判例検索β > 平成28年(ワ)第10759号
特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)10759
事件名特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
裁判年月日令和元年10月30日
裁判所名東京地方裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2019-10-30
情報公開日2020-01-23 16:00:46
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令和元年10月30日判決言渡

同日原本領収

平成28年(ワ)第10759号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

特許権に基づく製造販売禁止等請求事件

令和元年8月28日
判原決告
株式会社長寿乃里
(以下原告長寿乃里という。)

原告株式会社イング
(以下原告イングという。)
上記両名訴訟代理人弁護士

山上祥吾濵田建介生野悟朗渡邊松尾憲市川泰央
上記両名補佐人弁理士

水原博久被
日本生化学株式会社

上記両名訴訟代理人弁理士

告敏一郎
(以下被告日本生化学という。)
同訴訟代理人弁護士

田治之佳佐藤史肇濱富上入江加藤
同訴訟代理人弁理士
原木下
同補佐人弁理士

久澤米恭十郎典徹智之茂川正光田優子被告
株式会社ブレーンコスモス
(以下
被告ブレーンコスモス
という。


被告
株式会社ビーシーリンク
(以下
被告ビーシーリンク
という。


被告
A
(以下被告Aという。)

上記3名訴訟代理人弁護士

和彰田敬子

上記3名訴訟復代理人弁護士

木内黒谷久間主1翼孝平文
被告日本生化学は,別紙被告製品目録記載の製品の製造,販売又は販売の申出をしてはならない。

2
被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクは,別紙被告製品目録記載の製品の販売又は販売の申出をしてはならない。

3
被告日本生化学,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクは,前項の製品を廃棄せよ。

4
被告日本生化学は,原告長寿乃里に対し,2億8748万4825円及びこれに対する平成28年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち2億2841万1700円及びこれに対する平成28年5月19日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告ブレーンコスモスと,うち17万5375円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告ビーシーリンクと連帯して支払え。5
被告日本生化学は,原告イングに対し,2億6098万0394円及びこれに対する平成28年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち2億0767万7895円及びこれに対する平成28年5月19日から支
払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告ブレーンコスモスと,うち16万0936円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告ビーシーリンクと連帯して支払え。6
被告ブレーンコスモスは,原告長寿乃里に対し,2億2841万1700円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による
金員を,被告日本生化学と,うち17万5375円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告ビーシーリンクと連帯して支払え。
7
被告ブレーンコスモスは,原告イングに対し,2億0767万7895円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金
員を,被告日本生化学と,うち16万0936円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告ビーシーリンクと連帯して支払え。
8
被告ビーシーリンクは,原告長寿乃里に対して,被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスと連帯して,17万5375円及びこれに対する平成28年5
月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9
被告ビーシーリンクは,原告イングに対して,被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスと連帯して,16万0936円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は,
(1)原告長寿乃里と被告日本生化学との間においては,10分の3を原告長寿乃里の,その余を被告日本生化学の負担とし,
(2)原告長寿乃里と被告ブレーンコスモスとの間においては,5分の2を原告
長寿乃里の,その余を被告ブレーンコスモスの負担とし,
(3)原告長寿乃里と被告ビーシーリンクとの間においては,5分の4を原告長
寿乃里の,その余を被告ビーシーリンクの負担とし,
(4)原告イングと被告日本生化学との間においては,10分の3を原告イングの,その余を被告日本生化学の負担とし,
(5)原告イングと被告ブレーンコスモスとの間においては,5分の2を原告イングの,その余を被告ブレーンコスモスの負担とし,

(6)原告イングと被告ビーシーリンクとの間においては,5分の4を原告イングの,その余を被告ビーシーリンクの負担とし,
(7)原告らと被告Aとの間においては,原告らの負担とする。
12この判決は,第1項,第2項,第4項ないし第9項に限り,仮に執行することができる。


第1
1実及び理由
請求
被告日本生化学,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクは,別紙被告製品目録記載の製品の製造,販売又は販売の申出をしてはならない。
2
主文第3項と同旨

3
被告日本生化学,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクは,原告長寿乃里に対して,連帯して,4億6025万4930円及びこれに対する被告日本生化学につき平成28年5月18日から,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクにつき同月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
被告Aは,原告長寿乃里に対して,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクと連帯して,4億6025万4930円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5
被告日本生化学,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクは,原告イングに対して,連帯して,4億2365万6910円及びこれに対する被告日本生化学につき平成28年5月18日から,被告ブレーンコスモス及び被告ビ
ーシーリンクにつき同月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
被告Aは,原告イングに対して,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクと連帯して,4億2365万6910円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7
訴訟費用は,被告らの負担とする。

8
仮執行宣言

第2

事案の概要

1
本件は,特許第4473278号(発明の名称:スクラブ石けんの製造方法)及び特許第4740373号(発明の名称:スクラブ石けん)の各特許権を共有する原告らが,被告日本生化学,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクに対し,被告日本生化学が製造,販売等し,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクが販売及び販売の申出をしている別紙被告製品目録記載の製品の製造方法及び同製品は原告らの各特許権の技術的範囲に含まれ,被告日

本生化学,
被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクらの上記各行為は特許権侵害の共同不法行為に当たると主張し,
特許法100条1項及び2項に基
づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,同法102条1項に基づき,連帯して,原告長寿乃里につき損害賠償金5億3751万3690円のうち4億6025万4930円,
原告イングにつき損害賠償金4

億7390万3360円のうち4億2365万6910円及びこれらに対する不法行為の後である被告日本生化学につき平成28年5月18日から,被告
ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクにつき同月19日
(いずれも訴状送
達の日の翌日)
から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
を支払うことを求め,さらに,被告Aに対し,被告Aが代表取締役である被告
ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクによる上記特許権侵害行為が取締役としての任務懈怠に当たるとして,会社法429条1項に基づき,被告ブレ
ーンコスモス又は被告ビーシーリンクと連帯して,
上記各損害賠償金及び遅延
損害金を支払うことを求める事案である。
2
前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断ら
ない限り,枝番を含むものとする。)
(1)当事者

原告ら
原告長寿乃里は,化粧品及び日用雑貨品の製造,販売,輸出及び輸入等を目的とする株式会社である。
原告イングは,化粧品,医薬品及び医薬部外品の販売,輸出及び輸入等
を目的とする株式会社である。
原告らは,別紙原告製品目録記載の製品(以下,符号に従い原告製品1などといい,原告製品1ないし4を併せて原告製品という。)を製造販売している。

被告ら
被告日本生化学は,化粧品,入浴剤,医薬部外品等の製造,販売,輸出及び輸入などを目的とする株式会社である。
被告ブレーンコスモスは,化粧品及び衣類の販売等を目的とする株式会社である。

被告ビーシーリンクは,化粧品,医薬品,医薬部外品等の輸出,輸入及び販売を目的とする株式会社であり,被告ブレーンコスモスの子会社である。
被告Aは,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクの代表取締役である(以下,被告ブレーンコスモス,被告ビーシーリンク及び被告Aを
併せて被告ブレーンコスモスらという。)。
(2)原告らの有する特許権

原告らは,以下の各特許権(以下,それぞれ符号に従い本件特許権1などといい,併せて本件各特許権という。)を共有している(以下,本件各特許権に係る特許を,それぞれ符号に従い本件特許1などといい,併せて本件各特許という。)。

本件特許権1(甲4)
特許番号:第4473278号
出願日:平成19年1月31日
登録日:平成22年3月12日
発明の名称:スクラブ石けんの製造方法


本件特許権2(甲5)
特許番号:第4740373号
出願日:平成22年1月12日
登録日:平成23年5月13日
発明の名称:スクラブ石けん

(3)本件各特許の特許請求の範囲
本件各特許に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。ア
本件特許1の特許請求の範囲請求項1
微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成するスクラブ石けんの製造方法(以下本件発明1という。)イ
本件特許2の特許請求の範囲請求項2
膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって,前記微粒火山灰の中空内部は,同微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで,固形状または半固形状の石けんが収納されていることを特徴とするスクラブ石けん(以下本件発明2という。)

本件特許2の特許請求の範囲請求項3
膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって,前記微粒火山灰の中空内部は,固形状または半固形状の石けんで満たされていることを特徴とするスクラブ石けん(以下
本件発明3
といい,
本件発明1ないし3と併せて
本件各発明
という。また,本件各特許の願書に添付した明細書及び図面を,特許の符号に従って本件明細書等1及び本件明細書等2という。)

(4)本件各発明の構成要件
本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれの符号に従い構成要件1Aなどという。)。
【本件発明1】
1A

微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,

1B

界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,

1C

その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,

1D

前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成する

1E

スクラブ石けんの製造方法

【本件発明2】
2A
2B

固形状または半固形状のスクラブ石けんであって

2C
膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する

前記微粒火山灰の中空内部は,同微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで,固形状または半固形状の石けんが収納されていることを特徴とする

2D

スクラブ石けん

【本件発明3】
3A
3B

固形状または半固形状のスクラブ石けんであって

3C

膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する

前記微粒火山灰の中空内部は,固形状または半固形状の石けんで満たされていることを特徴とする

3D

スクラブ石けん

(5)被告らの行為
被告日本生化学は,BCミネラルソープとの名称で被告製品を製造して被告ブレーンコスモスに販売している。
被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクは,平成21年6月以降,火山灰でできたすごか石けんとの名称で被告製品を一般消費者向けに販売している。
(6)被告日本生化学の製造方法及び被告製品の構成
原告らの主張する被告製品の製造方法(以下被告方法という。)及び
同製品の構成は下記のとおりである(被告方法及び被告製品の構成については,下線部に係る構成について当事者間に争いがあり,その認定は構成要件充足性の判断によることになるので,ここでは原告の主張する構成を摘示するにとどめる。)。

被告方法
1a

火山灰粒子(シラス)中の火山ガラスを約1000℃の高温で熱処理し,火山ガラスの粒子を中空状の発泡粒に成形した粒子(シラスバルーン)を

1b
ラウロイルメチルアラニンNaを含有する水酸化カリウムの水溶液に浸漬して,構成1aのシラスバルーンの中空内部に当該水酸化カリウム溶液を浸透させて,

1c

その後,
当該水酸化カリウム溶液に,
ミリスチン酸,
ステアリン酸,
パルミチン酸,ラウリン酸を添加することにより,

1d

構成1aのシラスバルーンの内外で鹸化反応を行うことにより,構成1aのシラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,構成1aのシラスバルーンの中空内部にも石けんを形成する

1e

シラスバルーンを含有するスクラブ石けんの製造方法

被告製品
2a

火山灰粒子(シラス)中の火山ガラスを約1000度に加熱し,火山ガラスの粒子を発砲させて繊細な中空状の発砲粒にした粒子(シラスバルーン)を含有する

2b

ペースト状のスクラブ石けんであって

2c-1

構成2aのシラスバルーンの中空内部には,同中空内部の中心
部に至るまで,
水酸化カリウムと,
ミリスチン酸,
ステアリン酸,
パルミチン酸,ラウリン酸を反応させることにより形成されたペ
ースト状の石けんが収納されていることを特徴とする

又は
2c-2

構成2aのシラスバルーンの中空内部は,水酸化カリウムと,

ミリスチン酸,ステアリン酸,パルミチン酸,ラウリン酸を反応
させることにより形成されたペースト状の石けんで満たされて
いることを特徴とする

2d

シラスバルーンを含有するスクラブ石けん

(7)警告書の送付
原告長寿乃里は,被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスに対し,平成21年4月6日付け警告書(以下本件警告書という。)を送付し,被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスが製造販売する火山灰でできたすごか石けんが,出願中の本件各発明(ただし,特許登録前のもの)の技術的
範囲に属するから,登録され次第補償金を請求する予定である旨警告した。(甲20,乙18)
(8)消滅時効の援用
被告らは,
平成29年12月15日の第11回弁論準備手続期日において,
少なくとも平成25年4月1日までの間の被告製品の製造販売に係る本件各
特許権侵害の不法行為責任に基づく損害賠償請求権につき,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
3
争点
(1)被告方法が本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)

構成要件1Bの充足性(争点1-1)


構成要件1Dの充足性(争点1-2)


作用効果不奏功の抗弁の成否(争点1-3)

(2)被告製品が本件発明2及び3の技術的範囲に属するか(争点2)アイ
構成要件2A及び3Aの充足性(争点2-1)
構成要件2C及び3Cの充足性(争点2-2)

(3)本件各特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点3)

本件各特許についてのサポート要件違反の有無(争点3-1)


本件特許2及び3についての実施可能要件違反の有無(争点3-2)
(4)被告Aの悪意又は重過失の有無(争点4)

(5)消滅時効の成否(争点5)
(6)原告らの損害額(争点6)
第3
1
争点に関する当事者の主張
争点1(被告方法が本件発明1の技術的範囲に属するか)について(1)争点1-1(構成要件1Bの充足性)について
〔原告らの主張〕

被告方法は,シラスバルーンを界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,(構成要件1B)を充足する。

本件明細書等1の段落【0029】,【0030】,【0032】,【0033】の記載を考慮すれば,本件発明1の技術的本質は,界面活性剤の働きによりアルカリ溶液の表面張力を弱め,シラスバルーン表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へアルカリ溶液を容易に浸漬させ,次いで,脂肪酸溶液を添加して,シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成することである。

そうすると,アルカリ溶液が界面活性剤の働きにより,シラスバルーン内部に浸漬することが重要であるから,シラスバルーンを界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,とは,界面活性剤を含有するアルカリ溶液と,シラスバルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製して(1B1),アルカリ溶液がシラスバルーンの内部に浸入し,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされ(1B2)ということと同義である。被告らは,
精製水に界面活性剤を投入してからシラスバルーンを投入し,
更にアルカリ剤を投入するという工程を経る被告方法は,界面活性剤を含有する水溶液にシラスバルーンを浸漬する方法であって,界面活性剤を含有するアルカリ溶液にシラスバルーンを浸漬する方法ではないので構成要件1Bを充足しないと主張するが,本件発明1の技術的本質からすれば,シラスバルーン,界面活性剤及びアルカリ溶液を混合させてアルカリ火山灰溶液を調製すれば足りるのであり,これらの投入順序を規定する必要はない。

また,構成要件1Bの文言からしても,これらの投入順序を規定したものではなく,このことは,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,と規定する構成要件1Cが,その後として,脂肪酸を添加する過程を,シラスバルーン,界面活性剤及びアルカリ溶液を混合させた後と明確に規定していることと対比すれば明らかである。
被告は,構成要件1Bを,特許請求の範囲に記載のない調製や浸入という用語を用いて解釈することが特許法70条2項に反すると主張
するが,調製はととのえ作ることを意味し(甲43),本件明細
書等1の段落【0030】,【0032】において作られるという意味で用いられていることに加え,浸入は水などが入り込むことを
意味し(甲38),請求項に記載されている浸透
(化学辞典によれば,

膜や粉体層,あるいは多孔性物質を通しての気体分子(気相)や溶媒(液相)の流れを一般的に浸透という。

とされている(甲44)。)と同義であるから,上記解釈は,何ら特許法70条2項に反しない。

被告は,原告が審査過程においてアルカリ溶液を界面活性剤を含有するアルカリ溶液に補正したことから,界面活性剤を含有するアルカリ溶液にシラスバルーンを浸漬する方法以外のアルカリ火山灰溶液の調製
手順を除外していると主張するが,上記補正は,アルカリ溶液の表面張力を弱めて,シラスバルーンの中にアルカリ溶液を浸入させるには,界面活性剤を含有するアルカリ溶液を用いることが必須と考えられたからであり,補正の根拠となった本件明細書等1の段落【0030】~【0033】においても,アルカリ溶液がシラスバルーンに浸入するまでに,界面活性剤
がアルカリ溶液に含有されていれば足りるから,
原告が上記補正に当たり,
界面活性剤を含有するアルカリ溶液の意義を,本件発明1の実施例に限定して使用していないことは明らかである。

被告方法は,①精製水にアラノンALE(界面活性剤)を投入し,②シラスバルーンを投入し,③水酸化カリウム(アルカリ剤)を投入するという工程を経るところ,③の工程で界面活性剤とアルカリ剤が混合されて,
界面活性剤を含有するアルカリ溶液となり,これがシラスバルーンと混合して,アルカリ火山灰溶液が調製される。そして,界面活性剤を含有するアルカリ溶液と,シラスバルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製した段階(1B1)である③の工程において,アルカリ剤が添加された時点で,アルカリ溶液の表面張力は弱まっており,シラスバルーン内部
にアルカリ水溶液が入り込むことになるから,アルカリ溶液がシラスバルーンの内部に浸入し,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされる(1B2)こととなる。

被告日本生化学は,仮に,被告方法によりシラスバルーン内部にアルカリ溶液が浸入したとしても,それはアルカリ溶液の拡散によるものであっ
て,界面活性剤がアルカリ溶液の表面張力を弱めてその浸入を容易ならしめた結果ではないから,浸入の物理的作用が異なり,構成要件1Bを充足しないと主張するが,前記ウのとおり,③のアルカリ剤が添加された時点で,アルカリ溶液の表面張力は十分に弱まり,それによってアルカリ溶液はシラスバルーン内部に容易に浸入するから,浸入の物理的作用が異なる
とはいえない。

したがって,被告方法は,構成要件1Bを充足する。

〔被告らの主張〕
以下のとおり,被告方法は,シラスバルーンを,界面活性剤を含有する水溶液に浸漬する方法であり,アルカリ溶液に浸漬していないから,構成要件1Bを充足しない。

構成要件1Bは,(シラスバルーンを)界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,と規定し,シラスバルーン,界面活性剤及びアルカリ溶液の投入順序を特定しており,
本件明細書等1にも,それ以外のアルカリ火山灰溶液の調整手順は示されていない。

原告らは,構成要件1Bの(シラスバルーンを)界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,が,界面活性剤を含有するアルカリ溶液と,シラスバルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製して(1B1),アルカリ溶液がシラスバルーンの内部に浸入し,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされ(1

B2)
と同義であると主張するが,
特許請求の範囲に記載されていない
調製や浸入といった用語を新たに用いて,本件特許1の技術的範囲を変更又は拡張するものであり,特許法70条2項に反し,許されない。イ
構成要件1Bが,シラスバルーン,界面活性剤及びアルカリ溶液の混合順序を明記したものであることは,本件特許1の出願経過からも明らかで
ある。すなわち,本件特許1の当初の請求項1の構成要件1Bに相当する部分は,(シラスバルーンを)アルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,であったところ,シラスバルーンの中空内部に石けんを形成させるには,アルカリ溶液として界面活性剤を含有するものを用いることが必須と認められるが,請求項に係る発明に反映されていな
いとの拒絶理由通知を受けて,アルカリ溶液を界面活性剤を含有するアルカリ溶液と補正したものである(乙8)。このような出願・審査経過を踏まえると,本件発明1の本質は,シラスバルーンを,単なるアルカリ溶液ではなく,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させることにあるから,界面活性剤を含有
するアルカリ溶液にシラスバルーンを添加しない限り,本件発明1の製造方法により製造したことにはならない。

被告方法は,①界面活性剤・他水溶液調整工程,②シラスバルーン添加工程,③アルカリ剤添加工程を経て,脂肪酸添加工程以降に進むこととな
っており,シラスバルーンを,界面活性剤を含有する水溶液に浸漬しているが,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬していないから,構
成要件1Bを充足しない。

本件発明1の技術的本質は,中空状のシラスバルーンに対するアルカリ溶液の表面張力を弱めて,シラスバルーンの内部にアルカリ溶液を浸入させるため,アルカリ溶液に界面活性剤を含有させた点にある。これに対して,被告方法では,シラスバルーンは界面活性剤・他水溶液
(精製水,

1.3-ブチレングリコール-UK,
濃グリセリン,
界面活性剤を乳化釜に投入し,
3分間攪拌したもの)で満たされており,中空状のシラスバルーンに対するアルカリ溶液の表面張力を弱めなければならない状況は生じない。仮に,
シラスバルーンの内部にアルカリ溶液が浸入したとしても,その浸入は,アルカリ溶液の拡散によるものであって(乙7),本件発明1のように,
アルカリ溶液の表面張力を弱めたことによるものではない。

したがって,被告方法は,構成要件1Bを充足しない。

(2)争点1-2(構成要件1Dの充足性)について
〔原告らの主張〕
被告方法で製造した被告製品はシラスバルーンを含有し,その中空内部に
石けんが形成されているから,被告方法は,構成要件1Dの前記シラスバルーンの…中空内部にも石けんを形成するを充足する。ア
シラスバルーンの含有について
被告らは,被告製品のシラスバルーンは破砕されているので,被告方法
は,シラスバルーンを含有するスクラブ石けんの製造方法ではないと主張するが,比較実験報告書(甲9。以下甲9報告書という。)では,被告製品を凍結乾燥処理したことにより,シラスバルーン内の水分が凍結して膨張したため,シラスバルーンの大半が破砕されたにすぎず,別の報告書(甲31。以下甲31報告書という。)の被告製品のSEM画像に
は,球状シラスバルーンが撮影されており,被告製品内のシラスバルーンは破砕されていない。被告ブレーンコスモスによる被告製品の商品紹介
(甲14,16)においても,シラスバルーンが含有されていると記載されている。
被告らは,シラスバルーンがせん断力に対して弱く,平均粒径が30μm以上のものについて,樹脂やセメントなどと混合されるときに破壊されやすい性質があり,被告製品のシラスバルーンの平均粒径は60μmであるから,製造工程において他の石けん材料と混合されたときに破砕された可能性が高いと主張するが,仮にシラスバルーンがせん断力に対して弱いといっても,被告らはシラスバルーンのせん断力の弱さがどの程度であるか具体的な主張をしないため,その程度は不明である。

また,被告らの上記主張は乙6を根拠にするが,被告製品は,シラスバルーンを樹脂やセメントと混合することはなく,これらと混合する場合について述べた乙6と同等の製造環境にはない上,被告製品において界面活性剤が使用されているため,石けん材料はスムーズに混ざるのであり,シラスバルーンが破壊されやすいという製造環境が存在しない。

また,被告ブレーンコスモスが作成した被告商品の説明において,被告製品には10μmのシラスバルーンが使用されていることが記載されているから(甲14),平均粒径30μm以上のシラスバルーンがせん断力に弱いとする被告らの主張を前提としても,被告方法で使用されるシラスバルーンは,せん断力に対して弱いとはいえない。

被告らは,本件発明1で製造されるスクラブ石けんに含有されるシラスバルーンの平均粒径が5~20μmであることを要するとの解釈を前提として,被告方法に使用するシラスバルーンの平均粒径は60μmであるから構成要件1Dを充足しないと主張するが,特許請求の範囲に平均粒径による数値限定はなく,上記解釈は採り得ない。仮に被告らの主張を前提
とするとしても,被告方法に使用されるシラスバルーンの平均粒径60μmは平均にすぎず,5~20μmのシラスバルーンも存在するのであり,
被告ブレーンコスモスの商品説明においても,被告製品には10μmのシラスバルーンが使用されているとの記載があるから(甲14),被告方法によって製造された被告製品は平均粒径5~20μmのシラスバルーンを含み,構成要件1Dを充足する。

シラスバルーンの中空内部に石けんが形成されているかについて
甲9報告書に記載された実験は,被告製品を使って作った石けん水溶液をろ過してシラスバルーンのみを取り出し,これをすりつぶして,石けん原料中の水酸化カリウム(K)の有無を分析対象としたものである。石けん水溶液を作る過程で,破砕されていない球状であるか,破砕された破片
状であるかを問わず,シラスバルーンの表面が水で洗い流されることから,すりつぶしたシラスバルーンから水酸化カリウムが検出された場合,それは中空の球状シラスバルーン内部に形成された石けんである。被告製品を使って作った石けん水溶液から流出した乳状物を分析した結果,石けんの原料が含まれていたから,被告製品に含まれるシラスバルーンの中空内部
に石けんが形成されていることは明らかである。
また,甲9報告書におけるFT-IR分析により,被告製品のシラスバルーン内部には,脂肪酸が含まれており,シラスバルーン内部には,脂肪酸と,上記のとおり水酸化カリウムが存在したことから,中空内部にこれらが反応した石けんが含まれていたことは明らかである。

被告らは,甲9報告書において検出されたカリウムは,濃度が25ppmと希薄であり,シラスバルーン由来のものである可能性が高いと主張するが,原告製品及び被告製品を分析した結果が記載された石けん比較と題する書面(甲35。以下甲35報告書という。)によれば,シラス自体に含まれるカリウムは1~5ppmであるから,被告製品から検出
されたカリウムは,シラスバルーン自体ではなく,シラスバルーン内部に形成された石けんに由来するものである。


したがって,被告方法は構成要件1Dを充足する。

〔被告らの主張〕
以下のとおり,
被告方法は,
製造途中でシラスバルーンが破砕されるため,
シラスバルーンを含有するスクラブ石けんの製造方法ではなく,また,仮にシラスバルーンを含有するとしても,その中空内部に石けんが形成されていないから,構成要件1Dの前記シラスバルーンの…中空内部にも石けんを形成するを充足しない。ア
シラスバルーンの含有について
被告方法では,シラスバルーン投入後,被告製品完成までに合計55分
程度攪拌するため,投入されたシラスバルーンは破砕され,被告製品はシラスバルーンを含有しない。原告が提出した甲9報告書における被告製品のSEM画像においても,破砕されたシラス片を確認することができるものの,球形のシラスバルーンの存在は確認できない。また,甲31報告書において原告がシラスバルーンとして指摘する物質が球状のシラスバル
ーンであるかも明らかではない。
シラスバルーンはせん断力に対して弱く,平均粒径が約30μm以上であるものについて,樹脂やセメントなどと混合されるときに破壊されやすいという性質がある(乙6)ところ,被告製品で使用されているシラスバルーンの平均粒径は60μmであり(甲13),せん断力に対して弱いと
される平均粒径の数値を大きく上回っているから,シラスバルーンは,製造工程において,他の石けん材料と混合されたときに破砕された可能性が高く,現に原告製品と被告製品のSEM画像を比べると,両者の状態は大きく異なっている。
原告らは,無効論において,構成要件1Aの膨化処理について,平
均粒径を5~20μm程度の中空の微小ガラス球状に成形する処理をいうことは十分に認識できると主張するが,この主張を前提とすると,被告
方法が,5~20μm程度の粒径のシラスバルーンを使用していなければ構成要件1Dのシラスバルーンを充足することにはならないはずであるところ,被告方法において使用するシラスバルーンの平均粒径は60μmであり(甲13),5~20μmではないから,構成要件1Dを充足しない。


シラスバルーンの中空内部に石けんが形成されているかについて
仮に被告方法によって製造された被告製品がシラスバルーンを含有していたとしても,被告方法は,界面活性剤の水溶液に,シラスバルーン,アルカリ剤の順に混合され,次いで脂肪酸が添加されるから,シラスバルーン内部に浸入し,内部を満たすのは界面活性剤の水溶液であり,アルカリ
溶液及び脂肪酸はシラスバルーン内部に浸透せず,アルカリ剤と脂肪酸の化学反応(鹸化反応)はシラスバルーンの外部で生じる可能性が高く,中空内部に石けんが形成されない。
甲9報告書で検出されたカリウム(K)は,石けん成分である水酸化カリウム(KOH)そのものではなく,その濃度も25ppm程度と極めて
希薄である。また,シラスの重量比は水酸化カリウムの重量比を4倍近く上回り(甲4の1,甲5の1,甲25,乙1),シラスの成分比率が高いことや,甲9報告書で分析された試料はろ過を繰り返した後にろ過膜に残った固形物であることからすると,検出されたカリウムは,石けんの材料である水酸化カリウムではなく,
シラスの成分である酸化カリウム
(K₂O)

である可能性が高い。また,甲9報告書の手法を参考に,被告製品を水に添加し,圧ろ過を行った後に採取した破砕されていない球状のシラスバルーンを切断して観察を行ったところ,シラスバルーン内に石けんは観察されなかった(乙13)。そのため,甲9報告書から,被告製品のシラスバルーン内部に石けんが形成されていることを認めることはできない。

したがって,被告方法は,構成要件1Dを充足しない。

(3)争点1-3(作用効果不奏功の抗弁の成否)について
〔被告らの主張〕
本件発明1は,火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激が少ないことを効果の一つに挙げているのに対して,被告方法によって製造される被告製品には,破砕された鋭利なシラス片が含まれ,また,石けんが内包されたシ
ラスバルーンは含まれていない。そのため,被告方法は,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんを製造する方法であるということはできない。したがって,被告方法は,本件発明1が解決しようとする課題に対して効果を奏さず,その技術的範囲に属するものではない。

〔原告らの主張〕
被告製品には,破砕されていない球状のシラスバルーンが含まれているから(甲31),被告方法は,皮膚に対して刺激が少なく,徐放性を有し,高い洗浄力を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんの製造方法であり,本件発明1における発明の効果を有するものである。

したがって,本件発明1の技術的範囲に属する。
2
争点2(被告製品が本件発明2及び3の技術的範囲に属するか)について(1)争点2-1(構成要件2A及び3Aの充足性)について
〔原告らの主張〕

前記1(2)〔原告らの主張〕のとおり,被告製品は中空状の微粒火山灰(シラスバルーン)を含有するから,構成要件2A及び3Aを充足する。〔被告らの主張〕
前記1(2)〔被告らの主張〕のとおり,被告製品は中空状の微粒火山灰(シラスバルーンを含有しないから,構成要件2A及び3Aを充足しない。
(2)争点2-2(構成要件2C及び3Cの充足性)について
〔原告らの主張〕

被告製品は,シラスバルーンの中空内部の中心部に至るまで,…石けんが収納され,あるいは,中空内部は…石けんで満たされているから,構成要件2C及び3Cを充足する。

甲9報告書により,被告製品のシラスバルーンの内部に石けんが入っていたところ,被告方法からすれば,この石けんは,界面活性剤により表面
張力が弱められたアルカリ溶液がシラスバルーンのクラックから浸入して中空内部に満たされ,あるいはその中心部に至るまで収納石けんが収納された結果,形成されたものである。
また,被告製品の中に含まれるシラスバルーンを分析した結果を記載した甲40(以下甲40報告書という。)においても,被告製品のシラ
スバルーンを電子顕微鏡で観察した結果,シラスバルーンの内表面に石けんがへばりついている状態が観察できる。電子顕微鏡は高真空下にて観察が行われるところ,真空引きによる乾燥(真空乾燥)によって高真空状態を作るものであるため,気圧の低下によって水分の沸点が低下して水分が乾燥し(甲41,42),真空ポンプによる空気の吸引により石けん成分
自体も吸引されることになるから,真空乾燥前にシラスバルーン内部に収納されていた石けんの体積が相当目減りするものである。そのため,甲40報告書による真空乾燥前の状態においては,被告製品のシラスバルーン内に石けんが満たされていたか,又は中心部に至るまで収納されていたということができる。


被告は,乙13によると,被告製品のシラスバルーン内に石けんは確認できなかった旨主張するが,乙13で観察された切断前のシラスバルーンには,クラックがないため,クラックからシラスバルーン内部に石けんが収納される余地はないから,実験の試料として不適切である。また,乙1
3では,水に被告製品を添加し,圧ろ過を行い,不溶物を回収し,そこからシラスバルーンを採取し,観察したものであるが,観察の前にシラスバ
ルーンの表面及び内部の石けんが水で洗い流されてしまっているから,表面及び内部に石けんが観察されないのは当然であり,乙13は,シラスバルーン内部の石けんの有無を調べる方法としても不適切である。

したがって,被告製品は,構成要件2C及び3Cを充足する。

〔被告らの主張〕

被告製品は,シラスバルーンの中空内部の中心部に至るまで,石けんが収納されておらず,また,中空内部が石けんで満たされてもいないから,構成要件2C及び3Cを充足しない。

甲9報告書は,被告製品のシラスバルーン内部に石けんが含まれていることを示すにとどまり,シラスバルーン中空内部が,その中心部に至るま
で石けんが収納され,あるいは中空内部が石けんで満たされているということまでは確認できない。また,甲40報告書によっても,被告製品のシラスバルーンの中空内部が石けんで満たされていることまでは確認できない。
原告らは,甲40報告書について,真空乾燥によりシラスバルーン内部
の石けんの体積が相当目減りすると主張するが,被告製品の水分量は,精製水とエキス成分を合わせた28.
28498%であり
(甲24)仮に,

電子顕微鏡による観察の際に石けんの体積が目減りするとしても,甲40報告書における写真の状態にまで大きく目減りするとは考え難い。イ
甲9報告書で行われた手法を参考に,被告製品を水に添加し,圧ろ過を行った後に採取した破砕されていない球状のシラスバルーンについてSEM観察を行ったところ,
シラスバルーン内に石けんは確認できなかった
(乙
13)。

ウ3
したがって,被告製品は,構成要件2C及び3Cを充足しない。

争点3(本件各特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか)について

(1)争点3-1(本件各特許についてのサポート要件違反の有無)について〔被告らの主張〕
本件各発明は,発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるから,サポート要件に違反し,特許無効審判により無効にされるべきものである。
本件明細書等1及び2には,シラスバルーンの平均粒径につき5~20μm(本件特許明細書等1の段落【0019】,同2の段落【0021】)又は
10~15μm
(同1の段落
【0024】同2の段落

【0026】

と記載されているのに対し,本件各発明の特許請求の範囲においては,シラ
スバルーンの平均粒径が特定されておらず,発明の詳細な説明に開示された内容と比較して拡張又は一般化された記載となっている。
シラスバルーンは,
平均粒径が約30μm以上である場合には,せん断力に対して弱く,樹脂やセメントなどと混合されるときに破壊されやすいという性質がある(乙6)

しかし,本件明細書等1及び2には,シラスバルーンが破壊されないように
する方法について開示されておらず,技術常識に基づいても予測可能であったとはいい難い。そのため,本件各発明は,出願時の技術常識に照らし,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず,発明の詳細な説明において記載した範囲を超えている。

したがって,本件各発明は特許法36条6項1号に違反し,無効にされるべきものである。
〔原告らの主張〕
本件各発明は,発明の詳細な説明の記載又は出願時の技術常識により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,サポ
ート要件に違反せず,無効にされるべきものではない。
本件明細書等1及び2におけるシラスバルーンの平均粒径の記載は,実施
例の一つとして記載されたにすぎず,すべてのシラスバルーンが当該平均粒径であるとの限定をしたものではない。
当業者が本件明細書等1の
【0019】
等の記載を見れば,
請求項1の
膨化処理とは,平均粒径を5~20μm程度の中空の微小ガラス球状に成形する処理をいうことは,十分に認識できる。
被告製品は柔らかい石けんであり,乙6のような固い樹脂やセメントと混合されることはなく,製造工程において界面活性剤が使用されているため,シラスバルーン,アルカリ水溶液,脂肪酸溶液はスムーズに混ざることになるから,破壊されやすいという状況は存在しない。当業者は,本件発明1の
出願当時の技術常識において,シラスバルーンが一部破砕される可能性があること,攪拌する工程においてシラスバルーンが破砕されないようにゆっくり攪拌すれば足りることを認識できる。
したがって,本件各発明は特許法36条6項1号に違反せず,無効にされるべきものではない。

(2)争点3-2(本件特許2及び3についての実施可能要件違反の有無)について
〔被告らの主張〕
本件明細書等2の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,実施可能要件
に違反し,特許無効審判により無効にされるべきものである。
本件発明2及び3に係るスクラブ石けんを製造するためには,膨化処理を施した中空状の微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで,固形状又は半固形状の石けんが収納されていること又は中空内部が固形状又は半固形状の石けんで満たされていることを確認する必要があるが,本件明細書
等2には,そのための確認方法が開示されておらず,また,その確認方法は当業者にとって技術常識ではない。そのため,当業者は,本件発明2及
び3に係るスクラブ石けんを製造できたか否かを確認することができず,本件発明2及び3に係るスクラブ石けんを得ることができないから,本件発明2及び3は実施可能要件に違反し,無効理由がある。
被告方法と異なり,脂肪酸投入の後で界面活性剤を添加する方法で製造されている試料2に係る報告書(甲39)及び被告方法で製造した試料に
係る甲40報告書のいずれについても,シラスバルーンの中心部に至るまで石けんで満たされていないから,そもそも,原告らが主張する製造方法によって,本件発明2及び3に係るスクラブ石けんを作ることができるか明らかでない。
〔原告らの主張〕

特許法36条4項1号の実施することができるとは,物の発明にあっては,その物を製造し,かつ,その物を使用できることである。本件においては,当業者がスクラブ石けんを製造でき,かつ,使用できれば足りるのであり,
中心部に至るまで収納
及び
中心内部は満たされている
という状態を当業者が確認
(検証)
する方法を記載する必要はない。
また,

実際には,甲40報告書のように検証することは可能である。そのため,当該方法の記載がないことを理由に実施可能要件に違反するという被告らの主張は理由がない。
4
争点4(被告Aの悪意又は重過失の有無)について

〔原告らの主張〕
被告Aは,被告方法及び被告製品が本件各特許権を侵害することについて悪意又は重過失があったから,会社法429条1項に基づき,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクと連帯して,損害賠償責任を負う。
被告Aは,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクの代表取締役とし
て適法に業務執行をなし,第三者に損害を生じさせないようにする義務を負うところ,本件警告書(甲20,乙18)により,被告ブレーンコスモス及び被
告ビーシーリンクによる被告製品の販売が本件各特許権を侵害することを認識し,
又は普通の注意を払っていれば容易に認識することができたのであるから,同各社による特許権侵害行為を防止する義務を負っていた。それにもかかわらず,被告Aは,それ以降も同各社における被告製品の販売に係る意思決定及び業務執行を行い,
原告らに損害を与えたのであるから,
当該義務違反について,
悪意又は重大な過失がある。
被告Aは,被告製品の具体的な製造過程については被告日本生化学に委託していたと主張するが,
被告日本生化学は,
いわゆるOEM
(OriginalEquipment
Manufacturing)
企業であり,
委託者からの依頼に基づいて委託者のブランドで

製品を生産し,委託者に供給する企業であること(甲29,30)や,被告ブレーンコスモス作成に係る被告製品の商品説明には,被告製品と原告製品は内容量及び人工皮膚成分であるリビジュアの配合の点のみ異なり,それ以外は同一の商品であることを強調していること(甲15)からすると,被告ブレーンコスモスらは,被告製品の製造について,少なくともどのような製品を作るか
について指示する等して関与していたということができる。
したがって,本件各特許権の侵害について,被告Aには悪意又は重大な過失がある。
〔被告Aの主張〕
被告Aには,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクによる被告製品
の販売に係る本件各特許権の侵害について悪意又は重過失は認められないから,被告Aは,会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負わない。被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクは化粧品等の販売等を目的とする株式会社であり,被告Aはその代表取締役であるにすぎないから,製品の製造方法に関する詳しい知見を有しない。
被告Aは,
被告製品の製造について,

化粧品,入浴剤,医薬部外品等の製造等を業とする被告日本生化学に委託し,具体的な製造過程については全て同社に任せていた。原告長寿乃里からの本件
警告書についても,被告Aは,被告日本生化学から十分な意見聴取及び調査を行い,製造方法が異なるから特許権侵害に当たらないとの説明を受けたため,本件各特許権を侵害するものではないと判断したのである。
したがって,
本件各特許権の侵害について,
被告Aに悪意又は重過失はない。
5
争点5(消滅時効の成否)について

〔被告らの主張〕
原告長寿乃里は,被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスに対し本件警告書(甲20,乙18)を送付しているから,原告らは,当該警告書を送付した平成21年4月時点において,被告らが本件各特許権を侵害し,損害が発生していることを認識しており,損害賠償請求をすることが可能な状況にあった。そのため,少なくとも,平成28年4月1日の訴え提起から3年前の日である平成25年4月1日以前に被告製品を製造,販売したことによる損害賠償請求権については,消滅時効が完成している(民法724条)。
被告らは,前提事実(第2の2(8))のとおり,平成29年12月15日の第
11回弁論準備手続期日において,上記損害賠償請求権につき消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
したがって,上記損害賠償請求権は時効消滅している。
〔原告らの主張〕
民法724条における消滅時効の起算点は,損害及び加害者を知った時
であるところ,これは,被害者等において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,
その可能な程度にこれを知った時を意味するものである。
原告らにおいて,被告方法及び被告製品が本件各特許権を侵害しているとの確信を得た時期は,
被告日本生化学の工場において証拠保全による検証が行われ,
被告製品の製造工程表等を入手した平成27年9月29日であるから,消滅時
効の起算点は同日であり,本訴を提起した平成28年4月1日までに3年を経過しておらず,消滅時効は完成していない。

したがって,
原告らの被告らに対する損害賠償請求権は時効消滅していない。
6
争点6(原告らの損害額)について

〔原告らの主張〕
原告らは,以下のとおり,特許法102条1項に基づき算定される損害について請求する。
(1)原告らによる本件各特許の実施
原告らは,本件各特許の実施品として,原告製品を製造販売している。(2)単位数量当たりの利益額

原告製品の販売価格はいずれも1800円であり(甲21~23),これから原告製品それぞれの原価(甲28,46~49),業務委託費,広
告宣伝費,
販促費及び荷造運賃を控除した利益額は,
以下のとおりであり,
原告製品1~4の利益額の平均は,原告長寿乃里につき1141円(小数点以下切捨て),原告イングにつき896円となる。
なお,上記利益額の計算において,業務委託費及び広告宣伝費は控除しているが,これらの費用が控除すべき変動経費に当たることを認めるもの
ではない。また,販管費のうち,荷造運賃には,変動経費である原告製品の梱包費及び運搬費が含まれているが,その金額を正確に抽出することは不可能であるから,下記イのとおり,推定計算を行った。
(原告長寿乃里)

(原告イング)

原告製品1

1167.72円

900円

1093.39円

884円

原告製品4

900円

原告製品3


1138.36円

原告製品2

1164.75円

900円

荷造運賃の推定計算
荷造運賃は,別紙1及び2のとおり,原告長寿乃里及び原告イングの全体の売上高欄記載の数字(甲78)に対する原告製品販売額又は

原告製品販売総額欄記載の数字の比率に応じて,原告製品全体に係る荷造運賃の金額を推定し,その金額を原告製品販売個数欄記載の数字(甲50)で除して原告製品1個当たりの仮の荷造運賃を計算したところ,平成23年から平成28年までの平均額は,原告長寿乃里において170円,原告イングにおいて226円となる。

そして,原告らは,
霧島火山岩深層水
(甲55,56,79,80)
を販売しているところ,
同商品は,
別紙1及び2の
深層水累計出荷数(長寿乃里)及び深層水累計出荷数(イング)欄記載のとおり,原告製品と同程度に売れており,これを消費者に販売,配送する際,2リットル入りペットボトル10本又は20リットル箱(いずれも約20kg)とい
う単位で行っているため(甲55~57),石けんである原告製品よりも運搬費用がかかる。そのため,上記の原告製品1個当たりの仮の荷造運賃は,多くとも,上記平均額の2分の1と推定すべきである。
そうすると,原告製品1個当たりの荷造運賃は,原告長寿乃里につき85円,原告イングにつき113円となる。

(3)被告製品の販売数

被告ブレーンコスモスは,平成21年6月17日には被告製品を販売しており(甲15),平成27年1月15日付けの自社のホームページにおいて,被告製品を発売以来100万個以上販売したと記載している(甲16)から,遅くとも本件特許権1の登録日である平成22年3月12日か
ら上記平成27年1月15日までに,被告製品を少なくとも100万個販売したものである。

本件特許権1の登録日の翌月である平成22年4月から平成29年10月までの原告長寿乃里の原告製品の販売個数は698万1842個,原告
イングの原告製品の販売個数は783万8740個であり(甲50),原告長寿乃里と原告イングは,原告製品の販売地域又は販売店舗が明確に分
かれているから,被告製品の販売個数である100万個を,原告長寿乃里と原告イングの原告製品の販売個数で按分した場合,次のとおりとなる。(ア)原告長寿乃里
100万個×{698万1842個÷(698万1842個+783万8740個)}

=100万個×(698万1842個÷1482万0582個)
=100万個×約0.471090(小数点第7位以下切り捨て)=47万1090個
(イ)原告イング
100万個-47万1090個=52万8910個

(4)特許法102条1項による損害
原告長寿乃里の損害は,少なくとも,上記利益の平均額である1141円に販売個数47万1090個を乗じた5億3751万3690万円を下らず,原告長寿乃里は,このうち4億6025万4930円の損害賠償請求権を有する。
原告イングの損害は,少なくとも,上記利益額の平均額である896円に販売個数52万8910個を乗じた4億7390万3360円を下らず,原
告イングは,
このうち4億2365万6910円の損害賠償請求権を有する。
(5)限界利益に係る被告らの主張について


広告費,運搬費,梱包費及び販管費
被告日本生化学は,広告費,運搬費,梱包費及び販管費を考慮していないと主張するが,販管費のうち荷造運賃を除くものは,販売数量に応じて増加するものではないから,変動経費ではない。荷造運賃には,変動経費である梱包費及び運搬費が含まれる。広告費は,原告製品のためだけのものではないから,変動費に当たらない。


業務委託費

被告日本生化学は,原告長寿乃里のウェブページ(乙22)に基づき,原告製品が職人の手作りとされていることから,職人への業務委託費を控除すべきと主張するが,職人とはメーカーの職人という意味であり,職人による作業に係る費用は製造原価である製造費に含まれ,販管費ではない。


物流倉庫に係る費用
被告ブレーンコスモスらは,原告製品を物流倉庫に保管するための費用や梱包に係る人件費を変動経費として控除すべきと主張するが,原告らは,消費者への直販モデルを採用し,下図1及び2のとおりの流通ルートをと
っているため,余剰在庫がほとんどなく,原告製品を保管するための物流倉庫は存在しない(甲88,100,101)。原告長寿乃里においては,製造メーカーで原告製品が製造された後,配送業者又は原告長寿乃里福岡支店に引き渡されるため,原告長寿乃里の事務所において保管する必要はない上,原告イングの場合は,製造メーカーから原告製品が引き渡された
後,1階が1201平方メートル,2階が1009平方メートルの広さのある原告イングの本社(甲83)において保管が可能であるから,原告らにおいて定量の保管費用は発生しない。なお,原告長寿乃里及び原告イングの販管費
(甲54の2ないし7,
甲78の1~6)
における地代家賃は,
商品保管の倉庫費用ではなく,変動経費ではない。

また,梱包に係る人件費についても固定費であって変動経費ではない。(図1)

(株)長寿乃里の流通ルートについて
長寿乃里






製造メーカー

製造メーカー





製造メーカー


配送業者/福岡支社※1
③④
顧客



製造指示(原材料は製造メーカーが仕入れ、仕入れ価格を納品原価に反映)製造後納品(原料はメーカー仕入れのため、長寿乃里に原料保管費は発生せず)


宛名伝票の添付などのピッキング業務



配送

※1配送業者と福岡支社との業務区分は西日本エリアを長寿乃里福岡支社が担当し、配送業者が東日本エリアの顧客への配送業務を担当

(図2)

株式会社イングの流通ルートについて
イング

長寿乃里

製造メーカー





製造メーカー

製造メーカー





イング(本社倉庫内)
④⑤
顧客

①長寿乃里への個数及び納期の発注
②製造指示(原材料は製造メーカーが仕入れ、仕入れ価格を納品原価に反映)③製造後納品(原料はメーカー仕入れのため、長寿乃里に原料保管費は発生せず)④宛名伝票の添付などのピッキング業務
⑤配送


代金引換手数料
代金引換の手数料は,原則として代金引換を選択した顧客が手数料を負
担するため,原告らの経費とはならない。また,代金引換手数料は,原告製品1個当たりに計上されるものではなく,配送物1個当たりに計上されるものであるから,変動経費に当たらない。

加盟店手数料
加盟店手数料は原告製品の販売数に応じたものではなく,変動経費ではない。

(6)特許法102条1項ただし書の事情
被告らは,特許法102条1項ただし書が定める販売することができないとする事情があるから,損害額の推定が覆滅されるべきであると主張するが,以下のとおり,いずれも理由がない。

競合品
調査嘱託の結果,第三者が販売しているシラス含有の石けんの平成23年1月から平成27年12月までの販売数は,株式会社ファインケメティ
ックスにつき1059個,株式会社メディカルドールの2種類の商品につき1万7306個及び3515個にすぎず,被告製品の販売数(被告らが認めているだけでも約36万個以上)に比べて無視してもよいほど小さいものである。
また,
上記第三者の石けんは,
シラスを配合しているものの,
シラスバルーンを配合するものではないから,本件発明1の作用効果を有
するものではない。
そのため,シラスを配合した第三者が販売する石けんの存在は,特許法102条1項ただし書の事情に該当しない。

薬機法上の区分及び作用効果等
被告日本生化学は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下薬機法という。)における区分が原告製品(医薬部外品)と被告製品(化粧品)とで異なるから,消費者の需要も異なると主張するが,同じ作用効果をもった石けんである以上,消費者は上記区分を考慮せずに原告製品及び被告製品を購入するのであり,同被告の主張
には理由がない。
被告日本生化学は,本件発明1の作用効果が原告製品及び被告製品の売上げに寄与していないと主張するが,被告ブレーンコスモスは,被告製品の説明において,リピジュアを配合している点及び内容量が原告製品より多い点以外は同じであることを強調している。また,広告による宣伝はそ
れまで商品を購入したことがない消費者に対するものであり,一度石けんを購入し,その効果に満足した消費者は,継続して同じ石けんを購入する
のであるから,被告製品は,その作用効果に満足した消費者によって,被告らの主張によっても少なくとも30万個以上購入されたのであり,本件発明1の作用効果が被告製品の販売に寄与している。

原告製品の販売経過
被告日本生化学は,被告日本生化学が被告製品を販売していない月であ
るにもかかわらず,原告製品の販売が前月より減少している月があることから,原告製品の販売実績は被告製品の販売実績による影響を受けていないと主張するが,被告日本生化学の販売先は一般消費者ではなく被告ブレーンコスモスや被告ビーシーリンクであるところ,被告日本生化学が被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクに販売していない月でも,被告
ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクは一般消費者に被告製品を販売しているのであるから,原告製品は被告製品の販売実績による影響を受けることになる。

販売方法,態様
被告ブレーンコスモスらは,原告らが一般消費者に製品を小売りしてい
る一方,被告ブレーンコスモスの95%は卸売業者に対するものであるから,販売ルートが異なり,これが特許法102条1項ただし書の販売できないとする事情に当たると主張するが,仮に被告ブレーンコスモスが主に卸売業者に販売をしていたとしても,最終的には一般消費者に販売されるのであるから,その数量分,被告製品と同じ作用効果をもつ原告製品
が消費者に購入される数量が減ることになる。
したがって,被告ブレーンコスモスが主張する販売ルートの相違は上記の販売できないとする事情に当たらない。

震災義援金のアテンションシール
被告ブレーンコスモスらは,売上げの一部を東日本大震災の義援金に充てることを表示したアテンションシールによって被告製品の販売数が増
加したと主張するが,そもそも被告製品に当該シールが貼られていたとの立証はなく,仮に貼られていてもその表示が消費行動に与えた影響について何ら立証がないから,上記事情は,販売できないとする事情に当たらない。

海外市場における競合
原告らは,
中国及び米国に原告製品を販売しているから
(甲84,
85,
108~112),被告ビーシーリンクと海外市場で競合しており,被告ビーシーリンクが海外に被告製品を販売した数量分,被告製品と同じ作用効果をもつ原告製品が消費者に購入される数量が減るのであり,この点も販売できないとする事情に当たらない。

〔被告日本生化学の主張〕
(1)単位数量当たりの利益額

原告らは,
原告製品1個当たりの利益額から,
広告費,
運搬費,梱包費,
販管費などの経費を控除していない。


原告長寿乃里のホームページ(乙22)によると,原告製品は一つ一つ職人の手作りで製造され,原告製品を注文すると販促費として泡から水素泡立てネットが注文数に応じて無償に提供されるのであるから,少なくとも業務委託費や販促費は販売数量に応じて増加するのであり,変動経費として控除するべきである。

(2)製造,販売数について

被告日本生化学は,平成23年1月から平成27年12月までの間,被告方法により被告製品を製造していた。被告製品は,内容量に応じて100g,15g,45gの3種類があり,上記販売期間におけるそれぞれの製造,販売数は,以下のとおりである(乙19~21,23)。

なお,
括弧内の数字は,
仮に平成22年9月から同年12月までの製造,
販売数を加えたものであるが,この期間に製造された被告製品は,後記ウ
のとおり,被告方法とは異なる方法で製造されていたから,本件特許権1を侵害するものではなく,原告らの損害額に含めるべきではない。100g
15g

5000個(1万個)

合計

2000個

45g

37万6115個(44万1115個)

38万3115個(45万3115個)

原告らは,売上伝票と化粧品製造・充填・包装記録及び出荷可否報告書に記載されている被告製品の個数に齟齬があると主張するが,被告日本生化学は,納品作業及び代金請求作業の負担を軽減するため,被告製品を製造するたびに売上伝票を作成するのではなく,製造個数がある程
度まとまった段階で売上伝票を作成していたから,両者の間に違いが生じるのは当然のことである。それでも,平成27年2月に39個,同年8月に2個の差があるほかは,同年1月,3月~7月,9月,12月は,売上伝票と上記記録・報告書の個数は概ね一致している(同年10月及び11月は被告ブレーンコスモスに被告製品を販売していない。)(甲24,乙
20,21)。

製造方法の変更について
被告日本生化学が被告製品の製造及び被告ブレーンコスモスへの販売を始めたのは平成22年9月頃であり,それ以前に被告ブレーンコスモスに
納品していた製品は,被告製品(BCミネラルソープ)ではなく,材料,製法,名称を異にする別の製品である。同月頃以前は,被告ブレーンコスモスが,このような製品を被告製品と同じ名称(火山灰でできたすごか石けん)で販売していたにすぎない。
被告日本生化学は,上記別の製品の原料在庫が同年8月までになくなる
ことから,同年4月頃から同年9月以降に納品する新たな製品として被告製品の製造,販売を計画し,同年4月22日付け仕込作業標準書(甲24
の別添資料6丁)
を作成するなどしてその準備を行い,
当初の計画どおり,
同年9月から同仕込作業標準書に記載された製造方法により,被告製品の製造を開始した。同仕込作業標準書には,①他水溶液調製工程,②シラスバルーン・アルカリ剤添加工程,③脂肪酸添加工程,④界面活性剤添加工程,⑤増泡財添加工程,⑥美容成分・防腐剤添加工程を経る方法(以下被告新方法という。)が記載されており,被告新方法は,上記④の工程で界面活性剤を添加する前に,シラスバルーンとアルカリ剤に脂肪酸が添加され(上記③),鹸化反応が起こるものであるから,本件発明1の技術的範囲に属しない。
その後,平成27年9月に実施された証拠保全手続の際に被告製品が被
告方法により製造されていたことが判明し,平成28年1月に被告製品の製造方法を被告新方法に変更した。平成23年1月以降の製造工程表によると,同月以降は被告製品が被告方法で製造されていたことが確認されたが,平成22年の製造工程表は,保管期間経過により保管されていない。以上のとおり,被告日本生化学が被告方法により被告製品を製造してい
たのは平成23年1月から平成27年12月までであり,原告らの損害額の算定の基礎となる被告製品の販売個数は,上記期間に販売された38万3115個である。
(3)特許法102条1項ただし書の事情
以下のとおり,本件では,被告製品の譲渡数量の全てを原告らが販売することができないとする事情があるから,原告らの損害額の推定は覆滅されるべきである。

競合品
被告製品のようなシラス配合石けんは10銘柄存在し(甲8),市場に
おける競争が激しかった可能性が高いことから,被告製品の譲渡数量の全てを原告らが販売できたとはいうことはできない。


原告製品の販売経過
原告製品の販売経過をみると,被告日本生化学が被告製品を販売していない月のうち,平成24年1月,平成25年6月,平成26年1月,平成27年3月などのように,原告製品の販売数が前月より落ちている月がある。このような原告製品と被告製品の販売数の推移からしても,原
告製品の販売は被告製品の販売に影響を受けていなかった。

薬機法において,原告製品は医薬部外品であり,体臭,あせも,ただれの防止等を目的とするものであるところ,被告製品は化粧品であり,人の身体を清潔にし,美化し,魅力を増し,容貌を変え,又は皮膚などを健や
かに保つために,身体に塗擦する方法などで使用されることを目的とするものとされ,両者の目的,効果,効能及び作用が大きく異なる。平成23年1月から平成27年12月にかけての原告製品の販売数は増加しているのに対し,被告製品及び他のシラス配合の洗顔料で化粧品であるものは,販売数が減少し,販売を取りやめている会社もあるから(乙24),化粧
品ではなく医薬部外品を求める消費者の需要が高まっているといえる。以上のような薬機法における区分や消費者の需要の推移からして,化粧品を求める消費者と医薬部外品を求める消費者は異なるのであり,被告日本生化学が被告製品を製造,販売しなかったとしても,その全てを原告らが販売できたとはいえない。

原告製品と被告製品は,いずれもシラスバルーンの中空内部に石けんが形成されていることによる本件発明1の作用効果を製品の特徴として宣伝しておらず,シラスを配合している石けんであるため美肌をもたらすこと(原告製品。甲3,21~23)や,人工皮膚成分リピジュアを配合したことによる高い保湿力や原告製品より内容量が多いこと(被
告製品。甲2の5)を宣伝のために使用しているから,本件発明1の作用効果は原告製品及び被告製品の購買動機ではなく,販売に寄与してい
たということはできない。
〔被告ブレーンコスモスらの主張〕
(1)単位数量当たりの利益額

荷造運賃
原告らの販売形態からすると,原告製品1個当たりの荷造運賃は,梱包
した配送物の個数,配送物1個当たりの荷造運賃を基準とすべきであり,配送物1個当たりの荷造運賃は,日本郵政株式会社につき249~1100円(甲94,95),佐川急便株式会社につき300~1万3390円であるため,最低でも250円以上となる。
原告らは,卸売業者を介在させるものではないため,一度に配送する原
告製品は1個となるのが原則である。原告らは,複数個の原告製品を同梱することや,深層水など原告らの他の製品と同梱して配送することを前提に,荷造運賃を推定計算しているが,そのような同梱をしている証拠はないから,原告らの推定計算は不合理である。

物流倉庫に係る費用
原告らの取引の規模からすると,原告長寿乃里において,消費者から注文があった数量をその都度製造することは想定し難く,原告製品を保管するための環境が必要になるはずであり,同原告は物流在庫を有していたものと推認され,その費用は変動経費として控除すべきである。また,配送業者又は原告長寿乃里福岡支店において原告製品の梱包に係る費用も変
動経費として控除すべきである。同様に,原告イングにおいても,原告イング本社内で行われる梱包作業に係る人件費は変動経費として扱うべきである。

代金引換手数料
代金引換の手数料は,当該支払方法を利用する製品が増えるほど金額が増加するから,変動経費である。


加盟店手数料
クレジット決済を利用することができ,加盟店手数料が発生する以上,加盟店手数料は売上げの増加によって変動する費用であるから,変動経費である。

(2)販売個数について

被告ブレーンコスモスは,平成23年1月から平成27年12月まで,被告日本生化学から被告製品を購入して,販売しており,当該期間における販売数は以下のとおりである(丙1~14,18)。
100g
15g

1049個

45g

35万8793個

1305個

合計

36万1147個

被告ビーシーリンクは,被告ブレーンコスモスの完全子会社であり,平成23年1月20日から平成27年12月9日まで被告製品を販売していたが,この期間は平成24年10月に本店を移転する際の前後の移行期間
に当たり,取引関係が不安定であった。そのため,本来被告ビーシーリンクの取引であるにもかかわらず,被告ブレーンコスモスの預金口座に入金されるなど,両者の取引の峻別が不十分な取引もあり,被告ビーシーリンクの販売数を正確に把握することはできない。被告ビーシーリンクが平成27年2月から11月にかけて通販等の小売によって販売した被告製品の
数は287個である(丙23,24)。
(3)特許法102条1項ただし書の事情
以下のとおり,本件では,被告製品の譲渡数量の全てを原告らが販売することができないとする事情があるから,原告らは,請求するような損害を被っていない。

競合品の存在

〔被告日本生化学の主張〕(3)アの主張を援用する。競合品に原告製品との代替性があれば,厳格に作用効果が一致する必要はなく,シラスの原材料を配合したことを明示した甲8記載の8銘柄の商品は,いずれも原告製品と代替性を有する。

販売方法,態様が異なること
原告長寿乃里は,原告製品を小売で直接エンドユーザーの消費者に販売しているのに対し,被告ブレーンコスモスは,販売全体のうち小売の占める割合が5%にすぎず,残りの95%は主として小売業又は他の卸売業に商品を販売する企業間取引の卸売であり(丙19),販売方法,態様が異なる。


震災義援金のアテンションシール
被告製品の売上げの一部は平成23年3月の東日本大震災の義援金に充てられ,
平成23年4月から同年9月30日まで,
被告製品の販売に際し,
被告製品にその旨が表示されたアテンションシールが貼られていた(丙15,20)。このシールを貼ったことで,被告製品の販売数が増加したこ
とからも,同シールが被告製品の購買意欲促進につながったものである。エ
海外市場で競合しないこと
被告ビーシーリンクは,被告ブレーンコスモスが海外へ商品を流通させる一次問屋であり,被告ブレーンコスモスから卸された被告製品を海外の
問屋にのみ販売している。被告ビーシーリンクの取引先は中国,米国,ラトビア,イギリス等であり(丙25~28),原告らの海外取引先である中国及び米国と全て競合するわけではない。また,原告らの海外取引は,中国に対して平成24年7月に原告製品2700個を販売しただけで,継続的な取引をしておらず,海外の市場において競合しているということは
できない。そのため,被告ビーシーリンクが被告製品を販売しなかったとしても,その全てについて消費者が原告製品を購入したという関係にない。
第4
1
当裁判所の判断
本件各発明の内容
(1)本件明細書等1(甲4の1)及び本件明細書等2(甲5の1)には次の各記載がある(本件明細書等1の段落番号や図面番号を【0001】①,
【図1】①,本件明細書等2の段落番号等を【0001】②などと記載する。)。

技術分野
本発明は,固形状または半固形状のスクラブ石けんの製造方法及びスクラブ石けんに関し,より詳細には,膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんの製造方法及びスクラブ石けんに関する。(段落【0001】①②)イ
背景技術

従来,顔面等の皮膚の洗浄に用いる洗浄剤として,固形状や半固形状(ペースト状)の石けんが知られている。

(段落【0002】①②)

固形状や半固形状の石けんは,保形成が高く,液状の石けんに比して内容物の沈殿が生じないことから,水に不溶な粒子を混入し,いわゆるスクラブ石けんとして多く利用されている。

(段落【0003】①②)

スクラブ石けんは,混入した粒子が,皮膚表面の皮脂や毛穴にたまった汚れをかき取るため,より高い洗浄効果を有するものである。

(段落
【0004】①②)
このようなスクラブ石けんに混入する粒子は,例えば,天然由来の粒子として米ぬかやあずき,きな粉,こんにゃく,海草,とうもろこし粉,オートミール,アプリコット種,くるみ粒,火山灰などが挙げられ,また,合成品由来の粒子としてナイロンパウダーなどがある。(段落【000
5】①②)

中でも,火山灰を用いたスクラブ石けんは,火山灰が降灰する地方の特産品として注目を浴びており,また,洗浄効果の高さから,その有用性が認識されつつある(例えば,特許文献1参照)。

(段落【0006】①②)

発明が解決しようとする課題
しかしながら,上記従来の火山灰を混入したスクラブ石けんでは,その洗浄性の高さから,皮脂や汚れを素早く皮膚から掻き取って,泡中に溶解することとなるため,起泡性が減衰しやすく,洗浄の際に泡持ちが悪いという問題があった。(段落【0007】①,【0008】②)

また,火山灰は顕微鏡などで観察すると,比較的鋭利な形状であるため,洗浄時の泡立ちが悪い場合,皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそれがあった。

(段落【0008】①,【0009】②)本発明は,斯かる事情に鑑みてなされたものであって,高い洗浄効果を有しながらも,泡持ちが良く,しかも,皮膚に対して刺激が少ない固形状または半固形状のスクラブ石けんの製造方法及びスクラブ石けんを提供する。(段落【0009】①,【0010】②)

課題を解決するための手段
上記課題を解決するために,本発明に係るスクラブ石けんの製造方法では,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成することとした。(段落【0010】①)また,本発明に係るスクラブ石けんでは,膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって,前記微粒火山灰の中空内部は,同微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで,固形状または半固形状の石けんが収納されていることに特徴を有することとした。(段落【0012】②)また,本発明に係るスクラブ石けんでは,膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって,前記微粒火山灰の中空内部は,固形状または半固形状の石けんで満たされていることに特徴を有する。(段落【0013】②)

発明の効果
請求項1に記載のスクラブ石けんの製造方法では,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成することとしたため,微粒火山灰の中空内部に内包された石けんを形成することができ,火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんを製造することができる。(段落【0013】①)
本発明に係るスクラブ石けんでは,膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって,前記微粒火山灰の中空内部に,固形状または半固形状の石けんを収納したため,火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激の少ないスクラブ石けんとすることができ,しかも,徐放性を付与することができて,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんとすることができる。(段落【0016】②)

発明を実施するための形態
本発明は,膨化処理を施して中空の微小ガラス球状の微粒火山灰(以下,シラスバルーンともいう)を含有する固形状または半固形状(ペースト状)のスクラブ石けんであって,前記微粒火山灰の中空内部に内包された固形状または半固形状の石けんを備えることを特徴とするスクラブ石けんを提供するものである。(段落【0016】①,【0018】②)

本明細書において,半固形状(ペースト状)とは,液状よりも流動性が低く,固形状よりも流動性の高い状態のことをいい,粘度が10000cp以上(例えば100000cpなど)の状態をいう。

(段落【0017】①,【0019】②)

ここで,スクラブ石けんに使用する火山灰(シラス)は,加熱しながら膨化処理を施して,中空の微小ガラス球状に形成できるものであれば,産地や火山灰の組成等特に限定されるものではない。(段落

【0018】

①,【0020】②)

膨化処理は,火山灰を加熱や冷却,加圧や減圧を適宜行いながら,平均粒径を5~20μm程度の中空の微小ガラス球状に成形する処理のことをいい,公知の方法を用いることができる。

(段落【0019】①,
【0
021】②)

そして,火山灰に,重量比で0.2~0.5%の親水性減少剤を添加する。この親水性減少剤は,例えば,メチルトリメトキシシランを主成分とするシランカップリング剤や,ジメチルポリシロキサンを主成分とする粘度100cp(センチポイズ)のシリコーンオイルや,シリコーンレジンを主成分とするシリコーンコーティング剤を用いることができる。(段落【00
21】①,【0023】②)

そして振動ミル等により,親水性減少剤が添加された火山灰を混合しつつ微粉砕し,平均粒径が3~5μmの火山灰微粒子の粉体を調製する。

(段落【0022】①,【0024】②)この火山灰微粒子を200℃で3時間の乾燥を行った後,流動層式加熱炉で,900℃~1200℃,さらに好適には950~1050℃の温度で熱処理を行うことにより,火山灰の微粒子をシラスバルーン(微粒中空ガラス球状体)とすることができる。(段落【0023】①,【0025】②)

なお,このようにして得られたシラスバルーンは,平均粒径10~15μm,固め見かけ密度0.25~0.30g/cm3程度の,融着物や未発泡物の発生が極めて少ない微粒中空ガラス球状体となっている。

(段落【0024】①,【0026】②)

また,本発明に係るスクラブ石けんに含まれたシラスバルーンの中空内部には,石けんが充填されている。

(段落【0025】①,【0027】②)
このシラスバルーン内部の石けん(以下,内包石けんという)は,スクラブ石けんの基材となる石けん(以下,基材石けんという)と同じ成分であっても良く,また,成分を異ならせるようにしても良いが,固形状または半固形状であるのが好ましい。内包石けんを液状とすると,シラスバルーン内部から容易に溶出することとなり,泡持ちが悪くなる。(段落【0026】①,【0028】②)

すなわち,内包石けんを固形状または半固形状とすることにより,洗浄時にシラスバルーン内部から徐々に内包石けんを溶出させることができ,スクラブ石けんに石けん成分の徐放性を付与することができる。

(段落【0027】①,【0029】②)

内包石けんは,基材石けんの調製とは別工程として,シラスバルーン内部に予め内包させておいてもよいが,基材石けんの調製と同時にシラスバルーン内に内包石けんを形成するようにしても良い。

(段落【0028】①,【0030】②)
すなわち,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンをアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成する。
(段落【0029】①,【0031】②)具体的には,内包石けんを備えるシラスバルーンを含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんの製造するにあたり,界面活性剤を含有するアルカリ溶液と,シラスバルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製し,次いで,同アルカリ火山灰溶液に,脂肪酸を添加する。(段落【0
030】①,【0032】②)

ここで,アルカリ溶液は,水に溶解することでアルカリ性を呈する金属の水酸化物,例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を用いることができる。

(段落【0031】①,【0033】②)

この方法によれば,アルカリ火山灰溶液を調製した際に,シラスバルーン表面のクラック(割れ目)や孔からアルカリ溶液が内部に浸入し,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされることとなる。

(段落【0032】①,【0034】②)

この際,アルカリ溶液には,界面活性剤を添加しているため,アルカリ溶液の表面張力が弱められて,シラスバルーン表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ,アルカリ溶液を容易に浸入させることができる。

(段落【0033】①,【0035】②)

このような状態において,アルカリ火山灰溶液を撹拌しながら70~90℃に加熱する。

(段落【0036】①,【0038】②)

次いで,アルカリ火山灰溶液に加温溶融した脂肪酸を添加すると,脂肪酸もまた徐々に表面のクラックを介してシラスバルーン内に浸透することとなる。

(段落【0037】①,【0039】②)したがって,シラスバルーンの内外では,アルカリ溶液と脂肪酸との両者が混在することとなり,鹸化反応を行うことにより,シラスバルーン外部に基材石けんを形成すると同時に,シラスバルーン内部には内包石けんを形成することができる。(段落【0038】①,【0040】②)

なお,通常石けんを製造する場合には,脂肪酸(又は油脂)の溶液に,アルカリ溶液を徐々に添加するのが一般的であるが,シラスバルーン内に内包石けんを形成する場合には,不適であると言える。

(段落【0039】①,【0041】②)
例えば仮に,脂肪酸溶液とシラスバルーンとを混合し,次いで,アルカリ溶液を添加した場合,シラスバルーンの内部にある脂肪酸溶液と,シラスバルーン内に浸入してきたアルカリ溶液とが,シラスバルーンの表面で石けんを形成してしまい,アルカリ溶液の更なる浸入を妨げるため,シラスバルーン中心部の脂肪酸溶液が未反応となりやすく,内包石けんが形成されにくいため好ましくない。(段落【0040】①,【0042】②)
一方,本願発明の如く,アルカリ溶液とシラスバルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製し,次いで,脂肪酸溶液を徐々に添加した場合は,シラスバルーンの表面で石けんを形成しても,反応当初は高濃度のアルカリ溶液が脂肪酸溶液に比して多量にあるため,速やかに石けん分子が分散することとなり,シラスバルーン内部に脂肪酸溶液が入るのを妨げることがない。(段落【0041】①,【0043】②)

したがって,シラスバルーンの中心部に至るまで,アルカリ溶液と脂肪酸溶液とを反応させることができるため,シラスバルーン内部に十分な量の内包石けんを形成することができる。

(段落【0042】①,【0044】②)

以下,本実施形態に係るスクラブ石けん及び同スクラブ石けんの製造方法について,図面を参照しながら詳説する。

(段落【0048】①,【0050】②)

図1は,本実施形態に係るスクラブ石けんの処方を示した図であり,図2は,本実施形態に係るスクラブ石けんの製造方法を示したフローである。

(段落【0049】①,【0051】②)【図1】①②

【図2】①②

図1及び図2を総合的に参照しながら,本実施例に係るスクラブ石けん(100重量部)の製造方法について順を追って説明する。なお,本実施形態で述べるスクラブ石けんは,ペースト状のスクラブ石けんである。

(段落【0050】①,【0052】②)まず,加温可能で内部を減圧可能に形成した調合タンク等に,図1に示すA-1の原料を溶解するアルカリ溶液調製工程を行う(ステップS1)。

(段落【0051】①,【0053】②)

このアルカリ溶液調製工程では,27.3重量部の水に,5.55重量部の水酸化カリウムを徐々に添加して,水酸化カリウムを十分溶解し,アルカリ水溶液を調製する。

(段落【0052】①,【0054】②)

この際,水に水酸化カリウムを添加することで,アルカリ溶液の温度が上昇するが,できるだけ室温に近い温度,例えば15~35℃程度に液温を保つのが望ましい。

(段落【0053】①,【0055】②)

次に,ステップS1で調製した室温のアルカリ溶液に,図1に示すA-2の原料を溶解して界面活性剤添加工程を行う(ステップS2)。

(段落【0

054】①,【0055】②)
界面活性剤添加工程では,3重量部のグリセリン,5重量部の保湿剤,3重量部の増泡剤,3重量部の界面活性剤をそれぞれアルカリ溶液中に添加して均一になるまで撹拌を行う。なお,ここで添加するグリセリンは,次工程で添加するシラスバルーンの分散剤として機能するものである。(段落【0055】①,【0057】)

この界面活性剤添加工程においても,できるだけ室温に近い温度,例えば15~35℃程度に液温を保つのが望ましい。

(段落【0056】①,【0058】②)

次に,界面活性剤添加工程において調製した,界面活性剤を含有するアルカリ溶液中に,図1に示すA-3の原料を添加するシラスバルーン添加工程を行う(ステップS3)。

(段落【0057】①,【0059】②)

シラスバルーン添加工程では,22.74重量部のシラスバルーン,4重量部の白色顔料,0.01重量部の糖類を,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に添加する。

(段落【0058】①,【0060】②)

このシラスバルーン添加工程において添加するシラスバルーンは,前述した如く,予め膨化処理を施して微細な中空球状に成形した火山灰(シラス)である。

(段落【0059】①,【0061】②)

なお,このシラスバルーン添加工程で添加するシラスバルーンや,白色顔料は,非常に微細な粉体であるため,調合タンク内で撹拌する際に粉塵として宙に舞いやすい。

(段落【0060】①,【0062】②)そこで,調合タンク内で撹拌を行うためには,まず,プラネタリーミキサー等で液中及び液面を穏やかに撹拌(例えば,20~40rpm程度)し,次いで,ディスパー等により,強力な渦流を発生させて液中に巻き込むように撹拌混合(例えば,800~1200rpm程度)を行って浸透工程を実施する(ステップS4)。(段落【0061】①,【0063】②)

浸透工程において,このような撹拌をおこなうことで,シラスバルーンや白色顔料が粉塵として宙に舞うことを防止することができる。

(段落【0062】①,【0064】②)

次に,浸透工程で調製した,界面活性剤を含有するアルカリ溶液とシラスバルーンとの混合液(アルカリ火山灰溶液)に,図1に示すB-1(脂肪酸)を添加する脂肪酸添加工程を行う(ステップS5)。

(段落【0066】①,段落【0068】②)

次に,アルカリ火山灰溶液と,脂肪酸との混合液で石けんを形成する石けん調製工程を行う(ステップS6)。

(段落【0072】①,【00
74】②)

この石けん調製工程では,アルカリ火山灰溶液に脂肪酸を混合した直後より,調合タンク内の減圧を行い,混合液中に含まれる空気を脱気(脱泡)しながら撹拌混合する。

(段落【0073】①,【0075】②)

次に,石けん調製工程を経たペースト状混合物に,美容成分組成物を添加する美容成分添加工程を行う(ステップS7)。

(【0078】①,段落【0080】②)

この美容成分添加工程では,ペースト状混合物に,0.4重量部の天然物抽出エキスを添加する。

(段落【0079】①,【0081】②)(2)本件各発明の意義

特許請求の範囲の記載に加え,前記(1)によれば,本件各発明は,①スクラブ石けん及びその製造方法に関するものであって,②従来の火山灰を混入したスクラブ石けんでは,皮膚から掻き取った皮脂や汚れが泡中に溶解して起泡性が減衰し,洗浄の際に泡持ちが悪い上,火山灰は比較的鋭利な形状であるため,洗浄時の泡立ちが悪い場合,皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそ
れがあったという課題を解決するため,③本件発明1については,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するア
ルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,シラスバルーンの中空内部にも石けんを形成するスクラブ石けんの製造方法を採ることにより,④本件発明2については,膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有するスクラブ石けんであって,微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで石けんを収納させる
こと特徴とすることにより,⑤本件発明3については,膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有するスクラブ石けんであって,微粒火山灰の中空内部が石けんで満たされていることを特徴とすることにより,⑥火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するという効果を奏するものである
と認められる。
2
争点1(被告方法が本件発明1の技術的範囲に属するか)について(1)争点1-1(構成要件1Bの充足性)について
構成要件1Bは界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,というものであるところ,被告らは,被告方法はシラスバルーンを界面活性剤を含有する水溶液に浸漬する方法であり,アルカリ溶液に浸漬していないから,構成要件1Bを充足しないと主張する。

しかし,構成要件1Bの文言は,その通常の意義に照らすと,シラスバルーンを界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬することにより,その中空内部にアルカリ溶液を浸透した状態にすることを意味すると解するのが自然である。また,構成要件1Cはその後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,と規定し,脂肪酸の添加の時点が構成要件1Bのアルカリ溶液の浸透の後の時点であることを明示しているのに対
し,構成要件1Bにはそのような添加の時点や順序に関する記載は存在しないことにも照らすと,構成要件1Bは,シラスバルーンを投入する時点
での溶液の状態が界面活性剤を含有するアルカリ溶液であることを意味するものではないというべきである。
本件明細書等1の段落【0030】には,実施例として,界面活性剤を含有するアルカリ溶液とシラスバルーンを混合する方法が記載されているが,同明細書等の段落【0033】には,

この際,アルカリ溶液には,界面活性剤を添加しているため,アルカリ溶液の表面張力が弱められて,シラスバルーン表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ,アルカリ溶液を容易に浸入させることができる。

との記載がある。これによれば,本件発明1において,アルカリ溶液がシラスバルーンの内
部に容易に浸入することができるのは,アルカリ溶液に界面活性剤を添加するからであると考えられ,シラスバルーンの投入時点でアルカリ溶液であるか,あるいは,シラスバルーンの投入後に水溶液にアルカリ剤を添加するかにより,その効果は左右されないというべきである。そうすると,段落【0030】に記載された方法は一つの実施例にすぎないというべき
であり,構成要件1Bの意義をかかる方法に限定することは相当ではない。以上のとおり,構成要件1Bの文言の通常の意味及び本件明細書等1の記載に照らすと,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,とは,シラスバルーンを界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬することにより,シラスバルーンの中空内部にアルカリ溶液を浸透した状態とすることを意味すると解釈するのが相当である。
これを被告方法についてみるに,被告方法は,乳化釜に①精製水及び界面活性剤(アラノンALE)等を投入し,②シラスバルーン(ウィンライト)を添加し,③アルカリ剤(水酸化カリウム)を添加し,④攪拌した上,
⑤脂肪酸(ルナックMY-98〔ミリスチン酸の商品名〕等)を投入してけん化する工程を含むことが認められる(甲11~13,17~19,乙
1,15)。被告方法においては,シラスバルーンを添加する時点(上記②)では溶液にはアルカリ剤が添加されていないためアルカリ溶液ではないが,その次の上記③の工程でアルカリ剤が添加され,攪拌されることでアルカリ溶液となるから,上記④の工程が終了した時点で,シラスバルーンは界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬された状態となる
ということができる。
そして,被告製品を分析した甲9報告書におけるICP発光分析の結果(甲9の9~13頁)及び甲40報告書における元素分析の結果(甲40の8,10頁)によれば,被告製品に含まれるシラスバルーン内にアルカリ剤由来のカリウム(K)が存在することが認められるから,シラスバル
ーンの中空内部にアルカリ溶液が浸透しているといえる。

これに対し,被告らは,原告らが,本件特許の出願過程において,構成要件1Bをアルカリ溶液に浸漬してから界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬してと補正した経過に照らすと,構成要件1Bは,シラ
スバルーン,界面活性剤及びアルカリ溶液の混合順序を明記したものであると解すべきであると主張する。
しかし,上記補正は,アルカリ溶液に界面活性剤を含有させることが必須であることを明らかにしたものにすぎず(乙8の4),構成要件1Cがその後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することによりと規定している
ことと対比しても,その添加時点を特定したものとは解し得ない。また,被告らは,被告方法によれば,シラスバルーンは界面活性剤・他水溶液で満たされているので,中空状のシラスバルーンに対するアルカリ溶液の表面張力を弱めなければならない状況は生じず,仮に,シラスバルーンの内部にアルカリ溶液が浸入したとしても,その浸入は,アルカ
リ溶液の拡散によるものであって,アルカリ溶液の表面張力を弱めたものではないと主張する。

しかし,仮に,上記②の工程でシラスバルーン内部に界面活性剤等の溶液が一旦満たされたとしても,上記③の工程でアルカリ剤が添加されることによりアルカリ溶液が調製されるのであるから,アルカリ溶液に表面張力が発生し,これが界面活性剤により弱められることにより,シラスバルーン内部へのアルカリ溶液の浸入が容易になったことに変わりはないと
いうべきである。被告方法においてアルカリ剤をシラスバルーンの投入後に添加することにより,本件発明1と異なる作用が生じ,それによりアルカリ溶液がシラスバルーンの中空内部に浸入したと認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり,被告らの主張は採用できない。


したがって,被告方法は,構成要件1Bを充足する。

(2)争点1-2(構成要件1Dの充足性)について

シラスバルーンの含有について
構成要件1Dは,前記シラスバルーンの…中空内部にも石けんを形成するというものであるところ,被告らは,被告製品のシラスバルーンは製造途中で破砕されるので,被告製品はシラスバルーンを含有しないと主張する。
しかし,被告製品にシラスバルーンが配合されていることは,被告ブレーンコスモス自身が被告製品の説明や宣伝・広告において鹿児島産シラスバルーン配合などと記載して自認しているところであり(甲14,16),実際のところ,被告製品の状態を観察した甲31報告書の3~4頁の写真に加え,被告日本生化学が依頼して行われた分析結果(乙13の図1-2,1-3)においても,被告製品には破砕されていない球状のシラスバルーンが存在することが看取される。

これに対して,被告らは,乙6などを根拠に,シラスバルーンはせん断力に対して弱く,平均粒径が約30μm以上であるものについては破壊さ
れやすいという性質があり,被告製品で使用されているシラスバルーンの平均粒径は60μmであるので,シラスバルーンは,製造工程において破砕された可能性が高いと主張する。
しかし,乙6には,シラスバルーンは樹脂やセメントなどと混合されるきに壊れやすいと記載されているところ,被告製品はシラスバルーンを樹
脂やセメントと混合して製造されるものではなく,アルカリ溶液や界面活性剤と混合されるものであるから,被告製品の製造環境は乙6の樹脂やセメントと混合する場合とは異なるというべきである。このため,乙6の記載をもって,被告製品においてシラスバルーンが破砕されているということはできない。

また,被告らは,甲9報告書における被告製品のSEM画像において球状のシラスバルーンの存在は確認できないと主張するが,前記のとおり,甲31報告書の写真(甲31の2の3~4頁),乙13の図1-2,1-3において球状のシラスバルーンが看取されることに照らすと,甲9報告書の上記SEM画像に球状のシラスバルーンが写っていないとしても,被
告製品がシラスバルーンを含有するとの上記認定を左右しないというべきである。
さらに,被告らは,粒径5~20μmのシラスバルーンを使用していなければ構成要件1Dを充足しないと主張するが,構成要件1Dはシラスバルーンの粒径を限定していないので,被告らの主張は理由がない。
以上によれば,被告製品はシラスバルーンを含有すると認めるのが相当である。

シラスバルーンの中空内部に石けんが形成されているかについて
被告らは,被告製品に球状のシラスバルーンが存在するとしても,その
中空内部に石けんは形成されていないと主張するが,前記判示のとおり,被告製品を分析した甲9報告書におけるICP発光分析の結果(甲9の9
~13頁)及び甲40報告書における元素分析の結果(甲40の8,10頁)によれば,被告製品に含まれるシラスバルーン内にアルカリ剤由来のカリウム(K)が存在することが認められる。また,電子顕微鏡により割れたシラスバルーンを観察した結果によれば,内部に石けんが付着している様子が観察される(甲40の5~7頁)。そうすると,被告製品のシラスバルーンの中空内部には石けんが形成されていると認められる。これに対し,被告らは,甲9報告書で行われた成分分析は,シラスバルーンをすり潰したものについて行われたものであるから,検出されたカリウムは,石けん成分である水酸化カリウムではなく,シラスの成分である
酸化カリウムである可能性が高いと主張する。
しかし,甲35報告書の実験結果によれば,被告製品から検出されたカリウムの濃度は25ppm及び28ppmであるのに対し,市販のシラスにおけるカリウムの濃度は1~5ppmの範囲であり,シラス含有のカリウムと濃度が大きく異なる。加えて,甲40報告書における成分分析は,
シラスバルーンをすり潰さず,内部に付着した石けんの成分を分析したものであるが,その結果においても,カリウムが検出されたことが認められる(甲40の9~10頁)。そうすると,被告製品から検出されたカリウムはシラスではなく石けん成分に由来するものと認めるのが相当である。また,被告らは,シラスバルーン内部に浸入し,内部を満たすのは界面
活性剤の水溶液であり,アルカリ溶液及び脂肪酸はシラスバルーン内部に浸透せず,アルカリ剤と脂肪酸の化学反応(鹸化反応)はシラスバルーンの外部で生じる可能性が高いと主張する。
しかし,前記のとおり,被告方法は,乳化釜に精製水及び界面活性剤等を投入し,シラスバルーンを添加した後に,アルカリ剤を添加して攪拌し
ているのであるから,シラスバルーンを添加した時点でその内部を界面活性剤の水溶液が満たしているとしても,その後,アルカリ剤を添加して攪
拌することにより,シラスバルーンの内部はアルカリ溶液で満たされると認めるのが相当であり,アルカリ溶液がシラスバルーン内部に浸透しないとの被告らの主張は採用し得ない。
さらに,被告らは,乙13の分析結果報告書では被告製品のシラスバルーン内に石けんは確認できなかったと主張するが,同報告書において分析
されたシラスバルーンの内部に石けんが形成されていなかったとしても,そのことから直ちに被告製品に存在する他のシラスバルーンの内部においても石けんが形成されていないということはできない。
以上によれば,被告製品に含有されるシラスバルーンの中空内部には石けんが形成されているものと認められる。


したがって,被告製品はシラスバルーンを含有し,その中空内部に石けんが形成されているということができるので,構成要件1Dを充足する。
(3)争点1-3(作用効果不奏功の抗弁の成否)について
被告らは,被告方法により製造した被告製品にはシラスバルーンが含有されていないから,本件発明1の効果を奏さず,技術的範囲に属しないと主張
するが,前記(1)及び(2)のとおり,被告製品は,球状のシラスバルーンを含有し,その内部に石けんが形成されるものであるから,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するという効果を奏すると認められる
したがって,被告らの主張は採用できない。

(4)小括
被告方法が構成要件1A,1C及び1Eを充足することは当事者間に争いがないから,被告方法は,本件発明1の技術的範囲に属する。
3
争点2(被告製品が本件発明2及び3の技術的範囲に属するか)について(1)争点2-1(構成要件2A及び3Aの充足性)について
前記2(2)アのとおり,被告製品は中空状の微粒火山灰(シラスバルーン)
を含有するから,構成要件2A及び3Aを充足する。
(2)争点2-2(構成要件2C及び3Cの充足性)について
原告らは,甲9報告書,甲35報告書,甲40報告書により,被告製品のシラスバルーンの中心部に至るまで石けんが収納され,あるいは,中空内部が石けんで満たされていたということができると主張する。

しかし,甲9報告書及び甲40報告書の成分分析の結果は,シラスバルーン内部から石けん成分であるカリウムが検出されたことを示すにとどまり,また,甲40報告書の電子顕微鏡による観察結果によると,シラスバルーンの内部に石けんが付着していることは認められるが,被告製品のシラスバルーンの中空内部の中心部に至るまで石けんが収納され,あるいは,中空内部
が石けんで満たされているということはできない。
これに対し,原告らは,甲40報告書においては,真空乾燥によって水分が乾燥し,石けん成分自体も吸引されるため,石けんの体積が相当目減りしたものであり,真空乾燥を行う前の状態においては,シラスバルーンの中空内部の中心部に至るまで石けんが収納され,あるいは,中空内部が石けんで
満たされていたと主張する。
しかし,仮に原告らの主張するように水分の乾燥等が起こり,石けんの体積が減少し得るとしても,どの程度石けんの体積が減少したか否かは不明といわざるを得ず,また被告製品の水分量が精製水とエキス成分を合わせて約28%であること(甲24)も考慮すると,被告製品において,真空乾燥を
行う前のシラスバルーンの中空内部の中心部に至るまで石けんが収納され,あるいは,中空内部が石けんで満たされていたと認めることはできない。したがって,被告製品は,構成要件2C及び3Cを充足せず,本件発明2及び3の技術的範囲に属しない。
4
争点3(本件各特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか)について

(1)前記2及び3のとおり,被告方法は本件発明1の技術的範囲に属するが,被告製品は本件発明2及び3の技術的範囲に属しないので,本件特許1についてのサポート要件違反の有無(争点3-1)について判断する。(2)争点3-1(本件各特許についてのサポート要件違反の有無)について被告らは,シラスバルーンの平均粒径が約30μm以上である場合には,
せん断力に対して弱く,破壊されやすいことを前提として,本件発明1の特許請求の範囲においては,シラスバルーンの平均粒径が特定されておらず,発明の詳細な説明に開示された内容と比較して拡張又は一般化された記載となっているなどと主張する。
しかし,前記判示のとおり,乙6の記載に基づき,約30μm以上のシラ
スバルーンがせん断力に弱く,破壊されやすいということはできないので,被告らの主張は前提を欠くものである。
また,シラスバルーンの平均粒径に関し,本件明細書等1には,膨化処理は,火山灰を…平均粒径を5~20μm程度の中空の微小ガラス球状に成形する処理のことをいい(段落【0019】),あるいは,このようにして得られたシラスバルーンは,平均粒径10~15μm…程度の,融着物や未発泡物の発生が極めて少ない微粒中空ガラス球状体となっている(段
落【0024】)との記載があるものの,上記の平均粒径の数値に何らかの技術的意義があるとは認められず,
平均粒径が上記の範囲になければ本件発
明1の効果を奏しないと認めるに足りる証拠もない。

したがって,本件発明1に係る特許請求の範囲が,発明の詳細な説明に開示された内容と比較して拡張又は一般化されたものであるとの被告らの主張は採用し得ない。
5
争点4(被告Aの悪意又は重過失の有無)について
前記判示のとおり,
スクラブ石けんの製造方法に係る本件特許権1について,
特許権侵害が成立するところ,原告らは,被告ブレーンコスモス及び被告ビー
シーリンクの代表取締役である被告Aが,被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスに対する本件警告書が送付されたことを認識していたこと,被告ブレーンコスモスらが被告製品をどのような製品にするかについて被告日本生化学に指示する等の関与をしていることなどを理由に,被告Aにはその職務を行うことについて悪意又は重過失があったと主張する。

しかし,被告ブレーンコスモスは被告日本生化学との間で被告製品に係るOEM契約を締結してその製造を委託し,被告日本生化学が製造した被告製品を販売していたにすぎず,被告日本生化学における石けんの製造方法等についての専門性,知見を有していたと認めるに足りる証拠はなく,被告ブレーンコスモスが被告製品の製造方法について被告日本生化学に指示をしていたことを示
す証拠もない。
また,被告Aは,その陳述書(丙37)において,原告長寿乃里から本件警告書を受領した後,被告日本生化学に問い合わせ,製造方法が異なるため特許権侵害にならない旨の説明を受けたと述べているところ,同被告において,被告日本生化学に対し,被告製品の具体的な製造方法について更に問い合わせを
する義務があったとまでは認められない。
したがって,本件特許権1の侵害につき,被告Aに悪意又は重過失があったとは認められないから,原告らの被告Aに対する,会社法429条1項に基づく損害賠償請求は,理由がない。
6
争点5(消滅時効の成否)について
被告らは,原告らは平成21年4月時点で,本件各特許権の侵害を認識していたから,損害賠償請求権の一部が時効消滅していると主張する。しかし,民法724条が規定する損害及び加害者を知った時とは,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知
った時を意味するものと解するのが相当であるところ(最高裁判所昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照),特許権侵
害が認められる本件特許権1は,スクラブ石けんの製造方法の発明に係るものであり,被告らが製造,販売している被告製品を市場で入手可能であるとしても,その分析によりいかなる製造方法により被告製品を製造しているかを確認することは困難である。
これに対し,被告らは,本件警告書を送付した時点において,原告らは被告
方法が本件発明1の技術的範囲に属し,損害が発生していることを認識していたと主張するところ,確かに,原告長寿乃里は,前提事実(前記第2の2(7))のとおり,被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスに対し本件警告書を送付しているので,その時点において,被告製品が本件各特許権を侵害する可能性があることを認識していたものと認められる。

しかし,同警告書には,被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するものと思料されると記載されているにとどまり,この時点において原告らが被告製品の具体的な製造方法を把握していたと認めるに足りる証拠はない。本件においては,平成27年9月29日に被告日本生化学の千葉工場において証拠保全による検証が行われ,これにより,原告らは被告方法に係る製造工程表等を入手
し(甲24),原告らは被告方法が本件発明1の技術的範囲に属することを認識したものと認められる。
そうすると,消滅時効の起算点は平成27年9月29日であると認めるのが相当であり,同日から本訴が提起された平成28年4月3日(訴状作成日は同月1日)までに3年を経過していないから,本件特許権1の侵害に係る損害賠
償請求権は,時効消滅していないというべきである。
7
争点6(原告らの損害額)について
(1)侵害者の譲渡した物の数量

被告日本生化学が被告方法によって被告製品を製造していた期間
原告らは,平成22年3月12日から現在まで被告方法で製造していると主張するのに対し,被告日本生化学は,平成22年9月から被告新方法
による被告製品の製造を開始したものの,その後,平成23年1月から平成27年12月までは被告方法で被告製品を生産し,平成28年1月に被告新方法に再度変更したと主張する。
(ア)そこで検討するに,後掲証拠によれば,①火山灰でできたすごか石けんとの名称の商品は,遅くとも平成21年4月6日には販売されていたこと(甲20),②被告日本生化学には,届出申請:平成22年4月22日,作成年月日:平成22年4月23日と記載のある被告方法を記載した製造工程表(乙1,15)と,平成22年4月22日制定との記載のある被告新方法を記載した製造工程表(乙10,1
7)の2種類が存在すること,③平成27年9月29日に被告日本生化学の千葉工場で実施された証拠保全において,工場長は,製品標準書は薬事法等の関係法令が改正される都度制定しており,現在は平成22年4月22日制定のもの(製品標準書番号0188)に従い作業している旨説明し,同製品標準書が製造方法として引用する仕込作業標準書は,
被告新方法が記載されているものであったこと(甲24の検証調書及びその別添資料の3,6丁),④平成27年1月及び6月から9月にかけて製造された被告製品は,被告方法が記載された製造工程表が使用され,被告方法により製造され
(甲24の別添資料の72~124丁,
甲25,
26),平成28年2月及び11月に製造された被告製品は,被告新方
法により製造されたこと(乙10,17)が認められる。
(イ)原告らは,上記①の事実に基づき,被告製品は本件特許権1の登録日である平成22年3月12日には販売されていたと主張するが,火山灰でできたすごか石けんは,被告ブレーンコスモスらが被告製品に付した名称であり,上記②及び③のとおり,被告日本生化学は関係法令の
改正に合わせ製造方法等を変更しており,平成22年4月に新たな製品標準書を制定していることからすると,上記①のように,それ以前に被
告製品と同じ名称の石けんが販売されていたことをもって,それが被告方法により製造されていたと認めることはできない。
(ウ)被告製品の製造方法に関し,上記②,③及び④の各事実に加え,被告方法を記載した製品標準書が存在しないことからすると,被告日本生化学は,平成22年4月以降に被告新方法によって被告製品を製造することを計画し,工場長も被告新方法によって被告製品が製造されていると認識していたが,何らかの事情により,製造現場では被告方法による製造工程表が作成され,被告方法によって被告製品が製造されたものと考えられる。

(エ)被告方法による製造が開始された時期について,被告日本生化学は,平成22年9月から被告新方法による被告製品の製造を開始した3か月後である平成23年1月であると主張するが,被告新方法による製造を開始してわずか3か月で製造方法を変更したとは考え難く,その理由や経緯について合理的な説明や証拠の提出がされていない。また,同被
告は,平成22年の製造工程表を保管しておらず,同年に被告新方法で製造が行われていたことを示す客観的な証拠は存在しない。そうすると,被告日本生化学は,平成22年9月から被告方法による被告製品の製造を開始し,平成23年1月以降も同様の方法により被告製品の製造を継続していたものと認めるのが相当である(なお,被告日本生化学は,平
成28年8月22日付け第1準備書面20頁において,被告方法によって製造していた期間を平成22年9月から平成27年12月までと主張していたが,その後,被告方法による製造を開始したのは平成23年1月からであるとして,その主張を変更するに至っている。)。
(オ)被告新方法による製造開始の時期に関し,原告らは平成28年1月以
降も被告方法による製造がされていると主張するが,上記④のとおり同年2月15日には被告新方法が記載された製造工程表による製造が行
われているものと認められ,また,平成27年9月に証拠保全が行われていることに鑑みると,その結果を踏まえて平成28年1月から被告新方法に変更した旨の被告日本生化学の主張は合理的である。そうすると,被告方法による被告製品の製造は平成27年12月までであったと認めるのが相当である。

(カ)以上のとおり,被告日本生化学が被告方法により被告製品を製造していた期間は,平成22年9月から平成27年12月までと認められる。イ
被告日本生化学が被告製品を製造,販売した個数
証拠(乙19~21,23)及び弁論の全趣旨によれば,被告日本生化学は,平成22年9月から平成27年12月までの間に,BCミネラルソ
ープ(100g,15g,45gの3種類)を合計45万3115個販売したと認められる。
これに対し,
原告らは,
被告ブレーンコスモスのウェブサイト
(甲16)
に「火山灰(シラス)でできたすごか石けん・パックは…おかげさまで発売以来好評を博しついに100万個を突破いたしました。」との記載
があることなどを理由に,被告日本生化学は被告製品を100万個製造,販売した旨主張するが,このような広告における宣伝文句から,直ちに実際の販売個数を認定することはできない。

被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクが被告製品を販売した個数
証拠(丙1~8,18,21)及び弁論の全趣旨によれば,被告ブレーンコスモスは,平成23年1月から平成27年12月までの間に,36万1147個販売したと認められる。
証拠(丙23,24)によれば,被告ビーシーリンクは,平成27年2
月から同年11月までの間に,
被告製品を287個販売したと認められる。
原告らは,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクが被告製品を
100万個販売したと主張するが,上記イと同様に,採用できない。エ
被告らの製造,販売数を原告らに割り付けた数
(ア)平成22年4月から平成29年10月までの原告長寿乃里の原告製品の販売個数は698万1842個,原告イングの原告製品の販売個数
は783万8740個であり(甲50),両者の比率は,次のとおりとなる。
原告長寿乃里
698万1842個/(698万1842個+783万8740個)=698万1842個/1482万0582個

=0.47109(小数点第6位以下切り捨て)
原告イング
1-0.47109=0.52891
(イ)被告日本生化学について
原告長寿乃里

45万3115個×0.47109
=21万3457個(小数点以下切り捨て)
原告イング
45万3115個-21万3457個=23万9658個
(ウ)被告ブレーンコスモスについて

原告長寿乃里
36万1147個×0.47109
=17万0132個(小数点以下切り捨て)
原告イング
36万1147個-17万0132個=19万1015個

(エ)被告ビーシーリンクについて
原告長寿乃里

287個×0.47109=135個(小数点以下切り捨て)
原告イング
287個-135個=152個
(2)侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額ア
原告製品の販売価格
原告製品の販売価格は,いずれも1800円(税抜)であると認められる(甲21~23)。


経費
(ア)原価
証拠
(甲28,
46~49,
60~73)
及び弁論の全趣旨によれば,

原告製品の原価は,
以下のとおりと認められる
(小数点以下切り捨て)

原告長寿乃里

原告イング

原告製品1

530円

原告製品2

331円

530円

原告製品3

405円

546円

原告製品4

360円

334円

530円

(イ)荷造運賃
a
原告製品1個当たりの荷造運賃を直接示す証拠は存在しないところ,原告は,別紙1及び2のとおり,原告らの全体の売上高欄記載の

数字(甲54,78)に対する原告製品販売額又は原告製品販売総額欄記載の数字の比率に応じて,原告製品全体に係る荷造運賃の金額を推定し,その金額を原告製品販売個数欄記載の数字(甲
50)で除して原告製品1個当たりの仮の荷造運賃を推定計算しており,
この推計方法は合理的なものであると考えられる。
これによれば,

平成23年から平成28年における原告製品1個当たりの荷造運賃は,以下のとおりとなる。

原告長寿乃里

原告イング

平成23年

272円

平成24年

184円

239円

平成25年

185円

214円

平成26年

175円

214円

平成27年

153円

212円

平成28年

172円

148円

206円

170円

226円

平均
b
また,上記の推定とは異なり,日本郵便株式会社が作成した運賃明細書等を用いた次のような推定計算がされている。平成24年12月
分の運賃明細書(甲94,97)には,発送された商品の名称の記載がないが,原告らにおいて有している送り状番号及び顧客番号をもとに,
甲94の個々の発送と配送物を紐づけしたリスト
(甲95,
98)
によれば,同月分の原告製品の配送数は,原告長寿乃里につき15万4250個,原告イングにつき15万4440個である。同月分の送
料のうち,顧客に対する原告製品を含む商品の配送料の合計額は原告長寿乃里につき2417万1305円,原告イングにつき2898万2550円であり(甲96,99),これを上記配送数で除したところ,原告製品1個当たりの平均送料は原告長寿乃里につき157円,原告イングにつき188円となる。これらの数字は,税込とすれば1
64円及び203円となり,上記aで推定した額と近似するものであり,その推定計算の合理性を裏付けるものである。
そうすると,原告製品1個当たりの荷造運賃は,原告長寿乃里につき170円,原告イングにつき226円をもって相当と認める。
c
なお,原告らは,原告らが販売する霧島火山岩深層水は,原告
製品と同程度売れており,原告製品と同梱されることも多いところ,
その重量に照らし,かかる配送料は相当程度に及ぶから,上記aにより推定された荷造運賃の半額が相当であると主張する。
しかし,上記深層水が原告製品と同程度売れていることや,原告製品と同梱される例がどの程度あるのかを明らかにする証拠は提出されておらず,甲100,101の実際の梱包例を見ても,深層水と同梱
している例は見られないことに照らし,
原告らの主張は採用できない。
d
被告ブレーンコスモスらは,原告らが卸売業者を介在させるものではないため,一度に配送する原告製品は1個となるのが原則であるとした上で,原告製品1個当たりの荷造運賃は,最低でも250円以上であると主張する。

しかし,
原告製品は消費者が注文した数だけ配送されるのであり
(甲
3,100の写真19~22は原告製品が複数個詰められた梱包例である。),一度に配送する原告製品は1個となるのが原則であるとの被告ブレーンコスモスらの主張はその前提において採用できない。(ウ)販促費

原告製品を購入すると,原告製品1個につき泡から水素泡立てネットが無料で提供されることが認められるから(乙22),同ネットに係る経費は,原告製品の製造,販売が1個増えることに増加する経費として,変動経費に当たるということができる。証拠(甲58,74,75)
及び弁論の全趣旨によれば,
泡から水素泡立てネット
の仕入費,

加工費及び送料の合計額として,47円を相当な変動経費と認める。ウ
限界利益額
原告製品の限界利益額は,上記アの販売額1800円から,上記イの経費を控除した以下の金額の平均額である,
原告長寿乃里につき1225円,

原告イングにつき993円をもって相当と認める。
(原告長寿乃里)

原告製品1

1800円-360円-170円-47円=1223円

原告製品2

1800円-331円-170円-47円=1252円

原告製品3

1800円-405円-170円-47円=1178円

原告製品4

1800円-334円-170円-47円=1249円

平均

1225円(小数点以下切り捨て)

(原告イング)
原告製品1,2及び4
1800円-530円-226円-47円=997円
原告製品3
平均


1800円-546円-226円-47円=981円
993円

被告らの限界利益に係る主張について
(ア)広告費,運搬費,梱包費及び販管費
前記判示のとおり,運搬費及び販管費は,荷造運賃として,また,販管費のうち,泡から水素泡立てネットに係る経費については,変動
経費として控除している。
宣伝費は,性質上原告製品のみにかかるものではなく,原告製品においても他の複数の商品と併せて広告がされていること(甲79,80)からも,控除すべき変動経費に当たらない。
(イ)業務委託料

原告長寿乃里は,ウェブページにおいて,原告製品が職人によって一つ一つ手作りされている旨説明している(乙22)が,外部の第三者に業務委託を行い,業務委託料を支払っていると認めるに足りる証拠はない。
(ウ)物流倉庫に係る費用

被告ブレーンコスモスらは,原告らの取引規模からすれば,原告製品を保管するための物流在庫があるはずであり,その保管に係る費用や,
原告製品の梱包に係る人件費も変動経費として控除されるべきと主張する。
しかし,原告らは卸売や小売を介さず,消費者から注文を受けて原告製品を販売する形態をとっており,毎月決まった個数の定期購入をすることも可能で,定期購入者の割合が高いことが認められるので(甲3,88)毎月必要な製造量についてある程度見通しを立てることができ,,
流動在庫を多数抱える必要が少ないことがうかがわれる。また,原告製品製造後,消費者に発送するまでに保管する場所として,原告長寿乃里の場合は配送業者及び原告長寿乃里福岡支社,原告イングの場合は本社
があり,現に原告製品が保管されている状況が確認できる(甲88,100,101)。そして,原告らにおいて,他に第三者の物流倉庫を利用し,保管費用を支払っていたことをうかがわせる証拠は存在しない。以上によれば,被告ブレーンコスモスらの主張は採用できない。
原告製品の梱包に係る費用については,前記判示のとおり,荷造運賃
費用の中で考慮しており,梱包に係る人件費については,その性質に加え,
原告らが,
原告製品以外にも多数の商品を取り扱い
(甲79,
80)

原告製品以外の商品もあわせて梱包される例があること(甲100の写真22,
23)
に照らしても,
変動経費に当たるということはできない。
(エ)代金引換手数料

被告ブレーンコスモスらは,支払方法として代金引換を選択した場合の手数料は変動経費に当たると主張するが,当該手数料を負担するのは顧客であることが通常であり,原告らにおいて生じる経費とはいえないから,上記主張は採用できない。
(オ)加盟店手数料

被告ブレーンコスモスらは,クレジットカードによる決済に係る加盟店手数料は変動経費に当たると主張するが,加盟店手数料が原告製品の
販売が1個増加するごとに増加する費用であることを認めるに足りる証拠はなく,上記主張は採用できない。
(3)譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
前記(1)の譲渡数量に前記(2)の単位数量当たりの利益を乗じた額は,以下のとおりとなる。

被告日本生化学について
原告長寿乃里
21万3457個×1225円=2億6148万4825円
原告イング
23万9658個×993円=2億3798万0394円


被告ブレーンコスモスについて
原告長寿乃里
17万0132個×1225円=2億0841万1700円
原告イング
19万1015個×993円=1億8967万7895円


被告ビーシーリンクについて
原告長寿乃里
135個×1225円=16万5375円
原告イング
152個×993円=15万0936円

(4)特許法102条1項ただし書の販売することができないとする事情の有無

競合品の存在
証拠(甲8,乙24)によれば,シラスが配合された洗顔料が原告製品
及び被告製品のほかに8銘柄が存在したことが認められるが,販売数が多いものでも,株式会社メディカルドーズのお茶!入ったよ~わっぜ!!火山灰石けんが平成22年9月から平成27年12月までに2万7548個を販売したにとどまり,他の銘柄は,販売数が約1000個から3800個程度にとどまるか,販売数が明らかではないから,これらの洗顔料の存在が,販売することができないとする事情に当たるということはできない。


原告製品の販売経過
被告日本生化学は,被告製品を販売していない月でも原告製品の販売が落ちている月があることから,原告製品の販売は被告製品の販売に影響を受けていなかったと主張するが,原告製品についてそのような販売経過となった原因としては様々なものが考えられるのであり,上記の販売経過が
直ちに販売することができないとする事情に当たるとはいえない。ウ
薬機法上の区分及び本件発明1の作用効果
被告日本生化学は,原告製品及び被告製品について,薬機法上の区分が異なること及び宣伝広告の内容から,本件発明1の作用効果は原告製品及
び被告製品の販売に寄与していないと主張する。
しかし,消費者が薬機法上の区分を意識して商品を選択するとは考え難く,前記判示のとおり,原告製品と被告製品はいずれもシラスが配合された石けんという同種の商品であり,かつ,被告製品は本件発明1の作用効果を奏するのであるから,両者は市場で競合する製品であるということが
できる。
また,被告ブレーンコスモスは,被告製品の説明において,原告製品は発売以来700万個以上が売れた大ヒット商品であると紹介するとともに,被告製品には,人工皮膚成分リピジュアが配合され,原告製品と同じ価格だが,内容量が多いという2点が異なることを挙げて,被告製品
の宣伝をしていたことが認められ(甲14),このような宣伝内容によって,原告製品ではなく被告製品を購入した消費者も相当数いるものと考え
られる。
そうすると,被告日本生化学が主張する上記事情は,販売することができないとする事情に当たるとはいえない。エ
販売ルートの違いについて
被告ブレーンコスモスらは,原告らは消費者に直接販売する小売である
のに対し,被告ブレーンコスモスは販売数のうち95%は企業に対する卸売りであり,販売ルートが異なるから,競合しないと主張する。
しかし,原告製品及び被告製品はいずれも最終的には一般消費者によって購入され,使用される石けんであり,被告製品が一般消費者に販売される段階では原告製品と競合すると認められるところ,被告製品が存在しな
ければ,被告ブレーンコスモスが他の企業に被告製品を卸売りすることもなく,ひいては被告製品が一般消費者に販売されることもないのであるから,被告ブレーンコスモスが卸売りを主たる取引形態とするからといって,原告製品と被告製品が市場において競合することは左右されず,販売することができないとする事情に当たるとはいえない。

東日本大震災の義援金に充てる旨のアテンションシールについて
被告ブレーンコスモスらは,売上げの一部を東日本大震災の義援金に充てる旨記載されたアテンションシールを被告製品に貼っていた期間(平成23年4月1日から同年9月30日まで)の販売数がそうでない期間の販
売数を上回っており,同シールが被告製品の売上げに寄与した旨主張する。しかし,平成23年4月1日から同年9月30日まで被告製品に上記シールが貼られていたことを認めるに足りる証拠はない上,仮に同シールが貼付されていたとしても,平成23年1月から同年9月までの被告製品(100gのもの)
の販売数は毎月概ね1万個程度で推移しており
(丙1,

21),販売数の増加が同シールによるものとは認め難く,被告ブレーンコスモスらの主張はその前提を欠き,採用できない。


海外市場における競合
被告ブレーンコスモスらは,被告ビーシーリンクは専ら海外に被告製品を販売しているところ,原告製品と被告製品は海外市場において競合しないと主張する。
しかし,証拠(甲76,77,84~87,108~112,丙25~
28)によれば,被告ビーシーリンクは,平成25年2月から11月にかけて,米国,中国,シンガポール,ラトビアに被告製品を販売していたこと,原告長寿乃里は,自ら又は株式会社フェローシップ等を介して,以下のとおり海外に原告商品を出荷したことが認められる。
年月日

出荷先

個数

平成23年2月15日

1080個(甲108)

平成23年6月14日

米国

2160個(甲109)

平成23年11月7日

米国

1800個(甲110)

平成23年11月28日

米国

2160個(甲111)

平成24年7月10日

中国

2700個(甲84)

平成24年8月23日

米国

2160個(甲85)

平成25年12月13日

米国

米国

4320個(甲112)

以上の事実関係に照らせば,原告製品と被告製品は,少なくとも米国及び中国の海外市場において競合していたことが認められるから,被告ビーシーリンクが専ら海外において被告製品を販売していることは,販売することができないとする事情に当たるとはいえない。キ
以上のとおり,被告らが主張する事情は,いずれも販売することができないとする事情に当たらないから,特許法102条1項に基づく損害額の推定は覆滅されない。

(5)弁護士・弁理士費用
原告らが請求する弁護士・弁理士費用相当額損害金については,本件事案
の難易,請求額及び認容額等の諸般の事情を考慮すると,被告日本生化学,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクの侵害行為と相当因果関係が認められる弁護士・弁理士費用相当損害金として,原告長寿乃里につき,被告日本生化学との関係では2600万円,被告ブレーンコスモスとの関係では2000万円,被告ビーシーリンクとの関係では1万円,被告イングにつ
き,被告日本生化学との関係では2300万円,被告ブレーンコスモスとの関係では1800万円,被告ビーシーリンクとの関係では1万円と認めるのが相当である。
(6)小括
したがって,原告長寿乃里の損害額は,被告日本生化学との関係では2億
8748万4825円,被告ブレーンコスモスとの関係では2億2841万1700円,被告ビーシーリンクとの関係では17万5375円となり,原告イングの損害額は,被告日本生化学との関係では2億6098万0394円,被告ブレーンコスモスとの関係では2億0767万7895円,被告ビーシーリンクとの関係では16万0936円となる。

被告日本生化学が被告ブレーンコスモスの委託を受けて被告製品を製造して被告ブレーンコスモスに販売し,被告ブレーンコスモス及び被告ブレーンコスモスから被告製品を購入した被告ビーシーリンクが被告製品を販売する行為は,関連共同性を有する行為であるから,本件特許権1の侵害という共同不法行為が成立し,上記各損害賠償債務は,不真正連帯債務となるから,
上記三者は,各自の負担部分の限度で他の被告とそれぞれ連帯して支払義務を負う。
8
結論
以上のとおり,原告らの請求は,被告日本生化学,被告ブレーンコスモス及
び被告ビーシーリンクに対する①被告製品の製造,販売及び販売の申出の差止め(ただし,被告ブレーンコスモス及び被告ビーシーリンクが被告製品の製造
をしていることを認めるに足りる証拠はないから,その差止めは除く。)及び②被告製品の廃棄,並びに,原告長寿乃里につき,③被告日本生化学に対する損害賠償金2億8748万4825円及びこれに対する平成28年5月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(ただし,うち2億2841万1700円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で被告ブレーンコスモスと,うち17万5375円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で被告ビーシーリンクとそれぞれ連帯して),④被告ブレーンコスモスに対する2億2841万1700円及びこれに対する平成28
年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(ただし,被告日本生化学と,うち17万5375円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で被告ビーシーリンクとそれぞれ連帯して),⑤被告ビーシーリンクに対する17万5375円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延
損害金(被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスと連帯して)の支払を,原告イングにつき,⑥被告日本生化学に対する2億6098万0394円及びこれに対する平成28年5月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(ただし,うち2億0767万7895円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で被告ブレー
ンコスモスと,うち16万0936円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で被告ビーシーリンクとそれぞれ連帯して),⑦被告ブレーンコスモスに対する2億0767万7895円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(被告日本生化学と,うち16万0936円及びこれに対す
る平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で被告ビーシーリンクとそれぞれ連帯して),⑧被告ビーシーリンクに対す
る16万0936円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスと連帯して)の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。よって,原告らの請求を上記の限度で認容し,その余を棄却することとし,主文第3項に係る仮執行宣言の申立て及び被告らによる仮執行免脱宣言の申立てはいずれも相当ではないのでこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐藤達文三井大有今野智紀
裁判官
裁判官

(別紙)

被告製品目録
製品名火山灰でできたすごか石けん又はBCミネラルソープと称される石けん

(別紙)

原告製品目録
1
製品名つかってみんしゃいよか石けんなる石けん(ジャータイプ)
2
製品名つかってみんしゃいよか石けんなる石けん(チューブタイプ)
3
製品名然なる石けん(ジャータイプ)

4
製品名然なる石けん(チューブタイプ)

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