判例検索β > 平成29年(わ)第731号
殺人
事件番号平成29(わ)731
事件名殺人
裁判年月日令和元年12月13日
法廷名福岡地方裁判所
裁判日:西暦2019-12-13
情報公開日2020-02-04 12:00:10
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殺人被告事件
判決主文
被告人を死刑に処する
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成29年6月5日深夜から同月6日未明,遅くとも同日午前6時30分頃までの間に,
第1

福岡県小郡市ab番地c所在の被告人方1階台所付近において,A(当時38歳)に対し,殺意をもって,不詳の方法でその頚部を圧迫し,よって,同人を頚部圧迫による窒息により死亡させて殺害し,

第2

前記被告人方2階寝室において,B(当時9歳)に対し,殺意をもって,その頚部をひも状の物で絞め付け,よって,同人を絞頚による窒息により死亡させて殺害し,

第3

同所において,C(当時6歳)に対し,殺意をもって,その頚部をひも状の物で絞め付け,よって,同人を絞頚による窒息により死亡させて殺害した。
(被告人が3名を殺害した犯人であると認定した理由)
被告人は犯行を全面的に否認した。これを受けて,弁護人は,第三者が3名を殺害した可能性や,Aが子供たちを殺害した可能性が合理的疑いとして残るから,被告人は無罪であると主張する。
しかし,3名が被告人方で殺害されたのは,平成29年6月5日深夜から翌6日未明,遅くとも同日午前6時30分頃までの時間帯であり,被告人はその時被告人方にいた。そして,被告人は,3名の遺体が家の中にあるにもかかわらず,同日午前6時53分頃,普段通り出勤した。仮に第三者が被告人方に侵入して3名を殺害したというのなら,被告人が何もせず普段どおり出勤することは考えられない。また,第三者が被告人方に侵入した明らかな痕跡,形跡はなく,第三者の犯行であることをうかがわせるような具体的事情も見当たらない。以上によれば,第三者が被告人方に侵入して3名を殺害した可能性(外部犯の可能性)は否定できる。外部犯の可能性が否定できる以上,Aを殺害した犯人は被告人以外にいない。加えて,被告人の左腕にはAが爪を立てて抵抗した痕跡とみられる(そのように考えて矛盾しない)傷があり,かつ,Aの爪から両名の混合DNAとみられるDNA型が検出されたこと,Aの首からも両名の混合DNAとみられるDNA型が検出されたこと,
被告人が日常的にAから叱責されるなどしてAに対する鬱憤をためており,かつ,被告人にはA殺害を決意するきっかけとなり得る事情があったといえることも,Aを殺害した犯人が被告人であることを裏付けている。
次に,外部犯の可能性が否定できることから,子供たちを殺害した犯人は被告人かAかのどちらかとなる。しかし,Aが事件発生直前まで普段と変わらない生活をしており,翌日以降の予定も立てていたことや,Aの日頃の子供たちへの接し方などからすると,Aが子供たちを殺害したとは考えられない。したがって,子供たちを殺害した犯人も被告人であると認められる。被告人が,3名の遺体をつなぐようにライター用オイルをまいて火をつけており,3名を殺害した証拠の隠滅とみられる行動をとっていること,被告人が,Aを殺害したことをきっかけに,衝動的に子供たちを殺害したという想定が可能であることも,被告人がAだけでなく子供たちをも殺害した犯人であることを裏付けている。
以下,補足して説明する。
1
外部犯の可能性がないこと
3名の遺体を鑑定したD医師によれば,3名の死因は判示のとおりであり,3名が何者かに殺害されたと認められる。そして,以下の検討によれば,外部犯の可能性は否定できる。


3名が殺害されたのは,平成29年6月5日深夜から翌6日未明,遅くとも同日午前6時30分頃までの時間帯であること
消防士であるE,F,Gの各供述によると,6月6日午前9時30分頃,消防士らが3名の遺体の死後硬直をそれぞれ確認したところ,いずれも顎関節から膝関節までほぼ全身に硬直が出現していたことが認められる。死後硬直は,死後6ないし8時間で全身の諸関節に及ぶことからすると,3名が殺害されたのは6月6日午前1時30分頃から同日午前3時30分頃の間と考えられる。また,子供たちの遺体には両側性の死斑が認められた。両側性の死斑は,死後5時間から10時間程度の時間帯に遺体の体勢を変えた場合に見られるところ,消防士らが子供たちの遺体の体勢をうつ伏せから仰向けに変えたのは6月6日午前9時30分頃であるから,子供たちが殺害されたのは6月5日午後11時30分頃から翌6日午前4時30分頃の間と考えられる。
そのほか,Aの死斑の状況や,3名の直腸温の変化から推定される死亡時間帯を総合してみると,3名が殺害されたのは,平成29年6月5日深夜から翌6日未明,遅くとも同日午前6時30分頃までの時間帯であると認められる。この結論は,法医学の専門家であるD医師の見解とも合致しており,現場に臨場した消防士らの感覚とも整合している。
なお,弁護人は,死後硬直に関する消防士らの判断の正確性には疑問が残ると主張するが,救急搬送の要否を判断するために死後硬直の有無を確認することも消防士の職務の一環であり,本件で現場に臨場した消防士らも職務として手順に従って3名の死後硬直の有無を確認し,記録に残していること,その確認の方法も,
各関節に力を加えて動くかどうかを確認するというものであって,特に複雑な判断を要するものではないこと,本件で現場に臨場した消防士3名は,いずれも救急救命士の資格を有し,これまでに臨場先で職務として死後硬直を確認したという経験を複数回有することから,弁護人の主張には理由がない。
また,弁護人は,両側性の死斑からの推定は子供たちについてのみ当てはまること,直腸温からの推定は幅のある判断であることも指摘するが,死後硬直からの推定を中心に前記のとおり認定することに疑いを抱かせるものではない。3名はそれぞれ遺体発見現場付近で殺害されたと認められること
Aの遺体は,被告人方1階台所で発見され,子供たちの遺体は被告人方2階寝室の布団の上で発見された。それぞれの遺体の発見状況,すなわち,子供たちについていえば,各遺体発見時にそれぞれ着用していたズボン及びパンツに尿斑があり,布団にも尿斑があったこと,Aについていえば,遺体に引きずられたような痕跡がなかったことからすると,3名はそれぞれ遺体発見現場付近で殺害されたと認められる。
3名が被告人方で殺害された時間帯に被告人は被告人方におり,被告人は,3名の遺体が家の中にあるにもかかわらず,普段通り出勤したこと被告人は,6月5日午後7時頃,子供たちと共に帰宅し,6月6日午前6時53分頃,被告人方を出て出勤した。この間,被告人は被告人方にいた。これらの事実は,被告人自身述べるところであり,近隣の防犯カメラの映像とも矛盾しない。そうすると,3名が被告人方で殺害された時間帯に被告人は被告人方にいたことになる。そのような状況で,外部犯が被告人に気付かれることなく3名を殺害し,被告人にだけ危害を加えないということは考えられない。しかも,被告人は,出勤後,通常どおり勤務に就いている。被告人が被告人方を出て出勤する時点では,1階台所にAの遺体があり,2階寝室には子供たちの遺体があったのだから,
被告人が異変に気付かないはずはない。
ちなみに,
被告人のスマートフォンには,被告人が出勤前に何度も1階と2階を行き来した状況が記録されている。被告人は,出勤時に3名とも2階寝室の布団で寝ていた旨供述するが,事実に反する虚偽の供述といわざるを得ない。そして,被告人は,通常どおり勤務に就いたのであるから,3名の死亡を意図的に隠したとみるほかない。外部犯に家族3名を殺されたのに,被告人がそのことを隠して勤務に就くことも考えられない。
外部犯が被告人方に侵入した明らかな形跡,痕跡はなく,外部犯であることをうかがわせるような具体的事情も見当たらないこと
事件後に行われた被告人方の検証等の結果,窓やドアにこじ開けた痕跡はなく,2階の窓等から何者かが侵入した形跡もないことが確認された。また,被告人方1階及び2階の各所から採取した対照可能な指掌紋については,被告人,
A,Cのほか,事件前にハウスクリーニングを行った業者のアルバイト従業員のものであることが確認された。なお,被告人方近隣に設置された防犯カメラに記録された映像によれば(ただし,被告人方に至る全ての道路等の状況が記録されているものではない。,6月5日午後9時頃から翌6日午前7時頃まで)
の間に確認できた歩行者等90名のうち88名は,被告人方の前を通り過ぎたり,被告人方に近づいていないと考えられる状況であった。以上によれば,外部犯が被告人方に侵入した明らかな形跡,痕跡はないといえる。
同じく事件後に行われた被告人方の検証等の結果,被告人方台所の手提げバッグ内の財布には現金が入ったままであり,台所に置かれていた収納ケース内や紙箱内には現金在中の封筒などが入っていた。また,Aの遺体には,下着の乱れなどの性的被害の跡はなかった。すなわち,窃盗犯やわいせつ犯の侵入を疑わせる事情は見当たらなかった。
事件前の被告人家族の生活状況等については,後に改めて検討するが,少なくともAの姉,妹及び母親並びに被告人らの供述により知れる範囲で,Aら3名が外部犯によって同じ機会に殺されなければならないような事情は見当たらない。
2
Aを殺害した犯人が被告人であること
外部犯の可能性が否定できる以上,Aを殺害した犯人は被告人以外にいない。子供たちがAを殺害することはあり得ないからである。
さらに,以下の各事実も,Aを殺害した犯人が被告人であることを裏付けている。


被告人の左腕にはAが爪を立てて抵抗した痕跡とみられる傷があり,かつ,Aの爪から両名の混合DNAとみられるDNA型が検出されたこと6月7日に被告人の負傷状況について検証を行ったH医師は,被告人の左腕に9つの表皮剥脱(小さな傷)があり,そのうちの大きなもの5つは,6月4日の夜から6月7日の夜までの間に,人の手指の爪先による擦過あるいは圧迫により生じたとしても矛盾しないものであると判断した。この点,弁護人は,H医師の供述の信用性を問題とするが,H医師は,法医学の専門家としての知識と経験に基づき,被告人の負傷状況を実際に確認した上で,表皮剥脱の大きさ,位置関係,傷の表面が乾燥した血液で覆われ,その周囲が赤く腫れていたといった具体的検証結果を根拠に,その形成原因及び時期を特定しており,その供述内容は信用できる。ちなみに,被告人は,この傷について,6月5日午後9時過ぎ頃風呂上りにAからひっかかれてできた傷ではないかなどと述べている。
他方,Aの右手薬指(環指)の爪の間から採取した付着物からは,Aと被告人の混合DNAと考えて矛盾しないDNA型が検出されている。
Aを殺害した犯人が被告人であるとすると,これらの事実から,犯行の際にAが抵抗して被告人に爪痕を残したことが合理的に推測できる。したがって,これらの事実はAを殺害した犯人が被告人であることを裏付けるものといえる。なお,Aの他の指からは混合DNAが検出されなかったことからすると,弁護人が指摘するようにそれ以外の可能性も否定することはできないが,そうであったとしても,Aを殺害した犯人が被告人であることに疑いが生じるものではない。


Aの首から,Aと被告人の混合DNAとみられるDNA型が検出されたことAの首には,
手で圧迫したと考えられるような扼頚の跡が認められるところ,
Aの首から採取した付着物から,Aと被告人の混合DNAと考えて矛盾しないDNA型が検出された。
被告人がAを殺害した犯人であるとすると,この事実から被告人が素手でAの首を絞めたことが合理的に推測できる。したがって,この事実もAを殺害した犯人が被告人であることを裏付けるものといえる。
なお,弁護人が指摘するようにそれ以外の可能性も否定はできないが,そうであったとしても,Aを殺害した犯人が被告人であることに疑いが生じるものではない。


被告人が日常的にAから叱責されるなどしてAに対する鬱憤をためており,かつ,被告人にはA殺害を決意するきっかけとなり得る事情があったといえること
本件前,被告人とAの夫婦関係は悪化していた。Aは,子育てや家事に関することからコップの持ち方といったささいなことについてまで被告人を叱責するようになり,時には子供たちやAの母,姉,妹の前でも感情を抑えきれずに被告人を叩くことがあった。その叱責の程度は,Aの母,姉,妹からも厳しすぎるなどと指摘されるほどであった。被告人は,Aから逃げるように,仕事があるなどと嘘をついて同僚の部屋やビジネスホテル等に泊まり,趣味のパチスロに興じていたが,やがてその嘘がばれてAの怒りを買い,AからスマートフォンのGPS機能を使って居場所を監視されるようになった。被告人は元々Aに叱責されても反抗的な態度を取ることはなかったが,本件直前頃,Aは,母や姉に対して,

最近被告人のことが怖い。今までになく刃向かってくるようになった。

などと話をしていた。他方で,Aは,被告人に隠れて,特定の男友達と会って食事をするなどしていたものであるが,事件の前月頃,その男友達と会った際,Aのスマートフォンを被告人に見られて男友達の存在が被告人にばれたかもしれないというような話をした。
また,Aは,被告人が警部補への昇任試験に繰り返し不合格になっていたことについて不満を持っていたところ,被告人は,6月5日の夕方頃,警察職員から電話で,昇任試験の結果が不合格となったことを告げられた。被告人がAを殺害した犯人であるとすると,これらの事実から,例えば,事件前夜に昇任試験の結果をAが知り,あるいは,被告人がAと男友達の関係を問い質すなどして口論となり,従前からのAに対する鬱憤が爆発して,被告人がAを殺害したことが合理的に推測できる。
このように,被告人が日常的にAから叱責されるなどしてAに対する鬱憤をためており,かつ,被告人にはA殺害を決意するきっかけとなり得る事情があったといえることもまた,Aを殺害した犯人が被告人であることを裏付けるものといえる。前記のような事情がA殺害の動機になり得ないという弁護人の主張には理由がない。
3
子供たちを殺害した犯人が被告人であること
Aが子供たちを殺害したとは考えられないこと

Aは,子供たちをスイミングスクールや学習塾等に通わせたりするなど,以前から子供たちのことを第一に考え,子育てに積極的に取り組んでいた。Aは,6月5日の夕方から夜にかけて,Bを連れて眼科に行き受診させ,Bの担任教師と通話し,Bの小学校の音読カードと連絡帳の同日の欄にサインをし,Cの連絡帳にコメントを書き込みサインをした。Aは,6月6日午後に子供たちを体操教室に連れていく予定を立てていた。Aは,インターネットで購入した6月19日のCの誕生日プレゼントを被告人方に保管していた。
そのほか,
6月5日のAの個人的な行動について,
次の事実が認められる。
Aは,エステサロンに電話をかけて,6月19日の予約を6月30日に変更した。Aは,男友達とラインでメッセージをやり取りして,翌6日の昼に会う約束をした。Aは,午後11時25分おやすみという意味のスタンプを男友達に送り,これが最後のメッセージになった。


このように,Aは,以前から,子供たちの育児に尽力していて,6月5日も普段と変わらずに子供たちの面倒をみており,6月6日以降も子供たちの予定を入れていた上,間近に迫ったCの誕生日の準備もしていた。Aが子供たちに対して恨みなどの殺意に結びつくような悪感情や,子供たちの将来を悲観するような気持ちを有していたとは考えられない。6月5日のAの個人的な行動を併せて見ても,その様子は普段と変わりなく,Aが子供たちを殺害したとは考えられない。被告人自身,Aが子供たちを殺害したなどという話は一切していない。
なお,Aは,被告人及び周囲の人間に対して,被告人と離婚した場合,Bは被告人に似ているので引き取りたくないなどと述べていたようであるが,前記のようなAの子供たちへの接し方や子育てへの取り組み方からすると,それを理由としてAがBの殺害を決意することも考えられない。
したがって,子供たちを殺害した犯人は被告人であると認められる。被告人が,3名の遺体をつなぐようにライター用オイルをまいて火をつけており,3名を殺害した証拠の隠滅とみられる行動をとったこと
被告人方1階台所にあるAの遺体と,2階寝室にある子供たちの遺体をつなぐような形でライター用オイルがまかれており,Aの遺体の衣服及び子供たちの遺体の下にひかれていた布団から,ライター用オイルと考えて矛盾がない油の付着が認められた。
また,
Aの遺体の頭上付近の床上に筒状の残焼物があり,
その近くにある金属製タオル掛けには焼損したタオル様の布片が複数掛かっていて,これら筒状の残焼物及びタオル様の布片のいくつかから,ライター用オイルと考えて矛盾がない油の付着が認められた。そして,Aの頭髪は前頭部から左側頭部にかけて焼損し,左側頭部から頭頂部付近にかけてタオル生地用の焼損した布片が付着しており,その下の床も一部焼損していた。
これらのことから,被告人が3名の遺体をつなぐようにライター用オイルをまいて火をつけたという事実が認められる。被告人がAだけでなく子供たちをも殺害した犯人であるとすると,この事実から,被告人が3名の遺体を焼損させて3名を殺害した証拠を隠滅しようとしたことが合理的に推測できる。したがって,この事実は,子供たちを殺害した犯人が被告人であることを裏付けるものといえる。
弁護人は,被告人には子供たちを殺害する動機がないと主張する。確かに,被告人は,子供たちを風呂に入れたり,自転車の練習に付き添ったりして子育てに一定程度関与しており,子供たちに対する愛情がなかったとは言い切れず,元々子供たちを殺害する動機があったとは認められない。しかし,被告人がAを殺害したという特殊な状況においては,被告人が子供たちの殺害を決意したとしても不自然とはいえない。
すなわち,
前記のとおり,
何らかのきっかけで従前からのAに対する鬱憤が爆発してAを殺害した被告人が,冷静さを欠いた心理状態のまま,衝動的に子供たちを殺害したという想定は可能である。このこともまた,子供たちを殺害した犯人が被告人であることを裏付けており,弁護人の主張は,子供たちを殺害した犯人が被告人であるという認定に疑いを生じさせるものではない。
4
結論
以上のとおり,第三者が3名を殺害した可能性は残らず,Aが子供たちを殺害した可能性も残らないことから,3名を殺害した犯人は,いずれも被告人であると認定した。

(量刑の理由)
本件は,事件当時現職の警察官であった被告人が,妻子3名を殺害した事案である。
検察官は死刑を求刑し,
弁護人は死刑を回避すべきであると主張する。
そこで,
究極の刑罰である死刑選択の可否について,公平性の観点から別紙記載の同種裁判例(死亡被害者が3名の殺人事件)の概要を確認し,死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度や根拠を踏まえた上で,犯罪行為に関する事情を中心に,それ以外の事情(一般情状)も総合的に考慮し,死刑を選択することが真にやむを得ないものと認められるか慎重に検討する。
1
犯罪行為に関する事情
まず,
3名の生命を奪ったという結果は誠に重大である。
特に,
B及びCには,
落ち度はおろか,殺される理由が何一つ見当たらない。Bはまだ9歳,Cはまだ6歳で,本来愛情を注ぎ育んでくれるはずの実の父親の手で,無限の可能性のある未来を突然閉ざされたものであり,Aも,被告人との夫婦関係に問題を抱えながらも,子供たちの育児や家事に力を注いで生活する中で,突如命を奪われたものである。何も分からず死んでいったと思われる子供たちが最後に感じた苦しみや,被告人の手で殺されることを認識していたと思われるAが死ぬ間際に感じた無念さは,察するに余りある。
被告人は,Aから日常的に,時には子供たちの面前で,厳しく叱責され,暴力を振るわれることもあり,スマートフォンのGPS機能を使って居場所を監視されるといった状況の中で,
Aに対する鬱憤をためていた。
加えて,
Aの母親や姉,
妹も,当公判廷において,

被告人は,普通の父親だったらできて当たり前のことができていない。

などと述べ,Aが被告人を叱責するのは,被告人が積極的に子育てをせず,何度同じ注意を受けても改善しないからで,Aが被告人を厳しく叱責したり,時には手を出したりするのも仕方がないという認識を有していたもので,被告人は,Aに同調し味方する親族に囲まれて生活する環境にあったといえる。本件の動機は,被告人が語らない以上,不明というほかないが,A殺害については,被告人が何らかのきっかけでAに対するこれまでの鬱憤を爆発させ,衝動的に犯行に及んだとみるのが自然であり,そうであるとすると,被告人がA殺害に至った経緯に同情の余地がないとはいえない。
しかし,他方で,被告人は,Aから居場所を監視されるようになった後も,職場にスマートフォンを置いてパチンコ店に通うなど,Aと向き合うことを避け,夫婦関係を改善するために十分な努力をしてこなかった。被告人は,Aを一方的に非難できる立場ではなく,結局,感情のまま身勝手にAの命を奪ったのであるから,前記の経緯を被告人に有利に斟酌するとしても限度がある。何より,子供たちを殺害したことについて,被告人には酌量の余地がない。これも被告人が語らない以上,動機は不明というほかないが,現場の状況や,犯行後の被告人の言動に照らし,少なくとも被告人が無理心中を図ったとは考えられないし,それ以外に被告人がいたいけな子供たちを殺害した動機として酌量できるような事情も見当たらない。
3名の殺害について計画性は認められない。しかし,その犯行態様は,いずれも手やひも状の物で人の首を絞め,窒息死させるというものである。人を窒息死させるためには少なくとも数分間は首を絞め続けなければならず,その間,首を絞められた者はけいれんを起こしたり,顔面にチアノーゼを生じたりする。被告人は,人の命が失われていく様子を体感でき,かつ,途中で思い直してやめることができたにもかかわらず,首を絞め続けて殺害を実行しており,確定的で強固な殺意を有していたと認められる。そして,被告人は,そのような行為を3回も繰り返したのであるから,計画性が認められないことを考慮しても,生命を軽視する態度がはなはだしいといわざるを得ない。このような意味において,本件の犯行態様は非常に悪質であり,計画性が認められないことを量刑上有利に斟酌することにも限度がある。
2
犯罪行為に関する事情以外の事情(一般情状)
A及び子供たちと親密な関係にあったAの母,姉,妹は,それぞれ悲痛な胸の内を明かすとともに,
一様に被告人に対する極刑を望んでおり,
その処罰感情は
峻烈である。
被告人は,
犯行後,
3名の遺体をつなぐようにライター用オイルをまいて火を
つけ,
証拠を隠滅しようとした。
被告人の当公判廷における供述内容及び供述態
度からは,被告人が自身の犯した罪に真摯に向き合い反省しているとは認められず,被告人に改善更生の基礎となる事情があるとはいえない。
本件は,
現職の警察官が妻子3人を殺害したという衝撃的な事件であり,
その
職務に関連して行われたものではないが,社会的な影響も軽視できない。他方で,
被告人は,
事件まで約15年間警察官として勤務していたものであり,
被告人に前科前歴はない。
3
結論
以上の事情を総合すると,本件は,計画性が認められず,A殺害に至る経緯について同情の余地がないとはいえない事案であるが,家族3名を殺害したという結果は誠に重大であり,とりわけ子供たちを殺害したことについては酌量の余地はなく,犯行態様が非常に悪質であることからすると,被告人の刑事責任は極めて重大であって,
公平性の観点からも,特に死刑を回避すべき事情が認められな
い限り,死刑の選択を免れない事案といえる。そして,このような犯罪行為に関する事情,特に,計画性が認められないことや,A殺害に至る経緯について同情の余地がないとはいえないことを十分考慮し,
かつ,
これまでの裁判例において
考慮要素とされているその他の事情を含めて慎重に検討しても,本件について,結論として死刑を回避すべき事情をみいだすことはできず,
死刑を選択すること
は真にやむを得ないといわざるを得ない。
よって,主文のとおり判決する。

(求刑・死刑)
令和元年12月13日
福岡地方裁判所第1刑事部

裁判長裁判官

柴田寿宏
裁判官

武富一晃
裁判官

髙橋侑子
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