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職務発明対価請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成31(ワ)7788
事件名職務発明対価請求事件
裁判年月日令和元年11月6日
裁判所名東京地方裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2019-11-06
情報公開日2020-01-23 16:00:41
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令和元年11月6日判決言渡

同日原本領収

平成31年(ワ)第7788号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

職務発明対価請求事件

令和元年10月2日
判決原告X
同訴訟代理人弁護士

森被
コルコート株式会社


同訴訟代理人弁護士

本晋小林十佐藤水主
訴訟費用は原告の負担とする。
事1暁
原告の請求を棄却する。

2雄文1
第1

四実及び理由
請求
被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成31年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
第2
1
訴訟費用は被告の負担とする。
事案の概要
本件は,被告の従業員であった原告が,被告が有していた特許第1997141号の特許(以下本件特許という。)に関し,原告は本件特許に係る球形で粒度分布の狭いマグネシウムアルコラートの合成方法という名称の発明
(本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1記載の発明。以下本件発明という。)の発明者であり,特許を受ける権利を被告に承継させたとして,被告に対し,特許法35条3項(平成16年法律第79号によ
る改正前のもの。
以下同じ。の規定による相当の対価の支払請求権

(以下
本件対価請求権という。)に基づき,806万4000円のうち300万円及
びこれに対する本件対価請求権の支払を請求した日の後である平成31年4月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2
前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1)当事者
原告は,昭和53年4月に被告に入社し,本件特許の出願当時,被告に在籍していた。
被告は,ケイ素化合物の合成,静電気防止塗料の製造,加工,販売等を目
的とする株式会社である。
(2)本件特許

コルコートエンジニアリング株式会社(以下コルコートエンジニアリングという。)は,本件特許の出願人であり,本件特許に係る以下の内容の特許権(以下本件特許権という。)の権利者であった。(甲1,
2)
番号:特許第1997141号(特公平7-20898号)
発明の名称:球形で粒度分布の狭いマグネシウムアルコラートの合成方法出願日:平成元年8月16日
公告日:平成7年3月8日

登録日:平成7年12月8日(平成21年8月16日存続期間満了)発明者:A,B,原告

本件特許の特許請求の範囲は,以下のとおりである。(甲2)
【請求項1】

金属マグネシウムと一般式ROHで示されるアルコールとを無溶媒かつ触媒の存在下に直接反応させてマグネシウムアルコラートを合成する方法において,(i)金属マグネシウムとアルコールの反応系への最終添加割合を金属マグネシウム/アルコール(重量比)=1/9~15とし,(ii)前記最終添加割合の金属マグネシウムとアルコールを,アルコールの還流下の反応系に連続的または断続的に添加し,5~80分間に亘り反応させ,(iii)次いでアルコールの還流下に熟成反応を行なうこと,を特徴とする球形で粒度分布の狭いマグネシウムアルコラートの合成方法。ウ
被告は,原告に対し,本件発明について,昭和58年7月1日施行に係る被告の発明考案取扱い規則(甲3。以下被告規則という。)9条に基づき,譲渡補償金を支払った。


被告は,平成15年11月21日,コルコートエンジニアリングを吸収合併し,本件特許権を承継した。(甲1,4)

(3)被告規則の定め
被告規則には,以下の規定が置かれている(甲3)。
(権利の帰属)
第3条

職務発明は会社がその権利を承継する。ただし,会社がその必要がないと認めたときはこの限りではない。

2
(略)

(譲渡補償金の支給)
第9条

会社がつぎの各号に掲げる場合において,その権利を承継するに当っては,これを有償とし,譲渡補償金を支給する。
(1)会社が特許を受ける権利を承継し,これを特許出願したとき(2)前号の出願について,これが特許登録されたとき

2
前二号の補償金の支給は外国出願を含み,1件につき1回限りとす
る。
3
補償金の額は別表の通りとする。

(褒賞金の支給)
第10条

会社が職務発明に基づく発明の実施または実施権の許諾もしくは
処分により相当の利益を得たときは,会社は当該発明者に褒賞金を
支給することがある。
別表
出願時

登録時

特許

20,000

20,000

実用新案

10,000

10,000

意匠

5,000

5,000

(4)被告の行為

被告は,平成元年11月,本件発明を実施した触媒担体であるCMG-100S(以下被告旧製品という。)を完成させ,同月頃から東
邦チタニウム社に継続的に出荷したが,平成5年末に同製品の製造,販売を中止した。

被告は,被告旧製品を改良し,平成6年2月にCMG-100B
(以
下被告新製品といい,被告旧製品と併せて被告製品という。)を

完成させた。被告新製品は現在に至るまで東邦チタニウム社から販売されている。(弁論の全趣旨)
(5)本件対価請求権の支払請求
原告は,平成30年10月26日,被告に対し,本件対価請求権の支払を請求した。(甲5)

(6)消滅時効の援用
被告は,令和元年5月15日の本訴第1回口頭弁論期日において,本件対価請求権につき,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

3
争点
(1)被告新製品が本件発明の実施品であるか(争点1)
(2)相当の対価(争点2)
(3)消滅時効の成否(争点3)

第3
1
争点に関する当事者の主張
争点1(被告新製品が本件発明の実施品であるか)について

〔原告の主張〕
被告新製品は,本件発明を実施するものである。
〔被告の主張〕
否認する。

2
争点2(相当の対価)について

〔原告の主張〕
(1)本件は,被告が自ら本件発明を実施している事案であることから,相当な褒賞金の算定は以下の計算式によるべきである。
超過売上高×仮想実施料率×(1-使用者貢献度)×発明者間貢献度

被告は,
本件発明の実施品の販売により,
少なくとも月4000万円
(年
4億8000万円)を下回らない売上げを獲得した。
超過売上高は,被告製品の売上高の70%を下回らない。


仮想実施料率は被告製品と同種の技術分野の事例からすれば,10%を下回らない(甲9)。


使用者貢献度は80%を上回ることはない。


本件発明は原告を含め3人が共同発明者となっているが,他の2名は実験の補助にすぎず,本件発明において主たる貢献を行ったのは原告であり,共同発明者間における原告の貢献度は60%を下回らない。

(2)以上からすれば,被告における平成20年度及び平成21年度における本件発明の実施について,原告が受けるべき相当の対価は806万4000円
となるところ,原告は,このうち300万円の支払を求める。
(計算式)
9億6000万円(2年分の売上げ)×0.7×0.1×(1-0.8)×0.6=806万4000円
〔被告の主張〕
否認又は争う。
被告は,被告旧製品が触媒として要求される性能を充たさず,本格販売に至らなかったことから,これを改良して被告新製品を完成させたものであるところ,被告新製品の開発には原告は何ら関与していない。

3
争点3(消滅時効の成否)について

〔被告の主張〕
被告規則10条に褒賞金の支払時期について定めはなく,褒賞金の支払請求に障害があるとはいえないから,消滅時効の起算点は特許を受ける権利の承継日と解すべきである。
本件では遅くとも本件特許の出願日の翌日である平成元年8月17日が起算日となるから,平成11年8月16日に消滅時効が完成した。
仮に上記時点が起算日と認められない場合でも,被告規則9条が譲渡補償金の支払時期を出願時と登録時に分けていることから,同10条に基づく褒賞金についても,遅くとも本件特許の登録日である平成7年12月8日が起算日と
なり,平成17年12月7日に消滅時効が完成した。
そして,第2の2(6)のとおり,被告は,本件対価請求権について消滅時効を援用したから,本件対価請求権は,時効消滅した。
〔原告の主張〕
本件規則10条は会社が…発明の実施…により相当の利益を得たときと
定めるから,褒賞金の権利行使可能時は,早くても被告が本件発明を実施して利益を獲得した時である。そして,株式会社は通常各事業年度における期間損
益計算によって利益の有無を確定するから,
利益の確定時は3月31日となり,
権利行使可能時は,その翌日の4月1日となる。
そのため,平成20年度の実施分に係る褒賞金の支払時期は平成21年4月1日となり,同様に平成21年度の実施分に係る褒賞金の支払時期は平成22年4月1日であり,消滅時効の起算日となるところ,原告は,平成31年3月
28日に本訴を提起したから,少なくとも両年度の褒賞金については,消滅時効は完成していない。
第4

当裁判所の判断
事案に鑑み,争点3から判断する。

1
争点3(消滅時効の成否)について
(1)消滅時効は権利を行使することができる時から起算される(民法166条1項)ところ,特許法35条3項は,

従業者等は,契約,勤務規則その他の定めにより,職務発明について使用者等に特許を受ける権利…を承継させ…たときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する。

と規定してい
るから,同条項に基づく相当の対価の支払請求権は,原則として,特許を受ける権利を承継させたときに発生し,その時点から,権利を行使することができることになり,その時点が本件対価請求権の消滅時効の起算点となるものというべきである。もっとも,勤務規則その他の定めに,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その
支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解される(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。
(2)これを本件についてみるに,前記のとおり,被告規則には特許出願時及び特許登録時に譲渡補償金を支払う旨の明示的な規定はあるものの
(同9条)


いわゆる実績補償金については,

会社が職務発明に基づく発明の実施または実施権の許諾もしくは処分により相当の利益を得たときは,会社は当該発明者に褒賞金を支給することがある。

(同10条)と規定するのみで,一義的に明確な支払時期の定めがあるということはできない。
被告規則10条が,前記のとおり,職務発明に基づく発明の実施または実施権の許諾等を前提として褒賞金の支給について定めていることに照らすと,発明者である従業者等は,登録された特許に係る発明が実施又は実施権の許諾等される以前に褒賞金の支払を求めることはできないものの,当該発明が実施又は実施許諾等された場合には,褒賞金の請求権の行使が可能になるということができる。
そうすると,被告規則に定められた褒賞金の支払時期については,本件発
明の実施又は実施許諾等により利益を取得することが可能になった時点,すなわち,特許権の設定登録時又はその実施若しくは実施許諾時のうちいずれかの遅い時点であると解するのが相当である。
(3)これに対し,原告は,被告規則10条は,本件発明の実施がされる限り,各事業年度の決算の結果を踏まえ,毎年4月1日に褒賞金を支払う旨を定め
たものであることを前提とし,少なくとも平成20年度及び平成21年度の実施に係る褒賞金については,消滅時効が完成していないと主張する。しかし,
同条は,
被告が本件発明の実施等により相当の利益を得たときは,
発明者に褒賞金を支給することがあると規定するのみであり,支払時期については一義的に明らかではないというべきであり,同条に基づき,褒賞金の
支払時期が毎年4月1日に到来すると解することはできず,また,被告においてそのような慣行や支払実態があったと認めるに足りる証拠もない。(4)第2の2(2)アのとおり,本件特許の登録時は平成7年12月8日であり,また,
同(4)アのとおり,
被告が平成元年11月頃から本件特許の実施品であ
る被告旧製品を第三者に継続的に出荷していたことは当事者間に争いがない
から,被告規則10条に基づく褒賞金,すなわち本件対価請求権の支払時期は,平成7年12月8日となる。

そうすると,その翌日である平成7年12月9日が消滅時効の起算日となり,同日から10年後の平成17年12月8日の経過をもって消滅時効が完成したので,本件対価請求権は時効消滅したものと認められる。
したがって,原告の本件対価請求権に基づく請求は,理由がない。2
結論
以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐藤達𠮷野俊今野智文
裁判官
太郎
裁判官


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