判例検索β > 平成30年(ワ)第2390号
検索結果削除請求事件
事件番号平成30(ワ)2390
事件名検索結果削除請求事件
裁判年月日令和元年12月12日
裁判所名・部札幌地方裁判所
判示事項の要旨原告が,被告に対し,①人格権に基づき強姦の被疑事実で逮捕された事実などが書き込まれた検索結果の削除,②当該検索結果が表示されていることによりプライバシーが侵害されたとして不法行為に基づき130万円の損害賠償を求めた事案。裁判所は,原告が強姦の被疑事実について嫌疑不十分により不起訴処分となっていること,本件逮捕から7年以上が経過していることなどによれば,本件口頭弁論終結時において,当該検索結果を表示する社会的必要性が低くなっている一方,原告は当該検索結果が表示されることにより私生活上大きな不利益を負っているから,当該検索結果の表示を維持する必要性よりも,強姦の被疑事実により逮捕された事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らかであるとして,①検索結果の削除請求の一部を認容したが,被告が当該検索を削除しなかったことについて過失があるとは認められないとして,②損害賠償請求を棄却した事例
裁判日:西暦2019-12-12
情報公開日2020-02-07 10:00:10
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主文
1被告は,検索サイトGoogleにおいて,別紙検索結果目録の検索結果欄記載の2,4,5及び9項に係る表題,URL及び抜粋並びに同欄記載の8項に係る表題及びURLを削除せよ。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを7分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告は,別紙検索結果目録の検索結果欄記載の表題,URL及び抜粋を削
除せよ。
2被告は,原告に対し,130万円及びこれに対する平成29年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4仮執行宣言

第2事案の概要
本件は,原告が,インターネット上のウェブサイトの検索サービスを提供する事業を営む被告に対し,被告が管理運営する検索サイトGoogle(以下
本件サイトという。
)において,別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の
文言を条件として検索すると,検索結果として,原告が逮捕された事実等の内容
が書き込まれたウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(以下,
ウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋を併せてURL等情報と総称し,原告が逮捕された事実等の内容が書き込まれたウェブサイトのURL等情報を
本件URL等情報
ということがある。が表示され

ることから,
原告のプライバシーが侵害されていると主張して,
人格権に基づき,

別紙検索結果目録記載の1から19項までのURL等情報の削除を請求するとともに,被告は,本件URL等情報を削除する義務があるにもかかわらず,訴外における原告の本件URL等情報の削除を求める要請に応じず,これによって原告のプライバシーが侵害されている状態が無用に継続していると主張して,不法行為に基づき,損害賠償金130万円及びこれに対する平成29年6月24日(被告が原告からの本件URL等情報の削除要請を拒否する意思を明らかにした日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間で争いがない。)
(1)原告について

原告は,平成▲年▲月当時から現在まで▲▲の地位にあり,平成▲年▲月頃は,a市に居住していた。
(甲10)


原告は,平成▲年▲月▲日,a市における強姦の被疑事実(以下本件被疑事実という。)により逮捕(以下本件逮捕という。
)され,同月▲日
に勾留された。
原告は,
同年▲月▲日,
本件被疑事実に係る強姦被疑事件
(以
下本件被疑事件という。
)について,処分保留のまま釈放され,b地方検
察庁は,同年▲月▲日,原告について,嫌疑不十分のため公訴を提起しない
処分をした(甲1,2,5,6,7の2)

(2)被告について

被告は,本件サイトを管理運営する米国法人であり,本件サイトにおいてインターネット上のウェブサイトを検索するサービスを提供している。

被告の検索サービスは,インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集して,検索条件ごとのインデックス(索引)を作成するなどして情報を整理し,利用者が一定の検索条件を入力すると,被告が管理する一定のアルゴリズムに従って,上記索引の中から検索条件に関連する情報を機械的かつ自動的に抽出して,検索条件に適合するURL等情報を検
索結果として提供する仕組みになっている。これらは,いずれも人の手を介さず,機械的かつ自動的になされる。
(乙12,弁論の全趣旨〔被告準備書面
(1))

(3)本件URL等情報について
本件サイトの利用者が本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行すると,上記検索サービスにより,原告が逮捕された事実等の内容が書き込まれたウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(本件
URL等情報)が表示される。
なお,本件口頭弁論終結時において,本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を入力してウェブサ
イトの検索を実行した場合に,同目録の検索結果欄記載の1から19項までのURL等情報のうち,いずれのURL等情報が表示されるかについては,後記のとおり争いがある。
(4)原告と被告の本件訴訟前の交渉経過
原告は,平成29年6月2日,被告に対し,原告代理人弁護士を通じて,本
件URL等情報の削除を求めた。これに対して,被告が原告の主張を裏付ける資料の提出を求めたところ,原告代理人弁護士は,不起訴処分告知書(原告がいかなる理由で不起訴処分になったかの記載はない。を送付し,

その後,
原告
と被告の間で,本件URL等情報を削除するかについて交渉が続けられたが,被告が,同年6月23日,本件URL等情報を削除しない旨の決定をしたこと
を原告に連絡した。これに対して,原告が,同日,最高裁平成29年1月31日決定民集71巻1号63頁(以下平成29年最決という。
)の決定文を送
付した上で,
本件URL等情報を削除しないこととした理由を教えてほしい旨
の連絡をしたが,被告は,同月24日,原告に対し,その理由を公開しない旨の連絡をした。
(甲5,乙23)

2争点及び争点に関する当事者の主張
(1)本件URL等情報の表示について
(原告の主張)
本件口頭弁論終結時において,別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を条件として検索を行うと,同目録の検索結果欄記載の1,2,4ないし11,13ないし19項のURL等情報が表示される。
(被告の主張)
本件口頭弁論終結時において,別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を条件として検索を行うと,同目録の検索結果欄記載の2,4,5及び9項のURL等情報並びに同欄記載の8項のURL及び表題が表示されるが,その他の同欄記載のURL等情報は表示されない。

(2)本件URL等情報の削除請求の可否
原告及び被告は,本件URL等情報の削除請求の可否につき,プライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果から削除することを求めることができる場合について判示した平成29年最決の示した規範に基づいて判断することを求め,考慮すべき事情等につき
次のとおり主張した。
(原告の主張)
本件被疑事件は,冤罪であって,原告は本件被疑事実を本件逮捕の時から一貫して否認しており,
現に嫌疑不十分により不起訴処分を受けている。
さらに,
本件逮捕から7年以上が経過していることからすれば,今後本件被疑事件が起
訴される可能性はほとんどない。また,原告は,著名人でもなく,一般人たる私人である。これらの事実によれば,本件逮捕等の事実がインターネット上で公開されている社会的意義は全くない。
パソコンやスマートフォンを利用し,本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を入力してウェブサ
イトの検索を実行すれば,誰でも容易に本件逮捕等の事実を知ることができるのであるから,当該事実が伝達される範囲は非常に広い。
本件逮捕等の事実は,
他人にみだりに知られたくない原告のプライバシーに
属する事実である。実際に,原告は,職場の同僚や知人から検索結果として表示された本件逮捕等の事実について尋ねられるなどの社会生活上重大な不利益を受けており,本件URL等情報が表示され続ければ,原告の友人が本件逮捕等の事実に接するおそれがあり,社会生活上の不利益は将来にわたって継続することになる。被告は,本件URL等情報の多くが,本件逮捕等の事実に加えて,原告が処分保留で釈放され,嫌疑不十分として不起訴処分となった事実も表示したものであるから,原告にとって本質的に不利益な事実とはいえないと主張するが,逮捕されたという事実は,それだけで犯罪を行ったことをほぼ
推認させるのが現実であるし,本件URL等情報の多くも,真犯人がいることが判明し,
本件被疑事件が冤罪であることまでを内容としたものではないから,原告は,本件URL等情報が表示されることによって,大きな社会生活上の不利益を被っている。
これらの事情を総合衡量すれば,本件URL等情報の表示を維持する必要性
よりも本件逮捕等の事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らかであるから,
原告は被告に対し人格権に基づき本件URL等情報の削除を
求めることができる。
(被告の主張)
強姦罪は,
性的自由を侵害する卑劣で重大な犯罪として社会的に強い非難の

対象とされ,その法定刑も3年以上20年以下の懲役と定められており(刑法〔平成29年6月23日法律第72号による改正前のもの。以下同じ。〕17
7条)
,さらに,原告が▲▲であることに鑑みれば,本件逮捕等の事実は,一般市民にとって社会的関心が高い事実であって,公共の利害に関する事項である。原告は,本件被疑事件について,嫌疑不十分により不起訴処分とされているこ
とから,本件逮捕等の事実を公開する社会的意義は全くないと主張するが,嫌疑不十分は,検察官が捜査を尽くした結果,犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分な場合をいうにすぎず,
今後起訴される可能性がなくなったわけではない。
また,本件逮捕から7年以上が経過しているが,強姦罪の公訴時効が10年であることからすれば(刑事訴訟法250条2項3号)
,本件逮捕等の事実は現
在においても公共の利害に関する事項である。仮に,原告が主張するとおり,本件被疑事件が冤罪であるとすれば,冤罪事件の発生を可及的に防止し,より良い刑事司法制度を実現するために,本件逮捕等の事実を一般社会に示す社会的意義は大きい。
本件URL等情報は,別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を条件として検索した場合に表示されるものであるところ,原告の氏名を検索する
者は,原告と一定の関係を持つ者のみに限られ,これに加えて,原告の氏名に▲▲や強姦という文言を掛け合わせて検索する者はさらに限られる。そのため,本件逮捕等の事実が伝達される範囲は相当程度限定されている。本件URL等情報の多くは,本件逮捕等の事実に加えて,原告が処分保留で釈放され,
嫌疑不十分として不起訴処分となった事実も表示したものであるか
ら,原告にとって本質的に不利益な事実とはいえない。また,原告は,本件URL等情報に係る投稿がされてから約5年後に初めて本件URL等情報の削除を被告に要請し,
さらに被告が本件URL等情報の削除に応じないことを決
定してから,さらに1年半が経過した後に,本件訴訟を提起している。そうすると,原告は,本件URL等情報が表示されることによって,具体的な不利益
は被っているとはいうことはできない。
これらに加えて,別紙検索結果目録の検索結果欄記載の1から19項のURLのリンク先のウェブサイトは,▲▲や性犯罪という公共の利害に関する事項について,インターネット上で議論が交わされている掲示板であって,高い公益性を有しており,さらにその多くが公益目的で報じられた新聞記事やニ
ュース記事を引用したものである。また,平成29年6月に性犯罪を厳罰化する法案が可決され,過去に性暴力やセクハラ被害を受けたことを積極的にカミングアウトしたり,
被害者に寄り添う運動が広まっているという社会的状況な
どの事情も考慮すれば,本件URL等情報の表示を維持する必要性に比して本件逮捕等の事実を公表されない原告の法的利益が明らかに優越しているとはいえないから,被告は本件URL等情報の削除義務を負わない。
(3)不法行為請求について
(原告の主張)
本件において,本件URL等情報の表示を維持する必要性よりも本件逮捕等の事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らかであるから,原告は被告に対し人格権に基づき本件URL等情報の削除を求めることができ
ることは,上記(2)(原告の主張)のとおりである。それにもかかわらず,被告は,原告の訴外における本件URL等情報の削除要請に対して,合理的な理由なく応じなかった。
その結果,原告は,プライバシーが侵害される状態が現在も継続することとなり,これによって精神的苦痛を被っているのであるから,これに相当する慰
謝料は100万円を下回ることはない。
また,原告は,本件URL等情報を削除するために弁護士に依頼にして,本件訴訟を提起せざるを得なくなったのであるから,本件の弁護士費用は,本件URL等情報の削除請求分として20万円,慰謝料請求分として10万円の合計30万円が相当である。

(被告の主張)
本件において,本件URL等情報の表示を維持する必要性に比して本件逮捕等の事実を公表されない原告の法的利益が明らかに優越しているとはいえないため,被告が本件URL等情報の削除義務を負わないことは上記(2)(被告の主張)のとおりである。

仮に,被告が本件URL等情報を削除すべき義務を負うとしても,検索結果の削除は,
ウェブサイト作成者の表現の自由や本件サイトの利用者の知る権利を著しく制約し,
また検索エンジンの公益的な役割に極めて大きな影響を与え
るため,本件URL等情報を削除することは慎重にならざるを得ないこと,検索結果を削除する法的義務の有無は,ケースバイケースで非常に高度かつ微妙な法的判断を要すること,原告から本件被疑事件について嫌疑不十分により不起訴になったことを示す資料が提出されなかったことなどによれば,被告が訴外で本件URL等情報の削除に応じなかったことに過失は認めらない。また,本件URL等情報は,嫌疑不十分により不起訴処分になった事実も示すものであって,原告にとって本質的に不利益な事実とはいえないこと,本件逮捕等の事実が伝達される範囲は相当程度限定されていること,本件URL等
情報に係るウェブサイトが投稿されてから,原告が本件訴訟を提起するまでに長期間が経過していることからすれば,被告が訴外で本件URL等情報を削除しないことよって,原告に損害が発生したとはいえない。
第3当裁判所の判断
1本件URL等情報の表示について

本件訴訟の口頭弁論終結の時点において,本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行すると,同目録の検索結果欄記載の2,4,5及び9項のURL等情報並びに同欄記載の8項のURL及び表題が表示されることには争いがない。

原告は,これに加えて,本件訴訟の口頭弁論終結時において,本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行すると,
同目録の
検索結果
欄記載の1,
6,7,10,11,13ないし19項のURL等情報及び同欄記載の8項の抜粋も検索結果として表示されると主張するが,これを裏付ける証拠はない。
よって,原告の別紙検索結果目録の検索結果欄記載の1,3,6,7,10から19項のURL等情報及び同欄8項の抜粋の削除を求める原告の請求は認められない。
2本件URL等情報の削除請求の可否
(1)本件被疑事実に関する事実や本件逮捕の事実
(以下,
これらを併せて単に
本件事実
という。は,

他人にみだりに知られたくない原告のプライバシーに属
する事実ということができる。
そして,上記1で説示したところによれば,本件口頭弁論終結時において,本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行すると,同目録の検索結果欄記載の2,4,5及び9項のURL等情報並びに8項のURL及び
表題(以下,これらを併せて本件検索結果という。
)が表示されることが認
められる。
そして,証拠(乙13の1,4,5,7,8)によれば,本件検索結果のうち,別紙検索結果目録の検索結果欄記載の2,4及び5項は,本件逮捕の事実が書き込まれたウェブサイトのURL等情報であり,同欄記載の8項は,
原告が本件被疑事実を行ったことをうかがわせる表現が書き込まれたウェブサイトのURL及び表題,同欄記載9項は,原告が本件被疑事実を行ったことをうかがわせる表現が書き込まれたウェブサイトのURL等情報であることが認められる。
(2)個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は法的保護
の対象となるものであるが,他方,検索事業者による検索結果の提供は,検索事業者自身による表現行為という側面を有するとともに,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。そうすると,検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等
情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,
当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバ
シーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,
当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものであり,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,
当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることがで
きるものと解するのが相当である。
(以上につき,平成29年最決)
(3)原告は,そのプライバシーに属するものとして,本件検索結果の削除を求め
ているところ,
平成29年最決の示した規範に基づいて原告の請求の当否につ
いて検討すると,上記前提事実及び証拠により認められる事実によれば,以下のとおり解することができる。

原告は,強姦の被疑事実(本件被疑事実)で逮捕(本件逮捕)されているところ(前提事実(1)イ)
強姦罪は性的自由を侵害する卑劣で重大な犯罪と

して社会的に強い非難の対象とされ,本件逮捕時の法定刑は3年以上20年以下の懲役(刑法177条)であった極めて重大な犯罪である。そして,原告が▲▲であって(前提事実(1)ア)
,▲▲の地位にあることからすれば,本
件事実は,一般的には,社会における正当な関心の対象であるということができる。そして,本件検索結果の収集元URLに係るウェブサイトに,本件
事実が書き込まれたのは,全て平成▲年のことであるところ(乙13の1,4,5,7,8)
,原告が本件被疑事実により逮捕・勾留されたのは同年▲月
▲日から同年▲月▲日の期間であることからすれば(前提事実(1)イ),その
書き込みがされた当時においては,本件事実は,社会における正当な関心事として,公共の利害に関する事項であったということができる。

その一方,原告は,本件被疑事件について,平成▲年▲月▲日に嫌疑不十分を理由として不起訴処分となり(前提事実(1)イ)
,釈放された後一度も取
調べを受けることがないまま,
7年以上が経過しているのであって
(甲10)

このような本件被疑事件の捜査経過に鑑みれば,原告が真実本件被疑事実に係る行為を行ったと認めるに足りる十分な証拠があるとは到底考え難いし,公訴時効は完成していないものの(刑事訴訟法250条2項3号),今後本
件被疑事実について起訴がされる現実的な可能性は既に事実上なくなっているということができる。そうすると,ある被疑事実について,刑事裁判手続が進行している場合や有罪判決がされた場合と比して,
本件事実を公衆に
知らせたとしても,
公共の利益増進のために批判や評価がされる可能性は小
さく,社会における正当な関心事として,これを公表する社会的意義は乏し
くなっているということができる。また,本件被疑事実に係る行為は,▲▲の過程で行われたものでも,▲▲たる地位を利用して行われたものでもないし,原告は,▲▲であるという以上に,格別に強い影響力を有するものともいえない。さらに,原告が本件被疑事実で逮捕・勾留されてから7年以上が経過していることも考慮すれば,本件口頭弁論終結時において,本件検索結
果の表示を維持する社会的必要性は低いということができる。
なお,被告は,本件被疑事件が冤罪であるとすれば,冤罪事件の発生を可及的に防止し,より良い刑事司法制度を実現するために,本件検索結果の表示を維持する社会的意義は大きいと主張する。しかし,本件検索結果やその収集元URLに係るウェブサイトは,嫌疑不十分を理由として不起訴処分と
されたことまで摘示しているものがあるものの(乙13の1,4,5),冤罪
であったことまでを摘示しているものはなく,本件検索結果を表示することが,
冤罪の防止やより良い司法制度の実現につながるとは考え難いことからすれば,被告の主張を採用することはできない。

上記(1)で説示したところによれば,本件検索結果は,本件サイトにある
検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録の検索ワード欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行した場合に表示されるものである。そうすると,本件検索結果の表示を通じて本件事実が伝達される範囲は,同目録検索ワード欄記載の文言を入力する者,すなわち,原告と関係を有する者に限られるのであって,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるということができる。
その一方,本件検索結果は,原告の氏名のみを検索ワードとして検索を実行した場合にも表示され得ることからすれば,原告と関係を有する者(原告の友人などを含む。が,

原告の来歴等を知る目的で,
原告の氏名を検索ワー
ドとして検索を実行することにより,本件検索結果の表示を通じて本件事実を知るに至ることは十分にあり得るところである。そして,原告は,本件被
疑事実について,嫌疑不十分を理由として不起訴処分となっているものの(前提事実(1)イ)
,ある者が逮捕されると,その者が当該逮捕に係る被疑事
実を行ったと思われてしまうことが現実的には多いことからすれば,本件検索結果を閲覧した者や本件検索結果を利用して本件事実が書き込まれたウェブサイトを閲覧した者が,法律上の無罪推定の原則に反して,原告が本件
被疑事実を行ったという有罪の嫌疑を抱く可能性は高いといわざるを得ない。また,原告は,現在cに在住しているが,現に,転勤先の同僚から,インターネット上の情報で本件逮捕の事実に接した旨を告げられたり,本件逮捕の事実について直接質問されるなど,
本件事実に係る報道がなされていた
平成▲年当時にその報道を知っていたとは思われない人からも,本件逮捕
事実について問われることがあることが認められる
(甲10)そうすると,

原告は,本件逮捕があったa市を離れ,本件被疑事実について,嫌疑不十分で釈放されてから7年以上を経過した現在においても,本件被疑事実を行ったという有罪の嫌疑を身近な人々に抱かれたまま,日常生活を送ることとなっているのであり,
本件被疑事件について嫌疑不十分を理由に不起訴処分と

なり,裁判を受けることもなかった原告にとって,本件検索結果が表示されることの私生活上の現実的な不利益は大きいということができる。これに対して,被告は,本件URL等情報の多くが,本件事実に加えて,原告が処分保留で釈放され,嫌疑不十分として不起訴処分となった事実も表示されているし,
本件URL等情報の収集元URLに係るウェブサイトの多
くも,本件事実に加えて,原告が処分保留で釈放され,嫌疑不十分として不起訴処分となった事実も書き込まれていることからすれば,本件URL等情
報が表示されることが原告にとって本質的に不利益とはいえないと主張する。
そして,当事者間に争いのない事実及び証拠(乙13の1,4,5,7,8)によれば,別紙検索結果目録の検索結果欄記載の2項のURL等情報には,その抜粋において原告が処分保留で釈放された旨が表示され,かつその収集元URLに係るウェブサイトにも同趣旨の内容が書き込まれてい
ること,また,同欄記載の4及び5項のURL等情報には,その抜粋において,原告が嫌疑不十分を理由として不起訴処分になった旨が表示され,かつその収集元URLに係るウェブサイトにも同趣旨の内容が書き込まれていることが認められる。しかし,上記のとおり,ある者が逮捕されると,その者が当該逮捕に係る被疑事実を行ったと思われてしまうことが現実的には
多いことに加えて,嫌疑不十分を理由として不起訴処分となったとしても,証拠がなかったために,有罪とならなかっただけで,実際には犯罪を行ったと思われる可能性も高く,そうすると,本件検索結果や本件検索結果の収集元URLに係るウェブサイトを閲覧した者が,原告が本件被疑事実の犯罪を行ったとの嫌疑を抱く可能性はやはり高いといわざるを得ない。そのため,
本件検索結果のURL等情報やその収集元URLに係るウェブサイトに,本件事実に加えて,原告が処分保留で釈放され,嫌疑不十分として不起訴処分となった事実などが摘示されているとしても,そのことをもって,本件検索結果が表示されることによる原告の本質的な不利益が大きくないということはできない。


これまで検討したところによれば,現時点において本件検索結果の表示を維持する社会的必要性は低く,他方で,本件検索結果が表示されることによる原告の具体的被害の程度は大きいことが認められる。そうすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限定的であることや,
さらに性犯罪が厳罰化
され
(乙21)性暴力被害についての被害者の意識に変化が生じている,
(乙
22)という社会情勢にあることが認められるとしても,本件検索結果の表示を維持する必要性よりも本件事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らかである。したがって,原告は被告に対して本件検索結果の削除を求めることができるというべきである。
3不法行為請求について

これまで説示したところによれば,本件検索結果の表示を維持する必要性よりも本件事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らかであるから,被告は,本件検索結果を削除すべきであるということが認められる。その一方,本判決でも参照した平成29年最決は,検索事業者に対し,URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるか否かについて,事実
を公表されない法的利益とURL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきと判示したものであるから,
平成29年最決
を参照しても,平成29年最決と事案の異なる本件において,URL等情報の検索結果の削除が認められるかについて,一義的な判断ができるわけではない。また,原告が,訴外の交渉において,不起訴処分の理由が嫌疑不十分であることを
客観的に裏付ける資料(不起訴処分理由告知書など)を提示することができていない以上
(乙23)被告としても,

原告が真に嫌疑不十分を理由として不起訴処
分を受けたのかについての判断をすることはできなかった。
以上の状況において,被告が,本件において,本件検索結果の表示を維持する必要性よりも本件事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らか
であって,
本件検索結果を削除する必要があるとの認識を有するに至らなかったとしても,やむを得ないというべきであり,当該認識を欠いたことにつき過失があったと認めることもできない。そのため,被告が,原告の訴外における本件検索結果の削除を求める要請に応じなかったとしても,不法行為になるということはできない。
第4結論
よって,
原告の請求は,
本件サイトにおいて,
別紙検索結果目録の
検索結果
欄記載の2,4,5及び9項に係るURL等情報並びに同目録記載8に係る表題及びURLの削除を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は相当ではないので,これを付さないこととする。

札幌地方裁判所民事第3部

裁判長裁判官
髙木勝己股直子
裁判官

裁判官

(別紙検索結果目録

省略)

富育
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