判例検索β > 平成30年(う)第297号
所得税法違反
事件番号平成30(う)297
事件名所得税法違反
裁判年月日令和2年2月4日
裁判所名・部福岡高等裁判所  第3刑事部
結果棄却
原審裁判所名福岡地方裁判所
原審事件番号平成27(わ)793
裁判日:西暦2020-02-04
情報公開日2020-03-23 15:30:00
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令和2年2月4日宣告

福岡高等裁判所第3刑事部判決

平成30年(う)第297号
所得税法違反被告事件
主文
本件各控訴を棄却する
被告人N1に対し,当審における未決勾留日数中360日を原判決の懲役刑に算入する。
理由
被告人N1の控訴の趣意は,主任弁護人後藤貞人,弁護人美奈川成章,同岡田基志,同吉田雄策,同丸山隆寛,同若杉朗仁共同作成の控訴趣意書(主任弁護人後藤貞人作成の控訴趣意書加除訂正書による訂正後のもの)
,控訴趣意書補充書及び控
訴趣意補充書2並びに主任弁護人後藤貞人作成の控訴趣意補充書4に,被告人N2の控訴の趣意は,主任弁護人吉田雄策,弁護人山内良輝,同岡田基志共同作成の控訴趣意書(弁護人山内良輝作成の控訴趣意補正書による訂正後のもの),控訴趣意
書補充書及び控訴趣意補充書2並びに主任弁護人吉田雄策作成の控訴趣意補充書4に,それぞれ記載のとおりであり,これらに対する答弁は,検察官古井延武,同松熊健共同作成の答弁書及び検察官古井延武作成の答弁書2(補充)にそれぞれ記載のとおりであるから,これらを引用する。被告人両名の各控訴理由は,訴訟手続の法令違反及び事実誤認である。
そこで,記録を調査して検討する。なお,略称等は,特に断らない限り原判決の例による(原判決の略称及び証人等の氏名等に代わる呼称は,別紙1のとおりである。。また,供述者が被告人両名であるか証人等であるか,原審の公判廷における)
供述(公判手続更新前の供述を含む。
)であるか,公判期日外における供述である
か,裁判官調書,検察官調書及び警察官調書における供述であるかを問わず,いずれも単に供述と表記する。
第1

事案の概要
原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,駐車場の賃貸業を営んでいるほか,暴力団四代目N3會会長又は五代目N3會総裁として,N3會に対して上納された資金からの収入を得ていた被告人N1及び被告人N1の預貯金を管理するなどしていた被告人N2が,共謀の上,被告人N1の所得税を免れようと企て,N3會に対して上納された資金からの収入を除外し,被告人N1以外の名義の銀行口座に留保するなどの方法により所得を秘匿した上,平成22年分から平成26年分までの被告人N1の所得税について,それぞれ虚偽過少の所得税確定申告をして,被告人N1の上記5年分の所得税合計3億2067万0182円をほ脱した,というものである。
第2

控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張(各控訴趣意第1点)について
各論旨は,要するに,課税庁による課税実務では,損益計算法によりほ脱額を認定する場合,広範な反面調査によってほ脱額を詳細に認定するのが通常であり,仮に確定的な資料がないときに推計課税をするとしても,その推計は確実な資料に基づく限られた範囲にしか及ばないにもかかわらず,原判決は,第2系列口座の入金と出金の全てについて全くといってもよいほど反面調査を行わず,かつ,通常は推計課税すらできないようなごく限られた資料・事実のみによってほ脱額を認定しており,その手続は他の国民との対比において著しく不平等であり,憲法14条,30条及び31条に反し違憲,違法であるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
1
本件では,被告人N1のほ脱所得として,第2系列口座への入金のみが問題
となっているという特質があるが,同口座への入金の事実やその額は,同口座の取引状況を示す捜査関係事項照会回答書等によって客観的に明らかとなっており,原判決は,ほ脱所得の金額の認定に当たって,所論のいうようないわゆる推計の方法を用いているものではない。すなわち,原審において,検察官は,第2系列口座に入金された金銭(N3會に上納された金銭のうち,被告人N1に分配された収入)が被告人N1に帰属するとし,その金額をもって被告人N1のほ脱所得に当たると主張したのに対し,被告人両名は,検察官がほ脱所得と主張するものは,被告人N1の所得ではなく,N3會のものであると主張し,上記の第2系列口座に入金された金銭が実質的にみて被告人N1に帰属するかが争点となっていた。そして,原判決は,N3會に対する上納金の存在及び分配状況,被告人N2による第1系列口座,第2系列口座及び第3系列口座の管理や各口座への入金の状況,第2系列口座からの4件(実質3件)の出金の使途等の間接事実を総合して,第2系列口座には上納金からの被告人N1の取り分が入金されており,それらの金銭は実質的にみて被告人N1に帰属するものであると認定したものである。なお,原判決は,被告人N1のほ脱所得と認定した本件分配収入は雑所得に該当し,本件分配収入に関する雑所得の金額を計算するに当たり,必要経費はないと認定している。
このように,原判決は,客観的に明らかとなっている第2系列口座に一定比率等で入金された金銭(本件分配収入)の額をもってほ脱所得と認定しているのであり,ほ脱所得の金額の認定に当たって,いわゆる推計の方法を用いているものではない。また,本件分配収入の性質や,それらが実質的にみて誰に帰属するものであるかを,間接事実を総合して認定することは,それが論理則,経験則等に照らして合理的である限り,刑事裁判における一般的な事実認定の手法として当然に許容されるべきものであり,間接事実の認定やそれらの間接事実からの推認の過程に経験則等に照らして不合理な点があるとして事実誤認の問題が生じることはあっても,そのような認定手法を取ったこと自体に,所論のいうような違憲,違法な点があるとはいえない。
2
所論は,(1)原判決は,第2系列口座への入金について,入金のごく一部を
紐付けしただけで,その全額をそのまま被告人N1の所得とし,その内容を全く考慮の外に置いている,(2)第2系列口座からの出金のごく一部を検討しただけで,その他の大半の出金につき反面調査がされないまま,証拠による裏付けもないまま,その全額を被告人N1のためにする出金と認定している,などという。確かに,所論のいうように,原判決は,第2系列口座の入金の全てについて反面調査等の結果により上納金からの被告人N1の取り分であると認定しているものではないし,出金の全てについて反面調査等の結果によりその使途を認定しているものでもないが,そもそも,特定の口座に入金された金銭の性質やその帰属を認定するに当たって,同口座の入金の出処や出金の使途の全てについて直接何らかの資料によって認定しなければならないという理由はない。原判決は,被告人N2が管理していた第1系列口座ないし第3系列口座の入金状況から,被告人N2がN3會に関して得た巨額の金銭を何らかの明確な目的・法則の下で継続的に管理していたとうかがわれること(なお,そのうち1件については,N28のぱちんこ店出店に関する上納金の分配であると認定している。
)や,N3會に対する上納金の存在及び
その分配状況等の事実を前提とし,さらに,第2系列口座からの出金のうち,検察官が被告人N1の個人的用途に使用されていると主張したものについて検討して,そのような用途に使用されたものと認定するなどし,それらの事実も併せ考慮して,第2系列口座に上納金からの被告人N1の取り分が入金されていることを認定しているのであり,その推認の過程等に事実の誤認があるかどうかはともかく,そのような認定手法を取ったこと自体に,租税平等主義や適正手続等に反する点があるとはいえない。
訴訟手続の法令違反をいう各論旨は理由がない。
第3

控訴趣意中,原判示各事実の所得の帰属に関する事実誤認の主張(各控訴
趣意第2点)について
各論旨は,要するに,原判決は,第2系列口座に入金された金銭が被告人N1に帰属すると判断して,平成22年分から平成26年分までの所得税ほ脱の事実を認定しているが,その認定は,重要な証拠の信用性判断及びそれらの証拠からの推論の過程のいずれにおいても論理則,経験則に反しており,その結果,所得の帰属について誤った判断をしたものであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
1
所得の帰属に関する原判決の認定
原判決は,要旨以下のとおり認定,説示して,上納金からの分配金のうち第2系列口座に入金された金銭が,実質的にみて被告人N1に帰属するものであると認定している(括弧内に掲記した証拠は,原判決が認定に供した主な証拠である。。)
(1)第1系列口座ないし第3系列口座の入金状況等(原審甲31,33,38)平成17年5月30日から平成20年6月30日までについてみると,第1系列口座ないし第3系列口座には,いずれも1回につき10万円程度から1000万円を超える金額が頻繁に入金され(同じ日に複数回入金されていることもある。,入)
金額は年間合計で数千万円ないし数億円の規模に及んでいるが,その入金のほとんどは,いずれも同一の郵便局においてほぼ同時刻か十数分以内の差で行われており,口座ごとの入金額の比率は,ごく僅かの例外を除き,第1系列口座,第2系列口座,第3系列口座の順に3対3対1となっている。
平成20年7月1日以降についてみると,第1系列口座への入金はなくなる一方で,第2系列口座及び第3系列口座へは,それ以前と同様に,いずれも1回につき10万円程度から1000万円を超える金額が頻繁に入金されており,入金額は年間合計で数千万円ないし数億円の規模に及んでいるが,その入金のほとんどは,いずれも同一の郵便局においてほぼ同時刻か十数分以内の差で行われており,かつ,第2系列口座と第3系列口座への入金額の比率の多くが5対1,それ以外も第2系列口座がおおむね3ないし6に対し,第3系列口座が1となっている。このように,被告人N2が管理していた各口座へ同一機会に一定の比率で繰り返し高額の金銭の入金がされているという特異な入金状況があることに照らすと,N3會の経理全般の責任者である被告人N2が,N3會に関して得た巨額の金銭を何らかの明確な目的・法則の下で継続的に管理していたことが推察される。(2)N3會の経理及び第3系列口座の管理状況等

N3會の経理全般の状況(N33〔原審甲240を含む。,N41及びIの〕

各供述,原審甲46,47,202)
被告人N2は,毎月9日の事務局会議において集める會運営費から,長期服役者のための積立金として一定額を取りのけた上で,N3會事務局の手持ち現金として500万円を事務局員に預け,残りのうちおおむね250万円を共済金としてN14口座に入金し,その余をN16口座に入金するなどして管理しており,経費が足りなくなるとN16口座から現金を引き出すなどして準備し,事務局員に渡していたが,N3會の運営に必要な毎月の経費は,會運営費のみの収入では到底賄えない状態が続いていた。

第3系列口座の管理状況等(被告人N2の供述,原審甲33,38,46,
47等)
第3系列口座については,平成17年5月30日から平成26年12月末までの間,44回の出金がある(出金後数日内に出金額と同額が同口座に戻されているものを除く。
)が,このうち34回の出金(合計7億3200万円)については,おおむね出金後数分から1時間以内に,同額又はその大部分に当たる金額(合計6億4560万円)がN16口座に入金されている。つまり,被告人N2は,第3系列口座内の金銭を,一旦N16口座に移してから,100万円単位でこれを引き出し,N3會の経費に充てていたものであるが,第3系列口座から出金した現金を自宅の金庫にプール金として保管したり,このプール金をN16口座へ入金したりすることもあった。このように,被告人N2は,第3系列口座に入金された金銭を,N16口座や自宅金庫を経由するなどして,N3會の経費のために利用していた。(3)N3會に対する上納金の存在とその分配状況等

N3會に対する上納金一般(N17の供述〔原審甲214を含む。〕等)

N3會は,二次団体の組長や仲介者を経由するなどして建設業者,ぱちんこ店等の事業者から上納金を受け取ってきており,このうち建設業者が支払った上納金は,遅くとも平成8年頃以降,少なくとも平成23年頃まで,少なくとも年間数千万円に及ぶものであった。

N3會における上納金の管理・分配状況(Hの供述〔原審甲239を含む。)〕

N3會においては,平成19年まで,組織的・継続的に建設業者等から上納金を受け取り,当時の序列1位の総裁であるN5,序列2位の会長である被告人N1ら最高幹部等の間で分配しており,上納金の具体的な分配・管理状況としては,N5,被告人N1,上納金の仲介者(N6が出所した平成15年2月以降は,当時の序列3位の理事長であるN6及び仲介者)がそれぞれ全体の3割を,N3會が全体の1割を受け取るように分配し,N5,被告人N1及びN3會の各取り分を合わせた全体の7割の現金を被告人N2が受け取って管理していた。

具体的な上納金の存在と口座入金状況(A,B及びCの各供述等)
N28のぱちんこ店出店に関する上納金として,平成17年12月29日又は同月30日に4000万円がN3會に納められたといえるところ,同日午前9時41分から午前9時48分にかけて,第1系列口座ないし第3系列口座に3対3対1の割合で合計2800万円の入金がされており,既に認定したN3會における上納金の分配状況を踏まえれば,上記上納金が最高幹部等の間で3対3対3対1の比率で分配され,そのうち3対3対1の部分が第1系列口座ないし第3系列口座に入金されたものと推認できる。

J供述

N3會理事長兼N22組組長のN7は,平成24年2月頃から平成26年4月頃までの間,月に1,2回(徐々に減った後は2,3か月に1回くらい),二次団体
組長やN3會会長のN6から100万円から2000万円程度の現金を受け取り,その現金を半分ずつくらいに分け,2つに分けた現金のうち1つをN7が書いたメモと一緒に被告人N2に渡し,上記の2つに分けた現金の半分くらいの金額に相当する別の現金をN6に渡し,上記の2つに分けた残りの現金をN22組事務局長のN33に渡して新札に交換させ,その後手ぶらで本家(被告人N1の自宅)へ挨拶に行っていた。

小括

以上をまとめると,N3會に対する上納金は,少なくとも平成19年頃までは,当時の総裁であるN5,会長である被告人N1,仲介者らが各3割を,N3會が1割を受け取るように分配され,被告人N2が仲介者らの取り分を除く7割を管理していたところ,前記(1)の平成20年6月30日までの間の第1系列口座ないし第3系列口座への入金状況からすれば,被告人N2は,建設業者等から受け取った上納金のうち7割の現金につき,第3系列口座にはN3會の取り分としての全体の1割を,第1系列口座と第2系列口座にはN5及び被告人N1の取り分としての全体の各3割をそれぞれ入金して管理していたと推認するのが合理的であり,このことは,前記ウの上納金の納付や口座への入金の事実によって裏付けられている。加えて,N5が死亡した平成20年7月1日以降は,第1系列口座が使われなくなっていることからすれば,少なくとも平成20年6月30日までの間,第2系列口座には,上納金からの被告人N1の取り分が入金されていたものと優に推認できる。また,平成23年7月の五代目N3會発足後も,被告人N2が,二次団体の組長等を介して建設業者等から組織的・継続的に上納金を受け取り,N3會最高幹部等の間で分配していたとうかがわれること(前記ア,エ)
,平成20年7月1日以降
も,第2系列口座として同じ口座が引き続き用いられていた上,前記(1)のとおりの第2系列口座及び第3系列口座への入金の状況が認められること,第2系列口座と同一機会に入金が繰り返されていた第3系列口座がN5の死亡後もN3會の経費を管理するために利用されていたこと(前記(2)イ)によれば,平成20年7月1日以降も第2系列口座に上納金からの被告人N1の取り分が入金されていたものと一定程度推認することができる。

被告人N2の供述について

支援者から受け取った金銭の1割をN3會の経費として第3系列口座に入金し,その残りを第1系列口座及び第2系列口座にそれぞれN5及び被告人N1の公務費として入金していたが,いずれもN3會の資金であるので,入金比率は適当に自分で決めていたなどとして,第2系列口座内の金銭がN3會のものであるとする被告人N2の供述は信用することができない。
(4)第2系列口座からの出金等
第2系列口座からの4件(実質3件)の出金(①平成17年7月19日の2324万0150円の出金,②平成25年5月29日の5000万円の出金,③平成27年1月30日の3000万円,同年2月3日の4000万円の各出金)についてみると,①については,被告人N1の交際相手であったN24のマンション購入資金に使われ(被告人両名の各供述等)
,②については,被告人N1名義の預金口座
(T社N1口座)に振り込まれ(M及び被告人両名の各供述等)
,③については,
一部がN3會組員の裁判費用等の支出として使われたほかは,出金の多くが被告人N1の親族の生活費・養育費等に使われている(被告人両名の各供述等)。また,
使途が判明していない第2系列口座からの出金についても,被告人N1の個人的支出以外の用途に使われたものは見当たらない。
使途が判明している出金の一つ一つが数千万円単位に上ることも踏まえると,これらは,第2系列口座に入金された金銭を被告人N1が私的に使用することが可能であったことを,出金という側面から強く推認させる事情といえる。(5)原審弁護人らのその他の主張について
入金の状況からすれば,第3系列口座と第2系列口座の使途あるいは目的は異なるものと考えるのが合理的であり,第3系列口座に入金された金銭がN3會の経費に充てられていたと認められる以上,第2系列口座に入金された金銭もN3會の経費に充てられるためのものであったとはそもそも考え難いし,現に,第2系列口座からの出金で直ちにN3會経費に用いるために利用されていたN16口座へ入金されているといえるものは見当たらないのであり,記録を精査しても,第2系列口座からの出金とN3會経費の支出とを具体的に結び付ける事情はうかがわれず,N3會経費が第2系列口座からの出金により賄われていたとの疑いは生じない。一方で,第3系列口座からの出金の全てが直ちにN16口座へ入金されているわけではないが,一旦出金されて被告人N2の自宅金庫等で保管された後にN3會経費として使われたりN16口座へ入金されたりする場合もあったというのであるし,第3系列口座からの出金とN16口座への入金の総額をみても,第3系列口座からの出金や會運営費に由来するもの以外の金銭がN16口座に入金されていないとしても十分に説明がつく。
(6)総合判断
前記(3)オ及び(4)の推認を妨げる事情は見いだせない。かえって,被告人N1の個人資産の増加状況と第2系列口座への入金状況はおおむね符合していることがうかがわれ,前記推認の正しさが裏付けられている。
以上を総合して判断すると,上納金からの分配金のうち第2系列口座に入金された金銭は,実質的にみて被告人N1に帰属するものと認めるほかはない。2
当裁判所の判断

以上の原判決の認定,説示は,以下のとおり一部是認することができない点があるものの,おおむね正当であり,上納金からの分配金のうち第2系列口座に入金された金銭が実質的にみて被告人N1に帰属するものと認めた結論も正当として是認することができる。以下,所論に鑑み,補足して説明する。
(1)各口座に一定の比率で繰り返し入金がされているという点(前記1(1))について(各控訴趣意書の第2点第1の2,第2の5(1))

原判決は,前記1(1)のとおり,平成20年7月1日以降について,第2系
列口座と第3系列口座への入金額の比率の多くが5対1,それ以外も第2系列口座がおおむね3ないし6に対し,第3系列口座が1となっていると認定している。なお,所論は,原判決が,10のうち,3ないし6の割合が第2系列口座へ,1の割合が第3系列口座へ入金されたことを前提としているとした上で,そのようには断定できないというが,原判決は,平成20年7月1日以降の状況については,第2系列口座と第3系列口座の入金比率(第3系列口座を1として,第2系列口座が3ないし6)は認定しているものの,その余の分配された金銭の有無やその比率等は認定しておらず,所論のいうように,10のうちの1が第3系列口座に入金されたことを必ずしも前提としているものではない。

原判決は,上記の平成20年7月1日以降の第2系列口座及び第3系列口座への入金状況のほか,同年6月30日以前の第1系列口座ないし第3系列口座への入金状況を踏まえて,被告人N2が,N3會に関して得た巨額の金銭を何らかの明確な目的・法則の下で継続的に管理していたことが推察されると説示している。この点について,所論は,平成20年6月30日以前は,一定の比率で繰り返し入金がされているという評価に無理はないが,同年7月1日以降の第2系列口座及び第3系列口座への入金の比率を一定の比率というのは論理則を無視しているし,比率のばらつきから明確な意図を導くことはできず,むしろ被告人N2が供述するように適当に分けたと考える方が自然かつ合理的である,などという。しかしながら,平成20年7月1日から平成26年9月22日までの第3系列口座への入金に対する第2系列口座への入金の比率をみると,入金の約73%が5の比率であり(なお,4の比率も約12%あり,4か5の比率のもので全体の約84%を占めている。,4未満は5回だけであり,5を超えるものも22回だけであ)
るから,約93%は4ないし5の比率となっている(なお,本件各公訴事実の期間である平成22年から平成26年までについてみても,入金の約71%が5の比率であり,約93%は4ないし5の比率となっている。。したがって,確かに比率に)
ばらつきはあるものの,第2系列口座と第3系列口座への入金額の比率の多くが5対1となっているなどとする原判決の認定に誤りはない。そして,第2系列口座及び第3系列口座へ多額の金額が頻繁に入金されている上,そのほとんどが同一の郵便局においてほぼ同時刻か十数分以内の差で行われているという点も併せ考慮すると,原判決が,平成20年6月30日以前のみならず,同年7月1日以降についても,同一機会に各口座へ一定の比率で繰り返し高額の金銭の入金がされているとし,このような入金状況を特異なものであると評価した点に誤りはなく,また,このような入金状況に照らすと,被告人N2が,N3會に関して得た巨額の金銭を何らかの明確な目的・法則の下で継続的に管理していたことが推察されるとした点にも誤りはない(なお,適当に分けたという被告人N2の供述が,入金状況を合理的に説明するものとはいえず,信用することができないことは,後記(2)イのとおりである。。


所論は,(ア)N5死亡(平成20年6月30日)以前の各口座の性格を原判
決のように仮定しても,第2系列口座の入金比率が変わった時点で同口座の性格も変化した可能性が否定できない,(イ)原判決は,被告人N2がN3會に関して得た巨額の金銭を何らかの明確な目的・法則の下で継続的に管理していたという価値中立的な事実に過大な意味を持たせている,などともいうが,原判決は,被告人N2が管理していた各口座への入金状況等を,第2系列口座内に入金された金銭の帰属を推認させる間接事実の一つとして考慮しているものであって,その考慮の仕方に不当な点はない。所論のいう点は,結局のところ,他の間接事実も踏まえた総合認定を論難するものであるから,その点は後記(8)でまとめて検討する。(2)第2系列口座とN16口座との結び付きをいう点(前記1(2)イ,(5))について(各控訴趣意書の第2点第2の1から4まで,各控訴趣意補充書2の第1)ア
原判決は,前記1(2)イのとおり,第3系列口座からの44回中34回の出
金(合計7億3200万円)について,おおむね出金後数分から1時間以内に,同額又はその大部分に当たる金額(合計6億4560万円)がN16口座に入金されていると説示している。この点,出金から入金までの時間をみると,数分とい
えるものは8分間である1回のみであるから,
おおむね出金後『数分から』1時間以内という原判決の説示は表現として的確でないが,別紙2(関係証拠から認められる第3系列口座からの出金とN16口座への入金の対応関係)のとおり,34回中31回は約1時間以内に入金がされており,34回中29回は出金と同額又は出金の7割以上の額が入金されていることが認められる。すなわち,第3系列口座から出金された金銭の多くが明確な対応関係をもってN16口座に入金されていると認められるのであり,その旨をいう原判決の説示に誤りはない。イ
原判決は,この点を前提として,前記1(2)イのとおり,
被告人N2は,第3系列口座内の金銭を,一旦N16口座に移してから,100万円単位でこれを引き出し,N3會の経費に充てていたものであるが,第3系列口座から出金した現金を自宅の金庫にプール金として保管したり,このプール金をN16口座へ入金したりすることもあった被告人N2は,第3系列口座に入金された金銭を,N16,口座や自宅金庫を経由するなどして,N3會の経費のために利用していたなどと説示している。
この原判決の説示に関し,所論は,(ア)被告人N2が上納金を自宅金庫(以下N2金庫という。
)にプールしていた事実を直接立証する証拠は,被告人N2
の供述しかないから,上記の原判決の説示は,同供述に依拠するものであるが,原判決が,
第3系列口座→N2金庫→N16口座という資金ルートの存在を認定しておきながら,これと別異の取扱いをする合理的な理由を示すことなく第2系列口座→N2金庫→N16口座という資金ルートの存在を否定することは論理則に反する,(イ)原判決は,被告人N2の供述のうち,有罪認定に有利な部分については信用性の検討なしに採用し,有罪認定に不利な部分については不合理なものと糾弾しており,事実認定の手法に一貫性を欠いている,などという。上記の原判決の説示は,その旨の被告人N2の供述を前提としたものと考えられる(原判決の挙げる被告人N2方の捜索差押調書〔原審甲119〕では,被告人N2方に金庫が存在することや,平成26年10月1日の捜索時にN2金庫内に415万円余りの現金があったことが分かるだけである。。他方で,原判決は,前記1)
(5)のとおり,原審弁護人らの主張について検討する中で,
第2系列口座からの出金とN3會経費の支出とを具体的に結び付ける事情はうかがわれないなどと説示しているが,この説示は,第2系列口座から出金した金銭もN2金庫に入金することがあった,N2金庫に入れた金銭がどの口座から出金したものかは区別していないなどという被告人N2の供述(すなわち,第2系列口座内の金銭も,N2金庫やN16口座を経由するなどして,N3會経費のために利用することがあった旨の供述)が,少なくともその限度では信用できないことを前提としなければ成り立たない。そうすると,原判決のこれらの説示は,N2金庫やN16口座への入金等に関する被告人N2の供述を,特に理由を示すことなく分断して評価した上で事実認定に供したものとの批判を免れず,その旨をいうものと理解できる所論にはもっともなところがある。
しかしながら,所論を踏まえて検討しても,第1系列口座及び第2系列口座にはそれぞれN5及び被告人N1の公務費を,第3系列口座にはN3會の経費を入金していたが,いずれもN3會の資金であるので,入金比率は適当に自分で決めていた,などという被告人N2の供述が,その内容が不自然,不合理であり,各口座の入金状況とも整合せず,信用することができないことは,原判決がおおむね説示するとおりである。原判決が,被告人N2の供述のうち,被告人N1のために使われるべき金銭を第2系列口座に入金して管理していた旨を述べる部分等が,第2系列口座に上納金からの被告人N1の取り分が入金されていたとの推認とよく整合し,これを強く裏付けると説示している点は,被告人N2が,第1系列口座及び第2系列口座内の金銭からN3會経費を支出することもあった旨供述していることを踏まえると,これもまた供述の一部分のみを分断して事実認定に供したものであり,相当ではない。しかしながら,入金比率を適当に決めていた旨の供述は,平成20年6月30日以前の状況について全く説明できておらず,同年7月1日以降についても,適当に分けるのであれば,比率が必ずしも一定でないとしても,わざわざ同一機会に別の口座に分けて入金するという面倒な入金の仕方を繰り返す必要はないことなどからすると,内容が不合理であり,各口座の入金状況と整合しないというべきであることなどからすれば,被告人N2の供述が信用できないという結論に変わりはない。被告人N2の金銭管理に関する供述は,客観証拠やN3會事務局員であった者の供述等,他の証拠から一定程度裏付けられているといえる部分を除き,事実認定に供することはできないというべきである。したがって,被告人N2がN2金庫に一定の金銭をプールしていた可能性が否定されるものではないが,原判決が,被告人N2の供述に基づき,第3系列口座から出金した現金がN2金庫を経由してN16口座へ入金された旨認定した点は是認することができない。
しかしながら,第3系列口座から出金された金銭の多くがN3會経費に用いるために利用されていたN16口座へ入金されているという事実のみによっても,被告人N2が第3系列口座に入金された金銭をN3會経費のために利用していたと認めることができる。したがって,原判決のその旨の認定自体には誤りがあるとはいえない。

所論は,原判決の説示のうち,①

第3系列口座からの出金については,4

4回中34回がN16口座へ入金されているのに対し,第2系列口座からの出金にはそのようにいえるものが見当たらない,②

第3系列口座からの出金合計が5億

9400万円であるのに対し,N16口座への入金合計は約4億2700万円であり,第3系列口座からの出金や會運営費に由来するもの以外の金銭がN16口座へ入金されていないとしても十分に説明がつく,という部分(原判決33,34頁)を取り上げ,①の説示は,第3系列口座とN16口座の結び付きは強いのに対し,第2系列口座とN16口座の結び付きは弱いから,第3系列口座についてはN2金庫を経由してN16口座へ入金される資金ルートの存在を認めることができるが,第2系列口座については同様の資金ルートを認めることができないとするもの(所論はこれを第1の論理という。,②の説示は,全体として第3系列口座からの)
出金額がN16口座への入金額よりも多いから,一部の時期についてN16口座への入金額の方が多くても大局的に取るに足らないとするもの(所論はこれを第2の論理という。)であるとする。その上で,この第1の論理について,(ア)
第3系列口座とN16口座の結び付きは強いのに対し,第2系列口座とN16口座の結び付きは弱いという事実は,
第2系列口座→N2金庫→N16口座という
資金ルートの存在を完全に否定できるものではないし,原判決のいう期間のN16口座への入金は226回あるが,第3系列口座からの出金と結び付く可能性のあるものは僅か34回にすぎず,第3系列口座との結び付きが弱い192回の入金については同口座以外の金銭に由来する蓋然性がある,(イ)N3會経費を賄うN16口座の資金の原資が何であるかが重要であるが,N16口座への入金という面からみれば,第3系列口座とN16口座の結び付きは決して強くなく,原判決は一面だけをみて全体を即断している,などという。また,
第2の論理について,(ア)暦
年ごとにみれば,平成23年から平成25年までは,第3系列口座からの出金額よりもN16口座への入金額の方が多く,少なくともこれらの年においては,第2系列口座から出金された金銭がN16口座に入金された蓋然性を否定することはできない,(イ)原判決の論理によれば,平成22年に第3系列口座から出金された4億1000万円から同年にN16口座に入金された1億1500万0781円を除いた2億9499万9219円がN2金庫にプール金として保管され,その後の数年にわたりN16口座に入金されたという帰結になるが,それは経験則に反しており,当該金銭は,平成22年中の大きな資金需要に充てられたと考える方が自然かつ合理的であり,そうすると,平成23年以降のN16口座の入金不足は第2系列口座からの出金によって補填されたと考えられる,などという。
しかしながら,所論が第1の論理として原判決の説示をまとめる点は,原判決を正解したものとはいえない。すなわち,原判決は,所論のいうように,第2系列口座及び第3系列口座それぞれのN16口座との結び付きの強弱を対比して,第2系列口座から出金された金銭がN16口座へ入金されていたこと,すなわち,第2系列口座もN3會経費を管理するために利用されていたことを否定しているものではない。原判決は,N3會に対する上納金の存在及び分配状況,第1系列口座ないし第3系列口座への入金状況等から,N5が死亡する平成20年6月30日までの間,第2系列口座には上納金からの被告人N1の取り分が入金されていたものと優に推認できるとした上で,五代目N3會が発足した後も上納金をN3會最高幹部等の間で分配していたことがうかがわれること,同年7月1日以降の上記各口座の管理及び入金の状況に加え,同日前後を通じて,第3系列口座から出金された金銭の多くがN16口座へ入金されていることなどから,第2系列口座と同一機会に入金が繰り返されていた第3系列口座が同日以降(N5死亡後)も引き続きN3會の経費を管理するために利用されていたと認められることも併せ考慮して,同日以降も第2系列口座に上納金からの被告人N1の取り分が入金されていたことを一定程度推認させるとしている(原判決22,23頁)
。すなわち,原判決は,第2系列
口座からの出金とN16口座への入金に結び付きが認められるかどうかという点はおいて,第3系列口座が継続的にN3會経費を管理するために利用されていたと認められることを間接事実の一つとして,第2系列口座に上納金からの被告人N1の取り分が入金されていたことが推認できるとしているのである(この推認が正当であるかは,他の間接事実も総合して検討する必要があるが,結論として正当であるといえることは,後記(8)のとおりである。。なお,第3系列口座が継続的にN3)
會経費を管理するために利用されているという事実は,その限度であっても,各口座の入金状況に照らして第2系列口座と第3系列口座が別の目的の口座であると推認できること(原判決も,原審弁護人らの主張に対する検討部分において,その旨説示している。
)なども併せ考慮すると,第2系列口座がN3會経費以外に利用される口座であることを推認させるのに意味を持つ事実であるといえるから,第3系列口座が継続的にN3會経費を管理するために利用されているという事実を間接事実の一つとして考慮し,他の間接事実と併せて第2系列口座に上納金からの被告人N1の取り分が入金されているという事実を推認した原判決の事実認定に不合理な点があるとはいえない。
原判決は,上記のとおり認定した上で,第2系列口座から出金された金銭もN16口座へ入金されていた高度の蓋然性があるという原審弁護人らの主張について検討し,第2系列口座と第3系列口座の使途あるいは目的が異なると考えるのが合理的であり,第3系列口座に入金された金銭がN3會経費に充てられていたと認められる以上,第2系列口座に入金された金銭もN3會経費に充てられるためのものであったとはそもそも考え難いことを前提として,第3系列口座から出金された金銭がN16口座へ入金されているのに対し,①

第2系列口座からの出金で,N16

口座への入金と時間的に接近し,かつ金額的にも近似するなど,直ちにN16口座へ入金されているといえるものは見当たらない,②
第2系列口座からN16口座

への資金流入の有無の問題は,第2系列口座へ入金された金銭が被告人N1に実質的に帰属するか否かという観点から検討されるべきものであり,その際には,第2系列口座から出金された金銭がN16口座へ入金された抽象的な可能性の有無ではなく,第2系列口座内の金銭の帰属に関する推認を破るような事情,具体的には,第2系列口座からの出金でN3會経費が賄われているといった事情が存するか否かが判断の分岐点になると考えられる,③

こうした観点から記録を精査しても,第

2系列口座からの出金とN3會経費の支出とを具体的に結び付ける事情はうかがわれず,N3會経費が第2系列口座からの出金により賄われていたとの疑いは生じない,などと説示している(原判決33,34頁)
。第2系列口座及びN16口座の
入出金状況(原審甲33,35,46,47)を精査しても,平成17年5月30日から平成26年12月末までの間の第2系列口座からの35回の出金について,第3系列口座からの出金と同様にN16口座へ入金されていると推認できるようなものは全く見当たらず,その旨の原判決の①の説示は正当である。そして,原判決の②及び③の説示は,①の点も踏まえ,関係証拠に照らしても,第2系列口座からの出金によってN3會経費が賄われているといった,第2系列口座内の金銭が被告人N1に帰属するとの推認を妨げるような事情がうかがわれないことを指摘したものであり,被告人N2の供述が前記のとおり信用できないことを踏まえると,そのような原判決の説示にも不合理な点があるとはいえない。
原判決は,上記の説示に続いて,さらに,所論が第2の論理の前提として指摘するとおり,平成22年初めから平成26年末までの第3系列口座からの出金合計は5億9400万円(なお,この額は,出金後数日内に出金額と同額が戻されているものも含む額であり,原判決が除外している平成22年1月28日の1億円及び平成26年6月26日の300万円の各出金を除くと,4億9100万円となる。
)であるのに対し,同期間のN16口座への入金合計は約4億2700万円であり,その総額をみても,第3系列口座からの出金や會運営費に由来するもの以外の金銭がN16口座に入金されていないとしても十分に説明がつく,と説示している(原判決34頁)
。しかしながら,前記イのとおり,原判決が,被告人N2の供
述に基づき,第3系列口座から出金した現金がN2金庫を経由してN16口座へ入金されたと認定した点は是認することができず,そうである以上,上記の期間の第3系列口座からの出金のうちN16口座へ間もなく入金されたとは認められない出金が合計3億3600万円もあることからすれば,入出金の総額から,第3系列口座からの出金や會運営費に由来するもの以外の金銭がN16口座に入金されていないとしても説明がつくとする原判決の説示も,そのまま是認することはできない。そこで検討すると,原判決は,被告人N2が,毎月9日の事務局会議において集められた會運営費のうち,長期服役者のための積立金,N3會事務局の手持ち現金,共済金を除いたその余の金銭をN16口座へ入金するなどして管理し,N3會事務局の手持ち現金が不足すると,100万円単位の現金をN16口座から引き出すなどして準備し,事務局員に渡していたと認定しているところ(前記1(2)ア),事務
局員であった者らの供述等も踏まえると,この認定に誤りはない。このように,毎月,會運営費のうち一定額がN16口座へ入金されていたのであるから,第3系列口座との結び付きが認められないN16口座への入金の原資が,全て第2系列口座からの出金である蓋然性が高いかのようにいう所論には賛同することができない。現に,N16口座への入金状況をみると,事務局会議が行われていた毎月9日から数日内に,端数の入金が多数みられるのであり,これらは,平成26年2月から5月までの入金に関する当審における検察官の主張をおいても,その入金額自体から,上記の會運営費に由来するものであると推認できる。また,検察官が当審において主張するように,共済金が入金されていたN14口座からの出金がある日と同じ日にN16口座への入金があるものも複数認められる。それでもなお,N16口座への入金には原資が関係証拠上は明らかでないものが複数あり,その中には1000万円を超える入金も幾つかある。検察官の当審における主張のうち,上記の原資が明らかでない部分についてN2金庫のプール金によって説明しようとする部分は,被告人N2の供述の一部を分断して認定に供するものであるという先にみた原判決に対する批判が同様に当てはまり,採用することができないが,他方で,所論も,第2系列口座から出金された金銭がN16口座へ入金された可能性が否定できないなどというにとどまっており,具体的な結び付きを指摘しているものではない。第2系列口座及び第3系列口座への入金状況や第3系列口座の性質,被告人N2の供述が信用できないことなど,先に検討した点も踏まえると,
記録を精査しても,第2系列口座からの出金とN3會経費の支出とを具体的に結び付ける事情がうかがわれないとする原判決の説示に不合理な点があるとはいえず,原判決の説示するように,N3會経費が第2系列口座からの出金により賄われていたとの疑いは生じないといえる。
なお,所論は,暦年ごとにみると,第3系列口座からの出金よりもN16口座への入金の方が多い年が3年あることを指摘するが,特定の口座間の結び付きを検討するに当たっては,基本的には出金ごとに検討すべきであり,年単位で合計額をみて検討するのは誤っている。原判決も,全体的な合計金額にも触れてはいるものの,基本的には,第3系列口座からの出金とN16口座への入金を入出金ごとにみて結び付きの有無を検討していることが明らかである。また,所論は,平成22年に第3系列口座から出金された4億1000万円から同年にN16口座に入金された金額を除く2億9500万円弱もの金銭がN2金庫にプール金として保管され,その後の数年にわたりN16口座に入金されたと考えるのは経験則に反するなどという。しかしながら,第3系列口座からの出金とN16口座への入金の状況を前提とすると,原判決は,平成22年中の第3系列口座からの出金は平成22年4月8日から同年5月11日にかけての合計3億1000万円のみであり,これらはいずれも少なくとも直後にN16口座へ入金されたとは認められないとし,また,平成23年以降については,平成23年は5回中3回(4800万円)
,平成24年は3回全
て(2760万円)
,平成25年は5回中4回(2900万円)
,平成26年は3回
中2回(1700万円)の第3系列口座からの出金分がN16口座へ入金されたと認定している(金額はN16口座への入金額)ものと理解することができるから(別紙2参照)
,原判決は,所論のいうような認定をしているものではない。所論は前提を欠くものであり,この点に関する原判決の認定に経験則に反する点があるとはいえない。
(3)Hの供述の信用性(前記1(3)イ)について(各控訴趣意書の第2点第3,第5の2,各控訴趣意補充書2の第2)

原判決は,N3會N20組組長のN21の親交者として平成13年頃から平
成19年までの間に上納金の仲介をし,現金を被告人N1に直接渡した際に,被告人N1からその分配比率を聞いたことなどを供述するHの供述の信用性を認めた上で,同供述に基づき,前記1(3)イのとおりの事実を認定している。この点について,所論は,Hの供述の核心部分を信用できるとした原判決の判断は,論理則,経験則に反しているという。

所論も踏まえて原判決の説示を検討すると,Hの供述は,原判決もいうよう
に,上納金の取りまとめの経緯,被告人N1らへの受渡し状況等を詳細に述べるものであり,相応に具体的なものである。また,Hの供述の核心部分というべきである,建設業者からの上納金が3(N5)対3(被告人N1)対3(仲介者。N6出所後は,N6及び仲介者)対1(N3會)の比率で分配され,被告人N2がそのうちの7割(仲介者分を除くもの)を管理していたという部分は,原判決のいうとおり,第1系列口座ないし第3系列口座への特異な入金状況とよく整合し,これを合理的に説明するものといえるし,関係証拠上,このような上納金以外に第1系列口座ないし第3系列口座への継続的かつ巨額の入金について説明できる金銭の存在はうかがわれない。
N21の体調が悪く入退院を繰り返していたというHの供述する事実が動かし難い事実であること,建設業者からその窓口となる者を通じてN3會へ多額の上納金が支払われていたとするHの供述がDやN17の供述と符合していることは,所論もいうように,上記の核心部分を直ちに裏付けるものとまではいい難いが,いずれも上納金の仲介役をしていた旨のHの供述を相応に裏付けるものであり,原判決もそのような趣旨で説示しているものと理解できる。また,Hの供述に,被告人N1の自宅応接室の家具や調度品の状況など,体験した者でなければ語り得ない内容が含まれていることについては,Hは被告人N1方に出入りしていたのであり,その程度の具体性を持った供述をすることは立場上不可能ではないと思われるものの,Hが,上記のように,被告人N1方の内部の様子のほか,被告人N1の親族の内情を知っていた旨供述している点は,少なくとも,Hが,被告人N1との間で,相応に近しい関係にあったことを十分にうかがわせるものであり,Hと被告人N1との間に,Hが,被告人N1に上納金を直接渡し,その分配について聞き知ることがあり得る関係性が存在したという意味で,Hの供述の上記核心部分を相応に裏付けるものであるといえる。

所論は,
(ア)原判決が,Hが被告人N1の親族の内情を当時から知っていた
とする点には,何の根拠も示されていないし,そのようなHの供述は虚偽である,(イ)上納金の行き先はトップシークレットであるはずであり,被告人N1がHの目の前でこれは総裁のやけのなどと言いながら上納金を3対3対3対1に分けるなどということは,常識的には考え難いが,原判決は,被告人N1とHとの間にそのような常識的には考えられないような出来事があったことを合理的に説明できるような関係性があったことを説明できていない,などという。
原判決は,Hが,被告人N1のめいが平成一桁くらいの時期に暴行事件に関わったり,被告人N1の別のめい(N25)が離婚後に居住していたマンションが同人の前夫の住宅ローン不払により競売にかけられたり,被告人N1のおいが多額の借金を背負っていたりしたという出来事を,その当時から知っていたことが認められるとするが,その当時から知っていたと認定できる根拠については特に説示していない。そこで検討すると,前提として,Hは,原判決も説示するように,被告人N1の信頼が厚かったN21の下で活動していたものであり,平成9年又は平成10年頃に被告人N1の後の妻のマンション購入の手続に関わったり,平成17年に被告人N1の上記妻とは別の交際相手(N24)のマンション購入の手続に関わったりし,被告人N1が平成13年に開いた自宅の新築祝いのパーティーにも招待されて出席していたことが認められる。被告人N1のめいの暴行事件の件についてのHの供述には,所論のいうように,誰から聞いたのかなど複数の点で変遷がみられるが,めいが未成年者であったかどうかという点は,当時から認識を誤っていた可能性もあり,Hがそのような事実を体験したこと自体に疑いを抱かせるものではないし,N42の供述等によれば,めいの暴行事件という出来事があったことは事実であることがうかがえる。N25や被告人N1の供述によれば,N25の前夫の住宅ローン不払によりマンションが競売にかけられたことや,被告人N1のおいが多額の借金を抱えていたことについても,そのような出来事があったことは事実であると認められ,Hの供述内容が相応に具体的であることにも照らすと,これらは,Hが被告人N1と上記のような一定の関係性を有する中で知り得た事実であると推認できる。そして,このように,Hが,被告人N1の親族に関するかなりプライベートな事情を知り得る立場にあり,被告人N1の後の妻や同人とは別の交際相手のマンション購入の手続にも一定の関与をするなどしていたことからすると,同手続への関与の程度に関する所論を踏まえても,Hの被告人N1との関係は,相応に近しいものであったというべきであり,平成13年から平成19年頃までの時点において,Hが被告人N1から一定の信頼を得ていたことは疑いないという原判決の判断に誤りがあるとはいえない。
そして,このような被告人N1とHの関係性からすると,Hが病気で動けない状態にあったN21に頼まれて,建設業者から受け取った上納金を被告人N1に直接渡していたことや,その際に,被告人N1がHに対しN3會内で上納金がどのように分配されるかを説明したことが,不自然,不合理であるとはいえないという原判決の説示が,所論のいうように経験則に反する不合理なものであるとはいえない。エ
所論は,
(ア)Hは,捜査段階の供述調書においては,被告人N1がHの目の
前でこれは総裁のやけのなどと言いながら上納金を3対3対3対1に分けるなどという特異な情景を供述していないし,最初にN19から受け取った上納金をN21に渡したと供述しており,被告人N1に渡したとは供述していないところ,取調べの中で被告人N1との関係について繰り返し聞かれている状況で,最も印象深いはずの被告人N1の言動を言い忘れたり,捜査官が聞いていながら書き忘れたりするはずがないから,Hの供述には,核心部分に極めて重要な変遷がある,(イ)この点は,原判決のいうように,時間の経過や捜査の焦点が当初違ったことなどでは説明できない,などという。
Hは,別件公判における証人尋問(原審甲239。平成29年5月実施)及び公判期日外における証人尋問(同年12月20日実施)では,初めてHが上納金の受渡しに関わったというN18建設のN19からの上納金の件について,直接被告人N1に手渡した旨供述しているが,平成27年1月23日付け警察官調書(原審弁17)
,同年3月11日付け警察官調書(原審弁18)
,同年6月23日付け検察官
調書(原審弁19)では,いずれもN21を介してN3會に渡った,若しくはN21に直接手渡した旨供述しており,Hの供述には,初めて上納金の受渡しに関わった際の受渡しの相手がN21であるか被告人N1であるかという点で変遷がある(以下,便宜変遷①という。。また,Hは,上記各証人尋問において,上納金)
を手渡した際,被告人N1が,現金を紙袋の中から取り出してテーブルの上に置き,

この1割はN3會のやけの。この3割は総裁のやけの。これは俺ので,これはN21のやけの。

などと言いながら,現金をN3會被告人N1

3割,仲介者であるN21

1割,総裁(N5)

3割,

3割という形に分けていた旨供述してい

るが,上記各調書を含む捜査段階における供述調書においては,そのような被告人N1の言動についての供述は録取されていない(以下,便宜変遷②という。。)
この点,原判決は,変遷①に関し,
体験時から供述を求められるまで長期間が経過していることに加え,被告人両名の本件逮捕勾留時には,N3會の運営費の一部を被告人N1が私的に流用していることが所得税法違反の内容とされていたのであり,Hから上納金を実際に受け取った人物が誰であるかに焦点を当てた取調べが行われなかったために,当初Hの記憶の喚起が十分に行われなかったとも考えられるN21の下で長らく活動していたHとしては,上納金が全てN21を経由し,ていたことからN21を強く意識し,上納金を全てN21に持っていっていたものと勘違いして,捜査段階でそのような供述をしていたとしても不自然・不合理とはいえないなどと説示している。しかしながら,初めて関与した上納金の受渡しにおいて,現金をN3會の最高幹部である被告人N1に直接手渡したことなどは,事柄の性質上,かなり特異で強く印象に残る出来事であると思われ,原判決のいうように,体験時から供述までの期間の長さ,上納金を実際に受け取った人物が誰であるかに焦点を当てた取調べが行われなかったことによる記憶の喚起の不十分さ,N21を強く意識していたことによる勘違い等のみでは,変遷①の理由を合理的に説明できているとはいい難い。そこで検討すると,Hの供述をみると,Hは,変遷①の理由について問われて,
説明不足という言い方を繰り返しており,そのよう
な説明は必ずしも納得のいくものではないが,他方で,飽くまでもN21の人間として被告人N1と接触していたので,現金も全てN21経由で授受したという認識であったという説明もしている(Hの期日外尋問調書72,73頁)。また,Hは,
捜査段階から,N19からの上納金について,被告人N1に対し30億円の0.5%という話をしたところ,被告人N1から1%であると言われた旨(すなわち,N19からの上納金に関し,被告人N1と直接やり取りをしていたこと)を供述していたのであるし(なお,この供述については,原審において,0.5%という数字がN19から依頼されて言ったものであるか,自ら持ち出したものであるかという点で変遷があると主張されていたが,実質的に変遷があるとまではいえず,Hの供述の核心部分に影響を与えるものともいえないという原判決の説示は正当である。,平成27年6月23日付け検察官調書においては,前記のとおり,N19か)
らの上納金をN21に直接渡した旨供述する一方で,被告人N1が,上納金の取り分について,N3會が1割,N5,被告人N1及び仲介者が各3割という話をしていたことや,仲介者であるN21の取り分を被告人N1から受け取って病院にいるN21に届けていたことも供述していたものと認められる(Hの期日外尋問調書66頁)
。Hの供述全体をみると,Hは,原審の公判期日外における証人尋問の時点で,2年以上前の,しかも複数回にわたる取調べの具体的状況をほとんど記憶していなかったと認められるから,供述の変遷に関するHの説明は,合理的と思われるようなものであっても不合理と思われるようなものであっても,それほど重視できるものではないが,上記のとおり,Hが,捜査段階から,N19からの上納金の授受について被告人N1と直接やり取りをしたことを前提とする供述をしていたと認められることも踏まえると,N19からの上納金がN21を介してN3會に渡った旨の供述となっていることが,Hが上記の公判期日外における証人尋問で説明するような,捜査段階当時の自身の認識に起因するものであるとして,理解できないものではない。これらの点も考慮すると,変遷①により直ちにHの供述の信用性が否定されるものではないというべきである。
また,変遷②については,確かに,Hは,捜査段階において,前記各証人尋問で供述するような,被告人N1が目の前で金銭を分けて上納金の分配先を説明したような情景までは供述していない。しかしながら,上記のとおり,Hが,捜査段階から,被告人N1から上納金の分配比率やその行き先を聞いていたこと,上納金からのN21の取り分を被告人N1から受け取ってN21に渡していたことなどを供述していたことを踏まえると,実質的にみて,Hの供述の核心部分が変遷しているとは評価できないというべきである。

所論は,捜査機関は,Hが上納金について供述を始める前に,第1系列口座
ないし第3系列口座への入金比率を把握しており,Hが捜査機関からこの比率を教示されたことが十分にあり得るから,Hの供述の核心部分が上記各口座への特異な入金状況とよく整合していることを供述の信用性を肯定する大きな理由とした原判決は誤っている,という。
しかしながら,前記ウのとおり不自然,不合理であるとはいえないHの供述内容が,先にみたとおり第1系列口座ないし第3系列口座への特異な入金状況とよく整合し,これを合理的に説明するものとなっていることは,Hの供述の核心部分を強く裏付けているというべきである。所論は,捜査機関がHの供述よりも先に第1系列口座ないし第3系列口座へ3対3対1の割合で入金がされている事実を把握していたという点をもって,捜査機関による誘導があった可能性があるというにとどまるが,Hの供述の信用性に関するこれまでの検討を踏まえると,抽象的な可能性をいうものにすぎないというべきであり,これまでに検討したところも踏まえると,Hの供述に捜査機関による誘導があったという疑いを抱かせるものではない。なお,所論は,平成27年6月16日被告人N1が所得税法違反の事実(運営費名目の上納金からの収入を除外し,被告人N1の親族名義の口座に留保してほ脱したという構成)で逮捕されたが,N41の供述により,捜査機関がそのような構成が誤りであることに気付き,その後,Hが,捜査機関の新たな見立てに沿って,被告人N1に上納金を直接渡した,目の前で分けるのを見たとまで供述するようになった,などともいう。しかしながら,確かに,Hが被告人N1から上納金の分配割合と配分先を聞いた旨の供述をしているのは,同月23日付け検察官調書であるが,他方で,前記のとおり,同調書においても,HがN19からの上納金をN21に直接渡した旨の供述が録取されているのであるから,所論のいうように,Hが捜査機関の新たな見立てに沿う形で供述を変遷させたなどということはできない。カ
所論は,Hには,N3會,ひいては被告人N1に対する敵意や憎悪があると
推認され,N3會を壊滅しようとする捜査機関に迎合し,その誘導に沿った虚偽供述をする動機があるのに,原判決が,Hが,平成19年に何者かに銃撃されるという経験をし,これにN3會関係者が関与していると考え,以後,N3會との関わりを絶って生活していることから,N3會総裁である被告人N1らにとって不利益となる虚偽の供述をあえてすることが考え難いとする点は,説示が前後矛盾しているという。
しかしながら,Hが,被告人N1やN3會にとって不利となるような内容の供述をすることに対する不安や,危険を冒して供述しているという思いを吐露していること(原審甲239・27,28頁)なども踏まえると,上記の原判決の説示が不合理なものであるとはいえない。

以上の検討を踏まえると,Hの供述態度等にも直接触れた上で,Hの供述の
信用性が高いとした原判決の判断に論理則,経験則等に照らして不合理な点があるとはいえず,同供述に基づいて前記1(3)イのとおりの事実を認定した点にも誤りがあるとはいえない。
なお,所論は,Hが供述するのは平成13年頃から平成19年頃にかけての出来事であり,本件公訴事実の時期とは前提が変わっているというが,この点は,他の間接事実も踏まえた総合認定に関わるものであるから,後記(8)でまとめて検討する。
(4)N27店の上納金(前記1(3)ウ)について(各控訴趣意書の第2点第4の2,各控訴趣意補充書2の第3)

原判決は,
N28がぱちんこ店N27店を出店するに際し,N3會N29組組長のN30の指示で,B,C,N31がN28側の人物であるAに対し,挨拶料との名目で4000万円を支払うよう要求し,Aは,地権者の一人から拠出してもらった現金4000万円を,平成17年12月29日又は30日にC又はN31を通じてN30に渡し,N30はこの4000万円をN3會の上位者に渡したことが認められるなどとした上で,前記1(3)ウのとおり説示している。原判決の上記の認定について,所論は,
(ア)原判決は,A,B及びCの各供述の
食い違いについて,Aが用意した現金がN30に渡ることになったという根幹部分では各供述が一致しているなどとして,現金がN30に渡った事実を認定しているが,根幹部分が一致しているという評価は誤っているし,伝聞であるBの供述も漫然と同列に並べた上,各供述が根幹部分で一致するから現金4000万円がN30に渡ったと認定できるという判断には,伝聞法則を無視した違法がある,(イ)授受された現金が4000万円であることについても重大な疑問がある(現金授受の日や金額について捜査機関が誘導した可能性がある。,(ウ)現金授受の相手と場所に)
ついては,AとCの供述が相反しているが,Aの供述が真実で,Cの供述は虚偽であるから,N30がN31から現金全額を受け取り,持ち去ったというCの供述にも重大な疑問があり,N30が授受された現金の全額を持ち去った事実は証拠上認められない,(エ)Cの供述するN30の言動をもって,現金4000万円がN30からN3會の上位者に渡ったとまでいうのは,到底合理的な推認とはいい難い,(オ)4000万円がN3會に渡ることなくN30ら3名の間で分配された疑いは生じないという原判決の説示は根拠のない独断であり,むしろCの供述態度は,Aが用意した現金の行方と分配について真相を隠蔽する作為性と意図を強くうかがわせる,などという。

原判決は,上記の認定に供した証拠として,
証人A,同B,同C,甲286を挙げており,Bの供述を特段の留保なくA及びCの各供述と並列的に挙げている。また,原判決は,原審弁護人らの主張を検討する部分で,A,B及びCの各供述が相互に食い違う点もあるが,Aが用意した現金がN30に渡ることになったという根幹部分では各供述が一致しているとみるべきであると説示しているものの,A,B及びCの各供述をどの程度信用できると判断したのか,内容の真実性を問題とするのであれば伝聞供述に当たるといわざるを得ない部分を多く含むBの供述をどのように位置付けて判断したのかなどは,判文上は明らかでない。そこで,A,B及びCの各供述について検討する。
N31及びCらがN28側の人物であるAに挨拶料名目で金銭を要求したという点は,A,B及びCの各供述が一致し(N31らがAに対し挨拶料の話をした旨のBの供述は,N31らに同行したというBが直接体験した事実であり,伝聞供述ではない。,その趣旨の金銭をAがN31ら側に支払ったことや,その金額が400)
0万円であるという点は,A及びCの各供述が一致しており(Bは5000万円と供述するが,直接現金を扱ったものではなく,他者から伝え聞いた金額を供述しているから,正確でない可能性がある旨の原判決の説示が不合理であるとはいえない。,これらの点では,各供述が相互に信用性を高め合っているといえる。なお,)
4000万円の拠出と拠出者の賃料との関係について,Aの供述には変遷があるといわざるを得ないが,拠出者の賃料が相場よりもかなり高額に設定されていたという点では変わりはなく,この点が金額の点を含むAの供述の信用性に影響を及ぼすとはいえない。
N30の指示で金銭要求をしたこと,Aから受け取った金銭を全てN30に渡したこと,その後のN30の言動を直接立証するものはCの供述しかない。しかしながら,Bは,N31及びCが,N30が影響力を及ぼしていたN43会の活動としてN28側に金銭要求をしていたこと(なお,Aは,N3會ではない何とか会という名刺を見た旨供述している。,Bが,N31から連絡を受け,金銭を受け取)
ったのでN30に連絡してどこに持っていけばいいか聞くように言われたことなどを供述しており(これらの供述も,Bが直接体験した事実であり,伝聞供述ではない。,これらの点は,N30の指示で金銭要求をし,受け取った金銭を全てN30)
に渡した旨のCの供述を裏付けているといえる。
金銭受渡しの場所や相手について,AはN44ホテル(当時)1階のコーヒーショップでひげ面のCに渡したと供述し,Cは中津のホテルかN45(飲食店)でN31が受け取ったと供述しており,供述に齟齬がある。この点,所論は,Aの供述が真実で,Cの供述は虚偽であるというのであるが(所論は,他方で,授受された現金が4000万円であるという点については,Aの供述の真実性に疑問があるというのであり,主張に沿って供述を分断して評価しているきらいがある。,金銭受)
渡しの場所等については,原判決もいうように,10年以上前の出来事を供述している上,複数回の折衝の過程でいずれもホテルやレストラン等が利用されていたことなどから,他の折衝場面の記憶との混同があったとしても不自然,不合理ではないし,金銭受渡しの場所等については客観的な裏付けがあるわけでもないから,A及びCのいずれかが虚偽を述べているといえるものではない。確かに,金銭受渡しの相手について,Aがひげ面のCに渡したと供述する一方で,Cが自身が受け取ったことを否定している点については,AにとってはA自身が供述するとおり特異な体験であると思われること,他方で,Cの供述は,受渡しの時期についても平成16,17年頃と曖昧な供述にとどまっている上,ガソリン代1万円のほかに報酬を受け取っていないという点は明らかに不自然であり(なお,Bは,Cらが報酬を受け取ったと聞いたことを明確に供述している。,Cが,別件で恐喝事件として立件)
された経験から,N28の件は時効にかかっているとはいえ不安があるとも供述していることなどからすると,Cが自己の関与の程度を殊更低く述べているのではないかという疑いを払拭することはできない。しかしながら,既にみたA及びBの各供述との整合性を踏まえると,Cの供述にそのような疑いがあることは,N30の指示でCらが挨拶料名目で要求した4000万円をAがCらに支払い,それがN30に渡ったというCらの供述の根幹部分の信用性に影響するものではないといえるし,Cの供述にそのような疑いがあるからといって,Cが全般的に虚偽を述べているということにはならない。
なお,原判決は,Cらは供述しておらず,Bのみが供述する事実で,内容の真実性を問題とするのであれば伝聞供述に当たると考えられる事実,例えば,N30がN6に連絡を取って受け取った金銭を持っていったこと(Bは,N31らからその旨聞いたと供述している。
)などは認定していない。
以上によれば,原判決は,N27店出店に関する上納金について認定するに当たり,伝聞供述に当たらない限度でBの供述を認定に供した証拠として挙げたものと理解することができるし,根幹部分ではA,B及びCの各供述が一致しているとみるべきであるという原判決の説示も,やや正確性を欠く表現ではあるが,誤りがあるとまではいえない。そして,金銭の受渡し日については,後記エのとおり,平成17年12月29日と認めるのが相当であるが,原判決が,A,B及びCの各供述により,N28がN27店を出店するに際し,N30の指示で,CらがAに対し挨拶料名目で4000万円を支払うよう要求し,Aが地権者の一人から拠出してもらった現金4000万円をCらを通じてN30に渡した旨認定した点に誤りがあるとはいえない。

原判決は,N31から4000万円の現金を受け取ったN30が,その場で
携帯電話機で電話をかけ,

どこにおられますか。

と言った後すぐに現金を持って出ていったというCの供述に基づき,N30がCらから受け取った4000万円をN3會の上位者に渡したと認定している。このCの供述については,CらがAから金銭を受け取った後の出来事であり,Aが供述しているAからCへの金銭受渡しの場面とは異なるから,Aの供述との整合性は問題とならないが,他方で,特に供述を直接裏付けるようなものもない。この点,原判決は,N30らの具体的な行動状況に加え,N30の立場も考慮すれば,N30らがN3會と無関係にN28に対して金銭要求行為をしたとは考えられないと説示しているところ,N30を支える企業の集まりであったN43会に所属するCらが,N30の指示を受けて,Aに対し,ぱちんこ店出店に際して台数を基準とした金額をN3會に納める必要があるという趣旨の説明をして金銭支払を要求したことなどのCらの行動状況や,N30がN3會の二次団体の組長であり,会長秘書という役職に就いていたこと(当時の会長は被告人N1である。
)などの事実関係を考慮すると,N30らがN3會と無関係に
N28に対して金銭要求行為をしたとは考えられないという原判決の説示が不合理であるとはいえない。そして,Cの供述するN30の言動は,このような事情と整合的であるといえる。Cの供述の信用性について先に検討した点も踏まえると,Cが自己の関与の程度を殊更低く述べているのではないかという疑いがあることや,捜査機関がN30らがN3會の名前を使って金銭要求をしている可能性があるという見立てをしていたことなどを踏まえても,Cの上記供述の信用性に疑問が生じるとはいえず,これを事実認定の前提とした原判決に誤りがあるとはいえない。そして,Cの供述するN30の言動によると,原判決のいうように,N30は,Cらから受け取った現金4000万円を直ちにN3會上位者に渡していると考えるのが合理的であるといえるから,この原判決の判断にも誤りがあるとはいえない。したがって,原判決が,N30がCらから受け取った4000万円をN3會の上位者に渡したと認定した点にも誤りがあるとはいえない。

原判決は,①

N28のぱちんこ店出店に関する上納金として平成17年1

2月29日又は30日に4000万円がN3會に納められたという事実を前提とし,②

N39郵便局において,平成17年12月30日午前9時41分に第1系列口
座に1200万円,同日午前9時47分に第2系列口座に1200万円,同日午前9時48分に第3系列口座に400万円の入金があり,3対3対1の割合で合計2800万円の入金がされているという事実も認定した上で,③
N3會における上

納金の分配状況(すなわち,建設業者等から受け取った上納金を,N5,被告人N1,N6・上納金の仲介者がそれぞれ全体の3割〔合計9割〕を,N3會が全体の1割を受け取るように分配し,N5,被告人N1及びN3會の取り分〔全体の7割〕を被告人N2が受け取って管理していたこと)を踏まえると,④
N28のぱ

ちんこ店出店に関してN3會に支払われた上納金4000万円は,最高幹部等の間で3対3対3対1の比率で分配され,そのうち3対3対1の部分が第1系列口座ないし第3系列口座に入金されたものと推認できる,と説示している。この点について,所論は,原判決は,①の事実を②の事実と結び付けているところ,A及びCが供述する現金の授受が午前9時41分よりも早い時間帯のこととは到底考えられないから,②の入金の出処が①であるというには,①の現金の授受が平成17年12月29日までのことでなければならないはずであるが,原判決は,①の現金の授受の日が同月30日であった可能性があること(すなわち,②の入金の出処が①でない可能性)を認めているのであり,説示が前後矛盾している,という。
原判決は,①のとおり,N28のぱちんこ店出店に関する上納金4000万円が平成17年12月29日又は30日にN3會に納められたと認定しているところ,②の入金がされているのは,平成17年12月30日午前9時41分から48分までの間であり,Bが,午前中にN43会の事務所に来たN31らから,今からお金をもらいに行くと聞いたと供述していることなども踏まえれば,現金受渡しの日が同月30日であった場合は,時間的にみて,この現金が上記各口座に入金されたといえなくなることは,所論の指摘するとおりである。そうすると,①の事実と②の事実を結び付けて④のように推認できるとする原判決の説示に前後矛盾した点があるという所論の指摘にはもっともなところがある。
そこで検討すると,原判決の説示によれば,原判決は,A及びBの各供述に基づいて,Aが4000万円を渡した日を平成17年12月29日又は30日であると認定したものとみられる。そして,所論を踏まえて検討しても,原判決が受渡し日をA及びBの各供述に基づいて認定したことに誤りはないが,受渡し日を同月29日又は30日と認定した点は是認することができず,受渡し日は同月29日と認定するのが相当である。すなわち,受渡し日について,Aは,金銭を渡した後に大分県宇佐市にお節料理を取りに行ったが,お節料理を取りに行くのは毎年12月29日か30日であるので,金銭を渡したのは平成17年12月29日又は同月30日である(多分30日だったと思う)と供述し,Bは,クリスマスより後の年末で平成18年には入っておらず,大みそかは自身が寝泊まりしていたN43会の事務所が休みであったので,N31らがN30から報酬をもらったと聞いたのは同月30日か同日より前のことであり,その前日に,N31らから,Aから現金を受け取り,N30に渡した旨聞いたと供述している(N31らから,金銭を受け取ったことや報酬を受領したことを聞いた日がいつであるかという点についてのBの供述も,Bが直接体験した事実であり,伝聞供述ではない。。いずれの供述も,金銭受渡し日)
について相応の具体的根拠をもって述べるものであり,A及びBの各供述に不自然さが免れず,捜査機関が日付を誘導した可能性があるなどという所論を踏まえて検討しても,信用性を有するといえるから,原判決がこれらの供述を受渡し日の認定の根拠としたことに誤りがあるとはいえない。そうすると,Bの供述によれば,受渡し日は平成17年12月29日か同日より前(ただし同月25日よりは後)ということになり,同月30日である可能性はないことになる一方で,Aは,受渡し日が同月29日である可能性を否定していないのであるから,A及びBの各供述をいずれも信用して認定する以上,受渡し日は同月29日と認定すべきであり,受渡し日を平成17年12月29日又は30日と認定した原判決の事実認定は,供述内容との関係で論理則に反する不合理なものであるといわざるを得ない。したがって,①の認定は,上納金が納められた日は平成17年12月29日とすべきであるが,先に検討したとおり,その余の点に誤りはない。また,関係証拠によれば,②の認定にも誤りはなく(なお,同日前後には,第1系列口座ないし第3系列口座への入金は同月26日及び平成18年1月4日にしかなく,入金額も異なる。,③の事実(この事実が認定できることも,先に検討したとおりである。)
)を
踏まえて①及び②の各事実を検討すると,④のように推認するのが相当であるから,原判決のこの認定に,結論として誤りはない。
なお,原判決は,③の事実と第1系列口座ないし第3系列口座の全体的な入金状況から,被告人N2が上納金のうち7割の現金につき,第3系列口座にN3會の取り分(1割)を,第1系列口座及び第2系列口座にN5及び被告人N1の各取り分(各3割)を入金して管理していたと推認するのが合理的であるとし,このことが①,②の事実によって裏付けられているとしているが(原判決22,23頁),①
の事実が平成17年12月29日のことであることを前提とすれば,原判決が,N3會に対する上納金が一定割合により上記各口座に分配されて管理されていたという推認を裏付けるものとして,N27店出店に関する上納金についての具体的な事実(①,②)を用いたことにも誤りはない。(5)J供述の信用性(前記1(3)エ)について(各控訴趣意書の第2点第5の3)ア
原判決は,Jの供述の信用性を認めた上で,Jの供述する前記1(3)エの事
実を認定している。この点,所論は,Jの供述は,Jが事情聴取を受けた別の事件(N46事件)について捜査官とJとの間でされた取引の結果得られたものである疑いが払拭できないという。
しかしながら,所論と同旨の原審弁護人らの主張を排斥した点を含むJの供述の信用性についての原判決の説示は正当であり,Jの供述の信用性を肯定した原判決の判断に誤りがあるとはいえない。取引の結果得られた供述であるという所論は憶測の域を出るものではなく,採用することができない。

ところで,原判決がJの供述する事実関係を争点に関する認定に用いていると思われるのは,N17及びJの各供述に基づき,
五代目N3會が発足した後も,被告人N2が,二次団体の組長等を介して,建設業者等から組織的・継続的に上納金を受け取り,N3會最高幹部等の間で分配していたことがうかがわれる(前記
1(3)オ)と説示する部分のみである。原判決が,Jの供述をどのように理解して上記の事実がうかがわれるとしたのかは判文上定かではないが,Jの供述によっても,N7が,N3會の二次団体組長らから受け取った現金の約半分を被告人N2に渡し,残り半分に相当する金銭をN6に渡すなどしていたことが認められるにとどまり,N7が同一機会にN6及び被告人N2に現金を渡していることや,N22組において會運営費の徴収等を担当していたのがN33であることなど,原審検察官の主張する点を踏まえても,Jの供述する金銭のやり取りが,建設会社等からの上納金の分配に係るものであるのかどうかは,それのみでは定かではないといわざるを得ない。そうすると,結局のところ,Jの供述は,上記の認定にとってほとんど意味を持たないものというべきである。
なお,N17の供述によれば,五代目N3會発足後も,引き続き,N3會に対し,建設業者等からの多額の上納金が支払われていたことが認められ,また,N17は,原審公判廷において,上納金に関する多くの点について供述を拒む態度を示しているものの,その供述によれば,上納金の一部がN3會や二次団体の組長であるN17らに分配されるが,その余の部分が存在することもうかがわれる。そうすると,Jの供述を除いても,五代目N3會が発足した後も,建設業者等から受け取った上納金がN3會最高幹部等の間で分配されていたことがうかがわれるとした原判決の上記説示が誤っているとはいえない。
(6)第2系列口座からの出金(前記1(4))について(各控訴趣意書の第2点第1の3(2),第4の3,各控訴趣意補充書2の第4)

原判決は,第2系列口座からの4件(実質3件)の具体的な出金とその使途
について検討し,①

平成17年7月19日の2324万0150円の出金(以下

出金①という。
)が被告人N1の交際相手であったN24のマンション購入資
金に使われ,②

平成25年5月29日の5000万円の出金(以下出金②と
いう。
)が被告人N1名義の預金口座(T社N1口座)に振り込まれ,③
平成2

7年1月30日の3000万円及び同年2月3日の4000万円の各出金(以下,併せて出金③という。
)が,その一部がN3會組員の裁判費用等の支出として
使われたほかは,その多くが被告人N1の親族の生活費・養育費等に使われていることを認定した上で,これらの点が,第2系列口座に入金された金銭を被告人N1が私的に使用することが可能であったことを,出金という側面から強く推認させる事情であるとしている。

原審弁護人らは,出金①について,被告人両名の各供述に基づき,被告人N
1がN24のマンション購入代金に充てる現金を用意して被告人N2に渡す予定であったが,急用で外出したため落ち合えず,立替払を頼んだところ,現金の持ち合わせがなかった被告人N2が,第2系列口座から現金を引き出してN24に渡し,その日のうちに被告人N1から現金で返却を受けたという経緯であるから,第2系列口座に入金された金銭が被告人N1に帰属することを示すものではない,などと主張した。これに対し,原判決は,(ア)被告人N2と落ち合えず急遽立替払を頼むことになったという経緯は,被告人N1がN24のマンション購入の件に高い関心を寄せていたことにそぐわず,契約日まで数日の猶予があったことなどに照らしてもやや不自然である,(イ)被告人N2がN3會に属する第2系列口座から約2300万円もの金銭を被告人N1の個人的な用途のために借用したのであれば,被告人N1から返却を受けた現金を直ちに第2系列口座へ入金して戻すか,別途記録を残すなどして,貸付け及び返済の経過を明確にしておくのが当然といえるが(実際に,被告人N2は,被告人N1の個人的な支出を別途メモに残すなどしていた。,その)
ような入金履歴や貸借を記録した書面等が残されていないのは不自然,不合理である,などと説示し,出金①に関する被告人両名の各供述は信用することができないとしている。
所論は,原判決が挙げる理由は,被告人両名の供述する経緯を否定する理由にならないし,被告人N1が逮捕された後という特別な事情の下で作成された被告人N2のメモ(原審甲55)を根拠に,書面等を残していないのが不自然,不合理であるということはできず,N2金庫を持つ被告人N2が被告人N1からの返金を現金で受け入れた可能性もある,出金額が端数であることは,マンション購入のための出金であることを明確にするためであり,むしろ第2系列口座が被告人N1に帰属しないことを物語っている,などという。
確かに,被告人N1が逮捕された後という異常事態の下で作成されたメモが存在するからといって,通常時においても貸付け及び返済の経過等を記録に残していないことが不自然であるとは必ずしもいえないし,被告人N2の供述をそのまま前提とすると,そのような厳密な管理がされていなくても不自然ではない。しかしながら,そもそも,第2系列口座からの出金を含む被告人N2の口座の管理等に関する供述が信用できないことは先に検討したとおりであり,持ち合わせがなかったため第2系列口座から出金して立て替えた旨の被告人N2の供述も,何らの裏付けもなくそのまま前提とすることはできないし,被告人両名が供述する経緯が不自然であるとする原判決の上記(ア)の説示は正当であり,そのほか所論を踏まえて検討しても,出金①の経緯に関する被告人両名の各供述を信用することができないとした原判決の判断に誤りがあるとはいえない。

原審弁護人らは,出金②について,被告人両名の各供述に基づき,(ア)被告
人N1は,現金5000万円をT社N1口座に自ら入金するつもりであったが,出金②の当日になって現金入金が面倒になり,被告人N2に現金5000万円と同口座の預金通帳を渡して入金を頼んだ,(イ)第2系列口座から1億円を出金する予定があった被告人N2は,郵便局へ行き,現金5000万円を同口座に入金してから送金しようとしたところ,郵便局員から同口座の金銭による振込入金の方が手続が簡単であると言われたため,第2系列口座からT社N1口座へ5000万円を振込入金し,第2系列口座から下ろした5000万円と被告人N1から預かった5000万円を持ち帰った,という経緯であるから,第2系列口座に入金された金銭が被告人N1に帰属することを示すものではない,などと主張した。これに対し,原判決は,
(ア)他の口座から振込入金をすれば目的は達するから,当日になって現金入金が面倒になったという点は疑問が残るし,被告人N1が,委任状や本人確認書類等を用意することなく,現金と預金通帳を渡したのみで被告人N2に入金を依頼している点も不自然な印象を拭えない,(イ)5000万円の出金手続が午前9時10分に行われていることからすると,当日の郵便局の窓口業務が始まってごく僅かの時間内で,郵便局員とのやり取りがあり,被告人N2があらかじめ依頼していた現金出金の額が1億円から5000万円に急遽変更され,変更後の内容により払戻請求書が記載され,出金手続が行われたことになるが,現実にはたやすく想定し難く,振込入金の手続を含め午前9時18分頃までに処理が終わっていることなども踏まえると,当初からそのような出金及び振込入金の手続を行うことが予定されていたと考えるのが合理的である,(ウ)出金①と同様,入金履歴や貸借を記録した書面等が残されていないのは不自然,不合理である,などと説示し,出金②に関する被告人両名の各供述は信用することができないとしている。
所論は,あらかじめ段取りを決めていたわけではないから,事態の推移が場当たり的であるのは当然であり,出金の場合とは異なり,入金の場合の本人確認は厳密ではないから,被告人N1が預金通帳,印鑑及び現金を渡して入金を頼むことは常識的にみてもおかしくはない,郵便局員とのやり取り等も短時間で済むことであり,被告人両名の供述する事態の推移が時間的にみてたやすく想定し難いとはいえない,送金の事実は通帳で確認できるし,親分子分の間で書面を残す習慣も実例もない,出金②のみが被告人N1の個人口座への振込送金であることは,他の出金と異なる特質(すなわち,被告人N1の依頼等の特別事情等)があったことを示している,などという。しかしながら,もともと被告人N1がT社N1口座に振込入金する意向であったと認められること(被告人N1は,原判決も認定するとおり,出金②の2日前,振込入金をする前提として,T社に対し,T社N1口座の支店名を確認している〔原審甲290,Mの供述〕)や,出金及び振込入金の手続が午前9時18。
分頃までに終わっていることなどの事情を考慮すると,所論を踏まえて検討しても,被告人両名の供述する事態の推移が現実にはたやすく想定し難いものであり,当初から実際に行われた出金及び振込入金の手続を行うことが予定されていたと考えるのが合理的であるとする原判決の上記(イ)の説示は正当である。そうすると,上記(ア)及び(ウ)の説示の当否に関わらず,出金②の経緯に関する被告人両名の各供述を信用することができないとした原判決の判断に誤りがあるとはいえない。エ
原審弁護人らは,出金③について,N36弁護士の供述及び被告人両名の各
供述に基づき,(ア)被告人N2は,被告人N1の逮捕後,その金庫内の現金7000万円を預かり,被告人N1の個人的な支出に充てていたが,平成26年末頃にその残高が3600万円程度まで減ったため,第2系列口座から合計7000万円を立て替えて出金した,(イ)その後,被告人N1は,N36弁護士を通じて被告人N1名義の口座から2億円を引き出し,そこから3000万円を被告人N2に返却し,残りの4000万円については,2億円の残金からN3會の経費を出して順次返還ないし相殺した,という経緯であるから,第2系列口座に入金された金銭が被告人N1に帰属することを示すものではない,などと主張した。これに対し,原判決は,(ア)3000万円の返済の事実を裏付けるとする領収証に,日付,金額の記載のほか,被告人N2の署名があるものの,宛名及びただし書の欄の記載がなく,N36弁護士の二口の預り金口座からの合計3000万円の出金について,いずれの通帳にも諸経費と記載があるのみで,立替金の返済であることを示す記載がない点は,弁護士として被告人N1の個人資産を預かるという立場に照らし,領収証や通帳に立替金の返済である旨正確な記載を残すのが当然であるといえることからすると,原審弁護人らの主張に重大な疑問を投げ掛ける,(イ)N36弁護士が,残りの4000万円について,具体的にどの経費が返済ないし相殺の対象となったのかを把握していない点も不自然,不合理である,(ウ)被告人N2が,被告人N1の個人的支出に充てるための現金について記載したメモ(原審甲55)の中で,出金③について通帳からとだけ記載し,
借入れや立替えといった記載をしてい
ないことに照らすと,被告人N2は,被告人N1の個人的支出に充てるために所持していた現金と第2系列口座からの出金とを特に区別せずに併せて管理し,それらの使途を明らかにするためにメモを残しておこうとしたものとみられ,出金③に係る金銭を被告人N1の個人資産と捉えていたことがうかがわれる,(エ)そもそも,出金③の当時,被告人N2の手元には,被告人N1の個人的支出に充てるための現金が数か月分は残されていた一方で,第3系列口座,N16口座及びN14口座の残高がいずれも少なくなっており,N3會の経済状態がかなりひっ迫していたとみられるのに,N3會の経理全般の責任者である被告人N2が,N3會に帰属するとされる第2系列口座から合計7000万円もの金銭を被告人N1のために立て替えてN3會の資産状態を更に悪化させた理由は明らかでないし,潤沢な資産がありながら,なぜ立替金の一部である3000万円しか返済しないのかについて,被告人N1から納得できる説明はない,などと説示し,出金③に関するN36弁護士及び被告人両名の各供述は信用することができないとしている。
所論は,原判決の認定は,被告人N1らN3會幹部が逮捕,勾留され,併せて接見等禁止決定がされ,被告人N2が被告人N1と意思疎通できない状況にあったことや,日常継続的に出費する種々の項目と単発的な被告人N2に対する3000万円の返金とは性質が異なることなどを無視したものであるし,残り4000万円についても,返還・相殺の額は計算すれば明確になる,事情の分かっている被告人N2がメモに7000万円がN3會からの金であることを記載しなくてもおかしくはない,7000万円の出金後にも第2系列口座には継続的に入金があり,そのことは予想できたから,被告人N2にN3會の資産状態を悪化させる意識はなかった,などという。しかしながら,これらの所論を踏まえて検討しても,原判決の上記説示はいずれも正当であり,出金③の経緯に関するN36弁護士及び被告人両名の各供述を信用することができないとした原判決の判断に誤りがあるとはいえない。オ
なお,所論は,(ア)第2系列口座が被告人N1に帰属する口座であると認定
するためには,同口座に入金された金銭の全てを被告人N1個人が自由に処分できることが証明されなければならないが,原判決は,第2系列口座からの多数回の出金のうち僅か4回(実質的には3回)の出金を根拠として,全体の出金の使途,さらには,同口座の帰属を推認しており,これは乱暴な推認である,(イ)4回の出金を含め,出金前の時点ではN3會に帰属していたものが,出金後に被告人N1の所得となる可能性も排斥できない,(ウ)出金①は,N5が死亡した平成20年以前の出金であり,出金③は,被告人N1らが逮捕されるなど異常事態が起こっている時期の出金であるから,仮に推認の根拠として使うことができるとしても,出金②だけである,などというが,これらの点は,他の間接事実も踏まえた総合認定に関わるものであるから,後記(8)でまとめて検討する。なお,(ア)の所論は,原判決が,第2系列口座自体が被告人N1に帰属すると認定している,という理解を前提としているが,原判決は,その説示から明らかなように,第2系列口座に入金された金銭(本件分配収入)が実質的にみて被告人N1に帰属する(上納金からの被告人N1の収入を除外し,同口座に留保するなどの方法により所得を秘匿した)と認定しているのであり,第2系列口座が被告人N1に帰属すると認定しているものではないし,ましてや,同口座が被告人N1に帰属することをもって,同口座に入金された金銭が被告人N1に帰属すると認定しているものではない。
(7)被告人N1の個人資産の増加(前記1(6))について(各控訴趣意書の第2点第2の5(3))

原判決は,前記1(6)のとおり,被告人N1の個人資産の増加状況と第2系
列口座への入金状況がおおむね符合していることがうかがわれるとし,この点により,第2系列口座に被告人N1が私的に使用することが可能な金銭が入金されていたという推認の正しさが裏付けられていると説示している。これに対し,所論は,第2系列口座からの出金状況を比較対象とすべきであるとした上で,第2系列口座からの出金と被告人N1の預金口座等との関係等について種々主張し,被告人N1の個人資産の増加は第2系列口座からの出金と結び付くものではない,などという。イ
原判決の説示は,平成22年から平成26年までの第2系列口座の入金状況と被告人N1の個人資産の増加状況を全体的にみると,第2系列口座内の金銭が被告人N1に帰属するとすれば合理的に説明が可能であるとしているにすぎず,第2系列口座からの出金と被告人N1の預金口座への入金や高額の支出との個々の結び付きを問題としているわけではないから,所論の指摘によって原判決の説示が直ちに不合理であるとされるものではない。そして,被告人N1が,平成22年から平成26年までの間に,不動産賃貸等による収入及び平成23年の不動産売却による利益以外に収入はないと供述していること(無利子の貸金に関して礼金を受け取ることがあった旨の供述もしているが,平成22年から平成26年までの間にそのような礼金を受領したことはないと供述している。
)も踏まえると,原判決のいうよ
うに,平成22年初めから平成26年末までの間に,被告人N1に,上記収入以外にも大まかにみて9億円程度の収入があったと推定される一方で,第2系列口座への入金額の合計が9億円程度に及び,同年末時点での残高が約7000万円となっていることなどから,被告人N1が第2系列口座から出金した金銭を自らのものにしてきたとすれば合理的に説明が可能であるとすることが,誤っているとはいえない。
しかしながら,そもそも,平成21年末及び平成26年末の時点で,それぞれ,被告人N1の自宅の金庫等を含む金融機関等以外の場所にどの程度の金銭が留保されていたか,原審における被告人質問で確認されている高額の資産購入のほかに,資産購入を含む支出がどの程度あったかなどは明らかでない。そうすると,関係証拠上明らかとなっている限度での被告人N1の個人資産の増加状況と第2系列口座への入金状況がおおむね符合することは,第2系列口座に被告人N1が私的に使用することが可能な金銭が入金されていたとの推認と矛盾しないという程度の意味を持つにとどまるというべきであり,原判決のいうように,その推認を裏付けているとまではいえない。
(8)総合認定
以上で検討したところを踏まえると,原判決の認定,説示には一部是認することができない点があるものの,以下のとおり,これまでに検討したところを踏まえて,本件において認められる種々の間接事実を総合すると,上納金からの分配金のうち第2系列口座に入金された金銭は,実質的にみて被告人N1に帰属すると認めることができるから,原判決が,その旨認定したことに誤りがあるとはいえない。ア
まず,N5が死亡する平成20年6月30日以前についてみると,第1系列
口座ないし第3系列口座への特異な入金状況,第3系列口座内の金銭がN3會経費に充てられていること,H,N17の供述等により認められるN3會に対する上納金の存在,Hの供述により認められる上納金の具体的な分配状況,同年7月1日以降第1系列口座が使われなくなっていることを総合すると,被告人N2が,N3會に対する上納金のうち,全体の3割をN5の取り分として第1系列口座に,全体の3割を被告人N1の取り分として第2系列口座に,全体の1割をN3會の取り分として第3系列口座に,それぞれ入金して継続的に管理していたことが優に推認できる。

そして,同年7月1日以降についてみると,確かに,第2系列口座及び第3
系列口座への入金比率はおおむね5対1とはなっているものの,その比率にはばらつきがある。しかしながら,第3系列口座から出金された金銭が出金後間もなくN3會経費として使われていたN16口座へ入金されるという状況は,平成17年頃から平成26年頃にかけて継続的に認められ,平成20年7月1日以降も第3系列口座内の金銭がそれまでと変わらず引き続きN3會経費に充てられていたと認められること,その第3系列口座への入金額のおおむね5倍(3倍ないし6倍)の金額が,上記のとおり,同年6月30日までの間に上納金からの被告人N1の取り分が継続的に入金されていたと優に推認できる第2系列口座に,同日以前と同様に,第3系列口座への入金と同一機会に入金されるということが繰り返されていること,これらの事実からすると,このようにして第2系列口座へ入金された金銭は,N3會経費に充てられる金銭とは別の目的のものとして継続的に管理されていたものと推認するのが相当であること,同年7月1日以降も引き続きN3會に対する上納金が最高幹部等の間で分配されていたことがうかがわれることを総合すると,入金比率が必ずしも一定でないことを考慮しても,第2系列口座には,引き続き上納金からの被告人N1の取り分が入金されて管理されていたと推認できる。関係証拠に照らしても,平成20年7月1日以降,第2系列口座の性質がそれ以前のものから変化したことをうかがわせるような事情は見当たらない。そして,4件(実質的には3件)ではあるが,同日前後を通じて,第2系列口座から出金された金銭が被告人N1の個人的使途に使われていることが認められ,このことは,第2系列口座内の金銭を継続的に被告人N1が私的に使うことができたことを強く推認させる事情であって,第2系列口座に上納金からの被告人N1の取り分が入金されていたという推認を更に強めるものといえる。他方で,関係証拠に照らしても,N3會経費が第2系列口座からの出金により賄われていたという疑いはなく,第2系列口座に入金された金銭の性質等に関する以上の推認を妨げる事情は認められない。ウ
したがって,上納金からの分配金のうち第2系列口座に入金された金銭は,
実質的にみて被告人N1に帰属するものと認めることができ,その旨の原判決の事実認定は,結論として正当なものであって,是認することができるから,原判決に所論のいうような事実の誤認があるとはいえない。
原判示各事実の所得の帰属に関する事実誤認をいう各論旨は理由がない。第4

控訴趣意中,原判示第5の被告人N1のほ脱の認識に関する事実誤認の主
張(各控訴趣意第3点)について
各論旨は,要するに,平成26年分の虚偽過少申告ほ脱(原判示第5)については,被告人N1のほ脱の認識を立証する証拠がないから,その認識を認定し,原判示第5について被告人両名を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
1
原判決は,平成26年分の被告人N1のほ脱の認識について,平成22年分
から平成25年分までについては,被告人N1が,被告人N2から申告予定の内容の報告を受けて,第2系列口座に関する所得について記載のない確定申告書が提出されることを把握していたといえることを前提として,(1)平成26年分については,確定申告書提出当時,被告人N1は身体を拘束されていた(接見等が禁止されていた)が,それ以前と同様の手順を経て第2系列口座に関する所得について記載のない確定申告書が提出されているのであるから,被告人N1は,当該確定申告を被告人N2に一任し,そのような内容の確定申告書が提出されることを容認していたものといえる,(2)被告人N1において,被告人N2が被告人N1の所得を秘匿するため不正の行為を行っていることを認識・認容していたことも明らかである,と説示している。
この原判決の説示に論理則,経験則等に照らして不合理な点はなく,原判決に所論のいうような事実の誤認があるとはいえない。
2
所論は,(1)所得税に係る虚偽過少申告ほ脱犯は,暦年ごとに一罪が成立す
るのであるから,被告人N1が,平成22年分から平成25年分について虚偽過少申告の認識を有していたとしても,それが平成26年分の事実の認識に及ぶことはあり得ず,同年分についてはいずれの認識も欠くことになる,(2)取り分け,過少申告の認識については,公表所得と実際所得との金額の大小関係を理解して初めて生ずるのであるから,接見等禁止決定がされた身体拘束中であり,平成26年分の申告予定の内容を一切知らされていなかった被告人N1においては,過少申告の認識が生ずるはずがない,という。
しかしながら,被告人N1は,平成25年までの間,第2系列口座に上納金からの自身の取り分が継続的に入金されていることを認識していたと認められるから,平成26年分についても,前年までと同様に,第2系列口座に入金された上記趣旨の金銭が,具体的な金額はともかくとして,存在することを認識していたというべきである。また,被告人N1は,被告人N2によって,平成25年分まで毎年継続的に,第2系列口座に入金された所得を除外して所得税の確定申告が行われていることを認識,認容し,被告人N2に確定申告を委ねていたものと認められるところ,平成26年分についても,被告人N2によって,前年までと同様に,第2系列口座に入金された所得を除外して所得税の確定申告が行われることが当然に想定される状況下において,それを変更するなどの行動を取ったとはうかがわれないのであるから,同年分についても,そのような確定申告がされることを認識,認容していたものとみるほかはない。したがって,平成26年分についても,被告人N1には,所得税の確定申告が虚偽過少のものであることの認識があったと認められ,申告税額と実際税額との差額全体についてほ脱の故意が認められる。
原判示第5の被告人N1のほ脱の認識に関する事実誤認をいう各論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却することとし,被告人N1に対する当審における未決勾留日数の算入について刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。
令和2年2月5日
福岡高等裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

野島秀夫
裁判官

三芳純平
裁判官

設樂大輔
(別紙1,別紙2

添付省略)
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