判例検索β > 平成29年(ワ)第482号
損害賠償請求事件
事件番号平成29(ワ)482
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和2年1月28日
法廷名高松地方裁判所
裁判日:西暦2020-01-28
情報公開日2020-02-14 16:00:11
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主文
1原告らの被告法人に対する第一次的請求をいずれも棄却する。
2被告法人は,原告Aに対し,1515万2691円及びこれに対する平成30年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告法人は,原告Bに対し,1630万5430円及びこれに対する平成30年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
原告らの被告法人に対するその余の請求並びに原告らの被告C及び被告Dに
対する請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,原告らに生じた費用の5分の2並びに被告C及び被告Dに生じた費用を原告らの負担とし,その余の費用を被告法人の負担とする。6この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告Aに対し,連帯して,2647万4839円及びこれに対する平成30年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2被告らは,原告Bに対し,連帯して,2887万5812円及びこれに対する平成30年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2事案の概要
本件は,被告法人が開設運営する保育所であるE
(以下本件保育所とい
う。
)に入所していたFが,園庭に設置されていた雲梯のV字型開口部に頚部が挟まれる事故(以下本件事故という。
)に遭って低酸素脳症に陥り,その後死
亡したことにつき,Fの両親である原告らが,本件保育所の園長である被告C及び担任保育士であった被告Dに対しては民法709条に基づき,被告法人に対しては第一次的に民法715条1項,第二次的に民法709条,第三次的に民法415条に基づき,損害賠償を請求する事案である。
1前提事実等(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)


当事者等

原告A及び原告Bは夫婦であり,F(平成▲年▲月▲日生まれ)は原告らの長女である。本件事故当時,Fは,本件保育所の3歳児クラスであるきりん組に在籍していた。なお,
原告らには,
Fのほか,
平成▲年▲月生まれの二女Gがおり,
Gは,
本件事故当時,本件保育所の0歳児クラスに在籍していた。


被告法人は,昭和42年3月28日に,第二種社会福祉事業を行うことを目的として設立された社会福祉法人であり,平成14年4月1日から,香川県善通寺市内において,本件保育所を開設して運営しているほか,香川県内において,H保育園,I保育園及びJ園を開設し運営している。


被告Cは,平成3年に保育士免許と幼稚園教諭第Ⅱ種免許を取得し,保育士として複数の保育所で勤務した後,平成13年9月に本件法人に雇用され,平成24年4月から平成29年3月までは本件保育所の主任保育士として,平成29年4月からは園長
(施設長)
として勤務している者である
(乙31)



被告Dは,平成5年に保育士免許を取得し,保育士として複数の保育所で勤務した後,平成15年4月に本件法人に雇用され,本件事故当時,3歳児クラスの担任を務めていた者である(乙25)




本件事故の発生とFの死亡

Fは,平成29年4月12日午前8時20分頃,本件保育所に登園し,以後,園庭の遊具で遊ぶなどしていた。なお,本件保育所の建物と園庭の位置関係や,本件事故当時,園庭に置かれていた遊具の位置関係等については別紙1(乙16)のとおりである。


本件事故当時,
3歳児クラスから5歳児クラスの園児が園庭に出て自由に
遊ぶという自由保育が行われており,園庭には,被告Dのほか,5歳児担当保育士のK,4歳児担当保育士のL及びMの4名が配置され,登園してきた園児の受入れや園児の見守りに当たっていた。

Fは,同日午前9時21分頃,園庭に設置されていた雲梯(以下本件雲梯という。)で遊び始め,本件雲梯の西側の補助板に左足をかけ,梯子部分
の横板に右手をかけて上体を持ち上げ,上部の横木との間に身体を入れようとしたところ,頭部が梯子部分の横板と頬杖に挟まれて抜け出せなくなり,自己の体重により頚部が圧迫される状態となった。Fは,足を前後に動かすなどして自力で抜け出そうとしたが,約90秒後には,両方のつま先が本件雲梯の下に敷かれたマットに着くか着かないかの状態で動かなくなった。

同日午前9時31分頃,0歳児クラス内で保育に当たっていた保育士のNが,Fの異変に気が付き,0歳児クラスの南側テラスに出てFに声を掛けたが反応はなかった。Fは,窒息による心肺停止状態に陥っており,本件保育所の看護師であるOが心臓マッサージ等の救命措置をとった後,意識不明のまま四国こどもとおとなの医療センターに救急搬送された。


Fは,蘇生措置により心拍再開したものの,低酸素脳症と診断され,全脳虚血,四肢及び体幹機能全廃状態として,同年7月20日をもって症状固定と診断された。


Fは,本件事故日から平成▲年▲月▲日まで,四国こどもとおとなの医療センターにおいて入院治療を受けていたところ,同日,低酸素脳症により死亡した。



本件雲梯の構造等

本件雲梯の概要図は別紙2(訴状別紙)のとおりである。
本件雲梯の支柱には4個ずつ穴(直径約3.5cm)が開いており,梯子の横板の両端に開けられた穴と重ね合わせた状態で棒を通すことにより,梯子の高さを調整できる。
梯子の横板と支柱の接続部付近には,上部の横木を支えるための筋交い状の補強材(頬杖)が取り付けられており,支柱の台と支柱との間には,補強材が取り付けられていた。

被告法人は,平成16年頃,株式会社アネビーより本件雲梯を購入し,本件保育所の園庭に設置していた。本件事故当時,梯子は西側の支柱の上から二番目の穴と,東側の支柱の一番上の穴で固定され,水平より約2度西側が低く傾いていた。
また,梯子の横板は支柱の内側に,頬杖は支柱の外側に取り付けられていたことから,梯子の横板と頬杖との間には約4.5cmの間隔があった。

本件雲梯の西側には,梯子の横木と頬杖により形成された開口角度44.
38度の上向きのV字型開口部があり,本件事故は同開口部で発生した。エ


本件雲梯が設置されていた地面には,マットが敷かれていた。
遊具の危険性等に関する定めについて


国土交通省は,平成14年3月11日付けで都市公園における遊具の安全確保に関する指針を策定しているところ,同指針及びその解説では,遊具の構造,施工,維持管理の不備などが物的ハザードとして位置付けられ,遊具に関連する事故として挟み込みが挙げられ,
その対策として,
頭部,
指,
身体などを挟み込むような開口部,隙間をなくすことや,V字開口部が55度ないし60度未満で上向きとならないようにすることなどが参考として挙げられている(甲22の1ないし3)

文部科学省は,付属学校を置く各国立大学事務局長,国立久里浜養護学校事務長,
各都道府県私立学校主管課長,
各都道府県教育委員会施設主管課長,
各都道府県教育委員会学校安全主管課長宛て平成14年3月28日付け学校に設置している遊具での事故についてにおいて,前記指針は学校においても参考になるものであるとして,学校に設置されている遊具の事故防止策に活用することを求め(甲26)
,また,保育所を管轄する厚生労働省も,同
月,各自治体の管轄部局等に,同指針を参考にして遊具の事故防止対策に活用するよう通知した(甲28)


一般社団法人日本公園施設業協会は,国土交通省の前記指針を踏まえて,
平成14年10月,
遊具の安全に関する規準(案)を策定し,平成26年
6月にこれを改訂した遊具の安全に関する規準を取りまとめた。同規準は,都市公園等の遊具だけでなく,保育所の遊具も対象とするとしている。同規準は,遊具に関する事故には,開口部や隙間に,全身あるいは身体の一部を入れたときに引き抜けなくなる挟み込みによるものがあること,幼児・児童を対象とする遊具には,頭部または首が挟まって抜けなくなるような開口角度が55度未満の上向きのV字型開口部を設けてはならないことなどを定めている(甲23,25)



刑事責任
被告Cに対する業務上過失致死被疑事件について,高松地方検察庁検察官は,平成31年1月24日,嫌疑不十分による不起訴処分とした(乙24)。



被告法人の責任
被告法人は,
園児の身体が挟まる危険性を有する本件雲梯を設置したことに
つき,過失ないし保育契約上の安全保持義務違反があることを認めている。
2争点及びこれに対する当事者の主張


被告C及び被告Dに過失があるか。また,Kにも過失が認められ,これらいずれかの過失に基づき,被告法人が使用者責任を負うか。
(争点1)
【原告の主張】

被告Cの過失
被告Cは,本件保育所の運営及び管理を統括する園長として,園児の保育並びに安全管理に関して,保育士らの指導監督を行う義務を負い,個々の園児の動静の的確な把握とこれを踏まえた適切な対応が行われるよう保育士らを配置するなどの保育の運営体制を整えるべき義務を負う。保育の対象である乳幼児は,体力や判断能力が十分ではなく,自分の力で自分自身を守ることができない上,突発的な事故により重篤な結果が生じる可能性があることからすれば,被告Cは,保育士らに対し,園児が本件雲梯で遊んでいる際には,園児のそばで安全に常時注意するよう指導すべきであり,保育士らにおいてそのような監視体制を採れない場合には,園庭で遊ぶ園児の数を限定するなどして,保育士が園児らを十分に監視できるような配置を整えるべきであった。
それにもかかわらず,被告Cは,保育士らに対し,個々の園児の動静の的確な把握と適切な対応が行われるよう指導監督を行わず,また,園児全員の動静を把握できるような監視体制を整えていなかった。
また,被告Cは,専門的知識及び技術をもって児童の保育を行うことを業とする者として,遊具に園児の生命・身体に危害を及ぼすおそれがある箇所があれば,その危険を除去する義務を負っていたにもかかわらず,園児の生命・身体に危害を及ぼすおそれがある上向きのV字型開口部を有する本件雲梯を撤去することなく放置していた。

被告Dの過失
被告Dは,保育士として,園児の行動を見守り,保育の委託を受けた児童の生命・身体に十分な配慮をするなどして,園内での事故発生を未然に防止すべき安全配慮義務を負うとともに,Fの担任として,Fの動静を把握すべき義務を負っており,仮に,自分では動静把握が十分にできない場合には,他の保育士に引継ぎや連携を依頼するなどして,担任するクラスの園児の動静把握が行われるようすべき義務を負っていた。
それにもかかわらず,被告Dは,Kに対し,本件雲梯の近くにいる3歳児の様子を見るようになどと明確な依頼をしておらず,的確な引継ぎをしていない,また,被告Dは,Fの姿を最後に確認してから約14分21秒以上の長時間にわたってFの動静を把握しておらず,その義務違反は著しいものといわざるを得ない。


Kの過失
Kは,被告Dが園庭を離れる旨の連絡を受けて監視の場所を移動した際,適時的確に園児の動静や人数を把握する義務を負っていたにもかかわらず,本件雲梯の方に注意を向けず,Fの動静の把握を怠った過失がある。エ
被告らの主張に対する反論
被告らは,本件事故当時,園庭には保育士4名が配置されていたことから,最低基準を満たしており,被告Cには指導監督や運営体制上の義務違反は認められない旨主張するが,同基準はあくまで最低基準を定めたものにすぎない。
被告らは,本件事故が予見し得ない偶発的な事故であると主張する。しかし,本件事故までにも,本件雲梯の横側から支柱の補強板に足をかけてよじ登ろうとする園児はおり,Fが同様の行動を取ることは十分に予想できたといえ,体力や筋力が不十分なFがこのような行動を取れば,本件雲梯の梯子部分に登ることに失敗することも容易に想像できるところである。
また,被告らは,自由保育の時間中に園児の動静を一分一秒完全に把握することは不可能であるとも主張するが,かかる状態を作り出したのは被告ら自身であり,不可避の出来事ではない。被告らは,本件雲梯に頚部を挟み込まれていた際のFの体勢が,ただ立っているように見えたことから,異変に気が付くのが困難であったとも主張するが,本来動き回るはずの園児がそのような状態になること自体が極めて異常な事態であり,
異変に気
が付くのが困難であったとはいえない。
そして,窒息の場合における蘇生可能性に照らせば,園児から5分も目を離せば動静把握義務に違反したというほかないところ,被告Dをはじめとする保育士らがFの動静を把握していなかった時間は10分以上であり,被告DないしKには動静把握義務違反が認められる。

【被告らの主張】

被告Cの過失について
被告Cは,園長として,児童福祉施設最低基準に基づき,適正な人数の保育士を配置しており,本件事故当時は,園庭で自由に遊びまわる園児に対し,できる限り目が届くような形で,園庭には4名の保育士を,本件雲梯への視認状況が良い0歳児クラスには保育士3名および看護師1名を配置していた以上,指導監督義務違反や運営体制上の義務違反はない。本件雲梯は,極めて信頼性の高い専門業者から納入したものである上,被告法人の一従業員にすぎない被告Cにおいて,行政上の規制とまではいえない都市公園における遊具の安全確保に関する指針等に則り,故障等ではなく構造上の危険性が問題となる本件雲梯につき,撤去や利用禁止とする義務まで負うと解するべきではない。また,本件雲梯設置後,納入業者から,構造上の危険性につき指摘を受けたこともなく,1年に1回実施される専門業者による点検でも構造上の問題等の指摘は一切なかったことからしても,被告Cには過失はない。


被告Dの過失について
本件事故当時は,いわゆる自由保育の時間であり,園児らが園庭内を自由に動きまわっている状態であるところ,かかる場合に,園児らの動静を1分1秒完全に把握することは困難である。
そして,Fは,本件事故まで問題行動等を採ったことはなかった上,本件事故は,本件雲梯の横側からよじ登り,V字型開口部に頚部を挟み込むという極めて特殊な態様によるものであり,予見し得ない偶発的な事故といえる。また,Fが,本件雲梯への頚部の挟み込みから低酸素脳症に至るまでは僅か90秒程度しかなかったことに加え,本件雲梯に頚部を挟み込まれていた際のFの体勢が,ただ立っているように見えたことに照らせば,被告Dにおいて,Fの異変に気が付くのは極めて困難であったといえ,結果回避可能性及びその回避義務違反があると評価することは相当ではない。


損害(争点2)
【原告の主張】

Fに生じた損害
死亡日までの治療費

61万1563円

死亡日までの入院雑費

57万6000円

2000円×288日=57万6000円
入院付添看護費

197万4583円

原告Bにつき

6500円×275日=178万7500円

原告Aにつき

1万4391円×13日=18万7083円

入院慰謝料
逸失利益

438万円
2697万1201円

Fは,死亡当時4歳であり,賃金センサス平成28年第1巻第1表の産業計・企業規模計・男女計・学歴計の全年齢の平均年収489万8600円を基礎収入とし,生活費控除率を40%として,18歳から67歳までの就労可能期間の逸失利益の現価をライプニッツ係数によって中間利息を控除して算定した上記金額が逸失利益として認められるべきである。死亡慰謝料
葬儀費用

3000万円
150万円

文書料

8550円

既払金
損害保険ジャパン日本興亜株式会社の保険金
入院保険金
後遺障害保険金

42万7500円
150万9000円

独立行政法人日本スポーツ振興センター給付金
医療費
死亡見舞金

219万1101円
2800万円

原告らに生じた損害
原告Bの診療費

8万0690円

原告Bは,本件事故により精神的打撃を強く受け,心的外傷後ストレス障害と診断され,通院治療を受けており,その診療費(文書料を含む。)と
して,
平成29年4月14日から平成30年11月29日までの間に合計8万0690円を支出した。
慰謝料
原告Aにつき

400万円

原告Bにつき

600万円

原告らは,
Fの死亡により大きな精神的苦痛を受け,
原告Bにおいては,
心的外傷後ストレス障害と診断され,通院治療を余儀なくされている。そして,
本件事故後の被告法人の対応が不誠実であったことも併せ考えると,慰謝料としては上記金額が相当である。
弁護士費用
原告Aにつき

350万円

原告Bにつき

370万円

【被告らの主張】

Fに生じた損害について
治療費等の額は不知。
入院雑費は争う。
入通院付添費につき,原告らの付き添いの事実は不知,額は争う。入院慰謝料,逸失利益,死亡慰謝料及び葬儀費用は争う。
文書料は不知。
既払金の額は認める。


原告らに生じた損害について
原告Bの診療費は不知。
原告らの固有の慰謝料及び弁護士費用は争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実及び証拠(後掲の各証拠のほか,甲93,94,乙25ないし31,証人K,
証人P,
証人O,
原告A本人,
原告B本人,
被告C本人及び被告D本人)
並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


保育所における職員配置に関する定めについて
児童福祉法45条に基づき児童福祉施設の最低基準として定められた児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)は,保育所における職員配置について,
保育士の数は、乳児おおむね3人につき1人以上,満1歳以上満3歳に満たない幼児おおむね6人につき1人以上,満3歳以上満4歳に満たない幼児おおむね20人につき1人以上,満4歳以上の幼児おおむね30人につき1人以上とすると定めている
(33条2項)なお,

同基準では,
児童福祉施設は,最低基準を超えて,常に,その設備及び運営を向上させなければならないとされている(4条1項)。



保育士における安全教育について
保育所における事故防止や安全対策について,保育所保育指針(厚生労働省告示第141号)の解説書などには,遊具の安全基準や規格などについて熟知し,必要に応じて専門技術者による定期点検を実施することや,常に全員の子供の動静を把握するようにすること,観察の空白時間が生じないよう職員間の連携を密にする必要があることなどが記載されている(甲29,30)。



本件保育所における監視体制や遊具の点検について

本件保育所における平成29年度の職員配置は,0歳児クラス8人に対して3名の担当保育士,1歳児クラス23人に対して4名の担当保育士,2歳児クラスのうちぱんだ組の16人に対して担当保育士3名,2歳児クラスのうちこあら組の12人に対して2名の担当保育士,3歳児クラス21人に対して担当保育士2名,4歳児クラス23人に対して1名の担当保育士,5歳児クラス23名に対し担当保育士1名とされているほか,2名の加配保育士が配置されていた。
Fが所属する3歳児クラスの担当保育士は,被告D及びQであった。(乙
2)

本件保育所では,午前7時頃から園児の受入れを行い,3歳児から5歳児クラスの園児については,午前8時頃から,登園してきた者から順次園庭に出て遊ぶという自由保育が行われていた。
自由保育の時間中には,3歳児から5歳児クラスの担当保育士複数名が園庭に散らばって位置し,各保育士同士が適宜コミュニケーションを取りながら園児の人数や位置を把握しつつ,園児と一緒に遊ぶなどしていた。自由保育の時間中に園児が登園してきた場合には,登園に気が付いた保育士や園内の事務職員が受入れを行い,園庭内の保育士が受入れ等のためにその場を離れる際には,園庭にいる他の保育士に対し,その場を離れる理由を告げてから移動することとなっていた。
また,
園庭で遊ぶ園児については,
園庭内の保育士が主に見守りを行うが,
園庭の様子を把握できる0歳児クラス内にいる保育士等を含む職員全体で気に掛けることとされていた。
(乙31,被告C本人)


本件事故以前の本件雲梯にかかる事故事例は,雲梯から転落したことによる打撲等であり,本件保育所は,その対策として本件雲梯の下にマットを敷いていた。
ジャングルジムなどの大型遊具で園児が遊ぶ際には,職員が常に近くで見守ることとされていたが,本件雲梯については,3歳児以上であれば,足が地面に着くので事故の危険性が低いとの考えから,保育士が必ず近くで見守らなければならないとまではされていなかった。もっとも,園児の中には,椅子等を持ち出してきて本件雲梯の上に登ろうとする者もいたことから,園児らに対してこれらの行為をしないよう注意すると共に,保育士において,園児が上に登ったり,
ひもを掛けて遊んでいるのを見かけた場合には止めさ
せるよう注意することとなっていた。また,本件雲梯は,園庭からやや見えにくい場所に位置していたため,保育士らは,本件雲梯の方を常に気に掛けるようにしていた。
(乙31,証人K,証人P,被告C本人,被告D本人)

本件保育所では,株式会社チャイルド社に対し,年に1回,遊具の安全点検を依頼しており,平成28年4月19日の安全点検の際には,本件雲梯については,木割れや経年劣化を指摘されたのみであった(乙9)
。また,本件
事故発生まで,本件雲梯について,V字型開口部があるという構造上の問題点を指摘されたことはなかった(被告C本人)




本件事故当日の状況等

本件事故当時,
3歳児から5歳児クラスの園児57名が園庭で自由に遊ん
でおり,園庭には,被告Dのほか,K,L及びMの4名が配置され,園児の受入れや見守りに当たっていた。
また,0歳児クラスの保育室内には,0歳児5名と保育士であるP,N,R及び看護師であるOが在室していた。
(甲14,15,乙3)


Fは,午前8時25分頃,妹のGと共に原告Bに連れられて本件保育所に登園し,Gが0歳児クラスに預けられた後,原告Bと共に,2階にある3歳児クラスの教室に向かった。被告Dによる受入手続の後,Fは,午前8時50分頃から園庭での遊びを開始した
(甲94,
被告D本人,
弁論の全趣旨)



Fは,午前8時50分頃から午前9時5分頃にかけて,被告Dと他の3歳児複数名と共に,
0歳児クラス南側のテラスに鯉のぼりを見に行き,
その後,
築山の横で鯉のぼりを上げ,わくわくの森の丸太渡りで遊んだ。
この頃,Kは,5歳児を連れて園庭に出て,園庭の中央付近で見守りを行った後に,園庭の南門付近で5歳児2名のトラブルに介入しており,Mは,砂場と1階テラスの間で園児らと追いかけっこをしており,Lは,園庭の中央付近で4歳児一人の遊び相手をしていた。
(甲97,乙13,27,28,
証人K,被告D本人,弁論の全趣旨)

Fは,
午前9時15分頃,
3歳児1名と共にわくわくの森を離れ,
FちゃんのGちゃん見て,見てと言いながら,0歳児クラス南側のテラスに向かい,フェンス越しに妹のGがいる0歳児クラスの室内を覗いていた。Fの存在に気が付いたPは,Fに対し,
Gちゃん,ここにいるよと声を掛けたほ
か,フェンスに登るFに対し,
あぶないよと声を掛けた。その後,Fは,
午前9時20分頃にかけて,3歳児1名と共に,本件雲梯の西側に設置されている遊具で遊んだ後に,本件雲梯の梯子にぶら下がるなどして遊び始めた。この頃,被告Dは,Fが0歳児クラスの方に向かったことを認識していたが,0歳児クラス付近にKの姿を認めたことから,そのまま園庭で他の園児と虫を見ていたところ,Mから,3歳児の受入れを頼まれたため,3歳児数名を連れて1階テラスへと移動した。
Kは,
0歳児クラスに向かうFとすれ違った後,
1階テラス付近に移動し,
さらに,
キュービクルの北側に置かれた平均台や長縄に移動して5歳児の活動を見守った。
Mは,被告Dに3歳児の受入れを頼んだ後,Lにも被告Dが園児の受入れのために移動したことを伝え,園庭の中央よりやや東側で3歳児と4歳児の見守りを行っていた。Lは,ジャングルジム付近で見守りを行った後,園庭全体を見渡せる病児棟付近に移動し,さらに,わくわくの森付近へと移動した。
(甲97,乙13,27,28,証人K,証人P,被告D本人)


Fは,午前9時21分頃,本件雲梯の西側の補助板に左足をかけ,梯子部分の横板に右手をかけて上体を持ち上げ,上部の横木との間に身体を入れようとしたところ,頭部が梯子部分の横板と頬杖に挟まれ,自己の体重により頚部が圧迫される状態となった。Fは,足を前後に動かすなどして自力で抜け出そうとしたが抜け出せず,約90秒後には,両方のつま先が本件雲梯の下に敷かれたマットに着くか着かないかの状態で動かなくなった。この頃,被告Dは,園児の受入れに時間を要しており,さらに園児2名が排泄を訴えたため,Kにその旨告げて,園児らをトイレに連れて行った。その後,被告Dは,園庭に戻り,3歳児数名と1階テラスで花に水やりをしていた。
Kは,被告Dの前記報告を受けて,1階テラス付近と平均台付近を行き来して園児の活動を見守った。Kは,本件雲梯やその西側にある遊具の方も気に掛けてはいたが,
そこにいる園児の人数や誰が何をしているのかといった
具体的な内容までは把握していなかった。
Mは,ジャングルジム,ローラー滑り台,築山付近と移動し,それぞれの場所で園児の活動を見守った。Lは,わくわくの森,ローラー滑り台,1階テラス付近へと移動し,
Mがジャングルジムを離れた後は,
ジャングルジム,
ローラー滑り台と移動した後,園庭の中央付近に移動し,スケーターに縄跳びが絡んでいるのを見つけて園児に声を掛けていた。
(甲18,
甲97,
乙1
3,証人K,被告D本人)

Nは,午前9時31分頃,Fの異変に気が付き,0歳児クラス南側のテラスに出てFの状態を確認した後,看護師であるOに対し,
Fちゃんやばいと思うと声を掛けた。Oは,直ちにFの元に駆け付けたところ,Fの頭部が本件雲梯の梯子部分の横板と頬杖に挟まっている状態であることに気が付き,Fの身体を持ち上げて救出した。
被告Dは,Oの救急車との叫び声を聞き,本件保育所の玄関ホールでOの救命措置を受けていたFの元に駆けつけた。
(甲97,
乙13,
乙30,
証人O,被告D本人)



本件事故後の被告法人の対応等
原告らは,平成29年8月7日,代理人を通じて,被告法人に対し,本件事故の発生原因や経緯に関する報告を求めた
(原告A本人,
弁論の全趣旨)


同年9月24日,原告らは,被告法人代表者に対し,報告書が依然として提出されていないことを指摘したところ,被告法人代表者は,約2週間後に提出できると述べ,
行政庁に提出したと思われる報告書と本件雲梯の図面を
原告ら代理人に交付した(弁論の全趣旨)



その後,
原告ら代理人が,
被告法人の当時の代理人であった弁護士に対し,
報告書の提出を複数回にわたり催促したところ,同弁護士は,同年10月24日,原告ら代理人に対し,報告書を送付した。同報告書は,本件事故当日の防犯カメラ映像に映っていたFの行動等を文章化したものであるところ,文章の一部が途中で途切れていたり,引用されている図面が添付されていない状態であったため,原告ら代理人が,被告法人の代理人に対しこの点を指摘したところ,被告法人の代理人は,翌25日,文章の途切れた部分のみを記載した書面と共に,
図面は被告法人から取り寄せる予定である旨を記載し
た書面を送付した。
(甲18,19)


被告法人の当時の代理人は,同年11月13日,原告ら代理人に対し,前記ウの図面を送付した(甲20)
。なお,この間,原告ら代理人は,被告法人
の代理人に対し,複数回にわたり,問合せの連絡をした(弁論の全趣旨)。

2争点1について


被告Cについて

被告Cは,保育の専門的知識をもった保育士かつ本件保育所の園長として,できる限り事故の危険性を具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止すべく,遊具の安全性を確認して,認識し得た危険を除去し,あるいは,不測の事態に備えて,監視体制を構築するなどして,本件保育所における園児の生命身体を保護すべき注意義務を負っていた。

本件雲梯の上向きのV字型開口部を解消せずに放置した点について保育所保育指針は規範性を有する基準としての性格を持つといえるところ,
同指針は,
保育所ないし保育士に対し,
保育中の事故防止のために,
子供の心身の状態等を踏まえつつ,保育所内外の安全点検に努め,安全対策のために職員の共通理解や体制作りを図るとともに,家庭や地域の諸機関の協力の下に安全指導を行うこと,遊具の安全基準や規格などについて熟知することといった抽象的な作為を要請するにとどまり,保育所ないし保育士において把握しておくべき遊具の安全基準や規格について具体的に指示しているわけではない。
また,
保育所の事故対策について,
都市公園における遊具の安全確保に関する指針を参考とすることが求められてはいるものの,あくまでも参考にすぎず,
遊具の安全に関する規準
についても,事業者団体のとりまとめた専門的知見であり,これが直ちに保育所等が遵守すべきものとして規範性を有すると解することはできないことにも照らせば,被告Cにおいて,これらの具体的内容を熟知しておくべき職務上の義務があったとまではいえない。
もっとも,被告Cは,本件保育所の事務管理や保育業務の管理,園舎の維持・管理等につき統括して責任を負う園長として
(甲74)本件保育所

の遊具の危険性について,他の保育士に比べ,より注意深く観察すべき立場にあった。そして,本件雲梯は,客観的には幼児の身体が挟み込まれる危険性を有する遊具であるところ,本件雲梯の形状からすれば,前記指針や規準を熟知しない者であっても,より注意深く観察すれば,上部の横木と梯子の横板に幼児の身体が入りうることや,頬杖と梯子の横板の間に幼児の頭部が挟み込まれることを予見することは不可能とまではいえず,幼児においては,
遊具の正しい用法に従わない遊び方をすることもままある
こと,体力や知力が発達段階にあり,危機回避能力が未熟であることにも照らすと,被告Cにおいて,より注意深く観察していれば,本件雲梯の上向きのV字型開口部に園児の身体が挟み込まれることを予見することは可能であったといえる。
しかし,本件事故は,被告Cの園長就任後わずか12日目に発生したものである。本件雲梯のV字型開口部の上向き具合は約2度にすぎず,園長のような遊具の安全管理について責任を負う者が,
注意深く観察すればそ
の危険性を認識することができないわけではないものの,一見しただけでは園児の身体が挟み込まれる危険性があると認識するのは容易ではないことに加え,本件事故以前には,本件保育所内のみならず全国的にも,本件雲梯のような上向きV字型開口部による事故の報告がされたり,納入業者や点検に当たる専門業者から構造上の問題を指摘されたり,現場の保育士や保護者から,
その危険性を指摘する声が上がっていたなどの事情はう
かがわれないことなども併せ考えると,被告Cにおいて,園長就任から本件事故発生までという短い期間内に,本件雲梯を注意深く観察し,上向きのV字型開口部に園児の身体が挟み込まれることを予見するのは著しく困難であったといわざるを得ず,本件事故当時,これを予見すべき義務に違反していたということはできない。
そうすると,
本件雲梯の危険性についての予見義務違反が否定される以
上,本件事故当時,被告Cに,本件雲梯の上向きのV字型開口部を解消すべき義務の違反があったとはいえない。

保育士による園児の監視体制の整備について
被告Cは,本件保育所の園長として,園児の安全を守るため適切な監視体制を構築すべき義務を負う。
自由保育の時間中,園児らは各自の興味に従って自由に遊び,かつ,予想外の行動に出ることがある上,危機回避能力も未熟であることに照らせば,それに応じた監視体制を構築する必要がある。もっとも,いかなる場合にも,
自由保育の時間中に園児一人一人の動静を常に注視し続けること
まで求めるのは,非現実的である上,自由保育の目的であるところの園児の自主性の発達にも悖ることとなり相当ではない。この点,保育所保育指針では,常に全員の子供の動静を把握することや,観察の空白時間が生じないよう職員間の連携を密にすることなどが求められているが,保育所の職員配置についての最低基準(前記1⑴)では,満3歳以上4歳未満の幼児について,
おおむね20人につき1人以上の配置が求められているにす
ぎないことからすれば,保育所保育指針の前記要請は,可能な範囲で努力することを義務付けたものといえる。
そうすると,保育所における監視体制については,当該保育所における職員配置や園児の数,園庭の広さや遊具の性質等の具体的事情に照らし,園児の安全を守るために適切な監視体制が構築されていたかという観点から判断すべきである。具体的には,遊具そのものに危険性があるなど相対的にみて危険性が高い場合には,保育士において園児の活動をそばで見守るなどして直ちに危険を回避できるような監視体制であることが求められ,監視体制を構築する責任者において,そのような監視体制を構築すべき義務を負う。また,相対的にみて危険性が高いといえない場合には,保育士において園児の活動を離れた場所から見守ることで足りるが,園児の動静に全く注意を払わなくてもよいというわけではなく,園児が,遊具の本来の用法を離れて危険な遊びを始めた場合等には,保育士において速やかにこれを発見できる程度の監視を行うことは必要であり,監視体制構築責任者は,
これが可能な監視体制を構築する義務を負うというべきであ
る。
もっとも,客観的にみて危険性が高い場合であっても,監視体制を構築する責任者にとって当該危険性の認識が著しく困難であるにもかかわらず,その危険性を前提とする監視体制構築義務を負わせることは,不可能を強いるに等しいから,そのような義務を負わせることはできない。前記イのとおり,被告Cにつき,本件事故当時,本件雲梯の危険性についての予見義務違反が否定されることからすれば,被告Cにおいて,園児が本件雲梯で遊ぶ際に,保育士らがそばで見守るなどして直ちに危険を回避できるような監視体制を構築すべき義務があったとはいえない。本件保育所では,
ジャングルジムについては園児の活動をそばで見守る
こととされているが,それ以外には殊更に危険な遊具は設置されておらず,園庭もそれほど広くないことに加え,園庭の中央付近からではやや視認状況が悪い本件雲梯付近については,0歳児クラスの職員も見守りをするように意識付けがされていたことに照らせば,本件事故当時の監視体制は,園庭にいる保育士が園児の受入れ等でその場を離れる可能性があることを踏まえても,
他の保育士との間でコミュニケーションを取りながら適切
な配置を保てば,保育士が離れた場所から見守る場合であっても,園児が遊具の本来の用法を離れて危険な遊びを始めた場合には,速やかにこれを発見できる程度の監視を行うことが可能なものであったといえる。よって,被告Cは適切な監視体制を構築していたといえ,園庭で遊ぶ園児の数を限定するよう監視体制を変更したりする義務があったとまでは認められない。



したがって,本件事故につき,被告Cには過失がない。
被告Dについて


被告Dは,Fの担任保育士として,Fの動静を把握する義務を負っていた。もっとも,前記のとおり,保育士に対し,いかなる場合にも園児一人一人の動静を常に注視することまで要求されているとはいえないから,担任保育士である被告Dに動静把握義務違反が認められるかについては,本件事故当時の保育体制や本件事故の予見可能性の程度等からして,被告Dに具体的にどの程度の動静把握義務が認められ,本件事故当時の状況に照らして,当該義務を怠ったといえるかという視点から検討すべきである。被告Dは,本件事故当時,前記1⑶イのとおりの自由保育の時間中の監視体制に従って行動することが求められていたところ,園庭を離れる際,自身の担当するクラスの園児が,危険な遊具で遊び始める可能性が高いときや,
これまでの行動傾向等から危険な遊びをする可能性が高いときなどには,他の保育士に対し,個別に注意を促すべきではあるが,そのような事情がない場合には,自身が園庭を離れることを他の保育士に伝え,担当園児の見守りを委ねることで足りるというべきである。ただし,客観的に上記危険性が認められる場合でも,被告Dにおいて当該危険性を認識することが著しく困難な場合にまで,当該危険性を前提として,他の保育士に対し,個別の注意を促す義務を課すことはできないというべきである。本件雲梯は,
客観的には幼児の身体が挟み込まれる危険性を有する遊具
ではあるものの,
これを被告Dのような個々の保育士においてまで認識す
ることは著しく困難であるから,0歳児クラスの方に行ったFが本件雲梯で遊び始める可能性があったからといって,危険な遊具に当たることを前提とするような注意義務を被告Dに課すことはできない。
また,Fは,本件事故当時3歳であり,本件事故以前にはジャングルジムに何度も挑戦してようやく登ることができたという出来事があったように
(乙11)体力や筋力が発育していく中で,

様々なことに興味を持っ
て挑戦しようとする姿勢が見られたが,これは,3歳児の発育過程において通常見られるものであるから,本件事故当時,Fが危険な遊びをする可能性が高かったとは認められない。
したがって,被告Dにおいて,他の保育士に対し,Fが本件雲梯で遊ぶ際にはそばで見守るよう個別に注意を促す義務はなかったというべきである。
そして,被告Dは,自身が園庭を離れることをMやKに伝えてからその場を離れたと認められるから,動静把握義務を果たしたといえる。イ
原告らは,被告Dが,Fの動静を14分余りも把握していなかったことが動静把握義務違反に当たると主張するが,自由保育の時間中の監視体制では,他の保育士に見守りを委ねることもやむを得ないことであり,前記特段の事情が認められない状況下では,その時間が長時間であったとはいえないから,この点をもって,被告Dに動静把握義務違反があるということはできない。ウ


したがって,本件事故につき,被告Dには過失がない。
Kの過失について
Kに動静把握義務違反が認められるかについても,被告D同様,本件事故当時の保育体制や本件事故の予見可能性の程度等からして,Kに具体的にどの程度の動静把握義務があり,本件事故当時の状況に照らして,当該義務を怠ったといえるかとの視点から検討されるべきである。
Kは,本件事故当時,前記1⑶イのとおりの自由保育時間中の監視体制に従って行動することが求められていたところ,本件雲梯については,前記のとおり,
保育士においてその危険性を予見することは困難であったこ
とからすると,Kにおいて,本件雲梯のそばで園児の活動を見守るべきであったとはいえない。Kとしては,
に応じて園児の活動を見守ることが求められており,
離れた場所から園児
を見守る場合には,園児が,遊具本来の用法から離れて生命・身体に危険が及び得る態様で遊びを始めた場合等は,速やかにこれを発見できる程度の監視を行うべきであったといえるが,それ以上に,園児一人一人を常時凝視し続けるほどの監視義務を負うとまではいえない。
Kは,Fとすれ違って以降,Fの行動を具体的に把握していなかったものの,本件雲梯の方を気に掛けてはおり,園児が本件雲梯の梯子の上に登ったり,梯子部分に縄をかけたりするなどした場合には,これを止めに行くことができる程度の監視を行っていたものと認められる。
確かに,
Kは,
本件事故の発生に気付いていないが,これは,本件事故の態様が,一見するとFが本件雲梯のそばに立っているように見え,異変に気付くことが著しく困難なものであったことによるのであって,Kにおいて,Fの動静を凝視していれば本件事故の発生に気付いた可能性は否定できないとしても,
園児一人一人を常時凝視し続けるほどの監視義務までは認められない以上,
この点をもってKに,
監視義務違反があったということはできない。
この点,原告らは,本来動き回るはずの園児が静止しているような状態になること自体が極めて異常な事態であり,異変に気付くことが著しく困難であったとはいえないと主張する。しかし,幼児がある事物に関心を抱き,一定の時間にわたって静止して観察することはままあり,必ずしも異常な事態とまではいえないから,原告らの主張は採用できない。



したがって,本件事故につき,Kには過失がない。
まとめ


以上のとおり,本件事故につき,被告C及び被告Dには過失がないから,
同被告らは不法行為責任を負わない。また,これに加えて,Kにも過失がないことから,被告法人は使用者責任を負わない。

もっとも,被告法人ないし被告C以前の本件保育所の園長は,本件雲梯に上向きのV字型開口部が生じて以降,本件雲梯が,園児の身体が挟み込まれる危険性を有するものであることを認識し得たといえ,また,認識すべきであった。そうであるにもかかわらず,本件雲梯の上向きのV字型開口部を解消することなく本件事故まで放置した点につき,被告法人には組織体として過失があるというべきであり,被告法人は,本件事故につき,不法行為責任を負う。

3争点2について


Fに生じた損害

治療費

61万1563円(甲32)


入院雑費

43万2000円

入院288日間につき,日額1500円とするのが相当である。なお,原告らは日額2000円を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。ウ
入院付添費

197万4583円
Fは,本件事故当時3歳であり,全脳虚血,四肢及び体幹機能全廃状態にあったから,入院288日間にわたって,原告らによる付添いが必要であった。そこで,原告Bについては,入院期間のうち現に付添いをした275日間について,
日額6500円と基準とする入院付添費
(178万7500円)
が認められる。また,原告Bによる付添いが困難であった13日間については,原告Aが年次有給休暇を取得して付添いに当たっており,同期間については,原告Aの収入日額1万4391円(甲33)を基準とする入院付添費(18万7083円)が認められる。

入院慰謝料

360万円

入院期間及びFの症状の重篤さ等に照らせば,上記金額が相当である。オ
逸失利益

2472万3601円

Fは,死亡当時4歳であり,同人の逸失利益については,就労が可能となると推認される18歳から67歳までの49年間,少なくとも平成28年の全労働者学歴計全年齢平均賃金年額489万8600円程度の収入を得られた蓋然性があると認められるから,これを基礎収入として算定するのが相当である。また,生活費控除率は45%とするのが相当である。
(計算式)
489万8600円×
(1-0.45)×(19.0751-9.8986)

死亡慰謝料

2000万円

Fは,本件事故による低酸素脳症により重篤な病状におかれ,複数回にわたり危篤状態に陥りながら9か月間懸命に生命を維持してきたものの,一度も意識が回復しないまま死亡するに至った。かかるFの死亡に至る経緯及び本件事故の態様,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,Fの慰謝料として2000万円を認めるのが相当である。

葬儀費用

150万円

本件に現れた一切の事情を考慮すると,150万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。



文書料

8550円(甲67ないし70)

原告らに生じた損害

原告A固有の慰謝料

200万円


原告B固有の慰謝料

300万円

わずか4歳の娘に先立たれたことによる原告らの精神的苦痛は甚大なものと認められ,特に,本件は,本来であれば安全であるはずの保育所における事故であることも踏まえると,
原告らの無念さは筆舌に尽くし難く,
また,
前記1⑸の本件事故後の本件保育所及び代理人弁護士の対応に対して不信感を抱くことも無理からぬことである。そして,原告Bが,本件事故を契機に心的外傷後ストレス障害と診断され,現在に至るまで通院治療を余儀なくされていること(甲35の1,2)及びその他本件に現れた一切の事情を考慮すると,原告A固有の慰謝料として200万円を,原告B固有の慰謝料として300万円を認めるのが相当である。
なお,原告Bが,本件事故後,心的外傷後ストレス障害と診断され,通院治療を継続していることは認められるものの,同治療に要した費用は本件事故と相当因果関係のある損害とは認められず,前記のとおり同人固有の慰謝料として考慮すべきである。


まとめ

Fの損害賠償請求権5285万0297円について,原告らは,その2分の1である2642万5148円ずつ
(小数点以下は切り捨て。
以下同じ。

を相続した。よって,原告Aの損害は,固有の慰謝料200万円を合計した2842万5148円,原告Bの損害は,固有の慰謝料300万円を合計した2942万5148円となる。


原告らは,損害保険ジャパン日本興亜株式会社から,平成29年11月2日,入院保険金として42万7500円,同月27日,後遺障害保険金として150万9000円の支払を,独立行政法人日本スポーツ振興センターから,同年7月7日から平成30年3月5日までの間に9回にわたり,医療費として219万1101円,同年5月1日,死亡見舞金として2800万円の支払をそれぞれ受けた。

原告らは,
死亡見舞金以外の412万7601円
(各206万3800円)
については元本に充当し,死亡見舞金の2800万円(各1400万円)については,
元本残額に対する本件事故日から平成30年5月1日までの遅延
損害金に充当し,残額を元本に充当することを求めている。これによると,原告Aの損害賠償債務元本は1375万2691円,原告Bの損害賠償債務元本は1480万5430円となる。
(計算式-原告Aについて)
2842万5148円-206万2800円=2636万2348円2636万2348円+(2636万2348円×0.05÷365×385日-1400万円)=1375万2691円
(計算式-原告Bについて)
2942万5148円-206万2800円=2736万2348円2736万2348円+(2736万2348円×0.05÷365×385日-1400万円)=1480万5430円


本件事案の内容等に照らすと,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告Aについては140万円,原告Bについては150万円とするのが相当である。

4結論
よって,
原告らの被告法人に対する第一次的請求は理由がないからいずれも棄却し,第二次的請求は,主文第2項及び第3項の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないからいずれも棄却し(第三次的請求も同様である。,原告ら)
の被告C及び被告Dに対する請求は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
高松地方裁判所民事部
裁判長裁判官

森實将
裁判官

財津陽子
裁判官

上原絵梨人
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