判例検索β > 令和30年(行ウ)第69号
裁決取消等請求事件
事件番号平成30(行ウ)69
事件名裁決取消等請求事件
裁判年月日令和元年11月7日
裁判所名東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-11-07
情報公開日2020-03-26 14:00:35
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令和元年11月7日判決言渡
平成30年(行ウ)第69号

裁決取消等請求事件

主文12
本件各訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
処分行政庁が平成29年2月15日付けでした,Aに係る平成22年4月7日付け里親委託措置を解除した処分及び原告らに対する里親委託を解除した処分をいずれも取り消す。

2
裁決行政庁が平成29年8月21日付けでした,原告らの児童里親委託措置解除処分に係る審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,児童福祉法27条1項3号に基づいて里親委託措置がされ,養育里親である原告らに委託されていた児童であるA(平成18年▲月▲日生。以下
本件児童という。)につき,処分行政庁が,平成29年2月15日付けで,①上記里親委託措置を解除する旨の処分(以下本件里親委託措置解除処分という。)をし,②原告らに対する委託を解除した(以下本件委託解除という。)ことから,原告らが,これらはいずれも裁量権の範囲を逸脱又は濫用してされた違法な処分であると主張して,その各取消しを求めるとともに,裁
決行政庁が上記①及び②に対する原告らの審査請求を却下した裁決(以下本件裁決という。)は違法であると主張して,その取消しを求める事案である。1
関係法令の定め
関係法令の定めは,別紙1-1~1-5に記載のとおりである(なお,同別紙中で定義した略称等は,以下の本文においても同様に用いるものとする。)。
2
前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)

CとDは,養育里親(児童福祉法6条の4第2項)として,下記(2)のと
おり本件児童の委託を受けていた夫婦である。
東京都杉並児童相談所(以下杉並児相という。)は,本件児童の保護等の業務を所管する児童相談所であり,東京都江東児童相談所(平成25年4月30日の移転前の名称は東京都墨田児童相談所(甲3)。以下江東児相という。)は,里親である原告らに対する指導等の業務を所管する児童相談所である。
(2)

処分行政庁は,本件児童につき,平成20年8月1日付けで,児童福祉法
27条1項3号に基づく乳児院入所措置を採り,平成22年4月7日付けで,里親に委託するとの措置変更をした(甲3の別紙2,乙9)。処分行政庁は,原告らに対し,同日を委託開始の時期として本件児童を委託する旨の措置通知書を交付し,原告らは,処分行政庁に対し,同月10日付け児童受託書を交付した(甲3の別添4,5)。
処分行政庁は,その後3回にわたり,本件児童に係る里親委託措置の期間
を2年間として更新した(甲3の別添6~11)。
(3)

里親委託措置解除等に至る経緯等
Dは,平成28年▲月▲日午前1時頃,東京都江戸川区内の川に飛び込み,救急搬送先の病院に入院した。


処分行政庁は,Dの入院を受け,調査のため,平成28年12月8日付けで,本件児童を一時保護する旨の決定をした(甲3の別添20)。また,
これに伴い,処分行政庁は,本件児童につき,里親委託措置を停止する旨の処分をした(甲3の別添21)。

原告らの養育里親名簿への登録期間は,平成29年1月18日に満了する予定であったところ,東京都知事は,原告らから養育里親名簿への登録
を辞退する旨の届出が提出されたこと(争いのない事実)を受けて,期間を同日から平成31年1月18日までとして原告らに係る養育里親名簿の
登録を取り消し,平成29年1月26日付けの書面により,東京都福祉保健局少子社会対策部長名で原告らにこれを通知した(乙11)。

処分行政庁は,平成29年2月15日付けで,本件児童に係る里親委託措置を解除する旨の処分(本件里親委託措置解除処分)をした。
また,処分行政庁は,同日付けで,原告らに対する本件児童の委託を解
除した(本件委託解除)。
なお,処分行政庁が原告ら宛てに送付した同日付けの措置解除通知書(以下本件通知書という。)には,

平成22年4月7日付けで決定した児童福祉法第27条第1項第3号の規定による措置を解除したので通知します。

と記載されていた(甲1の別紙1)。処分行政庁は,本件児
童の親権者に対しては,平成29年2月15日付けで,

(本件児童について)平成22年4月7日付けで決定した児童福祉法第27条第1項第3号の規定による措置を解除したので通知します。

と記載され,不服申立ての教示についても記載された措置解除決定通知書を送付した(甲3の別添23)。

(4)

審査請求等
原告らは,平成29年3月9日,本件通知書の写しを審査請求書に添付し
た上で,審査請求に係る処分の内容を東京都杉並児童相談所が平成29年2月15日付けで行った,審査請求人らに対する,里親委託措置を解除する処分として,審査庁である東京都知事に対して審査請求をした(甲2。以下本件審査請求という。)。
東京都知事は,同年8月21日,本件通知書に係る通知は,本件里親委託措置解除処分をした旨を委託先である原告らに通知するものにすぎず,原告らの権利義務に直接具体的な効果を及ぼすものとは認められないから,本件
審査請求は不服申立ての対象とすることのできない事項を対象とするものであり,不適法であるとして,本件審査請求を却下する旨の裁決(本件裁決)
をした(甲1)。
(5)
3
原告らは,平成30年2月21日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
争点
(1)

本件里親委託措置解除処分の取消しの訴えにつき,原告らが原告適格を有
するか否か

(2)

本件委託解除の処分性の有無

(3)

本件裁決の取消しの訴えにつき,訴えの利益があるか否か

(4)

本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除が,裁量権の範囲を逸脱し又
は濫用したものとして違法であるか否か
(5)

4
本件裁決が違法であるか否か

争点(1)(本件里親委託措置解除処分の取消しの訴えにつき,原告らが原告適格を有するか否か)に関する当事者の主張
(原告らの主張)
(1)

原告らが本件里親委託措置解除処分の法的効果として直接権利を侵害され
又は義務を課される者であること

処分の名宛人以外の者であっても,処分の法的効果として,直接権利を侵害され又は義務を課される者は,このような権利の侵害状態又は受忍義務を排除するために処分の公定力を排除する必要があるから,当該処分を取り消すことにつき法律上の利益を有するというべきである。


里親としての法的地位,権利等
里親と里子との間に実の親子同然の人間的情愛に基づく強固な人間関係が形成された場合,その関係を維持することは,里親及び里子双方にとっての人格的生存に不可欠な利益であるから,このような里親子関係は,憲法24条2項,B規約23条1項にいう家族関係として保護されるべ
きである。
したがって,里子とともに家族として生活するという里親の利益(里親
である地位を享有できる利益)は,法的保護に値する固有の利益というべきであり,里親は,このような里親子関係を不当に害されない権利を有するというべきである(憲法13条後段,24条2項,児童の権利に関する条約20条1項,3項,B規約23条1項)。

里親委託措置を解除する旨の処分が,里親に対し,直接,里親としての法的地位及び権限を奪うという法的効果のある処分であること
(ア)

里親委託措置を解除する旨の処分の性質等
児童福祉法27条1項3号に基づく里親委託措置は,具体的に委託先
の里親を選定した上でされるものであり,委託先の里親が選定されていない段階で抽象的に里親委託措置がされることはあり得ない。すなわち,里親委託措置は,児童を特定の里親家庭に委託する旨の行政処分であって,当該里親委託候補者に児童を委託し,当該児童の里親という法的地位を付与するという法律効果を生じさせるものというべきである。それゆえ,東京都の規則である施行細則においても,児童を里親に委託する
ときは,措置通知書により当該里親に通知しなければならないとされ(11条3項),児童本人又はその保護者に対する措置決定通知書の様式には委託里親名の記載欄があり(第16号様式),また,施行細則16条は,里親候補者ではなく里親に対して,すなわち既
に里親になっていることを前提として,当該里親に対して児童受託書の
提出を義務付けているのである。
そして,里親委託措置を解除する旨の処分は,上記法律効果をもたらす里親委託措置を解除するものである以上,里親に対し,児童の里親としての法的地位及び児童の監護養育に係る法的権限(児童福祉法47条3項)を奪い,里子との間で築いた愛着関係を断ち切られるという不利
益を受忍させるという法律効果を有するものである。
里親委託措置が特定の里親を選定した上でされる処分であることは,
①児童福祉法27条1項3号に基づく里親委託措置は,どの里親に委託するかが決まっていない段階で,ともかく里親に委託することだけを決めるというような措置ではなく,里親候補者と児童とのマッチングを確認した上で,その里親候補者の下での児童の生活に十分な見通しが持てた段階でされるものであること,②厚生労働省が定める里親制度運営要綱においても,里親に委託する場合には里親と児童の調整等を十分にした上で当該児童に最も適合する里親に委託するよう努めることなどとされていること(第5の1(1)イ),③里親委託ガイドラインにおいても,上記運営要綱における記述と同様の記述があることに加え,里親の持つ
特性や力量について考慮した上で里親家庭の選定を行うなどとされていること(5(1)①),実際,本件児童についても,原告らが養育家庭候補として推薦され,両者の交流が開始され,慎重にマッチングが検討された上で,里親委託措置が採られたことからも明らかである。
(イ)

被告は,個別の里親との委託関係は,知事又はその権限の委任を受
けた児童相談所長(以下知事等という。)による児童の委託を里親が受託することにより成立する旨主張する。しかしながら,本件児童の里親委託の経過をみても,措置通知書記載の委託開始日は,原告らが提出した児童受託書の作成日より前の日付となっており,被告の主張を前提とすると,委託開始日から原告らが児童受託書を提出するまでの間,
本件児童は,里親でない原告らによって監護されていたということになるが,このような児童の福祉に反する不都合な事態を児童福祉法が予定しているはずがない。
被告は,里親委託措置がされた児童を受託することを里親に義務付ける規定はなく,里親委託措置は特定の里親を選定して知事等が一方的に
行うものではない旨主張するが,委託の打診の段階で断ることができるのは当然であり,正式に里親委託措置がされた後は,里親側で委託を拒
絶することはできない。
(ウ)

被告は,里親委託措置を解除する旨の処分の性質に関して,同措

置が解除されれば,児童相談所長と里親との間の法律関係もほどなく解除される場合があるという事実上の影響をいうものにすぎないと主張するが,里親委託措置が特定の里親を選定した上でされるものである以上,同措置が解除されれば,必然的に児童相談所長と里親との間の法律関係も解消されるのであり,里親委託措置を解除する旨の処分がされたにもかかわらず,当該里親に対する委託関係が解消されないということはあり得ない。すなわち,里親委託措置を解除する旨の処分と,個別の里親
に対する児童の委託を解除する措置は,表裏一体,不可分の関係にあり,常に連動する関係にある。施行細則において,里親委託措置を解除する旨の処分をする場合,児童本人又はその保護者だけでなく,里親に対しても措置解除通知書により通知しなければならないとされている(11条8項)のも,同処分が,直接,里親から里親の地位を奪うという法的
効果をもたらすものだからである。
被告は,里親委託措置を解除する旨の処分が取り消されたとしても,児童相談所長と個別の里親との間における法律関係が当然に復活するものではないとも主張する。しかしながら,里親委託措置を解除する旨の処分は,前記のとおり里親を特定してなされた里親委託措置の解除処分
であるから,これが取り消された場合には,当該里親への委託措置が復活することとなるというべきである。
(エ)

以上のとおり,里親委託措置を解除する旨の処分は,直接,里親か
ら,里親という法的地位及び里子の監護教育等に関する法的権限(児童福祉法47条3項)を奪い,また,里親に対し,里子との間で築いた愛着関係を断ち切られるという不利益を受忍させる法的効果のある処分といえる。

したがって,委託を受けた里親は,里親委託措置を解除する旨の処分の法的効果として,直接権利を侵害され,義務を課される者といえるから,同処分の取消しを求める原告適格を有する。
(2)
行政事件訴訟法9条2項に照らし,里親は里親委託措置を解除する旨の処
分の取消しを求める原告適格を有すること

児童福祉法及びその関係法令である児童の権利に関する条約は,児童の最善の利益を図るという目的を有し,児童を家庭において養育することが困難であり,又は適当でない場合に,家庭における養育環境と同様の養育環境を提供するべきであるとし,しかも,里親による代替的養護が継続的
に維持されることを要請しているといえる(児童福祉法3条の2,児童の権利に関する条約20条3項)。そして,児童福祉法は,里親家庭における養育環境を充実させ,安定的に里子である児童の養育環境を維持できるようにするために,親権者や未成年後見人からも不当に妨げられない子の監護に関する法的権限を里親に与えている(47条3項,4項)。
また,児童福祉法1条等の規定からすれば,児童福祉法及び児童の権利に関する条約は,里子である児童に対し,里親家庭における家庭的な養育環境を不当に奪われないという権利を保障しているといえる。里親委託措置を解除する旨の処分は,児童から里親家庭での安定した養育環境を奪い,里親との間で築いた愛着関係を断絶させ,児童の人生そのものに著しい不
利益を与えることとなり,児童の被る権利侵害の程度は極めて甚大である。ところが,里親委託措置は,里子である児童を家庭から引き離す強制的措置であるから,里親家庭による養育の継続が児童の最善の利益に合致する場合であっても,里親委託措置の継続は,当該児童の親権者の権利義務を制約し続けることとなる。すなわち,里親家庭での養育環境を奪われな
いという児童の利益は,当該児童の親権者の利益と相反関係にあるから,里親委託措置を解除する旨の処分が違法になされたとしても,親権者に,
児童の法定代理人として同処分の取消訴訟の提起を期待することはできない。また,児童福祉法には,家事事件手続法のような児童の手続代理人制度もない。
一方,児童福祉法上,同法3条の2の家庭における養育環境と同様の養育環境の担い手である里親は,親権者によっても不当に妨げられない
監護に関する権限を有し(47条3項,4項),里子のためにその養育環境を充実させ,維持していく責任を負っていることからすれば,里親委託措置を解除する旨の処分の効力を争うにつき,里子である児童の利益と里親の利益は一致するといえる。そうすると,児童の里親家庭における家庭的な養育環境で生活する利益を守り,実質的に救済することができるのは,
当該児童の里親だけである。
このように,児童の意見表明権(児童の権利に関する条約12条1項)を含む児童(里子)の権利救済のためには,当該児童の里親に,里親委託措置を解除する旨の処分につき取消訴訟を提起して争うことのできる地位を認めるのが相当である。


以上のとおり,処分の根拠法令及びその関係法令の趣旨及び目的,利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度からすれば,行政事件訴訟法9条2項に照らし,里親は,里親委託措置を解除する旨の処分について,その取消しを求める法律上の利益を有するといえる。

(3)

以上によれば,本件児童の里親である原告らは,本件里親委託措置解除処
分の取消しを求めるにつき,原告適格を有するというべきである。(被告の主張)
(1)

里親は,里親委託措置を解除する旨の処分の名宛人ではなく,同処分の法
的効果として直接権利利益を侵害され,又は義務を課される者とはいえない(下記(2))。また,里親が,里親委託措置を解除する旨の処分の相手方以外の第三者(行政事件訴訟法9条2項)として原告適格を有するかについ
てみても,児童福祉法は,児童の利益と区別された里親固有の利益を保護しているとは解されない(下記(3))。したがって,里親は,里親委託措置を解除する旨の処分の取消しを求める法律上の利益を有しない。
(2)
里親委託措置を解除する旨の処分の法的効果により,直接,里親としての
法的地位及び権限が奪われるとの主張について

知事等がする里親委託措置は,児童の福祉のため,児童を家庭から引き離す強制的措置であり,当該児童及びその親権者又は未成年後見人を名宛人として,これらの者の権利義務を制約する行政処分である。そして,知事等は,このような里親委託措置を解除し,停止し,又は変更する権限を有するところ,これらの処分も,当該児童及び親権者又は未成年後見人の
権利義務に影響を及ぼす行政処分であり,当該児童及び親権者又は未成年後見人を名宛人とするものである。
他方,里親は,このような里親委託措置を解除する旨の処分の名宛人ではなく,同処分によって自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者には当たらない。


原告らは,里親委託措置には特定の里親に里親の法的地位を付与する効果があり,里親委託措置を解除する旨の処分はその里親としての法的地位を奪う効果があるなどと主張するが,以下のとおり,原告らの主張は理由がない。

(ア)

里親委託措置について
児童福祉法は,児童福祉施設の長に対して児童を受託する義務を負わ
せている一方(46条の2第1項),里親に対して里親委託措置がされた児童を受託することを義務付ける規定を置いていない。里親に対する児童の委託は,知事等が養育里親名簿に登録された者等に対して児童の委託を申し込み,里親となる者がこれを承諾する個別の合意を基に行う必要がある。事前に児童と里親候補家庭との面会等を行って里親家庭の
選定(マッチング)を行っていたとしても,里親は受託を断ることができるのであり,知事等が里親候補家庭に対して一方的に受託義務を負わせることはできない。すなわち,児童福祉法27条1項3号に基づく里親委託措置は,児童及び親権者又は未成年後見人に一定の制約を課する措置を行う旨の処分であり,これ自体によって,個別の里親との関係で何らかの法的効果が生じたり法律関係が成立したりするものではない。知事等と個別の里親候補者との法律関係は,知事等が里親候補者に対して委託を申し込み,当該里親候補者がこれを承諾することによって初めて成立するものである。
このように,里親に対する児童の委託は,個別の里親との合意に基づ
いて行われるものであり,特定の里親を選定して知事等が一方的に行うことができるものではないから,原告らの主張は理由がない。
(イ)

里親委託措置を解除する旨の処分について
里親委託措置を解除する旨の処分は,飽くまで,児童及び親権者又は
未成年後見人に対して行っていた同措置の効果を失わせるものにすぎず,これとは別途の合意により成立した里親との法律関係を当然に解除する効果はない。個別の里親との間の委託関係を解消するためには,里親委託措置自体の解除とは別に,当該里親との委託関係を解除する意思表示を要するのであり,仮に里親委託措置を解除する旨の処分の公定力を排
除したとしても,個別の里親との間における法律関係が当然に復活するものでもない。
原告らは,これらが表裏一体であるなどと主張するが,里親委託措置を解除する旨の処分がされれば,個別の里親との間における法律関係もほどなく解除される場合があるという事実上の影響をいうものにすぎな
い。
このように,里親委託措置を解除する旨の処分には,直接,里親から,
里親という法的地位を奪うといった法的効果はない。
(ウ)

原告らは,原告らに対する措置通知書記載の委託開始日が原告ら作
成の児童受託書の作成日付より前であることを理由に,里親でない原告らに本件児童が監護されていた期間があることになるが,このような事態を児童福祉法が予定しているはずはないなどと主張する。

しかしながら,里親が児童を受託する行為が厳密に要式行為であるか否かはおくとしても,里親が委託開始の日をもって事実上児童の受託を承諾し,児童受託書の提出については別途近日中の日付で行ったとしても,格別原告らのいう不都合な事態が生じるとは思われない。(エ)

原告らは,施行細則16条が里親候補者ではなく里親に

対して児童受託書の提出を義務付けていること等を指摘して,里親委託措置という処分によって既に特定の里親に里親という法的地位を付与する効果が生じている旨主張する。
しかしながら,児童福祉法上の里親の定義(6条の4第1項)か
らすれば,同法にいう里親とは,必ずしも委託によって付与される里親という地位をいうものではない。施行細則16条は,個別の里親との間の法律関係が合意によって成立することと何ら矛盾する規定ではなく,まして,里親委託措置によって直接個別の里親に対する法的効果があることを根拠付けるものではない。
(3)

行政事件訴訟法9条2項に照らし原告適格が認められる旨の主張について児童福祉法の規定内容,趣旨及び目的からすると,里親委託措置は,児童
の福祉を図り,児童が心身ともに健やかに育成する環境を確保するという地方公共団体等の責務を実現するために行わなければならず,その措置の解除も,当該里親委託されている児童の最善の利益にかなうよう,専ら児童の福祉を実現するために行わなければならないものである。そうすると,同法において,知事等が里親委託措置を解除するに当たり,里親固有の利益を考慮
することは予定されておらず,また考慮することは相当でないというべきである。
児童福祉法47条3項,4項は,里親に児童の監護権等を付与したものではなく,監護等に関して必要な措置を採ることができる権限を付与するにとどまるものであるし,同条3項に児童等の福祉のためとあるとおり,
必要な措置は飽くまで児童の福祉のために行われなければならない。したがって,このような権限が付与されていることによって,里親が個人的な利益を享受することができるものではない。
このように,児童福祉法は,児童の利益と区別された里親固有の利益を個別的利益として保護すべきものとする趣旨であるとは解されない。
(4)

以上によれば,里親は,里親委託措置を解除する旨の処分の取消しを求め
る法律上の利益を有しないというべきであり,原告らは,本件里親委託措置解除処分の取消しを求めるにつき,原告適格を有しない。
5
争点(2)(本件委託解除の処分性の有無)に関する当事者の主張(原告らの主張)
(1)

里親の地位は,児童福祉法の規定による知事等の一方的な行政行為(措置)
に基づくものであり,準委任契約とは異なる半公的法律関係と捉えられるべきである。里親は,同法又は同法に基づく命令を遵守し,児童のために忠実に職務を遂行しなければならず(同法44条の3),厚生労働大臣の定める養育の基準に従わなければならない(同法45条)など,知事等による委託により公法上の義務を負わせられる。すなわち,里親は,民法上の準委任契約上の受任者ではなく,知事等の行う一方的な委託によって児童に対して忠実に職務を果たすべき公法上の義務を負わせられるという法的地位にあり,知事等の行う個別の里親に対する児童の委託及びその解除は,行政庁の優越
的な地位に基づく権力的な意思活動というべきである。
里親に対する委託が被告の主張するような個別の合意に基づく契約である
とすれば,里親側からの委託の解除も認められてしかるべきであるが,児童福祉法にも施行細則にも,里親側からの解除の規定はなく,里親委託措置が採られた後,当該里親が当該児童の委託を拒絶することができるとする規定もない。それどころか,施行細則16条は,当該里親に児童受託書の提出を義務付けている。
前記4(原告らの主張)(1)ウのとおり,特定の里親が選定されていない段階で抽象的に里親委託措置がされることはあり得ず,里親委託措置において具体的に委託先の里親が特定され,当該里親に対して児童の委託がされるという関係にある以上,里親委託措置と個別の里親に対する児童の委託の内容
は,実質的に同一でなければならない。この意味で,里親委託措置と個別の里親に対する児童の委託は,一体不可分の関係にあり,里親委託措置のみならず,個別の里親に対する児童の委託も,知事等の一方的な行政行為というべきである。
(2)

また,準委任契約であれば,委任者はいつでも理由なく契約を解除するこ
とが可能であるが,里親と児童は,委託期間が長くなればなるほど実の親子のような人間的情愛に基づく強固な人間関係が自然と形成されるのであり,里親に何ら問題がないにもかかわらず,知事等の自由裁量により一方的解除が認められるとすれば,児童の福祉を害することは明らかである。知事等は,厚生労働省の定める省令やガイドライン等に従って裁量権を行使すべきであ
るし,その権限行使に当たって裁量権の範囲の逸脱又は濫用がなかったか否かが司法審査の対象とされるべきであることは当然である。
(3)

以上によれば,個別の里親に対する児童の委託を解除する行為は,抗告訴
訟の対象となる処分に当たるというべきである。
(被告の主張)
委託主体である知事等と個別の里親との法律関係は,前記4(被告の主張)(2)イ(ア)のとおり,両者の合意により初めて成立するものであり,原告らが主
張する里親の義務は,知事等による一方的意思表示により負わせることができるものではない。知事等が里親となる者に児童を委託することは,当該里親との関係では,知事等が養育里親名簿に登録された者に対して児童の委託を申し込み,当該里親となる者がこれを承諾することによって成立する民法上の準委任に準ずる公法上の契約関係を成立させるものということができる。それゆえ,
知事等及び里親がこのような合意を解除することも,民法が定める準委任契約の規定に準じて行うべきこととなるから,このような解除が非権力的行為であることは明らかである。
加えて,前記のとおり,児童福祉施設の長は委託を正当な理由がない限り拒んではならないとされている一方,里親は児童の受託を断ることができるとい
う観点からみても,里親に対する児童の委託は,知事等が,一方的に,法が認めた優越的な地位に基づき法の執行としてする権力的な意思活動でないことは明らかである。
したがって,里親委託を解除する行為は,抗告訴訟の対象となる処分に当たらないというべきである。

6
争点(3)(本件裁決の取消しの訴えにつき,訴えの利益があるか否か)に関する当事者の主張
(原告らの主張)
前記4及び5の各(原告らの主張)のとおり,原告らは本件里親委託措置解
除処分の取消しの訴えにつき原告適格を有し,本件委託解除は抗告訴訟の対象となる処分であるから,原告らには本件裁決の取消しの訴えにつき訴えの利益がない旨の被告の主張は理由がない。
(被告の主張)
前記4及び5の各(被告の主張)のとおり,原告らは本件里親委託措置解除
処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しておらず,また,本件委託解除は抗告訴訟の対象となる処分に当たらないため,原告らによる本件里親委託
措置解除処分の取消しを求める訴え及び本件委託解除の取消しを求める訴えは,いずれも不適法であり却下されるべきである。そうであるとすれば,本件裁決に何らかの瑕疵がありこれが取り消されたとしても,裁決行政庁としては,本件審査請求につき法的利益を認めることはできないから,これを却下するほかない。そうすると,本件裁決を取り消すことは法的に全く意味がないから,本
件裁決の取消しの訴えは,訴えの利益を欠くというべきである。
7
争点(4)(本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除が,裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法であるか否か)に関する当事者の主張(原告らの主張)

(1)

本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除に至る事情等
平成28年▲月▲日のDの川への飛び込みは,PTA行事が終わり張りつ
めた緊張から解き放たれて無心で突発的にした行為であって,自殺を企図したものではないし,里親家庭にはCがいるほか,同人の姉など日ごろから本件児童の養育に協力していた親族が近所に住んでいたのであるから,Dの入院後1週間も経過しない同月8日の時点で,本件児童を里親家庭である原告らの家庭から引き離す必要はなかった。にもかかわらず,杉並児相は,Dの病状,本件児童の意思,養育環境等,一時保護をすべき理由の確認を十分に確認する前に一時保護の方針を固めており,本件児童に係る一時保護決定は,拙速かつ不必要なものであった。

また,Dの主治医は,同月19日,杉並児相の職員に対し,自死念慮や情動不安定等がなく本件児童を巻き込むおそれがないこと,これまでの負担(PTAなどの負担)がない状態であれば養育は可能であることを説明していたのであるから,Dが退院した同月27日の時点で,本件児童を一時保護する必要性は完全になくなった。したがって,処分行政庁は,本件児童の精
神を安定させるため,一時保護を速やかに解除し,里親委託措置停止処分も解除するべきであったのに,平成22年に杉並児相管轄内の里親宅で委託児
童が死亡したという事件を考慮し,杉並児相に対する批判を回避するために,原告らには虐待の疑いなどなかったのに,上記解除をしなかった。こうして,杉並児相においては,平成29年1月4日,原告らの意思にかかわらず原告らに対する本件児童の里親委託を解除し,本件児童につき児童養護施設入所への措置変更をするとの方針が決定された。これは,児童の最善の利益を無視するものであり,児童相談所運営指針に反するものであったが,その正当化のために,杉並児相の職員は江東児相に上記方針を伝え,これを聞いた江東児相の担当者は,主治医が前記のとおり養育可能と説明していたにもかかわらず,原告らに対し,主治医は通院が必要と言っており心身
ともに健全でないことになるから養育里親名簿への登録を認めることができないなどと説明し,原告らを不当に誘導して養育里親名簿への登録の辞退をさせた。
さらに,同月18日付けで,Dにつき,精神病状態は一過性のもので消退しており育児可能と考えるとの診断書が発行され,一時保護を続ける必要が
ないことが明確となったのであるから,上記の点につき病院から情報提供を受けた江東児相は,本件児童の福祉のために,原告らに対し,上記の養育里親名簿登録辞退を撤回する意思の有無を確認すべきであったのに,これをしなかった。
(2)

裁量権の範囲を逸脱又は濫用してされた処分であること
本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除は,心身とも健全でないこと
を理由に本件児童の委託を解除するという杉並児相の平成29年1月4日の方針決定を実質的な理由とするものであるから,その違法性についても,その実質的な理由に着目して判断すべきである。
この点に関して,処分行政庁は,Dの病状を的確に把握し,退院時期を見極めるなどし,本件児童から長期間慣れ親しんだ生活環境を奪うこととなる措置変更が本件児童の福祉にかなうか否かを慎重に判断すべきであったとこ
ろ,主治医が前記(1)のとおり退院後の養育に問題はない旨判断しており,Dが東京都里親認定基準で示された心身とも健全であることとの要件を満たすことは明らかであったにもかかわらず,Dの病状及び快復後の見通しという重要な要素について,主治医の上記専門的判断を無視して著しく不合理な判断をしたものである。また,6年8月もの長期間原告らの下で深い愛情を注がれながら養育を受け,原告ら双方の親族,学校関係者,地域住民などと親しく交流しつつ安定した生活を送りながら人格を形成していた本件児童にとって,原告ら及びその親族との関係が断ち切られることによる不利益が甚大であるにもかかわらず,処分行政庁は,このような本件児童の被る不利
益に配慮せず,委託を継続するための方法の有無の検討をすることもなく,上記方針を決定したものである。
本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除は,前記(1)のとおり,他事考慮によって必要のない拙速な一時保護決定及び里親委託措置停止処分をした上,児童相談所運営指針に反する措置変更を正当化するため,原告らに養育
里親名簿への登録を辞退させて行われたものであり,その必要性がないばかりか,本件児童の最善の利益及び原告らの児童を養育する権利という人格的権利を侵害するものであった。
以上によれば,本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用してされたものといえるから,いずれも違法
である。
(被告の主張)
(1)

児童について里親委託措置を行うか否か,また同措置を継続するべきか否
かは,当該児童ごとに個別具体的かつ専門技術的な判断を要するものであり,児童福祉法は,このような判断を知事等の専門的合理的な裁量に委ねているというべきである。したがって,知事等がした里親委託措置解除処分が違法となるのは,当該判断が同法の目的及び社会通念に照らして著しく不合理で
あって,知事等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限られるというべきである。
(2)

以下の事情からすれば,処分行政庁が本件里親委託措置解除処分を行っ
たことについて,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったということはできない。

東京都里親認定基準には,里親申込者の基本要件として,心身ともに健全であることが掲げられている。Dが,真冬の深夜1時頃,アルコールを摂取した状態で橋を乗り越えて約8mの高さから川に飛び込んだこと,医師から非定型精神病(急性一過性精神病性障害)及び適応障害と診断され,1年間の通院と服薬を
要するとされたこと,20代の頃に精神症状が出現したことなどによる入通院歴を有していたことが発覚したことに加え,本件児童はDの上記行動後に自責の念を漏らすなどしており,Dの上記行動が本件児童に少なからず影響を与えたことなどの事情に鑑みると,処分行政庁としては,Dの心身は健全でない状態にあり,里親として児童を養育するのに差支
えがある状態,すなわち里親としての適格を欠く状態であったと判断せざるを得ない。
そして,原告らは,主たる養育者をDと指定していたのであるから,処分行政庁が,里親委託措置を継続するか否かを判断する際に,Dの上記の状態を重大な要素として考慮することは当然である。


児童福祉法上,児童を委託する里親は,同法に規定する養育里親名簿に登録された者であることが必要とされているから,原告らの養育里親名簿への登録が取り消された以上,原告らは,同法が要請する里親の基準を満たさないこととなる。したがって,処分行政庁としては,本件児童の委託
を解除し,より児童の福祉にかなう措置を検討することとなるのは当然である。

原告らは,養育里親名簿登録辞退の撤回の意思確認をすべきであったなどと主張する。しかしながら,平成29年1月18日付け診断書によっても,Dは,非定型精神病により当面通院及び服薬を続ける必要がある状態であった上,里親の場合,児童福祉法その他の関係法令により厳しい要件が定められており,上記アのようなDの行動や病歴は,里子の養育を委託
する立場の児童相談所としては重く捉えざるを得ないものであり,同診断書の内容をもって,江東児相が,原告らに対し,養育里親名簿登録辞退を撤回させるべき状況にあったとは認められない。

杉並児相の職員が,本件里親委託措置解除処分に先立ち,本件児童に原告ら宅への復帰ができないことを伝えたところ,本件児童は,委託措置先
の変更についてやむを得ないことと納得していた。また,処分行政庁は,本件里親委託措置解除処分をしたことを本件児童の親権者に通知したが,親権者からの不服申立てはない。このように,処分行政庁は,本件児童及び親権者の意向も踏まえて,本件里親委託措置解除処分を行ったものである。


以上のとおり,処分行政庁は,Dの心身が健全ではなく,里親として児童を養育するのに差支えがある状態にあったことに加えて,原告らの養育里親名簿への登録が取り消され,児童を委託し得る里親として児童福祉法が要求する要件を満たさなくなったことや,本件児童及び親権者の意向も踏まえて,本件里親委託措置解除処分を行ったものであり,その判断が,
同法の目的及び社会通念に照らして著しく不合理であって,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものと認められる余地はない。なお,原告らは,本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除が平成22年の事件を考慮してされたものであるなどと主張するが,同事件は本件とは全く関係がない。

(3)

以上によれば,本件里親委託措置解除処分は適法である。

そして,本件里親委託措置解除処分が適法である以上,これを前提として処分行政庁がした本件委託解除も,何ら違法なものではない。
8
争点(5)(本件裁決が違法か否か)に関する当事者の主張
(原告らの主張)

原告らは,本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除の双方について,審査請求を求めたにもかかわらず,本件裁決は,本件里親委託措置の解除をした旨の本件通知書による通知自体について,通知には処分性がないとして審査請求を却下しており,原告らが判断を求めた本件里親委託措置解除処分及び本件委託解除の違法性及び不当性はもとより,これらを対象として行った本件審査
請求の適法性についても,何ら判断をしていない。
なお,原告ら宛ての本件通知書は,原告らの里親である地位を享受できる利益を失わせ,本件児童との里親子関係を不当に害されない権利を侵害する効果を生じさせるものであるから,これが処分でないとする本件裁決の判断も誤りである。

以上によれば,本件裁決には固有の瑕疵があり違法であるから,取消しを免れない。
(被告の主張)
(1)

本件審査請求に係る審査請求書には,審査請求に係る処分の内容につき
東京都杉並児童相談所が平成29年2月15日付けで行った,審査請求人らに対する,里親委託措置を解除する処分と記載され,添付書類として本件通知書の写しが添付されていたことから,原告らが処分として取り消しを求めていた事項は,処分行政庁が原告らに対して本件通知書をもってした行為と特定される。裁決行政庁は,この行為を対象として本件裁決をしたものであるから,本件裁決は,不服の対象を誤ってされたものではない。
そして,処分行政庁が本件通知書をもってした行為は,事実の通知あるいは準委任に準ずる公法上の契約関係の解除の意思表示のいずれと解したとし
ても,非権力的な行為と解するほかないから,本件審査請求が適法な審査請求となる余地はない。
(2)

親権者を名宛人とする本件里親委託措置解除処分は,原告ら宛ての本件通
知書とは別の平成29年2月15日付け措置解除決定通知書(前記前提事実(3)エ)によってされ,名宛人や内容を異にしているから,本件審査請求に係
る審査請求書の上記記載及び添付書類からすると,本件審査請求の対象に親権者を名宛人とする処分(本件里親委託措置解除処分)が含まれていると解するのは困難である。なお,仮に本件審査請求の対象に本件里親委託措置解除処分が含まれるとしても,原告らには,同処分に係る不服申立適格がない以上,本件審査請求が不適法であることに変わりはない。

第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(本件里親委託措置解除処分の取消しの訴えにつき,原告らが原告適格を有するか否か)について
(1)ア

処分の取消しの訴えは,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益
を有する者に限り提起することができるところ(行政事件訴訟法9条1項),ここでいう法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである(最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参
照)。
そして,処分の名宛人に限らず,処分の法的効果により自己の権利又は法律上保護された利益の制限を受ける者は,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者
に当たり,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成24年(行ヒ)第156号同25年7月12日第二小法廷判
決・裁判集民事244号43頁参照)。

この点についてみると,児童福祉法27条1項3号に基づく里親委託措置は,児童の福祉のため児童を家庭から引き離す措置であって,親権者又は未成年後見人の権利に制限を加える法的効果を有するものであり,その
措置を解除する旨の処分も,上記の制限を解除する法的効果を有するものにすぎず,同法において,里親の権利又は利益に何らかの制限を課すものとされているということはできない。
これに対し,原告らは,里親委託措置が,具体的に児童の委託先の里親を選定した上でされるものであるとした上で,その解除処分は,当該里親
に対し,当該児童の里親としての法的地位及び当該児童の監護教育に係る法的権限を奪うという法律効果を有するものである旨主張する。しかしながら,児童福祉法には,具体的な委託先の里親を選定した上で里親委託措置がされることを前提とした規定はない。かえって,同法は,46条の2第1項において,児童福祉施設の長に対し,知事等からの委託を拒んでは
ならないとして児童を受託する義務を負わせる一方,里親に対しては,里親委託措置がされた児童を受託することを義務付ける規定を置いていないことからすれば,同法において,知事等が特定の里親を選定し,当該里親との関係で一方的に里親委託措置をすることが想定されているということはできない。

後記2(2)アのとおり,児童の委託を受けた里親と知事等との関係は,知事等による個別の里親に対する児童の委託の申込みと里親によるその承諾という契約締結行為によって生じる,民法上の準委任に準じた公法上の契約関係と解されるのであり,児童福祉法27条1項3号所定の里親委託措置それ自体によって,個別の里親との関係で何らかの法的効果が生じたり,
個別の里親との間の委託関係が成立したりするものではないといえる。そうすると,里親委託措置を解除する旨の処分についてみても,それ自体は,
前記のとおり親権者又は未成年後見人に対して加えられた権利制限を解除する法的効果を有するにすぎないということができ,個別の里親と知事等との間の法律関係を消滅させるには,里親委託措置を解除する旨の処分とは別に,上記契約関係を解除する旨の意思表示が必要となるものと考えられる。実際にも,処分行政庁は,本件通知書において,本件里親委託措置
解除処分の通知とともに,

里親委託解除とします。

として契約関係を解除する旨の意思表示を行っている(甲1の別紙1)。
以上によれば,里親委託措置を解除する旨の処分自体の法的効果によって,里親としての地位が失われるということはできず,したがって,委託を受けた里親が,同処分の法的効果により自己の権利又は法律上保護され
た利益の制限を受ける者に当たるということもできないというべきである。ウ
その余の原告らの主張について
(ア)

原告らは,里親委託措置に先立って特定の里親と児童とのマッチン
グが行われるとして,里親委託措置が具体的に委託先の里親を選定した上でされるものであると主張する。しかしながら,里親委託措置に先立って特定の里親との間で児童とのマッチングが行われるという運用上の実情があるとしても,児童福祉法上,知事等が,特定の里親を委託先として選定し,当該里親との関係で一方的に里親委託措置をすることが前提とされていないことは,前記(1)イのとおりであるから,原告の上記主
張は,前記(1)イの判断を左右するものとはいえない。
(イ)

原告らは,本件児童に係る原告らの児童受託書の作成日付が委託開
始日より後であることを指摘して,里親が委託の申込みを承諾することにより知事等と里親との契約関係が成立するものとみるのは不合理であるとも主張する。しかしながら,事務処理上の理由などから,委託開始日から児童の受託が事実上行われ,児童受託書の作成,提出自体はその後に行われることも考えられることからすれば,原告らの主張する事情
をもって,知事等と里親との関係を契約関係とみることが不合理であるとはいえないから,上記主張を採用することはできない。
(ウ)

原告らは,施行細則において,児童を里親に委託するときは措置通
知書により当該里親に通知しなければならないとされていること
(11条3項),本人又はその保護者に対する措置決定通知書の様式に委託里親名の記載欄があること(第16号様式),里親に対し
て児童受託書の提出が義務付けられていること(16条)を指摘して,これらは里親委託措置という処分によって既に里親という法的地位が付与されていることを前提とした定めである旨主張する。しかし,児童福
祉法にいう里親とは,要保護児童を養育することを希望する者のうち,同法34条の19に規定する養育里親名簿に登録された者等をいい,必ずしも委託によって付与される里親という法的地位をいうものではないから,上記主張を採用することはできない。
(エ)

原告らは,里親委託措置を解除する旨の処分と個別の里親に対する
児童の委託の解除は,表裏一体,不可分の関係にあるなどと主張する。しかしながら,里親委託措置を解除する旨の処分と個別の里親に対する児童の委託の解除とは,前記イのとおり法的には別個の行為であって,このうち里親委託措置を解除する旨の処分が取り消されたとしても,これにより個別の里親に対する児童の委託の解除の効果が覆滅するもので
はない以上,当該個別の里親に当然に当該児童の里親としての地位が復活するものではなく,里親委託措置を解除する旨の処分自体の法的効果によって児童の里親としての地位が失われるということはできない。したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(オ)

原告らは,里親委託措置を解除する旨の処分によって,里親が里子
との間で築いた愛着関係を断ち切られるという不利益を受忍させられること等も主張するが,このような里親の不利益が生じるとしても,里親
委託を解除したことに伴って生じるものにすぎず,里親委託措置を解除する旨の処分自体の法的効果によって生じるものではないから,この点をもって,里親の原告適格を基礎付けるものということはできない。(2)ア

もっとも,里親委託措置を解除する旨の処分の根拠法令である児童福祉
法が,里親の利益を個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むと
解することができる場合には,里親は,里親委託措置解除処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者,すなわち同処分の取消しを求める法律上の利益を有する者であるということができる(行政事件訴訟法9条2項)。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の
有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質
を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項,前掲最高裁平成17年判決参照)。

そこで,以下,上記アの枠組みに沿って検討する。
(ア)

児童福祉法は,全ての児童につき,適切に養育されること等福祉を
等しく保障される権利を有するものと定め(1条),全ての国民は,児童の最善の利益が優先して考慮され,心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならないこと等を定め(2条1項),これらが児童の福祉を保障するための原理であり,児童に関する法令の施行に当たって常に尊重されなければならない(3条)と規定している。また,同法は,
国及び地方自治体について,児童の保護者とともに,児童を心身ともに健やかに育成する責任を負うものとし(2条3項),都道府県は,児童が心身ともに健やかに育成されるよう,27条1項3号の規定による委託等の同法に基づく児童の福祉に関する業務を適切に行わなければならないと定めている(3条の3第2項)。
以上の同法の規定からすると,同法は,専ら児童の福祉の実現をその目的としているということができる。
(イ)

そして,児童福祉法が,里親につき,児童の人格を尊重するととも
に,同法又は同法に基づく命令を遵守し,児童のため忠実にその職務を遂行しなければならず(44条の3),また,厚生労働大臣が定める里親の行う養育に係る基準を遵守しなければならないと定めていること(45条の2第2項)などからすれば,同法において,里親は,専ら委託を受けた児童の健全な育成と福祉を図るために,公的な立場においてその養育を行うことが期待されているということができる。同法47条
3項は,里親に対し,受託中の児童に対する監護,教育及び懲戒に関する一定の権限を付与しているものの,この権限の行使は,都道府県知事の指導監督下において行われるものであること(同法30条の2参照),児童の生命又は身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるときを除いては,児童の親権者又は未成年後見人の意向に反して行うこと
はできないこと(同法47条5項参照)に加え,里親の上記立場にも鑑みれば,同法47条3項は,里親に対し,受託中の児童の福祉を実現するための手段としてその監護等に関して必要な措置を採る権限を付与するものにとどまり,里親の法的利益として上記権限を付与する趣旨ではないものと解される。

(ウ)

さらに,児童福祉法は,知事等が里親委託措置を解除しようとする
場合,あらかじめ,当該措置に係る児童の親権者又は未成年後見人に対
してその理由を説明するとともに,その意見を聴かなければならないとする一方(33条の4第4号),里親に対して同様の説明や意見聴取をすべきものとの規定を置いておらず,同法及び関係法令において,里親委託措置を解除するに当たり,里親に対する手続保障を図ろうとする趣旨の規定は見当たらない(なお,児童福祉法施行令32条1項は,同法
27条1項3号の措置を採る場合又は同号の措置を解除等する場合において,児童又はその保護者の意向が上記措置と一致しないときなどには都道府県児童福祉審議会の意見を聴取すべきことを定めているところ,仮に里親がここでいう保護者に当たるとしても,上記措置又はその解除等をする場合において保護者の同意が要件とされているわけでもな
く,また,保護者に意見や異議の申出の機会が保障されているものでもないことに照らせば,上記施行令の規定は,上記措置やその解除等の適正な遂行を確保する趣旨のものであり,保護者の利益保護を図る趣旨のものと解することはできない。)。
(エ)

以上の児童福祉法及び関係法令の規定,趣旨及び目的からすると,
同法及びその関係法令は,里親委託措置やその解除等について,専ら児童の健全な育成と福祉を図るため,児童の最善の利益にかなうようにするという観点から行われるべきであるとするものであり,委託された児童と生活すること等によって里親が何らかの個人的利益を享受することがあるとしても,このような里親自身の利益を里親自身の有する個別的
利益として保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできないというべきである。

原告らは,児童福祉法3条の2及び児童の権利に関する条約20条3項によれば,里親の固有の利益は法律上保護された利益であるといえる旨主
張するものの,これらの規定の趣旨及び目的が児童の利益の保護にあることは明らかであって,その文言に照らしても,里親の権利利益について規
定したものとは解されない。
また,原告らは,親権者と児童の利益が相反するなどとして,違法に里親委託措置を解除する旨の処分がされた場合であっても親権者に取消訴訟の提起を期待することはできないから,里親に原告適格を認める必要があるなどとも主張する。しかしながら,児童福祉法が,親権者の明示の意向
に反しては里親委託措置を採ることはできないとし(27条4項),里親委託措置を解除する際にも親権者等に意見を聴取することを義務付けていること(33条の4第4号)からすれば,同法は,里親委託措置やその解除の場面において,親権者と児童の利益が類型的に相反するものと想定しているということはできない。また,前記のとおり,児童福祉法施行令3
2条1項は,一定の場合に都道府県児童福祉審議会の意見を聴取すべきことを定め,里親委託措置やその解除等の適正な遂行を確保しようとしていることからすれば,親権者と児童の利益が相反する状況が生じても,これに対応する措置が講じられているといえる。したがって,原告ら主張の事情をもって,里親に原告適格を認める根拠とすることはできない。

以上によれば,委託された児童と生活すること等によって里親が何らかの個人的利益を得ることがあるとしても,児童福祉法がこのような里親の利益をその個別的利益として法律上保護しているということはできない。
(3)

以上の検討によれば,里親は,委託された児童に係る里親委託措置を解除
する旨の処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有しないといわ
ざるを得ない。
したがって,原告らの本件委託措置解除の取消しを求める訴えは,原告適格を欠き,不適法である。
2
争点(2)(本件委託解除の処分性の有無)について
(1)

抗告訴訟の対象となる処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行
う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範
囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。
(2)ア

児童福祉法は,特定の里親に児童を委託することを決定するといった
手続を法定していない。また,同法は,児童福祉施設の長に対しては児童
を受託する義務を負わせている一方(46条の2第1項),里親に対して里親委託措置をした児童の受託義務を課す旨の規定を置いておらず,かえって養育里親への委託は,養育里親となることを希望する者に対してのみすることとされている(6条の4)。これは,特定の要保護児童の養育を受託するか否かは,事柄の性質上,委託の申込みを受けた里親の意思に委
ねられるべきものであって,行政機関が一方的に決定することは相当でないとの趣旨によるものと解される。このような同法の構造及び趣旨に照らすと,知事等と児童を受託した里親との関係は,知事等が里親に対して児童の委託を申し込み,当該里親がこれを承諾することによって成立する民法上の準委任に準じた公法上の契約関係とみるのが相当であり,知事等が
里親に対して公権力の行使によって里親としての地位を付与するものではないというべきである。
そして,知事等と里親との関係が準委任に準じた公法上の契約関係に当たる以上,個別の里親への児童の委託を解除する知事等の行為の法的性質についても,委任者の有する契約の解除権の行使とみるのが相当であっ
て,公権力の行使によって里親としての地位を喪失させるものとみることはできない。

原告らは,里親が,知事等の行う委託により,児童福祉法又は同法に基づく命令の遵守義務や忠実義務等の義務を負わせられる旨主張するが,委
託の法的性質を知事等と里親との間の合意によって成立する契約関係とみるべきことは上記アのとおりであり,民法上の受任者にも忠実義務が課せ
られていることなどからみても,児童福祉法が里親に上記義務を負わせていることを根拠に,知事等による特定の里親への児童の委託自体が公権力の行使に当たるということはできない。原告らは,施行細則上児童受託書の提出が義務付けられているなどとも主張するが,これについても,上記と同様の理が当てはまるし,原告らの指摘する点は一方当事者である知事
等が相手方に求める契約上の手続に関する事柄にすぎないから,この点をもって知事等による特定の里親への児童の委託自体が公権力の行使に当たるということはできない。
原告らは,特定の里親が選定されていない段階で抽象的に里親委託措置がされることはあり得ず,里親委託措置と個別の里親に対する児童の委託
が一体不可分の関係にあるとして,里親委託措置のみならず,個別の里親に対する児童の委託も知事等の一方的な行政行為というべきであるなどと主張する。しかしながら,里親委託措置を採るに当たり,委託先の里親として特定の里親をあらかじめ想定するといった運用が実際に行われているとしても,児童福祉法27条1項3号に基づく里親委託措置と知事等が個
別の里親に児童を委託する行為は,法的には飽くまで別個の行為というべきであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
(3)

したがって,本件委託解除は抗告訴訟の対象となる処分に当たらず,その
取消しを求める訴えは不適法である。
3
争点(3)(本件裁決の取消しの訴えにつき,訴えの利益があるか否か)について
原告らは,本件審査請求において,本件委託措置解除処分及び本件委託解除の双方について不服申立てをしたにもかかわらず,これらに対する判断がされていないなどとして,本件審査請求を却下した本件裁決の取消しを求めている。
しかしながら,前記1で述べたところからすれば,原告らは本件委託措置解除処分に対する審査請求の申立適格を欠くのであるから,本件審査請求が同処
分を対象とするものであったとしても,本件審査請求のうち同処分に係る部分は不適法である。
また,前記2で述べたところからすれば,本件委託解除は,審査請求の対象となる処分(行政不服審査法2条)に当たらないから,本件審査請求が本件委託解除を対象とするものであったとしても,本件審査請求のうち本件委託
解除に係る部分は不適法である。
そして,審査請求は,原処分が違法又は不当であるとしてその取消しを求めるものであり,当該審査請求についての裁決の取消しを求める訴えの目的も,究極的には原処分の取消しを求めるところにあると解されることからすれば,本件裁決を取り消したとしても,裁決行政庁としては改めて本件審査請求を不
適法として却下するほかなく,裁決によって本件委託措置解除処分及び本件委託解除が取り消される余地がない以上,原告らは,本件裁決の取消しを求める利益を有しないものといわざるを得ない。
したがって,本件裁決の取消しを求める訴えは,不適法である。
4
以上のとおり,原告らの本件各訴えはいずれも不適法であるから,争点(4)及び争点(5)については判断を要しない。
よって,原告らの本件各訴えをいずれも却下することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官


裁判官

三英明有子貫納
裁判官

鈴鹿祥吾
(別紙1-1)
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