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所得税更正処分取消等請求事件
事件番号平成30(行ヒ)422
事件名所得税更正処分取消等請求事件
裁判年月日令和2年3月24日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果破棄差戻
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成29(行コ)283
原審裁判年月日平成30年7月19日
判示事項取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき,配当還元価額によって評価した原審の判断に違法があるとされた事例
裁判日:西暦2020-03-24
情報公開日2020-03-24 14:00:05
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平成30年(行ヒ)第422号
令和2年3月24日

所得税更正処分取消等請求事件

第三小法廷判決

主文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人清野正彦ほかの上告受理申立て理由について
1
本件は,法人に対する株式の譲渡につき,被上告人らが,当該譲渡に係る譲
渡所得の収入金額を譲渡代金額と同額として所得税の申告をしたところ,当該代金額が所得税法59条1項2号に定める著しく低い価額の対価に当たるとして,更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことから,これらの各処分(更正処分については修正申告又は先行する更正処分の金額を超える部分)の取消しを求める事案であり,当該株式の当該譲渡の時における価額が争われている。2(1)

所得税法59条1項は,同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因と
なる資産の移転があった場合には,譲渡所得の金額の計算については,その事由が生じた時に,その時における価額に相当する金額により,これらの資産の譲渡があったものとみなす旨を定め,2号において,著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。以下低額譲渡という。)を掲げる。
所得税法施行令169条は,上記政令で定める額は,所得税法59条1項に規定する譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額とする旨を定める。
(2)

所得税基本通達(昭和45年7月1日付け直審(所)30国税庁長官通
達)59-6(平成21年課資3-5ほかによる改正前のもの。以下同じ。)は,所得税法59条1項の規定の適用に当たって,譲渡所得の基因となる資産が株式である場合の同項に規定するその時における価額とは,同通達23~35共-9に準じて算定した価額によるものとする。同通達23~35共-9(平成19年課個2-11ほかによる改正前のもの。以下同じ。)は,株式を取得する権利の価額の算定の基礎となる株式の価額に関し,(4)ニにおいて,取引相場のない株式のうち,売買実例のある株式等に該当しないものについては,その株式の発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とするものとする。そして,同通達59-6は,同法59条1項の規定の適用に当たり,上記の通常取引されると認められる価額とは,原則として,同通達59-6の(1)~(4)によることを条件に,財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17国税庁長官通達。以下評価通達という。)の178から189-7まで(取引相場のない株式の評価)の例により算定した価額とするとした上で,所得税基本通達59-6の(1)において,評価通達188の(1)に定める同族株主に該当するかどうかは,株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定するものとする。
(3)

評価通達は,相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に
関する基本的な取扱いを定めたものである。取引相場のない株式の評価について,評価通達178本文,179(いずれも平成29年課評2-12ほかによる改正前のもの)は,評価しようとする株式の発行会社(以下評価会社という。)が大会社(従業員数が100人以上の会社等),中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて,原則的な評価方法を区別し,大会社の株式の価額は,類似業種比準価額によって評価するものとする(以下,この評価方法を類似業種比準方式という。)。
これに対し,評価通達178ただし書(平成29年課評2-12ほかによる改正前のもの),188,188-2は,上記の原則的な評価方法の例外として,同族株主以外の株主等が取得した株式の価額は,その株式に係る年配当金額を基として算定する配当還元価額によって評価するものとする(以下,この評価方法を配当還元方式という。)。そして,評価通達188は,同族株主以外の株主等が取得した株式につき,評価通達188の(1)~(4)のいずれかに該当する株式をいうものとし,その内容について大要以下のとおり定める(以下,評価通達188の(1)~(4)が掲げる株式を保有する株主を少数株主という。)。ア
同族株主のいる会社の株主のうち,同族株主以外の株主の取得した株式(1
88の(1))
この場合における同族株主とは,課税時期における評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令4条に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては,50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。

中心的な同族株主のいる会社の株主のうち,中心的な同族株主以外の同族株
主で,その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(評価会社の役員等を除く。)の取得した株式(188の(2))ウ
同族株主のいない会社の株主のうち,課税時期において株主の1人及びその
同族関係者の有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式(188の(3))

中心的な株主がおり,かつ,同族株主のいない会社の株主のうち,課税時期
において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で,その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(評価会社の役員等を除く。)の取得した株式(188の(4))
3
(1)

原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
A株式会社の代表取締役であったBは,平成19年8月1日,有限会社C(以下Cという。)に対し,所有していたAの株式のうち72万5000株(以下本件株式という。)を,代金額を1株当たり75円,合計5437万5000円として譲渡した(以下,この譲渡を本件株式譲渡という。)。この1株当たり75円という代金額は,本件株式を配当還元方式により算定した額と同額であった。
(2)

Aは,金属製品及び消防器材の製造及び販売等を業とする資本金4億60
00万円の株式会社で,本件株式譲渡直前の事業年度である平成19年1月期の売上金額は約236億5000万円,平成19年1月時点の従業員数は449人であり,評価通達178にいう大会社に該当する。
本件株式譲渡の時点において,Aの発行済株式総数は920万株であり,Aの株主は,1株につき1個の議決権を有する。Aにおいては,定款において株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨が定められており,その株式は,所得税基本通達23~35共-9の(4)ニの株式及び評価通達における取引相場のない株式に該当する。
(3)

Cは,平成16年2月に金銭の貸付業,株式投資業等を目的として設立さ
れた会社である。
(4)

本件株式譲渡の直前におけるAの株主が有する議決権の割合は,Bが単独
で15.88%,Bとその同族関係者を合計すると22.79%であった。本件株式譲渡により,議決権の割合は,Bが単独で8.00%,Bとその同族関係者を合計すると14.91%,Cが7.88%となった。本件株式譲渡の前後を通じて,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が議決権総数の30%以上となる株主,すなわち評価通達188の(1)にいう同族株主に当たる株主はいなかった。
(5)

Bは,平成19年12月26日に死亡した。Bの相続人である被上告人ら
は,平成20年3月13日,Bの平成19年分の所得税につき,本件株式譲渡に係る譲渡所得の収入金額を,その代金額と同額の1株当たり75円,合計5437万5000円として,所得税法125条1項による申告書を提出した。(6)

所轄税務署長は,平成22年4月21日付けで,被上告人らに対し,本件
株式譲渡の時における本件株式の価額は類似業種比準方式により算定した1株当たり2990円,合計21億6775万円であり,本件株式譲渡は低額譲渡に当たるとして,Bの平成19年分の所得税に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
被上告人らは,平成22年6月,上記各更正処分等を不服として,東京国税局長に異議申立てをした。東京国税局長は,上記各更正処分における本件株式の価額算定に当たり類似業種の選定に誤りがあり,その価額は1株当たり2505円,合計18億1612万5000円であるとして,上記の各更正処分及び各賦課決定処分の一部を取り消す旨の決定をした(以下,同決定により一部が取り消された後の被上告人らに対する各更正処分及び各賦課決定処分を併せて本件各更正処分等という。)。
(7)

被上告人らは,評価通達188の(1)~(4)の少数株主のうち,所得税基本
通達59-6の(1)において触れられていない評価通達188の(2)~(4)の少数株主に該当するか否かの判定は,株式の取得者の取得後の議決権の割合により行うべきであり,Cは評価通達188の(3)の少数株主に当たるとして,本件株式譲渡時における本件株式の価額につき,配当還元方式により算定した額を主張する。これに対し,上告人は,譲渡所得に対する課税の場面において,評価通達188の(1)~(4)の少数株主に当たるか否かの判定は,株式の譲渡人の譲渡直前の議決権の割合により行うべきであるところ,Bは少数株主に当たらないとして,本件株式譲渡時における本件株式の価額につき,原則的な評価方法である類似業種比準方式により算定した額を主張する。
4
原審は,上記事実関係等の下において,所得税基本通達59-6が定める条
件の下に適用される評価通達に定められた評価方法が,取引相場のない株式の譲渡時における客観的交換価値を算定する方法として一般的な合理性を有するものであれば,これによって算定された価額は,原則として所得税法59条1項にいうその時における価額として適正なものと認められ,評価通達において定められた評価方法自体は一般的な合理性を有するとした上で,要旨次のとおり判断して,被上告人らの請求を一部認容した。
通達の意味内容については,課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地から,その文理に忠実に解釈するのが相当であり,評価通達188の(2)~(4)の株主が取得した株式などの文言を株主が譲渡した株式などと殊更に読み替えることは許されない。そうすると,譲渡所得に対する課税においても,評価通達188の(2)~(4)の少数株主に該当するかどうかは,その文言どおり株式の取得者の取得後の議決権の割合により判定されるというべきであり,所得税基本通達59-6はこのことを定めたものとして合理性を有するところ,本件株式の譲受人であるCは評価通達188の(3)の少数株主に該当するから,本件株式の価額は配当還元方式によって算定した1株当たり75円であると認められる。したがって,本件株式譲渡が低額譲渡に当たらないにもかかわらず,これに当たるとしてされた本件各更正処分等は違法である。
5
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属
する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和41年(行ツ)第8号同43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797頁,最高裁同41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁等参照)。すなわち,譲渡所得に対する課税においては,資産の譲渡は課税の機会にすぎず,その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなるところ,所得税法59条1項は,同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため,その時における価額に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解される。
(2)

所得税法59条1項所定のその時における価額につき,所得税基本通
達59-6は,譲渡所得の基因となった資産が取引相場のない株式である場合には,同通達59-6の(1)~(4)によることを条件に評価通達の例により算定した価額とする旨を定める。評価通達は,相続税及び贈与税の課税における財産の評価に関するものであるところ,取引相場のない株式の評価方法について,原則的な評価方法を定める一方,事業経営への影響の少ない同族株主の一部や従業員株主等においては,会社への支配力が乏しく,単に配当を期待するにとどまるという実情があることから,評価手続の簡便性をも考慮して,このような少数株主が取得した株式については,例外的に配当還元方式によるものとする。そして,評価通達は,株式を取得した株主の議決権の割合により配当還元方式を用いるか否かを判定するものとするが,これは,相続税や贈与税は,相続等により財産を取得した者に対し,取得した財産の価額を課税価格として課されるものであることから,株式を取得した株主の会社への支配力に着目したものということができる。
これに対し,本件のような株式の譲渡に係る譲渡所得に対する課税においては,当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は,譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではないのであって,前記の譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば,譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される。
そうすると,譲渡所得に対する課税の場面においては,相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず,所得税法の趣旨に則し,その差異に応じた取扱いがされるべきである。所得税基本通達59-6は,取引相場のない株式の評価につき,少数株主に該当するか否かの判断の前提となる同族株主に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に,評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ,この定めは,上記のとおり,譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし,少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができる。
ところが,原審は,本件株式の譲受人であるCが評価通達188の(3)の少数株主に該当することを理由として,本件株式につき配当還元方式により算定した額が本件株式譲渡の時における価額であるとしたものであり,この原審の判断には,所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法がある。
6
以上によれば,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,本件株式譲渡の時における本件株式の価額等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宇賀克也,同宮崎裕子の各補足意見がある。
裁判官宇賀克也の補足意見は,次のとおりである。
私は法廷意見に賛成するものであるが,原審の通達に関する判示について,一言述べておきたい。
原審は,租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり,みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないとし,通達の意味内容についてもその文理に忠実に解釈するのが相当であり,通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されないという。原審のいう租税法規の文理解釈原則は,法規命令については,あり得べき解釈方法の一つといえよう。しかし,通達は,法規命令ではなく,講学上の行政規則であり,下級行政庁は原則としてこれに拘束されるものの,国民を拘束するものでも裁判所を拘束するものでもない。確かに原審の指摘するとおり,通達は一般にも公開されて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針となっていることからすれば,課税に関する納税者の信頼及び予測可能性を確保することは重要であり,通達の公表は,最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁にいう公的見解の表示に当たり,それに反する課税処分は,場合によっては,信義則違反の問題を生ぜしめるといえよう。しかし,そのことは,裁判所が通達に拘束されることを意味するわけではない。さらに,所得税基本通達59-6は,評価通達の例により算定するものと定めているので,相続税と譲渡所得に関する課税の性質の相違に応じた読替えをすることを想定しており,このような読替えをすることは,そもそも,所得税基本通達の文理にも反しているとはいえないと考える。
もっとも,租税法律主義は課税要件明確主義も内容とするものであり,所得税法に基づく課税処分について,相続税法に関する通達の読替えを行うという方法が,国民にとって分かりにくいことは否定できない。課税に関する予見可能性の点についての原審の判示及び被上告人らの主張には首肯できる面があり,より理解しやすい仕組みへの改善がされることが望ましいと思われる。
裁判官宮崎裕子の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛成であるとともに,宇賀裁判官の補足意見に同調するものであるが,さらに以下の点を敷衍しておきたい。
法廷意見で指摘しているとおり,所得税法に基づく譲渡所得に対する課税と相続税法に基づく相続税,贈与税の課税とでは,課税根拠となる法律を異にし,それぞれの法律に定められた課税を受けるべき主体,課税対象,課税標準の捉え方等の課税要件も異にするという差異がある。その点を踏まえると,所得税法適用のための通達の作成に当たり,相続税法適用のための通達を借用し,しかもその借用を具体的にどのように行うかを必ずしも個別に明記しないという所得税基本通達59-6で採られている通達作成手法には,通達の内容を分かりにくいものにしているという点において問題があるといわざるを得ない。本件は,そのような通達作成手法の問題点が顕在化した事案であったということができる。租税法の通達は課税庁の公的見解の表示として広く国民に受け入れられ,納税者の指針とされていることを踏まえるならば,そのような通達作成手法については,分かりやすさという観点から改善が望まれることはいうまでもない。
さて,所得税基本通達59-6には上記の問題があることが認められるものの,より重要なことは,通達は,どのような手法で作られているかにかかわらず,課税庁の公的見解の表示ではあっても法規命令ではないという点である。そうであるからこそ,ある通達に従ったとされる取扱いが関連法令に適合するものであるか否か,すなわち適法であるか否かの判断においては,そのような取扱いをすべきことが関連法令の解釈によって導かれるか否かが判断されなければならない。税務訴訟においても,通達の文言がどのような意味内容を有するかが問題とされることはあるが,これは,通達が租税法の法規命令と同様の拘束力を有するからではなく,その通達が関連法令の趣旨目的及びその解釈によって導かれる当該法令の内容に合致しているか否かを判断するために問題とされているからにすぎない。そのような問題が生じた場合に,最も重要なことは,当該通達が法令の内容に合致しているか否かを明らかにすることである。通達の文言をいかに文理解釈したとしても,その通達が法令の内容に合致しないとなれば,通達の文理解釈に従った取扱いであることを理由としてその取扱いを適法と認めることはできない。このことからも分かるように,租税法の法令解釈において文理解釈が重要な解釈原則であるのと同じ意味で,文理解釈が通達の重要な解釈原則であるとはいえないのである。これを本件についてみると,本件においては,所得税法59条1項所定のその時における価額が争われているところ,同項は,譲渡所得について課税されることとなる譲渡人の下で生じた増加益の額を算定することを目的とする規定である。そして,所得税基本通達23~25共-9の(4)ニは,取引相場のない株式のうち売買実例のある株式等に該当しないものの価額を1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とし,さらに同通達59-6は,その価額について,原則として,同通達(1)~(4)によることを条件に評価通達の例により算定した価額とするとしていることは,法廷意見のとおりである。そして,先に述べたように,通達に従った取扱いは,当該通達が法令の内容に合致していない場合には,適法とはいえず,本件の場合,譲渡所得に対する所得税課税について相続税法に関する通達を借用した取扱いが適法となるのは,そのような借用が所得税法に合致する限度に限られる。
所得税基本通達59-6は,取引相場のない株式に係る所得税法59条1項所定のその時における価額について,無限定に評価通達どおりに算定した額とするものとしているわけではなく,評価通達の例により算定した価額としていることは,法廷意見が指摘するとおりである。これは,同項のその時における価額の算定について評価通達を借用するに当たっては,少なくとも,譲渡所得に対して課される所得税と評価通達が直接対象としてきた相続税及び贈与税との差異から,所得税法の規定及びその趣旨目的に沿わない部分については,これを同法59条1項に合致するように適切な修正を加えて当てはめるという意味を含んでいると理解することができ,このことは,所得税基本通達59-6に,個別具体的にどのような修正をすべきかが明記されているか否かに左右されるものではない。このような理解を前提とする限り,所得税基本通達59-6による評価通達の借用は,所得税法59条1項に適合しているということができる。因みに,同項のその時における価額の算定においても評価通達の文言通りの取扱いをすべきとする根拠は,同項にもその他の関連する法令にも存在しない。
そして,所得税基本通達59-6の(1)は,少数株主に該当するか否かの判断の前提となる同族株主に該当するかどうかにつき株式を譲渡又は贈与した個人(すなわち,株式を取得した者ではなく,株式の譲渡人)の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数によると明記していることは原審判決も摘示しているとおりであるが,これは所得税法59条1項が譲渡所得に対する課税に関する規定であるため,同項に合致するよう評価通達に適切な修正を加える必要があるという理由から定められたものであることは明らかである。この理由は,評価通達188の(3)の少数株主の議決権の割合に言及している部分についても同様に当てはまる。なぜならば,譲渡人に課税される譲渡所得に対する所得税課税の場合には,譲渡の時までに譲渡人に生じた増加益の額の算定が問題となるのであるから,その額が,譲渡人が少数株主であったことによって影響を受けることはあり得るとしても,当該譲渡によって当該株式を取得し,当該譲渡後に当該株式を保有することとなる者が少数株主であるか否かによって影響を受けると解すべき理由はないからである。したがって,所得税法59条1項所定のその時における価額の算定に当たってなされる評価通達188の(3)を借用して行う少数株主か否かの判断は,当該株式を取得した株主についてではなく,当該株式を譲渡した株主について行うよう修正して同通達を当てはめるのでなければ,法令(すなわち所得税法59条1項)に適合する取扱いとはいえない。
(裁判長裁判官
宇賀克也


裁判官

景一

裁判官

戸倉三郎

道晴)
裁判官

宮崎裕子

裁判官

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