判例検索β > 平成29年(あ)第2073号
詐欺、窃盗、詐欺未遂被告事件
事件番号平成29(あ)2073
事件名詐欺,窃盗,詐欺未遂被告事件
裁判年月日令和2年1月23日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄差戻
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成29(う)726
原審裁判年月日平成29年11月17日
判示事項犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した第1審判決を控訴裁判所が何ら事実の取調べをすることなく破棄し有罪の自判をすることと刑訴法400条ただし書
裁判日:西暦2020-01-23
情報公開日2020-01-23 18:00:03
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平成29年(あ)第2073号
令和2年1月23日

詐欺窃盗詐欺未遂被告事件

第一小法廷判決
主文
原判決を破棄する
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
検察官及び弁護人の各上告趣意のうち判例違反の主張について
1
第1審は,犯行日を平成27年5月とする窃盗1件,詐欺1件,詐欺未遂3
件については被告人を有罪とし,懲役2年6月,4年間執行猶予に処したが,犯行日を同年3月とする,平成28年6月28日付け起訴状記載の各公訴事実(詐欺3件。以下本件公訴事実という。)については無罪を言い渡した。
本件公訴事実の要旨は,被告人は,いずれも家電量販店において,(1)
不正に

入手したAを被保険者とする健康保険被保険者証及びA名義のクレジットカードを使用してAになりすましてクレジット機能付きポイントカードをだまし取ろうと考え,入会申込端末を使用して,氏名入力画面にAと入力するなどし,カード発行手続業務等の業務委託を受けている会社の社員に対し,Aになりすまし,Aを被保険者とする健康保険被保険者証及びA名義のクレジットカードを提出するなどして,クレジット機能付きポイントカードの交付を申し込み,同ポイントカード1枚の交付を受け,(2)

上記家電量販店店員に対し,Aになりすまし,上記ポイント

カードを提示して財布2個等4点の購入を申し込み,その交付を受け,(3)
同店

店員に対し,Aになりすまし,上記ポイントカードを提示してゲーム機1個の購入を申し込み,その交付を受け,それぞれだまし取ったというものである。2
被告人及び検察官の双方は,第1審判決に対し,いずれも事実誤認を主張し
て控訴した。
原判決は,全ての事実について犯人ではないから無罪であるとする被告人の主張を排斥し,本件公訴事実について,第1審判決は,被告人の犯人性を推認させ,又はその推認力を補強する間接事実の推認力や第1審関係証拠の証明力の評価を誤った上,これらを分断的に評価し,適切な総合評価を行わなかった結果,被告人が犯人であったとするには合理的な疑いが残るとの結論を導いたものであり,この認定,判断は,論理則,経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ないとして,事実誤認を理由に第1審判決を破棄した。さらに,第1審判決が公訴事実の存在を認めるに足りる証明がないとして,被告人に対し,無罪を言い渡した場合に,控訴審において自ら何ら事実の取調べをすることなく,訴訟記録及び第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに公訴事実の存在を確定し有罪の判決をすることは,刑訴法400条ただし書の許さないところとするのが最高裁判例(昭和26年(あ)第2436号同31年7月18日大法廷判決・刑集10巻7号1147頁,昭和27年(あ)第5877号同31年9月26日大法廷判決・刑集10巻9号1391頁。以下,両者を併せて本件判例という。)であると言及しつつ,同条ただし書に関する本件判例の解釈は,今日においては,その正当性に疑問があるとした。そして,本件控訴審においては一切事実の取調べをしていないが,直ちに判決をすることができるとして自判し,被告人を本件公訴事実についても有罪として,懲役2年6月に処した。
3
上記昭和31年7月18日大法廷判決は,事件が控訴審に係属しても被告人
は,憲法31条,37条等の保障する権利は有しており,公判廷における直接審理主義,口頭弁論主義の原則の適用を受けるのであって,被告人は公開の法廷において,その面前で適法な証拠調べの手続が行われ,被告人がこれに対する意見弁解を述べる機会を与えられなければ,犯罪事実を確定され有罪の判決を言い渡されることのない権利を保有するとした上で,本件の如く,第1審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した場合に,控訴裁判所が第1審判決を破棄し,訴訟記録並びに第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは,被告人の前記憲法上の権利を害し,直接審理主義,口頭弁論主義の原則を害することになるから,かかる場合には刑訴400条但書の規定によることは許されないものと解さなければならない。として原判決を破棄し,事件を第1審裁判所に差し戻した。そして,上記昭和31年9月26日大法廷判決も同旨の判断をした。その後,本件判例に従った最高裁判例が積み重ねられ,憲法31条及び37条の精神並びに直接主義及び口頭主義の趣旨を踏まえた刑訴法400条ただし書の解釈として,第1審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言い渡した場合に,控訴審が第1審判決を破棄し,犯罪事実を認定するときには,事実の取調べを要するとの実務が確立し,被告人の権利,利益の保護が図られてきた。
原判決は,判例変更をすべき理由として,刑訴法の仕組み及び運用が大きく変わり,第1審において厳選された証拠に基づく審理がされ,控訴審において第1審判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に指摘できる場合に限って事実誤認で破棄されること,起訴前国選弁護制度や取調べの録音録画の実施により被告人が黙秘権を行使することも多くなっていること,本件判例に抵触しないために検察官から請求された証拠を調べるとすると,取調べの必要性も第1審の弁論終結前に取調べを請求できなかったやむを得ない事由も認められない証拠を採用することになること等を挙げ,本件判例の解釈は現在ではその正当性に疑問があり,直接に事実の取調べをせずに自判しても,実質的にみて,被告人の権利,利益の保護において問題を生ずるものとは考えられないとの判断を示した。しかし,原判決が挙げる刑訴法の制度及び運用の変化は,裁判員制度の導入等を契機として,より適正な刑事裁判を実現するため,殊に第1審において,犯罪事実の存否及び量刑を決する上で必要な範囲で充実した審理・判断を行い,公判中心主義の理念に基づき,刑事裁判の基本原則である直接主義・口頭主義を実質化しようとするものであって,同じく直接主義・口頭主義の理念から導かれる本件判例の正当性を失わせるものとはいえない。そうすると,本件判例は,原判決の挙げる上記の諸事情を踏まえても,いまなおこれを変更すべきものとは認められない。原審は,本件公訴事実の存在を確定せず無罪を言い渡した第1審判決を事実誤認で破棄し,およそ何らの事実の取調べもしないまま本件公訴事実を認定して有罪の自判をしたのであって,原判決は,本件判例と相反する判断をしたものであるから,破棄を免れない。
4
以上からすれば,この点に関する検察官及び弁護人の論旨は理由がある。
よって,弁護人のその余の上告趣意に対する判断を省略し,刑訴法405条2号,410条1項本文により原判決を破棄し,同法413条本文に従い,本件を東京高等裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官菅野俊明,同小橋常和
(裁判長裁判官
木澤克之

山口

裁判官


公判出席
裁判官

池上政幸

深山卓也)
裁判官

小池


裁判官

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