判例検索β > 平成29年(行ウ)第161号
公金支出無効確認等請求事件(住民訴訟)
事件番号平成29(行ウ)161
事件名公金支出無効確認等請求事件(住民訴訟)
裁判年月日令和2年1月17日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第2民事部
裁判日:西暦2020-01-17
情報公開日2020-03-23 15:31:37
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求

1
被告は,Aに対し,115万2480円及びこれに対する平成30年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
2
被告は,Aに対し,1272円及びこれに対する平成30年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

第2

事案の概要
本件は,
大阪市の住民である原告らが,
大阪市の執行機関である被告に対し,
大阪市市民局総務課長(以下総務課長という。)が大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(平成28年1月18日大阪市条例第1号。以下本件条例という。)を実施するためにした各支出命令のうち,①本件条例に基づ
き設置された大阪市ヘイトスピーチ審査会(以下審査会という。)の委員に対する報酬として合計115万2480円を支出すべきものとした部分(以下,当該部分を本件報酬各支出命令という。)及び②本件条例に基づく調査等に要した郵便料金として合計1272円を支出すべきものとした部分(以下,当該部分を本件郵便料金各支出命令といい,このうち,平成28年1
2月16日付けで郵便料金880円を支出すべきものとした部分を本件郵便料金支出命令1,平成29年5月23日付けで郵便料金392円を支出すべきものとした部分を本件郵便料金支出命令2という。また,本件郵便料金各支出命令と本件報酬各支出命令を併せて本件各支出命令という。)について,(ア)本件条例は,憲法13条,21条1項,31条,94条等に違反し無
効であるから,本件各支出命令は,法令上の根拠を欠いて違法である,(イ)ダイナモというハンドルネーム(インターネット上で活動する際の名前)を有する者がインターネット上に動画(以下本件動画という。)を投稿し,不特定多数の者による視聴ができる状態に置いていた行為
(以下
本件表現活動
という。)が本件条例2条1項所定のヘイトスピーチ(以下条例ヘイトスピーチという。)に該当する旨及び前記ハンドルネームを本件条例に基づき公表したことは,憲法21条1項に違反するから,当該公表に至る過程で郵便料
金を支出した本件郵便料金支出命令1は,違法である旨を主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,本件各支出命令を行う権限を法令上本来的に有するとされている者(同号所定の当該職員)である大阪市長(以下市長という。)の地位にあったAに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,本件報酬各支出命令に係る支出額である115万2480円及び本
件郵便料金各支出命令に係る支出額である1272円並びにこれらに対する訴状送達の日である平成30年1月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求をするよう求める事案である。
1
関係法令の定め
別紙関係法令の定めのとおり(以下,別紙で定義した略語は,本文においても用いる。)

2
前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

当事者等


原告らは,いずれも大阪市の住民である。


被告は,大阪市の執行機関たる市長である。


Aは,平成27年11月~平成31年4月の間,大阪市の市長の地位にあった者である。

(2)

本件表現活動及び調査審議の手続等
関西地方に居住する人物(以下本件関係人という。)は,平成25年2月24日,大阪市天王寺区,生野区及び東成区内で行われた2月24日韓国国交断絶国民大行進in鶴橋と称するデモ活動(以下本件デモ活動という。)を動画で撮影し,同月25日,株式会社ドワンゴ(以下ドワンゴという。)が運営するインターネット上の動画投稿サイトであるニコニコ動画に,ダイナモというハンドルネームで,本件
デモ活動及びその開催前に参加者が行った集会の状況を記録した一連の動
画(本件動画)を投稿し,平成28年7月1日(本件条例4条~6条の施行日)以降も,本件動画を不特定多数の者による視聴ができる状態に置いていた(本件表現活動)。
(甲32,37,41,乙22,弁論の全趣旨)

本件動画には,本件デモ活動において,参加者が

不逞犯罪ゴキブリくそちょんこ,日本からたたき出せ。

,殺せ,殺せ,朝鮮人等の発言
を繰り返す様子が撮影されている。(甲32,47,乙22)

審査会は,本件表現活動について,案件番号平28-2として調査審議をすることとした。審査会会長は,本件条例9条2項に基づき本件関係者に意見陳述等の機会を付与することとし,平成28年11月頃,ドワンゴを通じて,本件関係人に対し,所在・連絡先,氏名又は団体の名称を
連絡すれば,本件表現活動をした目的等に関する意見を述べ,有利な証拠を提出できる機会を確保する旨を連絡した。これに対し,本件関係人は,審査会に対して所在等を連絡せず,
本件動画を削除した。
(甲32,
41,
弁論の全趣旨)

市長であるAは,本件動画が既に削除されていることから特段の拡散防止措置は取らないこととした上,本件条例5条1項に基づく認識等公表として,平成29年6月1日付けで,本件表現活動が条例ヘイトスピーチに該当すると認め,前記のとおり特段の拡散防止措置は取らないこととした旨及び本件表現活動をした者の氏名又は名称に準じたものとしてハンドル
ネームダイナモを公表(以下本件認識等公表という。)した。(乙22)
(3)

審査会の委員に対する報酬の支出
総務課長であるBは,平成28年8月19日,専決により,審査会委員らに対して報酬9万6040円及び旅費1700円を支出すべき旨の支出命令をし,
同月25日,
当該支出命令に基づき,
同額の金員が支出された。
(乙7の1)


Bは,平成28年9月20日,同年10月19日,同年11月22日,同年12月8日,平成29年1月17日,同年2月7日及び同年3月14日の7回にわたり,専決により,審査会委員らに対して報酬各9万6040円及び旅費各2240円(7回分の合計は報酬67万2280円,旅費1万5680円)を支出すべき旨の各支出命令をし,その後,当該各支出
命令に基づき,同額の金員が支出された。(乙7の2~8)

総務課長であるCは,平成29年4月10日,専決により,審査会委員らに対して報酬9万6040円及び旅費2240円を支出すべき旨の支出命令をし,
同月19日,
当該支出命令に基づき,
同額の金員が支出された。
(乙7の9)


Cは,平成29年5月18日及び同年6月1日の2回にわたり,専決により,審査会委員らに対して報酬各9万6040円及び旅費各1700円(2回分の合計は報酬19万2080円,旅費3400円)を支出すべき旨の各支出命令をし,その後,当該各支出命令に基づき,同額の金員が支出された。(乙7の10・11)


Cは,平成29年6月27日,専決により,審査会委員らに対して報酬9万6040円及び旅費2240円を支出すべき旨の支出命令(当該支出命令及び前記ア~エの各支出命令の報酬を支出すべきものとする部分(合計115万2480円)が本件報酬各支出命令に相当する。)をし,同年
7月7日,当該支出命令に基づき,同額の金員が支出された。(乙7の12)
(4)

本件条例に基づく郵便料金の支出
Bは,平成28年12月16日,審査会の調査審議手続に係る郵便料金880円(内訳は,同年11月15日に郵便局に差し出されたドワンゴ宛て簡易書留郵便の料金450円及びグーグル合同会社宛て簡易書留郵便の料金430円)を含む同年11月分の後納料金として合計3万3224円
を支出すべき旨の支出命令(このうち,前記880円に係る部分が本件郵便料金支出命令1である。)をし,同年12月28日,当該支出命令に基づき,3万3224円が支出された。なお,ドワンゴ宛ての簡易書留郵便は,案件番号平28-2
(本件表現活動に係るもの),
平28-4
及び平28-5に係る郵便物を送付するものであった。(乙8の1,
36,弁論の全趣旨)

Cは,平成29年5月23日,審査会の調査審議手続郵便料金392円を含む同年4月分の後納料金として合計2万4090円を支出すべき旨の支出命令(このうち,前記392円に係る部分が本件郵便料金支出命令2である。)をし,同年5月31日,当該支出命令に基づき,2万4090
円が支出された。(乙8の2)
(5)

住民監査請求(以下,単に監査請求という。)
原告らは,平成29年7月7日,大阪市の監査委員に対し,市長であるAは,大阪市の職員を通じて,本件条例に基づき,条例ヘイトスピーチと
される動画の削除及び投稿者の氏名公表に関して,①平成28年11月15日及び平成29年4月5日に,動画運営会社との通信費用として,合計1272円を支出するという財務会計行為をするとともに,②審査会委員5名に対して,平成28年7月~平成29年6月に,その報酬として,合計115万2480円を支出するという財務会計行為を行ったところ,前
記①及び②の財務会計行為は,違憲無効である本件条例に基づいてされたもので違法であって,大阪市が被った損害を補填するため,市長であるAに対して合計115万3752円を返還するよう請求することを大阪市に求める旨の監査請求をした(以下本件監査請求という。)。(甲1,3)

大阪市の監査委員は,平成29年8月17日付けで本件監査請求を却下し,同月18日頃,その旨を原告らに通知した。(甲1,4の1~8,弁
論の全趣旨)
(6)

本件訴えの提起
原告らは,平成29年9月19日,前記第1の請求に加え,本件条例に基
づく財務会計上の措置が無効であることの確認を求める旨の本件訴えを提起したが,同月28日,当該確認請求に係る訴えを取り下げた。

3
争点
(1)

本案前の争点
適法な監査請求の前置の有無(争点(1))

(2)

本案の争点
本件条例2条,5条~10条(以下,これらを併せて本件各規定という。)が憲法21条1項に違反し無効であるか否か(争点(2))

本件各規定が憲法13条に違反し無効であるか否か(争点(3))

本件各規定が憲法31条に違反し無効であるか否か(争点(4))

本件各規定が憲法94条及び地方自治法14条1項に違反し無効であるか否か(争点(5))

オカ4
本件郵便料金支出命令1に係る適用違憲の有無(争点(6))
Aによる不法行為の成否(争点(7))

争点に関する当事者の主張の要旨
(1)

争点(1)(適法な監査請求の前置の有無)について

(原告らの主張の要旨)
本件監査請求は,違憲無効である本件条例に基づいてされた本件各支出命令は違法であり,Aが総務課長に対して本件各支出命令をすることを阻止しなかった指揮監督上の義務違反があるとしてその是正を求めるものである。したがって,本件監査請求は適法であり,本件訴えは適法な監査請求の前置を経たものである。
(被告の主張の要旨)
以下のとおり,本件訴えは適法な監査請求の前置を経たとはいえない。ア
原告らが本件訴えにおいて違法を主張する財務会計行為は,本件監査請求の対象ではないこと
本件監査請求は,市長において,総務課長が本件条例に基づいて専決により本件各支出命令をすることを阻止すべき義務を怠ったことを主張する
ものではないから,本件訴えは,監査請求の前置を経ていない。

本件監査請求は,財務会計行為を具体的に特定していないこと
仮に,本件監査請求が前記アの主張を含むとしても,条例が違憲の場合に当該条例に基づく支出が直ちに違法な財務会計行為となる関係にはないから,当該主張は,単に本件条例の違憲をいうものであって,財務会計行
為の違法をいうものとは解されない。したがって,本件監査請求は,その対象である財務会計行為を具体的に特定していない。
(2)

争点(2)(本件各規定が憲法21条1項に違反し無効であるか否か)につ
いて
(原告らの主張の要旨)
以下のとおり,本件各規定は,憲法21条1項に違反し,無効である。ア
本件各規定は,厳格な審査基準に照らして違憲無効であること
本件条例5条1項に基づく認識等公表は,市長が条例ヘイトスピーチと認めた表現活動につき,削除要請等を含む拡散防止措置を実施し,その表
現活動を行った者に対し,その氏名を公表する制裁を加え,もって,条例ヘイトスピーチを抑制しようとするものである。そうすると,認識等公表は,特定の表現の内容に着目した内容規制であり,表現に対する萎縮効果に鑑みて,厳格な基準により合憲性が審査されるべきである。
そして,本件条例5条1項に基づく拡散防止措置等は,表現の拡散を防止する削除要請等及び条例ヘイトスピーチと認定された表現活動を行った者の氏名等の公表であるところ,当該表現活動を行った者が差別的表現を
した旨を公表する点において,社会的評価を著しく低下させ,表現を萎縮させるとともに,匿名により表現活動を行う者に対して表現を著しく萎縮させるというべきである。
以上のとおり,本件条例5条1項に基づく拡散防止措置等は,表現の自由を制約するものであって,厳格な審査基準に照らして違憲無効というべ
きである。

本件各規定が漠然性ゆえに無効であること
表現の自由の優越的地位に照らせば,表現の自由を制約する法令については,表現行為に対する萎縮効果を最小限にすべきであり,当該法令が,
その内容につき漠然不明確であり,表現行為に対する萎縮効果を有する場合には,文面上違憲無効とすべきである。
そして,本件条例2条は,条例ヘイトスピーチを定義するものの,その定義は曖昧であって,大阪市の区域外でされた条例ヘイトスピーチの一部も規制対象とする点でその内容が漠然としており,①

核ミサイルを玩具にする金正恩を神格化している朝鮮総連を日本から追い払え。

,②

大阪市は在日外国人に対する生活保護の支給を直ちに取りやめろ。,「出

③入国管理及び難民認定法等にみられる在日特権を直ちに廃止すべきである。」,④

在日韓国人は,強制連行の嘘を掲げて日本に賠償をたかる文大統領に抗議すべきである。

といった言論が条例ヘイトスピーチに該当
するか否かが明確でない。そうすると,本件条例2条は,曖昧であるために,表現行為に対して強い萎縮効果を有するから,本件各規定は,漠然性ゆえに文面上違憲無効である。

本件各規定が過度の広汎性ゆえに無効であること
表現の自由の優越的地位に照らせば,表現の自由を制約する法令については,その制約が過度に広汎なものであってはならず,過度に広汎な制約が存在すること自体によって,当該法令は文面上違憲無効と解すべきであ
る。
前記イ①~④の表現行為は,いずれも合理的な根拠を有する政治的主張を含む言論であるところ,このような政治的言論を他者の感情的反発を招くという理由で規制することは許されず,前記表現行為が,本件条例にいう条例ヘイトスピーチに該当し,拡散防止措置等による制裁から除外され
ないのであれば,本件各規定は,過度の広汎性ゆえに文面上違憲無効であるというべきである。
(被告の主張の要旨)
以下のとおり,本件各規定は,憲法21条1項に反しない。

(ア)

本件各規定は表現の自由を制約しないこと
本件各規定はそもそも表現の自由を制約する内容を持たないこと
本件条例5条1項に基づく認識等公表は,表現活動をした者のいかなる表現活動をも規制又は禁止するものではなく,当該表現活動を行った者の人格的価値に関する評価は何ら含まれない。また,憲法21条1項は,表現の内容に対する社会的評価を保護するものではない。

そして,本件条例は,インターネットにおける実名の使用を義務付けるものではなく,匿名による表現の自由を制約するものではない。そして,氏名が公表されるとしても,プライバシーの侵害が問題となるにすぎず,表現の自由を侵害するものではない。
(イ)

条例ヘイトスピーチは表現の自由の保障を受けないこと
ある表現行為が表現の自由の保障を受けるか否か及び保障の程度は,当該表現行為と自己統治や自己実現の価値との結びつきの程度や当該表現行為がもたらす社会的弊害を考慮して判断される。そして,条例ヘイトスピーチは,個人の尊厳を否定し,平穏に生活する権利,名誉権,人格権,地域社会から排除されることのない権利,平等権等を侵害するものであり,深刻な社会的弊害をもたらすものであるから,およそ表現の
自由の保障を受けないものといわざるを得ない。

仮に本件各規定が表現の自由を制約するものであるとしても,当該制約は公共の福祉による必要かつ合理的な制限であること

(ア)
厳格な審査基準は妥当しないこと
判例は,表現の自由の事後規制について,表現の内容に基づく規制と表現内容に中立的な規制とに区別して取り扱うことはしておらず,表現活動の規制一般について,制限が必要とされる程度と,制限される自由の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を衡量して,公共の福祉による必要かつ合理的な制限であるか否かを判断して
いる
(最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁(以下最高裁平成4年判決という。),最高裁昭和61年
(オ)
第1428号平成5年3月16日第三小法廷判決・
民集47巻5号3483頁)。
そして,本件条例に基づく認識等公表の目的は,表現活動の内容やこ
れに対する認識及び措置に関する情報を提供し,条例ヘイトスピーチの実態に関する市民の関心と理解を深めることをもって,市民社会の自己回復力を支援し,同種事案の防止を図り,市民等の人権を擁護することにあるのであり,公権力にとって都合の悪い特定の内容の表現を恣意的に抑圧するものではなく,
むしろ市民の知る権利に奉仕するものである。

加えて,前記ア(イ)のとおり,条例ヘイトスピーチは,自己実現や自己統治の価値と結びつかず,深刻な社会的弊害をもたらすものである。そうすると,本件条例の憲法21条1項適合性の審査において,厳格な審査基準は妥当せず,前記判例の判断基準に基づいて審査がされるべきである。
(イ)
本件条例による制約は,公共の福祉による必要かつ合理的なものであること
条例ヘイトスピーチを抑止することにより擁護される権利は,平穏に生活する権利,自由に活動する権利,名誉・信用に係る権利等の憲法13条に由来する人格権,人格権を享受する前提となる地域社会から排除されない権利,平等権(憲法14条1項),情報の提供を受ける権利(憲
法21条1項)等,事後的に回復困難な憲法に由来する権利である。そして,
大阪市は,
他の地域と比較して外国籍住民が多い地域であり,
多文化共生社会の実現のために種々の人権施策が採られてきた。近年,ヘイトスピーチを伴うデモ等が大阪市内を含む国内で多数実施され,被害者が多大な苦痛を受け,地域社会に深刻な亀裂を生じさせていること
は周知の事実であり,平成26年には,大阪市生野区区政会議から,市長に対してヘイトスピーチへの対策を採ることを求める要望書が提出された。また,平成27年には,有識者らで構成される大阪市人権施策推進審議会が,大阪市内でヘイトスピーチが行われている状況に鑑み,大阪市はヘイトスピーチを許さない姿勢を明確に示していく必要がある旨
を答申し,大阪市会は,同年,地方自治法99条に基づき,衆参議院議長,内閣総理大臣等に対し,ヘイトスピーチの根絶に向けて実効性のある法律の整備を視野に入れた対策を求める意見書を提出した。
また,本件条例が制定された平成28年当時,国会がヘイトスピーチは許さないという立法趣旨で,理念法として差別的言動解消推進法を制
定し,その前文に不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進すべきである旨を掲げ,平成30年には,東京都においても,本件条例と同様の条例が制定されており,ヘイトスピーチへの対処は重大な課題である。加えて,我が国が批准する人種差別撤廃条約は,締約国に対し,立法を含む全ての適当な方法により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止,終了させることを求めるとともに,その管轄下にある全ての者に人種差別に対する効果的な保護及び救済措置を確保することを
求めており,我が国もこれらの義務を履行する必要がある。
以上によれば,条例ヘイトスピーチの防止が必要とされる程度は極めて大きいものであるのに対し,条例ヘイトスピーチは自己統治及び自己実現の価値と結びつかず,
深刻な社会的弊害をもたらすものであること,
本件条例に基づく公表により制限される利益があるとしても,自らの行
為を事後的に条例ヘイトスピーチである旨認定され公表されることによる不快感にすぎないことからすると,制限される利益の内容及び性質は重大なものとはいえない。そして,公表に至るまでには,後記(4)(被告の主張の要旨)のとおり,手続保障がされているから,その表現の自由への制約の態様は厳格なものではない。

したがって,本件条例による制約は,公共の福祉による必要かつ合理的なものである。

本件各規定が漠然又は過度の広汎性ゆえに無効であるとはいえないこと明確性の法理及び過度の広汎性故の無効の法理は,犯罪の構成要件が不
明確又は過度に広汎である場合にこれを文面上違憲とする審査基準であり,刑罰ではない本件各規定についてこれらの法理は適用されない。
また,本件条例2条の定義から明らかなとおり,条例ヘイトスピーチ該当性の判断は,表現内容の文字のみをもって判断するものではなく,その目的,態様及び場所・方法を考慮して判断するものであるから,原告らが
前記(原告らの主張の要旨)イ①~④において文字情報のみからなる例を挙げ,これらが条例ヘイトスピーチに該当するおそれがあり,定義が不明確かつ広汎であるということは失当である。
(3)

争点(3)(本件各規定が憲法13条に違反し無効であるか否か)について
(原告らの主張の要旨)
ハンドルネームを用いて匿名による表現活動を行う者にとっては,氏名は他人に知られたくない情報であり,本件条例に基づく認識等公表による氏名の公表は,憲法13条に基づく幸福追求権の一内容として保障されるプライバシー権の侵害に該当する。
また,条例ヘイトスピーチに該当すると認定された表現活動について,当該活動を行った者の氏名を公表することは,
当該者の社会的評価を低下させ,

もって,憲法13条により保障された人格権を侵害する。
したがって,本件各規定は,憲法13条に違反し,無効である。
(被告の主張の要旨)
私生活上の事実であっても,公開することに正当な理由が認められる場合には違法なプライバシーの侵害とはならない。そして,本件条例5条1項に
基づく認識等公表は,市民等の人権を擁護するとともに,条例ヘイトスピーチの抑止を図ることを目的としたものであって,公表に至るまでに,表現活動を行った者に意見を述べる機会を付与するなど十分な手続保障がされていることに照らせば,前記目的を逸脱して認識等公表が行われる具体的な危険があるとはいえない。そうすると,本件条例に基づく認識等公表には,正当
な理由があり,みだりに氏名を公表するものとはいえないから,プライバシー権及び人格権を侵害するものではない。
(4)

争点(4)(本件各規定が憲法31条に違反し無効であるか否か)について
(原告らの主張の要旨)
憲法31条は何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪われ,又はその他の刑罰を科せられない旨を規定する。ここにいう法律は,罪刑法定主義や告知聴聞等の手続を保障する適正な内容のものでなければならず,その他の刑罰には,特定の制裁について,当該制裁の対象者が刑罰と同視できる深刻な不利益を被る場合を含むものというべきである。
しかるに,
本件条例は,
以下のとおり,
法律による委任なく,
手続についても適正な保障をすることなく,対象者に氏名公表を含む拡散防止措置等という深刻な不利益を与えるものであるから,本件条例5条を含む本件各規定は,憲法31条に違反して無効である。

本件条例5条1項に基づき,条例ヘイトスピーチと認定された表現活動を行った者の氏名を公表する認識等公表は,対象者に深刻な社会的不利益を負わせるものであって
その他の刑罰
に該当するところ,
本件条例は,
法律による委任を受けて認識等公表を規定するものではないから,同項は,

憲法31条に違反する。

本件条例5条1項は,認識等公表という実質的な刑罰を科しているにもかかわらず,刑罰の要件である条例ヘイトスピーチについて曖昧な定義規定を有するにすぎないから,憲法31条による罪刑法定主義の要請を満たすものではない。


本件条例が定める告知・聴聞の手続は,これを省略できる場合があり,行政不服審査の対象からも除外されている点において,刑罰を科すための適正手続の保障を欠いている。

(被告の主張の要旨)

本件条例5条1項に基づく認識等公表は,表現活動が条例ヘイトスピーチに該当すること,表現の内容の概要及び採った拡散防止措置並びに当該表現活動を行った者の氏名又は名称を公表するというものであり,単なる情報の提供にすぎず,直接国民の権利を制限し又は義務を課すものではないから,憲法31条の趣旨が及ぶことはなく,同条に違反しないことは明らかである。


仮に本件条例5条1項に基づく認識等公表について,憲法31条の趣旨が及ぶとしても,同条に違反することはない。
すなわち,
氏名の公表を含む認識等公表は,
単なる情報の提供であって,
国民の生命,身体,財産等の重要な権利を制約するものではないこと,当該措置によって達成しようとする目的は,公益的,人道的見地から極めて強く要請され,認識等公表には相応の緊急性も要することに鑑みれば,そ
もそも認識等公表について相手方に対し,事前の告知,弁明の機会付与等を要するものではない。
また,本件条例5条1項に基づく認識等公表をしようとするときは,①市長は,あらかじめ相手方に公表の内容及び理由を通知した上,相当の期間を定めて意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなけれ
ばならないこと(同条3項本文),②審査会は,前記①の手続を要しない場合(同項ただし書)であっても,相手方に対して相当の期間を定めて意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならないこと(9条2項)等からすれば,認識等公表について適正手続の保障に欠けるところはない。

(5)

争点(5)(本件各規定が憲法94条及び地方自治法14条1項に違反し無
効であるか否か)について
(原告らの主張の要旨)
以下のとおり,本件各規定は,憲法94条及び地方自治法14条1項に違反するから,無効である。

憲法94条は,地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができる旨を規定し,地方自治法14条1項は,普通地方公共団体は,法令に違反しない限りにおいて,条例を制定することができる旨を規定する。そして,条例が国の法令に違反するか否かは,両者の対象条項と規定文言を
対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない(最
高裁昭和48年(あ)第910号同50年9月10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁。以下最高裁昭和50年判決という。)。
差別的言動解消推進法は本邦外出身者に対する不当な差別的言動を行った者に対する制裁や罰則に関する規定を置いていないところ,その趣旨は,当該規定を置くことにより,表現の自由に対する広汎な萎縮効果を
惹起する危険に配慮したものである。
そうすると,
本件条例5条1項が
本邦外出身者に対する不当な差別的言動と相当程度重複する条例ヘイトスピーチをした者に対して氏名等の公表という制裁を課すことは,表現の自由の行使を萎縮させるものであって,差別的言動解消推進法に矛盾抵触するから,本件各規定は,憲法94条及び地方自治法14条1項に違反し,
無効というべきである。

本件条例が適用対象とする表現活動は,文書やインターネット等の媒体を通じて広く伝播するものであり,その到達範囲が特定の地域に限定されるものではない。しかるに,本件条例は,条例の適用範囲が地域的制約を伴うにもかかわらず,当該制約を伴わないインターネット上の表現活動を
規制の対象とする点において,地域における事務について条例を制定することができるとした地方自治法14条1項に違反するというべきである。(被告の主張の要旨)

本件条例5条1項は,市長が条例ヘイトスピーチに該当すると認定した表現活動を行った者を制裁し,実質的に処罰する規定ではないから,原告
らの主張は前提を欠く。差別的言動解消推進法2条に規定する本邦外出身者に対する不当な差別的言動と本件条例2条1項の条例ヘイトスピーチに重複する部分があるとしても,本件条例は,条例ヘイトスピーチを刑事罰等により何ら規制するものではないから,本件条例が差別的言動解消推進法に矛盾抵触することはない。


差別的言動解消推進法は,地方公共団体は,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関し,当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとし(4条2項),基本的施策として,本邦外出身者に対する不当な差別的言動に関する相談体制の整備(5条),教育の充実等,啓発活動等(7条)について地方公共団体が必要な取組みを行うよう努める旨を規定しているから,そもそも地方公共団体による独自の取組
を排除する趣旨ではないと解される。そうすると,本件条例が,差別的言動解消推進法に矛盾抵触するとはいえず,憲法94条及び地方自治法14条1項に違反しないことは明らかである。
(6)
争点(6)(本件郵便料金支出命令1に係る適用違憲の有無)について
(原告らの主張の要旨)
本件表現活動が条例ヘイトスピーチに該当するとして,
ハンドルネーム
ダイナモを公表した本件認識等公表は,憲法21条1項に違反し,当該公表に至る過程で郵便料金を支出すべきものとした本件郵便料金支出命令1は,法令上の根拠を欠き,違法である。

すなわち,本件動画に記録された本件デモ活動は,当時の大韓民国(以下韓国という。)大統領であった李明博が,竹島に上陸し,竹島が韓国の領土であることを示す標示石を設置したこと等から,韓国との国交断絶を求めるデモ行進であったところ,本件関係人は,こうした抗議デモ活動が一切報道されていなかったため,デモ活動の賛否にかかわらず,デモ活動の事実
と内容を国民に知らせて考えてもらうことを目的に,中立かつ客観的な立場で,自ら撮影した本件デモ活動の一部始終の動画を一切の編集を加えず,閲覧に供する本件表現活動をしたものである。そうすると,本件表現活動は,外交という公共の利害に関する問題について,自らの政治的信条に基づき,専ら公益を図る目的でされたものであって,差別的言動を含むとしても,報
道としての表現活動に引用されたものにすぎない。
したがって,本件表現活動が条例ヘイトスピーチに該当し,本件認識等公表によって,本件関係人のハンドルネームを公表することは,憲法21条1項に違反する。
(被告の主張の要旨)
本件動画は,

不逞犯罪ゴキブリくそちょんこ,日本からたたき出せ。

,殺せ,殺せ,朝鮮人等の在日韓国・朝鮮人に対する差別的発言を繰り返す様子を記録したものであって,専ら差別的言動に終始するものである。このような本件動画の内容に照らせば,本件表現活動は,個人の尊厳を否定する等して深刻な社会的弊害をもたらすものであることが明らかであり,仮に本件デモ活動が外交に何らかの関係を有しているとしても,公共の利害に関
するものと評価することはできない。
なお,本件関係人は,本件認識等公表から8箇月が経過した後に,突如,本件表現活動が公益目的を有する旨の主張をしており,その行動自体がおよそ合理的なものとはいえない。また,本件関係人は,本件動画の冒頭部分に登場し,本件デモ活動の参加者らの前で

在日韓国人をたたきのめしましょう。

などと発言しており,本件デモ活動に参加し,差別的な言動に参加していた。これらの事情に照らしても,本件表現活動が公共の利害を目的とするものであるということはできず,条例ヘイトスピーチに該当することは明らかである。
(7)

争点(7)(Aによる不法行為の成否)について

(原告らの主張の要旨)
前記(2)~(6)(原告らの主張の要旨)のとおり,本件各規定は憲法等に違反して無効であるとともに,本件動画が条例ヘイトスピーチに該当するとして本件認識等公表をすることは憲法21条1項に違反するものであった。そして,Aは,大阪市の執行機関たる長として,条例,予算その他の議会
の議決に基づく事務及び法令,規則その他の規程に基づく大阪市の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負うから(地方自治法138条の2),本来的に支出命令を行う権限を有する者として,総務課長が専決により憲法等に違反する本件各支出命令をすることを阻止すべき義務を負っていたにもかかわらず,当該義務を怠ったものであり,大阪市に対する不法行為責任を負う。
(被告の主張の要旨)

原告らの主張は争う。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(適法な監査請求の前置の有無)について
(1)

本件訴えは,
財務会計行為である本件各支出命令について,支出命令を行

う権限を法令上本来的に有する当該職員たる市長であったAに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金の支払請求をするように求めるものであるから,適法な監査請求を前置したというためには,本件監査請求が本件各支出命令を対象に含むことを要するので,この点について検討する。

(2)

前記前提事実(5)アによれば,原告らは,本件監査請求において,市長で
あるAは,大阪市の職員を通じて,違憲無効である本件条例に基づき,審査会委員5名に対して,
平成28年7月~平成29年6月に,
その報酬として,
合計115万2480円を支出するという違法な財務会計行為を行った旨を主張しているから,本件監査請求は,本件報酬各支出命令,すなわち,総務課長が平成28年8月~平成29年6月に専決によってした審査会委員に対する報酬に係る同額の各支出命令を対象に含むものということができる。また,前記前提事実(5)アによれば,原告らは,本件監査請求において,市長であるAは,大阪市の職員を通じて,違憲無効である本件条例に基づき,条例ヘイトスピーチとされる動画の削除及び投稿者の氏名公表に関して,平
成28年11月15日及び平成29年4月5日に,動画運営会社との通信費用として,合計1272円を支出するという財務会計行為をした旨を主張するところ,前記の各日付は,郵便物を送付した時期をいうものと解することができるから,本件監査請求は,本件郵便料金各支出命令,すなわち,審査会の調査審議手続に係る平成28年11月分の後納料金880円(同月15日に郵便局に差し出されたドワンゴ宛て簡易書留郵便の料金450円及びグーグル合同会社宛て簡易書留郵便の料金430円の合計)を支出する旨の同年12月16日付け支出命令(本件郵便料金支出命令1)及び審査会の調査審議手続に係る平成29年4月分の後納料金392円を支出する旨の同年5月23日付け支出命令(本件郵便料金支出命令2)をその対象に含むものということができる。
したがって,本件監査請求は,本件各支出命令を対象に含むものであるか
ら,本件訴えは,本件監査請求を経ることによって,適法な監査請求を前置したものというべきである。
(3)ア

これに対し,被告は,本件監査請求は,市長において,総務課長が本件
条例に基づいて専決により本件各支出命令をすることを阻止すべき義務を怠ったことを主張するものではないから,本件訴えは,監査請求の前置を
経ていない旨を主張する。
しかしながら,前記(1)において説示したとおり,本件訴えは,財務会計行為である本件各支出命令について,支出命令を行う権限を法令上本来的に有する当該職員たる市長であったAに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金の支払請求をするように求めるものである
から,本件各支出命令について監査請求を経ることによって,適法な監査請求を前置したものということができる。
したがって,被告の前記主張は採用することができない。

また,被告は,条例が違憲の場合に当該条例に基づく支出が直ちに違法な財務会計行為となる関係にはなく,本件監査請求における原告らの主張は,単に本件条例の違憲をいうものであって,財務会計行為の違法をいうものとは解されないから,本件監査請求は,その対象である財務会計行為を具体的に特定していない旨を主張する。
しかしながら,
前記(2)において説示したところによれば,
本件監査請求
は,本件各支出命令を対象に含むものであって,これを違法な財務会計行為として特定したものということができる。そして,本件条例が違憲であ
ることによって本件各支出命令が違法な財務会計行為となるか否かは,本案の問題であるから,被告が指摘する点をもって,監査請求における財務会計行為の特定を欠くということはできない。
したがって,被告の前記主張は採用することができない。
(4)

以上によれば,
本件訴えは適法な監査請求を前置したものというべきであ

る。
2
争点(2)
(本件各規定が憲法21条1項に違反し無効であるか否か)について(1)

本件各規定が表現の自由を制限するものであるか否か
憲法21条1項の保障する表現の自由は,民主主義国家の政治的基盤をなし,国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり,法律によ
ってもみだりに制限することができないものである。すなわち,主権が国民に属する民主制国家は,その構成員である国民がおよそ一切の主義主張等を表明するとともにこれらの情報を相互に受領することができ,その中から自由な意思をもって自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され,このような過程を通じて国政が決定されることをその
存立の基礎としているのであるから,表現の自由は,特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならないものであり,憲法21条1項の規定は,その核心においてこのような趣旨を含むものと解される。

そして,本件各規定は,市長が,大阪市の区域内で行われた表現活動等の所定の表現活動について,条例ヘイトスピーチに該当すると認めるときは,①当該表現活動が条例ヘイトスピーチに該当するとの認識及び当該表現活動の内容の概要を公表するにとどまらず,②事案の内容に即して当該表現活動に係る表現の内容の拡散を防止するために必要な措置(当該表現活動が看板,掲示物等を用いてされているときに,当該看板,掲示物等が設置された施設の管理者に対し,撤去要請を行うことや,当該表現活動がインターネット上のウェブサイトに書き込む方法でされているときに,当
該ウェブサイトを管理するプロバイダに削除要請を行うこと等を含むと解される。)を採るとともに,③当該表現活動を行った者の氏名又は名称を公表するものとすること(5条1項。拡散防止措置等)等をその内容とするものであって,前記①~③の拡散防止措置等によって当該表現活動が一定程度抑止され得ると考えられることに照らすと,本件各規定は,当該表
現活動(ただし,表現の自由の濫用に当たる活動を除く。)に関し,憲法21条1項が保障する表現の自由を制限する側面を有するものである。ウ
(ア)

被告の主張について
これに対し,被告は,本件条例5条1項に基づく認識等公表は,表現活動をした者のいかなる表現活動をも規制又は禁止するものではなく,
当該表現活動を行った者の人格的価値に関する評価は何ら含まれない上,憲法21条1項は,表現の内容に対する社会的評価を保護するものではない旨を主張する。
しかしながら,前記イに説示したとおり,拡散防止措置等によって当該表現活動が一定程度抑止され得ると考えられることに照らすと,本件
各規定は,
表現活動
(ただし,
表現の自由の濫用に当たる活動を除く。

に関し,憲法21条1項が保障する表現の自由を制限する側面を有するものというべきである。
したがって,被告の前記主張は採用することができない。
(イ)

また,被告は,ある表現行為が表現の自由の保障を受けるか否か及び保障の程度は,当該表現行為と自己統治や自己実現の価値との結びつきの程度や当該表現行為がもたらす社会的弊害を考慮して判断されるところ,本件条例の定義する条例ヘイトスピーチは,個人の尊厳を否定し,平穏に生活する権利,名誉権,人格権,地域社会から排除されることのない権利,平等権等を侵害するものであり,深刻な社会的弊害をもたらすものであるから,およそ表現の自由の保障を受けない旨を主張する。そこで検討すると,
条例ヘイトスピーチは,
[A]表現の目的については,
(a)特定人等を社会から排除すること,(b)特定人等の権利又は自由を制限すること,
又は,
(c)特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴
力をあおる目的が明らかに認められることのいずれかに該当し,
[B]表現

の内容又は表現活動の態様については,
(a)特定人等を相当程度侮蔑し若
しくは誹謗中傷するものであること,
又は,
(b)特定人に脅威を感じさせ,
若しくは,表現等の対象が特定集団であるときは,当該特定集団に属する個人(特定人)の相当数に脅威を感じさせるものであることのいずれかに該当し,かつ,
[C]不特定多数の者が表現内容を知り得る状態に置く

ような場所又は方法で行われるものである(本件条例2条1項)。このような定義に照らせば,条例ヘイトスピーチに該当する表現活動の中には,
その具体的な内容やこれが行われた経緯,
状況等の諸事情次第では,
他人の名誉を害するものに当たるなど,表現の自由の濫用であって,憲法21条1項の保障する表現の自由の範囲内に属すると認められないも
のも存する(最高裁昭和28年(オ)第1241号同31年7月4日大法廷判決・民集10巻7号785頁,同44年(あ)第806号同年10月23日第一小法廷判決・裁判集刑事173号561頁参照)と考えられる一方で,前記諸事情次第では,一応は表現の自由の範囲内に属するというべきものも存すると考えられるから,条例ヘイトスピーチに該
当する表現活動がおよそ表現の自由の保障を受けないものであるということはできない。
したがって,被告の前記主張は採用することができない。

以上によれば,本件各規定は,表現の自由を制限するものであるというべきである。

(2)
本件各規定は表現の自由に対する制限として容認されるか否か


前記(1)アに説示したとおり,憲法21条1項の保障する表現の自由は,民主主義国家の政治的基盤をなし,国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり,法律によってもみだりに制限することができないものである。しかしながら,表現の自由といえども無制限に保障されるものではなく,公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限を受けることがあり,その制限が前記のような限度のものとして容認されるかどう
かは,制限が必要とされる程度と,制限される自由の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられる(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁,最高裁平成4年判決参照)。
このことを前提として,検討する。


認定事実
前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア)
公益財団法人人権教育啓発推進センターが平成28年3月に公表した平成27年度法務省委託調査研究事業ヘイトスピーチに関する実態調査報告書によれば,ヘイトスピーチの実態等に関する報告の内容は概要,次のとおりである。(乙28)
a
インターネット上の公表情報を中心に,ヘイトスピーチ(他者に対する偏見,差別意識等に基づく憎悪表現)を伴うデモ・街宣活動を行
っていると報道等で指摘される団体の活動を調査した結果,①特定の民族等に属する集団を一律に排斥する内容,②特定の民族等に属する集団の生命,
身体等に危害を加える旨の内容を伴うデモ街宣活動は,

平成24年4月~平成27年9月(3年6箇月)の間に,全国で1152件行われ,このうち大阪府において行われた件数は164件(全国の14.2%)である。
b
特定の動画投稿サイトの検索機能を使用して,ヘイトスピーチを行うデモ等の動画の発言内容を確認すると,大阪市内では,平成24年6月9日,平成26年5月11日,同年9月23日,平成27年3月29日及び同年4月29日に行われたデモ・街宣活動に,①特定の民族等に属する集団を一律に排斥する内容,②特定の民族等に属する集団の生命,身体等に危害を加える旨の内容,③特定の民族等に属する
集団を蔑称で呼ぶなどして殊更に誹謗中傷する内容の発言が確認された。
c
平成25年6月25日の毎日新聞大阪夕刊では,同年4月に大阪市北区梅田で街宣活動が行われ,

『殺せ朝鮮人』のシュプレヒコールは当然です。

朝鮮人は同じ生き物ではありません。

との発言
があったことが報道されている。
(イ)

大学教授,民間企業幹部,弁護士,大阪市会議員等で構成される大阪市人権施策推進審議会は,平成26年9月,大阪市人権尊重の社会づくり条例5条1項の規定に基づき,
市長から,
ヘイトスピーチ
(憎悪表現)

に対する大阪市として採るべき方策について諮問を受け,平成27年2月,概要,次のとおりの答申をした。(乙19,20,弁論の全趣旨)a
基本的な考え方
特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的な言動がいわゆるヘイトスピーチであるとして社会的関心を集めているが,こうした言動は,
人々に不安感や嫌悪感を与えるだけではなく,人としての尊厳を傷つけ,差別意識を生じさせることにつながりかねないものである。大阪市では,在日韓国・朝鮮人をはじめ多くの外国人が居住している中,市内において現実にヘイトスピーチが行われているといった状況にあり,大阪市は,市民の人権を擁護すべき基礎自治体として,ヘイトスピーチに対して独自で可能な方策を採ることで,ヘイトスピーチは許さないという姿勢を明確に示していくことが必要である。

b
大阪市独自の措置
大阪市独自の措置としては,①ヘイトスピーチと認定した事案について,差別の拡散につながらないよう十分に留意しながら,ヘイトスピーチであるという認識及びその事案の概要と講じた措置を公表することが適当である,②ヘイトスピーチにより被害を受けたとする市民
等が司法救済を求めることを支援するという目的に加え,ヘイトスピーチに関する司法判断を明らかにすることによりその抑止を図ることを目的として,大阪市がその訴訟費用を支援することについて政策的な合理性があり,そうした制度を構築することが適当である。
(ウ)

人種差別撤廃条約に基づき設置された人種差別撤廃委員会は,平成26年9月26日付けで,日本政府の人種差別撤廃条約に基づく第7~第9回定期報告について,概要,次のとおりの総括所見を採択した。(乙32,33)
a
人種差別撤廃委員会は,日本が,人種差別撤廃条約1条及び2条に従い,
人種差別の被害者が適切な法的救済を得られることを可能にし,

直接的及び間接的な人種差別を禁止する特別及び包括的な法を採択することを勧告する。
b
人種差別撤廃委員会は,日本に,人種差別的ヘイトスピーチやヘイトクライムから保護する必要のある社会的弱者の権利を擁護する重要
性を喚起し,①憎悪及び人種差別の表明,デモ・集会における人種差別的暴力及び憎悪の扇動に確実に対処すること,②インターネットを含むメディアにおいて,ヘイトスピーチに対処する適切な措置を採ること,③そのような行動について責任ある個人や団体を捜査し,必要な場合には起訴すること等の適切な措置を採るように勧告する。
c
人種差別撤廃委員会は,前記bを含む勧告が特に重要であることにつき,日本の注意を促すものであり,日本に対し,次回の定期報告に
おいて,それらを実施するために採られた具体的施策に関する詳細な情報を提供することを要請する。
(エ)

大阪市生野区区政会議は,平成26年12月,平成25年2月以降,在日韓国・朝鮮人への攻撃的な言葉や蔑称を大音量で連呼する行動が,生野区や周辺地域で相次いで行われるようになったところ,こうした一
連の行動は,在日韓国・朝鮮人はもとより,多くの地域住民を不安に陥れ,安心して暮らせるまちづくりを阻害するものであるほか,最も大切な人権への侵害に関わるものであるなどとして,
区政会議の決議として,
区長を通じ,市長に対して必要な対策を採るように要望をした。(乙18)

(オ)

大阪市会は,平成27年6月10日,大阪市内において,デモや街宣活動といったヘイトスピーチが頻繁に行われており,国際連合自由権規約委員会や人種差別撤廃委員会が,日本政府に対してヘイトスピーチへの適切な対処に取り組むことを強く求める勧告を行っていること等から,地方自治法99条に基づき,衆・参議院議長,内閣総理大臣,総務大臣
及び法務大臣に対して,ヘイトスピーチの根絶に向けて実効性のある法律の整備を視野に入れた対策を早急に進めるよう強く要望する旨の意見書を提出する旨の決議をした。(乙26,弁論の全趣旨)
(カ)
人種差別撤廃委員会は,平成30年8月30日付けで,日本政府の人種差別撤廃条約に基づく第10回,第11回定期報告について,概要,次のとおりの総括所見を採択した。(乙34,35)
a
人種差別撤廃委員会は,差別的言動解消推進法の施行を歓迎する。
b
人種差別撤廃委員会は,日本が,人種差別撤廃条約1条及び2条に沿った直接的及び間接的な人種差別を禁止する個別の包括的な法律を制定することを要請する。

c
人種差別撤廃委員会は,①差別的言動解消推進法の適用範囲が狭すぎており,
適法に日本に在留する者に対するヘイトスピーチに限られ,
締約国における民族的マイノリティに提供された救済措置が非常に限られていること,②差別的言動解消推進法成立後においても,特に,デモ参加者が在日韓国人・朝鮮人といった民族的マイノリティ集団に対する暴力的なヘイトスピーチを用いる集会を通じて,日本において
ヘイトスピーチ及び暴力の扇動が引き続き行われていること,③インターネット及びメディアを通じたヘイトスピーチ並びに公人によるヘイトスピーチ及び差別的発言が継続していること等に引き続き懸念する。
d
人種差別撤廃委員会は,前記(ウ)bの勧告を強調し,日本に対し,①全ての者に対するヘイトスピーチが適切に対象に含められ,民族的マイノリティに属する者への十分な救済措置の提供が確保されるよう,差別的言動解消推進法を改正すること,②表現及び集会の自由を考慮しつつ,
集会におけるヘイトスピーチに使用及び暴力の扇動を禁止し,
加害者への制裁を確保すること,③自主規制制度の設立を含む,イン
ターネット及びメディアを通じたヘイトスピーチに対処するための効果的な措置を採ること等を勧告する。
e
人種差別撤廃委員会は,前記dを含む勧告が特に重要であることにつき,日本の注意を促すものであり,日本に対し,次回の定期報告に
おいて,それらを実施するために採られた具体的施策に関する詳細な情報を提供することを要請する。
ウ(ア)

そこで,検討すると,本件各規定は,[B](a)特定人等(人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人(特定人。なお,日本人を含む(以下同じ。)。)又は特定人により構成される集団(特定集団))を相当程度侮蔑し若しくは誹謗中傷するものである,又は,
(b)特定人に脅威を
感じさせ,若しくは,表現等の対象が特定集団であるときは,当該特定
集団に属する個人(特定人)の相当数に脅威を感じさせる内容又は態様の表現活動(2条1項2号)のうち,[A](a)特定人等を社会から排除すること,(b)特定人等の権利又は自由を制限すること,又は,(c)特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおることを目的として行われ(ただし,(c)については,当該目的が明らかに認められる場合に
限る。同項1号),かつ,[C]不特定多数の者が表現内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われた(同項3号)ものを条例ヘイトスピーチと定義し,条例ヘイトスピーチが,所定の場所,方法等で行われたもの(大阪市の区域内で行われた条例ヘイトスピーチ,同区域内で行われた条例ヘイトスピーチの内容を同区域内に拡散するもの等)である
ときには,市長は,拡散防止措置等(拡散防止措置及び認識等公表)を採るものとする(5条1項)旨等を定めたものである。そして,本件条例は,1条において,条例ヘイトスピーチが個人の尊厳を害し差別の意識を生じさせるおそれがあることに鑑み,条例ヘイトスピーチに対処するため大阪市が採る措置等に関し必要な事項を定めることにより,市民
等の人権を擁護するとともに条例ヘイトスピーチの抑止を図ることを目的とする旨を定めている。
(イ)

本件条例1条の内容を前提に,前記のとおりの本件各規定の目的について検討する。

まず,
[1]本件各規定のうち,特定人を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷する表現活動(前記[B](a)のうち特定人に係るもの)につき,市長が拡散防止措置等を採るものとする旨定める部分は,特定人に対して当該特定人の属する人種又は民族に関して侮蔑し又は誹謗中傷する表現活動が前記[A]の目的及び前記[C]の場所等で行われることを抑止することをもって,当該特定人の名誉を保護することを目的としているものと解されるところ,現代社会においては,人(当然のことながら日本人を含む。)が特定の人種や民族に属することは,当該人の人格の根本を形成するものであることも考慮すると,この規制の目的は,合理的であり正当なものということができる。
次に,
[2]本件各規定のうち,
特定集団を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷

する表現活動(前記[B](a)のうち特定集団に係るもの)につき,市長が拡散防止措置等を採るものとする旨定める部分について検討する。当該部分は,①特定集団に対して当該特定集団に係る人種又は民族に関して侮蔑し又は誹謗中傷する表現活動が前記[A]の目的及び前記[C]の場所等で行われることを抑止することをもって,②当該表現活動が拡散される
ことや当該表現活動と同等又は類似の表現活動が反復継続等されることを通じて,当該人種又は当該民族に対する偏見,差別意識,憎悪等の感情が温存,醸成,助長,増幅等されることや,さらには,これらの感情が当該人種又は当該民族に属する個人(特定人)に対する当該人種又は当該民族に関する侮蔑又は誹謗中傷や暴力行為へと進展することを抑止
することを目的としているものと解される。
ヘイトスピーチを伴うデモ

街宣活動を行っていると報道等で指摘される団体の活動内容に関する調査の結果,(A)特定の民族等に属する集団を一律に排斥する内容又は(B)特定の民族等に属する集団の生命,身体等に危害を加える旨の内容を伴うデモ街宣活動のうち平成24年4月~平成27年9月

(3年6箇月)

の間に大阪府において行われたものの件数は164件(全国で行われた件数の14.2%を占める。)に及ぶこと(前記認定事実(ア)a),動画投稿サイトには,平成24年6月~平成27年4月の間に大阪市内で行われたデモ・街宣活動で,前記(A)の内容,(B)の内容又は特定の民族等に属する集団を蔑称で呼ぶなどして殊更に誹謗中傷する内容の発言を伴う動画が複数投稿されていること(同b)が確認されていることに照らすと,本件条例制定当時,大阪市内において特定集団を侮蔑し又は誹謗中傷する表現活動が反復継続して行われたり,当該表現活動を拡散する行為が複数行われたりしていたことが認められる。
そして,
[ア]大学教授,
民間企業幹部,弁護士,大阪市会議員等で構成される大阪市人権施策推進審議会は,市長に対し,ヘイトスピーチ(憎悪表現)に対する大阪市
として採るべき方策について,大阪市独自のヘイトスピーチ抑止のための措置を講ずべき旨の答申を行う前提として,特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的な言動が,人々に不安感や嫌悪感を与えるだけではなく,人としての尊厳を傷つけ,差別意識を生じさせることにつながりかねないものであるとの認識を示していること(同(イ)),[イ]本件条例制
定当時に大阪市内で現実に行われていた特定集団に対する侮蔑若しくは誹謗中傷又は生命,身体等に危害を加える旨の表現活動の具体的内容をみると,街宣活動の際に,特定の人種又は民族を挙げて,殺せとのシュプレヒコールを上げたり,

同じ生き物ではありません。

と発言したりする(同(ア)c)などの激烈なものであって,当該表現活動の場に
当該人種又は当該民族(特定集団)に属する特定の個人(特定人)が居合わせた場合には,当該個人に対する暴力行為が惹起される可能性が相当程度高いと考えられるし,このような表現活動が反復継続等された場合には,当該人種又は当該民族に対する偏見,差別意識,憎悪等の感情が温存,醸成,助長,増幅等されることや,さらには,これらの感情が
当該人種又は当該民族に属する個人(特定人)に対する当該人種又は当該民族に関する侮蔑又は誹謗中傷や暴力行為へと進展することも容易に想定されること,[ウ]大阪市生野区区政会議が,平成26年12月,市長に対し,平成25年2月以降,在日韓国・朝鮮人への攻撃的な言葉や蔑称を大音量で連呼する行動が生野区や周辺地域で相次いで行われるようになったとして,必要な対策を採るように要望している(同(エ))ほか,日本政府は,人種差別撤廃委員会から,平成26年9月,人種差別撤廃条約1条及び2条に従い,人種差別の被害者が適切な法的救済を得られることを可能にするとともに,憎悪及び人種差別の表明,デモ・集会における人種差別的暴力及び憎悪の扇動に確実に対処すること,インターネットを含むメディアにおいて,ヘイトスピーチに対処する適切な措置
を採ること等を特に重要なものとして勧告を受け,また,平成30年8月,差別的言動解消推進法が施行された後も,引き続き,在日韓国人・朝鮮人といった民族的マイノリティ集団に対する暴力的なヘイトスピーチを用いる集会を通じて,日本においてヘイトスピーチ及び暴力の扇動が行われていることやインターネット及びメディアを通じたヘイトスピ
ーチが継続しており,これに対する措置を採るよう勧告されている(同(ウ),(カ))ことに加えて,[エ]前記のとおり,現代社会においては,人が特定の人種や民族に属することは,当該人の人格の根本を形成するものであることや,人種による差別を禁じた憲法14条の趣旨も併せ鑑みると,本件各規定のうち,特定集団を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷する表
現活動(前記[B]のうち特定集団に係るもの)につき,市長が拡散防止措置等を採るものとする旨定める部分に関する前記①及び②のとおりの規制の目的は,合理的であり正当なものということができる。
また,
[3]本件各規定のうち,
特定人に脅威を感じさせる内容又は態様
等の表現活動(前記[B](b))につき,市長が拡散防止措置等を採るもの
とする旨定める部分は,特定人に対して当該特定人の属する人種又は民族に関してその生命,身体又は財産が具体的に侵害されるとの脅威を感じさせるような表現活動が前記[A]の目的及び前記[C]の場所等で行われることを抑止することをもって,当該特定人の私生活の平穏等を保護することを目的としているものと解されるところ,私生活の平穏は個人にとって重要な利益であるから,この規制の目的は,合理的であり正当なものということができる。

そうすると,本件各規定に基づく拡散防止措置等により条例ヘイトスピーチについて規制を必要とする程度は高いというべきである。
(ウ)

次に,本件各規定に基づく拡散防止措置等によって表現活動に加えられる具体的制限の態様及び程度等についてみると,拡散防止措置等は,いずれも表現活動が行われた後に行われるものである上,そのうち,拡
散防止措置は,看板や掲示物の撤去要請やインターネット上の表現活動については削除要請等を行うものである一方,要請に応じなかった場合に制裁を課すものではないし,認識等公表は,市長が表現活動を行った者の氏名を把握している場合に,その公表ができるにとどまり,当該表現活動を行った者の氏名を把握しているウェブサイトを管理するプロバ
イダ等に当該氏名の開示を義務付ける規定は存しない。加えて,本件条例によれば,市長は,拡散防止措置等を採るに先立ち,原則として,拡散防止措置等の対象たる条例ヘイトスピーチに該当するか否か及び当該表現活動に対して採る具体的な拡散防止措置等の内容につき,市長が学識経験者その他適当と認める者のうちから大阪市会の同意を得て委嘱し
た者によって構成される審査会に対し,意見聴取(諮問)しなければならず(6条1項及び3項),拡散防止措置等が合理的なものであって,市長による権限の濫用がないか否かについては,学識経験者等により構成される附属機関に対する諮問が予定されているものということができる。

(エ)

以上に説示したところを総合すれば,本件各規定に基づく拡散防止措置等は,表現の内容に関する規制を伴うものであるものの,拡散防止措置等により条例ヘイトスピーチについて規制を必要とする程度は高く,また,拡散防止措置による表現の自由に対する制限は,表現活動が行われた後に,要請に応じなかった場合に制裁を伴わない拡散防止措置や,当該表現活動を行った者の氏名を把握しているウェブサイトを管理する
プロバイダ等に対する当該氏名の開示を義務付ける規定を伴わない認識等公表を行うといったものにとどまり,しかも,市長が拡散防止措置等を採るに先立ちこれが合理的なものであるか否かについて,学識経験者等により構成される附属機関に対する諮問が予定されている。
そうすると,本件各規定に基づく拡散防止措置等は,公共の福祉によ
る合理的で必要やむを得ない限度の制限であるということができる。エ
原告らは,認識等公表は,表現活動を行った者が差別的表現をした旨を公表する点において,社会的評価を著しく低下させ,表現を萎縮させるとともに,匿名により表現活動を行う者に対して表現を著しく萎縮させる旨
を主張する。
そこで検討すると,匿名による表現活動を行う自由は,憲法21条1項により保障されているものと解されるところ,認識等公表は,対象となる表現活動が条例ヘイトスピーチに該当する旨とともに,当該表現活動を行った者の氏名又は名称を公表するものであるから,当該者の社会的評価を
低下させ得るものであるものの,前記ウに説示したとおり,拡散防止措置等により条例ヘイトスピーチについて規制を必要とする程度は高い一方で,拡散防止措置等が合理的なものであることについては,学識経験者等により構成される附属機関に対する諮問が原則として予定されていることに鑑みれば,認識等公表は,公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度
の制限にとどまるものというべきである。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。

以上によれば,本件各規定は表現の自由に対する制限として容認されるものであるというべきである。

(3)

本件各規定が漠然であるために無効であるか否か
原告らは,本件条例2条は,曖昧であり,表現行為に対して強い萎縮効果を有するから,本件各規定は,漠然性ゆえに無効の法理により文面上違
憲無効である旨を主張する。

そこで検討すると,表現の自由は,前記(1)アに説示したとおり,憲法の保障する基本的人権の中でも特に重要視されるべきものであって,表現の自由を規制する法令の規定が曖昧不明確のゆえに憲法21条1項に違反し
無効であるとされるのは,その規定が通常の判断能力を有する一般人に対して,表現の自由が規制される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく,そのため,その適用を受ける国民に対して表現の自由の規制の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず,また,その運用がこれを適用する国又は地方公共団体の機関の主観的判断に
委ねられて恣意に流れる等,
重大な弊害を生ずるからであると考えられる。
しかし,一般に法規は,規定の文言の表現力に限界があるばかりでなく,その性質上多かれ少なかれ抽象性を有し,表現の自由を規制する法規もその例外をなすものではないから,表現の自由が規制される行為とそうでない行為との識別を可能とする基準といっても,必ずしも常に絶対的なそれ
を要求することはできず,合理的な判断を必要とする場合があることを免れない。それゆえ,ある表現の自由を規制する法令の規定が曖昧不明確のゆえに憲法21条1項に違反するものと認めるべきかどうかは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものか否かの判断を可能とするような基準が読みとれるかどうか
によってこれを決定すべきである(最高裁昭和50年判決,最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁参照)。

これを本件についてみると,条例ヘイトスピーチは,
[A]表現の目的につ
いては,(a)特定人等を社会から排除すること,(b)特定人等の権利又は自由を制限すること,
又は,
(c)特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又

は暴力をあおる目的が明らかに認められることのいずれかに該当し,[B]表
現の内容又は表現活動の態様については,
(a)特定人等を相当程度侮蔑し若
しくは誹謗中傷するものであること,又は,(b)特定人に脅威を感じさせ,若しくは,表現等の対象が特定集団であるときは,当該特定集団に属する個人(特定人)の相当数に脅威を感じさせるものであることのいずれかに
該当し,
かつ,[C]不特定多数の者が表現内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われるものである(本件条例2条1項)。そして,拡散防止措置等の対象となるのは,条例ヘイトスピーチに該当するものであって,[1]大阪市の区域内で行われた表現活動,又は,[2]大阪市の区域外で行われた表現活動(大阪市の区域内で行われたか否か明らかでない表現活
動を含む。)で,(ⅰ)表現の内容が市民等に関するものであると明らかに認められるもの,若しくは(ⅱ)前記(ⅰ)に掲げる表現活動以外の表現活動で大阪市の区域内で行われた条例ヘイトスピーチの内容を大阪市の区域内に拡散するもののいずれかに該当するものである
(本件条例5条1項本文)

前記に説示した本件条例の各規定によれば,条例ヘイトスピーチの概念
は,その表現の目的,表現の内容及び表現活動の態様,不特定多数の者が表現内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われるものであることといった要件によって,具体的に規定されているとともに,拡散防止措置等の対象は,大阪市の区域内外で行われたものであるか否か,表現の内容が市民等に関するものであると明らかに認められるものか否かといっ
た基準を用いて明確に規定されているものということができる。そうすると,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為が本件条例に基づく拡散防止措置等の適用を受けるものかどうかの判断を可能とするような基準が読みとれるものであるというべきである。エ
これに対し,原告らは,①大阪市の区域外でされた条例ヘイトスピーチの一部も規制対象とする点でその内容が漠然としており,②(ア)

核ミサイルを玩具にする金正恩を神格化している朝鮮総連を日本から追い払え。,


(イ)大阪市は在日外国人に対する生活保護の支給を直ちに取りやめろ。,
(ウ)出入国管理及び難民認定法等にみられる在日特権を直ちに廃止すべき「である。」,(エ)

在日韓国人は,強制連行の嘘を掲げて日本に賠償をたかる文大統領に抗議すべきである。

といった言論が条例ヘイトスピーチに該当するか否かが明確でない旨を主張する。

しかしながら,前記①については,前記ウで説示したところによれば,拡散防止措置等の対象となる大阪市の区域外で行われた表現活動は,(a)表
現の内容が市民等に関するものであると明らかに認められるもの,又は(b)
前記(a)に掲げる表現活動以外の表現活動で大阪市の区域内で行われた条例ヘイトスピーチの内容を大阪市の区域内に拡散するものであると明確に定
められているのであるから,大阪市の区域外でされた条例ヘイトスピーチの一部を適用対象とする点において,その内容が漠然としているということはできない。
また,前記②については,前記(ア)~(エ)の各表現活動が条例ヘイトスピーチに該当するか否かは,表現内容の文言のみならず,表現活動の目的,
表現活動の態様,場所・方法を考慮して判断されるものであるから,原告らが挙げる例をもって,本件条例における拡散防止措置等の対象が漠然としているということはできない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。

以上によれば,本件各規定は,漠然であるために無効であるということはできない。
(4)

本件各規定が過度に広汎であるために無効であるか否か
原告らは,本件各規定は,過度の広汎性ゆえに無効の法理により文面上違憲無効である旨を主張する。


そこで検討すると,条例ヘイトスピーチに該当する表現活動について拡散防止措置等による表現の自由の制限を受けることが憲法21条1項の規
定に違反するものでないことは,
前記(2)に説示したとおりであって,
条例
ヘイトスピーチの定義が過度に広汎であるということはできない。ウ
これに対し,原告らは,前記(3)エ②(ア)~(エ)の表現活動は,いずれも合理的な根拠を有する政治的主張を含む言論であるところ,このような政治的言論を他者の感情的反発を招くという理由で規制することは許されず,
前記表現行為が,条例ヘイトスピーチに該当し,拡散防止措置等による制裁から除外されないのであれば,本件各規定は,過度に広汎である旨を主張する。
しかしながら,
前記(3)エにおいて説示したとおり,
前記(3)エ②(ア)~(エ)
の各表現活動が条例ヘイトスピーチに該当するか否かは,表現内容の文言
のみならず,表現活動の目的,表現活動の態様,場所・方法を考慮して判断されるものであるから,原告らが挙げる例をもって,本件条例における拡散防止措置等の対象が過度に広汎であるということはできない。エ
以上によれば,本件各規定は,過度に広汎であるために無効であるということはできない。

(5)

以上によれば,本件各規定は,憲法21条1項に違反し無効であるという
ことはできない。
3
争点(3)(本件各規定が憲法13条に違反し無効であるか否か)について(1)

原告らは,
①ハンドルネームを用いて匿名による表現活動を行う者にとっ
ては,氏名は他人に知られたくない情報であり,本件条例に基づく認識等公表による氏名の公表は,憲法13条に基づく幸福追求権の一内容として保障されるプライバシー権の侵害に該当する,②条例ヘイトスピーチに該当すると認定された表現活動について,当該活動を行った者の氏名を公表することは,当該者の社会的評価を低下させ,もって,憲法13条により保障された人格権を侵害する旨を主張する。
(2)

前記(1)①の主張について
憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護され
るべきことを規定しているものであり,
個人の私生活上の自由の一つとして,
何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される(最高裁平成19年(オ)第403号,同年(受)第454号同20年3月6日第一小法廷判決・民集62巻3号665頁,最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁)。
そこで,本件条例に基づく認識等公表として,条例ヘイトスピーチに該当すると認定された表現活動を行った者の氏名を公表することが前記の自由を
侵害するものであるかについて検討すると,匿名による表現活動において,当該表現活動を行った者の氏名は前記の自由によって保護される個人に関する情報に含まれると解されるが,当該表現活動が他者の権利利益を侵害し,当該表現活動に係る民刑事上の責任を確定する必要がある等,正当な理由がある場合には,当該表現活動を行った者の氏名は,その意思に反しても開示
されることがあり得るものであって,氏名に関する前記の自由は無制約に保障されるものではない。また,表現活動の内容が当該者の私生活の重大な秘密に関わる等の事情がある場合には,当該者の氏名を秘匿すべき特に重要な利益があるということができるが,条例ヘイトスピーチについては,一般的にみて前記の事情が認められる表現活動であるということはできない。これ
らのことに加え,
前記2(2)において説示したとおり,条例ヘイトスピーチを
抑止する必要性が高いものである一方で,拡散防止措置等が合理的なものであることについては,学識経験者等により構成される附属機関に対する諮問が原則として予定されていることを併せ鑑みれば,認識等公表は,公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限にとどまっているものというべきである。
そうすると,認識等公表は,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又
は公表するものということはできず,前記個人がこれに同意していないとしても,憲法13条により保障された前記の自由を侵害するものであるということはできない。
(3)

前記(1)②の主張について
前記2(2)エにおいて説示したところによれば,認識等公表は,対象となる
表現活動が条例ヘイトスピーチに該当する旨とともに,当該表現活動を行った者の氏名又は名称を公表するものであるから,当該者の社会的評価を低下させ得るものであるものの,拡散防止措置等により条例ヘイトスピーチについて規制を必要とする程度は高い一方で,拡散防止措置等が合理的なものであることについては,学識経験者等により構成される附属機関に対する諮問
が原則として予定されていることに鑑みれば,認識等公表は,公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限にとどまっているものというべきであり,憲法13条が保障する人格権に対する制限としても容認されるものであるというべきである。
(4)

以上によれば,
本件各規定が憲法13条に違反し無効であるということは

できない。
4
争点(4)(本件各規定が憲法31条に違反し無効であるか否か)について(1)

原告らは,
本件条例に基づく認識等公表が憲法31条にいう
その他の刑罰に該当することを前提として,①本件条例が法律による委任を受けずに刑罰である認識等公表を規定していること,②条例ヘイトスピーチについて曖昧な定義規定を有するにすぎず,罪刑法定主義の要請を満たさないこと,③本件条例5条3項が定める告知・聴聞の手続は,これを省略できる場合があり,行政不服審査の対象からも除外されている点において,刑罰を科すための適正手続の保障を欠いていることから,本件各規定が憲法31条に違反し無効である旨を主張する。
(2)

そこで検討すると,拡散防止措置等は,刑事手続によって刑罰を科すもの
ではなく,刑罰と同視できる不利益を課すものでもないから,その他の刑罰に該当するものではないことは明らかである。
そうすると,
本件条例が,
①法律による委任を受けずに刑罰を規定しているということはできないし,②条例ヘイトスピーチの定義について罪刑法定主義の要請を満たしていないということもできず,③刑罰を科すための適正手続の保障を欠いているということもできない(なお,条例ヘイトスピーチの定義規定が曖昧とはいえないことは前記2(3)において説示したとおりである。)。
(3)ア

なお,原告らは,必ずしも明確ではないものの,拡散防止措置等がその他の刑罰に該当しないとしても,行政手続として憲法31条による保障が及ぶところ,本件条例5条3項が定める告知・聴聞の手続は,これを
省略できる場合があり,行政不服審査の対象からも除外されている点において,適正手続の保障を欠いている(前記(1)③)旨を主張しているとも解されるので,この点について検討する。

憲法31条による保障が行政手続に及ぶと解すべき場合であっても,一般に,行政手続は,刑事手続とその性質においておのずから差異があり,また,行政目的に応じて多種多様であるから,行政上の措置の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうか及びその具体的内容は,行政上の措置により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政上の措置により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量
して決定されるべきものである(最高裁平成4年判決参照)。
これを本件についてみると,拡散防止措置等に憲法31条による保障が及ぶと解すべきであるとしても,次に説示するとおり,拡散防止措置等に係る手続の定めが,同条の法意に反するものであるということはできず,本件各規定が同条に違反するということもできない。
まず,拡散防止措置等により制限を受ける権利は,前記2及び3で説示したとおり,表現の自由及び個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由並びに人格権という重要な権利であって,条例ヘイトスピーチの該当性判断に当たっては,表現活動の目的も考慮されるから,拡散防止措置等を採る前に当該表現活動を行った者の意見を聴取する必要性が一般的に高いということができる。他方で,拡散防止措置等は,いず
れも表現活動が行われた後に行われるものである上,そのうち,拡散防止措置は,看板や掲示物の撤去要請やインターネット上の表現活動については削除要請等を行うものであって,要請に応じなかった場合に制裁を課すものではなく,認識等公表は,市長が表現活動を行った者の氏名を把握している場合に,その公表ができるにとどまり,当該表現活動を行った者の
氏名を把握しているウェブサイトを管理するプロバイダ等に当該氏名の開示を義務付ける規定は存しない。
また,前記2で説示したとおり,拡散防止措置等により達成しようとする公益の内容は,特定人の名誉,私生活の平穏等を侵害する条例ヘイトスピーチを抑止することにあり,条例ヘイトスピーチに該当するには,表現
の内容又は表現活動の態様が,特定人等を相当程度侮蔑し若しくは誹謗中傷するものであること,又は,特定人に脅威を感じさせ,若しくは,表現等の対象が特定集団であるときは,当該特定集団に属する個人(特定人)の相当数に脅威を感じさせるものであることを要することに鑑みれば,条例ヘイトスピーチを抑止して特定人の名誉,私生活の平穏等を保護する必
要性は高いというべきである。
そして,本件条例は,①市長は,本件条例5条2項所定の市民等の申出があったとき又は表現活動が条例ヘイトスピーチに該当するおそれがあると認めるときには,当該表現活動が拡散防止措置等の対象に該当するものであること及び当該表現活動が条例ヘイトスピーチに該当するものであることについて,あらかじめ,学識経験者等によって構成される審査会の意見を聴かなければならず(6条1項本文,7条1項,8条2項),さらに,②市長は,前記①の審査会の意見が述べられた場合において,拡散防止措置等をしようとするときは,当該拡散防止措置等の内容について,あらかじめ審査会の意見を聴かなければならないほか(6条3項本文),認識等公表をしようとするときは,あらかじめ,当該認識等公表に係る条例ヘイ
トスピーチを行った者に認識等公表の内容及び理由を通知するとともに,相当の期間を定めて,意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならない(5条3項)旨規定するとともに,③審査会は,必要があると認めるときは,市長又は調査審議の対象となっている表現活動に係る本件条例5条2項に基づく申出をした市民等に意見書又は資料の提
出を求めること,適当と認める者にその知っている事実を述べさせることその他必要な調査をすることができ(9条1項),関係人に対し,相当の期間を定めて,書面により意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならず(同条2項本文),関係人から申立てがあったときは,原則として,相当の期間を定めて,当該関係人に口頭で意見を述べ
る機会を与えなければならない(同条3項本文)旨規定する。これらの規定によれば,市長が拡散防止措置等を採るには,特定の表現活動が条例ヘイトスピーチに該当し,拡散防止措置等の対象に該当することに加え,拡散防止措置等の内容について,学識経験者等により構成される審査会の意見を聴く必要があり,当該表現活動を行った者には,事前の告知,書面又
は口頭による弁解及び防御の機会が与えられているところ,このことに加え,前記に説示した拡散防止措置等により制限を受ける権利及びこれにより達成しようとする公益の内容を併せ鑑みれば,拡散防止措置等に係る手続の定めが,その対象となった者の手続保障に欠けるものということはできず,憲法31条の法意に反するものであるということはできない。ウ
これに対し,原告らは,本件条例が定める告知・聴聞の手続は,これを省略できる場合があり,適正手続の保障に欠ける旨を主張する。
そこで検討すると,本件条例5条3項ただし書は,市長が認識等公表をしようとする際,認識等公表に係る条例ヘイトスピーチを行った者に対して意見陳述及び証拠提出の機会の付与を要しない例外的な場合として,(a)
当該認識等公表に係る条例ヘイトスピーチを行った者の所在が判明しない
とき,
又は(b)当該認識等公表の内容が6条3項の規定に基づき7条の規定による審査会の意見を聴く対象とした公表の内容と同一であり,かつ,審査会において当該認識等公表の内容が妥当であるとの意見が述べられたときを定めている。そして,前記(a)については,認識等公表に係る条例ヘイトスピーチを行った者の所在が判明しない場合には,意見陳述及び証拠提
出の機会の付与を行政庁の事務所の掲示板に掲示すること等によって行わざるを得ないところ,このような掲示を行うことによって,結果として認識等公表を行うのと同様の効果をもたらすこととなるから,
前記(a)の場合
については,前記の機会を付与しないことが不合理であるということはできない。また,前記(b)の場合については,認識等公表の内容について,本
件条例6条3項に基づき,審査会の意見を聴くこととされた場合には,審査会は,当該表現活動を行った者に対し,意見陳述及び証拠提出の機会を付与しなければならないから,既に審査会が,前記機会を付与し,かつ,市長が行おうとする認識等公表の内容が妥当であるとの意見を述べた場合には,市長が本件条例5条3項に基づき,前記機会を再度付与することは
要しないとしたものであって,このような定めが憲法31条の法意に反するものということはできない。
そして,本件条例6条3項ただし書は,拡散防止措置については,緊急を要するときその他本件条例1条の目的を達成するため特に必要があると認めるときは,審査会の意見を聴かないで採ることができる旨を規定するところ,前記ただし書の規定は,条例ヘイトスピーチに該当する表現活動が急速に拡散し,市民等の人権を擁護するために緊急な措置が必要な場合
等には,拡散防止措置のみを審査会の意見を聴かないで採ることができるとする一方で,表現活動をした者の氏名の公表を伴う認識等公表については,必ず事前に審査会の意見を聴くことを必要とする趣旨であると解されるから,このような定めが憲法31条の法意に反するものということはできない。

したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
(4)

以上によれば,
本件各規定が憲法31条に違反して無効であるということ

はできない。
5
争点(5)本件各規定が憲法94条及び地方自治法14条1項に違反し無効で(
あるか否か)について
(1)

原告らは,
差別的言動解消推進法は
本邦外出身者に対する不当な差別的言動を行った者に対する制裁や罰則に関する規定を置いていないところ,その趣旨は,当該規定を置くことにより,表現の自由に対する広汎な萎縮効果を惹起する危険に配慮したものであって,本件条例5条1項が本邦外出身者に対する不当な差別的言動と相当程度重複する条例ヘイトスピーチをした者に対して氏名等の公表という制裁を課すことは,表現の自由の行使を萎縮させるものであり,差別的言動解消推進法に矛盾抵触するから,本件各規定は,憲法94条及び地方自治法14条1項に違反し,無効である旨を主張する。

(2)

そこで検討すると,憲法94条は,地方公共団体は法律の範囲内で条例を
制定することができる旨を規定し,地方自治法14条1項は,普通地方公共団体は,法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務に関し条例を制定することができる旨を規定しているから,普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが,条例が国の法令に違反するか否かは,両者の対象条項と規定文言を対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない(最高裁昭和50年判決,最高裁平成22年(行ヒ)第242号同25年3月21日第一小法廷判決・民集67巻3号438頁参照)。これを前提に以下検討する。(3)ア

差別的言動解消推進法は,前文において,本邦外出身者に対する不当な
差別的言動は許されないことを宣言するとともに,更なる人権教育と人権啓発等を通じて,国民に周知を図り,その理解と協力を得つつ,不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進すべく,差部的言動解消推進法を制定するものと定め,1条において,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み,その解消に向けた取組について,
基本理念を定め,及び国等の責務を明らかにするとともに,基本的施策を定め,これを推進することを目的とする旨を定めている。
そして,差別的言動解消推進法は,国民は,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性に対する理解を深めるとともに,本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなけれ
ばならないと定め(3条),国は,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関する施策を実施するとともに,地方公共団体が実施する本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関する施策を推進するために必要な助言その他の措置を講ずる責務を有すると定める一方で(4条1項),地方公共団体は,本邦外出身者に対する不
当な差別的言動の解消に向けた取組に関し,国との適切な役割分担を踏まえて,当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものと定め,国及び地方公共団体による相談体制の整備(5条),教育の充実等(6条)及び啓発活動等(7条)について定めている。
このように,差別的言動解消推進法は,本邦外出身者に対する不当な差別的言動が許されないものであることを前提に,解消に向けた取組について基本理念及び基本的施策を定める一方で,本邦外出身者に対する不当な
差別的言動を禁止する旨の規定や,その禁止に違反した場合の制裁等に係る規定を置いていないところ,その趣旨は,これらの規定を置くことは,憲法が保障する表現の自由等の制限となり得ることから,基本理念及び基本的施策を定め,相談体制の整備,教育の充実,啓発活動等を通じて本邦外出身者に対する不当な差別的言動を解消しようとするものと解される(乙

29参照)。他方で,差別的言動解消推進法は,地方公共団体が,国との適切な役割分担を踏まえて,当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものと定めているから,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組について,全国的に一律に同内容の規制を施す趣旨ではなく,地方公共団体が,憲法と抵触しない範囲内において,当該地域の実情
に応じ,相談体制の整備,教育の充実,啓発活動等に加え,本邦外出身者に対する不当な差別的言動を解消するための施策を講ずることを容認しているものというべきである。

これに対し,本件条例は,条例ヘイトスピーチが個人の尊厳を害し差別の意識を生じさせるおそれがあることに鑑み,条例ヘイトスピーチに対処するため大阪市が採る措置等に関し必要な事項を定めることにより,市民等の人権を擁護するとともに条例ヘイトスピーチの抑止を図ることを目的とし(1条),市長は,所定の表現活動が条例ヘイトスピーチに該当すると認めるときは,事案の内容に即して当該表現活動に係る拡散防止措置を
採るとともに,当該表現活動が条例ヘイトスピーチに該当する旨,表現の内容の概要及び採った拡散防止措置並びに当該表現活動を行った者の氏名又は名称を公表するものとする(5条1項本文)ものである。
そうすると,本件条例は,差別的言動解消推進法の適用対象である本邦外出身者に対する不当な差別的言動と相当程度重複する条例ヘイトスピーチについて,その抑止を図ることを目的とする点において,差別的言動解消推進法と目的を共通にするものであって,
差別的言動解消推進法が,

当該地域の実情に応じ,本邦外出身者に対する不当な差別的言動を解消するための施策を講ずることを容認していることに鑑みれば,本件条例が条例ヘイトスピーチについて拡散防止措置等を採るものと定めていることが,差別的言動解消推進法が本邦外出身者に対する不当な差別的言動を禁止する旨の規定を置いていないことと矛盾抵触するものということはできない
(なお,本件条例附則3条は,市長は,国においてヘイトスピーチに関する法制度の整備が行われた場合には,当該制度の内容及び本件条例の施行の状況を勘案し,必要があると認めるときは,本件条例の規定について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする旨を規定しており,法律の制定に併せて,これと適合するように本件条例を改正する
ことが予定されているものと解される。)。

以上に検討したところによれば,本件条例と差別的言動解消推進法の対象条項と規定文言の対比に加え,その趣旨,目的,内容及び効果を比較して,両者の間に矛盾抵触があるということはできず,本件条例が差別的言動解消推進法に違反して無効であるということはできない。

(4)

原告らは,
本件条例が適用対象とする表現活動は,文書やインターネット

等の媒体を通じて広く伝播するものであり,その到達範囲が特定の地域に限定されるものではないところ,本件条例は,条例の適用範囲が地域的制約を伴うにもかかわらず,当該制約を伴わないインターネット上の表現活動を規制の対象とする点において,地域における事務について条例を制定することができるとした地方自治法14条1項に違反する旨を主張する。
そこで検討すると,地方自治法14条1項は,普通地方公共団体は,法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務,すなわち,地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものに関し,条例を制定することができる旨を規定するところ,ここにいう地域における事務とは,普通地方公共団体の自治権が及ぶ地理的領域
である区域(同法5条1項参照)という語が用いられていないことにも鑑みると,普通地方公共団体が,その区域における住民福祉の向上を目的とし,統治作用として処理する事務一般をいうものであって,当該区域の地理的領域にとどまらず,当該区域の住民を含めた地域との合理的関連性が認められるものをいうと解される。そして,本件条例は,①大阪市の区域内で行
われた表現活動,②大阪市の区域外で行われた表現活動(大阪市の区域内で行われたか否か明らかでない表現活動を含む。)で,(ア)表現の内容が市民等に関するものであると明らかに認められるもの,又は(イ)前記(ア)に掲げる表現活動以外の表現活動で大阪市の区域内で行われた条例ヘイトスピーチの内容を大阪市の区域内に拡散するものを対象として,これらが条例ヘイトスピ
ーチに該当するときは,拡散防止措置等を採る旨を定めたものである(5条1項本文)。そうすると,本件条例に基づく拡散防止措置等の対象は,大阪市の区域内又は市民等に関わる条例ヘイトスピーチに限定されているのであって,大阪市の区域の住民を含め,大阪市の地域との合理的関連性が認められるもの,すなわち,大阪市の地域における事務に該当するものという
ことができる。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
(5)

以上によれば,
本件各規定が憲法94条及び地方自治法14条1項に違反

して無効であるということはできない。
6
争点(6)(本件郵便料金支出命令1に係る適用違憲の有無)について(1)ア

原告らは,本件表現活動が条例ヘイトスピーチに該当するとして,ハンドルネームダイナモを公表した本件認識等公表は,憲法21条1項に違反し,当該公表に至る過程で郵便料金を支出すべきものとした本件郵便料金支出命令1は,法令上の根拠を欠き,違法である旨を主張する。イ
そこで検討すると,本件郵便料金支出命令1は,本件表現活動を対象とする案件番号28-2についてドワンゴ宛て簡易書留郵便を送付する
郵便料金を支出すべき旨を命令するものであるところ,当該簡易書留郵便は,審査会会長が,ドワンゴを通じて,本件関係人に対し,所在・連絡先,氏名又は団体の名称を連絡すれば,本件表現活動をした目的等に関する意見を述べ,有利な証拠を提出できる機会を確保したい旨を連絡するものであったと認められる(前記前提事実(2)ウ,(4)ア)。そうすると,本件郵
便料金支出命令1は,案件番号28-2につき,本件条例9条に基づく調査又は関係人に意見陳述の機会を付与するための連絡について,郵便料金の支出を命令するものであるということができ,前記連絡は,本件表現活動が条例ヘイトスピーチに該当し,拡散防止措置等の対象となるか否かを調査審議するために行われるものであるから,仮に本件認識等公表を
実施することが憲法21条1項に違反するものであったとしても,これを実施するか否かを調査審議する段階で前記連絡を行うことが法令上の根拠を欠くということはできず,総務課長が本件郵便料金支出命令1をしてはならない財務会計法規上の義務を負うということもできない。

また,原告らが,本件表現活動に関し,ドワンゴを通じて本件関係人に対して本件条例9条に基づく調査又は関係人に意見陳述の機会を付与する連絡を行うことが憲法21条1項に違反し,その郵便料金の支出を命ずる本件郵便料金支出命令1は法令上の根拠を欠いて違法であると主張する趣旨であるとしても,前記イで説示したとおり,そもそも前記連絡を行うこ
とが違法とはいえず,本件郵便料金支出命令1は法令上の根拠を欠いて違法であるということはできない。さらに進んで,仮に,本件表現活動に関し,ドワンゴを通じて本件関係人に対して前記連絡をすることが違法であると評価すべき事情があるとしても,次に説示するところによれば,総務課長が本件郵便料金支出命令1をしてはならない財務会計法規上の義務を負うということはできない。
本件郵便料金支出命令1は,平成28年11月に発送した簡易書留郵便の後納料金を支出すべき旨を同年12月16日付けで命令するものであるところ(前記前提事実(4)ア),料金後納は,郵便物の差出人が,日本郵便株式会社(以下日本郵便という。)との間であらかじめした料金後納の合意を前提として,個別の郵便物について郵便の役務の提供契約を締結
し,当該役務の提供を受けた後に郵便料金を後納するものである(内国郵便約款49条以下参照)。
ところで,普通地方公共団体が締結した債務を負担する契約が違法であるとしても私法上無効でない場合には,普通地方公共団体が当該契約の取消権又は解除権を有しているとき,又は,当該契約が著しく合理性を欠き
そのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,当該普通地方公共団体が当該契約の相手方に事実上の働きかけを真しに行えば相手方において当該契約の解消に応ずる蓋然性が大きかったというような,客観的にみて当該普通地方公共団体が当該契約を解消することができる特殊な事情があるときでない限り,当該契約に基づく債務
の履行として支出命令を行う権限を有する職員は,当該契約の是正を行う職務上の権限を有していても,違法な契約に基づいて支出命令を行ってはならないという財務会計法規上の義務を負うものとはいえず,当該職員が前記債務の履行として行う支出命令がこのような財務会計法規上の義務に違反する違法なものとなることはないと解される(最高裁平成23年(行
ツ)第406号同25年3月21日第一小法廷判決・民集67巻3号375頁)。
これを本件についてみると,大阪市は,日本郵便との間であらかじめした料金後納の合意に基づき,ドワンゴ宛ての簡易書留郵便につき郵便の役務の提供契約を締結し,当該役務の提供を受けた後に郵便料金を後納しているところ,仮に,本件表現活動に関し,ドワンゴを通じて本件関係人に対して本件条例9条に基づく調査又は関係人に意見を述べる機会の付与をする連絡を行うことが違法であると評価すべき事情があったとしても,日本郵便は郵便の役務の提供をするにとどまることに鑑みれば,前記簡易書留郵便に係る郵便の役務の提供契約が公序良俗に違反して無効であるということはできない。そして,前記事情が当該契約の取消事由や解除事由に
該当するというべき根拠は見当たらないし,本件各証拠によっても,当該契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,大阪市が日本郵便に事実上の働きかけを真しに行えば日本郵便において当該契約の解消に応ずる蓋然性が大きかったというような,客観的にみて大阪市が当該契約を解消することがで
きる特殊な事情があると認めることはできない。
そうすると,
総務課長は,
仮に当該契約の是正を行う職務上の権限を有していたとしても,当該契約に基づいて支出命令を行ってはならないという財務会計法規上の義務を負うものとはいえず,総務課長が後納料金債務の履行として行う本件郵便料金支出命令1がこのような財務会計法規上の義務に違反する違法なもので
あるということはできない。
したがって,原告らの主張を前記のとおりであると解したとしても,総務課長が本件郵便料金支出命令1をしてはならない財務会計法規上の義務を負うということはできない。
(2)ア

なお,
本件審理の経過に鑑み,
本件認識等公表が憲法21条1項に違反

するか否かについて検討すると,次に説示するとおり,本件認識等公表が憲法21条1項に違反するとはいえないから,原告らの主張は,その前提を欠くものといわざるを得ない。

認定事実
前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア)

韓国の李明博大統領は,平成24年8月10日,竹島に上陸し,同月14日,
天皇の韓国訪問について,
天皇が韓国に訪問したいのであれば,
独立運動をした者に謝罪すべきである旨の発言をした。衆議院及び参議院は,同月,それぞれ本会議において,李明博大統領による前記の竹島上陸及び発言に抗議する旨の決議をした。(甲38~40,乙28)
(イ)

行動する保守運動と題するウェブサイトには,平成25年2月頃
に,近畿地区のスケジュールとして,日韓断交共闘委員会関西が主催する2月24日韓国国交断絶国民大行進in鶴橋という名称の本件デモ活動が開催される旨が掲載され,同月22日が竹島の日であり,同月25日が韓国の新大統領の就任式の開催日であるため,同月24日に本件デモ活動の開催を決定した旨の記載があるほか,本件デモ活動の
協賛者の1人としてメタル保守アワーと記載されていた。(乙27の1・2)
(ウ)

本件デモ活動の参加者は,平成25年2月24日,デモ行進を開始する前に集合し,主催団体の男性による司会の下,協賛団体の各代表者に
よる挨拶が行われた。
司会役の男性は

今日は憎しみの感情だけでやる。

等の発言をし,協賛団体の代表者の1人としてメタル保守アワー代表であるダイナモにスピーチを求めた。本件関係人は,前記の挨拶等を動画で撮影していたが,カメラを第三者に預け,自らをメタル保守アワーのダイナモであると名乗り,在日韓国・朝鮮人が本件デ
モ活動の参加者に危害を加えるおそれがあるとの他の者のスピーチに言及した上で,

こっちの思いのたけを吐き出して,奴らをたたきのめしましょう。

と発言した。(甲32,47,弁論の全趣旨)(エ)

本件デモ活動の参加者は,数十名以上であって,平成25年2月24日,大阪市天王寺区,生野区及び東成区内において,日韓断交と記載された横断幕や,韓国製品を買うな,不逞鮮人撃破,

ゴミはゴミ箱へ。朝鮮人は朝鮮半島へ

等と記載されたのぼりを掲げ,

不逞犯罪ゴキブリ,くそちょんこ,日本からたたき出せ。

ゴキブリちょんこをたたき出せ。

,殺せ,殺せ,朝鮮人等の発言を繰り返して行進した。本件関係人は,本件デモ活動の様子を動画に撮影した。(甲32,47,乙22,27の1・2)
(オ)

本件関係人は,平成25年2月25日,前記(ウ)及び(エ)のとおり撮影した動画にテロップや音声を加えず,合計6個の動画ファイル(本件動画)としてニコニコ動画(インターネット上の動画投稿サイト)に投稿し,平成28年7月1日(本件条例4条~6条の施行日)以降も,本件動画を不特定多数の者による視聴ができる状態に置く本件表現活動をした。(甲32,47)


前記イに認定した事実によれば,本件デモ活動は,李明博大統領による竹島上陸及び天皇に謝罪を求める発言があったこと等から,日韓断交と記載された横断幕を掲げるなどして韓国政府を批判し,韓国との国交断絶を求めるという政治的表現の側面をおよそ有しないとまでいうことはで
きない。しかしながら,本件デモ活動は,大阪市生野区,天王寺区等のうち在日韓国・朝鮮人が多数居住する地区において,
不逞鮮人撃破,

ゴミはゴミ箱へ。朝鮮人は朝鮮半島へ

等と記載したのぼりを掲げ,

不逞犯罪ゴキブリ,くそちょんこ,日本からたたき出せ。

ゴキブリちょんこをたたき出せ。

,殺せ,殺せ,朝鮮人との発言を繰り返しなが
ら行進するという内容であって,在日韓国・朝鮮人を劣悪な存在であるとして嫌悪・蔑視し,朝鮮民族に対する差別の意識をあおるとともに,朝鮮民族との共存をおよそ否定し,社会から排除することを目的としていることが明らかに認められ(本件条例2条1項1号ア及びウ),その表現内容は,朝鮮民族を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであって(同項2号ア),不特定多数の者が表現内容を知り得る状態に置くような場所及び方法で行われたもの(同項3号)であると認められる。そうすると,本件デモ活動は,条例ヘイトスピーチに該当するというべきである。
そして,本件関係人が,本件デモ活動につき,あらかじめウェブサイトにおいて協賛団体の代表者として協賛の意を表明し,デモ行進を開始する前の集会に参加し,

こっちの思いのたけを吐き出して,奴らをたたきのめしましょう。

等と発言していることに鑑みれば,本件関係人は,本件デモ活動の参加者として行動しているということができるのであって,平成28年7月1日以降,インターネットを利用して条例ヘイトスピーチに該当する本件デモ活動を撮影した本件動画を不特定多数の者による視聴ができる状態に置く
(本件条例2条2項2号)
という本件表現活動において,

在日韓国・朝鮮人を劣悪な存在であるとして嫌悪・蔑視し,朝鮮民族に対する差別の意識をあおるとともに,朝鮮民族との共存をおよそ否定し,社会から排除することを目的としていることが明らかに認められ(同条1項1号ア及びウ),その表現内容は,朝鮮民族を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであって(同項2号ア),不特定多数の者が表現内容を知り得
る状態に置くような方法で行われる(同項3号)とともに,大阪市の区域内で行われた条例ヘイトスピーチを,本件表現活動によって大阪市の区域内に拡散するものである(本件条例5条1項2号イ)と認められる。そうすると,本件表現活動は,条例ヘイトスピーチであり,本件条例5条1項所定の拡散防止措置等の対象に該当する表現活動であると認められ
るのであって,本件認識等公表は,憲法21条1項に違反するものではない。

これに対し,原告らは,本件動画により撮影された本件デモ活動は,李明博大統領が,竹島に上陸し,竹島が韓国の領土であることを示す標示石を設置したこと等から,韓国との国交断絶を求めるデモ行進であったところ,本件関係人は,こうした抗議デモ活動が一切報道されていなかったため,デモ活動の賛否にかかわらず,デモ活動の事実と内容を国民に知らせ
て考えてもらうことを目的に,中立かつ客観的な立場で,自ら撮影した本件デモ活動の一部始終の動画を一切の編集を加えず,閲覧に供したものであり,本件表現活動は,外交という公共の利害に関する問題について,自らの政治的信条に基づき,専ら公益を図る目的でされたものであって,差別的言動を含むとしても,報道としての表現活動に引用されたものにすぎ
ない旨を主張する。
しかしながら,前記ウで説示したとおり,本件関係人は,あらかじめウェブサイトにおいて協賛団体の代表者として協賛の意を表明し,デモ行進を開始する前の集会に参加・発言した上で本件表現活動に及んでいることに鑑みれば,中立かつ客観的な立場で,本件動画を閲覧に供したというこ
とはできず,専ら公益を図る目的で本件表現活動をしたものと認めることはできない。
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
(3)

以上によれば,
本件郵便料金支出命令1は違法であるということができな

い。

第4

結論
よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部

裁判長裁判官
三輪方黒大田吉人山﨑岳志
裁判官

裁判官

(別紙)
関係法令の定め
1
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年6月3日施行。以下差別的言動解消推進法という。)の定め
(1)

1条は,
差別的言動解消推進法は,
本邦外出身者に対する不当な差別的言動

の解消が喫緊の課題であることに鑑み,その解消に向けた取組について,基本理念を定め,及び国等の責務を明らかにするとともに,基本的施策を定め,これを推進することを目的とする旨を規定する。
(2)
2条は,差別的言動解消推進法において,
本邦外出身者に対する不当な差別的言動とは,専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下本邦外出身者という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命,身体,自由,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど,本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として,本邦外出身
者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう旨を規定する。
(3)

3条は,
国民は,
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性に

対する理解を深めるとともに,本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない旨を規定する。
(4)

4条1項は,
国は,
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた

取組に関する施策を実施するとともに,地方公共団体が実施する本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関する施策を推進するために必要な助言その他の措置を講ずる責務を有する旨を規定し,同条2項は,地方公共団体は,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関し,国との適切な役割分担を踏まえて,当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする旨を規定する。
(5)

5条1項は,
国は,
本邦外出身者に対する不当な差別的言動に関する相談に

的確に応ずるとともに,これに関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう,必要な体制を整備するものとする旨を規定し,同条2項は,地方公共団体は,国との適切な役割分担を踏まえて,当該地域の実情に応じ,本邦外出身者に対する不当な差別的言動に関する相談に的確に応ずるとともに,これに関
する紛争の防止又は解決を図ることができるよう,必要な体制を整備するよう努めるものとする旨を規定する。
(6)

6条1項は,
国は,
本邦外出身者に対する不当な差別的言動を解消するため

の教育活動を実施するとともに,そのために必要な取組を行うものとする旨を規定し,同条2項は,地方公共団体は,国との適切な役割分担を踏まえて,当
該地域の実情に応じ,本邦外出身者に対する不当な差別的言動を解消するための教育活動を実施するとともに,そのために必要な取組を行うよう努めるものとする旨を規定する。
(7)
7条1項は,
国は,
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性

について,国民に周知し,その理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動を実施するとともに,そのために必要な取組を行うものとする旨を規定し,同条2項は,地方公共団体は,国との適切な役割分担を踏まえて,当該地域の実情に応じ,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性について,住民に周知し,その理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動を実施するとともに,そのために必要な取組を行うよう努めるものとする旨
を規定する。
2
本件条例の定め(乙1)
(1)

1条は,
本件条例は,条例ヘイトスピーチが個人の尊厳を害し差別の意識を
生じさせるおそれがあることに鑑み,条例ヘイトスピーチに対処するため大阪市が採る措置等に関し必要な事項を定めることにより,市民等の人権を擁護するとともに条例ヘイトスピーチの抑止を図ることを目的とする旨を規定する。(2)

2条は,本件条例における用語について,次の旨を規定する。


条例ヘイトスピーチとは,次に掲げる要件のいずれにも該当する表現活動をいう(1項)。

(ア)

次のいずれかを目的として行われるものであること(cについては,当該目的が明らかに認められるものであること)

a
人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人(以下特定人と
いう。)又は特定人により構成される集団(以下,
特定集団といい,
特定人と併せて特定人等という。)を社会から排除すること(1号ア)

b
特定人等の権利又は自由を制限すること(1号イ)

c
特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること(1号ウ)

(イ)

表現の内容又は表現活動の態様が次のいずれかに該当すること
ab
特定人等を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであること
(2号ア)
特定人に脅威を感じさせ,又は,表現等の対象が特定集団であるときは,当該特定集団に属する個人(特定人)の相当数に脅威を感じさせるものであること(2号イ)

(ウ)

不特定多数の者が表現内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われるものであること(3号)


表現活動には,インターネットその他の高度情報通信ネットワークを利用して他の表現活動の内容を記録した文書図画又は画像等を不特定多数の者による閲覧又は視聴ができる状態に置くことを含むものとする
(2項2号)



市民とは,大阪市の区域内に居住する者又は大阪市の区域内に通勤し若しくは通学する者をいう(3項)。


市民等とは,市民又は人種若しくは民族に係る特定の属性を有する市民により構成される団体をいう(4項)。
(3)

5条1項本文は,
市長は,次のア及びイに掲げる表現活動が条例ヘイトスピ

ーチに該当すると認めるときは,
[A]事案の内容に即して当該表現活動に係る表
現の内容の拡散を防止するために必要な措置
(以下
拡散防止措置
という。

を採るとともに,
[B](a)当該表現活動が条例ヘイトスピーチに該当する旨,
(b)
表現の内容の概要及び採った拡散防止措置並びに(c)当該表現活動を行った者の氏名又は名称を公表(以下認識等公表といい,拡散防止措置と併せて拡散防止措置等という。)するものとする旨を規定し,同項ただし書は,当該表現活動を行った者の氏名又は名称については,これを公表することにより1条(前記(1))の目的を阻害すると認められるとき,当該表現活動を行った者の
所在が判明しないときその他特別の理由があると認められるときは,公表しないことができる旨を規定する。

大阪市の区域内で行われた表現活動(1号)


大阪市の区域外で行われた表現活動(大阪市の区域内で行われたか否か明らかでない表現活動を含む。)で次のいずれかに該当するもの

(ア)

表現の内容が市民等に関するものであると明らかに認められる表現活動(2号ア)

(イ)

前記(ア)に掲げる表現活動以外の表現活動で大阪市の区域内で行われた条例ヘイトスピーチの内容を大阪市の区域内に拡散するもの(2号イ)
(4)
5条2項は,
拡散防止措置等は,
表現活動が自らに関する条例ヘイトスピー

チに該当すると思料する特定人等である市民等の申出により又は職権で行うものとする旨を規定する。
(5)

5条3項は,市長は,認識等公表をしようとするときは,あらかじめ,当該
認識等公表に係る条例ヘイトスピーチを行った者に認識等公表の内容及び理由を通知するとともに,相当の期間を定めて,意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならない旨を規定し,同項ただし書は,当該認識等公表に係る条例ヘイトスピーチを行った者の所在が判明しないとき又は当該認識等公表の内容が6条3項の規定に基づき7条の規定による審査会の意見を聴く対象とした認識等公表の内容と同一であり,かつ,審査会において当該認識等公表の内容が妥当であるとの意見が述べられたときは,この限りでない旨を規定する。
(6)

6条1項本文は,市長は,5条2項(前記(4))の市民等の申出があったと
き又は同条1項各号
(前記(3)ア及びイ)
に掲げる表現活動が条例ヘイトスピー
チに該当するおそれがあると認めるときは,①当該表現活動が同項各号(前記(3)ア及びイ)
のいずれかに該当するものであること及び②当該表現活動が条例ヘイトスピーチに該当するものであることについて,あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない旨を規定する。

(7)

6条3項本文は,同条1項(前記(6))及び2項の規定に基づく審査会の意
見が述べられた場合において,拡散防止措置等をしようとするときは,当該拡散防止措置等の内容について,あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない旨を規定し,同項ただし書は,拡散防止措置については,緊急を要するときその他1条(前記(1))の目的を達成するため特に必要があると認めるときは,審査会の意見を聴かないで採ることができる旨を規定する。


6条4項は,同条3項ただし書(前記(7))の規定により審査会の意見を聴かないで拡散防止措置を採ったときは,
速やかに審査会に報告しなければならず,
この場合において,審査会は市長に対し,当該報告に係る事項について意見を述べることができる旨を規定する。



6条5項は,同条4項(前記⑻)の規定に基づく審査会の意見が述べられたときは,認識等公表において,当該意見の内容を公表するものとする旨を規定する。


7条1項は,6条1項~4項によりその権限に属するものとされた事項について,諮問に応じて調査審議をし,又は報告に対して意見を述べさせるため,市長の附属機関として審査会を置く旨を規定する。

8条1項は,審査会は,委員5人以内で組織する旨を定め,同条2項は,審査会の委員は,市長が,学識経験者その他適当と認める者のうちから大阪市会(市議会)の同意を得て委嘱する旨を規定する。


9条1項は,審査会は,必要があると認めるときは,市長又は調査審議の対象となっている表現活動に係る5条2項(前記(4))の申出をした市民等(以下
申出人という。)に意見書又は資料の提出を求めること,適当と認める者にその知っている事実を述べさせることその他必要な調査をすることができる旨を規定する。

9条2項本文は,審査会は,調査審議の対象となっている表現活動に係る申出人又は当該表現活動を行った者(以下,これらを関係人という。)に対
し,相当の期間を定めて,書面により意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならない旨を規定し,同項ただし書は,関係人の所在が判明しないときは,当該関係人については,この限りでない旨を規定する。⒁
9条3項本文は,同条2項(前記⒀)に定めるもののほか,審査会は,関係人から申立てがあったときは,相当の期間を定めて,当該関係人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない旨を規定し,
同項ただし書は,
審査会が,
その必要がないと認めるときは,この限りでない旨を規定する。


10条は,7条~9条に定めるものほか,審査会の組織及び運営並びに調査審議の手続に関し,必要な事項は,市規則で定める旨を規定する。

11条は,本件条例の適用に当たっては,表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しようように留意しなければならない旨を規定する。


附則2条は,4条~6条の規定は,これらの規定の施行後(平成28年7月1日以降)に行われた表現活動について適用する旨を規定する。

3
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下人種差別撤廃条約という。)の定め等
(1)

4条は,
締約国は,
一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的

出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し,また,このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置を採ることを約束し,このため,締約国は,世界人権宣言に具現された原則及び5条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って,特に次のことを行う旨を規定する。

人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布,人種差別の扇動,いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対する
ものであるかを問わず全ての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も,法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。(a)

人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他の全ての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし,このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。(b)

(2)

なお,日本は,人種差別撤廃条約の加入に際して次の内容の留保を付して
いる(平成7年外務省告示第674号)。
日本国は,
人種差別撤廃条約4条(a),
(b)の規定の適用に当たり,
同条に
世界人権宣言に具現された原則及び5条に明示的に定める権利に十分な考慮を払ってと規定してあることに留意し,日本国憲法の下における集会,結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において,これらの規定に基づく義務を履行する。
以上
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