判例検索β > 平成30年(わ)第327号
名誉毀損
事件番号平成30(わ)327
事件名名誉毀損
裁判年月日令和元年11月29日
法廷名京都地方裁判所
裁判日:西暦2019-11-29
情報公開日2020-01-29 12:00:11
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主文
被告人を罰金50万円に処する
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,かねてより在日本朝鮮人総聯合会(以下朝鮮総聯という。)や朝鮮学校等を批判するなどの活動をしていたものであるが,
1
平成29年4月23日午後4時10分頃から同日午後4時21分頃までの間,京都市A区B町C番地所在のD公園において,かつて同公園に隣接して所在し,学校法人Eが運営していたF学校のことを指して,不特定多数人に対し,拡声器を用い,

ちょっと前までね,ここ,空き地になっているでしょ。ここにね,日本人を拉致した朝鮮学校があったんですね

ここに何年か前まであった京都の朝鮮学校ってありますよね,この朝鮮学校は日本人を拉致しております。

これはもう警察庁にも認定されて,その朝鮮学校の校長ですね,日本人拉致した,国際指名手配されております。

このD公園の横に,その拉致した実行犯のいる朝鮮学校がありました旨申し述べ
2
その頃,同所において,前記言動を撮影して動画を作成し,同動画をG株式会社が運営するTwitCastingに開設した自己のアカウントに掲載し,これを不特定多数の者が閲覧できる状態にさせ

もって公然と事実を摘示し,前記学校法人Eの名誉を毀損したものである。【弁護人の主張に対する判断】
弁護人は,被告人が判示の発言等を行ったことは認めながら,被告人の発言内容は公共の利害に関するものであり,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった上,被告人が摘示した事実は真実であるから,刑法230条の2第1項により被告人は無罪であり,仮に,前記摘示事実が真実と認められないとしても,被告人は,相当の根拠に基づいてそれを真実であると誤信したから,いずれにしても被告人は無罪であると主張する。そして,その前提として,

被告人の発言は,朝鮮総聯の

支配下にある朝鮮学校一般についての事実を摘示したものであって,F学校を当時運営していた学校法人E(以下本件学校法人という。)に関する事実を摘示したものではない,仮に本件学校法人に関する事実を摘示したと解される場合にも,被告人の意図が朝鮮学校一般に関する事実を摘示することにあったことは明らかであるから,結果的には故意が阻却されると主張するので,以下,判示の事実を認定した上,刑法230条の2第1項の適用を否定し,被告人に名誉毀損罪の成立を認めた理由を補足して説明する。
第1
1
被告人の発言内容の解釈について
関係証拠によれば,本件学校法人が運営していたF学校がかつて判示1のD
公園(以下本件公園という。)に隣接して存在していたこと,被告人が,本件公園において,判示1のとおり発言したこと,この発言中,被告人は,ここに何年か前まであった京都の朝鮮学校ってありますよねと発言した際,F学校の跡地の方向を指さしたこと,ほかに,被告人は,

この京都の朝鮮学校ね,これが出て行く原因になったんは我々でございます。

と発言し,その際にもF学校の跡地の方向を指さしたことが認められる。
上記のような被告人の発言内容,発言等が行われた場所に加え,その際の被告人の動作も踏まえれば,判示1の被告人の発言にある朝鮮学校とは,かつて本件公園に隣接して存在したF学校を指すことが明らかであり,判示1の発言で被告人が摘示した事実は,
要するに,
F学校の元校長が日本人を拉致し,
国際指名手配されているという事実であると解される。そして,そのような事実の摘示は,F学校を運営していた本件学校法人の外部的評価を低下させる行為といえる。
2
この点,弁護人は,本件学校法人が朝鮮総聯の支配下にあるという実態を踏まえれば,被告人のいう朝鮮学校とは,形骸化した主体でしかない本件学校法人ではなく,朝鮮学校一般をさすと解されると主張する。しかし,関係証拠によれば,本件学校法人は,京都市に主たる事務所を置く法人であり,私立中高級学校及び初級学校,初中級学校その他の学校等を設置して朝鮮人教育一般文化啓蒙事業を行うことを目的とし,現在も京都に学校を設置していることが認められ,朝鮮総聯の支配下にあるという弁護人の主張や
で指摘する事実関係を踏まえても,その活動が形骸化しているとはいえない。そうすると,法的には,本件学校法人にも保護に値する独自の名誉があるといえ,弁護人の前記主張は採用できない。また,弁護人は,名誉毀損表現について複数の客観的解釈が可能な場合には,表現の自由に有利な解釈を選択すべきであるとも主張するが,前記のとおり,被告人が摘示した事実は,その内容や状況に照らせば,一義的に本件学校法人を対象としたものとしか解釈できないから,複数の客観的解釈が可能な場合には当たらない。
3
弁護人は,被告人の主観的意図は朝鮮総聯が支配している朝鮮学校一般に関する事実を摘示することにあったことは明らかであると主張し,被告人も同様の供述をしている。
この点,被告人の公判供述等によれば,被告人自身は朝鮮総聯の支配下にある朝鮮学校一般及び朝鮮総聯そのものを糾弾する意図で判示の発言をしたと認められるものの,前記のとおり,判示1の発言にある朝鮮学校が一義的にF学校を指すことは明らかであり,したがって,被告人自身において,自分の発言が客観的にはそのような意味内容のものであることを認識していたこともまた明らかというべきである。被告人の発言内容の客観的意味内容とこれについての被告人の認識に齟齬はなく,弁護人の主張は採用できない。
第2
1
刑法230条の2第1項の適用について
関係証拠によれば,以下の各事実が認められる。
平成18年4月,警察庁が日本人拉致事件に関し国外移送目的略取容疑で元H学校校長を国際刑事警察機構を通じ国際手配した旨の新聞報道がなされた。
朝鮮総聯Iが平成3年に発行した書籍朝鮮総聯には,

朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の指導のもとに,Jが責任をもって進めている。

旨記載されている。
平成22年2月,北朝鮮が,朝鮮総聯傘下のJを通じ,朝鮮学校に合計469億円を送金したことや,朝鮮学校が,学費納入時に朝鮮総聯傘下団体の活動費も徴収していたことについて,
新聞報道がなされ,
平成23年11月,
自治体から朝鮮学校に支給される補助金が朝鮮総聯に流用されていた疑いがあることや,朝鮮総聯が複数の学校法人朝鮮学園の理事会議事録を偽造した疑いがあることについて,新聞報道がなされた。
公安調査庁作成
内外情勢の回顧と展望平成25年(2013年)1月

には,朝鮮総聯が,我が国の高校無償化措置に関し,朝鮮人学校生徒への適用を実現すべく取り組んでおり,積極的な活動を展開している旨の記載がある。
平成25年5月2日当時の朝鮮総聯のホームページには,朝鮮総聯が,日本の都道府県ごとに47の地方本部をおいており,地方本部が,中央本部の決定と方針にしたがって管轄地域の諸般の活動を企画,組織,推進し,管下の階層別団体,事業体,学校を指導する旨記載されている。
東京都が平成25年11月にまとめた調査結果では,朝鮮学校で使用されている社会の教科書に,朝鮮総聯が朝鮮学校を設置・運営している旨の記述がある,各朝鮮学校内には朝鮮総聯の傘下団体であるJやKが存在する旨記載されている。
朝鮮総聯と朝鮮学校の一体性につき言及している裁判例は複数あり,例えば,大阪高裁は,L学校を設置運営する学校法人Mが提起した,公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律に基づく文部科学大臣の指定を受けられなかったという不指定処分の取消及び指定の義務付けを求める訴訟の控訴審で,平成30年9月27日の判決の理由中において,L学校について,朝鮮総聯から教育内容及び人事面等で教育基本法16条1項にいう不当な支配を受けていること,および財政面で就学支援金の管理が適正に行われないことを疑わせるに足りる相当な根拠があった旨判示した(平成30年9月27日判決)。
なお,被告人は,かねてより日本人拉致の問題等に関心を持ち,また,朝鮮総聯等を批判するなどの活動をしていたもので,上記の新聞報道等の資料の内容は概ね把握しており,また,

の裁判例の多くは本件後のものである

が,その基礎となるような事実関係も概ね把握していたものと認められる。2
以上を前提に,まず,被告人が摘示した事実の公共性及び公益を図る目的に
ついて判断する。
判示1の被告人の発言は,日本人がその意思に反して第三者により国外に連れ去られてしまった日本人拉致事件の実行犯に関する内容であり,刑法230条の2第2項により,公共の利害に関する事実とみなされる。次に,公益を図る目的について検討する。この点については,まず,その発言内容自体が考慮されるべきところ,判示1の被告人の発言内容は,上記のとおり公共性の高い事項に関するものといえる。そして,被告人は,日本人拉致事件を巡る従前の報道等の資料を踏まえて上記発言に及んでおり,後述するとおり,被告人において,少なくとも,学校法人Eの元校長が日本人拉致によって国際手配されたことや,朝鮮総聯が朝鮮学校全般に一定の影響力を及ぼしていたことについては,そのように考える相当の理由があったといえること,被告人自身も公判廷で,朝鮮が行った拉致などの悪事を知ってほしい,自分の活動が最終的に日本の国益になると信じている旨供述していることからすると,被告人は,主として,日本人拉致事件に関する事実関係を一般に明らかにするという目的で判示の行為に及んだもので,公益を図る目的があったものと認められる。
検察官は,被告人の目的が,朝鮮学校関係者というだけで犯罪者であると印象付けることや自己の活動の誇示にあり,公益を図るものではない旨主張する。この点,証拠上認められる被告人のかつての言動には,検察官が主張するような目的でなされていたとしても矛盾しないものがみられるが,そうした過去の事情があるからといって,判示1の発言が公益を図るものでないということはできない。また,関係証拠によれば,被告人が,判示1の発言の際に

まだこの朝鮮学校関係者がこの近辺に潜伏していることは確実でございます。だから,朝鮮学校関係者かな,と思ったら110番してください

と発言したことが認められ,この発言だけに着目すると,朝鮮学校関係者というだけで犯罪者であると印象付ける目的がうかがわれるものの,この発言自体はあくまで判示1の発言に付随してなされたもので,一連の文脈やこの部分の発言内容からすると,聴衆の関心や注目を引く目的でやや極端な表現を使ったものと考えられ,被告人に公益を図る目的があったことを否定するに足りる事情とはいえない。
3
真実性の証明又は真実と信じたことについての相当の理由
弁護人は,判示1の被告人の発言の重要部分は

朝鮮総聯が支配する朝鮮学校の元校長が,日本人拉致事件の実行に関与し,国際指名手配を受けている。

という部分であり,その重要部分が真実であり,又は,被告人が真実と信じたことについて相当な理由があると主張する。
この点,前記のとおり,判示1の被告人の発言内容が客観的に意味するところが,F学校の元校長が日本人を拉致し,国際指名手配されているという事実であることは一義的に明白である。
他方,前記の新聞報道等の資料によれば,朝鮮総聯と朝鮮学校は,朝鮮総聯の地方本部を通じて,密接な関係を有しており,朝鮮総聯が朝鮮学校に対して一定の支配力を及ぼしている可能性が高いこと,また,元学校法人E校長が日本人拉致事件に関し国際手配されたことがうかがわれ,これらの新聞報道等の資料内容を把握していた被告人において,上記のような朝鮮総聯と朝鮮学校との関係や学校法人Eの元校長が日本人拉致事件に関し国際手配されたと認識したことについて,相当な理由があったといえる。
もっとも,前記のような新聞報道や資料に照らしても,朝鮮総聯の支配が一定程度及ぶ本件学校法人が,形骸化して法人としての実体を失っており,朝鮮総聯と一体になっているとまではいえず,また,朝鮮学校の関係者による犯罪行為を朝鮮総聯が指示したということや,さらに朝鮮総聯が本件学校法人やF学校を含む各地の朝鮮学校に対して一般的に犯罪を行わせているということもいえない。そうすると,朝鮮総聯が各朝鮮学校に一定の支配力を及ぼしていることを理由として,大阪の朝鮮学校の元校長が拉致事件に関与していることと京都の朝鮮学校の元校長が拉致事件に関与していることとが実質的に同一であると評価することは相当ではないというべきである。被告人は,公判廷において,朝鮮総聯が,F学校を含む朝鮮学校とひとくくりであり,そのような朝鮮総聯傘下の朝鮮学校の元校長が日本人拉致事件を実行し,国際指名手配されていると言いたかった旨供述するが,以上の検討によれば,
判示1の被告人の発言の意味内容,
すなわち発言の重要部分は,
F学校の元校長が日本人を拉致し,国際指名手配されているというところに止まるというほかなく,この点については,真実性の証明も真実であると信じたことについて相当な理由も認められない。
第3

結論
以上のとおり,本件では刑法230条の2第1項を適用することはできず,
被告人には名誉毀損罪が成立する。
【量刑の理由】
本件は,被告人が,F学校の跡地に隣接する公園において,同朝鮮学校の元校長が拉致事件に関与して国際指名手配されているという事実を摘示し,同朝鮮学校の経営主体である本件学校法人の名誉を毀損したという事案である。人を拉致した容疑で国際指名手配されているという事実の摘示は,本件学校法人の名誉を大きく害する上,その事実摘示に当たり,拡声器を用いたり,その際の動画をインターネットを用いて公開するという伝播性の高い方法がとられたことからすると,本件犯行態様及び被害結果はいずれも軽視できるものではない。もっとも,
前記のとおり被告人は,
日本人拉致という公共性の高い事柄について,
公益を図る目的で,
それまでに得てきた情報等を踏まえ,
自己の主張を述べる中で,
名誉毀損に当たる表現行為に及んだもので,この点は相応に考慮すべき事情といえる。
なお,被告人には本件学校法人及びF学校に対する侮辱,同校に対する威力業務妨害等で服役した前科が2犯あり,最終刑の執行が終了してから1年経たないうちに本件に及んだものであるが,本件は,政治団体に所属する被告人が,既に存在しない同校が隣接していた本件公園で,その主張を述べる中で本件学校法人の名誉を害する行為に及んだもので,本件学校法人が運営する学校の業務を直接的に妨害した前記の前科とは犯行態様が大きく異なるから,本件の量刑に当たって前記の前科を過度に重視することは相当ではない。
以上によれば,被告人の刑事責任は,懲役刑を選択すべき程度に重いものとはいえず,罰金刑を選択するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

懲役1年6月)
令和元年11月29日
京都地方裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

柴山
裁判官

内山智孝一
裁判官

上田千愛
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