判例検索β > 平成27年(行ウ)第667号
行政措置要求判定取消請求事件
事件番号平成27(行ウ)667
事件名行政措置要求判定取消請求事件
裁判年月日令和元年12月12日
裁判所名・部東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-12-12
情報公開日2020-06-04 22:30:51
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令和元年12月12日判決言渡
平成27年
(行ウ)
第667号

同日原本領収

裁判所書記官

行政措置要求判定取消請求事件
(以下
第1事件

という。)
平成27年(ワ)第32189号
口頭弁論終結日

国家賠償請求事件(以下第2事件という。)

平成31年3月25日
判主1決文
人事院が平成27年5月29日付けでした国家公務員法(昭和22年法律第120号)第86条の規定に基づく原告による勤務条件に関する行政措置の各要求に対する平成25年第9号事案に係る判定のうち原告が女性トイレを使用
するためには性同一性障害者である旨を女性職員に告知して理解を求める必要があるとの経済産業省当局による条件を撤廃し,原告に職場の女性トイレを自由に使用させることとの要求を認めないとした部分を取り消す。
2
被告は,原告に対し,132万円及びこれに対する平成27年11月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,これを20分し,その3を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求

1
第1事件に係る請求


人事院が平成27年5月29日付けでした国家公務員法第86条の規定に基づく原告による勤務条件に関する行政措置の各要求に対する平成25年第9号事案に係る判定のうち原告が異動するためには戸籍上の性別変更又は異
動先の同僚職員への性同一性障害者である旨の告知が必要であるとの経済産業省当局による条件を撤廃し,また,今後異動することとなった場合には,異動先の管理職等に申請者が性同一性障害者である旨の個人情報を提供しないこと及び健康診断の時間帯を女性職員と同一にすることとの要求を認めないとした部分を取り消す。

2
主文第1項と同旨である。
第2事件に係る請求
被告は,原告に対し,1652万6219円及びこれに対する平成27年1
1月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件のうち第1事件は,トランスジェンダー(MaletoFemale)であり,国
家公務員である原告が,その所属する経済産業省において女性用トイレの使用に関する制限を設けないこと等を要求事項として国家公務員法第86条の規定に基づいて人事院に対してした勤務条件に関する行政措置の各要求(以下本件各措置要求という。)に関し,本件各措置要求がいずれも認められない旨の判定(以下本件判定という。)を受けたことから,本件判定がいずれも
違法である旨を主張して,本件判定に係る処分の取消し(行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)第3条第2項)を求めた事案である。
本件のうち第2事件は,上記のとおりの原告が,経済産業省において女性用トイレの使用についての制限を受けていること等に関し,経済産業省の職員らがその職務上尽くすべき注意義務を怠ったものであり,これによって損害を被
った旨を主張して,国家賠償法(昭和22年法律第125号)第1条第1項の規定に基づく損害賠償請求として,被告に対し,慰謝料等の合計1652万6219円及びこれに対する第2事件に係る訴状の送達の日の翌日である平成27年11月21日から支払済みまで民法(明治29年法律第89号)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2
前提事実(括弧内において掲記する証拠又は弁論の全趣旨によって容易に認めることができる事実等)


原告の経歴等

原告は,昭和●●年●●月●●日生まれのトランスジェンダー(出生した時に割り当てられた性別と自認している性別とが一致しない状態又はその状態の者をいう。)であり,専門医から性同一性障害の診断を受けてい
る者である。原告の身体的性別(生物学的な性別)は男性であり,自認している性別(心理的な性別)は女性である。原告は,精巣摘出手術,陰茎切除術,造膣術,外陰部形成術といった性別適合手術,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成15年法律第111号。以下性同一性障害者特例法という。)第3条第1項に規定する性別の取扱いの
変更の審判を受けておらず,その戸籍上の性別も男性である。(甲1の1から2まで及び98並びに弁論の全趣旨)

原告は,平成●年度国家公務員採用●●試験(●●)に合格し,平成●年4月1日に,●●●●●として採用された(同省の職員の身分引継ぎに
ついては,中央省庁等改革のための国の行政組織関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第102号)附則第3条の規定及び中央省庁等改革のための国の行政組織関係法律の整備等に関する法律附則第三条の審議会等の委員等に類する者及び従前の府省等の相当の新府省等を定める政令(平成12年政令第315号)第2条の規定に基づき,平成13年1月6
日から,経済産業省が従前の通商産業省の相当の新省とされた。以下同日の前後を通じて通商産業省及び経済産業省を経産省という。)。その後の原告の異動や役職名の変更等の状況は,おおむね次の
とおりであるが,平成16年5月1日以降については,役職名の変更にかかわらず,原告が実際に執務する場所は,経産省甲(平成23年7月1日
以降は,
経産省乙に組織変更された。
以下当該組織変更の前後を通じて

という。)丙(上記の組織変更の前後を通じて単に丙という。)のままであった。(甲13,104,乙9の2,19の1及び19の2並びに弁論の全趣旨)
(以下省略)
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(以下省略)


原告による女性用トイレの使用の求め及び当該求めに対する経産省の対応


原告は,幼少の頃から,自らの身体的性別が男性であることに強い違和感を抱いており,平成10年頃からは,女性ホルモンの投与や性同一性障害の専門医によるカウンセリングを受けるようになり,
平成11年頃には,
lメンタルクリニックのa医師から性同一性障害との診断を受けた。その後,原告は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。原告は,平成19年頃から,私的な時間に,女性としての生活を送るようになり,平成20年頃からは,私的な時間の全てを女性とし
て過ごすようになった。(甲1の1,1の2,160,乙21及び原告本人並びに弁論の全趣旨)

原告は,平成21年7月24日に,丙のb(以下bという。bがこの地位に在った期間は,
平成20年4月から平成26年3月までである。

に対し,自らが性同一性障害であることを伝えるとともに,次の異動を契
機に女性職員として勤務したい旨の要望を申し入れた。bは,原告の当該申入れに対する検討や対応を丙のみではなく,経産省全体として行うべきものであると判断し,乙の人事等を担当する丁及び経産省全体の人事等を担当する秘書課に報告した。これ以降,経産省においては,秘書課のc調査官(以下c調査官という。c調査官がこの地位に在った期間は,平
成19年7月から平成22年7月までである。)が主たる担当者となって当該申入れに係る対応を検討していくことになった。(乙128及び弁論の全趣旨)

原告は,平成21年10月23日,c調査官,bらの同席の下で,経産省の労働保健統括医であるd医師(以下d医師という。)と面談(以下平成21年10月23日面談という。)をした。原告は,平成21年10月23日面談に際し,経産省において女性職員として勤務することを希望することやその理由等を記載した文書を提出し,当該文書に沿って要望事項を伝えるなどした。当該文書には,要望の理由として,日本精神
神経学会性同一性障害に関する委員会の作成に係る性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第3版)(以下ガイドライン第3版という。なお,ガイドライン第3版は,その後,第4版に改訂されたものが,平成23年11月19日付けで日本精神神経学会の理事会において承認された。)が性別適合手術を実施するための条件として希望する性別での実生活経験の存在を挙げていることや,原告が近い将来に性別適合手術を受けることを希望しており,そのためには職場での女性への性別移行も
必要であることが記載されていた。また,原告は,平成21年10月23日面談の後,ガイドライン第3版を踏まえ,改めて具体的な要望事項を記載した文書を秘書課に提出した。当該文書に記載されていた要望事項(以下本件各要望事項という。)は,おおむね,原告が平成21年10月23日面談に当たって提出した上記の文書に記載されていた要望事項と同
旨であり,その内容は,次の

とおりであった。

女性の身なり(服装,髪型及び化粧)での勤務を了承すること。
女性用休憩室及び女性用トイレの使用を認めること。
健康診断において乳がん検診を受けられるようにすること。
出勤簿の名札の色を男性用の青色から女性用の赤色に変更すること。
経産省内で完結する書類,システム等における名前及び性別を女性に変更すること。
電子メールアドレス及び経産省内のアドレス帳における名前を変更すること。
身分証の名前及び写真を変更すること。

(甲5,乙4,14,21,22,128,129及び132並びに弁論の全趣旨)

秘書課は,平成21年10月下旬頃,人事院に対し,性同一性障害の国家公務員に関する同種の事例の有無を照会したところ,人事院は,そのよ
うな事例はない旨の回答をした。また,秘書課は,同年11月頃,他の官庁で同種の事例が一件存在することを把握したが,当該事例は,性別適合手術を行った後に当該官庁が相談を受けたものであったため,本件各要望事項への対応を検討するに当たっての参考にはならないと判断した。このような状況の中で,
c調査官は,
ガイドライン第3版をよりどころとして,
本件各要望事項への対応を検討し始めた。もっとも,ガイドライン第3版には,性別適合手術を実施するための条件として希望する性別での実生活
経験が挙げられており,

プライベートな場所では、希望する性別での生活を当事者が望むスタイルでほぼ完全に送られており、この状態が後戻りしないで少なくとも1年以上続いていること

等と記載されていたものの,
職場における希望する性別での実生活経験については記載がなかった。そこで,c調査官は,原告に対し,職場での女性への性別移行が必要である
とする根拠等を確認することとした。(乙16の1,16の2,22,23及び129並びに弁論の全趣旨)

c調査官は,同年11月2日に原告と行った面談において,ガイドライン第3版の上記エの記載内容を踏まえ,原告が女性職員として勤務するこ
とを希望している理由等を尋ねたところ,原告は,ガイドライン第3版を作成した日本精神神経学会性同一性障害に関する委員会の委員であるe医師(以下e医師という。)が,職場において女性としての実生活経験を積むべきであるとの意見を述べている旨を回答した。また,原告は,当該面談において,1年以内ではなく,二,三年後に性別適合手術を受ける
ことを想定している旨を述べた。
当該面談の後,
原告は,
c調査官に対し,
e医師の

職場への説明としては、「私生活

はあくまで最低限の条件であって、原則はやはり職場でも望みの性別で送ることが求められる、と言う見解を伝えればと思います。」といった意見や,nメンタルクリニックのf医師の

プライベートな時間のみではなく、職場においても実生活経験を行うべき。

といった意見を伝えた。(乙24,27,28及び129並びに弁論の全趣旨)

c調査官は,その後も本件各要望事項への対応の検討を進め,平成22年2月22日には,
秘書課の顧問弁護士から,
組織としての姿勢について,

本人によるカミングアウトを前提として、職員の病気への理解を求めることや可能な範囲で本人の悩みを解決するなどの支援を行う。

,組織としては、広い意味でのセクハラを防止する必要があり、他の職員が不快と思い組織として対応できないことについては本人に我慢してもらう必要がある。本人の権利の主張もあるが、他の職員、特に女性職員の保護が重要。との助言を受けた。また,本件各要望事項のうち女性用の休憩室及びトイレの使用については,

男性である限り、女性には危険が及ぶおそれがあることから休息室・トイレの使用は認めるべきではない(女性職員が被害者になるおそれがある)。

トイレは個室になっているので男性用トイレで我慢してもらうか、男女共用トイレや身障者用トイレの使用を促す。

等の助言を受けた。(乙29,30及び証人j並びに弁論の全趣旨)

c調査官は,同月下旬頃,上記カの助言を踏まえ,原告と面談を行ったところ,原告は,同年3月3日,c調査官に対してe医師の作成に係る同日付けの診断書を提出した。当該診断書には,ガイドライン第3版の解釈について,

ガイドライン上、「プライベートな場所では

と記されているが、これはあくまでも、最低限の基準を示したものである。性別適合手
術が不可逆的に生殖機能を喪失させる治療行為であることより、その実施は慎重であることが望ましい。
そのため、
プライベートな場所だけでなく、
可能な限り、職場においても望みの性別で過ごし、適応に問題なく性別変更がQOLの向上にプラスの効果を与えることが示された後に、性別適合手術が行われることが望ましい。と記載されていたほか,

原告については,

女性ホルモンの投与により,性衝動に基づく性暴力の可能性は低いと判断されることなどが記載されていた。(乙31及び弁論の全趣旨)ク
同年6月から7月にかけて,秘書課は,本件各要望事項への対応を検討し,次のとおりの内容の方針案を策定した。当該方針案を策定する過程で本件各要望事項についての基本的な考え方を関係各部署に対して説明するために秘書課が作成した資料には,性同一性障害者特例法第3条第1項第
4号及び第5号に規定する要件を満たすためには性別適合手術を受ける必要があること,ガイドライン第3版においては性別適合手術を実施するための条件として希望する性別での実生活経験が必要とされていること,そのため原告が本件各要望事項の実現を望んでいることなどが記載されていた。(乙32から34まで及び弁論の全趣旨)

1.の要件を満たす者については、2.の対応を採ることとする。1.性同一性障害者として対応すべき者の要件(1)専門医により性同一性障害と診断されており、かつ健全な仕事を行うためには職場において女性(男性)としての扱いが必要であると診断されていること。(2)当省の労働保険医が本人と面談を行うとともに、現場の受け入れ体制等についてアドバイスを行っていること。(3)私生活において、女性(男性)としての生活を継続的に行っていること。(4)継続的なホルモン治療など身体的治療を行っており、将来についても継続治療の意志が明らかであること。2.対応すべき事項(1)女性(男性)らしい服装・髪型・化粧については、本人の意志に任せる。(2)女子(男性)休息室の使用については、使用して差し支えない。(3)女子(男性)トイレの使用については認めるが、他の職員への配慮の観点から、限定して使用するよう本人に促す。(例えば、1階の来客者が使用するトイレや障害者用トイレなどの執務室から離れたトイレの使用。)(4)通称名の使用(身分証明書、メールアドレス等)については認めない。(戸籍上の名前の変更が基本。)(5)乳ガン検診については、希望があれば認める。(6)出勤簿のインデックス(男性:青、女性:赤)については、男女の区別をなくす変更を行う。ケ
c調査官は,同月8日頃,原告やbら関係者4名と共に,本件各要望事項への対応についての協議を行った際,原告に対し,上記クの方針案の内容を口頭で伝えるとともに,本件各要望事項への対応に当たっては,少な
くとも原告が所属する丙の職員に対して原告が性同一性障害であることや当該方針案について説明した上で理解を得る必要がある旨を伝えたところ,原告もこれを了承したので,後日,その説明会を実施することとなった。(甲20,160,乙128,129,証人c及び原告本人並びに弁論の全趣旨)


同月14日,丙の職員に対して原告が性同一性障害であること等についての説明をするための説明会が2回に分けて行われた(以下当該説明会を本件説明会という。)。当時,丙に在籍していた職員の数は,62名であり,
当日に不在であった者を除き,
ほぼ全員が本件説明会に出席した。

本件説明会においては,まず,c調査官が性同一性障害に関する一般的な説明を行い,続いて,bが本件説明会の趣旨を説明した後,自らが性同一性障害であることやこれまでの自分の気持ち,職場でも女性職員として働くことを望んでいることなどを原告自身が述べた。
その後,
原告が退席し,
c調査官らは,出席していた職員から,原告が今後に女性用トイレを使用
すること等についての意見を聴取するなどした。(甲140,乙35,128から130まで,証人c,証人h及び証人b並びに弁論の全趣旨)サ
原告は,本件説明会が開催された翌週から,女性の身なりで勤務するようになり,経産省が使用を認めた女性用トイレ(経産省は,原告に対し,丙の執務室が在る経産省の庁舎の戊(以下単に戊という。)●階から2階以上離れた階の女性用トイレの使用を認めた。)のうち,主に戊●階及び●階の女性用トイレを日常的に使用するようになった。当時,経産省
の庁舎内の女性用トイレには,洗面台等の共有スペースがあったほか,個室のトイレが設けられていた。戊には,男女別のトイレが各階の北側,中央及び南側の3か所に,多目的トイレ(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律施行令(平成18年政令第379号)第14条第1項第1号に規定する車椅子使用者用便房をいう。以下同じ。)が1階,2
階,5階,8階,10階及び11階の中央にそれぞれ設置されていたが,経産省は,原告に対し,戊●階から●階までの女性用トイレの使用を認めなかった(以下この処遇を本件トイレに係る処遇という。)ため,原告は,当該女性用トイレを使用せず,男性用トイレ及び多目的トイレも使用しなかった。また,原告は,体調が優れないときには,戊●階に在る女
性用仮眠室を使用するようになった。(甲16,乙17及び104から107まで並びに弁論の全趣旨)

原告は,平成23年●月●●日付けで●●家庭裁判所●●支部から名の変更についての許可(同支部平成23年(家)第●●●号名の変更許可申立事件)を得た上で,その名を●●から●●に変更する旨の届出

をし,経産省に対し,同年6月1日に当該届出を行った旨を報告した。これを受けて,同月2日,経産省内において原告の名を変更する手続が行われた。(甲3及び弁論の全趣旨)

bは,同月23日,原告と面談(以下平成23年6月23日面談という。)を行い,その時点においても原告が性別適合手術を受けていない理由を確認するなどした。(甲160,乙128,証人b及び原告本人並びに弁論の全趣旨)

c調査官の後任であるh調査官(以下h調査官という。h調査官がこの地位に在った期間は,
平成22年7月から平成25年7月までである。

は,原告の要望により,平成23年6月29日,原告と面談(以下平成23年6月29日面談という。)を行った。h調査官は,その際,原告
が戸籍上の性別変更をしないまま異動先で女性用トイレを使用する場合には,当該女性用トイレを使用している女性職員に対し,原告が性同一性障害であること等を説明した上で理解を得る必要があることを説明するなどした。(甲160,乙130,証人h及び原告本人並びに弁論の全趣旨)ソ
h調査官は,その後,平成24年12月頃までの間,原告と断続的に面談や電子メールのやり取りを行い(以下h調査官がこのようなやり取りを行う中で原告と同年9月6日に行った面談を平成24年9月6日面談といい,同年11月8日に行った面談を平成24年11月8日面談という。),原告が戸籍上の性別変更をしないまま異動した場合の異動先での女性用トイレの使用等に関して協議を行った。(乙3の1から3の9ま
で,130,証人h及び原告本人並びに弁論の全趣旨)

bは,平成25年1月17日,原告と面談(以下平成25年1月17日面談という。)を行い,その時点においても原告が性別適合手術を受けていない理由を確認するなどした。(甲160,乙128,証人b及び原告本人並びに弁論の全趣旨)


原告は,同年2月12日から休暇を取得したが,その後,抑うつ状態により同日から一か月間の静養加療を要する旨が記載されたe医師の作成に係る同月23日付け診断書を経産省に対して提出し,これにより同月12日から原告が取得していた休暇が遡及的に病気休暇として扱われることに
なった。原告は,その後も出勤することができない状態が続き,抑うつ状態も改善されなかったことから,その同意の下で,同年5月13日から病気休職に移行し,平成26年4月6日頃まで病気休職をした。(甲5から6の3まで,7の1から7の5まで,130及び160並びに弁論の全趣旨)

d医師は,原告の病状等を定期的に確認するために,上記チの病気休暇及び病気休職の期間中,数回にわたって原告と面談を行った。そのうち平
成25年5月28日に行われた面談(以下平成25年5月28日面談という。)においては,同席していたbが,原告に対して性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をする意思があるかどうかを確認するなどした。(甲42,43,160,乙4,128,130,132,証人h,証人b及び原告本人並びに弁論の全趣旨)


原告から面談の要望を受けた秘書課のi(以下iという。iがこの地位に在った期間は,平成25年6月から平成26年7月までである。)は,同年1月31日,h調査官の後任であるp調査官(以下p調査官という。p調査官がこの地位に在った期間は,平成25年7月から平成27年5月までである。)を同席させて,原告と面談(以下平成26年1月31日面談という。)を行った。iは,その際,原告が戸籍上の性別変更をしないまま異動した場合の異動先における女性用トイレの使用等に関する経産省としての考え方を説明するなどした。(甲42,45,160,乙5,131,134及び原告本人並びに弁論の全趣旨)

原告は,平成26年1月末頃になって抑うつ状態の改善が見られたことから,同月29日から復職に向けた通勤訓練を開始し,その後,復職可能である旨のd医師の判断を経て,同年4月7日に復職をした。原告が復職をした際の丙の●●は,k(以下kという。)であった。(弁論の全趣旨)


原告は,その後,過敏性腸症候群を発症し,同年11月13日から通院を開始した。原告の過敏性腸症候群の症状は,平成28年3月に通院した後,一旦治まったものの,平成30年に再発したため,原告は,現在も通院を継続している。(甲8及び160並びに弁論の全趣旨)


本件各措置要求及び本件判定

原告は,平成25年12月27日付けで,人事院に対し,国家公務員法第86条の規定に基づき,

戸籍上の性別及び性別適合手術を受けたかどうかに関わらず、異動等に制限を設けず、原則として他の一般的な女性職員と同等の処遇を行うこと。また、性的なプライバシーを尊重すること。

を要求事項とする本件各措置要求をした。(甲9の1)

原告は,平成26年3月7日付けで,上記アの要求事項中に異動等とあるのを

異動、トイレの使用

と補正した。(甲10)

人事院は,同月24日付けで,本件各措置要求を平成25年第9号事案として受理した。(甲9の2及び9の3)


人事院は,平成27年3月5日付けで,上記イのとおり補正された要求事項を戸籍上の性別変更及び性別適合手術の実施の有無に関わらず、人事異動、勤務官署における女性トイレの使用に制限を設けず、また、今後の人事異動の際には、性的なプライバシーを尊重して、異動先の女性職員への性同一性障害の告知なく女性トイレの自由な使用を認めることと整理した上で,原告に対し,このように整理した後の要求事項に係る補足や修正の有無について照会した。これに対し,原告は,同月13日付けで,
当該要求事項を

戸籍上の性別変更及び性別適合手術の実施の有無に関わらず、人事異動及びトイレの使用の制限を設けないこと。

(以下原告要求事項㋐という。),

今後の人事異動は他の●●●●の平均的な処遇と同等とし、執務環境・処遇等は原則として他の女性職員と同等とすること。

(以下原告要求事項㋑という。),

性・疾患に関するプライバシーを尊重すること。

(以下原告要求事項㋒という。)及び

この件に係る法令等の判断・解釈・運用については、それを所管している省庁の意見に従うこと。

(以下原告要求事項㋓という。)と修正するように回答した。(甲11,乙8の1及び8の2)

人事院は,
同年5月29日付けで,
本件各措置要求に係る要求事項を
①申請者が女性トイレを使用するためには性同一性障害者である旨を女性職員に告知して理解を求める必要があるとの経済産業省当局(以下「当局
という。)による条件を撤廃し、申請者に職場の女性トイレを自由に使用させること。」(以下要求事項ⓐという。),②申請者が異動するためには戸籍上の性別変更又は異動先の同僚職員への性同一性障害者である旨の告知が必要であるとの当局による条件を撤廃し、また、今後異動することとなった場合には、異動先の管理職等に申請者が性同一性障害者である旨の個人情報を提供しないこと。(以下要求事項ⓑという。)
及び

③健康診断の時間帯を女性職員と同一にすること。

(以下要求事項ⓒという。)と整理した上で,いずれの要求も認められない旨の本件判定をした。(甲12)


原告による人権侵犯による被害の申告等
原告は,平成26年4月4日,人権侵犯事件調査処理規程(平成16年法務省訓令第2号)第8条の定めに基づき,東京法務局長に対し,本件に関して人権侵犯による被害の申告を行い,その救済を求めた。東京法務局長は,調査の結果,原告の申告に係る人権侵犯の事実の有無を確認することができなかったとして,平成27年6月15日付けで,侵犯事実不明確の決定をし
た。(甲95及び弁論の全趣旨)


原告による本件各訴えの提起
原告は,平成27年11月13日,本件判定の取消しを求める第1事件及び国家賠償法第1条第1項の規定に基づく損害の賠償を求める第2事件に係
る本件各訴えをそれぞれ提起し,本件各訴えに係る訴状がいずれも同月20日に被告に送達された。(当裁判所に顕著な事実)
3
争点及び当該争点に関する当事者の主張


本件における主な争点は,次のアからエまでのとおりである。

原告の主張する国家賠償法第1条第1項の規定に基づく被告の責任の成否に関し,原告の主張に係る次の経産省による原告に対する各処遇又は経産省の職員らによる原告に対する各発言等が同項に規定する違法なものと
して認められるかどうか(争点1)
本件トイレに係る処遇(争点1-①)
他の女性職員と同じ時間帯に健康診断を受けることを認めない処遇(争
点1-②)
性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで異動させない処遇
(争点1-③)
戸籍上の性別変更をしない限り,異動先の女性職員に性同一性障害であることをカミングアウトしなければ,異動先で女性用トイレの使用を認めない処遇(争点1-④)
人事面談の機会を与えず,人事異動のリストに名前を掲載しない処遇
(争点1-⑤)
平成21年10月23日面談におけるd医師の発言(争点1-⑥)平成23年6月23日面談におけるbの発言(争点1-⑦)平成23年6月29日面談におけるh調査官の発言(争点1-⑧)平成24年9月6日面談におけるh調査官の発言(争点1-⑨)
平成24年11月8日面談におけるh調査官の発言(争点1-⑩)平成25年1月17日面談におけるbの発言(争点1-⑪)
平成25年5月28日面談におけるbの発言(争点1-⑫)
平成26年1月31日面談におけるiの発言(争点1-⑬)
kが原告を君付けで呼び続けたこと。(争点1-⑭)


原告の損害の有無及びその額いかん(争点2)

上記ア

までの各発言につき国家賠償法第1条第1項の規定に基

づく責任が成立するとした場合の当該規定に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否(争点3)



本件判定が違法なものであるかどうか(争点4)
上記⑴の各争点に関する当事者の主張は,次のアからチまでのとおりであ
る。

争点1-①(本件トイレに係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張
原告の主張

自らの性自認に従って適切に取り扱われるということは,個人の社会生活の基盤を成す極めて重要な利益であり,人格権の一内容を構成するものとして,日本国憲法第13条によって保障されている。また,日本国憲法第14条第1項,市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年条約第7号。以下B規約という。)第26条及び国家公務員
法第27条は,性同一性障害者をその者が自認する性別と同じ身体的性別又は戸籍上の性別の者と平等に取り扱うことを求めており,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)第7条第1項も,
性同一性障害を理由とする差別的取扱いを禁止している。
そして,トイレの使用は,人の生理的作用に不可欠なものであるとこ
ろ,トイレは通常,身体的性別又は戸籍上の性別に沿って男性用と女性用に区別されており,性自認が女性である性同一性障害者に対して女性用トイレの使用を制限することは,その生理的作用に伴って自認している女性性を否定される体験を必然的に強いることになるから,性同一性障害者が自らの性自認に従って適切に取り扱われる利益や,自認する性
別と同じ身体的性別又は戸籍上の性別の者と平等に取り扱われる利益を制限することになるとともに,当該性同一性障害者にとって同条第2項が規定する社会的障壁そのものである。
そうすると,経産省は,性同一性障害者である職員に対してその自認する性別のトイレの使用を認めるかどうかの判断に当たって,当該職員の性同一性障害の治療及び社会的な性別移行の段階や勤務状況に応じて,その自認する性別のトイレの使用を制限する必要性の程度と,それによって制限される上記の利益の内容及び性質や制限の具体的態様を厳格に比較衡量すべきであり,特に当該職員が社会的な性別移行を完了している場合においては,原則として,その自認する性別のトイレの使用を認めなければならないという職務上の注意義務を負っている。

原告の容姿,仕草,発声等は,女性そのものであり,職場の内外で原告が性別を問われたり,男性に間違われることはなく,原告が経産省の庁舎内の女性用トイレを使用していることに関する他の職員からのクレームやトラブルも一度もない。また,経産省の庁舎内の女性用トイレは全て個室が設けられ,使用する者同士のプライバシーが保たれており,
原告が戊●階から●階までの女性用トイレを使用することに伴い新たな施設の設置等が必要となるものではなく,経産省にこうした負担は生じない。そして,原告が病気休職から復職した平成26年4月7日の時点においては,原告の職場における性別移行から約4年が経過しており,原告は,女性職員として十分に職場に馴染むとともに,その間の職員の
異動によって丙には原告の身体的性別及び戸籍上の性別を知らない職員も多数存在する状態となっていたから,同日の時点においては,原告による女性用トイレの使用を制限する必要性はなかった。
したがって,本件トイレに係る処遇は,遅くとも同日の時点においては,上記の注意義務に違反する状態にあり,違法なものである。

被告の主張
各府省の職員たる国家公務員の人事管理は,中央人事行政機関である内閣総理大臣の下で,各府省において行われるものであるところ(国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第10条,国家公務員法第18条の2第2項及び第55条参照),国家公務員法第71条第1項は,

職員の能率は、充分に発揮され、且つ、その増進がはかられなければならない。

と規定して能率の根本基準を定めるとともに,同条第2項は,その根本基準の実施につき,必要な事項は人事院規則で定める旨を規定しており,これを受けて人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)が定められている。このように,各府省は,職員の勤務能率の発揮,増進を目的として,職員の健康保持増進を図り,そのための勤務環
境を確保するために,必要かつ相当と認められる措置を講ずべき責任を負うものであるところ,この人事院規則等で定められたもののほかに具体的にいかなる措置を講ずるかを判断するに当たっては,所属する職員全体の勤務能率の発揮,増進に資するように,人事管理や庁舎管理を含めた当該組織の管理運営全般を考慮する必要がある。このような勤務環
境に関する措置に係る各府省の判断の性質及び内容等に照らせば,当該措置に係る具体的な判断については,平等取扱いの原則を定めた国家公務員法第27条を踏まえつつも,当該組織全体を把握し,その管理運営の権限と職責を有する各府省の裁量に委ねられていると解される。そして,経産省の職員である性同一性障害者が自認する性別に応じた
庁舎内の男女別施設を利用することは,経産省の組織運営全般のうち殊に庁舎管理の在り方に関わる問題であり,そのため,庁舎内に勤務する職員の服務環境ないし職場規律と不可分の関係に置かれることになる。経産省は,このような庁舎管理の責任者として,組織全体の調和を図るという観点から様々なリスクを最小限にしつつ,全ての職員が最大限の
能力を発揮することができる職場環境を整える責務を負うものである。本件においては,本件説明会において身体的性別及び戸籍上の性別が男性である原告が女性用トイレを使用することに関して抵抗感や違和感を述べる声が現に存在していたことから,本件トイレに係る処遇が開始されたものであるが,原告は,本件説明会以降も性別適合手術を受けておらず,戸籍上の性別変更もしていない。他方,我が国の国民一般における性同一性障害者に対する認識は,平成22年当時から比べると,格段に高まっているものとはいえるが,現在も,トイレ等の男女別施設については身体的性別又は戸籍上の性別に従って利用するという社会通念が存在しており,性同一性障害者が自認する性別に応じた男女別施設を利用することについて,必ずしも国民一般においてこれを無限定に受容
する土壌が形成されているとまではいい難い状況にあるというほかない。そのような状況を踏まえると,原告が他の女性に対して性的な危害を加えるという事態が生ずる可能性がないとしても,身体的性別及び戸籍上の性別が男性である原告が女性用トイレを使用していることが女性職員に明らかになった場合には,当該可能性がないことを当該女性職員が知
らないことによって,原告が当該女性職員から軽犯罪法(昭和23年法律第39号)第1条第23号に規定する窃視行為等をしたなどと疑われるトラブルが生ずるおそれがある。また,当該可能性がないことを女性職員が知っていたとしても,身体的性別又は戸籍上の性別が男性である者が洗面台等の共有スペースを含む女性用トイレを使用することに対す
る羞恥心や違和感を抱く女性職員との間ではトラブルが生ずるおそれがある。もっとも,原告が所属している丙から離れた階の職員に対しては日常的な会話等の中で原告の身体的性別又は戸籍上の性別に関する情報が明らかになる可能性が低く,こうしたトラブルが生ずる可能性が低くなるといえる。そこで,経産省は,こうしたトラブルを避けるために,
原告に対して丙から2階以上離れた階の女性用トイレの使用を認めつつ,本件トイレに係る処遇を行っているものである。このような対応は,庁舎管理の責任者である経産省において果たすべき上記の責務を遂行した合理的な判断といえる。
したがって,本件トイレに係る処遇は,原告の人格権等を侵害するものでないことはもちろん,国家公務員法第27条が許容する合理的な区別として,上記の裁量の範囲内にある適法なものである。

原告は,性同一性障害者である職員が社会的な性別移行を完了している場合には,経産省が原則としてその性自認に従ったトイレの使用を認めなければならないという職務上の注意義務を負っている旨を主張する。しかし,原告の主張する社会的な性別移行とは抽象的な概念であり,特定の法令においてはもとより,社会的な認識としての画一的な判断基準
は存在しない。そして,性同一性障害者による男女別施設の利用に関する問題は,性同一性障害者とそれ以外の者との間で利害衝突が生じ,意見調整が必要になるものであり,その解決策については,法的な議論として結論が出ていないばかりか,社会的な共通認識もいまだ十分には形成されていないのが現状であるから,経産省が上記のような職務上の注
意義務を負っているなどとはいうことはできない。

争点1-②(他の女性職員と同じ時間帯に健康診断を受けることを認めない旨の原告の主張に係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張

原告の主張
上記

日本国憲法第14条第1項,B規約第26条及び

国家公務員法第27条は,性同一性障害者をその者が自認する性別と同じ身体的性別又は戸籍上の性別の者と平等に取り扱うことを求めているから,
経産省は,
性同一性障害者である職員とそうでない職員との間に,
不合理な理由による取扱いの差を設けてはならない職務上の注意義務を負う。
原告は,女性職員として勤務するようになった平成22年7月20日以降,他の女性職員と同じ時間帯に健康診断を受けることを認められていない。しかし,経産省の庁舎内で実施される健康診断においては,肌を露出して受ける検査は個室やカーテンで仕切られたスペースで行われており,他の女性職員と原告とが互いに身体を見る機会はないし,当該検査の際に露出するのは上半身に限られている。また,原告は,外部の検査機関においては,他の女性と一緒に健康診断を受けることが認められているが,その際にトラブルになったことはない。さらに,他の省庁においては,性同一性障害者である職員が自認する性別の職員と同じ時
間帯で健康診断を受けることが認められている。
これらの事情によれば,
経産省が原告と女性職員とで健康診断の時間帯を分けていることに合理的な理由はない。
したがって,経産省が原告に対して同日以降に他の女性職員と同じ時間帯に健康診断を受けることを認めていないことは,上記の注意義務に
違反する違法なものである。
被告の主張
我が国においては,トイレの使用と同様に,健康診断についても身体的性別又は戸籍上の性別に分けて実施されるという社会通念が存在しており,身体的性別又は戸籍上の性別が男性である者が女性と同じ時間帯
に健康診断を受けることとすれば,これについて羞恥心や違和感を抱く女性職員との間でトラブルが生ずる可能性がある。経産省は,こうしたトラブルが生ずる可能性を可能な限り低減するために,経産省の庁舎内で実施する健康診断において,原告に女性職員の受診時間帯のうち受診人数の少ない時間帯を案内していたものである。

したがって,このような経産省において現に行っていた処遇は,日本国憲法第14条等が許容する合理的な区別であるということができるから,適法である。

争点1-③(性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで異動させない旨の原告の主張に係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張

原告の主張
職員の人事評価は,公正に行われなければならず(国家公務員法第70条の2),その配置に係る性別を理由とする差別的取扱いは禁止されている(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和54年条約第6号)第7条(c),国家公務員法第27条,人事院規則10-
10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)第3条及び第4条)。また,労働条件につき障害を理由として差別されない権利は,日本国憲法第14条第1項,同条約第7条(c),国家公務員法第27条により確立された人権であり,経産省においても,職員の待遇に関し,障害を理由として障害者でない者と比較して不当な差別的取扱いをしてはならな
い。したがって,経産省は,性同一性障害者である職員について,身体的性別や戸籍上の性別,性同一性障害であることを理由とする差別的取扱いをしてはならない職務上の注意義務を負っている。さらに,経産省は,セクシュアル・ハラスメント(同規則第2条第1号)をしてはならず,
セクシュアル・ハラスメントに起因する問題
(同条第2号)

が生じた場合には,迅速かつ適切に対処しなければならない職務上の注意義務を負っている(同規則第5条)。
bは,平成23年6月23日面談において,

見た目も名前も女性だけど,戸籍が男のままだと困るんだよね。早くやってくれない?戸籍が男のままだと異動ができない。

と発言しており,経産省においては,
遅くとも平成23年6月23日までに,原告について,性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで原告を異動させない処遇を行うことを決定していた。しかし,経産省には男女の性別や性器の形状を考慮すべき業務は存在せず,当該処遇は,原告の身体的性別や戸籍上の性別,原告が性同一性障害であることを理由とするものである。そして,性別適合手術が身体への侵襲性が非常に高く,不可逆的な手術であって,多くの身体的リスクを伴うものであることや,健康保険が適用されず,手術費用が高額になること等を考慮すると,性別適合手術を受けることを異動の条件とすることは,不当かつ過重なものであって,合理的な理由は全くない。加えて,当該処遇は,性別により差別しようとする意識等や性自認に関する偏見に基づく言動として,セクシュアル・ハラスメントに該当するとともに,原告がセクシュアル・ハラスメントへの対応に起因して受けている勤務条件についての不利益として,セクシュアル・ハラスメントに起因する問題に該当する。したがって,経産省が原告に対して同日以降に性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで異動させない処遇を行っていることは,上
記の各注意義務に違反する違法なものである。
被告の主張
経産省においては,原告が戸籍上の性別変更をせずに異動先で女性用トイレを使用する場合には,当該女性用トイレを使用している女性職員等にその旨を説明して理解を得る必要があると判断しているため,原告
が本件説明会と同様のカミングアウトをしたくないという意向を有していることは,原告からそのようなカミングアウトをせずに異動先で女性用トイレを使用したいという希望があった平成23年6月以降,原告に係る人事情報の一つとして把握されており,原告の異動に関して判断する際に総合考慮される諸事情のうちの一つとなっている。もっとも,原
告の異動に関する判断は,このような事情のみを考慮して行われたものではなく,能力主義の原則の下に,原告の日常の勤務態度や仕事ぶり,原告の異動に関する意向といった原告の能力及び適性等に関する諸般の事情を総合考慮して,毎年度ごとに積み重ねられてきた結果である。したがって,経産省において原告が性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで異動させないという処遇を行っているものではない。エ
争点1-④(戸籍上の性別変更をしない限り,異動先の女性職員に性同一性障害であることをカミングアウトしなければ,異動先で女性用トイレの使用を認めない旨の原告の主張に係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張
原告の主張

経産省は,職員が性同一性障害者であること及び当該職員の戸籍上の性別と自認する性別が異なるこという情報を,みだりに他人に知らせたり,又は不当な目的に利用してはならない職務上の注意義務を負っている(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号)第2条第4項,第3条第1項,第2項,第7条,国家公務員
法第100条第1項,経済産業省個人情報保護管理規程第9条第1項,第2項)。また,上記ウ

経産省は,セクシュアル・ハラス

メントをしてはならず,これに起因する問題が生じた場合には,迅速かつ適切に対処しなければならない職務上の注意義務を負っている。h調査官は,平成23年6月29日面談において,戸籍上の性が男性のままでは女性トイレを使用できない,異動をする前に手術して性別変更をした方が良い,戸籍上の性別を変えずに異動するのであれば,再度説明会を開き同僚女性の同意を得ると発言しており,経産省においては,遅くとも平成23年6月29日までに,原告について,戸籍上の性別変更をしない限り,異動先の女性職員に原告が性同一性障
害であることをカミングアウトしなければ,異動先で女性用トイレの使用を認めない処遇を行うことを決定していた。しかし,原告が性同一性障害者であり,戸籍上の性別が男性であるという情報が一度他者に知れ渡れば,原告の女性としての人格やアイデンティティが損なわれることはいうまでもなく,原告の職場環境が害され,これを元の状態に戻すことは不可能であるから,このような情報を開示するかどうかや開示する場合の範囲や時期等については,原告本人に選択する権利(自己情報コントロール権)がある(日本国憲法第13条)。したがって,経産省が原告に対して上記のようなカミングアウトを求める目的の正当性については,厳格に判断すべきであるが,被告が

において主張するよ

うなトラブルを未然に防ぐという目的は,原告に対する悪質な偏見に基づくものであって,全く正当性を見いだすことができない。また,当該処遇は,性別により差別しようとする意識等や性自認に関する偏見,性的な関心,欲求に基づく言動や,性自認をいじめの対象とすることとして,セクシュアル・ハラスメントに該当するとともに,セクシュアル・ハラスメントに起因する問題に該当する。
したがって,経産省が原告に対して同日以降に戸籍上の性別変更をしない限り異動先の女性職員に原告が性同一性障害であることをカミングアウトしなければ異動先で女性用トイレの使用を認めない処遇を行っていることは,上記の各注意義務に違反する違法なものである。
また,当該処遇は,

において本件トイレに係る処遇に関して

述べたところと同様に,社会的な性別移行を完了している性同一性障害者である職員に対し,その自認する性別のトイレの使用を認めなければならないという職務上の注意義務にも違反する違法なものである。被告の主張
原告が戸籍上の性別変更をしないまま異動先で女性用トイレを使用す
る場合に,事前に当該女性用トイレを使用している女性職員等への説明をしなければ,上記ア

の被告の主張に係るトラブルが生ずる可能性が
あり,これを避けるためには,事前の説明を実施することにより,原告が他の女性に対して性的な危害を加えるという事態が生ずる可能性がないという正しい認識を共有して女性職員の誤解を解消するとともに,身体的性別又は戸籍上の性別が男性である者が洗面台等の共有スペースを含む女性用トイレを使用することに対する羞恥心や違和感を抱く女性職
員の理解を得ておく必要がある。そして,そのための具体的な方法については,本件説明会と同様の方法に限られるものではなく,原告の意向や異動先の個別具体的な状況等を踏まえて個別的かつ柔軟に検討することになるものであり,経産省としては,研修会等を引き続き実施して,職員の性同一性障害への理解を深めることにより,できるだけ柔軟な対
応が可能となる職員意識や職場環境を醸成しているところである。したがって,原告が戸籍上の性別変更をしないまま異動先において女性用トイレを使用する場合には,女性職員等への説明を必要とし,そのような説明をしなければ,異動先での女性用トイレの使用を認めない旨の経産省の判断は,原告の人格権等を侵害するものでないことはもちろ
んとして,国家公務員法第27条が許容する合理的な区別として,上記アオ
の裁量の範囲内にある適法なものである。

争点1-⑤(人事面談の機会を与えず,人事異動のリストに名前を掲載しない旨の原告の主張に係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)
に関する当事者の主張
原告の主張
上記ウ

経産省は,性同一性障害者である職員について,

性同一性障害であること等を理由とする差別的取扱いをしてはならない職務上の注意義務を負っている。
この点,乙においては,従来から毎年12月に所属する各職員と人事担当者等との間で定例の人事面談が行われており,原告は,これまで当該人事面談において人事や業務に関する相談等を行っていたが,原告が復職した平成26年4月7日以降は,他の職員については当該人事面談が行われているにもかかわらず,原告に対しては当該人事面談の機会が一度も与えられていない。また,乙においては,職員の役職名に変更があった場合には,人事担当者が作成する人事異動のリストに当該変更のあった職員の名前及び新旧の役職名が掲載されることになっているにもかかわらず,
平成29年7月1日付けの原告の役職名の変更については,
当該リストに掲載されなかった。このような処遇は,原告が性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をしない限り原告を異動させないという前
提の下で,原告に対してのみ性同一性障害を理由に不当な差別的取扱いをするものである。
したがって,経産省が原告に対して,平成26年4月7日以降,人事面談の機会を与えず,人事異動のリストに名前を掲載しない処遇を行っていることは,上記の注意義務に違反する違法なものである。

被告の主張
の原告の主張に係る人事面談は,必ずしも乙の全職員を対象と
して行っているものではなく,職員から提出された希望調書等を踏まえて,特にヒアリングすべき事項がある者についてのみ行っているものであるし,平成26年度以降は,原告から人事面談の要望は出されていなのリストには,職員の実

質的な業務の変更がある場合又は実質的な業務を伴う役職名の変更がある場合に当該職員の名前等を掲載することとされているのであり,平成29年7月1日付けで変更された原告の役職名は,実質的な業務を伴わないものにすぎなかったため,当該リストに掲載されなかったものである。
したがって,

原告が性別適合手術
を受けて戸籍上の性別変更をしない限り原告を異動させないという前提の下でされているものではなく,何ら不公平なものではないから,当該主張は,前提を欠いている。

争点1-⑥(平成21年10月23日面談におけるd医師の発言が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張
原告の主張
a
行政機関の職員は,職務を遂行する上で他の職員の人格権(日本国憲法第13条)を侵害し,また,セクシュアル・ハラスメント(人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)第2条第1号)に該当するような行為をしてはならないという職務上の注意義
務を負う。
b
d医師は,
平成21年10月23日面談において,
原告に対し,
経産省で女性として働くのではなく,タイに行って,とっとと,闇の病院で性転換手術を受ければいいじゃないかと発言した。
当該発言は,

ガイドライン第3版の重要性等を踏まえずに,女性として働きたいという原告の人格そのものに関わる真摯な要望を軽んずるものであって,原告に精神的苦痛を与えるものである。
したがって,当該発言は,上記aの注意義務に違反する違法なものである。

被告の主張
d
係る発言をしたことは,否認する。

d医師は,平成21年10月23日面談において,原告に対し,原告が早期に性別適合手術を望むのであれば,外国の信頼できる病院で性別適合手術を受けるという選択肢もあることを説明し,d医師が知っていたタイの信頼のできる病院としてバンコク病院及びバムルンラード病院を挙げ,こうした病院において手術を行う方法もあることを提案する一方,タイにおいても,費用の安い病院では感染症等のリスクがあることから,こうした病院は避けるべきであることを説明した。その際,d医師の発言において,タイの費用の安い病院に関して闇の病院に類するニュアンスの言葉が使われたことはあるかもしれないものの,そのような言葉が使われた文脈は,上記のとおりであって,d医師
が原告に対して闇の病院を勧めた事実は,一切ない。
したがって,d医師の発言は,違法と評価されるものではない。

争点1-⑦(平成23年6月23日面談におけるbの発言が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張

原告の主張
bは,平成23年6月23日面談において,原告に対し,

見た目も名前も女性だけど,戸籍が男のままだと困るんだよね。早くやってくれない?

と発言した。当該発言は,性別適合手術を受けるかどうかという本人の意思が本来最も尊重されるべき事柄に関し,原告の気持ちや当
時の現状に配慮することなく,一方的にその実施を要求し,原告に精神的苦痛を与えたものである。
したがって,当該発言は,上記

の注意義務に違反する違法なも

のである。
被告の主張
b
bは,

原告から上記2⑵イの申入れを受けて以降は,原告の直属の上司かつ原告の所属する部署の管理者として,経産省において原告が性別適合手術を受けられるようにするための配慮が実現されるように最大限の対応をしてきたのであり,その結果として本件トイレに係る処遇等が実施されるに至ったものである。そうであるにもかかわらず,本件説明会以降,原告が性別適合手術等に向けた行動を起こさないまま1年近くが経過し,丙においては,そのような原告の様子を疑問視する声が挙がるなどしていた。そこで,bは,平成23年6月23日面談を実施し,原告が性別適合手術等に向けた行動をしない理由を確認するとともに,丙に無用な混乱を生じさせないためにも早期の決断を行ってほしいといった趣旨の発言を行ったものである。

したがって,当該発言は,違法と評価されるものではない。

争点1-⑧(平成23年6月29日面談におけるh調査官の発言が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張
原告の主張

h調査官は,
平成23年6月29日面談において,
原告に対し,戸❶籍上の性が男性のままでは女性トイレを使用できない,❷異動をする前に手術して性別変更をした方が良い,❸戸籍上の性別を変えずに異動するのであれば,再度説明会を開き同僚女性の同意を得ると発言した。上記❶から❸までの発言は,女性用トイレの使用や異動等の条
件として性別適合手術を受けることを原告に押し付けるものである。したがって,上記の発言は,上記

の注意義務に違反する違法な

ものである。
被告の主張
h
発言をしたことは,否認する。

平成23年6月29日面談は,原告からの要望によって急きょ行われた原告とh調査官との初めての面談であり,h調査官は,当該面談において,原告から今後原告が異動した場合に,女性用トイレの使用を含む経産省の措置はどうなるのかとの問合せを受けたことから,まず,前任のc調査官に確認することを約束した上で,当時の時点における秘書
課としての認識に基づいて,

戸籍上の性別が男性のままで異動先の女性トイレを使うということであれば,同じような説明会が必要なのではないか。

との発言
の発言に相当

する発言)をした。そうしたところ,原告が驚いた様子であったため,カミングアウトを行うことは嫌であろうと原告の気持ちを察して,今後の予定を尋ねたところ,原告が一日も早く手術をして性別を変更したい等と述べたことから,h調査官は,原告が異動する前に戸籍上の性
別変更をすれば異動先で女性職員等に対する説明が不要となるため,原告にとっても望ましいのではないかという趣旨で,それならば,手術をして戸籍上の性別変更をしてから異動した方が良いのではないかとの発言(

❷の発言に相当する発言)をしたも

のであり,これに対して原告は,急いで異動したいわけではないと
述べた。
したがって,上記の発言は,違法と評価されるものではない。

争点1-⑨(平成24年9月6日面談におけるh調査官の発言が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張

原告の主張
h調査官は,平成24年9月6日面談において,原告に対し,❶性同一性障害であっても,女性用トイレを使用するのは(他の女性職員に対する)セクハラになり得る,❷

事前にカミングアウトしないといけない。それなら(女性用トイレを)使用してよい

,❸法律上の男性が女性用トイレを使用するのは法律違反であるが,事前に女性に説明し了解を得られれば問題ない。それをやっていない民間会社は法律違反をやっている。また,事前に言わなくて女性用トイレを使用すればセクハラに当たるが,女性に周知していればセクハラにならないと発言した。上記❶から❸までの発言は,あたかも原告が性犯罪者であるかのよ
うに非難し,原告を不当に傷付けるものである。
したがって,上記の発言は,上記
の注意義務に違反する違法な

ものである。
被告の主張
h
の原告の主張に係る❶の発言をしたことは,否認す

る。h調査官は,原告に対し,一般論として,女性職員の了解がないままに女性用トイレを使用して,女性職員から訴えられた場合にはセクハラが成立する可能性があると発言したものである。h調査官が当該主張に係る❷の発言をしたことは,否認する。h調査官は,
原告に対し,

異動の際には,他の女性職員の了解を得られれば,女性用トイレを使用してよい。

と発言したものである。h調査官が当該主張に係る❸の発言をしたことは,否認する。h調査
官は,平成24年9月6日面談において,原告に対し,原告が女性用トイレを使用することが単純に違法かどうかの問題ではない旨を再三説明した上で,

他の民間会社でも,他の女性職員の理解を得るための何らかのプロセスは経ているはずである。

という顧問弁護士の見解を伝えるとともに,経産省としては,人事院への相談や他省庁の事例の確認,
顧問弁護士への相談等を総合的に勘案して,社会通念に照らし合わせた措置を決定しているのであって,一部の民間企業が女性用トイレの使用を認めているとしても,当然に同様の措置を執ることにはならない旨の説明を繰り返し行ったものである。
したがって,上記の発言は,違法と評価されるものではない。


争点1-⑩(平成24年11月8日面談におけるh調査官の発言が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張
原告の主張
h調査官は,
平成24年11月8日面談において,
原告に対し,❶
社会通念上原告が女性用トイレを使用することは認められず,セクハラは女性がどう思うか?ということであり,女性の一人が訴えたらアウトである,❷

事前にカミングアウトすればセクハラという訴えが出てもそれはセクハラとは認めない。事前にカミングアウトしなければ訴えられればそれはセクハラになる

,❸

性同一性障害の人の権利よりも女性の権利が優先される。

と発言した。上記❶から❸までの発言は,原告による女性用トイレの使用が違法なセクシュアル・ハラスメントであ
るかのように非難し,原告に精神的苦痛を与えたものである。
したがって,上記の発言は,上記

の注意義務に違反する違法な

ものである。
被告の主張
h
の原告の主張に係る❶及び❷の発言をしたことは,

否認する。h調査官は,原告に対し,

戸籍上の男性が女性用トイレを使用することは,社会通念として一般的とはいえない。

ということを説明した上で,一般論として,

セクハラかどうかは女性用トイレを使用する女性がどう思うか,ということであり,女性職員の了解がないままに女性用トイレを使用すれば,女性職員から訴えられた場合には,セクハラが成立する可能性がある。

旨の説明をしたものである。h調査官が当該主張に係る❸の発言をしたことは,否認する。h調査官は,原告に対し,

女性用トイレを使用している女性の意思も尊重しないといけない。

との発言を行ったものであり,当該発言を通じて,女性用トイレの取扱いに当たっては,性同一性障害者の職員の権利だけ
でなく,
女性職員の権利も守る必要があること等を説明したものである。
したがって,上記の発言は,違法と評価されるものではない。

争点1-⑪(平成25年1月17日面談におけるbの発言が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張

原告の主張
bは,平成25年1月17日面談において,原告に対し,なかなか手術を受けないんだったら,もう男に戻ってはどうかと発言した。当該発言は,性同一性障害者である原告の人格の根幹を否定し,原告の精神疾患の発症やこれによる病気休職の直接の契機となったものであり,最大限に非難されるべきである。
したがって,当該発言は,上記

の注意義務に違反する違法なも

のである。
被告の主張
b
発言をしたことは,
否認する。
原告は,

平成25年1月頃に至っても,一向に性別適合手術等に向けた行動をせず,性別適合手術を受けられない理由についても直属の上司であるbに説明していなかった。また,丙においては,そのような原告の様子を疑問視する声が上がるなどしていた。さらに,経産省による本件トイレに係る処遇等は,原告が性別適合手術を受けるまでの暫定的措置として実施されていたにもかかわらず,本件説明会から2年半が経過し,当初想
定していなかった事態が生じていた。他方,女性の身なりでの勤務を開始してからの原告については,
自らの担当業務の期限に遅れがちになり,
また,勤務中に与えられた職務に集中していない状態が頻繁に見受けられるなど,その勤務態度が芳しくない状態が続いていた。そのような中で,bは,勤務態度の改善を促すことなどを目的として平成25年1月
17日面談を実施した際,原告が性別適合手術等に向けた行動をしない理由を確認するとともに,丙内に無用の混乱を生じさせないためにも早期の決断を行ってほしいといった趣旨の一連の会話をする中で,上記のような勤務態度を注意する趣旨で,

なかなか手術を受けないんだったら,服装を男のものに戻したらどうか。という発言をしたものであり,


当該発言は,原告の性自認を否定する趣旨でされたものでなく,社会通念上,許容される限度での指導であったといえる。
したがって,当該発言は,違法と評価されるものではない。

争点1-⑫(平成25年5月28日面談におけるbの発言が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張
原告の主張

bは,平成25年5月28日面談において,原告に対し,❶いつになったら(性別適合手術を)実施するのか明示してほしい,❷もうそろそろ,どう生きていくんだ!という方向性を言ってくれないと,どう対応していいか分からないと発言した。当該発言は,原告に対して性別適合手術を実施するまでの期限を設けるよう要求するものであり,
到底許容されるものではない。
したがって,上記の発言は,上記

の注意義務に違反する違法な

ものである。
被告の主張
の原告の主張に係る❶の発言の趣旨は,
否認ないし争う。
bは,
平成25年2月20日に原告とd医師が行った面談に同席するに当たり,原告が皮膚アレルギーのため性別適合手術を受けられない状態であることを知ったことから,原告に対し,皮膚アレルギーの原因となっているという歯の詰め物の除去をいつになったら実施するのか明示してほしいという趣旨の発言をしたものである。
bが当該主張に係る❷の発言をしたことは,おおむね認める。bは,平成25年5月28日面談において,今後,経産省として行うべき支援等の内容を確定することができるようにするために,今後の性別適合手術に向けた方針についてどのように考えているかを原告に尋ねたものの,原告が下を向いたまま一向に返事をしなかったため,今後の方向性を示
してほしいという趣旨で当該発言をしたものである。
したがって,当該発言は,違法と評価されるものではない。

争点1-⑬(平成26年1月31日面談におけるiの発言が違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張
原告の主張
iは,平成26年1月31日面談において,原告に対し,❶異動に当たってもう一回説明会をしなければいけない,❷異動先においてもカミングアウトが必要,❸今後とも男女共用の障害者トイレを使うというのであれば,異動に当たってのカミングアウトも不要❹(性,同一性障害者であることを)周知していかないと,と思っていると,原告にカミングアウトや多目的トイレの使用を強いる発言をし,
さらに,

私が女性トイレに行ったら捕まりますよね。女性からセクハラだなんだと言って,普通,私が女性トイレに入ったら警察来て,捕まえていきますよ。痴漢と同じ条例で捕まると思う

,❻

私が女装をして女性用トイレに入ると多分これはセクハラになる。その人がセクハラと思うから

と発言した。上記❶から❻までの発言は,いずれも,事実及び法
令に関する明らかに誤った認識に基づき,原告に対して不当に精神的苦痛を与えたものである。
したがって,上記の発言は,上記

の注意義務に違反する違法な

ものである。
被告の主張
i
❶及び❷の発言をしたことは,おおむ

ね認める。しかし,これらの発言は,原告の異動について制約を課す趣旨でされたものではなく,飽くまでも,原告が異動した際に,異動先で女性用トイレを使用する場合には,当該女性用トイレを使用している女性職員等への説明を行って理解を得る必要があることを説明するためにされたものである。iは,我が国における国民の性同一性障害に対する知見,認識の程度が向上していたとはいえ,平成26年当時においてもその支援等の在り方を巡る議論がいまだ始まったばかりの状況であって,特に,女性用トイレの使用に関しては,平成22年当時の議論状況から特段の変化がなかったことを踏まえ,原告が異動先でも女性用トイレを使用する場合には,
上記の女性職員等にも配慮する必要があると判断し,
上記のとおり説明したものである。
iが当該主張に係る❸及び❹の発言をしたことは,否認する。iは,原告に対し,おつらいんだと思うんです。おつらいのだと思う中でみんなで答えを,記憶がある人たちもいるわけですから,そういう中で回答策を見つけていこうと思うと,省内であれば障害者用の所というのは別に男女関係ないわけですから,障害者用のトイレをお使いになるということで,そうすれば何もやる必要がないわけじゃないですか。カミングアウトをわざわざ60人,70人の前でやって,おつらかったと思うんですけど。,その運用は,我々は今も変えてなくてですね。それはなぜかというと,行った先の所でまだうわさになっているかもしれないですし,変な話ですけれど女性ホルモンを打っておられるから,女性として背景は,我々もそう思いますけれども,何かの拍子に,ぎょっとして訴えられるということだってあるかもしれませんよね。そうすると,我々は今度,そちらの人たちのほうから,庁舎管理の責任者として一体どうしたんだということになるので,そこは我々としては,基本的には全員,一応周知をしていかないとと思っているということです。等と発言しているものの,これらは,いずれも,異動に当たってのカミングアウトに難色を示す原告に対し,異動先でも女性用トイレを使用しようとする場合には当該女性用トイレを使用している女性職員等の了解を得ることが必要であること,逆にそのような了解を得なくても多目的トイ
レの使用は可能であることを説明したものであって,原告にカミングアウトや多目的トイレの使用を強いるものではない。
iが当該主張に係る❺及び❻の発言をしたことは,おおむね認める。しかし,iは,原告が経産省以外の女性用トイレを使用して特段問題になったことはない旨を主張したことを受けて,一般論として,女性の身なりをしていても,性別適合手術を受けていない性同一性障害者が女性用トイレを使用した場合には,周囲の人がセクシュアル・ハラスメント
や痴漢と感じ,いわれのない批判を受けるリスクがあることから,職場全体の勤務環境の調整や原告が女性用トイレを使用した場合に周囲の人がセクシュアル・ハラスメントと感じることによって生ずるトラブルから原告を保護するといった観点から,外観上問題なく女性用トイレを使用することができるからといって直ちに女性用トイレの使用を認めるこ
とはできないという説明の一環として,
これらの発言をしたものである。
したがって,当該発言は,違法と評価されるものではない。

争点1-⑭(kが原告を君付けで呼び続けたことが違法なものとして認められるかどうか)に関する当事者の主張

原告の主張
kは,他の女性職員をさん付けで呼んでいるにもかかわらず,女性職員として勤務する原告のみを君付けで呼び続けていた。このことは,原告に対して精神的苦痛を与えるものである。
したがって,kが原告を君付けで呼び続けていたことは,上記

の注意義務に違反する違法なものである。
被告の主張
kが原告のことを君付けで呼んでいたことは,
認める。
しかし,

という敬称は,同輩や目下の人の姓名につけて,親しみや軽い敬意を表す語であり,女性にも使い得るものである。kは,原告が名前を変更す
る前から原告と共に丙に在籍し,原告を君付けで呼んでいたこと,当時の原告が性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更を行うまでの過渡期にあると理解していたこと,君付けで呼んでいたことについて原告から直接不快である旨を伝えられたことはなく,原告が特段不快に感じている様子も見受けられなかったこと等を踏まえ,原告を君付けで呼んでいたものであり,原告に対する悪意をもってそのような呼び方をしていたわけではない。

したがって,kが原告のことを君付けで呼んでいたことは,違法と評価されるものではない。

争点2(原告の損害の有無及びその額いかん)に関する当事者の主張原告の主張

a
原告は,本件の口頭弁論終結時まで続いている上記アからオまでの経産省の各処遇によって,精神的苦痛を受けたもので
あり,これらに対する慰謝料の額は,200万円を下らない。

b
原告は,上記アからオ

各処遇のうち

平成23年6月から平成25年2月12日までの期間に係る部分及び上記カからサ

経産省の職員らによる各発言によ

って,うつ病を発症したものであり,これによって原告が被った損害は,次のとおりである。


通院交通費

2万6883円



休業損害



昇進が遅れたことによって生じた逸失利益


c
14万0800円


治療関係費

慰謝料

469万5813円
416万2723円

200万円を下らない。

原告は,上記サからセまでの各

経産省の職員らによる

各発言等によって,精神的苦痛を受けたものであり,平成25年1月17日面談におけるbの発言,平成25年5月28日面談におけるbの発言,平成26年1月31日面談におけるiの発言及びkが原告を君付けで呼び続けたことに対する慰謝料の額は,それぞれ各50万円(合計200万円)を下らない。
d
原告が弁護士に委任せずに自ら上記aからcまでの損害賠償を求める訴訟を提起し,
追行することは,
事実上不可能であるから,
被告は,
原告が要した弁護士費用相当額を賠償すべきであり,その額は,15
0万円を下らない。
被告の主張
いずれも争う。

争点3(争点1-⑥から争点1-⑩までの各発言につき国家賠償法第1条第1項の規定に基づく責任が成立するとした場合の当該規定に基づく損
害賠償請求権についての消滅時効の成否)に関する当事者の主張
被告の主張
上記カからコ

らによる各

発言がいずれも違法と評価されるものでないことは,上記カからコまでのとおりであるが,当該各発言を請求原因とする国家賠償法第1

条第1項に基づく損害賠償請求権については,3年の消滅時効期間が経過しているため,被告は,消滅時効を援用する。
原告の主張
いずれも争う。

争点4(本件判定が違法なものかどうか)に関する当事者の主張
原告の主張
次のaからcまでによれば,本件判定は,人事院がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用してしたものであって,違法であるから,いずれも取り消されるべきである。

a
本件判定は,本件説明会において原告が女性用トイレを使用することについて2名の女性職員から抵抗感がある等の意見があった事実を認定した上で,当該事実等を踏まえて,原告が女性用トイレを使用する場合には女性職員の理解が必要であるとした経産省の判断について,妥当性を欠くものとは認められないと判断しているが,そのような女性職員はいなかった。また,経産省は,上記ウ及びエ

の原告の

主張のとおり,性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで原
告を異動させない処遇及び戸籍上の性別変更をしない限り異動先の女性職員に原告が性同一性障害者であることをカミングアウトしなければ異動先で女性用トイレの使用を認めない処遇を行っているにもかかわらず,本件判定は,

当局が,申請者の人事異動について,申請者が主張するような条件を付している事実は認められない。

としてい
る。
したがって,本件判定には基礎となるべき事実の認定に重大な瑕疵がある。本件各措置要求における原告の要求事項は,上記2⑶エのとおりであったにもかかわらず,人事院は,これを恣意的に上記2⑶オのとおり矮小化して把握しており,上記のように事実の認定に遺漏が
生ずるのは当然である。
b
のとおり,原告に対する経産
省の各処遇は,いずれも違法であり,これらの各処遇の違法を看過した本件判定は,国家公務員法第87条及び第71条の規定に違反するものである。

c
職場において自己の性自認に従って適切に取り扱われることは,個人の社会生活の基礎を成す極めて重要な利益であり,人格権の一内容を構成するものというべきであって,特に,原告のように既に女性としての外観を備え,長年,女性として社会生活を送っている者につい
て,職場において他の女性職員と比べて特殊な取扱いをする合理的な理由は存在しない。しかし,本件判定においては,このような利益の重大性や原告が女性として長年社会生活を送っていることを考慮している様子が全くうかがわれない。また,仮に,原告が女性用トイレを使用することについて違和感を抱く女性職員がいたとしても,それは偏見に基づくものであるが,本件判定は,こうした偏見に基づいてされたものである。このように,本件判定は,考慮すべき事項を考慮せず,又は考慮した事実の認定や評価が明白に合理性を欠き,それまでの法的議論,法的評価や民間企業等での実態も加味しておらず,その結果として,社会観念上著しく妥当性を欠くものである。
被告の主張
本件トイレに係る処遇は,国家公務

員法第27条が許容する合理的な区別といえるから,本件判定が要求事項①を認めないこととした点について,人事院の裁量権の逸脱や,その濫用があったとはいうことができない。
経産省は,
性別適合手術を受けて戸

籍上の性別変更をするまで原告を異動させない処遇を行っておらず,また,原告の異動について異動先の職員に性同一性障害であることを告知することが必要であるとの条件を付したこともないから,本件判定が要求事項ⓑのうち申請者が異動するためには戸籍上の性別変更又は異動先の同僚職員への性同一性障害者である旨の告知が必要であるとの当局による条件を撤廃することを要求する部分(以下要求事項ⓑ-1という。を認めないこととした点について,

人事院の裁量権の逸脱や,
その濫用があったとはいうことができない。
性別を踏まえて職員の健康や安全等に関する職員管理や業務管理を実施するに当たっては,基本的には戸籍上の性別に基づいて対応せざるを
得ない。その上で,戸籍上の性別変更をしていない性同一性障害者である職員に対し,戸籍上の性別によらない取扱いを認め,これを円滑に実施するためには,一定の管理職員等において,当該職員が戸籍上の性別変更をしていない性同一性障害者であることや,当該職員に対する当局としての対応状況を把握しておくことが不可欠であって,原告についても同様であるから,本件判定が要求事項ⓑのうち原告が

今後異動することとなった場合には、異動先の管理職等に申請者が性同一性障害者である旨の個人情報を提供しないこと

を要求する部分(以下要求事項ⓑ-2という。)を認めないこととした点について,人事院の裁量権の逸脱や,その濫用があったとはいうことができない。
上記イ

経産省の庁舎内で実施する健康診断

において,原告に女性職員の受診時間帯のうち受診人数の少ない時間帯
を案内していたことは,日本国憲法第14条第1項等が許容する合理的な区別といえるから,本件判定が要求事項ⓒを認めないこととした点について,人事院の裁量権の逸脱や,その濫用があったとはいうことができない。
第3

争点に対する判断

1
括弧内において掲記する証拠又は弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実を認めることができる。


原告に関する状況等

原告は,
平成21年9月26日から,
mメンタルクリニックに通院して,
e医師の診察を受けるようになった。e医師は,これまでに性別違和を主訴とする約6000人の患者を診察する(この約6000人の患者のうち約5割程度の患者については,性同一性障害であると確定的に診断した一方で,約二,三割程度の患者については,性同一性障害の診断から除外した。)とともに,日本精神神経学会性同一性障害に関する委員会の委員と
して,第2版の段階から性同一性障害に関する診断と治療のガイドラインの作成に関与してきた精神科の医師である。e医師は,同日から平成22年7月頃までの間,一か月に一回程度の頻度で原告を診察し,ガイドライン第3版において示されていた手順に沿って,原告から,詳細な養育歴,生活史,性行動歴等を聴取するとともに,原告が女性に対する強く持続的な同一感等を抱いていることを確認し,除外診断を行った上で,同月12日付けで,原告が性同一性障害であると診断した。(甲1の2,36
及び証人e並びに弁論の全趣旨)

原告は,平成10年頃から継続的に女性ホルモンの投与を受け,遅くとも平成22年3月頃までには,原告の血液中における男性ホルモンであるフリーテストステロンの量が0.6pg/ml未満に低下し,40歳から49歳までの男性の基準値の下限とされている7.7pg/mlを大きく
下回っていた。e医師は,このような事情に基づき,同月3日付けで,原告について,

性欲、性機能の抑制をもたらしていると判断できる。このことより、性衝動に基づく性暴力の可能性は低いと判断される。

と診断した。原告は,上記第2の2⑵キの前提事実のとおり,同日,当該診断に係る診断書をc調査官に提出した。原告は,その後も継続的に女性ホルモ
ンの投与を受け,遅くとも平成29年7月頃までには,男性としての性機能を喪失したと考えられる旨の医師の診断を受けるに至った。e医師の医学的所見によれば,継続的に女性ホルモンの投与を受けるようになってから男性としての性機能を喪失するまでの期間については,
個人差等があり,
一概に正確な期間を判断することはできないとしつつも,おおむね5年程
度であるとされている。(甲1の2,47,乙31及び証人e)

原告は,上記第2の2⑵アの前提事実のとおり,平成19年頃から私的な時間に女性としての生活も送るようになり,平成20年頃からは私的な時間の全てを女性として過ごすようになったところ,そのような私的な生
活の中で公共施設等の女性用トイレや女性用更衣室等を使用したことを原因として問題が生じたことはなく,同サの前提事実のとおり,経産省が使用を認めた戊●階から2階以上離れた階のうち主に戊●階及び●階の女性用トイレを使用するようになってからも,現在までの間,それによって他の女性職員等との間の具体的なトラブルが生じたことはない。
これに対し,
原告は,上記のとおり女性用トイレを使用するようになる前は,経産省の庁舎内において男性用トイレを使用していたが,男性用トイレに入ってき
た男性がその場にいた原告を見て驚き,
同所から出ていくということが度々
あった。(甲160,乙24,25,証人h,証人j及び原告本人並びに弁論の全趣旨)

原告は,職場において女性職員として勤務することを希望するようになった平成21年頃には,二,三年後に性別適合手術を受けることを考えて
いた。しかし,平成22年以降に,それまで治まっていた原告の性器に係る部分の皮膚アレルギーが再発し,悪化するとともに,平成25年2月以降は,上記第2の2⑵チの前提事実のとおり,抑うつ状態による病気休暇及び病気休職に入り,さらに,復職後は,同ナの前提事実のとおり,過敏性腸症候群を発症するなどしたことから,現在に至るまで,性別適合手術
を受けていない。(甲4,6の1から8まで,36,160,乙21,証人e及び原告本人並びに弁論の全趣旨)

平成22年7月14日に行われた本件説明会において,上記第2の2⑵コの前提事実のとおり,c調査官らは,原告が退席した後に,出席してい
た職員に対し,原告による女性用トイレの使用等について意見を求めたところ,原告が丙の執務室が在る戊●階の女性用トイレを使用することについては,数人の女性職員がその態度から違和感を抱いているように見えたことから,改めて,職員に対し,原告が戊●階(当該執務室の1階階上である。)の女性用トイレを使用することについての意見を求めた。そうし
たところ,ある女性職員1名が当該女性用トイレについても自らが日常的に使用している旨を述べた。同月8日に原告とc調査官らの間で行われた上記第2の2⑵ケの前提事実として認定した協議の時点においては,原告が具体的にどの階の女性用トイレを使用するかについての結論は,明示的には決められなかったが,c調査官らは,本件説明会における上記のやり取りを踏まえて,戊●階から2階以上離れた階の女性用トイレを原告が使用することを認めることとし,これを受けて,経産省は,同サの前提事実
のとおり,原告にその範囲で女性用トイレの使用を認める一方で,戊●階から●階までの女性用トイレの使用は認めないとする本件トイレに係る処遇を行うこととした。(乙33,128から130まで,証人c,証人h及び証人b並びに弁論の全趣旨)


性同一性障害者特例法第3条第1項に規定する性別の取扱いの変更の審判を受けていないトランスジェンダーによる自認する性別のトイレ等の利用等に関する社会的な状況等

国内の状況等
法令,施策等

a
現在の我が国の国法レベルの法令において,トランスジェンダーに関する直接的な規定は,性同一性障害者特例法の規定並びにその関連規定である家事事件手続法(平成23年法律第52号)第232条及び戸籍法(昭和22年法律第224号)第20条の4のほかには見当たらず,性同一性障害者特例法第3条第1項に規定する性別の取扱い
の変更の審判を受けていないトランスジェンダーによる自認する性別のトイレ等の利用等に関して具体的に定めた法令も見当たらない。なお,自由民主党は,平成28年5月17日に性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案を取りまとめ,同月24日付けで性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方を公表したが,同法律案は,国会に提出されるには至っていない。また,同月27日には,野党4党(社会民主党,民進党,共産党及び国民の生活が第一)の国会議員らが性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案を国会に提出したが,審査未了により廃案となった。(乙60から62の2まで,114及び弁論の全趣旨)
b
現在の我が国の行政においては,トランスジェンダーを含む性的マイノリティに関する国の施策の全体に関して,いずれかの府省庁が司令塔として機能しているという状況にはなく,各府省庁がそれぞれ所管する事務に応じて個別に施策を実施している状況にある。
このような各府省庁による施策の中で,文部科学省が平成28年に
取りまとめた

性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)

と題する資料においては,性同一性障害に係る児童生徒への学校における支援に関し,職員トイレ・多目的トイレの利用を認めた事例が紹介され
ている。また,当該資料においては,

学校においては、性同一性障害に係る児童生徒への配慮と、他の児童生徒への配慮との均衡を取りながら支援を進めることが重要である

とされ,

性同一性障害に係る児童生徒への配慮と、他の児童生徒への配慮との均衡についてはどのように考えれば良いのですか。

との問いに対して,性同一性障害に係る児童生徒への対応は重要ですが、その対応に当たっては、他の児童生徒への配慮も必要です。例えば、トイレの使用について、職員用トイレの使用を認めるなど、他の児童生徒や保護者にも配慮した対応を行っている例があります。このように、性同一性障害に係る児童生徒への配慮と、他の児童生徒や保護者への配慮の均衡を取りながら支援を進めることが重要です。といった回答が記載されている。
(乙37)
日本学術会議による提言
日本学術会議は,平成29年7月29日付けで,性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に―と題する提言を公表した。当該提言は,

個人の尊重を定める憲法13条に鑑みると、性的指向と性自認は、人権、信条、性別など(憲法14条参照)と同等に保護されねばならない法的価値を有し、性的マイノリティが働きやすい職場環境の整備が求められる

として,雇用,労働におけるトランスジェンダーを含む性的マイノリティの権利保障に向けた法的対応の必要性を指摘しており,その上で,性的マイノリティが働きやすい職場環境の整備促進施策の推進に向けて,法律の制定が容易でない場合には,当面,
当事者が働きやすい職場環境に向けたガイドラインの策定が求められるとしつつ,その策定に当たって配慮を要する点の一つとして,施設の利用・服装規制を挙げて,この点について,

障害者差別解消法36条の2は、「障害の特性に配慮した…必要な措置

義務を定めており、性同一性障害者は同法の保護を受ける。しかし、トランスジェンダーに対
するトイレ・更衣室等の利用の可否は企業の裁量に委ねられている。裁量による待遇格差を防ぐためにも、トランスジェンダーについても同様の配慮規定が必要である。」としている。(甲98)
一般社団法人日本経済団体連合会(以下経団連という。)が実施
したアンケートの調査結果等

a
経団連が平成29年3月に実施したLGBTへの企業の取り組みに関するアンケートの調査結果(調査対象:経団連会員企業1385社及び156団体)によれば,

LGBTに関して、何らかの取り組みを実施しているか

との質問に対し,既に実施と回答した企業が42.1%,検討中と回答した企業が34.3%,予定なしと回答した企業が23.2%(回答数:232),既に実施又は検討中と回答した企業の取組のうち,39.3%が性別を問わないトイレ等職場環境の整備に該当するものであり(回答数:177,複数回答可),既に実施と回答した企業が実施している
具体的な取組のうちトイレに係る取組は,
別紙のとおりであった。
既に実施と回答した企業のうち少なくとも1社においては,身体的性別が男性であり,自認している性別が女性であるトランスジェンダー
の従業員で,性同一性障害者特例法第3条第1項に規定する性別の取扱いの変更の審判を受けていない者に対して,女性用トイレの使用を認めた例が複数あり,その中には,他の従業員に当該従業員が性同一性障害であることの説明等を行わずに女性用トイレの使用を認めた例もあった。また,当該調査結果によれば,

LGBTに関する取り組みを進めるにあたり、必要な法整備・支援等についての主な要望

としては,LGBTへの社会全体の理解促進に向けた啓発・広報活動(学校教育含む)と並んで,ジェンダーレスのトイレ・更衣室等の企業内設置に対する助成との回答があった。(乙94及び調査嘱託の結果)

b
経団連は,
平成29年5月16日付けで公表した
ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けてと題する提言において,ハード面での職場環境の整備に関して考えられる具体的な取組として,

性別を問わないトイレの設置等、LGBTが働きやすい職場環境を整備

することを挙げ,さらに,具体例として,

トランスジェンダーの場合、本人が希望する性で会社生活ができるよう環境を整備。性別の扱いを変更した際には、健康診断の個別実施、ユニバーサルトイレの利用推奨等の対応を実施

することを紹介している。(乙94)個別の民間企業における具体的な取組等

民間企業において,身体的性別が男性であり,性自認が女性であるトランスジェンダーの従業員であって,性別適合手術を受けておらず,戸籍上の性別が男性である者
員」という。)に対し,女性用トイレの使用を認めた例として,次のaからfまでがある。これらの例については,原告が平成21年10月23日面談に際して提出した上記第2の2⑵ウの前提事実として認定した文書及び原告が人事院に対して提出した平成26年11月21日付けH26/11/12事務連絡「行政措置要求に係る事実調査についてに対しての回答」にその概要が記載されていた。(甲20,32,34,57,58,乙21及び34並びに弁論の全趣旨)
a
学校法人Aにおいては,男性として勤務していたトランスジェンダー従業員が,平成12年4月頃から,特に制限なく女性用トイレを使
用することを認められた。
その際,
当該トランスジェンダー従業員は,
自らが授業を行っている校舎の責任者や本部の人事担当者には女性として勤務したい旨の希望を伝えたものの,それ以外の従業員に対する説明等は行わなかった。当該トランスジェンダー従業員は,その数年前から,女性ホルモンの投与を開始するとともに,髪の毛を伸ばすよ
うになり,職場においても女性らしい服装で勤務するようになっていた。
b
B株式会社においては,男性として勤務していたトランスジェンダー従業員が,平成13年の異動を機に,女性用トイレの使用を認めら
れた。その際,当該トランスジェンダー従業員は,一部の幹部に対しては自らが性同一性障害であることや戸籍上の性別が男性であることを伝えたが,それ以外の一般の従業員に対しては,そのような説明等は行わなかった。当該トランスジェンダー従業員は,使用する女性用トイレについて特段の指示を受けていなかったが,自主的に,執務室
から1階離れた階のトイレを使用するようになった。当該トランスジェンダー従業員は,その数年前から,女性ホルモンの投与を開始するとともに,職場においても女性らしい服装で勤務するようになっていた。
c
C株式会社においては,男性として勤務していたトランスジェンダー従業員が,平成15年頃に,性同一性障害であることを上司及び人事部に伝えて相談したところ,女性用トイレの使用を承認された。当
該トランスジェンダー従業員は,それより前から,一部の女性従業員に対しては自らが性同一性障害であることなどを話していたが,上記の承認の後に入社してきた従業員に対してはそのような説明等は行っていない。
当該トランスジェンダー従業員は,
その10年以上前から,
職場において男女の区別がつかないような服装で勤務するようになる
とともに,上記の承認の数年前から,女性ホルモンの投与を開始していた。
d
株式会社Dにおいては,男性として勤務していたトランスジェンダー従業員が,平成15年の親会社からの転籍を機に,女性用トイレの使用を許可された。株式会社Dにおいて当該トランスジェンダー従業
員の戸籍上の性別が男性であることを知っている者は,一部の管理職等のみである。
e
E株式会社においては,男性として勤務していたトランスジェンダー従業員が,平成11年の異動を機に,女性として勤務したい旨の要望を人事課長に伝えたところ,女性用トイレの使用を全面的に認めら
れた。その際,当該トランスジェンダー従業員は,異動先で引き続き一緒に働くことになる3名の従業員に対しては事情を説明したが,それ以外の従業員に対してはそのような説明等は行わなかった。当該トランスジェンダー従業員は,その数年前から,女性ホルモンの投与を開始していた。

f
F株式会社においては,男性として勤務していたトランスジェンダー従業員(ただし,精巣摘出手術を受けている。)が,2000年代前半に,上司を通じて,女性として勤務したい旨をF株式会社に申し出て,女性用トイレの使用を認められた。その際,一部の女性従業員等には人事担当者から当該トランスジェンダー従業員が女性として勤務することについて説明されたが,その後の異動に際しては,そのよ
うな説明等は行われなかった。当初,当該トランスジェンダー従業員が使用を認められた女性用トイレは,一か所だけであったが,数年後にそのような制限はなくなった。また,女性用トイレの使用が認められたごく初期の頃には,当該トランスジェンダー従業員が女性用トイレを使用する際には,事情を知る女性従業員が必ず随伴するという取
決めがされていたが,その後にそのような取決めはなくなった。当該トランスジェンダー従業員は,その数年前から女性ホルモンの投与を開始するとともに,中性的な服装や薄化粧をして勤務するようになっていた。

諸外国の状況等
アメリカ合衆国連邦政府人事院が平成23年に示したトランスジェンダー雇用に関する連邦政府の職場でのガイダンスには,職員が自認する性で働き始めたら、当局はトランスジェンダー職員のために、職員の性自認に従ったトイレ(省略)の利用を許可すべきである。(省略)障害者や子どもを含むすべての人たちに最大限の快適さと利用のためにユニセックスの個室トイレを提供することを推奨するが、トランスジェンダーの従業員は、これらの施設の利用に限定されるべきではない。各職場の構造は異なるので、職員の職場内の施設の利用方法に関する質問を受けた当局は連邦政府に相談してもよい。との記載がある。(乙1
23の1及び123の2)
アメリカ合衆国連邦最高裁判所は,平成28年8月3日,身体的性別が女性であり,性別適合手術を受けていないトランスジェンダーの高校生に対し,通学する高校における男性用トイレの使用を認めた原判決の命令を暫定的に停止する旨の判断を示した。(乙43)
アメリカ合衆国司法省及び教育省は,平成29年2月22日付けで,1972年教育改正法第9編,合衆国法典第20編1681条以下及び関連施行令(省略)が規定している“男女差別”禁止条項は,性自認に基づく男女別施設の使用を求めているとの見解を示しているガイダンスについて,

広範な法的分析や教育改正法第9編における各文言との整合性の説明が欠如しており,また,いかなる公式な公開手続も経ていない。として,

当該ガイダンスを撤回して無効化することを決定し,
今後これらの文書にある解釈には依拠しない旨を通知した。(乙44の1及び44の2)
イギリス平等局が平成27年に発表したガイダンス:トランスジェンダー職員のリクルートと雇用:雇用主のためのガイドには,施設の利用-トランスジェンダーにとって、その自認する性に適した施設を自由に選択できるようにすべきである。例えば、トランスジェンダーが自認する性でフルタイムで生活をしているのだとしたら、その自認する性の施設を利用する権利が与えられるべきである。雇い主は第三者から性転換への差別を防ぐ措置を講じるべきである。雇用主がすでにジェンダーニュートラルなトイレや更衣室を提供している場合であれば、それらはトランスジェンダーの人々の障壁リスクを緩和させる。等の記載がある。(乙124の1,124の2)
経産省が外務省を通じて行った諸外国におけるトランスジェンダーによる自認する性別のトイレ等の利用等に関する調査に係る回答の内容の
うち,諸外国の法令,ガイドライン等の内容に関するものは,おおむね次のaからeまでのとおりであった。
a
アメリカ合衆国


コロンビア特別区(乙137)

HumanRightsActof1977に2006年に追加されたChapter8の802によると、個人のジェンダーアイデンティティおよび表現に適合するトイレを使用する権限を有する。




メリーランド州(乙137)
法律上の性別変更を行っていないトランスジェンダーによるトイレの使用に関し言及した政府機関等の法律はない。ただし,ThefairnessorallMarylandersActによって公共施設の差別を行うことが違法であることを確認,しかし,同法を説明した政府のサイトによるとトイレの使用に関してはここには含まれない。⒞

カリフォルニア州(乙139)
ア根拠法令等の概要①CaliforniaFairHousingandEmploymentAct(FEHA)に基づき,従業員は自らの性自認に従って設備を利用できる。②CaliforniaHealthandSafetycodeに基づき,全ての事業所は個人向けのトイレを全性別向けとして表示しなければならない。③CaliforniaEducationCode,relatingtopupilrightsに基づき,幼稚園から高校までの生徒は,登録されている性別によらず,トイレ,更衣室及びその他性別に基づく設備を使うことができる。イ基準及び運用方法等①性別が指定されている設備を使う際に,自らの性別を示す医学的な証明や身分証を提示する必要はない。ウ根拠法令等の施行の経緯及び開始時期①2017年②2017年③2013年⒟

ネバダ州(乙139)

ア根拠法令等の概要AssemblyBillNo.211に基づき,性自認に基づく差別的な雇用慣行が禁止されている。イ根拠法令等の施行の経緯及び開始時期2011年




ワシントン州(乙140の1及び140の2)

法令等
1.法律の概要a.ワシントン州i.性表現やアイデンティティーに基づく差別は、WashingtonLawAgainstDiscrimination(WLAD)により禁止されている。WAC162-32-060に基づき,この保護の対象にトランスジェンダーの人による公衆トイレの利用も含まれている。b.シアトルi.2015年8月、シアトルは、全ての一人部屋方式の公衆トイレに、ユニセックス、ジェンダーニュートラル、又はオールジェンダーのラベル付けを求めるAllGenderRestroomOrdinanceを制定した。2.以上を踏まえた運用方法や基準の概要a.自分のジェンダーアイデンティティに対応した公衆トイレを利用できる。3.法施行の背景と開始a.2006年以降、性表現やアイデンティティーを理由とする差別は、WLADにより禁止されている。WLADの実施を担当する州政府機関であるワシントン州人権委員会(HRC)は、2015年、トランスジェンダーが自らのジェンダーアイデンティティに応じてトイレその他の性別で分けられた施設を利用する権利を保護する規制を制定した。ⅱ
ガイドライン等
1.ガイドラインの概要とガイドラインを作成した機関(省略)b.ワシントン州の公教育監督官庁(OSPI)が2012年に出した学区向けのガイドラインには、トランスジェンダーその他ジェンダーノンコンフォーミングの学生に対するものも含め、公立学校での差別の撤廃が含まれている。2.以上を踏まえた運用方法や基準の概要(省略)b.OSPIのガイドラインにおいて、学区では、学生が学校において自ら主張するジェンダーアイデンティティと一致するトイレを利用できるようにすべきである、とされている。


ミシガン州(乙142)
○ミシガン州においては,法律上の性別変更を行っていないトランスジェンダーによるトイレの使用に言及した法令及びガイドラインはない。○なお,2016年,ミシガン州教育委員会は,州内の学校に対して,法律上の性別に関わらず,学生(幼稚園及び小学生のみ)は自認するトイレやロッカールームを使用できるようにすることを認めるよう勧告した。勧告に拘束力はない。⒢

コロラド州(乙143)

法令等

(ア)根拠法令等の概要①ColoradoAnti-DiscriminationAct(CADA)第24章34条601項によれば、個人の「性的指向(SexualOrientation)

に関する公共施設での差別を禁じている。②性的指向の定義として、(省略)トランスジェンダー(省略)とされており、右の性的指向に基づく差別を禁じ

ている。
(イ)基準及び運用方法等
ColoradoAnti-DiscriminationAct(CADA)第24章34条601項において、
以下の営業形態を含む施設における

性的指向(SexualOrientation)に基づく差別を禁じている。


(省略)教育施設、公共の建物,公園,広場,映画館,集会
場,美術館・博物館,図書館,展示場などの公共施設,およ
び上記施設内設置のトイレ。」
(ウ)根拠法令等の施行の経緯及び開始時期
(省略)

②2008年:CADA改定(住居や公共施設における個人の性的指向に基づく差別を禁ずる項目の追加)。」

ガイドライン等
(ア)ガイドライン等の発行機関及び概要①コロラド州規制局の傘下組織であるコロラド州人権委員会(CCRC)では、CADAに関する申し立ての分析や法的情報を補うためのガイドラインを発行しており、その中にはトランスジェンダーの人々のトイレ使用に関する項目が記載されている(ガイドライン基準第81.9号)。(イ)基準及び運用方法等同ガイドラインにおいて以下が基準として定められている。①個人の性的指向に基づいた男女別の全施設の使用を認める。②施設はトイレ、ロッカールーム、脱衣所および寮を含めた全施設を意味する。③トランスジェンダーとは出生時の性別とは異なる性同一性や性表現を持つ人々を意味する。④性同一性とは、生来自分がどの性別に属しているかという感覚のことであり、また性表現とは、性別に関わる外見や性格、振る舞いなどを意味する。(4)ガイドライン等の施行の経緯及び開始時期右ガイドラインは、2009年11月30日より発効。⒣

ケンタッキー州(乙144)
9都市に性同一性障害者の法定保護制度(求職、公共施設利用等において性同一性障害者への差別を禁じる地方都市条例)があり、トイレの使用を認めているが、州法と必ずしも整合性がとれていない状態となっている。仮に訴訟となった際には州法が優先適用されると解釈されている。⒤

ルイジアナ州(乙144)
2都市に性同一性障害者の法定保護制度(求職、公共施設利用等において性同一性障害者への差別を禁じる地方都市条例)があり、トイレの使用を認めているが、州法と必ずしも整合性がとれていない状態となっている。仮に訴訟となった際には州法が優先適用されると解釈されている。⒥

ミシシッピ州(乙144)
2都市に性同一性障害者の法定保護制度(求職、公共施設利用等において性同一性障害者への差別を禁じる地方都市条例)があり、トイレの使用を認めているが、州法と必ずしも整合性がとれていない状態となっている。仮に訴訟となった際には州法が優先適用されると解釈されている。⒦

ニューヨーク州(乙145)
2015年10月に施行したNewYorkCodeofRulesandRegulation(NYCRR)§466.13により、トランスジェンダーの人々が州人権法(NewYorkStateHumanRightsLaw)に守られることが明文化された。NYCRR§466.13は、職場・住宅・公共の場(小売店、ホテル、レストランなど)におけるトランスジェンダーや性別違和感に基づく差別を禁じている。


ニュージャージー州(乙145)
NewJerseyLawAgainstDiscrimination(LAD)は、2007年にジェンダー・アイデンティティに基づく差別について修正がなされ、雇用主は性転換手術の有無に関わらず、トランスジェンダーの従業員をジェンダー・アイデンティティに則って取り扱うことを求められることとなった。また、公共施設においてはジェンダー・アイデンティティに沿ったトイレの使用を認めることが義務化された一方、公共施設以外におけるジェンダー・アイデンティティに沿ったトイレの使用については明文化されなかった。⒨

マサチューセッツ州(乙147)
法律上の性別変更を行っていないトランスジェンダーのトイレ使用に言及した法令はないが,2016年のAnActRelativetoTransgenderAnti-Discrimination(法改正)では、性別によって分けられた公共施設の所有者及び管理者は、全ての者に性的アイデンティティに応じて使用許可を与えるものとしている。⒩

ニューハンプシャー州(乙147)
法律上の性別変更を行っていないトランスジェンダーのトイレ使用に言及した法令はないが,平成30年に

施行されたProhibitingdiscriminationbasedongenderidentityでは、「性的アイデンティティ

には、出生時の性別と異なるものも含まれ、公共施設の所有者や管理者が性的アイデンティティを元に使用を制
限するのは違法であるとしている。」


バーモント州(乙147)
法律上の性別変更を行っていないトランスジェンダーのトイレ使用に言及した法令はないが,VermontStatutes,Title9,Section4502は、公共施設の所有者及び管理者は、人種や国籍のほか、性的指向,性的アイデンティティに基づいて施設の使用を拒否したり制限してはならないとしている。⒫

ロードアイランド州(乙147)
法律上の性別変更を行っていないトランスジェンダーのトイレ使用に言及した法令はないが,2014年のRhodeIslandGeneralLaws,Title11,Chapter11-24-2(法改正)は、公共施設の所有者及び管理者は、性的指向、性的アイデンティティ・外見に基づいて使用を直接・間接的に制限してはならないとしている。⒬
コネチカット州(乙147)
法律上の性別変更を行っていないトランスジェンダーのトイレ使用に言及した法令はないが,

2011年のAnActConcerningDiscrimination(法改正)では、「性的アイデンティティ及び外見

は、出生時の性別や医療記録とは異なるものも含まれ、公共施設においてこれら性的アイデンティティを基にした使用拒否は差別に当たり違法であるとしている。」


アリゾナ州(乙150)

州内のいくつかの市では、反差別条例が採用されている。この条例は、一般的に、公私に関わらず、性別、年齢、人種、障害、性的指向、性自認、その他の理由にかかわらず人々は平等に扱われるべきであるとする。


b
英国(乙151)


法令等
⑴根拠法令等の概要2010年平等法は,例えば,トイレ,店内の更衣室,スイミングのプールの脱衣場,男女別病棟の設置を許容している。具体的な根拠条文は,2010年平等法附則第3章26条及び27条である。(省略)同附則では,取得した性別(28条)によるあるサービスへのアクセスを求めるトランスジェンダーの個人への異なった取扱いを許容している。サービスプロバイダは,トランスジェンダーの者を,ある性別に対するサービスから除外することができる(例えば,トランスジェンダーの女性を,女性の更衣室に入ることを禁止する)そうする場合には,。正当な目的(legitimateaim)による相当な手段(proportionatemeans)である必要がある。この基準を満たすかは当該状況次第であり,これに関連する裁判例はほとんどない。(省略)⑶根拠法令等の施行の経緯及び開始時期2010年平等法は,2010年10月1日に施行された。


その他
3.甲83号証記載の書証について(省略)トランスジェンダーの者は差別されるべきではなく,したがって,サービスへのアクセスが拒否される場合には,客観的正当化基準(objectivejustificationtest,正当な目的を満たすための相当な手段)が確実に考慮される必要がある。トランスジェンダーの者のトイレへのアクセスに関連する事件は,以下の1件のみであり,同事件において,裁判所は,パブの経営者がトランスジェンダーの女性を女性トイレに立ち入ることを違法に禁止したと認定した。c
カナダ


連邦政府のガイドライン等(乙156)
(1)ガイドライン等の発行機関及び概要加連邦政府組織の運営面を支援する機関である加公共事業調達省(PSPC)が,トランスジェンダーの労働者に関して考慮すべき事項等を含む管理者向けガイドライン(省略)を定めている。同ガイドラインの制定は同省が初めてであり,適用されるのは同省に勤務する職員のみである。現時点では,同省以外の連邦政府組織において同様のガイドライン等の存在は確認できない。(2)法律上の性別と異なる性別のトイレの使用が認められる場合は,その基準及び運用方法等アトイレや更衣室の利用について同ガイドラインは,管理者に対してトランスジェンダーの労働者によるトイレや更衣室の利用に関して考慮すべき事項(省略)として,「労働者は,自らが快適と感じる,性自認に対応した施設へのアクセス及びその利用を認められるべきである
と規定し,さらに,性別による区別のない(ジェンダーフリーの)施設(トイレ)の利用は,あくまで個人の選択の問題であり,労働者は性別による区別のあるトイレの使用に関して嫌がらせに直面させられるべきではないことに留意することが重要である。可能であれば,性別による区別のないトイレを複数設置することが望ましいと記載している。(省略)
(3)ガイドライン等の施行の経緯及び開始時期
施行日についての情報はないが,同ガイドライン策定に関し
ては,2017年8月24日に一般公開された。」



アルバータ州(乙157)

法令等
アルバータ人権法(AlbertaHumanRightsAct)セクション4は、自分の性に適合した男女別に分かれた施設を利用出来ると規定しており、トランスジェンダーが自分の希望する男女どちらかのトイレの利用を可能にしている。ⅱ
ガイドライン等
2016年1月、アルバータ州教育省は、性に関する新たなガイドライン(GuidelinesforBestPractices:CreatingLearningenvironmentsthatRespectDiverseSexualOrientations,GenderIdentitiesandGenderExpressions(省略))を発表し、トランスジェンダーは、自分の性に合致したトイレ等を利用する権利があることを認めるとともに、公立学校に性別を問わないトイレの設置を義務付けた(省略)。⒞

サスカチュワン州(乙157)

2011年に改正されたサスカチュワン人権法(SaskatchewanHumanRightsCode)セクション12は、トランスジェンダーが自分の性に合致した男女別施設を利用することを可能にした。



マニトバ州(乙157)

2012年に改正されたマニトバ州人権法(ManitobaHumanRightsCode)セクション9は、トランスジェンダーが自分の性に合致した男女別施設を利用することを可能にした。



オンタリオ州(乙158)
(1)法令,ガイドライン等の概要オンタリオ人権委員会は,オンタリオ人権法セクション30の規定に基づき,「性自認及び性別表現に基づく差別の防止に関する政策(省略)を策定。同政策13.4.1(省略)において,トランスジェンダーは,自らが生きてきた性自認に基
づきトイレ及び更衣室にアクセスする権利を有する旨記載。
(省略)
(3)法令,ガイドライン等の施行の経緯及び開始時期

トランスジェンダーは,自らが生きてきた性自認に基づきト
イレ及び更衣室にアクセスする権利を有するとの政策は,20
00年に策定された性自認による差別及びハラスメントに関する政策(省略)に盛り込まれた。2000年以前は,性転換手術を受けたかどうかで判断されていた。」



ブリティッシュ・コロンビア州(乙159)

法令等
(1)BC人権法(BCHumanRightsCode)セクション8は,公共の施設を利用することについて,性自認又は性表現により差別することを禁じている。(省略)(2)トランスジェンダーの人権に関する情報提供を目的に作成されたウェブサイト「TransRightsBCにおいて,性自認と一致するトイレや更衣室へのアクセスを拒否された場合
にはBC人権法に基づき訴訟を起こすことができる旨言及さ
れている。」


その他
性別による区別のある公共施設(トイレを含む)の使用に関する裁判例等は少なく,最も関連性のある事例として,ブリティッシュ・コロンビア州人権審判所による審判結果があるところ,概要は以下のとおり(省略)。<Ferrisv.OfficeandTechnicalEmployeeUnion,Local15,1999BCHRT55>トランスジェンダーである申立人が,雇用者及び労働組合である被申立人から,同州人権保護法に反して,申立人の性別及び(又は)障害を理由として雇用条件に関する差別的取扱いを受けたとして,同州人権委員会へ審査申立てを行った事案。申立てについて同委員会から付託を受けた同州人権審判所は,トランスジェンダーの労働者(申立人)に対し,性自認に対応したトイレへのアクセスを否定することは,労働者が性転換手術を経たか否かに関わらず,同州人権保護法8条が禁じている「性別による差別的取扱いに当たると判断した。」d
ニュージーランド(甲85,86及び乙161)

関連法令は無い。他方、(省略)法律上の性別変更を行っていない場合でも、1993年人権法第42条にて規定される「禁止された差別該当事由(性的指向も右に含まれる)に基づく公共の場へのアクセス制限の禁止

に基づき、各個人が適すると判断する性別に基づくトイレを使用できるべきとする任意ガイドラインが各種発行されている(下記参照)。
(2)関連ガイドライン等

人権委員会トランスの人々のファクトシート

(省略)
(イ)概要:様々な設定における性同一性障害当事者への支援を
目的とし、配慮すべき事項等につき、外国の事例・ガイド
ライン等の紹介も含めまとめられたファクトシート。トイ
レの使用については、
主に教育現場での考慮事項として
自己の性別アイデンティティに適合するトイレを利用できる選択肢が与えられるべきである。選択肢としてはユニセックス仕様のトイレ、保健室或いは教職員用トイレの使用も考えられる。また、トランスジェンダーの生徒と同じトイレを使用することに不安を感じる他の生徒にも、ユニセックスあるいは障害者用トイレの使用を認めることも選択肢である。とされている。(エ)発効時期:不明
(省略)

労働局トランジション中の職員支援について

(省略)
(イ)概要:主に職場における性同一性障害当事者及びトランジ
ション中の職員へ如何なる配慮をすべきかに係るガイドラ
イン。トイレの使用については

自らの性別アイデンティティと適合するトイレの使用は当事者にとって特に重要である。ユニセックス仕様のトイレを設置することがより望ましいが、特定性別用のトイレの使用も妨げられてはならない。

とされている。(エ)発効時期:不明(2008年以降)」
e
スペイン王国(乙162)

2法律上の性別変更を行っていないトランスジェンダーによるトイレの使用に関し言及した法令等の有無(1)国家に関しては無し。(2)地方マドリード州が「性的自認及び表現、社会的平等並びに不差別に関する法律

(2016年3月29日付け法律第2/2016
号)を制定。詳細以下ア~ウのとおり。なお、他の複数の州が類
似の規定を有する法律を制定。

根拠法令等の概要
同法第23条(教育現場における性的自認の取扱いに関する

規則)第1項(f)に以下の規定あり。

(f)性により異なる活動を実施する場合には、生徒により自認された性別を念頭に置くものとする。その場合、トイレや更衣室等の教育施設内の設備への性的自認に基づくアクセス及び使用を保障する。

(省略)

根拠法令等の施行の経緯及び開始時期
2016年4月27日施行。
(省略)
4
以下の事実確認

いくつかの地方政府において,性自認に対応したトイレの使用を認める旨の条例が存在し,国家レベルにおいても,学校及び社会的弱者の施設において,性自認に応じた施設の使用を認める法案が審議されている。

(1)前段(地方レベル)
上記2のとおり。
(2)国家レベル
当国政府関係者に照会したところ、先方説明概要以下のとおり。

●現在議会において、性自認に応じた施設の使用を認める法案が
審議されている。
●中でもトイレの使用は議論の分かれる論点であり、最終的に性
自認に応じた利用が許容されるかは予断できない。」
2
事実認定の補足説明


原告は,上記1⑴オの認定事実に関し,本件説明会において原告が女性用トイレを使用することについて抵抗感等がある旨の意見を述べた女性職員はおらず,原告が戊●階から2階以上離れた階の女性用トイレを使用することについては,上記第2の2⑵ケの前提事実において認定した協議の時点にお
いて,既に決まっていた旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問において,当該主張に沿う内容の陳述をしている。また,本件説明会が終わった直後に原告が作成した丙員への説明会と題する文書(甲164)及び原告が知人である経産省職員に対して送信した電子メール(甲199)の各記載内容並びにc調査官が平成22年9月8日に原告に対して送信
した電子メール(甲141)によれば,c調査官は,本件説明会が終わった後に,原告に対し,本件説明会において原告が女性用トイレを使用することに反対するような意見が出なかった旨の説明をするとともに,この電子メールにおいても同旨の説明をしていた事実を認めることができる。


しかしながら,上記1⑴オで認定した本件説明会におけるc調査官らと女性職員とのやり取りは,原告が退席した後にされたものであって,原告自身はそのやり取りを直接に認識していなかったものであるし,c調査官は,本
件説明会において原告による女性用トイレの使用自体が否定されたものではなかったことから,原告と他の職員との間に今後のわだかまりを残すべきではないと考え,原告に対して上記⑴の説明をした旨の陳述をしており,その陳述に係る対応の内容は合理的なものであるということができる。また,原告自身も,当該協議の中で戊●階から2階以上離れた女性用トイレを使用す
ることが明示的に確認されたわけではない旨の陳述をしており,原告が当該協議の翌日に作成した2010/07/08の話し合いについてと題する文書(甲20の17枚目)にも,c調査官からの説明として,

トイレに関しては、当面の間は、身障者用トイレ、若しくは、●●から少し離れた女性用トイレを使用すること

との記載があるにとどまり,当該協議において原告が戊●
階から2階以上離れた階の女性用トイレを使用することが決まっていたとは認められない。上記1⑴オ掲記の各証拠に加え,これらの事情に照らせば,原告の上記の陳述をそのまま採用することはできないし,c調査官が原告に対して上記⑴の説明をしていた事実をもって,上記1⑴オの認定を覆すには足りず,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

3
上記第2の2の前提事実に加え,上記1において認定した各事実を踏まえ,まず,争点1-①から争点1-⑭までについて,順次検討する。⑴

争点1-①(本件トイレに係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)について


トイレ
(便所)
については,
労働安全衛生法
(昭和47年法律第57号)
の規定に基づき,及び同法を実施するために定められている事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)第17条第1項第1号の規定が事業者に対して男性用と女性用に区別して設けることを義務付けており,経済産業大臣が人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)第15条の規定に基づいて経産省の庁舎について講ずべき措置については,同令の規定の例による措置とされている(人事院規則10-4(職員の保健及び安
全保持)の運用について(人事院事務総長発昭和62年12月25日職福-691)第15条関係第1項)ものの,トイレを設置し,管理する者に対して当該トイレを使用する者をしてその身体的性別又は戸籍上の性別と同じ性別のトイレを使用させることを義務付けたり,トイレを使用する者がその身体的性別又は戸籍上の性別と異なる性別のトイレを使用すること
を直接的に規制する法令等の規定は,見当たらない。そうすると,本件トイレに係る処遇については,専ら経産省(経済産業大臣)が有するその庁舎管理権の行使としてその判断の下に行われているものと解することができる(被告も同旨の主張をしている。)。

そして,本件トイレに係る処遇の内容に照らすと,原告は,本件トイレに係る処遇によって,戊●階から●階までの女性用トイレを使用することができないという制限を受けているということができる。
ところで,性別は,社会生活や人間関係における個人の属性の一つとして取り扱われており,個人の人格的な生存と密接かつ不可分のものという
ことができるのであって,個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることは,重要な法的利益として,国家賠償法上も保護されるものというべきである。このことは,性同一性障害者特例法が,心理的な性別と法的な性別の不一致によって性同一性障害者が被る社会的な不利益の解消を目的の一つとして制定されたことなどからも見て取ること
ができる。そして,トイレが人の生理的作用に伴って日常的に必ず使用しなければならない施設であって,現代においては人が通常の衛生的な社会生活を送るに当たって不可欠のものであることに鑑みると,個人が社会生活を送る上で,男女別のトイレを設置し,管理する者から,その真に自認する性別に対応するトイレを使用することを制限されることは,当該個人が有する上記の重要な法的利益の制約に当たると考えられる。
そうすると,
上記第2の2⑵アの前提事実及び上記1⑴アの認定事実のとおり,原告が
専門医から性同一性障害との診断を受けている者であり,その自認する性別が女性なのであるから,本件トイレに係る処遇は,原告がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることという重要な法的利益を制約するものであるということになる。
加えて,被告は,上記

aのとおり,本件トイレに係る処

遇を行っている理由について,原告の身体的性別又は戸籍上の性別が男性であることに伴って女性職員との間で生ずるおそれがあるトラブルを避けるためである旨を主張しているところ,当該主張を前提とすると,原告が経産省の庁舎内において女性用トイレを制限なく使用するためには,その意思にかかわらず,性別適合手術を受けるほかないこととなり,そのこと
が原告の意思に反して身体への侵襲を受けない自由を制約することになるという一面も有していることは否定することができない。

これに対し,被告は,そのようなトラブルを避けるために本件トイレに係る処遇を行うことが,庁舎管理の責任者である経産省において果たすべ
き責務を遂行した合理的な判断である旨を主張している。
確かに,これまで社会において長年にわたって生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきたことを考慮すれば,身体的性別及び戸籍上の性別が男性で,性自認が女性の性同一性障害である職員に対して女性用トイレの使用を認めるかどうかを検討するに当たっては,そのような区別を前提
として女性用トイレを使用している女性職員に対する相応の配慮も必要であると考えられる。そして,被告は,我が国においては,性同一性障害の者が自認する性別に応じた男女別施設を利用することについて,必ずしも国民一般においてこれを無限定に受容する土壌が形成されているとまではいい難い状況にあるというほかない旨を指摘するところ

諸外国において,法律上の性別変更をしていないトランスジェンダーによ
るトイレ等の男女別施設の利用については,多目的トイレや男性と女性の双方が使用することのできるトイレの使用等を提案し,推奨する考え方も存在するところであって,必ずしも自認する性別のトイレ等の利用が画一的に認められているとまではいい難い状況にあるということができる。しかしながら,生物学的な区別を前提として男女別施設を利用している
職員に対して求められる具体的な配慮の必要性や方法も,一定又は不変のものと考えるのは相当ではなく,性同一性障害である職員に係る個々の具体的な事情や社会的な状況の変化等に応じて,変わり得るものである。したがって,被告の指摘に係る上記のような状況を前提としても,そのことから直ちに上記のような性同一性障害である職員に対して自認する性別の
トイレの使用を制限することが許容されるものということはできず,さらに,当該性同一性障害である職員に係る個々の具体的な事情や社会的な状況の変化等を踏まえて,その当否の判断を行うことが必要である。エ
そこで,
上記ウにおいて説示したところを本件についてみると,
原告は,
上記1⑴アにおいて認定したとおり,性同一性障害の専門家であるe医師が適切な手順を経て性同一性障害と診断した者であって,同イの認定事実によれば,経産省においても,女性ホルモンの投与によって原告が遅くとも平成22年3月頃までには女性に対して性的な危害を加える可能性が客観的にも低い状態に至っていたことを把握していたものということができ
る(その後,原告は,平成29年7月頃までには男性としての性機能を喪失したと考えられる旨の医師の診断を受けたものである。)。また,経産省の庁舎内の女性用トイレの構造(上記第2の2⑵サの前提事実)に照らせば,当該女性用トイレにおいては,利用者が他の利用者に見えるような態様で性器等を露出するような事態が生ずるとは考えにくいところである。さらに,上記1⑴ウの認定事実によれば,原告については,私的な時間や職場において社会生活を送るに当たって,行動様式や振る舞い,外見の点を含め,女性として認識される度合いが高いものであったということができる。加えて,同⑵ア

の認定事実によれば,2000年代前半までに,

原告と同様に,身体的性別及び戸籍上の性別が男性で,性自認が女性であるトランスジェンダーの従業員に対して,特に制限なく女性用トイレの使用を認めたと評することができる民間企業の例が本件証拠に現れた範囲だけでも少なくとも6件存在し,経産省においても平成21年10月頃にはこれらを把握することができたということができる。そして,同⑵アにおいて認定した立法の動きや施策等(同

),日本学術会議による提言(同
)を

踏まえると,我が国において,平成15年に上記イのとおり性同一性障害者特例法が制定されてから現在に至るまでの間に,トランスジェンダーが職場等におけるトイレ等の男女別施設の利用について大きな困難を抱えていることを踏まえて,より働きやすい職場環境を整えることの重要性がますます強く意識されるようになってきており,トランスジェンダーによる
性自認に応じたトイレ等の男女別施設の利用を巡る国民の意識や社会の受け止め方には,相応の変化が生じているものということができるし,このような変化の方向性ないし内容は,同⑵イにおいて認定した諸外国の状況から見て取れる傾向とも軌を一にするものということができる。これらの事情に照らせば,

平成26年4月

7日の時点において,同
は,せいぜい抽象的なものにとどまるものであり,経産省においてもこのことを認識することができたというべきである。
この点に関し,被告は,本件説明会で原告が女性用トイレを使用することに関して抵抗感等を述べる声が現に存在していた旨を主張している。確かに,c調査官らは,本件説明会に出席した女性職員が戊●階の女性用トイレを原告が使用することに違和感を抱いているように見えたことから,その後の女性職員とのやり取りを踏まえて,原告に戊●階から2階以上離れた階の女性用トイレの使用を認めることとしたことは,上記1⑴オにおいて認定したとおりである。しかしながら,原告が戊●階から●階までの女性用トイレを使用した場合に限って

に係るトラブルが生ずる可能性が高いものであったこと等をうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はないし,c調査官らが見えたとする違和感が当該トラブルを具体的にもたらすほどのものであったと考えることもできない。そして,仮に,上記の被告の主張に係るトラブルが生ずる抽象的な可能性が何らかの要因によって具体化・現実化することを措定したとして
も,回復することのできない事態が発生することを事後的な対応によって回避することができないものとは解し難い。
加えて,上記第2の2⑵サの前提事実及び上記1⑴ウの認定事実のとおり,原告が平成22年7月以降は一貫して経産省が使用を認めた女性用トイレを使用しており,男性用トイレを使用していないことや,過去には男
性用トイレにいた原告を見た男性が驚き,同所から出ていくということが度々あったことなどに照らすと,女性の身なりで勤務するようになった原告が経産省の庁舎内において男性用トイレを使用することは,むしろ現実的なトラブルの発生の原因ともなるものであり,
困難といわざるを得ない。
また,多目的トイレについては,高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促
進に関する法律(平成18年法律第91号)第14条第1項の規定及び高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律施行令第14条第1項第1号の規定が建築主等にその設置を義務付けているところ,性同一性障害の者は,そのことのみで直ちに同法第2条第1号に規定する高齢者、障害者等に該当するものとは解されず
(当事者も同旨の主張をしている。,

少なくとも同法において多目的トイレの利用者として本来的に想定されているものとは解されないし,原告にその利用を推奨することは,場合によ
りその特有の設備を利用しなければならない者による利用の妨げとなる可能性をも生じさせるものであることを否定することができない。
以上に加え,原告が平成26年3月7日付けで本件措置要求に係る要求事項を補正して女性用トイレの使用について制限を設けないことを求めていたこと(上記第2の2⑶イの前提事実)に照らすと,遅くとも上記第2
の3⑵

同年4月7日の時点においては,同

の被

告の主張に係る事情をもって原告の法的利益等に対する上記の制約を正当化することはできない状態に至っていたというべきである。
なお,本件トイレに係る処遇が秘書課の顧問弁護士の見解を踏まえたものであった(上記第2の2⑵カの前提事実)としても,本件トイレに係る
処遇が経産省によるものであることに鑑みると,上記において説示したところを何ら左右するものではない。
したがって,経産省(経済産業大臣)による庁舎管理権の行使に一定の裁量が認められることを考慮しても,経産省が同日以降も本件トイレに係る処遇を継続したことは,庁舎管理権の行使に当たって尽くすべき注意義
務を怠ったものとして,国家賠償法上,違法の評価を免れない。


争点1-②(原告に対して他の女性職員と同じ時間帯に健康診断を受けることを認めない旨の原告の主張に係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)について


原告は,経産省が原告に対して平成22年7月20日以降に他の女性職員と同じ時間帯に健康診断を受けることを認めない処遇を行っている旨を主張しており,その陳述書(甲160)において当該主張に沿う内容の陳述をしているほか,丙の庶務担当者が原告に対して送信した平成26年5月20日付け,同月22日付け及び平成27年5月19日付けの各電子メール(甲201から203の2まで)には,原告の健康診断の受診の時間等を告げる内容の記載がある。


しかしながら,証拠(乙18,135及び証人j)によれば,経産省が平成22年以降に原告に対して女性職員が健康診断を受ける時間帯のうち受診する者が比較的少ない時間帯を案内していたこと,このうち平成24年の健康診断において原告が案内された時間帯よりも早い時間帯に健康診断を受診したものの,経産省から注意や指導等は行われなかったことを認
めることができることに加え,原告自身も,その本人尋問において,経産省から健康診断を受ける時間帯について何らかの制限を受けたとは感じておらず,他の女性職員とは別の時間帯に健康診断を受けたかどうかについての記憶も曖昧である旨を陳述していること(原告本人)に照らすと,上記アの原告の陳述を直ちに採用することはできないし,当該各電子メール
の記載をもって,経産省が他の女性職員と同じ時間帯に健康診断を受けることを認めない処遇を行ったり,原告のみに女性職員が健康診断を受ける時間帯とは別の時間帯を指定してそれ以外の時間帯に健康診断を受けることを明確に禁じたとまでは認めることはできず,他にこのような事実を認めるに足りる証拠もない。そうすると,経産省が上記のとおり原告に対し
て女性職員の健康診断を受ける時間帯のうち受診する者が比較的少ない時間帯を案内していたことが原告の法的利益等を具体的に制約するものであったとも認め難い。

したがって,上記第
い。



争点1-③(性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで原告を異動させない旨の原告の主張に係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,bが平成23年6月23日面談において戸籍が男のままだと異動ができないと発言したことから,経産省が原告に対して平成23年6月23日以降に性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで原告
を異動させない処遇を行っている旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしているほか,上記第2の2⑴イの前提事実のとおり,原告が約14年間丙において執務し続けていることを認めることができる。

しかしながら,bは,当該発言をしたことを否定する旨の陳述をしている(証人b)。加えて,証拠(乙135,証人b,証人h及び証人j)によれば,平成23年以降,少なくともh調査官及びp調査官が複数回にわたり他の部署に対して原告の異動を打診したものの,打診した先の部署が求める人材と原告の適性が合致しなかったことなどから,結果的に原告の異動が実現しなかったこと,h調査官らは,打診した先の部署に対し,原
告が性同一性障害であることや原告が異動先においても女性用トイレを使用したい旨の希望を持っていることなどについては伝えておらず,当該部署との間でこの点についての検討が行われたこともなかったこと,丙にはbが●●を務めていた当時,10年以上在籍している職員が常時20人程度おり,乙には現在も10年を超えて在籍している職員が8名存在するこ
とを認めることができる。これらの事情に照らすと,上記アの原告の陳述や原告が約14年間丙において執務し続けていることをもって経産省が上記アの原告の主張に係る処遇を行っていたとまでは認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

したがって,上記第2の3⑵ウ
い。


争点1-④(戸籍上の性別変更をしない限り,異動先の女性職員に性同一性障害であることをカミングアウトしなければ,異動先で女性用トイレの使用を認めない旨の原告の主張に係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,h調査官が平成23年6月29日面談において戸籍上の性が男性のままでは女性トイレを使用できない,戸籍上の性別を変えずに異動するのであれば,再度説明会を開き同僚女性の同意を得る等と発言したことから,経産省が原告に対して,平成23年6月29日以降,戸籍上の性別変更をしない限り,異動先の女性職員に原告が性同一性障害であることをカミングアウトしなければ,異動先で女性用トイレの使用を認め
ない処遇を行っている旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしている。

確かに,証拠(甲160,乙130,証人h及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,h調査官が原告に対して上記アの発言とおおむね同じ内容の説明をしたことを認めることができる。しかしながら,上記⑶イにお
いて認定した原告の異動に関する事情に照らせば,
原告の異動については,
実際にはほとんど具体化しておらず,異動先との間で,原告が戸籍上の性別を変更しないまま異動した場合の女性用トイレの使用に関する検討を行うような段階に至っていなかったものということができるし,本件全証拠によっても,そのような検討の結果等によって原告の異動が現実に制限さ
れたものと認めることもできない。そうすると,上記アの原告の主張に係る処遇が少なくとも原告の法的利益等に対する具体的な制約を伴うものとしてされたものとはいまだ認め難い。

したがって,上記第2の3⑵エ
い。



争点1-⑤(人事面談の機会を与えず,人事異動のリストに名前を掲載しない旨の原告の主張に係る処遇が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,経産省が原告に対して,性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をしない限り異動させないという前提の下で,
平成26年4月7日以降,
人事面談の機会を与えず,人事異動のリストに名前を掲載しない処遇を行
っている旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしている。

しかしながら,経産省が原告に対して性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで異動をさせない処遇を行っていたことを認めることができないことは,上記⑶において説示したとおりである。加えて,証拠(甲
104,105,193,194,乙135,証人j及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,上記アの原告の主張に係る人事面談は,丙の職員全員を対象として行われているものではなく,職員が提出した希望調書等を踏まえて,必要に応じて行われているものであること,原告が平成26年度以降に当該人事面談を希望したことがないこと,上記アの原告の主張
に係る人事異動のリストには,職員の実質的な業務の変更がある場合又は実質的な業務を伴う役職名の変更がある場合に当該職員の名前等を掲載することとされており,平成29年7月1日付けで変更された原告の役職名が実質的な業務を伴わないものであったため,当該リストに掲載されなかったことを認めることができる。これらの事情に照らすと,経産省が上記
アの原告の主張に係る前提の下で当該処遇をしているものと断ずることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

い。


争点1-⑥(平成21年10月23日面談におけるd医師の発言が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,d医師が平成21年10月23日面談において経産省で女性として働くのではなく,タイに行って,とっとと,闇の病院で性転換手術を受ければいいじゃないかと発言した旨を主張しており,
その陳述書
(甲
160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしている。

しかしながら,d医師は,その陳述書において当該発言をしたことを否定する旨の陳述をしていること(乙132)に照らすと,上記の原告の陳述をもって,直ちにd医師が当該発言をしたことを認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
もっとも,証拠(甲42,43,乙128,129,132及び証人c)及び弁論の全趣旨によれば,d医師が,平成21年10月23日面談に際
し,タイであれば,ガイドライン第3版が性別適合手術を実施するための条件として挙げていた希望する性別での実生活経験を経なくても,性別適合手術を受けられるのではないかと考え,原告にタイで性別適合手術を受けることを提案したことを認めることができる。しかしながら,この提案の前提となる考えがガイドライン第3版に沿うものとはいうことができな
いものであったとしても,d医師の発言は,上記認定のとおり,飽くまで提案にとどまっていたということができるし,平成21年10月23日面談を経た後の秘書課の方針としては,女性として勤務したい旨の原告の希望を認める方向で検討が進められていったこと(上記第2の2⑵ウからクまでの前提事実)にも鑑みると,d医師が上記のとおり提案したことが,
そのような原告の希望を軽んじるようなものであったとは評価し難く,原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったものともいうことはできない。

したがって,上記第2の3⑵カ
い。



争点1-⑦(平成23年6月23日面談におけるbの発言が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,bが平成23年6月23日面談において

見た目も名前も女性だけど,戸籍が男のままだと困るんだよね。早くやってくれない?

と発言した旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしているほか,原告が平成23年6月24日に友
人らに宛てて送信した電子メール(甲48)には,bが当該発言をした旨の記載がある。

しかしながら,bは,その陳述書及び証人尋問において,当該発言をしたことを否定する旨の陳述をしていること
(乙128及び証人b)
に加え,

当該記載についても,これに続いて

趣旨的には、こんなかんじ。

との記載があり,原告が平成23年6月23日面談におけるbの発言の一部を上記の原告の主張に係る発言の内容のとおり解釈したことを示すものにとどまるとも解されることに照らすと,上記の原告の陳述や電子メールの記載をもって,直ちにbが当該発言をしたことを認めることはできず,他に
これを認めるに足りる証拠もない。
もっとも,証拠(乙128及び証人b)及び弁論の全趣旨によれば,bが,平成23年6月23日面談において,原告に対し,性別適合手術を受けていない理由やこれに向けたスケジュールの進捗状況を尋ねたことを認めることができる。確かに,性別適合手術を受けるかどうかは,本人の意
思に委ねられるべき事柄であると解されるところ,原告の直属の上司であるbが原告に対して性別適合手術を受けていない理由等を尋ねることは,性別適合手術を受けることを要求されているように原告が受け取る可能性も否定することができないから,相当性を欠く面があったことは否定し難い。しかしながら,bが上記のように尋ねたことは,客観的に,原告に対
して性別適合手術を受けることを要求するものであったとまでは認められない。また,原告が当初から女性として勤務することを希望する理由の一つとして性別適合手術に向けた職場での実生活経験が必要であることを挙げていたこと(上記第2の2⑵ウの前提事実)や,平成21年11月頃の時点において二,三年以内に性別適合手術を受けることを想定している旨を述べていたこと(同オの前提事実),bが平成23年6月23日面談の時点において性器部分に係る皮膚疾患が原因で性別適合手術を受けられな
い状態であることを知らなかったこと(証人b。なお,原告は,平成23年6月23日面談時にbに対してその旨の説明をしていた旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしているものの,bは,その証人尋問において,これを否定する陳述をしており,上記の原告の陳述においても,bに対してその旨の説明をした
具体的な時期については明言していないことに照らすと,当該原告の陳述をもって上記の認定を覆すには足りず,他にこの認定を左右するに足りる証拠もない。)に照らすと,bが原告の直属の上司として原告の適切な処遇等の観点から原告の意向や状況等を正確に把握しておく必要があったことも否定することができないところであって,bが上記の認定したところ
を尋ねたことをもって,直ちに,原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったと断ずることはできない。

したがって,上記第2の3⑵キ
い。



争点1-⑧(平成23年6月29日面談におけるh調査官の発言が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,
h調査官が平成23年6月29日面談において❶
戸籍上の性が男性のままでは女性トイレを使用できない,❷異動をする前に手術して性別変更をした方が良い,❸戸籍上の性別を変えずに異動するのであれば,再度説明会を開き同僚女性の同意を得ると発言した旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしている。そして,証拠(甲160,乙130,証人h及び原告本人)によれば,h調査官が平成23年6月29日面談において原告に対して当該発言とおおむね同じ内容の説明をしたことを認めることができる。イ
そこで,検討するに,上記の❶及び❸の発言については,証拠(乙130及び証人h)からうかがわれる発言の文脈に照らすと,将来的に原告が丙から仮に転出し,異動する場合における異動後の女性用トイレの使用の是非等に関するやり取りであると解されるところ,上記⑷イにおいて説示したとおり,
原告の異動については,
実際にはほとんど具体化しておらず,
異動先との間で,原告が戸籍上の性別を変更しないまま異動した場合の女
性用トイレの使用に関する検討を行うような段階に至っていなかったものということができるし,本件全証拠によっても,そのような検討の結果等によって原告の異動が現実に制限されたものと認めることもできないことも考慮すれば,これらの発言が具体的に原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったとま
ではいうことはできない。
また,証拠(乙130及び証人h)及び弁論の全趣旨によれば,平成23年6月29日面談において,原告がh調査官に対して,できるだけ早く性別適合手術を受けたい旨の意向を示していたことを受けて,
h調査官は,
原告が異動の前に性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更を行えば,上記のような説明を行う必要がないと考え,上記の❷の発言をしたものであることが認められるところ,このような経緯に照らせば,当該発言についても,原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったとまではいうことができない。


したがって,上記第2の3⑵ク
い。


争点1-⑨(平成24年9月6日面談におけるh調査官の発言が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,h調査官が平成24年9月6日面談において❶(原告が)性同一性障害であっても,女性用トイレを使用するのは(他の女性職員に対する)セクハラになり得る,❷

事前にカミングアウトしないといけない。それなら(女性用トイレを)使用してよい

,❸法律上の男性が女性用トイレを使用するのは法律違反であるが,事前に女性に説明し了解を得られれば問題ない。それをやっていない民間会社は法律違反をやっている。また,事前に言わなくて女性用トイレを使用すればセクハラに当たるが,女性に周知していればセクハラにならないと発言した旨を主張して
おり,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしている。

確かに,証拠(甲160,乙130,証人h及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,h調査官が平成24年9月6日面談において,原告に対
して上記の❷の発言とおおむね同じ内容の説明をしたことを認めることができる。しかしながら,この発言についても,証拠(甲160,乙130及び証人h)からうかがわれる文脈に照らすと,将来的に原告が丙から仮に転出し,異動する場合における異動後の女性用トイレの使用の是非等に関するやり取りであると認められるところ,上記⑷イにおいて説示したと
おり,原告の異動については,実際にはほとんど具体化しておらず,異動先との間で,原告が戸籍上の性別を変更しないまま異動した場合の女性用トイレの使用に関する検討を行うような段階に至っていなかったものということができるし,本件全証拠によっても,そのような検討の結果等によって原告の異動が現実に制限されたものと認めることもできないことも考
慮すれば,h調査官が上記の説明をしたことが具体的に原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったとまではいうことができない。
他方で,上記の❶及び❸の発言については,h調査官がその陳述書及び証人尋問において当該発言をしたことを否定する旨の陳述をしていること(乙130及び証人h)に照らすと,上記の原告の陳述をもって,h調査官が当該発言をしたことを直ちに認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。もっとも,証拠(乙130及び証人h)及び弁論の全趣旨によれば,h調査官が平成24年9月6日面談において,原告に対して,一般論として,戸籍上の性別が男性である者が女性用トイレを使用した場合に,当該女性用トイレを使用している女性職員の了解を得て
いなければ,女性職員からの訴えがあった場合にセクシュアル・ハラスメントが成立する可能性があることや,戸籍上の性別が男性である従業員に女性用トイレの使用を認めている民間企業においても,女性従業員の理解を得るために何らかのプロセスを踏んでいるはずであるという秘書課の顧問弁護士の見解を伝えたことを認めることができる。確かに,女性用トイ
レの使用を現に希望している原告に対し,戸籍上の性別が男性である者が女性用トイレを使用した場合にセクシュアル・ハラスメントが成立する可能性があることに言及したことは,それを聞いた原告に自身が女性用トイレを使用することがセクシュアル・ハラスメントに当たると指摘されているかのように感じさせかねないものであって,性同一性障害に対する知識
や理解に欠ける不相当な発言であったといわざるを得ない。
しかしながら,
h調査官は,当時の秘書課としての考え方を説明する過程で,飽くまで一般論としてこの点について言及したにとどまるものであるから,当該発言についても,直ちに,原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったと断ずることはできな
い。また,上記の民間企業においても,女性従業員の理解を得るために何らかのプロセスを踏んでいるはずであるという秘書課の顧問弁護士の見解を伝えた点については,原告がそのような民間企業の例に言及したことを受けて,上記の民間企業においても女性職員の理解を得るために何らかのプロセスを踏んでいる可能性があることを指摘したものにとどまるから,やはり,原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったということはできない。


したがって,上記第2の3⑵ケ
い。


争点1-⑩(平成24年11月8日面談におけるh調査官の発言が違法なものとして認められるかどうか)について


原告は,h調査官が平成24年11月8日面談において❶社会通念上原告が女性用トイレを使用することは認められず,セクハラは女性がどう思うか?ということであり,女性の一人が訴えたらアウトである❷,

事前にカミングアウトすればセクハラという訴えが出てもそれはセクハラとは認めない。事前にカミングアウトしなければ訴えられればそれはセクハラになる

❸,

性同一性障害の人の権利よりも女性の権利が優先される。


と発言した旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしている。

しかしながら,h調査官は,上記の各発言をしたことを否定する旨の供述をしていること(乙130及び証人h)に照らすと,上記の原告の陳述
をもって,直ちにh調査官が当該発言をしたことを認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
もっとも,証拠(乙130及び証人h)及び弁論の全趣旨によれば,h調査官が平成24年11月8日面談において,原告に対して,一般論として,戸籍上の性別が男性である者が女性用トイレを使用した場合に,当該
女性用トイレを使用している女性職員の了解を得ていなければ,女性職員からの訴えがあった場合にセクシュアル・ハラスメントに当たる可能性があるが,事前に了解を得ていれば,セクシュアル・ハラスメントには当たらないと考えていることや,女性用トイレの使用に関しては,これまで使用してきた女性職員の権利が優先される旨の顧問弁護士の見解を伝えつつ,経産省としては,このような見解とは異なり,原告の権利と共に女性職員の気持ちの双方を尊重する必要があると考えていることを伝えたことを認
めることができる。しかしながら,女性用トイレの使用を現に希望している原告に対して,戸籍上の性別が男性である者が女性用トイレを使用した場合にセクシュアル・ハラスメントが成立する可能性があることに言及したことは,上記⑼イにおいて説示したとおり,性同一性障害に対する知識や理解に欠ける不相当なものであったといわざるを得ないものの,h調査
官は,当時の秘書課としての考え方を説明する過程で,飽くまで一般論としてこの点について言及したにとどまるものであるから,当該発言についても,直ちに原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったと断ずることはできない。また,
女性用トイレの使用に関しては,これまで使用してきた女性職員の権利が
優先される旨の顧問弁護士の見解を伝えた点については,一面において,原告の心情に対する配慮を欠くものであったといわざるを得ないものの,h調査官は,経産省がこのような顧問弁護士の見解とは異なり,原告の権利と女性職員の気持ちの双方を尊重する必要があると考えていることを伝えたのであるから,その文脈に照らして,上記のとおり顧問弁護士の見解
を伝えた点だけを取り上げて原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったと評価することはできない。

したがって,上記第2の3⑵コ
い。


争点1-⑪(平成25年1月17日面談におけるbの発言が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,bが平成25年1月17日面談において,なかなか手術を受けないんだったら,もう男に戻ってはどうかと発言した旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしている。そして,証拠(甲42,43,46,160,証人b及び原
告本人)によれば,bが平成25年1月17日面談において,原告に対して当該発言とおおむね同じ内容の発言をしていたことを認めることができる。

そこで,検討するに,このようなbの発言は,その言葉の客観的な内容に照らして,原告の性自認を正面から否定するものであるといわざるを得ない。
被告は,当該発言の趣旨について,

のとおり主張し

ており,bは,なかなか手術を受けないんだったら,服装を男のものに戻したらどうかという発言をしたものであって,当該発言は,原告の性自認を否定する趣旨でされたものではない旨を主張している。しかしながら,性別によって異なる様式の衣服を着用するという社会的文化が長年にわたり続いている我が国の実情に照らしても,この性別に即した衣服を着用するということ自体が,性自認に即した社会生活を送る上で基本的な事柄であり,性自認と密接不可分なものであることは明らかであり,bの発
言がたとえ原告の服装に関するものであったとしても,客観的に原告の性自認を否定する内容のものであったというべきであって,上記⑴イのとおり,個人がその自認する性別に即した社会生活を送ることができることの法的利益としての重要性に鑑みれば,bの当該発言は,原告との関係で法的に許容される限度を超えたものというべきである(なお,被告は,bが
そのような発言に至った事情として,丙において原告が性別適合手術を受けていないことを疑問視する声が上がっていたことや,当時の原告の勤務態度が芳しいものではなかったことなどを主張しているが,これらの事情を客観的に裏付ける的確な証拠はないし,仮にそのような事情があったとしても,上記の法的な評価を左右するに足りるものではないというべきである。)。

したがって,bによる上記の発言は,原告に対する業務上の指導等を行うに当たって尽くすべき注意義務を怠ったものとして,国家賠償法上,違法の評価を免れない。


争点1-⑫(平成25年5月28日面談におけるbの発言が違法なものとして認められるかどうか)について


原告は,
bが平成25年5月28日面談において❶
いつになったら(性別適合手術を)実施するのか明示してほしい,❷もうそろそろ,どう生きていくんだ!という方向性を言ってくれないと,どう対応していいか分からないと発言した旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内容の陳述をしている。そして,おおむね❷の発言をしたことについては当事者間に争いがなく,
また,(甲42,
証拠

43,160,乙128,証人b及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,bが平成25年5月28日面談において,原告に対して❶の発言とおおむね同じ内容の発言をしたことを認めることができる。

そこで,検討するに,上記⑺においても説示したように性別適合手術を受けるかどうかは本人の意思に委ねられるべき事柄であると解されるところ,原告の直属の上司であるbが原告に対して性別適合手術を受ける時期を明示するように求めることは,性別適合手術を受けることを要求されているように原告が受け取る可能性があり,相当性を欠く面があったことは否定し難い。

しかしながら,bが上記のように尋ねたことは,客観的に,原告に対して性別適合手術を受けることを要求するものであったとまでは認めることができない。
また,
上記⑺においても説示したとおり,
原告は,
当初から,
女性として勤務することを希望する理由の一つとして,性別適合手術に向けた職場での実生活経験が必要であることを挙げていたことや,平成21年11月頃の時点において,二,三年以内に性別適合手術を受けることを想定している旨を述べていたことのほか,bは,平成25年2月20日に
原告とd医師が行った面談に同席するに当たり,原告が性器部分に係る皮膚アレルギーが原因で性別適合手術を受けることができない状態であることを知ったものの,原告からそのことについて直接説明を受けたのは平成25年5月28日面談が最初であったこと(証人b),平成25年5月28日面談の時点において,bの定年退職が約10か月後に迫っていたこと
に照らすと,原告の直属の上司であるbにおいて後任者への引継ぎ又は原告の適切な処遇等の観点から,原告の状況を正確に把握しておく必要があったことも否定することができないところであるから,bが上記のように尋ねたことが,直ちに,原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったと断ずることはでき
ない。

したがって,上記第2の3⑵シ
い。


争点1-⑬(平成26年1月31日面談におけるiの発言が違法なものとして認められるかどうか)について

原告は,
iが平成26年1月31日面談において❶異動に当たってもう一回説明会をしなければいけない,❷異動先においてもカミングアウトが必要,❸今後とも男女共用の障害者トイレを使うというのであれば,異動に当たってのカミングアウトも不要,❹(性同一性障害者であることを)周知していかないと,と思っていると,原告にカミングアウトや障害者用トイレの使用を強いる発言をし,さらに,❺

私が女性トイレに行ったら捕まりますよね。女性からセクハラだなんだと言って,普通,私が女性トイレに入ったら警察来て,捕まえていきますよ。痴漢と同じ条例で捕まると思う

,❻

私が女装をして女性トイレに入ると多分これはセクハラになる。その人がセクハラと思うから

と発言した旨を主張しており,その陳述書(甲160)及び本人尋問においてこれに沿う内
容の陳述をしている。そして,証拠(甲42,45,160,乙131及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,iが平成26年1月31日面談において原告に対して当該発言とおおむね同じ内容の説明をしたことを認めることができる。

そこで,検討するに,上記の❶,❷及び❹に係る発言については,証拠(甲42,45,160及び乙131)からうかがわれる当該発言の文脈に照らすと,将来的に原告が丙から仮に転出し,異動する場合における異動後の女性用トイレの使用の是非等に関するやり取りであると認めることができるところ,上記⑷イにおいて説示したとおり,原告の異動について
は,実際にはほとんど具体化しておらず,異動先との間でも,原告が戸籍上の性別を変更しないまま異動した場合の女性用トイレの使用に関する検討を行うような段階に至っていなかったものということができるし,本件全証拠によっても,そのような検討の結果等によって原告の異動が現実に制限されたものと認めることもできないことも考慮すれば,これらの発言
が具体的に原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったとまではいうことができない。また,上記の❸に係る発言については,iは,原告が性同一性障害であること等を他の職員に説明することについて消極的な意向を示していたことを受けて,そのような説明を行わなくても済む方法として,多目的トイ
レの使用を提案したにとどまるから,そのことが原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったということはできない。
さらに,上記の❺及び❻の発言とおおむね同じ内容の発言をしたことについては,女性用トイレの使用を希望している原告に対して,戸籍上の性別が男性である者が女性用トイレを使用した場合にセクシュアル・ハラスメントや痴漢に当たる可能性があることに言及したことは,上記⑼イにお
いて説示したところと同様に,性同一性障害に対する知識や理解に欠ける不相当な発言であったといわざるを得ないものの,iは,当時の秘書課としての考え方を説明する過程で,飽くまで一般論としてこの点について言及したにとどまるものであるから,当該発言についても,原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するような
ものであったと断ずることはできない。

したがって,上記第2の3⑵ス
い。


争点1-⑭(kが原告を君付けで呼び続けたことが違法なものであるかどうか)について

原告は,kが他の女性職員をさん付けで呼んでいるにもかかわらず,女性として勤務する原告のみを君付けで呼び続けていたことが,原告の人格権を侵害するとともに,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに当たる旨を主張している。


しかしながら,君という呼び方は,一般的に,同輩や目下の人の姓名に付けて,親しみや軽い敬意を表す語であり,女性にも使い得るものであると解されることに加えて,kは,経産省内において原告の名前を変更する手続が行われる前から,原告と共に丙に在籍し,原告を君付けで呼んでいたこと(乙133及び弁論の全趣旨)などに照らすと,kが他の女性
職員をさん付けで呼ぶ一方で,原告のことを君付けで呼んでいた時期があったとしても,直ちにkが原告の性自認を否定するような趣旨でそのような敬称を用いていたとまでは認められず,そのことが原告に対する不当な差別的取扱いであったともいうことはできない。

したがって,kが原告を君付けで呼んでいたことが原告の人格権を侵害したり,原告に対するセクシュアル・ハラスメントに該当するようなものであったとまではいうことができないから,上記第2の3⑵セ
主張を採用することはできない。
4
上記3において検討したところによれば,争点1-①及び争点1-⑪について検討した経産省が平成26年4月7日以降も本件トイレに係る処遇を継続したこと及び平成25年1月17日面談におけるbの発言は,いずれも国家賠償
法上,
違法の評価を免れず,
この点について,
それぞれ過失も認められるから,
被告は,
これによって原告に生じた損害を賠償する責任を負うことになるので,続いて争点2(原告の損害の有無及びその額いかん)について,判断する(なお,争点3(争点1-⑥から争点1-⑩までの各発言につき国家賠償法第1条第1項の規定に基づく責任が成立するとした場合の当該規定に基づく損害賠償
請求権についての消滅時効の成否)
については,
判断をすることを要しない。。



原告は,上記のとおり経産省が本件トイレに係る処遇を継続したことによ
って,個人がその自認する性別に即した社会生活を送ることができるという重要な法的利益等を違法に制約されるとともに,上記のbの発言によって性自認を否定されたものと受け止めざるを得ず,これらによって多大な精神的苦痛を被ったものと認めることができる。この制約された原告の法的利益等の重要性,本件トイレに係る処遇が継続された期間が長いことその他本件に現れた一切の事情を考慮すると,これらに対する慰謝料の額としては,合計120万円と認めるのが相当である。
また,原告が弁護士である訴訟代理人を選任して本件訴訟を追行している
ことが当裁判所に顕著であるところ,上記のとおり経産省が本件トイレに係る処遇を継続したこと及び上記のbの発言と相当因果関係のある弁護士費用相当額は,上記に認定した慰謝料の合計額の10%である12万円をもって相当と認める。


原告は,上記第2の3⑵

上記第2の3⑵アからオまでの

経産省の各処遇のうち平成23年6月から平成25年2月
12日までの期間に係る部分及び上記第2の3⑵


主張に係る経産省の職員等による各発言によって,
うつ病を発症したとして,
これによって原告が被ったとする損害の賠償を求めている。
しかしながら,当該部分及び当該各発言のうち上記のbの発言を除いた各発言が違法である旨の原告の主張を採用することができないことは,上記3⑴から⑽までにおいて説示したとおりである。また,原告は,平成10年頃にうつ病を発症し,平成11年及び平成13年にはそれぞれ2か月にわたって休職をしており,平成21年から通院するようになったmメンタルクリニックにおいては,平成23年12月頃まで通院を継続した後,一旦通院を中断したものの,平成24年秋頃から自身のメンタルヘルスがかなり低下して
いると感ずるようになり,上記のbの発言があった平成25年1月17日面談に先立つ平成25年1月12日にmメンタルクリニックへの通院を再開していること(甲36,160,175,176,証人e及び原告本人並びに弁論の全趣旨)に照らすと,原告については,当該発言の前から,既往のうつ病による症状が再発したことがうかがわれるから,そのことと当該発言と
の間の相当因果関係を肯定することはできず,当該発言によって原告が新たなうつ病を発症したもの等と認めることもできない。
したがって,

原告の主張に係る損害の賠償を求め

る原告の請求は,理由がない。

そうすると,原告は,被告に対し,国家賠償法第1条第1項の規定に基づく損害賠償請求として,上記⑴の各金額の合計額である132万円及びこれに対する第2事件に係る訴状の送達の日(上記第2の2⑸の前提事実)の翌日である平成27年11月21日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
5
進んで,争点4(本件判定が違法なものであるかどうか)について,判断す
る。


原告は,本件各措置要求における原告の各要求事項が上記第2の2⑶エの
とおりであったにもかかわらず,人事院がこれを恣意的に要求事項ⓐから要求事項ⓒまでに矮小化して把握した旨を主張している
の原告の主張)ので,まず,この点を検討することとする。

原告要求事項㋐は,本件判定において,要求事項ⓐ及び要求事項ⓑ-1として整理されているということができる。


原告要求事項㋑及び原告要求事項㋓について,被告は,いずれもその内容が抽象的かつ不明確であったことから,人事院において,これら自体を要求事項として整理しないこととする一方で,原告が上記第2の2⑶エの回答において,職場における処遇として具体的に挙げていた健康診断に係
る要求を要求事項ⓒとして把握した旨を主張している。
そこで,検討するに,国家公務員法第86条から第88条までの各規定に照らせば,勤務条件に関する行政措置の要求の制度は,職員が人事院に対して勤務条件についての具体的な行政上の措置を要求し,人事院が必要と認めるときは,その権限に基づき当該措置を実行し,又は内閣総理大臣
等にその実行を勧告することによって,職員の利益を保護することを目的とする制度であるから,職員の要求に係る行政上の措置の内容は,具体的であり,かつ,その実現によって当該職員の勤務条件が具体的に改善することができるものである必要があると解される。このような観点から,原告要求事項㋑及び原告要求事項㋓の内容を見ると,これらは,いずれもそ
の内容が抽象的なものであって,人事院において,これらが原告の勤務条件として適切なものであるかどうかを具体的に判断することが困難なものであったといわざるを得ないから,このような事情を考慮すると,人事院がこれを具体的な要求事項として把握すべく,上記第2の2⑶エの回答の内容を踏まえて,要求事項ⓒとして整理した点について,違法ないし不当というべきものは見当たらない。

原告要求事項㋒については,上記第2の2⑶エの回答に当たって原告が人事院に対して提出した文書に,これに関連して,

異動時に、「性同一性障害であること・法的には男性であること・性別適合手術はまだ受けていないこと

等のプライバシーに係る内容の告知を行わないこと。これには管理職・統轄班長等を含む。」との記載があり(甲11),管理職等以外の女性職員等に対してもこのような告知を行わない取扱いを要求してい
るものと解することができる内容であったこと,
原告が本件措置要求に当
たって人事院に提出した行政措置要求書には,要求の事由として

異動を希望するならば異動先の部署の職員全員にカミングアウトを義務付けること(省略)を通告されました。との記載があること

(甲9の1)
に照らせば,原告要求事項㋒においては,異動先の管理職等だけではなく
女性職員等にもこのような告知を行わない取扱いが要求されていたものと認めることができる。そして,このような要求のうち異動先の管理職等との関係でこのような告知を行わない取扱いを求める部分については,要求事項ⓑ-2として把握されており,また,異動先の女性職員等との関係に係る部分についても,要求事項ⓑ-1において,異動先の同僚職員への性同一性障害者である旨の告知が必要であるとの当局による条件を撤廃することという形で整理されているということができる。


したがって,上記の原告の主張を採用することはできない。

そこで,人事院が本件措置要求に係る原告の要求事項として整理した要求
事項ⓐから要求事項ⓒまでとの関係において,本件判定の違法性の有無について,検討することとする。
ア国家公務員法は,
職員の勤務条件に関する行政措置の要求の制度を設け,
人事院がその審査及び判定等をすることを定めているところ(同法第86条から第88条まで),これは,職員の勤務条件の内容が広範にわたり,かつ,専門的であることに鑑み,人事行政及び職員の勤務条件に精通し,専門的な知見を有するとともに,これらについて広範な権限を有する人事
院が,一般国民及び関係者に公平なように,かつ,職員の能率を発揮し,及び増進する見地において事案の判定に当たることが職員の利益を保護するために適切であることを考慮したものであると解することができる。そうすると,職員による行政措置の要求に対して人事院がいかなる判定を行うかはその合目的的な裁量に委ねられているというべきであるから,
行政措置の要求に対する判定の取消訴訟において当該判定の違法性の有無を判断するに当たっては,当該判定を導いた審査の手続に違法があった場合や,認定及び判断の内容が法令に違反するものであったり,考慮した前提事実に重大な事実の誤認があるなど重大な瑕疵があると認められる場合,又は考慮すべき事項を考慮しておらず,若しくは考慮した事項の評価が合
理性を欠いており,その結果,当該判定が社会観念上著しく妥当を欠く場合に限って,その裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用があったものとして,当該判定を違法と判断するのが相当である。

上記アにおいて説示したところを踏まえて,本件判定の違法性の有無について,検討する。
要求事項ⓐについて
本件トイレに係る処遇については,遅くとも平成26年4月7日の時点において原告の性自認に即した社会生活を送るといった重要な法的利益等に対する制約として正当化することができない状態に至っていたこ
とは,上記3⑴エにおいて説示したとおりである。しかしながら,本件判定は,本件トイレに係る処遇によって制約を受ける原告の法的利益等の重要性のほか,上記3⑴エにおいて取り上げた諸事情について,考慮すべき事項を考慮しておらず,又は考慮した事項の評価が合理性を欠いており,その結果,社会観念上著しく妥当を欠くものであったと認めることができる。
したがって,本件判定のうち要求事項ⓐを認めないとした部分は,その余の原告の主張についての検討を経るまでもなく,その裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用があったものとして,違法であるから,取消しを免れない。
要求事項ⓑ-1について

経産省が原告に対して性別適合手術を受けて戸籍上の性別変更をするまで異動させない処遇を行っていたと認めることができないことは,上記3⑶において説示したとおりである。また,上記第2の3⑵
の原

告の主張に係る処遇については,原告の異動が実際にはほとんど具体化しておらず,異動先との間で,原告が戸籍上の性別を変更しないまま異動した場合の女性用トイレの使用に関する検討を行うような段階に至っていなかったものということができるし,本件全証拠によっても,そのような検討の結果等によって原告の異動が現実に制限されたものと認めることもできないことは,上記3⑷イにおいて説示したとおりである。これらの説示したところに照らせば,経産省が原告の異動に関して要求
事項ⓑ-1に係る条件を付している事実は認められないとした本件判定に事実の誤認があるとはいうことができないし,
本件全証拠によっても,
本件判定が要求事項ⓑ-1を認められないと判断したことについて,その裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用があったものと認めることはできない。

要求事項ⓑ-2について
これまで社会において長きにわたって生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきたという事実を考慮すれば,職場において職員の健康や安全等に関する管理業務を行うに当たって,一次的には職員の戸籍上の性別に基づき対応せざるを得ない場合が一定程度存在することは,否定し難いところである。そして,本件判定の時点においても,原告が,性別適合手術を受けて戸籍上の性別を変更するかどうかにかかわらず,将来にわたって女性職員として勤務することを望んでいたことに照らせば,その後の原告の異動等に伴って,経産省として新たに対応を検討する必要が生ずる場合も想定し得るというべきである。また,経産省は,多数の職員が共に業務に従事する職場の管理運営において,原告のみならず
他の職員に対しても同様に様々な配慮を検討し,
行う立場にあるところ,
原告の異動等に伴う新たな対応を検討し,実施する管理職等において必要な情報を保有していなければ,原告を含む多数の職員に対して適切に配慮をした対応をすることができなくなることが想定される。したがって,その職務内容等に照らして真に必要な範囲に限定された管理職等に
対し,原告が性同一性障害であること等の情報を提供することが直ちに不当であるということはできず,本件全証拠によっても,要求事項ⓑ-2を認められないとした本件判定がその裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用があったものと認めることはできない。
要求事項ⓒについて

健康診断を受ける時間帯について経産省が他の女性職員と同じ時間帯に健康診断を受けることを認めない処遇を行ったり,原告のみに健康診断の時間帯を指定してそれ以外の時間帯に健康診断を受けることを明確に禁じたとまでは認めることができず,経産省が原告に対して女性職員の健康診断を受ける時間帯のうち受診する者が比較的少ない時間帯を案
内していたことが原告の法的利益等を具体的に制約するものであったとも認め難いことは,上記3⑵イにおいて説示したとおりであって,本件全証拠によっても,要求事項ⓒを認められないとした本件判定に,その裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用があったものと認めることはできない。
第4

結論
以上によれば,第1事件に係る原告の請求は本件判定のうち要求事項ⓐを認め
ないとした部分の取消しを求める限度で,第2事件に係る原告の請求は上記第3の4において認定した額(慰謝料の合計額120万円及び弁護士費用相当額12万円並びにこれらに対する第2事件に係る訴状送達の日の翌日である平成27年11月21日から支払済みまでに生ずる年5%の割合による遅延損害金)の支払を求める限度でそれぞれ理由があり,その余の請求はいずれも理由がない。よって,原告の各請求のうち上記の理由がある部分をいずれも認容するとともに,その余の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第36部
裁判長裁判官

原健健原健志江清藤健一清

裁判官

藤江一
裁判官人見和幸は,差し支えのため,署名及び押印をすることができない。裁判長裁判官

和江
幸原

健志見
●別紙1=被告準備書面(6)19ページの表。
●別紙1
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