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殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
事件番号平成31(わ)323
事件名殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
裁判年月日令和元年12月25日
法廷名札幌地方裁判所
裁判日:西暦2019-12-25
情報公開日2020-01-28 16:00:07
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令和元年12月25日宣告
平成31年(わ)第323号

殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
主文
被告人を懲役3年に処する
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
札幌地方検察庁で保管中の包丁1本(同庁令和元年領第433号符号1-1)を没収する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,平成19年頃から10年近くにわたり,きょうだいとともに,養父のAから,殴られる,長時間正座させられる,暴言を浴びせられるといった身体的・精神的虐待を日常的に受けていた。また,平成27年秋頃,Aが,被告人の1歳下の妹に対して同女が小学生の頃から常習的に性交するなど性的虐待も加えていたことを知り,自身やきょうだいを虐待したAへの恨みや憎しみを抱いた。被告人の母親は,平成28年10月,その性的虐待の事実を知り,翌11月,Aと離婚した。それ以降,被告人は,Aと接触することはなかったが,Aへの憎しみは消えることなく,時折,Aを殺す方法を考えたり,Aの死を望んだりしていた。そして,被告人は,性的虐待を受けた妹が苦しむ姿を何度か目にしていたことに加え,平成30年頃に頻繁になされた児童虐待に関する報道に接するなどして,世の中の児童虐待をする親への怒りとともに,Aへの恨み等を深めていった。
そのような中,被告人は,平成31年4月5日夜,母親が足で被告人の弟を転ばせた場面を見て虐待という言葉で頭を埋め尽くされ,感情を抑えきれなくなったことから,交番に駆け込み相談するなどしたが,かえってAに対する殺意が強まり,帰宅してもなおその気持ちは収まらなかった。一夜明けた翌6日昼頃,被告人は,A殺害を決意して自宅台所から包丁を持ち出し,Aの母方を訪ねてAの現住所を聞き出した上,同日午後1時42分頃にはA方付近に到着し,近隣を徘徊したり,A方前で座ったりしてAの帰宅を待っていた。そこへ,同日午後4時18分頃,仕事を終えたAが自転車に乗って帰ってきた。
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

平成31年4月6日午後4時18分頃,札幌市所在の共同住宅北西側敷地内
及び同所付近路上において,A(当時50歳)に対し,殺意をもって,右手に持っていた包丁(刃体の長さ約17センチメートル。札幌地方検察庁令和元年領第433号符号1-1)で背中を数回突き刺すなどしたが,Aの命乞いを聞いて驚くとともに楽しかった幼少期の出来事を思い出して憐れみを感じたことから自己の意思により犯行を中止したため,Aに全治約1週間を要する背部切創等の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げず,
第2

業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所において,前記
包丁1本を携帯した。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法203条,199条に,判示第2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,判示第1の罪は中止未遂であるから刑法43条ただし書,68条3号により法律上の減軽をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,札幌地方検察庁で保管中の包丁1本(同庁令和元年領第433号符号1-1)は,判示第1の犯罪行為の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
被告人は,被害者を約2時間半も待ち伏せした挙げ句,強固な殺意をもって,自宅から持参した包丁で,一方的にその背中や腕を数回刺したり切り付けたりした(なお,被告人は,明確な記憶がある攻撃は3回であり,その後は被害者ともみ合いになったなどと述べるが,被害者の負傷状況や目撃者2名の供述等に明らかに反するから採用できず,これらの証拠に符合する被害者証言によれば,その攻撃回数は少なくとも七,八回以上であったと認められる。。被告人が自ら犯行の継続を思)
いとどまったこともあって幸いにも被害者の負傷自体は軽いものにとどまったが,包丁の刺さった位置が僅かでもずれていれば被害者の命が失われる危険性も高かった。このとおり,中止未遂により重い被害結果は生じなかったとはいえ,本件の態様が執拗で危険かつ悪質なものであることは重くみざるを得ない。他方,動機・経緯についてみると,判示のとおり,被告人は,被害者が長期間加えていた自らへの虐待や妹への性的虐待を巡り,被害者に対して抱いた強い恨みや憎しみを晴らすべく本件犯行に及んだものと認められる。被害者による虐待の内容やその期間に照らせば,被告人が被害者に対して強い憤りを抱いた点は同情すべきといえ,被告人の刑事責任を検討するに当たり相応に酌むことができる。しかし,その報復として殺害することが正当化されるものではない。被告人には,自らの被害者に対する憎悪や悪感情を和らげるためにとり得る手段が他に存在し,被害者殺害などという考えから距離を置くのに十分な機会があったにもかかわらず,本件を強行したことは,厳しく非難されなければならない。加えて,被告人は,被害者を見せしめとして殺害することが世の中の児童虐待の抑止につながると考えたことも犯行動機に挙げるが,そのような考えは浅はかで独りよがりというほかなく,この点から本件犯行が正当化されることもない。
以上によると,本件が同種事案の中で最も軽い部類に属するものではなく,当然に執行猶予を付すべきであるとまではいえない。その一方,主に経緯面において,実刑を選択することがためらわれる部分があることも否定し難い。その上で一般情状についてみると,被害者は,被告人が本件犯行に及んだ原因の一端が自身の虐待にあることを認めて示談を成立させ,被告人の厳しい処罰を望まず,許す旨述べている。また,被告人自身,本件について被害者や周囲に謝罪し,真摯に反省する旨述べるとともに,今後は家族や知人ら,医療機関に相談することで独りで不満を抱え込まないようにし,二度と罪を犯さない旨約束している。さらに,母親による支援や友人による雇用の予定など,被告人が社会内で更生するために有効な環境が存在する。そのほか,被告人が若年で前科前歴がないことなどの事情もある。
これらの事情をも総合的に考慮した結果,被告人に対して科すべき刑罰は,主文の懲役刑に処した上でその刑の執行を猶予することが相当であると判断した。検察官北野達也,同岡田和人,国選弁護人加畑裕一朗(主任)
,同沖田尚
出席
(求刑・懲役4年,包丁1本の没収)
令和元年12月25日
札幌地方裁判所刑事第3部

裁判長裁判官

駒田秀和
裁判官

山下智史
裁判官

牧野一成
各公判

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