であり,避難自体を非常に困難なものにする。と予測結果の公表について慎重な取扱いが求められることが指摘されている。以上によれば,被告国がSPEEDIの計算結果を早期に公表しなかったことが,著しく不合
理であるとは到底いえないから,
このことが国賠法上違法と評価されることは
ない。


単位量放出定時計算結果を活用していた場合,
それによる弊害が生じた可能
性が高かったこと
単位量放出定時計算結果は,特定の時点における予測計算であるため,風向きや風速に応じて毎時の結果が異なり得るものであり,
実際,
本件においても,
平成23年3月15日午前9時から同月16日午前7時までの間に単位量放出定時計算を行って,
同月15日午前9時から同日午前10時までの拡散予測
から同月16日午前7時から同日午前8時までの拡散予測を計算しているが,その拡散予測方向は数時間ごとに南南西,西,北西,北北西,北西,南,南東と目まぐるしく変化している。そのため,単位量放出定時計算結果だけでは,避難すべき方向や経路を特定することができないのであるから,被告国が,単位量放出定時計算結果を活用して,
毎時に結果が出る都度にそれに従った避難
指示等をするということになれば,
次々に異なる方向への避難情報をもたらさ
れた住民が混乱することは必至であるし,
避難途中でその都度避難の方向を変
えるというおよそ不合理で非現実的な避難情報を提供することになる。このよ
うに,単位量放出定時計算結果は,風向きや風速に応じて毎時異なり得るという性質を有しているのであるから,
被告国が避難指示等を行うに当たって単位
量放出定時計算結果を参考にしなかったことが,
著しく不合理であったとはい
えない。


以上のとおり,SPEEDIの具体的な運用方法は,原災マニュアル及びモニタリング指針において規定されていたところ,
被告国のSPEEDIによる
予測計算結果の取扱いは上記指針類に従ったものであり,
これに反するもので
はなかった。かえって,SPEEDIによる予測計算結果を早期に活用・公表していた場合には,
被告国による避難指示等の実効性が薄れたり被災地を更に
混乱させる可能性も少なからずあったのであるから,かかる情報を早期に活用・公表しなかったことには十分な合理性が認められ,適切な措置であったといえる。したがって,被告国が,かかる情報を早期に活用・公表しなかったことが,国賠法上違法と評価される余地はないというべきである。

9
相互保証
(原告らの主張の要旨)
外国人が国家賠償請求をするには,
その国籍国との間で相互の保証があること
が必要であるところ,相互の保証があるとは,当該外国人の本国において日本人が被害者として当該事案と同種の損害賠償請求をした場合に,国賠法所定の
要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められることをいうと解すべきである。
中国には中華人民共和国国家賠償法
(以下
中国国賠法
という。

があり,同法には相互の保証に関する規定も置かれている一方(同法40条2項),同法上,行政賠償の対象となる侵害態様は限定されている(同法3条及び4条)。しかし,中国法制においては,中国国賠法の対象とならない行政行為については一般私法の枠内で処理されることが予定されており,
そのような行政行
為については,中華人民共和国民法通則のほか,中華人民共和国権利侵害責任法(以下権利侵害責任法という。)の適用が検討されることとなる。そして,権利侵害責任法によれば,環境を汚染したことにより損害を生じさせた場合には,汚染者は権利侵害責任を負わなければならないとされ,また,損害賠償の範囲については,
財産権益の賠償を請求することができるほか,
人身権益を侵害し,
重大な精神的損害を生じさせた場合には,
その賠償を請求することができるとさ
れている。以上によれば,中国で日本人が被害者として本件と同種の損害賠償請求をした場合,仮に中国国賠法に基づく請求としては認められないとしても,権利侵害責任法に基づく請求としては,同法の規定上,我が国の国賠法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められる。したがって,我が国と中国との間には相互保証があるというべきである。
(被告国の主張の要旨)


国賠法6条は,相互保証主義を採用し,その立法趣旨は,我が国の国民に保護を与えない国の国民に我が国が積極的に保護を与える必要はないという衡平の観念に基づくものである。
我が国の国民が外国から受けた被害についてそ
の外国に賠償請求できないのに,
我が国が進んでその外国に属する者に賠償責
任を負う必要はなく,そうしたとしても,国際情勢上直ちに国際主義の精神に反するほど不合理とはいえないから,その限りにおいて,被害を受けた外国人の国家賠償請求権を制限する結果が生じたとしても,合理的な制約であって,それをもって違憲とはいえない。そして,相互保証の有無については,当該外国人が,その本国法に相互保証の規定があることの主張立証責任を負う。


中国においては,中国国賠法は,国家機関(国賠法における国家機関は,広く行政機関及び司法機関を指し,いわゆる地方政府の機関を含む。)及びその職員が,その職権の行使に当たって,国賠法規定の類型に該当する公民,法人及びその他の組織(以下公民等という。)の合法な権利を侵害する行為によって損害を生じさせた場合,上記公民等が賠償を請求する権利を取得し,国家機関が賠償の義務を負うことを規定するものである。
また,
中国国賠法は,
保護される合法な権利として人身権及び財産権だけを,
これらの権利を侵害す
る行為として有形力の行使を伴うような行為だけを規定した上,
賠償が認めら
れるものを行政賠償及び刑事賠償の二つに限定しており,行政行為一般を対象とするものとしていない。そして,中国国賠法の対象とならない行政行為について,中国法制においては,一般私法の枠内で処理されることが予定されており,
個別法令で特に国家賠償責任及び賠償手続が定められている場合
はそれによるとされている。
現に中国国賠法の3条及び4条並びに17条及び
18条をみても,
本件のような場合が中国国賠法による賠償の対象に含まれる
とは,条文の文言上認め難い。また,中国国賠法の対象とならない行政行為については,個別の法令がない限り,一般私法の枠内で処理されるが,本件のような場合が賠償の対象となるかについては,個別の法令上はもとより,一般私法上も全く明らかでない。そのため,仮に日本人が中国において,本件における原告らの主張と同様の請求原因事実をもって中国政府に対する損害賠償請求を行った場合,精神的苦痛に対する慰謝料という非財産的損害について,日本人の被害者に対してどのような要件の下に,
どのような賠償責任を負うかに
ついては何ら明らかにされていない。したがって,中国については,本件のような事案において相互保証が存在するとはいえない。
第2

被告東電の責任

1
民法709条及び民法717条1項に基づく請求の可否
(原告らの主張の要旨)


原賠法の趣旨・目的が民法709条及び同法717条1項の適用を排除するものでないこと
原賠法1条は,

この法律は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もつて被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。

と定め,原賠法が①被害者の保護と②原子力事業の健全な発展を目的とする法律であることを定めている。したがって,上記2つの目的が,原賠法を中心とする原子力損害賠償制度全体についての解釈基準となり,
原賠法3条1項が民法709条及び
同法717条1項の適用を排除するか否かという問題も,
この2つの目的に照
らして解釈されなければならない。
請求が認められる手段が多ければ多いほど,
請求を行う被害者の保護に資す
ることは明らかであるから,原賠法3条1項に基づく請求をするか,民法709条及び同法717条1項に基づく請求をするかは,
被害者の選択に委ねられ
るべき事項である。したがって,被害者の保護という目的との関係では,原賠法が民法上の損害賠償責任の規定を排除するという解釈は,
上記目的に資する
ものではない。原子力事業者において,原賠法3条1項の責任のほか,故意・過失によって発生させた損害について民法709条及び同法717条1項に基づく損害賠償責任が課されたとしても,
原子力事業の健全な発展を阻害する
ことにはならない。原賠法3条1項が規定する無過失責任が,原子力事業者の故意・過失の存否と関わりなく賠償を命じる規定にとどまると解するならば,原子力事業者が,損害発生の原因を究明することなく,単に法令に規定されているから賠償を行うという対応を採ることを可能にするが,
このような対
応が許容されれば,
原子力事業者が,
自ら当該原子力損害の発生原因を究明し,
将来における原子力損害の発生を防ぐための取組を放棄することにつながりかねず,
原子力事業の健全な発達を阻害することになりかねない。
したがって,
原子力事業の健全な発達という目的との関係についても,
原賠法が民法上の損
害賠償責任の規定を排除するという解釈は,上記目的に資するものではない。したがって,原賠法の趣旨・目的からして,民法709条及び同法717条1項の適用は排除されない。


被告東電の主張に対する反論
本訴訟では,
被告国が本件事故の原因等に関する詳細な主張をしているとこ
ろ,このような審理状況からすれば,被告東電の故意・過失について審理することは審理の遅延を招くことにはならない。また,原賠法が原子力事業者の無過失責任を定めたのは,被害者の損害回復を容易ならしめるものであるが,何をもって被害者の保護が図られたとするかは事案によって異なり,結局は被害者の選択に委ねられるべき問題である。本件においては,原告らは,本件事故によって重大な損害を被った被害者として,
請求の趣旨に掲げた損害の賠
償請求の実現と並んで,その前提としての本件事故の原因の究明,とりわけ被告ら両名の責任の有無及び程度が明らかにされることを求めている。原告らの
精神的損害は,賠償金が支払われれば回復するというものではなく,本件事故の発生に至る事実関係について十分な議論がされ,
事案の解明が図られること
が,原告らの受けた精神的被害を回復する重要な要素となる。したがって,原告らは,原賠法3条1項に基づく請求と並行して,民法709条及び同法717条1項に基づく請求をすることができる。

(被告東電の主張の要旨)


民法709条及び同法717条1項に基づく原子力損害の賠償請求は認められないこと
原賠法に基づく原子力損害賠償制度の体系を踏まえれば,
原賠法に基づく原
子力事業者の原子力損害の賠償責任は,
民法709条及び同法717条に比し
て,
単に責任要件を厳格化する
(無過失責任とする)
にとどまるものではなく,
被害者保護と原子力事業の健全な発達という2つの目的を達成するために,原
子力利用に伴う原子力損害に関して,
原賠法3条に基づき責任を負う原子力事
業者への責任集中,原子力事業者以外の者の責任免除,第三者への求償権の制限,損害賠償措置の強制,国の援助等も含めて,その全体として民法上の不法行為責任に対する特則として立法されているといえる。したがって,原子炉の運転等に起因する原子力損害に係る賠償責任については,
原賠法に基づいて規
律されることが想定されており,
民法上の不法行為に基づく請求は排除されて
いると解される。
また,
原告らにおいて民法709条及び同法717条1項に基づく請求が許されないとしても,
原賠法に基づいて原子力事業者の無過失責任を追及するこ
とができるから,原子力損害の賠償を請求する上で何らの不利益はなく,民法709条及び同法717条1項に基づく請求を許容すべき実益自体も全く存しない。


原告らの主張に対する反論
仮に原子力損害について民法709条及び同法717条1項に基づく請求が認められるとした場合に原賠法において用意されている賠償金の補てんとしての保険金や補償金の支払や政府による援助が受けられるかどうかについては現行法に定めがなく,
これらが受けられないという解釈も十分に成り立ち
得るところであるが,この場合,原子力事業者に十分な資力を確保させて被害者に対する適切な賠償を行わせようとする原賠法の理念が没却される。原賠法に基づく原子力損害賠償制度においては,
原子力事業の健全な発達
(同法1条)の観点から,同法5条において,原賠法3条の場合において,原子力事業者による求償権の行使ができる場合を第三者に故意がある場合に限るという一般私法の原則に対する大きな修正を図っているものであり,もし仮
に原告らが主張するように原子力損害に関して民法709条及び同法717条1項に基づく損害賠償請求が重ねて(被害者の選択により)許されるとすれば,かかる原賠法5条の定めの趣旨は没却されるのであり,同法5条の規定に照らしても,法はそのような事態を全く想定していないというべきである。このことからも,
原賠法3条の責任と民法709条及び同法717条1項の責任
は,請求権競合ではなく,法条競合の関係に立つと解されるのであり,原賠法は,原子力損害に係る原子力事業者の賠償責任について,私法上の一般不法行為の責任規定の適用を排除して,これに代わるそれ自体完結した,被害者保護にも十分顧慮した賠償制度を定めることによって,
被害者保護と原子力事業の
健全な発達の双方を図ろうとしたものと解される。


以上より,
原告らによる被告東電に対する民法709条及び同法717条1
項に基づく損害賠償請求は,本件事故による損害の賠償を求めるものであり,原賠法2条2項に規定される
原子力損害
の賠償を求めるものであるところ,
原子力損害の賠償については,
原賠法が原子力事業者に対して原子力損害に関
する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償請求に関する規定の特則として定められており,
民法上の債務不履行又は不法行為の責任発生要件に関
する規定は適用を排除されるから,
原告らは被告東電に対して民法上の不法行
為に基づいて損害賠償を求めることがそもそもできない。また,被告東電の故意・過失の存否に係る審理を行うことによって審理が長期化することは迅速な賠償の実現を阻害し,
本訴訟外の手続においては責任原因について争いが
ないことを前提として迅速に紛争解決が図られていることとも著しく均衡を欠く結果となる。

2
被告東電の過失
(原告らの主張の要旨)


被告東電が地震への安全対策を怠ったこと
被告東電は,
平成21年6月に総合資源エネルギー調査会の専門家会合にお
いて,岡村行信委員が連動地震について指摘をしたのであるから,速やかに安全確保に関わる全ての施設について連動地震を前提としたSsに合わせた耐震安全性を確保するようなバックチェック及びそれを前提とした耐震補強工事を行うべきであった。それにもかかわらず,被告東電は上記安全作業の実施を先送りして本件地震まで放置してきた。このように,被告東電は地震対策に関し,阪神淡路大震災や新潟中越沖地震という,我が国において現実に発生した災害の経験をもとに政府から指示された安全対策すら懈怠するという状況にありながら,漫然と原子力発電所を稼働させ続けたのである。


被告東電が福島第一原発において,O.P.+10mの津波発生の危険を認識し,津波への安全対策を怠ったこと
被告東電は,平成18年5月の溢水勉強会においてO.P.+10mの津波が到来した場合,非常用海水ポンプが機能を喪失し,炉心損傷に至る危険性があること,またO.P.+14mの津波が到来した場合,建屋への浸水で電源設備が機能を失い,非常用ディーゼル発電機,外部交流電源,直流電源全てが使えなくなって全電源喪失に至る危険性があることを認識していた。また,被告東電は,平成20年5月下旬から同年6月上旬頃までに,推進本部の長期評価に基づき津波評価技術で試算した結果,福島第一原発2号機付近でO.P.+9.3m,福島第一原発5号機付近でO.P.+10.2m,敷地南部でO.P.+15.7mといった想定波高の数値を得ていた(2008年推計)。したがって,被告東電は,平成18年5月の時点で福島第一原発にO.P.+10mを超える津波が襲来し,炉心損傷等の重大な事故が起こる可能性を予見し,遅くとも平成20年6月上旬には,最大でO.P.+15.7mの津波が襲来する危険を明確に予見し得た。しかし,十分な津波対策がとられることはなかった。



被告東電によるシビアアクシデント対策の懈怠
被告東電をはじめとする原子力事業者は,
新たな知見に基づく規制が導入さ
れると,既設炉の稼働率に深刻な影響が生じるほか,安全性に関する過去の主張を維持できず,訴訟などで不利になるといった恐れを抱いており,それを回避したいという動機から,安全対策の規制化に強く反対し,電事連を介して規制当局に働きかけていた。その結果,我が国では事故リスク低減に必要な規制の導入が進まず,
5層の深層防護の思想を満たさない点で我が国のシビアアク
シデント対策は世界水準から大きく遅れることになった。また,被告東電は,極めて危険な原子力施設を運営する事業者として,
たとえ科学的に詳細な予測
はできなくても,発生の可能性を否定できない危険な外部事象,特に地震や津波といった自然現象は,
リスクマネジメントの対象として取り扱うべき責務を
負っていた。しかし,被告東電は,例えば新知見で従来の想定を超える津波の可能性が示された後も,
堆積物調査等で科学的根拠を明確にするために時間を
かけたり,厳しい基準が採用されないよう規制当局に働きかけたりして,問題の先送りを図っていた。このように,被告東電が,シビアアクシデント対策の必要性を認識していたにもかかわらず対策を実施しなかったのは,シビアアク
シデントによって周辺住民の健康等に被害を与えることをリスクと捉えるのではなく,
シビアアクシデント対策を行うに当たって,
既設炉を停止させたり,
訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていたからである。


原子炉の事故がシビアアクシデントに至る場合には,
それによって生じる被
害はより深刻なものとなり,国民は生活の本拠となる住居や地域,ひいては平穏に生活し人格的に生存する権利を奪われるだけでなく,
状況次第ではその生
命・身体さえ危険にさらされることとなる。したがって,原子力発電事業を営む被告東電は,
原子炉の設置及び稼働に当たって極めて高度の安全性を確保す
ることが義務付けられており,不断に進歩・発展する現在の科学技術水準に照らし,
常に最高の知識や技術を用いて原子力に関わる事故の防止等について調査研究を尽くすとともに,その安全性の確保に疑念が生じた場合には,直ちに必要最大限の防止措置を講じなければならない立場にあった。
しかし,被告東電は,海外で全交流電源喪失規則が設けられるなどの対策が順次進んでおり,また国際原子力機関(IAEA)がシビアアクシデント対策強化のため5層の深層防護の必要を繰り返し指摘し,
さらには海外で原子力施
設内への浸水や外部事象による全交流電源喪失という過酷事故が生じていたにもかかわらず,
シビアアクシデント対策の対象を内部事象
(運転上のミス等)
に限定し,地震や津波等の外部事象,テロ等の人為的事象による長時間の全交流電源喪失の可能性を全く考慮しなかった。
また,
被告東電は,
平成18年
(遅
くとも平成20年)には,福島第一原発の設置時に想定していた規模を超える津波が発生し,
その結果全交流電源喪失に至る可能性があることを認識してい
ながら,配電盤のかさ上げや水密化,直流バッテリーの整備などといった容易にとれる対策を一切実施しなかった。さらに,被告東電は,遅くとも平成21年には福島第一原発周辺において同原発設置当時の知見を上回る規模の地震が発生する可能性を認識するとともに,
同年の社内会議において耐震補強工事
が必要な設備の存在を認識していたが,
実際には耐震補強工事の実施を先送り
にし,必要な措置をとらなかった。
このように,被告東電は,原子力発電事業を運営する事業者として,常に最悪の事態を想定しそれに対応できる対策を事前に整備しなければならない立場にあったにもかかわらず,津波対策を実施せず,社内で検討していた福島第一原発の耐震補強工事を先送りし,
津波の浸水や全交流電源喪失に対する事前
対策の整備を怠り,被害の拡大を招いた。
(被告東電の主張の要旨)


以下のとおり,本件事故の原因となった本件津波については,被告東電の想定をはるかに超えるものであり,
本件事故発生以前における科学的知見に照ら
してこれを予見することはできなかったから,地震・津波の専門家の想定をはるかに超える天災に起因して生じた損害について,被告東電に予見義務があり,これに基づく結果回避可能性が生じており,その違反があったと評価することはできないのであり,
慰謝料の増額を基礎付けるような故意と同視し得る
重過失が被告東電にあったということはできない。



津波の評価方法
日本における原子力発電の開始当時には,
一定の地点において将来いかなる
大きさ・規模の津波が到来し得るかを予測する手段があったわけではなく,既往の津波潮位記録や痕跡をもとに設計を行っていた。福島第一原発についても,その設置許可を得た昭和41年から昭和46年時点においては,過去に観測された最大の津波であるチリ地震津波の潮位をもとに,設計想定潮位をO.P.+3.122mとして原子炉が設計された。1970年代以降になると,コンピューター技術の発展等とともに過去に発生した津波を再現する数値シミュレーションが行われるようになり,その後,そうした数値シミュレーションは,将来発生する可能性のある津波の想定にも用いられるようになった。平成11年には,
原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化
のための検討を行うことを目的として,
土木学会原子力土木委員会内に津波評
価部会が設置され,それから約3年後の平成14年に,土木学会により,津波評価部会での検討結果を踏まえ,
それまでに培ってきた知見や技術進歩の成果
を集大成して,津波評価技術が刊行された。
津波評価技術は,
原子力発電所の安全設計における設計津波水位を設定する
手法を定めるものであり,科学的知見の進展等を踏まえ,既往津波の評価に加えて,プレート境界付近,日本海東縁部及び海域活断層に想定される地震に伴う津波(想定津波)の検討結果に基づいて設計津波水位を評価することを基本とし,①既往津波の再現性の確認と,②想定津波による設計津波水位の検討という2つの段階を経て評価を行うこととしている。
津波評価技術により導かれる設計想定津波は,
既往津波の痕跡高を上回る十
分な高さを有するものと考えられ,
平均的には既往津波の痕跡高の約2倍とな
っていることが確認されている。このように,特定の評価地点に影響を及ぼし得る波源モデルを特定して,
そこから発生することが想定される津波の数値シ
ミュレーションを行い,当該地点に到来する津波の水位を評価する手法を確定論(決定論)的津波評価手法といい,マイアミ論文で試行的に解析が行われたような確率論的津波評価手法とは区別される。
地震により発生する津波の場合,沿岸に到来した際の津波の大きさや範囲は,主として,①地震の規模,②震源域の水深,③震源と評価地点との位置関係,④海底地形,⑤津波が到来する沿岸部の海岸地形といった要素の影響を大きく受ける。そして,特定の発電所における津波評価のように,評価地点が定まっている場合の津波評価においては,④及び⑤の要素は所与であり,その余の①ないし③の要素を直接左右するのは波源であるため,結局,当該津波の規模を決定する最大の要素は当該津波の波源ということになる。したがって,津波評価を行うに当たっては,断層モデル(波源モデル)の設定が極めて重要となるのであり,断層モデル(波源モデル)が確定しなければ,安全設計を行う前提としての合理性を有する津波評価を行うことはできない。そして,断層モデル
(波源モデル)
は,
設計津波水位を設定する上での基礎となるものであり,
それに基づいて原子力発電所の具体的な安全設計・対策がされるものであることから,科学的・専門的観点から一定の合理性を備えている必要がある。もっとも,
同じ領域で過去に大きな津波を伴う地震が発生した記録が残って
いない場合などは,断層モデル(波源モデル)の設定は困難であり,津波評価技術においては,福島県沖海溝沿い領域には大きな地震・津波をもたらす波源の設定領域を設けておらず,当該領域における断層モデル(波源モデル)も設定していない。そして,本件津波が発生した平成23年3月11日当時においても,福島県沖海溝沿い領域に設定すべき断層モデル(波源モデル)は確定していなかった。


被告東電による津波への備えの対応について

福島県沖の波源モデル
日本海溝沿いの震源については,
沖合の日本海溝寄りの領域と陸寄りの領
域に分け,さらに陸寄りの領域をいくつかの震源域に分けて考えられてきた。一般に,日本の太平洋沿岸の大地震は数十年ないし150年に1回程度の頻度で同様の規模の地震が繰り返し発生すると考えられていたところ,こ
のうち特に福島県沖海溝沿い領域については,
下に沈み込むプレートが1億
年以上前のものと極めて古く,
冷たくて重いため,
上のプレートとの固着
(カ
ップリング)が弱いこと,固着があったとしても,沈み込みによる陸地(上のプレート)の短縮が生じていないことから,大きな歪み(地震エネルギーの蓄積)が生じる前に断層運動が生じて歪みが解消されると考えられていた。また,現に同領域においては過去にマグニチュード8クラスの地震が発生した記録もなかった。そのため,津波評価技術では,福島県沖海溝沿い領域は,大きな地震・津波をもたらす波源の設定領域として設定されず,福島県沖で発生する可能性のある地震の波源としては,
陸寄りの領域である塩屋
崎沖で発生した福島県東方沖地震のものが最大であると考えられていた。イ
平成6年3月の安全性評価結果報告
被告東電は,
前述のとおり福島第一原発各号機の設置許可申請時点では設
計想定津波をO.P.+3.122mと設定していたが,平成5年7月に北海道南西沖地震が発生したことを受けて,被告国は,電気事業者に対し津波安全性評価の実施を指示した。これを受けて,被告東電は,文献調査による既往津波の抽出や簡易予測方式により津波水位の予測等を実施し,同方式に
よる津波水位が相対的に大きい津波について数値解析を行った。その結果,福島第一原発における最大の津波は昭和35年に発生したチリ地震津波であり,同津波は慶長三陸地震津波よりも大きかったこと,チリ地震津波等を対象としたシミュレーションによれば,
福島第一原発の護岸前面での最大水
位上昇量は約2.1m程度であり,朔望平均満潮位時(O.P.+1.359m)に津波が来ても最高水位はO.P.+3.5m程度にしかならないことを確認した。
また,
文献調査の結果,
阿部壽氏らが平成2年に発表した
仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定(丙A53)等によれば,貞観津波は,仙台平野において慶長三陸津波を上回らなかったと考えられることが確認された。これらの調査結果に基づき,被告東電は,翌平成6年3月に被告国に対し,津波に係る安全性は確保されているとする安全性評価結果報告書(丙A29)を提出した。同報告書の内容については,
同年6月に開催された通商産業省原子力発電技術顧問会において被告国の了承を得ている。

1回目の津波想定見直し
その後,平成14年2月に,土木学会より津波評価技術が刊行され,これを受けて,被告東電は,同技術に基づき塩屋崎沖地震の波源モデルを用いて福島第一原発地点における設計想定津波の評価を行ったところ,
設計想定津
波として,O.P.+5.4ないし5.7mとの評価結果を得た。被告東電は,この評価結果に基づき,O.P.+4mの高さに位置する海水系ポンプ用モータのかさ上げや建屋貫通部等の浸水防止対策等の対策を行った。

推進本部による長期評価の公表
推進本部は,平成14年7月,長期評価を公表し,その中で,①三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)が三陸沖で1611年(慶長16年),1896年(明治29年),房総沖で1677年(延宝5年)に発生していること,②これらの地震が同じ場所で繰り返し発生しているとは言い難いため,固有地震としては扱わずに,同様の地震が三陸沖北部海溝寄りから房総沖海溝寄りにかけてどこでも発生する可能性があることとすること,
③このような大地震の発生頻度は上記①のとおり過去400年間に3回発生していることから,
この領域全体では133年に1回の割
合で発生すると推定すること,④ポアソン過程を適用すると,この領域全体では今後30年以内の発生確率は20%程度,
今後50年以内の発生確率は
30%程度と推定されることを指摘した。しかし,かかる長期評価は,単に三陸沖北部から房総沖までの海溝寄りをまとめて,
同範囲においてマグニチ
ュード8クラスの地震が発生する可能性を否定することができないとしたものにとどまり,かつ,その点についての具体的根拠が示されているものではなかった。また,地震発生の確率についても,北側の三陸沖も南側の房総沖も含めて全体で過去400年に3回発生しているから400÷3=133年に1度発生する,特定の領域で言えば,発生する地震の断層の長さが200kmとすると全体の領域の長さ(800km)の4分の1であるから,133年に1度×1/4=530年に1度発生するとしているにとどまるものであった。
この長期評価を公表した推進本部も,
翌年3月に行った当該長期評価の信
頼性に関する自己評価において,
評価に用いられたデータは量および質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差があると前置きし,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)の項目については,発生領域及び発生確率」の各評価の信頼度をいずれもC(下から2番目)としていた。政府の中枢機関である中央防災会議も,
長期評価の公表から約3年半が経過した
平成18年1月に公表した日本海溝・千島海溝報告書において,具体的な防災対象の検討に当たって,長期評価の見解を採用しておらず,防災的な視点から対象地震を選定するという方針の下,
福島県沖海溝沿い領域における地
震は,防災対策の検討対象とする地震とは扱われなかった。さらに,長期評価の見解による影響を直接受ける可能性がある福島県も,
津波想定において
長期評価の見解を採用していない。
いずれにしても,長期評価は,特定の場所での具体的な波長,方向,津波の高さの検討を伴った津波について,一切言及していない。
また,この長期評価が発生可能性を否定できないとしたのも,飽くまで個別の領域における地震,それもマグニチュード8クラスの地震であり,本件地震のようにそれぞれの領域をまたがり,かつ,それぞれが連動して発生するようなマグニチュード9.0,津波マグニチュード9.1クラスの巨大地震・巨大津波を想定していたものではない。

耐震バックチェックへの対応と長期評価についての検討
保安院による耐震バックチェックの指示
保安院は,平成18年9月に耐震設計審査指針が改訂されると,原子力事業者に対し原子力発電所の耐震バックチェックを指示し,
バックチェッ
クの基本的な考え方や具体的評価方法,確認基準を示した新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価及び確認に当たっての基本的な考え方並びに評価手法及び確認基準について(以下バックチェックルールという。)を公表した。この耐震バックチェックは,既設発電用原子炉施設については従来の安全審査等によって耐震安全性は十分に確保されていることを前提に,
安全性に対する信頼の一層の向上
を図ることを目的として指示されたものと位置付けられている。
バックチ
ェックルールにおいては,津波に対する安全性の評価方法として,津波の評価に当たって,既往の津波の発生状況,活断層の分布状況,最新の知見等を考慮して,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性のある津波を想定し,数値シミュレーションにより評価することを基本とするとし,その具体的な評価方法としては,津波評価技術と同様の手法により行うこととなっていた。被告東電は,これまで一貫してかかる津波評価技術に基づき津波対策を講じていたが,
耐震バックチェックの指示
時点においても,
なお福島県沖海溝沿い領域に関する津波評価技術の考え
方を覆すような新たな知見が判明したわけではなかった。他方で,バックチェックルールにおいては,
津波評価技術と同様の方法で津波評価を行う
に当たり,最新の知見等を考慮することが求められていた。被告東電は,平成19年6月には福島県の福島県沿岸津波浸水想定検討委員会が用いた波源モデルを,翌平成20年3月には茨城県の茨城沿岸津波浸水想定検討委員会が用いた波源モデルをそれぞれ入手し,福島第一原発立地点における設計想定津波の評価を実施した。しかし,その結果はいずれもO.P.+4.1mないし5m程度となり,福島第一原発の設計想定津波高を上回らないことを確認した。同様に,被告東電は,このバックチェックの中で,日本海溝・千島海溝調査会が平成17年6月に公表した波源モデルに基づく津波評価も行ったが,
その結果は最大でもO.
P.
+4.
8m(福島第一原発6号機の取水ポンプ位置)となり,やはり設計想定津波高を上回るものではなかった。以上に加えて,津波評価技術におけるパラメータスタディも考慮すれば,
福島第一原発の津波に対する安全性につ
いては,本件事故当時,十分な裕度を持って確保されていると考えられていたものである。
明治三陸沖地震の波源モデルを用いた津波の試計算
被告東電が,平成20年頃に,専門家に対し,推進本部による前記長期評価の見解をバックチェックの中でどのように取り扱うべきか意見を求めたところ,現時点で設計事象として扱うかどうかは難しい問題と述べる専門家もいる一方で,
福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないとする意見もあり,専門家の間でも意見が定まった状況ではなかった。福島県沖の海溝沿いでは,これまで大きな地震がなく,これは相対するプレートの固着(カップリング)が弱く,大きな地震を発生させるような歪みが生ずる前にずれが生じることから,大きなエネルギーが蓄積しないためとも考えられていた。このため,福島県沖の海溝沿いの津波評価をするために必要となる波源モデルは定まっていない状況にあったが,平成20年1月ないし4月頃に,バックチェック報告書の中でこのような長期評価の見解をどのように扱うか検討するための内部検討の一環として,長期評価の見解のうち,福島県沿岸に最も厳しくなる明治三陸地震の波源モデルを福島県沖海溝沿い領域にそのまま用いて津波高の試みの計算を行った。その結果,(ア)福島第一原発正面から遡上した津波は,1ないし4号機の取水ポンプ付近でO.P.+8.4ないし9.3m,5号機及び6号機の取水ポンプ付近でO.P.+10.2mに至るものの,敷地高までは遡上しないこと,(イ)敷地北側ないし南側から遡上した津波は,5号機及び6号機の各建屋の北側敷地でO.P.+13.7m,1ないし4号機の各建屋の南側敷地でO.P.+15.7mに至るとの結果を得た。
長期評価及び試計算の結果を踏まえた対応
被告東電としては,上記のような結果が得られたこと,当該時点においても福島県沖の海溝沿い領域に関する土木学会の津波評価技術の考え方を覆すような新たな知見が判明したわけではなかったこと,
同領域におけ
る津波の波源として想定すべき波源モデルも定まっていないこと等を踏まえつつ,
より一層の安全性の強化への取組は不断に進めるべきであると
の認識の下に,長期評価において,日本海溝沿いの地震について津波評価技術とは異なる見解が述べられているのであれば,
それを安全性評価にお
いてどのように取り扱うべきかを検討すべきであると考え,
大きな地震は
起きないとされてきた福島県沖の日本海溝沿いも含む太平洋側津波地震の扱いについては土木学会の専門家に検討を依頼し,
明確にルール化をし
た上で対応することが合理的であると考えるに至った。そして,推進本部の見解に基づき津波評価をするための具体的な波源モデルの策定について,土木学会に審議を依頼することとし,本件事故の約1年9か月前である平成21年6月に,他の電気事業者10社とともに,土木学会原子力土木委員会津波評価部会に対し,
電力共通研究としてこの点に関する審議を
依頼した。被告東電は,この依頼に先立つ平成20年10月頃に,長期評価の見解に対する対処としてこのような方針で問題ないかについて複数の専門家に対する確認を行ったが,
いずれの専門家からも特に否定的な意
見はなかった。このように,バックチェックルールが津波評価技術と同様の津波評価手法を採用していることも踏まえ,
長期評価の見解を設計津波
水位として具体的に考慮するためには,
まずは福島県沖海溝沿い領域にお
ける波源モデルの設定に係る専門的・科学的な検証が必要であった。この土木学会原子力土木委員会津波評価部会による審議結果が出る時期については,平成24年秋頃と予定されていたが,被告東電は,福島第一原発の安全性をより一層強化するため,また,土木学会原子力土木委員会津波評価部会による検討の結果,
仮に対策が必要となった場合に速やかにその
対策に着手できるように,平成20年7月以降,実際に屋外非常用海水ポンプに用いられる電動機の水密化(水密構造の電動機開発)について電動機メーカーを交えて検討を開始していた。また,同年12月には,水密構造電動機の開発の研究を効率よく進めるため,
他の原子力事業者に対して
共同研究の実施を呼びかけていた。さらに,平成22年8月には,この点に関する被告東電内部の関連部署間での情報交換をより緊密かつ有機的にとれるよう,社内に福島地点津波対策ワーキングを立ち上げて,土木学会原子力土木委員会津波評価部会の審議が終わる平成24年秋頃に結論を出すことを目標として各部署での検討を進めていた。しかし,その結論が得られる前に,本件事故が発生するに至ったものである。
貞観津波に関する佐竹論文を踏まえた対応
本件事故の約2年前である平成21年4月には,
佐竹健治
(以下
佐竹
という。)教授らが貞観津波に関して石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション(以下佐竹論文という。丙A55)
を発表した。貞観津波については,それまで詳細な発生位置や発生規模については明らかになっておらず,波源モデルも特定されていなかったが,佐竹論文では,当時の最新の調査の結果,石巻平野及び仙台平野(すなわち福島県沿岸以北)における津波堆積物の位置が明らかになったことから,かかる知見に基づき,貞観津波の発生位置及び規模を一定程度推定するとともに,津波堆積物の分布と10の波源モデルとを比較して,前者を再現するような波源モデルの設定を探索しているものであった。
被告東電は,
この佐竹論文が正式に公表される前の平成20年10月に
は,
既に佐竹教授より投稿準備中の論文の提供を受けて検討を開始していたところ,同論文では,上記のような検討の結果として,津波堆積物の分布と整合する2つの波源モデル案(モデル8とモデル10)が示されていたものの,その確定には至っておらず,確定のためには,さらに仙台平野以南の福島県沿岸や茨城県沿岸の津波堆積物調査を行うことが必要であるとされていた。また,このような結論は翌年4月に正式に発表された論文の中でも維持されていた。そこで,被告東電は,翌平成21年に,貞観津波の波源モデルの検討について,上記長期評価の見解の評価とともに,土木学会に審議を依頼するとともに,福島第一,福島第二原発への貞観地震による津波の影響の有無を調査するため,
福島県相馬市以南の福島県沿
岸5箇所における津波堆積物調査を実施した。調査の結果,福島第一原発の位置する南部
(富岡ないしいわき)
では津波堆積物を確認できなかった。
被告東電は,
このような調査結果を本件事故直前の平成23年1月に論文
投稿しており,
その内容については同年5月に開催される予定の日本地球
惑星科学連合大会における発表を予定していたが,その矢先に,本件事故の発生に至ったものである。

2回目の津波想定見直し
以上と並行して,平成21年2月には,被告東電において,最新の海底地形データ等をもとに津波評価技術に基づく津波評価を行ったところ,P.O.
+5.4ないし6.1mとの評価結果を得た。そこで,被告東電は,かかる評価結果に基づき,ポンプ用モータのシール処理対策等を講じている。

まとめ
以上のとおり,被告東電は,我が国において定着し,国際的にも認められている津波評価技術に基づいて,福島第一原発の津波対策を講じるとともに,最新の科学的・専門的知見についても評価・検討の上で必要な対策を講じてきたものであり,本件事故以前の科学的知見を踏まえれば,客観的・合理的な根拠に基づき,福島第一原発の所在地において,O.P.+10mを超えるような津波が発生し,
福島第一原発が全電源喪失に至るというような
事態を予見することはできなかった。


結果回避義務について
原子力発電所の安全設計上の津波対策については,
土木学会の津波評価部会
が策定した津波評価技術に基づいて,一定の想定水位を定めて,当該想定水位までの安全性を確保するという考え方(確定論的安全評価)に基づくものであり,本件事故発生以前の状況の下で,確定論に基づく原子力発電所の津波対策が講じられることについては,
国による原子力安全法規制上の取扱いを含めて
広く受け入れられていた安全確保の考え方であり,被告東電においても,確定論に基づく想定津波に対して福島第一原発の安全を絶対的に確保するという考え方で津波対策を講じていた。福島第一原発における設計想定津波は,原子炉設置許可を得た昭和41年の時点において,
過去に観測された最大の津波で
あるチリ地震津波の潮位をもとに設計想定潮位をO.P.+3.122mと定められており,その後,平成14年には,土木学会により津波評価技術が公表され,
同手法により導かれる設計想定津波は既往最大津波の痕跡高の約2倍になることが確認されている。そして,被告東電が,かかる津波評価技術により福島第一原発における津波水位を計算したところ,O.P.+5.4ないし5.7mとなり,
チリ地震津波の潮位に基づく福島第一原発の既往津波を上回るも
のであったことから,被告東電は,この評価結果に基づき,O.P.+4mの高さに位置する海水系ポンプ用モータのかさ上げや建屋貫通部等の浸水防止対策等の対策を行った。さらに,平成21年2月に,被告東電において最新の海底地形データ等を踏まえて津波評価技術に基づく津波評価を行ったところ,O.P.+5.4ないし6.1mとの評価結果を得たことから,被告東電はこの結果に基づきポンプ用モータのシール処理対策等を講じた。他方で,平成14年に公表された長期評価の見解は,
この分野における確立され広く受け入れら
れた科学的知見になっていたものではなく,
むしろ多数の地震学者は長期評価
の見解に消極的な見解を有していた。
また,本件事故前には,敷地へ浸水することを前提とした対策を講じるという発想自体が存在せず,
2008年推計に基づいて結果回避の対策を講じてい
たとしても,本件事故を回避し得なかった。
以上より,被告東電は,長期評価の見解の公表後においても,福島第一原発の敷地に浸水することがあり得ることを想定して,
本件事故という結果を回避
すべき事前の措置を講ずるべき法的義務を負っていたということはできない。また,本件事故発生以前の津波に対する安全確保の考え方は,確定論に基づくものであり,この確定論による安全確保の思想は確立され,広く受け入れられている状況にあった。このため,本件事故発生当時においては,専門家が議論の上で策定され,
国際的にも評価されていた津波評価技術という科学的知見に
基づいて,
確定論に基づいて定められた想定津波に対する安全対策を講ずることを超えて,
確定論の過程で想定されなかった津波についての安全確保措置を
講ずるべきであるとは考えられておらず,少なくとも,そのような行動規範が法的な行為規範にまで高められる基礎事情は存在せず,
確定論に基づく想定津
波を超える事態を想定しての結果回避義務が法律上成立していたとはいえない。


結果回避措置について
原告らが主張する水密化に係る対策及び配電盤のかさ上げは,
本件事故後に
得られた知見に基づくものであり,
本件事故前の特に津波よりも地震対策が急
務とされていた状況や津波対策に係る基本思想を前提とすれば,
およそ現実味
のないものであった。
そもそもタービン建屋等の水密化を検討するに当たっては,
いかなる浸水高
の津波を想定するかを決める必要があるところ,
仮に2008年推計に基づい
て検討しても,福島第一原発の1号機ないし6号機においてはいずれも,その前面からは敷地に遡上しないという結果であり,また,敷地南側からの浸水の影響を受けるとしても,その浸水の程度は,実際に発生した本件津波の浸水の程度は,実際に発生した本件津波による浸水の程度を大きく下回るものであり,2008年推計に基づいてタービン建屋等の水密化を図っていたとしても,本件事故を回避することができたとはいえない。また,実際に発生した津波は,福島第一原発1号機ないし4号機の前面(海側)から大きく遡上している点で2008年推計の想定津波と大きく異なっており,
圧倒的な水流であっ
たことに照らせば,仮にタービン建屋等の水密化が図られていたとしても,海側に位置するタービン建屋については津波の越流に伴い敷地上の車両やタンク等の大きな構造物が漂流物として流され,建屋に衝突し,水密化が維持されないことも想定され得る。このように,仮に2008年推計に基づく水密化を図っていたとしても本件事故という結果を回避することは困難であった。さら
に,原告らは,結果回避措置として,配電盤のかさ上げを挙げるが,その場合,これらの設備を置く施設の電気設備とO.P.+10mにある建屋との間のケーブル等は複雑化することが想定されるところ,本件地震及び本件津波により,これらの施設やケーブル等が破損したり,流出したりし,ケーブル等については不具合箇所の特定が困難となり復旧できない可能性も十分にあった。水密化に係る対策及び配電盤のかさ上げの準備期間についても,
土木学会に
おいて,
有史以来大きな津波地震が発生していない福島県沖海溝沿い領域に関する長期評価の見解については平成15年以降,確率論的津波評価において取り扱うこととしており,当時の科学的知見に照らし,このような対応が不合理であると断ずることはできない。
そして,
このような平成15年頃の地震・
津波の専門家の認識状況等を踏まえると,
被告東力が,
仮に
長期評価の見解
に基づく確定論的な津波想定をすることを社内的に意思決定するとしても,か
かる意思決定をするまでには相応の時間を要し,
我が国の原子力発電所の津波
評価手法の唯一の基準であった津波評価技術においては,
福島県沖海溝沿いの
領域においては波源を設定していなかったことから,
仮にこの領域に波源を設
定すべきということであれば,土木学会に審議を委託して,想定すべき波源モデルの設定等を含めて,専門家に知見の整理を依頼することが合理的であり,実際の予定審議期間を踏まえれば,
かかる検討によって波源モデルを確定する
ためには,少なくとも3年半程度は要するものと考えられる。その上で,土木学会における専門家の見解として,福島県沖海溝沿いの領域について長期評価の見解に基づく波源を想定することが相当であるとの考え方が整理され,その場合における波源モデルが定められ,これに基づきO.P.+10mを超える津波を想定するということになれば,
福島第一原発の安全確保のための基
本的設計方針の変更に当たると考えられるため,
炉規法に基づく福島第一原発
の原子炉設置許可の変更申請及び変更許可が必要となると考えられ,新しい津
波対策の具体的な内容の決定をするとともに,
かかる行政庁の審査及び原子力
安全委員会の審議の手続に相応の時間を要することが見込まれる。特に,新潟県中越沖地震以降,同地震の発生を受けた保安院の指示により更なる調査・解析が全国のプラントで同時に実施されることになり,
技術者が全国的に不足し
たことなどから,
耐震バックチェックのスケジュールは大幅に遅延することが
予想される中で,かかる津波想定の見直しについて,原子力安全委員会等の確認に際してどのような説明・資料等が要求され,いかなる審議がどの程度の時間をかけて行われるかについては不明であり,
通常のスケジュールで進行した
とはいえない。さらに,かかる津波想定の見直しは,中央防災会議や福島県が想定している防災上の津波とも異なっていることから,
本件事故が発生する以
前の時点においては,
その合理性・必要性が議論の対象となることが予想され,
福島県その他の自治体との事前の説明・協議においても相応の時間を要することが見込まれ,
さらに福島第一原発周辺の自治体への影響の有無についても検
討の上で,対策内容についての了解を得ることが必要になる。そして,これらの国及び自治体と調整の上で最終的に意思決定をしてから原告らが主張する各対策を施工完了するまでは,かなりの期間が必要である。以上のような手続的な面に加えて,耐震安全性についても,十分な検討期間が必要であり,配電盤等の重要機器の高所配置,高台設置といった対策を講じるためには,各号機の定期点検のタイミングを利用しながら,
場合によっては配線接続等のために
原子炉を一旦停止させての工事も必要となるところ,
福島第一原発において必
要となる工事は津波対策に限られるものではなく,平成20年5月時点では,新潟県中越沖地震の影響によって地震対策が最優先事項となっており,長期評
価の見解に基づく津波の現実的発生可能性やその予兆があるなどの指摘がなされている状況にない中で,
こうした地震対策を差し置いて津波対策を優先さ
せるというのは現実的に困難であった。したがって,このような本件事故以前における科学的知見の状況及び安全確保の考え方によれば,
平成18年から本
件事故が発生した平成23年3月11日までの約5年の間に原告らが主張する各対策に係る対応を完了できたとはいえない。


以上より,被告東電に過失はない。また,本件事故に至る経過において被告東電に故意と同視すべき重過失があるとはいえないから,
原告らが本訴訟にお
いて求めている精神的損害の賠償に関して被告東電の重過失が影響するということはない。

第3

損害論(総論)

1
精神的損害
(原告らの主張の要旨)


被侵害利益の内容及び根拠

被ばくの不安にさらされない平穏で安全な生活を営む権利
生命・身体の安全という最も重要な利益を守るため,被ばくの心配がない安全な環境下で平穏な生活を営む権利は恐怖と欠乏から免がれ,平和のうちに生存する権利(憲法前文)を標榜した憲法上の基本理念を前提とし,生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利
(憲法13条後段)として,
憲法上保障された権利である。本件事故により,極めて広範な地域が深刻な被害を受けたが,原告らを含む多くの住民らは,自身や家族らがどの程度の被ばくをしたのか分からないこと,
低線量被ばくであっても健康被害が発生
する危険性があること,
健康被害がいつ発生するかも分からないことなどか
ら,
被ばくによる健康被害に対する恐怖や不安を抱えたまま生きていかなければならなくなった。
避難したとしても被ばくによる今後の健康への恐怖や
不安を打ち消すことはできず,それらの恐怖や不安は一生続くことになる。他方,避難せずに被災地にとどまっている者は,現在もなお,日々放射性物質が放つ放射線にさらされており,
その健康被害への恐怖や不安は甚大であ
る。

住み慣れた環境の中で居住することを自らの意思で選択する権利
自己の欲する地に住所又は居所を定め,
それを変更する自由及び自己の意
思に反して居住地を変更されることのない自由は,居住・移転の自由として憲法上保障されている権利である(憲法22条1項)。この居住・移転の自由は,単に経済的自由としての性格のみならず,自己の移動したいところに移動できるという人身の自由としての側面を有する。また,自己の選択するところに従い様々な自然と人とに接しコミュニケーションを取ることは,個
人の人格形成・精神的活動にとって決定的な重要性を持つことから,精神的自由としての性格も有している。
原告らが主張する住み慣れた環境の中で居
住することを自ら選択する権利は,この憲法上の居住・移転の自由に基づくものである。原告らは,本件事故以前はそれぞれの住み慣れた地域に住所又は居所を定めて生活を営んでいたにもかかわらず,
避難指示等対象区域に居
住していた者は,本件事故により強制的に避難を強いられた。また,避難指示等対象区域外の地域に居住していた者は,
被ばくに関する様々な情報が飛
び交う中で,
被ばくによる健康被害の危険や被ばくに対する不安を抱えた生
活から逃れるために別の地域に避難するか,
被ばくの危険があっても慣れ親
しんだ地域での生活を続けるかという選択を強いられた。
避難者が避難しな
ければならなくなったことはもちろん,避難しなかった者にとっても,住みたい場所を自由な意思で選択できず,避難するか否かの選択を迫られたこと自体が,住み慣れた環境に住むことを自ら選択する権利の侵害といえる。

住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤で社会生活や家庭生活を享受する権利
地域共同体は,経済的,財産的側面から社会的,文化的,精神的側面まで,また,個人的・私的利益の側面から集団的利益や公的利益の側面まで,広範で多面的かつ複合的な役割・機能を果たしており,地域住民が地域共同体から得られる地域生活利益は,①生活費代替機能(コメ,野菜,飲料水などの自給・交換),②相互扶助・共助・福祉機能(複数世代家族内,集落協働体内で互いに面倒を見合い,
防災・防犯を担い合い,
福祉的役割を果たすこと)

③行政代替・補完機能(旧村落から維持されてきた区を中心とした活動など,清掃やまちづくりへの参加),④人格発展機能(隣近所や地域の交流,集会や祭りなどの行事への参加による人格形成と発展などの機会),⑤環境保全・自然維持機能(水田や畑の利用と維持,里山の維持と管理など)などがあり,地域共同体が果たすこれらの役割・機能の全体が法的利益であり,地域生活享受権とも称すべき権利である。そして,原告らは,本件事故前,住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤で社会生活や家庭生活を営み,地域共同体から様々な生活利益を享受してきた。しかし,原告らは,本件事故により,地域住民だけでなく,家族という最小単位の生活基盤さえ引き裂かれ,地域共同体から様々な利益を享受できなくなった。


住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤の中で成長発達し,
自己実現を
図る権利
人は生を受けてから死に至るまで,自己実現のために,あらゆる発達可能性を持ちながら生きていくものであり,このような人格発達権については,基本的人権としては,居住・移転・職業選択の自由(憲法22条1項),財産権(憲法29条1項),生存権(憲法25条1項),家族生活における個人の尊重(憲法24条),教育を受ける権利(憲法26条1項),勤労の権利(憲法27条),更には児童の権利に関する条約6条2項,9条1項本文,24条,
28条によって保障される各権利として位置付けることが可能である。原告らは,本件事故により,この人格発達権としての住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤の中で成長発達し,
自己実現を図る権利を侵害され
た。

被侵害利益を包括的に把握する必要があること
上記の権利の全てあるいはその多くの部分が同時に侵害されてしまうと,個々の権利が制約されるだけでなく,そもそも日常生活が成り立たなくなり,日常生活そのものに深刻な支障を生じてしまう。人が人として生きる基本的な権利が総じて侵害されているものであり,
様々な法益が複合的かつ相
互に関連し,影響し合っていることが考慮されなければならず,被侵害利益を切り離して分類することは不可能であり,適切でもない。したがって,本件事故前の日常生活,
社会生活を丸ごと失ったことを権利侵害として捉える
ためには,侵害された様々な権利を従来のように個別に分析し,評価することだけでは実態にそぐわない。そこで,住み慣れた環境で平穏で安全な生活ができなくなったことにより侵害された様々な権利を総体的に捉える必要があり,原告らが主張する包括的生活利益としての平穏生活権とは,このような観点から,上記の権利を総体的に捉えたものである。


包括的生活利益としての平穏生活権侵害の性質・特徴
上記のとおり,包括的生活利益としての平穏生活権は,生命,身体,健康,憲法上の様々な基本的人権等に基づく権利,
人間らしい生存を支える権利が
多面的複合的に重なり合い結び付いた権利であり,
その人の生存のために極
めて重要な権利である。原告らは,一生,被ばくによる健康被害に対する恐怖や不安を抱えたまま生きていかなければならず,
被ばくの不安にさらされ
ないで平穏で安全な生活を営む権利の原状回復はほぼ不可能である。住み慣
れた環境の中で居住することを自らの意思で選択する権利,
住み慣れた環境
で築き上げてきた生活基盤で社会生活や家庭生活を享受する権利,住み慣れ
た環境で築き上げてきた生活基盤の中で成長発達し,自己実現を図る権利は,住み慣れた地域に居住できるようになり,地域共同体から様々な利益を享受し,
その中で成長発達し自己実現を図ることができなければ原状回復はできない。これらの原状回復のためには,人間関係や地域とのつながりを含めた地域共同体の再生・復興が必要不可欠であるが,一度失われた人間関係や地域とのつながりを回復させることは極めて困難であり,
本件事故の被害
の大きさ,特徴等に照らすと,原状回復はほぼ不可能である。以上より,包括的生活利益としての平穏生活権の原状回復は不可能である。


本件事故との因果関係
本件事故と損害との因果関係の判断は法的な判断であるから,
科学論争によ
って決せられるものではなく,通常人を基準として判断されるべきものである。避難区域内避難者は,国家によって避難を強制されたものであるから,避難をすることに本件事故と因果関係があるといえる。また,
避難区域とは,
国家が住民の安全を確保するために避難を命じ,強制するものであるから,本件事故と損害との因果関係が認められる最小限度の範囲を画するものである。したがって,
国家による避難指示がなかったにもかかわらず避難したことが合
理性ないし社会的相当性を有するかどうかは,
避難指示の有無とは区別して判
断されるべきである。そして,放射線被ばくがもたらす被害は甚大かつ不可逆的であり,
これを回避しようとすることは社会通念上も十分に了解可能であること,我が国において放射線被ばく事故が重い意味を有していること,国際的にも公衆被ばく線量限度を実効線量年間1mSvとしていること,これらを踏まえ,
国内法においても同様の規制がされてきたことからすれば,
少なくとも,
実効線量年間1mSvを超える線量が測定された地域から避難することには合理性ないし社会的相当性が認められ,
これらの地域から避難することによって
生じた物的・精神的損害は,本件事故と因果関係がある。
放射線は五感で感じることができないものであり,
公表された空間線量が高
い地域では,
公表された空間線量の高さから被ばくの不安を強く感じることに
なる。他方,公表された空間線量がそれほど高くない地域でも,正確な空間線量を把握することができず,不安を抱くことになる。そして,放射線被ばくの危険性が科学的に十分解明されておらず,
どの程度の被ばくによりどのような
影響が出るかについては,様々な意見があることからすれば,放射線被ばくによる健康被害の恐怖や不安も深刻である。
また,
一般人である原告らが心理学・
精神医学の分析・調査から放射線被ばくについて健康被害に対する強い恐怖や不安を感じること,
それらが現在まで長期に及んでいることが合理的であるこ
とは,心理学,精神医学の知見によっても裏付けられている。したがって,原告らが放射線被ばくによる健康被害を回避するために避難し避難を継続することには,合理性ないし社会的相当性が認められる。また,現在行われている除染は不十分な内容であり,
除染を行っても十分な効果が得られていない地域
は少なくないこと,
除染によって生じた除染廃棄物は住民らの生活環境に保管
されていることなどからすれば,
除染によって追加被ばくのおそれがなくなっ
たとはいえず,本件事故による追加被ばくのおそれから逃れるためには,引き続き避難をする必要がある。したがって,除染によって追加被ばくのおそれがなくなったとはいえないことからも,避難の合理性がある。さらに,福島第一原発の廃炉作業における燃料デブリの取り出しや搬出方法,
燃料の取り出し計
画が決まっておらず,廃炉作業中に大量の放射性物質が拡散したこともある。これらの事情からすれば,今後の廃炉作業に多くの困難が予想され,廃炉作業に伴い高線量の放射性物質が大量に拡散し被ばくするおそれがあると危惧するのは当然のことといえる。このように,被ばくのリスクから逃れるために,避難し,避難を継続することはやむを得ないことであり,避難及び避難継続の合理性がある。
また,前記第1の7及び8の原告らの主張の要旨のとおり,本件事故後の避難指示は不適切・不十分なものであり,さらに,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避により,
原告らの不安感や不信感は増大し
ていた。したがって,本件事故後の避難指示が不適切・不十分であったこと,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避があったことに鑑みれば,本件事故と原告らの避難には因果関係があるといえる。⑶

慰謝料増額事由
前記第1の7及び8の原告らの主張の要旨のとおり,
被告国による本件事故
後の避難指示が不適切・不十分であり,また,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報を不開示にし,隠避したことにより,原告の不安感及び不信感が増大したのであるから,本件事故後の避難指示が不適切・不十分であったこと,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報を不開示にし,隠避したことは,慰謝料増額事由となる。
また,
仮に被告東電に対する民法709条及び同法717条に1項基づく請求が認められないとしても,前記第2の2原告らの主張の要旨のとおり,被告東電には過失があったのであるから,これも慰謝料増額事由となる。


中間指針等の定めの位置付け,合理性の有無

中間指針等の策定趣旨等
中間指針等は,
飽くまで当面の最低限の賠償額を示すものとして策定され
たものであり,賠償範囲を制限したり,賠償額の上限を画したりするものではない。
中間指針等は,本件事故により被害を被った者の切迫する生活状況を迅速,公平かつ適正に救済する必要があるという状況下において,原賠法18条2項2号にいう
原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針として,原賠審により早急に策定されたものである。中間指針は,はじめにの項目において,この指針が本件事故による原子力損害の当面の全体像を示すものであり,ここで示
された損害の範囲に関する考え方を用いて円滑な話合いと合意形成が達成されることを望むとともに,
中間指針に明記されていない個別損害が賠償さ
れないことのないよう留意すべきこと,
明記されていない損害も含めて多数
の被害者への賠償が可能となる体制を早急に整え,迅速,公平かつ適正な賠償が行われることを被告東電に期待するとしている。
また,
中間指針は,
第1中間指針の位置づけの項目において,この中間指針は,本件事故が収束せず被害の拡大が見られる状況下,賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものであるから,中間指針で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。としている。さらに,中間指針は,損害を算定するに当たり,個別に損害の有無及び損害額の証明をもとに相当な範囲で実費賠償をすることが原則であるが,本件事故による被害者が避難等の指示等の対象となった住民だけでも十数万人規模にも上り,その迅速な救済が求められる現状にかんがみれば,損害項目によっては,合理的に算定した一定額の賠償を認めるなどの方法も考えられる。としている。以上からすれば,中間指針等は,原賠法18条2項2号の定めにより,原子力事業者と原子力損害を被った被害者との間に生じた紛争を自主的に解決するために策定された指針であり,多数の被害者への賠償を迅速,公平かつ適正に実現するために策定されたものである。そして,中間指針等は,上記のような趣旨に基づいて,
被害者の間において一定の類型化が可能な損
害項目につき,合理的に一定の損害額を算定し,被告東電においては,少なくともこれを任意に賠償すべきとの指針を提示する役割を持つものである。他方,損害項目の選択及び損害額の算定方法については,原子力事業者である被告東電による迅速な賠償を実現するという見地から,
裁判手続において
も認容されることが容易に予想される範囲内において損害項目及び損害額を定めようとしたものであり,被害者は,その被った個々の損害が中間指針の示すものを超える場合には,
裁判手続等において個別にこれを主張立証す
ることで,その賠償を求めていくことが想定されているといえる。したがって,上記のように,中間指針等の趣旨及び性質が政策的な観点を強く反映していることに鑑みれば,賠償すべき損害額を算定するに当たっては,中間指針等が定めた損害項目及び賠償額に拘束されることはなく,
自ら認定した原
告らの個々の事情に応じて賠償の対象となる損害の内容及び損害額を決することができるというべきである。
また,中間指針等は,被告東電と被害者との間の合意形成による自主的解決を志向して作られたものである。したがって,中間指針等は,強制力をもつ裁判と異なり,一方当事者たる被告東電の意向を無視できず,被告東電が納得するものを志向して作られた側面がある。
慰謝料額の算定においては,
被害者が受けた精神的苦痛の程度と加害行為
及び加害者の悪質性・非難性の程度を相関的に考慮することが必要だが,中間指針等の策定においては,
被害者の被害実態も被告東電の帰責性も考慮さ
れていない。
すなわち,原子力発電施設には一度炉心損傷が生じてしまった場合,取り返しのつかない被害が多数の住民に生じてしまうという性質があり,原子力
災害が発生した場合の被侵害法益は,生命を含む極めて重要なものであり,その被害者が極めて広汎に及び得るものであるから,被告東電は,原子力事業者として特に許可を受けてこれを取り扱うという責任のある立場にあり,原子炉施設が想定される津波によって原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,
電気事業法39条1項及び省令62号4条により防護措置等の適
切な措置を講ずべき義務を負っていた。それにもかかわらず,被告東電は,①福島第一原発における津波対策において,
常に安全側に立った対策を採る
という方針を堅持しなければならないのに,
経済的合理性を安全性に優先さ
せたと評されてもやむを得ないような対応を採ってきた,
②本件事故の原因
である福島第一原発の敷地地盤面を超えて福島第一原発の非常用電源設備を浸水させる規模の津波の到来について予見したのであるから,
津波堆積物
調査を行うよりも先に対策を採るべきであり,
それは容易なものであったの
に,本件結果回避措置のうち,電源車の高台配備等の暫定的な対策さえ実施しなかった,③規制当局から炉心損傷に至る危険の指摘を受けていながら,長期評価に基づく対策を怠ったという事情がある。したがって,被告東電には,特に非難すべき事情が存在するといえ,被告東電の帰責性の程度は,慰謝料増額の考慮要素となる。このように,被告東電の帰責性を考慮していないことからしても,
中間指針等が合理的かつ十分な賠償基準を定めたものと
はいえない。

中間指針等の内容
避難指示等対象区域に居住する者に対する慰謝料
中間指針において定められた慰謝料は,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛に対する慰
謝料だけである。
これは,
突然避難することとなった避難等対象者に対し,
避難生活に伴って生ずる不便や不安に対して定められたものであり,原告
らが生活上の負担を強いられたことに対する精神的苦痛として主張しているものの一部に該当すると考えられる。一方で,中間指針では,放射線被ばくによる健康不安や生活基盤の破壊等による精神的苦痛については考慮されていない。さらに,中間指針第二次追補において定められた慰謝料も,不安な状態が続くことによる精神的苦痛の増大等に対するものであり,
放射線被ばくによる健康不安や生活基盤の破壊等による精神的
苦痛に対する考慮のないことは中間指針と変わりはない。
しかし,本件事故に起因する被害の特殊性として,放射線被ばくの健康への影響に対する不安を被害者が抱えているという事情があり,
原賠審も
当初は,福島第一原発より30km圏などの住民に関し,
相当量の放射線に被ばくしたため健康状態に対する具体的な不安感を抱くことによる精神的苦痛を賠償の対象とする可能性について,第2次指針では言及していた。しかし,その後の原賠審で,余計な不安を持たれないよう健康管理の仕組みを作ることが先決との意見が出され,
福島県が実施する県民健康
管理調査の結果が出てから改めて判断することとされたため,
中間指針で
は,上記の不安感を抱くことによる精神的苦痛については,賠償の対象外とされた。その結果,中間指針は,住民の被ばくについて,実際に生命・身体的損害が出た場合に賠償することとし,被ばくしたことの不安に関しては検査費用の賠償にとどめている。
中間指針第四次追補においては,帰宅困難区域のみを対象に,一括払で慰謝料の上乗せをした上,
長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等を一括して賠償するものとの説明が付されている。そのため,この新たな慰謝料につき,従前中間指針で定められた避難等に係る精神的損害についての慰謝料及び第二次追補で定められたいつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛についての慰謝料とは異なる故郷喪失慰謝料と考えられなくもない。しかし,第四次追補における1000万円の加算に当たって,第二次追補で示された600万円のうちの将来分
(平成26年3月以降に相当する部
分)を控除するとされていること,第四次追補では,帰宅困難区域以外につき,慰謝料額を引き続き月10万円とした上で,それが積み重なった結果,故郷喪失慰謝料とほぼ同額になった場合,同慰謝料は頭打ちになるとされていることなどからすれば,
第四次追補で認められた1000万円の
慰謝料は,従前の慰謝料と基本的に同質のものであり,故郷喪失慰謝料として新たに加算された慰謝料と評価することはできない。そして,損害の算定において従前の慰謝料と新たな慰謝料との性質が同質であることを前提にしながら,その対象となる精神的損害の範囲を,長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等などと拡大させている。このような経緯からすれば,第四次追補において,新たな慰謝料について長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等の意味を含むと説明されているとしても,
実際には地域共同体の崩壊によって
生じた精神的損害を算定しているものと評価することはできず,単に,従前の慰謝料の将来分をまとめ払いする期間を延伸しただけというべきである。
自主的避難等対象者に対する慰謝料
自主的避難等対象者については,中間指針等では,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛に対する慰謝料のみが定められており,
避難等対象者に対する慰謝料と同様に放射線被
ばくによる健康不安や生活基盤の破壊等による精神的苦痛については考慮されていない。
また,中間指針等においては,避難指示等対象区域居住者に対する賠償とは別に,
自主的避難等対象区域居住者に対する賠償の指針が示されてい
る。その賠償指針においては,避難指示等対象区域と自主的避難対象区域とを明確に区別し,その賠償額にも差を設けている。
しかし,避難指示等対象区域は,被ばくによる健康被害が否定できない区域全てに発せられるのではなく,原発事故という緊急時に,切迫した国民への害悪の危険から,
最低限この範囲の住民はその意思に反しても避難
させるべきとの政策的判断により指定された区域である。一方で,本件において原告らに発生した損害を評価するに当たっては,
個々の原告につい
て存在する各事情を個別具体的に検討すべきであって,
上記のような避難
指示等対象区域の線引きとは全く関連性がない。したがって,避難指示等対象区域内か否かは,住民に発生した損害を算定する際の基準とならない。そして,いずれの区域に居住していた原告らも,一旦避難した以上,避難指示等対象区域内外を問わず同様の損害を被っているのであって,両
者の間で損害賠償額に差を設けるべき合理性はない。以上より,本件における損害の内容及び損害額を認定するに当たっては,
中間指針等の基準に
捉われず,原告ごとの個別の事情に応じて認定すべきである。

以上のように,中間指針等の策定経緯やその内容からすれば,中間指針等がもともと全ての損害内容を網羅することを予定しているものではなく,中
間指針等は,
被害者と被告東電との間の自主的解決の限度において合理性を
有するものにすぎない。



黒田由彦(以下黒田という。)教授の調査結果及び分析によって明らかとなった損害
社会学者である黒田は原告らの包括的生活利益の侵害について社会学の観点から分析を行ったが,その結果からも,以下のとおり,原告らには包括的生活利益の侵害があり,避難及び避難継続には合理性が認められる。ア
強いられた避難としての区域外避難
黒田は,区域外避難は自主避難ではなく,
強いられた避難であり,
そこから生じた損害の賠償責任は本件事故を引き起こして事故以前の水準を超えた被ばくをもたらした事業者にあるとする。また,黒田は,避難指示区域外に住む住民が,
知覚できない放射線による被ばくに脅威を感じながら
も信頼できる情報がなかなか得られず,
事故対応に責任のある行政が一貫性
のある対応をしておらず,
その結果福島第一原発周辺地域は区域外であって
も将来重大な健康被害に見舞われるリスクのある状態に置かれているという状況では避難の合理性が認められるとし,
区域外に居住する人々の中から
被ばくリスクを避ける予防的措置として避難という選択を行うことは合理的な選択であるとする。このように,区域外避難者は,自ら望んで避難したのではなく,飽くまでも強いられて避難したといえる。

本件事故による被害
存在論的安全の剥奪
黒田は,存在論的安全には,①自分の今の健康状態,身体状態がこれまでどおりこれからもずっと続いていくという確信たる身体的側面,②自分
が今見ている,自分が今その中で暮らしている周りの環境,物的,自然環境等が全てこれまでどおりこれからもずっと変わらずそこにあるという確信たる環境の側面,③家族,親族,親しい友人,知人,地域の人々等,社会の人々の関係がこれまでどおりずっと続くという確信たる社会関係の側面がある。そして,このような存在論的安全は,人々に安心の感覚を与え,
その上で日常生活における様々な制度を前提とした意図的な社会的行為がされ,
現在の延長線上に将来設計や生活目標を思い描くという精神
的営為であり,
普段の日常生活においては自明性の中に意識されることな
く存在しているものであるところ,
本件事故はこのような存在論的安全を
剥奪したとする。
希望の剥奪
黒田は,原告らは,本件事故前は,その健康状態がこれからも続き,住み慣れた福島の生活環境や社会環境がこれからもずっと続き,家族や親族,友人らとの関係がずっと続いていくという確信や信頼の中で,それぞれの原告が将来設計や生活目標を持ちながら人生を営んでいたが,これら
は本件事故により全て奪われたとする。
社会関係の剥奪
黒田は,家族・親族が空間的に離れて暮らすこと(分離),被ばくのリスクの捉え方の違いにより人間関係が壊れること(決裂),同僚,友人・知人との間で人間関係が消滅すること(喪失)により,社会関係が剥奪され,原告らは精神的苦痛を被っているとともに,経済的な負担を増大させているとしている。また,黒田は,区域外避難による二次被害として,福島から避難することに対する自責感情や差別を受けるかもしれないという周囲への警戒心を指摘し,区域外避難者が,明日も今日と同じように安定した人間関係が続くだろうという感情を持てない状態にあり,
存在論的
不安に置かれているとしている。
以上のとおり,本件事故は,個々人が生きていく上で必要な中核的な条件を剥奪し,身体・環境・社会の側面での損害が生じているのであり,さらに,将来設計や生活目標という希望をも剥奪しており,原告らが被った包括的生活利益の侵害は上記の特質を踏まえた重大な損害として捉えるべきである。

本件事故による避難及び避難継続の合理性
黒田は,①刻々と変化する本件事故の状況について,十分かつ混乱のない首尾一貫した情報が福島第一原発周辺の住民に対して責任ある主体から適時に与えられたわけではなかったこと,
②時間の経過とともに避難指
示区域が変化し,
放射性物質の飛散に関してどのような状況にあるかの政
府が把握しきれておらず,
対応が後手後手に回っている印象を与えたとい
うこと,③本件事故直後における当時の政府のリスク・コミュニケーションの稚拙さ,
④被ばくの許容基準の設定に関する政府部内の非一貫性という事情から,
福島第一原発の周辺地域の避難指示区域外に住む住民にとっ
ての本件事故発生後の状況の定義は,知覚できない放射線による被ばくに脅威を感じながらも,信頼できる情報がなかなか得られず,事故対応に責任のある行政が一貫性のある対応をしておらず,
その結果福島第一原
発周辺地域は区域外であっても将来重大な健康被害に見舞われるリスクのある状態に置かれているというものであったとする。そして,黒田は,このような状況の定義の下では,福島第一原発周辺地域の避難指示区域外に居住する住民が,
予防的に避難しようという行動には十分に合理性
があったと評価することができ,区域外避難の合理性が認められるとする。したがって,このような黒田の調査分析結果からも区域外避難者の合理性が認められるべきである。
黒田は,①本件事故以前,通常時の一般市民の年間被ばく量は年間1mSvで規制されていたという事実,②総被ばく線量が100mSv以下の被ばくに関して科学的知見が確立していないという事実,
③被ばくの影響を受
けやすい新陳代謝の活発な乳幼児から未成年までの若者世代であるという事実を前提とすると,本件事故から数か月が経ち,本件事故の状況がある程度社会に明らかになった段階において,
福島第一原発周辺地域の避難
指示区域外に居住する住民の集合的な状況の定義は,年間1mSv以上被ばくしても将来健康上の被害がないということは科学的に立証されておらず,
もし将来がんに罹患したとしてもそれが本件事故に伴う被ばくが
原因であることを証明することは極めて困難だと予想され,
起こり得る健
康被害に対する被告東電からの賠償や政府の公的サポートはほとんど期待できないと考えられ,病気で苦しむのは自分であり,治療にかかる費用等一切も自分たち家族の負担となり,
その後の教育や職業キャリアに少な
からぬ制約がかかるというものであるとする。そして,黒田は,本件事故以前の一般公衆の線量限度を超える被ばくが見込まれる福島第一原発周辺の避難指示区域外に居住する住民が避難生活を継続することは十分に合理的だとして,区域外避難者の避難継続の合理性を肯定する。また,黒田は,避難継続の終期を考えるに当たり,年間1mSvが一つの基準となるとし,
避難者が本件事故前に暮らしていた地域で普通に生活する中で享受していたようなライフスタイルをした場合に,その場合でも年間1mSv以下になる必要があり,また,本件事故直後に避難した人々が避難を継続したこと及び本件事故後一定時間が経過した後での避難は,
特に未成年の子
供を持つ家族にとっては,
避難及びその継続は低線量被ばくによる子供の
将来の健康被害を防ぐ予防的措置として行われたものであるとしている。以上より,年間1mSvを超える放射線量が測定された地域から避難することには合理性・社会的相当性が認められ,年間1mSvを超える放射線量が測定される限り,避難継続の合理性・社会的相当性が認められる。(被告国の主張の要旨)


本件事故との因果関係

国賠法1条1項における違法性を判断するに当たっては,
被侵害利益の種
類・性質,損害の重大性は重要であって,一般不法行為において,受忍限度論が妥当するような軽微な損害については,
国賠法においても責任が認めら
れるべきでない。したがって,公権力の行使の前後で何らかの事実状態の差が生じ,一般人を基準として不利益と評価されるものであるとしても,これが直ちに賠償の対象となる損害と評価されるものではない。

健康影響のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考
えられる事象に対する不安感について検討すると,一般に,生命・身体へ向けられた加害行為による精神的苦痛は,
傷病等の身体的被害の結果が大きく
なるにつれて増大すると考えられるところ,
上記のような不安感によって生
じる精神的苦痛は,肉体的な痛みを伴わないことはもとより,健康影響へのリスクが,
日常生活上の他のリスクと同程度ないしそれより小さいと考えら
れることから,その苦痛の程度も軽微なものということができる。また,原告らが感じる不安感が科学的,合理的根拠に欠けるものであれば,実際に感じる不安感がいかに大きいものであったとしても,それは,単なる主観的な不安にとどまるのであって,直ちに損害賠償の対象となるものではない。以上より,不安感が生じたとしても,低線量被ばくの健康影響リスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられる事象に対するものであれば,それは科学的根拠を欠く極めて主観的なものというべきであり,直ちに賠償の対象とされるべきものではない。


各区域の居住者に対する賠償について

自主的避難等対象区域の居住者の精神的損害について
自主的避難等対象区域は,平成23年12月6日,中間指針第一追補において,賠償の指針を示すために設定されたものであり,平成23年3月から4月にかけて,住民の安全を確保すべく避難のために設定された,避難指示等対象区域とは異なる。
自主的避難等区域内の住民が,
本件事故により放射線に被ばくしたこと
に対して何らかの不安感を抱いたとしても,上記のとおり,健康への影響リスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられるような低線量被ばくに対するものである上,地震・津波による自主的避難者も含め,
平成23年3月15日時点における人口に占める自主的避難者数
(地震・津波による自主的避難者数を含む。)割合は,いわき市4.5%,郡山市1.5%,二本松市1.1%,福島市1.1%であり,田村市0.1%,
小野町0.
1%など1%に満たない市町村も含まれていた。
そして,
福島県民の自主的避難者総数が,平成23年3月15日時点に比し,大幅に増加することがなかったことからすれば,
上記統計において若干捕捉さ
れていない避難者がいることを考慮しても,
自主的避難等対象区域の住民
のほとんどは,避難することなく,当該区域に滞在し続けたということができる。また,自主的避難等対象区域は,30kmから約100km程度,福島第一原発から離れており,
同所から遠く離れた所に位置するというこ
とができる。さらに,上記のとおり,当該区域の住民に対しては,避難指示等が出されておらず,避難の勧奨もされていなかった。加えて,自主的避難等対象区域は,避難指示等の出されている区域と隣接さえしておらず,屋内退避の指示が出された区域に隣接していたにすぎなかった。そして,一般住民に対し,万が一にでも健康への影響を生じさせないという,予防的観点から避難指示等が出されていたことも考慮すると,
自主的避難
等対象区域の住民が,
避難指示等が出されていない状況下で避難すること
は,一般的とはいえない。
以上のように,自主的避難等対象区域における放射線被ばく量が,健康への影響を伴わず,
その健康への影響リスクが他の要因による影響に隠れ
てしまうほど小さいと考えられること,
住民のほとんどが避難しなかった
こと,自主的避難等対象区域が福島第一原発から遠く離れており,避難指示等の対象でなかったこと,本件事故当初については,自主的に避難することが一般的ではなかったことに照らすと,
当該区域内の住民が自主的に
避難したことにより生じた精神的損害と被告国の行為との間に直ちに相当因果関係を認めることはできない。
自主的避難等対象区域に関する中間指針等の評価について
被告東電は,中間指針等や総括基準を十分尊重し,適切な賠償をしており,対象者の要望に応じて,対象者が被告東電より賠償を受けるに当たって必要な請求書類を送るなどして,迅速かつ公平な賠償に努めている。中間指針等を踏まえ,多数の和解が成立している現在,中間指針等の果たしている役割は大きい。そして,中間指針等は,原賠法に基づく本件事故に関する損害賠償の範囲について,
一般の不法行為に基づく損害賠償請求権
における損害の範囲と特別に異なって解する理由はないとして,
相当因果
関係があるものとされる損害の範囲について指針を示している。もっとも,中間指針等については,裁判規範ではなく,従来の相当因果関係説によっては導かれない,新たな損害の賠償を認めたのではないか,原子力損害の特性を踏まえ,従前の学説・実務が不法行為損害賠償における実体ルールとしてきたものを超えたルールを採用し,
相当因果関係における予防
原則を取り込むなどしたなどの指摘があるとおり,
相当因果関係があるも
のとされる損害の範囲を示すに当たっては,
被災者の早期救済のためなど
の政策的観点も加味された上でその範囲を示している。このため,本件においては,中間指針等の上記性質を十分に踏まえた上で,別途,相当因果関係の存否や損害額が認定されるべきであるし,既払金のある場合には,これを損害額から控除するとともに,慰謝料の算定に当たって,早期に十分な被害回復がされたことが考慮されるべきである。
中間指針の第一次追補は,
自主的避難や滞在を行った住民の損害賠償を
検討するに当たり,福島第一原発の状況が安定しない中で,放射線被ばくへの恐怖や不安,発電所からの距離,避難指示等対象区域との近接性,自己の居住する市町村の自主的避難の状況等を総合的に考慮し,
被災者救済
という政策的観点も加味した上で賠償が認められるべき一定の範囲を示している。中間指針等では,自主的避難等対象区域の住民が,放射線被ばくへ恐怖や不安感を抱いたことに起因する損害の賠償を認めているところ,不安感等の対象である放射線量の科学的な評価が賠償の可否,内容を決するに当たって最も重要な要素となると考えられる。そして,中間指針第一次追補においては,平成23年4月以降,放射線量が客観的に明らかにされるようになった後の期間に係る賠償についても,
線量の非常に低い
地域を含んだ対象区域が設定されている。中間指針等に対しては,その性質上,和解仲介に資する賠償基準を示すことが期待されていたことから,基準が明確であることが望ましい一方で,
中間指針第二次追補策定時にお
いては,
自主的避難等対象区域の住民に対する避難に係る賠償の範囲を決
するに当たり,線量を基準とすることに対しては,様々な意見が示されるなどしていた。これらのことからも,中間指針等が,健康被害を生じさせず,
有意に健康リスクを増加させるわけではない低線量被ばくの健康影響に対する不安感という主観的利益侵害について,
被災者救済の政策的観点
も踏まえた様々な事情を考慮していたことが分かる。
本件事故当初の特殊性を踏まえ,
自主的避難等対象区域の住民の避難に
係る慰謝料を認めるとしても少額にとどまること
自主的避難等対象区域の住民による損害賠償請求については,
福島第一
原発の状況が不安定であり,
将来的な飛散放射線量の予測ができない状況
下において,万一の事態を想定して緊急避難的に避難することは,正当化できるとしても,自主的避難等対象区域が広域にわたっていること,その範囲が福島第一原発からの距離や放射線の線量に必ずしも対応していないことなどに照らし,慰謝料を認める対象者については,行政区画ごとに一律に考えるべきではなく,細やかな検討を要すると考えられる。このような慰謝料の算定に当たっては,
本件事故前以上の放射線に被ば
くしたとしても,自主的避難等対象区域の住民について,客観的にみて,健康影響は生じていないし,
健康影響のリスクが他の要因による影響に隠
れてしまうほど小さいと考えられ,
肉体的苦痛も受けてないことが考慮さ
れなければならない。また,福島第一原発の状況が刻々と変化し,情報が不足していた期間は僅かであったことや,政府においても,予防的観点に立ちつつ,
当初から情報提供をしていたことなどについても十分に併せ考
慮して慰謝料が算定される必要がある。
中間指針等の策定に当たって参照
された裁判例のうち,身体的損害を伴わない,騒音・悪臭等に関する裁判例をみると,基地や空港の騒音,道路の騒音や排気ガス等が問題になった裁判例において認容された慰謝料額は,
最も高いもので月額1万8000
円であり,下水,産業廃棄物,豚舎の悪臭が問題になった裁判例において認容された慰謝料額は,最も高いもので月額9000円である。このように,
中間指針第一次追補において,
自主的避難等対象区域の滞在者に対し,
子供及び妊婦に対しては一人40万円
(本件事故発生から平成23年12
月末までの損害として),その余の者に対して8万円(本件事故発生当初の時期の損害として)を目安として賠償するという考え方は,種々の議論の結果,
上記の裁判例も参照しつつ,
低線量被ばくに対する不安を中心に,
自主的避難と滞在を分けずに初期の情報が十分でなかったこと等も総合的に考慮したものであって,合理性を有する。
自主的避難者の精神的損害は4万円を上回らないと考えられること慰謝料額の算定に当たっては,①自主的避難をした者は,本件事故当初の滞在期間が短い分,滞在者に比し,被ばくによる健康への影響に対する不安感は小さいこと,②避難指示等を受けず,避難を余儀なくされているとはいえない上に,
避難指示等対象区域の住民に比し,
帰還が容易なため,
避難指示等対象区域内の住民よりも,
一定期間内に受ける精神的苦痛の小
さいことが十分に考慮されるべきである。そうすると,自主的避難等対象区域内の住民については,
避難指示等対象区域の住民の受ける慰謝料額と
して十分な金額である月額10万円よりは,
相当程度小さくなるはずであ
る。
以上のとおり,自主的避難等対象区域の住民についての賠償は,本件事故当初の特殊性を考慮すべきであり,
少なくとも避難に伴う高額な損害の
賠償を認めるのは相当でない。

避難指示等対象区域の居住者の精神的損害について
避難指示等対象区域について
避難指示等対象区域は,
福島第一原発から30km圏内にあったり,
本件
事故発生から1年間の積算線量が20mSvを超えると推定される空間線量率が続いていたりする地点等であって,
政府により避難指示が出された
り自主的に避難することが求められた区域である。前記のとおり,100mSv以下の放射線に被ばくすることにより,健康への影響の生じることが科学的に証明されていないことからすれば,
本件事故前以上の放射線に
被ばくしたことのみをもって,避難指示等対象区域の住民が,通常避難するとはいえないが,これらの地域については,政府の指示等があることを踏まえると,
当該区域内の住民は,
通常避難することになると考えられる。
そのため,仮に被告国の行為に違法性が認められた場合には,避難に伴って生じた精神的損害は,避難に必要かつ相当と認められる限り,被告国の行為との間に相当因果関係のある損害と認められるとしても不合理とはいえない。
精神的損害について
避難指示等を受けて避難した者は,自主的に避難した者と異なり,避難を余儀なくされたということができる上,
避難生活が長期間にわたったた
め,相応な精神的苦痛を受けていると考えられるから,これについて慰謝料を認める余地がある。しかし,慰謝料額は,精神的苦痛の内容や類似事案における慰謝料額等を踏まえ,適切に算定される必要がある。中間指針等においては,避難指示等に係る損害として,精神的損害の賠償に係る指針も示されているが,その内容は,交通事故における損害賠償実務や類似事案の裁判例と比較すると十分な内容となっており,
政策的判断も加味さ
れている。このため,本件においては,精神的損害について,中間指針等の内容を踏まえつつも,適切な慰謝料額が算定されるべきである。また,被告国の支援の下,被告東電が,中間指針等を尊重し,適切な賠償を早期に行っていることや対象者の要望に応じて,
対象者が被告東電から賠償を
受けるに当たって必要な請求書類を送付するなどして早期の賠償に努めていることは,
慰謝料の算定に当たっても,
十分に考慮されるべきである。
避難者は,突然の事故によって,平穏な日常生活とその基盤を失い,避難による不便な生活を余儀なくされるとともに,
帰宅の見通しが不透明な
ことについて不安を抱くため,精神的苦痛を受けると考えられる。他方,避難者は,本件事故による身体的傷害や健康影響を負っておらず,これらに伴う肉体的苦痛や精神的苦痛を受けていない。
また,
避難者は,
実際に,
入通院等を余儀なくされていないので,
入通院を余儀なくされる場合に比
し,時間や行動の制約は小さい。さらに,避難生活の長期化に伴い,当面の間避難を継続することを前提とした生活基盤が整備され,
避難者が避難
先の生活に徐々に適応することにより,
上記のような精神的苦痛は相当に
軽減されていくと考えられる。これらの事実に照らすと,避難者の受ける精神的苦痛は,交通事故のため入通院を余儀なくされた被害者に比しても,
相当に小さいはずであり,
自動車損害賠償責任保険における慰謝料
(日
額4200円,月額換算12万6000円)より低額であっても不合理ではない。中間指針等では,避難指示等対象区域の住民の受けた避難に伴う精神的苦痛の損害額として,本件事故から6か月間(第1期)は一人月額10万円
(避難所等における避難生活をした期間は,
一人月額12万円)

その後の避難指示等対象区域の見直し時点まで(第2期)は一人月額5万円,その後の終期まで(第3期)は避難指示解除準備区域,居住制限区域に設定された地域は一人月額10万円を目安として賠償することとされている。加えて,上記の損害算定期間の終期について,中間指針等では,①避難指示区域については,解除等から1年間を当面の目安とする,②平成23年9月に区域指定が解除された緊急時避難準備区域については,支
払終期は平成24年8月末までを目安とする,
③特定避難勧奨地点につい
ては,避難指示等の解除後3か月間を当面の目安とするとされており,帰還やその後に安定した生活を営むために一定の期間を要することを踏まえても,
中間指針等では十分な慰謝料額が認められているということがで
きる。
帰還困難区域の住民は,非常に長期間にわたって帰還不能となった上,帰還の見通しが立たないため,
同区域内における生活の断念を余儀なくさ
れたことなどによる精神的苦痛を受けている。中間指針等では,帰還困難区域の住民が受けた精神的損害の損害額として,
第1期及び第2期分に加
え,中間指針第二次追補で一人600万円,中間指針第四次追補で一人1000万円を目安とするとされている(ただし,支給調整があり,第3期の始期が平成24年6月の場合の加算額は700万円とされる。)。このような中間指針等の内容は,慰謝料額として十分なものと考えられる。ウ
区域外居住者の精神的損害について
中間指針第一次追補は,
その策定の段階で自主的避難等対象区域内に住居
があった者等に対する損害賠償を検討するに当たり,
福島第一原発の状況が
安定していない状況下で,
放射線被ばくへの恐怖や不安,
同原発からの距離,
避難指示等対象区域との近接性,
政府や地方公共団体から公表された放射線
量に関する情報,
自己の居住する市町村の自主的避難の状況等を総合的に考
慮し,
被災者救済という政策的観点も加味した上で賠償が認められるべき一定の類型とその場合の賠償額等を示したものである。中間指針第一次追補は,可能な限り早期に一定の指針を示すという観点から示したものであり,同追補以降において,自主的避難等対象区域の追加設定や,区域外居住者に対する賠償については,新たな指針として示されていない。
避難指示等対象区域及び自主的避難等対象区域以外の区域では,
自主的避
難等対象区域と同様,1年間の積算線量が20mSvに達するおそれがなく,本件事故前以上の放射線に被ばくすることにより,
健康影響のリスクは他の
要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられるから,
区域外居住者
に対する損害の賠償を直ちに認めないとの考え方は,
科学的根拠を伴わない
主観的利益や現実化する客観的な蓋然性を欠くような生命・身体に対する危険を保護していない裁判例の枠組みと整合するものである。
従前の裁判例の
枠組みに照らせば,
このような区域外居住者が放射線被ばくによる健康影響
に対する精神的苦痛を感じたとしても,
それは危険の現実化する客観的な蓋
然性を伴わない漠然とした恐怖感や不安感程度のものすぎず,
慰謝料の発生
を認める程度の精神的苦痛とはいえない。
したがって,
区域外居住者に対する損害の賠償を直ちに認めることはでき
ない。


平穏で安全な生活を喪失したことによる精神的損害について
中間指針は,本件事故においては,少なくとも避難等対象者の相当数は,その状況に応じて,①避難及びこれに引き続く対象区域外滞在を長期間余儀なくされ,あるいは,②本件事故発生時には対象区域外に居り,同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされたことに伴い,自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,あるいは,③屋内退避を余儀なくされたことに伴い,行動の自由の制限等を長期間余儀なくされるなど,避難等による長期間の精神的苦痛を被っており,少なくともこれについて賠償すべき損害と観念することが可能である。したがって,この精神的損害については,合理的な範囲において,賠償すべき損害と認められる。とし,避難等による長期間の精神的損害について包括的に考慮した上で,
精神的損害の内容と賠償額等
を示している。そして,中間指針では,第1期における避難等対象者の精神的損害について,地域コミュニティ等が広範囲にわたって突然喪失したことなども挙げられている上,中間指針第二次追補では,第3期における避難等対象者の精神的損害の内容として,帰還困難区域にあっては,長年住み慣れた住居及び地域における生活の断念を余儀なくされたために生じた精神的苦痛が認められるとされ,さらに,中間指針第四次追補では,帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域からの避難等対象者に対して,
故郷を喪失する者への精神的苦痛部分を慰謝料として
一括して賠償することとされた。中間指針に定める避難等に係る精神的損害は,避難等対象者が,避難を余儀なくされ,いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状況に置かれることをも踏まえて策定されたものであり,中間指針
第四次追補において賠償の対象となっている精神的苦痛,すなわち長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等は,原告らが平穏で安全な生活を喪失したとして損害賠償の支払を求める精神的損害の範囲に含まれると考えられる。
このように,原告らが主張する平穏で安全な生活の喪失による精神的損害は,中間指針等で示された賠償の対象となっている精神的損害に含まれていると考えられるため,
特段の事情がない限り,
原告らが中間指針等の範囲を
超えて慰謝料の支払を求めることはできない。
(被告東電の主張の概要)


総論
原告らは,政府による避難指示等により避難を余儀なくされた避難等対象者,政府による避難指示等の対象とされなかった区域(本件事故後に中間指針第一次追補により自主的避難等対象区域に指定された区域とそれ以外の区域の双方を含む。)の居住者であり,本件事故後に置かれた状況はそれぞれ異なっており,本件事故の影響による原告ら各人についての法益侵害の有無,程度,内容の評価に当たっては,そのような本件事故後に置かれた状況の相違を無視して論ずることはできない。
原告らが本件事故発生当時に生活の本拠とし
ての住所を有していた区域が,①政府による避難指示を受け,強制的な避難を余儀なくされた場合,②強制的な避難の指示ではないが,政府により屋内退避又は緊急時における避難の準備が求められるなどの指示を受けた場合,③これ
らの指示を受けずに滞在し又は自主的に避難した場合については,それぞれ,平穏生活権の侵害を認めるとしても,その内容や程度,侵害の期間等においてそれぞれの事情に基づく相違があり,上記①の場合においても,既に避難指示が解除されている区域と現時点で解除の見通しが立っていない区域とでは,精
神的苦痛や法益侵害の内容・程度も異なる。したがって,本訴訟で原告らが求めている一律の精神的苦痛の賠償請求については,
本件事故後に原告らが置か
れた状況に即して,妥当な賠償額を検討する必要があり,政府による避難指示等の指定区分ごとに検討すべきである。


避難指示等対象区域の原告らの精神的損害について

政府の避難指示によって強制的な避難を余儀なくされた区域の住民につ
いては,
従前享受してきた平穏な日常生活やその生活基盤の喪失による精神的苦痛や避難生活における生活の不便等による精神的苦痛が生じることが考えられ,これらの精神的苦痛から生じる精神的損害については,賠償の対象となるものと考えられる。
しかし,避難生活が長期化すれば,避難先で再就職するなど避難先での生活が安定し,人間関係も形成され,一般的には避難生活における苦痛は次第に軽減するものと考えられる。また,避難指示等対象区域については,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区域に再編され,居住制限区域及び避難指示解除準備区域(大熊町及び双葉町を除く)については,平成29年4月1日までに全て解除済みであるため,
既に当該区域内での居住が
制限されるという状況はなくなっており,
避難指示の解除後は帰還して居住
することが可能な状態にあり,実際に,相当数の住民が帰還して生活を営んでいる。
このように避難指示が既に解除された避難指示等対象区域においては,
避難指示が解除された時点で直ちに精神的損害の賠償が終期を迎えると解することはできないとしても,
本件事故による空間線量率が低下している
状況にあることはもちろんのこと,
一定のインフラの復旧がされることを前
提として自治体とも協議の上で避難指示が解除されていることからすると,避難指示解除後は帰還して生活を営むことは可能な状態に至っているものであるから,帰還をするための準備などに必要な避難指示解除後の相当期間が経過した後においては,本件事故の放射線の影響による平穏生活権侵害の状態が継続しているとは評価できない状態に至ると考えられるのであり,政府による避難指示の対象となった原告らの精神的損害についても,その賠償の終期を迎えると解することが合理的である。

帰還困難区域について
帰還困難区域については,
他の避難指示等対象区域と同様に避難指示によ
って避難し平穏な生活が侵害されたことについて精神的損害が発生したと考えられるが,
避難の概念は何れかの時点で帰還することが可能になること
を前提にしているとも考えられるため,避難が長期化し,移住を余儀なくされる状況にあると法的に評価されるに至った時点においては,以後は,月々の継続的な慰謝料額の賠償を行うのではなく,
交通事故事例における後遺障
害慰謝料の場合と同様に,その精神的損害を一括して算定,評価することも許される。そして,被告東電は,このような考え方に基づき,本件事故時の住所地が帰還困難区域に指定されている原告に対しては,
①平成23年3月
11日(平成23年3月分は1か月分として10万円)から平成24年5月末までの15か月について中間指針及び被告東電の賠償基準に基づき1人当たり月額10万円の賠償を逓減させずに継続して合計150万円(避難所
等での避難がある月については月額12万円),②中間指針第二次追補に基づく600万円(平成24年6月ないし平成29年5月までの5年間)が支払われ,③さらに中間指針第四次追補に基づき,当該地区については移住を余儀なくされる状態にあるとの評価に基づき,
1000万円の慰謝料が認定
されるが,
そのうち②の賠償額との重複分を将来に向けてのみ控除することとして,700万円の追加賠償がされることとなり,この結果として,避難等に係る慰謝料の賠償総額は,1人当たり1450万円となり,かかる慰謝料額を賠償している。


居住制限区域・避難指示解除準備区域について
本件事故時の住所地が避難指示解除準備区域又は居住制限区域に指定されていた原告については,
中間指針,
中間指針第二次追補,
同第四次追補
(避
難指示解除後の相当期間に関する指針部分)を踏まえて,また政府復興指針に基づき,実際に避難指示が解除された時期を問わず(楢葉町は平成27年9月5日,南相馬市は平成28年7月12日,浪江町及び飯舘村は平成29年3月31日,富岡町は平成29年4月1日に各避難指示解除),本件事故後6年経過時点で避難指示が解除されたものと同等の賠償を行うものとして,被告東電は,平成23年3月11日ないし平成30年3月末までの7年1か月分について,時間の経過による賠償額の逓減をすることなく,月額10万円の精神的損害の賠償を継続することとしており,
総額1人当たり85
0万円となる。
また,解除後の旧居住制限区域・旧避難指示解除準備区域においては,自治体の置かれた状況等による程度の相違はあるものの,
避難指示の解除をに
らんでの営農その他の事業活動が一部で再開され,又は,その準備が進みつつあり,避難指示等対象区域の周辺区域(避難指示等対象区域の指定が既に解除された区域も含む。)の復興の取組ともあいまって,生活環境の復旧・復興のための取組が始まっている。したがって,かかる区域の原告らについては,避難指示が解除されることによって,その後においては本件事故時住所地に帰還することは可能な状態になったものであるが,
本件事故時に居住
していた住宅の補修に相応の時間を要し,
あるいは避難が長期化したことに
より実際の帰還までに一定の時間を要すること等を考慮しても,
避難指示の
解除から相当期間が経過した後以降においては,
本件事故の影響によって引
き続き帰還することができず,
本件事故と相当因果関係のある旧居住地にお
ける法益侵害の状態が引き続き継続しているとは評価することができない。エ
中間指針等が定める避難慰謝料が合理的であること
中間指針等の意義
原子力発電所においてひとたび原子力事故が発生すると,
極めて広範囲
にわたって多種多様な損害が発生することになり,事故が落ち着き,あるいは収束した後は損害賠償を巡る紛争が多数生ずることが予想される。こ
のため,原賠法18条は,適正かつ迅速な賠償実施が可能となるよう,原賠審の設置について規定するとともに,原賠審の所掌事務として,原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと(同条2項1
号)と並んで,原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること(同項2号)を定めている。そして,同法は,
かかる指針策定のために必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと(同項3号)をも原賠審の所掌事務とし,原賠審に原子力損害の調査及び評価を行わせるための専門委員を置くことを定めている
(原子力損害賠償
紛争審査会の組織等に関する政令4条)こうした法令上の根拠に基づき,。
原賠審は,
原子力事故が発生した際には,
必要かつ十分な事実関係の調査・
分析を行って審議・検討を行い,原子力損害の賠償に関する紛争についての原子力損害の範囲の判定の指針等を示すことによって,広範囲に及び得る原子力損害の賠償に関する紛争の適正・迅速な解決を促進することが法令上予定されている。
そして,
このような原賠法の定めを踏まえても,
損害賠償の一般法理という法律的見地から合理的に導かれるものでなければ紛争の解決規範として機能し得ないから,原賠審が策定する原子力損害の範囲の判定の指針は,損害賠償法理の観点から被害者との紛争を解決するに足る合理的なものでなければならないことが法令上当然に要求されているものと解される。
中間指針等が果たした役割
中間指針等は,それ自体は法令に該当するとはいえないため,直ちに裁判所に対する法的拘束力を有するわけではないが,中間指針等は,我が国の原子力損害賠償の法体系において明確に位置付けられた法令に根拠を有する指針である。また,自主的避難等対象者だけでも約130万人以上にも上る本件事故の特質にも鑑みれば,
多数の被害者に対して合理的
な賠償を実現することが重要であり,
同様の被害状況に置かれている場合
には同様の救済が与えられるべきであるという考え方が妥当する。実際に,原賠審が策定した中間指針等は,策定後6年以上にわたってADR手続や訴訟を含む多数の紛争解決において用いられ,
圧倒的多数の被害者が
中間指針等に基づく和解を受け入れて紛争が解決されてきており,原賠審
が企図したとおり,
既に本件事故による紛争解決に当たり事実上の法規範
に近いものとして機能している。
仮にこうした原賠法の立法趣旨や原賠審
の意図,実際の運用状況に反して,原賠審の策定した合理的な指針に何らの規範性も認められないというのが我が国法上の解釈であるとすれば,現
状の中間指針等を中心にした法的安定性が大きく損なわれるだけでなく,かえって被害の迅速かつ適正な賠償の実現という原賠法の目的が没却され,被害救済を大きく後退させることにもなりかねない。したがって,このような我が国の原子力損害賠償の法体系を踏まえれば,
原賠法に基づき
策定された中間指針等は,判例法理をリステイトしたものであり,実質的に法的規範として機能することが社会的にも期待されているのであり,同
指針等に定める賠償指針は,その内容自体が著しく不合理でない限り,裁判手続においても法規範に準ずる規範として最大限尊重されるべきものである。
中間指針等が定める慰謝料額について
精神的損害については個別性が大きいものの,
本件事故のような原子力
事故に特有の被害の被害者の大量性と迅速な救済の必要性から,
裁判外で
も適正な紛争解決が可能となるような基準が予め提示されることが必要になると考えられるのであり,
原賠審における精神的損害に関する指針の
意義はこの点にあり,原賠法が企図しているものということができる。そして,このように自主的な紛争解決の一般的な指針を定めるに当たっては,多数の被害者に対する迅速・適正な解決を志向することから,被害者ごとの多様な個別事情を斟酌した上での個々の精神的苦痛の大小に係る詳細の認定を行って賠償することが事実上困難であり,かつ,自主的な紛争解決を促進し,早期の救済を実現する必要も高いことから,精神的損害に関する賠償指針については,
自ずから多数の被害者が満足し得る賠償水
準として設定せざるを得ず,少なくとも平均的・中間的な精神的苦痛を下回らない水準を念頭に定められる傾向がある。
したがって,
中間指針等は,
その性格から,
自主的な紛争解決を促進するために多数の被害者の精神的
損害を慰謝するに足りる水準の慰謝料額を定めているといえる。
また,中間指針等は,個別の慰謝料額の算定を省略した一律賠償であること,原賠審における審議では避難等対象者の主観的・個別的な事情が避難慰謝料において包括的に考慮されていること,
中間指針等は大量の損害
賠償請求を迅速に処理するため訴訟において想定される認容額よりも高額の賠償額となっていること,
原賠審は過去の裁判例について検討した上
で基準を定めたことなどからすれば,中間指針等に定める避難慰謝料は,避難者の主観的・個別的事情を捨象して最低限の基準として定められたものではなく,
本件事故によって避難等対象者に生ずる被害状況に基づく精
神的苦痛を類型的・包括的に考慮して,合理的な慰謝料額の指針を定めたものである。
さらに,中間指針等は,避難等による長期間の精神的苦痛を賠償すべき精神的損害として位置付けており,避難に伴う多様な精神的苦痛を個々に区別して論ずるのではなく,これらを包括的に考慮の上,中間指針等に基づく精神的損害の賠償額の方針を定めている。
また,
中間指針等は,
避難生活中の日常生活の不便さだけでなく,
本件事故以前の生活やその基
盤を喪失したことに対する精神的苦痛や避難を余儀なくされたことに伴う帰宅の見通しのつかない不安等についても中間指針等に基づく
避難等に係る慰謝料の対象としている。
生活基盤の破壊によって被告東電が提示している慰謝料額を超える慰謝料額が基礎付けられるかのような原告らの主張の誤りについて
原告らは,避難指示が解除され,放射線の影響の観点からは帰還して生活することが可能な状態になったとしても,
生活基盤が破壊されたままで
あり,これが原告らの慰謝料請求を基礎付けるかのように主張する。しかし,避難指示が解除された場合に,当該区域の各旧居住者が実際に帰還するか否かは,
結局は旧居住者各人がそれぞれの事情に基づいて判断
すべきものであり,何人も帰還を強制できるものではなく,ある地域において他の住民が自らの判断に基づいてどのように行動するかによって,各
住民の居住権や平穏な生活権に関する権利侵害の有無や精神的損害の賠償額が左右されると解することは相当ではない。
原賠法に基づく原子力損
害(核燃料物質の放射線の作用等による損害)の賠償請求の観点からは,放射線の影響等を考慮して,
またインフラの復旧などの観点も考慮された
上で,
自治体との協議の上で,
政府による避難指示が解除された場合には,
住民に対する居住・移転の制限は解除され,帰還し得る状況に至るものであり,これにより,本件事故による権利侵害状態は基本的に解消される。そして,そのような中で,帰還をするか否かを判断し,帰還をするとした場合においてもその準備のために必要と考えられる相当な期間の経過をもって,
原子力損害としての慰謝料の賠償は終期を迎えるとする中間指針
等の考え方には合理性がある。他方で,避難指示が解除された区域への帰還をせずに,他所に移住することとした者に対しては,被告東電は,当該旧避難指示等対象区域内の自宅土地の財物損害の賠償を行うことに加えて,移住を余儀なくされた住民に対する住居確保損害の賠償として,新居購入費用と財物賠償額の差額の一定割合を追加的費用の損害として賠償するなどして,
そのような移住に伴う損害についても賠償することとして
いる。そして移住をした原告らにおいても,移住先の新たな住居を中心として生活コミュニティを形成することが可能であり,
そのような生活環境
を整えることは本件事故の影響によって何ら阻害されていない。
このように,
本件事故による原子力損害の賠償の観点からは,政府によ
る避難指示が解除され,
放射線の作用による居住制限が解消された後にお
いては,
政府復興方針に基づく平成29年3月までの賠償及びその後1年
間の相当期間の賠償を継続するとする被告東電の賠償方針は,
原告らに生
じた精神的苦痛を被害者の立場に立って最大限慰謝料額を反映させたものである。そして,権利侵害の有無という観点からも,旧居住地の環境の変化が本件事故以前との比較で生じていたとしても,そのことによって,平成30年4月以降においてもなお,本件事故の放射線の作用により,原告ら各人において法的に保護された権利利益の侵害状態が継続していると評価することはできない。
慰謝料額の合理性
本件のような負傷を伴う精神的損害ではない避難等に係る慰謝料について,
負傷を伴う場合における自動車損害賠償保険等の基準を参考としていること,過去の裁判例も参考にして基準を定めていること,時間の経過に伴う賠償額の逓減がされていないこと,避難等に係る慰謝料は,生活費の増加費用と合算されている点を除けば,
財産的損害を含めた包括慰謝料
ではなく,避難費用,就労不能損害,営業損害,財産損害等について別途賠償されるものであることなどに鑑みれば,
避難等に係る慰謝料の基礎額
となる一人月額10万円の賠償額については,
長期の避難に係る精神的苦
痛を包括的に慰謝する慰謝料額として合理性・相当性を有するものである。
以上より,
避難等対象者に対する中間指針等の定める避難等に係る慰謝
料は,
本件事故により避難等対象者に広く通常生じ得る被害状況に基づく精神的苦痛を類型的・包括的に考慮し,平穏な日常生活の喪失,自宅に帰れない苦痛,避難生活の不便さ,先の見通しがつかない不安などを広く対象として定められたものであり,最低限の賠償額を示したものなどではなく,個々人の事情によって,これらを下回ることもあれば,上回ることもあり得る中で,広く一般に生じると考えられる要素を評価して,慰謝料額の指針を示したものである。


旧緊急時避難準備区域の原告らの精神的損害について

旧緊急時避難準備区域の居住者について,
緊急時避難準備区域の指示内容
や本件事故後における同区域内の放射線の作用による客観的な状況や社会的な活動の再開状況等を踏まえて,中間指針等に基づき,避難等に係る相当な慰謝料額は,通常の生活費の増加分を合算しても,1人月額10万円を基礎として,
平成23年3月から平成24年8月までを賠償対象期間として算
定される180万円を超えるものではない。


被侵害利益について
旧緊急時避難準備区域の住民は,政府指示により,基本的に常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことが
求められたものであり,併せて,当該区域においては,引き続き任意の避難をし,特に子供,妊婦,要介護者,入院患者等は,当該区域内に入らないようにすること,当該区域においては,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,
その場合にお
いても常に避難のための立ち退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくことが指示されている。このような本件事故後の状況を踏まえ,強制的な避難指示ではないものの,上記指示内容を踏まえて,本件事故後に一定の合理的な期間においては同区域からの避難を選択することも合理的であり,これにより,精神的苦痛が生じ得るものと解される。そして,緊急時避難準備区域からの避難者に想定される精神的苦痛としては,①平穏な日常生活の喪失,②自宅に帰れない苦痛,③避難生活の不便さ,④先の見通しがつかない不安などが考えられ,このような平穏な日常生活を送る法的に保護された権利利益が侵害されたものと評価することができる。
緊急時避難準備区域においては,平成23年4月22日以降,常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことが求められてはいたものの,同区域への立入りに制限はなく,居住も許される状況にあった。これに対し,平成23年4月22日以降,原災法28条2項により読み替えて適用される災対法63条1項の規定に基づく警戒区域に指定された区域においては,
緊急事態応急対策に従事する者以外の
者は,
原則として立入りが禁じられ又は当該区域から退去しなければならないとされ,これに反した場合の罰則も定められていた。このように,緊急時避難準備区域に指定された区域の住民と強制的な避難を余儀なくされた住民との間には,
本件事故後に政府が行った指示の内容に大きな相違
があるため,政府の指示に起因する生活の阻害の内容,程度においても大きな差があるといえる。
平穏な日常生活の喪失の点については,緊急時避難準備区域では,強制的な避難を余儀なくされた区域とは異なり,
同区域内での生活基盤から隔
絶されることを強制されたものではなく,
居住や立入りについても制約が
課されていなかったことから,
本件事故以前に享受していた生活基盤への
侵襲の程度や隔絶の程度は,
強制的な避難指示の対象区域の住民と比較す
れば相対的に低いものであったといえる。また,その指示対象期間は平成23年9月30日までと本件事故発生後約6か月半の期間にとどまっており,強制的な避難指示等対象区域のように長期化したものではない。さらに,その指示期間中においても居住や立入りをすることに制約はなく,その指示対象期間の面からみても,
本件事故以前の生活基盤に対する本件
事故による侵襲の程度は,
長期にわたって強制的な避難を余儀なくされた
場合に比して大きいものではない。
自宅に帰れない苦痛についても,
強制的な避難指示等対象区域において
はそのような事情が認められるものの,緊急時避難準備区域においては,仮に避難を選択したとしても,自宅に帰れないという事情は全くなく,自由な意思に基づいて,帰還することが可能な状態にあったことから,そのような精神的苦痛の程度も,
強制的な避難指示等対象区域の住民と比較す
れば相対的に低いといえる。
避難生活の不便さによる苦痛自体については,
両者に特に差異はないも
のと考えられ,先の見通しがつかない不安については,緊急時避難準備区域では,居住者もおり,本件事故後も生活インフラの復旧等が進められていたこと,その上で,本件事故発生から約6か月半が経過した平成23年9月30日をもって指定が解除されており,
その指示期間は比較的短期に
とどまっていることなどからすれば,
強制的な避難指示等対象区域では長
期にわたっての避難指示が継続しているという事情と比較しても,そのよ
うな不安自体,
強制的な避難指示等対象区域の住民が置かれていた状況に
比しても,相対的に大きなものではない。

中間指針等に基づく1人当たり月額10万円の慰謝料額について
前記のとおり,中間指針等に定める避難等に係る慰謝料額は,最低限の基準として定められたものではなく,本件事故によって避難等対象者に生ずる被害状況に基づく精神的苦痛を類型的・包括的に考慮して,多数の被害者の精神的苦痛を慰謝するに足りる水準において慰謝料額の指針を定めたものである。また,原賠審は,1人当たり月額10万円という避難等に係る精神的損害の賠償額を導くに当たっては,
本件事故においては負傷を伴う精
神的損害が生じているものではないが,
負傷を伴う場合の自動車損害賠償責
任保険における慰謝料額を参考にし,
過去の裁判例等も参照して定められた
ものである。したがって,中間指針等に定める1人当たり月額10万円という慰謝料額は,
多数の被害者の精神的苦痛を十分に慰謝するに足りる水準で
あるといえる。

1人当たり月額10万円の慰謝料の基礎額については,
時間の経過によっ
て減額されず,区域指定の解除後も11か月間にわたって,本件事故直後と同額のまま,減額されずに継続して賠償されること
中間指針においては,本件事故発生から6か月間(第1期)については,避難等に係る慰謝料額を1人当たり月額10万円としつつ,
第1期終了後6
か月間(第2期)については,突然の日常生活とその基盤の喪失による混乱等という要素は基本的にこの段階では存せず,この時期には,大半の者が仮設住宅等への入居が可能となるなど,長期間の避難生活の基盤が整備され,避難先での新しい環境にも徐々に適応し,避難生活の不便さなどの要素も第1期に比して縮減すると考えられるとして,第2期の慰謝料額は1人当たり月額5万円としている。
そのような中で,被告東電においては,平成23年9月末までの緊急時避難準備指示期間中のみならず,同年10月以降においても,指定解除後の相当期間として帰還に要する準備期間等も考慮の上で,
平成24年8月末まで
の11か月にわたって,本件事故発生後6か月間(第1期)の慰謝料額と同額の1人当たり月額10万円を減額することなく賠償する旨公表している。この結果として,
被告東電が公表する旧緊急時避難準備区域の住民に対す
る慰謝料額は180万円となるが,これは,旧緊急時避難準備区域が強制的な避難が求められた区域ではなく,
平成23年9月末には指定解除されてい
ること等に鑑みても,
本件事故と相当因果関係のある精神的苦痛を十分慰謝
するに足りる慰謝料額となっているといえる。

中間指針等に基づく旧緊急時避難準備区域の旧居住者に対する精神的損
害の賠償終期の考え方にも十分合理性があること
中間指針第二次追補は,
旧緊急時避難準備区域の居住者に係る精神的損害
の賠償終期については平成24年8月末を目安とするとしているが,その理
由として,
①この区域におけるインフラ復旧は平成24年3月末までに概ね完了する見通しであること,
②その後も生活環境の整備には一定の期間を要
する見込みではあるものの,
平成24年度第2学期が始まる同年9月までに
は関係市町村において,
当該市町村内の学校に通学できる環境が整う予定で
あること,
③避難者が従前の住居に戻るための準備に一定の期間が必要であること等を考慮したとされている。このような考え方については,旧緊急時避難準備区域が,
緊急時に備えて避難の準備ができるように求めるものであ
ったこと,指定解除に先立って,対象自治体が復旧計画を策定し,政府(原災本部)に提出しており,これに基づく政府と関係市町村との意見交換や連携を経た上で,原子力安全委員会も指定解除について差し支えないと回答していることも踏まえ,
平成23年9月30日をもって指定が解除されて
いること,
その前後を通じて本件事故後には同区域での居住や立入りは禁じ
られていないこと,旧緊急時避難準備区域においては,平成24年8月頃までにはインフラの回復などが進捗しており,
空間放射線量も低減しているこ
となどを踏まえて上記の終期が定められたものであり,
かかる賠償終期には
合理性・相当性がある。

精神的損害の賠償の他にも,避難費用,就労不能損害,営業損害などの財産的損害は別途賠償の対象となること
旧緊急時避難準備区域の旧居住者に対しては,避難等に係る精神的損害(1人月額10万円)のほか,本件事故と相当因果関係のある避難費用,一時立入り費用,就労不能損害(給与所得者の場合),営業損害(事業主の場合)などの財産的損害については,別途,中間指針等に基づいて賠償されるのであり,精神的損害の賠償のみならず,財産的損害についても別途賠償することによって本件事故により生じた損害の総体を賠償することとしているものであり,被告東電が公表している慰謝料額は,いわゆる包括的慰謝料として,
一切の財産的損害を考慮して定めた慰謝料の賠償によってその全体の損害を填補するとの考え方が採られているものではない
(1人当たり月額
10万円の基礎額には通常生じ得る生活費の増加分のみが合算考慮されているにとどまる。)。
したがって,そのような賠償の全体像からみても,被告東電が公表している慰謝料額は合理的な金額である。

以上より,
旧緊急時避難準備区域の原告らの精神的損害についての慰謝料
は180万円を超えることはない。



自主的避難等対象区域の原告らの精神的損害について

被侵害利益
本件事故後の状況の下で,避難指示等の対象とされていないものの,避難等対象区域の周辺において,
本件事故による恐怖や不安を抱かざるを得ないという状況に一定期間置かれたことにより正常な日常生活が相当程度阻害されたこと(平穏生活権の侵害)については法的に保護される権利利益の侵害に当たるということができる。そして,本件事故後の避難指示等対象区域外における本件事故由来の放射線による健康リスクは,
客観的に健康に
対する危険が生じていたとまでは評価できないものの,他方で,本件事故発生当初の時期においては,状況は必ずしも明確でなく,自己の置かれている状況についての情報を正確に把握することが困難な時期があったことも確かであり,また,本件事故の今後の進展について恐怖や不安を覚えることもやむを得ない状況にあったことが認められる。
したがって,本件事故の今後の進展や健康影響が分からないことにより,平均的・一般的な人を基準として,感じることがやむを得ないと考えられる恐怖や不安に基づいて,自主的な避難を選択し,又は,そのような不安の中で滞在を継続することによって,
本件事故が発生しなければ生じなかった日
常生活の阻害が生じると考えられる範囲においては,
これによる精神的損害
は賠償の対象となる。

避難指示の対象となっていない区域については,
放射線による客観的な健
康への危険が生じているとは評価できず,
その旨の情報提供は新聞報道等で
もされており,福島県知事も冷静な対応を呼びかけている状況にあった。新聞報道においても,
避難指示等対象区域外の居住者も避難すべきであるとい
う論調は見当たらない中で,
避難指示等対象区域外の居住者に生じ得る恐怖
や不安については,
避難指示等により避難を余儀なくされた避難指示等対象
区域の居住者と比較して,権利侵害の程度は小さいと考えられる。避難指示等対象区域外からの避難者の損害については,
政府の避難指示等によって避
難を余儀なくされたことによって生じたものではなく,
通常よりも高い放射
線量や本件事故の進展の状況に対する不安や恐怖を覚えざるを得ない状況に置かれたことによる日常生活の阻害をもって賠償の対象とみることが相当であり,
避難指示により強制的に居住権の制約を受けた避難等対象者の損
害とは異なる。したがって,このような避難指示等対象区域外からの避難者の被侵害利益の特徴も踏まえて相当因果関係を考えるに当たっては,自主的
避難等対象区域内に居住している平均的・一般的な人を基準として,相当程度の恐怖や不安を抱いたことにつき,
慰謝料や避難の相当性を基礎付ける程
度の権利侵害状態が継続しているか否か,
そのように評価し得るのはいつま
でか,その適正な損害額はいくらかなどについて検討すべきである。

自主的避難者と滞在者について
被侵害利益については,
本件事故による恐怖や不安を抱かざるを得ないという状況に一定期間置かれたという点において,自主的避難を選択した者であっても滞在者であっても,
その置かれていた状況は共通しているとい
える。その上で,自主的避難を実行した者は,放射線被ばくへの不安からは離脱することができるが,避難生活による日常生活の阻害が生じ得る一方で,滞在者については,滞在することにより放射線被ばくへの不安が継続する可能性があることとなり,
これによる日常生活の阻害が生じ得ると考えら
れる。
このように,自主的避難者と滞在者の行動の相違に基づき,具体的な精神的苦痛の在り方は異なるものではあるが,
いずれも放射線被ばくに対する恐
怖や不安を基礎として生じている精神的苦痛であり,
本件事故の放射線の作
用と相当因果関係のある日常生活の阻害に基づく精神的損害の評価上,自主
的避難者と滞在者とで,
画然とした差異があるということはできないことを
考慮すれば,
自主的避難者と滞在者の賠償額に差を設けることは公平かつ合
理的とはいえない。
すなわち,自主的避難者については,自主的避難によって生じた生活費の増加費用,自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,避難及び帰宅に要した移動費用が,賠償すべき損害と認められ,滞在者については,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,
その増加費
用が賠償すべき損害と認められ,
自主的避難者と滞在者の上記の合算損害額
は同額として算定するのが公平かつ合理的であるとしているところ,この考
え方は合理性がある。

自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について
大人(妊婦・子供以外)の賠償期間について
本件事故発生以降,
福島第一原発の状況や放射線量に関する情報が行政
機関等によって徐々に公表され,
平成23年4月22日には政府による避
難指示等の対象区域が概ね確定したことに照らすと,
自主的避難等対象区
域内に居住する平均的・一般的な人を基準として,平成23年4月22日頃までには,
自己の置かれている状況について合理的に判断することがで
きる状況に至っており,同日以降は,自己の置かれている状況について十分な情報がなかったとはいい難いことから,
自主的避難等対象区域の居住
者について慰謝料を基礎付ける程度の恐怖や不安を抱くことが法的にやむを得ないと認められる期間としては,本件事故発生当初の時期として,概ね平成23年4月22日頃までと解するのが相当である。
妊婦・子供の自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について妊婦・子供は放射線への感受性が高い可能性があることが一般的に認識されており,妊婦・子供のいる世帯では,特に放射線被ばくに対する不安が大きいことに鑑みて,妊婦・子供に対しては,大人とは異なり各段に長期間にわたっての精神的損害の賠償を行うこととしている。
妊婦や子供の
健康影響に対する不安については,
妊婦や子供自身の健康上の不安に係る
精神的苦痛であることから,親ではなく,妊婦や子供に対して精神的損害を賠償することとしているが,かかる賠償は,広い意味で妊婦や子供がいる世帯全体に対する精神的損害の賠償としての意味を有しているものである。そして,中間指針第二次追補において,平成23年9月30日に指定が解除された旧緊急時避難準備区域に生活の本拠を有する避難等対象者への精神的損害の賠償の終期が平成24年8月31日までを目安とする旨定められていることも踏まえ,避難等対象者ではない妊婦・子供の自主的避難等対象者に対する賠償の対象期間を平成24年8月31日までとすることは,
被害者保護の観点にも十分配慮して定められた賠償対象期
間であり,合理的かつ相当である。
同伴者である大人の自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について
特定の家族が,妊婦・子供の避難に同伴したとしても,当該同伴者である大人が自己の被ばくに対する不安から避難するものでないことからすれば,当該同伴費用については妊婦・子供自身の損害として填補される状況の下で,
同伴行為そのものに起因して当該同伴者に固有の慰謝料が発生
することはない。したがって,同伴者の同伴費用も妊婦・子供の損害に含めて賠償額を設定することは合理的であり,
大人の自主的避難等対象者の
精神的損害の賠償対象期間について,
妊婦や子供に同伴したか否かによっ
て別異に解されるものではない。

自主的避難等対象者の損害の賠償額について
大人(妊婦・子供以外)について
前記のとおり,自主的避難等対象者である大人について,本件事故と相当因果関係のある精神的損害の賠償対象期間は,
本件事故発生当初の時期
である概ね平成23年4月22日頃までと解するのが相当であり,大人個
人に対する当該期間についての精神的損害の賠償額は,
他の区域の被害者
の賠償額との均衡や裁判例等に鑑みれば,
1人当たり8万円の慰謝料及び
4万円の追加的費用の実費賠償を行うことで被害者らの被った損害の賠償としては十分である。
妊婦・子供について
被告東電は,妊婦や子供各人1人当たり,①精神的損害と生活費の増加費用等を一括した一定額として,
平成23年分40万円及び平成24年1
月から同年8月までの分8万円(1人当たり合計48万円)を賠償するとともに,②妊婦・子供のうち実際に自主的避難を実行した者に対しては,追加的費用として平成23年分20万円及び平成24年1月から同年8月まで4万円(1人当たり合計24万円)を賠償している。この結果,滞在者である妊婦・子供については1人当たり48万円,自主的避難者である妊婦・子供については1人当たり72万円の損害額が賠償されることになる。これは,他の区域の被害者や大人(妊婦・子供以外)の賠償額と均衡を失するものではなく,合理的な金額といえる。


区域外居住者の精神的損害について

避難指示等対象区域ではなく自主的避難等対象区域にも該当しない区域
(区域外)については,自主的避難等対象区域と同様又はそれ以上に放射線被ばくによる健康被害のリスクについては問題がない水準であり,それゆえ
に避難指示等対象区域外では政府によっても避難等の指示の対象となっていない。また,一般的に,区域外は福島第一原発や避難指示等対象区域からかなり遠く,
あるいはそれが福島県外であれば混乱の状況には同県内と少な
からず相違があったと考えられる上,その空間線量も低く,福島第一原発の状況や放射線被ばくに対する不安感に基づく避難が平均的・一般的な人を基準として相当であるとは解しがたい。そのため,福島第一原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,
政府や地方公共団体から公表された放射線
量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡など)等に照らしても,平均的・一般的な人を基準として,その居住者において自主的に避難することもやむを得ない程度に恐怖や不安を抱いたということはできないというべきであり,原賠審においても,原子力損害としての賠償の要否及び賠償する場合の基準を示すために議論を重ねて,自
主的避難等対象区域以外については,
空間線量が高くないことや当該区域に
おいて避難した者が少ないこと等を勘案して賠償対象としなかったのであるから,特段の事情がない限り,その居住者の慰謝料や避難に伴う損害について本件事故との相当因果関係は認められない。

もっとも,福島県県南地域(白河市,西郷村,泉崎町,中島村,矢吹町,棚倉町,矢祭町,塙町及び鮫川村)においては,その住民一般について法律上保護される利益の侵害は認められないものの,
特に子供・妊婦に関しては,
一般的に放射線感受性が高い可能性があると認識されていたことから,本件
事故後に子供・妊婦の健康に対する不安な心理が生ずることはやむを得ない事情は存在したといえる。したがって,福島県県南地域が避難指示等対象区域に近接しておらず,
自主的避難等対象区域に比して総じて福島第一原発か
ら離隔していることを踏まえても,
本件事故直後の一時期に限った空間放射
線量の状況に鑑みて,子供・妊婦については,本件事故による放射線被ばくを受けることによって相当程度の恐怖や不安を抱くことにより,
法律上保護
される利益の侵害は認められ得るといえる。一方で,福島県県南地域が自主的避難等対象区域とされていないことからも明らかなとおり,
たとえ例外的
に子供・妊婦に法律上保護される利益の侵害を肯定するとしても,福島県県南地域の地理的状況や空間放射線量の状況等に鑑みれば,
損害の程度として
自主的避難等対象区域と同等と評価することはできない。そして,被告東電は,
平成23年3月11日から平成24年8月31日までの期間を対象として,福島県県南地域の子供・妊婦に対して,1人当たり合計24万円の精神的損害等の賠償を行っているところ,
賠償対象期間及び賠償額は合理性を有
するものである。
2
弁済の抗弁
(被告東電の主張の要旨)
被告東電が賠償している精神的損害の賠償金は,避難等対象者に対するもの,自主的避難等対象者に対するもの,
いずれも生活費の増加分等の一定の財産的損
害についても総合的に考慮した包括的なものである。また,1個の不法行為から生じた精神的損害及び財産的損害に関する賠償の請求権は1個であり,その両者
の賠償を訴訟上併せて請求する場合にも訴訟物は1個と解すべきとされており,本件訴訟においても各原告の請求権は1個である。そして,被告東電が賠償した包括慰謝料については,財産的損害の一部の賠償が含まれているものであるが,包括慰謝料の性質として両者を金額上分別することは不可能である。したがって,本件訴訟においては,①原告らに本件事故に基づく精神的損害が認められるか否か及び認められる場合の損害額を認定し,
②原告らに本件事故に基づく財産
的損害が認められるか否か及び認められる場合の損害額を認定し,③上記①及び
②について判断された上で裁判所が精神的損害及び財産的損害の損害額を認定した場合において,その認定額の総額に対して,被告東電の既払金の総額を充当控除し,残余がある場合に限ってその限度で請求が認容されるべきである。(原告らの主張の要旨)
被告東電は,中間指針等に従って原告らに対して賠償を行っているところ,被告東電が慰謝料又は精神的損害として支払ったと主張しているものの中には,精神的苦痛に対する賠償のみならず,生活費増加費用や自主的避難等対象区域の避難者の場合は移動費用(交通費,宿泊費)も含まれている。そして,原告らには高額の生活費増加費用や移動費用が生じている。したがって,被告東電が慰謝料又は精神的損害として支払ったと主張するものには,精神的苦痛以外に対する賠償も相当程度含まれているから,
全額を慰謝料に充当すべきで
はない。
3
被告東電及び被告国の共同不法行為の成否及び賠償額の差
(原告らの主張の要旨)


共同不法行為成立による損害全部についての責任
民法719条1項前段は,

数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。と定めており,

数人の共同の行為の結果として損害が発生した場合において,各加害行為者は,共同の加害行為と損害の間に相当因果関係が認められれば,結果発生に対する自らの加害行為の寄与の程度に関わらず損害の全部について連帯して賠償すべきことを定めて,被害者の保護を図っている。



本件における被告国と被告東電の加害行為の相互関係は,
異なる類型の加害
行為が,時間的に前後し,相互に関連しつつ結果発生に寄与する類型である。すなわち,被告国の規制権限不行使という加害行為は,時間的見地及び法規制の果たす機能の見地からは,被告東電による津波に対する所要の防護措置を怠ったままでの原子炉の運転という加害行為に先行する関係に立ち,かつ,両者はそれぞれ,
本件事故による原告らの損害発生という同一の結果の全部に
対し,並行して寄与するという関係に立つ。そして,最高裁判例の基準に照らせば,同種の加害行為の競合が認められる類型に限られず,異なる類型の加害行為が時間的に前後しつつ,
同一の結果の発生に競合して寄与する類型におい
ても,共同不法行為の成立が認められるべきである。したがって,被告国と被告東電の各加害行為の間には関連共同性が認められることから,
民法719条
1項前段の共同不法行為が成立し,被告国も,被告東電と連帯して,原告らの損害全部について賠償義務を負う。
(被告国の主張の要旨)
福島第一原発を管理・運営し,その利益を享受しているのは被告東電であり,被告国ではない。そして,被告国は,その設置等に際し,許認可をしたり,定期検査等をしているものの,これらは,被告東電の原子力施設に対する安全管理義務を軽減したり,免責するものではない。したがって,福島第一原発の安全管理は,一次的には,被告東電において行われるべきものであり,被告国は,これを後見的・補充的に監督するにとどまる。
そして,民法719条1項前段の共同不法行為が成立するためには,客観的にみて一個の共同行為があるとみられることが必要と解されるところ,被告国の規
制権限の行使は,対象者の自由な活動に一定の制約を課し,不利益を与えるものであって,対象者に対し,責任や注意義務を軽減し,免責するという性格のものではなく,両者は次元を異にする責任である。また,被告国と被告東電では,安全対策の要否を検討するために必要な情報の収集やこれを分析する能力に大きな差があり,同じ情報を把握していたとしても,被告国と被告東電では検討に要する時間を異にする上,何らかの対策が必要との結論に達したとしても,それから,規制権限の行使に至るためには,様々な過程を経る必要のあることも考慮すると,
被告国の規制権限行使と規制対象者である原子力事業者の不法行為との間に,客観的にみて一個の共同行為があるとみることはできない。そうすると,仮に被告国の規制権限不行使について,
国賠法1条1項の違法が認められるとして
も,これと被告東電の不法行為は,共同不法行為とはならず,単に不法行為が競合しているにすぎないこととなる。このような場合において,損害の公平な分担という損害賠償の基本理念に照らし,上記諸事情を勘案すると,被告国の責任の範囲は,第一次的責任者である被告東電に比して,相当程度限定されたものになるべきである。
第4

損害論(各論)

(原告らの主張の要旨)
各原告は損害一覧表の請求金額欄記載の金額を請求する。各原告の中には,本件事故による精神的損害に対する賠償のみを求める者と精神的損害以外の財産的損害及び精神的損害に対する賠償を求める者がいる。
また,各原告の主張は,損害一覧表の原告の主張等欄及び原告の認否反論欄記載のとおりである。
(被告東電の主張の要旨)
被告東電は,損害一覧表の弁済の抗弁欄記載のとおり,弁済の抗弁を主張し,被告東電の主張は,同一覧表の被告東電の主張等欄記載のとおりである。(被告国の主張の要旨)
被告国の主張は,損害一覧表の被告国の主張等欄記載のとおりである。第4部

責任論に関する当裁判所の判断

第1章

認定事実

第1
1
我が国における原子炉設置許可に係る法体制
処分時炉規法の定め
処分時炉規法23条1項は,原子炉を設置しようとする者は,政令で定めるところにより,内閣総理大臣の許可を受けなければならないとし,同法24条1項は,内閣総理大臣は,原子炉設置の許可申請が同項各号に適合していると認めるときでなければ許可してはならないと定め,同条2項は,内閣総理大臣は,原子炉設置の許可をする場合においては,同条1項の設置許可の基準の適用について,あらかじめ原子力委員会の意見を聴き,これを尊重してしなければならないと定め,同項3号は,原子炉の設置許可の申請者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること,同項4号は,原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,
核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることと定めていた。

2
本件設置等許可処分当時の体制
本件設置等許可処分当時,
原子力委員会には,
原子炉安全専門審査会が置かれ,
同審査会は,原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議することとされており,審査委員は,学識経験のある者及び関係行政機関の職員で組織されることとされていた
(昭和53年法律第86号による改正前の原子力委員会設置法14条の2,3)。原子力委員会は,同審査会の調査審議の結果を踏まえ,当該申請に係る原子炉施設について,申請者が所定の技術的能力を有するか,原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるかどうか等について審査の上,これら
に問題がないと認められた場合に,内閣総理大臣に対し,処分時炉規法24条1項各号の許可の基準に適合している旨の答申をし,内閣総理大臣は,これを十分に尊重し,原子炉設置許可について判断をするものとされていた(処分時炉規法24条2項)。
第2

設置許可・変更許可処分

1
1号機


設置許可申請(丙A180)

被告東電は,昭和41年7月1日,福島原子力発電所の原子炉設置許可申請書を内閣総理大臣に提出した。

同申請書において,
標高約35mの台地を標高約10mまで掘り下げて敷
地を作って原子炉建屋,
タービン建屋等を設置することなどが記載されてい
た。また,非常用ディーゼル発電機の個数は1台とされ,設置場所としてはタービン建屋に設置することとされていたが,
津波に対する対策は許可申請
書本文には記載がなかった。



設置許可審査及び認可
そして,原子力委員会は,原子炉安全専門審査会に対し,その調査審議を指示したところ,原子炉安全専門審査会は,昭和41年11月2日,概要,以下のとおり審査し,
上記原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るとの審査結
果を報告し(丙A21),これを踏まえ,内閣総理大臣は,同年12月,設置許可処分を行った。
ア1設置計画の概要の調査審議において,立地条件としては,⑴敷地
及び周辺環境,⑵地質,⑶海象,⑷気象,⑸地震,⑹水利についての調査審議を行い,上記のうち,⑵地質については,原子炉建設用地として整地される標高10m附近は,固結度の低い砂岩層であるが,原子炉建屋等の主要建物は標高-4m附近の泥岩層に直接設置され,この泥岩層の岩質は堅硬で,支持地盤として十分な耐力を有すること,⑶海象については,波高の記録として,
水深約10mにおいて最高約8mという記録
(昭和40年台風28号)
があり,潮位の記録として,小名浜港(敷地南方約50km)における観測記録によれば,チリ地震津波時(昭和35年)の最高3.1mがあること,⑸地震については,過去の記録によると,福島県近辺は,会津附近を除いて全国的に見ても地震活動性の低い地域の一つであり,
特に原子炉敷地附近は地
震による被害を受けたことがないことなどが指摘された。

2安全対策,3検討,5このうち,「2平常運転時の被ばく評価,4災害評価及び6各種事故の技術的能力についても調査審議し,
安全対策」の2.10安全防護設備の機能確保にお

いては,原子炉施設に必要な電力は,主発電機又は275KV母線から供給されるが,予備電源としての送電線からも受電できるほか,これらの電源が全て喪失しても,原子炉施設の安全確保に必要な電力は,ディーゼル発電機及び所内バッテリ系から供給できるようになっているとしている。また,2.11耐震上の考慮においては,全ての施設は,安全上の重要度に
従って,原子炉,原子炉建屋等のように,その機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのある施設等についてはAクラス,格納容器,制御棒駆動機構等のように安全対策上特に緊要な施設はAsクラス,タービン系,廃棄物処理系等のように高放射性物質に関する施設はBクラス及びその他の施設はCクラスといった4種類のクラスに分類され,それぞれに応じて耐震設計が行われ,設計された建物,構築物,機器,配管類は敷地における地震活動性,地盤状況等からみて耐震上安全であると考えられるとした。
3平常運転時の被ばく評価に当たっては,平常運転時における被ば
く線量は,
敷地周辺の公衆に対して放射線障害を与えることはないものであ
ることを確認している。
そして,4各種事故の検討では,発生する可能性のある4.1反応度事故として,⑴起動事故,⑵運転中の制御棒引抜事故,⑶制御棒落下事故,⑷制御棒退出事故,⑸冷水事故,4.2機械的事故として,
⑴冷却材流量喪失事故,⑵冷却材喪失事故,⑶主蒸気管破断事故,⑷燃料取扱事故,⑸電源喪失事故,⑹その他機器類の故障についてそれぞれ検討した上で,それぞれの事故についての対策が講ぜられており,本原子炉が十分安全性を確保し得るものであることを確認した。電源喪失事故については,常用所内電源が全て喪失した場合には,安全系も停電するため,原子炉はスクラムされること,その後の原子炉の冷却は,非常用復水器により行われること,他方,安全上重要な機器の操作に必要な電力は,ディーゼル発電機及び所内バッテリ系から供給されることを確認した。
5災害評価では,
5.1重大事故として,⑴冷却材喪失事故,

⑵主蒸気管破断事故及び⑶ガス減衰タンク破損事故を,5.2仮想事故

として,
⑴冷却材喪失事故及び⑵主蒸気管扱断事故をそれぞれ想定した上で行った災害評価の結果は,
昭和39年原子炉立地審査指針に十分適合してい
ると認めた。
2
2号機ないし4号機


変更許可申請
被告東電は,当初の許可の変更許可手続として,2号機については昭和42年9月に,3号機については昭和44年7月に,4号機については昭和46年8月にそれぞれ申請書を提出した(丙A22ないし24)。



変更許可申請審査及び認可(丙A22ないし24)
そして,原子力委員会は,原子炉安全専門審査会に対し,2号機から4号機の増設に係る調査審議を指示したところ,
原子炉安全専門審査会は,
概要,
1変更計画の概要,2被ばく評価,4安全設計および安全対策,3各種事故の検討,5平常運転時の災害評価及び6技術的能力といった1号機における審査をおおむね踏襲する内容の調査審議をし,これを踏まえ,内閣総理大臣は,2号機については昭和43年3月に,3号機については昭和45年1月に,
4号機については昭和47年1月に設置変更許
可処分を行った。
第3

原子力発電所における安全対策及び電源喪失の危険性についての知見
1
原子力発電所における安全対策の考え方


国際原子力機関(IAEA)は,平成8年,報告書を公表し,シビアアクシデント対策強化のため,5層までの深層防護を行う必要性を示し,その後の平成12年の原子力安全基準(NS-R-1)でも同様の考え方を示している。国際原子力機関が策定した原子力安全基準(NS-R-1)は,多重防護の各層を以下のとおりとしている。
(甲A1の2・本文編297頁ないし302頁,
甲A2・117頁,丙A224)
第1層

異常運転及び故障の防止

第2層

異常運転の制御及び故障の検出(事故への拡大防止)

第3層

設計基準内への事故の制御
(設備に対して重大な影響が発生しても
炉心損傷を起こさないよう備えること)

第4層

事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和
(炉心損傷が発
生しても放射性物質の環境への重大な放出がないよう備えること)
第5層

放射性物質の放出による放射線影響の緩和
(住民を守る安全対策の
必要性を示すこと)



我が国においては,本件事故時まで,第1層から第3層まで及び第5層を規制しており,第4層のシビアアクシデント対策については,飽くまで事業者の自主対応による知識ベースとされた(甲A2・116頁)。

2
原発施設における冷却の必要性及び非常用電源設備の重要性
原子力発電所は,核分裂性物質を燃料とし,核燃料が連鎖的に核分裂反応を起こすことで発生する熱エネルギーを利用してタービンを回して発電する発電所であり,①核分裂反応の指数関数的な拡大を防止するために,核分裂反応を適切に制御する必要があり,異常時には原子炉を即座に止める必要があり,②核分裂反応停止後にもなお崩壊熱が残るため冷やす必要があり,さらに,③核分裂生成物は,人体・環境に多大な悪影響を及ぼすことから,原子炉内に閉じ込める必要がある(甲A1の1・本文編11ないし14頁)。
そして,冷却設備の駆動源として電源を確保することが必須であり,全交流電源喪失を回避するためには,
外部電源又は非常用ディーゼル発電機等から電源が
確保される必要があるが,このうち,外部電源については,一定規模の地震動によって機能喪失に至る危険があり得ることから,
全交流電源喪失を回避するため
には,非常用電源設備等の機能を維持することが必要である。また,非常用電源設備等及び高圧配電盤は,いずれも電気機器であるところ,水(特に海水)は電気を流すので,浸水により機器の機能喪失に至るという性質を有している。(甲A1の2・本文編27頁,甲A3)
3
原子力発電所における電源喪失に係る事故及び同事故を踏まえた対策⑴

被告東電における平成3年の海水漏えい事故

福島第一原発1号機において,平成3年10月30日に,補機冷却水系海水配管からの海水漏えいに伴う原子炉手動停止の事故が発生した(甲A91)。


平成16年になって原子力施設情報公開ライブラリー
(原子力安全推進協
会)によって,上記事故の原因等について,以下のように整理された(甲A92)。
現場調査の結果,電動機駆動原子炉給水ポンプ付近の床下に埋設されている補機冷却水系海水配管の母管より分岐し原子炉給水ポンプ用空調機へ供給する配管の分岐部近傍に約22mm×40mmの貫通穴があいていることを確認し,

海水漏えい箇所周辺の機器類について調査を行った結果,1-2号共通ディーゼル発電機及び機関の一部に浸水が確認された。このため,当該ディーゼル発電機及び機関について工場で点検修理を行った

とされ,海水配管から海水漏えいに至った原因は,貝等の異物によりライニング表面に傷ができ,
この傷が徐々に拡大しライニングが局部に損傷し,
その後,
海水が局部的に損傷されたライニング部に浸透し海水による腐食減肉が内面より徐々に進行した結果,当該海水配管の一部が局所的に貫通し,海水の漏えいに至ったと推定された。


フランスのルブレイエ原子力発電所事故(甲A20・13頁,94,166の1・2)
フランスのルブレイエ原子力発電所において,平成11年12月27日,暴風雨の影響で外部電源が失われ,非常用電源が起動したが,高潮と満潮が重なりジロンド河口に波が押し寄せた結果,河川が増水し,川の水が洪水防水壁を越えて浸入し,電源が喪失する事故が発生した。
ルブレイエ原子力発電所の運営を行うフランス電力公社は,
調査結果を基に
堤防や防潮堤のかさ上げ,延長及び強化,防水扉の設置による水侵入に対する抵抗の改良,隙間と貫通部の密閉等の対策をとった。



台湾の馬鞍山原子力発電所事故(甲A20・14頁)
台湾の馬鞍山原子力発電所において,平成13年3月,送電線事故により外部電源喪失事故が発生し,
更に非常用ディーゼル発電機の起動失敗が重なった
ことにより,全電源喪失事故となった。



インドのマドラス原子力発電所の津波による電源喪失事故(甲A20・14頁)
インド南部にあるマドラス原子力発電所において,
平成16年12月に発生
したスマトラ島沖地震に伴う津波により,津波でポンプ室が浸水し,非常用海水ポンプが運転不能になる事故が発生した。

4
国内の溢水による電源喪失についての知見


平成5年の全交流電源喪失事象の研究
原子力施設事故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループは,平成5年6月11日付けで原子力発電所における全交流電源喪失事象についてを報告した。同報告書では,短時間で交流電源が復旧できずSBO(全交流電源喪失事象)が長時間に及ぶ場合には,非常用蓄電池の枯渇による運転監視・制御機能等が失われ炉心の冷却等が維持できなくなることから,炉心の損傷等の重大な結果に至る可能性が生じると考えられる。,近年,SBOのような発生頻度が非常に低いと考えられる事象を含む想定し得るすべての事故シナリオを対象として,炉心損傷等の可能性を定量的に分析・評価する確率論的安全評価(PSA)が多くの国で行われている。ことなどが指摘され,国外でのSBO事例や外部電源喪失事例についても検討された。その上で,我が国においてはSBOの事例が生じていないこと,外部電源喪失頻度や外部電源復旧時間の値が米国に比べて優れていること,
最近10年間
の非常用ディーゼル発電機の起動失敗確率の実績が米国の実績に比べて低いこと,
我が国の原子力プラントのSBOに対する原子炉の耐久能力は5時間以上と評価されること,
我が国の代表的な原子力プラントについて行った内的事
象のみを起因事象としたPSA結果によれば,
SBOによる炉心損傷の発生頻
度は低いことなどから,
我が国の原子力プラントにおけるSBOの発生確率は
小さく,
SBOが発生したとしても短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な事態に至る可能性が低いとされた。(丙A90)⑵

溢水勉強会

設置経緯
保安院及び原子力安全基盤機構は,
平成16年12月26日に発生した
スマトラ島沖地震に伴う津波により,
インドのマドラス原子力発電所2号
機で取水トンネルを通って海水がポンプハウスに入り,
必須プロセス海水
ポンプのモータが運転不能になったことを踏まえ,
平成17年6月8日に
開催された第33回安全情報検討会において,
外部溢水問題に係る検討を
開始した(丙A41)。
また,保安院及び原子力安全基盤機構は,米国NRCが平成17年11月7日にタービン建屋で循環水配管等の破断を仮定すると,
内部溢水によ
り安全停止機能が損なわれる可能性があることを事業者に通知したことから,この通知を第40回安全情報検討会で紹介し検討項目とした(丙A41)。
上記のとおり,安全情報検討会において,米国キウォーニー原子力発電所で低耐震クラス配管である循環水系配管の破断を仮定すると,
タービン
建屋の浸水後,
工学的安全施設及び安全停止系機器が故障することが判明
したとの情報があり,
スマトラ島沖地震による津波によりマドラス2号炉
では,海水が取水トンネルを通ってポンプハウスに入り込み,非常用海水ポンプが水没して運転不能となったとの情報があったため,
上記事象に係
る我が国の現状を把握するため,平成18年1月,保安院,原子力安全基盤機構,電気事業者等で構成する溢水勉強会を立ち上げ,調査検討を開始した。この溢水勉強会は,平成19年4月,溢水勉強会の調査結果についてと題する報告書をまとめた。(丙A42)イ
概要
溢水勉強会は,原子力発電所内の配管の破断等を理由とする内部溢水,津波による外部溢水を問わず,溢水に関する調査,検討を進めていたが,検討の過程で,
原子力安全委員会が示している耐震設計審査指針が改訂さ
れたことから,
外部溢水に係る津波の対応は耐震バックチェックに委ねら
れることになった(丙A42)。
平成18年5月11日に開催された第3回溢󠄀水勉強会においては,想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)(丙A44の2)に従った影響評価の結果として,福島第一原発5号機について,以下のとおり,報告された(丙A45)。
a
津波水位の仮定
津波水位として,O.P.+14m(敷地高さ(O.P.+13m)+1m)及びO.P.+10m(上記仮定水位と設計水位(O.P.+5.6m)の中間),時間として,長時間継続するものと仮定した。b
津波水位による機器影響評価
まず,屋外機器,建屋,構築物への影響として,敷地高さを超える津波に対して建屋に浸水する可能性があることが確認され,
具体的な流入
口としては,海側に面したタービン建屋(T/B)大物搬入口,サービス建屋(S/B)入口等があり,機器については,津波水位O.P.+10m及びO.P.+14mの両ケースともに,非常用海水ポンプが津波により使用不能な状態となる。
また,建屋への浸水による機器への影響として,津波水位O.P.+10mの場合には,建屋への浸水はないと考えられることから,建屋内への機器への影響はないが,津波水位O.P.+14mの場合は,タービン建屋(T/B)大物搬入口,サービス建屋(S/B)入口から流入すると仮定した場合,タービン建屋(T/B)の各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性がある。そして,その波及として,津波水位O.P.+14mのケースでは,浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する。平成19年4月には,溢󠄀水勉強会の調査結果についてと題する報告
書(丙A42)が取りまとめられ,同報告書において,福島第一原発の外部溢󠄀水に関して,
5号機を対象として津波による浸水の可能性がある屋外設備の代表例として,非常用海水ポンプ,タービン建屋大物搬入口,サービス建屋入口,非常用DG吸気ルーバの状況について調査を行った。タービン建屋大物搬入口及びサービス建屋入口については水密性の扉ではなく,非常用DG吸気ルーバについても,敷地レベルからわずかの高さしかない。非常用海水ポンプは敷地レベル(+13m)よりも低い取水エリアレベル(+4.5m)に屋外設置されている。土木学会手法による津波による上昇水位は+5.6mとなっており,非常用海水ポンプ電動機据付けレベルは+5.6mと余裕はなく,仮に海水面が上昇し電動機レベルまで到達すれば,1分程度で電動機が機能を喪失すると説明を受けた。と記載された(丙A42)。
第4

地震・津波に関する知見

1
本件設置等許可処分時の地震・津波に関する知見及びその後の進展等昭和41年から同47年にかけて,
被告東電の福島第一原発1号機から6号機
まで順次設置許可申請がされた際,津波対策が必要な波高につき,昭和35年チリ津波のときに小名浜港で観測された最高潮位であるO.P.+3.122m及び最低潮位O.P.-1.918mとして設置許可され,敷地の最も海側の部分についてはO.P.+4mの高さに整地されて,非常用海水ポンプはこの場所に設置された。これらの発電所の設置許可申請のされた昭和40年代には,まだ津波波高を計算するシミュレーション技術は一般化していなかったが,電子計算機
による津波数値計算(シミュレーション)は,1970年代以降,徐々に利用可能となっていった。(甲A1の1・本文編373ないし375頁)
2
4省庁報告書(甲A16,17,丙A30の1・2)


策定経緯等
平成9年3月に策定された4省庁報告書は,
総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,推進を図るため,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定しうる最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行ったものである(甲A16及び丙A30の1・はじめに,丙A30の2)。同報告書は,首藤(東北大学工学部教授(当時)),阿部(東京大学地震研究所教授
(当時)
をはじめとする有識者が委員会構成メンバーとなっていた
(甲
A16及び丙A30の1・69頁,丙A30の2)。


概要
既往津波の沿岸津波高については,
1600年以降を対象として沿岸別の最大津波高を整理した結果,三陸沿岸では,過去395年間に高さ10m以上の大津波が3回来襲している他に,高さ5m程度の津波は6回来襲しており,被害津波の来襲頻度が高い。とされ,既往津波による被害状況としては,太平洋沿岸北部における被害の特性として,人的被害は概ね全域で発生しており,相対的に三陸北部及び南部における被害が大きく,同一の地震津波により広域(複数の沿岸)で被害が発生することが多いとされた(甲A16及び丙30の1・8頁)。
想定地震の設定規模は,
歴史地震も含め既往最大級の地震規模を用いること
とし,想定地震の地域区分は,地震地体構造論(地震の起こり方の共通している地域では地体構造にも共通の特徴があるとの前提から,
日本周辺の地震の起
こり方(規模,頻度,深さ,震源モデルなど)に共通性のある地域ごとに区分し,それと地体構造の関連性について研究するもの)の知見に基づく地域区分を行うこととした(甲A16及び丙A30の1・9,10,126頁)。福島県沖を含むG3領域においては,既往最大の地震を1677年延宝房総沖地震であると特定し(甲A16及び丙A30の1・10頁),想定地震の発生位置は既往地震を含め太平洋沿岸を網羅する(甲A16及び丙A30の1・
9頁)という方針に従って,G3領域内で発生した延宝房総沖地震の断層モデル(震源断層の形状やその生成過程に関するモデル)を,同領域内の全域を対象として南北にずらして波源の設定を行った(甲A16及び丙A30の1・125,136,157,162頁)。
津波推計に際しては,
沿岸部では600m格子の水深データを用いた計算方
法が採用され,
福島第一原発1号機ないし4号機が所在する福島県双葉郡大熊
町の想定津波の計算値がO.P.+6.4m,福島第一原発5,6号機が所在する同郡双葉町の想定津波の計算値がO.P.+6.8mとそれぞれ算出された(甲A17及び丙A30の2・24,148頁)。
3
7省庁手引及び津波災害予測マニュアル(甲A15,113)


策定経緯等
被告国
(国土庁など7省庁)
は,
平成5年の北海道南西沖地震を踏まえ,
地域防災計画における津波対策強化の手引き(7省庁手引)(甲A15)の作成に着手し,平成9年にこれを公表するに至った。



概要
7省庁手引(甲A15)においては,現在の技術水準では,津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり,また,津波が発生した場合においても,地域の特性によって津波高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,津波防災対策の検討が極めて難しいものとなっており,これまでの津波災害は,必ずしも人口稠密な大都市域で発生したものではないため,今後,臨海大都市で発生する危険性がある都市津波災害に対する対策も新たに講ずる必要があることから,津波という災害の特殊性を十分踏まえ,総合的な観点から津波防災対策を検討し,津波防災対策のより一層の充実を図ることが必要不可欠となっていると指摘されている。そして,上記の認識の下,防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についてとりまとめられた。(3頁)対象津波については過去に当該沿岸地域で発生し,痕跡高などの津波情報を比較的精度良く,しかも数多く得られている津波の中から,既往最大の津波を選定し,それを対象とすることを基本としつつ,近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から…地震の発生位置や規模,震源の深さ,指向性,断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波の設定を行う必要があるとされた(9頁)。また,最大地震が必ずしも最大津波に対応するとは限らず,地震が小さくとも津波の大きい『津波地震』があり得ることに配慮しながら,地震の規模,震源の深さとその位置,発生する津波の指向性等を総合的に評価した上で,対象津波の設定を行わなければならないとし,過去の遠地津波の襲来状況などを整理,検討し,最大遠地津波による沿岸水位が上記対象津波の沿岸水位よりも大きい場合には,対象とする地震を別途設定するなどの措置が必要となるとされた(30頁)。7省庁手引の別冊とされた津波災害予測マニュアル(甲A113)は,首藤,阿部,佐竹(工業技術院地質調査所主任研究官(当時))らが委員として関わり,
地方公共団体が個々の海岸におけるきめ細かな津波災害対策を行うには,海岸ごとに津波の浸水予測値を算出した津波浸水予測図等を作成することが有効であるとして,予測図の作成方法等について明示することを目的としたものである(まえがき)。同マニュアルでは,津波の推算(津波浸水予測計算)については,①地殻変動に伴う津波の発生の伝播②外洋から沿岸へ③陸上への浸水,遡上の3過程に分けて考えることができるとされ,

推計結果の良否は,初期に与えた海面変動すなわち波源モデルの表現と,遡上域でのエネルギー損失の表現の適否に大きく依存するとされる(50頁)。また,津波の数値計算には至るところで誤差が入り込み得るから,計算結果を利用するに当たっては,
その利用目的ごとに判断することが重要となってくると
指摘されている(85頁)。
4
津波浸水予測図(甲A88,89の1ないし4,弁論の全趣旨)


策定経緯等
国土庁(当時)は,平成11年3月,4省庁報告書の検討を踏まえて作成された7省庁手引
(甲A15)及びその別冊津波災害予測マニュアル
(甲A113)に基づいて,福島第一原発の立地点をも含む沿岸部を対象として,想定される設計津波高さの津波の来襲によって,対象沿岸地域においてどの程度の津波による浸水(浸水高及び浸水域)がもたらされるかについて,海岸地形や地上の地形データを踏まえて,具体的に推計したものとして,津波浸水予測図を作成し,公表した。


概要
津波浸水予測図は,
個々の海岸における事前の津波対策を検討するための基礎資料となるものであり,かつ,具体的には,この地図を見ることにより,津波による浸水域の広がり,浸水高さ及びその中に含まれる市街地・行政機関等の公共施設,工場等を抽出することができ,その地域における津波防災上の課題を明らかにすることが出来る。とされた(甲A88)。具体的には,
各領域にとって最も大きな津波を発生させると考えられるモデ
ルを設定して数値計算で対象とする領域を設定し,
数値モデルは格子間隔10
0mの格子点モデルとして計算し,各領域において,津波高さが2,4,6,8,10mの5通りとなるよう,津波波形の設定を行い,想定される地震断層モデルによる津波が,実際に,沿岸部に到達した上で陸上にどのように遡上するかという予測結果を算出した。もっとも,防波堤や水門等の防災施設や沿岸構造物による効果は考慮しなかった。(甲A88,89の1ないし4)以上の結果,設定津波高6mの津波浸水予測図(甲A89の3)に基づいた場合,福島第一原発敷地へ遡上・浸水する津波の状況は,O.P.+10m盤に立地する1号機ないし4号機のタービン建屋(T/B)及び原子炉建屋(R/B)では,タービン建屋の海側に面した領域において3ないし4mを示す薄緑色となるなど,ほぼ建屋全体が浸水することが示されており,全体として,
1号機ないし4号機の立地点では敷地上から2ないし3m程度の浸水となることが示された。さらに,設定津波高8mの津波浸水予測図(甲A89の4)を前提とすれば,1号機ないし4号機の立地点のほぼ全域が地盤上2ないし3m以上の浸水となることが示された。
5
津波評価技術(甲A1の1・本文編375,376頁,丙A31の1ないし3)⑴

策定経緯等
平成11年に原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化についての検討を行うことを目的として,
土木学会原子力土木委員会に津波
評価部会が設置された。平成14年2月当時の主査は首藤であり,委員には阿部,今村,佐竹ら専門家のほか,被告東電を含む電力会社の担当者もいた。津波評価部会は,平成14年2月,北海道南西沖地震津波を契機とした津波防災に対する関心の高まりや4省庁報告書の公表等を背景として,津波評価部
会が培ってきた津波の波源や数値計算に関する知見を集大成して,原子力発電
所の設計津波水位の標準的な設定方法を提案したものとして津波評価技術を策定,公表した。



概要
津波評価技術は,
津波の波源設定から敷地に到達する津波高さの算定までに
わたる津波評価を体系化したものであり,
その評価手法は以下のとおりであっ
た。

既往津波の再現に必要な数値(丙A31の2)
想定津波(プレート境界付近,日本海東縁部及び海域活断層に想定される地震に伴う津波)の設定については,文献調査等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を評価対象として選定し,沿岸
における痕跡高を説明できるよう断層パラメータ(媒介変数)を設定し,既往津波の断層モデルを設定する。


想定津波による設計津波水位の検討の方法(丙A31の2)
既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルを基に,
津波をもたらす
地震の発生位置や発生様式を踏まえたスケーリング則に基づき,
想定するモ
ーメントマグニチュード(Mw)に応じた基準断層モデルを設定する。その上で,想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメ
ータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。このようにして得られた設計想定津波(想定津波群のうち,評価地点に最も大きな影響を与える津波)の数値計算結果に適切な潮位条件を足し合わせて設計津波水位を求める。

福島第一原発付近の設計想定津波(丙A31の3)
日本海溝沿いの海域において,
北部では海溝付近に大津波の波源域が集中
しており,津波地震・正断層地震が見られる一方,南部では1677年の延宝房総沖地震を除き,海溝付近に大津波の波源域は見られず,陸域に比較的近い領域で発生していると整理した。
この結果,津波評価技術では,福島県沖(日本海溝寄り)においては,福島県東方沖地震のみが既往の地震であり,
福島県沖の日本海溝沿いでは津波
地震が発生していないとし,1938年の福島県東方沖地震に基づくMw7.9の断層モデルを基準断層モデルとして設定した。

被告東電の対応(丙A32)
被告東電は,平成14年3月,津波評価技術に従って津波の検討-土木学会「原子力発電所の津波評価技術に関わる検討-」を策定し,保安院に対し,福島第一原発の設計津波最高水位は,近地津波O.P.+5.4ないし5.7m,遠地津波でO.P.+5.4ないし5.5mであると報告した(2002
6
長期評価


策定経緯等(前提事実,甲A100,102,103)
平成7年に発生した阪神・淡路大震災を踏まえて,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するために,政府の特別の機関として総理府(平成14年当時は文部科学省)に設置された推進本部は,平成14年7月31日,長期評価を公表した。
島﨑邦彦(東京大学地震研究所教授(当時),以下島﨑という。)は,地震学を専門とし,特に地震及び津波の長期予測について研究し,上記地震本部地震調査委員会委員,同長期評価部会長を務めた。


概要(甲A86,87,105,106,丙A33,132)

長期評価は,主として,固有地震モデルという理論,すなわち,個々の断層又はそのセグメントからは,
基本的にほぼ同じ規模の地震が繰り返し発生
するという考え方に基づいて,
三陸沖から房総沖までの太平洋沖を8個の領
域に区分した上で,
個々の領域内において繰り返し発生する最大規模の地震
を固有地震と定義し,その固有地震と同規模の地震が発生する確率を論じた。固有地震については,地震が発生していない期間が長ければ長いほど,地震発生の確率は高くなっていくと考えられ,
最新活動履歴が判明している
三陸沖北部のプレート間地震については,
発生年や発生間隔を取り入れて計
算するBPT分布を用いて地震発生の確率を算定した。

イ三陸沖北部から房総沖の海溝寄りと名付けられた海域(以下日本海溝付近という。)のプレート間大地震(津波地震)について,日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震は17世紀以降では,1611
年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震が知られているが,これらの地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとはいい難いため,固有地震であるとは特定できないとし,1896年の明治三陸地震についてのモデルを参考にし,
断層の長さが日本海溝に沿って20
0km程度,幅が約50kmの地震が,同じ構造をもつ日本海溝付近の領域内のどこでも発生する可能性があるとした上で,
M8クラスのプレート間大地
震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定されるとし,ポア
ソン過程
(一定時間の中で偶然に起きる事象の数の分布を示す数式であるポアソン分布に従って確率を計算するための理論であり,
その事象が当該期間
内に発生する平均回数に着目して発生確率を計算するもの)により,今後30年以内の発生確率は20%程度,
今後50年以内の発生確率は30%程度
と推定されるとした。
同領域内の特定の海域では,断層長(200km程度)と領域全体の長さ(800km)の比を考慮して,530年に1回の割合でM8クラスの地震が発生すると推定されるとされ,ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は6%程度,今後50年以内の発生確率は9%程度と推定されるとした。(なお,以上の見解を以下長期評価の見解という。)
上記の推定の根拠としては,
三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)の発生領域,震源域の形態,発生間隔等(表3-2)において,⑴地震の発生領域の目安⑵震源域の形態⑶震源域の根拠
として

震源域は,1896年の『明治三陸地震』についてのモデルを参考にし,同様の地震は三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があると考えた。

,⑸発生間隔等の根拠として,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りにかけて顕著な津波被害を伴ったM8クラスの地震の発生は,江戸時代以降には,1611年・1677年・1896年の3回と判断。(房総沖の震源はやや陸寄りという考え方もあるが,(1石橋986)および阿部(1999)から津波地震であることが明らかなので,評価対象に含める。)特定の領域(約200km)の発生頻度は1896年明治三陸地震の断層長(約200km)と三陸沖北部~房総沖の海溝寄りの長さ(約800km)の比を考慮して求めた。と記載されていた。また,今後に向けてにおいて,

三陸沖北部および三陸沖南部海溝寄り以外の領域は,過去の地震資料が少ないなどの理由でポアソン過程として扱ったが,今後新しい知見が得られればBPT分布を適用した更新過程の取り扱いの検討が望まれる。

,三陸沖~房総沖にかけての海域ではプレート内逆断層型の大地震についてはこれまで知られていない。しかし,同様に過去このタイプの地震が知られていなかった北海道東方沖で1994年にM8.1の地震があったこともあり,このような地震についても留意する必要がある。と記載されていた。さらに,長期評価の頭書きには,なお,今回の評価は,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが,データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。と記載されていた。


長期評価の性質
地震防災対策特別措置法7条2項1号によれば,
推進本部の所掌事務の一つ
は地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策を立案することとされており,政府の公的機関としての目的及び役割からして,推進本部が公表した長期評価は,被告国が公表した公的な見解であり,個々の専門家が発表した論文等とは異なるものであった。



長期評価の信頼度について
推進本部は,平成15年3月24日,プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について(丙A36)を公表した。ここでは,長期評価に用いられたデータは,量及び質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差があるとして,評価の信頼度をA:(信頼度が)高いB:中程度C:やや低いD:低いの
4段階にランク分けしている。そして,推進本部は,三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)については,⑴価の信頼度頼度CC⑵(地震数規模の評価の信頼度3,モデルA⑶発生領域の評発生確率の評価の信ポアソン)と評価している。発生領域の
評価の信頼度Cとは,
想定地震と同様な地震が領域内のどこかで発生すると考
えられるが,想定震源域を特定できず,過去の地震データが不十分であるため発生領域の信頼性はやや低いというものであり,規模の評価の信頼度Aとは,想定地震と同様な過去の地震の規模から想定規模を推定し,
過去の地震データ
が比較的多くあり,規模の信頼性は高いというものであり,発生確率の評価の信頼度Cとは,想定地震と同様な過去の地震データが少なく,必要に応じ地震学的知見を用いて発生確率を求めたため,発生確率の値の信頼性はやや低く,今後の新しい知見により値が大きく変わり得るというものである。(丙A36,
弁論の全趣旨)


中央防災会議において採用されなかったこと
中央防災会議は,災対法11条1項に基づき内閣府に設置された機関であり,防災基本計画を作成し,及びその実施を推進すること(同条2項1号),内閣総理大臣の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること(同項2号)などの事務をつかさどっており,内閣総理大臣を会長とし(同法12条2項),全国務大臣,指定公共機関の代表者及び学識経験者により構成されている(同条5項)。中央防災会議が設置した日本海溝・千島海溝調査会においては,長期評価の見解について検討されたものの,最終的には,日本海溝・千島海溝報告書では長期評価の見解は採用されなかった。そして,大きな地震が繰り返し発生しているものについては,近い将来発生する可能性が高いと考え,防災対策の検討対象とすることとし,具体的には,択捉島沖の地震,色丹島沖の地震,根室沖・釧路沖の地震,十勝沖・釧路沖の地震,500年間隔地震,三陸沖北部の地震,
明治三陸タイプ地震,
宮城県沖の地震が検討対象とされた。
一方で,
大きな地震が発生しているが繰り返しが確認されていないものについては,発生間隔が長いものと考え,近い将来に発生する可能性が低いものとして,防災対策の検討対象から除外することとし,具体的には,海洋プレート内地震及び福島県沖・茨城県沖のプレート間地震は検討対象から除外された。(丙
A37の1・2,丙A112,133,134)


長期評価の見解に対する専門家の評価
長期評価の見解に対する地震や津波の専門家の意見書及び関連事件で実施された尋問における証言の概要は以下のとおりである。

佐竹
佐竹は,土木学会原子力土木委員会津波評価部会の委員を務めるとともに,
平成24年からは推進本部地震調査委員会長期評価部会部会長を務める者である(丙A99)。佐竹の意見書(丙A99,132,135,136)及び関連事件で実施された尋問における証言(甲A105,106,丙A141の1・2)の概要は以下のとおりである。
長期評価の見解は,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震及び1896年の明治三陸地震が津波地震であることを前提に津波地震の発生確率を算出したものである。
1611年の慶長三陸地震及び167
7年の延宝房総沖地震については,波源域が明らかでないことから,過去の津波地震は海溝沿いのどこかで発生したとして評価することになり,この評
価からは,
津波地震は日本海溝沿いのどこでも起こり得るという解釈になる
が,福島沖で津波地震が発生する可能性を議論したり,そのようなデータが明示的に提示されたりしたわけではなかった。また,1611年の慶長三陸地震及び1677年の延宝房総沖地震については,
津波地震でない可能性も
指摘されていた。本件地震の発生以前に福島県沖日本海溝沿い領域において,
延宝房総沖地震又は明治三陸地震程度の津波地震が発生し得ることを科学的具体的に指摘した学術研究論文は存在しない。さらに,佐竹自身は,津波地震は決まった領域で発生すると考えていたため,
どこでも発生するとは
考えていなかった。


津村建四朗(以下津村という。)
津村は,
公益財団法人地震予知総合研究振興会の地震防災調査研究部の副
主席主任研究員であり,平成12年から平成18年までの間,推進本部の地震調査委員会の委員長を務めていた者である(丙A101)。津村の意見書(丙A101)の概要は以下のとおりである。
地震は同じ場所で同じような規模で繰り返すという性質を有すると考えられるため,過去の地震の研究を行うことが重要であるところ,三陸沖から房総沖の日本海溝寄りの領域では,
過去の地震の活動履歴として確認できる
データは極めて乏しいものであり,歴史資料も乏しかった。このように,長期評価の見解は,
過去の地震のデータや歴史資料が乏しいという重大な問題
点があったにもかかわらず,
過去に津波地震の発生が確認されていない福島
県沖や茨城県沖の日本海溝沿いも含めた日本海溝沿いの領域が陸側のプレートに太平洋プレートが沈み込んでいる点で構造が同じであるという極めておおざっぱな根拠で,
三陸沖から房総沖までの日本海溝沿いを一括りにし
て,津波地震が発生する可能性があると評価したものである。このような考え方は,地震学の基本的な考え方からすれば異質でかなりの問題があり,地震又は津波の専門家の統一的な見解や最大公約数的見解とは言い難いものであった。

松澤暢(以下松澤という。)
松澤は,東北大学大学院理学研究科教授を務めるとともに,同研究科附属地震・噴火予知研究観測センターのセンター長を務めており,平成16年4月から平成28年3月までの間,
推進本部地震調査委員会長期評価部会委員
を務めていた者である(丙A102の1)。
松澤の意見書
(丙A102の1・
2)の概要は以下のとおりである。
推進本部は,
もともと地震の研究や調査の推進を目的として立ち上げられ
たものであり,いわゆる予知や予測を主目的としたものではなかったが,国民からの批判を受けて,
評価の行われない空白域を作らないために全国の任
意の地点の地震動予測が必要となり,
そのためには日本のどこかに被害をも
たらす地震については,
たとえ信頼度が低くても全て何らかの評価をしなけ
ればならなくなった。長期評価の見解を策定した当時,津波地震の発生メカニズムははっきりとは分かっておらず,
専門家の間で共通認識となっていた
のは,
津波地震が海溝軸付近の浅いところで起きるということと極めてまれにしか発生しないということだけであった。長期評価の見解は,日本海溝沿いを一つの領域にまとめた上で,
この領域で400年に3回津波地震が発生
していることを根拠に津波地震の発生確率を算出しているが,
平成14年か
ら現在に至るまで,
地震学界で日本海溝沿いの津波地震としてコンセンサス
が得られているのは,1896年の明治三陸沖地震だけであり,1611年の慶長三陸地震及び1677年の延宝房総沖地震については,
津波地震なの
か明確ではなく,震源もよく分かっていない。また,長期評価の見解は,海溝軸近くのプレートが沈み込み始めた領域という,
構造の同一性に着目して
一つの領域を設定しているものであるから,
全く科学的根拠がないものとは
いえないが,それほど強い根拠があるものでもない。

今村
今村は,
東北大学災害科学国際研究所所長及び同研究所の災害リスク研究
部門津波工学研究分野で教授を務めるとともに,
推進本部地震調査委員会津
波評価部会部会長を務めている者である(丙A105)。今村の意見書(丙A105)の概要は以下のとおりである。
津波工学を含む工学一般では,
ベネフィットとコストの両面が総合的に考
慮されて,構造物の安全対策が講じられることになるところ,津波工学の観点からは,
発生がうかがわれるとの科学的なコンセンサスは得られておらず,単に理学的根拠をもって発生の可能性を否定することができないだけの津波を対象としてハード面での対策を講じるべきであるとの要求は導かれない。すなわち,津波工学の観点から既設炉でハード面の対策を要求するには,理学的根拠をもってその対策の必要性を正当化できることが必要であり,具体的には,検討対象とする津波は,既往津波であるか,理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的なコンセンサスが得られている津波のうち,
具体的根拠をもって波源の位置が特定されるなどして一定の期間における発生間隔が算出できるものであることが必要である。
長期評価の見解が
策定された当時,日本海溝沿いについて,三陸沖はプレート間の固着が強いため,大きな地震自体が起きやすく,津波地震の発生に影響を及ぼすとする海溝沿いの堆積物が多い一方,
福島沖及び茨城沖はプレート間の固着が弱い
ため,大きな地震自体が起きにくく,津波地震の発生に影響を及ぼすとする海溝沿いの堆積物の量も少ないという違いがあった。このような状況の下で,長期評価の見解は,日本海溝付近のどこでも津波地震が起きる可能性があるということについて,
従来なかった新たな理学的知見を提示するもので
はなく,
メカニズム的に否定できないという以上の理学的根拠を示しておらず,津波地震が起きるとしても,その規模としてなぜ明治三陸地震と同程度のものが起こり得るのかということについては何らの具体的な根拠も示していなかった。これらのことから,歴史的・理学的知見が十分に定まっておらず,
逆に三陸沖と福島沖及び茨城沖の違いを示唆する理学的知見が存在した津波地震について,既往津波地震について考慮する以外に,それを超えて日本海溝沿いのどの地域でも発生すると取り扱うべきとは考えられなかった。したがって,福島沖及び茨城沖においても三陸沖や房総沖と同様の津波地震の発生が否定できないというのは,
発生をうかがわせる科学的なコンセ
ンサスを得られておらず,
単に理学的根拠をもって発生を否定することがで
きないだけの津波であって,
理学的根拠から発生がうかがわれるという科学
的なコンセンサスが得られている津波であるとは考えられていなかった。オ
首藤
首藤は,津波工学の研究者として,我が国の津波防災基準等の策定に長年関与しており,その中で,土木学会原子力土木委員会津波評価部会主査として,平成14年に原子力発電所における津波評価の基準として策定された津波評価技術の策定にも関与した者である(丙A112)。首藤の意見書(丙A112)の概要は以下のとおりである。
推進本部は,研究調査の方向を示すもので,災害対策の方針を決めるものではなく,防災対策の実施方針を決めるのは中央防災会議である。そして,中央防災会議では,長期評価の見解は採用されなかったのであるから,一電力会社である被告東電においてそれを防災の対象にしようとしても株主総会を通らなかったと考えられ,
長期評価の見解では福島県沖でも津波地震が
発生する可能性に言及しているが,
これは飽くまで研究を推進すべきとして
いるだけであって防災対策を採ることを求めているわけではない。このよう
に,
長期評価の見解が策定された当時の福島県沖に関する長期評価の見解は専門家の間でもコンセンサスが得られていなかったものであるから,この見
解は確定論に取り入れ,
直ちに対策を採らせるような説得力のある見解とは
考えられていなかった。

谷岡勇市郎(以下谷岡という。)
谷岡は,
北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センターでセ
ンター長を務めており,平成16年には中央防災会議に設置された日本海溝・千島海溝調査会の北海道WG委員を務めるとともに,平成21年からは推進本部地震調査委員会の委員を務めていた者である(丙A133)。谷岡の意見書(丙A133)の概要は以下のとおりである。
明治三陸地震のような津波地震については,
そのメカニズムが解明される
に至っていなかったため,多くの地震学者が津波地震を研究し,様々な仮説を提唱してきたものの,これらの多くは,明治三陸地震のような津波地震は限られた領域や特殊な条件が揃った場合にのみ発生する可能性が高いというものであった。地震学の分野では,津波地震のメカニズムを含め,多くの事項が未解明であるため,明治三陸地震のような津波地震についても

この地域では地震は起きない。

と断言することはできず,可能性が否定できない以上,
地震調査委員会の立場ではひとまず防災行政的な警告をするためにも,
明治三陸地震と同様の地震が日本海溝付近の領域内でも発生する可能性があるという見解を出す意義はあると考える。もっとも,そのような見解があるとしても,実際の防災対策をしていく上で,明治三陸地震と同じような津波地震が福島沖で発生すると考えることは難しいと考えられるため,中央
防災会議などで実際にこの見解に依拠した防災対策を採らせるべきということはできない。

笠原稔(以下笠原という。)
笠原は,
公益財団法人地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所で客員
研究員をしているものであり,
平成15年には中央防災会議専門調査会北海
道WG座長を務めていた者である(丙A134)。笠原の意見書(丙A134)の概要は以下のとおりである。
長期評価の見解は,
推進本部が理学的知見を基に議論した結果として理学
的に否定できないものとして出された見解であると認識している。長期評価
の見解については,
その知見の精度がどのようなものであるかや津波地震に
関する科学的知見の詳細については,
北海道WGの中で検討されることとな
り,北海道WGでは,長期評価の見解は,理学的に否定できないというものであることに間違いはないものの,
それ以上の具体的な根拠があるものとい
う意見は出されなかった。


島﨑
島﨑は,東京大学名誉教授であり,推進本部地震調査委員会委員,同長期評価部会部会長を務めていた者である(甲A100)。島﨑の意見書(甲A96,100,102)及び関連事件において実施された尋問における証言(甲A103,104)の概要は以下のとおりである。
長期評価の見解の根拠は,
過去400年間に発生した3つの津波地震であ
る,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震及び1896年の明治三陸地震である。
1611年の慶長三陸地震及び1896年の明治
三陸地震による津波については,津波の数値計算から日本海溝付近で発生したと推定されている。
1677年の延宝房総沖地震による津波について
は,津波地震であることが明らかであり,遠方の岩沼(宮城県)で死者が出ていることから,日本海溝付近で発生したと推定した。上記の3つの津波地震の正確な位置については不明であるが,津波被害の記録等からすれば,
1611年の慶長三陸地震及び1896年の明治三陸地震による津波は日本海溝付近の北部,
1677年の延宝房総沖地震による津波は日本海溝付
近の南部で発生したものと推定される。海溝の北部,中部,南部には,地形等に大きな違いはなく,
津波地震は日本海溝付近のどこでも発生すると判断
された。プレートの沈み込みにより,北部と南部だけで津波地震が発生し,中部だけ発生しないとは考えにくく,
たまたま過去400年間に中部では発
生しなかっただけと推定することが妥当である。
中央防災会議においては,長期評価の見解は取り入れられず,過去に起きた地震のみを考えることとなったが,このような地震の選択は,歴史地震の資料が限られている点が十分に考慮されておらず,
空白域の考え方が取り入
れられていないものであり,地震学の観点からは疑問の残る判断である。ケ
都司嘉宣(以下都司という。)
都司は,東京大学地震研究所准教授であった者であり,推進本部地震調査委員会長期評価部会委員及び同津波評価部会委員を務めている者である(甲
A101)。都司の意見書(甲A101)及び関連事件において実施された尋問における証言(甲A86,87)の概要は以下のとおりである。推進本部は,地震対策の強化,特に地震による被害の軽減に資する地震調査研究の推進を基本的な目標とする組織である。推進本部は,1611年の慶長三陸地震,
1677年の延宝房総沖地震及び1896年の明治三陸地震
は,
いずれも震害が記録されていないのに津波による甚大な被害が発生しており,日本海溝沿いのプレート間で生じた津波地震であると結論付けた。また,太平洋プレートが北米プレートの下に潜み込むという基本的構造は,日本海溝の北部,南部,中部で変わらないため,長期評価の見解において,津波地震について,
同じ構造をもつプレート境界の海溝付近に同様に発生する
可能性があり,場所は特定できないとしたことは当然である。そして,上記の結論に特段の異論は出なかった。
7
平成18年耐震設計審査指針(丙A15の2,丙A96)


策定経緯等
原子力安全委員会は,平成18年9月19日,発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針を改訂した(平成18年耐震設計審査指針)。同指針において,8.地震随伴事象に対する考慮の中で,津波に関して,施設は,地震随伴事象について,次に示す事項を十分に考慮したうえで設計されなけれ施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。とされた。(丙A15の2,丙A96)


バックチェックルール
保安院は,平成18年9月20日,平成18年耐震設計審査指針を受け,被告東電を含む原子力事業者等に対し,
バックチェックルールを策定するととも
に,各電力会社等に対し,稼働中及び建設中の発電用原子炉施設等について,改訂された耐震指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,
報告するよう指示
した(平成18年耐震バックチェック)。津波の評価方法として,既往の津波の発生状況,活断層の分布状況,最新の知見等を考慮して,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性のある津波を想定し,
数値シミュレー
ションにより評価することを基本とし,水位上昇・低下の双方に対して安全性に影響を受けることがないことを確認するとともに,
必要に応じて土砂移動等
の二次的な影響について確認することを求めた。
(甲A1の1・本文編388,
389頁)
8
貞観津波に関する知見


貞観津波とは
貞観津波とは,869年に発生した貞観地震により発生した津波であり,東北地方沿岸を襲った巨大津波である(甲A1の1・本文編390頁,丙A53ないし56)。



仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定(平成2年)(甲A1の1・本文編390,391頁,丙A53)
同論文は,
貞観津波に関する仙台平野での初めての堆積物調査の結果に基づ
き,津波痕跡高を推定したものであり,東北電力による独自の調査として行われたものである。貞観津波の痕跡高は,仙台平野の河川から離れた一般の平野部で2.
5mないし3mで,
浸水域は海岸線から3kmぐらいの範囲であったと
推定している。

⑶西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元(平成13年)
(甲
A1の1・本文編391頁,丙A54)
同論文は,津波堆積物の調査を行い,福島県相馬市の松川浦付近で仙台平野と同様の堆積層を検出した上で,貞観津波の波源モデルを推測したものである。同論文には,

海岸線に沿った津波波高は,大洗から相馬にかけて小さく,およそ2~4m,相馬から気仙沼にかけては大きく,およそ6~12mとなった。

との記載がある。⑷

平成18年以降も,佐竹論文(平成20年)(丙A55),平安の人々が見た巨大津波を再現する-西暦869年貞観津波-(平成22年)(丙A56)
が順次,
刊行され,
貞観津波に関する知見が集積しつつあり(甲A1の1・
本文編391頁),平成21年の総合資源エネルギー調査原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波,地質・地盤合同ワーキンググループにおいても,貞観津波について議論された(丙A57の1・2)。
9
被告東電の対応


平成6年における被告東電による津波想定

原子力発電所の安全審査を担当していた通商産業省資源エネルギー庁(当
時)は,平成5年10月15日,被告東電を始めとする電力事業者で組織する電気事業連合会に対し,
既設原子力発電所の津波に対する安全性のチェッ
ク結果の報告を求め,これを受け,被告東電は,平成6年3月に報告書をまとめた(丙A28,29)。


同報告書において,文献調査(11件)に基づき,福島第一原発・第二原発の敷地に影響を及ぼす可能性のある地震として,
1611年の慶長三陸地
震,1677年の延宝房総沖地震及び1960年のチリ地震を選定の上,これを基に予測式により敷地に来襲する津波高さの推定を行い,結果として,福島第一原発においては,
最大水位上昇量等についてはチリ地震津波による
値が最も大きいとし,満潮時における最高数位はO.P.+3.5mになるが,主要施設が被害を受けることはないとした(丙A29)。



太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査への対応について(甲A18)ア
被告東電を含む電気事業連合会は,
4省庁報告書への対応について検討を
行い,平成9年7月25日に『太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査』への対応についてという報告書を作成した。

同報告書には,4省庁報告書から読み取った津波高さは,福島第一原発等において,冷却水取水ポンプモーターのレベルを超える数値となっており,また,
太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査委員会が設定した想定地震の断層パラメーターを用い,独自に数値解析した結果,福島第一原発等は,余裕のない状況となっていること,
想定地震の断層パラメーターのバラツキ及
び計算誤差を考慮して,
仮に上記値の2倍の津波高さの変動があるものとす
ると,太平洋側のほとんどの原子力地点において,低下水位は冷却水取水ポンプ吸込口レベル以下となるとともに,
水位上昇によって冷却水取水ポンプ
モーターが浸水することになることが記載されていた。また,地震動評価に際しては,地震地体構造上最大規模の地震を考慮しており,津波評価に際しても想定することが妥当であると考えられる場合には,
同地震による津波を
検討する必要があるものと考えられるから,
今後整備される津波評価指針に
は,必要に応じて,地体構造上最大規模もの地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討・調整を行っていくこと,指針が制定されるまでの過渡期においては,電力の自主保全の観点から,想定し得る最大規模の津波に対して,
既設のプラントについてはバックチェックを行って設備の機能が確保されることを確認するとともに,新設プラントについては,必要に応じて設備の検討条件として取り入れること,
原子力における津波評価においては計算
誤差が少ないと考えられることから,
原子炉冷却系の機能検討に用いる津波
水位については十分な精度で予測することが可能と考えられること,想定し
得る最大規模の津波を考慮した上で更にバラツキを考慮することは工学的には現実的でないと考えられることから,
設備の検討条件としては考慮しな
いこと,
対応策等の考え方の一つとして水密モータの採用が挙げられているが,海水系のポンプに適用できる大型の水密ポンプは,現状製作されておらず,原子力で採用するためには,開発及び耐震性等の確証試験を行う等の問題があることなどが記載されていた。


7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針(甲A84)

作成経緯
被告東電を中心とする電気事業連合会は,
通商産業省
(当時)
を通じて
7省庁手引等の草稿(ドラフト版)を入手し検討し,平成9年10月15日,7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針と題する文書を作成した。


概要
上記文書においては,7省庁手引等が,原子炉施設の地震津波の安全の確保に関して地震地体構造的見地から想定される最大規模の地震津波を考慮するものとしていること,今後,原子力の津波評価の考え方を指針等にまとめる際は,必要に応じて地震地体構造上の地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討・整備していく必要があることが記載されている。
また,原子力規制委員会が平成27年に開示した上記文書には,MITI(通商産業省)は情報の収集に努める,電力は独自に地震地体構造を自主保安でチェックする,バックチェックの指示はきっかけがない(電事連ペーパーで自主的に行う)との書込みがされていた。⑷

津波評価技術に関わる検討(2002年推計)

検討経緯
被告東電は,平成14年3月,津波評価技術に従って,2002年推計を策定し,保安院に対し福島第一原発の設計津波最高水位を報告した(丙A32)。


概要
被告東電は,津波評価技術に基づく津波推計計算を以下のとおり実施した。すなわち,同計算では,既往津波として,津波評価技術の既往最大の考え方に基づいて1960年のチリ地震を抽出し,
近地津波の波源位置に
ついて,別紙13のとおり,1896年の明治三陸地震や1677年の延宝房総沖地震の波源モデルの福島県沖の日本海溝寄りを想定せず,
より陸寄り
の福島県東方沖地震の波源モデル(別紙13領域7)を想定して推計し,その結果,
福島県東方沖地震の波源モデルを該当領域に想定した場合に最大の津波高さとなったため,
福島県東方沖地震の波源モデルを前提に波源の位置
についてパラメータスタディを実施し,その推計の結果として,近地津波ではO.P.+5.4mないし+5.7mの津波の襲来があり得るものとした。また,遠地津波については,チリ地震による津波の波源モデルを基にした推計の結果として,O.P.+5.4mないし+5.5mの津波の襲来があり得るものとした。
また,これらの水位による福島第一原発の非常用機器への影響として,6号機の非常用ディーゼル発電機冷却系海水ポンプ(屋外設置)にて電動機据付レベル(最低O.P.+5.58m)を上回るものの,福島第一原発6号機はエアフィンクーラー付きディーゼル発電機を有しているため,津波水位
に関わらず非常用電源の確保が可能であり,
万一の同ディーゼル発電機の不
作動を想定しても隣接プラントからの電源融通により電源を確保することが可能であり,現時点でも安全確保は可能であるが,信頼性確保の観点から同ポンプ電動機の軸を長尺化し,
下側軸受設置レベルをかさ上げした構造へ
の変更を計画していることから,
実施可能な時期において速やかに対応する
こととした(丙A32)。


長期評価の見解についての平成14年当時の検討
平成14年7月31日に長期評価の見解が公表されたことを受けて,保安院
の職員は,同年8月5日,長期評価の見解を踏まえて原子力発電所の安全性が確保されているか確認するため,被告東電の担当者からヒアリングを行い,福島沖から茨城沖の領域で津波地震が発生した場合のシミュレーションを行うべきであると述べたところ,
被告東電の担当者が谷岡及び佐竹論文を示して難
色を示したことから,被告東電に対し,長期評価の見解(長期評価では三陸沖から房総沖の広範囲で津波地震が起こることを想定していること)の根拠につ
いて推進本部の委員に確認するよう指示した。これに対し,被告東電の担当者は,佐竹に意見を聴くなどし,同月22日,保安院の職員に対し,佐竹の見解を説明するなどした上で,長期評価の見解については,決定論として取り入れることはせず,確率論(津波ハザード評価(地震の位置,規模,発生頻度,発生様式等を確率分布として表現することにより,
将来発生する津波による水位
の超過頻度を求めるための解析))に基づく安全対策の中で取り入れていく方針であることを伝え,保安院は,これを了承した。(丙A138,139)⑹

2008年推計

検討経過等
被告東電は,平成20年2月頃,有識者に対し,長期評価の見解をいかに取り扱うべきか意見を求めたところ,
福島県沖海溝沿いで大地震が発生する
ことは否定できないので波源として考慮すべきと回答を得た。
これを踏まえ
て,被告東電は,長期評価の見解に基づいて,1896年の明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝沿いにおいて試算を行い,
推計を作成した
(2008年推計)。なお,この推計は,平成23年3月7日に被告国に対して報告された。(甲A1の1・本文編404頁,甲A37,丙A105)

概要
1896年の明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝沿いにおいた上で,福島第一原発の各号機,敷地内においてどの程度の津波高さになるかという具体的な計算段階では,津波評価技術による計算手法(パラメータスタディ等)を用いて,各号機における津波高さを算出した。
その結果,敷地南側で最大でO.P.+15.7mの津波高さという結果を得た。浸水深については,1号機ないし3号機の原子炉建屋等の主要建屋の立地点で1m前後,
4号機の原子炉建屋等の主要建屋の立地点で2m前後
に達した。
(甲A1の1・本文編404頁,甲A37,141,丙A105)なお,その後の試算では,1677年の延宝房総沖地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りにおいた場合には,敷地南側でO.P.+13.6mの津波高さという結果も得ていた(甲A37,140,141)。

対応
被告東電は,2008年推計の結果を受けて対応策を検討したが,長期評価の見解については平成18年耐震バックチェックに取り入れないこととした(甲A1の1・本文編395頁ないし398頁,甲A140)。


長期評価についての検討委託
被告東電は,最大の試算結果を把握した後,土木学会に対し,長期評価の見解の取扱いに関する検討を委託し,
平成24年10月を目途に結論が出される
予定の土木学会の検討結果如何では,
津波対策を講じる予定であるとしていた
(甲A1の1・本文編405頁)。
第5

本件事故後のSPEEEDI情報の活用及び公表に関する状況(甲A1の1・本文編258ないし263頁,甲A1の2・本文編217ないし228頁)
1
本件事故発生直後の状況(甲A1の2・本文編217,218頁)本件地震により発生した外部電源喪失により,
福島第一原発敷地内に設置され
た緊急時対策支援システム(ERSS)に原子炉内の情報等を送付する被告東電の緊急時対応情報表示システム(SPDS)からのデータの伝送ができなくなったこと,平成23年3月11日午後4時43分,福島第一原発からオフサイトセンターを経由してERSSの計算機本体にデータを送付する政府の専用回線が使用できなくなったことにより,
ERSSへのプラントデータ等の送付ができな
くなったため,
ERSSからの放出源情報を基にしたSPEEDIによる放射性
物質の拡散予測はできなかった。

2
3月15日以前のSPEEDIの活用・公表の状況
単位量放出を仮定した定時計算結果の活用・公表(甲A1の1・本文編258,259頁)
ERSSによる放出源データは入手できなかったものの,
平成23年3月1
1日午後4時40分,文部科学省は,SPEEDIを管理する原子力安全技術センターに対し,SPEEDIシステムの緊急時モードへの切替えを指示した。
これを受け,同センターは,平成23年3月11日午後4時49分,SPEEDIを緊急時モードへ切り替えるとともに,安全委員会作成の環境放射線モニタリングに基づき,福島第一原発から1Bq/hの放射性物質の放出があったと仮定し(単位量放出),同日16時以降の気象データ等を用いて1時間ごとの放射性物質の拡散予測を行う計算(定時計算)を開始した。なお,これらの計算結果は,実際の放出量に基づく予測ではなく,気象条件,地形データ等を基に,放射性物質の拡散方向や相対的分布量を予測するものであった。原子力安全技術センターは,文部科学省の指示により,単位量放出を仮定した定時計算の予測結果を,同省,ERC,安全委員会,オフサイトセンター,福島県庁及びJAEAに送付した。また,原子力安全技術センターは,オフサイトセンターに隣接する原子力センターからの送付依頼があったため,平成23年3月11日午後11時頃,当時断続的に使用できた電子メールを用いて,同センターに対して一度だけ定時計算結果を送付した。
送付された定時計算結果について,
前記の送付先のうち,
原子力センターは,
平成23年3月12日から同センターが行ったモニタリング計画策定の参考として使用したが,その他の組織は,単位量放出を仮定して定時計算は実際の放射線量を示すものではないなどの理由から,具体的な措置の検討には活用しなかった。
各機関が行った様々な仮定をおいた計算結果の活用及び公表(甲A1の1・本文編259,260頁)
文部科学省,保安院及び安全委員会は,前記⑴の単位量放出を仮定した定時計算とは別に,平成23年3月11日から同月15日にかけて,福島第一原発からの放射性物質の流出による影響を予測するため,単位量放出(1Bq/hの放出を仮定)以外の様々な仮定の数値を放出源情報としてSPEEDIに入力し,予測計算を行った。
文部科学省は,平成23年3月12日から同月16日にかけて,様々な放出源情報を仮定した38件のSPEEDI計算を行い,計算結果をEOC内部で共有するとともに,一部の計算結果をERC及び安全委員会に送付した。安全委員会は,平成23年3月12日夜,原子力安全技術センターに計算を依頼した。同委員会は,受け取った計算結果を,同委員会内部にいた同委員会委員,緊急技術助言組織のメンバー及び同委員会事務局職員で共有した。ただし,当該計算結果について,安全委員会は,飽くまで内部の検討のためであると考えていたため,当該計算結果を同委員会の外部には共有しなかった。保安院は,平成23年3月11日から同月15日にかけて,本件事故による放射性物質の拡散傾向の把握等を目的として,様々な仮定の放出源情報を入力して45件のSPEEDI予測計算を行った。得られた予測結果は,ERC内の各機能班で共有するとともに,最初の数例については,官邸及びオフサイトセンターに送付した。保安院は,福島第一原発1号機からの放射性物質の流出による影響を予測するため,原子力安全技術センターに対してSPEEDI予測を依頼し,平成23年3月12日午前1時半過ぎ,当該計算結果を官邸地下に詰めていた保安院職員に送付した。これを受け取った保安院職員は,この計算結果を内閣官房職員に渡し,内閣官房職員は,官邸地下にいた各省職員に計算結果の共有を図った。ただし,保安院は,それ以前に同院が行ったSPEEDI計算結果について,飽くまで仮定の放出源情報に基づく計算結果であることから信頼性が低い旨を記載した補足資料を作成し,官邸に送付していた。平成23年3月12日未明に前記計算結果を保安院職員から受け取った内閣官房職員は,この計算結果を単なる参考情報にすぎないものとして扱い,内閣総理大臣等への報告は行わなかった。また,保安院も,独自にこれを内閣総理大臣らに報告することをしなかった。
SPEEDI計算結果と本件事故に関する避難措置との関係(甲A1の2・本文編219ないし224頁)

半径3km圏外への避難指示(平成23年3月11日午後9時23分)と
SPEEDIとの関係
政府は,
平成23年3月11日午後9時23分,福島第一原発から半径3
km圏内の居住者等に対する避難指示及び3ないし10km圏内の居住者等に対する屋内退避指示を行った。
同日午後9時以降の単位量放出を仮定したS
PEEDI定時計算結果によると,同日午後9時以降,避難範囲が福島第一原発から10km圏内に拡大された同月12日午前5時まで,福島第一原発から放出された放射性物質は,一貫して海側(東方向から南東方向)に向かって拡散すると予測されている。

半径10km圏外への避難指示(平成23年3月12日午前5時44分)
とSPEEDIの関係
政府は,
平成23年3月12日午前5時44分,福島第一原発から半径1
0km圏内の居住者等に対する避難指示を行った。同日午前5時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,
福島第一原発から放
出された放射性物質は,同日午前5時から午後0時まで,一貫して海側(南東方向)に拡散すると予測されている。その後,同日午後1時から午後3時までは南方向に,午後3時から午後4時までは西方向に,午後4時から午後6時までは北西方向から北方向にそれぞれ拡散すると予測されている。ウ
半径20km圏外への避難指示(平成23年3月12日午後6時25分)
とSPEEDIとの関係
政府は,
平成23年3月12日午後6時25分,福島第一原発から半径2
0km圏内の居住者等に対する避難指示を行った。同日午後6時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,
福島第一原発から放
出された放射性物資は,同日午後6時から午後7時まで,北方向に拡散すると予測されているが,同日午後8時から同月13日午前10時までは,同日午前4時から午前5時まで(北方向)を除いて,一貫して海側(北東方向)に拡散すると予測されている。

半径20ないし30km圏内の屋内退避指示(平成23年3月15日午前
11時)とSPEEDIの関係
政府は,
平成23年3月15日午前11時,福島第一原発から半径20な
いし30km圏内の居住者等に対する屋内退避指示を行った。同日午前11時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福島第
一原発から放出された放射性物質は,
同日午前11時から午後0時までは南
西方向に拡散するものの,
同日午後1時から同月16日午前2時までは西方
向から北西方向に拡散すると予測されている。
さらに,
同日午前3時以降は,
南方向から南東方向に拡散すると予測されている。
前記屋内退避指示に先立つ平成23年3月15日午前9時,
福島第一原発
正門付近において,
1万1930μSv/hという高い線量が測定された。
この
線量が測定された時刻頃の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福島第一原発から放出された放射性物質は,同日午前9時から午前10時まで,南西方向に拡散すると予測されている。また,同日午後11時台には,
福島第一原発正門付近において再び約7000ないし8000
μSv/hという高い線量が測定された。これらの線量が測定された同日午後11時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福
島第一原発から放出された放射性物質は,
同日午後11時から同月16日午
前2時まで,北西方向に拡散すると予測されている。
なお,
上記平成23年3月15日の指示は屋内退避であったが,南相馬市は,同日以降,希望者に対して市外への避難誘導を実施し,多くの住民は飯舘・川俣方面に避難した。また,浪江町は,同日朝方,既に町長の判断で二本松市へ避難することを決めており,住民に伝達した上で避難を実施した。これらの自治体の住民のうち,同日午後3時頃以降に避難を開始した者は,放射性物質が飛散した方向と避難経路が重なった可能性がある。
平成23年3月16日以降のSPEEDIの活用・公表の状況
(甲A1の1・
本文編261,262頁,甲A1の2・本文編225,226頁)ア
平成23年3月16日以降のSPEEDIの運用に関する政府内部での
役割分担
文部科学省は,
平成23年3月15日に行われた同省の記者会見において
報道関係者からSPEEDI計算結果の公表を求められたことを受け,同省
政務三役に対してSPEEDI計算に関する説明を行うため,
全量一回放出
(炉内に存在する全ての放射性物質が一度に放出されること)
等を仮定した
SPEEDI及びより広範囲をカバーする世界版SPEEDI
(WSPEE
DI)の計算結果を,政務三役が出席した省内協議に提出した。当該計算結果においては,東北地方に高い放射性雲が流れるという結果となっており,その公表に当たっては,
計算過程等を丁寧に説明することが不可欠なもので
あった。ただし,SPEEDIの計算結果等の公表の要否について具体的な決定はされなかった。
平成23年3月16日に開催された文部科学省の幹部会議において,鈴木
寛文文部科学副大臣から,
同日午前の官邸における各省庁のモニタリングの
役割分担に関する協議結果によれば,
同省はモニタリングの評価は行わない
ことになったのであるから,今後,SPEEDIはモニタリングデータの評価を行うこととなった安全委員会において運用・公表すべきであるとの提案がされ,これに会議の出席者が合意した。
SPEEDIの運用主体に関する文部科学省の決定に関する連絡を受け,安全委員会は,SPEEDIが安全委員会に移管されたわけではないが,今後は,文部科学省に計算依頼を行わなくとも,同委員会がSPEEDIを用いた計算を行うことができるようになったと理解し,
同システムの運用を開
始した。

SPEEDIによる放出源情報の逆推定及び計算結果の公表(甲A1の
1・本文編262,263,269頁,甲A1の2・本文編227頁)前記アの文部科学省と安全委員会とのSPEEDIの運用主体に関するやり取りを受け,安全委員会は,平成23年3月16日以降,ERSSによる放出源情報が得られない状況におけるSPEEDIの活用方法に関する議論を開始した。
その一環として,安全委員会においては,平成23年3月17日頃から,久木田豊原子力安全委員会委員長代理らの意向により,
SPEEDIの開発
者の一人である緊急事態応急対策調査委員を中心として,
JAEAや財団法
人日本分析センターの協力を得つつ,
SPEEDIを用いた放出源情報の推
定及びそれにより得られた推定放出源情報に基づく被ばく線量の推定等に関する検討を開始した。
放出源情報が得られない状況下でのSPEEDIを用いた放出源情報の推定とは,
SPEEDIの単位量放出計算によって得られる特定地点の放射
線量の予測値と,
実際のモニタリングによって同地点から得られた実測値を
比較し,その比率を単位放出量にかけ合わせて,実際の放出量を算出推定するというものである。
その計算において,安全委員会は,計算を行うためのモニタリングデータとして,
大気中モニタリングにより得られた空間線量率とダストサンプリングにより得られた空間線量率と,
ダストサンプリングにより得られた放射性
物質の大気中濃度を用いた。具体的には,平成23年3月15日以前に収集されたモニタリングデータや文部科学省等に依頼して新たに得られたデータを分析し,計算に使用できるデータを選別した。
その結果,安全委員会は,平成23年3月23日午前9時頃,平成23年3月11日から同月24日までの福島第一原発周辺における積算線量等に関する予測計算結果を得たが,
計算結果の一つである小児甲状腺の等価線量
の値が,
安全委員会作成の防災指針に定められた安定ヨウ素剤の配布基準である100mSvを超えていたことから,班目春樹原子力安全委員会委員長,久住静代原子力安全委員会委員等が官邸に報告した。なお,その際,官邸の指示で,当該計算結果を安全委員会において公表することとなったため,同委員会は,平成23年3月23日午後9時頃,記者会見を開催し,当該計算結果を公表した。また,安全委員会は,その後も,同年4月10日,同月25日及び同月27日の3回にわたり,
同年3月23日以降に得られたモニタ
リングデータを用いて精度を上げた逆推定によるSPEEDI計算結果等を公表した。また,上記報告を受け,小佐古敏荘内閣官房参与,酒井一夫独立行政法人放射線医学総合研究所放射線防護研究センター長らの専門家も加わり,菅直人内閣総理大臣の下で議論した結果,上記線量は,24時間屋外に居続けた場合の評価であり,過大評価であることなどから,直ちに避難範囲を拡大せず,まず,小児甲状腺被ばく調査を行い実測値で確認することとされた。
そこで,安全委員会は,平成23年3月25日,原災本部に対し,屋内退避区域及びSPEEDIで甲状腺の等価線量が高いと評価された地域の1歳から15歳児を対象に甲状腺被ばく調査を行うよう依頼し,
現地対策本部
は,同月26日及び27日にいわき市,同月28日から30日まで川俣町,同月30日に飯舘村で,
それぞれ甲状腺被ばく調査を実施した。
調査の結果,
安全委員会から示されたスクリーニングレベル(0.2μSv/h)を超えた者はいなかった。

SPEEDI計算結果の公表
(甲A1の1・本文編263頁,
甲A1の2・
本文編227,228頁)
SPEEDIの計算結果については,
平成23年3月23日の公表以前か
ら,その公表につき関心が高まっていた。
政府が保有するSPEEDI試算結果の公表については,
平成23年3月
下旬頃から検討が開始され,文部科学省,保安院及び安全委員会は,福山官房副長官,伊藤危機管理監らと,SPEEDI試算結果の公表及び行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づきSPEEDI試算結果について情報公開請求があった場合の対処方針につき協議した。
その協議の過程において,平成23年4月中旬頃までに,①放射性物質の単位量放出(1Bq/h)を仮定した定時計算の結果については公開,②モニタリング結果を用いて放出源情報を逆推定し,
その推定値を基にSPEEDI
により積算線量等の値を計算した結果については,
安全委員会が公表し得る
程度に精度の高い計算結果が得られたと判断した時点で公表,③文部科学省,
保安院,
安全委員会等が様々な仮定を置いて行った計算結果については,
実際の数値に基づくものではなく,混乱を招くおそれがあるので非公開,との方針が固まりつつあったが,②を除いて,同年4月下旬まで,SPEEDI試算結果は公表されないままであった。
他方,平成23年4月5日,枝野官房長官の指示により,気象庁が実施した総量1Bqの放射性物質の放出を仮定した拡散予測結果が公表されたことや,同年4月下旬に,一部報道において,政府がSPEEDIによる計算結果を公表していないことが報じられたことなどを受け,文部科学省,保安院及び安全委員会は,再度検討を行い,平成23年4月25日,枝野官房長官に対し,
SPEEDI試算結果の一部を公表する前記①ないし③の方針について了解を求めたが,枝野官房長官は,その方針を更に進めて,全てのSPEEDI試算結果を公表するよう指示した。
これを受け,細野補佐官は,平成23年4月25日に行われた政府・東京電力合同記者会見において,SPEEDI試算結果の公表を発表し,以後,文部科学省,保安院及び安全委員会は,同年5月3日までに,それぞれのホームページにおいて,各機関が行ったSPEEDI計算結果を公表した。第2章
第1

本件設置等許可処分の違法性
国賠法1条1項の違法
国賠法1条1項にいう違法とは,
国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務

員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいい(最高

1079号同27年12月16日大法廷
判決・民集69巻8号2427頁等参照),公権力の行使に当たる公務員の行為が同項の適用上違法と評価されるためには,
当該公務員が職務上通常尽くすべき
注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があることが必要で


1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁,最高
7頁等参照)
第2
1
原子炉設置許可処分及び変更許可処分に係る違法性の判断基準
原子炉を設置しようとする者は,
内閣総理大臣の許可を受けなければならない
ものとされており(処分時炉規法23条1項),内閣総理大臣は,原子炉設置の許可申請が,
同法24条1項各号に適合していると認めるときでなければ許可してはならず(同条1項),上記許可をする場合においては,上記各号に規定する基準の適用については,
あらかじめ核燃料物質及び原子炉に関する規制に関する
こと等を所掌事務とする原子力委員会の意見を聴き,
これを尊重してしなければ
ならないものとされており(同条2項),原子力委員会には,学識経験者及び関係行政機関の職員で組織される原子炉安全専門審査会が置かれ,
原子炉の安全性
に関する事項の調査審議に当たるものとされていた(原子力委員会設置法(昭和53年法律第86号による改正前のもの)14条の2,3)。
また,処分時炉規法24条1項3号は,原子炉を設置しようとする者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき,
同項4号は,
当該申請に係る原子炉施設の位置,
構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。),核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき,審査を行うべきものと定めている。原子炉設置許可の基準として,上記のように定められた趣旨は,原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼
働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,
運転につき所定の技術的能力を欠く
とき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,上記災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の上記技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置,構造及
び設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される。
上記の技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は,
当該原子炉施
設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等を,原子炉設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の上記技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであり,しかも,上記審査の対象には,将来の予測に係る事項も含まれているのであって,上記審査においては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,
専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであ
ることが明らかである。そして,処分時炉規法24条2項が,内閣総理大臣は,原子炉設置の許可をする場合においては,同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適用について,あらかじめ原子力委員会の意見を聴き,これを尊重してしなければならないと定めているのは,上記のような原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し,
上記各号所定の基準の適合性に
ついては,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当である。
(最高裁昭和60

第133号平成4年10月29日第一小法廷判決・民集4

6巻7号1174頁参照)
2
上記のとおり,原子炉設置許可処分,変更許可処分における安全審査に当たっては,原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねられていると解されることから,原子炉設置許
可処分,変更許可処分が国賠法上違法とされるには,少なくとも当時の科学技術的水準や科学的,専門的知見に照らし,原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会における調査審議に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,又は当
該原子力施設が上記の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,
内閣総理大臣の判断がこれに依拠してされたと認められることが必要である
一小法廷判決・民集59巻4号671頁参照)。
第3
1
本件設置等許可処分の違法性
具体的審査基準
福島第一原発1号機ないし3号機の設置変更許可における安全審査の前提となった指針は,昭和39年原子炉立地審査指針であり,同4号機の設置変更許可における安全審査の前提となった指針は,
昭和39年原子炉立地審査指針及び昭
和45年安全設計審査指針であった。
そして,昭和39年原子炉立地審査指針は,原子炉の立地条件の適否を判断するために策定されたものではあるが,それは単に,地理的要件のみから原子炉施設の立地の適否を検討するための指針ではなく,
事故時に公衆の安全を確保する
という観点から,事故時に公衆の安全を確保するため,①大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなく,将来においてもあるとは考えられず,災害を拡大するような事象も少ないこと,②原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること,③原子炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じ得る環境にあることという
原則的立地条件を踏まえて基本的目標を設定し,a敷地周辺の事情,原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,技術的見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大事故の発生を仮定しても周辺の公衆に放射線障害を与えないこと,
b重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない仮想事故の発生を仮想しても周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと,c仮想事
故の場合にも,国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいことを定め,原子炉施設と公衆との隔離の確保を求めた要件等を充足することを確認することで立地の適否を判断することとしており,
内容的にも当時の知見に照らして不合理なも
のとはいえず,
本件設置等許可処分当時においても不合理なものではない。
また,
昭和45年安全設計審査指針は,
敷地の自然条件に対する設計上の考慮及び耐震
設計についての指針を定めたもので,①当該施設の故障が,安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下回らない過酷な地震,津波等の自然条件に耐え得るような設計であること,
②安全上重大な事故が発生したと
した場合等に,
事故による結果を軽減若しくは抑制するために安全上重要かつ必
須の系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下回らない過酷な地震,津波等の自然条件を選定し,これと事故荷重を加えた力に対し,
当該設備の機能が保持できるような設計である
ことを求めるものであるが,内容的にも当時の知見を踏まえたもので,不合理なものとはいえず,本件設置等許可処分当時においても不合理なものとはいえない。
よって,
原子力委員会及び原子炉安全専門審査会における調査審議に用いられた具体的審査基準に,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,不合理な点があるとはいえない。
2
調査審議及び判断の過程について


1号機の設置許可申請に対する審査について
前記認定事実のとおり,1号機の調査審議は,設置計画の概要,安全対策,平常運転時の被ばく評価,各種事故の検討,災害評価及び技術的能力について検討の上,安全性を審査しており,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。


2号機ないし4号機の設置許可申請に対する審査について
2号機ないし4号機の調査審議についても,前記認定事実のとおり,1号機における審査をおおむね踏襲する内容の検討の上,安全性を審査しており,当時の科学技術的知見に照らし,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。

3
原告らの主張について
原告らは,審査に当たって,①共通原因故障を考慮せず,単一故障のみ考慮したこと,②起因事象として,自然現象等の外的要因を考慮せず,内部事象に限ったこと,③全電源喪失事故の検討が欠落していることは不合理である旨主張する。
しかしながら,1号機ないし3号機の設置変更許可における安全審査の前提となった昭和39年原子炉立地審査指針は,仮想事故(例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し,それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないことを求めており,また,4号機の設置変更許可における安全審査の前提となった昭和45年安全設計審査指針は,敷地の自然条件に対する設計上の考慮(指針2.2)及び耐震設計(指針2.3)について定めており,外部事象に対する防護設計による安全性の確認を求め,非常用電源設備については,単一動的機器の故障を仮定しても,工学的安全施設や安全保護系等の安全上重要かつ必須の設備が,所定の機能を果たすに十分な能力を有するもので,独立性及び重複性を備えたものであることを求めており(指針7),具体的には,要求される安全確保のための機能が害されることのないよう,非常用発電機を2台とするなどにより,十分な能力を有する系を2つ以上とし,かつ,一方が不作動となるような不利な状況下においても,他方に影響を及ぼさないように回路の分離,配置上の隔離などによる独立性の確保が設計基礎とされることを求めていたから,外部電源喪失に対する安全性確保も考慮されていたといえ,これらの審査基準について,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,不合理な点があるとはいえない。
また,原告らは,④設置許可段階において,明確に自然現象の影響を審査し,その後の設計・建設に当たって設備等を具体的に指示していれば,安全性を確保することができたにもかかわらず,これをせず,全電源をハブとして中継している配電盤や複数の非常用ディーゼル発電機を地下に設置するという多重性・多様性・独立性の考え方に反する設計,建設が行われたこと,⑤福島第一原発の敷地は標高35mの土地を標高10mまで削って作っており,その地盤は比較的脆弱な岩盤であり,明らかに耐震設計が不十分であったこと,⑥耐震設計審査が不十分であったこと,⑦立地条件として,重大事故及び仮想事故の際に放出される一定の放射線量の目安が設定されていたが,放射量を少なくする仮定をおいた結果,目安に収まるよう計算されていた可能性があることを主張する。
しかしながら,④については,設置許可審査に当たっては,潮位の記録として,小名浜港における観測記録によれば,チリ地震津波時の最高3.1mがあり,地震については,過去の記録によると,福島県近辺は,会津付近を除いて全国的に見ても地震活動性の低い地域の1つであり,特に原子炉敷地附近は,地震による被害を受けたことがないことが考慮されたが,これが,当時の地震及び津波の知見に照らし,不合理なものであったといえないから,配電盤や非常用ディーゼル発電機等を地下に設置することが,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,不合理なものであったといえない。⑤については,本件事故の事故原因との関わりが認められず,⑥についても,本件事故は,本件津波の到来により非常用ディーゼル発電機が被水し,機能喪失に至ったものであり,機能喪失が地震動によるものであったとは認められないから,本件事故の事故原因とは関わりがない。⑦についても,可能性を指摘するものにすぎず,本件事故との関係で,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,調査審議及び判断の過程における看過し難い過誤,欠落に当たるものとはいえない。
第4

結論
以上より,本件設置等許可処分については,当時の科学技術的水準や科学的,専門的知見に照らし,
原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会における調査
審議に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,
又は当該原子力施設が上
記の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,内閣総理大臣の判断がこれに依拠してされたということはできないから,
本件設置等許可処分が
国賠法上違法ということはできない。

第3章
第1

経済産業大臣が規制権限を行使しなかったことの違法性
規制権限不行使の違法性の判断枠組み
規制権限不行使が国賠法上違法というためには,当該公務員が規制権限を有
し,
規制権限の行使によって受ける国民の利益が国賠法上法的に保護されるべき利益であることに加えて,
同権限行使によって損害を受けたと主張する国民との
関係において,当該公務員が規制権限を行使すべき義務が認められ,同作為義務に違反することが必要である。
そして,規制権限行使の要件が法定され,同要件を満たす場合に権限を行使しなければならないとされているときは,
同要件を満たす場合に作為義務が認めら
れることになるが,規制権限行使の要件は定められているものの,権限を行使するか否かにつき裁量が認められている場合や,
規制権限行使の要件が具体的に定
められていない場合には,
規制権限を定めた法令の趣旨,
目的,
被害法益の性質,
重大性,予見可能性,結果回避可能性のほか,規制権限行使における専門性,裁量性などの諸事情を総合的に検討して,具体的な事情の下において,その不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その
不行使は,
被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。
(宅建業者最高裁判決,クロロキン最高裁判決,筑豊じん肺最高裁判決,関西水俣病最高裁判決,大阪泉南アスベスト最高裁判決参照)
第2

省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性

1
原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限の有無


電気事業者は,実用発電原子炉について,電気事業法39条に基づき,実用発電用原子炉施設に係る事業用電気工作物につき技術基準維持義務を負い,経
済産業大臣は,同法40条に基づき,事業用電気工作物が経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,電気事業者に対し,技術基準に適合するように事業用電気工作物の修理,
改造,
移転,
使用の一時停止を命じ,
使用の制限することができる。そして,原告らは,経済産業大臣は,平成14年時点において,遅くとも平成18年までには,被告東電に対し,①ないし③の措置を採ることを命じる技術基準適合命令を発するべきであった旨主張する。これに対し,被告国は,技術基準適合命令は,基本設計ないし基本的設計方針の是正を命ずることはできず,
原子炉施設の具体的な工事方法の妥当性等
の審査(後段規制)として,技術基準の不適合を是正するものであるところ,原告らの主張する上記各措置はいずれも基本設計ないし基本的設計方針に関するものであるから,
経済産業大臣には上記各措置を命ずる技術基準適合命令
を発する権限がなかった旨主張する。すなわち,本件設置等許可処分に係る安全審査において,
敷地高さと想定津波との間に十分な高低差があってドライサ
イトが維持されることをもって,
津波対策に係る基本設計ないし基本設計方針
とされていたところ,原告らが主張するタービン建屋の水密化等の措置は,いずれもウェットサイトであることを前提とした措置であるから,
基本設計ない
し基本的設計方針に関わる事項であり,経済産業大臣において,原告ら主張の措置に関する規制権限を有しない旨主張する。そこで,経済産業大臣が上記各措置を命ずる技術基準適合命令を発する権限を有していたか,以下検討する。⑵

原子力は,通常の科学技術のレベルを超えた制御不能な異質な危険を内包し,このような異質な危険を利用する原子力発電所は,一たび事故を引き起こすと,広域・多数の国民の生命・健康・財産や環境に対し,甚大かつ不可逆的な被害をもたらすことからすると,原子力発電所の稼働に当たっては,具体的に想定される危険性のみならず,抽象的な危険性をも考慮した上で,広域・多数の国民の生命・健康・財産や環境が侵害されないための万全な安全対策の確保が求められるというべきである。
そして,旧炉規法及び電気事業法が,具体的措置を省令に包括的に委任した趣旨は,原子力発電所が国民の生命・健康及び財産を保護するに足りる技術基準に適合しているかの判断は,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づいてされる必要がある以上,科学技術は不断に進歩し,発展しているのであるから,
原子力発電所の技術基準適合性に関する基準を具体
的かつ詳細に法律で定めることは困難であるだけでなく,
最新の科学技術水準
への即応性の観点からみて適当でないという点にあると解される。以上からすると,
経済産業大臣の電気事業法39条の規定に基づく省令制定
権限(技術基準を定める権限)は,原子力の利用に伴い発生するおそれのある受容不能なリスクから国民の生命・健康・財産や環境に対する安全を確保することを主要な目的として,万が一にも事故が起こらないようにするため,技術の進歩や最新の地震,津波等の知見等に適合したものにすべく,適時にかつ適切に行使することが求められ,原子炉(電気工作物)をこの新たな技術基準に適合させるため,技術基準に適合させる権限(同法40条)を適時にかつ適切に行使し,国民の生命・健康・財産や環境に対する安全を確保することが求められるというべきである。
また,基本設計ないし基本的設計方針という概念には,法令の定義規定がなく,旧炉規法24条2項の趣旨が,同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適合性について,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会
(本件設置等許可処分当時は原子力委員会。
以下同じ。

の科学的,
専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な判断に委ねるものであることに鑑みると,
どのような事項が原子炉設置の
許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性に関わる事項に該当するかは,
旧炉規法23条1項4号所定の基準の適
合性に関する判断を構成するものとして,原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的判断に委ねられていると解される(前掲平成4年10月29日第一小法廷判決,前掲最高裁平成17年5月30日第一小法廷判決参照)。
そして,
原子力安全委員会の決定した平成13年安全設計審査指針は指針2の2において安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も過酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。を求め,平成18年耐震設計審査指針8⑵は

施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。

を求めているものの,これらの指針等において,津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針が敷地高さと想定津波との間の十分な高低差の確保に尽きると定めた規定はない。
原子炉設置許可に係る安全審査の
段階においては,津波対策については,基本的な安全性の審査が予定されているにとどまり,このような安全審査において,敷地高さと想定津波との間の十分な高低差の確保が基本設計ないし基本的設計方針に当たるものとして審査されたとしても,それは,当時の原子力委員会の意見に基づく判断にすぎないといえる。
また,本件設置等許可処分に係る安全審査において,敷地高さと想定津波との間の十分な高低差を確保することが本件設置等許可処分の前提となっていたとしても,本件設置等許可処分後に,上記高低差の確保の判断を否定する科学的,専門技術的知見が明らかになった場合に,原告らの主張する①ないし③の措置を講じることが否定されているとはいえず,
いずれも津波対策に関する
具体的な措置といえ,
これらの措置は本件設置等許可処分以降の段階で行われ
る対策であるから,基本設計ないし基本的設計方針に関する問題ではない。以上によれば,
本件設置等許可処分における基本設計ないし基本的設計方針
は,敷地高さと想定津波との間の十分な高低差の確保に限られるものではなく,津波対策に関する基本的な安全性に関わる事項と解することができるから,①ないし③の措置は,上記の基本設計ないし基本的設計方針と矛盾するものではなく,これを補完し,具体化するものといえる。
したがって,原告の主張する①ないし③の措置は,基本設計ないし基本的設計方針に関するものではなく,
本件設置等許可処分以降のいわゆる詳細設計に
関するものであるから,
経済産業大臣が被告東電に対して①ないし③の措置を採るよう技術基準適合命令を発する権限を有していたといえる。


以上より,経済産業大臣は,平成14年又は平成18年の時点において,福島第一原発が技術基準に適合していないと認める場合には,
技術基準に適合す
るよう,
①ないし③の措置を採るよう命ずる技術基準適合命令を発する権限を有していたといえる。


被告国の主張について
被告国は,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,発電用原子炉施設が技術基準に適合しない場合に加え,
最新の科学技術的知見を反映した設置
許可要件として原子力規制委員会規則で定める基準に適合しないと認められる場合にも,使用停止等処分ができることを明文化したところ,この法改正により基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能になった旨主張する。
確かに,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止等処分を行い得る場合として,同改正前の電気事業法40条に相当する発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるときに
加え,発電用原子炉施設の位置,構造若しく設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるときを規定しており,原子炉施設が技術基準に適合しない場合に加え,
原子炉施設が設置許可基準に適合しない場
合にも使用停止等の処分をなし得ることを明文で規定した。もっとも,前記のとおり,原告らの主張する①ないし③の措置は,いずれも津波対策に関する基本的な安全性に関わる事項という基本設計ないし基本的設計方針と矛盾するものではなく,これを補完し,具体化するものであるから,本件において原告らが主張する技術基準適合命令は基本設計ないし基本的設計方針に直接関係するものではない。したがって,仮に上記法改正前は,技術基準適合命令を発して基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることができなかったとしても,
平成14年前又は平成18年時点における上記の技術基準適合命令を発する権限の有無に影響を及ぼすものではない。
よって,被告国の上記主張は採用できない。

2
規制権限を定めた法令の趣旨,目的
技術基準適合命令を定めた電気事業法40条は,
事業用電気工作物が技術基準
に適合していないと認めるときは技術基準適合命令を発することができる旨定め,同法39条2項1号は,事業用電気工作物は人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすることを技術基準に定めることを求め,同条1項は,事業用電気工作物を設置する者に技術基準維持義務を課している。また,旧炉規法は,
設計及び工事の方法の認可や検査に関する同法27条から29条までの規定は,
電気事業法に基づく検査等を受ける原子炉施設であって実用発電用原子炉に係るものについては,適用除外としているが(旧炉規法73条),これに相当する電気事業法に基づく規制が適用され,
実用発電用原子炉については炉規法及
び電気事業法の規定が矛盾のないように適用されており,
原子炉の安全に関する
法律として,
原子炉の設置後の措置である技術基準適合命令についても炉規法の趣旨は及ぶというべきである。そして,旧炉規法1条は,原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制等を行うこととしており,原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,上記災害が万が一にも起こらないようにすることを目的としているといえる。これらの規定からすれば,規制権限を定めた法は,国民の生命,身体,財産等を保護することを目的としているものと認められ,
これらの利益は国民が平穏な生活を営む上で必要不可
欠な重要な利益といえる。
3
被害法益の性質,重大性
原子力発電所において事故が発生した場合,原子力発電所の作業員のみならず,原子力発電所の周辺住民等の生命や身体にも被害を及ぼし得るものである。とりわけ,原子力発電所の事故により放射性物質が漏えいした場合には,広範囲かつ長期間にわたって住民の生命や身体に影響を及ぼすおそれがあり,本件事故
で明らかになったように,
放射能汚染の大きい地域には長期間にわたって帰還で
きず,
放射能による健康被害に対する不安を抱えながら生活することを余儀なくされるなどの重大な結果をもたらし得るものである。このように,一たび原子力発電所において事故が発生すれば,その被害は非常に重大であり,取り返しのつかないものといえる。
4
予見可能性
予見可能性の対象

本件事故は,
福島第一原発の主要建屋の敷地高さを超える津波の発生によ
り,原子炉建屋内に津波が浸水し,非常用電源設備やその配電盤等,炉心冷却を維持するために必要な電源機器が被水したことにより,
全交流電源喪失
に陥ったというものであるところ,予見可能性は,結果回避措置を採ることを法的に要求する前提となるものであるから,
予見可能性の対象は全交流電
源喪失を招くような津波というべきである。
前記認定事実によれば,
平成3年の福島第一原発1号機における海水漏え
い事故,平成11年のルブレイエ原子力発電所における外部溢水事故,平成16年のスマトラ島沖地震によるマドラス原子力発電所の外部溢水事故等を通じ,
設計基準で想定した規模を超える自然現象が発生すること及びそうした事象が発生した場合には原子炉の重要な安全設備に重大な危険をもたらすことが実証されてきたこと,
平成9年に被告東電を含む電気事業連合会
が4省庁報告書への対応について検討を行った際には,
少なくとも被告東電
は主要建屋の敷地高さを超える津波が到来すれば原子炉の重要な安全設備に重大な影響を及ぼし得ることを認識していたことがうかがわれること,被
告らは,平成18年5月11日に開催された溢水勉強会において,敷地高さ(O.P.+13m)を1m超過する(O.P.+14m)が継続することによって,
福島第一原発5号機においてタービン建屋の
各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性があるとし,津波水位O.P.+14mのケースでは

浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する。

と報告されていたことから,敷地高さを超える津波を全交流電源喪失の分岐点と考え,
敷地高さを超えて津
波が発生した場合には,原子炉施設建屋への浸水,さらには非常用電源設備の被水によって全交流電源喪失がもたらされる現実的な危険性があることを認識していたことが認められる。これらの事情からすれば,福島第一原発の1号機ないし4号機の主要建屋敷地高さを超える高さの津波が発生すれば,全交流電源喪失に至る現実的危険性があったといえ,被告らは,そのことを認識していたといえる。そして,福島第一原発1号機ないし4号機の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波が到来すれば全交流電源喪失の現実的危険性があったのであるから,O.P.+10mを超える津波が予見できた場合には,
被告らには上記津波の襲来により全交流電源喪
失に至らないよう結果回避措置を採るべき法的義務が生じ得るというべきである。
したがって,
規制権限不行使の違法性を判断する際の被告国の予見可能性
の対象は,主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来というべきである。

被告国は,規制権限不行使の国賠法上の違法は,結果発生の原因となる事象に対する防止策に係る法的義務違反を問うものであるから,
その前提とな
る予見可能性は,結果発生の原因となる事象について判断されるべきであり,福島第一原発1号機ないし4号機の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波が発生,
到来したというだけでは本件事故が発生した
と認めるに足りる証拠はないから,予見可能性の対象はO.P.+10mを超える津波の到来ではなく,
本件地震及びこれに伴う津波と同程度の地震及
び津波の発生,到来である旨主張する。
しかし,前記のとおり,予見可能性は,結果回避措置を採るための前提であるところ,
結果回避措置を採ることを義務付けるために必要な限度でその
対象が特定されていれば足りるのであり,
現実に生じた事実経過を前提にそ
の原因となった事象を予見することが認められているとはいえない。そして,前記のとおり,本件においては,福島第一原発1号機ないし4号機の主要建屋の敷地高さであるO.+10mを超える津波が到来した場合には,P.
全交流電源喪失という本件事故と同様の事故が発生する現実的危険性があったと認められるのであるから,予見可能性の対象はO.P.+10mを超える津波の到来で足りるというべきである。したがって,被告国の上記主張は採用できない。
予見可能性の有無
前記認定事実によれば,推進本部は,平成14年7月,日本海溝付近のプレート間大地震(津波地震)について,日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震は,
1611年の慶長三陸地震,
1677年の延宝房総沖地震,
1896年の明治三陸地震が知られているが,これらの地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとは言い難いため,固有地震であるとは特定できないとし,1896年の明治三陸地震についてのモデルを参考にし,断層の長さが日本海溝に沿って200km程度,幅が約50kmの地震が,同じ構造をもつ日本海溝付近の領域内のどこでも発生する可能性があるとした上で,M8クラスのプレート間大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定されるとし,ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は20%,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定されるとの見解(長期評価の見解)を公表したことが認められる。そして,推進本部は,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,被告国が法律に基づいて設置した公的な機関であり,長期評価の見解は少なくとも理学的根拠に基づくものといえるから,長期評価の見解には一定程度の信用性があったといえる。そして,原子力発電所においては,一旦過酷事故が起きれば国民の生命身体に不可逆的で深刻な被害をもたらすおそれがあり,炉規法等の一連の安全規制の法制度も,原子炉事故による深刻な災害が万が一にも起こらないようにするという目的を達する点にあることからすると,どこにどの程度の規模の地震が発生し,どこにどの程度の規模の津波が発生するかについて,専門研究者間で正当な見解として通説的見解といえる知見が確立するまで,結果回避措置をとる前提としての予見可能性が全く認められないとすると,国民の生命身体に対する深刻な危険を放置することになりかねず,上記法制度の目的にも反しかねない。以上によれば,被告国は,福島第一原発における津波対策を採るに当たっては,長期評価の見解を考慮に入れる必要があったといえる。また,前記認定事実によれば,平成18年5月11日に開催された第3回溢水勉強会において,福島第一原発5号機について,敷地高さであるO.P.+13mより1m高いO.P.+14mの津波が到来した場合には,津波が,タービン建屋大物搬入口,サービス建屋入口から流入すると仮定すると,タービン建屋の各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性があり,その波及として,浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能喪失することが報告されたことが認められる。このように,平成18年の時点では,被告らは,敷地高さを超える津波が到来した場合には,全交流電源喪失に陥るおそれがあることを認識できたといえるから,遅くともこの段階において,被告国は,被告東電に対して,長期評価の見解を前提に最新の津波シミュレーション技法に基づいて詳細な想定津波の計算を行わせる義務が生じたというべきである。そして,平成18年の時点では,被告東電が2008年推計で用いた津波評価技術による計算手法が既に確立していたから,この時点で被告国が被告東電に対して長期評価の見解に基づいて試算を行わせていれば,2008年推計と同様に敷地南側でO.P.+15.7mの津波,すなわち,主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することができたといえる。したがって,被告国は,平成18年の時点で,主要建屋の敷地高さであるO.P+10mを超える津波の到来を予見することができたということができる。なお,原告らは,主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することができる根拠として,4省庁報告書及び津波浸水予測図を挙げる。しかしながら,前記認定事実のとおり,4省庁報告書は,福島第一原発の1号機ないし4号機が所在する福島県双葉郡大熊町の想定津波の計算値をO.P.+6.4mとするものであるし,津波浸水予測図は,個々の海岸における事前の津波対策を検討するための基礎資料として作成されたものであり,福島第一原発の沿岸部に設定波高の津波が到来することを具体的に予測したものではない。したがって,4省庁報告書及び津波浸水図を根拠として主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することはできず,原告らの上記主張は採用できない。また,平成13年西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元についても,原告らが自認するとおり,これをもって直ちに主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することはできない。
予見可能性の程度
規制権限不行使の違法性の考慮要素たる結果回避義務との関係では,予見可能性が認められたからといって直ちに結果回避義務が生ずるものではなく,予見可能性の程度によって,求められる結果回避義務が異なるというべきである。すなわち,精度及び確度の高い知見に基づいた試算が出された場合には,直ちに結果回避措置を採ることを法的に義務付けることができる一方で,規制行政庁や原子力事業者が投資できる資金や人材等は有限である以上,精度及び確度のそれほど高くない知見に基づく試算しか得られない場合には,直ちに結果回避措置を採ることを法的に義務付けることはできず,今後の結果回避措置の内容,時期等については,規制行政庁の専門的判断に委ねられるというべきである。
本件についてみると,前記認定事実によれば,長期評価を公表した推進本部は被告国が法律に基づいて設置した公的機関であり,長期評価は公的見解を示したものといえるから,単なる一専門家の論文等とはその性格が異なるものであり,異論はあるとしても,当時の地震・津波の専門家の共通的な見解を示したものとして,その信頼性は一定程度認められるといえ,長期評価の見解についても,理学的に否定できないものであるといえる。一方で,前記認定事実によれば,長期評価の見解において,M8程度の地震が発生し得るとされた日本海溝付近の領域については,当該領域で過去に発生したとされる3つの津波地震が発生した正確な位置は不明であり,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震については,震源域が明らかでないとする見解もあり,津波地震ではない可能性も指摘されていたこと,三陸沖から房総沖までの日本海溝沿いという領域設定について,陸側のプレートに太平洋プレートが沈み込んでいる点で構造が同じであるという理由で一つの領域を設定している点につき,それほど強い根拠があるわけではないとか,地震学の考え方としては異質であるとの指摘もあったこと,北部と南部とでは,地震の発生に影響を及ぼすプレート間の固着の強さや堆積物の量に違いがあることが指摘されていたこと,当該領域内で過去に発生した地震は3つと少なく,過去の地震のデータが少ないことなどから,領域内のどこかで発生すると考えられるが,想定震源域を特定できず,これを公表した推進本部自身が,発生領域の評価及び発生確率について,信頼度をC:やや低いとしており,その頭書において,なお,今回の評価は,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが,データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。と付記していることが認められる。また,前記認定事実のとおり,長期評価の見解は,中央防災会議で採用が採用されなかったものであり,これに対する専門家の評価も,専門家9人中7人が地震又は津波の専門家の統一的な見解や最大公約数的見解とは言い難い,理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的コンセンサスが得られている津波であるとは考えられていなかった,直ちに対策を取らせるような説得力のある見解とは考えられていなかった,実際の防災対策をしていく上で,明治三陸地震と同じような津波地震が福島沖で発生すると考えることは難しいと考えられるなどという否定的なものである。このように,長期評価の見解は,一定程度の信頼性は認められるものの,その根拠となったデータの少なさや理学的根拠の不十分さなどから,専門研究者間で正当な見解として通説的見解といえるほど確立した知見であったとはいえず,予見可能性の程度は高度なものではなかったということができる。
5
結果回避可能性


結果回避可能性は,
規制権限を行使すべきとされる時期に予見可能で,
かつ,
予見すべきであった津波を前提に,
結果回避措置及び結果回避可能性を検討す
べきである。本件においては,前記のとおり,被告国は,遅くとも平成18年には,福島第一原発の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波,すなわち,被告東電の2008年推計による敷地南側でO.P.+15.7mの津波(以下本件想定津波という。)を予見することができたのであるから,この津波を前提に,被告国が被告東電に採らせるべきであった結果回避措置及びその措置を講ずることによって平成23年3月11日において主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来による全交流電源喪失という事態を回避することができたか否かを検討する。具体的には,原告らは,被告国は,被告東電に対し,結果回避措置として,①ないし③の措置を行わせるべきであり,また,これらの措置を並行して行わせるべきであった旨主張することから,
①ないし③の措置を本件事故が発生する平成23年3月11日までに完了し,主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来による全交流電源喪失という事態を回避することができたか検討する。
平成18年の時点で,O.P.+10mを超える津波の到来が予見可能であったとしても,そのための具体的な対策を実施するには,まずは被告東電において,本件想定津波に対する対策を検討,選択しなければならないところ,津波対策としては,①ないし③の措置に限らず,防潮堤の設置等も十分に考えられるところであった。また,①ないし③の措置を採るには,当該工事のみならず,その前提として,許認可手続等も必要なところ(丙A111,137),許認可手続に必要な期間も考慮すれば,
申請から①ないし③の措置の工事に着工するまでには,
少なくとも約2年3か月又は二,
三年程度を要し,
実際には,
これら以外に地元の了解を得るための期間や被告東電による対策工事の設計に要する期間等が加わることから,
更に長時間を要するとの意見もあるところ
である(丙A111,137参照)。また,①ないし③の措置の前提となる津波の算定根拠となった長期評価の見解は,前記のとおり,確度及び精度がそれほど高いものではなく,O.P.+10mを超える津波の到来は切迫したものではなかった。さらに,平成18年当時は,地震対策が喫緊の課題とされ,平成18年9月19日に耐震設計審査指針が改正されたのを受けて平成18年耐震バックチェックが進められ,被告らはこれに注力していた(丙A100の1・2)ことから,津波対策は地震対策に比して優先度の低いものであったといえる。また,保安院,原子力安全基盤機構,被告東電を含む電気事業者等で構成する溢水勉強会は,平成19年4月,溢水勉強会の調査結果についてと題する報告書(丙A42)を取りまとめ,福島第一原発の外部溢󠄀水について検討を行っているところである。そして,被告東電及び被告国の財政的資源及び人的資源は有限であり,
あらゆるリスクに備えてあらゆる対策を講じること
は不可能であるところ,
上記のような確度及び精度の不十分な長期評価の見解
に基づいて,
津波対策より地震対策を優先的に講ずるという判断をすることは
不合理とはいえない。これらの事情を総合的に勘案すれば,①ないし③の措置は本件事故までに完成していなかった可能性が高く(丙A111,137参照),O.P.+10mを超える津波の到来による全交流電源喪失という事態を回避することができたとは認められない。
原告らは,
本件事故後に浜岡原子力発電所において行われた津波対策を参考
にして作成された意見書(甲A143)に基づいて,①ないし③の措置は設計から2ないし3年以内に完成するから,
平成18年の時点で対策に着手してい
れば,本件事故までに完成していた旨主張する。しかし,上記意見書は,許認可に要する時間を度外視したものであり,また,本件事故後に浜岡原子力発電所において短期間の間に津波対策を講じることが可能であったとしても,それ
は本件事故の発生を受けて緊急に作業が進められたものであり,
本件事故前と
は緊急性も知見も異なるものである(丙A105)。したがって,原告らの主張は,その前提を本件事故前の状況と異にするものであり,採用することができない。
6
規制権限行使における専門性,裁量性
どのような自然現象が発生した場合に原子炉の安全性を損なうおそれがあるか,
原子炉の安全性を損なうおそれがあると判断した場合にどのような措置を採らせるべきかについては,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要であるから,経済産業大臣には,どのような場合にどのような措置を講ずるかの判断について広範な裁量が認められるというべきである。また,技術基準適合命令に違反した場合には,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科の罰則が定められているものであるから
(電気事業法116条2号)その行使には一定の制約を伴うものである。,
本件についてみれば,福島第一原発の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波による浸水を防止し,
全交流電源喪失という事態を回避する措
置としては,原告らの主張する①ないし③の措置に限定されるものではなく,防潮堤の設置等の他の方法によることも十分に考えられる状況であったといえる。また,前記認定事実によれば,被告東電は,長期評価の見解を受けて,その根拠が不十分であることから,確定論として取り入れることはせず,確率論に基づく安全対策の中で取り入れていくこととし,
その旨保安院に報告したことが認めら
れる。このように,被告東電は,長期評価の見解を受けて何ら対策をとっていなかったわけではなく,
確率論に基づく安全対策の中で取り入れようとしていたと
いえるが,前記のとおり,長期評価の見解はその根拠となったデータの少なさや理学的根拠の不十分さなどから信頼性が必ずしも高くなかったことに鑑みれば,長期評価の見解を確定論ではなく確率論に基づく安全対策の中で取り入れるという方針は一定の合理性を有するものであったといえる。そして,被告国は,被告東電から長期評価の見解に対する対応策について報告を受けた後,長期評価の
見解の根拠について推進本部の委員に確認するよう被告東電に指示し,同被告か
ら確認の結果の報告を受けるなど,
情報収集及び長期評価の見解に対する対策を
検討していたのであり,上記のとおり,被告東電の報告した方針が一定の合理性を有するものであったことからすれば,
更なる対策等の指示を行わなかったとし
ても,被告国の上記対応が不合理とはいえない。
7
まとめ
以上より,規制権限を定めた法が保護する国民の生命,身体,財産等は極めて重要なものであり,
原子力発電所で事故が発生した場合の被害は広範囲かつ
長期間にわたって住民の生命や身体に影響を及ぼす恐れがあり非常に重大なものであることが認められる一方で,予見可能性は認められるものの,その程度は必ずしも高いものとはいえず,
原子力発電所の津波に起因する事故による
被害の発生が切迫していたということもできない。また,被告国が規制権限を行使したとしても,O.P.+10mの津波による全交流電源喪失という結果を回避することができたものとは認められない上,
想定した津波に対する考え
得る有効な対策は①ないし③の措置に限られる状況ではなく,どのような措置
を採らせるべきかについては,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合判断が必要であるから,
いかなる規制権限を行使す
るかについては被告国に広範な裁量が認められていたところ,
被告らは,
当時,
喫緊の課題とされ,
津波対策より優先度が高かった地震対策である平成18年
耐震バックチェックに注力していたところである。そして,規制権限を行使して技術基準適合命令を発したときには,
これに違反した場合に罰則が定められ
ているから,その行使には一定の制約を伴うものである。さらに,被告国は,長期評価の見解について全く考慮していなかったわけではなく,
被告東電から
長期評価の見解に対する対応について報告を受けるなどして,
被告東電の対応
について把握し,長期評価の見解に対する対策を検討していた。これらの事情を総合すると,
①ないし③の措置を採るよう技術基準適合命令を発しなかったことがその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない。したがって,
①ないし③の措置を採るよう技術基準適合命令を発しなかったという規制権限の不行使が国賠法上違法ということはできない。
なお,
原告らは,
本件想定津波を想定して①ないし③の措置を採っていれば,本件津波による本件事故も回避することができると主張するのに対し,被告国
は,本件想定津波と本件津波とは規模等が大きく異なるため,仮に本件想定津波を想定して回避措置を採っていたとしても,
本件津波による本件事故を回避
することはできなかったと主張するため,①ないし③の措置を採っていれば,本件津波による本件事故を回避できたかについても,念のため検討する。ア
前記のとおり,原告らは,結果回避措置として,①ないし③の措置を採ることを主張し,また,これらの措置は並行して行われるべきであったと主張する。
本件については,本件想定津波の前提となる地震はM8.3であるのに対し,本件地震はM9であることから,地震エネルギーは本件想定津波の前提となった地震より本件地震の方が約11倍大きなものであった(前提事実,甲A141,丙A154,弁論の全趣旨)。また,本件想定津波が前提としている地震によって動くとされた断層領域は,南北の長さが210km,東西の幅が50kmであるのに対し,本件地震によって動いた断層領域は南北の長さ400km以上,東西の幅が200km以上であったと推定され,本件想定津波が前提としている地震の断層すべり量は9.7mであったのに対し,本件地震の断層すべり量は50m以上であったと推定されている
(甲A14
1,丙A19,154)。このように,本件想定津波が前提としている地震と本件地震は,地震エネルギーの大きさ,動いた断層領域の広さ,断層すべり量などにおいて,大きく異なるものであった。
本件想定津波の高さは,O.P.+10mである敷地南側ではO.P.+15.7m,O.P.+13mである敷地北側ではO.P.+13.7mであり,浸水深は約0.5ないし6mであった(甲A141)。これに対し,本件津波の高さ(浸水高)は,敷地南側ではO.P.+約11.5ないし15.5mであり,浸水深は約1.5ないし5.5mであった。このエリアの南西部では,局所的に,高さO.P.+約16ないし17mの浸水高が確認されており,浸水深は約6ないし7mであった。また,津波の高さは,敷地北側ではO.P.+約13ないし14.5mであり,浸水深は約1.5m以下であった。(甲A1の1・本文編19頁)
そして,本件想定津波では,敷地高さを超える津波が到来するのは敷地南側からのみであるのに対し(甲A141),本件津波では,敷地の北側,東側,南側の全ての方向から津波が到来しており,敷地南側のみならず敷地東側からもO.P.+10mを超える津波が到来している(甲A1の1・資料編資料Ⅱ-11)。このように,本件想定津波と本件津波はその規模や到来する方向が大きく異なるものであった。
以上より,
本件想定津波と本件津波及びこれらの前提となった地震には規
模や方向に大きな違いがあり,
本件想定津波を前提とした①ないし③の措置を講じていたとしても,
本件津波の到来により本件事故の発生を防止するこ
とができたと直ちに認めることはできない。

また,以下のとおり,①ないし③の措置について具体的に検討しても,これらの措置を講じることにより本件事故を回避することができたと認めることはできない。
①の措置について
原告らは,2008年推計を前提とすれば,福島第一原発1号機ないし4号機の建屋について敷地高さを2m超える津波を想定して津波対策を採っていれば本件事故を回避することができた旨主張し,
その根拠として
2メートルを超える津波対策と5メートルを超える津波対策では構造物の設計強度を2.5倍にしなければならないが,これは安全裕度3の範囲内にある。したがって,2メートル対策をとっていれば,5メートルの津波に耐えられたと考える。と述べる渡辺意見書(甲A143参照)を提出する。しかし,この見解は,原子力発電所の構造物の安全裕度が3であることを前提とするものであるが,
本件事故前において原子力発電所の
構造物の安全裕度が3であったと認めるに足りる証拠はなく,
敷地高さを
2m超える津波を想定して津波対策を採っていれば,
敷地高さを5m超え
る津波に耐えることができたと認めることはできない。また,水密扉を設置するとしても,設計条件を決める際には,水圧を適切に想定するだけでなく,
津波が当該水密扉に到達した時の波力や漂流物が衝突した場合の衝撃力なども考慮した上で,水密扉の設計がされなければならないところ,当時,
どのような高さの津波を想定して水密化の仕様を決定すればよいか確実な答えを出すことができない状態であり(丙A112),また,陸上構造物に作用する津波波圧の評価式についてはコンセンサスが得られておらず,本件想定津波で想定される波圧を前提に水密扉を設計した場合,本件津波に耐えられなかった可能性も指摘されていること(丙A105)などからすれば,本件想定津波を前提に水密扉を設計し設置したとしても,本件津波に耐えられたと認めることはできない。このように,本件事故までに①の措置を採ったとしても,
本件事故を回避できたものとは認め
られない。
②の措置について
②の措置についても,具体的には,建屋内の隔壁及び床等の配管貫通部の浸水防止及び出入口への水密扉の設置が考えら

のと

おり,本件想定津波を前提に水密扉を設計し設置したとしても,本件津波に耐えられたかは不明であり,
本件想定津波と本件津波は大きさや方向が
大きく異なることをも考慮すれば,
本件事故までに②の措置を採ったとし
ても,本件事故を回避できたものとは認められない。
③の措置について


と同様に,本件想定津波を前提に水

密化を設計し設置したとしても,本件津波に耐えられたかは不明であり,本件想定津波と本件津波は大きさや方向が大きく異なることをも考慮すれば,本件事故までに③の措置を採ったとしても,本件事故を回避できたものとは認められない。
以上より,①ないし③の措置を本件事故までに講じたとしても,本件事故を回避できたものとは認められず,
①ないし③の措置を並行して講じたとしても,
本件想定津波を前提にした設計では本件津波に耐えられたかは
不明であるから,本件事故を回避できたと認めることはできない。したがって,①ないし③の措置について具体的に検討しても,本件事故を回避することはできたということはできない。

原告は,
その他電源車の配置等の結果回避措置についても主張するが,

ずれも抽象的なものであり,
その措置を実施したことにより本件事故を回避
できたものとは直ちに認められないから採用できない。
第3

省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性

1
原告らは,
福島第一原発各号機の非常用ディーゼル発電機及び非常用高圧配電盤は,同じフロアに集中的に設置されており,設置フロアへの津波による浸水によって同時に機能喪失する配置であったところ,かかる状況は独立性(平成18年1月1日施行後の省令62号33条4項)の要件を欠くから,経済産業大臣は,被告東電に対し,非常用電源設備及びその附属設備をその一部でも高い位置に配置するなど分散配置する,系統の一部でも水密化するなどし,共通要因たる津波の浸水に対して非常用電源設備及びその附属設備の独立性を確保するよう,技術基準適合命令を発するべきであった旨主張する。そこで,経済産業大臣に,福島第一原発各号機が独立性を欠くこと,すなわち,非常用電源設備及びその附属設備の位置的分散及び系統の一部の水密化がされていないことを理由に技術基準適合命令を発する権限及び義務があったのか,以下,検討する。
2
発電用原子炉設備に関する技術基準を定めた省令62号には独立性に関する定義規定は存在しないものの,平成13年安全設計審査指針においては,独立性とは,二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないことをいい,共通要因とは,

二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因であって,例えば環境の温度,湿度,圧力,放射線等による影響因子,及び系統又は機器に供給される電力,電気,油,冷却水等による影響因子をいう。

とされている(丙A14)。そして,平成13年安全設計審査指針は,原子力安全委員会が,発電用軽水型原子炉に関する経験と最新の技術的知見に基づき,発電用軽水型原子炉に係る安全審査に当たって確認すべき安全設計の基本方針を定めたものであり,合理性を有するものと認められる上,原子炉の安全確保を目的として定められたという点において省令62号と同様の目的を有するから,省令62
号に独自の定義規定が存在しない以上,独立性の定義に関しては,平成13年安全設計審査指針に従い,
二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないことをいうと解するのが相当である。前提事実のとおり,平成13年安全設計審査指針は,原子炉施設全般の項目において,指針1ないし10を規定し,原子炉及び原子炉停止系以下において,個別の系列についての指針を規定しているところ,このような平成13年安全設計審査指針の規定ぶりからすれば,
指針48
(電気系統)
の3における
独立性とは,前記原子炉施設全般の指針において安全性が確保されることを前提としたものであると解される。
したがって,
指針48
(電気系統)
の3の
独立性における共通要因とは,指針2(自然現象),指針3(外部人為事象),指針4(内部発生飛来物),指針5(火災)等に対する安全性については既に確保されていることを前提として,
さらに想定される
共通要因
であると解され,
これら指針2ないし5において安全性を確保することが予定されている外部事象や内部発生飛来物は,共通要因として想定されないと解される。よって,原子炉施設全般
において安全性を確保することが想定されている自然現象等
は指針48(電気系統)の3の独立性における共通要因には含まれないと解するのが相当である。
そして,
上記のとおり,
平成13年安全設計審査指針における
独立性共の通要因に自然現象等が含まれていないと解されることからすれば,省令62号33条4項における独立性においても,省令62号4条で想定されている津波を含む自然現象は共通要因には含まれないと解するのが相当である。したがって,
津波によって非常用電源設備等の機能が同時に阻害されることの
ないようにすることは,省令62号33条4項の独立性の意味するところではなく,
同項は津波による被害を防止するために非常用電源設備等の位置的分散や系統の一部の水密化を要求していなかったといえる。そして,このように解したとしても,
津波等の自然現象に対する対策に関する技術基準は省令62号4条に規定されているから何ら不当ではない。
3
以上より,本件事故当時,福島第一原発各号機の非常用ディーゼル発電機及び非常用高圧配電盤は,同じフロアに集中的に設置されており,設置フロアへの津波による浸水によって同時に機能喪失する配置であったとしても,これは独立性の要件を欠く状態とはいえないから,経済産業大臣には,福島第一原発各号機が省令62号33条4項の要件を欠くことを理由に技術基準適合命令を発する権限及び義務はなかったといえる。よって,経済産業大臣が福島第一原発各号機が省令62号33条4項の要件を欠くことを理由に技術基準適合命令を発しなかったことは国賠法上違法とはいえない。
また,平成18年当時,津波や内部溢水に対する安全性は別の規定で確保されることが前提となっていたことなどからすれば,平成18年時点において,省令62号33条4項の非常用電源設備の独立性として津波や内部溢水に対する独立性を要求すべき省令改正義務があったとは認められない。

第4
1
シビアアクシデント対策についての規制権限不行使の違法性
原告らは,設計基準事象を超える事態に対する対策,すなわち,シビアアクシデント対策を法令により義務付けるべきであったにもかかわらず,法令により義
務付けなかったことが違法である旨主張するところ,具体的には,外部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失対策を法令により義務付けなかったことが違法であると主張しているものと解される。しかし,原告らの上記主張は,いずれも抽象的なものであり,被告国が具体的にどのような対策を採るべきであったのか判然とせず,
原告らが主張する①ない
し③の措置を命ずる以外に,
被告国が外部事象に起因するシビアアクシデント対
策及び長時間の全交流電源喪失対策を何らかの形で法令により義務付けたとしても,被告東電がどのような対策をとったか不明であり,かかる措置により本件事故を回避できたかも不明である。したがって,被告国が採るべき措置及びかかる措置をとった場合に本件事故が回避できことについて具体的な主張立証がされているとはいえない。よって,外部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失対策を法令により義務付けなかったことが違法であるとする原告らの上記主張は採用できない。
2
また,原告らは,被告国は本件事故後に省令62号4条を改正して5条の2を追加したところ,
ここでは津波により全交流電源喪失が生じた場合の代替設備確
保等のシビアアクシデント対策としての各種措置が義務付けられていることから,
被告国は本件事故が発生する前においても上記のような措置を採る必要性を認識し得たといえ,被告国は,本件事故前に,本件事故後の改正により追加された省令62号5条の2と同様の規定を省令に規定すべきであった旨主張しているものと解される。
しかし,
平成23年改正後の省令62号5条の2第2項のような代替設備確保義務を省令62号の改正により省令に規定すること自体は本件事故前においても可能であったが,平成23年改正による省令62号5条の2第2項は,緊急安全対策として電気事業者等に対して指示した設備に関する対策の省令上の位置付けを明確にするために本件事故を契機として追加されたものである(甲A75
参照)。そして,前記のとおり,原子炉の安全性確保のためにいかなる措置を講ずるべきかは,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的な判断が必要であり,経済産業大臣の裁量が認められるところ,O.P.
+10mを超える津波の到来の予見可能性はそれほど高いものではなかった上,被告東電は,長期評価の見解を確率論に基づく安全対策の中で取り入れることとし,被告国は,被告東電から報告を受け,その根拠について専門家の見解を求めるなどしていたことに照らすと,
本件事故のような重大な事故が発生する前
の時点においては,
被告国に平成23年改正後の省令62号5条の2第2項のよ
うな代替設備確保義務を法令に規定すべき義務があったということはできず,少
なくとも上記のような代替設備確保義務を法令に規定しなかったことが,著しく
合理性を欠くということはできない。
3
以上より,
原告らのシビアアクシデント対策についての主張はいずれも採用できず,
被告国がシビアアクシデント対策を法令により義務付けなかったことが国賠法上違法ということはできない。

第5
1
本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性
原告らは,平成18年の時点で,被告東電は,津波や過酷事故に対する十分な対策を採っていなかったこと等から,
福島第一原発各号機が当時の炉規法24条
1項4号の要件に適合しない状態にあったとして,経済産業大臣は,平成18年には,本件設置等許可処分を取り消すべきであった旨主張する。原告らの求める本件設置等許可処分の取消しは,
本件設置等許可処分の成立時には本件設置等許
可処分に瑕疵はなく,事後的に(本件においては平成18年時点)許可要件に適合しなくなったことを理由に処分の職権での取消しを求めるものと解されるから,いわゆる行政行為の撤回に当たる。

2
本件設置等許可処分を職権で撤回しない不作為が違法の評価を受け得る場合があるとしても,その撤回の判断は,撤回の必要性の程度,本件設置等許可処分の性質,内容,撤回によって相手方の被る不利益の程度等を総合的に勘案して判断する必要がある上,
原子炉の設置許可基準適合性の判断など高度に専門的な知
見を要することから,
経済産業大臣の広範な裁量に委ねられているというべきで
あり,
本件設置等許可処分を撤回しないという経済産業大臣の判断が著しく合理性を欠くものである場合に限って,国賠法上違法となると解するのが相当である。

3
本件についてみると,前記第2のとおり,平成18年時点では,福島第一原発の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することは可能であったものの,その予見可能性の程度は,直ちに津波に対する対策を採らなければならないほど切迫したものではなかった。また,平成18年の時点では,
我が国においては津波により全交流電源が喪失する事故が発生している状況ではなかった。これらの事情からすれば,平成18年当時,本件設置等許可処分を撤回する必要性が高まっていたとはいえない。また,O.P.+10mを超える津波の到来に対する安全対策は,様々なものが考えられ,どのような措置を採らせるべきかについては,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合判断が必要であり,
本件設置等許可処分を撤回しなければ
対応できないものではない。一方で,本件設置等許可処分を撤回した場合には,福島第一原発の運転を停止せざるを得なくなり,
本件設置等許可処分の相手方で
ある被告東電は大きな経済的不利益を被ることになるだけでなく,電力の安定供
給にも悪影響を及ぼす可能性もあった。以上の事情に鑑みれば,旧炉規法24条1項4号の要件が充足されていないとして本件設置等許可処分を撤回しないという経済産業大臣の判断が著しく合理性を欠くということはできない。よって,本件設置等許可処分を撤回しなかったことが国賠法上違法ということはできない。
第6

結論
以上より,被告国の規制権限不行使が国賠法上違法ということはできない。
第4章
第1

被告国の本件事故後の対応の違法性
本件事故後の避難指示の違法性
原告らは,
被告国による本件事故後の避難指示が不適切かつ不十分であって違
法である旨主張する。
前記認定事実によれば,本件事故発生後,保安院,経済産業大臣,内閣総理大臣等は,本件事故を受けて,原災法に基づく報告や原子力緊急事態宣言の発出を行ったこと,
原災本部が原災法15条3項に基づいて福島県知事及び関係地方公共団体に対して避難の指示や屋内退避の指示をしたことが認められるが,これら
の対応は,本件事故後に行われたものであるから,本件事故の発生と因果関係を有するものではなく,
本件事故発生についての被告国の責任として違法性が認め
られるものではないし,当時の状況において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく行ったものということもできない。したがって,被告国による本件事故後の避難指示が国賠法上違法とは認められない。
第2

本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性原告らは,被告国は,本件事故後に放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避を行ったことにより,
原告らの不安を増大させたことが違法である旨主
張する。
前記認定事実によれば,被告国は,SPEEDI計算の結果を入手していたものの平成23年3月23日に至るまで公表していなかったことが認められるが,これらの行為は,本件事故後に行われたものであるから,本件事故の発生と因果関係を有するものではなく,
本件事故発生についての被告国の責任として違法性
が認められるものではない。また,仮にSPEEDI計算の結果が公表されないことにより原告らの不安が増大したことがあったとしても,
SPEEDI計算の
結果を公表することにより無用な混乱を招くおそれもあったのであり,SPEE
DI計算の結果を公表するか否かの判断については,
被告国に一定の裁量が認め
られているというべきである。そして,上記のとおり,SPEEDI計算の結果を公表することにより弊害が生じる可能性もあったことからすれば,被告国が本
件事故後に放射性物質拡散予測に関する情報を直ちに開示しなかったことが被告国に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることもできない。よって,被告国による本件事故後に放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避を行ったことが国賠法上違法とは認められない。
第5章

被告国の責任に関するまとめ

以上のとおり,
本件事故の発生について,
被告国に国賠法上の責任は認められない。
第6章

被告東電の責任(民法709条及び同法717条1項に基づく請求の可否)
原賠法は,
原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的として(原賠法1条),原子力事業者の無過失責任(同法3条1項),責任集中(同法3条2項,4条),求償権の制限(同法5条),原子力事業者の損害賠償措置(同法6条以下),国の措置(同法16条以下)などが定められている。そして,原賠法に規定する原子力損害の賠償責任は,原子力事業者に対して原子力損害に関する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償責任に関する規定の特則であり,
民法上の債務不履行又は不法行為の責任発生要件に関する規定は適用を排除しているものと解するのが相当である。したがって,本件事故による損害賠償に関しては,民法の不法行為に関する規定の適用はなく,原賠法3条1項によってのみ損害賠償の請求をすることができるから,
原告らの被告東電に対する民法709条及
び同法717条1項に基づく請求は認められない。
第5部

損害論に関する当裁判所の判断

第1章

認定事実

第1

本件事故前の原告らの居住地等
本件事故前,福島県双葉郡富岡町(以下,単に富岡町という。)の旧居住制限区域には原告番号11(世帯全員が同一区域に居住していた場合には単に原告番号○○と記載し,同一世帯の中で異なる区域に居住していた者がいる場合には原告番号○○-○と記載する。以下同じ。)及び29が,福島県双葉郡浪江町(以下,単に浪江町という。)の帰還困難区域には原告番号2が,同町の旧避難指示解除準備区域には原告番号28-2が,
福島県南相馬市
(以下,
単に南相馬市という。)の旧避難指示解除準備区域には原告番号17が,同市の旧緊急時避難準備区域には原告番号3,18,19,20-1,20-2,21,24,30-2,30-3及び30-4が,福島県田村市(以下,単に田村市という。)の旧緊急時避難準備区域には原告番号41が,福島県いわき市(以下,単にいわき市という。)の自主的避難等対象区域には原告番号7,9,10,22,23,27,31,32,33,36,37,39及び40が,福島市の自主的避難等対象区域には原告番号5,6,14,16,35,38,42及び43が,福島県郡山市(以下,単に郡山市という。)の自主的避難等対象区域には原告番号13及び28-1が,福島県須賀川市(以下,単に須賀川市という。)の自主的避難等対象区域には原告番号1が,福島県伊達郡川俣町(以下,単に川俣町という。)の自主的避難等対象区域には原告番号4及び15が,福島県伊達郡国見町(以下,単に国見町という。)の自主的避難等対象区域には原告番号12及び34が,福島県伊達市(以下,単に伊達市という。)の自主的避難等対象区域には原告番号8が,区域外には原告番号20-3,26及び30-1が,それぞれ居住していた。
第2

本件事故後の状況

1
環境放射能状況


富岡町の環境放射能は以下のとおりであった。
平成24年4月25日から同月30日まで
1.62ないし5.95µSv/h(乙B149の1,乙B158の1)平成24年10月25日から同月31日まで
1.48ないし5.06µSv/h(乙B149の2,乙B158の2)平成25年4月25日から同月30日まで
1.14ないし4.25µSv/h(乙B149の3,乙B156の3,乙B158の3)
平成25年10月25日から同月31日まで
0.97ないし2.69µSv/h(乙B149の4)
平成26年4月25日から同月30日まで
0.32ないし3.36µSv/h(乙B149の5,乙B156の5)平成26年10月25日から同月31日まで
0.25ないし2.43µSv/h(乙B149の6)
平成27年4月25日から同月30日まで
0.25ないし2.61µSv/h(乙B149の7)
平成27年10月25日から同月31日まで
0.21ないし1.39µSv/h(乙B149の8)
平成28年4月25日から同月30日まで
0.18ないし1.22µSv/h(乙B149の9)
平成28年10月25日から同月31日まで
0.16ないし1.11µSv/h(乙B149の10)
平成29年4月25日から同月30日まで
0.12ないし1.11µSv/h(乙B149の11)
平成29年10月25日から同月31日まで
0.12ないし0.89µSv/h(乙B149の12)
平成30年4月17日から同月30日まで
0.09ないし0.53µSv/h(乙B149の13)
平成30年10月17日から同月31日まで
0.09ないし0.49µSv/h(乙B149の14)


浪江町の環境放射能は以下のとおりであった。
平成24年4月25日から同月30日まで
0.13ないし29.93µSv/h(乙B150の1,乙B151の1)平成24年10月25日から同月31日まで
0.11ないし24.64µSv/h(乙B150の2,乙B151の2)平成25年4月25日から同月30日まで
0.10ないし22.86µSv/h(乙B150の3,乙B151の3)平成25年10月25日から同月31日まで
0.09ないし19.64µSv/h(乙B150の4,乙B151の4)平成26年4月25日から同月30日まで
0.12ないし17.59µSv/h(乙B150の5,乙B151の5,乙B152の5)
平成26年10月25日から同月31日まで
0.10ないし15.40µSv/h(乙B150の6,乙B151の6,乙B152の6)
平成27年4月25日から同月30日まで
0.09ないし13.98µSv/h(乙B150の7,乙B151の7,乙B152の7)
平成27年10月25日から同月31日まで
0.09ないし12.71µSv/h(乙B150の8,乙B151の8,乙B152の8)
平成28年4月25日から同月30日まで
0.08ないし11.50µSv/h(乙B150の9,乙B151の9,乙B152の9)
平成28年10月25日から同月31日まで
0.07ないし10.78µSv/h(乙B150の10,乙B151の10,乙B152の10)
平成29年4月25日から同月30日まで
0.07ないし9.93µSv/h(乙B150の11,乙B151の11,乙B152の11)
平成29年10月25日から同月31日まで
0.06ないし9.04µSv/h(乙B150の12,乙B151の12,乙B152の12)
平成30年4月17日から同月30日まで
0.06ないし8.62µSv/h(乙B150の13,乙B151の13)平成30年10月17日から同月31日まで
0.06ないし8.58µSv/h(乙B150の14,乙B151の14)⑶

南相馬市の環境放射能は以下のとおりであった。
平成24年4月25日から同月30日まで
0.22ないし4.95µSv/h(乙B155の1)
平成24年10月25日から同月31日まで
0.15ないし4.44µSv/h(乙B155の2)
平成25年4月25日から同月30日まで
0.13ないし3.81µSv/h(乙B155の3)
平成25年10月25日から同月31日まで
0.11ないし3.16µSv/h(乙B155の4)
平成26年4月25日から同月30日まで
0.06ないし2.98µSv/h(乙B155の5)
平成26年10月25日から同月31日まで
0.06ないし2.54µSv/h(乙B155の6)
平成27年4月25日から同月30日まで
0.06ないし2.39µSv/h(乙B155の7)
平成27年10月25日から同月31日まで
0.06ないし2.16µSv/h(乙B155の8)
平成28年4月25日から同月30日まで
0.06ないし1.78µSv/h(乙B155の9)
平成28年10月25日から同月31日まで
0.06ないし1.65µSv/h(乙B155の10)
平成29年4月25日から同月30日まで
0.06ないし1.47µSv/h(乙B155の11)
平成29年10月25日から同月31日まで
0.05ないし1.16µSv/h(乙B155の12)
平成30年4月17日から同月30日まで
0.04ないし1.24µSv/h(乙B155の13)
平成30年10月17日から同月31日まで
0.04ないし1.13µSv/h(乙B155の14)


田村市の環境放射能は以下のとおりであった。
平成24年4月25日から同月30日まで
0.12ないし0.27µSv/h(乙B157の1)
平成24年10月25日から同月31日まで
0.11ないし0.24µSv/h(乙B157の2)
平成25年4月25日から同月30日まで
0.10ないし0.11µSv/h(乙B157の3)
平成25年10月25日から同月31日まで
0.09ないし0.10µSv/h(乙B157の4)
平成26年4月25日から同月30日まで
0.07ないし0.26µSv/h(乙B157の5)
平成26年10月25日から同月31日まで
0.06ないし0.22µSv/h(乙B157の6)
平成27年4月25日から同月30日まで
0.06ないし0.19µSv/h(乙B157の7)
平成27年10月25日から同月31日まで
0.06ないし0.18µSv/h(乙B157の8)
平成28年4月25日から同月30日まで
0.05ないし0.16µSv/h(乙B157の9)
平成28年10月25日から同月31日まで
0.05ないし0.16µSv/h(乙B157の10)
平成29年4月25日から同月30日まで
0.05ないし0.14µSv/h(乙B157の11)
平成29年10月25日から同月31日まで
0.06ないし0.12µSv/h(乙B157の12)
平成30年4月17日から同月30日まで
0.06ないし0.13µSv/h(乙B157の13)
平成30年10月17日から同月31日まで
0.06ないし0.13µSv/h(乙B157の14)


いわき市の環境放射能は以下のとおりであった。
平成23年3月31日
0.39ないし1.46µSv/h(乙B198)
平成23年4月30日
0.11ないし0.62µSv/h(乙B198)
平成23年5月31日
0.12ないし0.59µSv/h(乙B198)
平成23年6月30日
0.09ないし0.35µSv/h(乙B198)
平成23年7月31日
0.10ないし0.39µSv/h(乙B198)
平成23年8月31日
0.09ないし0.38µSv/h(乙B198)
平成23年9月30日
0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)
平成23年10月31日
0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)
平成23年11月30日
0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)
平成23年12月31日
0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)
平成24年1月31日
0.09ないし0.34µSv/h(乙B198)
平成24年2月16日
0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)
平成24年4月1日から同月12日まで
0.05ないし0.84µSv/h(乙B171の1)
平成25年4月1日から同月12日まで
0.05ないし0.61µSv/h(乙B171の2)
平成26年4月1日から同月12日まで
0.04ないし0.31µSv/h(乙B171の3)
平成27年4月1日から同月12日まで
0.04ないし0.30µSv/h(乙B171の4)
平成28年4月1日から同月12日まで
0.03ないし0.24µSv/h(乙B171の5)
平成29年4月1日から同月30日まで
0.03ないし0.12µSv/h(乙B269)
平成30年4月1日から同月30日まで
0.03ないし0.12µSv/h(乙B414)


福島市の環境放射能は以下のとおりであった。
平成23年3月31日
0.64ないし2.61µSv/h(乙B198)
平成23年4月30日
0.51ないし1.49µSv/h(乙B198)
平成23年5月31日
0.41ないし1.36µSv/h(乙B198)
平成23年6月30日
0.40ないし1.05µSv/h(乙B198)
平成23年7月31日
0.29ないし1.08µSv/h(乙B198)
平成23年8月31日
0.36ないし0.99µSv/h(乙B198)
平成23年9月30日
0.34ないし0.93µSv/h(乙B198)
平成23年10月31日
0.35ないし1.18µSv/h(乙B198)
平成23年11月30日
0.34ないし1.16µSv/h(乙B198)
平成23年12月31日
0.34ないし1.12µSv/h(乙B198)
平成24年1月31日
0.23ないし1.06µSv/h(乙B198)
平成24年2月16日
0.27ないし1.08µSv/h(乙B198)
平成24年4月1日から同月12日まで
0.03ないし1.40µSv/h(乙B171の1)
平成25年4月1日から同月12日まで
0.08ないし0.64µSv/h(乙B171の2)
平成26年4月1日から同月12日まで
0.03ないし0.36µSv/h(乙B171の3)
平成27年4月1日から同月12日まで
0.03ないし0.30µSv/h(乙B171の4)
平成28年4月1日から同月12日まで
0.05ないし0.25µSv/h(乙B171の5)
平成29年4月1日から同月30日まで
0.05ないし0.23µSv/h(乙B269)
平成30年4月1日から同月30日まで
0.02ないし0.20µSv/h(乙B414)


福島県白河市(以下白河市という。)の環境放射能は以下のとおりであった。
平成24年4月1日から同月12日まで
0.10ないし0.45µSv/h(乙B171の1)
平成25年4月1日から同月12日まで
0.08ないし0.37µSv/h(乙B171の2)
平成26年4月1日から同月12日まで
0.07ないし0.23µSv/h(乙B171の3)
平成27年4月1日から同月12日まで
0.06ないし0.20µSv/h(乙B171の4)
平成28年4月1日から同月12日まで
0.06ないし0.17µSv/h(乙B171の5)
平成29年4月1日から同月30日まで
0.06ないし0.16µSv/h(乙B269)
平成30年4月1日から同月30日まで
0.05ないし0.15µSv/h(乙B414)



郡山市の環境放射能は以下のとおりであった。
平成23年3月31日
1.00ないし2.12µSv/h(乙B198)
平成23年4月30日
0.30ないし1.51µSv/h(乙B198)
平成23年5月31日
0.20ないし1.36µSv/h(乙B198)
平成23年6月30日
0.25ないし1.24µSv/h(乙B198)
平成23年7月31日
0.21ないし1.10µSv/h(乙B198)
平成23年8月31日
0.21ないし1.03µSv/h(乙B198)
平成23年9月30日
0.21ないし1.00µSv/h(乙B198)
平成23年10月31日
0.21ないし0.98µSv/h(乙B198)
平成23年11月30日
0.21ないし0.96µSv/h(乙B198)
平成23年12月31日
0.20ないし0.91µSv/h(乙B198)
平成24年1月31日
0.16ないし0.78µSv/h(乙B198)
平成24年2月16日
0.17ないし0.83µSv/h(乙B198)
平成24年4月1日から同月12日まで
0.06ないし1.32µSv/h(乙B171の1)
平成25年4月1日から同月12日まで
0.06ないし0.94µSv/h(乙B171の2)
平成26年4月1日から同月12日まで
0.05ないし0.33µSv/h(乙B171の3)
平成27年4月1日から同月12日まで
0.04ないし0.26µSv/h(乙B171の4)
平成28年4月1日から同月12日まで
0.05ないし0.19µSv/h(乙B171の5)
平成29年4月1日から同月30日まで
0.04ないし0.17µSv/h(乙B269)
平成30年4月1日から同月30日まで
0.05ないし0.16µSv/h(乙B414)


須賀川市の環境放射能は以下のとおりであった。
平成23年3月31日
0.43µSv/h(乙B198)
平成23年4月30日
0.30µSv/h(乙B198)
平成23年5月31日
0.28µSv/h(乙B198)
平成23年6月30日
0.28ないし1.19µSv/h(乙B198)
平成23年7月31日
0.23ないし1.07µSv/h(乙B198)
平成23年8月31日
0.22ないし0.98µSv/h(乙B198)
平成23年9月30日
0.89ないし0.94µSv/h(乙B198)
平成23年10月31日
0.85µSv/h(乙B198)
平成23年11月30日
0.83ないし0.89µSv/h(乙B198)
平成23年12月31日
0.84µSv/h(乙B198)
平成24年1月31日
0.61ないし0.66µSv/h(乙B198)
平成24年2月16日
0.77ないし0.79µSv/h(乙B198)
平成24年4月1日から同月12日まで
0.12ないし0.45µSv/h(乙B171の1)
平成25年4月1日から同月12日まで
0.09ないし0.34µSv/h(乙B171の2)
平成26年4月1日から同月12日まで
0.08ないし0.25µSv/h(乙B171の3)
平成27年4月1日から同月12日まで
0.07ないし0.19µSv/h(乙B171の4)
平成28年4月1日から同月12日まで
0.06ないし0.15µSv/h(乙B171の5)
平成29年4月1日から同月30日まで
0.05ないし0.13µSv/h(乙B269)
平成30年4月1日から同月30日まで
0.05ないし0.12µSv/h(乙B414)

国見町及び川俣町の環境放射能は以下のとおりであった。
平成24年4月25日から同月30日まで
0.21ないし1.07µSv/h(乙B154の1)
平成24年10月25日から同月31日まで
0.14ないし1.21µSv/h(乙B154の2)
平成25年4月25日から同月30日まで
0.12ないし1.03µSv/h(乙B154の3)
平成25年10月25日から同月31日まで
0.11ないし0.86µSv/h(乙B154の4)
平成26年4月25日から同月30日まで
0.11ないし0.94µSv/h(乙B154の5)
平成26年10月25日から同月31日まで
0.10ないし0.72µSv/h(乙B154の6)
平成27年4月25日から同月30日まで
0.06ないし0.68µSv/h(乙B154の7)
平成27年10月25日から同月31日まで
0.06ないし0.60µSv/h(乙B154の8)
平成28年4月25日から同月30日まで
0.05ないし0.53µSv/h(乙B154の9)
平成28年10月1日から同月12日まで
0.04ないし0.49µSv/h(乙B154の10)
平成29年4月25日から同月30日まで
0.04ないし0.46µSv/h(乙B154の11)
平成29年10月25日から同月31日まで
0.04ないし0.41µSv/h(乙B154の12)
平成30年4月1日から同月30日まで
0.04ないし0.41µSv/h(乙B414)

伊達市の環境放射能は以下のとおりであった。
平成23年3月31日
2.25µSv/h(乙B198)
平成23年4月30日
1.21µSv/h(乙B198)
平成23年5月31日
1.06µSv/h(乙B198)
平成23年6月30日
1.79ないし2.18µSv/h(乙B198)
平成23年7月31日
1.31ないし1.69µSv/h(乙B198)
平成23年8月31日
1.55ないし2.15µSv/h(乙B198)
平成23年9月30日
1.46ないし2.11µSv/h(乙B198)
平成23年10月31日
1.44ないし2.13µSv/h(乙B198)
平成23年11月30日
1.46ないし2.02µSv/h(乙B198)
平成23年12月31日
1.25ないし2.04µSv/h(乙B198)
平成24年1月31日
0.84ないし1.52µSv/h(乙B198)
平成24年2月16日
0.90ないし1.59µSv/h(乙B198)
平成24年4月1日から同月12日まで
0.17ないし0.98µSv/h(乙B171の1)
平成25年4月1日から同月12日まで
0.12ないし0.58µSv/h(乙B171の2)
平成26年4月1日から同月12日まで
0.09ないし0.38µSv/h(乙B171の3)
平成27年4月1日から同月12日まで
0.07ないし0.31µSv/h(乙B171の4)
平成28年4月1日から同月12日まで
0.06ないし0.26µSv/h(乙B171の5)
平成29年4月1日から同月30日まで
0.05ないし0.24µSv/h(乙B269)
平成30年4月1日から同月30日まで
0.05ないし0.22µSv/h(乙B414)
2
本件事故による避難者数の推移


避難指示区域等からの避難者数は以下のとおり推移した
(甲B42ないし5
1)

平成24年8月14日時点(甲B42)
旧避難指示解除準備区域

約2.
2万人

旧居住制限区域

約0.
6万人

帰還困難区域

約0.
03万人

警戒区域
計画的避難区域

約0.
4万人

旧緊急時避難準備区域

約5.
4万人

約2.
5万人

平成24年9月19日時点(甲B43)
旧避難指示解除準備区域

約2.
2万人

旧居住制限区域

約0.
6万人

帰還困難区域

約0.
03万人

警戒区域

約5.
4万人

計画的避難区域

約0.
4万人

旧緊急時避難準備区域

約2.
5万人

平成24年10月16日時点(甲B44)
旧避難指示解除準備区域

約2.
2万人

旧居住制限区域

約0.
6万人

帰還困難区域

約0.
03万人

警戒区域
計画的避難区域

約0.
4万人

旧緊急時避難準備区域

約5.
4万人

約2.
4万人

平成25年2月20日時点(甲B45)
旧避難指示解除準備区域
旧居住制限区域

約0.
6万人

帰還困難区域

約1.
1万人

警戒区域

約4.
3万人

計画的避難区域

約0.
4万人

旧緊急時避難準備区域

約2.
2万人

約2.
3万人

平成25年4月16日時点(甲B46)
旧避難指示解除準備区域
旧居住制限区域

約2.
4万人

帰還困難区域

約1.
9万人

警戒区域

約0.
7万人

計画的避難区域

約0.
1万人

旧緊急時避難準備区域

約3.
3万人

約2.
2万人

平成25年5月10日時点(甲B47)
旧避難指示解除準備区域

約3.
3万人

旧居住制限区域

約2.
4万人

帰還困難区域

約1.
9万人

警戒区域

約0.
7万人
計画的避難区域
旧緊急時避難準備区域

約0.
1万人
約2.
2万人

平成25年6月11日時点(甲B48)
旧避難指示解除準備区域
旧居住制限区域

約2.
5万人

帰還困難区域

約2.
5万人

計画的避難区域

約0.
1万人

旧緊急時避難準備区域

約3.
3万人

約2.
2万人

平成25年9月17日時点(甲B49)
旧避難指示解除準備区域
旧居住制限区域

約2.
3万人

帰還困難区域

約2.
5万人

旧緊急時避難準備区域

約3.
3万人

約2.
1万人

平成26年3月10日時点(甲B50)
旧避難指示解除準備区域
旧居住制限区域

約2.
3万人

帰還困難区域

約2.
5万人

旧緊急時避難準備区域

約3.
3万人

約2.
1万人

平成26年10月1日時点(甲B51)
旧避難指示解除準備区域

約3.
2万人

旧居住制限区域

約2.
3万人

帰還困難区域

約2.
4万人

旧緊急時避難準備区域等(旧避難指示区域からの避難者も含む。)約2.
0万人


自主的避難者について

本件事故後の自主的避難者数は以下のとおり推移した(甲B41,乙B56,199)。
平成23年3月15日
平成23年3月25日

2万3659人

平成23年4月22日

2万2315人

平成23年5月22日

3万6184人

平成23年6月30日

3万4093人

平成23年7月28日

4万1377人

平成23年8月25日

4万7786人

平成23年9月22日

4万0256人

5万0327人

平成23年3月15日時点での自主的避難者数及び人口に占める割合は
以下のとおりである(乙B199)。
いわき市

1万5377人(人口比4.5%)

郡山市

5068人(人口比1.5%)

福島市

3234人(人口比1.1%)

須賀川市

1138人(人口比1.4%)

白河市
田村市

39人(人口比0.1%)

伊達市

14人(人口比0.0%)

国見町

986人(人口比9.8%)

川俣町


522人(人口比0.8%)

1人(人口比0.0%)

18歳未満の避難者数は以下のように推移した(乙B201の1ないし5・7)

富岡町
平成24年4月1日時点

2597人

平成25年4月1日時点

2382人

平成26年4月1日時点

2279人
平成27年4月1日時点
平成28年4月1日時点

2096人

平成29年4月1日時点

2194人

1977人

浪江町
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

3276人

平成26年4月1日時点

3133人

平成27年4月1日時点

3039人

平成28年4月1日時点

2960人

平成29年4月1日時点

3298人

2846人

南相馬市
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

5820人

平成26年4月1日時点

5155人

平成27年4月1日時点

4729人

平成28年4月1日時点

4299人

平成29年4月1日時点

5606人

3837人

田村市
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

367人

平成26年4月1日時点

289人

平成27年4月1日時点

206人

平成28年4月1日時点

139人

平成29年4月1日時点

387人

42人

いわき市
平成24年4月1日時点

3641人
平成25年4月1日時点
平成26年4月1日時点

2107人

平成27年4月1日時点

1690人

平成28年4月1日時点

1358人

平成29年4月1日時点

2803人

884人

福島市
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

3034人

平成26年4月1日時点

2398人

平成27年4月1日時点

2059人

平成28年4月1日時点

1561人

平成29年4月1日時点

3174人

1379人

白河市
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

254人

平成26年4月1日時点

275人

平成27年4月1日時点

238人

平成28年4月1日時点

225人

平成29年4月1日時点

119人

43人

郡山市
平成24年4月1日時点

2801人

平成25年4月1日時点

2590人

平成26年4月1日時点

2311人

平成27年4月1日時点

2032人

平成28年4月1日時点

1880人

平成29年4月1日時点

1707人

須賀川市
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

169人

平成26年4月1日時点

264人

平成27年4月1日時点

247人

平成28年4月1日時点

196人

平成29年4月1日時点

182人

137人

川俣町
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

225人

平成26年4月1日時点

200人

平成27年4月1日時点

176人

平成28年4月1日時点

165人

平成29年4月1日時点

242人

189人

国見町
平成24年4月1日時点
平成25年4月1日時点

57人

平成26年4月1日時点

26人

平成27年4月1日時点

25人

平成28年4月1日時点

21人

平成29年4月1日時点

56人

18人

伊達市
平成24年4月1日時点

428人

平成25年4月1日時点

401人

平成26年4月1日時点

312人

平成27年4月1日時点

246人
平成28年4月1日時点
平成29年4月1日時点
3
230人
156人

本件事故後の新聞報道等の状況
本件事故後の新聞報道等の状況は,以下のとおりである。
平成23年3月
190人被曝の恐れ,避難の全希望者検査,

福島第一原子力発電所の敷地境界で,高いレベルの放射線が検出された。多数の一般住民が被曝したことも分かった。ただし専門家や政府は,ただちに健康に影響を与える値ではないと説明している。

(以上,乙B80の1),

かつてない規模の避難民に,行政や警察の対応は追いつかず,自力で県外へ逃れる人も増えている。,

福島第一原発の爆発などの影響で,近隣では通常より高いレベルの放射線量が計測されている。ただ,ただちに健康に影響を与えるレベルではない。専門家は『原発の半径30キロ圏外に住む人は,正しい情報を集めながら,普段通りの生活を送って欲しい』と冷静な対応を呼びかけている。(以上,乙B80の2),

確かに事故以降,近隣都県を中心に,過去の平均値より高い値が検出されている。しかし,毎時数マイクロシーベルト以下ならば,健康に影響を与えるような値ではないと考えられている。

(乙B80の3),3号機も緊急事態冷却機能失う建屋爆発の恐れ,原発3号機も爆発福島第1『格納容器は無事』,

菅直人首相は,半径20~30キロメートル圏内の住民に屋内退避を求めた。米スリーマイル島に匹敵する原発史上まれな大事故になった。,

放射線,周辺で高数値「放射線量,低下傾向に健康影響ないレベル,

平常値超えは5県」,福島市の水道水素検出,首相,出荷停止を指示機,まだ不安定福島市などまたヨウ『人体に影響ない数値』,1~4号続く燃料冷却作業(以上,乙B253),第一原発3号機も『炉心溶融』,水素発生,爆発の恐れ,

避難指示が出た東京電力福島第一原子力発電所から半径二十キロ内の避難対象者は約八万人で,周辺地域で自主的に避難した人を含め十二万人が避難したと発表した。

,メルトダウンの恐れ,放射性物質大量放出も極めて危険住民への影響懸念,
放射線量,3,4号機敷地内,福島,通常の478倍はない』,重大損傷『可能性低い』,放射線量島で放射能高い数値4号機爆発や雨県『健康に影響また危険数値,福要因,

東日本大震災の県内被災者の県外への避難が加速し,避難者は二十日,二万人を超えた。

,水道,基準上回る放射能飯舘飲用控えるよう周知,

国と県は『手洗いや入浴など生活用水として使用することは健康上,問題なく,一時的に飲用しても,すぐに健康に影響が出ることはない』としている。

,野菜は洗えば効果的/母乳も問題なし,県産葉物など摂取制限値超え,30キロ圏外る放射性物質ハウス野菜7品『安全』11品種基準放射能暫定基準値下回県,販売強化を要請(以上,乙B285)平成23年4月

海に流れた汚染水,4700兆ベクレル(甲B19),東京電力福島第1原発の20~30キロ圏内の浪江町と飯舘村の計7施設で放射線量が1時間当たり10マイクロシーベルトを超えたが,県内各地で県が行っている環境放射能測定結果と同程度の結果となり,県は他の545地点を含め,すべての地点で『子どもたちに今すぐに影響が出ることはない』とした。(乙B79の1),高濃度汚水流出止まる,福島第一原発内なお6万トン,

原子力安全委員会は9日,福島県内の学校施設の放射線量について『一部に開校をおすすめできない高いところもある』との見方を示した。

避難区域など3区域以外では作付けして問題ないとの見解を示した。

,微量の放射性ストロンチウム福島の土壌で検出,

事故の収束見込みが示されたのは朗報だ。ただ東電も政府も,いつ帰宅ができるのかの見通しは明らかにしていない。

(以上,乙B253),県内各地点減少か横ばい(乙B285,313の1),「放射性物質検出されず環境放射能
県内水道水」,川俣の1地点で毎時10マイクロシーベルト超え,原乳出荷制限25市町村解除,

枝野幸男官房長官は十七日来県し,東京電力福島第一原子力発電所の状況が悪化しないことを条件に,計画的避難区域が今後,拡大することはないとの見通しを明らかにした。

海江田万里経済産業相は十七日,記者会見し,東京電力が福島第一原発を安定状態にするとした六~九カ月後を目標に,避難している周辺住民らの帰宅が可能かどうか判断する意向を表明した。

文部科学省は十九日,校庭・園庭での放射線量が毎時三・八マイクロシーベルトを上回った福島,郡山,伊達三市の小中学校と保育所・幼稚園合わせて十三校・園の屋外活動を控えるよう県教委に通知した。

放射線量の暫定基準値で屋外活動を制限された福島,郡山,伊達各市の小・中学校や保育園,幼稚園では二十日,子どもがマスク姿で通い,保護者が送り迎えする姿が目立った。

(以上,乙B285)平成23年5月ないし10月
5月(学校等の施設について)教員らが児童・生徒と行動を共にするなどして線量を測った結果,平均値は毎時〇・.二二マイクロシーベルトとなり,同省(文部科学省)が定める屋外活動の基準値毎時三・八マイクロシーベルトを大幅に下回った。,文科省は十二日,これまでの調査で毎時三・八マイクロシーベルトを超え,屋外活動が一時制限されたり,制限を継続したりしている十三小中学校の年間の指定線量は平均年六・六ミリシーベルトで,最大でも一〇・一ミリシーベルトにとどまると発表した。(乙B79の8),7月

県民健康管理調査の先行調査として浪江町など三町村の住民を対象に行った内部被ばく検査で,参加した百二十二人全員の年間の内部被ばく量の推計は,一ミリシーベルト以下で健康に影響を与える線量ではなかった。

(乙B79の10),8月南相馬市は十三日,小中学生を含む市民八百九十九人の内部被ばく検査で,体内に取り込まれた放射性セシウムによる被ばく線量が今後五十年間の換算で一ミリシーベルトを超えた人が一人いたものの,ほとんどが〇・一ミリシーベルト以下だったと発表した。(乙B79の11),10月伊達市は,市内の子どもらを対象に小型線量計(ガラスバッジ)で計測した被ばく放射線量の結果について

年間で試算すると5ミリシーベルトを超える値から計測されない対象者もいるなど幅広いが,市は『健康に影響を与える積算線量ではなかった』としている。

(乙B79の12)平成24年
東京電力福島第一原発事故で飛散した放射性物質を除去する作業(除染)を終えた福島県の山あいの地域で,除染後しばらくすると放射線量がまた上がるケースが出ている。風雨で運ばれた放射性物質が,道路脇や軒先に再びたまり,線量を上げているとみられる。(甲B126),

住宅などの除染後,国が長期的な目標とする年間追加被ばく線量1ミリシーベルト(毎時0・23マイクロシーベルト)以下を達成できないケースは多く,再除染を求める住民の声は根強い。

(甲B128),甲状腺がん1人確認福島医大の影響否定(乙B79の14),外部被ばく線量推計基本調査放射線最大値は13ミリシーベルト,

県は『これまでの調査では100ミリシーベルト以下で明らかな健康影響は確認されておらず,放射線による健康影響は考えにくい』としている。

(乙B79の16),県民の大半1ミリシーベルト未満(乙B79の17)
4
除染状況


平成27年7月末時点の除染状況は以下のとおりであった(甲B30)。田村市,川内村,楢葉町及び大熊町では,宅地,農地,森林及び道路での除染は終了した。
葛尾村では,
宅地は100パーセント,
農地は86パーセント,
森林は99.9パーセント,道路は53パーセントの実施率であった。川俣町では,宅地は100パーセント,農地は32パーセント,森林は77パーセント,道路は6パーセントの実施率であった。飯舘村では,宅地は100パーセント,農地は42パーセント,森林は57パーセント,道路は28パーセントの実施率あった。南相馬市では,宅地は26パーセント,農地は15パーセント,森林は46パーセント,道路は6パーセントの実施率であった。浪江町では,宅地は19パーセント,農地は18パーセント,森林は34パーセント,道路は40パーセントの実施率であった。
富岡町では,
宅地は48パーセント,
農地は12パーセント,森林は82パーセント,道路は78パーセントの実施率であった。双葉町では,宅地は5パーセント,農地,森林及び道路は0パーセントの実施率であった。


平成28年6月末時点での除染状況は以下のとおりであった(乙B209,217の1,乙B220)。
いわき市では,公共施設等,農地及び森林は完了し,住宅は65.7パーセント,道路は13.6パーセントの実施率であった。郡山市では,森林は完了し,住宅は94.3パーセント,公共施設等は97.3パーセント,道路は34.1パーセント,農地は75.6パーセントの実施率であった。福島市では,住宅は完了し,公共施設等は98.8パーセント,道路は81.5パーセント,農地は67.4パーセント,森林は40パーセントの実施率であった。平成29年3月末時点の須賀川市の除染状況は,住宅,公共施設,道路,農地,その他の全てで完了した(乙B426)。
平成29年5月末時点の伊達市の除染状況は,住宅,公共施設,道路,農地,その他の全てで完了した(乙B431)。
各市町村の除染実施計画における除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染状況は以下のとおりであった(乙B229)。
平成25年6月に田村市,平成26年3月に楢葉町,川内村及び大熊町,平成27年12月に葛尾村及び川俣町,平成28年3月に双葉町,同年12月に飯舘村,平成29年1月に富岡町,同年3月に南相馬市及び浪江町において完了した。

5
事業所や学校等の再開状況等


富岡町
富岡町における活動再開等の状況は以下のとおりである。

平成27年8月,
JAEA廃炉国際共同研究センター国際共同研究棟の立
地が決定した(乙B114の4・5)。


平成27年10月,町役場(楢葉分室)及び警察(道の駅ならは)の一部機能を町内に移転した(乙B114の4)。


平成27年10月,交流サロンを開設した(乙B114の4)。


平成28年10月,町内に町立診療所が開所した(乙B117の1)。

平成28年11月,
複合商業施設が開設され,
一部店舗がオープンした
(乙
B117の2)。



浪江町
浪江町における活動再開等の状況は以下のとおりである。

平成27年7月15日時点で,
所定の手続を経て事業を再開している事業
所は,平成26年8月27日に営業を再開したコンビニエンスストアを含め,
18事業所であり,
平成28年8月4日時点では,
21事業所である
(乙
B118の1・2,乙B119)。


野菜については,平成25年より試験栽培を開始しており,全14品目で安全が確認された(乙B120の1)。


花卉については,
平成26年より実証栽培を開始した
(乙B120の1)



水稲については,平成26年より,水稲の実証栽培を開始し,全量全袋検査で全て基準値以下となっており,平成27年11月,浪江町産の米が震災後初めて販売された(乙B114の4・5,乙B120の1,121)。

平成27年10月,ふたば復興生コンの落成式が行われた(乙B114の4)。


平成28年10月,仮設商業施設が開設され,小売,飲食,サービスの各業種から10店舗が開店した(乙B122)。


南相馬市(小高区)
南相馬市(小高区)における活動再開等の状況は以下のとおりである。ア
平成27年8月15日時点で,小高区内の事業所(総数488)のうち,210事業所が再開し,そのうち,44事業所が小高区内で事業を再開しており,同年12月には,再開した224事業所のうち52事業所が小高区内で事業所を再開した(乙B126の1・2)。


平成27年4月,
小高病院が診療を再開した
(乙B114の3ないし5)



平成27年9月,
東町エンガワ商店
が開店した
(乙B114の4・5)



JR常磐線の原ノ町駅から小高駅間が避難指示解除後に再開した
(乙B1
14の5,弁論の全趣旨)。



南相馬市(旧緊急時避難準備区域)
南相馬市(旧緊急時避難準備区域)における活動再開等の状況は以下のとおりである。

本件地震及び本件津波の影響で市内全ての公共交通機関が運休状態とな
ったが,平成23年3月末頃から随時臨時バスが運行を再開し,平成23年4月5日にはタクシー3社,運転代行1社が営業を再開し,同月22日にはバスの市内路線(5系統)が運行を再開した。また,同月27日にはバスの相馬・原町線の運行も再開され,同月には,原町・仙台線など,生活のためのバス路線が新設された。JR常磐線の原ノ町・相馬間は平成23年12月21日に再開し,
小高・原ノ町間は平成28年7月12日に運転を再開した。
JR東日本は,平成27年1月から原ノ町・竜田間の代行バスの運行を開始した。(乙B178,189,190の1)

原町区内の5つの小中学校が平成23年10月17日から,
震災被害の修
繕が完了した3つの小学校が平成24年1月10日から,
その他の4つの小
中学校が同年2月27日から,それぞれ自校での授業を再開した。原町区に所在する原町高等学校及び相馬農業高校は,
それぞれ平成23年10月26
日及び同年11月に自校での授業を再開した。また,南相馬市教育委員会は市内の小中学校について,屋外活動時間を制限してきたが,除染の進捗に合わせ,平成24年4月以降当該制限は解除された。(乙B180,181)ウ
市内のコンビニエンスストアは,
平成23年6月頃までにおおむね再開し
た。スーパーマーケットは,原町区に所在するイオンスーパーセンター南相馬店を平成23年5月6日より営業再開しているほか,同年4月以降,各種の商業店舗が営業を再開した(乙B182,183)。


平成24年5月1日時点で,原町区内で,医療機関29機関,歯科医療機関19機関が診療を行っている(乙B184)。



田村市
田村市における活動再開等の状況は以下のとおりである。

平成23年7月より,都路診療所が再開された(乙B114の1・2)。

コンビニエンスストアの移動販売が平成25年9月に開始した
(乙B11
4の1・2)。


平成26年4月,仮設商業店舗(Domo)が開業し,都路こども園,古道小学校,岩井沢小学校及び都路中学校が本校舎での授業を再開し,デマンド型の乗合タクシーも営業を開始している。
県立船引高等学校は通常どおり
開校した。また,夜間でも診療可能な田村地方夜間診療所が船引町に開設された。(乙B114の1・2・4,乙B130の1)


平成27年1月,都路地区にコンビニエンスストアが出店し,同年10月には船引町でJAたむら農産物直売所が営業を再開した(乙B114の2,乙B130の1)。


平成27年1月,田村市の新庁舎での業務が開始された(乙B130の
1)。

特別養護老人ホーム都路まどか荘が再開した(乙B130の1・2)。

平成27年10月以降,
本件事故の影響で閉鎖していた中央化学東北工場
が操業を再開した(乙B114の4)。

平成27年11月,都路地区の仮説商業施設Domo(ど~も)古道店で農産物の試験販売を開始した(乙B114の4)。




JR磐越東線,福島交通バスが通常運行している(乙B130の1・2)。いわき市
いわき市における活動再開等の状況は以下のとおりである。


本件地震及び本件津波により,道路や橋梁に被害を受けたが,平成23年10月に市復旧計画を策定し,これにより,社会基盤等の復旧が進められ,地震補強事業,震災復興土地区画整理事業,防災集団移転促進事業,復興道路整備事業,災害公営住宅整備事業等の事業が行われた。また,本件地震によりライフラインに被害が生じたが,
水道水については平成23年4月21
日(津波や地滑りの被害で復旧が困難な地域を除く。),電力については本件地震後1週間以内(津波で流出した箇所を除く。),都市ガス及び電話については平成23年4月中(一部の地域を除く。)にいずれも回復した。いわき市は,
平成23年3月16日から被告国が開始した水道水の放射性物質
の測定において,
同月23日に被告国が定める乳児の摂取指標値を超える放
射性ヨウ素が検出されたため,
同日から乳児による水道水の飲用を控えるよ
う求めペットボトル水の配布を行ったが,
同月25日以降は放射性ヨウ素の
検出値が摂取指標値以下となり,
同月28日に採水した市内8か所の浄水場
における測定の結果はいずれも指標値を大きく下回ったことから,同月31
日に摂取制限を解除した。その後同年4月4日以降については,放射性ヨウ素・セシウムとも不検出となった。
(乙B211の1ないし4,乙B212)


4次にわたっていわき市復興事業計画が策定されたほか,復興に向けた基本方針や主要施策を示す復興ビジョン,道路・河川・橋梁・公共施設など各分野の復旧までの作業工程を示した復旧計画が定められた。
被災者の生
活再建,生活環境の整備・充実,社会基盤の再生・強化,経済・産業の再生・創造及び復興の推進を取組の柱として,復興を進めており,全体としておおむね計画通りに進捗している(乙B211の1ないし4,乙B212,弁論の全趣旨)。

本件地震により,いわき市内の875か所で道路の損壊が発生したが,高速道路においては,常磐自動車道が平成23年3月21日,磐越自動車道が同月24日に再開した。鉄道は,本件地震により磐越東線が平成23年4月14日までは通常運転ができなかったが同月15日以降通常運転を再開し,常磐線はいわき市内の北西部に位置する久ノ浜駅において平成23年4月11日から同年5月14日にかけて段階的に運転再開された。また,市内のバスは,
平成23年4月6日に通常ダイヤで運行を開始した。
(乙B213)



福島市
福島市における活動再開等の状況は以下のとおりである。

本件地震によるインフラ被害が発生したが,
電気については平成23年3
月14日,水については同月22日,ガスについては同月30日に全面復旧した(乙B221)。


米作について,平成24年度米では全量全袋検査の結果,放射性セシウム濃度が基準値(100Bp/kg)を超えたものが41袋,平成25年産米では基準値を超えたものが1袋,
平成26年産米では基準値を超えたものが
2袋,存在したが,平成27年産米では平成27年12月7日時点で基準値を超えたものはなかった(乙B219の2,乙B222)。



郡山市
郡山市における活動再開等の状況は以下のとおりである。

本件地震によりライフラインに被害が生じたが,上下水道については平成23年4月1日,電力については同年3月12日,都市ガスについては同月26日にいずれも復旧した。
郡山市は,
水道水の放射性物質モニタリング検査の結果,
平成23年3月21日に幼児の摂取指標値である100Bqを超える放射性ヨウ素が検出されたことから,一時的に幼児の水道水の摂取を制限したが,その後数値が低下したことから,同月25日に摂取制限を解除した。郡山市は,その後も水道水モニタリング検査を実施したが,平成23年4月17日以降放射性ヨウ素及び放射性セシウムは検出されていない(以上,乙B216)。⑼

須賀川市
須賀川市における活動再開等の状況は以下のとおりである。
本件地震により建物の倒壊や破損,道路や上下水道の損壊など,大きな被害
が発生したが,水道については平成23年3月末時点で9割以上が復旧し,同年5月からは同市内の循環バスの運行を開始した。また,須賀川市は,市内6箇所で水道水の放射性物質を2日に1回調査したが,平成23年4月16日ないし同月24日の調査結果は,いずれも検出限界値未満であった。同市は,本件地震による被害からの復興を図るため,ふるさとづくり支援事業を行うこととした。本件地震により被害を受けた須賀川市立第一小学校の仮設校舎は平成23年8月に完成し,同年末までに同市の復興計画が策定された。(乙B306の1ないし4,乙B307の1ないし8)

川俣町
川俣町における活動再開等の状況は以下のとおりである。

平成23年4月20日,飯館村内の幼稚園及び小中学校が川俣町内に開設された。また,本件事故後,農産物や原乳の出荷が制限されていたが,平成23年5月に一定の品目については,出荷制限が解除された。さらに,同年中には,夏祭りが開催されたり,運動会や駅伝大会が開催されたりした。(乙B313の1ないし13)

国見町
国見町における活動再開等の状況は以下のとおりである。
本件地震により町役場が使用不能になるなどしたが,仮設住宅が建てられ,平成23年6月頃には,8割は町民が,2割は飯館村からの避難者が居住していた。米については,植え付けが10日ほど遅れたものの,植え付け及び収穫が行われた。また,同年中に,お祭りが開催されたり,運動会が開催されたりした。(乙B311の4・6・9・10,弁論の全趣旨)

白河市
白河市における活動再開等の状況は以下のとおりである。
本件地震によりインフラ被害が発生したが,
水道については平成23年3月
24日におおむね復旧し,同年4月6日から小中学校の新学期が始まった。また,同年中には,夏祭りが開催されたり,マラソン大会が開催されたりした。(乙B271,350の1・3・4)


伊達市
伊達市における活動再開等の状況は以下のとおりである。
本件地震によるインフラ被害が発生したが,
電気については平成23年3月
14日,水道については同月21日に市内全域で復旧し,同月21日から行われた市内の水道水の放射性物質量の調査では,
同年6月9日以降放射性物質は
検出されず,
井戸水については同月7日以降に行われた放射性物質の調査の結
果,放射性物質は検出されなかった。また,平成23年夏にはマラソン大会やコンサートが開催された。さらに,平成24年3月に伊達市復興計画が策定され,社会基盤等の復旧が進められている。
(乙B432,433,434の2,
乙B435の3)。

第3

賠償に関する各種基準の概要

1
中間指針
平成23年4月11日,
原賠法18条1項に基づき,
文部科学省に原子力損害
賠償紛争審査会(以下原賠審という。)が設置された。
原賠審は,平成23年8月5日,避難指示等に係る損害について,中間指針を策定し,以下のような指針を示した(乙B1の1)。


検査費用
本件事故の発生以降,①本件事故が発生した後に,福島第一原発から半径20㎞圏内,屋内退避区域,計画的避難区域,緊急時避難準備区域,特定避難勧奨地点及び南相馬市が独自の判断に基づき住民に対して一時避難を要請した区域(以下,併せて避難等対象区域という。)内から同区域外へ避難のための立退き及びこれに引き続く同区域外への滞在を余儀なくされた者(ただし,平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)から同区域外に避難を開始した者のうち,子供,妊婦,要介護者,入院患者等以外の者を除く。),②本件事故発生時に避難指示等対象区域外に居り,同区域内に生活の本拠としての住居があるものの,
引き続き避難等対象区域外
への滞在を余儀なくされた者又は③屋内退避区域内で屋内への退避を余儀なくされた者(以下,①ないし③の者を併せて避難等対象者という。)のうち避難若しくは屋内退避をした者,又は対象区域内滞在者が,放射線へのばく露の有無又はそれが健康に及ぼす影響を確認する目的で必要かつ合理的な範囲で検査を受けた場合には,これらの者が負担した検査費用(検査のための交通費等の付随費用を含む。)は,賠償すべき損害と認められる。


避難費用

避難等対象者が必要かつ合理的な範囲で負担した以下の費用が,
賠償すべ
き損害と認められる。
対象区域から避難するために負担した交通費,家財道具の移動費用対象区域外に滞在することを余儀なくされたことにより負担した宿泊費及びこの宿泊に付随して負担した費用(以下宿泊費等という。)避難等対象者が,避難等によって生活費が増加した部分があれば,その増加費用


避難費用の損害額算定方法は,以下のとおりとする。
避難費用のうち交通費,家財道具の移動費用,宿泊費等については,避難等対象者が現実に負担した費用が賠償の対象となり,
その実費を損害額
とするのが合理的な算定方法と認められる。ただし,領収証等による損害額の立証が困難な場合には,
平均的な費用を推計することにより損害額を
立証することも認められるべきである。
他方,避難費用のうち生活費の増加費用については,原則として,後記
するのが公平かつ合理的な算定方法と認められる。
避難指示等の解除等(指示,要請の解除のみならず帰宅許容の見解表明等を含む。)から相当期間経過後に生じた避難費用は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。


一時立入費用
避難等対象者のうち,警戒区域内に住居を有する者が,市町村が政府及び県の支援を得て実施する一時立入りに参加するために負担した交通費,家財道具の移動費用,
除染費用等
(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。

は,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。



帰宅費用
避難等対象者が,対象区域の避難指示等の解除等に伴い,対象区域内の住居に最終的に戻るために負担した交通費,家財道具の移動費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。)は,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。



生命・身体的損害
避難等対象者が被った以下のものが,賠償すべき損害と認められる。ア
本件事故により避難等を余儀なくされたため,傷害を負い,治療を要する程度に健康状態が悪化(精神的障害を含む。)し,疾病にかかり,あるいは死亡したことにより生じた逸失利益,治療費,薬代,精神的損害等

本件事故により避難等を余儀なくされ,
これによる治療を要する程度の健
康状態の悪化等を防止するため,負担が増加した診断費,治療費,薬代等⑹

精神的損害

本件事故において,避難等対象者が受けた精神的苦痛
(生命・身体的損害
を伴わないものに限る。)
のうち,少なくとも以下の精神的苦痛は,賠償す
べき損害と認められる。
避難指示等対象区域から実際に避難した上,
引き続き同区域外滞在を長
期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)及び本件事故発生時には避難指示等対象区域外に居り,
同区域内に住居があるものの引き続き
同区域外滞在を長期間余儀なくされた者
(又は余儀なくされている者)
が,
自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛
屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,
同区域における屋内退避を
長期間余儀なくされた者が,行動の自由の制限等を余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛


生活費の増加費用と合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定する
者であれば,その年齢や世帯の人数等にかかわらず,避難等対象者個々人が賠償の対象となる。

定期間を,以下の3段階に分け,それぞれの期間について,以下のとおりとする。
本件事故発生時から6か月間(第1期)
第1期については,一人月額10万円を目安とする。
ただし,この間,
避難所・体育館・公民館等(以下避難所等という。)
における避難生活等を余儀なくされた者については,
避難所等において避
難生活をした期間は,一人月額12万円を目安とする。
第1期終了から6か月間(第2期)
第2期については,一人月額5万円を目安とする。
第2期終了から終期までの期間(第3期)
第3期については,今後の本件事故の収束状況等諸般の事情を踏まえ,改めて損害額の算定方法を検討するのが妥当であると考えられる。エ
始期については,原則として,個々の避難等対象者が避難等をした日にかかわらず,
本件事故発生日である平成23年3月11日とする。
ただし,
緊急時避難準備区域内に住居がある子供,妊婦,要介護者,入院患者等であって,
同年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難
した者については,当該者が実際に避難した日を始期とする。
終期については,
避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた精神
的損害は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。オ
間,同区域において屋内退避をしていた者(緊急時避難準備区域から平成23年6月19日までに避難を開始した者及び計画的避難区域から避難した者を除く。)につき,一人10万円を目安とする。


営業損害

従来,
対象区域内で事業の全部又は一部を営んでいた者又は現に営んでいる者において,
避難指示等に伴い,
営業が不能になる又は取引が減少する等,
その事業に支障が生じたため,現実に減収があった場合には,その減収分が賠償すべき損害と認められる。
上記減収分は,原則として,本件事故がなければ得られたであろう収益と実際に得られた収益との差額から,
本件事故がなければ負担していたであろ
う費用と実際に負担した費用との差額(本件事故により負担を免れた費用)を控除した額とする。

また,前記アの事業者において,上記のように事業に支障が生じたために負担した追加的費用(従業員に係る追加的な経費,商品や営業資産の廃棄費用,除染費用等)や,事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(事業拠点の移転費用,営業資産の移動・保管費用等)も,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。


さらに,同指示等の解除後も,前記アの事業者において,当該指示等に伴い事業に支障が生じたため減収があった場合には,
その減収分も合理的な範
囲で賠償すべき損害と認められる。また,同指示等の解除後に,事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用(機械等設備の復旧費用,除染費用等)も,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。


就労不能等に伴う損害
対象区域内に住居又は勤務先がある勤労者が避難指示等により,あるいは,
前記⑺の営業損害を被った事業者に雇用されていた勤労者が当該事業者の営業損害により,その就労が不能等となった場合には,かかる勤労者について,給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。


財物価値の喪失又は減少等
財物につき,現実に発生した以下のものについては,賠償すべき損害と認め
られる。なお,ここで言う財物は動産のみならず不動産をも含む。ア
避難指示等による避難等を余儀なくされたことに伴い,
対象区域内の財物
の管理が不能等となったため,
当該財物の価値の全部又は一部が失われたと
認められる場合には,
現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに伴う
必要かつ合理的な範囲の追加的費用
(当該財物の廃棄費用,
修理費用等)
は,
賠償すべき損害と認められる。


前記アのほか,当該財物が対象区域内にあり,
財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質にばく露した場合,
又は

平均的・一般的な人の認識を基準として,本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合
には,
現実に価値を喪失し又は減少した部分及び除染等の必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。

対象区域内の財物の管理が不能等となり,
又は放射性物質にばく露するこ
とにより,その価値が喪失又は減少することを予防するため,所有者等が支出した費用は,必要かつ合理的な範囲において賠償すべき損害と認められる。

2
中間指針第一次追補
原賠審は,平成23年12月6日,自主的避難等に係る損害について,中間指針第一次追補を策定し,放射線被ばくへの恐怖や不安は,福島第一原発の状況が安定していない等の状況下で,福島第一原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡等)の要素が複合的に関連して生じたと考えられ,少なくとも以下の区域においては,住民が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱いたことに相当の理由があり,また,その危険を回避するために自主的避難を行ったことに合理性があるとして,
以下のとおりの指針
を示した(乙B1の2)。


以下の福島県内の市町村のうち,
避難指示等対象区域を除く区域を自主的避
難等対象区域とする。
(県北地域)
福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,大玉村(県中地域)
郡山市,須賀川市,田村市,鏡石町,天栄村,石川町,玉川村,平田村,浅川町,古殿町,三春村,小野町
(相双地域)
相馬市,新地町
(いわき地域)
いわき市


本件事故発生時に自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があ
った者(本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行った場合,本件事故発生時に自主的避難等対象区域外に居り引き続き同区域外に滞在した場合,当該住居に滞在を続けた場合等を問わない。)を自主的避難等対象者とし,自主的避難等対象者が受けた損害のうち,以下のものが一定の範囲で賠償すべき損害と認められる。

放射線被ばくへの恐怖や不安により自主的避難等対象区域内の住居から自主的避難を行った場合
(本件事故発生時に区域外に居り引き続き区域外に
滞在した場合を含む。以下同じ。)における以下のもの。
自主的避難によって生じた生活費の増加費用
自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛
避難及び帰宅に要した移動費用


放射線被ばくへの恐怖や不安を抱きながら自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合における以下のもの。
放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛
放射線被ばくへの恐怖や不安,
これに伴う行動の自由の制限等により生
活費が増加した分があれば,その増加費用


具体的な損害額の算定の目安は以下のとおりである。

自主的避難等対象者のうち子供及び妊婦については,
本件事故発生から平
成23年12月末までの損害として一人40万円


前記ア以外の自主的避難等対象者については,
本件事故発生当初の時期の
損害として一人8万円



本件事故発生時に避難指示等対象区域内に住居があった者については,賠償すべき損害は自主的避難等対象者の場合に準じるものとし,具体的な損害額の算定に当たっては次のとおりとする。

中間指針の精神的損害の賠償対象とされていない期間については,前記
を勘案した金額とする。

子供及び妊婦が自主的避難等対象区域内に避難して滞在した期間については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人20万円を目安としつつ,これらの者が中間指針第一次追補の対象となる期間に応じた金額とする。

3
中間指針第二次追補
原賠審は,平成24年3月16日,中間指針第二次追補を策定し,以下のとおりの指針を示した(乙B1の3)。


政府による避難指示等に係る損害について

避難費用及び精神的損害
避難指示区域
避難指示区域内に本件事故発生時における生活の本拠としての住居があった者の避難費用及び精神的損害は,以下のとおりとする。
a
中間指針の第2期を,避難指示区域見直しの時点(避難指示等対
象区域において,警戒区域又は計画的避難区域の指定が解除されて,避難指示解除準備区域,居住制限区域又は帰還困難区域が設定される時点)まで延長し,当該時点から終期までの期間を第3期とする。
b
前記aの第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法は,
原則として引き続き中間指針のとおりと
するが,
宿泊費等が賠償の対象となる額及び期間には限りがあることに
留意する必要がある。

c
前記aの第3期における精神的損害の具体的な損害額
(避難費用のう
ち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,避難者の住居があった地域に応じて,以下のとおりとする。


避難指示区域見直しに伴い避難指示解除準備区域に設定された地
域については,一人月額10万円を目安とする。



避難指示区域見直しに伴い居住制限区域に設定された地域につい
ては,一人月額10万円を目安とした上,おおむね2年分としてまとめて一人240万円の請求をすることができるものとする。ただし,避難指示解除までの期間が長期化した場合は,
賠償の対象となる期間
に応じて追加する。



避難指示区域見直しに伴い帰還困難区域に設定された地域につい
ては,一人600万円を目安とする。

d
中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とならないとしている
避難指示等の解除等から相当期間経過後の相当期間は,避難指示区域については今後の状況を踏まえて判断されるべきものとする。
旧緊急時避難準備区域
緊急時避難準備区域については,
平成23年9月30日に解除されてい

ることなどを踏まえ,
当該区域内に住居があった者の避難費用及び精神的
損害は,次のとおりとする。
a
中間指針の第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並び
にそれらの損害額の算定方法は,引き続き中間指針のとおりとする。b
中間指針の第3期における精神的損害の具体的な損害額
(避難費用の
うち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,一人月額10万円を目安とする。

c
中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている
避難指示等の解除等から相当期間経過後の相当期間は,旧緊急時避難準備区域については平成24年8月末までを目安とする。
特定避難勧奨地点
特定避難勧奨地点については,
解除に向けた検討が開始されていること

などを踏まえ,当該地点に住居があった者の避難費用及び精神的損害は,次のとおりとする。
a
中間指針の第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法は,引き続き中間指針のとおりとする。
b
中間指針の第3期における精神的損害の具体的な損害額
(避難費用の
うち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,一人月額10万円を目安とする。

c
中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている
避難指示等の解除等から相当期間経過後の相当期間は,特定避難勧奨地点については3か月間を当面の目安とする。


営業損害
営業損害については,中間指針で示したもののほか,次のとおりとする。営業損害の終期は,当面は示さず,個別具体的な事情に応じて合理的に判断するものとする。
営業損害を被った事業者による転業・転職や臨時の営業・就労等が特別の努力と認められる場合には,
かかる努力により得た利益や給与等を損害
額から控除しない等の合理的かつ柔軟な対応が必要である。

就労不能等に伴う損害
就労不能等に伴う損害については,中間指針で示したもののほか,次のとおりとする。
就労不能等に伴う損害の終期は,当面は示さず,個別具体的な事情に応じて合理的に判断するものとする。
就労不能等に伴う損害を被った勤労者による転職や臨時の就労等が特別の努力と認められる場合には,
かかる努力により得た給与等を損害額か
ら控除しない等の合理的かつ柔軟な対応が必要である。


財物価値の喪失又は減少等
財物価値の喪失又は減少等については,中間指針で示したもののほか,次のとおりとする。
帰還困難区域内の不動産に係る財物価値については,
本件事故発生直前
の価値を基準として本件事故により100パーセント減少(全損)したものと推認することができるものとする。
居住制限区域内及び避難指示解除準備区域内の不動産に係る財物価値については,避難指示解除までの期間等を考慮して,本件事故発生直前の価値を基準として本件事故により一定程度減少したものと推認することができるものとする。



自主的避難等に係る損害について
中間指針第一次追補において示した自主的避難等に係る損害について,平成
24年1月以降に関しては,次のとおりとする。

少なくとも子供及び妊婦については,個別の事例又は類型ごとに,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行う