判例検索β > 令和1年(行ケ)第30号
事件番号令和1(行ケ)30
裁判年月日令和元年12月4日
裁判所名・部東京高等裁判所
裁判日:西暦2019-12-04
情報公開日2020-02-05 18:00:44
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
原告A

,同B

,同C

及び同D

令和元年7月21日に行われた参議院議員通常選挙中,東京都選挙区選出議員選挙を無効とする。
2
原告E

令和元年7月21日に行われた参議院議員通常選挙中,神奈川県選挙区選出議員選挙を無効とする。
第2

事案の概要

1
事案の要旨

本件は,令和元年7月21日に施行された参議院議員通常選挙(以下,単に通常選挙という。)における選挙区選出議員の選挙(以下本件選挙という。)について,東京都選挙区及び神奈川県選挙区の各選挙人である原告らが,公職選挙法14条1項,別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第二を含め定数配分規定という。)は,憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して,公職選挙法20
4条に基づいて提起した選挙無効訴訟である。
2
前提となる事実
本件選挙において,原告A

,同B

ずれも東京都選挙区の選挙人であり,原告E

,同C

及び同D

は,い

は,神奈川県選挙区の選挙人

である。
本件選挙は,平成30年法律第75号(以下平成30年改正法という。)によって改正された公職選挙法14条1項,別表第三の参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定(以下本件定数配分規定といい,上記改正を平成30年改正という。)の下で,令和元年7月21日,施行された。
平成30年改正後の参議院議員の総定数は248人とされ,
比例代表選出議員1
00人及び選挙区選出議員148人とされた。
平成30年改正の結果,
平成27年実施の国勢調査結果による選挙区間における
議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の選挙区間の最大較差というときは,この人口の最大較差をいう。)は,2.99倍(較差に関する数値は,特に小数点以下第三位を記す場合以外は,
全て小数点以下第三位で四捨五入した概
数で示す。)であった。
本件選挙当日の選挙区ごとの選挙人数(有権者数)及び本件定数配分規定における議員定数は,別紙参議院選挙区別人口,定数,較差に記載のとおりで
あり,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下,各選挙当時の選挙区間の最大較差というときは,この選挙人数の最大較差をいう。)は,最小の福井県選挙区を1とすると,宮城県選挙区が最大の3.00倍であった。なお,福井県選挙区と,原告A

,同B

,同C

京都選挙区との較差は2.94倍,原告E

及び同D

の属する東

の属する神奈川県選挙区との較

差は2.96倍であった(乙1の1)。
3
争点

本件定数配分規定について,以下の無効事由があるか否かが争点である。人口比例配分原則違反
国民の信託に対する違反
国会の討議違反
立法目的の不存在
4
争点に関する当事者の主張
争点1(人口比例配分原則違反)について
〔原告らの主張〕

国会(両議院)における議決は,原則として出席議員の過半数で決する(憲
法56条2項)から,国会において各議員が投ずる1票は,同価値でなければならない。同価値とは,各議員を選出する母体人口が同じということである。議員定数が人口比例を無視して配分された場合,各議員が国会において投ずる票は同価値とはいえず,このような票の行使を認めれば,国会において決定される意思は,国民の意思を正しく反映しないものとなる。参議院の選挙制度を定めた参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)が,地方区選出議員選挙について各都道府県を選挙区単位とし,昭和21年の人口調査に基づき,各選挙区の人口に比例して議員定数を偶数配分して以来,人口の都市部への過剰な移動により,議員定数の配分が各選挙区の人口に比例しなくなったにもかかわらず,国会はその改善を怠ってきた。本件定数配分規定は,参議院の選挙区選出議員の定数を選挙区人口に比例して配分していないから,憲法が規定する代議制民主主義(前文,1条,43条1項)及びその基礎となる公正な代表を選出する契機である選挙権の平等の保障(13条,15条1項,14条1項,44条ただし書)に反し,違憲である。
議員定数の配分が人口比例配分原則に照らして許容できる限度内にあるか否かを検証するに当たっては,日本全国の人口を参議院選挙区選出議員の定数である148で除して得られた商である84万6908人を基準人数とし,各選挙区に配分された議員定数を基準人数に乗じて必要人数を求め,各選挙区の人口と必要人数との差である過不足人数が基準人数以上の場合,すなわち,過不足人数を基準人数で除して得られる過不足議員数が1以上の場合,人口比例配分原則に照らして許容できる限度を超えるものとして違憲となるというべきである。このような判断基準に沿って検討すると,東京都選挙区は議員定数が3人不足し,神奈川県及び大阪府の各選挙区は各2人不足し,千葉県選挙区は1人不足しており,逆に,佐賀県,山梨県及び福井県の各選挙区は,議員定数が各1人多すぎることから,いずれも違憲である。
なお,議員定数の配分が不平等であるか否かの判断基準として,議員1人当たりの人口が最大となる選挙区と最小となる選挙区を取り出し,その倍率である較差を求め,それが一定の倍率を超えれば違憲とする手法があるが,このような考え方には欠陥があり,合憲性の判断基準として用いるべきではない。

最高裁平成29年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下
平成29年大法廷判決という。)は,平成27年法律第60号(以下平成27年改正法という。)による公職選挙法の改正(以下平成27年改正という。)後の定数配分規定について,一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入したこと,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって立法府の決意が示されていることを挙げて,合憲の判断をした。しかし,国会は,平成30年改正においては,更なる合区追加を進めず,奇数配分を検討するわけでもなく,単に埼玉県選挙区について定数を増加させただけで,何ら抜本的な改正をしていない。したがって,本件定数配分規定は,この点のみをもってしても違憲と判断されるべきである。
〔被告らの主張〕

国会の定めた定数配分規定が違憲と評価されるのは,
参議院の独自性その他

の政策的目的ないし理由を考慮しても,
投票価値の平等の見地からみて違憲の問題
が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られる。平成27年改正は,最高裁平成24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下平成24年大法廷判決という。)及び最高裁平成26年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁
(以下
平成26年大法廷判決
という。)の趣旨に沿って,一部の選挙区について2つの県を合わせた合区を創設するなどし,これによって,選挙区間の人口の最大較差は2.97倍となり,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態は解消された。
平成27年改正後の定数配
分規定に基づいて平成28年7月10日に施行された通常選挙(以下平成28年選挙という。)の選挙区間の最大較差は3.08倍であったところ,同選挙に係る平成29年大法廷判決は,
投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい
不平等状態にあったものとはいえないと判示した。そして,その後の平成30年改正によって,選挙区間の最大較差は2.985倍にまで縮小した。平成27年改正法及び平成30年改正法は,
いずれも参議院の選挙区選出議員に
ついて都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持したが,このことは,両議院の選挙制度が同質的なものとなっている中で,
参議院の選挙区選出議員の選出基盤について衆議院議員のそれとは異なる要素を付加し,
地方の民意を含む多角的な民意の反映を可能とするものである
から,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものということができる。さらに,人口の多い都市部に居住する多数者のみならず,山間部などのいわゆる過疎地域を含む地域に住む少数者の意見も十分に国政に届くような定数配分規定を定めることも,
国会において正当に考慮することができる政策的目的ないし理由
となる。平成29年大法廷判決も,選挙制度の仕組みを決定するに当たり,都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することは,
投票価値の平等の要請との
調和が保たれる限りにおいて,
直ちに国会の合理的な裁量を超えるとは解されない
旨判示している。
さらに,国会は,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会(以下特別委員会という。)の附帯決議として,平成30年改正後も参議院選挙制度改革に向けた検討を継続していく決意を表明しており,このことは,過去にあった大きな較差を再び生じさせないようにするための配慮がされているものと評価できる。
以上の諸点に,参議院議員については,憲法上,3年ごとに半数を改選するものとされ,
定数の偶数配分が求められるなどの技術的制約があること等を併せ考慮すると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,
投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとはいえず,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。イ
仮に,
本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡につい
て,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても,平成29年大法廷判決において,平成27年改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平
等状態に当たらない旨の判断が示されており,平成30年改正によって,更に選挙区間の最大較差が縮小されていることに鑑みれば,
本件選挙までの期間内に本件定
数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。
争点2(国民の信託に対する違反)について
〔原告らの主張〕

国会は,公職選挙法の一部を改正する平成24年法律第94号(以下平成24年改正法という。)の附則において,平成28年に行われる通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとすると約束した。しかし,平成27年改正では,4県2合区を含む10増10減の是正をしたのみで,抜本的改正には至らず,その附則において,平成31年に行われる通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得るものとすると約束した。ところが,本件選挙までに抜本的改革は行われず,平成30年改正では,議員数が6人増加(選挙区2人,比例代表4人)されるにとどまった。
そうすると,国会は,法律の附則において,抜本的改革を行う旨,期限を定めて2度も国民に約束しておきながら,これを履行していないことになる。これは,国民との約束違反(信託違反)であり,本件定数配分規定は,憲法前文の国政は,国民の厳粛な信託によるとの規定に違反し,無効である。イ
自由民主党の安倍晋三総裁は,
平成24年11月の国会における党首討論で,
当時の野田佳彦首相に対し,国会議員が身を切る改革を進めること,すなわち国会議員の定数削減を約束した。野党第1党の党首と与党の党首との約束は,国民が注視する中での約束であるから,国民との約束でもある。ところが,国会は,本件選挙まで定数削減を行わず,平成30年改正において,逆に6人増加(選挙区2人,比例代表4人)させた。
そうすると,平成30年改正は,国民との約束違反(信託違反)であり,本件定数配分規定は,前記アと同様に,憲法前文に違反し,無効である。〔被告らの主張〕
争う。
争点3(国会の討議違反)について
〔原告らの主張〕
平成30年改正法については,
自由民主党案が平成30年6月14日に提出され,
野党から最後の改正案が提出されたのは同年7月9日開催の特別委員会の当日であった。ところが,自由民主党案以外の野党案は,同日及び同月11日の特別委員会で全て否決又は審議未了となり,自由民主党案だけが本会議に送られた。国会は,国民の代表者である議員を通じて(憲法前文),議題を討論し,表決する場所である(憲法51条)から,平成30年改正に際し,野党案について上記のような取扱いをしたことは,憲法が国会に与えた討論の権能を放棄するものとして,重大な手続違反に当たる。したがって,本件定数配分規定は無効である。〔被告らの主張〕
争う。
争点4(立法目的の不存在)について
〔原告らの主張〕
平成30年改正において,埼玉県選挙区の定数を2人増員しながら,石川県と福井県との合区を追加することによって他の選挙区の定数を2人減員しなかったのは,参議院における自由民主党の議席の減少を防止するとともに,埼玉県選挙区における公明党の議席の安定を図るなど,自由民主党と公明党の党利党略に基づくものである。
したがって,平成30年改正の議員定数の増加は,不当な動機によるものであり,正当な立法目的が存在しないから,本件定数配分規定は無効である。〔被告らの主張〕
争う。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実

前記前提となる事実のほか,(本文中に掲記する。
証拠
書証の枝番号は省略する。

及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
参議院議員の議員定数等
参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全
国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,選挙区ごとの議員定数については,
憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると
定めていることに応じて,
各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることと
なるように配慮し,定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に,各選挙区の人口に比例する形で,2人から8人までの偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,
上記の参議院議員選挙法
の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,
昭和45年に沖縄県選挙区
の議員定数2人が付加されたほかは,
平成6年法律第47号による公職選挙法の改
正(以下平成6年改正という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下昭和57年改正という。)により,参議院議員252人は各政党の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。
その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下平成12年改正という。)により,参議院議員の総定数が242人とされ,比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされ,さらに平成30年改正により,前記
挙区選出議員148人とされ,現在に至っている(乙2,3)。
平成19年7月施行の通常選挙までの選挙区間の最大較差の推移等ア
参議院議員選挙法制定当時,選挙区間の最大較差は2.62倍であったが,
人口変動により次第に拡大を続け,昭和52年7月に施行された通常選挙当時,選挙区間の最大較差が5.26倍に拡大し,平成4年7月に施行された通常選挙(以下平成4年選挙という。)当時,選挙区間の最大較差が6.59倍に達した後,平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減する措置により,平成2年10月
実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.81倍に縮小し
た。
その後,
平成12年改正における3選挙区の定数を6減する措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下平成18年改正という。)における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,
平成7年から平成19年ま
でに施行された各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した(乙2
から4まで)。

そうしたところ,最高裁判所は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和
58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下昭和58年大法廷判決という。)において後記
の基本的な判断枠組みを示した後,平成4年選

挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが
(最高裁平成8年9月11日大法廷判決民集50巻8号2283頁)・

平成6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後,平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及び平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても,最高裁大法廷は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。
もっとも,上記最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,上記最高裁平成21年9月30日大法廷判決においては,当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされるなど,選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で,較差の状況について投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていた。
平成22年7月施行の通常選挙の選挙区間の最大較差等
平成22年7月11日,選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において施行された通常選挙(以下平成22年選挙という。)につき,平成24年大法廷判決は,結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており,都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし,それにもかかわらず平成18年改正後は投票価値の大きな不平等がある状態の解消に向けた法改正が行われることのないまま平成22年選挙に至ったことなどの事情を総合考慮すると,同選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した(乙4)。平成24年改正法及び平成25年7月施行の通常選挙
平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成24年改正法),同月26日に施行された。平成24年改正法の内容は,平成25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,
平成28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。平成25年7月21日,平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下での通常選挙が施行された(以下平成25年選挙という。)。同選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった(乙2から5まで)。
平成24年大法廷判決後の是正状況等
平成25年9月,参議院において平成28年に施行される通常選挙に向けた参議院選挙制度改革について協議を行うため,選挙制度の改革に関する検討会の下に選挙制度協議会が設置された。同協議会においては,平成26年4月に選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案として座長案が示され,その後に同案の見直し案も示された。これらの案は,基本的には,議員1人当たりの人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われた(上記各会派の提案の中には,上記の案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか,都道府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれていた。)。そして,同協議会において,更に同年11月以降,意見集約に向けて協議が行われたが,各会派の意見が一致しなかったことから,同年12月26日,各会派から示された提案等を併記した報告書が参議院議長に提出された(乙5)。
平成25年選挙に係る平成26年大法廷判決
このような協議が行われている状況の中で,平成25年選挙につき,平成26年大法廷判決は,平成24年大法廷判決の判断に沿って,平成24年改正法による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ず,したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。
平成27年改正及び平成28年選挙

選挙制度の改革に関する検討会は,前記

の報告書の提出を受けて協議を行

ったが,各会派が一致する結論を得られなかったことから,平成27年5月29日,各会派において法案化作業を行うこととされた。そして,各会派における検討が進められた結果,各会派の見解は,人口の少ない選挙区について合区を導入することを内容とする①4県2合区を含む10増10減の改正案と②20県10合区による12増12減の改正案とにおおむね集約され,同年7月23日,上記各案を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案がそれぞれ国会に提出された。上記①の改正案に係る法律案は,選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに,3選挙区の定数を2人ずつ減員し,5選挙区の定数を2人ずつ増加することなどを内容とするものであり,その附則7条には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。この附則7条が規定された経緯について,発議者からは,今回,合区の導入というこれまでにない内容の法改正を行っておりますが,我が党としましては,依然として検討課題が残っており,今後も,定数の削減,ブロック制の導入などによる更なる一票の較差の是正について引き続き検討されるべきであると考えています。このことから,附則において,平成31年に行われる参議院の通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて何らかの結論を得るという思いを込めて,前回の平成24年の公職選挙法改正案の附則には入っていなかった文言,「必ずという文言を付した検討条項を設けた次第であります。」との説明が行われた。
平成27年7月28日,上記①の改正案に係る公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成27年改正法),同年11月5日に施行された(以下,同法による改正後,平成30年改正前の定数配分規定を本件旧定数配分規定という。)。平成27年改正の結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった(乙3~5,17)。

平成28年7月10日,本件旧定数配分規定の下で平成28年選挙が施行さ
れた。
平成28年選挙当時の選挙区間の最大較差は3.
08倍であった
(乙4,
5)

平成28年選挙後の協議状況等

平成27年改正法が導入した合区の手法については,平成27年改正当時,
平成27年改正後及び平成28年選挙後も,合区の検討対象とされていた地方公共団体のほか,全国知事会,全国都道府県議会議長会,全国市長会,全国市議会議長会,
全国町村長会及び全国町村議会議長会,
地方自治確立対策協議会
(地方六団体)
及び多くの地方公共団体から,都道府県が政治的単位として機能してきたこと,合区対象県で見られた投票率の低下や無効投票率の上昇などを踏まえて,合区創設の
反対又は合区の早期解消及び都道府県単位の選挙区制の堅持を求める旨の決議や要望,意見等が繰り返し採決されるなどした(乙18から28まで)。イ
平成28年選挙後の平成29年2月,
参議院の組織及び運営に関する諸問題

を調査検討するため,各会派代表で構成される参議院改革協議会が設置され,同年4月,同協議会の下に,参議院選挙制度改革について集中的に調査検討を進めるために,各会派代表で構成される選挙制度に関する専門委員会(以下専門委員会という。)が設置された。
専門委員会では,
同年5月から平成30年4月にかけて17回にわたり参議院の
選挙制度に関する協議が行われ,
踏まえ,参議院の在り方,一票の較差,選挙制度の枠組み(選挙区制,比例代表制,ブロック選挙区制,奇数配当の可否,連記制の導入など)や議員定数の在り方といった論点ごとの意見を取りまとめ,
参議院選挙制度改革に関する具体的な方向性に
ついての各会派の意見を併記する形で作成した
参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書
を参議院改革協議会に提出した
(乙6から11まで,
16)。
平成28年選挙に係る平成29年大法廷判決
このような協議が行われる中,平成28年選挙について,平成29年大法廷判決は,平成27年改正法は,従前の改正と異なり,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差が3.08倍にまで縮小するに至ったこと,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めていることなどの事情を総合すれば,平成28年選挙当時,選挙区間の投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない旨判示した。
平成30年改正の経緯

参議院改革協議会においては,
専門委員会から

イの報告書の提出を受

けて協議をしたが,各会派の意見に隔たりがある中で,平成30年7月4日,各会派代表者懇談会において,各会派において法案を提出し,特別委員会に付託することとなった。
そして,各会派において検討が進められた結果,①選挙区選出議員の定数を2人増加して148人とした上で,
2人を埼玉県選挙区に配分してその改選定数を4人
とし,選挙区間の最大較差を2.985倍とするとともに,比例代表選出議員の定数を4人増加して100人とし,比例代表選挙において,名簿にあらかじめ順位を付する拘束式の特定枠を設けることができるとの制度を導入することなどを内容とする自由民主党,こころ及び無所属クラブによる法律案(以下自民・無ク案という。)や,現行の制度に代えて,全国を11の区域に分けて大選挙区制を採用する公明党案
区に配分するとともに,比例代表選出議員の定数を2人削減する国民民主党・新緑
て大選挙区制を採用する日本維新の会

選挙区選出議員について,福井県と石

川県を合区することによって定数を2人削減し,
埼玉県選挙区を2人増加する立憲
民主党・民友会及び希望の党案が,特別委員会に付託され,同年7月6日以降,質疑が行われた。
結局,同年7月11日,特別委員会において,自民・無ク案が多数をもって可決すべきものと決定され,その際,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことについてその実現に努めるべきこと等を内容とする附帯決議がされた。その後,同年7月18日,
律案が成立し(平成30年改正法),同年10月25日に施行された。平成30年改正の結果,
平成27年実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.985倍となった(乙4,13から16まで)。

自民・無ク案の提出者は,特別委員会における立法趣旨説明において,今回
の改正案は,
平成27年改正公職選挙法の附則や同改正を合憲とした平成29年大法廷判決の趣旨を踏まえ,選挙区間の最大較差を更に縮小すると同時に,合区解消に関する地方六団体による決議や35もの県議会の意見書を受けて,都道府県単位
の地方の声を国政に届けるとともに,現代社会における様々な民意の多様化の中で,
少数意見や多様な民意を代表する参議院議員を選出することを可能にすることを目的としていること,そのため,4県2合区の単純な解消は見送りつつも,合区対象県の拡大については,合区により,異なる生活圏・経済圏が含まれる選挙区となることや,
人口規模が大きく異なるため吸収合併的となることが懸念されることから,これを行うことなく選挙区間の較差拡大を抑制するべく,選挙区選挙においては,埼玉県と福井県との間で3.07倍になっている最大較差を3倍未満の2.985にするために,定数を2人増加させて埼玉県選挙区にこれを配分したこと,比例代表選挙においては,平成27年改正において4県2合区が導入され,人口減少県の民意を国政に届けることを求める声も高まっており,
現代社会において民意
の多様化が著しいことを踏まえて,参議院創設以来,多様な民意を酌み取ってきた全国比例区の定数を4人増加させたこと,さらに,比例代表選挙において,現行の非拘束名簿について拘束式の特定枠を設けることができることとして,全国的な支
持基盤や知名度を有するとはいえないが国政上有為な人材や,
様々な意味での少数
意見や多様性を代表する者,
政党が民意反映の役割を果たす上で必要な人材などが
当選しやすくなることで,
人口的に少数派ともいうべき条件不利地域をも含めた地
域の住民の生活や安全を守るという観点などからも,
国政上有為といい得る人材の
当選の機会を高めることを可能とし,
合区問題にある程度対応し得るものとして活
用できるようにしたところである旨述べている(乙13,14,17)。本件選挙の施行
令和元年7月21日,本件定数配分規定の下での初めての通常選挙として,本件選挙が施行された。本件選挙当時の選挙区間の最大較差は3.00倍であった(乙1,4)。
2
争点1(人口比例配分原則違反)について
憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の
投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記

においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参
議院議員について,全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら,
社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解される。
以上は,昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところである。憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める反面,参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。そして,いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである

累次の大法廷判決が基本

的な立場として承認してきたところである。
前記

のとおり,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶
対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,また,前記

とおり,憲法が,国会の構成について二院制を採用し,衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨に鑑みれば,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものと考えられる。そして,具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。
平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,上記のような選挙制度の構築についての国会の裁量権行使の合理性を判断するに当たって,長年にわたる制度及び社会状況の変化を考慮すべき必要性を指摘し,その変化として,参議院議員と衆議院議員の各選挙制度が同質的なものとなってきており,国政の運営における参議院の役割が増大してきていることに加え,衆議院については投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることなどを挙げて,
これらの事情の下では,
昭和58年大法廷判決が長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた諸点につき,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている旨を指摘するとともに,都道府県を各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,上記のように長期にわたり大きな較差が継続していた状況の下では,上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっていたとしたものである。しかし,この判断は,都道府県を各選挙区の単位として固定することが投票価値の大きな不平等状態を長期にわたって継続させてきた要因であるとみたことによるものにほかならず,各選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体を不合理なものとして許されないとしたものではない。
もとより,参議院議員の選挙について,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,参議院についても更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるものの,上記のような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなど,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであることに変わりはないというべきである(平成29年大法廷判決)。
本件旧定数配分規定に基づいて施行された平成28年選挙について,平成29年大法廷判決は,平成28年選挙は,平成26年大法廷判決の言渡し後に成立した平成27年改正法による改正後の本件旧定数配分規定の下で施行されたものであるところ,同法は,従前の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,人口の少ない選挙区について,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったのであること,この改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた上記の仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して行われたものであり,これによって選挙区間の最大較差が上記の程度にまで縮小したのであるから,同改正は,前記の参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができること,平成27年改正法は,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができること,そうすると,平成27年改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができることを挙げた上で,以上のような事情を総合すれば,平成28年選挙当時,平成27年改正後の本件旧定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件旧定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示した。
以上を前提として本件選挙について検討するに,平成30年改正は,長年にわたり継続してきた投票価値の大きな較差が縮小された平成27年改正(選挙当時で3.08倍)による選挙区割りを維持しつつ,定数を増加させ,増加分を埼玉県選挙区に割り当てることによって,選挙区間の最大較差を平成27年実施の国勢調査結果による人口比で2.985倍,本件選挙当時で3.00倍とし,格差を更に縮小させたものである。
この改正は,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する方式を合区の導入により見直し,較差の是正を図った平成27年改正の選挙区割りを踏襲したものであり,平成27年改正とその趣旨を同じくするものである上,選挙区間の較差を更に縮小するものであった。
そして,平成30年改正は,国会が,全国知事会,全国都道府県議会議長会,全国市長会,全国市議会議長会,全国町村長会及び全国町村議会議長会,地方自治確立対策協議会(地方六団体)及び数多くの地方公共団体から合区の早期解消・都道府県単位の選挙区制の堅持についての決議や要望,意見等の提出を受け,これらの意見を勘案するとともに,合区対象県の拡大については,合区により,異なる生活圏・経済圏が含まれる選挙区が生ずることや,人口規模が大きく異なるため吸収合併的となることが懸念されるとの意見も踏まえた上,平成27年改正により導入した4県2合区を維持しつつも,都道府県単位の選挙区制を原則的に維持し,地方の声を国政に届けるとともに,少数意見や現代社会における民意の多様化にも対応しようとしたものと説明されている。このようなことを考慮すると,平成30年改正法が合区の対象を4県2合区にとどめたことについて,国会の有する立法裁量を逸脱した不合理なものということはできない。
また,平成27年改正法の附則が平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。と規定した経緯は,前記のとおり,平成27年改正に当たり,合区を導入したものの,依然として検討課題が残っており,今後も,定数削減,ブロック制導入等による更なる一票の較差の是正について引き続き検討されるべきであることから,本件選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて何らかの結論を得るという思いを込めて,平成24年改正法の附則には入っていなかった必ずという文言を付した検討条項を設けたものであって,平成29年大法廷判決が説示するとおり,同附則によって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意を示したものということができる。そして,平成30年改正法を審議した特別委員会において,自民・無ク案を可決するに当たり,今後の参議院選挙制度改革について,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行い,その実現に努めるべきであるとの附帯決議をしており,これによって,同様に,今後の投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と国会の決意が示されており,かつてのような大きな較差を生じさせないよう配慮されているということができる。
そうすると,平成30年改正法は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改め,長年にわたり投票価値の不均衡が継続していた状態から脱せしめた平成27年改正法を踏襲するとともに,更なる格差の是正を指向するものと評価できる。
以上に説示したところを総合すれば,平成30年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間の投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
原告らの主張について

原告らは,日本全国の人口を参議院選挙区選出議員の定数である148で除
して得られた商である84万6908人を基準人数とし,各選挙区に配分された議員定数を基準人数に乗じて必要人数を求め,各選挙区の人口と必要人数との差である過不足人数が基準人数以上の場合,すなわち,過不足人数を基準人数で除して得られる過不足議員数が1以上の場合,人口比例配分原則に照らして許容できる限度を超えて違憲となるというべきであって,議員定数の不平等の判断基準として,議員1人当たりの人口が最大となる選挙区と最少となる選挙区を取り出して,その較差を求める判断手法は用いるべきでない旨主張する。しかし,最高裁大法廷判決は,投票価値の不平等状態の程度に関する指標として,一貫して,衆議院及び参議院を通じて,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口数の最小値と最大値との比率(最大較差)を用いており,原告ら主張に係る判断手法は採用しない。

原告らは,
平成29年大法廷判決が平成27年改正法を合憲と判断したのは,
一部の選挙区を合区する手法を導入したこと,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めたことを理由とするものであるところ,国会は,平成30年改正において,単に埼玉県選挙区について定数を増加させただけで,更なる合区を進めるなどの抜本的な改正をしていない以上,本件定数配分規定は,この点のみをもってしても違憲と判断されるべきである旨主張する。
しかし,前記

のとおり,平成29年大法廷判決は,平成27年改正法の附則を,
今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意の表れと解したにとどまるのであって,本件選挙までの間に抜本的な見直しが実現しない場合には本件選挙を無効にすることまで含意する判示とは解されない。ウ
したがって,原告らの上記ア及びイの主張は,いずれも採用することができ
ない。
3
争点2(国民の信託に対する違反)について

原告らは,

平成24年改正法の附則及び平成27年改正法の附則にお

いて,いずれも選挙制度の抜本的な見直しについて検討を行い結論を得る旨規定したにもかかわらず,平成27年改正及び平成30年改正のいずれにおいても抜本的改革を行っておらず,法律の附則において,抜本的改革を行う旨,期限を定めて2度も国民に約束しておきながら,
これを履行していないから,
国民との約束違反
(信
託違反)であり,また,

の安倍晋三総裁は,平成24年11月の党首

討論で,当時の野田佳彦首相に対し,国会議員の定数削減を約束したにもかかわらず,平成30年改正において,逆に定数を6人増加させたことも,国民との約束違反(信託違反)であるから,本件定数配分規定は違憲無効である旨主張する。しかし,

本件選挙までの間に選挙

制度についての抜本的な見直しという結論が得られず,平成27年改正法附則の内容を達成できなかったからといって,それだけで本件定数配分規定が違憲無効となるものではない。
7年前に行われた党首討論において自由民主党が定数削減の意向
を表明していたからといって,それだけでは,所定の手続にのっとって成立した平成30年改正法による本件定数配分規定を無効とする根拠とはなり得ない。したがって,原告らの上記主張は,いずれも採用することができない。4
争点3(国会の討議違反)について

原告らは,平成30年改正の際の野党案の取扱いについて,憲法が国会に与えた討論の権能を放棄するものとして重大な手続違反に当たるから,本件定数配分規定は無効である旨主張する。
しかし,
所定の手続にのっとって成立した法律の効力が国会における審議の内容,経過により左右される余地はないから,国会による審議経過の不当をいう原告らの主張は失当である(最高裁平成16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号1頁参照)。
5
争点4(立法目的の不存在)について

原告らは,平成30年改正において,定数を2人増加させて埼玉県選挙区にこれを配分したのは,自由民主党及び公明党の議席の安定を図るなど,自由民主党と公明党の党利党略に基づくものであり,議員定数の増加は,不当な動機によるものであって,正当な立法目的が存在しなかったから,本件定数配分規定は無効である旨主張する。
しかし,選挙区選挙において,定数を2人増加させて埼玉県選挙区にこれを配分した

埼玉県と福井県との間で3.07倍にな

っていた最大較差を3倍未満の2.985倍に縮小するためであって,その立法目的及び立法手段が正当でないとはいえない。議員定数の配分方法が与野党の政治折衝及び妥協の結果により事実上決定される側面があったとしても,それだけでは上記立法目的が否定されるものではない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
6
小括

以上のとおり,本件定数配分規定について原告らが主張する無効事由は,いずれも認められない。
第4

結論

よって,原告らの請求はいずれも理由がない。

東京高等裁判所第20民事部

裁判長裁判官

村上正敏
裁判官

田中芳樹
裁判官

中俣千

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