判例検索β > 平成30年(行ウ)第42号
公法上の法律関係等確認請求事件
事件番号平成30(行ウ)42
事件名公法上の法律関係等確認請求事件
裁判年月日令和2年2月20日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第7民事部
裁判日:西暦2020-02-20
情報公開日2020-03-23 15:28:16
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主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
原告が,原告に対し死刑を言い渡した確定判決(大津地方裁判所平成5年9月
17日判決・平成3年(わ)第271号,同第320号,同第343号,平成4年(わ)第30号。以下確定死刑判決という。)について再審請求中である限り,同判決に基づく死刑の執行に応ずる義務がないことを確認する。第2

事案の概要
本件は,死刑確定者として大阪拘置所に収容され,確定死刑判決について再審
の請求をしている原告が,再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行は違憲,違法であり,原告には死刑を執行されない法的地位ないし権利があるなどと主張して,行政事件訴訟法4条の実質的当事者訴訟として,被告を相手に,確定死刑判決に対する再審請求中である限り,同判決に基づく死刑の執行に応ずる義務がないことの確認を求める事案である。
1
前提事実(当事者間に争いがない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1)

原告は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性である。

(2)

大津地方裁判所は,平成5年9月17日,原告に対する強盗殺人,死体遺
棄,詐欺窃盗被告事件について,死刑を言い渡し(以下第1審判決という。,原告は上記判決を不服として大阪高等裁判所に控訴したが,同裁判)
所は,原告の控訴を棄却する旨の判決を言い渡した。原告は,上記判決を不服として最高裁判所に上告したが,同裁判所は,平成12年4月4日,原告の上告を棄却する旨の判決を言い渡し,その頃,第1審判決が確定した。(以
上につき,甲2)
(3)

原告は,その後,順次,第1次から第7次までの再審の請求をしたが,い
ずれも請求棄却の決定を受けた。そのうち,第7次の再審の請求は,平成28年6月16日付けでされ,平成29年3月21日付けで請求棄却の決定を受けたのに対し,原告は,即時抗告及びその棄却の決定を経て,平成30年1月14日付けで同決定に対する特別抗告をし,同年6月28日付けで特別
抗告が棄却された。
(以上につき,甲2)
(4)

原告は,平成30年3月16日,本件訴えを提起した。

(5)

原告は,平成31年2月4日付けで,大津地方裁判所に対し,確定死刑判
決について第8次の再審の請求をした(甲2)

2
争点
(1)

本件訴えの適法性(本案前の争点・争点1)

(2)

再審請求中の原告には確定死刑判決に基づき死刑を執行されない法的地
位ないし権利があるか否かについて(本案の争点・争点2)
3
当事者の主張
(1)

争点1(本件訴えの適法性)について

(被告の主張)

法律上の争訟に該当しないこと
原告の請求は,再審請求中の死刑確定者には死刑を執行されないという法的地位ないし権利が存在することを前提としているものと解されると
ころ,刑事訴訟法上,再審の請求が刑又は死刑の執行停止事由に該当しないことは明らかであり(同法442条本文,同法479条)
,再審の請求に
ついての裁判があるまでは検察官に,再審開始の決定をしたときは裁判所に,それぞれ裁量によって刑の執行を停止する権限が与えられているにすぎない(同法442条ただし書,同法448条2項)


また,憲法32条が規定する裁判を受ける権利は,刑事事件においては裁判所以外の機関によって裁判が行われ,刑罰を科せられることがないことを意味するものであって,同条が再審請求中の死刑確定者に対し死刑を執行されないという法的地位ないし権利を保障するものではないし,その他,これらを保障する法令や規定は一切存在しないから,上記法的地位ないし権利は,現行の法令の規定を適用することによっては導き出すことができない法的地位ないし権利であるといわざるを得ない。

したがって,本件訴えにおける紛争は,法令の適用により終局的に解決することができるものではないというべきであるから,法律上の争訟に該当しない。

確認の訴えの利益を欠いていること
公法上の法律関係に関する確認の訴えにおいて,確認の利益を肯定するためには,少なくとも,行政の活動,作用等により国民に重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないことが必要であると解すべきであり,他に適当な方法がないか否かについては,当該紛争の実態に鑑み,当該確認訴訟が原告の法的地位に生じている
不安,危険を除去するために直截的で有効,適切な訴訟形態であるか否かという観点から判断すべきである。
しかるところ,刑事訴訟法上,確定した有罪判決に対する非常救済手続として再審が規定されていることからすれば,法は,確定した有罪判決を争う場合,再審の手続によるべきことを予定しているといえるから,本件
訴えの紛争の実態に鑑みれば,本件訴えは原告の法的地位に生じている不安,危険を除去するために直截的で有効,適切な訴訟形態であるということはできない。
また,裁判の執行は,行政的活動としての行刑とは異なる訴訟法的活動であって,
その効力は刑事訴訟手続において判断されるべきであり,
行政の活動,作用によって原告に重大な損害が生じるおそれがある場合には該当しない。
したがって,本件訴えは確認の訴えの利益を欠き,不適法である。ウ
行政事件訴訟によって刑事判決の取消変更を求める本件訴えは不適法であること
(ア)

死刑を言い渡す判決は,裁判所が法律に従い当該事件につき国が具
体的に現行法所定の執行機関及び死刑執行方法により当該被告人に対し死刑を執行すべき権利を有し被告人はこれを甘受すべき義務があることを当然予定し肯定した上で死刑に処すべきことを命ずる趣旨のものであるところ(最高裁判所昭和36年12月5日第三小法廷判決・民集15巻11号2662頁(以下最高裁昭和36年判決という。
)参照)


本件訴えは,原告が刑事訴訟手続で言い渡され,確定した死刑判決の上記法効果のうち,刑事訴訟法が規定する死刑の執行停止事由が存しない限り,死刑を執行することができるという法効果の排除を請求するものというほかないから,本件訴えは行政事件訴訟手続によって確定した死刑判決の取消変更を求めるものということになる。

しかしながら,行政事件訴訟法は,死刑判決を含め確定した有罪判決の法効果の排除を,行政事件訴訟手続で行うことを規定していない。他方で,確定した有罪判決については,刑事訴訟手続上,一定の理由がある場合に再審の請求が認められている
(刑事訴訟法435条以下)そし

て,行政事件訴訟をもって,死刑判決を含め確定した有罪判決の法効果
の排除を求めることができるとすれば,
結局,
行政事件訴訟手続により,
刑事訴訟手続で言い渡され,確定した死刑判決の取消変更を求めることになるから,確定した有罪判決について,刑事訴訟と行政事件訴訟等の手続が交錯し,裁判所の判断の矛盾抵触等,現行法上解決不能の不合理な問題が生じることは避けられない。

したがって,確定した死刑判決の法効果の排除は,刑事訴訟手続上の再審の請求によるべきであり,これを行政事件訴訟手続で求めることはできないというべきである。
(イ)

また,
原告の主張の趣旨が,
死刑判決の執行の時期に関する不服を申

し立てているものであったとしても,再審請求中は死刑の執行に応ずる義務がないことを認めるならば,再審の請求を繰り返す限り,永久に刑の執行をすることができないことになり,刑事裁判の実現を期すること
が不可能となるのであって,結局,本件訴えは刑事裁判の取消変更を求めるものに等しいというべきである。
そして,裁判の執行は,行政的活動としての行刑とは異なる訴訟法的活動であって,
その効力は刑事訴訟手続において判断されるべきである。
そうすると,結局,本件訴えは,再審の請求やそれに伴う刑の執行停
止(刑事訴訟法442条ただし書,同法448条2項)など本来刑事訴訟手続において審判や判断の対象として予定されている事項を行政事件訴訟手続によって審判することを求めるものといえ,最高裁昭和36年判決及び最高裁判所昭和57年7月15日第一小法廷判決・民集36巻6号1169頁の趣旨に反するものであって理由がない。

(ウ)

したがって,行政事件訴訟によって刑事判決の取消変更を求める本
件訴えは不適法である。
(原告の主張)

法律上の争訟に該当すること
(ア)

憲法32条は,
民事事件や行政事件の裁判については,
憲法により司

法権を行使すべきものとされる裁判所に争訟を提起し,裁判を求める権利を保障するところ,上記権利は,能動的に裁判所に近付き,裁判・正義の実現に積極的に関わるという意味合いを伴うものである。
そうすると,
法律上の争訟とは,
当事者間の具体的権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であって,法律の適用により終局的に解決し得べきものに限られるものではなく,特に行政事件訴訟の場合には,公共政策の形成と深く関わっていることから,法律上の争訟性に関する弾力的な判断が要請されるというべきである。また,司法権は,実体的権利の存否を確定することを中核とするものであるが,それを前提に然るべき救済手段を与え,事件・争訟の適正な解決を図る作用も当然に司法権の内実を成すものと解しなければならない。

(イ)

被告は,刑法,刑事訴訟法上に,再審請求中の死刑確定者に死刑を執
行されないという法的地位ないし権利を保障する規定が存在しないことを理由に,本件訴えは法律上の争訟に該当しない旨主張するが,包括的基本権の性質のある憲法13条後段の解釈論や基本的人権に対する司法裁判所による救済法の展開として,上記法的地位ないし権利が認められ
るか否かとの論点を回避して,性急に結論を導いており,司法権を安易に否定しているといわざるを得ない。
すなわち,原告の再審の請求の帰趨という,正に原告の生命及び手続保障の根幹に係わる具体的な事柄を問題として,再審請求中の原告が死刑執行に応ずる義務があるか否かという具体的権利性の有無について司
法裁判所に審理・裁判を求めているにもかかわらず,この肝心な点を意図的に無視する解釈方法を採用し,法律上の争訟に当たらない旨主張することは,司法権を否定しているに等しいものである。
(ウ)

市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下B規約という。


6条1項が規定するより厚い生命権の保障,同条4項が規定する恩赦請
求権の保障といった条約上の権利が,正に再審請求中,恩赦請求中の死刑確定者に死刑を執行されないという法的地位ないし権利を保障する条項であり,B規約は我が国で効力のある国際人権規定である以上,本件訴えは法律上の争訟に該当する。

確認の訴えの利益が認められること
死刑は生命刑であり,執行されてしまえば取り返しがつかないことに加え,刑事訴訟法476条が,法務大臣が死刑の執行命令を出した場合,5日以内にその執行をしなければならない旨規定していること,法務大臣が上記命令を出したことについて原告その他何人にも知らせる制度的保障が存在しないことからすれば,原告が上記命令の適正性を争うことは不可能であるから,現時点で,司法裁判所によって,再審請求中の原告に対する
死刑執行が違憲・違法であることの審査を受けるやむにやまれぬ切実な確認の訴えの利益があるというべきである。

行政事件訴訟によって刑事判決の取消変更を求めるものではないこと戦前の行政裁判,あるいは,旧行政事件訴訟法では,民事・刑事の司法と行政は截然と区別され,
本訴と類似の訴訟においても,
刑事訴訟法所定の方法によらず,行政事件訴訟法によって死刑執行方法の違法を争うことは,行政事件訴訟法をもって刑事判決の取消変更を求めることに帰するから許されない等として,死刑執行方法の違法を主張して,死刑を執行される義務を負わないことの確認を求める訴えを不適法とした(最高裁昭和36年判決参照)
。しかしながら,日本国憲法の下では,行政裁判所等の特

別裁判所は禁止され
(憲法76条2項)司法裁判所による違憲審査権が憲

法上明記され(憲法81条)
,法の支配が貫徹されており,行政事件と刑事
事件を別物のように捉えること,解釈することは,そもそも失当である。また,原告は,刑事裁判自体の取消変更は,再審の請求にて行おうとしているのであり,本件訴えで刑事裁判の取消変更を求めているものではな
い。原告は,本件訴えにより,刑罰権という一種の行政権の行使についての審査,すなわち,形式的な刑事判決の執行ないし執行方法に違法等の問題がないかの審査を,原告適格や取消訴訟の実質的拡大を認めて行政救済法の領域を充実させた現行の行政事件訴訟法により求めているにすぎない。

(2)

争点2(再審請求中の原告には確定死刑判決に基づき死刑を執行されない法的地位ないし権利があるか否か)について
(原告の主張)
再審請求中の死刑確定者は,裁判所において,再審事由があるか否かの審理中であり,裁判を受ける権利を行使中であるところ,その者に対しあえて刑の執行をすることは,再審事由があると認められた場合に裁判所が有する刑の執行を停止する権限(刑事訴訟法448条2項)をあらかじめ侵害することを意味し,三権分立の大原則を揺るがすものであるし,再審請求中の死刑確定者の裁判を受ける権利という基本権のための基本権ともいうべき重要な権利(憲法31条,32条,13条)を侵害し,再審開始決定を受ける権
利を侵害するものである。特に,死刑は生命刑であり,一度執行してしまえば,人の生命が奪われる刑であるところに特殊性があり,冤罪の際には取り返しがつかないことになるため,
国際的にも死刑廃止条約が採択批准され,

死刑廃止がさらに進められようとしているという現状がある。
そのため,再審請求中の死刑確定者について,再審の請求を棄却する旨の
決定が確定するまでの間は,死刑の執行を控える慣習が形成され,維持されてきたのであり,上記再審請求人の権利の重要性に鑑みれば,この慣習は最大限尊重されなければならない。
また,再審請求中の死刑確定者が,その結果を伝えられていないにもかかわらず,恣意的に死刑を執行されることは,B規約7条(非人道的又は残虐
な取扱いの禁止)に違反するものであり,B規約6条2項がいうこの規約の規定に(中略)抵触しない法律により死刑が執行されたとはいえない。したがって,再審請求中の原告には確定死刑判決に基づき死刑を執行されない法的地位ないし権利があるから,再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行は違憲,違法である。

(被告の主張)
争う。
第3
1
当裁判所の判断
争点1(本件訴えの適法性)について
(1)

法律上の争訟性について
本件訴えが適法であるためには,まず,本件訴えの対象が,
法律上の争訟に当たるものであることを要するところ(裁判所法3条1項参照),こ

こにいう法律上の争訟とは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する現実の紛争であって,それが法令の適用によって終局的に解決できるものをいうものと解すべきである(最高裁判所昭和41年2月8日第三小法廷判決・民集20巻2号196頁,最高裁判所昭和56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁,最高裁判所平成1
4年7月9日第三小法廷判決・民集56巻6号1134頁等参照)。

原告は,被告を相手に,確定死刑判決に対する再審請求中である限り,同判決に基づく死刑の執行に応ずる義務がないことの確認を求め,憲法31条,32条,13条等に基づいてそのような死刑を執行されない法的地位ないし権利を導き出すことができる旨主張し,被告はこれについて争っ
ているところ,当該義務の存否を争う本件訴えは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する現実の紛争ということができる。また,当該義務の存否は,法令の解釈・適用によって解決できるものということができる。

したがって,本件訴えは,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に該当するといえる。

(2)

確認の訴えの利益について
確認の訴えが適法であるためには,確認の訴えの利益,すなわち,判決をもって権利義務又は法律関係の存否を確定することが,その権利義務又
は法律関係に関する法律上の紛争を解決し,
当事者の法律上の地位の不安,
危険を除去するために必要かつ適切である場合であることを要するところ,確認の利益の有無を判断するに当たっては,①確認対象の適否(確認の対象として選択した訴訟物が当事者間の具体的紛争の解決にとって有効,適切であるか否か)
,②争訟の成熟性(いわゆる即時確定の現実的必要性)の有無(原告の法律上の地位に現に不安,危険が存在し,それを除去するために確認判決をすることが必要かつ適切であるか否か)及び③方法選択の
適否(当事者間の具体的紛争の解決にとって種々の訴訟類型のうちから確認の訴えを選択することが適切であるか否か)の観点から検討することを要する。

①確認対象の適否及び②争訟の成熟性(即時確定の現実的必要性)の有無については,上記(1)で説示したとおり,原告は,憲法31条,32条,13条等を根拠に,再審請求中は確定死刑判決に基づき死刑を執行されない法的地位ないし権利を導き出すことができる旨主張し,被告はこれについて争っていることからすれば,死刑執行に応ずる義務の存否を判断することは,当事者間の具体的紛争の解決にとって有効かつ適切であるから,
本件訴えは確認対象として適切であるといえる。また,原告に対しては確定死刑判決が言い渡されているところ,原告が求めている法的地位(義務の不存在)の性質,内容に照らすと,現に不安,危険が存在し,それを除去するために確定死刑判決に基づく死刑の執行に応ずる義務の存否に係る確認判決をすることが必要かつ適切であるといえるから,
争訟の成熟性
(即

時確定の現実的必要性)も認められる。
③方法選択の適否については,法務大臣によって刑事訴訟法475条1項に基づき死刑執行命令が出された場合,検察官が5日以内にその執行をしなければならないとされていることから
(同法476条)上記死刑執行

命令が出された時点で同命令の有効性を争うことは現実的に不可能又は
著しく困難である上,検察官による死刑執行の指揮に対しては,その執行指揮をする前に,同法502条に基づき異議の申立てをすることはできないと解されること(最高裁判所昭和36年8月28日第一小法廷決定・刑集15巻7号1301頁参照)から,同条に基づく異議申立てによって争うことも,やはり現実的には不可能又は著しく困難であるといわざるを得ない。
これに対し,被告は,刑事訴訟法上,確定した有罪判決に対する非常救済手続として再審が規定されていることからすれば,法は,確定した有罪判決を争う場合,再審の手続によるべきことを予定しているといえ,本件訴えの紛争の実態に鑑みれば,本件訴えは原告の法的地位に生じている不安,危険を除去するために直截的で有効,適切な訴訟形態であるというこ
とはできない旨主張する。しかしながら,原告は,再審請求中は確定死刑判決に基づく死刑の執行に応ずる義務がないことの確認を求めているのであって,そのような義務の存否の判断を再審の手続において求めることはできないというべきであるから,被告の上記主張は採用することができない。

また,被告は,裁判の執行は,行政的活動としての行刑とは異なる訴訟法的活動であって,その効力は刑事訴訟手続において判断されるべきであり,
行政の活動,作用によって原告に重大な損害が生じるおそれがある場合には該当しない旨主張する。しかしながら,確定死刑判決の執行は,行政庁である法務大臣による死刑執行命令を受けて行われるものである
こと(刑事訴訟法475条1項)などを踏まえると,
行政の活動,作用
としての側面を有していることは否定し難いのであって,被告の上記主張は採用することができない。
以上によれば,原告は,再審請求中は確定死刑判決に基づく死刑の執行に応ずる義務の存否の判断を求めるため,刑事訴訟手続によることはでき
ないといわざるを得ず,本件訴えによりかかる法的地位の確認を求めることは,方法選択としても適切であるというべきである。

したがって,本件訴えは,確認の訴えの利益を有するものというべきである。

(3)

本件訴えが行政事件訴訟によって刑事判決の取消変更を求めるものとし
て不適法であるか否かについて

被告は,本件訴えは,原告が刑事訴訟手続で言い渡され,確定した死刑判決の法効果のうち,刑事訴訟法が規定する死刑の執行停止事由が存しない限り,死刑を執行することができるという法効果の排除を請求するものというほかないところ,行政事件訴訟をもって,死刑判決を含め確定した有罪判決の法効果の排除を求めることができるとすれば,結局,行政事件
訴訟手続により,刑事訴訟手続で言い渡され,確定した死刑判決の取消変更を求めることになり,確定した有罪判決について,刑事訴訟と行政事件訴訟等の手続が交錯し,裁判所の判断の矛盾抵触等,現行法上解決不能の不合理な問題が生じることは避けられないことから,本件訴えは行政事件訴訟によって刑事判決の取消変更を求めるものであり不適法である旨主張
し,最高裁昭和36年判決を援用する。
しかしながら,原告は,本件訴えにおいて,確定死刑判決に対する再審請求中である限り,同判決に基づく死刑の執行に応ずる義務のないことの確認を求めているにすぎず,確定死刑判決の排除については,再審の手続でこれを求めているのであるから,確定した有罪判決について,刑事訴訟
と行政事件訴訟の手続が交錯し,裁判所の判断の矛盾抵触が生じるおそれがあるということはできず,その他,現行法上解決不能の不合理な問題というのも具体的には想定されない。
また,最高裁昭和36年判決は,行政事件訴訟において,死刑確定者が現行の死刑執行方法(絞首刑)をもって執行される義務を負わないことを
確認する判決を求めていた事案に関するものであって,かかる執行方法を前提とする刑事判決の適法性については刑事訴訟法所定の方法により争うべきであるが,原告が本件訴えで当裁判所に判断を求めているのは,確定した死刑判決が有効であることを前提に,再審請求中である場合にもその執行に応ずる義務という法効果があるか否かということであって,これは刑事訴訟手続において審理・判断の対象として予定されている事項であるとはいえず,再審手続その他刑事訴訟法所定の方法により争うべきであ
るということは困難であるから,行政事件訴訟手続においてその審理・判断を求めることが許される事項であると解するのが相当である。
被告は,再審請求中は死刑の執行に応ずる義務がないことを認めるならば,再審の請求を繰り返す限り,永久に刑の執行をすることができないことになり,
刑事裁判の実現を期することが不可能となるのであって,
結局,

本件訴えは刑事裁判の取消変更を求めるものに等しいというべきである旨主張するが,上記説示のとおり,上記の法効果があるか否かは,行政事件訴訟手続においてその審理・判断を求めることが許される本案の問題というべきであるから,被告の上記主張は採用することができない。

したがって,本件訴えは,行政事件訴訟によって刑事判決の取消変更を求めるものであるとして不適法であるとはいえない。

(4)
2
以上によれば,本件訴えは,適法であるというべきである。

争点2(再審請求中の原告には確定死刑判決に基づき死刑を執行されない法的地位ないし権利があるか否か)について

(1)

原告は,再審請求中の死刑確定者に対して,死刑の執行をすることは,再
審請求中の死刑確定者の裁判を受ける権利という基本権のための基本権ともいうべき重要な権利(憲法31条,32条及び13条)を侵害し,再審開始決定を受ける権利を侵害するものである旨主張する。
しかしながら,憲法32条は,何人も,裁判所において裁判を受ける権利を奪われない旨規定するところ,これを刑事訴訟についてみると,刑罰権の存否及び範囲を定める手続について,独立した公平な裁判所の公開法廷における対審及び判決によるべきであることを定めたものと解するのが相当である(最高裁判所昭和42年7月5日大法廷決定・刑集21巻6号764頁参照)
。そうすると,独立した公平な裁判所において公開・対審の訴訟手続による確定判決を受けた場合において,その後の非常救済手続である再審手続の審理が終了しない間に死刑が執行されたとしても,憲法32条が保障する裁判を受ける権利が侵害されたということはできないから,同条を根拠として原告が求める再審請求中には確定死刑判決に基づき死刑を執行されない法的地位を導き出すことはできない。そして,上記判示のとおり,独立した公平な裁判所の公開法廷における対審及び判決が保障されていることに加え,確
定判決を受けるまでに刑事訴訟法等に基づく適正な裁判手続が保障されていること等からすれば,憲法31条及び13条を根拠にしても,上記の法的地位が導き出されるということはできない。よって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)

原告は,
B規約6条1項が規定するより厚い生命権の保障,
同条4項が規

定する恩赦請求権の保障といった条約上の権利が,正に再審請求中,恩赦請求中の死刑確定者に死刑を執行されないという法的地位ないし権利を保障する条項であるし,再審請求中の死刑確定者が,その結果を伝えられていないにもかかわらず,恣意的に死刑を執行されることは,B規約7条(非人道的又は残虐な行為の禁止)に違反するものであり,B規約6条2項がいう
この規約の規定に(中略)抵触しない法律により死刑が執行されたとはいえない旨主張する。
しかしながら,B規約6条1項は,全ての人間は,生命に対する固有の権利を有し,この権利は,法律によって保護され,何人も恣意的にその生命を奪われない旨規定し,同条4項は,死刑を言い渡されたいかなる者も,特赦
又は減刑を求める権利を有し,死刑に対する大赦,特赦又は減刑は,すべての場合に与えることができる旨規定し,B規約7条前段は,何人も,拷問又は残虐な,非人道的な若しくは品位を傷付ける取扱い若しくは刑罰を受けない旨規定しているところ,B規約6条4項は,その内容からして死刑確定者の再審を請求する権利について定めたものではないし,
また,
上記(1)で説示
したとおり,独立した公平な裁判所において公開・対審の訴訟手続による確定判決を受けている以上,再審請求中に死刑が執行されたとしても,B規約6条1項がいうところの恣意的にその生命を奪われたとも,B規約7条前段がいうところの拷問又は残虐な,非人道的な若しくは品位を傷付ける取扱い若しくは刑罰を受けたともいうことができない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(3)

原告は,
刑事訴訟法475条2項ただし書は,
再審請求手続が終了するま

での間は死刑執行命令を下せないとの規定であり,再審請求中の死刑確定者について,再審の請求を棄却する旨の決定が確定するまでの間は,死刑の執行を控える慣習が形成され,維持されてきたことに照らすと,再審請求中の原告には確定死刑判決に基づき死刑を執行されない法的地位ないし権利がある旨主張する。
しかしながら,同法442条本文は,再審の請求が刑の執行を停止する効力を有しない旨規定し,同法475条2項本文は,死刑執行に係る法務大臣の命令は,判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない旨規定し,同項ただし書は,再審の請求がされその手続が終了するまでの期間は,
これをその期間に算入しない旨規定するところ,
これらの各規定からすれば,
死刑判決は,同法479条が規定する死刑執行の停止事由が存しない限り,確定後速やかに執行されることが予定されている。
そして,同法475条2項は,死刑という重大な刑罰の執行に慎重な上にも慎重を期すべき要請と,確定判決を適正かつ迅速に執行すべき要請とを調
和する観点から,法務大臣に対し,死刑判決や再審事由等に対する十分な検討を行い,管下の執行関係機関に死刑執行の準備をさせるために必要な期間として,6箇月という一応の期限を設定し,その期間内に死刑執行を命ずるべき職務上の義務を課したものと解されることからすれば,同法475条2項ただし書が規定する期間不算入の意義は,同項が規定する所定の期間だけ期限が延長されることになるという以上に,その間における法務大臣の死刑執行命令が禁じられるなどの効果を導き出し得るものではない。

そうすると,再審請求中の原告が確定死刑判決に基づき死刑を執行されない法的地位ないし権利を,同法475条2項ただし書を根拠として導き出すことはできないというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。なお,原告は,再審請求中の死刑確定者について,再審の請求を棄却する旨の決定が確定するまでの間は,
死刑の執行を控える慣習が形成され,

維持されてきたとして上記法的地位ないし権利を導く根拠とするが,現状の実務を前提としても原告が主張する法的地位を導く根拠たり得る慣習法が確立しているとは認めることができない。
(4)

したがって,再審請求中の原告が確定死刑判決に基づき死刑を執行され
ない法的地位ないし権利を,憲法31条,32条及び13条,自由権規約6
条及び7条並びに刑事訴訟法475条2項ただし書を根拠に導き出すことはできず,これを認めることはできない。
3
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

松永栄治
裁判官

宮端謙一
裁判官

渡邊直樹
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