判例検索β > 平成27年(ワ)第1083号
損害賠償請求事件
事件番号平成27(ワ)1083
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年11月5日
裁判所名・部京都地方裁判所  第2民事部
裁判日:西暦2019-11-05
情報公開日2020-06-04 22:32:01
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主文
1被告は,原告に対し,1億5195万6610円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が設置,運営するA大学大学院薬学研究科及び同大学薬学部教授
であった被告が,試験試薬の製造,販売等を業とする株式会社との架空取引の代金名目で,原告が管理する科学研究費補助金(以下科研費という。)等を同株
式会社に支出させたとして,原告が,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償金1億5195万6610円及びこれに対する平成24年5月27日(原告が被告
の不法行為を知った日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(争いがないか,後掲証拠〔特記ない限り枝番を含む。以下同じ。〕及
び弁論の全趣旨により認められる。



当事者等

原告
原告は,
平成16年4月1日に国立大学法人法に基づいて設立された国立
大学法人であり,A大学薬学部及び同大学大学院薬学研究科等を運営する。

被告等
被告は,平成14年5月1日以降,A大学大学院薬学研究科の教授を務
め,当初は他の機関との兼任であったものの,平成15年4月1日以降,同大学の専任となり,同大学薬学部を兼担(兼務)し,平成24年6月28日に辞職した。
被告は,平成24年8月21日及び同年9月11日,収賄罪で東京地方裁判所に起訴され,平成26年2月17日,被告を懲役2年に処する旨の判決の言渡しを受けた。被告が上記判決に控訴したところ,東京高等裁判所は,平成27年2月26日,原判決中被告に関する部分を破棄し,被告
を懲役1年8月に処する旨を言い渡した。最高裁判所は,その後,被告による上告を棄却した
(以下,
第1審及び上訴審を
本件刑事事件
という。。

Bは,平成16年7月頃,原告が運営するA大学大学院薬学研究科准教授に就任し,被告が主催していた研究室に所属していた。
株式会社C(以下Cという。
)は,医療・理化学機器及び消耗品の販

売等を業とする株式会社である。その会計年度は,毎年7月1日から翌年6月30日までである(以下,各会計年度を,最後の月を用い,平成17年7月1日から平成18年6月30日までの期であれば,
平成18年6月期などという。。

Dは,Cの代表取締役であった。Eは,平成13年頃から平成23年1
2月までの間,Cの従業員として経理事務に従事していた。Fは,平成15年7月頃から平成24年1月までの間,Cの京都オフィスの所長を務めていた。
(甲1,2,4,45ないし49)


被告による預け金の形成

研究費の交付
原告は,平成16年頃から,国(文部科学省)やG等から,被告の研究に関する研究費を送金され,原告の学長名義の口座で管理していた。

預け金の形成
被告は,平成16年11月頃,Bに対し,Cへの預け金処理を依頼した。預け金とは,
文部科学省の定義
(甲19。
本判決も,
これによる。によれば,

業者(本件ではC)に架空取引を指示し,契約した物品が納入されていないのに納入されたなどとして代金を支払い,その支払金を当該業者(本件ではC)に管理させるものである。Bは,Fに,被告からの依頼を受けた旨を伝えるなどした。その後,少なくとも平成20年3月までの間(同年4月以後については,後記のとおり争いがある。,Cは,適宜の物品を選定して実態)

のない架空の売上げを計上し,原告を名宛人とし,Cが原告に同物品を納品した旨の納品書とその代金の請求書を作成して,それらを原告に提出し,原告が管理する研究費から上記代金として支払われた金員を仮受金名目で経理処理して,Cの仮受金元帳に記帳していた(以下,被告が,原告において管理する預金からの払出金により形成した預け金のうち,本件訴えにおけ
る請求の根拠となるものを,
本件預け金という。。

(甲19,乙5,7)
2争点



違法性の有無(争点2)



因果関係,損害の有無及びその額(争点3)



被告がした預け金の期間及び額(争点1)

過失相殺(争点4)

3争点に関する当事者の主張

争点1(被告がした預け金の期間及び額)について

(原告の主張)

被告は,原告が確認できる限り,原告からの払出日を基準としてみて,平成17年2月25日から平成20年4月25日までの間並びに同年7月25日及び平成21年4月24日,別紙1及び2(添付省略)のとおり,Cに預け金の形成を依頼して,合計1億5195万6610円の本件預け金を形成した。


原告が請求額を決定した過程は,次のとおりである。
本件刑事事件に関する捜査資料には,東京地方検察庁が原告及びCの会計データを照合したうえで,被告とCとの間の預け金の一覧を特定した報告書(甲16。以下本件報告書1という。
)と平成17年から平成24年
(ただし,平成18年6月期分は,平成17年7月分のみ存在し,平成19年6月期分及び平成22年6月期分は,欠損している。
)の各6月期におけ

るCの会計データのうち,原告に関係する仮受金元帳のデータを出力し,印字した報告書(甲17。以下本件報告書2という。
)がある。
本件報告書1のうち,被告以外の研究者を代表名義人とするプロジェクトの資金から支出された取引については,本訴請求から除外した。また,本件報告書2のうち,被告が確実に関与した預け金として認定できる

A大学ゲノム(ただし,集計表では,「A大学いる。

A大学),「A大学大学院ゲノム創薬科学A大学,ゲノムと表記されて
ゲノム創薬(被告)
」及び

ゲノム創薬」の4つのユーザー名の取引のうち,対応する伝票が

確認できなかった取引及び被告以外の研究者を代表名義人とするプロジェクトの資金から支出された取引を,本訴請求から除外した。そのうえで,上
記各報告書で重複している取引を除外し,別紙3(添付省略)記載の原告が物品の存在を確認できたものをさらに除外した結果,
少なくとも,
別紙1
(本
件報告書1に関係するもの。合計7959万6640円)及び同2(本件報告書2に関係するもの。合計7235万9970円)記載の本件預け金(総合計1億5195万6610円)が形成され,確実に同額の損害賠償請求権
が成立すると判断した。
(被告の主張)

被告は,平成19年度(平成20年3月)まで,単年度主義の会計原則や研究費の交付時期,研究費の使途の制約などから,仕方がなく預け金を行っ
ていた。しかし,平成20年度(平成20年4月)以降,研究費に関する制度が整備されたことから,所属する研究室の関係者や取引業者に対し,預け金をしないように指示していた。そのため,被告は,平成20年4月以降の本件預け金の形成には,関与していない。

本件報告書1は,検察官がCの関係者の供述(本件刑事事件の捜査段階におけるもの及び公判廷におけるもののすべてを含む。以下同じ。
)に基づい
て作成したものであり,
本件報告書2は,
Cの仮受金元帳のデータを出力し,

印字したものである。両報告書には,一方で計上されていないのに,他方で計上されているものがあるうえに,同データは必ずしも全て仮受金作成のためのものでないから,本件報告書2が信用できないともいえる。本件報告書1及び2を根拠とした本件預け金の算定には,疑義がある。


争点2(違法性の有無)について

(原告の主張)

本件預け金の原資である各研究費は,いずれも,資金配分機関から,研究機関である原告の当時の学長名義の口座に入金され,原告の管理下に置かれる。


預け金を行うこと自体,平成19年2月15日付け文部科学省策定の研究機関による公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)公表前から,黙認もされていないばかりか,不正な使用であることは,明らかであるし,その後の預け金の使途によって,違法性の評価が変わることもない。

したがって,被告が本件預け金を形成した行為は,原告の預金債権を違法に侵害するものである。

(被告の主張)

本件預け金の原資である科研費について,間接経費(補助事業の実施に伴う研究機関の管理等に必要な経費)は所属する研究機関に譲渡しなければならないが,直接経費(補助事業の遂行に必要な経費及び研究成果の取りまと
めに必要な経費)は,研究者に交付され,その所有権は研究者にあり,原告は,単に管理を任されているに過ぎない。また,原告の損益計算書にも,間接経費の計上は記載されているが,直接経費については記載がない。そうすると,科研費の所有者が預け金を形成する行為は,単に資金の占有形態の変更に過ぎないから,原告に損害を及ぼす違法なものとはいえない。その他,受託研究費は,実質的に研究委託者に帰属する資金で,原告の損益に帰属しないし,
研究拠点形成費等補助金
(以下
COE補助金
という。


についても,科研費と同様の規定で管理されているから,原告の損益に属さない性質の金銭である。

被告がした預け金は,単年度主義の会計原則,直接研究費の使途として認められている範囲の制約等,平成19年より前の予算制度の中では,研究者が研究を推進させるためには,規則に違反することを理解しながらも行わざ
るを得なかった措置であり,原告の内規に違反するものに過ぎないから,違法とはいえない。単年度主義との関係を補足すると,被告の原告における研究室の予算規模は,平均して,約1億8000万円であり,1か月の予算の平均は,約1500万円となる。補助金の交付が,年度初めの4月ではなく7月になれば,予算の執行も3か月遅れ,年度末には,3か月分約4500
万円の残が生じることになるが,そのような金員については,翌年に繰り越すことなく消化を求められたから,預け金にせざるをえなかったのである。被告がした預け金の実態は,業者への前払いであり,被告は,現に,その資金を研究のために用いた。



したがって,被告が預け金を形成したことは,不法行為法上違法でない。争点3(因果関係,損害の有無及びその額)について

(原告の主張)
原告は,被告が本件預け金を形成したことにより,Cに対し,架空取引の代金として,少なくとも1億5195万6610円を支払った。
したがって,原告は,1億5195万6610円の損害を被った。(被告の主張)
原告がCに代金として支出した金銭の原資は,被告の研究費であるから,原告から支出されたとしても,原告には損害がない。
また,仮に被告が本件預け金を形成しなかったとしても,各研究資金は,その出資者に返還しなければならないものであるから,預け金がなかったとしても,原告が同額の支出をしなければならなかったといえ,相当因果関係があっ
たとはいえない。


争点4(過失相殺)について

(被告の主張)
文部科学省は,
平成18年12月26日に
研究費の不正対策検討会報告書
(甲11)を公表した。原告は,以後,研究費の不正使用がないように,被告が所属していた研究室の主たる取引先であるCに反面調査すべき注意義務を負うのにもかかわらず,これを怠った。その結果,Cが民事再生を申し立てるまでの間,預け金が継続した。
したがって,原告の請求は,過失相殺により,減額されるべきである。
(原告の主張)
国立大学法人である原告には,原告と取引関係のある納入業者に帳簿の開示などを強制する権限がない。また,原告と取引関係のある納入業者は,薬学研究科だけでも300社を超えるから,帳簿等の任意開示を求めることは,現実には困難である。さらに,Cは,平成20年及び平成23年に実施された原告
の預け金・プール金の調査に対し,虚偽の回答をしていたから,原告の任意の調査に応じるとは考え難い。そして,被告は,Cと協力して,正規の取引と全く変わらない納品書と請求書を提出していたから,伝票などを確認しても,被告の預け金を発見することはできなかった。
これらの事情に照らすと,原告には過失はなかった。

第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


各研究費の内容及び交付手続等

受託研究費等
本件預け金のうち,相当の割合を占める。

受託研究費等とは,
民間企業等との受託研究契約又は共同研究契約に基づ
く研究費等をいう。同研究費等については,原告とその委託者である交付機関が契約当事者となり,同交付機関が原告に研究を委託し,その経費を原告に支給し,原告が経理する。
(甲32,33)


科研費
本件預け金のうち,相当の割合を占める。
科研費は,国(文部科学省)又はGが交付し,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律
(昭和30年法律第179号)同法施行令

(昭和30

年政令第255号)
,独立行政法人日本学術振興会法(平成14年法律第1
59号)
,科学研究費補助金取扱規定(昭和40年3月30日文部省告示第110号)その他文部科学省通知等によって規律される研究費である。科研費については,
科学研究費補助金に係る使用ルールに従った事務処理が
なされている。

同ルールは,
研究者向け使用ルール(補助条件)と研究機関向け使用ルールから成り立っている。そこでは,研究代表者及び研究分担者(本件に即していえば被告)は,文部科学省の策定する公募要領に定められた手順をもとに,同省に対し,科研費の交付を申請する,研究者が交付を受ける科研費には,直接経費(補助事業の遂行に必要な経費及び研究成果の取りまと
めに必要な経費をいう。
)及び間接経費(補助事業の実施に伴う研究機関の
管理等に必要な経費をいう。があり,

研究者の所属する研究機関
(本件に即
していえば原告)は,補助金(直接経費)の管理や補助金(直接経費及び間接経費)に関する諸手続を行う,研究者が直接経費によって購入した設備等は,その研究者からの寄付を受け入れなければならないし,また間接経費については,研究者からの譲渡を受け入れ,これに関する事務を行われなければならない等の規定がされている。

(甲34,35,50)

COE補助金
COE補助金は,
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律及び同
法施行令等の定めに基づき,
研究拠点形成費等補助金(研究拠点形成費)取扱要領に従って事務処理がなされる。21世紀COEプログラム委員会か
ら,補助事業の事業者である代表者(学長)及び事業推進担当者(拠点リーダー)に交付され,同事業者が,経理等の事務を同事業者の事務局に委任しなければならないものである。
(甲36)

運営費交付金(教育経費・研究経費)
国立大学法人法第35条が準用する独立行政法人通則法46条1項に基づき,国から原告に対し交付される資金である。
(弁論の全趣旨)


寄附金
原告では,
所属する教員の個人経理を禁止している。
そのため,
寄付者は,

原告の運営する部局の長に対し,寄附金を申し込み,原告の総長が必要書類を寄付者に交付して,寄附金の手続を行う。
(甲37,38)

科研費等に関する不正と対応

平成9年における報道
国立大学であったA大学においては,平成9年10月18日及び19日,複数の学部において,科研費などを用いた預け金があったことが,新聞により報道された。この記事には,架空伝票を用いた不正な処理であると記載されていた。
(乙4)

平成10年代半ばにおける返還命令
平成16年4月には,H1大学において,国・G合計約750万円の科研費の返還命令があり,平成17年以後にも,平成17年11月にH2大学で約4500万円の返還命令が行われるなど,預け金の原資となった科研費の返還命令が,複数の大学で行われた。

(甲51,乙7)

研究費の不正対策検討会報告書
文部科学省は,平成18年12月26日付けで研究費の不正対策検討会報告書(甲11)を公表した。これは,平成18年においても,研究費の不正使用の問題が多発したことから,文部科学省が,研究費の不正対策検討会
を立ち上げて,その現状及び課題を明らかにし,研究機関における公的管理費の管理・監査のガイドラインにより管理・監査の具体的な基準を提案し,今後の公的研究資金制度の在り方について提言を行うものである。同報告書は,その中で,以下のように述べた。
研究者が,研究費の不正使用を行う動機は,決して一律ではない。一方
の極には,
私的動機で研究費の不正使用を行う場合があり,
他方の極には,
研究の円滑な推進という本来正当な目的を追求しつつ,結果として研究費の不正使用を行うに至った場合もある。しかし,これらは,いずれも不正使用であって,行ってはならないものであることに変わりはない。競争的資金等については,一般的に,研究者にとって,自ら確保した資
金であるという認識が強く,研究機関の管理も,機関そのものの活動資金に対するものよりも緩やかになりがちである。
不正の1類型として,預け金があり,資金を別の用途に流用する例がある。預け金が発生する一因として,単年度会計主義及び資金の配分の遅れがある。遅いものでは,交付が年度末という場合すらある。しかも,研究機関内の事務手続による遅れもあって,かなり長期にわたる研究費の端境期が構造的に生じるという問題点がある。

間接経費の大幅拡充も必要である。
ルール違反に対しては,公正で明確な対応が行われていく必要がある。(甲11)

被告がCにした預け金

I病院及び国立J医療センター研究所勤務時
被告は,昭和53年3月25日にH3大学医学部医学科を卒業し,同年6月7日に医師免許を受け,医師としてさまざまな勤務を経て,平成3年2月1日,
首都圏にあるI病院小児医療研究センター小児薬理研究部長に転任となった。
I病院は,後に,J研究所(以下Jという。
)となった。

Fは,このころからCに勤務し,I病院を担当していた。Fは,Dを被告に引き合わせた。Cの,I病院に対する売上は,相当額に伸びた。被告は,I病院及びJに勤務しているころから,Cに対し,預け金をするようになった。その残高は,2億円を大きく超えた。
被告は,平成14年5月1日には,文部科学教官(A大学教授大学院薬学
研究科)に併任となった。被告は,この段階で,1年後には,A大学専任となる予定であった。被告は,I病院及びJにおける預け金を使用しようと考えたが,Jでは,被告の離任を控え,大型機器等をできるだけ買わないという方針をとっており,預け金は,あまり減少しなかった。
(甲1,43~49,乙5)


原告勤務時
被告は,平成15年4月1日,A大学専任となり,Jを離れた。Bは,被告の意向により,平成16年7月ころ,原告の准教授となった。
被告は,A大学が管理する資金を用いて,物品購入などの事務の一環として,Cへの預け金を形成した。その具体的事務は,平成16年11月ころ以後には,被告の意向により,Bの担当となった。それ以前には,別の者が担
当した。
Bは,原告から,原告への着任時,預け金を作らないように言われたが,被告との上下関係があるため,預け金を作ることの依頼を断れなかった。Bが関与して新たにされた預け金は,少なくとも,平成18年1月から3月までで約5000万円,同年4月から平成19年3月までで約1000万
円,平成19年4月から平成20年3月までで約4200万円,平成20年度で約160万円,合計1億0400万円程度である。それ以前にも預け金がされたため,平成17年末の預け金の残高は,約1億8000万円あり,平成19年末には,約2億2800万円となった。
被告は,研究テーマの選定が良く,多額の研究費を獲得できたため,預け
金の原資も多かった。
被告は,Bに対し,平成18年ころには,預け金を減らそうと言い,平成20年に入ると,K株式会社からの委託研究費を預け金とし,それ以外は預け金としないように指示したこともあった。平成20年4月以降は,同月に160万円弱の預け金がされたほかは,預け金がほとんどされなかった。毎
年4月にされる預け金は,3月までに物品購入の申請がされ,支払のみ4月になるというのが通例で,前年度の予算の執行であった。平成21年度以降は,被告の研究費も減少し,このことからも,新たな預け金はほとんどされなかった。
(甲16,17,41ないし49,乙5,7)

Cからみた預け金
税務上の問題点
預け金は,Cの経理上は,返還債務がある仮受金とされる。しかし,仮受金として一定期間動きがないと,税務署から,利益とみなされる。Cに対しては,毎年ではないが,税務調査が行われ,Dは,税務調査の担当者から,動きがない仮受金は利益と認める旨言われていた。
Cを担当する税理士は,Dに対し,平成10年ころから,預け金の残高を減らすよう助言していた。
研究機関との関係での問題点
預け金は,架空の売り上げをもとに受け入れる金員であるから,不正で
ある。それが研究機関等に知られれば,Cは,預け金の返還を求められ,研究機関との取引ができなくなるなど,大きな不利益を被る。
平成17年ころには,預け金に関する不正が文部科学省でも大きく問題とされ,Dも,それを知った。
Dは,そのような見地からも,預け金の残高を減らしたいと考えた。
預け金の私的利用
預け金は,少なくとも平成10年よりも少し前から,被告の私的な用途に利用されることが,かなりあった。
被告は,DらCの職員に対し,私的な支出に関し,領収証を提出し,Cは,
それを経費として支出したとの会計処理をして,
被告に金員を渡した。

Dは,被告に対し,毛皮や貴金属では金が出せないが,説明がつくものであれば,
領収証を交付されれば,
預け金から金を出す,
と言った。
Dは,
被告に依頼して,領収証の書き方を工夫してもらい,領収証に基づく支出を仕入れとして会計処理し,それに関し,相当額の利益を上乗せして原告に対する売り上げを計上し,仮受金すなわち預け金を同額減少させるとい
う会計処理もした。
一例として,
被告が眼鏡を購入した場合,
領収証に
眼鏡ではなく光学品と記載すれば,Cが商品を仕入れたことにしやすく,
光学品を,仕入額に利益を載せた額で,研究機関に販売して預け金を減少させるという処理もしやすかった。
Dは,被告に対し,平成17年2月ころ,D名義のクレジットカードを渡し,以後,被告が,Dの承諾のもと,Dになりすましてこれを用いた。Dらにとっては,
クレジットカードの利用に関して作成される明細書等に
は,細かい情報が現れないため,上記のような支払を仕入れとして会計処理し,
売上げ及び預け金減少という会計処理をするという一連の会計処理がしやすかった。もっとも,クレジットカードで利用できる額には,限度があり,それに利益を上乗せするとしても,預け金を目立って減らす効果
まではなかった。
Cからみた預け金の利点
Cは,平成16年6月期には,債務超過に転落した。
Cでは,預け金を別保管せず,一般の事業用の資金とともに,各種の支払に使っていた。

預け金は,その実質は,無利息の借り入れということができた。
このような理由から,Cでは,預け金を減らしたいという動機がある一方で,預け金の受け入れをやめなかった。
Cの倒産
Cでは,平成20年6月期の決算において,被告が原告から払い出した
預け金の残高が,2億2000万円を超えていた。Cは,決算書上,売上高を高くするため,
原告に対して約2億2000万円の架空の売り上げを
計上し,同時に同額の預け金を減少させるという粉飾決算をした。Cは,平成22年に税務調査を受け,同年,6000万円の追徴課税を受けた。

Cは,平成23年,民事再生を申し立て,その後,預け金の存在が,原告などに知られることになった。Cは,同年10月21午後4時,再生手続を開始するとの決定を受けた。平成24年4月25日には,再生計画認可決定が出され,同年5月24日の経過により確定したが,原告は,申立時の債権者として申立書に記載されず,再生手続に関与する機会がなかった。
(甲3,12ないし14,45ないし49,乙5,7)



国(文部科学大臣)の被告に関する科研費の返還請求
国は,被告に対し,平成30年3月23日付けで,次のとおり,補助金の交付決定を一部取り消し,返還を命じた。国は,原告に対し,上記交付決定の取り消し及び返還を被告に伝えたうえで,返還すべき補助金は別途送付される納
入告知書に従って返還するよう求めた。本項の補助金は,すべて直接経費である。

平成17年5月24日付けで交付決定をした,研究種目特定領域研究,研究課題名L1に関する補助金480万円のうち,76万5524円(この補助金による預け金は,訴状別紙1のうち平成18年3月10日にされた76万4400円と推認できる。



同年6月17日付けで交付決定をした,
研究種目萌芽研究,
研究課題名
L2に関する補助金200万円のうち,1万6201円(この補助金による預け金は,
訴状別紙1のうち平成18年3月24日にされた1万6201円
と推認できる。



平成18年5月19日付けで交付決定をした,研究種目特定領域研究,研究課題名L3320万円のうち84万2212円(この補助金による預け金は,
訴状別紙1のうち平成19年4月25日にされた84万2212円と推認できる。



平成18年6月16日付けで交付決定をした,前記イと同じ研究に関する補助金130万円のうち,2858円(この補助金による預け金は,訴状別紙1のうち平成19年4月25日にされた2858円と推認できる。)

平成19年5月18日付けで交付決定をした,前記ウと同じ研究に関する補助金330万円のうち,8万8377円

(甲16,17,64,乙7,13,20)


Gの被告に対する補助金の返還命令
Gは,被告に対し,平成30年3月27日付けで,次のとおり,補助金の交
付決定を取り消し,返還を命じた。Gは,原告に対し,文書により,上記取消及び返還命令を被告に伝えたうえで,補助金については,添付する研究代表者宛ての文書に従って返還することを求めた。

平成17年6月17日付けで交付決定をした,
課題番号
(省略)研究課題

名L4に関する補助金直接経費3090万円,間接経費927万円,合
計4017万円のうち,
2328万4279円
(この補助金による預け金は,
訴状別紙1のうち平成18年2月24日にされた1397万9868円及び同年3月10日にされた928万7271円,合計2326万7139円と推認できる。


平成18年6月16日付けで交付決定をした,前記アに関する補助金直接経費890万円,間接経費267万円,合計1157万円のうち1411円(この補助金による預け金は,訴状別紙1のうち平成19年4月25日にされた1411円と推認できる。



平成19年6月15日付けで交付決定をした,
課題番号
(省略)研究課題

名L5に関する補助金直接経費5440万円,間接経費1632万円,
合計7072万円のうち,7万6970円(この補助金による預け金は,訴状別紙2の2枚目のうち平成20年4月25日にされた1万0500円,1827円,
3976円及び118円並びに同4枚目のうち同日にされた4万
2525円及び1万7010円,合計7万5956円と推認できる。)
(甲16,17,62,63,乙7,12,20)



原告の対応と被告の係争
原告は,国及びGに対し,上記返還命令を受け,加算金を含めた所要額を返還した。
被告は,国及びGを被告として,東京地方裁判所において,平成30年9月21日,
前記⑷及び⑸の補助金交付取消決定及び返還命令の処分取消等を求める訴えを提起した。この訴訟は,現在,審理中である。被告は,その主張を前
提に,原告が上記返還をしたのは不当であると考えている。
(乙22ないし26,被告)
2争点1(被告がした預け金の期間及び額)について


平成20年4月以後の関与
被告は,平成20年4月(平成20年度)以降,研究費の繰越制度が整備,
運用されたから,預け金を行う必要がなくなり,預け金を指示するなど関与していない旨主張する。確かに,原告が主張する預け金の形成は,平成19年度の予算執行とも解される平成20年4月を除けば,比較的少額になっているといえるほか,証拠(乙7)にも,被告の主張に沿うかのような部分がある。しかしながら,前記前提事実⑵,認定事実⑶イに加えて,証拠(甲42)に
よれば,被告も,本件刑事事件において,預け金を認識し,そのことを認めていたことが認められる。また,前記認定事実⑶によれば,原告が,多額の残高を残すような預け金を形成していたといえるから,会計制度が改まったことにより,預け金を根絶したとまでいえるかには,疑問が残る。これらの事実に照らすと,平成20年4月以降においても,被告が預け金に関与していたといえ
る。


預け金の額
被告は,本件報告書1及び同2をみると,同時点で計上されている取引の金額が異なっているところがあるだけでなく,Cのデータの信ぴょう性が乏しい
などと主張し,預け金の額を争っている。
しかしながら,別紙1及び2をみると,平成18年1月以後については,被告が提出する預け金の形成額に関する証拠(乙5,19[平成17年12月までの記載はない。])と,一致又はほぼ一致する部分が多い。本件報告書2には,平成17年8月から平成19年6月まで欠損部分があることもあり,必ずしも計上されている金額が異なっていることをもって,正確な金額を反映していないとはいえない。また,被告は,本件報告書1及び2に関して,計上の有
無等を種々主張するものの,いずれも結論を左右する主張とはいえない。さらに,証拠(甲17,45,48)によれば,本件報告書2が,Cの元従業員が,原告からCへの支払のうち,プール金を作るための支払は,それに対応する売上・仕入れがCで計上されず,原告から支払われた金銭は,原告からの仮受金として処理されていたという供述に基づいて作成されたものであるうえに,D
が預け金を仮受金という勘定項目で処理し,預け金の勘定項目を税務署にも申告し説明していた旨供述しているだけでなく,Cの経理に従事していたEも,税理士事務所から仮受金という勘定科目が預け金であると聞いた旨を供述したことが認められる。本件全証拠によっても,Cが預け金を課税の対象にされることをおそれて,減少させようとしていたことがあっても,水増ししようと
していたことをうかがわせる事実は,認められない。これらに照らすと,Cのデータの信用性はあるといえるから,被告の主張は,採用できない。そして,本件報告書1及び2の記載に加えて,本件全証拠によっても,原告が主張する別紙1及び2の作成過程に格別,疑義を挟む根拠となるような事実が認められないことを踏まえると,別紙1及び2は,信用できるといえる。


小括
以上によれば,
原告が主張するとおり,
被告は,
平成20年4月以降も含め,
原告が管理する口座から支出させて,別紙1及び2記載の本件預け金を形成したと認めるのが相当である。

なお,上記のような本件預け金の形成,証拠(甲61,乙5,7)及び弁論の全趣旨によれば,
被告は,
本件預け金以外にも預け金を形成し,
その残高が,
平成17年末には約1億8000万円になっていたと推認できる。3争点2(違法性の有無)について


各研究費の帰属について

原告及び被告の主張の要旨
原告は,各研究費は,いずれも原告の学長名義の金融機関の口座で管理す
るものであり,被告が預け金として各研究費を支出したことで,原告の預金債権が侵害された旨主張する。これに対し,被告は,科研費が研究者個人の所有に属するなど各研究費が研究者である被告に帰属する旨主張する。そこで,各研究費の帰属について,以下,検討する。

各研究費の帰属について
受託研究費等
前記認定事実

受託研究費等は,原告と委託者との間の契

約に基づき,研究経費を原告に納入しなければならないだけでなく,その経理を原告が行うこととされている。また,受託研究費等に関する契約書(甲32,33)のひな形に記載されている条項には,委託者が研究者に研究経費を贈与していると解され得る記載はない。
そうすると,受託研究費等は,原告と委託者との間の契約に基づき,委託者から納入される研究経費である資金が原告に帰属するものといえる。COE補助金

証拠
(甲36)
によれば,
COE補助金が,
事業者となる代表者
(学長)
及び事業推進担当者(拠点リーダーを含む。
)からの補助金交付申請を受
け,21世紀COEプログラム委員会の審査を経て,同委員会が補助金を交付することを決定したうえで,補助金(直接経費及び間接経費を含む)を事業者に交付するもので,事業者ではなく,その所属する大学の事務局
が同補助金の経理等事務を担当することになっていることが認められる。COE補助金の取扱要領(甲36)に同委員会から交付される補助金が研究者個人に帰属させる趣旨の記載が見当たらないことも踏まえると,同補助金は,同委員会からの交付によって事業者に帰属するものといえる。したがって,COE補助金は,被告ではなく,事業者である原告に帰属するものであったといえる。
寄附金
証拠(甲37,38)によれば,原告では,平成16年頃の時点で,同年4月1日制定のA大学寄附金事務取扱規定(甲38)に依拠し,研究関係公益法人等から教員等個人への助成金等の供与を寄附金として大学で受け入れるように周知していたこと,寄附金の使途で研究者が指定されて
いる場合に,原告の部局の長が,同寄附金に関する研究担当者を変更し,又は当該研究担当者の移動先に当該寄附金を移し替えることができることが認められる。これらの事情に加えて,寄付金が原告の学長名義の口座に振り込まれていることを踏まえると,寄附金は,原告に帰属するものといえる。

したがって,別紙1及び2に記載された寄附金については,いずれも原告に帰属するものであるといえる。
運営費交付金(教育経費・研究経費)
弁論の全趣旨によれば,運営費交付金は,原告学長名義の口座に振り込まれていることが認められるところ,本件全証拠によっても,これが被告
の所有であることを基礎づける事実は認められないから,原告に帰属するものであるといえる。
科研費
前記認定事実⑴イ及び証拠(甲34,35,50)によれば,科研費のうち,補助条件として研究者が交付を受けた間接経費については,当該研
究者から研究機関が譲渡を受け入れて,当該経費に関する事務を行うことになっていることが認められるから,本件預け金の原資となった科研費のうち間接経費については,原告に帰属するものといえる。
一方で,証拠(甲34,35,50,乙1)によれば,科研費のうち,直接経費については,研究代表者に交付され,研究機関はこれを管理するもので,研究機関の収入ではないが,その交付者である国(文部科学省研究振興局)及びGのいずれもが,不適正な管理を防止する等の理由から,
研究機関が補助金を管理することを要件の一つとして交付し,具体的な金員の動きをみても,
研究機関に帰属する預金口座に入金されると認められ
る。前記認定事実⑵のとおり,預け金などの方法を用いた補助金の不正な申請や管理は,平成10年以前から,複数みられていたから,研究機関による適正な管理は,
被告がA大学での勤務を始めた平成14年においても

それ以後においても,極めて重要な問題であったというべきである。このような,適正な管理を必須とする補助金の制度の仕組みからみれば,研究機関が管理する口座に振り込まれた金員は,直接経費に関する部分についても,預金債権という形で,研究機関(本件では原告)に帰属し,研究者は,補助金の交付を受ける者として,研究機関に対し,適正な手続を経て
上記預金からの払出しを受ける権利及び他の目的に流用されない権利を有するが,架空の売上げによる払い出し等,ルールに従わない払い出しを受ける権利はなく,
その意味で研究者個人に当然に帰属するものではない
と認めるのが相当である。

小括
以上によれば,本件預け金の原資となった各研究費は,原告の預金債権として原告に帰属しているといえる。
本件預け金のために各研究費を支出する
ことは,原告の財産権を侵害するものといえる。


預け金の評価
被告は,研究費の預け金について,単年度主義の会計原則,直接研究費の使途として認められている範囲の制約等,平成19年度以前の予算制度の中では,研究者が研究を推進させるためには,規則に違反することを理解しながらも行わざるを得なかった措置であり,
単に原告の内規に違反するものに過ぎないか
ら,違法とはいえない旨主張し,証拠(甲41,乙4,被告本人)には,これに沿う部分がある。
しかしながら,認定事実⑵のとおり,預け金などのルールに従わない取り扱いは,さまざまな弊害をもたらし,返還命令の対象になっていた。ルールに従わない方法で,研究機関の預金を払い出すことは,違法というほかはない。なお,被告が,研究目的で使用したとする費用に関する報告書(乙6)については,
それが真正な会計データに基づくか不明であるうえに,(甲41,証拠

45,46)によれば,被告の私的な目的で購入した物品についても,研究で名目の立つものは仕入れとして取り扱っていたことが認められるから,仕入れとして計上されているものが,被告の主張するような研究名目で使用されたことにも疑義がある。さらに,証拠(甲45ないし49)によれば,Cは,被告が預け金を私的に利用する際に,領収証がある支払又はD名義のクレジットカ
ードによる支払を,仕入れとして説明がつく限り,いったんCの仕入れとして処理したうえで,同社の利益をのせて,被告の所属する研究室で使用すると思われるような品目で,架空の売上げを立てて,同額を預け金から引いていたことが認められる。仕入伝票の裏付けのない売上げがあるとは考え難く,それを記載したとする上記報告書には,疑義が残る。これらを総合すると,上記報告
書(乙6)は信用できないといえるから,これを根拠とする被告の主張は,採用できない。
また,仮に,被告が主張するような当時の予算や研究費に関する制度の不備があるとしても,被告が形成した預け金の残高は,平成17年末において,被告が主張する予算月額約1500万円の12倍に相当する,
約1億8000万

円もあって,それがそれよりも減少することはなかったのであるから,本件預け金が,
予算や研究費に関する制度の不備に対応して必要な研究費を確保するという目的との関係からみても,過大であったというほかない。被告は,Jに勤務していた時代にも,残高2億円程度の預け金を形成し,その使途がない状態であったから,
研究費確保のための非常措置として最低限の額を確保すると
いう意識であったとは認め難い。しかも,Cは,平成16年6月期に債務超過となり,本件預け金がCの資金繰りに流用され,その後,Cの倒産に至り,約
1億8000万円もの預け金の回収が事実上不能な状態になった。原告は,その分,被告による研究に用いられる資金を失ったといえる。このような,本件の事案を前提にして考えれば,会計上のルール違反が,単に形式的なものにとどまらず,その弊害が具体化したものといえる。本件預け金の中から研究費に使われた資金が一定程度あったとしても,本件預け金を行うことが違法ではな
いと評価するのには,無理があるというほかない。


小括
以上の検討によれば,被告による本件預け金は,原告の預金債権を違法に侵害するものといえる。

4争点3(因果関係,損害の有無及びその額)について


損害の発生及び額
前記2で判示したとおり,被告は,本件預け金により,原告が管理する口座から,合計1億5195万6610円を支出させたといえるから,原告は,同額の損害を被ったといえる。



被告の主張の検討
これに対し,被告は,預け金を行わなくても,次年度時に残っている予算を返還しなければならないから,本件預け金と原告の支出との間に相当因果関係がないし,また,原告が損害の算定の根拠とする書証の信用性が乏しい旨を反論する。

しかしながら,被告による本件預け金がなければ,別紙1及び2記載の各時点での原告の支出がなかったことは明らかであるし,上記支出が同預け金によって通常生ずべきものであることも明白である。原告の主張の根拠となる書証が信用できることは,前記2で説示したとおりである。
したがって,被告による本件預け金と原告の支出との間には,相当因果関係があるといえる。
なお,本件預け金を含め,被告がした預け金を全体としてみれば,認定事実
のとおり,約1億8000万円の残高が,事実上回収不能になったといえる。しかも,前記認定事実⑷ないし⑹によれば,原告は,科研費を管理する研究機関として,加算金を伴う返還を強いられたといえる。これらのことからみても,原告は,実質的に,損害を被ったといえる。
5争点4(過失相殺)について


被告の主張要旨
被告は,文部科学省が平成18年12月26日付けで研究費の不正対策検討会報告書(甲11)
を公表した後,
原告がCに対し反面調査を行う義務があ
ったにもかかわらず,これを怠り,Cへの反面調査をしなかったという過失があるから,これを考慮して,損害賠償の責任及び額を定めるべきである旨主張
する。


検討
しかしながら,証拠(甲52ないし55)によれば,原告が,平成20年9月頃に,文部科学省からの要請を受け,原告に勤務する職員だけでなく,取引
業者等に対し,
預け金等不適切な経理がないかを確認する旨の調査を行ったこ
と,被告及びCの担当者が,上記調査に対し,不適切な経理がない旨の回答をしたことが認められる。また,本件全証拠によっても,原告が特段の調査権限を有するとは認められない。これらの事実によれば,原告は,前記文部科学省による公表当時,
その当時の基準に照らして合理的な行動をしていたといえる。

また,本件全証拠によっても,被告及びCが,原告から認識できるような不適切な経理を行っていたことをうかがわせる事実は,認められない。これらを踏まえると,原告が,被告による預け金の形成によって損害を被ることを予見し得たとはいえない。また,原告がCに帳簿の開示等を強制する権限がないことを踏まえると,上記損害の発生を回避するために,通常取るべき対応を行っていたといえる。


小括
したがって,原告には,Cに対し,文部科学省が平成18年12月26日付けで研究費の不正対策検討会報告書を公表した後,反面調査を行うべき義務があるとはいえないから,過失があったとはいえない。

第4結論
以上によれば,
原告の請求は理由があるからこれを認容すべきである。
被告は,
その他さまざまな主張をするが,これらは,いずれも上記判断を左右しない。よって,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第2民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

秦留島群一飼晃嗣卓義
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