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発信者情報開示請求事件
事件番号令和1(ワ)7518
事件名発信者情報開示請求事件
裁判年月日令和元年12月3日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第13民事部
裁判日:西暦2019-12-03
情報公開日2020-01-30 14:00:10
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主文1
被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ
2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2
1
事案の概要
本件は,被告の提供するインターネット接続サービスを介してインターネット上のウェブサイト(以下本件サイトという。)に投稿された別紙投稿記事目録記載の投稿記事(以下本件投稿という。)は,原告の社会的評価を低下させるものであり,
原告の権利を侵害することは明らかであると主張して,
被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下,単に法という。)4条1項に基づき,本件投稿に関する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下本件発信者情報という。)の開示を求める事案である。

2
前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠(枝番のある書証については,特に断りのない限り各枝番を含むものとする。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実)
(1)

当事者
原告(略称Z1)は,国内基幹放送,国際放送等を行うことなどを目
的として,放送法に基づき設立された法人である(放送法15,16条)。被告は,サーバーの販売,貸与,保守及び管理業務などを目的とする株式会社である。
(2)

本件放火事件
令和元年7月18日,京都市z区所在のアニメ制作会社Z2の建物が放火
され,35人が死亡する事件(以下本件放火事件という。)が発生した。(3)

本件投稿(甲1)
本件放火事件に関連して,
不詳者が管理運営するZ3
(http://以下省略)



という名称のウェブサイト(本件サイト)に,本件投稿が掲載された。本件投稿の内容は,別紙投稿記事目録記載のとおりである。
(4)

本件投稿は,不特定の者が自由に閲覧できるものであって,法2条1号の
特定電気通信に該当し,被告は,その保有するサーバ(法2条2号の特定電気通信設備)を用いて本件サイトの閲覧を媒介し,または同サーバをこれら他人の通信の用に供する者
(法2条3号の
特定電気通信役務提供者

であるから,本件投稿に関し,法4条1項の開示関係役務提供者に該当する。
3
争点及び当事者の主張
本件の争点は,①本件投稿が原告の権利を明白に侵害するものか(法4条1項1号の権利侵害の明白性の有無),②原告に本件投稿に関する発信者情報の開示を求める正当な理由があるか
(法4条1項2号の正当理由の有無)
であり,
これらに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(1)

争点①について

【原告の主張】

原告は,本件放火事件について取材を行っており,本件投稿に示されたZ4は原告の職員であるところ,本件投稿は,Z1のZ4Dはなぜ放火犯の遺留品を回収したのかとのタイトルで,なんで警察来る前に勝手に回収してんだよ警察よりも早く,事件の犯人の遺留品を回収するZ1取材クルーZ1なんで隠したん?Z1(一部伏せ字)の依頼殺人じゃね?隠蔽すりゃ疑われるわなZ1共犯説唱えられても仕方ないぞという記載がまとめられている。

これらについて,一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方をした場合,原告が,本件放火事件に関与しており,その関与を隠蔽するために,警察よりも前に遺留品を回収したものと読み取ることができる。すなわち,本件投稿は,原告が,重大事件に直接または間接に関与しながら,そのことを隠蔽したとするものであり,これにより,原告は,現住建造物放火罪,殺人罪のほか,罪証隠滅罪を犯している蓋然性が高いと認識されることになり,その社会的評価が低下するのであるから,本件投稿は原告の権利を明白に侵害している。

なお,本件投稿は,Z5(http://(以下省略))との名称のウェブサイト(以下元サイトという。)に掲載された内容を再編集して掲載したものであり,投稿中のレス番号がある表現部分は,発信者が一次的な情報を投稿したものではない(甲10)。
しかし,本件投稿のタイトルは元サイトのスレッドタイトルとは異なっており,発信者がつけたものと思料され,また,元サイトのどのようなレスを選んで掲載するかについては発信者が自ら考え編集したものである以上,その編集にかかる責任は当然に発信者にあり,一次的な発信をしたものでないとしても免責されることはない。

【被告の主張】

本件投稿は,原告ないし原告の記者に対する記事であり,その記載内容のみを捉えれば,本件投稿を閲覧した者に対し,原告に対する否定的な印象を与えるものである。


しかし,本件放火事件は,その被害の大きさから様々なメディアで取り上げられ,被疑者の特定はもちろん,被疑者の経歴や推測される犯行動機まで,
詳細な報道が連日行われており,
そのような中で,
本件投稿を含め,
インターネット上で原告の対応を非難する記事が一部拡散したとしても,報道されている本件放火事件の内容,公共放送を担う原告の社会的立場に照らすと,本件投稿を目にした者が,本件投稿の内容を信用し,本件放火事件に原告ないし原告の記者が実際に関与していると信用するとは到底考えられない。
また,原告は本件投稿に誤りがあれば正す手段を持っており,それは発信者のそれとは影響力,信用力において比較にならないものであり,実際に原告は自ら自身の見解を公表している(甲5)。

表現活動は本来自由であるべきであり,原告は,その公共的立場を考えれば社会からの批評には寛容であるべきであり,上記のとおり自ら誤った投稿について正す手段があることも考慮すれば,本件投稿によって原告の名誉が毀損されたと評価するのは誤りである。


(2)

原告の主張ウについては,本件投稿の評価を除き特に争わない。
争点②について

【原告の主張】
原告は,本件投稿の発信者に対して,権利侵害を理由として,不法行為に基づく損害賠償請求の準備をしているところ,そのためには,本件投稿の発信者にかかる発信者情報が必要であるから,発信者情報の開示を求める正当理由がある。
【被告の主張】
原告の主張は争う。
第3
1
判断
争点①(権利侵害の明白性)について
(1)

人の社会的評価を低下させる表現は,事実の摘示であるか,意見ないし論
評の表明であるかを問わず,人の名誉を毀損するというべきであるところ,ある表現における事実の摘示又は意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるかどうかは,当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準としてその意味内容を解釈して判断すべきものと解される(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁,最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁,参照。)
そこで,このような観点から,本件投稿が原告の名誉ないし信用を侵害するものか否かについて検討するに,本件投稿(甲1)の内容は別紙投稿記事目録記載のとおりであり,【Z6】Z1のZ4Dはなぜ放火犯の遺留品を回収したのかとのタイトルを付し,男性が何かを拾い集めている場面のようにも理解できる画像を添付した上で,元サイト(甲10)に掲載された投稿を再編集して本件サイトに掲載したものであるところ,そこで選択,編集された投稿は,なんで警察来る前に勝手に回収してんだよ警察よりも早く,事件の犯人の遺留品を回収するZ1取材クルーZ1,なんで隠したん?Z1(一部伏せ字)の依頼殺人じゃね?隠蔽すりゃ疑われるわなZ1共犯説唱えられても仕方ないぞなど,原告又は原告の職員が本件放火事件に関与したことを疑うものがほとんどである。
このような本件投稿の内容全体を通してみると,本件投稿は,原告の職員が本件放火事件の遺留品を回収したとの事実を適示して,これを閲覧する一般の閲覧者に対して,原告又は原告の職員が本件放火事件に関与しており,その関与を隠蔽するために,警察よりも前に犯人の残した遺留品を回収したとの印象を与えるものであるから,原告の社会的評価を低下させる表現行為であり,これが流通したことにより原告の名誉ないし信用が侵害されたことが明らかというべきである。
そして,本件投稿の大部分は元サイトに掲載された投稿であり,本件投稿の発信者が自ら一次的に行った表現行為ではないが,本件投稿の発信者は,自ら新たにタイトルを付し,添付する画像を選択し,元サイトに掲載された多数の投稿の中から本件投稿に掲載するものを選択,編集しており,その結果として,本件投稿は,その全体として,閲覧者に対して上記のような印象を与えるものとなっているのであるから,発信者は,本件投稿が元サイトに掲載された投稿を再編集したものであることを理由に,本件投稿による原告の損害の賠償義務を免れるものではないというべきである。
(2)

これに対し,被告は,前記のとおり,本件放火事件について連日詳細な報
道がなされていたこと,原告は本件投稿が誤りであると自ら発信していることを指摘して,本件投稿を閲覧した者が,原告又は原告の職員が本件放火事件に関与し遺留品を回収したと信じるとは考え難く,本件投稿が誤りである旨の原告の発信の影響力,信用力は本件投稿よりも格段に大きいと考えられることや,原告が公共放送を担う社会的立場にあることを考慮すれば,本件投稿により原告の名誉が毀損されたと評価すべきでない旨主張する。しかし,確かに,本件放火事件については様々なメディアで詳細な報道がされていたこと(甲4),原告が

原告及び原告の職員は本件放火事件及びその容疑者と何ら関わりがなく,原告の職員を本件放火事件に関連付けるようなインターネット上の書き込みは事実無根である。

旨の発信を行い(甲5),そのことが報道されたこと(甲6,7)や,本件投稿の内容・性質に照らし,本件投稿の信用性は高くなく,その閲覧者が直ちに本件投稿の内容を信じ込むとは考え難いとしても,そのことにより,本件投稿の内容自体,すなわち,一般の閲覧者に対して

原告又は原告の職員が本件放火事件に関与しており,その関与を隠蔽するために,警察よりも前に犯人の残した遺留品を回収した。

との印象を与えるものであることが変わるものではないというべきである。
また,原告が本件投稿に対して反論を発信することによってその社会的評価が一定程度回復したとしても,それは原告の行為の結果であって,そのことにより本件投稿の内容・評価が変わるものとは解し難い。さらに,本件投稿が,閲覧者に対して,虚偽ないし裏付けのない事実を適示して,原告の犯罪行為への関与やその証拠の隠滅を行ったとの印象を抱かせる内容であることに照らせば,原告が公共放送を担う立場にあることをもって,そのような内容の表現行為の違法性を低く評価すべきものとも解されない。
以上のとおり,被告の上記主張は採用できず,その指摘する事情は上記(1)の認定判断を左右するものではない。
2
争点②(発信者情報を受けるべき正当な理由の有無)について前提事実(4)のとおり,被告は,本件投稿に関して法4条1項の開示関係役務提供者に該当し,本件発信者情報を保有していることが認められ,上記1に説示したとおり,本件投稿により原告の名誉ないし信用が侵害されたことが明らかであるから,原告が本件投稿の発信者に対する損害賠償請求等を行うために,被告に対して本件発信者情報の開示を求めることには正当な理由が認められる。

3
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第13民事部
裁判官末永雅之
(別紙)発信者情報目録

ドメインZ7.net」

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サーバ領域の,
2019年7月27日時点及び同年11月8日
(本件口頭弁論終
結時)における契約者に関する情報であって,以下のもの。
1
氏名又は名称(フリガナ)

2
住所

3
メールアドレス
以上
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