判例検索β > 平成29年(ワ)第39602号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)39602
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日令和2年1月30日
裁判所名東京地方裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2020-01-30
情報公開日2020-03-23 15:31:15
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令和2年1月30日判決言渡

同日原本交付

平成29年(ワ)第39602号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

令和元年11月12日
判決原告
株式会社野田ハッピー

上記訴訟代理人弁護士

田口洋介
上記補佐人弁理士

木船英雄被告サンタ株式会社被告東産業株式会社被山同上浩告
山岡金属工業株式会社

上記3名訴訟代理人弁護士

中島
上記3名補佐人弁理士

宮田正道同宮田誠心主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
1
被告サンタ株式会社は,別紙被告製品目録の製品を製造し,販売し,輸入し,
又は販売の申出をしてはならない。
2被告東産業株式会社及び被告山岡金属工業株式会社は,別紙被告製品目録の製品を販売し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。
3被告サンタ株式会社は,別紙被告製品目録記載の製品,その半製品(別紙被告製品目録記載の製品の構造を具備するが製品として完成するに至らないもの)及び別紙被告製品目録記載の製品の製造に供する金型を廃棄せよ。
4被告サンタ株式会社は,原告に対し,6億6000万円及びこれに対する平成
29年12月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。5被告東産業株式会社は,原告に対し,2億2000万円及びこれに対する平成29年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。6被告山岡金属工業株式会社は,原告に対し,8800万円及びこれに対する平成29年12月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,発明の名称を加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置とする特許権2件を有する原告が,被告らによる別紙被告製品目録記載の製品(以下被告製品
という。の製造,

販売及びその申出が上記特許権を侵害すると主張

して,被告らに対し,特許法100条1項,2項に基づき被告製品の製造等の差止め,被告製品,その半製品及び金型の廃棄を求めると共に,民法709条,特許法102条2項に基づき損害賠償として被告サンタ株式会社(以下被告サンタという。)に対して6億6600万円,被告東産業株式会社(以下被告東産業という。)に対して2億2000万円,被告山岡金属工業株式会社(以下被告山岡金属という。に対して8800万円,

及びこれらに対する不法行為後の
日である訴状送達日の翌日(被告サンタにつき平成29年12月3日,被告東産業につき同月2日,被告山岡金属につき同月5日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
当事者

原告は,焼肉無煙ロースター,上引きクリアーフード,集塵機,脱臭機等の開発,製造,販売,施工等の事業を行う株式会社である。


被告サンタは,カウンター排煙装置,串焼用排気装置等の製造,販売等の事業を行う株式会社である。


被告東産業は,焼肉無煙ロースター,上引きフード排気設備システム等の仕入れ,販売等の事業を行う株式会社である。


被告山岡金属は,業務用調理機器等の仕入れ,販売等の事業を行う株式会社である。

原告の特許権
原告は,以下の2件の特許権(以下,それぞれを順に本件特許権1本,件特許権2といい,併せて本件各特許権という。)を有している(以下,
本件各特許権に係る特許をそれぞれ本件特許1本件特許2といい,併,
せて本件各特許という。。
)(甲1ないし4)

本件特許権1
特許番号:特許第3460996号

発明の名称:加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置
出願日:平成14年4月2日
登録日:平成15年8月15日

本件特許権2
特許番号:特許第3460998号
発明の名称:加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置
出願日:平成14年10月9日
登録日:平成15年8月15日


原告による訂正審判請求
原告は,平成30年10月10日付で,特許庁に対し,本件特許1の請求項1の特許請求の範囲について,訂正審判請求を行った(甲32,33)。

平成31年3月19日,原告の請求のとおりに訂正を認める旨の審決がされ,確定した(甲40,弁論の全趣旨)



訂正後の本件特許権1の特許請求の範囲の請求項1の記載は,
以下のとおり
である(以下,請求項1に記載された発明を本件訂正発明1-1という。
また,本件特許権1に係る明細書及び図面を本件明細書1と総称する。。)
天井の排気ダクトに接続された吸気部がその吸引端を加熱調理部付きテーブルの焼き網を備えた焼肉用の炭火コンロまたはガスコンロからなる加熱調理部に上方から臨ませ,この吸引端を介して吸引することにより,前記加熱調理部に対する排気を前記加熱調理部付きテーブルごとになせるようにされている,加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置において,前記吸気部がパイプで形成され,かつ前記吸引端が前記パイプの先端部開口のみで形成され,さらにこの吸引端のサイズが前記加熱調理部のサイズよりも小さくされ,そしてこの吸引端は,前記加熱調理部から前記焼き網を通過して立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされていることを特徴とする加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置。同請求項を分説すると,
以下のとおりである。
(以下,
分説された構成要件の
符号に従い,
構成要件1-1Aなどという。

1-1A

天井の排気ダクトに接続された吸気部がその吸引端を加熱調理部
付きテーブルの焼き網を備えた焼肉用の炭火コンロまたはガスコ

ンロからなる加熱調理部に上方から臨ませ,
この吸引端を介して吸
引することにより,
前記加熱調理部に対する排気を前記加熱調理部
付きテーブルごとになせるようにされている,
加熱調理部付きテー
ブル個別排気用の排気装置において,
1-1B
1-1C
前記吸気部がパイプで形成され,
かつ前記吸引端が前記パイプの先端部開口のみで形成され,

1-1D

さらにこの吸引端のサイズが前記加熱調理部のサイズよりも小さ
くされ,

1-1E

そしてこの吸引端は,前記加熱調理部から前記焼き網を通過して立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱
調理部に臨まされている

1-1F


ことを特徴とする加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置。
本件特許権1の特許請求の範囲の請求項3の記載は,以下のとおりである(以下,請求項3に記載された発明を本件訂正発明1-2という。。)

前記吸気部がその吸引端を上下動させるように形成されている請求項1または請求項2に記載の加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置。

同請求項を分説すると,以下のとおりである。

1-2A

前記吸気部がその吸引端を上下動させるように形成されている

1-2B

請求項1または請求項2に記載の加熱調理部付きテーブル個別排
気用の排気装置。

なお,上記で引用される本件特許権1の特許請求の範囲の請求項2の記載は,

前記吸引端のサイズが前記加熱調理部のサイズの1/3以下とされている請求項1に記載の加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置。

である。


本件特許権1の特許請求の範囲の請求項4の記載は,以下のとおりである(以下,請求項4に記載された発明を本件訂正発明1-3といい,本件訂
正発明1-1ないし1-3を併せて本件訂正発明1という。。

前記吸気部は,径の異なるパイプを継ぎ合わせることで伸縮できるように形成され,この伸縮により吸引端の上下動をなせるようにされている請求項3に記載の加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置。

同請求項を分説すると,以下のとおりである。
1-3A

前記吸気部は,
径の異なるパイプを継ぎ合わせることで伸縮できる
ように形成され,
この伸縮により吸引端の上下動をなせるようにさ

れている前記吸気部がその吸引端を上下動させるように形成され
ている
1-3B

請求項3に記載の加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置。
本件特許権2の特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである(以下,請求項1に記載された発明を本件発明2といい,本件訂正発明1と本件発明2を併せて本件各発明という。また,本件特許権2に係る明細書及び図面を本件明細書2と総称する。。

排気ダクトに接続された吸気部がその吸引端を加熱調理部付きテーブルの加熱調理部に上方から臨ませ,この吸引端を介して吸引することにより,前記加熱調理部に対する排気を前記加熱調理部付きテーブルごとになせるようにされている,加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置において,前記吸気部がパイプで形成され,かつ前記吸引端が前記パイプの先端部開口のみで形成され,さらにこの吸引端のサイズが前記加熱調理部のサイズよりも小さくされ,そしてこの吸引端は,前記加熱調理部から立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされており,さらに前記吸気部の途中に,前記加熱調理部付きテーブルの傍で人が通常の立ち状態で操作できる高さ位置でフィルタ装着部が設けられ,このフィルタ装着部に,前記排気中に含まれる油分の分離・回収用のグリースフィルタが脱着可能に装着されていることを特徴とする加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置。
本件発明2は,以下のとおり,分説することができる。
2A

排気ダクトに接続された吸気部がその吸引端を加熱調理部付きテーブルの加熱調理部に上方から臨ませ,この吸引端を介して吸引することにより,前記加熱調理部に対する排気を前記加熱調理部付きテーブルごとになせるようにされている,加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置において,
2B前記吸気部がパイプで形成され,

2Cかつ前記吸引端が前記パイプの先端部開口のみで形成され,
2D

さらにこの吸引端のサイズが前記加熱調理部のサイズよりも小さくされ,

2Eそしてこの吸引端は,
前記加熱調理部から立ち上る熱気流の上部を包み
込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされており,

2Fさらに前記吸気部の途中に,
前記加熱調理部付きテーブルの傍で人が通
常の立ち状態で操作できる高さ位置でフィルタ装着部が設けられ,2Gこのフィルタ装着部に,前記排気中に含まれる油分の分離・回収用のグリースフィルタが脱着可能に装着されている
2Hことを特徴とする加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置。


被告らの行為
被告サンタは,遅くとも平成27年8月18日以降,被告製品につき製造,販売,販売の申出をしている(甲5,乙29)

被告東産業は,遅くとも平成29年9月29日以降,被告製品につき販売及び販売の申出をしている(甲27の1ないし27の4)


被告山岡金属は,被告製品を販売している(争いのない事実)



本件特許1の出願前の公知文献
本件特許1の出願日(平成14年4月2日)前の公知文献として,平成12年9月15日に公開された韓国登録実用新案第20-0196621号公報
(乙23,以下乙23文献という。,昭和58年4月21日に公開された)
特開昭58-66743号公報(乙1,以下乙1文献という。,平成13)
年10月17日に公開された韓国登録実用新案第20-0246475号公報(乙2,以下乙2文献という。
)がある。
3争点


被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か(争点1)

先端部開口のみで形成
(構成要件1-1C,2C)の充足性(争点1
-1)


熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置
(構成要件1-1E,
2E)の充足性(争点1-2)


吸引端を上下動させるように形成
(構成要件1-2A,1-3A)の
充足性(争点1-3)



本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)ア
実施可能要件違反の有無(争点2-1)


本件訂正発明1-1につき乙23文献に記載された発明(以下乙23発明という。)に基づく新規性欠如の有無(争点2-2)




明確性要件違反の有無(争点2-3)
本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点3)



実施可能要件違反の有無(争点3-1)
公然実施による新規性欠如の有無(争点3-2)

損害の数額(争点4)

4争点に対する当事者の主張
先端部開口のみで形成
(構成要件1-1C,
2C)
の充足性
(争点1-1)
(原告の主張)
構成要件1-1C,2Cの前記吸引端が前記パイプの先端部開口のみで形成されとは,本件明細書1の図3及び本件明細書2の図5(これらの2つの
図は同じ図)に示されている,従来技術の排気装置の吸引端3に設けられているフード構造を備えていないという意味である。
すなわち,
本件各明細書には,
従来技術のフード構造の吸気部の問題点として,①吸引・排気の効率が必ずしも高くない
(本件明細書1の段落
【0003】
【0004】本件明細書2の

【0
003】
【0004】以下,

本件明細書1の段落については,
【0003】Ⅰ
などと示し,本件明細書2の段落については【0003】Ⅱなどと示す。,)
②飲食の邪魔になる(
【0004】Ⅰ,
【0004】Ⅱ)
,③部屋の空調に大きな

容量を必要とする(
【0005】Ⅰ,
【0005】Ⅱ)
,④吸気部を可動構造にす
る場合にその構造が大掛かりになる(
【0006】Ⅰ,
【0006】Ⅱ)という
問題があったことが記載されている。本件各発明は,これらの課題を解決することを目的とするものであり,
吸引端の開口サイズを小さくして吸引・排気を行うのが有効であるという知見【0007】Ⅰ,(
【0007】Ⅱ)に基づい

てされたものである。
被告製品の下端部は,フード構造やこれに準ずる構造は設けられておらず,パイプの先端開口部のみで形成されている。
したがって,被告製品は構成要件1-1C及び2Cを充足する。
(被告らの主張)

被告製品には,
先端部の筒内には箸袋等の雑物の吸引を防止するための侵
入防止ネットと油溜めが設けられているから,
先端部開口のみで形成の
要件を充足しない。


原告は,
先端部開口のみで形成との要件は従来技術のフード構造や遮
板を備えていないという意味である旨主張するが,
同主張は本件各明細書に

根拠を有するものではなく,失当である。


熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置
(構成要件1-1E,2
E)の充足性(争点1-2)

(原告の主張)

被告製品の吸引部は,上下に20㎝伸縮できる構造となっており,この長さを適当に調整することにより,
吸引端を加熱調理部から立ち上る熱気流の
上部を包み込むことのできる高さ位置で加熱調理部に臨まされることができる構造を備えているから,構成要件1-1E及び2Eを充足する。イ
被告らは,
被告製品の吸引端は焼き面から23㎝の位置に固定されて設置
されており,本件特許1が吸引端の通常の高さ位置とする15cmないし20㎝(
【0024】Ⅰ)と異なると主張するが,
熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置は加熱調理部の種類や大きさ,火力,吸引端の開口サイズ,吸引端から吸引・排気する風量の設定等によって異なる。15cmないし20㎝という高さ位置は加熱調理部が炭火コンロである場合の実施例の数値にすぎず,被告製品の吸引端が23㎝であったとしても,構成要件1-1E及び2Eを充足しないとはいえない。

被告は被告製品の吸引端が固定されていると主張するが,
被告製品の吸引
筒を下げた状態での高さ位置が
熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置である以上,被告製品が構成要件1-1E及び2Eを充足するから,吸引端の位置が固定されているか否かは,充足の有無に影響を与えない。ウ
被告らは,熱気流は目視することができないにもかかわらず,被告製品は熱気流を検知し,
熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置に吸引
端を臨ませる技術手段を備えていないとも主張するが,
煙は加熱調理部から
立ち上る熱気流に沿って流れる傾向にあり【0009】【0019】(
Ⅰ,
Ⅰ,
【0008】Ⅱ,
【0012】Ⅱ)
,煙や水蒸気は容易に目視することができ
るから,加熱調理部から立ち上る煙を観察することで,
加熱調理部から立ち上る熱気流の状態を把握することができる。
(被告らの主張)

本件各明細書においては,
熱気流の上部が熱気流の上端部であること
が繰り返し説明されているから(
【0009】Ⅰ,
【0019】Ⅰ)
,本件各

発明は,
排気装置の吸引端が熱気流の上端部を包み込むことのできる高さ位置にあることを技術的範囲とする発明と解される。しかし,熱気流は目視することができず,被告製品は熱気流を検知し,当該熱気流の上端部位置に吸引端を臨ませる技術手段を備えていない。

構成要件1-1E
加熱調理部から焼き網を通過して立ち上がる熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置は火源から立ち上り焼き網を通過す
る熱気流の上部
(上端部)に着眼,把握し,これに基づいて定める高さ

位置であって,
従来からの慣行技術である専ら焼き網上の食材から立ち上る
煙に着眼して定める高さ位置は含まれない。被告製品は,加熱調理部に臨ませる吸引端の位置を加熱調理部から発生する煙を十分に吸引できる高さ位置とするものであり,
熱気流に着眼しているものではなく,熱気流の上部」
を把握することなく吸引端の高さ位置を定めている。ウ被告製品は,吸引筒部分を収納時位置から22㎝降下させて使用するのであり,吸引筒の上下動は,収納時と使用時の切り替えのためだけに用いられ,中間位置に停止することはできないから,使用時に現場で吸引端の高さ位置を調整することはできない。また,吸引端の位置は,排気装置を設置する段階で,通常焼き面から23㎝の高さ,火源から24cmないし25㎝程度の高さに固定して設置される。そして,この高さ位置は,本件明細書1において,吸引端の通常の高さ位置とする15cmないし20㎝(【0024】Ⅰ)とは異なるから,被告製品の吸引端の位置は「熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置に設置されていない。


したがって,被告製品は構成要件1-1E,2Eを充足しない。

⑶吸引端を上下動させるように形成
(構成要件1-2A,1-3A)の充足
性(争点1-3)
(原告の主張)
被告製品は,その吸引端を上下動させるように形成されているから,構成要件1-2A,1―3Aを充足する。
これに対し,被告らは,被告製品の吸引端は使用時に上下動させるものではないと主張するが,被告製品は,その設置時に吸引端の高さ位置を熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置に設定することができるのであり,吸引端を上下動させることができる。
また被告らは,
使用時における被告製品の吸引端はコンロ上部から23㎝の

高さ位置に固定されるとも主張するが,23㎝は被告サンタが推奨する高さ位置にすぎず,
利用者はこの数値に拘束されることなく最適な高さ位置に吸引端
を設定することができるから,被告らの反論には理由がない。
(被告らの主張)
被告製品は,吸引端を収納時の位置から20㎝降下させて使用するが,これ
は収納時と使用時の切り替えのためであって,吸引端として使用時に上下動させるものではない。
被告製品において,
使用時は必ず上記降下位置に固定され,
その位置は排気装置の設置時にこんろの上部から23㎝の高さ位置となるように固定されるから,使用者は,使用時に吸引筒を上下させて高さ位置を移動させることができない。

したがって,
被告製品は
吸引端を上下動させるように形成
を充足しない。


本件特許1につき実施可能要件違反の有無(争点2-1)

(被告らの主張)

構成要件1-1Eは,
熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置
とするが,本件各明細書には,熱気流や熱気流の上端部がいかなるものであ
り,
これをどのような技術手段をもって認識することができるのかについて記載はなく,熱気流や熱気流の上端部に関わる実施例も存在せず,課題解決手段に係る技術的説明は一切存在しない。

原告は,熱気流や熱気流の上端部は,サーモグラフィーによって認識することができるかのように主張するが,
本件明細書1にはそのような記載は存
在しない上,本件特許1の出願時において,サーモグラフィーを用いることは当業者(加熱調理部付テーブル個別排気用の排気装置の製造者・使用者)の技術常識ではなかった。
サーモグラフィーを用いるとしても,被告が実施した実験結果(乙27,33,34)によれば,加熱調理部から立ち上る熱気流らしきものは収束することなく,高さ位置らしきものは常に変動し,特定することがない。そう
すると,当業者は,どの位置をもって熱気流の上端部と特定することも困難であり,熱気流及び熱気流の上端部を特定することはできないから,本件各発明が解決すべき課題を解決することはできない。

したがって,本件明細書1には,当業者がその技術常識に基づいて,課題解決手段その他の技術上の意義を理解,
実施することのできる明確かつ十分

な開示がなく,実施可能要件に違反することは明らかである。
(原告の主張)

本件明細書1は,
【0009】及び【0019】において熱気流がローソ
クの炎のように立ち上がる旨を説明した上で,図2(本件明細書2の図7と同じ図であり,別紙図面のとおりの図である。以下本件図という。)に

おいて熱気流Hの上部又は上端部を明確に図示している。

また,
加熱調理部から発生する熱気流はローソクの炎のようなパターンで立ち上っていること,
加熱調理部から発生する煙もこの熱気流に乗って流れ
る傾向にあること,熱気流の上部(上端部)は煙を目視することによって知ることができることは,実験結果(甲37,42,44ないし47)から明
らかである。

被告は,サーモグラフィーを用いても熱気流及び熱気流の上部を
特定できないと主張するが,
熱気流は熱い気体の流れであるため揺れ動くの
は当然であるし,サーモグラフィーに映し出された熱気流を観察すると,上
昇するに伴い,熱気流が一定程度,中央部分に三角形状に収束し,その後空中に拡散している。また,煙の形と熱気流の形には一定の共通性を見出すことが可能であり,
煙が拡散する位置と熱気流が拡散する位置は概ね一致して
いることが明確に見て取れるから,
煙が熱気流に沿って流れる傾向にあるこ
とも強く裏付けられている。

本件訂正発明1-1につき乙23に基づく新規性欠如の有無(争点2-2)
(被告らの主張)
本件特許1の出願前である平成12年9月15日に公開された乙23文献には,以下のとおり,本件訂正発明1-1の構成要件を全て充足する乙23発明が開示されているから,本件訂正発明1-1は特許法29条1項3号に該当して新規性を欠き,
同法123条1項2号に該当して無効とされるべきもので

ある。

構成要件1-1A
乙23発明では,
天井の排気管260に接続された煙吸入管242が伸長
して吸入管入口242aを食卓の上面近傍に位置させ,
吸入管入口242a
を,
焼き網270を備えた焼肉用の七輪210からなる加熱調理部に上方から臨ませ,一つの七輪ごとに排気させていて,これは,構成要件1-1Aと
同一の構成であり,同構成が開示されている。

構成要件1-1B
乙23発明では,
直立形成されたパイプである煙吸入管242が連結され
ていて,これは,構成要件1-1Bと同一の構成であり,同構成が開示されている。


構成要件1-1C
乙23発明では,煙吸入管242にはフードが設けられておらず,その吸引端は吸入管入口242aの開口部のみで形成されていて,これは構成要件1-1Cと同一の構成であり,同構成が開示されている。


構成要件1-1D
乙23発明では,煙吸入管242の直径と七輪の直径の比は1:3ないし1:5が好ましいとしていて,これは構成要件1-1Dと同一であり,同構成が開示されている。

構成要件1-1E
乙23発明は,専ら煙の流れ方に着眼し,煙を最も効率的に吸引する高さ位置として,煙吸入管の端と前記焼き網の隔離した高さは8cmないし15
㎝であることを特徴とする。
原告の主張するように,
構成要件1-1Eの
熱気流の上部
(上端部)を煙の流れから判断することが可能であったとした
場合,この高さ位置は乙23発明の吸入管入口(242a)の高さ位置と何ら異なることがない。
したがって,乙23発明の吸入管入口は熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置に臨まされているから,構成要件1―1Eの構成と同一であり,同構成が開示されている。

構成要件1-1F
乙23発明は,
加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置に係る発明

であるから,構成要件1-1Fの構成と同一である。
(原告の主張)
乙23文献には構成要件1-1Eが開示されていないから,本件訂正発明1-1が新規性を欠くことはない。
すなわち,本件訂正発明1-1は,熱気流が上昇することによって収束する
ことに着目し,
熱気流が最も絞り込まれた位置に吸引端を設置することによっ
て,少ない吸引量でもって効率的に排気することを可能にし,その結果,より少ない空調容量で足りるようにし,空調コストを抑えることを可能にしたものである。これに対し,乙23発明は七輪(210)から発生する煙がスムーズに前記吸引管に吸引されるようにするために,吸引端を,8㎝という火災
ややけどの危険性がある高さまで可能な限り加熱調理部に近づけることが妥当であるとの技術思想に基づくものである。このように,本件訂正発明1-1と乙23発明は技術思想が異なり,乙23文献は本件訂正発明1-1の上記技術思想を何ら開示していないから,構成要件1-1Eを開示していない。また,乙23の吸引端の高さ位置の上限は15㎝とされており,本件訂正発明1-1の15㎝(
【0024】Ⅰ)と同じであるが,構成要件1-1Eの熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置は,加熱調理部の種類によって異なり,また,加熱調理部の大きさや火力の大小によっても異なり得るため,特定の数値をもって発明の技術的範囲を画していない。これに対して,乙23文献には,15㎝が熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置であることの直接的な記載が一切ないことはもちろんのこと,加熱調理部の種類や加
熱調理部の大きさ,火力の大小など熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置に影響を与え得る情報に関する記載も一切ない。したがって,乙23文献に記載された吸引端の高さ位置の上限である15㎝は,構成要件1-1Eの開示には当たらないことが明らかである。⑹

本件特許1につき明確性要件違反の有無(争点2-3)

(被告らの主張)
構成要件1-1Eには熱気流の上部とあり,その文言から熱気流の最上部となる位置を意味するとも思われるが,本件明細書1の記載を参酌しても,排気装置を使用する際に熱気流の部分と熱気流でない部分が存在すること自体も,熱気流がいかなる基準で非熱気流と区分されるものであるかも,その技
術的概念を明確に理解することができない。
また,
熱気流の上部は当該技術分野における確立した技術用語ではない
から,
熱気流の上部
を基準として定める吸引端の高さ位置は,
当業者にとっ
て明瞭な高さ位置ではない。
したがって,構成要件1-1Eは技術上の明確性を欠き,本件訂正発明1-
1ないし1-3は明確性要件に適合しない。
(原告の主張)
構成要件1-1Eにおける熱気流が熱い気流を意味することは,通常の日本語の意味として明らかである。また,本件明細書1においては熱気流が加熱調理部から炎のようなパターンで立ち上る【0009】Ⅰ,(
【0
026】Ⅰ)ものであるとされていることや,加熱調理部から発生する空気を熱気【0003】Ⅰ)と表現されていることから,

熱気流とは加熱調理

部で発生した高温の燃焼ガスの流れであると明確に理解できる。
そして熱気流の上部とは,
【0019】Ⅰ,
【0009】Ⅰ及び図2の熱気流Hの記載から,加熱調理部で発生した高温の燃焼ガスがローソクの炎のパターンで立ち上り,吸引端の径よりも小さく収束する位置(実施例についていえば本件図の熱気流Hの上部)であることが,明確かつ容易に理解でき
る。
したがって,
熱気流の上部
の意義は,
請求項の記載文言及び本件明細書1
の記載から明らかであり,明確性要件違反はない。

本件特許2につき実施可能要件違反の有無(争点3-1)

(被告らの主張)
構成要件2E吸引端は,前記加熱調理部から立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされておりについて,前記⑷と同様の理由によって,本件特許2には,実施可能要件の違反がある。(原告の主張)
前記⑷と同様の理由(ただし,熱気流がローソクの炎のように立ち上がる旨
を説明しているのは本件明細書2【0008】
【0012】
)により,本件特許
2に実施可能要件の違反はない。


本件特許2につき公然実施による新規性欠如の有無(争点3-2)
(被告らの主張)
原告は,
本件特許2の出願日である平成14年10月9日より前である同年5月31日頃より,本件特許2の実施品であり,本件発明2に係る構成要件2Aないし2Hを全て充足する
クリアーフードNC-02-IFC
(以下
クリアーフードという。
)を製造,販売していた。その結果,例えば焼肉店しちりん南流山店には,平成14年8月30日までにクリアーフードが譲渡,引き渡され,同店で顧客に焼肉を提供するために使用されていた。したがって,本件発明2は,出願前に日本国内において公然実施されたもの
であり,特許法29条1項2号により無効とされるべきものである。(原告の主張)
争う。

損害の数額(争点4)

(原告の主張)
原告は,以下のとおり,被告サンタの行為により6億6000万円,被告東産業の行為により2億2000万円,被告山岡金属の行為により8800万円の各損害を被った。

特許法102条2項に基づく損害
被告サンタは,平成15年10月27日から口頭弁論終結時に至るまで,
被告製品を製造し,販売又は販売の申出をしているところ,販売台数は3万台を下らず,これにより得た利益は1台当たり2万円,総額6億円(3万台×2万円)を下回らない。
被告東産業は,上記期間,被告製品を被告サンタから仕入れ,販売又は販売の申出をしているところ,販売台数は1万台を下らず,これにより得た利
益は1台当たり2万円,総額2億円(1万台×2万円)を下回らない。被告山岡金属は,上記期間,被告製品を被告サンタから仕入れ,販売又は販売の申出をしているところ,販売台数は4000台を下らず,これにより得た利益は1台当たり2万円,総額8000万円(4000台×2万円)を下回らない。


弁護士費用相当損害金
前記アの各損害額の1割を下回らない。
(被告らの主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1本件訂正発明1及びその意義
本件明細書1には,以下の記載がある。

発明の属する技術分野
本発明は,例えば炭火コンロやガスコンロなどのような加熱調理部が取り付けられている加熱調理部付きテーブルに対して個別に排気をなす(
【0
001】Ⅰ)


従来の技術
加熱調理部付きテーブルに対する個別排気のための排気装置は,加熱調理部付きテーブルが据えられている焼肉店などの飲食店に設置されるのが一般的である。そのような排気装置の従来における代表的な構成を簡略化して図3に示す。この排気装置は,排気用の送風機1,この送風機1に接続され,通常は天井Sの裏を通される排気ダクト2,この排気ダクト2に接続され,その吸引端3を加熱調理部付きテーブルTの加熱調理部(図示を省略)に上方から臨ませるようにして設けられる吸気部4を含んでいる。そしてその吸気部4は,いわゆるフード構造とされている。つまり吸気部4は,スカート状にして下方に向けて広がるように形成され,その吸引端3のサイズが加熱調理部のサイズよりも大きくなるようにされている。そしてその大きなサイズの吸引端3が加熱調理部付きテーブルTから所定高さ離れた上方において加熱調理部を広く覆うようにされている。上記のように従来の加熱調理部付きテーブル用の個別排気装置では,その吸気部がフード構造に形成されていた。これは,吸気部をフード構造にしてその吸引端のサイズを加熱調理部のサイズより大きくすることで,加熱調理部から発生する煙や熱気をより効率的に吸引・排気できるという考え方に基づくものである。しかし実際には必ずしも効率的な吸引・排気がなされておらず,周辺の空気にわずかな流れがあってもそれで吸引流が乱されて漏れのない吸引・排気をなせなくなるというのが実情である。フード構造の吸気部は,このように吸引・排気の効率が必ずしも高くないというだけでなく,そのサイズが大きいということに伴って以下のような問題も招いていた。その一つは,サイズの大きいフード構造の吸気部が上方から臨んでいるので,それが加熱調理部付きテーブルを囲んでの飲食の邪魔になるということである。このことは従来でも当然に考慮され,吸引端をできるだけ加熱調理部付きテーブルから離すようにしていた。しかし吸引・排気能力との関係で離せる高さは,加熱調理部付きテーブルの上面から400~500mm程度が限界であり,飲食中に圧迫感を与えたり,また会話を楽しんだりしながらの飲食の雰囲気が損なわれたりするのを避けられなかった。他の一つは,加熱調理部付きテーブルを設置してある部屋の空調に大きな容量を必要とし,それだけ空調コストが増加するという問題である。すなわち吸気部がサイズの大きいフード構造であるために排気風量を大きくする必要があることから室内の空気の循環量が多くなり,その結果として大きな空調容量が必要になり,空調コストの増加を招いていたということである。この他にも,吸気部を可動構造にする場合にその構造が大掛かりになるという問題もある。すなわち加熱調理部付きテーブルが据えてある店内の美観などのために非使用時に吸引端を引き上げておくことができるようにするべく,可動構造を吸気部に与える場合に,吸気部が重いためにその可動構造が大掛かりにならざるを得ないということである。(【0002】~【0006】Ⅰ)

課題を解決するための手段
本発明の発明者は上記のような従来の排気装置におけるフード構造に疑問を抱き,加熱調理部付きテーブルのための個別排気について様々な実験を行なった。その結果,加熱調理部付きテーブルの加熱調理部からの煙や熱気を排気するような局所的な排気においては,吸気部をフード構造にすることは有効でなく,逆に吸引端の開口サイズを小さくして吸引・排気を行なうのが有効であることを見出した。吸引端のサイズを小さくして吸引・排気を行なうことが有効である理由は,以下のように考えられる。すなわち加熱調理部付きテーブルの加熱調理部からはローソクの炎のようなパターンで熱気流が立ち上っており,加熱調理部からの煙もこの熱気流に乗って流れる傾向にある。そのためこの熱気流の上端部に吸引端を臨ませて集中的な吸引をなすことで,より効率的な排気を行なえるようになるということである。このような排気メカニズムから,熱気流に臨ませる吸引端のサイズは,熱気流の上端部における広がりよりも若干大きい程度で足り,またこの要求を満足させる範囲においてできるだけ小さくするのが熱気流の上端部での集中的な吸引をなすのに効果的である。したがって熱気流に臨ませる吸引端のサイズは少なくとも加熱調理部のサイズより小さいことが条件で,最も好ましい条件は,熱気流の上端部の広がりより若干大きい程度のサイズに吸引端を形成することである。その実際的な目安は加熱調理部のサイズの1/3以下として与えられる。したがって本発明では,排気ダクトに接続された吸気部がその吸引端を加熱調理部付きテーブルの加熱調理部に上方から臨ませ,この吸引端を介して吸引することにより,前記加熱調理部に対する排気を前記加熱調理部付きテーブルごとになせるようにされている,加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置において,前記吸気部がパイプで形成され,かつ前記吸引端が前記パイプの先端部開口のみで形成され,さらにこの吸引端のサイズが前記加熱調理部のサイズよりも小さくされ,そしてこの吸引端は,前記加熱調理部から立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされていることを特徴とする。【0008】【0010】(

Ⅰ)

また本発明では,上記のような排気装置について,吸気部がその吸引端を上下動させるように形成することを好ましい構成とする。(

【0012】Ⅰ)

また本発明では,上記のような排気装置について,径の異なるパイプを継ぎ合わせることで伸縮できるようにし,この伸縮により吸引端の上下動をなせるように吸気部を形成することを好ましい構成とする。(

【0013】Ⅰ)

発明の実施の形態
下段のパイプ13は,その先端を吸引端12としており,この吸引端12のサイズ,より具体的にはその開口サイズRが加熱調理部KのサイズWより小さくなるようにされている。吸引端12の開口サイズをこのように設定したのは,図2(判決注:本件図)に示すように,加熱調理部Kからはローソクの炎のようなパターンで熱気流Hが立ち上っており,加熱調理部Kからの煙もこの熱気流Hに乗って流れる傾向にあることを利用して加熱調理部Kからの煙や熱気を効率的に吸引して排気できるようにするためである。つまり熱気流Hの上端部を包み込むように吸引端12を臨ませることで,熱気流Hを効果的に利用した吸引をなすことができ,これにより加熱調理部Kからの煙や熱気をより効率的に吸引して排気できるようにしているということである。熱気流Hの上端部を吸引端12が包み込む広さは熱気流Hの上端部の広がりよりも若干広い程度で足りる。(【0019】Ⅰ)オ
発明の効果
以上説明したように本発明によると,加熱調理部付きテーブルに対する個別排気について従来よりも効率的な排気をなすことができる。また吸気部の吸引端のサイズをきわめて小さくすることができ,吸気部が加熱調理部付きテーブルを囲んでの飲食の邪魔になるようなことも効果的に避けることができる。また吸気部の吸引端のサイズを小さくすることで,排気のための風量を減らすことができ,空調コストの低減が可能となるとともに,吸気部の吸引端を上下動させるについて,そのための機構を簡易なもので済ませることができ,その可動化におけるコストを低減することも可能となる。【0(
030】Ⅰ)
本件訂正発明1の意義
前記

によれば,本件訂正発明1の意義は以下のとおりであると認められる。
加熱調理部付きテーブルに対する個別排気のための排気装置における従来の技術は,
吸気部をフード構造にしてその吸引端のサイズを加熱調理部のサイズより大きくするというものであった。しかし,この技術には,必ずしも効率的な吸引・排気がされておらず,周辺の空気にわずかな流れがあってもそれで吸引流が乱されて漏れのない吸引・排気ができなくなる,加熱調理部付きテーブルを囲んでの飲食の邪魔になる,空調に大きな容量を必要とする,吸気部が重いため吸気部を可動構造にする場合にはその構造が大掛かりになるといっ
た問題点があった。
本件訂正発明1は,
加熱調理部付きテーブルの焼き網を備えた焼き肉用の炭
火コンロ又はガスコンロにおいて,加熱調理部からはローソクの炎のようなパターンで熱気流が立ち上り,加熱調理部からの煙もその熱気流に乗って流れる傾向にあるとの知見を前提として,この熱気流の上端部に,熱気流の上端部の
広がりより若干大きい程度のサイズ(実際的な目安は加熱調理部のサイズの3分の1以下)の吸引端を臨ませる排気装置とすることによって,より効率的な排気を行なうことができ,また,吸気部の吸引端のサイズを小さくすることができ,これにより飲食の邪魔になることを避け,空調コストの低減が可能になるとの作用効果を奏するものであると認められる。

2争点2-1(実施可能要件違反の有無)について
事案に鑑み,まず争点2-1について判断する。
平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項は,明細書の発明の詳細な説明の記載はその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならないと定める。物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)
,同条にいう記載がされてい
るというためには,物の発明については,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用することができる必要があるといえる。
⑵ア

本件訂正発明1-1についてみると,構成要件1-1Eは吸引端は,前記加熱調理部から前記焼き網を通過して立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされているとするから,本件各発明を実施するためには,排気装置の生産,使用に当たり,その吸引端をこの
熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置
とする必要があり,
熱気流の上部を検知できなければならない。

また,本件明細書1には,課題を解決するための手段として,前記の記載があり,発明の実施形態として,同エの記載があり,本件図が掲載されている。これらによれば,本件訂正発明1は,加熱調理部付きテーブルの加熱調理部からはローソクの炎のようなパターンで熱気流が立ち上っており,その熱気流には,上記の炎と同じような上端部があるという前提に基づ
き,この熱気流の上端部に吸引端を臨ませて,集中的な吸引をするというものである(
【0009】Ⅰ)
。また,その立ち上るという熱気流は,本件図の
とおりとされていて,本件図において,
熱気流(H)として,加熱調理部
の上部から吸引端の付近まで三角形に似た形状(以下本件三角形状という。
)が示されている(
【0019】Ⅰ)


これらによれば,
本件明細書1によれば,
熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置は,本件図に示された加熱調理部の上部にある本件三角形状の頂点である熱気流の上端部を吸引端が包むことができる位置であり,熱気流の上部とは,本件三角形状の頂点である熱気流の上端部をいうものといえる。

被告は,熱気流の上部を特定することができず,本件訂正発明1が実施可能要件に違反すると主張する。
熱気流そのものは目視できないものの,
原告は,
本件明細書1には,
加熱調理部からの煙もこの熱気流に乗って流れる傾向にある【0009】Ⅰ)(
等の記載があることを挙げて,熱気流に乗って流れる煙を目視することで,熱気流の上部を知ることができる旨主張する。
なお,本件明細書1において,その記載に照らせば,本件訂正発明1の加
熱調理部から焼き網を通過して立ち上る熱気流は排気装置の吸引端における吸引をしない状態で本件三角形状になるとされているものと認められ,原告も,このことを前提として,上記のとおり,その上部(上端部)を知ることができると主張する。

ここで,炭火コンロにおける煙の立ち上り方等についてみると,加熱調理部である炭火コンロから発生する煙の様子を通常のカメラで撮影した動画(甲37,46,47,乙27,34)及び乙29(30枚目)によれば,加熱調理部から発生した煙は,
いずれも上方に行くにしたがって徐々に拡散
しており,加熱調理部の上方のいずれかの位置において,本件図に示された
本件三角形状のように収束する様子は見られない。
原告は,
上記動画
(甲46)
の30秒及び52秒時点における煙の動き
(甲
43の画像10及び画像11)を見ると,炭火コンロから発生した煙は炭火コンロの中央上部に向かって収束するように立ち上っていることが見て取れると主張する。しかし,煙がコンロの中央上部に向かって立ち上るように
みえる動きをする瞬間があったとしても,一定の時間を通じて見ると,加熱調理部から発生した煙は,
いずれも上方に行くにしたがって徐々に拡散して
おり,加熱調理部の上方のいずれかの位置において,本件図に示された本件三角形状のように収束する様子は見られない。
これらによれば,本件各発明を実施しようとする者が,煙の動きを観察したとしても熱気流の上部の位置を特定することができるとは認められないというべきである。


原告は,炭火コンロをサーモグラフィー(物体から放射された赤外線をレンズでサーモパイルと呼ばれる検出素子に集光し,これを増幅し,放射率補正を行って温度を色により表示する計測器,乙31の2)によって撮影した動画(甲37,44ないし45)を見ると,加熱調理部から発生する高温部
分は,上昇するに伴い中央部分に三角形状に収束し,その後空中に拡散している様子が観察でき,これが本件三角形状である旨主張する。
原告が提出する上記各動画(甲37,42,44,45)を見ると,加熱調理部である炭火コンロの上部に三角形状の高温部分が存在することが認められるものの,被告が撮影した同様の動画(乙27,33,34)には,
原告の上記各動画に現れているような三角形状の高温部分は撮影されていない。気体は赤外線の放射エネルギー量が非常に小さく,サーモグラフィーは気体の温度測定に適さないこと(乙31の1,31の2)に照らしても,原告の提出する各動画において観察される三角形状の高温部分は,加熱調理
部から発生する熱気流のうち,
サーモグラフィーで捉えられる一部のみが撮

影された可能性があり,これらの動画から,直ちに炭火コンロから発生する熱気流が三角形状に収束し,
サーモグラフィーにより熱気流の上端部を知る
ことができると認めることは困難である。また,原告が同一の炭火コンロをサーモグラフィーと通常のカメラの両方で撮影したとみられる動画(甲37)
によれば,煙は,サーモグラフィーで撮影された上記高温部分に沿うことな
く,これとは関係のない形状で上昇していると認められる。本件明細書1によれば煙は熱気流に乗って流れるというのであるから,
熱気流に乗って流れ
る煙の形状とも異なる上記高温部分の存在により,
熱気流の上端部を認識す
ることができるとも認められない。
以上によれば,本件特許1の出願当時(平成14年)において,仮に当業者においてサーモグラフィーを使用することがあったとしたとしても,本件
明細書の記載や技術常識に基づいて,
加熱調理部から立ち上る熱気流の全体

やその熱気流の上部を検知することはできない。

以上によれば,
本件訂正発明1-1を実施するためには,
排気装置の生産,
使用に当たり,その吸引端を熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置(構成要件1-1E)
とする必要があるところ,
本件明細書1において,
当業者が熱気流の上部を検知して本件訂正発明1-1を生産,使用する
ことができる程度に明確かつ十分な記載がされているとは評価できない。⑶

本件訂正発明1-2及び1-3は,加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置の発明であるところ,いずれも構成要件1-1Eをそれらの排気装置の構成とする。
したがって,
前記

と同様の理由により,
本件明細書1において,

当業者が熱気流の上部を検知して本件訂正発明1-2及び1-3を生産,使用することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとは評価できない。
したがって,本件訂正発明1に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,特許法104条の3第1項により,本件訂正発明1に係る特許権を行使することができない。

3本件発明2及びその意義
本件明細書2には,
発明の属する技術分野として,
本件明細書1と同じ記載
(前

引き続き,以下の記載がある。また,本件明細書2の図7は,本件明細書1の図2と同じ図であり,本件図である。

従来の技術
以上のように従来の加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置にはいくつかの問題があり,その改良が求められていた。このような要求に対して,本願の発明者は,特願2002-099758号(判決注:本件特許1)として新たな排気装置を先に提案している。この排気装置は,加熱調理部付きテーブルの加熱調理部からの煙や熱気を排気するような局所的な排気においては,吸気部をフード構造にすることは有効でなく,逆に吸引端の開口サイズを小さくして吸引・排気を行なうのが有効であるという知見に基づいている。吸引端のサイズを小さくして吸引・排気を行なうことが有効である理由は,以下のように考えられる。すなわち加熱調理部付きテーブルの加熱調理部からはローソクの炎のようなパターンで熱気流が立ち上っており,加熱調理部からの煙もこの熱気流に乗って流れる傾向にある。そのためこの熱気流の上端部に吸引端を臨ませて集中的な吸引をなすことで,より効率的な排気を行なえるようになるということである。このような排気メカニズムから,熱気流に臨ませる吸引端のサイズは,熱気流の上端部における広がりよりも若干大きい程度で足り,またこの要求を満足させる範囲においてできるだけ小さくするのが熱気流の上端部での集中的な吸引をなすのに効果的である。したがって熱気流に臨ませる吸引端のサイズは少なくとも加熱調理部のサイズより小さいことが条件で,最も好ましい条件は,熱気流の上端部の広がりより若干大きい程度のサイズに吸引端を形成することであり,その実際的な目安は加熱調理部のサイズの1/3以下として与えられる。このような考え方に基づいた特願2002-099758号における排気装置の一構成例を図6と図7に簡略化して示す。・・・下段のパイプ13は,その先端を吸引端12としており,この吸引端12のサイズ(開口サイズR)が加熱調理部KのサイズWより小さくなるようにされている。吸引端12の開口サイズをこのように設定したのは,図7に示すように,加熱調理部Kからはローソクの炎のようなパターンで熱気流Hが立ち上っており,加熱調理部Kからの煙もこの熱気流Hに乗って流れる傾向にあることを利用して加熱調理部Kからの煙や熱気を効率的に吸引して排気できるようにするためである。つまり熱気流Hの上端部を包み込むように吸引端12を臨ませることで,熱気流Hを効果的に利用した吸引をなすことができ,これにより加熱調理部Kからの煙や熱気をより効率的に吸引して排気できるようにしているということである。熱気流Hの上端部を吸引端12が包み込む広さは熱気流Hの上端部の広がりよりも若干広い程度で足りる。そしてこのことを満足させる範囲においてできるだけ吸引端12の開口サイズRが小さくされる。このため,吸引端12の開口サイズは加熱調理部Kのサイズの1/2以下となるのが通常で,最も好ましいのは1/3程度である。図の例では,加熱調理部Kが炭火コンロであり,この炭火コンロKの燃焼部の径サイズWに対して開口サイズRを1/3に設定している。(【0007】~【0012】
Ⅱ)

発明が解決しようとする課題
上で説明したように特願2002-099758号の排気装置では,防火に関する構造の一つとして,グリースフィルタが設けられている。このグリースフィルタは,排気中の油分が排気ダクトに流れ込んで込むのを防ぐために分離・回収する機能を負っている。そのため経時的に油分が蓄積することになるので,定期的に交換したり清掃したりする必要がある。しかし特願2002-099758号の排気装置では,グリースフィルタが吸気部の排気ダクトへの接続端に設けられており,排気ダクトが通っている天井裏に位置するようになっている。このため,グリースフィルタの交換や清掃を天井に設けた作業口などから行なう必要があり,その作業負担が大きくなってしまう。特に特願2002-099758号の排気装置のように,吸気部を細くして吸気効率を向上させている構造では,グリースフィルタによる油分の回収量も多くなり,グリースフィルタの交換や清掃の頻度が高くなるので,その作業負担が大きくなる。そこでグリースフィルタの交換や清掃をより容易に行なえるようにすることが求められる。本発明は,このような要求に応えるためになされてものであり,特願2002-099758号で提案されている排気装置について,グリースフィルタの交換や清掃を容易に行なえるように改良することを目的としている。(【0015】~【0016】Ⅱ)

課題を解決するための手段
上記目的を達成するために本発明では,排気ダクトに接続された吸気部がその吸引端を加熱調理部付きテーブルの加熱調理部に上方から臨ませ,この吸引端を介して吸引することにより,前記加熱調理部に対する排気を前記加熱調理部付きテーブルごとになせるようにされている,加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置において,前記吸気部がパイプで形成され,かつ前記吸引端が前記パイプの先端部開口のみで形成され,さらにこの吸引端のサイズが前記加熱調理部のサイズよりも小さくされ,そしてこの吸引端は,前記加熱調理部から立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされており,さらに前記吸気部の途中に,前記加熱調理部付きテーブルの傍で人が通常の立ち状態で操作できる高さ位置でフィルタ装着部が設けられ,このフィルタ装着部に,前記排気中に含まれる油分の分離・回収用のグリースフィルタが着脱可能に装着されていることを特徴としている。(【0017】Ⅱ)

発明の実施の形態
以下,本発明の実施の形態を説明する。図1に第1の実施形態による加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置の構成を簡略化して示す。この排気装置は,基本的な構造において図7における排気装置のそれと同様で,この基本構造を前提に所定の高さ位置にフィルタ装着部30が設けられている。・・・そしてその吸気部34は,下段のパイプ33の先端を吸引端35としており,この吸引端35の開口サイズが加熱調理部付きテーブルTの加熱調理部Kのサイズより小さくなるようにされ,これにより図7の排気装置について説明したのと同様に,効率的な吸引・排気をなせるようにされている。(【0019】Ⅱ)


発明の効果
以上説明したように本発明によると,特願2002-099758号で提案されている排気装置における多くの利点を活かした上で,さらにグリースフィルタの清掃や交換をごく手軽に行なえることができるようになり,さらに一層使い易い排気装置を実現することができる。(【0029】Ⅱ)本件発明2の意義

の交換や清掃の作業負担が大きくなるとの課題があったことから,その技術に対して,
吸気部の途中に加熱調理部付きテーブルの傍で人が通常の立ち状態で操作できる高さ位置でフィルタ装着部を設け,このフィルタ装着部に,前記排気中に含まれる油分の分離・回収用のグリースフィルタを着脱可能に装着することにより,本件訂正発明1における作用効果に加えて,グリースフィルタの交換や清掃を容易に行なえるとの作用効果を奏するものであると認められる。4争点3-1(実施可能要件違反の有無)について

本件発明2の構成要件2Eは,本件訂正発明1の構成要件1-1Eと基本的に同じであり,
そしてこの吸引端は,前記加熱調理部から立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされておりというものである。
そして,この技術的な意義等に関する本件明細書2の記載は,本件明細書1の記
載と同じものである。
本件発明2を実施するためには,排気装置の生産,使用に当たり,その吸引端をこの
熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置
(構成要件2E)
とする必要
があるところ,
前記2によれば,
本件明細書2において,
当業者が
熱気流の上部
を検知して本件発明2を生産,使用することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとは評価できない(特許法36条4項1号)

したがって,本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,特許法104条の3第1項により,本件発明2に係る特許権を行使することができない。
第4結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから
棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官

柴田義
裁判官

安岡美
裁判官

古川善明香子敬
(別紙)
被告製品目録

スチームヘッドNo.3付きワンショットフード
(別紙)

本件図

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