判例検索β > 平成30年(わ)第142号
殺人
事件番号平成30(わ)142
事件名殺人
裁判年月日令和元年9月13日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第6部
裁判日:西暦2019-09-13
情報公開日2020-06-04 22:33:14
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文
被告人を懲役3年6月に処する
未決勾留日数中500日をその刑に算入する。
名古屋地方検察庁で保管中のロープ2本
(同庁平成30年領第1015号符号1―
1及び1-2)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成30年1月23日午前7時頃,名古屋市(住所省略)被告人方において,長男であるA(当時25歳)に対し,殺意をもって,同人の頸部にロープの片側を結んで作った輪をかけた上,
うつ伏せになったAの後頭部等を足で踏み付けるなどし
ながら,同ロープを両手で引っ張ってAの頸部を絞め付け,よって,同日午前9時4分頃,同市(住所省略)B医療センターにおいて,Aを頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害したものである。
なお,被告人は,上記犯行当時,うつ病の影響により心神耗弱の状態にあった。(争点に対する判断)

1
争点
被告人が,本件犯行当時,うつ病にり患していたことは当事者間に争いがないと
ころ,検察官は,うつ病の影響は限定的であったとして完全責任能力を主張し,弁護人は,被告人はうつ病の影響により心神耗弱の状態にあったと主張する。当裁判所は,被告人について完全責任能力があったと言い切るには合理的な疑いが残り,心神耗弱の状態にあったと判断した。その理由は以下のとおりである。2
裁判所の認定事実
被告人の公判供述等の関係各証拠によれば,次の事実が認められる。⑴

Aの成育歴,被告人との関係等
Aは,重度の知的障害を伴う自閉症であり,本件犯行当時,精神年齢は3歳
程度であって,他者とのコミュニケーションについては,自身の要求を単語で伝えることはできるが,会話は困難な状態であった。
Aは,4歳頃までには自閉症と診断され,保育園等に通った後,小学校から高校までは養護学校に通っていたが,中学校に入学して以降は,しばしば他の生徒を叩いたり,物を壊すなどの問題を起こすことがあった。
Aは,高校卒業後の平成23年4月以降,障害者支援施設に通い,主に生活介護を受けていたが,他の利用者らに対して他害行為(頭突き,押す,蹴る,叩く等)に及ぶことが増えていったことから,施設側の求めにより,平成28年12月5日を最後に利用が中止された。その後,Aは専ら自宅で過ごしていたが,被告人の妻(Aの母)やAの妹に対して,しばしば,腕を引っ張る,叩くそぶりを見せるほか,棚を叩いたり建具等を壊す,壁に落書きをするなどの行動に出るようになった。また,前記施設の利用中止後に,他の施設を短期間利用することがあったが,その際にも他害行為に及ぶことがあった。平成29年4月頃,被告人らの求めによりAに処方される精神安定剤が強いものに変更された後は,Aはおとなしくなり,乱暴な行動に出ることは減ったが,被告人に対してかばんを押し付けるという行動に出るようになった。

被告人は,Aの幼少時から入浴や食事の介助などの世話をし,プールや公園
に連れて行ったり,Aが好むおもちゃを買い与えたりするなどして養育していた。被告人は,保育園の参観日において,他の子と同様に行動することができないAを見て,他の保護者等の面前でその頭をはたいたことがあり,その後も,Aが問題行動に出たり注意を聞き入れないときには,腕や背中を平手で叩くことがあったが,Aが中高生になる頃には,被告人がこれらの行為に及ぶことは減っていった。Aの日常の世話は主に被告人の妻がしていたが,被告人は本件頃に至るまで,Aの頭を洗う,ひげをそる等の世話をしたり,休日にはAも交えて家族で買い物や散歩に行くなどしていた。


被告人の病歴等


被告人は,平成19年頃,仕事上のストレス等を契機にうつ病を発症し,同年8月にうつ病と診断され,当時の勤務先を半年間休職した後に退職した。被告人は,以後,職を転々とした後に派遣社員となり,本件犯行当時まで派遣社員として稼働するとともに,うつ病につき,月に二,三回程度,精神科への通院を継続し,本件犯行当時まで治療(投薬やカウンセリング等)を続けていた。その間,被告人は,自殺を考えることがあり,平成19年頃には,妻に対して複数回死にたいなどと言い,平成25年ないし平成27年頃からは,自殺したい,目が覚めなければいいなどと思うようになり,平成27年ないし平成28年頃には,自殺に使用するためのロープを購入し,片側を結んで輪を作った状態にして,台所のかばん掛けに保管し,また,同時期頃に自殺場所を探すこともあった。

被告人は,
平成29年12月頃,
うつ病の症状が悪化して,
当時の勤務先
(派

遣先)に出勤しても早退することが続いたため,派遣を打ち切られ,自宅で寝込むなどしていた。その後,被告人は,派遣会社から次の派遣先を紹介され,本件犯行の4日前頃から同所で勤務していた。


犯行に至る経緯等


被告人は,Aがいずれは成長して自立することを願っていたが,Aが中学生
の頃から,将来的な自立は難しいかもしれないと考え始め,それ以降,それまで抱えていた不安を強めるとともに,ときには漠然とAがいなくなればいい,あるいはAが偶発的な事情により死ぬことがあればいいなどと考えるようになった。被告人は,Aが前記⑴アのとおり施設の利用を中止された後,家族への暴力的行動や家庭内での物の損壊に出るようになったAの将来に対する不安を更に強めていたが,平成29年4月頃の投薬変更により暴力的行動がおさまった後に出てきた被告人に対するかばんの押付け行動に困惑するようになった。被告人は,この行動を外出したいという気持ちの表れと解釈したものの,平成30年1月20日,Aが,外出から帰った後にもかかわらず,被告人にかばんを押し付け,注意してもやめなかったため,平手でその頬を叩いた。Aがなおもかばんを押し付けてきたため,被告人はAの鼻の辺りを拳で殴った。Aは鼻血を出しながらも,なおもかばんを押し付けていたが,被告人がかばんを取り上げると,部屋に戻っていった。このとき,被告人は,Aのことが理解できない,気持ち悪いと思うとともに,どう対処すればいいのかと強く困惑した。

同月22日(本件犯行の前日),勤務先から帰宅する際,妻が被告人に対し,
ウォーターサーバーの水の入った箱(以下水の箱という。)をAが押し付けてきて家事が全然進まない旨のLINEのメッセージを送信した。被告人は,そのメッセージを読んで,Aが何を伝えたいのか理解できず,途方に暮れるとともに,もうこれ以上Aの行動に思い煩わされたくないと考えて,Aを殺害しなければならないと考えた。
その後,被告人は帰宅すると,家族と夕食を食べながらAを殺害する方法を考え,包丁で殺害するのがいいと考えて,インターネットで人のころしかた,正しい人の殺し方を検索するなどした後,就寝した。⑷

犯行状況,犯行後の状況等


被告人は,翌23日(以下,時刻はいずれも同日のものである。)午前5時
30分頃に起床すると,

Aを殺そうと思ったんだな。

などと考え,屋外でタバコを吸った後,警察官の臨場に備えて玄関ドアを開け放った。
その後,被告人は,台所で包丁を2本取り出すと,Aの部屋に入り,就寝中のAが被っていた布団を剥いで,Aの喉元が見える状態にし,両手で包丁1本を持ってAの喉元に当てた。被告人は,包丁が刺さった感触がなく,血も流れていなかったことから,包丁を床に置いてしばらく立ち尽くしていたが,自殺のために購入したロープがあることを思い出し,ロープで首を絞めてAを殺害しようと考えた。被告人は,ロープを持ってAの部屋に戻ると,Aをうつ伏せの状態にして,前記⑵アの際にロープの片側を結んで作った輪をAの首にかけると,腰を回すようにして両手でロープを引いた。ロープを引いた後で,Aの右手が上がった後,力が抜けて下がったことから,被告人は,ロープを持つ手を緩めた。被告人は,Aの口の端から血が混じった泡が吹いているのを見て,脈を確認するためにAのこめかみや手首を触ったが,手が痺れていたために確認できなかった。そこで,被告人は,再びロープを持つと,Aの首の付け根の辺りを踏みながらロープを引っ張り,一旦手を緩めた後に,Aの後頭部の辺りを足で踏み付けながら,再びロープを引っ張った。イ
被告人は,手が疲れたと考えてロープから手を放すと,午前7時31分,1
10番通報した。被告人は,応答した警察官に対し,

子どもの首を絞めました。

などと言い,首を絞めた理由を尋ねられた際には

嫌いだから。

と説明した。被告人は,その後に被告人方に臨場した警察官に対しても,Aの首をロープで絞めたこと,首を絞めたのは110番通報をする30分くらい前であることなどを説明した。


上記認定につき補足するに,検察官は,被告人の捜査段階の供述に基づき,
①被告人は,Aが保育園児の頃から,自分の機嫌が悪い時などにAに暴力を振るってきた,②Aが中高生の頃から殺さなければならないかもしれないとの思いを抱き,その思いを強めてきたと主張する(被告人も,そのような供述をしたこと自体は否定しない。)。しかし,Aに対する暴力の内容について被告人が供述するのは,前記のとおり,幼少時に頭,腕,背中等を平手で叩くという程度のものであり,妻の供述(Aがいうことを聞かないときに肩や背中を叩くことがあった。足を蹴るのを一,二回見たことがあるが,それ以上の行為は見ていない。)等を踏まえて検討しても,被告人からAに対し,しつけの域をはるかに超えた暴力とまで評価できる行為があったとは認められない。また,Aに対する殺意についても,重度の障害児を抱える親が子の死を望むことがあること自体は自然な心理として理解できるものの,そのことと具体的な殺意を抱くこととの間には明らかな隔たりがある。加えて,被告人が,Aの中高生当時から本件犯行までの長期間にわたって,Aの養育や生活介助をする一方で,殺害に向けた具体的な行動を何ら取っていないこと,更には,Aが中高生の頃という相当以前の時点における感情や考えを,Aの殺害後に振り返る場面で,
正確に記憶し供述していたとみるには無理があることなどによれば,Aが中高生の頃から殺意を抱いていたとまで認めることはできない。3
責任能力についての検討



被告人のうつ病の程度等

起訴後に被告人の精神鑑定を行った証人C医師は,被告人の本件犯行当時における精神障害の有無及び内容,精神障害が本件犯行に与えた影響の機序等について,概要,被告人は,本件犯行当時,中等度のうつ病(ICD-10によるF32.1:中等症うつ病エピソードに相当)の精神障害を有しており,かつ,その中でも重症寄りの程度にあった。同うつ病は,本件犯行に促進的な影響を与えたと考えられる。影響の仕方については,①希望の無さ,思考の狭窄,本来の感情の枯渇の招来,②自身の行動を吟味して他の行動を選択する能力の低下などといった心理的状態を通して本件犯行を導いたと考えられる。と供述する。C医師は,精神科医師としての専門的な知識と経験に基づき,一件記録を検討し,被告人との面接,心理検査及び身体的検査を行い,被告人の妻とも面接するなどして鑑定を行ったものであり,その判断には高い信用性が認められ,十分に尊重すべきものである。したがって,被告人は,本件犯行当時,中等度のうつ病の精神障害を有しており,かつ,その中でも重症寄りの程度にあったと認められる。この点につき,検察官は,被告人が,直前に仕事に復帰していたことなどからすれば,うつ病の程度は,社会生活に支障を生じさせるほどのものではなかったと主張する。しかし,被告人の長期間にわたるうつ病の経過中には,症状の波があると思われるところ,被告人は,平成29年12月頃に勤労意欲が減退し,早退が続いて派遣を打ち切られ,その頃,自宅で寝込むこともあるなどの状態であり,その当時は社会生活にも相当大きな支障が生じていたと認められる。そして,新たな派遣先が決まる平成30年1月中旬頃(本件犯行の直前)までの間に症状が大きく好転したことをうかがわせる事情はなく,その派遣先で勤務していた短い期間内にも早退することがあったことなどからすれば,被告人が一応仕事に復帰していた事実をさほど重視することはできず,本件犯行の1か月くらい前から本件犯行にかけてが最も悪い状態であったとする被告人の認識,及びこれを前提とするC医師の判断を覆すものではない。


そこで,C医師の供述を前提に,被告人の責任能力を検討する。


殺害の決意へのうつ病の影響について

前記2⑶イ記載のとおり,被告人は,Aが水の箱を押し付けるという妻のLINEのメッセージを読んで,Aを殺害しなければならないと考えたと述べており,翌日に本件犯行に及んでいる。この点につき,弁護人は,判断と発想に飛躍があり,うつ病の強い影響がないとすれば理解が困難であると主張する。確かに,水の箱を押し付けるという,それ自体は重大でない行為をきっかけとして被告人が殺害まで決意したことを,被告人の平素の人格のみによって説明することは困難であり,ある程度うつ病の影響があったことは否定できない。一方で,被告人が,長年にわたりAを養育する中で,意思疎通の困難さや,長じるに従って生じてきた暴力的な行動傾向等に伴い,将来に対する不安を強めてきたこと,平成29年4月頃以降には,暴力的な行動は減少したものの,かばんを押し付けるという理解し難い行動に煩わされるようになったこと,被告人はこの行動を外出したいという意思の表れと解釈していたものの,平成30年1月20日には外出からの帰宅直後にかばんを押し付けてきたことで,その解釈が否定されたように感じられ,Aに対する嫌悪感を抱いたことなどに照らすと,被告人が,前記メッセージを読んで,もうこれ以上Aの行動に思い煩わされたくないと考えて,殺害を決意するに至ったことについては,いわば最後のひと押しであったものと解釈することが可能であり,弁護人が主張するほどの飛躍があるとまで評価することはできない。

殺害の実行へのうつ病の影響について

被告人は,妻からのLINEのメッセージを読んでAの殺害を決意した後は,Aを含む家族と夕食を食べながらもAを殺害する方法を考え,インターネットで人のころしかた等を検索する際には,Aを殺害することで頭が一杯になっていた。そして,本件当日,起床すると,

Aを殺そうと思ったんだな。

などと考えて,眠っているAの喉元に包丁を当て,包丁による殺害が失敗に終わると,Aの後頭部等を足で踏み付けるなどしながら3回にわたりAの首をロープで絞め付け,手が疲れて力が入らなくなるまでAの首を絞め続けている。その途中,Aの手から力が抜けたり,口から血の混じった泡が吹くなどしたにもかかわらず,被告人が殺害をためらうことは全くなかった。
これら殺害を決意して以降の被告人の行動を全体として評価すると,残虐な殺害行為を冷徹に淡々と実現したものとして,犯行態様それ自体に病的な異常性が表れており,正常な心理としては説明し難い飛躍があることを否定しきれない。すなわち,本件当時の状況を客観的にみると,Aについては,当時,被告人の妻は従前利用していた施設を通じて新たな施設を探しており,また,平成29年4月頃に薬を変更して以降は他害行為も減っていたものであって,特段大きな問題は存在しなかった。また,Aの理解不能な行動についても,妻や通院先の主治医等の身近な相手に相談することも十分に可能であったといえる。それにもかかわらず,被告人は,殺害を決意して以降は,Aを殺害することで頭が一杯になっており,殺害以外の選択肢を想定・検討した形跡は何ら窺われない。かつ,被告人は,Aの将来に対する不安を抱き,Aがいなくなればいいなどと思いつつも,25年余りにわたってAを養育し,本件犯行の直前まで,Aを買い物に連れていく,頭を洗う,ひげをそる等の身の回りの世話をしていたが,本件犯行の際は,前記のとおり後頭部等を足で踏み付けてまで執拗に殺害行為を完遂しており,Aに対する愛情はおろか,本来であれば抱くはずの憐みやためらいの感情すら全くうかがわれない。更には,犯行の結果生じる自身や家族の不利益等,通常であれば犯行を踏みとどまる契機にも何ら思いを致すことはなかった。
以上の経過を被告人の平素の人格(検察官は神経質で家族への責任感が強いと指摘するが,性格や思考に特別な偏りがあったとは認められない。)によって説明することは困難であり,他に特段の原因も見当たらない。
こうした事情に鑑みると,被告人は,本件犯行当時,うつ病の影響により,重度の視野狭窄に陥るとともに,Aに対する愛情や憐み等の本来の感情が枯渇し,殺害以外の方法を選択することやその選択に従って行動することが非常に難しい状態にあった,すなわち,判断能力や行動制御能力が著しく減退していた疑いを否定しきることはできないと認められる。C医師の前記供述も,この趣旨をいうものとして理解することができる。


検察官は,被告人の判断能力や行動制御能力が著しく減退していたものでは
ないとする根拠として,被告人が自分なりによく考えて臨機応変に目的に沿った行動を取っていたことや異常な言動がなかったことを指摘する。確かに,被告人は,家族が寝ている時間帯に,110番通報を受けた警察官が自宅に入ってくることを想定して玄関ドアを開放した上で犯行に及び,110番通報の際には落ち着いた口調で自己の行為を説明するなど,一見すると,冷静であり,合理的とも思える行動を取っている。しかし,被告人の殺害前や殺害中の行動は,いずれもAを殺害することを前提とした上で,その円滑な遂行や事後の処理のみを考えて取られたものであり,殺害に向けた意思決定をちゅうちょなく実行に移すことの異常性が否定されるものではない。加えて,被告人の行為を仔細に検討すれば,殺害前に玄関ドアを開放する,他の行動を取る前に110番通報をするなど,必ずしも目的に沿った合理的な行動であるとは言い難い点も含まれている。110番通報の際の説明も,事実を正確に述べてはいるものの,感情が全く伴わず,家族に知らせることも全く念頭になかったことがうかがわれ,むしろ異様な印象を受けるものであって,被告人の判断能力や行動制御能力が著しく減退していなかったことを疑いなく裏付けるものであるとはいえない。


まとめ

したがって,被告人については,本件犯行当時心神耗弱の状態にあった合理的な疑いが残る。
(量刑の理由)
本件は,中等度のうつ病の影響により心神耗弱の状態にあった被告人が,重度の障害を抱えていた長男に対して,ロープで頸部を絞めるなどして窒息により死亡させて殺害した事案である。
就寝中で無抵抗のAに対して,頭部等を踏み付けながら,3回にわたってロープで絞め続けるなどした態様は執拗であり,強固な殺意の表れであるのみならず,Aの尊厳を踏みにじる悪質な犯行であるといわざるを得ない。
Aは,就寝していたところ,事態を把握することもできないまま,若くして突如命を落とすに至った。Aに落ち度とされる点は全くないにもかかわらず,本来ならば保護してくれるはずの父親の手にかかって殺害されたものであり,無念さは察するに余りある。生じた結果は重大である。
犯行の直接のきっかけは,Aの行動にこれ以上思い煩わされたくないという自己中心的な思いであって,心神耗弱状態にあったことを考慮に入れても,殺害を決意してから何ら踏みとどまることなく実行に移したことは強い非難に値する。以上によれば,心神耗弱の状態で子1人を殺害した事案の中で,本件を執行猶予を付すことができるほど軽い部類に位置付けることはできず,実刑は免れない。一方,犯行に至る経緯についてみると,被告人は,長年にわたって,うつ病に苦しみながらも,障害を抱えるAを養育し,生活を介助してきたが,Aの他害行為や理解困難な行動などに悩まされ続け,行政などによる十分な支援を得ることもできないまま,ついにはAを殺害する以外の方法が考えられない状況に陥り本件犯行に及んだと認められるのであり,このような経緯には同情すべき点が少なくない。そこで,刑期については,被告人が自首した上で素直に犯行を認め,反省の態度を示していること,遺族が被告人を許し,社会復帰後のサポートも期待できることなどの一般情状も考慮し,主文の限度にとどめるのが相当であると判断した。(求刑

懲役8年,主文記載の物の没収)

令和元年9月26日
名古屋地方裁判所刑事第6部
裁判長裁判官
田邊
三保子

裁判官

岩田澄江
裁判官

小山大

トップに戻る

saiban.in