判例検索β > 令和1年(う)第229号
覚せい剤取締法違反被告事件
事件番号令和1(う)229
事件名覚せい剤取締法違反被告事件
裁判年月日令和2年2月6日
裁判所名・部名古屋高等裁判所  刑事第1部
結果破棄自判
原審裁判所名名古屋地方裁判所
裁判日:西暦2020-02-06
情報公開日2020-03-23 15:29:58
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主文
原判決を破棄する
被告人を懲役7年及び罰金350万円に処する
原審での未決勾留日数中120日を懲役刑に算入する。
罰金を全額納めることができないときはその未納分について金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
名古屋地方検察庁で保管中の別紙記載の覚せい剤を没収する。

第1


控訴趣意について
検察官の控訴趣意は,検察官作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書記載のとおりであり,これに対する答弁は,弁護人作成の答弁書及び答弁書2記載のとおりである。論旨は,覚せい剤営利目的所持の公訴事実に対し,所持していた物が覚せい剤であることの認識を認めず,被告人を無罪とした原判決には事実の誤認があるという。

第2
1
事案の概要及び前提となる事実関係
公訴事実の概要
訴因変更後の公訴事実の要旨は,被告人は,A,B,C及び氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成30年10月4日,名古屋市所在の倉庫(以下本件倉庫
)内において,覚せい剤約339㎏(以下本件覚せい剤
)を所持したというものである。

2
証拠上明らかな事実関係
被告人は,中国籍で,当時,日本での在留資格をもち,Dの名称で輸入関係の仕事などしていたが,平成29年10月頃,知人のAからEを紹介された。Eは,台湾所在のアルミホイール製造会社の社長を名乗り,日本に進出して同社が製造するF1用のタイヤホイールを日本で販売するビジネスを始める,日本語等に通じないので地元の人間が欲しい,日本における営業所兼商品の保管場所として倉庫が必要だなどと話した。被告人は,Eのビジネスに参加することとし,同年11月,Eから,初期費用などとして250万円を受け取り,名古屋市a区bに自分の名義で倉庫(以下b倉庫
)を借り,
初期費用として約106万円を払ったが,その余の金を使い込み,b倉庫の賃料を滞納したため,その後,契約は解除された。
Eらは,平成30年(以下,全て同年)8月11日頃,Dを輸入者として,タイヤホイール20本(以下サンプル用ホイール
)を台湾から輸出したが
(名古屋港到着は同月18日)その頃,

被告人の使い込みによりb倉庫が解
約され使用できないことを知った。しかし,被告人に対し,再度倉庫を借りるよう依頼し,被告人の生活費の名目で10万円,サンプル用ホイールの通関費の名目で10万円を渡した。
被告人は,同月20日,Dの名義で本件倉庫を借りた。契約締結の際にはEの指示を受けたAが同席し,初期費用約82万円を支払った。本件倉庫の出入り口ドアの鍵は,被告人が受領した。
被告人は,Eらから,本件倉庫で人が生活した場合の光熱費や本件倉庫に据え置く電化製品を購入した場合の費用を尋ねられ,これを見積もって返答した。これを踏まえて,9月10日,Eらから60万円が振り込まれた。被告人は,同月11日,名古屋税関西部事務所でサンプル用ホイールの輸入申告及び納税手続をしてこれを受け取り,トラックを手配するなどして本件倉庫内に搬入したが,サンプル用ホイールの入った段ボール箱を開封して検品することはなく,これらを納品すべき取引先からの連絡もなく,品質確認や引き取りに訪れる者もいなかった。被告人は,Eらに取引先との契約書を見せるよう求めたが,EらはFとの契約が決まっているなどと述べるばかりで契約書などを見せることはなかった。
被告人は,Eらからタイヤホイール192本(以下本件ホイール
。いず
れも段ボール箱入り。以下,段ボール箱も含め本件貨物と称することもある)の納税費用や本件倉庫の周囲に塀を建てたり窓格子を付けたりする費用等を尋ねられ,納税費用(約122万円)を計算したり,材料費を見積もるなどして返答した。これを踏まえて,同月18日,Eらから190万円が振り込まれたが,被告人は,その全額を自己の借金返済等に充てて使い込んだ。被告人は,同月19日,本件ホイールの輸入申告手続をしたものの納税しなかったため輸入は許可されず,本件ホイールを受け取ることができないまま,同月23日,日本を出国した。
Eは,被告人の使い込みに気付いて,同月28日,Aらをして現金121万7200円を用意させ,被告人の知人女性を税関に赴かせて納税手続をさせ,本件ホイールの輸入許可を受けた。
被告人は,同月30日に日本に帰国し,10月2日,9月10日に振り込まれた60万円の中から本件倉庫の賃料として20万円を振込入金するとともに,運送会社に依頼して本件ホイールを本件倉庫まで運搬させ,自身で本件倉庫に搬入した。被告人は残金40万円を使い込んだ。
被告人は,段ボール箱を開封して本件ホイールを直接目にしたことはなかったが,段ボール箱に製造番号の記載がなかったことなどから本件ホイールにも製造番号がないことを認識していた。
被告人は,9月頃,本件倉庫を仲介した会社従業員に本件倉庫の周囲に塀を設置して欲しいと依頼し,
本件ホイールを搬入後の10月2日午後6時頃,
警備会社から本件倉庫の機械警備の見積を取り,月額約1万5000円の料金プランの契約を同月8日に締結する約束をした。
被告人は,同月3日,日本を出国したが,同日,知人女性に,本件倉庫の見回りと不審な状況があった際の連絡を依頼した。
本件ホイール内にはアルミホイルに包まれた覚せい剤がほぼ同量ずつ,ホイールを解体しなければ発見できない状態で隠匿されていた。
F1用タイヤホイールは,
一般のタイヤホイールと材料や大きさが異なり,
価格も高額である上,F1に参加しているチームから依頼を受けて製造するものであり,チームからの依頼を受けない限り,F1用タイヤホイールを提供することはない。また,必ず性能確認を行い問題がないと判明した場合に初めて本格的な製造に入るという過程を経るのが実情である。
第3
1
原審の審理概要と原判決の要旨
原審の審理概要
原審では,被告人が,Eに依頼されて,Dの名義で本件倉庫を借りたこと,Eの会社が輸出した本件ホイールにつき,名古屋税関西部事務所で輸入申告を行い,
段ボール箱に収納された本件ホイールを本件倉庫内に自ら搬入したこと,本件ホイールに本件覚せい剤が隠匿されていたことには争いはなかったが,覚せい剤所持の有無,共謀の有無,営利目的の有無に加えて,主に,被告人の覚せい剤の認識の有無が争われた。

2
原判決の要旨
原判決は,覚せい剤が隠匿された本件ホイールを被告人が所持していたことは認めたものの,以下のとおり説示して,本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されているとの認識が被告人にあったと認めるには合理的疑いが残るとして無罪を言い渡した。
被告人は,本件ホイールが正規品ではないこと,それにもかかわらずその輸入のために多額の費用がかかっていることを認識していたから,本件ホイールの取引が正常なものでないことを認識していたと推認できる。しかし,そうした認識があったとしても,そのことから直ちに本件ホイール内に何らかの物質が隠匿されているかもしれないと思い至ることが当然であるとはいえない。
被告人は,正常な取引ではないと感じながらも報酬を得られるのであればそれで構わないと思い,高額の費用に見合う物品が隠匿されている可能性まで思い付くことなく,Eらの指示どおりに行動していたに過ぎない可能性が否定できない。
本件ホイールの取引には,ホイールが正規品ではないこと,それにもかかわらず高額の費用がかかっていること,Eらは被告人の使い込みにより賃料不払いとなり倉庫の賃貸借契約が解除されたことを知った後も倉庫の賃借の依頼をしたこと,サンプル用ホイールについては品質確認も取引業者への引渡しもなかったこと,被告人は本件ホイールの契約書を確認できなかったことなど不自然な点が多数あり,被告人もそれらを認識しており,このことは本件ホイールの取引が正常なものではないという被告人の認識を強める事情ではある。しかし,そうした認識があったとしても,そのことから直ちに本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていると認識していたとはいえない。
被告人は,本件ホイールが模造品であったと思っており,そのホイール内に覚せい剤が隠匿されているとは認識していなかったと述べているところ,本件ホイールに関して多額の費用が投じられていることについては,これを正規品と偽って販売することができれば投じた費用に見合った利得が得られる可能性もあるから,模造品であると思っていた旨の被告人の認識が不合理であるとまではいえず,したがって,本件ホイール内に覚せい剤が隠されていることに思いが至らなかった可能性は否定できない。
被告人が本件倉庫について機械警備を依頼したことや知人に倉庫の見回りを依頼したことを踏まえ,それが違法薬物が倉庫内に隠匿されていることを被告人が認識していたことを推認させる事情であるとの検察官の主張については,たしかに,この事実は盗難を防ぐ必要がある物品が本件倉庫内に保管されていることの認識を推認させるものではあるが,このことから直ちに本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されているかもしれないとの認識に至るとはいえない。むしろ,機械警備や見回りの依頼は,本件ホイール内に違法薬物が隠匿されていることが第三者に発覚する可能性を高めるものであるから,被告人が覚せい剤の隠匿の事実を認識していたとすれば不合理な行動である。
これら事情を総合考慮すると,被告人が本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていると認識していたと認めるには合理的疑いがある。第4
1
当裁判所の判断
被告人が本件倉庫内において,本件覚せい剤を所持していたことを認めた原判決の判断には,論理則,経験則等違反はなく正当である。
他方,原判決は,本件ホイールが正規品ではないこと,本件ホイール取引が正常な取引ではないことを被告人は認識していたと認定しながら,本件ホイール内に覚せい剤が隠匿されていることまでは思い至らなかった可能性があり,本件ホイールが模造品であると思ったとの弁解も直ちに排斥できないとして,被告人の覚せい剤の認識を否定した。
しかしながら,原判決の判断は,論理則,経験則等に照らして不合理といわざるを得ず是認できない。以下,その理由を述べる。

2
本件ホイール取引の不自然性について
原判決は,被告人の使い込みによりb倉庫の賃料が払われず賃貸借契約が解除されたことを知りつつ,Eは被告人に改めて本件倉庫の賃借を依頼したことを本件取引の不自然性の一つに挙げているが,被告人の使い込みはこれにとどまらず,全部で3回にわたり,その額は総額で約370万円に及んでいることが認められる。ところが,Eらは,そうした被告人の不正行為を知った後もなお被告人に協力依頼を続けるという,通常の取引社会からすると極めて不合理な行動をとっている上,本件取引に関して投じられた費用は証拠から明らかなものだけでも合計約724万円に達している。このことは,Eらにとり,自分たちの目的実現のために輸出入取引に通じた被告人の協力が欠かせないものであり,そのため被告人が使い込みなどの背信行為に及んだとしてもそれも想定の範囲内のこととして甘受していたことをうかがわせる事情であり,ひいては,
Eらが扱っている物品は,そうした損失が生ずることを踏まえてもなおそれを上回る多額の利得が得られるものであることを強く推察させる。
一方で被告人は,過去に貨物の輸出入取引に関わってきた経験があり,取引に関する経済的合理性を判断する能力に不足はなく,そのような被告人であれば,不自然であることが明らかな本件取引に自分自身が関与することのリスクに無関心であろうはずがなく(反対に,あえて本件取引の実態に無関心な態度でいたというのであれば,それは当該取引の実態を知ることが自己に不利になる可能性の存在を察知したからとも考えられる)
,Eらの意図を察することも
さして困難ではないと認められるし,被告人は最初の使い込みが発覚した後も二度,三度と使い込みを重ねていることに照らすと,たとえ背信行為に及んだとしてもEらはそれをとがめてはこないであろうと見透かしていたことを強くうかがわせる。そうすると,不自然な取引とは感じながらも報酬が得られればそれで構わないと被告人は思っていた,Eらの指示どおりに行動していたに過ぎない可能性も否定できないなどとは到底認められない。むしろ,被告人は,本件ホイール取引が何らかの問題性を含んだものである可能性を十分に認識していたことがうかがえる。
加えて,タイヤホイールが正規品ではなく,それにもかかわらず多額の利得を生み出すことが想定あるいは期待されているということは,その取引は,タイヤホイールとしての商品価値にではなく,別の価値に重きが置かれた取引であり,しかも相応の利得をもたらす取引であることになる。そうすると,本件ホイールとこれを収納した段ボール箱はいわば隠れ蓑であり,タイヤホイールの輸入という外形を利用した不正又は違法な物品の輸入ではないかと予見することは十分に可能である。
この点について,当審における事実取調べの結果によれば,被告人から本件倉庫に住むことを許された中国人のGは,平成30年9月11日か12日から2週間程度本件倉庫に寝泊まりしたが,その際,被告人から,本件倉庫の使用目的について,しばらくしたら機械,工具を輸入して部品を加工すると聞いた旨供述する。この供述の信用性についてはこれを疑う事情はないところ,これによれば,被告人は本件ホイールが何らかの加工を要する物であると認識していたことが推察される。本件ホイールをタイヤホイールとして販売するのであれば加工の必要はないのであるから,
被告人は,
本件タイヤホイールの取引が,
タイヤホイールの輸入という外形を利用した不正又は違法な物品の輸入であることの認識を持ち得たと認められる。
もとより,不正又は違法な物品といっても様々なものがあるからそれが直ちに覚せい剤であるということにはならない。しかしながら,複数人が関与し,海外から別の外観を装って輸入される物で,被告人の使い込みなどを踏まえてもなおそれを上回る多額の利得が得られる不正又は違法な物として,覚せい剤を含む違法薬物を予想することは論理則,経験則等からしてさほど困難なことではない。
原判決は,本件ホイール取引が正常な取引ではないとの認識が被告人に認められるとしても,そのことから直ちに覚せい剤隠匿の事実にまで思い至るとはいえない旨説示するが,原審検察官も直ちに覚せい剤の認識が推認されるとまで主張しておらず,複数の間接事実及びそれら間接事実から推認できる事情を総合すれば,
本件貨物内
に覚せい剤を含む違法薬物が含まれている
ことの認識が推認できると主張していたものである。それにもかかわらず,原判決は,間接事実の持つ意味やその重要性を正当に評価せず,また,そこからの推認作業も,後述するような合理的疑い足り得ない事情を前提に判断した結果,推認を誤ったもので是認できない。
(なお,原判決は,争点

として被告人が本件倉庫内に本件覚せい剤が隠匿されていると認識していたか否かと争点設定しながら,その検討過程では,覚せい剤を含む違法薬物が本件ホイール内に隠匿されていたことの認識の有無を論じ,結論として,
本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿
されているとの認識が被告人にあったと認めるには合理的疑いが残る,とした。
しかしながら,論告からも明らかなように,原審検察官は,本件倉庫内に搬入された本件貨物内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていたことの認識を立証しようとしていたものであり本件ホイール内といった限定された空間での隠匿に関する認識だけを問題としていたわけではない。本件では,本件ホイール取引が正規の取引ではなく,ホイール取引の外形を利用した不正又は違法な取引である可能性を認識し,ひいてはそれが覚せい剤を含む違法薬物の取引である可能性を認識・認容すれば,必然的に本件倉庫内の本件貨物の内容物についての認識・認容となるのであり,覚せい剤を含む違法薬物が本件ホイール内に隠匿されていたことの認識まで必要とされていたわけではない)3
合理的疑いの有無について
原判決は,被告人が本件ホイールを模造品であると思っていた旨述べていることに関して,模造品であっても正規品と偽って販売することができれば相応の利得が得られる可能性があるから,多額の費用が投じられていても本件ホイールが模造品であると思っていた旨の被告人の認識が不合理とまではいえず,そのような認識であった被告人が本件ホイール内に覚せい剤が隠されていることまで認識できたとはいえない旨説示する。
しかしながら,本件ホイールについて,被告人はEらから模造品であると説明を受けたことはなく,模造品と確認したわけでもない。したがって,正規品ではないから模造品であると思った旨の被告人の供述はそれ自体,根拠薄弱といわざるを得ない。
しかも,
本件ホイールを正規品と偽って販売すること自体,
F1用タイヤホイールの流通の特殊性に照らしておよそ現実的ではなく,被告人ですらそのような可能性を原審公判廷では述べていなかった。仮に本件ホイールを正規品と偽って販売できたとしても,Eらが投じた多額の費用と労力に見合う利得が回収できる可能性があるとは到底考えられない。したがって,多額の費用が投じられてはいるが模造品であると思ったとしても直ちに不合理とはいえないとした原判決の判断は,非現実的かつ抽象的な可能性を前提にした不合理なものであり,到底是認できない。そうすると,多額の費用が投じられていることの認識があるのにそれが模造品であると思った旨の被告人の供述は信用できないといわざるを得ない。
また,原判決は,被告人が本件倉庫に関して警備会社に機械警備を依頼したり,知人に本件倉庫の見回りを依頼したことについて,これら事情は,本件ホイール内に覚せい剤が隠匿されていることが第三者に発覚する可能性を高めるものであるから,被告人が覚せい剤の認識があったとすれば不合理な行動である旨説示する。
しかしながら,本件ホイールは段ボール箱に収められていたから,一見して覚せい剤が隠匿されていると分かる状態ではなく,本件倉庫に搬入する際に段ボール箱を目にした被告人自身そのことを分かっていたはずである。警備会社の担当者や知人女性が本件倉庫内の段ボール箱を勝手に開けて中身を確認する可能性はおよそ低いのであるから,警備や見回りによって覚せい剤隠匿の事実が発覚する危険が増すとは到底いえない。それにもかかわらず被告人が警備や見回りを依頼した事実は,被告人に覚せい剤の認識があるとの推認に対する合理的疑いとなるとした原判決は,前提となる事実を正解しないまま,誤った推論をし,その結果,合理的疑い足り得ない事情を合理的疑いとしたものであり是認できない。
被告人が,本件倉庫に関して警備会社に機械警備を依頼したり,知人女性に本件倉庫の見回りを依頼した事実は,本件ホイールが倉庫の外に持ち出されては困る相応の価値のある物であることの認識が被告人にあったことを裏付ける事情であり,覚せい剤を含む違法薬物の認識が未必的とはいえ被告人にあったとの認定と相反する事情ではない。
なお,本件では,平成30年10月4日,知人女性が本件倉庫の見回りをした際に,本件倉庫内から不審者が立てる物音を聞き,被告人に電話をかけたもののつながらず,被告人の意向を確認できないまま警察に通報した結果,犯行が発覚したという経緯があるが,これは偶然の結果に過ぎず,被告人の予期せぬ事態であったと認められる。
4結論
そうすると,
本件貨物が覚せい剤を含む違法薬物であることの推認について,
これを妨げる事情がうかがえない本件では,被告人も未必的にはこうしたことを認識していたと推認できる。もとより,違法薬物以外の禁制品の可能性を認識していた余地も想定できるが,覚せい剤を含む違法薬物だけがそこから除外されるということは特段の事情がない限りは想定し得ず,本件ではそうした特段の事情はない。
これに対し,原判決は,間接事実としての本件ホイール取引の不自然性を十分に理解せず,その結果,推認可能な事情を推認せず,また,不合理な推論に基づいて被告人の弁解を支持し,さらに,誤った前提事実を基にした推論により合理的疑い足り得ない事情を合理的疑いとするなどして,被告人の覚せい剤に関する故意を推認するに至らなかった。このような判断過程は,論理則,経験則等に照らして不合理であり,原判決には判決に影響を及ぼす重大な事実誤認がある。
検察官の事実誤認の論旨は理由がある。
よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して自判する。
第5

自判
(罪となるべき事実)
被告人は,A,B,C及び氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成30年10月4日,名古屋市c区de丁目f番地所在の倉庫内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約306.0511㎏及び覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶約33.5376㎏(別紙記載の覚せい剤は,その鑑定残量)を,覚せい剤かもしれないと認識しながら,あえて,所持したものである。
(証拠の標目)

(事実認定の補足説明)
被告人に本件覚せい剤の所持が認められること,それが覚せい剤であることの未必的故意が認められること,Aらとの共謀があること,営利目的が認められることはいずれも証拠上明らかである。
(法令の適用)
被告人の判示所為は覚せい剤取締法41条の2第2項,1項,刑法60条に該当するところ,情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役7年及び罰金350万円に処し,刑法21条を適用して原審での未決勾留日数中120日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,主文掲記の覚せい剤は,判示の罪に係る覚せい剤で犯人の所持するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれを没収し,刑訴法181条1項ただし書により原審及び当審での訴訟費用は被告人に負担させない。
(量刑の理由)
被告人が共犯者らとともに倉庫内で保管し所持した覚せい剤は約339㎏と大量である。本件は多額の費用を投じ複数の関係者が関わった組織的犯行であり,被告人は,倉庫内での覚せい剤の保管を担うなど重要な役割を果たした。覚せい剤についての被告人の認識が未必的なものにとどまることを踏まえても,(平前刑
成28年8月,
偽造有印公文書行使,
無免許運転罪で懲役2年,
4年間執行猶予)
の執行猶予期間中に犯行に及んでおり,
厳しい非難は免れずその刑事責任は重い。
不合理な弁解をしており,反省の態度はみられない。
そこで,記録上認められる被告人に有利な事情も考慮し,主文の懲役刑及び罰金刑を科すのが相当である。
(原審求刑

懲役10年及び罰金350万円,主文掲記の没収)

令和2年2月10日
名古屋高等裁判所刑事第1部
裁判長裁判官

堀内
裁判官

山田順子
裁判官

大久保

優子満
(別紙)

覚せい剤381点(名古屋地方検察庁平成31年領第512号の以下の符号のもの)
符号

1から43までの各枝番1
45から88までの各枝番1
90から133までの各枝番1
135から160までの各枝番1
162から207までの各枝番1
209から226までの各枝番1
228から265までの各枝番1
267の枝番1
268の枝番1
270から279までの各枝番1
281から284までの各枝番1
285から337までの各枝番2及び4
(以

上)

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