判例検索β > 令和1年(行ケ)第31号
事件番号令和1(行ケ)31
裁判年月日令和元年12月4日
裁判所名・部東京高等裁判所
裁判日:西暦2019-12-04
情報公開日2020-02-05 18:00:41
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求

令和元年7月21日に行われた参議院議員通常選挙中,比例代表選出議員選挙を無効とする。
第2

事案の概要

1
事案の要旨

本件は,令和元年7月21日に施行された参議院議員通常選挙(以下,単に通常選挙という。)のうち比例代表選出議員の選挙(以下本件選挙という。)について,選挙人である原告らが,議員定数の定め(公職選挙法4条2項)及びいわゆる特定枠制度(同法86条の3第1項柱書第2文)は,憲法に違反し無効であるから,これに基づいて施行された本件選挙は無効であり,また,本件選挙と同日に施行された参議院の選挙区選出議員の選挙は公職選挙法の定数配分規定が憲法に違反するため無効であるから,本件選挙も無効であると主張して,公職選挙法204条に基づいて提起した選挙無効訴訟である。
2
前提となる事実
原告らは,いずれも本件選挙の選挙人である。
本件選挙は,平成30年法律第75号(以下平成30年改正法という。)
によって改正された公職選挙法(以下,上記改正を平成30年改正という。)の下で,令和元年7月21日,施行された。
平成30年改正は,
①参議院選挙区選出議員の定数を2人増加させて148人とした上で,埼玉県選挙区の定数を2人増加させて8人とするとともに,②参議院比例代表選出議員の定数を4人増加させて100人とした上で
(公職選挙法4条
2項),参議院比例代表選出議員の選挙において,政党等が,候補者とする者のうちの一部の者について,優先的に当選人となるべき候補者として,その氏名及びそれらの者の間における当選人となるべき順位をその他の候補者とする者の氏名と区分して名簿に記載することができるという制度
(公職選挙法86条の3第1項柱
書第2文。以下特定枠制度という。)を導入するものであった。
3
争点

平成30年改正法ないし本件選挙について,以下の無効事由があるか否かが争点である。
特定枠制度の代表民主制違背
国民の信託に対する違反
国会の討議違反
立法目的の不存在
選挙区選出議員選挙の無効による本件選挙の無効
4
争点に関する当事者の主張
争点1(特定枠制度の代表民主制違背)について

〔原告らの主張〕
特定枠制度は,選挙区選出議員選挙において合区とされた徳島県及び高知県選挙区及び鳥取県及び島根県選挙区から候補者を擁立できなかった県の候補者各1名を,比例代表選出議員選挙の特定枠によって当選させることを目的として設けられたものであって,国民の意思を反映させる目的はないから,選出された議員は全国民の代表者(憲法43条1項)に該当しない。
また,本件選挙において,れいわ新選組は2名の当選枠を得て,特定枠に指名された2名が当選し,同党で最高得票を獲得した者が落選したが,このことは,投票した国民の意思が無視され,政党の都合で当選者が決まることを意味する。したがって,特定枠を認める選挙制度は,公正かつ効果的な代表を選ぶ制度ということができず,憲法に違反し,無効である。
〔被告の主張〕
特定枠制度は,
投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点に
おいて,
選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはないから,憲法43条1項に違反するものではない。
争点2(国民の信託に対する違反)について
〔原告らの主張〕

国会は,公職選挙法の一部を改正する平成24年法律第94号(以下平成24年改正法という。)の附則において,平成28年に行われる通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとすると約束した。
しかし,平成27年法律第60号
(以下平成27年改正法という。

による公職選挙法の改正(以下平成27年改正という。)では,4県2合区を含む10増10減の是正をしたのみで,抜本的改正には至らず,その附則において,平成31年に行われる通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得るものとすると約束した。ところが,本件選挙までに抜本的改革は行われず,平成30年改正では,議員数が6人増加(選挙区2人,比例代表4人)されるにとどまった。
そうすると,国会は,法律の附則において,抜本的改革を行う旨,期限を定めて2度も国民に約束しておきながら,これを履行していないことになる。これは,国民との約束違反(信託違反)であり,平成30年改正法は,憲法前文の国政は,国民の厳粛な信託によるとの規定に違反し,無効である。イ
自由民主党の安倍晋三総裁は,
平成24年11月の国会における党首討論で,

当時の野田佳彦首相に対し,国会議員が身を切る改革を進めること,すなわち国会議員の定数削減を約束した。野党第1党の党首と与党の党首との約束は,国民が注視する中での約束であるから,国民との約束でもある。ところが,国会は,本件選挙まで定数削減を行わず,平成30年改正において,逆に6人増加(選挙区2人,比例代表4人)させた。
そうすると,平成30年改正は,国民との約束違反(信託違反)であり,平成30年改正法は,前記アと同様に,憲法前文に違反し,無効である。〔被告の主張〕
争う。
争点3(国会の討議違反)について
〔原告らの主張〕
平成30年改正法については,
自由民主党案が平成30年6月14日に提出され,
野党から最後の改正案が提出されたのは同年7月9日開催の参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会(以下特別委員会という。)の当日であった。ところが,自由民主党案以外の野党案は,同日及び同月11日の特別委員会で全て否決又は審議未了となり,自由民主党案だけが本会議に送られた。国会は,国民の代表者である議員を通じて(憲法前文),議題を討論し,表決する場所である(憲法51条)から,平成30年改正に際し,野党案について上記のような取扱いをしたことは,憲法が国会に与えた討論の権能を放棄するものとして,重大な手続違反に当たる。したがって,平成30年改正法は無効である。〔被告の主張〕
争う。
争点4(立法目的の不存在)について
〔原告らの主張〕
特定枠制度は,選挙区選出議員選挙において合区とされた徳島県及び高知県選挙区及び鳥取県及び島根県選挙区から候補者を擁立できなかった県の候補者各1名を,比例代表選出議員選挙の特定枠によって当選させることを目的として設けられたものであり,そのために必要となる4人分のみ定数を増加させたものであって,このような議員定数の増加は,自由民主党の党利党略に基づく。したがって,平成30年改正によって比例代表選出議員の定数を4人増加させたのは,不当な動機によるものであり,正当な立法目的が存在しないから,無効であり,これに基づいて施行された本件選挙も無効である。
〔被告の主張〕
争う。
争点5(選挙区選出議員選挙の無効による本件選挙の無効)について〔原告らの主張〕
選挙区選出議員選挙と比例代表選出議員選挙とは,全体でひとつの選挙である。そして,令和元年7月21日に施行された参議院選挙区選出議員選挙は,議員定数が選挙区人口に比例して配分されていない等の理由により,違憲無効である。したがって,比例代表選出議員選挙である本件選挙も,無効とすべきである。〔被告の主張〕
選挙区選出議員選挙及び比例代表選出議員選挙は,
それぞれ選挙制度としての趣
旨及び選挙の方法が異なるものであり,両者は異なる選挙であるから,後者の無効を求める訴訟において,前者の憲法適合性を問題とすることはできない。第3
1
当裁判所の判断
事実認定

前記前提となる事実のほか,(本文中に掲記する。
証拠
書証の枝番号は省略する。

及び弁論の全趣旨によれば,平成30年改正の経緯について,以下の事実が認められる。
平成29年2月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,各会派代表で構成される参議院改革協議会が設置され,同年4月,同協議会の下に,参議院選挙制度改革について集中的に調査検討を進めるために,各会派代表で構成される選挙制度に関する専門委員会(以下専門委員会という。)が設置された。
専門委員会では,
同年5月から平成30年4月にかけて17回にわたり参議院の
選挙制度に関する協議が行われ,同年5月7日,参議院の在り方,一票の較差,選挙制度の枠組み(選挙区制,比例代表制,ブロック選挙区制,奇数配当の可否,連記制の導入など)や議員定数の在り方といった論点ごとの意見を取りまとめ,参議院選挙制度改革に関する具体的な方向性についての各会派の意見を併記する形で作成した参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書を,参議院改革協議会に提出した(乙1から6まで,10)。
参議院改革協議会においては,
専門委員会から前記

の報告書の提出を受け

て協議をしたが,各会派の意見に隔たりがある中で,平成30年7月4日,各会派代表者懇談会において,各会派において法案を提出し,特別委員会に付託することとなった。
そして,各会派において検討が進められた結果,①選挙区選出議員の定数を2人増加して148人とした上で,
2人を埼玉県選挙区に配分してその改選定数を4人
とし,選挙区間の最大較差を2.985倍とするとともに,比例代表選出議員の定数を4人増加して100人とし,比例代表選挙において,名簿にあらかじめ順位を付する拘束式の特定枠を設けることができるとの制度を導入することなどを内容とする自由民主党,こころ及び無所属クラブによる法律案(以下自民・無ク案という。)や,現行の制度に代えて,全国を11の区域に分けて大選挙区制を採用する公明党案

人増加した上で,これを埼玉県選挙

区に配分するとともに,比例代表選出議員の定数を2人削減する国民民主党・新緑
川県を合区することによって定数を2人削減し,
埼玉県選挙区を2人増加する立憲
民主党・民友会及び希望の党案が,特別委員会に付託され,同年7月6日以降,質疑が行われた。
結局,同年7月11日,特別委員会において,自民・無ク案が多数をもって可決すべきものと決定され,その際,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことについてその実現に努めるべきこと等を内容とする附帯決議がされた。その後,同年7月18日,
律案が成立し(平成30年改正法),同年10月25日に施行された(乙7から10まで)。
自民・無ク案の提出者は,特別委員会における立法趣旨説明において,今回の改正案は,
平成27年改正公職選挙法の附則や同改正を合憲とした最高裁平成29年9月27日大法廷判決の趣旨を踏まえ,
選挙区間の最大較差を更に縮小すると
同時に,
合区解消に関する地方六団体による決議や35もの県議会の意見書を受けて,都道府県単位の地方の声を国政に届けるとともに,現代社会における様々な民意の多様化の中で,
少数意見や多様な民意を代表する参議院議員を選出することを
可能にすることを目的としていること,そのため,4県2合区の単純な解消は見送りつつも,合区対象県の拡大については,合区により,異なる生活圏・経済圏が含まれる選挙区となることや,
人口規模が大きく異なるため吸収合併的となることが
懸念されることから,これを行うことなく選挙区の較差拡大を抑制するべく,選挙区選挙においては,埼玉県と福井県との間で3.07倍になっている最大較差を3倍未満の2.985にするために,定数を2人増加させて埼玉県選挙区にこれを配分したこと,比例代表選挙においては,平成27年改正において4県2合区が導入され,人口減少県の民意を国政に届けることを求める声も高まっており,現代社会において民意の多様化が著しいことを踏まえて,参議院創設以来,多様な民意を酌み取ってきた全国比例区の定数を4人増加させたこと,さらに,比例代表選挙において,現行の非拘束名簿について拘束式の特定枠を設けることができることとして,全国的な支持基盤や知名度を有するとはいえないが国政上有為な人材や,様々な意味での少数意見や多様性を代表する者,
政党が民意反映の役割を果たす上で必
要な人材などが当選しやすくなることで,
人口的に少数派ともいうべき条件不利地
域をも含めた地域の住民の生活や安全を守るという観点などからも,国政上有為と
いい得る人材の当選の機会を高めることを可能とし,
合区問題にある程度対応し得
るものとして活用できるようにしたところである旨述べている
(乙7,
8,
11)。
2
争点1(特定枠制度の代表民主制違背)について
原告らは,特定枠制度は,選挙区選出議員選挙において合区をしたために候補者を擁立できなかった県の候補者を,比例代表選出議員選挙の特定枠によって当選させることを目的するものであり,国民の意思を反映させる目的はないから,選出された議員は全国民の代表者
(憲法43条1項)に該当せず,また,投票した国民
の意思が無視され,政党の都合で当選者が決まるものであるから,公正かつ効果的な代表を選ぶ制度ということができず,憲法に違反し,無効である旨主張する。しかし,前記のとおり,特定枠制度は,全国的な支持基盤や知名度を有するとはいえないが国政上有為な人材や,様々な意味での少数意見や多様性を代表する者,政党が民意反映の役割を果たす上で必要な人材などが当選しやすくなることで,人
口的に少数派ともいうべき条件不利地域をも含めた地域の住民の生活や安全を守るという観点などからも,
国政上有為といい得る人材の当選の機会を高めることを
可能とし,
合区問題にある程度対応し得るものとして活用できるようにしたものと説明されているのであって,立法目的及び立法手段が正当でないとはいえない上,政党等に,候補者とする者のうちの一部の者について,優先的に当選人となるべき候補者として,
その氏名及びそれらの者の間における当選人となるべき順位を定めた名簿を届け出させた上,選挙人が政党等を選択して投票し,各政党等の得票数の多寡に応じて当該名簿に従って当選人を決定する方式は,
投票の結果すなわち選挙
人の総意により当選人が決定される点において,
選挙人が候補者個人を直接選択し
て投票する方式と異なるところはないから,
憲法43条1項等の憲法の規定に違反
するとはいえない(最高裁平成11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1577頁参照)。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
3
争点2(国民の信託に対する違反)について
平成24年改正法の附則及び平成27年改正法の附則にお

いて,いずれも選挙制度の抜本的な見直しについて検討を行い結論を得る旨規定したにもかかわらず,平成27年改正及び平成30年改正のいずれにおいても抜本的改革を行っておらず,法律の附則において,抜本的改革を行う旨,期限を定めて2度も国民に約束しておきながら,
これを履行していないから,
国民との約束違反
(信
託違反)であり,また

の安倍晋三総裁は,平成24年11月の党首

討論で,当時の野田佳彦首相に対し,国会議員の定数削減を約束したにもかかわらず,平成30年改正において,逆に定数を6人増加させたことも,国民との約束違反(信託違反)であるから,平成30年改正法は違憲無効である旨主張する。参議院における全都道府県の区域を通じた比例代表選出
議員選挙においては,投票価値の較差ないし不平等の問題は存在しないから,原告らの主張は,結局,選挙区選出議員選挙について平成30年改正法が抜本的改正をしていないことをもって,比例代表選出議員選挙である本件選挙も無効であることを主張するものと解される。しかし,比例代表選出議員選挙の無効を求める訴訟において,選挙区選出議員選挙の仕組みの憲法適合性を問題とすることができないことは,最高裁平成11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1577頁の趣旨に照らして明らかである。

を表明していたからといって,それだけでは,所定の手続にのっとって成立した平成30年改正法による参議院議員の定数の規定を無効とする根拠とはなり得ない。したがって,原告らの上記主張は,いずれも採用することができない。4
争点3(国会の討議違反)について

原告らは,平成30年改正の際の野党案の取扱いについて,憲法が国会に与えた討論の権能を放棄するものとして重大な手続違反に当たるから,平成30年改正法は無効である旨主張する。
しかし,平成30年改正法が成立した経緯は前記1認定のとおりであるところ,所定の手続にのっとって成立した法律の効力が国会における審議の内容,経過により左右される余地はないから,国会による審議経過の不当をいう原告らの主張は失当である(最高裁平成16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号1頁参照)。5
争点4(立法目的の不存在)について

原告らは,平成30年改正によって比例代表選出議員の定数を4人増加させたのは,選挙区選出議員選挙において合区をしたために候補者を擁立できなかった県の候補者を比例代表選出議員選挙の特定枠によって当選させることを目的として,そのために必要となる4人分のみ定数を増加させたものであり,このような議員定数の増加は,自由民主党の党利党略に基づくものであって,不当な動機によるものであり,正当な立法目的が存在しないから,無効であり,これに基づいて施行された本件選挙も無効である旨主張する。
しかし,

比例代表選出議員の定数の増加については,平

成27年改正において4県2合区が導入され,
人口減少県の民意を国政に届けるこ
とを求める声も高まっており,
現代社会において民意の多様化が著しいことを踏ま
えて,参議院創設以来,多様な民意を酌み取ってきた全国比例区の定数を4人増加させたものであると説明されている。
そうすると,平成30年改正によって比例代表選出議員の定数を4人増加させたことについて,立法目的及び立法手段が正当でないとはいえない。したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
6
争点5(選挙区選出議員選挙の無効による本件選挙の無効)について
原告らは,憲法上,選挙区選出議員選挙と比例代表選出議員選挙とは,全体でひとつの選挙であるところ,令和元年7月21日に施行された参議院選挙区選出議員選挙は,議員定数が選挙区人口に比例して配分されていない等の理由により,違憲無効であるから,比例代表選出議員選挙である本件選挙も無効である旨主張する。しかし,前記3で説示したとおり,比例代表選出議員選挙の無効を求める訴訟において,選挙区選出議員選挙の仕組みの憲法適合性を問題とすることはできない。したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
7
小括

以上のとおり,平成30年改正法について原告らが主張する無効事由は,いずれも認められない。
第4

結論

よって,原告らの請求はいずれも理由がない。

東京高等裁判所第20民事部

裁判長裁判官

村上正敏
裁判官

田中芳樹
裁判官

中俣千

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