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更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件
事件番号平成30(行ウ)219
事件名更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件
裁判年月日令和元年10月30日
裁判所名東京地方裁判所
判示事項競馬の当たり馬券の払戻金が所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとされた事例
裁判要旨回収率が総体として100%を超えることを期待し得る独自のノウハウに基づいて長期間にわたり多数の馬券を頻繁かつ継続的に選別して購入していたという本件の事実関係の下では,一連の馬券の購入は客観的にみて営利を目的とする継続的行為と認められるから,その馬券の的中による払戻金に係る所得は所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たる。
裁判日:西暦2019-10-30
情報公開日2020-03-26 12:00:25
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令和元年10月30日判決言渡
平成30年(行ウ)第219号

更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件
主1文
高松税務署長が平成29年4月25日付けで原告に対してした原告の平成24年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処
分のうち,総所得金額342万6890円及び納付すべき税額7万8000円を超える部分につき更正をすべき理由がないとする部分を取り消す。2
高松税務署長が平成29年4月25日付けで原告に対してした原告の平成25年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

3
高松税務署長が平成29年4月25日付けで原告に対してした原告の平成26年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分のうち,総所得金額862万7460円及び納付すべき税額105万9100円を超える部分につき更正をすべき理由がないとする部分を取り消す。

4
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5
訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
高松税務署長が平成29年4月25日付けで原告に対してした原告の平成24年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

2
主文第2項と同旨

3
高松税務署長が平成29年4月25日付けで原告に対してした原告の平成26年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
第2
1
事案の概要等
事案の概要
本件は,競馬の勝馬投票券(以下馬券という。
)の的中による払戻金に
係る所得(以下本件競馬所得という。
)を得ていた原告が,平成24年分

から平成26年分までの所得税(平成25年分及び平成26年分については復興特別所得税を含む。以下同じ。
)について,本件競馬所得を一時所得として
確定申告をした後,本件競馬所得が雑所得に該当するとしてそれぞれ更正の請求(以下,併せて本件各更正の請求という。
)をしたところ,高松税務署
長から,いずれの更正の請求についても更正をすべき理由がない旨の通知処分
(以下,併せて本件各通知処分という。
)を受けたことから,本件各通知
処分の取消しを求める事案である。
2
前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)

(1)

中央競馬の概要等
中央競馬の概要
(ア)

日本中央競馬会(以下JRAという。)が行う競馬を中央競

馬といい(競馬法1条の2第5項),現在,全国10箇所(札幌,函館,福島,新潟,中山,東京,中京,京都,阪神,小倉)の競馬場において開催されている(同法2条,競馬法施行規則1条)。
中央競馬は,年間開催回数を36回以内,1回の開催日数を12日以内,1日の競走回数を12回以内,年間の開催日数を288日以内と限定されている(同法3条,同規則2条1項。なお,同じ日に複数の競馬場で競馬が開催されている場合でも,別々の開催日として計算
される。)。また,開催の日取りも,原則として,日曜日,土曜日,国民の祝日に関する法律に規定する休日又は1月5日から同月7日まで(平成27年以降はこれに12月28日が加わる。)のいずれかの日からなる日取りに制限されている(同法3条,同規則2条2項)。平成24事業年度においては,中央競馬は,年間合計36回,288日開催された。
JRAは,上記開催期間とは別に,競馬開催日(競馬開催日が2日
以上連続する場合にはその連続する競売開催日を併せたもの)又は競馬開催日と競馬開催日との間の日が土曜日,日曜日若しくは祝日である場合の前後する競馬開催日を併せたもの等を節と称している。
(イ)

JRAは,馬券を,券面金額10円の馬券10枚分以上を1枚と

して(すなわち,1口100円以上で)発売することができ(競馬法
6条1項,2項),馬券の発売は,その競走に出走すべき馬が確定した後に開始し,競走の発走の時までに締め切らなければならず(競馬法施行令8条),勝馬投票法の種類ごとの勝馬は,その競走の開催執務委員の着順の宣言により確定し(競馬法施行規則7条8項),勝馬投票の的中者に対し,払戻金が交付される(競馬法8条参照)。


馬券の種類
勝馬投票法には,単勝式,複勝式,連勝単式,連勝複式及び重勝式の5種類があり,当該種類ごとの勝馬の決定の方法等が定められているところ(競馬法7条,競馬法施行規則6条,7条各参照),JRAが発売
している馬券は,次の9種類である。
(ア)

単勝式勝馬投票法(単勝)
1着となった馬を勝馬とする。

(イ)

複勝式勝馬投票法(複勝)
原則として3着以内となった馬を勝馬とする。

(ウ)

馬番号二連勝単式勝馬投票法(馬単)
1着及び2着となった馬をその順位に従い一組としたものを勝馬とする。
(エ)

馬番号三連勝単式勝馬投票法(三連単)
1着,2着及び3着となった馬をその順位に従い一組としたものを
勝馬とする。
(オ)

枠番号二連勝複式勝馬投票法(枠連)
1着及び2着となった馬の枠番号の組合せを勝馬とする。

(カ)

普通馬番号二連勝複式勝馬投票法(馬連)
1着及び2着となった馬の組合せを勝馬とする。

(キ)

拡大馬番号二連勝複式勝馬投票法(ワイド)
1着及び2着となった馬,1着及び3着となった馬,2着及び3着
となった馬のそれぞれの組合せを勝馬とする。
(ク)

馬番号三連勝複式勝馬投票法(三連複)
1着,2着及び3着となった馬の組合せを勝馬とする。

(ケ)

五重勝単勝式勝馬投票法(WIN5[ウィンファイブ])
同一の日の五つの競走につき1着となった馬を一組としたものを勝
馬とする。

馬券の発売方法
馬券は,JRAが次の方法により発売している。
(ア)

場内発売
全国10箇所の競馬場の窓口で,当該競馬場で開催されている競走
に係る馬券のほか,他の競馬場で開催されている競走に係る馬券も発売している。
(イ)

場外発売
全国の場外馬券売場WINS(ウインズ)の自動販売機等で発

売している。
(ウ)

電話・インターネットによる発売
a
JRAとの間で,日本中央競馬会電話・インターネット投票に関する約定(A-PAT会員)(乙4)又は日本中央競馬会インターネット投票に関する約定(即PAT会員)(乙5)を結んだ者(以下加入者という。)は,電話やパソコンを利用したP
AT(Personal

Access

Terminal)方式

により,馬券の購入を申し込むことができる。
PAT方式には,A-PATと即PATの2種類があり,いずれ
もインターネット接続端末を使ってインターネット経由で馬券の購入を申し込むことができる。また,A-PATでは,自宅の固定電話や携帯電話から,プッシュホン電話のボタン操作で馬券の購入を
申し込むこともできる。
加入者がPAT方式で馬券を購入した場合,実際にはJRAが加
入者に代わって馬券を受領し,保管する。
b
A-PATの加入者は,加入時にJRAが指定する銀行にA-P
AT専用口座(以下指定口座という。)を開設しなければなら
ない。
指定口座では,競馬開催日及びその前後で各銀行が別に指定する
時間は,原則として入出金を行うことができないため,A-PATの加入者は,事前に馬券の購入資金を指定口座に入金しておくこと
になる。ただし,競馬開催日の前日の指定口座の残高から,A-PATで購入した馬券の金額を差し引き,確定した払戻金等の金額を加算した額を限度として,馬券の購入ができるので,A-PATで購入した馬券が的中した場合,確定した払戻金等の額を,その後の競走における馬券の購入に充てることができる。

A-PATで購入した馬券の購入代金の支払と,的中した馬券
(いわゆる当たり馬券)に係る払戻金等の振込みは,各節ごとにその節の直後の銀行営業日に,指定口座において行われ,指定口座への入出金の記録は,それぞれの金額が総額で併記される。

払戻金の計算方法
(ア)

JRAは,勝馬投票法の種類ごとに,勝馬投票の的中者に対し,

その競走についての馬券の発売金額から投票の無効により馬券の所有
者に対して返還される金額(当該馬券の券面金額。以下返還金と
いう。)を控除した後の金額(以下売得金という。)に所定の算
式を適用して得られる金額(以下払戻対象総額という。払戻対象
総額は,売得金を超えず,通常は,売得金よりも少ない金額となる。)を,当該勝馬に対する各馬券に按分して払戻金として交付する(競馬
法8条1項参照)。
(イ)

払戻金の額が馬券の券面金額に満たない場合は,その券面金額が

払戻金の額とされるため(競馬法8条2項参照),JRAが主催する中央競馬において,当たり馬券の払戻金が購入金額(倍率1.0倍)を下回ることはない。

(ウ)

勝馬投票の的中者がない場合,原則として,その競走についての

払戻対象総額を,当該競走における勝馬以外の出走した馬に投票した者に対し,各馬券に按分して払戻金として交付するが(競馬法8条3項参照),WIN5について的中者がない場合は,その競争についての払戻対象総額が,その後最初に的中者があるWIN5の払戻対象総
額に加算される(同法9条1項参照。いわゆるキャリーオーバー)。(エ)

平成24事業年度の払戻金の総額は,馬券の発売金額の約75%

であった。
(2)

原告による馬券の購入等
原告は,A-PATの加入者であり,指定口座として,みずほ銀行A支店の原告名義の二つの普通預金口座(以下,これらを併せて本件各口座という。)を利用していた。

原告は,平成19年1月以降,任意に設定した条件に合致する馬券(WIN5に係る馬券を除く。以下通常馬券という。)をA-PATにより自動的に購入する競馬予想ソフトウェア馬王(以下本件ソフト
という。)を使用して通常馬券を購入するようになり,平成22年から平
成26年までの中央競馬のレースについても,本件ソフトを使用して通常馬券を購入していた。また,WIN5に係る馬券については,本件ソフトを使用して自動的に購入することができないため,原告は,競馬のデータベースソフトウェアTARGETfrontierJV(以下

ターゲットという。)を使用した上で,別途,A-PATにより購入
していた。

平成22年から平成29年までの本件各口座の入出金履歴から算定した原告の馬券の購入に係る払戻金額及び購入金額,これらの各年の中央競馬の開催レース数,現存するデータで確認できる限りでの原告の通常馬券に係る購入レース数及び購入割合,平成23年から馬券の発売が開始された
WIN5の同年から平成29年までの各年の開催数,原告のWIN5に係る購入回数及び購入割合等の内訳は,別紙1記載のとおりである。なお,原告は,平成22年から平成26年当時,馬券の購入について4台のパソコンを使用しており,この期間に本件ソフトを使用して購入した通常馬券の購入履歴及び払戻金額等の履歴は,これらのパソコンに保存さ
れていた。しかし,4台のうち1台のパソコンについては,馬券の購入履歴に関するデータが削除され,その他のパソコンについても,データの一部が破損したため,馬券の購入履歴等の全てが保存されている状態にはない。
(3)

原告の所得税の申告状況
原告は,平成24年分から平成26年分までの所得税について,法定申告期限までに確定申告書を提出しなかった。

原告は,高松税務署の調査担当職員による調査の結果に基づいて,平成27年9月29日,平成24年分から平成26年分までの所得税について,本件競馬所得を一時所得として,確定申告書を提出した。原告が提出した確定申告書の内容は,別紙2-1から2-3の各確定申告欄記載のと
おりである。
なお,高松税務署長は,上記確定申告後である平成27年10月27日,原告に対し,別紙2-1から2-3の各賦課決定処分欄記載のとおり無申告加算税の賦課決定処分をした。
(4)


本件各通知処分等
原告は,平成28年2月26日,高松税務署長に対し,平成24年分から平成26年分までの所得税について,本件競馬所得が雑所得に該当するとして,別紙2-1から2-3の各更正の請求欄記載のとおり,更正の請求(本件各更正の請求)をしたが,高松税務署長は,平成29年4月25日付けで,原告に対し,いずれの更正の請求についても更正をすべき
理由がない旨の通知処分(本件各通知処分)をした。

原告は,平成29年5月17日,国税不服審判所長に対し,本件各通知処分の取消しを求める旨の審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成30年3月22日付けで,原告に対し,上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

(5)

本件訴えの提起
原告は,平成30年6月2日,本件訴えを提起した。

3
争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,平成24年から平成26年までの本件競馬所得の所得区分
(一時所得か,雑所得か)であり,本件競馬所得が営利を目的とする継続的行為から生じた所得(所得税法34条1項)に当たるか否かが争われている。争点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。
(被告の主張)
(1)

本件競馬所得は,以下のとおり,営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではなく,一時所得に該当する。ア
最高裁平成27年3月10日第三小法廷判決・刑集69巻2号434頁(以下最高裁平成27年判決という。)及び最高裁平成29年12月15日第二小法廷判決・民集71巻10号2235頁(以下最高裁平成29年判決という。)によれば,ある所得が営利を目的とする継続的行為から生じた所得に当たるか否かは,行為の期間,回数,頻度その他
の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断される。
イ(ア)

原告の平成24年から平成29年までの通常馬券に係る開催レース
数に占める購入レース数の割合は,最小限のレース購入数及び延べレース数のみが判明している平成27年を除くと,66.5%(平成29年)~76.5%(平成26年)にとどまる。
また,原告は,1日当たり数十万円から数百万円,1年当たり数千万円の馬券を購入していたにすぎず,このような馬券購入の規模は,最高裁平成27年判決や最高裁平成29年判決の事案における馬券購入の規模と比較して小さい。

これらの点から,原告が馬券を網羅的に購入していたとは言い難いし,ほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標として馬券の購入を続けていたともいえない。
したがって,原告の通常馬券の購入について,一体の経済的活動と評価することはできず,継続的行為に当たるとはいえない。

(イ)

原告の通常馬券に係る損益は,平成22年から平成29年までの

8年間において,約112万円(平成28年分)~約1376万円(平成23年分)の利益を上げたにとどまり,一般の競馬愛好家であっても実現し得る程度のものである上,平成24年に約790万円,平成27年に約793万円,平成29年に約257万円の損失が生じている。そうすると,原告の通常馬券の購入について,恒常的に利益を上げていたとも,回収率(購入金額に対する払戻金額の割合)が100%を超えるような馬券を選別して購入していたともいえない。
原告は,通常馬券の購入について,本件ソフトを使用して,独自の条件を設定して自動的に購入していた旨を主張する。しかし,本件においては,原告がいかなる条件によりいかなる工夫を講じて馬券を購入して
いたのかといった馬券の購入行為の具体的な態様を確認することができない上,仮に原告が主張するような購入の態様であったとしても,これと利益発生(回収率)との因果関係は明らかではない。
したがって,原告の通常馬券の購入について,客観的にみて利益が上がると期待し得る行為と評価することはできない。

(ウ)

以上のとおり,原告の通常馬券の購入について,継続的行為であ

るとも,客観的にみて利益が上がると期待し得る行為であるともいえず,営利を目的とする継続的行為と評価することはできない。
ウ(ア)

WIN5に係る馬券は,5レース全ての1着を的中させなければな
らない点で,一つのレースの中で順位を予想する通常馬券と異なる特徴を有する。また,WIN5は,1着となる馬の組合せの数が最大188万9568通り(対象レースの全てが18頭立てである場合)と極めて大きく,的中が困難であることから,払戻金が億単位に上ることもあり得る射こう的な投票法である。加えて,WIN5の開催数は,最大でも年間56回と少ないことからすれば,WIN5は,その性質上,個々の
馬券の的中に着目しない網羅的な購入によって,長期的にみて当たり馬券の払戻金の合計額と的中しなかった馬券(いわゆる外れ馬券)を含む全ての馬券の購入代金との合計額との差額を利益とし,あるいは偶然性の影響を減殺することができるようなものではなく,年1回程度の極めて少ない回数の的中を期待して馬券を購入するよりほかないものである。現に,原告がWIN5に係る馬券を購入した回数は,平成24年が5回,平成25年が22回にとどまる上,平成24年及び平成25年における
的中は各1回にとどまり,平成26年には的中していない。
したがって,原告のWIN5に係る馬券の購入について,1回ごとの個々の馬券の購入の集合を超えて,一連の経済的活動であると評価することはできないし,性質の異なる通常馬券の購入と一連のものとして評価することもできない。

(イ)

WIN5については,上記のとおり的中が困難な仕組みであるこ

とに加えて,組合せ数が膨大であることから事前にオッズが公表されていない。そのため,原告が馬券の購入に当たって用いる推定配当は不確かなものであり,不確かな要素に基づいて仕組みが構築されている点で通常馬券との質的な違いがある。このような特徴を有するWIN5にお
いて,恒常的に利益を上げることは困難であり,回収率が総体として100%を超えるように馬券を選別して購入することも困難である。現に,原告がWIN5に係る馬券を購入した6年間のうち3年間については,年間で損失が生じている。
したがって,原告のWIN5に係る馬券の購入について,客観的に利
益が上がると期待し得る行為とはいえない。
(ウ)

以上によれば,WIN5に係る馬券の購入については,通常馬券

以上に,継続的行為であるとも,客観的にみて利益が上がると期待し得る行為であるともいえず,営利を目的とする継続的行為とはいえない。

(2)ア

一時所得の金額の計算においては,本来,収入金額に個別対応する支出した金額のみを控除すべきところであるが,本件では,個々の当たり馬券の払戻金,当該当たり馬券の購入金額,無効となった馬券に係る返還金及び当該無効となった馬券の購入金額に不明なものがあるため,本件各口座において,収入・支出の個別対応関係が最も判明し得る節ごとに,その一時所得の金額の計算を行うことが合理的である。

これによれば,本件競馬所得に係る一時所得の金額は,その総収入金額(本件各口座におけるJRAとの決済における入金の合計額)から,その収入を得るために支出した金額(本件各口座におけるJRAとの決済において,節ごとの出金額(馬券の購入金の総額)が入金額(払戻金の総額)以下である場合には,当該出金額を,節ごとの出金額が入金額
を超える場合には,当該出金額のうち当該入金額を限度とする額を,それぞれその節におけるその収入を得るために支出した金額とする。)を控除し,その残額から一時所得の特別控除額50万円を控除したものとなる。

平成24年分から平成26年分までの原告の所得税について,各年分の総所得金額及び納付すべき税額は,別紙3記載のとおりであり,これらの額は,原告が提出した確定申告書に記載された金額と同額であるか,それを上回るから,本件各更正の請求について,いずれも更正をすべき理由がない旨の本件各通知処分は,適法である。

(原告の主張)
(1)

本件競馬所得は,以下のとおり,営利を目的とする継続的行為から生じた所得であり,雑所得に該当する。ア
原告は,通常馬券について,本件ソフトを使用して,過去のデータの分析を踏まえた独自の条件を設定し,自動的に当該条件に合致するものを抽
出し,自動的に購入していた。
また,原告は,WIN5に係る馬券について,本件ソフトにより算出した得点の高い馬を抽出した上,ターゲットを使用して,推定配当が1万倍を超える馬券の組合せを500通り選択し,一組当たり100円で購入していた。
そして,原告は,少なくとも平成22年以降の5年間にわたり,同様の方法を用いて馬券を購入しており,原告が通常馬券を購入したレース
数は,平成24年が3454レース中2448レース(70.9%),平成25年が3454レース中2336レース(67.6%),平成26年が3451レース中2641レース(76.5%)であった。このように,原告による馬券の購入は,独自のノウハウに基づいて,個々の馬券の的中に着目せず,長期間かつ多数回にわたり行われたもの
である。

原告は,平成22年から平成26年までのうち,平成24年を除く4年間で利益を上げており,その利益の額は,平成24年の損失を差し引いても通算2500万円以上となる。なお,通常馬券に係る損益に限っても,平成24年から平成26年までの通算で利益を上げている。

そして,回収率は,平成22年から平成26年までの通算で108%以上となり,損失が生じた平成24年についても90%を超える。
したがって,原告による馬券の購入は,多額の利益を恒常的に得るものであり,客観的にみて利益が上がると期待し得る行為といえる。ウ
被告は,平成27年以降の馬券の購入態様等を挙げて,原告の馬券の購入は営利を目的とする継続的行為とはいえないと主張する。
しかし,原告は,平成27年9月頃,税務署の職員の訪問を受け,所得税の申告を求められた後,多額の払戻金が生じる可能性のあるWIN5の購入にはリスクがあると考えるようになり,また,多額の税金の納付
を迫られることが想定されたため,馬券の購入金額を減らすようになった。さらに,本件ソフトの最新版である馬王Zが高価であった。原告は,4台のパソコンにそれぞれ異なる条件を設定して馬券を購入していたが,納税によって減少した資金で4台のパソコンによる運用を継続する見通しも立たなかったことから,馬券の購入に使用するパソコンと預金口座を一本化することとし,平成28年9月以降,1台のパソコンに1種類の条件を設定して馬券を購入するようになった。

このように馬券を購入する環境が変化した本件においては,平成27年以降の馬券の購入態様等を考慮することは相当でない。
なお,仮に平成27年以降の馬券の購入態様等を考慮するとしても,原告の通常馬券に係る損益は,平成22年以降の8年間の通算で1347万9060円の利益となる。


被告は,平成22年以降の8年間のうち通常馬券で利益を上げたのは5年間であること等を挙げて,原告が恒常的に利益を上げていたとはいえないなどと主張する。
しかし,上記ウのとおり,本件において平成27年以降の損益を考慮することは相当でない。

また,損失が生じた年があったことから,直ちに恒常的に利益を上げていたとはいえないと評価すべきではない。払戻金に係る所得をどのような所得とするかは,その払戻金を得るための行為の評価の問題であって,結果的に利益を上げたか否かの問題ではないし,同じ収支であっても,どの時点で損失が生じたかによって結論が異なることは相当でない。本
件についても,集計期間を2月から翌年1月までとすれば,平成22年から平成26年までの全ての年において利益を上げたことになる。オ
被告は,原告がいかなる条件によりいかなる工夫を講じて馬券を購入していたのかといった馬券の購入行為の具体的な態様を確認することができ
ない上,仮に原告がその主張するような購入の態様であったとしても,これと利益発生(回収率)との因果関係は明らかではないと主張する。しかし,本件においては,明らかになっている馬券の購入内容から,原告の馬券の購入が営利を目的とする継続的行為であると評価することができる。また,回収率との因果関係についても,本件においては,原告が高い回収率を実現していることから明らかである。

被告は,WIN5に係る馬券について,原告が購入対象を選択する際に用いている推定配当が不確かな要素であるとして,客観的にみて利益が上がると期待し得るとはいえない旨を主張する。
しかし,WIN5において,事前にオッズが公表されることはないものの,オッズが定まる構造ないしプロセスは通常馬券と質的に変わらない。多くの投票者が重視するファクターより実際に好走に影響するファ
クターを正しく拾い上げて評価することによって,原告が選別した馬券の回収期待値が高まる。また,原告が1万倍以上の推定配当の組合せを購入しているのは,的中したときの払戻金額を一定以上の水準に保ち,回収率を高めようとする工夫であり,限られた原資の中で回収率を高めるための合理的な方法である。WIN5に係る馬券は,通常馬券と比較
して試行回数に差があるだけで,購入対象の選定,購入条件及び金額の決定プロセスに質的な差異はない。現に,年単位で見れば損失が生じた年もあるが,平成24年から平成26年までの3年間に限っても,平成29年までを全体として見ても,WIN5に係る馬券の損益は通算で利益を上げている。


以上によれば,原告による一連の馬券の購入は,一体の経済的活動といえ,本件競馬所得は,営利を目的とする継続的行為から生じた所得として,雑所得に該当する。

(2)
平成24年分から平成26年分までの原告の所得税について,本件競馬
所得を雑所得として計算すると,各年分の総所得金額及び納付すべき税額は,別紙2-1から2-3の各更正の請求欄記載のとおりとなり,いずれも原告が提出した確定申告書に記載された金額を下回る。
したがって,本件各更正の請求について,いずれも更正をすべき理由がないとした本件各通知処分は,違法である。
第3
1
当裁判所の判断
所得税法上,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得で,同法34条1項にいう営利を目的とする継続的行為から生じた所得に該当するものは,一時所得ではなく雑所得に区分されるところ(同項,同法35条1項)
,本件競馬所得が利子所得,
配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所
得以外の所得であることは,当事者間に争いがないから,本件競馬所得が営利を目的とする継続的行為から生じた所得に該当する場合には,本件競馬所得は,一時所得ではなく雑所得に区分されることになる。そして,営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,文理に照らし,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情
を総合考慮して判断するのが相当である(最高裁平成27年判決,最高裁平成29年判決参照)

2(1)

そこで,まず平成24年から平成26年までの本件競馬所得のうち通常
馬券の的中による払戻金に係るものについて検討する。
(2)ア
前記前提事実のほか,証拠(乙7,10)及び弁論の全趣旨によれば,
次の事実が認められる。
(ア)

本件ソフトは,自動的にダウンロードする情報を基にして,出走馬
ごとに得点を計算し,抽出条件に合致する馬券を抽出して,A-PATにより自動的に馬券を購入する機能等を備えており,本件ソフトの使用者は,独自に考案した得点の計算式及び抽出条件を用いて馬券を抽出することができるほか,抽出した馬券の購入金額を決めることができる。(イ)

原告は,平成19年1月頃から,本件ソフトを使用して通常馬券を購入していたが,平成21年末頃から,インターネット上の競馬情報配信サービス等から得た情報を原告自身が分析した結果に基づき,回収率を高めることを意図して,出走馬ごとの得点の計算式や馬券の抽出条件を独自に設定し,抽出した馬券の購入金額についても,原則として購入する馬券のオッズに応じて購入金額を決定するよう,計算式を独自に設定して,1日当たり数十万円から数百万円の通常馬券を自動的に購入するようになった。原告は,本件ソフトに独自に設定した計算式や抽出条件について,年2回程度の見直しを行っていた。
また,原告は,複数のパソコンで本件ソフトを使用しており,遅くと
も平成23年頃からは,4台のパソコンで本件ソフトを使用するようになって,本件ソフトに独自に計算式等を設定する際には,パソコンごとに異なるものを設定していた。
なお,原告は,平成27年3月頃,4台のうち1台のパソコンを職場の後輩に使用させることとし,当該パソコンに保存していた馬券の購入
履歴に関するデータを消去した。
(ウ)

通常馬券に係る中央競馬の開催レース数中の原告の購入レースの割
合は,平成24年が70.9%(3454レース中2448レース),平成25年が67.6%(3454レース中2336レース),平成26年が76.5%(3451レース中2641レース)であった(別紙1)。
また,平成22年から平成26年までの5年間における原告の通常馬券の購入金額は,平成22年が3172万7600円,平成23年が4391万1200円,平成24年が5826万0200円,平成25年が6709万7700円,平成26年が9702万2300円であり,
この間の原告の通常馬券の購入に係る損益は,平成22年が583万5760円,平成23年が1376万2210円,平成25年が516万6620円,平成26年が600万9060円の各利益,平成24年が790万0020円の損失であった(別紙1)。
なお,その後の平成27年及び平成29年にも通常馬券の購入によって損失が生じているが,平成24年を含めたこれらの各年の通常馬券に係る回収率は,平成24年が86.4%,平成27年が87.5%,平
成29年が87.0%であった(別紙1)。

被告は,原告による馬券の購入行為の具体的な態様を確認することができないと主張する。
しかし,原告は,高松税務署財務事務官作成の質問応答記録書(乙7)及び調査報告書(乙10)において,通常馬券の購入方法につき上記ア
(ア)・(イ)の認定と同旨を回答しているところ,このような回答内容は,判明している限度での本件ソフトに設定された計算式等(甲22,23,34)や通常馬券の購入履歴(甲35の1~39の3)に照らして,具体的で特に不合理な点が認められないものであり,採用することができる。そのほか,上記認定を左右すべき証拠は見当たらない。

(3)

上記(2)によれば,原告は,平成21年末頃以降,回収率を高めるために
本件ソフトに独自の計算式等を設定して自動的に通常馬券を購入するようになり,少なくとも平成22年から平成26年までの5年間にわたり,相当程度の頻度で,1日当たり数十万円から数百万円,年間数千万円の通常馬券を購入し続けていた。このような原告の馬券購入の期間,回数,頻度その他の態様に照らせば,原告の上記の一連の行為は,継続的行為といえるものである。
被告は,原告が馬券を購入した金額について,最高裁平成27年判決や最高裁平成29年判決の事案と比較して少額であると主張する。しかし,原告
の通常馬券の購入額は,1日当たり数十万円から数百万円,年間数千万円といった規模であり,被告が指摘する事案と比較すれば少額であるとしても,一般的な競馬愛好家と変わらないといえるほどの額にとどまるものではない。加えて,通常馬券に係る開催レース中の購入レースの割合は,平成24年が70.9%,平成25年が67.6%,平成26年が76.5%と相当程度の頻度であり,少なくとも平成26年までの5年間にわたり,同様の方法で通常馬券を購入し続けていたこと等の事情が認められる本件においては,原告が馬券を購入した金額は,継続的行為に当たるという上記の評価を支えるのに十分な金額であるといえる。
(4)

そして,原告は,平成22年以降の5年間のうち4年間で,年間を通し
て利益を上げており,その金額は約516万円(平成25年)から約1376万円(平成23年)に及ぶのであり,平成24年に約790万円の損失が生じているものの同年の回収率は中央競馬の平成24事業年度の払戻率(馬券の発売金額に対する払戻金額の割合。約75%)を相当程度超える86.4%を維持しているのであるから,上記のような馬券の購入行為の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等によれば,原告は回収率が総体として1
00%を超えることが期待し得る独自のノウハウに基づき馬券を選別して購入を続けていたということができ,そのような原告の上記の一連の行為は,客観的にみて営利を目的とするものであったといえる。
被告は,通常馬券に係る損益について,平成24年のほか,平成27年に約793万円,平成29年に約257万円の損失が生じたことを指摘して,
恒常的に利益を上げていたものではないなどと主張する。しかし,原告が,少なくとも平成26年までの5年間にわたり,同様の方法で通常馬券を購入し続け,平成24年を除く4年間でいずれも利益を上げ,損失を生じた平成24年においても回収率が払戻率を相当程度超えていた本件において,その後,結果的に損失の生じた年があるからといって,平成26年までの5年間
にわたる通常馬券の購入行為が直ちに客観的にみて営利を目的とするものであったと評価し得なくなるものではない(なお,被告が指摘する平成27年及び平成29年の回収率も平成24年の回収率を超えている。)。また,原告は,特に平成28年以降,馬券の購入金額を減らし,本件ソフトを使用するパソコンを一本化するなど,馬券を購入する環境が変化した旨を主張しているところ,前記前提事実によれば,原告は,高松税務署の調査担当職員による調査の結果に基づいて,平成27年9月29日,平成24年分から平成26年分までの所得税について確定申告書を提出し,同年10月27日,無申告加算税の賦課決定処分を受けていたこと,原告の通常馬券の購入金額は,平成22年以降,継続的に増加していたが,平成26年に年間約9700万円となった後,平成27年に約6367万円,平成28年に約3465万円,
平成29年に約1989万円と大きく減少したこと(別紙1)等の事情に照らして,上記のような原告の説明に特に不合理な点は認められず,平成28年以降の通常馬券の購入については,本件において問題となる平成24年から平成26年当時と比較して,その態様が変化していたことがうかがわれる。そうすると,平成28年以降の損益については,本件で問題となる平成24
年から平成26年までの馬券の購入について検討するに際して重視することができないというべきである。これらの事情を踏まえて検討するならば,平成27年及び平成29年に損失が生じたことは,平成26年までの5年間にわたる通常馬券の購入行為が客観的にみて営利を目的とするものであったという上記の評価を左右するものではない。

(5)

以上によれば,平成24年から平成26年までの本件競馬所得のうち通
常馬券の的中による払戻金に係るものは,営利を目的とする継続的行為から生じた所得として,雑所得に該当すると認められる。3(1)

次に,平成24年から平成26年までの本件競馬所得のうちWIN5に
係る馬券の的中による払戻金に係るものについて検討する。
(2)ア

前記前提事実によれば,原告は,WIN5に係る馬券については,本
件ソフトにより購入することができないため,ターゲットを使用して,別途,A-PATにより購入していた。

WIN5に係る馬券の購入について,原告は,高松税務署財務事務官作成の質問応答記録書(乙7)において,要旨,①平成23年4月の発売開始以来,どうしても購入できないとき以外は,基本的に全てのWIN5で
馬券を購入していた,②本件ソフトで1レースごとの回収率の高い順に,出走頭数に応じて,任意に4から5頭抽出し,その馬の組合せのうち,ターゲットが想定オッズとして100万円を表示した買い目を下限に,そこから払戻金額が低く想定されている順に,平成24年においては100円単位で100点(合計1万円)程度の馬券を,平成25年及び平成26年
においては100円単位で500点(合計5万円)程度の馬券を購入していた旨を回答している。
しかし,原告がWIN5に係る馬券を購入した頻度は,WIN5に係る馬券の発売が開始された平成23年は不明,平成24年は54回中5回(9.3%),平成25年は54回中22回(40.7%),平成26年
は53回中53回(100%)と(別紙1),基本的に全てのWIN5で馬券を購入していたとはいえないものであるし,年によって購入の頻度に大きな差があることからすれば,これらの年を通じて同様の方法で購入する馬券を選別していたとは認め難い。また,WIN5の購入履歴(甲15)を見ると,購入した個々の馬券の内容は不明であるものの,平成24年に
おいても1日当たり100円単位で500点(合計5万円)から600点(合計6万円)の馬券を購入していたことが認められ,この点も上記回答と相違する。そのほか,WIN5に係る馬券の購入の具体的な態様について直接的な証拠も見当たらないことからすれば,原告による上記回答の内容を事実として認定することはできず,本件において,WIN5に係る馬
券を具体的にどのように購入していたかは明らかでないといわざるを得ない。
(3)

上記(2)によれば,原告は,WIN5に係る馬券について,通常馬券とは
別に購入していたところ,馬券の選別方法等の具体的な購入の態様は明らかでない上,購入の頻度は,平成26年には全ての回で購入したものの,平成24年が54回中5回(9.3%),平成25年が54回中22回(40.7%)と,基本的に全てのWIN5で馬券を購入していたとはいえないもの
であるし,購入額も,年間で26万円(平成24年),110万円(平成25年),約240万円(平成26年)にとどまる(別紙1)。そして,WIN5に係る馬券の購入による損益は,平成24年11月18日及び平成25年12月22日にそれぞれ100円で購入した馬券が的中して利益を上げたものの(甲15,弁論の全趣旨),最も頻繁に,かつ多額の馬券を購入した
平成26年には的中がなく購入金額が全て損失となっている(別紙1)。このような馬券の購入方法や期間,回数,頻度その他の態様に照らして検討すると,原告によるWIN5に係る馬券の購入は,通常馬券の購入行為とその態様において共通するものとは認められず,WIN5に係る馬券と通常馬券の購入行為を併せて一体の経済的行為として見ることができないもので
ある。また,WIN5に係る馬券の購入のみを取り上げて見ても,具体的な購入の態様が明らかでなく,一体の経済的行為と見ることができない本件においては,継続的行為であるとも,客観的にみて営利を目的とするものであるとも評価することができない。平成27年以降に結果として利益を上げた年(平成27年)があり,WIN5に係る馬券の損益を通算すれば利益を上
げていること(別紙1)を考慮しても,上記の評価を左右するものではない。(4)

したがって,平成24年から平成26年までの本件競馬所得のうちWI
N5に係る馬券の的中による払戻金に係るものは,営利を目的とする継続的行為から生じた所得とはいえず,一時所得に該当するものと認められる。4
これまで検討したところによれば,平成24年から平成26年までの本件競馬所得のうち,通常馬券の的中による払戻金に係るものは雑所得に該当し,WIN5に係る馬券の的中による払戻金に係るものは一時所得に該当することになる。
所得税法は,雑所得の金額の計算上,雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から控除される必要経費(同法35条2項2号)について,その総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額等とする旨を規定している(同法37条1項)ところ,本件の通常馬券の的中による払戻金に係る雑所得においては,回収率が総体として100%を超えるように長期間にわたって多数の馬券を頻繁かつ継続的に購入しており,そのような一連の馬券の購入により利益を得るためには,外れ馬券の
購入は不可避であったといわざるを得ないから,外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金が,雑所得の収入金額である当たり馬券の払戻金を得るため直接に要した費用として,上記必要経費に当たると認めるのが相当である。必要経費について他に具体的な主張及び立証はないから,平成24年分から平成26年分までの原告の雑所得の金額は,それぞれ通常馬券に係る払戻金額から通常馬券
に係る購入金額(購入金額が払戻金額を超える場合は払戻金額を限度とする。)を控除した金額であり,別紙4の雑所得の金額欄記載のとおりとなる。また,所得税法は,一時所得の金額について,その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の
合計額を控除し,その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする旨を規定している(同法34条2項)ところ,平成24年分及び平成25年分の原告のWIN5に係る馬券の的中による払戻金に係る一時所得に係る収入は,それぞれ100円で購入した馬券の的中による払戻金であるから,平成24年分及び平成25年分のいずれについても,その収入を得るために支出した金額
は100円と認められる。そうすると,平成24年分及び平成25年分の原告の一時所得の金額は,それぞれWIN5に係る払戻金額から上記の100円を控除し,その残額から一時所得の特別控除額である50万円(同条3項)を控除した金額であり,その2分の1に相当する別紙4の一時所得の金額欄記載の金額が総所得金額に算入されることとなる(同法22条2項2号)。なお,平成26年分については,収入がないため,一時所得の金額もない。以上を踏まえて計算すると,原告の平成24年分から平成26年分までの所
得税に係る総所得金額及び納付すべき税額は,別紙4の総所得金額欄及び納付すべき税額欄記載のとおりであり,いずれも確定申告書に記載されたこれらの金額(別紙2-1から2-3の各確定申告欄記載の額)を下回る。そして,平成24年分及び平成26年分においては,別紙4記載のこれらの金額が原告による各更正の請求に係る金額(別紙2-1及び2-3の各更正の請求欄記載の額)を上回っているが,平成25年分においては,逆に原告による更正の請求に係る金額(別紙2-2の更正の請求欄記載の額)の方が別紙4記載の金額を上回っている。
したがって,本件各更正の請求について,いずれも更正をすべき理由がないとした本件各通知処分のうち,平成25年分の所得税に係るものはその全部が
違法であり,平成24年分及び平成26年分の所得税に係るものは別紙4記載の総所得金額及び納付すべき税額を超える部分につき更正をすべき理由がないとする部分が違法であるから,これらの違法な処分ないし部分は取り消されるべきである。
5
よって,原告の請求は主文第1項から第3項までの限度で理由があるからその限度で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部

裁判長裁判官

古田孝夫
裁判官

髙田公輝
裁判官

中野晴行
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