判例検索β > 令和1年(ラ)第550号
仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
事件番号令和1(ラ)550
事件名仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
裁判年月日令和2年1月30日
裁判所名・部大阪高等裁判所  第11民事部
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成29(ヨ)1213
判示事項の要旨相手方の設置する原子力発電所2機(大飯発電所3号機及び4号機。以下,「本件原発」という。)が,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の求める安全性を欠いているとして,抗告人が,人格権に基づく妨害予防請求権に基づき,本件原発の運転の仮の差止めを求めた事案において,基準地震動の策定が安全性の基準に適合しているとした原子力規制委員会の判断が合理性を欠くとはいえず,被保全権利について疎明があるとはいえないとして,抗告人の申立てを却下した原決定を維持し,抗告を棄却した事例
裁判日:西暦2020-01-30
情報公開日2020-03-23 15:30:04
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主文
本件抗告を棄却する
抗告費用は抗告人の負担とする。

第1


抗告の趣旨

1
原決定を取り消す。

2
相手方は,福井県大飯郡おおい町大島1字吉見1-1において,大飯原子力発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。

3
申立費用は,第1審,抗告審を通じて,相手方の負担とする。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
抗告人は,原子力発電所である大飯発電所3号機及び4号機(以下,併せて本件原発という。)を設置する相手方に対し,本件原発は核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下原子炉等規制法という。)の求める安全性を欠いているため,事故の発生によって抗告人の人格権(抗告人の生命,身体,健康及び平穏生活権)が侵害され取り返しのつかない著しい損害を被るおそれがある旨主張して,
人格権に基づく妨害予防請求権に基づき,
本件原発の運転を仮に差し止めることを命じる仮処分命令の申立て(以下本件仮処分命令申立てという。)をした。原審は,
被保全権利の疎明がないとして,
本件仮処分命令申立てを却下した。
これに対し,抗告人は,原決定の取消し及び本件仮処分命令申立ての認容を求めて即時抗告をした。

2
前提事実
以下のとおり補正するほか,原決定理由第2の2を引用する。


原決定3頁6行目から7行目の原子力発電所の事故の次に(以下「福島原発事故という。」を加える。)


原決定5頁19行目から6頁7行目までを次のとおり改める。

イ審査ガイドで言及されている「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(以下地震本部レシピ又はレシピという。
)とは,文部科学省
の地震調査研究推進本部(以下地震本部という。
)地震調査委員会(以
下地震調査委員会という。
)が,最新の知見に基づき最もあり得る地震
動を予測するための方法論を取りまとめたものである。
地震調査委員会は,平成7年1月17日の兵庫県南部地震による阪神・淡路大震災を契機とし,地震防災対策特別措置法を受け,地震に関する調査研究を推進するために設置された地震本部の中の委員会であり,その役割は,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うことである。
地震調査委員会の下に設置された強震動評価部会(以下強震動評価部会という。は,
)特定の震源断層において地震が発生した際の強い揺れ
(強
震動)を予測する手法を検討するとともに,その手法を用いた強震動の評価を行う部会である。その下に,強震動評価部会の審議に資するため,強震動予測手法の高度化に関する検討を行う強震動予測手法検討分科会(以下強震動予測手法検討分科会という。
)が設置されている。
強震動評価部会及び強震動予測手法検討分科会において,強震動予測手法の高度化を進め,地震調査委員会がその検討結果を発表しているのが地震本部レシピである。
(以上,甲63,乙159)


地震本部レシピは,震源断層を特定した地震を想定した場合の強震動を高精度に予測するための標準的な方法論を確立することを目指したものであり,検討結果を反映し,修正,改訂されることを前提としている。地震本部レシピに従った強震動予測の流れは,①特性化震源モデル(震源断層モデル)の設定,②地下構造モデルの作成,③強震動計算,④予測結果の検証の4つの過程からなる。
地震本部レシピには,平成20年以降,①の震源断層モデルを設定する方法として,
下(以という。


さから推定される地震規模から,地震規模に見合うように震源断層の断層モデルの面積を経験的関係により推定する方法(以下

という。
)が記載されている。
(以上,甲8,41,乙159)

地震本部レシピは,平成28年6月10日付けで改訂され(以下28年6月レシピという。,同年12月9日付けで修正された(以下,この)
修正を28年12月修正といい,修正後のレシピを28年12月修正レシピという。。)
28年12月修正の内容は,次のとおりである。
レシピ前文
a
修正前の記載
なお,上記の「レシピは,個々の断層を個別に取り上げて,詳
細に強震動評価をする上で参考となるレシピと位置づけられる。
一方,約100余りの主要活断層帯で発生する地震の強震動を一括して計算するような場合,
レシピに基づきながらも,一部の断層パラ
メータの設定をやや簡便化した方法が作業上有効と考えられるので,それも併せて掲載する。


b
修正後の記載
この「レシピは,個々の断層で発生する地震によってもたらさ
れる強震動を詳細に評価することを目指している。但し,日本各地で長期評価された多数の活断層帯で発生する地震の強震動を一定以上の品質で安定的に計算するために,地表の活断層長さ等から地震規模を設定する方法も併せて掲載する。ここに示すのは,最新の知見に基づき最もあり得る地震と強震動を評価するための方法論であるが,断層とそこで将来生じる地震およびそれによってもたらされる強震動に関して得られた知見は未だ十分とは言えないことから,特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合には,その点に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが望ましい。

レシピ
a
の方法の表題部

修正前の記載
過去の地震記録などに基づき震源断層を推定する場合や詳細な調査結果に基づき震源断層を推定する場合b
修正後の記載
過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合レシピ
a
の方法の表題部

修正前の記載
地表の活断層の情報をもとに簡便化した方法で震源断層を推定する場合b
修正後の記載
長期評価された地表の活断層長さ等から地震規模を設定し震源断層モデルを設定する場合」
第3

争点
原決定理由第3を引用する。

第4

争点に関する当事者の主張
1
原審における当事者の主張は,原決定理由第4を引用する。
ただし,原決定22頁21行目から22行目の地震調査研究推進本部の地震調査委員会強震動評価部会(以下「地震調査委強震動評価部会という。」)
を強震動評価部会と改める。

2
当審における抗告人の主張は,即時抗告申立書,即時抗告理由書,抗告第1準備書面及び抗告第2準備書面兼求釈明書を,相手方の主張は,答弁書,抗告主張書面⑴をそれぞれ引用する。

第5

当裁判所の判断
当裁判所も,原決定と同様に,本件仮処分命令申立てを却下すべきであると判
断する。その理由は,以下のとおりである。
1
争点1(司法審査の在り方)について


本件仮処分命令申立ての被保全権利
抗告人の主張する被保全権利は,人格権に基づく本件原発の運転差止請求権である。
個人の生命,身体及び健康という重大な保護法益が現に侵害され又は侵害される具体的危険がある場合には,
当該個人は,
人格権に基づく妨害排除
(予
防)請求権として,侵害行為の排除(予防)を請求することができると解されるところ,抗告人は,本件原発が安全性を欠くことから,その運転により抗告人の生命,身体及び健康が侵害される具体的危険があるとして,運転の差止めを請求する権利があると主張するものである。



原子力発電所の安全性

安全性の確保
原子力発電所は,核燃料を使用し,その運転により人体に有害な多量の放射性物質を原子炉内に発生させる施設であり,
ひとたび事故等が発生し,
放射性物質が原子炉外に放出されると,周辺地域の住民の生命,身体及び健康等に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を長期間,広範囲にわたって汚染するおそれがある。そこで,このような深刻な被害の発生を防止するためには,重大な事故が万が一にも発生しないよう,原子力発電所の安全性を確保する必要がある。
原子力発電所の事故による被害の深刻さと安全性確保の必要性は,福島原発事故を契機として,改めて強く認識されるに至ったものである。イ
原子力発電所に求められる安全性の程度
一般に,科学技術の分野においては,絶対的に災害発生の危険がないという絶対的安全性を達成することはできないと考えられており,科学技術を利用した設備,機器等は,何らかの程度において人の生命,身体,健康,財産等を侵害する危険を伴っているが,その危険性を,当該設備等の品質や安全性についての規制等により一定程度以下に管理し,管理された危険性の程度が社会通念上容認できる水準以下にとどまると考えられる場合に,いわば相対的安全性が認められるものとして,その利用が許容されている。
原子力発電所についても同様であり,
どのような異常事態が発生しても,
原子炉の放射性物質が外部の環境に放出されることが絶対にないという絶対的安全性
を要求するのは相当ではない。
しかし,
前記アのとおり,
事故等を原因として放射性物質による深刻な被害が広範囲かつ長期間にわたって生じるおそれがあることを考慮すると,原子力発電所に求められる安全性の程度は,他の設備,機器等に比べて格段に高度なものでなければならないのであり,原子力発電所は,放射性物質による被害発生の危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されていると認められる場合に,安全性が認められる施設として運転が許されると解するのが相当である。原子力発電所が上記の安全性を欠くときは,その運転によって周辺住民等の生命,身体及び健康を侵害する具体的危険があるというべきである。


原子力発電所の安全性審査に関する法制度

福島原発事故の反省と教訓を踏まえて,原子力発電所の安全性の審査に関する体制,制度が整備,強化された。具体的には,原子力安全規制を担う新たな行政機関として原子力規制委員会が設置され,改正された原子炉等規制法は,発電用原子炉の設置及び変更について,原子力規制委員会の許可を受けなければならないとし(同法43条の3の5第1項,同条の3の8第1項),これらの許可の要件の一つとして,発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること(同法43条の3の6第1項4号,同条の3の8第2項)と定め,発電用原子炉施設の安全性に関する基準の策定及び安全性の審査の権限を原子力規制委員会に付与し,同委員会は,この権限に基づき,設置許可基準規則を制定した。


原子力発電所に求められる安全性の具体的基準を策定するに当たっては,地震,津波等の自然災害や人為的要因などの事故発生の原因となり得る様々な事象を想定し,それらの事象によって原子力発電所施設を構成する設備,機器等が機能を損なうことのないよう備えるべき強度を定め,あるいは,異常事態の発生を想定した上で,その拡大を防止するために必要な設備,機器等の設置を求めるなど,多角的,総合的見地から多重的に安全性を確保するための基準を検討する必要がある。
また,策定した基準に基づいて個々の原子力発電所の安全性を審査するに当たっては,当該原子力発電所の立地の地形,地質等の自然条件を前提として,影響を及ぼし得る地震,津波等の規模を具体的に想定し,設備,機器等が想定した地震,津波等によってその機能を損なうことがないかを確認することなどが求められる。
これらの安全性の基準の策定及び基準への適合性の審査においては,対象となる事項が多岐にわたり,
将来の予測に係る事項も含まれることから,
原子力工学をはじめ多方面にわたる極めて高度な最新の科学的・技術的知見に基づく総合的判断が必要とされる。
原子力発電所の安全性の確保について,前記アの制度がとられたのは,このような安全性の審査の特質を考慮し,安全性の具体的基準の策定及び個々の原子力発電所の安全性の審査を,各専門分野の学識経験者等によって構成され,専門性・独立性が確保された原子力規制委員会の科学的・技術的知見に基づく合理的判断に委ねる趣旨であると解される。
そうすると,
原子力規制委員会が付与された権限に基づいて策定した安全性の基準は,その策定過程及び内容に不合理な点が認められない限りは,前記⑵イの原子力発電所に求められる安全性を具体化したものと考えられる。また,原子力規制委員会が自ら策定した基準に適合するものとして安全性を認めた原子力発電所は,審査及び判断の過程に不合理な点が認められない限り,前記⑵イの原子力発電所に求められる安全性を具備するものと考えられる。⑷

人格権に基づく原子力発電所運転差止請求における安全性の主張立証責任及び審理の在り方
原子力発電所の安全性及びその審査に関する制度は前記のとおりであるところ,原子力発電所が原子力規制委員会の定めた安全性の基準に適合しないときは,原子炉等規制法の求める安全性を欠き,設置許可の要件を充足しないのであるから,その運転により周辺住民等の生命,身体及び健康を侵害する具体的危険があるというべきである。そして,人格権に基づく差止請求権の主張立証責任に鑑みれば,本件原発が安全性の基準に適合しないことは,運転差止めを求める抗告人に主張立証責任があると解される。
もっとも,相手方は,本件原発の設置者として,設置及び変更の許可を取得しているのであり,安全性の基準に関する科学的・技術的知見を有するとともに,本件原発の施設,設備,機器等に関する資料や原子力規制委員会の安全性の審査に関する資料を全て保有していると認められる。
このような本件原発の安全性の審査に関する科学的・技術的知見及び資料の保有状況に照らせば,まず,相手方において,本件原発が原子力規制委員会の定めた安全性の基準に適合することを,相当の根拠,資料に基づいて主張立証すべきであり,この主張立証が十分尽くされないときは,本件原発が原子炉等規制法の求める安全性を欠き,抗告人の生命,身体及び健康を侵害する具体的危険のあることが事実上推認されると解される。
一方,相手方において本件原発が安全性の基準に適合することの主張立証を尽くしたと認められるときは,抗告人において,原子力規制委員会の策定した安全性の基準自体が現在の科学的技術的知見に照らして合理性を欠き,・
又は,本件原発が安全性の基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断が合理性を欠くことにより,本件原発が安全性を欠くことを主張立証する必要があるというべきである。
2
争点2(本件基準地震動の策定に関する審査基準適合性の判断)について⑴

認定事実
以下のとおり補正するほか,原決定理由第5の2⑴を引用する。ア
原決定32頁4行目から33頁12行目までを次のとおり改める。断層モデルを用いた手法による地震動評価
断層モデルを用いた手法による地震動評価では,①地震本部レシピ等を参照して,検討用地震につき,震源断層の各種のパラメータを設定して,
震源断層をモデル化し,
②震源から敷地までの地域性を評価し,
③地震波が到達する時間差を考慮した波形合成を行う(前記第2の2⑹)

a
震源断層のモデル化
(震源断層パラメータの設定)
(前記手順①)
(乙
5・添付書類六・6-5-9頁~6-5-11頁,6-5-35頁~6-5-46頁)
基本ケースの設定
法により行い,
基本ケースを設定した上で,不確かさを考慮した複数のケースを設定することとした。
基本ケースについて,相手方は,前記調査結果に基づき,FO-
A~FO-B~熊川断層の長さを63.4km,上林川断層の長さを39.5kmと設定した。断層の幅については,FO-A~FO-B~熊川断層及び上林川断層のいずれについても,地震発生層の上端深さを3km,下端深さを18kmとして地震発生層の厚さを15kmとし,断層傾斜角を90°(鉛直)としたことから,15kmと設定した。この結果,震源断層面積は,FO-A~FO-B~熊川断層は951㎢,上林川断層は592.5㎢となった。相手方は,上記震源断層面積を用いて,入倉・三宅式により,地震モーメント(M₀)を設定し,順次,短周期レベル(A)
,アスペリティ
面積(Sa)
,震源断層全体の応力降下量(Δσ)
,アスペリティ部
分の応力降下量(Δσa)
,破壊伝播速度(Vr)
,すべり量(D)
等の震源断層のパラメータを求めた。この際,アスペリティは,本件敷地への地震動の影響が最も大きくなるよう断層面の最も浅い位置に配置し,破壊開始点は,本件敷地に地震波がより短い時間でより多く重なり合うように,断層面下端及びアスペリティ下部に複数設定した。


不確かさを考慮したケースの設定
相手方は,
FO-A~FO-B~熊川断層及び上林川断層につき,
基本ケースに加え,以下のとおり,地震動評価に影響が大きいと考えられるパラメータについて不確かさを考慮した複数のケースを設定した。

(FO-A~FO-B~熊川断層)
FO-A~FO-B~熊川断層については,以下の①ないし⑦のとおり,不確かさを考慮したケースを7つ設定した。


短周期の地震動レベル
平成19年新潟県中越沖地震の知見を踏まえて,短周期領域の
フーリエスペクトルの比が基本ケースの1.5倍となるように設
定したケースを設けた。



傾斜角
断層面が敷地に近くなるように,
75°とするケースを設けた。



すべり角
FO-A~FO-B~熊川断層は横ずれ断層であるが,縦ずれ
成分も含まれることから,30°とするケースを設けた。



破壊伝播速度
基本ケースではVr=0.72βと設定したところを,宮腰ほ
か(2003)の知見を踏まえて,アスペリティ領域の平均的な破壊伝播速度に標準偏差1σを考慮して,Vr=0.87βとするケー
スを設けた。



アスペリティ配置1
敷地への影響が大きくなるように全てのアスペリティを一塊と
して配置するケースを設けた。



アスペリティ配置2
敷地への影響が大きくなるように全てのアスペリティを一塊横
長として配置するケースを設けた。



不確かさを重畳させたケース
FO-A~FO-B~熊川断層は,敷地の極近傍に位置するこ
とから,不確かさを重畳させたケースについても検討を行うこと
とし,不確かさを重畳させるパラメータは,短周期側の地震動へ
の影響が大きい短周期の地震動レベルと,長周期側の地震動への
影響が大きい破壊伝播速度とした。不確かさを重畳させる際の短
周期の地震動レベルは,横ずれ断層と逆断層の短周期の地震動レ
ベルの違いを踏まえて,短周期領域のフーリエスペクトルの比を
基本ケースの1.25倍と設定し,破壊伝播速度をVr=0.8
7βと設定とするケースを設けた。
(上林川断層)
上林川断層については,以下の①及び②のとおり,不確かさを考慮したケースを2つ設定した。


短周期の地震動レベル
平成19年新潟県中越沖地震の知見を踏まえて,短周期領域の
フーリエスペクトルの比が基本ケースの1.5倍となるように設
定したケースを設けた。



破壊伝播速度
基本ケースではVr=0.72βと設定したところを,宮腰ほ
か(2003)の知見を踏まえて,アスペリティ領域の平均的な破壊伝播速度に標準偏差1σを考慮して,Vr=0.87βとするケー
スを設けた。



原決定35頁24行目のSs-2の583ガルをSs-14の613ガルと改める。

原決定35頁25行目の6-5-16頁,の次に6-5-51頁
を加える。


原決定36頁25行目の次に改行して次のとおり加え,同頁26行目から38頁10行目までを削除する。

カ原子力規制委員会による本件基準地震動に関する適合性判断相手方は,平成25年7月,原子力規制委員会に対し,本件原発の原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請を一括して行った。原子力規制委員会は,本件原発の新規制基準への適合性に係る審査のため,審査会合,ヒアリング及びいわゆるパブリック・コメントを行った上で,平成29年5月24日,「本申請における基準地震動は,各種の不確かさを考慮して,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から適切に策定されていることから,解釈別記2(設置許可基準規則解釈別記2)の規定に適合していることを確認したとして,新規制基準への適合性を肯定した。(乙36の1~5,37,38の1・2,審尋の全趣旨)」


上記認定事実によれば,本件原発が原子力規制委員会の定めた安全性の基準に適合することについて,相手方により十分な主張立証が行われたと評価することができ,本件原発が上記安全性の基準に適合することが一応認められる。
したがって,以下,原子力規制委員会の定めた安全性の基準自体又は本件原発が安全性の基準に適合するとした同委員会の判断が合理性を欠き,そのことにより本件原発が安全性を欠くと認められるかという観点から,抗告人の主張につき検討する。



入倉・三宅式による地震モーメントの過小評価のおそれについて

抗告人は,島崎氏の検討によれば,垂直又は垂直に近い断層について,地震前に得られる断層の情報に入倉・三宅式を当てはめると,他の関係式と比較して,過小評価をもたらすものであり,相手方が,FO-A~FO-B~熊川断層の断層傾斜角を90°ないし75°と設定している以上,上記の島崎氏の指摘の射程が及ぶことになるから,本件基準地震動の最大加速度は過小評価になっていると主張する。
島崎氏は,平成27年以降,入倉・三宅式による地震モーメントの算定結果が過小である旨の論文を発表するなどして問題提起をし,別件訴訟の証人尋問(平成29年4月24日)においても同旨の証言をする(甲1の1・2,2,11,12,28,30,31,34,35,乙100~104)。

入倉・三宅式は,Somervilleほか(1999)等による震源インバージョンの結果にWellsandCoppersmith(1994)による断層パラメータ(余震データや活断層情報等から求められたもの。ただし,M8クラス以上の地震で信頼できると記述されているものに限る。)を加えて,断層パラメータの関係(スケーリング則)を検討した論文の中で,M8クラス以上の大地震における震源断層面積と地震モーメントの関係式として提案されたものである(乙39)。

において,長期評価による地表の活断層長さから推定される地震モーメントを基にして断層面積を算出する際にも用いられている。

原子力規制庁(技術基盤グループ)は,平成28年4月26日に発生した熊本地震本震について,観測記録を用いて逆解析を行い,震源断層モデルを設定して震源断層面積及び地震モーメントを計算し,その数値や国内の4研究機関が実施した震源過程解析から得られた数値から震源断層面積と地震モーメントの関係を検討したところ,両者の関係は,入倉・三宅式とほぼ整合した(乙78,79)。
入倉・三宅式が震源断層面積と地震モーメントの関係式として信頼性を有することは,最近発生した大地震の詳細な記録に基づく解析結果によって裏付けられているといえる。
島崎氏も,別件証人尋問において,震源インバージョンの結果を表した式としては正当であり,問題はない旨証言している(甲1の1・2)。

抗告人は,島崎氏の指摘を引用して,入倉・三宅式は,他の関係式と比較して,垂直又はこれに近い断層の場合に地震モーメントの過小評価をもたらすから相当でないと主張する。
島崎氏が比較の対象としている他の関係式は,いずれも断層長さと地震モーメントの関係を表す式であり,震源断層面積と地震モーメントの関係式である入倉・三宅式を,断層幅として一定の数値を代入することによって断層長さと地震モーメントの関係式に変換した上で,上記各関係式と比較するものである。そして,比較の際の断層長さとしては,地表に現れた活断層の長さを用いている。
しかし,入倉・三宅式は,上記のとおり震源断層面積と地震モーメントの関係式であり,断層長さから地震モーメントを算定することを予定した
の諸知見に基づいて震源断層モデルの大きさ(長さ・幅)・深さ等を設定し,当該震源断層モデルの長さと幅から算定される震源断層面積に基づいて入倉・三宅式により地震モーメントを算定することとされており,地表の活断層長さを用いるものではない。
島崎氏が行った入倉・三宅式と他の関係式との比較は,入倉・三宅式の
たがって,上記の比較の結果をもって入倉・三宅式による地震モーメントの算定が過小であると評価することは相当ではない。

以上によれば,レシピに基づく基準地震動の評価において,入倉・三宅式を用いることが安全性の基準として現在の科学的・技術的知見に照らして合理性を欠くということはできない。抗告人の主張は採用することができない。



各種パラメータ設定の保守性について

抗告人は,入倉・三宅式による地震モーメントの算定が過小であるとの主張を前提として,レシピに基づいた本件基準地震動の算定における各種パラメータの設定の保守性は十分でないと主張するが,上記の前提が採用し得ないことは前記のとおりである。
もっとも,設置許可基準解釈別記2は,基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ等の各種パラメータの不確かさ並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮する,としている(乙9・130頁)。また,審査ガイドは,震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある,としている(乙10・3頁)。28年12月修正レシ

将来生じる地震及

びそれによってもたらされる強震動に関して得られた知見は未だ十分とは言えないことから,特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合には,その点に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源
については,海溝型地震と比較して地震の発生間隔が長いため,最新活動時の地震観測記録が得られにくく,過去の活動の痕跡のみから特性化震源モデルを設定しなければならず,モデルの不確定性が大きくなる傾向にあることを考慮して,
複数のモデルを想定することが望ましい
(1.1

活断層

で発生する地震の特性化震源モデル・2頁)としている(甲8)。以上のとおり,震源断層モデルの設定における各種パラメータの設定に当たっては,不確かさやばらつきの考慮が求められている。

相手方は,
前記認定事実のとおり,
震源断層モデルの設定を行っている。
このうち,断層長さについては,各断層の長さについて調査結果に基づいて既存の文献等の数値よりも長く評価した上で,FO-A~FO-B断層と約15km離れている熊川断層が連動するものと評価し,離れている区間も含めて全長を63.4kmとして,これを基本ケースとした。さらに,基本ケースにおいて,地震動の本件敷地への影響がより大きくなるようアスペリティの配置や破壊開始点の設定を行っている。これらは,いずれも上記の不確かさやばらつきの考慮の観点から,パラメータの設定を保守的に行ったものと評価することができる。
さらに,相手方は,基本ケースに加え,不確かさを考慮して,特定のパラメータを保守的に設定し,あるいは,保守的な設定を重ね合わせて,FO-A~FO-B~熊川断層について7つのケース,上林川断層について2つのケースを設けている。
以上の基本ケース及び不確かさを考慮した複数のケースによる各種パラメータの設定は,十分保守性を有すると認められる。
したがって,各種パラメータの設定について保守性が十分でないとする抗告人の主張は採用できない。


地震本部レシピは,震源断層モデルを設定するに当たり,震源断層の巨視的震源特性のうち,震源断層の大きさ(長さ・幅・面積)及び地震モー
いる。

層の長さ及び幅を設定し,長さと幅から震源断層の面積を求め,入倉・三宅式等の経験式により震源断層面積から地震モーメントを算定する。
断層長さと地震規模(マグニチュード

M)との関係に関する経験式であ

る松田式(松田,1975)及び地震規模と地震モーメントの関係に関する経験式(武村,1990)を用いて地震モーメントを算出する。そして,上記の入倉・三宅式等の式を用いて地震モーメントから震源断層面積を算出し,これを活断層長さで除して震源断層の幅を求める。このようにして設定した震源断層モデルの下端が地震発生層を貫く場合には,下端深さが地震発生層+2kmを超えない範囲で震源断層の幅を調整し,一方,震源断層の長さは活断層長さ+5kmを超えない範囲で調整して,
震源断層モデルを設定
する。
(以上,甲8)

断層面でのずれであるため,地表地震断層の長さからではなく,過去の地震の情報や活断層調査,地球物理学的調査結果等から,震源断層面を設定することが重要だという考え方に基づくものであり,最新の知見に基づいて巨視的震源特性を高精度に設定できる手法であるとの共通認識のもと,地震本部レシピを含む一連の強震動予測手法を策定した当初から現在まで,
めには,地下の震源断層に関する詳細な調査結果が得られていることが前提となる。詳細な調査が行われ,震源断層に係る情報が豊富に得られてい
方法が有効な方法となる。

いて初めて掲載された。地震調査委員会では,
全国地震動予測地図
(平
成21年公表)を取りまとめるにあたり,それまで評価対象としてきた断層帯と比べて,必ずしも情報が十分でない断層帯も強震動評価の対象とする必要が生じ,また,100を超える多くの断層帯についての強震動評価を一括して行うことも必要になった。そこで,地震調査委員会は,多くの断層帯を対象として一括して計算するような場合や,対象とする断層における詳細な情報に乏しい場合でも強震動の時刻歴波形を計算できるようにするため,地表地震断層の長さを用いて,震源断層の大きさに関するパラメータを簡便に設定する方法が作業上有効との考え方に基づき,
の方法を追加したものである。
(以上,乙159)

レシピの28年12月修正に至る経緯
疎明資料(甲5~7,51~62)及び審尋の全趣旨によれば,28年6月レシピについて同年12月修正が行われた経緯につき,次の事実が認められる(以下,この項においては,平成28年の記載を省略し,月日のみを記載する。)。
7月15日の第156回強震動予測手法検討分科会において,レシピの検証と改良が議題として取り上げられ,
同分科会主査である纐纈氏は,
長さや幅を事前に予測することが

を削除した方がよいとの意見を述べ,この点について委員の間で意見交換がされた。纐纈氏の意見に対しては,強い反対意見も述べられ,纐纈
残すとしてもタイトルは変えた方が良い,と述べた。
9月14日の第152回強震動評価部会において,同部会長である纐纈氏は,4月に発生した熊本地震の事前予測と実際の地震の観測結果に
の事前予測がどちらも短くなってしまうので,断層面積から求める地震
層の長さや均質すべりモデルに基づいて算定した震源長さと実際に起こった地震の規模とをデータとして作られたため,短めの断層長さを与えても,結果として実際の地震に近い地震規模が得られる,として,地震前文の記述を修正す
べきであると提案した。また,事務局からは,レシピの一部記述表現に
の間で議論が交わされ,様々な意見が出た。
11月8日の第158回強震動予測手法検討分科会において,纐纈氏から地震本部レシピの改良に向けた提案が行われ,
議論がされた。
また,
レシピの表現の修正について,事務局から『レシピ』の訂正・微修正・補足についての事務局案が示され,質疑及び意見交換が行われた。事務局案は,12月修正レシピとほぼ同じ内容であり,質疑の中で,前文の特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合は,その点に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが望ましいのうち計算手法と計算結果を吟味・判断した上で
に不自然なことが生じていないか注意しながら検討して頂きたいという趣旨であると回答した。
同分科会は,当日の意見を踏まえて若干の字句の修正を行うこととするとの前提で事務局案を承認した。
その後,11月15日の第153回強震動評価部会及び12月9日の第298回地震調査委員会において,地震本部レシピの訂正・微修正・補足について検討が行われ,若干の字句の修正により,12月修正レシピの内容が確定した。

定する必要があるとの趣旨でレシピの修正がされたと主張する。そして,纐纈氏は,強震動評価部会
よう地震本部レシピを改訂したとの見解を示している(甲10の1・2,67)。
しかし,上記ウのレシピの修正の過程において,地震本部事務局は,事務局案を提案するに当たり,レシピの訂正,微修正あるいは補足,改定の
の表現の微修正あるいは補足については,ホームページ上で随時対応し,
ージを更新するとの方針を示し

は改定しない)として具体的な案を示している(甲54,58,61)。12月修正レシピの記述をみても,震源断層モデルの大きさ及び地震モ
である旨の記載は見当たらない。レシピの修正に関する議論の過程におけ
るにとどまる。
一方,纐纈氏が提案したレシピの改良については,議論が継続され,結論を出すに至っていない。

に関する詳細な調査結果がある場合にこれらの情報に基づいて震源断層モ
情報が得られない場合に長期評価に基づく地表の活断層の長さを用いて震源断層モデルを設定する簡便な方法として,それぞれ位置付けられていると認められる。28年12月修正の経過や修正前後の文言の比較によって
ない。

べきであるとの抗告人の主張は採用できない。

性の基準に適合しているとした原子力規制委員会の判断が合理性を欠くと認めるべき資料はない。


以上によれば,基準地震動の策定につき原子力規制委員会の定めた安全性の基準及び本件基準地震動の策定が安全性の基準に適合するとした同委員会の判断が合理性を欠き,そのことにより本件原発が安全性を欠くと認めることはできず,被保全権利の疎明があるとはいえない。

3
よって,原決定は相当であるから,本件抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。

令和2年1月30日

大阪高等裁判所第11民事部

裁判長裁判官

山下郁夫
裁判官

杉江佳治
裁判官

細野なおみ
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