判例検索β > 平成31年(行ケ)第10025号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成31(行ケ)10025
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和2年2月19日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2020-02-19
情報公開日2020-03-23 15:31:08
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令和2年2月19日判決言渡
平成31年(行ケ)第10025号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和2年1月27日
判原決告株
訴訟代理人弁護士

溝田宗司
訴訟代理人弁理士

田中泰彦被
株式会社ハイジェンテック

告ソ式リ会ュ社ー光シ未ョ来ン
訴訟代理人弁護士

角野佑子
訴訟代理人弁理士

鈴木由充新田研太鶴主1寛文
特許庁が無効2017-800116号事件について平成31
年1月21日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間
を30日と定める。
事実及び理由

第1

請求
主文第1項と同旨
第2

事案の概要

1


特許庁における手続の経緯等
原告は,平成27年5月26日(優先日平成26年5月27日(以下本件優先日という。),優先権主張国日本)を国際出願日とする特願2015-529952号の一部を分割して,平成27年12月25日,発明の名称を気体溶解装置及び気体溶解方法とする発明について特許出願(特願2015-255409号。以下本件出願という。)をし,平成29年3月31日,特許権の設定登録(特許第6116658号。請求項の数4。以下,この特許を本件特許という。甲25,40)を受けた。



被告は,
平成29年8月21日,
本件特許について特許無効審判の請求
(無
効2017-800116号事件)をした。
原告は,平成30年5月21日付けの審決の予告を受けたため,同年7月19日付けで,本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4を一群の請求項として訂正する旨の訂正請求(以下本件訂正という。甲32の1,2)をした。
その後,特許庁は,平成31年1月21日,本件訂正を認めた上で,

特許第6116658号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。

との審決(以下本件審決という。)をし,その謄本は,同月31日,原告に送達された。


2
原告は,平成31年2月28日,本件訴訟を提起した。
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,次のとおりであ
る(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を本件特許発明1などという。下線部は本件訂正による訂正箇所である。甲32の1,2)。【請求項1】
水に水素を溶解させて水素水を生成する気体溶解装置であって,
水槽と,
固体高分子膜(PEM)を挟んだ電気分解により水素を発生させる水素発生手段と,
前記水素発生手段からの水素を水素バブルとして前記水槽からの水に与えて加圧送水する加圧型気体溶解手段と,
前記加圧型気体溶解手段から水素水を導いて貯留する溶存槽と,
前記溶存槽に貯留された水素水を前記水槽中に導く,1.0mmより大きく3.0mm以下の内径の細管(但し,0.8m以下の長さのものを除く)からなる降圧移送手段としての管状路と,を含み,
前記水槽中の水を前記加圧型気体溶解手段,前記溶存槽,前記管状路,前記水槽へと送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとするとともに,前記加圧型気体溶解手段から前記溶存槽へと送水される水の一部を前記水素発生手段に導き電気分解に供することを特徴とする気体溶解装置。
【請求項2】
前記溶存槽は前記加圧型気体溶解手段からの水素水を加圧貯留することを特徴とする請求項1記載の気体溶解装置。
【請求項3】
前記溶存槽は少なくともその一部にフィルターを与えられていることを特徴とする請求項2記載の気体溶解装置。
【請求項4】
前記加圧型気体溶解手段はダイヤフラムポンプを含むことを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の気体溶解装置。
3
本件審決の理由の要旨
(1)

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,請求人(被告)の主張する無効理由1(分割要件違反を前提
とし,甲1(国際公開第2015/182606号)を主引用例とする新規性又は進歩性の欠如),無効理由2(甲3(特開2012-236133号公報)を主引用例とする進歩性の欠如),無効理由3(甲12(韓国登録特許第10-0815092号公報)を主引用例とする進歩性の欠如),無効理由4(水槽の発明特定事項に係るサポート要件違反)及び無効理由5(細管の長さの発明特定事項に係るサポート要件違反)について,無効理由1ないし4は理由がないが,無効理由5は理由があるから,本件特許発明1ないし4に係る本件特許は無効とすべきものであるというものである。(2)

本件審決は,無効理由5(細管の長さの発明特定事項に係るサポート要
件違反)について,要旨次のとおり判断した。

本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて本件明細書という。甲25)の記載(【0015】,【0016】,【0047】,【0048】)によると,本件特許発明1ないし4の課題は気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持することであり,当該課題を降圧移送手段を設け,かつ液体にかかる圧力を調整することにより,解決できることを理解できる。


本件明細書の記載(【0053】ないし【0068】)から,実施例(実施例1,3ないし12)と比較例(比較例1,2)の降圧移送手段5はどちらも内径は2mm又は3mmであるものの,長さに着目すると,長さ1.4m以上の細管は実施例となるが,長さ0.8m以下の細管は過飽和の状態が維持できたとする実施例とされていないものと認められるから,降圧移送手段のうちでも,長さによっては発明の課題を解決することができないこととなる。


本件訂正により但し,0.8m以下の長さのものを除くとされた事項は,技術的には0.8mより長い細管を意味するものであるところ,本件明細書には,長さ1.4mの細管であれば過飽和の状態の水素水を得ることができる実施例10が記載されているが,長さが0.8mより長い細管であれば過飽和の状態の水素水を安定に維持することができるとの明示的な記載はない。また,比較例2では,長さ0.8mの細管で水素濃度が1.8ppmの水素水となるところ,
比較例2と長さ以外の圧力等の条件を同等とすれば,
例えば0.81mのような比較例2よりも僅かに長さを長くしたところで,濃度が1.
8ppmから急激に上昇して過飽和の状態の目安としている,
2.
0ppmより大きい水素濃度となると当業者が認識する根拠はみいだせない。むしろ,長さを僅かに変化させたところで,水素濃度は1.8ppmの近傍の値であると当業者であれば十分に理解し得るところである。
したがって,0.8mより長い細管には,水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することができない例が含まれることは当業者であれば十分に認識しうる事項である。
一方で,比較例2に対して,例えば,圧力を高くするなど他の条件を変更すれば,水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することが可能かもしれないが,例えば,長さが0.81mの場合に,当業者が水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することができる条件はどのようなものであるのか,技術常識を加味しても特定することは困難であり,示唆もないから,長さが0.81mの場合に,水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することができると認めることができない。エ
そうすると,過飽和の状態が安定に維持できると認めることができない数値範囲が含まれている本件特許発明1ないし4は,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり,本件特許発明1ないし4に係る本件特許は,特許法36条6項1号の規定(サポート要件)に違反する。

4
取消事由
本件特許発明1ないし4のサポート要件の適合性の判断の誤り
第3

当事者の主張

1
原告の主張


本件特許発明1ないし4のサポート要件の適合性

本件訂正は,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に水に水素を溶解させて水素水を生成する気体溶解装置であって,水槽と,固体高分子膜(PEM)を挟んだ電気分解により水素を発生させる水素発生手段と,前記水素発生手段からの水素を水素バブルとして前記水槽からの水に与えて加圧送水する加圧型気体溶解手段と,前記加圧型気体溶解手段から水素水を導いて貯留する溶存槽と,前記溶存槽に貯留された水素水を前記水槽中に導く降圧移送手段としての管状路と,を含み,前記水槽中の水を前記加圧型気体溶解手段,前記溶存槽,前記管状路,前記水槽へと送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとするとともに,前記加圧型気体溶解手段から前記溶存槽へと送水される水の一部を前記水素発生手段に導き電気分解に供することを特徴とする気体溶解装置。(以下,本件訂正前の請求項1に係る発明を本件訂正前発明1という。)の降圧移送手段としての管状路について,1.0mmより大きく3.0mm以下の内径の細管(但し,0.8m以下の長さのものを除く)からなる降圧移送手段としての管状路とし,細管の内径及び長さの数値を限定し,本件特許発明1としたものである。
本件明細書の記載(【0002】ないし【0015】)によれば,本件訂正前発明1及び本件特許発明1の課題は,いずれも,①過飽和の水素水を生成し,②飲料水に適する程度に過飽和の状態を安定的に維持することにあり,この課題を解決する手段として,本件訂正前発明1及び本件特許発明1は,水槽,加圧型気体溶解手段(ポンプ),溶存槽及び降圧移送手段としての管状路等から構成され,更に,水素水をこれらの構成で循環させ,水素バブルをナノバブルとするものとしたことにより(【0016】,【0017】,【0029】,【0030】,図3及び図4),上記①及び②を同時に実現した点に技術的特徴がある。そして,本件明細書には,本件訂正前発明1及び本件特許発明1の技術的特徴を実現するための条件である細管の径(【0035】),加圧型気体溶解手段の圧力(【0036】)及び細管の径及び加圧型気体溶解手段の圧力の比率(【0031】)について詳しい記載がある。本件明細書のこれらの記載を参酌すれば,当業者は,本件訂正前発明1及び本件特許発明1の上記課題を解決できると認識できるから,本件特許発明1は,本件訂正の有無にかかわらず,サポート要件に適合する。イ
仮に本件特許発明1は,本件訂正の有無にかかわらず,サポート要件に適合するとはいえないとしても,当業者は,本件特許発明1において,細管の長さを0.8mよりも長くしたことにより過飽和の状態を安定に維持できると認識できる。(ア)

原告が平成31年4月1日に実施した,本件特許発明と同じ構成の
気体溶解装置において,細管の径を2mmに固定し,長さを変えて,溶存槽と降圧移送手段の間の圧力
(=加圧型気体溶解手段の出口側の圧力)
を計測した実験(以下追加実験①という。甲35)の実験結果によれば,細管の長さに比例して圧力が高まること,降圧移送手段の入口側の圧力が高ければ高いほど大気圧(水槽)に至るまでの時間が長くかかり,それだけ過飽和の状態を安定に維持できることを読み取ることができる。
そうすると,追加実験①の実験結果から,細管の長さが0.8mよりも長ければ,過飽和の状態を安定に維持できるものと評価できることから,当業者は,本件特許発明1において,細管の長さを0.8mよりも長くしたことにより過飽和の状態を安定に維持できると認識できる。
(イ)

本件明細書には,「過飽和とは,気体の液体への溶解度は温度

により異なるが,ある温度A(℃)における気体の液体への溶解量が,その温度A(℃)における溶解度より多く存在している状態を示す。」(【0031】),ただし,気体としては水素が最も好ましい。水素は分子量が小さく,しかも液体中の内容物と内容物の間,例えば水と水との分子の間に入って,より過飽和の状態を維持しやすいと考えられる。また,水素の液体中の濃度が7℃で2.0ppmより大きいことが好ましく,2.0~8.0ppmであることが好ましい。2.0ppmより大きいことで過飽和状態を維持できる。(【0047】)との記載があり,上記記載から,水素水の水素濃度が2.0ppmであれば,過飽和の状態を維持できると理解できる(甲41)。
そして,原告が令和元年7月10日から同年9月11日に実施した,ウォーターサーバーに本件特許発明と同じ構成の気体溶解装置を取り付けて,水素水を生成した実験(以下追加実験②という。甲36,36の2)の実験結果によれば,細管の長さと水素濃度とは,細管の長さが長くなれば水素水の濃度も濃くなる関係にあること,細管の径が3mm以下であり,かつ,細管の長さが0.8mより長ければ,水素濃度が過飽和とされている2.0ppmとなっていること,細管の径が2mmの場合は,細管の長さが0.8mであっても,2.0ppm以上の水素濃度となっていることが分かる。
そうすると,追加実験①の実験結果に鑑みると,当業者は,本件特許発明1において,細管の長さを0.8mよりも長くしたことにより過飽和の状態を安定に維持できると認識できる。(ウ)

この点に関し被告は,被告が実施した実験(以下被告実験とい

う。乙3,4)の実験結果によれば,原告が主張する追加実験①及び②と齟齬する結果となった旨主張する。
しかしながら,被告実験に用いた気体溶解装置は,溶存フィルターに下から水を入れており,水素が溶け込む構成となっていないため,溶存槽を備えておらず,また,バルブを用いており,溶存槽に貯留された水素水を水槽中に導く細管からなる降圧移送手段としての管状路を備えていないことなどの点で,本件特許発明の気体溶解装置と同一の構成であるといえないから,被告の上記主張は失当である。
(2)

小括
以上によれば,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本
件特許発明1ないし4において,過飽和の状態を安定に維持できると認識できるものといえるから,本件特許発明1ないし4はサポート要件に適合する。
そうすると,本件特許発明1ないし4はサポート要件に適合しないとした本件審決の判断は誤りであるから,違法として取り消されるべきである。2
被告の主張


本件特許発明1ないし4のサポート要件の適合性の主張に対し

サポート要件に適合するか否かは,
特許請求の範囲に記載された発明が,
発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(ア)

本件特許発明1は,細管の長さが0.8mより大きく1.4mより小さい場合を包含するものであるところ,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から,上記場合に過飽和の状態を安定的に維持するという発明の課題が解決できると認識することはできないから,サポート要件に適合しない。
すなわち,本件明細書には,過飽和の状態が維持された実施例1ないし13は細管の長さの値が1.4ないし4mの範囲にあることが記載され,過飽和の状態を維持できなかった比較例1及び2は細管の長さの値がそれぞれ0.4m,0.8mであることが記載されているものの(【0053】ないし【0068】),細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい範囲については,過飽和の状態が維持されるのか否かが記載されておらず,細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい範囲について本件特許発明の上記課題を解決できることの開示はない。また,本件明細書の【0030】には,比較的長尺であることが好ましいとの記載があるが,過飽和の状態を安定に維持することができる細管の長さの具体的な範囲の記載はない。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から,細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい場合に,過飽和の状態を安定に維持するとの発明の課題を解決できると認識することはできないから,本件特許発明1は,サポート要件に適合しない。
(イ)

また,本件明細書記載の実施例1ないし13には,過飽和の状態が
維持される条件として,降圧移送手段の管状路(細管5a)の内径や長さのみならず,細管5aの材料,加圧型気体溶解手段3により加えられる圧力,水素発生量,水の流量等が記載されており,これらの条件は,本件特許発明1の課題解決に不可欠であるにもかかわらず,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載がない。
この点に関し,本件明細書の【0031】には,過飽和の状態を安定に維持するために,細管5aの内径をXmmとし,加圧型気体溶解手段3により加えられる圧力をYMPaとしたときに,
X/Yの値を1.
00ないし12.00の範囲に調整する必要がある旨の記載があることに照らすと,当業者において,細管の内径X及び長さがそれぞれ本件特許発明に規定された範囲内であれば発明の課題を解決できると理解することはできないというべきである。
したがって,この点からも,当業者において,細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい場合に,過飽和の状態を安定に維持するとの発明の課題を解決できると認識することはできないから,本件特許発明1は,サポート要件に適合しない。

これに対し原告は,追加実験①及び②の実験結果に鑑みれば,本件特許発明1はサポート要件に適合する旨主張する。
しかしながら,そもそも,サポート要件の判断基準時は特許出願時であり,特許出願後に実験データを提出して明細書の発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって,その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,サポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反するものであるから,許されない。
また,追加実験①及び②に用いた気体溶解装置が本件特許発明の気体溶解装置と同じ構成であることの立証はないし,実験結果を裏付ける証拠も存在しない。かえって,被告が本件特許発明1の気体溶解装置と同じ構成の気体溶解装置を用いて行った被告実験の結果は,追加実験①及び②の実験結果とは齟齬する結果であった。
したがって,原告の上記主張は失当である。

(2)

小括
以上によれば,本件特許発明1ないし4がサポート要件に適合しないとし
た本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。第4
1
当裁判所の判断
本件明細書の記載事項について
本件明細書(甲25)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図1ないし4については別紙1を参照。)。


【技術分野】
【0001】
本発明は,気体溶解装置及び気体溶解方法に関し,特に,気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持し提供できる気体溶解装置及び気体溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,水やお茶といった飲料に二酸化炭素や水素等の気体を充填した清涼飲料水などが販売されている。このように,液体に充填させた気体を摂取することにより,気体のままでは,なかなか人間の体内に取り込めなかったものを,容易に体内に取り込むことができ,個々の気体が有する有用な効果を発揮しやすくしている。
【0003】
例えば,水やお茶といった飲料に水素ガスを充填した清涼飲料水などが販売されている。これは,液体に充填させた水素ガスを摂取することにより,人間の体内に存在する活性酸素を還元させることを目的としている。【0004】
一方,活性酸素は,クエン酸サイクルでATP(アデノシン三リン酸)を作り出す時に重要な役割を果たすなど,生命維持に必須であるとともに,体内へ侵入してきた異物を排除する役割も担っていることが判ってきている。また,生体内の反応などで用いられなかった活性酸素は,通常,細胞内に存在する酵素によって分解される。しかしながら,すべての活性酸素が酵素によって分解されるわけではなく,余剰の活性酸素が分解されずに存在することになる。その結果,余剰の活性酸素により細胞が損傷され,癌や生活習慣病等の疾病,および老化などを招来する原因となり,余剰の活性酸素を排除することが健康維持のために求められている。
【0005】
そこで,近年,かかる余剰の活性酸素を排除する物質として水素が用いられている。水素は,その分子量がきわめて小さいために身体内に吸収されやすく,さらに水素が活性酸素と反応すると水に変化するもので,安全性が高いなどの理由を有するからである。また,数多い活性酸素の中でも特にヒドロキシラジカルのみを選んで還元し,身体に有用な活性酸素に影響を与えないからである。
【0006】
このように,特段の害も無く,病気予防や健康増進につながると考えられる水素の病理学的な有効性については,非特許文献1~10など多くの学術誌等で報告されており,枚挙にいとまがない。
【0007】
上記のとおり,水素ガスの摂取は,病気予防や健康増進といった有用な効果を奏する。また,他の気体の摂取は,それぞれに特有の病気予防や健康増進といった有用な効果を奏する。そのため,水素等の気体を液体に溶解することを目的として,種々の手段が公開されている。
【0008】
例えば,特許文献1には,密閉容器(A)中で飲料水と水素ガス若しくは水素ガスを含む混合気体を加圧状態で接触させて該飲料水に水素を溶解させて水素水を生水する方法に於いて,容器(A)内の水素水が利用のために排出されて,容器(A)の内圧が低下した時点で排出を停止し,その後新規な飲料水を密閉状態の容器(A)に充填することで容器(A)の内圧を上昇させ,再度容器(A)内に充填された飲料水に水素を溶解させる水素水の生水方法が,開示されている。また,特許文献2には,飲料に供する水素水であって,水素ガスを飽和状態に溶解した溶解水を,オリフィスの小孔を通過して圧力を解放することにより溶解していた水素ガスを微細な気泡として発生させ,
この微細な気泡を網部材に導いて通過させることにより微細化させて,粒径が1μm~50μm程度の微細気泡にし,この粒径が1μm~50μm程度の水素ガスのマイクロバブルを含有していることを特徴とする水素水が,開示されている。さらに,特許文献3には,空気中の水分を結露させて凝縮した結露水を生成する結露装置と,この結露水に対して水素発生反応を生じさせることによって,活性水素を溶存した水素水を生成する水素水化処理装置と,
この水素水から不純物を除去して,
水素水とするフィルタユニットと,
この水素水を貯留して,飲料水として供給する飲料水サーバとから構成したことを特徴とする水素水製造装置が,開示されている。
【0009】
また,特許文献4には,(イ)管体と,(ロ)管体の一方の端部に形成され,原料水を高圧で供給する原料水供給系と,(ハ)管体に水密結合され,原料水供給系から供給された原料水に対して,ほぼ直角に水素を供給する水素供給系と,(ニ)管体内において前記水素供給系の下流に管体の長手方向に形成され,原料水供給系から管体に供給された原料水と,水素供給系から管体に供給された水素の混合流体を拡散させるための拡散室と,(ホ)拡散室に充填され,所定の孔径を有し,供給された水素を微細気泡として通過させるための多孔質要素と,(ヘ)管体の他方の端部に形成され,製造された加水素水を排出する排出口と,を備えている水素を微細気泡として大量に含んだ加水素水の製造装置が,開示されている。さらに,特許文献5には,水供給部と,水素供給部と,前記各供給部から水と水素の供給を受けて水素混入水を吐出する気液混合ポンプと,気液混合ポンプから吐出される水素混入水が攪拌される攪拌部と,攪拌部からの水素混入水が所定の滞流をなして溶存水素以外の水素を放出させる放気安定槽とを含んで構成されることを特徴とする水素水の連続製造装置が,開示されている。さらにまた,特許文献6には,貯留した水に水素を溶解させるための容器と,水素化マグネシウムの加水分解により水素を発生させる水素発生部と,該水素発生部で発生した水素を前記容器に供給する水素供給管と,前記容器に貯留された水に加圧された水素が溶解してなる水素水を外部へ供給する水素水供給管とを備える水素水製造装置が,開示されている。
【0010】
また,特許文献7には,加圧液体と加圧気体とを接触させることにより,気体を液体に溶解させる加圧型気体溶解機構と,液体流路において該加圧型気体溶解機構の後に設置された降圧機構とで構成される気体溶解装置であって,降圧機構が,複数のキャピラリーの内側に加圧液体を流すことにより,液体を降圧させるべく構成されたものであることを特徴とする気体溶解装置が,開示されている。


【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献1~6記載の技術は,水素水を得ることはできるものの,気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,この過飽和の状態を安定に維持できるものではなく,提供される水素水の濃度が低く,十分な水素水の効果が得られるものではなかった。さらに,装置が大掛かりであるため十分なスペース等が必要となり,ウォーターサーバー等へ容易に取付けることができないという問題点があった。
【0014】
また,特許文献7記載の技術は,降圧機構が複数のキャピラリーを有しているため,降圧機構のスペースを広く取る必要があり,ウォーターサーバー等に容易に取付けることができないという問題点があった。さらに,複数のキャピラリーを有しているため製造や故障時の修理が煩雑になり,ウォーターサーバー等に取付けて使用するには,実用化の面で問題があった。【0015】
そこで,本発明の目的は,前記の従来技術の問題点を解決し,気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持しこれを提供でき,さらにウォーターサーバー等へ容易に取付けることができる気体溶解装置を提供することにある。


【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは,前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果,降圧移送手段を設け,さらに液体にかかる圧力を調整することで,前記目的を達成し得ることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち,本発明の気体溶解装置は,水に水素を溶解させて水素水を生成し取出口から吐出させる気体溶解装置であって,生成した水素水を導いて加圧し貯留する溶存槽と,前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路において前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる降圧移送手段と,を含むことを特徴とする。かかる発明によれば,生成した水素水から水素を離脱させることなくこの外部に提供することができるのである。
【0018】
上記発明において,前記降圧移送手段は前記管状路の前記取出口近傍に管径をより大若しくはより小とするテーパーを与えた圧力調整部を含むことを特徴としてもよい。
【0019】
上記発明において,前記溶存槽には,ダイヤフラムポンプにより水と水素バブルとを同時に加圧送水する加圧型気体溶解手段が接続されていることを特徴としてもよい。
【0020】
上記発明において,前記管状路の内径及び長さをそれぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられている圧力をYとしたときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びLの値が選択されていることを特徴としてもよい。
【0021】
上記発明において,前記溶存槽に加圧貯留された水素水を再度,前記加圧型気体溶解手段に送出し水素バブルと同時に加圧送水することを特徴としてもよい。
【0022】
上記発明において,前記溶存槽に加圧貯留された水素水を水槽中に導き,前記水槽中の水を前記加圧型気体溶解手段に送出し水素バブルと同時に加圧送水することを特徴としてもよい。
【0023】
また,本発明の気体溶解方法は,水に水素を溶解させて水素水を生成し取出口から吐出させる気体溶解方法であって,生成した水素水を導いて加圧貯留する溶存槽と,前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と,を少なくとも含む気体溶解装置において,前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し前記管状路内に層流を形成させることを特徴とする。
【0024】
上記発明において,前記気体溶解装置は前記溶存槽に接続され且つダイヤフラムポンプにより水と水素バブルとを同時に加圧送水する加圧型気体溶解手段を更に含み,
前記溶存槽に加圧貯留された水素水を再度,前記加圧型気体溶解手段に送出し水素バブルと同時に加圧送水することを特徴としてもよい。
【0025】
上記発明において,前記溶存槽に加圧貯留された水素水を水槽中に導き,前記水槽中の水を前記加圧型気体溶解手段に送出し水素バブルと同時に加圧送水することを特徴としてもよい。
【0026】
上記発明において,前記溶存槽には少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを含む水素水を加圧貯留させることを特徴としてもよい。⑷

【発明を実施するための形態】
【0028】
以下,本発明の気体溶解装置について具体的に説明する。
【0029】
図1は,本発明の気体溶解装置の一例を示す断面図である。図中,1は気体溶解装置,2は気体発生手段,3は加圧型気体溶解手段,4は溶存槽,5は降圧移送手段である。気体溶解装置1は,気体を発生させる気体発生手段2と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解手段3と,気体を溶解している液体を溶存及び貯留する溶存槽4と,この液体が細管5aを流れることで降圧する降圧移送手段5と,を有している。
【0030】
ここで,降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口10を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作による管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。例えば,降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較的長尺であり径の小さいことが好ましく,管状路5aの取出口近傍に管径を絞った若しくは拡げたテーパーを与えた圧力調整部を含むものであってもよい。
【0031】
また,本発明の気体溶解装置1において,細管5aの内径をXmmとし,加圧型気体溶解手段3により加えられる圧力をYMPaとしたときに,細管5a内に層流を形成させるようなものであって,X/Yの値が,1.00~12.00であることを特徴とするものであり,さらに,X/Yの値が,3.30~10.0であることが好ましく,4.00~6.67であることがより好ましい。気体を過飽和で溶存させている液体が,かかる条件で細管5a中を層流状態で流れて降圧移送されることで,気体を過飽和の状態で液体に溶解させ,さらに過飽和の状態を安定に維持し移送することができる。ここで,過飽和とは,気体の液体への溶解度は温度により異なるが,ある温度A(℃)における気体の液体への溶解量が,その温度A(℃)における溶解度より多く存在している状態を示す。
【0032】
さらに,図1では,気体発生手段2は,水素発生手段21を有し,さらにまたイオン交換手段22を有している。また,水素発生手段21が,電気分解により水素を発生させるもので,例えば,固体高分子膜(PEM)方式として知られる公知の装置であっても良い。なお,イオン交換手段22はイオン交換樹脂等を用いてイオン交換を行うものであり,気体発生手段2はイオン交換手段22を有していることが好ましいが,必須のものではない。【0033】
図1では,今回,液体として水を使用している。図2を併せて参照すると,液体吸入口7から水を吸入し(S1),加圧型気体溶解手段3の吸入口8を経由してポンプ3aで吸入し後述する水素発生手段21からの水素を配管内にて合流させ混合し(S2’),加圧溶解(S2)後,この吐出口9から水を吐出する。吐出された水の一部を分離し(S2’’),イオン交換手段22でイオン交換し(S3)水素発生手段用取入口23を経由して水素発生手段21に送られる。水素発生手段21では,イオン交換された水を用いて電気分解(S4)により水素を発生させ水素供給管24を通して加圧型気体溶解手段3の吸入口8へと送られる。また,電気分解により発生した酸素は,酸素排出口25を通して気体溶解装置1の外へと排出される。
【0034】
電気分解により発生した水素は加圧型気体溶解手段3の吸入口8へと送られ,そのポンプ3aにより加圧されることで,液体吸入口7から吸入した水に加圧溶解される。水素を加圧溶解した水は,加圧型気体溶解手段3の吐出口9から吐出され,溶存槽4に過飽和の状態で溶存される(S5)。溶存槽4に溶存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を維持して流れることで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐出される(S7)。
【0035】
また,本発明の気体溶解装置1は,降圧移送手段5である細管5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく,1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで,特開平8-89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧することができるとともに,管内に層流を形成し得る。また,ウォーターサーバー等に容易に取付けることができ,さらに,製造や故障時の修理が容易になり,ウォーターサーバー等への取付けがより容易になる。なお,本発明において,細管の内径Xとは,単管の場合の内径だけではなく,例えば,二重管中の細管の内径X等も含むものであり,形状は問わない。
【0036】
さらに,本発明において,20℃における加圧型気体溶解手段3の圧力Yとしては,0.10~1.0MPaであることが好ましく,0.15~0.65MPaであることがより好ましく,0.20~0.55MPaであることがさらにより好ましく,0.23~0.50MPaであることが最も好ましい。圧力をかかる範囲とすることで,気体を液体中に容易に溶解できる。また,加圧型気体溶解手段3は,吐出口9の方向を上向きに設置することが好ましい。これにより,ポンプ圧送効率が上がり気体の溶解効率を高めることができる。
【0037】
さらにまた,本発明の気体溶解装置1は,加圧型気体溶解手段3で加圧して気体を溶解した液体を,
排出せずに循環して加圧型気体溶解手段3に送り,
循環した後に,降圧移送手段5に送ることが好ましい。これにより,より気体の溶解濃度を高めることができる。また,循環回数としては,特に限定されないが,1~10回以内で最高溶存濃度に達することであることが好ましく,1~5回で最高溶存濃度に達することとがより好ましい。
【0040】
また,本発明の気体溶解装置1は,加圧型気体溶解手段3としては気体と液体とを同時に加圧して気体を液体に溶解できるものであり,特に限定されないが,ダイヤフラムポンプ3aを含むことが好ましい。ダイヤフラムポンプ3aを用いることで,より小スペースに加圧型気体溶解手段3を設けることができる。
【0041】
さらに,本発明の気体溶解装置1は,流量に対して1/3の容量の溶存槽4となるように,
溶存槽4を1個または2個以上複数有することが好ましく,
特に2個以上有することが好ましい。2個以上とすることで,より効率よく短時間で気体を高濃度に溶解できる。図1では,多孔質体などからなるマイクロフィルターを内部に含む溶存タンク41と活性炭フィルターを内部に含む溶存タンク42を有しており,これにより過飽和の状態をより安定に維持することができる。
【0042】
また,本発明において,溶存槽4としては,気体を溶解した状態で加圧下で溶存できれば,
特に形状等は限定されず,
マイクロフィルターや活性炭
(カ
ーボン)フィルターは他のフィルターであってもよい。さらに,溶存槽4は,溶存タンク41の上側から気体を溶解した液体を取り込み,下側から降圧移送手段5へと送られることが好ましい。これにより,溶存タンク41中の上部に気体が溜まることで液体と気体を分離出来,気体が溶存した液体のみが降圧移送手段5へと送ることができるため,気体のみを降圧移送手段5へと送られることを防止でき,気体の溶解を安定した状態で生成・維持できる。⑸

【0043】
図3は,本発明の気体溶解装置の使用の一例を示す図である。図中,100はウォーターサーバーである。ウォーターサーバー100に気体溶解装置1’を取付けることで,ウォーターサーバー100中の水を用いて,水素ガスを発生させ,さらにそれを用いて過飽和の水素水を供給することできる。また,
過飽和の水素水をウォーターサーバー100中に保存できるとともに,循環できるので,常に過飽和の水素水を供給することができる。
【0044】
詳細には,図4を併せて参照すると,ウォーターサーバー100から水,気体発生手段2から水素を同時に加圧型気体溶解手段3のダイヤフラムポンプ3aに導かれ,これで加圧しながらバブリングし水素水を得る。かかる水素水はダイヤフラムポンプ3aでの加圧状態を維持しながら,多孔質体などからなるマイクロフィルター(溶存タンク)41,活性炭フィルター(溶存タンク)42を通じて,降圧移送手段5の細管5aを経て再び,ウォーターサーバー100に導かれる。また,ダイヤフラムポンプ3aを出た水素水の一部は,イオン交換手段22を介して水素発生手段21に送られ電気分解されて水素を発生させる。かかる水素は気体溶解装置3のダイヤフラムポンプ3aに送られる。
【0045】
かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された。
【0046】
上記では,気体として水素を用いた例を示したが,他の気体を過飽和の状態で溶解することも可能である。例えば,気体発生手段2として炭酸ガスボンベ,窒素ガスボンベ,酸素ガスボンベ等を用いれば,種々の気体を過飽和で溶解することができる。これにより,水素,二酸化炭素,窒素および酸素からなる群より選ばれる一種以上の気体を液体に過飽和で溶解することができる。
【0047】
ただし,気体としては水素が最も好ましい。水素は分子量が小さく,しかも液体中の内容物と内容物の間,例えば水と水との分子の間に入って,より過飽和の状態を維持しやすいと考えられる。
また,
水素の液体中の濃度が7℃
で2.0ppmより大きいことが好ましく,2.0~8.0ppmであることが好ましい。2.0ppmより大きいことで過飽和状態を維持できる。【0048】
さらに,本発明において,液体の温度を30~95℃で水素を溶解することができ,液体中の濃度が42℃で2ppmより大きいことが好ましく,3~4ppmであることが好ましい。2ppmより大きいことで,水素水をシャワーや入浴等にも使用できる。また,お湯の温度80℃時の水素溶存濃度が1.0ppm以上であることが好ましい。
【0049】
また,本発明において,気体として水素が用いられる場合,上記図1および図3の水素発生手段21に示すように,電気分解により発生した水素であることが好ましい。例えば,固体高分子膜(PEM)方式でなくとも,25%KOHを含む水溶液をアルカリ式電解槽にいれ,これを電気分解することで水素を発生させ,かかる水素を気体として使用することができる。これにより,従来の水素ボンベによる充填では約15MPa必要であるのに対し,約1MPa以下の圧力で使用することができ,より安全に使用できる。また,オンサイトで水素発生手段21から発生した水素を気体として使用することで,ボンベから供給する場合と比較してコストを格段に安くすることができる。
【0051】
また,本発明において,降圧移送手段5である細管は,本発明の効果を妨げない範囲において,通常の液体や気体を流す際に使用できる部材を使用することができ,例えば,ポリプロピレン製の細管を使用できる。また,細管の外部にアルミを蒸着するなど,気体の漏れが無い構造とすることが好ましい。


【0052】
以下,本発明について,実施例を用いてさらに詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ1.
6mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.41MPa,水素発生量を21cm³/min,水の流量を730cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で6.5ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0054】
(実施例2)
図1に示す気体溶解装置1を水道に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,内径2mmで長さ1.6mのポリプロピレン製のものを使用した。圧力を0.25MPa,水素発生量を21cm³/min,水の流量を730cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,11℃で2.6ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0055】
(実施例3)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ1.
6mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.30MPa,水素発生量を21cm³/min,水の流量を730cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で5.9ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0056】
(実施例4)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ1.
5mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.35MPa,水素発生量を25cm³/min,水の流量を590cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で3.0ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0057】
(実施例5)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ1.
6mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.38MPa,水素発生量を25cm³/min,水の流量を560cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で3.8ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0058】
(実施例6)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ1.
8mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.40MPa,水素発生量を25cm³/min,水の流量を540cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で4.2ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0059】
(実施例7)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ1.
8mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.45MPa,水素発生量を20cm³/min,水の流量を560cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で4.5ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0060】
(実施例8)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ1.
8mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.50MPa,水素発生量を15cm³/min,水の流量を570cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で4.2ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0061】
(実施例9)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ2.
0mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.60MPa,水素発生量を15cm³/min,水の流量を460cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で3.4ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0062】
(実施例10)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ1.
4mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.20MPa,水素発生量を30cm³/min,水の流量を550cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で2.7ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0063】
(実施例11)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,内径2mmで長さ3mのポリプロピレン製のものを使用した。圧力を0.50MPa,水素発生量を20cm³/min,水の流量を550cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で2.4ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0064】
(実施例12)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,内径3mmで長さ4mのポリプロピレン製のものを使用した。圧力を0.35MPa,水素発生量を20cm³/min,水の流量を650cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で3.5ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0065】
(実施例13)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径3mmで長さ2.
5mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.25MPa,水素発生量を20cm³/min,水の流量を700cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で3.0ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。
【0066】
(比較例1)
図1に示す気体溶解装置1を図2に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,
内径2mmで長さ0.
4mのポリプロピレン製のものを使用した。
圧力を0.05MPa,水素発生量を21cm³/min,水の流量を960cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で1.6ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持できなかった。
【0067】
(比較例2)
図1に示す気体溶解装置1を図2に示すように市販のウォーターサーバーに接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,内径3mmで長さ0.8mのポリプロピレン製のものを使用した。圧力を0.08MPa,水素発生量を21cm³/min,水の流量を900cm³/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で1.8ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持できなかった。
【0068】
実施例1~実施例13はいずれも過飽和状態の水素水を得ることができ,しかも持続的に維持できた。一方,比較例1および2では,過飽和状態の水素水を得ることができなかった。


【産業上の利用可能性】
【0069】
水道やウォーターサーバーだけでなく,お茶やジュース等の飲料,あるいは浴槽などにも取付けることができる。気体を過飽和の状態で液体に溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持することが求められる種々の液体に利用することができる。

2
本件特許発明1ないし4のサポート要件の適合性の判断の誤りについて本件審決は,本件明細書の記載から,本件特許発明1ないし4の課題は気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持することであり,当該課題を降圧移送手段を設け,かつ液体にかかる圧力を調整することにより,解決できることが理解できるが,一方で,0.8mより長い細管には,水素水を過飽和の状態とし,かつ,これを安定に維持することができない例が含まれることは当業者であれば十分に認識しうる事項であるから,過飽和の状態が安定に維持できると認めることができない数値範囲が含まれている本件特許発明1ないし4は,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり,サポート要件に適合しない旨判断したが,原告は,本件審決の上記判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。


本件特許発明1ないし4の課題について

前記1の本件明細書の記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明1に関し,次のような開示があることが認められる。(ア)

従来の水素水製造装置等の技術は,水素水を得ることはできるもの
の,気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,この過飽和の状態を安定に維持できるものではなく,提供される水素水の濃度が低いため,十分な水素水の効果が得られるものではないという問題点があった(【0008】ないし【0010】,【0013】)。
(イ)

本発明は,前記(ア)の従来技術の問題点を解決し,気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持する気体溶解装置
を提供することを目的とするものであり【0015】,


本発明者らは,降圧移送手段を設け,さらに液体にかかる圧力を調整することで,前記目的を達成し得ることを見出し,本発明を完成するに至った(【0016】)
そして,本発明の気体溶解装置は,水に水素を溶解させて水素水
を生成し取出口から吐出させる気体溶解装置であって,生成した水素水を導いて加圧し貯留する溶存槽と,前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路において前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる降圧移送手段と,を含むことを特徴とし,生成した水素水から水素を離脱させることなく外部に提供することができる(【0017】)。

前記アによれば,本件明細書には,本件特許発明1の課題は,気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持する気体溶解装置
を提供することにあり,
その課題を解決する手段として,
降圧移送手段を設け,さらに液体にかかる圧力を調整する構成を採用したことが開示されているものと認められる。
また,本件特許発明1を直接的又は間接的に引用して発明特定事項に含む本件特許発明2ないし4の課題についても,これと同様である。
(2)

サポート要件の適合性について
前記1の本件明細書の記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,①本発明の気体溶解装置1は,気体を発生させる気体発生手段2と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解手段3と,気体を溶解している液体を溶存及び貯留する溶存槽4と,この液体が細管5aを流れることで降圧する降圧移送手段5とを備えること(【0029】,図1),本発明の気体溶解方法は,水に水素を溶解させて水素水を生成し取出口から吐出させる気体溶解方法であって,生成した水素水を導いて加圧貯留する溶存槽と,前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と,を少なくとも含む気体溶解装置において,前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し前記管状路内に層流を形成させることを特徴とすること(【0023】),②加圧型気体溶解手段に関し,電気分解により発生した水素は加圧型気体溶解手段によ
り加圧されることで,液体吸入口7から吸入した水に加圧溶解され,水素を加圧溶解した水は,加圧型気体溶解手段の吐出口9から吐
出され,溶存槽4に過飽和の状態で溶存されること(【0034】),20℃における加圧型気体溶解手段3の圧力Yとしては,10~1.0.0MPaであることが好ましく,0.15~0.65MPaであることがより好ましく,0.20~0.55MPaであることがさらにより好ましく,0.23~0.50MPaであることが最も好ましい。圧力をかかる範囲とすることで,気体を液体中に容易に溶解できる(こと【0036】,

③降圧移送手段に関し,降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口10を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作による管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。例えば,降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較的長尺であり径の小さいことが好ましいこと(【0030】),溶存槽4に溶存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を維持して流れることで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐出される(S7)こと(【0034】),降圧移送手段5である細管5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく,1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで,特開平8-89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧することができるとともに,管内に層流を形成し得ること(【0035】),④細管の内径X及び長さL,加圧型気体溶解手段の圧力Yと層流との関係に関し,細管5aの内径をXmmとし,加圧型気体溶解手段3により加えられる圧力をYMPaとしたときに,細管5a内に層流を形成させるようなものであって,X/Yの値が,1.00~12.00であることを特徴とするものであり,さらに,X/Yの値が,3.30~10.0であることが好ましく,4.00~6.67であることがより好ましい。気体を過飽和で溶存させている液体が,かかる条件で細管5a中を層流状態で流れて降圧移送されることで,気体を過飽和の状態で液体に溶解させ,さらに過飽和の状態を安定に維持し移送することができること(【0031】),上記発明において,前記管状路の内径及び長さをそれぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられている圧力をYとしたときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びLの値が選択されていることを特徴としてもよいこと(【0020】)の記載がある。
上記記載によれば,
本件明細書の発明の詳細な説明には,
本発明の気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段により水素を過飽和の状態で液体に溶解させて水素水を生成し,この水素水が降圧移送手段である管状路内で層流状態を維持して流れることで降圧され,過飽和の状態を維持して水素水吐出口10に移送する構成を採用し,これにより気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持するという本発明の課題を解決できることの開示があるものと認められる。
ここに過飽和とは,

気体の液体への溶解度は温度により異なるが,ある温度A(℃)における気体の液体への溶解量が,その温度A(℃)における溶解度より多く存在している状態を示す。こと

(本件明細書の
【0
031】),層流とは,一般に,速度の方向がそろった規則的な流れであって,流速が十分遅いときに実現するものであること(甲39の1)をいう。また,細管の内径X及び長さL,加圧型気体溶解手段の圧力Yという変数に関し,L及びYの2つの変数の値が同じであれば,細管の内径Xの値が大きいほど,細管内を流れる液体の流速が遅くなり得ること,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きければ,気体を液体に多く溶解させることができるが,細管内を流れる液体の流速は速くなり得ること,細管の長さLの値が大きければ,細管内壁の抵抗により細管内を流れる液体の流速が遅くなり得ることは,技術常識であるものと認められる。

前記アのとおり,本件明細書には,上記発明において,前記管状路の内径及び長さをそれぞれX,Lとし,前記加圧型気体溶解手段に加えられている圧力をYとしたときに,前記管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びLの値が選択されていることを特徴としてもよい(【0020】)との記載があるが,水素水に層流を形成させるようにするにはX,Y及びLの値をどのように選択されるのかについての明示的な記載はない。
そこで,本件明細書記載の実施例1ないし13及び比較例1及び2に基づいて,以下において検討する。なお,別紙2は,実施例1ないし13及び比較例1及び2を一覧表にまとめたものである。
(ア)

まず,実施例1ないし3(【0053】ないし【0055】)を比
較すると,
別紙2のとおり,
3つの実施例で細管の内径Xの値は2mm,
長さLの値は1.
6m及び水素水の流量の値は730cm³/minと同
じであるところ,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値は,実施例1は0.41Mpa,実施例2は0.25Mpa,実施例3は0.30Mpaである。加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が最も大きい実施例1の水素濃度は6.5ppmと最も大きく,圧力Yの値が最も小さい実施例2の水素濃度の値は2.6ppmと最も小さく,両実施例の差は3.9ppmである。
このような実施例1ないし3の比較の結果は,前記アの技術常識に照らすと,
細管の内径X及び長さLと水素水の流量の各値が同じであれば,
加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きいほど,水素が水に多く溶け込むため,生成時における水素濃度の値が大きくなる結果,測定時における水素濃度の値も大きくなっているものと理解できる。
(イ)

次に,実施例5(【0057】)と実施例7(【0059】)を比
較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm及び水素水の流量の値は560cm³/minと同じであるが,
加圧型気体溶
解手段の圧力Yの値は,実施例5が0.38Mpa,実施例7が0.45Mpaで,実施例7は実施例5の約1.18倍であり,また,細管の長さLの値は,実施例5が1.6m,実施例7が1.8mで,実施例7は実施例5の約1.13倍である。水素濃度の値は,実施例5が3.8ppm,
実施例7が4.
5ppmであり,
両実施例の水素濃度の差は0.
7ppmであり,実施例2と実施例3との水素濃度の差3.9ppmと比べると,その差はわずかである。このような実施例5と実施例7の比較の結果は,細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合において,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれおおむね同じ割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおおむね同じであり,水素濃度が高まらないことを示している。
また,実施例10(【0062】)と実施例11(【0063】)を比較すると,別紙2のとおり,両実施例で細管の内径Xの値は2mm,水素水の流量の値は550cm³/minと同じであるが,
加圧型気体溶
解手段の圧力Yの値は,
実施例10が0.
20Mpa,
実施例11が0.
50Mpaで,実施例11が実施例10の2.5倍であり,細管の長さLの値は,実施例10が1.4m,実施例11が3mで,実施例11は実施例10の約2.14倍である。水素濃度の値は,実施例10が2.7ppm,実施例11が2.4ppmであり,実施例10が実施例11よりも0.3ppm高いが,実施例2と実施例3との水素濃度の差3.9ppmと比べると,その差はわずかである。このような実施例10と実施例11の比較の結果は,
実施例5と実施例7の比較の結果と同様に,
細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合において,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値と細管の長さの値をそれぞれおおむね同じ割合で増加させたときは,増加の前後で,水素濃度はおおむね同じであり,水素濃度が高まらないことを示している。
これらの実施例の比較の結果及び前記(ア)の実施例1ないし3の比較の結果と前記アの技術常識から,細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合に,水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値の増加割合が細管の長さLの値の増加割合よりも大きくなるように各値を選択すればよいことを理解できる。
(ウ)

他方,比較例1及び2については,別紙2のとおり,比較例1は,
細管の内径Xの値が2mm,細管の長さLの値が0.4m,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が0.05MPa,水素水の流量の値が960cm³/min,水素濃度の値が1.6ppm,比較例2は,細管の内径Xの値が3mm,細管の長さLの値が0.8m,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が0.08MPa,水素水の流量の値が900cm³/min,水素濃度の値が1.8ppmであって,いずれも過飽和の状態を維持できなかったものであるところ(【0066】,【0067】),比較例1及び2は,圧力Yの値が0.05又は0.08MPaであって,実施例1ないし13における圧力Yの値(0.20ないし0.60MPa)と比べて相当小さかったため,そもそも,加圧型気体溶解手段によって水素水生成時に過飽和の状態の水素水を得ることができなかったことによる可能性もあるものと理解できる。

前記ア及びイを総合すると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から,本件特許発明1の気体溶解装置は,水に水素を溶解させて水素水を生成し,取出口から吐出させる装置であって,気体を発生させる気体発生手段と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解手段と,気体を溶解している液体を導いて溶存及び貯留する溶存槽と,この液体が細管からなる管状路を流れることで降圧する降圧移送手段とを備え,降圧移送手段により取出口からの水素水の吐出動作による管状路内の圧力変動を防止し,管状路内に層流を形成させることに特徴がある装置であり,一方,必ずしも厳密な数値的な制御を行うことに特徴があるものではないと理解し,例えば,細管の内径(X)が1.0mmより大きく3.0mm以下で,かつ,細管の長さ(L)の値が0.8mより大きく1.4mより小さい数値範囲のときであっても,細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合に水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値を大きくすればよく,この場合に加圧型気体溶解手段の圧力Y及び細管の長さLの値をいずれも大きくして,水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値の増加割合が細管の長さLの値の増加割合よりも大きくなるように各値を選択すればよいこと(前記イ)を勘案し,細管からなる管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びLの値を選択することにより,気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持するという本件特許発明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。

これに対し被告は,①当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から,細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい場合に,過飽和の状態を安定に維持するとの発明の課題を解決できると認識することはできないから,本件特許発明1は,サポート要件に適合しない,②過飽和の状態が維持される条件として,降圧移送手段の管状路(細管5a)の内径や長さのみならず,細管5aの材料,加圧型気体溶解手段3により加えられる圧力,水素発生量,水の流量等の条件は,過飽和の状態を安定に維持するという本件特許発明1の課題の解決に不可欠であるにもかかわらず,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1にはそれらの条件が記載されていないため,当業者は,細管の内径X及び長さがそれぞれ本件特許発明1に規定された範囲内であれば,本件特許発明1の上記課題を解決できると認識することはできないから,この点からも,本件特許発明1は,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,前記ウ認定のとおり,本件特許発明1において細管の長さの値が0.8mより大きく1.4mより小さい場合においても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて,当業者が,本件特許発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから,被告の上記主張は,いずれも理由がない。


小括
以上によれば,
本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時
の技術常識に基づいて,当業者が,本件特許発明1の発明特定事項の全体にわたり,本件特許発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認められる。本件特許発明2ないし4についても,これと同様である。したがって,
本件特許発明1ないし4はサポート要件に適合するものと認
められるから,これを否定した本件審決の判断は誤りである。
よって,原告主張の取消事由は理由がある。

3
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,本件審決は取り消さ
れるべきである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

國分隆文
裁判官

筈井卓矢
(別紙1)

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

(別紙2)

X
Y(Mpa)

X/Y

L(m)

水素濃度

(㎤/min)

(mm)

流量

(ppm)

実施例1

2
0.41

4.881.6

730

6.5

実施例2

2
0.25

8
1.6

730

2.6

実施例3

2
0.30

6.671.6

730

5.9

実施例4

2
0.35

5.711.5

590

3.0

実施例5

2
0.38

5.261.6

560

3.8

実施例6

2
0.40

5
1.8

540

4.2

実施例7

2
0.45

4.441.8

560

4.5

実施例8

2
0.50

4
1.8

570

4.2

実施例9

2
0.60

3.332.0

460

3.4

実施例10

2
0.20

10

1.4

550

2.7

実施例11

2
0.50

43
550

2.4

実施例12

3
0.35

8.574

650

3.5

実施例13

3
0.25

12

2.5

700

3.0

比較例1

2
0.05

40

0.4

960

1.6

比較例2

3
0.08

37.5

0.8

900

1.8

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