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不正指令電磁的記録保管
事件番号令和1(う)883
事件名不正指令電磁的記録保管
裁判年月日令和2年2月7日
裁判所名・部東京高等裁判所  第11刑事部
結果破棄自判
原審裁判所名横浜地方裁判所
原審事件番号平成30(わ)509
裁判日:西暦2020-02-07
情報公開日2020-03-26 16:00:30
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令和2年2月7日宣告

東京高等裁判所第11刑事部判決

令和元年(う)第883号

不正指令電磁的記録保管被告事件
主文
原判決を破棄する
被告人を罰金10万円に処する
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

第1
1由
本件事案と控訴趣意等
本件公訴事実(訴因変更後のもの)の要旨は,被告人は,インターネット上のウェブサイト『A』(以下『A』という。)を運営する者であるが,A閲覧者が使用する電子計算機の中央処理装置にその同意を得ることなく仮想通貨Bの取引履歴の承認作業等の演算を行わせてその演算機能を提供したことによる報酬を取得しようと考え,正当な理由がないのに,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,平成29年10月30日から同年11月8日までの間,A閲覧者が使用する電子計算機の中央処理装置に前記演算を行わせるプログラムコードが蔵置されたサーバーコンピュータに同閲覧者の同意を得ることなく同電子計算機をアクセスさせ同プログラムコードを取得させて同電子計算機に前記演算を行わせる不正指令電磁的記録であるプログラムコードを,サーバーコンピュータ上のAを構成するファイル内に蔵置して保管し,もって,人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を保管したというものである(以下,この保管されたプログラムコードを本件プログラムコードという。)。2
原審は,公判前整理手続を行い,本件の争点を,①本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性,②実行の用に供する目的の有無,③故意
の有無と整理した。そして,審理の結果,争点①の不正指令電磁的記録該当性が認定できないとして,被告人に対し無罪を言い渡した。
3
本件控訴の趣意は,検察官竹内寛志作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は,主任弁護人C及び弁護人D作成名義の答弁書記載のとおりである。
論旨は,要するに,本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性を否定するとともに,実質的には故意も否定した上で実行の用に供する目的を否定し,被告人に無罪を言い渡した原判決には,法令の解釈適用の誤りや事実誤認がある,というのである(なお,検察官は,控訴趣意書には,法令の解釈適用の誤りのみを記載したが,公判において,故意や実行の用に供する目的の判断の誤りに関する主張は,事実誤認の主張を含む趣旨であると釈明した。不正指令電磁的記録該当性に関する主張も構成要件の一部に関する原判決の判断の誤りをいうものであるから,不正指令電磁的記録該当性,故意,目的,それぞれの要件について,法令の解釈適用の誤りと事実誤認が主張されているものと解される。)。

4
当裁判所は,本件プログラムコードが不正指令電磁的記録に該当しないとした原判決の判断は,刑法168条の2第1項の解釈を誤ったことによる不合理なものであり,法令解釈の誤りや事実誤認をいう検察官の論旨には理由があり,原判決は破棄を免れず,これまでの証拠調べを踏まえると有罪の自判をするのが相当であると判断した。以下,理由を述べる。

第2
1
原判決の概要等
原審における被告人の主張の要旨
被告人は,原審において,本件プログラムコードが違法なものとは考
えていなかったとして,その評価を争ったが,本件プログラムコードの保管等に関する客観的な事実関係は認めた。原審弁護人は,本件プログラム
コードは,一般的にウェブサイトの閲覧の際に随伴して実行されるJavaScriptというプログラム言語(以下ジャバスクリプトという。)によって記載されており,このプログラムの実行については,ウェブサイトの閲覧に随伴するものとして認識すべきであり,使用者の推定的同意があるから,意図に反する動作をさせるものではない(いわゆる反意図性を争う主張),本件プログラムコードは,閲覧者の電子計算機の破壊や,情報の窃用等の実害を生じさせるものではなく,社会的に許容されるから,不正な指令を与えるものとはいえない(いわゆる不正性を争う主張),などとして不正指令電磁的記録該当性を争い,また,被告人は,本件プログラムコードが不正指令電磁的記録であることを認識認容しつつ実行する目的はなく,不正指令電磁的記録保管罪の故意もなかった旨主張した(実行の用に供する目的や故意を争う主張)。
2
原判決の要旨
原判決は,本件の事実関係として,①Coinhive(以下コインハイブということがある。)は,登録者に対し,ウェブサイト閲覧者がその閲覧中に使用する電子計算機の中央処理装置(以下CPUという。)に,その同意を得ることなく仮想通貨Bの取引台帳へ取引履歴を追記する承認作業等の演算を行わせ,その演算が成功すると,報酬として仮想通貨の取得が可能になるという作業(以下マイニングということがある。)を実行するための専用スクリプトを提供し,報酬の7割を登録者に分配し,報酬の3割をコインハイブ側が取得するウェブサービスであり,コインハイブ登録者が,コインハイブから提供された前記専用スクリプト内の所定の箇所に登録者に割り当てられたサイトキーを記述し,そのスクリプトをウェブサイト内に設置すると,閲覧者の電子計算機の能力でマイニングが実行され,登録者が生じた報酬の分配を得ることができること,②被告人は,平成29年9月,ウェブサイト上の記事で,サイト閲覧者の電子計算
機を用いたマイニングが広告に代わるサイトの収入源になるかどうかという話題を取り上げた記事を読み,試験的にサイトの収入源として,閲覧者にマイニングさせる仕組みをAに導入することにしたこと,また,同記事には,広告収入の代替手段として仮想通貨のマイニングを導入することに肯定的な意見や,ユーザーに無断かつ強制的にマイニングを強いる仕様は許されないのではないかという否定的な意見が記載されていたこと,③その後,被告人は,コインハイブに登録して,コインハイブが提供するマイニング専用スクリプトに,被告人に割り当てられたサイトキーを記述し,このスクリプトを,Aを構成するファイル内に設置したこと,④被告人は,本件プログラムコードに設けられた,A閲覧時の閲覧者の電子計算機のCPU使用率調整のための設定値を0.5と設定したこと,この設定値の場合,マイニングを実行すると,閲覧者の電子計算機の消費電力が若干増加したり,CPUの処理速度が遅くなったりするが,極端に遅くなるものではなかったこと,⑤A閲覧時に,本件プログラムコードが実行されマイニングが行われていることは表示されないこと,⑥被告人は,同年10月30日,Aにおいて閲覧者の同意なくマイニングをさせていることに関し,ユーザーの同意なくCoinhiveを動かすのは極めてグレーな行為な気がするのですがとの指摘を受け,

個人的にグレーとの認識はありませんが(略),ユーザーへの同意を取る方向で検討させていただきます。

と返信したが,その後も,同年11月8日までの間,マイニングについて閲覧者の同意を得る仕様に変更せずに,A閲覧者の電子計算機によりマイニングを実行させたこと,の各事実を認定した。


その上で,原判決は,Aには,マイニングについての説明がなく,閲覧中にマイニングが実行されることについての同意を取得する仕様にもなっていない上,マイニングが行われてもCPUの処理速度は極端に遅くなることはなく,A閲覧者が,通常,自身の電子計算機がマイニングに
利用されていることに気付くことはないことなどに照らすと,A閲覧者が,本件プログラムコードの機能を認識すべきとはいえないから,本件プログラムコードは,人の意図に反する動作をさせるべきプログラムに該当するとして,反意図性を肯定した。
その一方で,原判決は,意図に反する動作をさせるべき指令を与えるプログラムであっても,社会的に許容し得るプログラムは不正性を否定すべきであるとし,ウェブサイトを運営するような特定のユーザー及びウェブサイト閲覧者等の一般的なユーザーにとっての有益性や必要性の程度,当該プログラムのユーザーへの影響や弊害の度合い,事件当時における当該プログラムに対するユーザー等関係者の評価等を総合的に考慮すべきとした上で,㋐本件プログラムコードは,電子計算機の演算機能を提供した閲覧者が報酬を得ることができない点でマイニング本来の対価性を損なっていることは否定できないこと,㋑本件のマイニングを事前に認知していない閲覧者は,マイニングによる報酬を放棄又は被告人に贈与することについての意思確認の機会を与えられておらず,閲覧中に気付いてマイニングを回避する現実的可能性もないこと,などによれば,一般的なユーザーの信頼を損なっていることは否定できないが,㋒本件プログラムコードが実行されることによってサイト運営者が得る報酬は直接間接にその後のウェブサービスの質の維持向上のための資金源になり得るから,現在のみならず将来的にも閲覧需要のある閲覧者にとっては利益となる側面があること,㋓本件プログラムコードの実行によって生じる閲覧者の電子計算機の処理速度の低下等は,広告表示プログラム等の場合と大きく変わることがないと窺われる上,その影響はA閲覧中に限定されること,㋔被告人は,自身が運営するウェブサイトに本件プログラムコードを設定しており,他人が運営するウェブサイトを改ざんしてマイニングをさせるような場合とは弊害の度合いが異なること,㋕同様のプログラムに対する本件当時のイ
ンターネットユーザー間の評価は賛否両論に分かれていたこと,㋖閲覧者の同意を得ないでマイニングを行うことに関し,捜査当局等の公的機関による事前の注意喚起や警告等もない中で,いきなり刑事罰に問うのは行き過ぎの感を免れないこと,などによれば,本件当時,本件プログラムコードが社会的に許容されていなかったと断定することができないとして,不正性に関し合理的な疑いが残るとして,不正指令電磁的記録該当性を否定し,被告人を無罪とした。
なお,原判決は,本件プログラムコードの機能や本件プログラムコードに対する本件当時のユーザー等関係者間の評価,被告人が本件プログラムコードを導入した経緯に鑑みれば,被告人が本件プログラムコードが不正指令電磁的記録に当たることを認識認容しつつこれを実行する目的があったものと認定するには合理的な疑いが残るとし,争点②の実行の用に供する目的も認められない旨付言した。
第3

所論
所論は,①反意図性が肯定される場合には,社会的に許容し得るよう
な特別な事情が認められる場合に限って,例外的に不正性が否定されるべきである,②原判決は,ウェブサイトを運営するような特定のユーザーにとっての有益性や必要性の程度,事件当時における当該プログラムに対するユーザー等関係者の評価を不当に重視している,③原判決は,無断かつ無償でマイニングをさせられた閲覧者の利害を不当に軽視している,④本件プログラムコードが実行されることによってサイト運営者が得る報酬がウェブサービスの質の維持向上のための資金源になり得ることで,閲覧者に不利益を与えることを許容することはできない,⑤閲覧者の不利益が閲覧中に限られることなどの不利益の程度は,社会的許容性を肯定する事情とはいえないし,より悪質な事案と比較しても,本件の社会的許容性は肯定できない,⑥同様のプログラムに関して賛否が分かれていることが社会
的許容性を肯定する事情とはいえない,⑦公的機関の注意喚起の有無等が社会的許容性の判断に影響することはない,などとして,不正性を否定して不正指令電磁的記録該当性を否定した原判決には,法令の解釈適用ないしは事実の誤認があるとし,また,⑧原判決は,被告人に不正指令電磁的記録該当性の認識認容がないとして,実行の用に供する目的を否定しているが,被告人は本件プログラムコードの反意図性を認識認容していたといえ,不正性に関する判断ができるだけの社会的意味の認識もあったといえるとして,原判決が実行の用に供する目的を否定した点についても,法令の解釈適用ないしは事実の誤認があり,故意も認定すべきであったと主張している。
第4
1
当裁判所の判断
当裁判所は,不正指令電磁的記録該当性を否定し,被告人に無罪を言い
渡した原判決は,刑法168条の2第1項の解釈を誤り,その結果,事実誤認をしたもので,この点をいう検察官の論旨は理由があり,原判決は破棄を免れないと判断した。以下,理由を述べる。
2
反意図性に関する原判決の判断について
検察官の所論は,原判決が,不正指令電磁的記録該当性に関し,反意図性は肯定し,不正性を否定したのに対し,反意図性が肯定できることを前提に,不正性を否定して不正指令電磁的記録に該当しないとした原判決の判断を論難するものであるが,本件においては,刑法168条の2第1項の解釈適用が問題とされていること,この種事案においては,反意図性の判断は不正性の判断に先行すべきものであることを踏まえ,まず,本件プログラムコードの反意図性に関する原判決の判断について,職権で検討する。



本件プログラムコードは,その実行によりA閲覧者の電子計算機にマイニングをさせる機能を有しており,この機能は,Aを閲覧することによ
り実行されるもので,プログラム使用者が,事前に機能を認識して承諾することが予定されていない。原判決が,本件プログラムコードのこのような機能を前提に,プログラム使用者が機能を認識できないことを主な理由として反意図性を認めていることに鑑みると,原判決は,反意図性の判断を,もっぱら本件プログラムの機能の認識可能性を基準に判断し,本件プログラムの機能の内容そのものを踏まえた規範的な検討をしていないように解される。


しかし,反意図性に関する原判決の判断手法は以下のとおり正当とはいえない。


そもそも,刑法168条の2以下に規定する不正指令電磁的記録に関する罪は,電子計算機において,使用者の意図に反して実行されるコンピュータ・ウイルスなどの不正プログラムが社会に被害を与え深刻な問題となっていることを受け,電子計算機による情報処理のためのプログラムが,意図に沿うべき動作をさせず,又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与えるものではないという社会一般の者の信頼を保護し,電子計算機の社会的機能を保護するために,意図に沿うべき動作をさせない,又はその意図に反する動作をさせるという反意図性があり,社会的に許容されない不正性のある指令を与えるプログラムの作成,提供,保管等を,一定の要件の下に処罰対象とするものである(なお,原審において弁護人は,処罰の対象を電子計算機の破壊や情報の窃用を伴うプログラムに限定すべきと主張したが,前記の趣旨によれば,反意図性や不正性を肯定できるものについて,さらに限定すべき理由はない。)。このような法の趣旨を踏まえると,プログラムの反意図性は,当該プログラムの機能について一般的に認識すべきと考えられるところを基準とした上で,一般的なプログラム使用者の意思に反しないものと評価できるかという観点から規範的に判断されるべきである。原判決は,本件プログラムコードが,その
機能を認識した上で実行できないことから,反意図性を肯定しているが,一般的な電子計算機の使用者は,電子計算機の使用にあたり,実行されるプログラムの全ての機能を認識しているわけではないものの,特に問題のない機能のプログラムが,電子計算機の使用に付随して実行されることは許容しているといえるから,一般的なプログラム使用者が事前に機能を認識した上で実行することが予定されていないプログラムについては,そのような点だけから反意図性を肯定すべきではなく,そのプログラムの機能の内容そのものを踏まえ,一般的なプログラム使用者が,機能を認識しないまま当該プログラムを使用することを許容していないと規範的に評価できる場合に反意図性を肯定すべきである。
原判決は,このような検討をせずに本件プログラムコードの反意図性を肯定しており,十分な検討をしたとはいえないが,以下のとおり,反意図性を肯定した結論は正当といえる。

すなわち,原判決も認定しているとおり,本件プログラムコードは,Aを閲覧している者に,電子計算機の機能を提供させてマイニングを行わせるという機能を有するものであり,ウェブサイト(A)を閲覧することによりマイニングが実行されることについての表示は予定されておらず,閲覧者の電子計算機の機能の提供により報酬が生じた場合にもその報酬を閲覧者が得ることは予定されていない。
一般的に,ウェブサイト閲覧者は,ウェブサイトを閲覧する際に,閲覧のために必要なプログラムを実行することは承認していると考えられるが,本件プログラムコードで実施されるマイニングは,ウェブサイトの閲覧のために必要なものではなく,このような観点から反意図性を否定することができる事案ではない。その上,本件プログラムコードの実行によって行われるマイニングは,閲覧者の電子計算機に一定の負荷を与えるものであるのに,このような機能の提供に関し報酬が発生した場
合にも閲覧者には利益がもたらされないし,マイニングが実行されていることは閲覧中の画面等には表示されず,閲覧者に,マイニングによって電子計算機の機能が提供されていることを知る機会やマイニングの実行を拒絶する機会も保障されていない。
このような本件プログラムコードは,プログラム使用者に利益をもたらさないものである上,プログラム使用者に無断で電子計算機の機能を提供させて利益を得ようとするものであり,このようなプログラムの使用を一般的なプログラム使用者として想定される者が許容しないことは明らかといえるから,反意図性を肯定した原判決の結論に誤りはない。なお,原審において,弁護人は,本件プログラムコードがウェブ閲覧時に断りなく実行されることが普通に行われているジャバスクリプトのプログラムであり,この種のプログラムについては,閲覧者が承諾していると考えられる旨主張しているが,前記のとおり,プログラムの反意図性は,その機能を踏まえて認定すべきであるから,ジャバスクリプトのプログラムというだけで反意図性を否定することはできない。
3
不正性に関する事実誤認,法令適用の誤りの主張について
所論は,前記のとおり,不正性を否定した原判決は,その判断手法や個別の事情の評価を誤っており,法令適用の誤りや事実誤認があるという。


そこで,検討すると,刑法168条の2以下の規定は,一般的なプログラム使用者の意に反する反意図性のあるプログラムのうち,不正な指令を与えるものを規制の対象としている。これは,一般的なプログラム使用者の意に反するプログラムであっても,使用者として想定される者における当該プログラムを使用すること自体に関する利害得失や,プログラム使用者に生じ得る不利益に対する注意喚起の有無などを考慮した場合,プログラムに対する信頼保護という観点や,電子計算機による適正な情報処理という観点から見て,当該プログラムが社会的に許容される
ことがあるので,そのような場合を規制の対象から除外する趣旨である。⑶

しかるところ,本件プログラムコードは,前記のとおり,その使用によって,プログラム使用者(閲覧者)に利益を生じさせない一方で,知らないうちに電子計算機の機能を提供させるものであって,一定の不利益を与える類型のプログラムといえる上,その生じる不利益に関する表示等もされていないのであるから,このようなプログラムについて,プログラムに対する信頼保護という観点から社会的に許容すべき点は見当たらない。
また,本件プログラムコードは,A閲覧中に,閲覧者の電子計算機の機能を,閲覧者以外の利益のために無断で提供させるものであり,電子計算機による適正な情報処理の観点からも,社会的に許容されるということはできない。



これに対し,原判決は,

㋒ウェブサービ

スの質の維持向上,㋓電子計算機への影響の程度,広告表示プログラムとの対比,㋔他人が運営するウェブサイトを改ざんした場合との対比,㋕同様のプログラムに対する賛否,㋖捜査当局等による事前の注意喚起がなかったこと,などを挙げて,社会的許容性が否定できないとし,弁護人もこれと同趣旨の主張をする。しかし,この判断は,以下のとおり首肯することができない。
すなわち,原判決は,前記㋒のとおり,本件プログラムコードの実行により,ウェブサービスの質の維持向上が期待でき,閲覧者の利益になる旨説示するが,この種の利益が,意に反するプログラムの実行を,使用者が気づかないような方法で受忍させた上で,実現されるべきものでないことは明らかである。また,原判決は,前記㋔のとおり,他人が運営するウェブサイトを改ざんした場合などと比較して,本件プログラムコードの許容性を論じているが,より違法な事例と比較することによっ
て,本件プログラムコードを許容することができないことも明らかである。また,原判決は,前記㋕のとおり,同様のプログラムに対する賛否が分かれていたとし,これを社会的許容性を肯定する方向の事情と主張しているが,プログラムに対する賛否は,そのプログラムの使用に対する利害や機能の理解などによっても相違があるから,プログラムに対する賛否が分かれているということ自体で,社会的許容性を基礎づけることはできない。本件は,一般的なプログラム使用者が機能を認識しないまま実行されるプログラムに反意図性が肯定できる事案であり,プログラムを使用するかどうかを使用者に委ねることができない事案であるから,賛否が分かれていることは,本件プログラムコードの社会的許容性を基礎づける事情ではなく,むしろ否定する方向に働く事情といえる。また,原判決は,前記㋖のとおり,捜査当局等による事前の注意喚起がなかったことを,社会的許容性を基礎づける方向の事情としているが,不正性のあるプログラムかどうかは,その機能を中心に考えるべきであり,捜査当局の注意喚起の有無によって,不正性が左右されるものではない。さらに,原判決は,前記㋓のとおり,本件プログラムコードの電子計算機への影響を広告表示プログラムとの対比などから社会的許容性を検討しているが,他のプログラムの社会的許容性と対比して本件プログラムコードの社会的許容性を論じること自体が適当でない。弁護人が比較の対象とした,社会的に許容されている広告表示プログラムがどのようなものかは必ずしも明らかではないが,広告表示プログラムは,使用者のウェブサイトの閲覧に付随して実行され,また,実行結果も表示されるものが一般的であり,その点で,閲覧者の電子計算機の機能を閲覧者に知らせないで提供させる機能のある本件プログラムコードとは,大きな相違があり,その点からも比較検討になじまない。なお,弁護人は,本件プログラムコードは,電子計算機の破壊や情報の窃用を伴うプ
ログラムではなく,消費電力や処理速度の低下等の電子計算機への影響の点で不正性を根拠づける事実が立証されていないとして,社会的許容性がある旨を主張するが,既に述べたとおり,不正指令電磁的記録が,電子計算機の破壊や情報の窃用を伴うプログラムに限定されると解すべき理由はないし,本件は意図に反し電子計算機の機能が使用されるプログラムであることが主な問題であるから,消費電力や処理速度の低下等が,使用者の気づかない程度のものであったとしても,反意図性や不正性を左右するものではない。


これらによれば,本件プログラムコードは,その機能を中心に検討すると,反意図性もあり不正性も認められるもので,不正指令電磁的記録に該当するというべきであり,原判決は,刑法168条の2の解釈を誤り,その結果,不正指令電磁的記録該当性を否定する不合理な判断を行っており,原判決には,事実誤認がある。

4
実行の用に供する目的(争点②)の判断の誤り等について


所論は,原判決の実行の用に供する目的の判断等にも法令の解釈適用の誤りや事実誤認があると主張する。
原判決は,争点①の不正指令電磁的記録該当性を否定して無罪判決をしており,争点②の実行の用に供する目的を否定した原判決の説示は傍論にすぎない。しかし,争点②についての原判決の判断の当否によっては,不正指令電磁的記録該当性に関する事実誤認が判決に影響を及ぼさない場合もある上,本件は外形的事実に争いはなく,本件プログラムコードに関する評価が中心に争われている事案であり,争点②についての原判決の判断もこれに関連するものであるから,この点についても検討する。



原判決は,刑法168条の2が定める人の電子計算機における実行の用に供する目的を,当該プログラムが不正指令電磁的記録に当たるこ
とを認識認容しつつこれを実行する目的と解した上で,本件プログラムコードの機能,本件プログラムコードに対する当時の評価,被告人が本件プログラムコードを導入した経緯に鑑みると,被告人には,本件プログラムコードが不正指令電磁的記録に当たることを認識認容しつつこれを実行する目的がなかった旨判示している。


しかしながら,本件は,被告人が,閲覧者の同意なくマイニングさせていることに関する指摘を受けた後の保管行為が起訴されている事案であり,原審記録によれば,被告人が,本件プログラムコードがA閲覧時に閲覧者に気付かれずに,A閲覧者の電子計算機にマイニングをさせる機能があることや,このような手法で閲覧者の同意なくマイニングさせることに関する否定的な意見を知った上で,自らが収入を得るために本件プログラムコードの保管をしたことが明らかであって,この点は,当審における被告人質問の結果からもさらに明らかになったといえる。そうすると,被告人は,本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性を基礎づける事実を実質的に認識した上で,本件プログラムコードを保管したものといえるし,本件プログラムコードが,A閲覧者の承諾を得ないまま実行されることを認識認容していたのであるから,そのような本件プログラムコードを保管した被告人に,人の電子計算機における実行の用に供する目的があったことは明らかであり,被告人の故意も認定できることが明らかである。
これに対し,弁護人は,原審において,被告人は本件当時不正指令電磁的記録該当性を認識しておらず,当該電磁的記録が不正指令電磁的記録であることを認識認容しつつ実行する意思がなく,実行供用目的がなかったなどと主張するが,前記のとおり,被告人は,本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性を基礎づける事実を実質的に認識するなどしていたのであるから,故意や目的が認められることは明らかであ
る。


以上によれば,前記のとおり判示して,実行の用に供する目的を否定した原審の判断は,不正指令電磁的記録該当性に関する法令の解釈を誤り,被告人の認識した事実を正しく評価しないまま,実行の用に供する目的を否定した不合理なものであるし,その説示過程で,実質的には誤った故意の判断も行っているといえる。



これらによれば,原判決の無罪判決を維持する理由はないから,原判決は,判決に影響することが明らかな事実誤認があるといえ,破棄を免れない。

5
破棄自判について
以上の検討によれば,本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性を否定するなどして被告人を無罪にした原判決は,法令の解釈を誤って事実を誤認したものであり,この点をいう論旨は理由があるから,刑訴法397条1項,382条により,原判決を破棄することとし,原判決は争点の一部の判断の結果無罪判決をしているが,本件は,外形的事実関係には争いがなく,不正指令電磁的記録該当性に関わる法解釈によって,各争点の判断が実質的に決せられる事案といえ,これまでに検討したところによって,直ちに判決することができるものと認められるから,刑訴法400条ただし書により更に判決する。

(罪となるべき事実)
被告人は,インターネット上のウェブサイトAを運営する者であるが,A閲覧者が使用する電子計算機の中央処理装置にその同意を得ることなく仮想通貨Bの取引履歴の承認作業等の演算を行わせてその演算が成功した場合の報酬を取得しようと考え,正当な理由がないのに,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,平成29年10月30日から同年11月8日までの間,A閲覧者が使用する電子計算機の中央処理装置に前記演算を行わせ
るプログラムコードが蔵置されたサーバーコンピュータに同閲覧者の同意を得ることなく同電子計算機をアクセスさせ,同プログラムコードを取得させて同電子計算機に前記演算を行わせる不正指令電磁的記録であるプログラムコードをE株式会社が運営管理する日本国内に所在するサーバーコンピュータ上のAを構成するファイル内に蔵置して保管し,もって,人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を保管したものである。
(証拠の標目)
(省略)
(法令の適用)
(省略)
(量刑の理由)
本件犯行は,被告人の運営するウェブサイトを閲覧すると閲覧者が閲覧に用いた電子計算機にマイニングをさせる機能を有するプログラムを保管したというもので,自己の利益のために,プログラムに対する社会一般の信頼を害する犯行であって悪質であるが,保管していた期間などを考慮すると主文の罰金刑が相当であると判断した。
(検察官岩﨑吉明出席)(原審検察官の求刑

罰金10万円)

令和2年2月10日
東京高等裁判所第11刑事部

裁判長裁判官

裁判官

栃木上岡力哲生
裁判官

髙橋康明
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