判例検索β > 平成28年(わ)第2230号
強盗殺人
事件番号平成28(わ)2230
事件名強盗殺人
裁判年月日令和元年10月7日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第2部
裁判日:西暦2019-10-07
情報公開日2020-06-04 22:32:34
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
判決主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中950日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,内妻の友人で顔見知りの被害者(当時62歳)から金品を強取しようと企て,平成28年8月26日午後1時46分頃から同日午後3時22分頃までの間,愛知県一宮市a町字bc番地d前記被害者方において,同人に対し,殺意をもって,
その頸部をひも
(名古屋地方検察庁平成29年領第1389号符号56-1は鑑
定により分離されたもの)で絞め付けるなどし,よって,その頃,同所において,同人を頸部圧迫により窒息死させて殺害した上,同人所有又は管理の現金約2000円,商品券15枚(額面合計1万5000円)及び指輪等47点(時価合計約298万2480円相当)を強取したものである。
(事実認定の補足説明)
1
争点
弁護人は,被害品は被告人が本件犯行以前に被害者から譲り受けるなどしたものであり,被告人に金品強取目的はなく,被害者と口論になって立腹し,突発的に被害者を殺害したものであって,殺人罪が成立するにとどまる旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。当裁判所は強盗殺人罪が成立すると判断したので,以下補足して説明する(特に記載しない限り,日付は平成28年のものである)。
2
前提事実
次の事実は,争いがなく,証拠によって優に認められる。


被告人は,仕事を辞めた平成27年7月以降,内妻B及びその母親であるCとともに,同人方で,BCが受給する年金頼みの困窮生活を送り,家賃や携帯電話の利用料金等を滞納していた。
被害者は,通販会社主催の貴金属等の買い物旅行を通じたBの友人で,被告人とは,
平成27年7月及び翌年2月に,
いずれもB同席の場で顔を合わせた。


Bは,被告人及び前記Cを伴い,4月1日,被害者宅を訪問して20万円の借金を申し込み,1万円を借り受けた。5月31日,同様に被害者宅を訪問して借金を申し込み,結局,購入価格350万円のネックレス1本を被害者から買い取る形で,過去にBが被害者から借りた120万円を加算して後日500万円を支払う旨の約束をして,被告人らは同ネックレスの交付を受けた。このとき,被害者は,居間の入口にいるB及び被告人の前で,居間にあるタンスの引き出しから同ネックレスを取り出した。被告人は,被害者が多数の貴金属を持っていることをBを通じて知っていた。
被告人は,6月1日,同ネックレスを愛知県稲沢市内の貴金属等買取店(以下本件買取店という。)で25万円で売却したが,結局,被告人らと被害者との間の前記500万円の支払約束は履行されなかった。



被告人は,8月7日,中古車販売店で自分用のD(代金175万円)及びB用のE(代金57万円)合計2台分の購入契約を締結した。代金は,同月9日に10万円,
同月20日に残金222万円の現金払いで,
契約を解除する場合,
1台につき約28万円の違約金を支払う必要があった。
被告人は,同月9日,上記代金10万円を支払わず,以後,中古車販売店から度々催促され,家に貼り紙をされるなどした。被告人は,同月19日,翌20日に代金全額を支払う旨約束したが,当日になって支払日を同月24日に延期し,同日には,支払日を翌25日に延期した。



8月25日の出来事
被告人は,本件買取店を訪れ,まとまった貴金属を近々売りに来るが,また高く買い取ってくれるか等と言った。
被告人は,被害者との間で,同日夜に,BCも交えた食事会の約束を取り付けていたが,これを翌26日午後1時に延期した。しかし,実際には,被告人は,BCには被害者との食事の話を一切していなかった。
被告人は,中古車代金の支払日を翌26日に延期した。


8月26日の出来事
被告人は,午後1時前に当時利用していたレンタカーで被害者宅を訪れ,一旦出発したが,再度被害者宅に戻って午後1時46分から午後3時22分まで同所に滞在する間に被害者を殺害した。その後,本件買取店とは別の貴金属等買取店で被害者の指輪及び商品券を合計約5万円で売却した。
被告人は,中古車代金の支払日を翌27日に延期した。



8月27日及びその後の出来事
被告人は,同日,本件買取店において,被害者の物である指輪等20点以上の貴金属を合計265万円で売却し,滞納分及び先払い分の家賃4か月分合計約20万円,中古車Dの代金約176万円を支払うとともに,BCに対し小遣いとして合計15万円を渡した。
翌28日,中古車Eより安い中古車に車種変更し,その代金30万円を支払った。

3
金品強取目的の有無
前記2の事実によれば,被告人は,平成27年7月以降,BCが受給する年金以外に収入がなく,家賃や携帯電話料金を滞納するなど生活費に窮し,Bから被害者に借金を申し込むような状況で,支払う当てもないのに中古車2台を購入したことで,代金支払期限の8月20日前後から支払を強く求められ,代金合計232万円か違約金合計約56万円のいずれかを支払う必要に迫られていた。このような状況の下,被告人は,中古車代金の支払日を日々繰り延べる一方,BCには告げずに,多数の貴金属を持っている被害者と会う口実として,BCを交えた食事会の約束を取り付けるとともに,本件犯行前日の同月25日には,以前に被害者のネックレスを売却した本件買取店に,近々多数の貴金属を売却する旨予告している。そして,本件犯行当日,前記の虚偽の食事会約束を口実に,貴金属の在りかの見当がついている被害者宅を訪問した。そして,本件犯行直後から翌日にかけて,被害者の20点を超える多数の貴金属を本件買取店に265万円で売却するなどして多額の現金を手に入れ,中古車1台分の代金約176万円を支払い,BCに多額の小遣いを渡すなどして,数日のうちにその大半を費消している。
このように,中古車代金ないし違約金の支払が切迫していた被告人が,本件犯行の前後で,貴金属の売却を予告した上,これを入手し,換金の上,切迫していた代金支払に充てるという一連の流れを見れば,被害者宅に多数の貴金属が保管されており,売却すれば相当の金になることを知っていた被告人が,それらを被害者から奪う目的で被害者宅に赴き,被害者を殺害して貴金属等を奪ったものと推認される。したがって,被告人は金品強取の目的で被害者を殺害したと認められる。
4
被告人供述の信用性


被告人は,被害者のBに関する侮辱的発言等の暴言に激高して殺害したもので,金品強取目的はなかった,被害者からの誘いでBに内緒で交際を始め,3月頃から,毎月一,二回被害者と会い数万円の経済的援助を受ける関係にあった,被害品とされる貴金属は,中古車2台の代金支払に充てるため,8月15日に被害者から譲り受けたものである,商品券15枚は同月26日にBらとの食事会の支払用に被害者から交付されたもので,現金2000円は被害者がレンタカーの車内に置き忘れていたバッグ内にあった旨弁解する。



しかしながら,被害者が毎日の予定や出来事,その日の体調等を細かく記載していた備忘録や家計簿を見ても,
被告人の供述に合致する記載は見当たらず,
他にこれを裏付ける証拠はない。本件犯行前に被害者から貴金属を譲り受けた旨の弁解は,起訴後に出されたもので,捜査段階の供述から合理的理由もなく大きく変遷している。
被告人は,2月頃,BCに同行して被害者と2度目に会った際,二人きりの状況で耳打ちをされて被害者の誘いで交際を始め,金銭援助の一環で,中古車代金支払用に貴金属を譲り受けたとするが,被害者が,友人であるBの内縁の夫でそれまでほぼ面識のない被告人に対して突然交際を持ちかけ,しばしば金銭援助をし,高額かつ多量の貴金属等を譲渡するに至ったというのは,その内容自体極めて不自然である。仮に,本件犯行前に貴金属を譲り受けていたのであれば,中古車代金支払日の延期を重ねてまで,10日以上も貴金属の換金を先延ばしにする合理的理由もない
(被告人は,
貴金属を高値で売却するために,
被害者に箱や鑑定書をそろえてもらう必要があった旨弁解するが,買取価格に関する本件買取店店長の供述に照らして,明らかに不合理である。)。殺害に至る経緯について,被告人は,Bに内緒で被害者と会うのではなく,被告人と被害者の関係をBに話して,関係者の合意の上で被害者と会うようにしたい旨を被害者に伝えたところ,被害者が怒ってBの男性関係を取り上げて侮辱する発言をしたため,被告人が激高して殺害に及んだなどと供述するが,その経緯は不自然で不合理というほかない。
以上のとおり,被告人の前記弁解供述は信用できない。その他の弁護人指摘の事情を検討しても,前記認定,判断は左右されない。
5
結論
したがって,被告人には判示の強盗殺人罪が成立する。

(量刑の理由)
本件は,内妻の友人である被害者を殺害し,被害者宅から多数の貴金属等を強取したという強盗殺人の事案であり,人命軽視の態度が甚だしい利欲的で凶悪な犯行である。死因は頸部圧迫による窒息死であるが,被害者の身体には,下あごの骨折や,多数の肋骨骨折その他の損傷があることからすれば,被害者に対する暴行は強度で,強固な殺意が認められる。突然に命を奪われた被害者の苦痛や恐怖は計り知れず,財産的被害も多額で結果は重大である。支払に迫られる中,被害者宅を訪れる口実に虚偽の約束を取り付け,短期間に貴金属等買取店への売却予告から犯行後の換金,費消に至る一連の流れからすれば,強盗の計画性は明らかである。被害者は顔見知りであり,被害者の口から容易に被告人の犯行が発覚する関係にあることからすれば,殺害についても被告人の想定の範囲内にあったと認められる(なお,凶器となった紐は被害者宅台所で発見されたものであり,被告人のハーフパンツから抜け落ちていた紐と同種の紐として矛盾しないものと認められるが,量産品で希少性はないため,これを被告人が被害者宅に持ち込んだとは断定し難い。)。被告人は,BCの年金に頼る無為徒食の身でありながら,必要もなく支払の当てもないのに中古車2台を購入して多額の債務を自ら背負い,支払を迫られる中で本件犯行に及んだものであり,その身勝手極まりない犯行動機に酌量の余地はない。本件犯行後,被告人が,被害品を換金して短期間でほしいままに費消し,約一月半後に逮捕されるまで平然と生活を続け,
公判廷において,
金品強取目的を否認し,
被害者の侮辱的発言がきっかけで殺害に至ったなどと被害者に責任転嫁するような不合理な弁解に終始し,反省がうかがえない。被告人が殺人の点については認めていること,交通罰金前科以外に前科はないことを踏まえても,刑を定めるに当たって酌むべき事情は乏しい。
以上の事情に基づき,被害者1名の強盗殺人の事案の量刑傾向も踏まえると,被告人を,主文のとおり,無期懲役刑に処するのが相当である。
(求刑

無期懲役)

令和元年10月7日
名古屋地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官

齋藤千恵
裁判官

近藤和

裁判官

鈴木
真理子

トップに戻る

saiban.in