判例検索β > 令和1年(ネ)第373号
事件番号令和1(ネ)373
裁判年月日令和元年12月23日
法廷名福岡高等裁判所
原審裁判所名福岡地方裁判所
原審事件番号平成29(ワ)2757
裁判日:西暦2019-12-23
情報公開日2020-01-28 16:00:18
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主文
1本件控訴をいずれも棄却する
2控訴人らの当審における追加請求をいずれも棄却する。
3当審における訴訟費用は,すべて控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ80万円及びこれに対する平成29年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被控訴人の非常勤職員であった亡A(以下亡Aという。
)の両親
である控訴人らが,亡Aが被控訴人を退職して約2年2か月後に自殺した(以下本件災害という。
)のは,在職中の上司のパワーハラスメントによってうつ
病を発症したのが原因であるから公務災害に当たるとして,
北九州市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例(北九州市条例昭和42年第50号。以下本件条例という。)に基づいて公務災害補償の実施機関である被控訴人の市長(以下,単に市長という。)に対して本件災害につき公務災害の認定又は確認を申請したにもかかわらず,
市長がこれに応答しなかったの
は,
市長その他の被控訴人の職員において,


地方公務員災害補償法
(以下
地公災法という。
)の規定に違反して,被災職員又はその遺族(以下被災職員等という。)から実施機関に対して公務災害か否かを認定又は確認してその結果を通知するよう求める権利を認めていない本件条例を制定,放置したこと,②本件条例の解釈及び運用を誤って,
本件条例が上記権利を認めていないものと誤
解し,本件災害について,公務災害か否かの認定又は確認をせず,その結果の通
知もしなかったこと,③

本件条例の施行規則(
北九州市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例施行規則(北九州市昭和43年規則
第106号)
。以下本件条例施行規則という。
)に違反して,本件災害につい
て,職員に報告をさせず,適切な調査等を行わなかったことによるものであり,その結果,控訴人らは,本件災害が公務災害か否かについて市長の認定又は確認を受け,その結果の通知を受けることに対する期待権を侵害され,精神的苦痛を被ったと主張して,被控訴人に対し,国家賠償法(以下国賠法という)1条1項に基づき,
慰謝料各80万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平
成29年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らは,これを不服と
して控訴を提起し,当審における予備的請求として,④
本件条例において,あ

らかじめ公務災害の認定を受ける手続を経なくても補償の請求をすることやその請求が認められない場合に北九州市公務災害補償等審査会(以下審査会という。
)に対して不服申立てをすることが可能であったとすれば,被控訴人の職員は,その旨を控訴人らに教示する義務があったのに,これを怠ったために,控訴人らは,
本件条例に基づく補償の請求をする機会やその請求が認められなかったことに対する不服申立ての機会を奪われ,精神的苦痛を被ったと主張して,同項に基づき,前同様の損害賠償を求める請求を追加した。
1前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
当事者等


亡A(昭和▲年▲月生まれ)は,平成24年4月,被控訴人の戸畑区役所の子ども・家庭相談コーナー相談員となり,平成25年1月頃,うつ病を発症し,同年3月31日をもって退職した後,北九州市教育委員会の特別支援教育相談センター(以下相談センターという。)において,嘱託職員(相
談員)として勤務しながら治療を続けていたが,平成27年▲月▲日,自殺した(甲4,弁論の全趣旨)
。亡Aは,非常勤の嘱託員として被控訴人に勤
務していたから,本件条例の適用を受ける職員
(本件条例2条本文)に
当たる。

控訴人B(以下控訴人Bという。
)と控訴人Cは,それぞれ亡Aの父
と母である。


市長は,亡Aの任命権者であり,本件条例(甲1)で定める公務災害補償の実施の責任を負う実施機関
(本件条例3条1項3号)に該当する。
関係法令等

関係法令等は,
【別紙1】のとおりである。
控訴人らが補償を請求するに至る経緯等

被控訴人は,亡Aがうつ病を発症した直後の平成25年1月23日,控訴人Bから,
亡Aの上司であるD係長の亡Aに対するパワハラがあったとの訴
えを受け,
担当部局である総務課において,
その直後から同年2月にかけて,
D係長を含む亡Aの複数の上司や同僚から事情を聴取するなどし,専門医の
助言も受けながら,D係長によるパワハラの事実の有無を調査した結果,D係長の指導が通常の範囲内のものであってパワハラの事実が認められない
との結論に達し,その頃,その旨を控訴人Bに回答したが,控訴人Bの納得は得られなかった。
(甲30,31,乙8ないし10,弁論の全趣旨)

控訴人らは,
本件災害が発生してから1年以上が経過した平成28年8月
末頃,被控訴人に対し,本件条例に基づき遺族補償給付を請求する予定である旨伝えた上で,請求の手続を問い合わせたところ,その際の被控訴人の担
当者による口頭での回答を,
市長が公務災害の認定をしない場合には本件条
例による補償の請求をすることはできず,
その請求が認められない場合でも
不服申立てができないという趣旨に理解した。
(甲2,弁論の全趣旨)

控訴人Bの委任を受けた代理人弁護士は,上記理解の下,平成28年9月4日付けで,市長に対し,
ご通知と題する書面(甲2)を送付し,その
中で,①

控訴人らが,地公災法25条2項に基づき,補償の請求をするこ
とができると解すべきこと,②

控訴人らが,地公災法70条1項及び本件

条例18条1項に基づき,
補償の実施に関して不服がある場合には審査会に
対する審査の申立てができると解すべきことを主張して,
市長の見解を糺す
趣旨の質問をし,同月23日までに文書で回答するよう求めた。(甲2)エ
市長は,上記書面に対する回答として,同月26日付けで,控訴人Bの代理人弁護士に対し,
ご通知について(回答)と題する書面
(甲3。
以下
回答書1という。
)を送付し,①

本件条例3条2項が,災害を公務上のも

のであると認めた場合に実施機関が権利者に通知すべき旨定めている一方,災害を公務上のものであると認めなかった場合にその旨を通知すべき旨を定めていないことや,地公災法70条の解説書において,同法69条の条例
に基づく非常勤職員に対する補償の実施は地方公共団体の使用者としての責任から行われるものであって,第三者である地方公務員災害補償基金(以下
基金
という。による常勤職員に対する補償の実施とは性格を異にし,

上記条例に基づく補償の内容について行政不服審査法の適用がない旨記載されていることからすると,上記条例において,被災職員等が実施機関に対
して災害が公務災害か否かの認定を求める請求権は,
認められていないと考
えられる旨,②

本件条例18条1項は,実施機関の行う公務上の災害又は

通勤による災害の認定,療養の方法,補償金額の決定その他補償の実施について不服がある者が審査会に対し審査申立てをすることができる旨を定めているが,本件災害については,市長が公務災害か否かの認定その他何らの
決定もしていないため,その決定の前に審査申立てを行うことは,審査の対象を欠く上,
被災職員等に公務災害の認定を求める請求権が与えられていな
いことに対する不服は,
本件条例に基づく制度そのものに対する不服であっ
て,審査会による裁決が可能な範囲を超えるため,審査申立てはできないと考えられる旨を回答した。


控訴人Bの代理人弁護士は,
平成29年3月7日付けで,
市長に対し,
ご通知と題する書面(甲4)を送付し,本件災害に関し,地公災法及び本件条例に基づき,遺族補償給付を支給するよう申請する旨通知するとともに,この申請に対して市長が受理した上で審査を行うのか,又は,却下等の処分によって受理せずに審査を行わないのかについて,
同書面到達後2週間以内
に回答するよう求め,それに添付された申請書と題する書面には,申請の趣旨として,控訴人Bが,被控訴人に対し,本件条例11条,14条及び15条に基づき,
亡Aの死亡について遺族補償一時金及び葬祭補償の支
給を申請する旨など,
遺族補償等の請求のための所要の事項が記載されてい
た。
(甲4)

これに対し,市長は,上記書面で2週間以内の回答を求められていたことから,
平成25年1月から2月にかけて行われた前記アの調査の結果やその後の亡Aの相談センターでの勤務状況等に基づいて対応することとし,平成
29年3月30日付けで,控訴人Bの代理人弁護士に対して,
通知書について(回答)と題する書面(甲5。以下回答書2という。)を送付し,

遺族補償等は,職員が公務上死亡した場合に支給されるものであり,実施機関により災害が公務により生じたものであることが認定される必要があるところ(本件条例3条2項)
,本件災害については,上記認定を行っていな
いことから,遺族補償等の支給を行うことができない旨回答した。(甲5)

控訴人らは,平成29年8月29日,被控訴人に対し,本件災害について遺族補償等の支給を求める訴訟(福岡地方裁判所平成29年(行ウ)第39号事件)を提起するとともに,本件訴訟を提起した。
(弁論の全趣旨)

本件条例施行規則の改正
本件条例施行規則2条及び3条は,
平成31年2月26日に施行された北九
州市平成30年規則第58号により,
【別紙2】のとおり改正された(以下,
この改正による本件条例施行規則を改正後の本件条例施行規則という。。)
これにより,実施機関は,被災職員等から災害が公務により生じた旨の申出があった場合も,
その指定する者に公務災害発生届により速やかに報告させるべ
きこと(改正後の2条後段)
,及び,実施機関は,当該報告に係る災害が公務
により生じたものではないと認定したときも,公務外災害認定通知書により,補償を受けるべき者に速やかに通知すべきこと(改正後の3条2項)が明記された。なお,改正後の本件条例施行規則の規定は,上記施行日前に発生した災害について,
被災職員等からその災害が公務により生じた旨の申出があった場
合や実施機関が公務等により生じたものでないと認定した場合にも適用されるが,本件災害について,同日以降に控訴人らが上記申出をしたり,市長が上記認定をしたりしたことはない。
(乙7,弁論の全趣旨)

2争点及び争点に関する当事者の主張
被控訴人の職員による本件条例の制定等に国賠法1条1項の違法があるか(争点



【控訴人らの主張】

本件条例の違法性
地公災法69条が条例で定める補償の制度と同法及び労働者災害補償保険法(以下労災保険法という。
)で定める補償の制度との均衡を求めて
いることに照らすと,
補償の内容だけでなく,
補償を受ける前提となる公務
災害の認定又は確認の手続についても,
両者の均衡が求められると解すべき
である。

地公災法25条2項は,
被災職員等から実施機関に対して補償の決定を請
求する抽象的補償請求権
(被災職員等から実施機関に対して災害が公務上の
ものか否かの認定を求め,
その結果を通知するよう求める権利)
を規定して
いる。
上記条例による補償の実施に関する不服申立て等について規定する地公災法70条や,
上記条例による補償について時効に関する地公災法63条

を準用する地公災法71条も,
被災職員等が実施機関に対して抽象的補償請
求権を有することを前提にしている。
また,仮に上記条例に基づく補償の制度が職権主義,すなわち,実施機関が被災職員等からの公務災害認定の請求を待つまでもなく,
職権で補償を実
施するというものであって,
災害が公務上のものである場合には,
被災職員
等が直ちに実施機関に対して具体的補償請求権を取得するとの仕組みを採用しているとしても,
同じく職権主義を採用している国家公務員災害補償制

度においては,申出権,すなわち,被災職員等が,実施機関に対して,所管の職員に災害について報告させ,
その災害が公務災害か否かを確認し,
その
結果を通知するよう申し出る権利が認められている(人事院規則16-0(職員の災害補償)20条後段,23条2項)

ところが,本件条例は,それに定める補償について,地公災法25条2項
の適用を除外し(16条)
,控訴人らが本件災害について市長に公務災害の
申出をした当時の本件条例施行規則は,
上記人事院規則の規定に相当する規
定も設けておらず,
被災職員等から実施機関に対して災害が公務災害か否か
を認定又は確認してその結果を通知するよう請求する権利
(抽象的補償請求
権)も申出をする権利(申出権)も認めていない。

このような本件条例で定める非常勤職員に関する補償の制度と地公災法で定める常勤職員に関する補償の制度とが均衡を欠いていることは明らかであり,本件条例16条は,両者の間の均衡を求める地公災法69条3項に違反し,違法である。

被控訴人の職員の違法行為
被控訴人の市長,市議会議員その他の職員は,前記のとおり,違法な本件条例16条を立案,
制定し,
その後もこれを是正せずに長年にわたり放置し
た。しかも,前提事実

のとおり,被控訴人の職員は,控訴人らから同条が

違法であるとの指摘を受けた後も,
他の地方自治体の条例を照会するなどの
適切な調査を行うこともなかった。
被控訴人の職員による上記行為は,
違法
な公権力の行使に該当し,故意又は重過失があるというべきである。【被控訴人の主張】
控訴人らの主張は否認し,争う。

そもそも,
地公災法69条3項の求める条例で定める補償の制度と同法及
び労災保険法で定める補償の制度との均衡は,
補償の内容の均衡,
すなわち,

支給される手当の種類,支給要件,金額等の均衡であり,補償を請求する手続を同様にすることまで意味するものではない。そして,本件条例が定める補償の内容は,
地公災法及び労災保険法が定める補償の内容と均衡の取れた
ものとなっている。
また,地公災法には,同法69条1項の条例において,被災職員等に対し
て控訴人らの主張する請求権や申出権を与えるよう義務付ける規定が存在しない。これは,常勤職員を対象とする地公災法の補償の制度では,実施機関が基金であって,使用者とは異なるために,被災職員等が実施機関に対する抽象的補償請求権に基づいて行政処分としての公務災害の認定を受けることによって初めて,
具体的補償請求権が発生するという請求主義が採られ

ている(地公災法25条2項)のに対し,非常勤職員を対象とする上記条例に基づく補償の制度では,実施機関と使用者が同一であるため,被災職員等が実施機関に対して公務災害の認定を請求しなくても,
実施機関が職権によ
り補償を実施するという職権主義が採られていることによる。
同じく職権主義を採る国家公務員災害補償制度においても,
人事院規則の

前記規定が設けられる前にあっては,実施機関は,被災職員等からの申出があった場合にも災害について報告させ,
災害について公務外の認定をした場
合にもその結果を被災職員等に通知すべきものとはされていなかった。したがって,
地公災法に基づく補償の制度と本件条例に基づく補償の制度
とが均衡を欠くとはいえない。

しかも,本件条例は,地公災法制定時に国から示された準則(昭和42年9月1日付け自治給第56号事務次官通知。
いわゆる
モデル条例
(甲8)
)
と同じ体裁で定められたものであり,
そのような本件条例が地公災法69条
の要請を満たしていることは,自明のことである。
したがって,本件条例16条の規定は,地公災法69条3項に違反するものではない。
なお,
上記条例による補償の実施に関する不服申立て等について規定する
地公災法70条の規定や,
上記補償について時効に関する地公災法63条の
規定を準用する地公災法71条の規定は,
本件条例の定める補償の制度にお
ける抽象的補償請求権の存在を前提とするものとは解されない。

仮に,本件条例の規定が違法性を有するとしても,本件条例の内容は,国が地公災法の制定に当たり同法の対象とならない非常勤職員らに適用すべ
きものとして示した前記準則に則ったものであり,本件条例を制定し,これを改正しなかったことについて,被控訴人の職員に過失はない。
被控訴人の職員が本件災害の公務災害該当性の認定について控訴人らに請求権又は申出権がないとの解釈,
運用をしたことに国賠法1条1項の違法があ
るか
【控訴人らの主張】

公務災害認定についての請求権又は申出権の存在
仮に本件条例16条が本件条例で定める補償の制度について地公災法25条の適用を除外していること自体が地公災法69条3項に違反するもの
でないとしても,その適用除外の趣旨は,むしろ,実施機関が被災職員等の公務災害の認定の請求や申出を待つことなく職権で補償の手続を開始し,迅
速で手厚い補償を実施することにある。そして,本件条例の基となった準則(モデル条例)が,条例に基づく補償の認定について,地公災法に基づく補償の認定と均衡を失わないようにすべきであるとしていること,
職権主義を

採っている国家公務員災害補償制度においても,
被災職員等に災害の報告の
申出権が認められ,
実施機関には公務外災害の認定をした場合にも被災職員
等に通知する義務があるとされていること,
本件条例施行規則7条及び9条
が被災職員等の補償支給の請求権と実施機関の審査結果の通知義務を規定していること,
他の多くの地方公共団体が被災職員等による公務災害の申出
権を認める運用をしていること,地公災法70条,71条は,公務災害該当性の認定について被災職員等に請求権又は申出権があることを前提とする
規定であること等にも照らせば,本件条例についても,被災職員等には,実施機関に対して,災害が公務上のものか否かの認定又は確認を求め,その結果の通知を求める権利があるとの解釈及び運用がされるべきであった。イ
被控訴人の職員の違法行為
ところが,被控訴人の職員は,本件災害について公務災害か否かの認定又
は確認を行わず,その結果を控訴人らに通知しなかったところ,これは,故意又は過失により,本件条例の解釈及び運用を誤ったものである。【被控訴人の主張】
控訴人らの主張は否認し,争う。
市長は,回答書1において,本件条例が被災職員等に公務災害該当性の認定
を求める請求権を認めていないこと,
市長は本件災害が公務災害に当たるかど
うかを認定しておらず不服申立ての対象がないことから,
その旨回答したもの
であり,その対応に違法はない。本件条例には,国家公務員災害補償制度と異なり,
災害の報告についての被災職員等からの申出の規定や公務外認定がされた場合の被災職員等に対する通知の規定はないし,そもそも,市長は本件災害について公務災害に該当するかどうかを認定していないから,
いずれにしても,
その結果を通知する義務はない。
市長が職員に本件災害について本件条例施行規則2条に基づく報告をさせなかったことに国賠法1条1項の違法があるか

【控訴人らの主張】

本件条例施行規則2条に基づく報告義務の内容
本件条例施行規則2条は,
実施機関がその指定する職員に対し公務上のも
のと疑われる災害を報告させなければならないという趣旨である。市長は,前提事実

のとおり,
平成28年8月末頃に控訴人らから本件災害に関する

連絡を受け,
公務災害と疑われる災害が発生したことを認知したのであるか
ら,
本件事故について指定の職員に本件条例施行規則2条に基づく報告を行
わせる義務があり,当該職員にはその報告をする義務があった。

被控訴人の職員の違法行為
ところが,市長は,本件災害について,その指定する職員に本件条例施行規則2条に基づく報告をさせず,
控訴人らから災害の内容を聴取することも

せず,当該職員もその報告をしなかった。被控訴人の職員のかかる対応は,故意又は過失により,本件条例施行規則2条に違反したものである。【被控訴人の主張】
控訴人らの主張は否認し,争う。
被控訴人の担当課の職員は,
亡Aがうつ病を発症した後の平成25年1月か

ら2月にかけて,当時の亡Aの上司や同僚から事情を聴取するなどして,当事の上司の亡Aに対する指導等について調査を実施し,
それが通常の範囲を逸脱
するものではないことを確認した。その後,亡Aは,相談センターにおいて,2年間にわたり通常勤務をしていた。市長及び被控訴人の職員は,上記調査の結果及びその後の相談センターでの勤務の状況を踏まえ,
本件災害の原因が当

時の上司の行為による強いストレスを受けたことに起因するものではないと認識していた。このような経緯を勘案すれば,本件災害が公務災害と疑われる災害に当たらないのは明らかであり,市長には,本件事故について,被控訴人の職員に本件条例施行規則2条に基づく報告をさせる義務はなかったし,当該
職員にもその報告をする義務はなかった。

被控訴人の職員の控訴人らに対する本件条例に基づく補償請求に関する手続の教示に国賠法1条1項の違法があるか
【控訴人らの主張】
被控訴人の職員は,
本件災害について公務災害の認定を受けなくても実施機関
に対して補償の実施を求めることができるというのであれば,控訴人らに対し,その旨教示する義務があったところ,回答書2おいて,公務災害認定を行っていない以上は遺族補償等の支給を行えないとの誤った回答をし,
上記義務を怠った。
また,被控訴人の職員は,本件災害について,あらかじめ公務災害の認定を受ける手続を経ていなくても,本件条例に基づき,遺族補償等を請求し,これが認められない場合には本件条例18条に基づく審査の申立てができるというのであれば,控訴人らに対してその旨教示すべき義務があったところ,回答書1にお
いて,公務災害の認定がされていない以上は,対象となる決定が存在しないから本件条例に基づく審査の申立てはできないとの誤った回答をし,
上記義務を怠っ
た。
被控訴人による誤った上記回答は,適切な教示を行う義務に違反し,国賠法上も違法の評価を受けるものである。

【被控訴人の主張】
控訴人らの主張は争う。
控訴人らが指摘する回答書2の記載は,
実施機関により災害が公務災害と認定
されていないから補償の実施ができないとの当然のことを述べたものにすぎない。また,控訴人らが指摘する回答書1の記載は,被災職員等から実施機関に対
して災害の公務災害該当性について認定を求める請求権がないこと,実施機関に
より災害の公務災害該当性の認定がされる前に審査会に対してその認定に対する不服申立てができないことという当然のことを述べたものにすぎない。あらかじめ公務災害認定の手続を経ることなく補償の請求をすること,その請
求に対する実施機関の判断に対して審査会に対する不服申立てをすることがで
きるとしても,
地公災法及び本件条例には行政不服審査法におけるような教示制
度がないから,そのことを被災職員等に教示する義務があるとはいえないし,控訴人ら自身本件訴訟においてこれと異なる見解を主張して被控訴人の主張に反論しているのであるから,
被控訴人が上記のとおりの教示をしなかったことに過
失はない。
控訴人らに生じた損害の内容及び相当な慰謝料額はいくらか(争点)

【控訴人らの主張】
被控訴人の職員の違法行為の結果,控訴人らは,市長
に対して,本件災害について公務災害認定の請求又は申出をしながら,市長から,本件災害が公務災害か否かの認定又は確認を受けられず,その結果の通知も受けられなかったものであり,
本件災害の公務災害該当性について市長の判

断を受けることに対する期待権を侵害され,精神的苦痛を被った。控訴人らは,本件災
害について遺族補償等を請求する機会や審査会に対する審査の申立てをする機会を奪われ,精神的苦痛を被った。
これらの精神的苦痛に対する慰謝料は,各控訴人につき,80万円を下ら
ない。
【被控訴人の主張】
控訴人の主張は否認し,争う。
被控訴人は,本件災害について詳細に調査した結果,亡Aが公務上死亡したとは認められないと判断し,控訴人らに対して補償に応じられない旨を伝え,
控訴人らの問合せに対しても適切に対応した。仮に,被控訴人が公務災害該当性の認定を誤ったとしても,控訴人らは,亡Aの死亡が公務災害に該当するのであれば直ちに具体的な補償請求権を取得するから,
その旨を主張して裁判所
に給付の訴えを提起することによって,
本件条例の定める補償を受けられるの
であって,控訴人らの主張するような期待権や機会の侵害はない。
第3当裁判所の判断
1争点(被控訴人の職員による本件条例の制定等に国賠法1条1項の違法があるか)について
本件条例16条が地公災法69条3項等に違反するとの主張についてア
控訴人らは,
地公災法69条3項が同条1項の条例で定める補償の制度と
同法及び労災保険法で定める補償の制度との均衡を求めている点について,補償の内容だけでなく,
補償支給の前提となる公務災害の認定又は確認の手

続についても,両者の均衡が求められるとの前提に立って,本件条例16条が本件条例で定める補償の制度に適用される地公災法の規定から同法25条2項を除外している点において,
同法69条3項の規定に違反すると主張
する。
しかし,同項が,常勤職員に対する公務災害補償制度と非常勤職員に対す
るそれとでは,実施機関などに違いがあり,それに伴って公務災害の認定手続も異なったものになることを当然の前提としているものと考えられることや,
同項が地公災法だけでなく労災保険法との均衡も求めていることからすると,同項は,同条1項の条例で定める補償の内容がこれらの法律に定める補償の内容と均衡のとれたものであるべきことを規定したものと解され
る。そして,本件において,本件条例に定める補償の内容(支給される手当の種類,支給要件,金額等)がこれらの法律に定めるそれと均衡を欠いていることについては,何らの主張立証もない。
そうすると,まずこの点で,本件条例16条が地公災法69条3項に違反するとの控訴人らの主張は,採用することができない。


上記の点は措くとしても,そもそも,地公災法25条2項において,常勤職員の公務災害補償が被災職員等の請求に基づいて行われる旨を定めているのは,
当該補償が使用者である地方公共団体に代わり基金を実施機関として実施されることから(地公災法1条,3条)
,被災職員等による請求がな

ければ実施機関において公務災害の発生を認識できないことによるものであり,
被災職員等は,
基金により公務災害認定の請求に係る災害が公務によ
り生じたものであると認定されることによって(同法45条1項),初めて
具体的な補償請求権を取得することになると解される。
これに対し,本件条例においては,非常勤職員の公務災害について,被災職員の任命権者である市長自身が実施機関となるとされているから(本件条
例3条1項)
,実施機関は,被災職員等の請求を端緒とすることなく自ら公

務災害の発生を認識して補償を実施することとされており,
公務災害と認め
られる災害が発生した場合には,
その指定する職員から公務災害発生届によ
る報告をさせ(本件条例施行規則2条)
,認定委員会(本件条例4条)の意
見を聴いてその災害が公務により生じたものであるかどうかを認定し,公務
により生じたものであると認定したときは,
被災職員等に通知することとさ

れている一方(本件条例3条2項,本件条例施行規則3条)
,実施機関が公
務災害該当性の認定,通知を行わない場合であっても,被災職員等は,本件条例の定め自体を根拠として,
本件条例施行規則7条の定める方法によって,
補償の請求をすることができ,請求を受けた実施機関は,同規則9条に基づいて,これを審査し,補償に関する決定を行い,速やかに請求者に書面でそ
の決定に関する通知をするとともに,
補償を行わなければならないものとさ
れている。
すなわち,本件条例に定める補償では,被災職員等は,公務災害の発生をもって直ちに具体的な補償請求権を取得するのであって,
地公災法に定める
補償のように,
まず抽象的補償請求権に基づいて実施機関に公務災害の認定

を請求する必要があり,
その認定を受けなければ具体的な補償請求権を取得
することができないという関係にはない。

また,地公災法70条は,同法69条1項の条例に定める補償の実施に関する不服申立てについて規定し,これを受けて,本件条例18条は,補償の実施について不服がある者は,審査会に対し,審査を申し立てることができるとしているのであり,
およそ補償の実施について不服があれば審査の
申立てが可能であるとしているのであるから,
実施機関が公務災害に該当し
ないとして被災職員等の補償請求権を否定する判断をした場合だけでなく,実施機関が被災職員等から補償請求を受けながら公務災害認定手続を開始せずに補償請求に応じない場合も,
補償の実施がされない点では同様である
から,被災職員等は,本件条例18条に基づく審査を申し立て,その手続に
おいて公務災害該当性が認定されるべき旨を主張して,
審査会の裁定による
救済を受けることが可能であると解される。
その場合,
実施機関による公務災害認定手続における判断と審査会の裁定
はいずれも事実上簡易迅速に解決するための措置であって拘束力を有しない点で同じであるから,
審査の申立てを受けた審査会の裁定において公務災

害該当性についての判断がされる以上,
重ねて実施機関による公務災害認定
手続における判断結果が示されることについて,
被災職員等に法的利益があ
るということもできない。
したがって,
本件条例が被災職員等から実施機関に対して公務災害の認定
自体を求める請求や申出をして,
それの結果の通知を受ける権利を認めてい

ないとしても,
地公災法70条に定める不服申立ての制度として欠けるとこ
ろはなく,同条が上記権利の存在を前提としているということはできない。エ
さらに,控訴人らは,地公災法71条により本件条例に定める補償について準用される地公災法63条が,
抽象的補償請求権の消滅時効を規定したも

のであるとして,地公災法71条は,本件条例に定める補償についても,被災職員等に抽象的補償請求権が認められることを前提とするものである旨主張する。
しかし,
地公災法63条が抽象的補償請求権のみの消滅時効について規定
した条文であると断じることはできず,
このことは,
職権主義を採る国家公

務員災害補償法28条にも,
地公災法63条とほぼ同様の消滅時効の規定が
あることからも明らかというべきである。
そうすると,地公災法71条が,同法63条を本件条例に定める補償制度に準用していることから,
直ちに同制度における抽象的補償請求権の存在を
前提としているものとはいえず,
控訴人らの上記主張は採用することができ
ない。

以上のとおり,
本件条例16条が地公災法25条2項を本件条例に定める
補償に適用される地公災法の条文から除外していることが,
同法69条3項
等に違反するとする控訴人らの主張は,いずれも採用することができない。なお,控訴人らは,本件条例が,その16条において地公災法25条2項を
適用除外としているのみならず,それに代わるものとして,国家公務員災害補償制度に関する人事院規則16-0が規定するような被災職員等の申出による災害の報告や公務外認定がされた場合の被災職員等に対する通知に関する規定を欠いていることも,
本件条例が地公災法69条3項に違反することの根
拠として指摘する。
しかし,地公災法69条3項は,同条1項の条例に基づく補償制度と国家公
務員災害補償制度との間における公務災害の認定又は確認の手続の均衡について規定したものではないし,国家公務員災害補償制度においても,上記人事院規則の規定が設けられるまでは,
被災職員等の申出による報告や公務外認定
をした場合の被災職員等への通知を義務付ける規定は存在せず,
これらの規定
は,
被災職員等の手続上の便宜を図るためのものであると解されることからす
ると,控訴人らの上記指摘は当たらないというべきである。
以上のとおり,
本件条例16条が地公災法25条2項の規定を本件条例に基
づく補償に適用される同法の条文から除外し,
本件条例が被災職員等に対して
国家公務員災害補償制度に関して前記人事院規則が規定する申出や通知に関する規定を置いていないからといって,
直ちに本件条例で定める補償が地公災

法や労災保険法で定める補償と均衡を失するものとして,
地公災法69条3項
等に違反するということはできない。
本件条例施行規則2条及び3条は,平成30年
に【別紙2】のとおり改正され,実施機関が被災職員等の申出があった場合にも職員に災害について報告させ,
災害について公務外認定をした場合にも被災
職員等に通知すべきこととされたが,このような改正がされたからといって,それ以前に本件条例16条の規定を制定し,
改正しなかったことが違法になる
ものということはできない。
そして,他に,被控訴人の職員が本件条例で定める補償への地公災法25条2項の適用除外を規定した本件条例16条を制定し,
その後これを改正しなか
ったことに,
本件条例制定に当たっての裁量を逸脱した違法があることを認め

るに足りる証拠はない。
そうすると,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の職員が本件条例を制定したことが国賠法上違法な公権力の行使に当たるということはできない。

2争点(被控訴人の職員が本件災害の公務災害該当性の認定について控訴人らに請求権又は申出権がないとの解釈,
運用をしたことに国賠法1条1項の違法が
あるか)について
控訴人ら主張の請求権又は申出権について
控訴人らは,本件条例においても,解釈上,被災職員等に公務災害認定の請
求権又は申出権が認められるべきである旨主張する。
しかし,控訴人らがその根拠として挙げる点を併せ考慮しても,本件条例について控訴人ら主張のような公務災害該当性についての実施機関の判断を求める請求権又は申出権を認めない被控訴人の職員の解釈及び運用に違法があるということはできない。

すなわち,前記説示のとおり,地公災法と本件条例との間の公務災害認定手続の差異は,
公務災害の発生によって直ちに具体的請求権を取得するか否かの
違いに起因するものであり,均衡が害されているとはいえない。また,実施機関が自ら進んで公務災害を把握し,
その責任において補償を行うものとする職
権主義を採用する国家公務員災害補償制度において,
かつては公務外認定をし
た場合に被災職員等への通知義務を課す規定は存しなかったのであり,職権主
義の下では,
公務外認定をした場合に被災職員等への通知が当然に義務付けら
れるということはできない。さらに,本件条例施行規則7条,9条が規定するのは,具体的補償請求権に基づく補償の請求及び支給の方法についてであり,それらの規定が公務災害該当性自体についての認定を求める請求権や申出権の根拠になるものではない。なお,他の地方公共団体の多くが被災職員等によ
る公務災害の申出を認める運用をしているのか否かは未だ判然としないし,そ
のような運用が認められるとしても,
直ちに被控訴人の職員による本件条例の
解釈や運用の違法性を基礎付けるものとはいい難い。加えて,前記説示のとおり,地公災法70条や71条が,被災職員等に公務災害該当性自体についての認定の請求権や申出権があることを前提とした規定であるとも解されない。
被控訴人の職員の対応の適否について
前提事実

のとおり,
控訴人らが本件災害が公務災害に該当するとの申出を

したのに対し,市長は,回答書1をもって,控訴人らに公務災害の認定自体についての請求権はないと回答したが,その後,控訴人らから本件条例11条,14条及び15条に基づく遺族補償等の支給を請求された際には,回答書2を
もって,
亡Aの自殺が公務上のものであると認定されていないことを理由に請求を拒む回答をしている。
このような市長の対応は,
公務災害該当性についての認定自体を求める控訴
人らの請求又は申出に対しては,
本件条例において被災職員等にその認定を求
める請求権や申出権は認められていないことを理由として結果の通知をせず
(なお,回答書1が控訴人Bの代理人弁護士に対して送付された時点では,控訴人らによる遺族補償等の支給を求める請求はされていなかったのであるから,被控訴人が回答書1をもって否定したのは,公務災害該当性についての認定自体を求める請求権及びその認定をしないことに対する不服申立権であり,控訴人らの遺族補償等を求める具体的補償請求権の存在を否定したものでないことが明らかである。,
)被控訴人が回答書2をもって遺族補償等を求める具
体的補償請求権を否定したのは,その時点において,市長が本件災害の公務災害該当性を認める判断をしておらず,市長による公務災害の認定がない以上,控訴人らに対して補償を実施することができない旨を回答したものであって,これらは,本件条例3条2項,本件条例施行規則3条及び9条に則ったものであると認められる(なお,控訴人らが,遺族補償等を求める請求に対する市長
の回答書2における判断に対しては,
本件条例18条に基づく審査を申し立て
ることは妨げられないものと解され,
同回答書にもそれが許されない旨の記載
はない。。

したがって,
被控訴人の職員が本件条例の解釈及び運用を誤ったということ
はできない。
本件条例施行規則2条及び3条は,北九州市平

成30年に【別紙2】のとおり改正されて平成31年2月26日から施行されたところ,これらの改正後の規定は,上記施行日前に発生した災害について,実施機関が,
同日以降,
被災職員等から公務により生じた旨の申出を受けたり,
公務外認定をした場合にも適用されると解されるが,本件災害について,同日以降に控訴人らが上記申出をしたり,
市長が上記認定をしたりしたことはない
から,市長が本件災害について改めて指定の職員に本件災害の報告をさせず,控訴人らに対して公務外認定の通知をしなくても,
上記規定に違反することに
はならない。
以上のとおり,控訴人らの

主張を採用することはできな

い。
3争点

市長が職員に本件災害について本件条例施行規則2条に基づく報告をさせなかったことに国賠法1条1項の違法があるか)について
本件条例施行規則2条は,実施機関が,その所管に属する職員について,公務により生じたと認められる災害が発生した場合は,その指定する者に,公務災害発生届により速やかに報告させなければならない旨を規定する。
この規定は,文言上,実施機関において災害が公務により生じたと認められると判断した場合に適用されるものであることが明らかである。
また,仮に,実施機関において災害が公務災害と認められると判断しなかったことに誤りがあったとしても,この規定による報告は,実施機関が公務上発生したものか否かを認定する内部的な手続を開始するためのものであって,直ちに被

災職員等の法的地位に影響を及ぼすものではなく,前記説示のとおり,本件条例で定める補償の制度においては,被災職員等は,実施機関から本件災害が公務災害該当性についての認定の通知がされなくても,
本件条例や本件条例施行規則に
定める手続によって不服を申し立て,
訴訟によって被控訴人に対して補償の請求
をすることも可能である。

したがって,実施機関が上記報告をさせなかった場合に,それが直ちに被災職員等に対する関係で国賠法1条1項の違法を帯びることになるとはいえない。についての主張は採用することができない。
4争点

被控訴人の職員の控訴人らに対する本件条例に基づく補償請求に関す
る手続の教示に国賠法1条1項の違法があるか)について
控訴人らは,本件条例で定める補償の制度において,あらかじめ実施機関による公務災害の認定を受けてなくても直ちに実施機関に対して具体的補償請求権に基づく補償の請求をすることができ,また,補償の請求が認められない場合に本件条例18条に基づく審査の申立てができるというのであれば,被控訴人の職員には,回答書1,2において,そのような補償の請求や不服申立てができない
との誤った手続教示をした違法があるなどと主張する。
しかし,前記前提事実

によれば,回答書1は,未だ具体的補償請求権に基づ
く請求がされていない段階で,本件条例において,被災職員等が実施機関に対して災害が公務上のものか否か自体についての認定を求める請求権を認めていないことや,本件災害については,市長が公務災害該当性について何らの決定もしていないため,その決定に先んじて審査の申立てをすることができないことを述べるものであって,前記説示したところによれば,そのこと自体に誤りがあるとはいえない。
また,
控訴人らからの具体的補償請求権に基づく遺族補償等の請求に対する回答のために作成された回答書2は,
本件災害について公務災害該当性についての
認定がされていないために請求に応じられないとの回答をしたものであり,この

回答に対する本件条例18条に基づく審査の申立ての可否については触れていないものの,その内容自体に誤りがあるとはいえない。
そして,
本件条例に基づく具体的な補償の請求やそれについての審査の申立てには,期間制限がなく,短期間のうちに補償の請求権や不服申立ての機会を失うわけではない上,
控訴人らが当時から委任していた弁護士からも法的な助言を受

けることが可能であったことにも照らすと,被控訴人の職員に,控訴人らがあらかじめ公務災害の認定手続を経なくても実施機関に対して具体的な補償の請求をすることが可能であることや,
それが拒否された場合に本件条例18条に基づ
く審査申立てが可能であることについて,
控訴人らに教示する義務があったとい
うことはできない。

しかも,
控訴人らは,
市長から回答書1を受け取った後の平成29年3月には,
代理人弁護士に委任して自らの判断で被控訴人に対して遺族補償等の請求をしたのであり,
市長からこの請求に応じられない旨の回答書2を受け取ったことに対しても,
同年8月に遺族補償等の支給を求める訴訟を提起しているのであるから,控訴人らが,上記各回答書の内容が前記認定のようなものであったことによ
って,何らかの損害を被ったともいえない。
したがって,争点

についての控訴人らの主張は採用できない。
第4結論
そうすると,原審における控訴人らの請求は,いずれも理由がないというべきであり,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,当審における控訴人らの追加請求も理由がないから,これを棄却することとして主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

矢尾渉
裁判官

佐藤拓海
裁判官

村上典子
【別紙1】

1
地公災法
1条(この法律の目的)
この法律は,地方公務員等の公務上の災害(負傷,疾病,障害又は死亡をいう。以下同じ。
)又は通勤による災害に対する補償(以下補償という。
)の迅速かつ
公正な実施を確保するため,
地方公共団体等に代わって補償を行う基金の制度を設
け,その行う事業に関して必要な事項を定めるとともに,その他地方公務員等の補
償に関して必要な事項を定め,
もって地方公務員等及びその遺族の生活の安定と福
祉の向上に寄与することを目的とする。
2条(定義)
1項

この法律で職員とは,次に掲げるものをいう。

1号
常時勤務に服することを要する地方公務員(
(略)


2号

一般地方独立行政法人(
(略)
)の役員((略))及び一般地方独立行政法

人に使用される者で,
一般地方独立行政法人から給与を受けるもののうち常
時勤務することを要する者((略))
2項~14項

(略)

3条(設置)
1項

職員についてこの法律(第7章を除く。
)に定める補償を実施し,並びに

公務上の災害又は通勤による災害を受けた職員
(以下この項及び第47条にお
いて
被災職員
という。の社会復帰の促進,

被災職員及びその遺族の援護,
公務上の災害の防止に関する活動に対する援助その他の職員及びその遺族の福祉に必要な事業を行うため,
地方公務員災害補償基金
(以下
基金
という。

を設置する。
2項

基金は,法人とする。
24条(補償の実施)
1項

基金は,この章に規定する補償の事由が生じた場合に,この法律に定める
ところにより,補償を受けるべき職員若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し,補償を行う。
2項

(略)

25条(補償の種類等)
1項

基金の行う補償の種類は,次に掲げるものとする。

1号
2号

休業補償

3号

傷病補償年金

4号

療養補償

障害補償

障害補償年金


障害補償一時金

5号
介護補償

6号

遺族補償
イロ
遺族補償一時金

7号

遺族補償年金

2項
葬祭補償
前項各号((略))に掲げる補償は,当該補償を受けるべき職員若しくは遺
族又は葬祭を行う者の請求に基づいて行う。
45条(補償の手続)
1項

基金は,
この章の規定による補償((略))を受けようとする者から補償の請
求を受けたときは,
その補償の請求の原因である災害が公務又は通勤により生
じたものであるかどうかを速やかに認定し,
その結果を当該請求をした者及び
当該災害を受けた職員の任命権者に通知しなければならない。
2項

基金は,前項の規定による認定をするに当たっては,災害を受けた職員の任命権者の意見をきかなければならない。
3項

基金は,傷病補償年金を支給する旨の決定をしたときは,その旨を傷病補
償年金を受けるべき者及び当該傷病補償年金に係る職員の任命権者に通知しなければならない。
51条(審査請求等)
1項

基金が行う補償に関する決定(次項の決定を除く。)に不服がある者は,
地方公務員災害補償基金審査会(以下審査会という。)に対して審査請求をすることができる。
2項
基金の従たる事務所の長が行う補償に関する決定に不服がある者は,地方

公務員災害補償基金支部審査会(以下支部審査会という。)に対して審査請求をし,その裁決に不服がある者は,更に審査会に対して再審査請求をすることができる。
3項~5項

(略)

56条(審査請求の前置)
第51条第1項又は第2項に規定する処分の取消しの訴えは,
当該処分について
の審査請求に対する審査会又は支部審査会の裁決を経た後でなければ,提起するこ
とができない。
63条(時効)
補償を受ける権利は,2年間(障害補償及び遺族補償については,5年間)行な
わないときは,時効によって消滅する。
69条(非常勤の地方公務員等に係る補償の制度)
1項

地方公共団体は,条例で,職員以外の地方公務員((略))のうち法律(労働
基準法を除く。)による公務上の災害又は通勤による災害に対する補償の制度が定められていないものに対する補償の制度を定めなければならない。2項

(略)

3項

第1項の条例で定める補償の制度(略)は,この法律及び労働者災害補償保険法で定める補償の制度と均衡を失したものであってはならない。70条(不服申立て等)
1項

前条第1項の規定に基づく条例による補償の実施に関して不服がある者
は,当該地方公共団体の条例の定めるところにより,審査を申し立てることができる。

2項

(略)

71条(職員に関する規定の準用)
(略)第63条の規定は,第69条第1項の規定に基づく条例による補償について準用する。
(略)
2
本件条例
1条(目的)
この条例は,地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号。以下法という。)第69条及び第70条の規定に基づき,議会の議員その他非常勤の職員の
公務上の災害(負傷,疾病,障害又は死亡をいう。以下同じ。)又は通勤による災害に対する補償(
(略)
)に関する制度等を定め,もって議会の議員その他非常勤の職
員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。2条(職員)
この条例で職員とは,
(略)
,非常勤の調査員及び嘱託員,
(略)で次に掲げ

る者以外の者をいう。
(略)
3条(実施機関)
1項
2項

(略)
実施機関は,
職員について公務または通勤により生じたと認定される災害

が発生した場合には,
その災害が公務または通勤により生じたものであるかど
うかを認定し,公務または通勤により生じたものであると認定したときは,すみやかに補償を受けるべき者に通知しなければならない。
3項

実施機関は,
前項の規定による災害が公務または通勤により生じたもので

あるかどうかの認定をしようとするときは,
北九州市公務災害補償等認定委員
会(以下認定委員会という。
)の意見をきかなければならない。
4条(認定委員会)
1項

市に認定委員会を置く。

2項

認定委員会は,委員5人をもって組織する。

3項

委員は,学識経験を有する者のうちから市長が委嘱する。

4項~9項
(略)

6条(補償の種類)
療養補償
休業補償
傷病補償年金
障害補償

障害補償年金


障害補償一時金
介護補償
遺族補償


遺族補償年金


遺族補償一時金
葬祭補償

11条(遺族補償)
職員が公務上死亡し,または通勤により死亡した場合においては,遺族補償として,その遺族に対して,遺族補償年金または遺族補償一時金を支給する。14条(遺族補償一時金)
1項

(略)
2項

遺族補償一時金を受けることができる遺族は,
職員の死亡の当時において

次の各号の一に該当する者とする。
(略)
職員の収入によって生計を維持していた子,父母,孫,祖父母および兄弟姉妹

(略)
第2号に該当しない子,父母,孫,祖父母および兄弟姉妹
3,4項

(略)

15条(葬祭補償)
職員が公務上死亡し,または通勤により死亡した場合においては,葬祭を行なう者に対して,葬祭補償として,通常葬祭に要する費用を考慮して規則で定める金額を支給する。
16条(この条例に定めがない事項)
この章に定めるもののほか,補償に関し必要な事項については,法第3章(法第
24条,第25条,第39条の2,第45条及び第46条を除く。)の規定の例に
よる。
18条(審査)
1項

実施機関の行なう公務上の災害または通勤による災害の認定,
療養の方法,

補償金額の決定その他補償の実施について不服がある者は,
北九州市公務災害
補償等審査会(以下審査会という。
)に対し,審査を申し立てることがで
きる。
2項

前項の申立てがあったときは,審査会は,すみやかにこれを審査して裁定
を行ない,これを本人及びその者に係る実施機関に通知しなければならない。19条(審査会)
1項

市に審査会を置く。

2項

審査会は,委員3人をもって組織する。
3項

委員は,学識経験を有する者のうちから市長が委嘱する。

4項~9項

(略)

20条(報告,出頭等)
1項

実施機関は,補償の実施または審査のため必要があると認めるときは,補
償を受け,
もしくは受けようとする者またはその他の関係人に対して報告をさ
せ,文書その他の物件を提出させ,出頭を命じ,または医師の診断もしくは検案を受けさせることができる。
2項

3
(略)

本件条例施行規則(平成30年規則第58号による改正前のもの)1条の2(公務上の災害の範囲)
公務上の災害の範囲は,公務に起因する負傷,障害及び死亡(略)とする。2条(災害の報告)
実施機関は,その所管に属する職員について,公務または通勤により生じたと認
められる災害が発生した場合は,その指定する者に,公務災害発生届または通勤災害発生届によりすみやかに報告させなければならない。
3条(認定および通知)
実施機関は,前条の報告を受けたときは,認定委員会の意見を聞いてその災害が公務または通勤により生じたものであるかどうかを認定し,
公務により生じたもの

であると認定したときは公務災害補償通知書により,
通勤により生じたものである
と認定したときは通勤災害補償通知書により,補償を受けるべき者に,すみやかに条例第3条第2項の規定による通知をしなければならない。
7条(補償の請求方法)
補償((略))を受けようとする者は,次の各号に掲げる補償の種類に応じ,当該
各号に定める請求書を,
(略)第2号から第16号までに掲げる補償にあっては職
員の勤務する公署(職員が死亡し,又は離職した場合にあっては,その死亡又は離職の直前に勤務した公署)を経由して実施機関に提出しなければならない。(略)
遺族補償一時金
葬祭補償

遺族補償一時金請求書

葬祭補償請求書

(略)

9条(補償の支給方法)
実施機関は,補償の請求書を受理した場合には,これを審査し,補償に関する決定を行ない,すみやかに請求者に書面でその決定に関する通知をするとともに,補償を行なわなければならない。
21条(審査の申立て)

1項

補償の実施について不服がある者が条例第18条第1項の規定により審
査を申し立てようとするときは,書面でしなければならない。
2項

4
(略)

国家公務員災害補償法
8条職員が公務上の災害又は通勤による災害を受けた場合においては,実施機関
は,補償を受けるべき者に対して,その者がこの法律によって権利を有する旨をすみやかに通知しなければならない。
24条(補償実施に関する審査の申立て等)

1項

実施機関の行なう公務上の災害又は通勤による災害の認定,療養の方法,
補償金額の決定その他補償の実施について不服がある者は,
人事院規則に定め
る手続に従い,人事院に対し,審査を申し立てることができる。
2項

前項の申立てがあったときは,人事院は,すみやかにこれを審査して判定
を行い,これを本人及びその者に係る実施機関に通知しなければならない。3項

第1項の規定による審査の申立ては,時効の中断については,裁判上の請
求とみなす。
28条(時効)
補償を受ける権利は,
2年間
(傷病補償年金,
障害補償及び遺族補償については,
5年間)
行わないときは,
時効によって消滅する。
ただし,
補償を受けるべき者が,
この期間経過後その補償を請求した場合において,
実施機関が第8条の規定により,
補償を受けるべき者に通知をしたこと又は自己の責めに帰すべき事由以外の事由
によって通知をすることができなかったことを立証できない場合には,この限りで
ない。

5
人事院規則16-0(職員の災害補償)
8条(補償事務主任者)
1項

実施機関の長は,人事院の定める組織区分(内部組織の構成等により必要
があると認める場合にあっては,当該組織区分を細分した組織区分)ごとに,それぞれの組織に属する職員のうちから補償事務主任者を指名しなければならない。
2項

補償事務主任者は,実施機関の長の指示に従い,補償の実施を円滑にする
ように努めなければならない。
20条(公務上の災害又は通勤による災害の報告)
補償事務主任者は,
その所管に属する職員について公務上の災害又は通勤による
災害と認められる死傷病が発生した場合は,
人事院が定める事項を記載した書面に
より,速やかに実施機関に報告しなければならない。負傷し,若しくは疾病にかかった職員又は死亡した職員の遺族(以下被災職員等という。)からその災害が公務上のものである旨の申出があった場合又は次条の規定による申出があった場合も,同様とする。
22条(災害の認定)

1項

実施機関は,第20条の規定による災害の報告を受けたときは,その災害
が公務上のものであるかどうか又は通勤によるものであるかどうかの認定を速やかに行わなければならない。(略)
2項

(略)

23条(補償を受けるべき者等に対する通知)
1項
実施機関は,前条の規定により,災害が公務上のもの又は通勤によるも
のであると認定したときは,別表第3又は別表第4に定める様式の書面により,補償を受けるべき者に速やかに補償法第8条の規定による通知をしなければならない。
(略)
2項

実施機関は,第20条後段の規定による報告に係る災害が公務上のもの
又は通勤によるもののいずれでもないと認定したときは,人事院が定める事項を記載した書面により,被災職員等にその旨を通知しなければならない。
【別紙2】

平成30年規則第58号による改正後の本件条例施行規則
2条(災害の報告)
実施機関は,
その所管に属する職員について公務又は通勤により生じたと認められる災害が発生した場合は,その指定する者に,公務災害発生届又は通勤災害発生届により速やかに報告させなければならない。負傷し,若しくは疾病にかかった職員又は死亡した職員の遺族(以下被災職員等という。)からその災害が公務又は通勤により生じた旨の申出があった場合も,同様とする。
3条(認定及び通知)
1項

実施機関は,前条の規定による報告を受けたときは,認定委員会の意見を
聴いてその災害が公務又は通勤により生じたものであるかどうかを認定し,公
務により生じたものであると認定したときは公務災害補償通知書により,通勤
により生じたものであると認定したときは通勤災害補償通知書により,補償を
受けるべき者に,
速やかに条例第3条第2項の規定による通知をしなければな
らない。
2項

実施機関は,
前条の規定による報告に係る災害が公務又は通勤により生じ

たものではないと認定したときは,
次に掲げる事項を記載した公務外災害認定
通知書又は通勤災害非該当認定通知書により,
補償を受けるべき者に速やかに
通知しなければならない。

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