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損害賠償請求事件
事件番号平成30(受)388
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和2年3月24日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果その他
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成28(ネ)5436
原審裁判年月日平成29年12月5日
判示事項家屋の評価の誤りに基づきある年度の固定資産税等の税額が過大に決定されたことによる損害賠償請求権に係る民法724条後段所定の除斥期間は,当該年度の固定資産税等に係る賦課決定がされ所有者に納税通知書が交付された時から進行する
裁判日:西暦2020-03-24
情報公開日2020-03-24 16:00:05
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平成30年(受)第388号
令和2年3月24日

主1
損害賠償請求事件

第三小法廷判決


原判決中,平成4年度から同20年度までの固定資
産税及び都市計画税に関する部分を破棄し,同部分
につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

2
上告人のその余の上告を却下する。

3
前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人私市大介の上告受理申立て理由について
以下に摘示する地方税法及び固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下評価基準という。)の定めは,特に断りのない限り平成21年3月2日(平成20年度の固定資産税等の第4期支払日)当時のものである。なお,昭和57年1月1日から平成21年3月2日までの間に施行された同法及び評価基準の改正の経緯については,説示に影響しない限り,その記述を省略する。1
本件は,第1審判決別紙2物件目録記載の家屋(以下本件家屋とい
う。)を所有し,その固定資産税及び都市計画税(以下固定資産税等という。)を納付してきた上告人が,本件家屋の建築当初である昭和58年に行われた本件家屋の評価等に誤りがあったことから,その後の各年度において過大な固定資産税等が課されたなどと主張して,被上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額等の損害賠償を求める事案である。上記の損害賠償請求権について,同法4条,民法724条後段所定の除斥期間が経過したか否か,具体的には,その起算点である不法行為の時がいつであるかが争われている。
2
原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。(1)ア
地方税法349条1項は,家屋に対して課する基準年度の固定資産税の
課税標準を,当該家屋の基準年度に係る賦課期日における価格で家屋課税台帳又は家屋補充課税台帳に登録されたもの(以下,これらの台帳に登録された価格を登録価格という。)とする旨規定し,同法403条1項は,市町村長(同法734条1項により特別区にあっては東京都知事。以下同じ。)は,同法388条1項の固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならない旨規定している。なお,第2年度(基準年度の翌年度)及び第3年度(第2年度の翌年度)の課税標準は,原則として基準年度の登録価格とされる(同法349条2項,3項)。また,地方税法702条は,家屋に対して課する都市計画税の課税標準を,当該家屋に係る固定資産税の課税標準となるべき価格とする旨規定し,同法702条の8第1項は,都市計画税の賦課徴収は,固定資産税の賦課徴収の例によるものとし,特別の事情がある場合を除くほか,固定資産税の賦課徴収とあわせて行うものとする旨規定している。
イ(ア)

評価基準は,家屋の評価について,木造家屋及び木造家屋以外の家屋
(以下非木造家屋という。)の区分に従い,各個の家屋について評点数を付設し,当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとし(第2章第1節一),各個の家屋の評点数は,当該家屋の再建築費評点数を基礎とし,これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設するものとする旨を定めている(同二)。
(イ)

非木造家屋の再建築費評点数の算出方法について,昭和38年に告示され
た当初の評価基準においては,当該年度において新たに課税の対象となる非木造家屋とそれ以外の非木造家屋(以下在来分の家屋という。)とを区別することなく,当該非木造家屋の部分別に再建築費評点数を算出しこれを合計して再建築費評点数を求める方法(以下部分別評価の方法という。)等によるべきことが定められていた。もっとも,自治省税務局長通知により,在来分の家屋について再建築費評点数を算出するに当たっては,乗率比準評価方式(①在来分の家屋を,構
造,用途,規模等の別に区分し,区分ごとに標準とすべき在来分の家屋を標準家屋として定め,②
付設し,③

標準家屋について,部分別評価の方法によって再建築費評点数を

標準家屋以外の在来分の家屋で当該標準家屋の属する区分と同一の区
分に属するもの(以下比準家屋という。)の再建築費評点数は,上記②によって求めた標準家屋の基準年度における再建築費評点数の前年度における再建築費評点数に対する割合を求め,当該割合を基礎として市町村長が定めた率を比準家屋の前年度における再建築費評点数に乗じて求める方法)によることも差し支えないものとされていた。上記通知に基づき,被上告人においては,主税局長通達により,在来分の家屋に係る再建築費評点数の算出については乗率比準評価方式によることとしていた。
乗率比準評価方式は,平成12年度の評価に適用される評価基準において,在来分の家屋の原則的な評価方法として規定されるに至った。
また,平成15年度の評価に適用される評価基準には,在来分の家屋の原則的な評価方法として,評点補正率方式(在来分の家屋に係る再建築費評点数を,基準年度の前年度における当該在来分の家屋の再建築費評点数に全国共通の再建築費評点補正率を乗ずることによって求める方法)が規定され,同18年度の評価に適用される評価基準においても同様であった。
(2)ア

本件家屋は,昭和57年9月14日に新築された非木造家屋であり,上
告人は,この当時からの本件家屋の所有者である。被上告人の評価担当者は,昭和57年度の評価に適用される評価基準により,本件家屋の建築当初の再建築費評点数を18万3400点と算出した。これに基づき,東京都知事は,昭和58年6月30日,本件家屋について価格決定をした。

本件家屋は,平成3年3月31日に増築され,本件家屋の平成4年度以降の
価格は,昭和57年に新築された部分(以下新築部分という。)と上記の増築に係る部分を別個に評価してそれぞれの価額を算出し,これらを合計する方法により決定されている。新築部分の昭和60年度から平成18年度までの各基準年度の再建築費評点数は,上記アの建築当初の再建築費評点数を基礎として,乗率比準評価方式,評点補正率方式等により順次算出された。
(3)

上告人は,平成25年1月27日,本件訴訟を提起した。上告人は,本件
訴訟において,本件家屋の建築当初に算出された新築部分の再建築費評点数には誤りがあり,これを基礎として順次算出されたその後の各基準年度の再建築費評点数にも誤りが生ずるなどしたため,本件家屋につき過大な固定資産税等の賦課決定がされ,これを納付したことにより損害が生じたと主張して,被上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,平成4年度から同20年度までの各年度(以下本件各年度という。)における固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額の損害賠償を求めている。
3
原審は,上記事実関係等の下において,本件家屋の建築当初に算出された新
築部分の再建築費評点数は過大であると認められ,昭和58年の評価行為及び価格決定には国家賠償法1条1項の適用上違法があり,かつ,これについて過失が認められるが,その後の各基準年度における評価行為等について過失は認められないとした上,要旨次のとおり判断し,本件各年度における固定資産税等の過納金相当額等に係る損害賠償請求権は除斥期間の経過により消滅したとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
建築当初の評価上の再建築費評点数の誤りを原因とする本件の不法行為は,昭和58年の評価行為及び価格決定と本件各年度の各賦課徴収行為とをその構成要素とするものであるが,公務員の過失のある違法行為は同年の評価行為及び価格決定である。前記2(1)の課税の仕組みによれば,同年の評価上の再建築費評点数の誤りによって,その後の各年度の具体的な課税行為にも当然誤りが生ずる状態が形成されている。そして,価格決定があればこれが登録され,当該登録価格に基づく賦課決定がされて固定資産税等が徴収されることは地方税法上自明のことであるところ,同年及びその後の各基準年度の価格決定等に関し,上告人が同法上の審査の申出及び取消訴訟又は国家賠償請求訴訟をもって争い得る状態が継続していたということができる。以上によれば,本件の不法行為における除斥期間の起算点である不法行為の時は,昭和58年の建築当初の評価行為及び価格決定時であり,遅くとも同年6月30日の価格決定時と解するのが相当である。
4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

家屋に係る固定資産税等の課税標準となる登録価格は,当該家屋の再建築
費評点数を基礎として当該家屋の評点数を付設し,これを基に市町村長が当該家屋の価格を決定して家屋課税台帳等に登録することにより定まるものである。また,本件においては,本件家屋の新築部分に係る各基準年度の再建築費評点数は,在来分の家屋の評価に関する評価基準の定め等に従い,その建築当初である昭和58年に算出された再建築費評点数を基礎として,乗率比準評価方式,評点補正率方式等により順次算出されている。
そして,家屋に係る固定資産税等は,年度ごとに,当該年度の初日の属する年の1月1日を賦課期日として,納税義務者である当該家屋の所有者に課されるものであり(地方税法343条,359条,702条,702条の6),各年度の固定資産税等は,原則として基準年度の登録価格を課税標準として,その税額を確定する賦課決定がされ,課税標準額,税率,税額,納期等を記載した納税通知書が所有者に交付されることにより,所有者にその具体的な納税義務が生ずることとなる。このような一連の手続を経て,各年度の固定資産税等が課されることとなるところ,ある年度の家屋の固定資産税等の税額が過大に決定されて所有者に損害が生じた場合に,その原因が,手続の過程におけるいずれかの行為(当該年度の賦課に係る行為のほか,その基礎とされた従前の年度における行為を含む。)に過誤があったことに求められるときには,過誤のあった当該行為が故意又は過失により違法に行われたものであるということができれば,当該一連の手続により生じた損害に係る国家賠償責任が生ずるものということができる。(2)

他方において,上記の手続のうち家屋の評価に関して誤りが生ずると,前
記2(1)の課税の仕組みの下では,当該誤りがその年度における価格決定や賦課決定だけでなく翌基準年度における評価等にも影響を及ぼし,将来における過大な固定資産税等の賦課という結果を招くおそれが生ずるということはできるものの,その後の手続において課税庁の判断等により当該誤りが修正されるなどすれば,過大な固定資産税等が課されることはなく,所有者に損害は発生しないこととなる。また,当該誤りが生じた後に所有者に変更があれば,過大な固定資産税等を課されて損害を受ける者も変わることとなる。このように,当該誤りが生じた時点では,これを原因として実際に過大な固定資産税等が課されることとなるか否か,過大な固定資産税等を課されて損害を受ける者が誰であるかなどは,なお不確定であるといわざるを得ない。そして,当該誤りが修正されるなどすることなく手続が進められ,これに基づいてある年度の固定資産税等につき賦課決定及び納税通知書の交付がされて初めて,これを受けた者が当該賦課決定の定める税額につき納税義務を負うことが確定することとなる。
そうすると,固定資産税等の賦課に関し,その税額が過大であることによる国家賠償責任が問われる場合において,これに係る違法行為及び損害は,所有者に具体的な納税義務を生じさせる賦課決定等を単位として,すなわち年度ごとにみるべきであり,家屋の評価に関する同一の誤りを原因として複数年度の固定資産税等が過大に課された場合であっても,これに係る損害賠償請求権は,年度ごとに発生するというべきである。そして,ある年度の固定資産税等の過納金に係る損害賠償請求権との関係では,被害者である所有者に対して当該年度の具体的な納税義務を生じさせる賦課決定の効力が及んだ時点,具体的には納税通知書の交付がされた時点をもって,除斥期間の起算点である不法行為の時とみることが相当である。以上のことは,所有者が,当該年度以前の基準年度等の価格決定やこれに基づいて課された固定資産税等に関し,評価の誤り等を理由に審査の申出及び取消訴訟又は国家賠償請求訴訟をもって争い得たとしても,左右されるものではない。したがって,家屋の評価の誤りに基づきある年度の固定資産税等の税額が過大に決定されたことによる損害賠償請求権の除斥期間は,当該年度の固定資産税等に係る賦課決定がされ所有者に納税通知書が交付された時から進行するものと解するのが相当である。
(3)

本件家屋の新築部分の評価の誤りに基づき本件各年度の固定資産税等の税
額が過大に決定されたことを理由とする上告人の被上告人に対する損害賠償請求権については,年度ごとに,当該年度の納税通知書が上告人に交付された時から除斥期間が進行することとなるところ,本件各年度における納税通知書の交付の具体的な時点はいずれも明らかでないが,本件訴訟が提起された平成25年1月27日の時点で20年を経過していなかったものがあると考えられる。
5
以上と異なる見解の下に,本件各年度の固定資産税等の過納金及び弁護士費
用相当額に係る上告人の損害賠償請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中これに関する部分は破棄を免れない。そして,上記の損害賠償請求権に関し,それぞれ除斥期間が経過したか否か,除斥期間が経過していない場合における当該年度の上告人の損害額等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
その余の請求に関する上告については,上告受理申立書及び上告受理申立て理由書に上告受理申立て理由の記載がないから,却下することとする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官

宇賀克也

裁判官

戸倉三郎

道晴)
裁判官

宮崎裕子

裁判官

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