判例検索β > 平成30年(わ)第1778号
覚せい剤取締法違反
事件番号平成30(わ)1778
事件名覚せい剤取締法違反
裁判年月日令和元年10月7日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第2部
裁判日:西暦2019-10-07
情報公開日2020-06-04 22:32:33
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判決主文
被告人Aを懲役10年及び罰金300万円に,
被告人Bを懲役8年及び罰金2
00万円に処する。
被告人両名に対し,未決勾留日数中各260日を,それぞれその懲役刑に算入する。
被告人両名においてその罰金を完納することができないときは,
それぞれ金1
万円を1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。
被告人両名から,名古屋地方検察庁で保管中の別表記載の覚せい剤を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人A及び被告人Bは,分離前相被告人C及び氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成30年10月4日,名古屋市a区bc丁目d番地所在の倉庫内において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約306.0511キログラム及び覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する結晶約33.5376キログラム(別表記載の覚せい剤はその鑑定残量)を所持したものである。
(事実認定の補足説明)
1争点
被告人Bの弁護人は,①被告人Bは,倉庫内のタイヤホイールに隠匿されていた物の中身は茶葉であると認識しており,覚せい剤であるとの認識がなかった,②被告人Bは,倉庫内での作業に従事していたにとどまり,覚せい剤を所持したとはいえず,覚せい剤の営利目的所持に関する共謀もない,したがって,被告人Bは無罪である旨主張する。
当裁判所は,被告人Bは,隠匿物の中身が,覚せい剤を含む違法薬物であることを認識しており,営利目的で,覚せい剤を共同所持したものであって,覚せい剤営利目的所持罪が成立すると判断したので,その理由について説明する。2前提事実
次の事実は,証拠によって優に認められる。
⑴被告人Bは,台湾において,素性不明の知人から,日本へ行って二,三日段ボールの運搬や倉庫の掃除をする仕事を紹介され,渡航費,滞在費を含めた報酬として10万台湾元(約35万円)を支払う旨の説明を受けた。また,前記知人は,被告人Bがその仕事を引き受けるのであれば,帰国後,被告人Bが負っていると話した16万台湾元の借金を代わりに返済すると申し出た。
被告人Bが,危ない仕事ではないかと尋ねたところ,前記知人はこれを否定したことから,前記借金返済については期待薄ながら,その仕事を引き受けることにした。
⑵被告人Bは,平成30年9月26日,前記知人の指示で,面識のない被告人A,C,D及びEと空港で合流し,日本に入国した。被告人Bが,Eに対し,日本での仕事の内容を尋ねたところ,あまり詳しく聞かない方が良いと言われた。⑶被告人Bは,本件倉庫において,同年10月3日は,D及びCと共に,同月4日には,D,C及び被告人Aと共に以下の作業に従事した。
倉庫内の段ボール箱を開封し,中に入っているタイヤホイールのネジを外して外輪と内輪に分解し,内輪に巻き付けられているアルミ箔で包まれた細長い棒状の物体(中には,ビニール袋に入った重さ900グラム前後の覚せい剤が入れられていた。以下本件包みという。)を取り外し,本件包みは,そのアルミ箔に記載された数字と同じ数字が記載されている段ボール箱に入れ,分解したタイヤホイールの外輪及び内輪にはスプレーをかけて印をつける。
⑷被告人Bは,段ボール箱の開封,タイヤホイールの分解,スプレーの吹き付けを主に担当していたが,本件包み数個をタイヤホイールから取り外し,段ボール箱に入れる作業をした。
被告人Bは,タイヤホイールの中に納められている本件包みを見て,違法な密輸品であると感じた。
⑸被告人Bは,報酬として受領した10万台湾元の中から,往復の渡航費として2万4千台湾元を支払ったが,日本での宿泊費,新幹線代,夕食代は負担しておらず,滞在費の多くは,被告人A及びDが支払っていた。
3覚せい剤であることの認識(覚せい剤所持の故意)について
⑴被告人Bが素性不明の知人から紹介された仕事は,わざわざ費用をかけて外国から日本に作業員を集め,日本において二,三日の単純作業に従事するのみで,高額の報酬を得られ,借金の返済までしてもらえるという破格の条件であったことに加え,仕事内容の詳細は聞かない方が良いなどの発言がされていることからも,当該仕事が非合法なものであることは想像に難くない(なお,被告人Bは,報酬には飛行機代や日本での滞在費を含んでいる旨の説明を受けたため,高額であるとは思わなかった旨供述するが,現実には滞在費の大部分を負担しておらず,飛行機代を除いても7万6千台湾元が残っており,単純な作業に対する報酬としては高額というべきである。)。
さらに,本件倉庫内の作業内容をみれば,タイヤホイールは本件包みを隠匿するための道具にすぎず,本件包みの方に価値があることは明らかであって,被告人B自身もこれを認めている。そして,タイヤホイールを使用した巧妙な隠匿態様に加え,多額の報酬や渡航・滞在費を負担して数名の作業員を手配するなど多くのコストを払っても,それを上回る収益が確実に見込まれる違法な密輸品としては,覚せい剤を含む違法薬物を想起するのが通常である。また,被告人Bは,作業を通じて本件包みを見たり触れたりして,その形状,重量などを体感しているところ,本件包みの中身が覚せい剤を含む違法薬物ではないことを示す事情は見当たらない。
これらの事情に鑑みれば,被告人Bは,少なくとも本件倉庫内での作業を通じて,タイヤホイールに隠匿された本件包みが覚せい剤を含む違法薬物であるかもしれないと認識していたと認められる。
⑵これに対し,被告人Bは,本件包みの感触から,その中身は茶葉であると確信し,覚せい剤を含む違法薬物が入っているとは認識していなかった旨供述する。しかしながら,被告人Bは本件包みの中を視認しておらず,茶葉が入っていることをうかがわせるような他の事情もない中で,前記のとおり多額の費用と労力を費やすような密輸品について,その感触のみから中身を茶葉と断定するに至ったというのは不自然,不合理というほかなく,上記供述は信用できない。4覚せい剤の共同所持について
覚せい剤の保管場所とされた本件倉庫は,Dが所持する鍵で施錠,管理されており,被告人Bは,本件倉庫を管理するDを含む共犯者らと共に,本件倉庫においてタイヤホイール内に隠匿された覚せい剤を取り出す作業に従事していたのであるから,被告人B及び共犯者らが当該覚せい剤を物理的に管理支配していたこと,すなわち共同所持していたことは明らかである。
5営利目的について
本件倉庫内の覚せい剤の量やその隠匿態様からすれば,覚せい剤取引によって利益を得ようとする犯罪組織の関与が明らかであって,被告人Bが,借金の肩代わり返済約束に加えて10万台湾元という高額の報酬の下で,本件倉庫内での覚せい剤の取り出し作業に従事していたことからすれば,被告人Bが,自己の財産上の利益を得る目的で,ひいては,上記報酬等の出所である犯罪組織に利益を得させる目的で本件犯行に及んだことは明らかである。したがって,被告人Bに,営利目的が認められる。
6以上から,Bにつき,覚せい剤であることの未必的認識,共同所持の事実及び営利目的が認められ,覚せい剤営利目的所持罪が成立する。
(量刑の理由)
本件は,被告人両名が,共犯者と本件倉庫内において約339.5キログラムの覚せい剤を営利目的で所持したという事案である。本件は,巨額の費用と作業労力をかけて計画された,利欲性の高い大掛かりな組織的犯行である。その所持量は莫大であり,国内に拡散した場合の害悪は計り知れない。覚せい剤は,タイヤホイールの内側に納められ,タイヤホイールのネジを工具等で外さなければ取り出せないようになっており,その隠匿態様は極めて巧妙で,悪質である。本件は同種事案の中でも特に重い部類に属するというべきである。
そして,被告人Aは,本件犯行前から,違法薬物に関する仕事と認識しながら,借金の帳消しを期待して,上位者の指示に従い,作業に必要な工具等の買い出し,レンタカーや共犯者の宿泊先の手配,本件倉庫への送迎などに加え,途中で帰国した共犯者に代わって本件倉庫内での作業に従事するなど重要な役割を果たした(なお,被告人Aは,所持量について正確な認識がなかったというけれども,覚せい剤の隠匿されたタイヤホイールが多数積み上げられている本件倉庫内で,複数人が覚せい剤の取り出し作業を行っていた状況等を見れば,相当に大規模な薬物事犯であるとの認識に欠けることはない。)。被告人Bは,違法薬物に関する作業であるかもしれないと認識しながら本件倉庫内での覚せい剤の取り出し作業を継続して重要な役割を果たし,多額の報酬も得ている。
以上によれば,被告人Aについては,犯罪組織のとりわけ上位の地位にあったとまでは認め難く,従属的な立場であったこと,被告人Bについては,末端作業員という従属的立場であったこと,被告人両名に日本における前科がないことなどを考慮しても,被告人両名の刑責は相当に重く,主文の刑を科すのが相当であると判断した。(求刑被告人Aに対し懲役13年及び罰金400万円,被告人Bに対し懲役10年及び罰金300万円,主文掲記の没収)
令和元年10月7日
名古屋地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官
齋藤千恵
裁判官

近藤和
裁判官

鈴木
真理子

別表
覚せい剤381点
名古屋地方検察庁平成31年領第512号
符号
1ないし43の各枝番1
45ないし88の各枝番1
90ないし133の各枝番1
135ないし160の各枝番1
162ないし207の各枝番1
209ないし226の各枝番1
228ないし265の各枝番1
267-1
268-1
270ないし279の各枝番1
281ないし284の各枝番1
285ないし337の各枝番2及び4
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