判例検索β > 平成31年(う)第639号
業務上過失致死(変更後の訴因業務上過失致死、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反)被告事件
事件番号平成31(う)639
事件名業務上過失致死(変更後の訴因業務上過失致死,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反,火薬類取締法違反)被告事件
裁判年月日令和元年7月24日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
判例集等巻・号・頁第72巻1号1頁
原審裁判所名千葉地方裁判所
原審事件番号平成30(わ)1006
判示事項火薬類取締法25条1項ただし書にいう「鳥獣の捕獲若しくは駆除」の意義
裁判要旨無許可で火薬類を消費できる場合として火薬類取締法25条1項ただし書にいう「鳥獣の捕獲若しくは駆除」とは,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の定めに従った適法なものをいう。
全文
裁判日:西暦2019-07-24
情報公開日2020-03-23 15:28:02
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
平成31年(う)第639号

業務上過失致死(変更後の訴因業務上過失致

死,
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律違反,
銃砲刀剣類
所持等取締法違反,火薬類取締法違反)被告事件
令和元年7月24日

東京高等裁判所第1刑事部

主文
本件控訴を棄却する
理由
弁護人渡辺智志の控訴趣意は,法令適用の誤りを主張するものである。1
弁護人の論旨

原判決は,罪となるべき事実として,千葉県公安委員会から有害鳥獣駆除等の用途に供するため,散弾銃の所持許可を受けて散弾銃を所持するとともに,千葉県安房地域振興事務所長から有害鳥獣捕獲従事者として従事者証の交付を受け,散弾銃を使用した鳥獣の捕獲業務に従事していた被告人が,平成30年6月14日午後4時45分頃,千葉県鴨川市所在の民家の敷地内において,同所北側山林に認めた猿を捕獲等するため,同猿に向けて散弾銃から散弾を発射するに当たり,同所周辺は住居が集合している地域であり,発射場所の近くに別の民家があり,発射方向の見通しが困難な状態にあったから,
散弾の発射を差し控えるはもとより,
あえて散弾を発射するのであれば,
発射方向の人の有無に留意し,周囲の安全を十分に確認して散弾を発射すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,周囲の安全確認不十分のまま前記散弾銃から散弾を発射した過失により,当時78歳の男性の頭部に散弾を命中させ,よって,同人を脳挫傷,硬膜下血腫による脳ヘルニアにより死亡させたものの,
前記猿を捕獲できなかったため,
その目的を遂げず,
もって,
住居が集合している地域において銃猟をするとともに,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下鳥獣保護管理法という。
)の規定

によらない銃猟をして鉄砲を発射し,さらに,千葉県公安委員会の許可を受けず,かつ,法定の除外事由がないのに火薬類を爆発させたとの事実を認定した上,被告人の上記所為が,刑法211条前段,鳥獣保護管理法83条2項,1項4号,38条2項,銃砲刀剣類所持等取締法31条の11第1項4号,10条2項,火薬類取締法59条5号,25条1項,50条の2第1項の各構成要件に該当するとして,これらの法令を適用しているところ,弁護人は,火薬類取締法25条1項ただし書により火薬類の無許可消費違反の除外事由の1つとされている鳥獣の捕獲若しくは駆除とは,鳥獣保護管理法の定める適法な鳥獣の捕獲若しくは駆除ではなく,あくまで事実行為としての鳥獣の捕獲若しくは駆除を指すものと解すべきであり,被告人の原判示所為は,法定の除外事由である鳥獣の捕獲若しくは駆除のために火薬類を消費する場合に該当し,火薬類取締法25条1項違反の罪は成立しないから,同法59条5号,25条1項,50条の2第1項を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。そこで,原審記録を調査して検討する。
2
原判決の判断

原審弁護人(当審弁護人と同一である)は,原審においても同様の主張をし,原判決は,弁護人の主張に対する判断の項で,火薬類取締法は,火薬類の製造,販売,貯蔵,運搬,消費その他の取扱を規制することにより,火薬類による災害を防止し,公共の安全を確保することを目的とし(同法1条),
同法25条は,火薬類の爆発又は燃焼(消費)が公共の安全に密接に関連することに鑑み,これを許可制とすることで災害発生の危険を防止し(同条1項)公共の安全の維持に支障を及ぼすおそれがある場合には許可をせず,
(同
条2項)
,いったん許可した後にそのおそれが生じた場合には許可を取り消すことができると定めており
(同条3項)このような火薬類取締法の目的や

趣旨に照らし,同法25条1項は,火薬類を無許可で消費することによる災害発生の危険を防止する観点からの取締規定であると解するのが相当であり,そうすると,その除外事由として,無許可で火薬類を消費できる場合を定めた同項ただし書の鳥獣の捕獲若しくは駆除は,単に事実行為としての鳥獣の捕獲若しくは駆除をいうのではなく,法令に適合する形態での鳥獣の捕獲若しくは駆除の場合をいうと解するのが相当であるとの判断を示している。そして,銃砲刀剣類所持等取締法10条2項が,銃砲の発射の制限の除外事由として鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の規定により銃猟をする場合と規定していることと対比して,火薬類取締法25条1項ただし書の鳥獣の捕獲若しくは駆除は,鳥獣保護管理法の規定によることを明示していないから,事実上の鳥獣の捕獲若しくは駆除を含む趣旨であると解すべきであるという弁護人の主張に対しては,火薬類取締法が火薬類の消費を原則として許可制とした趣旨は,公共の安全を脅かすような災害を防止することにあると解されるから,その例外である同法25条1項ただし書の除外事由は,類型的に公共の安全を害する危険性の少ない場合をいうと解するのが相当であり,違法な形態による行為を含むものとはいえないところ,本件のような住居集合地域等における銃猟制限に違反する形態による鳥獣の捕獲若しくは駆除は,他人の生命,身体等に危険を及ぼすおそれがあり,類型的に公共の安全を害し,危害が及ぼされる形態によるものと認められるから,上記除外事由には該当しないと説示している。
3
当裁判所の判断

(1)

原判決の上記判断は,火薬類取締法25条1項ただし書所定の鳥獣の捕獲若しくは駆除の解釈に当たって,同法の目的及び趣旨等にのみ言及し,同法の他の条文や関係法令の条文の文言等との関係について触れられていない点で,説示が十分とはいえないものの,上記の鳥獣の捕獲若しくは駆除が鳥獣保護管理法の定めに従った適法なものを指すと解し,原判示所為につき火薬類取締法25条1項違反の罪が成立するとした結論は正当である。
(2)

まず,火薬類の無許可消費に関し,火薬類取締法や関係法令がどのよ
うな定めをしているかを概観する。
火薬類取締法は,
火薬類の譲渡,
譲受け,
消費につき,原則として都道府県知事(猟銃用火薬類等については都道府県公安委員会。同法50条の2第1項)の許可を受けなければならないと定めた上,同法17条1項ただし書において,同項各号のいずれかに該当する者は無許可で火薬類を譲渡又は譲受けができるとし,同項3号において,鳥獣保護管理法9条1項の規定による鳥獣の捕獲
(殺傷を含む。をすることの許

可を受けた者であって装薬銃を使用するもの又は同法55条2項に規定する狩猟者登録を受けた者が,鳥獣の捕獲をする目的で経済産業省令で定める数量以下の火薬類を譲り受けるときを除外事由の1つとして規定しているほか,火薬類取締法25条1項ただし書において,無許可で火薬類を消費できる場合として,
理化学上の実験,鳥獣の捕獲若しくは駆除,射的練習,信号,観賞その他経済産業省令で定めるものの用に供するため経済産業省令で定める数量以下の火薬類を消費する場合,法令に基きその事務又は事業のために火薬類を消費する場合及び非常災害に際し緊急の措置をとるため必要な火薬類を消費する場合と定めている。そして,無許可で消費できる火薬類の数量については,猟銃用火薬類等とその他の火薬類とを区別し,猟銃用火薬類等については,猟銃用火薬類等の譲渡,譲受け,輸入及び消費に関する内閣府令(以下本件内閣府令という。
)12条各号で,それ以外の火薬類につい
ては,火薬類取締法施行規則49条各号で,それぞれ,用途ごとに消費できる火薬類の種類及び数量を定めており,猟銃による実包の消費に関しては,本件内閣府令12条2号において,火薬類取締法17条1項3号に規定する者が,鳥獣の捕獲(殺傷を含む。
)又は駆除の用に供するために消費する場合
には,1日に実包又は空砲合計百個以下を消費できる旨定めている。(3)

以上の諸規定を踏まえて検討するに,
火薬類取締法17条1項3号は,
①鳥獣保護管理法9条1項の規定による鳥獣の捕獲をすることの許可を受けた者であって装薬銃を使用するものが,鳥獣の捕獲をする目的で省令で定める数量以下の火薬類を譲り受けるとき,②同法55条2項に規定する狩猟者登録を受けた者が,鳥獣の捕獲をする目的で省令で定める数量以下の火薬類を譲り受けるときの双方の場合を火薬類の譲受けの許可を要しない事由としている。この条文には,本件で問題となっている火薬類取締法25条1項ただし書と同じく鳥獣の捕獲という文言が複数箇所に使われている。上記①の場合の冒頭部分の鳥獣の捕獲は,条文上鳥獣保護管理法9条1項により鳥獣の捕獲をすることの許可を受けた者が主体として限定されているから,この鳥獣の捕獲は,適法な鳥獣の捕獲を意味することが明らかである。そして,同じ条文の同じ文言であるから,後者の鳥獣の捕獲をする目的でとして,
目的により除外事由を制限している部分の
鳥獣の捕獲
も,
適法な鳥獣の捕獲を意味すると解するのが当然である。そうである以上,上記②の場合の鳥獣の捕獲をする目的も適法な鳥獣の捕獲を意味することに疑いはない。以上の検討を前提として,火薬類取締法25条1項ただし書所定の
鳥獣の捕獲
が意味するところを検討する。
同じ法律の中の同じ文言は,
基本的に同じ意味に解するのが相当であることに加え,上記のとおり,火薬類取締法が,火薬類の譲渡,譲受け,消費につき原則として規制をし,一定の範囲でその除外事由を定めており,火薬類の譲受けと消費は関連性が強いことからすれば,同じ文言の意味を別に解する必要性は認められないのであって,火薬類を譲り受けた者がその目的に沿って消費する際も,鳥獣保護管理法の定めに従う必要があることは当然というべきである。よって,猟銃用火薬類等を無許可で消費できる場合を定めた火薬類取締法25条1項ただし書所定の鳥獣の捕獲若しくは駆除は,同法17条1項3号と同じく,鳥獣保護管理法の定めに従った適法なものを指すと解すべきである。このような解釈は,火薬類取締法が,災害の防止や公共の安全の確保のため,火薬類の消費を原則として許可制とし,例外として,無許可で消費することが社会的,経済的に必要であり,かつ,許可に係らせなくとも災害の発生の防止又は公共の安全の維持に支障を及ぼすおそれがないと考えられる用途及び数量に限定して,無許可での火薬類の消費を許した趣旨に適うものである。
特に,本件のように鳥獣保護管理法の規定に違反して住居集合地域において散弾銃から散弾を発射する行為は,原判決が説示するとおり,人を殺傷する危険が高く,公共の安全を害するおそれがあるから,このような違法かつ危険な形態による火薬類の無許可消費が火薬類取締法25条1項ただし書の除外事由に当たらないことは,同法の目的,趣旨からしても明らかである。(4)

弁護人は,①原判決のように,火薬類取締法25条1項ただし書の文
言から社会通念上読み取ることのできない法令に適合する形態での鳥獣の捕獲若しくは駆除を指すという解釈を採用することは,刑罰法令の明確性に反する,②火薬類取締法25条1項ただし書及び同法施行規則49条によれば,
鳥獣の捕獲若しくは駆除以外の用途による火薬類の無許可消費に関し,火薬類の消費場所について何らの規制もされていないのに,原判決のような解釈を採用すると,鳥獣の捕獲若しくは駆除による火薬類の消費のみが消費場所を厳格に制限されてしまうことになり不均衡である,などと主張する。しかしながら,①前記のとおり,火薬類取締法17条1項3号所定の鳥獣の捕獲が鳥獣保護管理法の定めに従った適法なものを指すことは規定の文言から明確であるところ,火薬類の譲受けはその消費を目的とするものであり,両者は強い関連を有するのであるから,火薬類の譲受けに関する火薬類取締法17条1項3号所定の
鳥獣の捕獲その消費に関する同法25条

1項ただし書所定の鳥獣の捕獲若しくは駆除及びその消費数量に関する本件内閣府令12条2号所定の鳥獣の捕獲又は駆除の文言をいずれも鳥獣保護管理法の定めに従った適法なものを指すと統一的に解することは自然で合理的な解釈というべきであり,
刑罰法令の明確性に反するとはいえない。
また,②猟銃用火薬類等については,銃砲刀剣類所持等取締法によって規制されている銃砲と一元的に規制されるべきとの観点から,他の火薬類と区別して,譲渡,譲受け,輸入及び消費の許可の権限を都道府県知事から都道府県公安委員会に移し,無許可消費について本件内閣府令12条各号で別途その消費数量を定め,実包については,鳥獣保護管理法の定めに従って適法に譲り受けた者が鳥獣の捕獲又は駆除の用に供するために1日当たり百個以下を消費する場合に限って,その消費を許しているのであって,このような猟銃用火薬類等に関する規制内容や,猟銃用火薬類,特に実包については,人を殺傷する危険性が殊更に高いことに鑑みれば,猟銃用火薬類等について,住居集合地域等における消費が厳しく規制されていると解することが,他の火薬類の無許可消費と対比して不均衡であるとはいえない。弁護人の主張はいずれも採用できない。
(5)

以上のとおりであって,法令適用の誤りの主張は理由がない。

4
結論

よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(検察官瀬戸真一,私選弁護人渡辺智志
(裁判長裁判官

若園敦雄

裁判官

各出席)

川本清巌

裁判官

中桐圭一)

トップに戻る

saiban.in