判例検索β > 令和1年(わ)第985号
殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、有印私文書偽造、同行使、建造物損壊、器物損壊
事件番号令和1(わ)985
事件名殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,有印私文書偽造,同行使,建造物損壊,器物損壊
裁判年月日令和元年12月11日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第2部
裁判日:西暦2019-12-11
情報公開日2020-06-04 22:30:59
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主文
被告人を懲役21年に処する
未決勾留日数中130日をその刑に算入する。
名古屋地方検察庁で保管中の委任状1通
(令和元年領第2833号符号11
-2)の偽造部分,包丁1本(同領号符号1)及びスクレーパー1本(同領号符号2)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,受刑中に受け取った元交際相手A及び被告人の母親の手紙の記載などから,知人であるBが前記A及び被告人の親族に不当な働きかけをしていると考えて怒りと恨みを募らせ,前記Bの殺害を決意し
第1

前記Bの居所を知るため,同人と同居の前記Aの住民票の写しを不正に入手しようと考え,令和元年5月21日,名古屋市南区前浜通3丁目10番地名古屋市南区役所において,行使の目的で,便箋用紙に,委任状

住民票の全ての手続きを知人のCさんにお任せします。

などと記載した上,Aと署名してAと刻した印鑑を
押印し,もって前記A名義の委任状1通(令和元年領第2833号符号11-2)を偽造し,その頃,同区役所において,同区役所職員に対し,これがあたかも真正に成立したもののように装い,住民票の写し等交付申請書とともに提出して行使し
第2同月24日午後1時10分頃,
同市a区bc丁目d番地e前記A方玄関前において,
D所有の同室玄関ドアを持っていたスクレーパー(令和元年領第2833号符号2)でたたいて破損し,もって他人の建造物を損壊するとともに,D所有の同室北側腰高窓及びインターフォンをそれぞれ同スクレーパーでたたいて破損し,もって他人の物を損壊し(損害見積額合計113万4000円)
第3

同月25日午後11時13分頃から同日午後11時17分頃までの間,同市f区gh丁目i番j西側付近から同区gh丁目k番l号m東側付近に至るまでの路上において,前記B(当時46歳)に対し,殺意をもって,その頭部等を前記スクレーパーで複数回殴り,その胸部等を包丁(刃体の長さ約24.5センチメートル。令和元年領第2833号符号1)で複数回突き刺すなどし,よって,同日午後11時51分頃,同区三の丸4丁目1番1号国立病院機構名古屋医療センターにおいて,同人を胸部刺創による大動脈切破に基づく出血性ショックにより死亡させて殺害し第4

業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後11時17分頃,前記m東側付近路上において,前記包丁1本を携帯し

たものである。
(法令の適用)
1
罰条
判示第1のうち
有印私文書偽造の点について

刑法159条1項

偽造有印私文書行使の点について

刑法161条1項,159条1項

判示第2のうち
建造物損壊の点について

刑法260条前段

器物損壊の点について

刑法261条

判示第3について

刑法199条

判示第4について

銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,2
2条

2
科刑上一罪の処理
判示第1について

刑法54条1項後段,10条(犯情の重い偽造有
印私文書行使の罪の刑で処断)

判示第2について

刑法54条1項前段,10条(重い建造物損壊
罪の刑で処断)

3
刑種の選択
判示第3の罪について

有期懲役刑を選択
判示第4の罪について
4
累犯加重

懲役刑を選択
いずれも刑法56条1項,57条(それぞれ再犯
の加重(判示第3の罪の刑は同法14条2項の制
限内))

5
併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い
判示第3の罪の刑に同法14条2項の制限内で法
定の加重)

6
未決勾留日数の算入

7
没収
委任状の偽造部分

刑法21条

刑法19条1項1号,
2項本文判示第1の犯罪


行為を組成した物で,何人の所有をも許さな
いもの)
包丁1本及びスクレーパー1本

刑法19条1項2号,2項本文(判示第3の犯罪
行為の用に供した物で被告人以外の者に属しない
もの)

8
訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
量刑の中心となる殺人の点についてみると,被告人は,逃げる被害者を追跡してスクレーパーで何度も殴り,鋭利な刺身包丁で多数回突き刺した上,被害者が動かなくなった後も,蹴りつけ,胸を突き刺した。被告人の攻撃は一方的で執拗かつ激烈というほかなく,攻撃箇所が頭部や胸部等の急所に集中していることからは強い殺意が認められる。このような残虐で悪質な犯行態様は強い非難に値し,量刑上重視すべきものである。殺害計画が具体的に想定されていたわけではないが,刺身包丁を購入したり,外出先で待ち伏せたりして殺害に至っていることから相応の計画性が認められる。犯行の動機,経緯をみても,被告人は,服役中に受け取った別れを伝える元交際相手の手紙や,被告人の親族と元交際相手や被害者とのトラブルを伝える母親の手紙等から,被害者が被告人の親族や元交際相手に対して不当な働きかけをしていると推測して怒りと恨みを募らせ,出所後に伝え聞いた被害者の発言等によってさらにいら立ちを強め,本件犯行に至ったと認められる。刑務所という外部から隔絶した環境で意思疎通に困難がある状況に置かれていたことで,手紙に書かれた事情に基づき被害者への一方的な怒りや恨みを増幅させた被告人の心情は,理解できなくはないが,殺害動機としてはあまりに身勝手かつ短絡的なもので酌量の余地は乏しい。
被告人は,薬物事犯等で多数回の服役前科を有し,前刑出所後わずか9日目に怨恨に基づく殺人に至った点は強い非難に値する。突然の襲撃を受けた被害者の苦痛,恐怖は大きく,落ち度のない被害者の死亡という結果は重大であって,遺族等が厳罰を望むのは当然である。被告人は,捜査段階から一貫して本件各犯行を認め,被害者の遺族等に対する謝罪の言葉を述べるものの,被害者に対する謝罪や後悔の言葉はなく,反省の態度は十分とはいえない。
殺人以外の犯行をみても,被害者の居所を知るために有印私文書偽造,同行使の犯行に及び,これにより判明した被害者と元交際相手が住む部屋に赴き建造物損壊器物損壊の犯行に及んでおり,いずれも犯情は芳しくなく,建造物等の損害額は多額であるが,被害弁償はなされておらず,その見込みもない。
以上によると,本件は,単独で刃物を使用して1人を殺害した殺人の事案としては非常に重い事案というべきであり,
被告人に対して主文の刑を科すのが相当であると判断した。
(求刑懲役25年,主文掲記の没収)
令和元年12月11日
名古屋地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官

齋藤千恵
裁判官

近藤和

裁判官



真理子

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