判例検索β > 平成31年(わ)第219号
暴行、傷害(変更後の訴因:暴力行為等処罰に関する法律違反)
事件番号平成31(わ)219
事件名暴行,傷害(変更後の訴因:暴力行為等処罰に関する法律違反)
裁判年月日令和2年1月8日
法廷名福岡地方裁判所
裁判日:西暦2020-01-08
情報公開日2020-02-07 16:00:11
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主文
被告人Aを懲役3年に,被告人Bを懲役2年に処する
この裁判確定の日から,被告人Aに対し5年間,被告人Bに対し4年間,それぞれその刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人両名を保護観察に付する。
理由
(犯罪事実)
第1

(平成31年4月4日付け訴因並びに罪名及び罰条の変更請求書(以下訴因等変更請求書という。)記載の公訴事実1の別表番号1関係)被告人Aは,常習として,平成30年12月29日午前6時頃から同日午前6時45分頃までの間,福岡県筑紫野市abc丁目d番e号Cビルf号の当時の被告人両名方において,被告人Bの実子であるD(当時7歳。以下被害者という。)に対し,後ろ手にさせた両手首及び両足首をビニールテープで縛った上,その体を抱え上げて浴槽に張った冷水の中に入れるなどの暴行を加え,更に被告人Bは,同日午前6時45分頃に起床しシャワーを浴びるために浴室に入り,その頃,被告人Aとの間で共謀を遂げ,常習として,その頃から同日午前7時15分頃までの間,同所において,引き続き被害者を前記浴槽に張った冷水の中に入れるなどの暴行を加えた。

第2

(訴因等変更請求書記載の公訴事実1の別表番号2関係)
被告人両名は,結束バンドで縛らずに被害者を浴槽に張った冷水の中に入れる暴行の限度で共謀の上,常習として,平成31年1月24日午後4時30分頃から同日午後5時35分頃までの間,第1記載の当時の被告人両名方において,被害者(当時8歳)に対し,被告人Bが,浴槽に張った冷水に浸かっている被害者の両肩付近を両手で押さえ付ける暴行を加えた上,抵抗する同人に対し,被告人Aが,その両手首を結束バンドで縛った上,その体を抱え上げて同浴槽の中に入れるなどの暴行を加え,前記結束バンドで縛る暴行によって,被害者に加療約1週間を要する両手首尺側挫傷の傷害を負わせた。
第3

(訴因等変更請求書記載の公訴事実2関係)
被告人Aは,常習として,平成31年1月25日午前零時頃,第1記載の当時の被告人両名方において,被害者に対し,その右腕を左手でつかんだ上,その左腕を右手で多数回殴る暴行を加え,よって,同人に加療約2週間以上を要する左上腕外側打撲・外傷性内出血の傷害を負わせた。

(事実認定の補足説明)
第1

平成30年12月29日の暴行(第1の事実)について

1
訴因等変更請求書記載の公訴事実1の別表番号1の要旨は,
被告人両名は,共謀の上,常習として,平成30年12月29日午前6時頃から同日午前7時15分頃までの間,当時の被告人両名方において,被告人Aが,被害者の後ろ手にさせた両手首及び両足首をビニールテープで縛った上,その体を抱え上げて浴槽に張った冷水の中に入れるなどする暴行を加えたというものである。これに対し,被告人Bの弁護人は,被告人Aが行った暴行については認めるものの,被告人両名の間で共謀が成立したのは平成30年12月29日午前6時45分頃であり,被告人Bは,同時刻以降の暴行についてのみ責任を負う旨主張している。

2
そこで検討すると,被告人Aは,その述べるところによれば,平成30年12月29日午前零時頃から,被害者が図書館の本の返却に関して嘘をついたことの罰として,自宅のリビングで二,三時間ほどヘッドスピンをさせたが,途中で被害者がかんしゃくを起こし,大声を出したり,地面(床)をたたいたりして反抗し始めたことから,更なる罰を与えるため,同日午前6時頃,被害者の両手首及び両足首をビニールテープで縛った上で,その体を抱え上げて浴槽に張った冷水の中に入れるなどしたというのである。
これに対し,被告人Bは,被害者がヘッドスピンをしている様子を途中までは見ていたが,遅くとも同日午前3時頃には就寝したため,その後被害者がかんしゃくを起こして被告人Aによって水風呂に入れられたところは見ていなかった。しかし,被告人Bは,同日午前6時45分頃に起床してシャワーを浴びるために浴室に入った際に,初めて被害者が水風呂に入れられていることに気付き,被告人Aに対し,

手足を縛るのはやめてよ。

などと言った上で,自らは,
被害者が水風呂に入れられている横でシャワーを浴びるなどし,
結局,
被害者は,同日午前7時15分頃まで水風呂に入れられたままとなったと認められる。
このように,被告人Bは,同日午前6時45分頃の段階で,被告人Aが被害者を冷水の中に入れているのを認識したのであるから,本来実の母として被害者を庇護すべき立場にあったにもかかわらず,被告人Aに対し,

手足を縛るのはやめてよ。

などと言うにとどめ,自らは被害者が水風呂に入れられている横でシャワーを浴びるなどして,引き続き被害者を冷水に浸からせることを容認する態度を示したものといえ,そのことは被告人Aにおいても認識していたといえる。そうすると,この同日午前6時45分の段階では,被告人Bと被告人Aは,被害者の手足を縛って水風呂に入れる暴行につき,互いに意を通じていたものということができる。他方,被告人Bが,被告人Aにおいて被害者を水風呂に入れていることを認識していなかった同日午前6時45分頃より前の段階では,被告人Aとの間で被害者を水風呂に入れる暴行を加えることにつき共謀が成立していたとは認め難いといえる。
3
検察官は,被告人Bは,就寝前に,被害者がヘッドスピンの罰を受けているのを認識しており,被告人両名が被害者に書かせた誓約書の内容に照らせば,その後に被告人Aが被害者を水風呂に入れることも当然想定していたはずであることなどを指摘し,被害者が被告人Aから罰としてヘッドスピンを命じられたことを認識した平成30年12月29日午前零時頃の時点で,その後に被害者を水風呂に入れることにつき,被告人両名間で共謀が成立した旨主張している。
確かに,平成30年12月中旬頃に被害者に記載させたという誓約書(甲10)には,被害者に約束事項を記載させた部分の横に,被告人Aにおいて,被害者が約束を破った回数に応じてヘッドスピンを多数回行わせ,さらに,水風呂に長時間入れる罰を受けることを示す記載を書き加えるなどしていたことが認められる。しかし,上記誓約書の記載自体は,ヘッドスピンの罰を与える際に必ず水風呂に入れるという内容にはなっていない上,そもそも被告人Bは,平成30年12月29日の暴行より前の段階で被告人Aが被害者を水風呂に入れたのは1回のみと認識しており,その際にヘッドスピンをさせたと聞いていたわけでもない。そうすると,被告人Bにおいて,被告人Aが被害者にヘッドスピンをさせているのを認識していたからといって,その後に被害者を水風呂に入れることまで当然に想定していたなどと考えることはできないというべきである。したがって,被害者がヘッドスピンを命じられたことを認識した段階で,水風呂に入れる暴行についての共謀が成立したなどとは認められない。検察官の主張は採用できない。
4
以上によれば,被告人両名が,第1の犯行の当初から被害者を水風呂に入れることについて意を通じていたとは認められず,平成30年12月29日午前6時45分頃に,被告人両名間に共謀が成立したと認められる。

第2
1
平成31年1月24日の暴行(第2の事実)について
訴因等変更請求書記載の公訴事実1の別表番号2の事実の要旨は,被告人両名は,共謀の上,常習として,平成31年1月24日午後4時30分頃から同日午後5時35分頃までの間,当時の被告人両名方において,被告人Bが,浴槽に張った冷水に浸かっている被害者の両肩付近を両手で押さえつける暴行を加えた上,抵抗する同人に対し,被告人Aが,その両手首を結束バンドで縛った上,その体を抱え上げて同浴槽の中に入れるなどする暴行を加え,よって,被害者に加療約1週間を要する両手首尺側挫傷の傷害を負わせた。というものである。
これに対し,被告人Bの弁護人は,被告人両名が行った暴行は認めるものの,被告人Bは,被告人Aが被害者の両手首を結束バンドで縛った暴行については知らなかったから,両手首を結束バンドで縛る暴行についての共謀及び故意がなかったし,被害者の傷害結果は別の機会に生じた可能性があるため,暴行傷害結果との間の因果関係も認められない旨を主張している。
2
そこで検討すると,関係証拠によれば,被告人Bは,平成31年1月24日,被害者が寝小便をした際に着用していた下着を隠していたことから,罰として,
被害者を浴槽に張った冷水に浸からせたところ,被害者が抵抗したため,被害者の両肩付近を両手で押さえつける暴行を加えたこと,そして,その様子を見た被告人Aは,リビングから浴室に移動し,被告人Bに替わって被害者を水風呂に入れることになったが,被害者が暴れたことから,被害者を浴槽からいったん出し,脱衣所において被害者の両手首を結束バンドで縛った上で,再度被害者の体を抱え上げて浴槽の中に入れるなどの暴行を加えたことが認められる。

3
ところで,被告人Bは,その弁解するところによれば,被告人Aに替わった後リビングへ移動したところ,その直前に被害者から学校で友人の金を盗んだ話を打ち明けられたことでショックを受け,リビングのソファに座って下を向いて泣いたり,リビングから寝室に移って扉を閉め,被害者が通う小学校の先生に電話を掛けたりしており,その後,再度浴室に戻った段階では,被害者は既に浴槽から出されていて両手首を結束バンドで縛られた状態にはなかったため,結局,被害者が結束バンドで縛られているところは認識していないというのである。このような被告人Bの弁解は,やや曖昧な部分や前後の脈絡が不明な部分も見受けられるとはいえ,その内容自体直ちに不自然とまではいえない上,被告人両名方の間取り等に照らしても,被告人Bがリビングへ移動した後に被害者が脱衣所や浴室内で両手首を結束バンドで縛られていたことを当然気付いたはずともいえないから,直ちには排斥できないといえる。なお,被告人Aは,被告人A自身が被害者から友達の金を盗んだことを浴室で聞いたため,被告人Bを脱衣所に呼び出してその話を伝えたなどと供述している(被告人Aの被告人質問・第3回公判131ないし134項)ところ,この供述を前提にすれば,被告人Bは,被害者が両手首を結束バンドで縛られた状態にあるところを認識していたことになりそうである。しかし,被告人Aの供述内容には曖昧な部分も少なくなく,また,被告人Bが被害者が両手首を結束バンドで縛られたことを知らなかった可能性があることは認めている(同・第2回公判361ないし366項)。また,被害者は,捜査段階での検察官による事情聴取において,被告人Bに対し学校で友人の金を盗んだと伝え,それが被告人Aにも聞こえていた旨を述べていること(甲8・20頁)も認められる。これらの事情から考えると,被告人Aが記憶違いをしている可能性は否定できない。したがって,被告人Aの供述を根拠として,被告人Bが,脱衣所で,両手首が結束バンドで縛られた状態の被害者を認識していたと認めることはできない。
4
検察官は,被告人Bは,平成30年12月29日の暴行の際に被告人Aが被害者の手足を縛った上で水風呂に入れていたことを認識していることや,平成31年1月24日も,被害者が浴槽内で暴れて抵抗したことで,被告人Aが冷水を張った浴槽内に被害者を入れ続ける役割を替わったことからすれば,そのまま被害者が暴れ続けた場合に,被告人Aが被害者の両手首を縛ることを当然想起したはずであるなどと主張する。
しかし,被告人Aが平成31年1月24日より前に被害者を水風呂に入れる際に被害者の手足等を縛っていたのは,平成30年12月29日の暴行の際の1回だけである上,前記のとおり,被告人Bは,平成30年12月29日にも被告人Aが被害者を水風呂に入れているのを見た際に,被害者の手足を縛るのをやめるように言っていたことからすると,被告人Bが被告人Aが被害者の両手首を縛ることについて当然に想起していたなどとは認め難い。そもそも水風呂に入れる際に更に手足を縛るようなことをすれば,被害者の身体の自由を大きく制約し,場合によって被害者に対する生命への危険を生じさせかねないから(甲11・写真9ないし17),単に手で被害者の体を押さえつけるにとどまるか,手足を縛ってまで水風呂に入れるかでは相当に態様が異なるといえ,手足を縛る暴行を加えることまで当然に共謀の射程に入っていたと見ることには慎重である必要がある。これらの事情に照らすと,被告人Bが,平成31年1月24日の犯行の際に被害者の両手首が縛られることを当然のことと考え,そのことについて被告人Aと意を通じていたと認めることはできない。この点の検察官の主張は採用できない。
5
以上によれば,判示第2の犯行に際して,被告人Bが,被告人Aが被害者の両手首を結束バンドで縛っているのを認識していたとは認められないし,また,
被告人Aとの間で,結束バンドで縛って水風呂に入れることまで共謀していたと認めることもできないといえる。
したがって,判示第2の事実のとおり,被告人Bについては,被告人Aとの間では,結束バンドで縛らずに被害者を浴槽に張った水風呂に入れる暴行の限度で共謀が成立しており,被告人Bに対しては,常習暴行罪が成立するにとどまると判断した。

6
なお,被告人Aによる結束バンドで被害者の両手首を縛る暴行傷害結果の因果関係につき念のため補足する。E医師は,犯行の翌日である平成31年1月25日の段階で被害者の負傷箇所を撮影した写真(甲3)に基づき,被害者の両手首に残る怪我が生じた機序について,結束バンドで縛られたことによってできたと考えて矛盾がないものであり,傷の色合いや受傷時にはく離した皮膚が脱落せずに残っていることからすると,受傷して1日,2日程度が経過したものと考えられる旨を証言している。このE医師の見解については,子供の虐待の診察に関する点も含めその豊富な専門的知見に基づき判断されたものであって,
内容的にも不合理というべき点はないから,
信用性が高いといえる。
以上によれば,被害者の両手首の傷(両手首尺側挫傷)は,同月24日に被告人Aが結束バンドで縛った際にできたものと認めることができるから,被告人Aによる結束バンドで被害者の両手首を縛る暴行傷害結果との間の因果関係は優に認定できる。
(量刑の理由)
1
本件は,被告人両名が共謀の上常習として2度にわたって被害者を水風呂に入れる暴行を加え,うち1回について被害者に傷害を負わせ(第1,第2。ただし,第2について,被告人Bは常習暴行罪の限度で責任を負う。),さらに,被告人Aが単独で被害者の腕を殴るなどして傷害を負わせた(第3)という事案である。
2(1)被告人両名は,しつけと称して被害者に対し日常的に暴力を振るい,次第にその内容をエスカレートさせる中で上記一連の犯行を行ったものであり,その犯行態様を見ても,2度にわたって,冬場に1時間余りという長時間にわたって冷水を張った浴槽に被害者を浸からせるなどしており,しかも,その際には,被害者の手首などを縛って抵抗できないようにしていたのであるから,危険で悪質な犯行といえる。
被害者が負った傷害結果は,いずれも加療約1週間から2週間程度と比較的軽いものであった。しかし,第1の犯行において,被害者が水風呂から上がる際に寒さから気絶していたことからも明らかなように,一連の犯行により,当時7歳から8歳と幼い被害者が被った肉体的,
精神的苦痛は大きかったといえ,
実の母である被告人Bや同居して父親のような立場にあったという被告人Aから上記のような暴行を受けたことで,被害者の健全な成長に与える悪影響が懸念される。
(2)被告人両名の個別の情状を見ても,被告人Aは,しつけと称して被害者に対する暴行を日常的に行い,特に水風呂に入れることを提案するなど,重要な役割を果たしたものであり,単独で第3の犯行を行ったことを考えても,その責任は被告人Bに比較して重いといえる。
また,被告人Bも,第1の犯行については途中から犯行に加担したものであり,第2の犯行についても被害者の両手首を縛り傷害を負わせた点の責任は負わないが,実の母として被害者を庇護すべき立場にありながら,被告人Aの暴力を容認し,自らもしつけと称して積極的に暴力を振るっていた。被告人Aが被害者に対し過酷な暴力を振るうようになったのも,被告人Bの態度に助長された面があるといえることも考えると,被告人Bも相当に厳しい非難を免れないといえる。
3
以上のような犯情に照らすと,本件は同種事案の中で決して軽い部類に属するものではなく,被告人両名に対しては,短期間でも実刑をもって臨むことも十分に考えられる。
他方で,以上の事情に加え,犯情以外の点を見ると,被告人両名が事実関係を素直に認めた上で,被告人Aにおいては,医師や臨床心理士のカウンセリングを受け,また,被告人Bも,児童相談所のカウンセリングや心療内科での治療を受けた上で,法廷でも,それぞれ今後二度と同様の行為をしない旨を誓って反省の態度を示したこと,被告人両名に前科前歴はないこと,被告人両名の父親がそれぞれ出廷し,今後の監督を誓約したことなど,被告人両名にとって有利に斟酌すべき事情が認められる。そこで,これらの事情をも考慮すると,被告人両名を直ちに実刑に処するのは躊躇されるというべきであるから,今回に限りその刑の執行を猶予し,社会内での更生の機会を与えることにするが,その再犯の防止に十全を期すために,暴力防止プログラムの受講を遵守事項として定めた上で,その猶予の期間中保護観察所による手厚い指導,援護に服させるのが相当である。
(求刑

被告人両名につき懲役3年)

令和2年1月10日
福岡地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

岡﨑忠之
裁判官

𠮷
裁判官

野平内庸子岩彩夏
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