判例検索β > 令和1年(行ケ)第1号
選挙無効請求事件
事件番号令和1(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和元年11月6日
裁判所名・部広島高等裁判所  松江支部
結果棄却
裁判日:西暦2019-11-06
情報公開日2020-01-21 20:00:35
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主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
令和元年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の鳥取県及び島根県参議院合同選挙区における選挙を無効とする。
第2事案の概要
1本件は,令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下本件選挙という。について,

鳥取県及び島根県参議院合同選挙区の選挙人である原告が,

職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による公職選挙法の改正(以下平成6年改正という。
)前の別表第2を含め,
定数配分規定という。
)は
憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の同選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
2前提事実
次の事実は,当事者間に争いがないか,裁判所に顕著であるか,又は弁論の全趣旨によって認定することができる。


本件選挙は,令和元年7月21日に施行された。



原告は,本件選挙において,鳥取県及び島根県参議院合同選挙区の選挙人であった。



本件選挙の施行の時点における公職選挙法の規定は,その時点において施行されていた最終改正である平成30年法律第75号
(以下
平成30年改正法
という。
)による改正(以下平成30年改正という。
)後のものであった。



平成30年改正後の参議院議員の定数は248人とされ,そのうち,100人が比例代表選出議員,148人が選挙区選出議員とされていた。


本件選挙の施行の時点において,
平成30年改正後の定数配分規定
(以下
本件定数配分規定という。
)による選挙区間における議員1人当たりの選挙人
数の最大較差(以下,各選挙の施行当時の選挙区間の最大較差というときは,この選挙人数の最大較差をいう。
)は,3.00倍(以下,較差に関する数
値は,全て概数である。
)であった。



原告は,令和元年7月22日に本件訴えを提起した。

3争点
本件の争点は,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っており,本件選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていて,本件選挙を無効とすべきであるということができるか否かである。以上の争点に関する当事者らの主張は,次のとおりである。


原告の主張

憲法56条2項,1条,前文1項1段の冒頭部分は,人口比例選挙を要求する。


平成30年改正は,最高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下平成29年大法廷判決という。
)にいう抜本的見直しに当たらないことなどからすると,平成30年改正による本件定数配分規定は,平成29年大法廷判決の判断基準に照らしても,違憲状態にある。


最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁及び最高裁平成26年(行ツ)第155号,第156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下,それぞれ平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決という。
)の
説示するとおり,
参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平

等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。

参議院は,衆議院とともに,衆議院と全く同じレベルで,国権の最高機関として民意を国政に反映する責務を負っている。このことは,昭和22年から平成17年までの間に国会で審議された法律案について衆議院議員の多数の意見と参議院議員の多数の意見とが異なったことが少なくとも15例あるところ,
いずれにおいても参議院議員の多数の意見が衆議院議員の多数
の意見に優越して法律案の成否を決めたという歴史上の事実が示している。

平成29年大法廷判決の判断枠組みは,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の判断枠組みを変更したものであるところ,判例変更の要件を満たしていないから,後者の判断枠組みによるべきである。すなわち,選挙区間における投票価値の不均衡が,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平
等状態に至っているか否かを判断する段階では,
投票価値の較差是正のため
の立法措置に関する事項を先取りして考慮すべきでない。


本件定数配分規定は,本件選挙の時点において憲法に違反するに至っているところ,最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁の判断枠組みを分析すると,本件選挙の場合には,同判決の採用した事情判決の法理によることなく,本件選挙を無効とすべきである。


本件選挙を無効とすることは,社会的混乱を生まない。


日本で人口比例選挙を実施することは,技術的に可能である。


各選挙区における投票価値の平等からの乖離が合理的なものであることの立証責任は,国にある。


従前の最高裁判所大法廷判決が原告の上記アの主張と同旨の主張を採用しない理由を判決書に記述しないことは,民訴法253条1項3号,行政事件訴訟法7条,憲法76条3項,99条に違反する。



被告の主張


原告の前記⑴の主張をいずれも争う。
なお,前記⑴アの主張は,これに掲げる憲法の規定についての独自の解釈に基づくものにすぎない。前記⑴ウ,エ,オ,カの主張については,原告の掲げる各判決に原告の引用するのと同旨の判示部分があることは認めるが,各判決の理解等に関する主張は争う。


定数配分規定が憲法に違反すると評価されるのは,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られる。


本件選挙の時点において本件定数配分規定に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとはいえない。
すなわち,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の言渡しの後の平成27年法律第60号(以下平成27年改正法という。
)による改
正(以下平成27年改正という。
)は,両判決の趣旨に沿い,一部選挙
区について二つの県を合わせた合区を創設するなどし,これによって,選挙区間の最大較差は2.97倍となって,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態は解消されており,同改正後の定数配分規定の下で初めて平成28年7月10日に施行された選挙(以下平成28年選挙という。)に
おいて選挙の施行時点における選挙区間の最大較差が3.08倍であったことについて,
平成29年大法廷判決は,
投票価値の不均衡は上記のような
著しい不平等状態に至ったということはできない旨判示している。その後の平成30年改正により,選挙区間の最大較差は2.985倍にまで縮小している。
平成27年改正法及び平成30年改正法は,いずれも参議院の選挙区選出議員について都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持しているところ,これは,両議院の選
挙制度が同質的なものとなっている中,参議院の選挙区選出議員の選出基盤について衆議院議員のそれとは異なる要素を付加し,地方の民意を含む多角的な民意の反映を可能としたもので,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものといえる。
そもそも,人口の多い都市部に居住する多数者のみならず,過疎地域を含む地域に住む少数者の意見も十分国政に届くような定数配分規定を定めることも,国会において正当に考慮することのできる政策的目的ないし理由となるというべきである。平成29年大法廷判決も,都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することを,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,直ちに国会の合理的な裁量を超えるとは解されない旨判示している。
さらに,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会の附帯決議として,平成30年改正後も参議院選挙制度改革に向けた検討を継続する旨の決意を表明しており,このことは,再び過去にあったような大きな較差を生じさせない配慮がされているものとして評価すべきである。以上の諸点に,参議院議員については憲法上定数の偶数配分が求められるなどの技術的制約があること等を併せ考慮すると,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,本件選挙当時,投票価値の平等の重要性に照らし看過し得ない程度に達しているとはいえず,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。エ
仮に,本件選挙の時点において本件定数配分規定が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判断されるとしても,本件選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。

第3当裁判所の判断
1認定事実

次の事実は,当事者間に争いがないか,裁判所に顕著であるか,又は後掲各証拠若しくは弁論の全趣旨によって認定することができる。


参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,
参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,
都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとし
た。そして,選挙区ごとの議員定数については,憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると定めていることに応じて,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し,定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,
上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年改正まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下昭和57年改正という。
)により,参議院
議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下平成12年改正という。
)により,参議院議員
の総定数が242人とされ,比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされ,さらに,平成30年改正により,前記第2の2⑷のとおりとされて,現在に至っている。
(乙2,3)



参議院議員選挙法制定当時,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の選挙区間の最大較差というときは,この人口の
最大較差をいう。
)は2.62倍であったが,人口変動により次第に拡大を続
け,平成4年に施行された参議院議員通常選挙(以下,単に通常選挙といい,この通常選挙を平成4年選挙という。
)当時,選挙区間における議員1
人当たりの選挙人数の最大較差が6.59倍に達した後,平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減する措置により,平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.
81倍に縮小した。
その後,
平成12年改正における3選挙区の定数を6減する措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下平成18年改正という。
)における
4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,平成7年から同19年までに施行された各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。(乙4)
しかるところ,最高裁判所大法廷は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下昭和58年大法廷判決という。
)において後記2⑴の基本的
な判断枠組みを示した後,平成4年選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成6年(行ツ)
第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁)平成,
6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)
。その後,平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及び平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても,最高裁判所大法廷は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15
年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)もっとも,

上掲最高裁平成18年
10月4日大法廷判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,上掲最高裁平成21年9月30日大法廷判決においては,当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされるなど,選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で,
較差の状況について投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていた。


平成22年7月11日,選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において施行された通常選挙(以下平成22年選挙という。
)につき,平成24年大法
廷判決は,
結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,
参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており,都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし,
それにもかかわらず平成18年改正後は投票価値の大き
な不平等がある状態の解消に向けた法改正が行われることのないまま平成2
2年選挙に至ったことなどの事情を総合考慮すると,同選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。(乙4)


平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成24年法律第94号。以下平成24年改正法という。,同月26日に施行された。平成24年改正法の内容は,平)
成25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,同28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。
平成25年7月21日,平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下での初めての通常選挙が施行された(以下平成25年選挙という。。同選)
挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。
(乙4)



平成25年9月,
参議院において同28年に施行される通常選挙に向けた参
議院選挙制度改革について協議を行うため,選挙制度の改革に関する検討会の下に選挙制度協議会が設置された。同協議会においては,平成26年4月に選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案として座長案が示され,その後に同案の見直し案も示された。これらの案は,基本的には,議員1人当たりの人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われた(上記各会派の提案の中には,上記の案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか,都道
府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれていた。。そして,同協議会において,更に同年11月以降,意見集約に向けて協)
議が行われたが,
各会派の意見が一致しなかったことから,
同年12月26日,
各会派から示された提案等を併記した報告書が参議院議長に提出された。(乙
5の1)


このような協議が行われている状況の中で,平成25年選挙につき,平成26年大法廷判決は,平成24年大法廷判決の判断に沿って,平成24年改正法による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,
投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値
の著しい不平等状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ず,したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,
都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の
方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。



選挙制度の改革に関する検討会は,前記⑸の報告書の提出を受けて協議を行ったが,各会派が一致する結論を得られなかったことから,平成27年5月29日,各会派において法案化作業を行うこととされた。そして,各会派における検討が進められた結果,各会派の見解は,人口の少ない選挙区について合区を導入することを内容とする①4県2合区を含む10増10減の改正案と②20県10合区による12増12減の改正案とにおおむね集約され,同年7月23日,
上記各案を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案がそ

れぞれ国会に提出された。上記①の改正案に係る法律案は,選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに,3選挙区の定数を2人ずつ減員し,5選挙区の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり,その附則7条には,
4年後に行われる通常選挙に向けて,
参議院の在り方を踏まえて,
選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。
平成27年7月28日,上記①の改正案に係る公職選挙法の一部を改正する法律案が平成27年改正法として成立し,同年11月5日に施行された。同法による平成27年改正の結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった。
(以上,乙4,5の1)


平成28年7月10日,平成27年改正による定数配分規定の下での初めての通常選挙として,平成28年選挙が施行された。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であった。
(乙4)
なお,平成28年選挙において合区された鳥取県,島根県,徳島県及び高知県の投票率は,島根県を除く各県で低下するとともに,当時における過去最低の投票率を記録した。さらに,その無効投票率(当時)は,島根県を除いて全国平均を相当程度上回り,高知県では全国で最高となった。高知県で投票率が低下した原因については,合区により選挙区が拡大し,候補者と有権者との距離が遠くなったと感じられたこと,特に高知県においては,地元である同県出身の候補者がいなかったため,
選挙への関心が高まらなかったことによるもの
と報じられた。
(乙5の4,5,9,乙18の8)
平成28年選挙後,全国知事会は,都道府県ごとに集約されてきた意思が参議院を通じて国政に届けられなくなるのは非常に問題であること,投票率の低下や選挙区において自県を代表する議員が出せないことなど,合区を起因とし
た問題点が顕在化しており,合区解消を求める声が大きなものとなっていることなどを挙げ,参議院議員選挙において早急に合区の解消を求める決議を複数回行い(ただし,賛同しない府県が二つあった旨付記されている。,全国市長)
会,全国町村長会,全国都道府県議会議長会,全国市議会議長会及び全国町村議会議長会も,それぞれ,あるいは合同で地方六団体として,同様の意見表明等を繰り返し行った。さらに,30を超える県のほか,合区対象とされた4県及びそれ以外の多数の市町村の長,議会からも合区解消を求める意見が寄せられた。
(乙21の2,3,乙22の1から3まで,乙23の1から3まで,乙24の1から3まで,乙25の3,4,乙26の2,3,乙27の1,2,乙28の3から7まで,9,14から22まで,24から28まで,30,35から56まで,58から60まで,63,74,76から78まで,84から99まで,102から125まで,145から149まで,151,153から168まで,170,203から235まで)


平成28年選挙につき,平成29年大法廷判決は,参議院議員の選挙について,
直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,
参議院についても更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるとしつつ,参議院について多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとした憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであるとした上で,平成27年改正法は,従前の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,人口の少ない選挙区について,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,
都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことも内容とするものであり,
これによって平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5

倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったことを指摘し,平成27年改正は,参議院議員選挙の特性を踏まえ,
平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に
沿って較差の是正を図ったものであり,また,その附則7条をみれば,更なる較差の是正を指向するものと評価することができることなどから,平成27年
改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,
更なる較差の是正を指向するものと評価することができる
として,
平成27年改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはい
えず,
上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示した。

ところで,平成28年選挙後には,平成29年大法廷判決の言渡しに先行して,平成29年2月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,各会派代表による参議院改革協議会が設置され,同年4月には,上記協議会の下に,参議院選挙制度改革について集中的に調査検討を進めるため,選挙制度に関する専門委員会が設置された。
(乙6から10まで,
乙11の1,
2,
乙16)


上記専門委員会では,
平成29年大法廷判決の言渡しの前後にわたる平成2
9年5月から平成30年4月までの間に,
17回にわたり参議院の選挙制度に
関する協議が行われた。そこでは,参議院の在り方との関係,一票の較差,選挙制度の枠組み,議員定数の在り方などについて意見交換が行われ,特に,選挙制度の枠組みについては,選挙区及び比例代表の二本立てとする場合及びそうしない場合のそれぞれを検討するとともに,ブロック選挙区制や奇数配当の可否,連記制の導入などについて議論が行われた。そして,最後の第17回会議では,専門委員長から,これまでの議論のまとめとして,例えば,参議院の
選挙制度の見直しに当たっては,中長期的な観点と短期的な観点の双方を意識して議論すべきとの指摘がされたこと,中長期的な観点については,統治機構や二院制,とりわけ参議院の在り方や果たすべき役割について議論し,その上で,
それを踏まえた選挙制度や議員定数の在り方を検討すべきとの意見があったこと,現行の一部合区を含む都道府県選挙区の制度について,人口の少ない特定の県のみが参議院議員を選出できなくなる不合理や問題点が生じているとの指摘があり,合区を積極的に支持する意見は少なかったこと,その上で,合区解消の方法については,選挙区の単位を都道府県単位とする意見と,もっと広く,ブロック単位とするべきであるとの意見があり,中には,現行の選挙区及び全国比例の二本立てを前提とせずに,ブロック単位の選挙区における選挙に一本化すべきとの意見もあったこと,ただ,総じて都道府県単位を重視すべきとの意見が多く聴かれたこと,全ての都道府県から少なくとも1名の議員が選出される都道府県選挙区として,連記制,奇数配当区の導入,定数増などの選択肢も示されたこと,
その一方で,
都道府県選挙区とすることに関連して,
投票価値の平等,
一票の較差や最高裁判所判決を踏まえて考えなければならな
いとの意見もあったこと,また,ブロック単位の選挙区とすべきとの意見の中にも,各ブロックの定数について,区域内の都道府県数を意識した考え方,また,
都道府県数を確保できるよう調整を加えて配分すべきとの考え方も示されたことなどの発言があった。そして,上記専門委員会は,同年5月7日,参議院の在り方,
一票の較差,
選挙制度の枠組みなどについての意見を取りまとめ,
参議院選挙制度改革に関する具体的な方向性についての各会派の意見を併記する形で作成した参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書を上記協議会に提出し,これを受けて,同協議会において意見交換がされ,具体的な制度の提案もされたところ,同年6月8日の同協議会において,現段階での協議状況を参議院議長に報告することが了承された。
その後,各会派の意見がまとまらなかったことから,具体案のある会派は法
律案を提出し,委員会において議論を進めることとなり,5法律案が7会派から発議され,
いずれも参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会
に付託され,同年7月6日以降質疑が行われた。この中で,自由民主党・こころ及び無所属クラブによる法律案(以下自民・無ク案という。
)は,選挙区
選出議員の定数を2人増加して各選挙区において選挙すべき議員の数の是正を行うとともに,比例代表選出議員の選挙について,全国的な支持基盤を有するとはいえないが国政上有為な人材又は民意を媒介する政党がその役割を果たす上で必要とされる人材が当選しやすくなることを目的とした特定枠の制度を導入し,
比例代表選出議員の定数を4人増加させることを内容とするもの
であったところ,同法律案の発議者から,平成27年改正法で導入された合区につき,合区対象県はもとより,対象県以外からも批判の声が上がっており,合区解消を求める地方六団体の決議に加え,当該審議時点において35の県議会において,
都道府県を単位とする区域で選挙された議員の国政参加を求める
意見書等が採択されている状況である等の説明がされたほか,合区を更に一つ増やす法律案の発議者からも,都道府県を基調とする制度の中で合区を作ることについては,特に地方から,都道府県の民意を国政に反映できないといった批判があることは承知しており,合区がいいとは思っていないが,現状の中で改革案を考えるとしたら,合区を増やすことも是とすべきとの説明がされた。また,自民・無ク案と平成27年改正法附則7条との関係については,次の通常選挙に向けての一つの抜本的な見直しに当たるものと考えているとの説明がされた。
同特別委員会においては,同月11日,自民・無ク案が多数をもって可決すべきものと決定され,同時に,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,
参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うこと等
の実現に努めるべきであるという内容の附帯決議がされた。
自民・無ク案は,即日,参議院本会議において可決され,同月17日,衆議
院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会において可決すべきものと決定され,翌18日,衆議院本会議において可決されて平成30年改正法として成立した。
平成30年改正では,参議院の選挙区選出議員について,投票価値が最も低い埼玉県選挙区の定数を2人増加して8人とし,その結果として選挙区選出議員の定数全体を2人増加して148人とした。このほか,比例代表選出議員について,政党その他の政治団体が,候補者とする者のうちの一部の者を優先的に当選人となるべき候補者とすることができる特定枠の制度を導入し,定数を
4人増加して100人としている。
なお,平成30年改正法が成立した第196回国会(常会)の会期は,延長の結果,平成30年7月22日までとされていたもので,平成30年改正法が成立したのは,会期満了を4日後に控えた時期に当たり,また,平成29年大法廷判決の言渡しからは10か月を経ていない時期に当たる。
さらに,平成27年改正法による合区は,いずれも,人口差ないし人口比が極端に大きいわけではない隣接2県を合区したものであるが,更なる合区をする場合には,
人口差ないし人口比が平成27年改正法による合区よりも相対的
に大きい隣接2県を合区することになるという事情もあった。
平成30年改正法は,平成30年10月25日から施行され,その結果,選挙区間の最大較差は,平成27年10月実施の国勢調査結果に照らすと2.985倍となり,本件選挙の施行期日には,前記第2の2⑸のとおり,3.00倍となった。
(以上,乙5の3,6,乙8,10,乙11の1,2,乙13の1から7まで,乙14から17まで)
2本件選挙の時点における本件定数配分規定と憲法との関係について⑴

憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解され
る。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,
国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,
それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められ
ることになっても,憲法に違反するとはいえない。
憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,
それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,
国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記1⑴においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,
国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるもの
であったということはできない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,
当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当
である。
以上は,
昭和58年大法廷判決から平成29年大法廷判決に至るまでの参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の最高裁判所
大法廷判決の趣旨とするところであり,本件についても,この基本的な判断枠組みによって判断するのが相当である。


憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める反面,参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている
(46条等)その趣旨は,

立法を始めとする
多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。そして,いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,
二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,
これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点
を含め,
国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。
このことも,
前記⑴と同様,
累次の最高裁判所大法廷判決が基本的な立場として承認してき
たところであり,本件についても,この基本的な立場に立って判断するのが相当である。



前記⑴のとおり,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,また,前記⑵のとおり,憲法が,国会の構成について二院制を採用し,衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨に鑑みれば,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものと考えられる。そして,具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,一定の地域の住
民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。
平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,上記のような選挙制度の構築についての国会の裁量権行使の合理性を判断するに当たって,長年にわたる制度及び社会状況の変化を考慮すべき必要性を指摘し,その変化として,参議院議員と衆議院議員の各選挙制度が同質的なものとなってきており,国政の運営における参議院の役割が増大してきていることに加え,衆議院については投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることなどを挙げて,これらの事情の下では,昭和58年大法廷判決が長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた諸点につき,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている旨を指摘するとともに,都道府県を各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,上記のように長期にわたり大きな較差が継続していた状況の下では,上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっていたとしたものである。しかし,この判断は,都道府県を各選挙区の単位として固定することが投票価値の大きな不平等状態を長期にわたって継続させてきた要因であるとみたことによるものにほかならず,各選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体を不合理なものとして許されないとしたものではない。

もとより,参議院議員の選挙について,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,参議院についても更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるものの,上記のような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなど,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであることに変わりはないというべきである。


平成29年大法廷判決は,以上のような観点を指摘した上,平成27年改正法について,一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって選挙区間の最大較差は2.97倍(選挙の施行当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったのであって,前記の参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができ,その附則7条において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができるものであって,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,
更なる較差の是正を指向するものと評価することがで
きるなどと説示し,これらの事情を総合すれば,平成28年選挙当時,平成27年改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないと判断しているところ,本件選挙は,このような平成29年大法廷判決の言渡し後に
された平成30年改正後の定数配分規定の下で施行されたものである。そして,平成30年改正は,選挙区間の最大較差を2.985倍(本件選挙の施行当時は3.00倍)に縮小するものであって,選挙の施行当時における選挙区間の最大較差という観点からみる限りでは,平成27年改正よりも是正の度合いを進めている。
しかしながら,
較差が大幅に是正されたわけではなく,
是正の手法をみても,更なる合区や一部の選挙区の定数減をせず,一部の選挙区の定数増のみをして,その分だけ,平成12年改正以来維持してきた選挙区選出議員の定数全体を増しているのであって,選挙制度の抜本的な見直しとは評価し難い側面がある。また,平成30年改正法の附則をみても,平成27年改正法附則7条に相当する規定はない。そこで,このような平成30年改正法をいかに評価するかが問題となる。
この点について検討すると,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差は,定数配分規定の合憲性をめぐる問題の出発点であり,その較差の解消は,この問題を解決する上での最終目標であって,その較差が結果的にどの程度まで縮小されたかは,
そのために採られた手法が抜本的なものであったか否
かという点と並んで,
立法措置の成果や方向性を見極める上で重要な観点とな
る。そして,上記のとおり,平成30年改正は,較差の縮小という観点からみれば一つの成果を挙げており,
特に,
本件選挙の施行時における最大較差は3.
00倍であって,平成28年選挙の施行時よりも縮小されている。是正の手法に抜本的な見直しとは評価し難い側面があることについても,平成30年改正法の成立に至る検討の過程をみると,平成29年大法廷判決の言渡しの前の段階から,参議院において,各会派代表による協議会における協議の場や,その下の専門委員会における調査検討の場が設けられたところ,そこでは,
中長期的な観点と短期的な観点との双方を意識して議論すべきとの指摘がされるなどする中で,更なる合区以前の問題として,既存の合区の廃止を求めるなど,合区に対する問題点の指摘や反対の意見も寄せられ,合区に代わる
方法として,ブロック単位の選挙区という方法や,現行の比例代表選出と選挙区選出という二本立ての仕組みも改めてブロック単位の選挙区選出に一本化するという方法も提案され,他方では,都道府県単位の選挙区を前提としつつ定数較差の是正を図る方法として,連記制,奇数配当区の導入,定数増などの選択肢も提案されているのであって,そのような議論の過程では,定数較差の是正のみならず,参議院の役割にも立ち入るなど,平成27年改正法で導入された合区よりも更に抜本的な選択肢をも対象とし,より広汎な見地からの議論がされているのであるが,
そのような議論を経た専門委員会の報告書は各会派
の意見を併記するものとなり,協議会でも各会派の意見がまとまらず,具体案のある会派がそれぞれの法律案を提出することに帰している。
この過程を一連
の最高裁判所判決との関係でとらえると,前記⑴から⑶までのとおり,選挙における投票価値の平等は,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,特に,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,前記⑵,⑶のとおりの二院制に係る憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきものであって,その際には,都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することも許されないものではなく,平成27年改正法は,選挙区選出議員の選挙について,基本的には都道府県単位の選挙区を維持しつつ,一部では合区を導入するという方法によって上記の調和を図ったものと位置付けることができるところ,
その後の検討の過程
では,
合区による選挙がその導入後最初の通常選挙から早々に定着しているわけではないという認識に立つ意見も多く,更なる合区の是非にとどまらず,合区という方法そのものの是非をめぐっても多様な意見が議院の内外で述べられるに至り,立法府としても,参議院の役割等にも立ち帰り,合区以外の選択肢も検討することとなって,
短期間のうちに国民の理解を得ることができる形
で調和点を見いだして制度の設計,導入を進めていくことが容易でない状況に至っていたとみることができる。最終的には,国会の会期満了を目前に控えた
時期に至り,平成27年改正法附則7条や,言渡しから10か月を経ていない平成29年大法廷判決の言及する抜本的な見直しを実現するに至らないまま,翌年に迫った本件選挙における選挙区間の最大較差の是正を急ぐ見地から,それまでは種々の考慮から回避してきた選挙区選出議員全体の定数増を伴う一部の選挙区の定数増をし,併せて,比例代表選出議員について特定枠の制度を導入し,
平成27年改正における合区に伴う選挙区選出議員の定数減と同数の比例代表選出議員の定数増をして本件選挙に臨むこととなったのであるが,そのような結果に至ったことの一事をもって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が放棄されたものと評価するのは,なお,いささか早計というべき段階にあると考えられる。平成30年改正法附則に平成27年改正法附則7条のような規定がないことについても,同条を踏まえて実際に真摯な議論を取り交わしても所定の時期までに真に抜本的な見直しを実現するに至らなかったという経験を踏まえ,時期を区切った見直しを法律に明言することを避けたものであって,問題の奥行きを理解した上で真摯に向き合う姿勢を抱いているからこその対応とみることもできる。審議の過程では,
平成30年改正法をもって次回の通常選挙に向けての一つの抜本的な見直しに当たるものと考えているという趣旨の発言もあったが,これをもって,この発言にいう次回の通常選挙すなわち本件選挙から先のより抜本的な見直しを拒否する趣旨に解する必然性はなく,むしろ,参議院としてその決意を放棄しておらず,憲法の趣旨に則り,参議院の役割及び在り方を踏まえて引き続き検討を行うことは,
参議院の特別委員会の附帯決議でも明らかにされている
ところである。
そうであれば,平成30年改正法は,これに基づく本件選挙当時の最大較差を3.00倍にまで縮小したものであり,これに至る議論の過程をみると,平成29年大法廷判決にいう今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性や立法府の決意が放棄されたものでもなく,再び大きな較差を生じ
させることのないよう配慮されている状態もなお損なわれていないとみるのが相当である。


以上のような事情を総合すれば,本件選挙当時,平成30年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。



原告の前記第2の3⑴の主張は,前記⑴から⑸までの判断を左右するものではない。これを補足すると,次のとおりである。

原告の前記第2の3⑴アの主張については,原告の掲げる憲法の規定がそれ自体として本件選挙の選挙区間における投票価値の平等を要求するものであるか否かはひとまず措き,本件訴訟における原告の主張は,その引用する累次の最高裁判所大法廷判決に照らし,本件定数配分規定が,これらの判決で判断されてきた上告理由に係る憲法14条等の規定に違反する旨の主張をも含む趣旨のものと解されるところ,そのように解される憲法14条等違反の主張に対する当裁判所の判断は,前記⑴から⑸までのとおりである。この判断は,憲法14条等に限らず,原告の掲げる規定を含む憲法全体の趣旨を踏まえたものであり,その結論は,原告の上記主張によって左右されるものではない。


原告の前記第2の3⑴のイ,ウ,オの主張については,前記⑴から⑸までの判断は,それぞれの箇所で述べたとおりの形で,原告の掲げる判例の趣旨を踏まえたものであって,この判断は,原告の上記主張によって左右されるものではない。
このうち,前記第2の3⑴のオの主張について補足すると,前記⑴から⑷までのとおり,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるから,
投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に
至っているか否かの判断に際しても,選挙区間の較差の大小のみならず,上記のような調和の観点を考慮に入れることができる。そして,国会が,参議院議員の選挙について都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することも許されないものではないことも考えると,
参議院の選挙区選出議員
の選挙の場合には,投票価値の平等と,都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することその他の政策的目的ないし理由との調和を考慮に入れることができ,その際には,この調和点を模索する多様な議論の中にあって,
国民の理解を得ることができる形で抜本的な見直しを実現していくことが短期間では容易でない状況にあることなどの事情も考慮に入れることができると考えられる。原告の掲げる最高裁判所大法廷判決は,いずれも,このような考え方を否定するものとは解されない。

原告の前記第2の3⑴エの主張は,参議院が衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を反映する責務を負っていることを裏付ける事実として,その主張に係る期間に,法律案について衆議院議員の多数の意見と参議院議員の多数の意見とが異なったことが少なくとも15例あり,そのいずれにおいても参議院議員の多数の意見が衆議院議員の多数の意見に優越して法律案の成否を決めていることを説くものである。この15例を紹介する研究者の文献(甲31)も提出されている。
しかしながら,原告の主張は,例えば,法律案が参議院で否決されて廃案となった例は掲げているのに対し,
法律案が参議院で否決された後に衆議院
で憲法59条2項の規定により再び可決されて成立した例は掲げておらず,しかも,掲げる事例の選別基準も明らかにしていないなど,参議院の責務に関する原告の主張を歴史上の事実に基づいて実証的に裏付ける試みとして適切な方法に依拠しているのか疑問の点がある。
もっとも,上記15例による裏付けの試みをまつまでもなく,前記⑴から⑶までに述べたとおり,
参議院が衆議院とともに国権の最高機関として適切

に民意を反映する責務を負っていることは憲法の関係規定から明らかであり,
国政の運営における参議院の役割が増大してきていることも既に指摘されているところであって,前記⑴から⑸までの判断は,それぞれの箇所において述べたとおり,これらの点を十分に考慮に入れた上でのものである。そうすると,原告の上記主張は,前記⑴から⑸までの判断を左右するものではない。

原告の前記第2の3⑴カ,キの主張は,本件選挙の時点において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたことを前提として,事情判決の法理の採用の是非を説くものであって,前記⑴から⑸までに説示したところに照らすと,本件において判断する前提を欠く。


原告の前記第2の3⑴クの主張は,これを前提としても,前記⑴から⑶までのとおり,国会が,投票価値の平等を,正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現する範囲において,その裁量権を行使することが妨げられるわけではなく,前記⑴から⑸までの判断を左右するものではない。


原告の前記第2の3⑴ケの主張については,
累次の最高裁判所大法廷判決
に示されてきた参議院の選挙区選出議員の定数配分規定の合憲性の判断枠組みとして当裁判所の理解するところは前記⑴から⑶までのとおりである。例えば,
選挙制度をどのような制度にするかについて国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえず,また,参議院議員選挙法及び公職選挙法の制定当時における選挙制度の仕組みの定めが国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできないが,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもか
かわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。原告の主張は,以上と異なる見解に立つものであれば,その限度において,前記⑴から⑶までに掲げた判例に照らし,採用することができない。

原告の前記第2の3⑴コの主張は,本件の訴訟手続ないしこの判決とは別の事件の訴訟手続ないし判決を非難するもので,
本件における当裁判所の前
記⑴から⑸までの判断を左右するものではない。なお,原告の前記第2の3⑴アの主張に対する当裁判所の判断は,前記アで述べたとおりである。
第4結論
以上の次第で,
本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていた
ということはできず,本件選挙の無効事由は認められないから,その無効を前提として鳥取県及び島根県参議院合同選挙区における選挙の無効を求める原告の請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所松江支部

裁判長裁判官

金子
裁判官

三島
裁判官

田中直史琢良武
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