判例検索β > 令和1年(ネ)第399号
事件番号令和1(ネ)399
裁判年月日令和元年12月13日
裁判所名・部福岡高等裁判所
原審裁判所名福岡地方裁判所
原審事件番号平成29(ワ)2704
裁判日:西暦2019-12-13
情報公開日2020-01-20 12:00:08
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主文1
本件各控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2
被控訴人の請求をいずれも棄却する。

[以下,第2事案の概要及び第3当裁判所の判断の部分は,原判決を
付加訂正した。下線を付した部分が,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所である。それ以外の字句の訂正等については,特に指摘していない。]第2
1
事案の概要
本件は,指定暴力団五代目工藤會(以下工藤會という。)の捜査・取締りを指揮していた元警察官である被控訴人が,工藤會の幹部であった控訴人らに対し,被控訴人が退職から1年余り経過した後の平成24年4月19日,
工藤會構成員であったA(以下Aという。)から拳銃で銃撃されるという襲撃行為(以下本件襲撃という。)を受けて負傷したことについて,①本件襲撃は,控訴人らが共謀し,Aに指示して行わせたものであって,共同不法行為に当たると主張して,民法719条に基づき,②控訴人B,控訴人C及び控訴人Dについて,同人らは工藤會の幹部として構成員であるAの使用者ない
し代理監督者であるところ,本件襲撃が工藤會の弱体化を目的とした警察の捜査・取締りに対する報復・牽制であって資金獲得活動に向けた工藤會の威力を維持するための事業として行われたものであると主張して,使用者責任(民法715条)に基づき,又は③控訴人B及び控訴人Cについて,工藤會を代表し又はその運営を支配する地位にあるところ,構成員であるAが資金獲得活動に
向けた工藤會の威力を維持するための行為を行うについて他人である被控訴人の生命及び身体を侵害したと主張して,暴力団員による不当な行為の防止等に
関する法律(以下暴対法という。)31条の2に基づき(上記①ないし③は選択的併合の関係にある。),連帯して,損害賠償金2968万3158円及びこれに対する不法行為の日である平成24年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。原審は,被控訴人の請求のうち,上記①の共同不法行為責任を認め,控訴人
らに対し連帯して1623万5965円及びこれに対する平成24年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却したところ,控訴人らが上記認容部分を不服として控訴した。
2
前提事実(認定根拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。なお,書証は特記しない限り全て枝番を含む。以下,同じ。)


当事者
被控訴人は,昭和45年,福岡県警察(以下福岡県警という。)の警察官となり,工藤會を中心とした暴力団犯罪捜査に従事し,平成23年
3月に退職した者である(控訴人Bとの関係では争いがない。その余の控訴人との関係では,甲4,33,60)。
工藤會は,北九州市を中心として勢力を有する暴力団であり,平成4年6月26日以降,暴対法3条所定の指定暴力団に指定され,平成24年12月27日,同法30条の8所定の特定危険指定暴力団に指定されている
(控訴人Bとの関係では,工藤會が暴対法3条所定の指定を受けたこと及び同法30条の8の指定を受けたことは争いがない。その余については甲5,6)。
平成23年7月五代目工藤會として発足して以降,本件襲撃当時に至るまで,控訴人Bが総裁を,控訴人Cが会長を,控訴人Dが理事長をそれぞ
れ務めていた(控訴人B,控訴人C,控訴人Dとの関係では争いがない。控訴人Eとの関係では甲5,6)。

五代目田中組(以下田中組という。)は,工藤會傘下の暴力団であり,控訴人B及び控訴人Cの出身母体であるところ,本件襲撃当時,控訴人Dが組長を,控訴人Eが若頭をそれぞれ務めていた(控訴人Cとの関係では,控訴人Eが若頭であったことは争いがない。その余については,甲5,6,13,18,19,62)。



本件襲撃
Aは,平成24年4月19日,原動機付自転車で被控訴人方付近路上を通行する被控訴人の左横に近づいて停車し,拳銃を被控訴人の左太腿付近を目がけて2発発射して,直後に逃走した(本件襲撃)。
Aの発射した弾丸はいずれも被控訴人の左大腿部に命中し,被控訴人は
左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負った。
(本項につき,甲4,34~36,39~42,45~48,52,60)3
争点及び争点に関する当事者の主張


控訴人らの共同不法行為責任(民法719条)の成否
【被控訴人の主張】
控訴人Bは,被控訴人が警察官在職中に工藤會を破門された元構成員に接触し,工藤會に関する情報を引き出すために控訴人Bを批判する発言をしたことを知って激怒し,被控訴人及び福岡県警への報復・牽制のために本件襲撃を計画した。同計画は,控訴人C,控訴人D及び控訴人Eへと順次指示が
伝わって共謀し,控訴人Eが同共謀に基づいてF(以下Fという。)らと共に本件襲撃の具体的計画を立案して準備し,控訴人EからAに対して本件襲撃の実行が指示されるに至った。
本件襲撃は,控訴人BからAに至る一連の指示や控訴人Eらによる準備行為によって実行されたものであり,各控訴人の不法行為が関連共同して引き
起こされたものであるから,控訴人らは共同不法行為責任を負う。【控訴人B,控訴人C及び控訴人Dの主張】

控訴人EがAに本件襲撃を指示したこと,及びAが同指示に基づき本件襲撃を行ったことは不知であり,その余は否認ないし争う。
控訴人B,控訴人C及び控訴人Dが,本件襲撃を計画したり,指示されたり,控訴人EやAに指示したことはない。
【控訴人Eの主張】

控訴人EがAに対して本件襲撃を指示したことは認めるが,その余は否認ないし争う。控訴人Eは,控訴人B,控訴人C及び控訴人Dから本件襲撃を指示されたことはなく,また,被控訴人に対して殺意を有していなかったから,Aに被控訴人の殺害を指示したことはない。


控訴人B,控訴人C及び控訴人Dの使用者責任(民法715条)
【被控訴人の主張】
控訴人B,控訴人C及び控訴人Dは工藤會の幹部として,序列的擬制的血縁関係に基づき,Aら構成員を服従させ,直接ないし間接に指揮監督する者であるところ,暴力団の事業として威力を維持し,資金獲得活動につなげるため,警察への報復・牽制を目的とした本件襲撃をAに行わせたものである
から,暴力団の事業の執行としてその指揮監督下にあるAに本件襲撃を行わせたものとして,Aの不法行為について使用者責任を負う。
【控訴人B,控訴人C及び控訴人Dの主張】
否認ないし争う。


控訴人B及び控訴人Cの暴対法31条の2に基づく責任
【被控訴人の主張】
控訴人Bは,工藤會の代表者として意思決定を行う総裁の地位にあり,控訴人Cは,総裁に次ぐ会長の地位にあって工藤會の運営を支配していたものであるから,いずれも暴対法3条3項の代表者等に該当するところ,本
件襲撃は工藤會の威力を維持し資金獲得を容易ならしめるために行われたものであるから,同法31条の2に基づき,被控訴人の生命及び身体の侵害に
よる損害を賠償すべき責任を負う。
【控訴人B及び控訴人Cの主張】
否認ないし争う。

損害額
【被控訴人の主張】

治療費

169万9062円

被控訴人は,本件襲撃によって左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負い,平成24年4月19日から同年5月7日までの入院治療及び同日から平成27年1月8日(症状固定日)までの通院治療を余儀なくされ,治療費169万9062円の損害を負った。


入院雑費

2万8500円

被控訴人は,本件襲撃によって平成24年4月19日から同年5月7日までの19日間入院しており,入院中に要した諸雑費は1日当たり1500円(合計2万8500円)を下らない。

休業損害

59万0240円

被控訴人は,本件襲撃当時,G病院に再就職し,年収は633万6728円(1日当たり1万7360円)であったが,本件襲撃により34日間の欠勤を余儀なくされたから,59万0240円(1万7360円×34日間)の休業損害が発生した。

逸失利益

685万0243円

被控訴人の年収は,上記のとおり633万6728円である。
被控訴人は,本件襲撃により左股関節の可動域制限及び左股関節から大腿部の疼痛の後遺障害を負い,前者は地方公務員災害補償法施行規則別表第3所定の後遺障害等級(以下,単に後遺障害等級という。)の12級7号(1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)に,後者は後遺障害等級14級9号(局部に神経症状を残すもの)にそれぞれ相当
し,重い障害に応ずる障害等級に従って12級7号とされるから,労働能力喪失率は14パーセントが相当である。
被控訴人は,症状固定時である平成27年1月8日,63歳であり,労働能力喪失期間は平均余命の半分である10年間(ライプニッツ係数・7.7217)である。

したがって,被控訴人の逸失利益は,685万0243円(633万6728円×0.14×7.7217。1円未満切捨て,以下同じ。)である。

慰謝料

2000万円

被控訴人は,本件襲撃によって,長期間の入通院を余儀なくされ,上記
エの後遺障害を負い,現在も左股関節の可動域制限や疼痛に苦しめられている。また,本件襲撃は被控訴人の正当な職務行為への報復を目的とした暴力団による組織的な犯行であり,被控訴人の生命を危険にさらす悪質かつ残忍な犯行であって,被控訴人は強い恐怖心を感じ続け,行動範囲も制限されており,家族にも影響がある。被控訴人の受けた被害の全てを慰謝
するには,入通院や後遺障害に伴う被害を慰謝するだけでは到底足りない。こうした被控訴人の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料は2000万円を下らない。

損益相殺

443万2080円

被控訴人は,地方公務員災害補償基金から,療養補償給付169万90
62円,休業補償給付29万0344円及び障害補償給付244万2674円の合計443万2080円の支給を受けており,同支給金額の限度において損害が填補されている。

弁護士費用

494万7193円

控訴人らが本件襲撃について任意の賠償金支払をしないため,被控訴人は弁護士に依頼せざるを得ず,控訴人らが特定危険指定暴力団の構成員で
あって複数の弁護士を必要としたことなどの事情に照らせば,弁護士費用は,前記アないしオの合計から前記カを控除した2473万5965円の2割に当たる494万7193円が相当である。

合計

2968万3158円

【控訴人らの主張】

いずれも否認ないし争う。
特に慰謝料については,一般的には,①入通院慰謝料と②後遺障害慰謝料を併せたものであるが,本件では,①入院は1か月に満たないし,②後遺障害も後遺障害等級12級程度であるから,いわゆる赤本によれば,①入通院慰謝料は32万円ないし60万円程度,②後遺障害慰謝料も250万円ない
し300万円程度となり,慰謝料の額は400万円を超えるものではない。第3

当裁判所の判断

1
争点⑴(控訴人らの共同不法行為責任(民法719条)の成否)について⑴

認定事実
前提事実に加え,後掲の各証拠(後記認定に反する部分は除く。)及び弁
論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

工藤會の指揮命令系統及び控訴人らの地位
工藤會は,総裁の控訴人Bを頂点とし,会長の控訴人Cのもとに,田中組ら下部組織の直系組長及び同下部組織に属する構成員から構成されるピ
ラミッド型階層組織となっており,その重要な意思決定については,理事長の控訴人Dら執行部がその計画案を控訴人Cに上申し,控訴人Cが控訴人Bに仰いで指示を受け,同指示をもとに控訴人Cが最終決定して執行部に伝え,毎月10日に開催される定例会等を通じて下部組織に周知されていた。(甲5,6,7,61)

工藤會における序列は絶対的なものであり,上位の幹部の指示を下位の幹部や構成員らが拒否することは許されなかった。下部の構成員が上記指
示を拒否した場合,殴る蹴るなどの暴行を受けたり,逃亡せざるを得ないような状況にあった。(甲15,38)
工藤會には,工藤會の幹部らが決定した計画を下部組織の構成員に指示して実行させることがあり,これは殺人などの犯罪行為を含むものであったが,控訴人Bや控訴人Cに捜査が及ばないようにするため,控訴人B及
び控訴人Cらが実行役の構成員に直接指示することはなく,控訴人B,控訴人C,控訴人Dへと順次指示がされ,控訴人Dが更に下部組織の構成員らに指示するなどして実行される系統が厳に遵守されていた。(甲15,16)

被控訴人と控訴人らとの関係
被控訴人は,昭和53年以降一貫して工藤會を中心とする暴力団犯罪捜査に従事する中で,控訴人B,控訴人C及び控訴人Dと面識を有するようになり,工藤會構成員が起こした事件における関係場所の捜索差押えの際などに,控訴人Bと言葉を交わし,控訴人Bは被控訴人をHさんとの愛称(被控訴人が同僚の警察官から呼ばれていたもの)で呼ぶなどして謙
虚な態度で接していた。(甲4,60)
なお,福岡県警は,工藤會が指定暴力団に指定されたことを受けて取締りを強化しており,工藤會は,配下の構成員に対して警察への非協力を周知徹底させ,取調べでの自白の禁止や組事務所への立入りの回避などを掲げている。そのような中,被控訴人は,控訴人Bや控訴人Cのほか工藤會
の最高顧問(地位は控訴人Cよりは下位である。)であるIことIら工藤會の最高幹部らと直接話ができる数少ない警察官であった。(甲4,60,62)

本件襲撃に至る経緯
J(以下Jという。)は,平成20年4月に工藤會を破門されていたところ,被控訴人は,Jが工藤會や控訴人Bらに恨みを有しており,工
藤會の関与が疑われる事件について情報が得られるのではないかと考え,平成21年4月,Jに連絡を取って面談した。その面談において,被控訴人は,

工藤會のシノギ(構成員からの上納金)は,BとCが独り占めしよってから,他の組長連中は泣きよるぞ。

Bは弘道会に狙われとるんやぞ。

などと控訴人Bを批判する発言をし,Jを同調させて情報を引き出そうとしたが,Jは同調せず,密かに被控訴人の発言を録音した記録媒体を工藤會幹部に送り,同発言は控訴人C及び控訴人Bの知るところとなった。(甲4,29~31,60)
控訴人Bは,被控訴人の発言を知って激怒し,上記面談の約2週間後に
被控訴人と接触した際,腹を立てた様子で,

Hさん,あんた,Jに会ったりしとうやないな。

Hさん,あんた,わしより年下なのに,年上のような物言いをしよるんですね。

あんた,最後になって悪いもん残したな。

などと発言し,従前の謙虚な態度を一変させた。さらに,控訴人Bは,被控訴人の警察官退職後の平成23年4月ないし
5月頃,被控訴人の勤務先において偶然出会った際,強い口調で

あんた,俺よか年下のくせに,年上のような物言いするな。

田中組の情報は,全部あんたが流しとったんやろ。

こっちは信用しとったのに,そんなことしたら,つまらんばい。

などと発言し,被控訴人の警察官在職中と異なり脅すような態度を取った。(甲4,32,60)
控訴人Eは,本件襲撃の前日ないし数日前である平成24年4月中旬頃,Aに対し,被控訴人を拳銃で襲撃するよう指示した。控訴人Eは,田中組若頭補佐であったFと共に被控訴人方及びその周辺を下見し,拳銃及び携帯電話を渡した。同時に控訴人Eは,配下の田中組構成員であるF,K,L,M(以下Mという。),N(以下Nという。)

らに対して,被控訴人の行動確認や自動車や原動機付自転車等犯行に使用する道具の準備を詳細に指示し,襲撃や逃走の手順,役割分担などを
打ち合わせた。(甲34~40,50,51)

本件襲撃当日
Aは,平成24年4月19日,原動機付自転車に乗って被控訴人方付近で待機し,携帯電話で被控訴人が自宅を出た旨連絡を受けると,原動機付自転車で被控訴人方付近路上を通行する被控訴人の左横約1.2m
まで近づいて停車し,原動機付自転車に跨ったまま両手で拳銃を構えて被控訴人の左太腿付近を目がけて2発発射し,更に1発発射し,その直後に現場から逃走した。(前提事実⑵,甲39~42)Aが発射した弾丸のうち最初の2発は,いずれも被控訴人の左太腿部に命中し,1発は皮膚直下の大腿骨大転子部に跳ね返るなどして体外に
排出され,もう1発は左大腿骨付近の体内に残存しており,被控訴人は,左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負った。最後の1発は地面に当たった。(甲42,45,46,52)
Aは,本件襲撃の後,上記拳銃を河川に投棄し,待機していたM及びNと合流し,原動機付自転車とヘルメットをNに渡し,Mが運転する車
に乗り,帰宅した。(甲38)


控訴人Eの指示の内容について
控訴人Eは被控訴人に対して殺意を有していなかったことから,Aに対して被控訴人を殺害するような指示はしていない旨主張するところ,控訴人E
の供述調書(甲34)にはAに対して足に向けて2発撃ってくれ,

無理やったら地面に向けて2発撃ってくれ。

,絶対に殺したらつまらんぞ,

無理やったらせんでいいから逃げてくれ。

と指示し,怪我が少ないように小さな口径の拳銃を用意したとの記載があり,Aは現に被控訴人の左大腿部を狙って撃ち,被控訴人は緊急手術の結果死亡していないなど,上
記主張に沿う証拠がある。
しかし,被控訴人の救急搬送先の病院で治療に当たった救急救命を担当す
る医師の供述調書(甲45)によれば,Aの撃った銃弾のうち1発が左大腿骨で停止することなく股間に貫通していた場合,腹部から内腿に続く大動脈を損傷し,出血性ショックによって死亡するおそれがあったと認められ,また,本件襲撃に使用された拳銃の発射実験の結果(甲44)によれば,同拳銃は銃砲刀剣類所持等取締法において殺傷能力が法的に認められる20J/cm
2
を大きく超える279J/cm2の威力を有していたから,Aが原動機付自転
車に跨った不安定な体勢で殺傷力の高い拳銃を足に向けて発射した場合,左大腿骨からずれて股間に貫通し,出血性ショックによって死亡する危険性が十分にあったといえ,本件襲撃は被控訴人の死亡する危険が高い行為であったと認められる。

そして,そもそも拳銃を人に向けて発射することは被害者の体勢が多少ずれれば死亡させる危険の高い行為であることは控訴人Eにおいても認識していたと考えられるのであり,大腿部を銃撃させたとしても,上記のとおり大腿部には大動脈が通っており,これを損傷すれば死亡する危険が高いことは明らかであるから,本件襲撃を実行したAやこれを指示した控訴人Eにおい
てもこれらの事情は当然に認識していたというべきである。そして,仮に控訴人Eがその主張のとおりAに述べたとしても,その指示の内容は第一次的には

足に向けて2発撃ってくれ。

というものであって,人に向けて拳銃を発射することに変わりはなく,具体的な目標にも上記の危険がある大腿部が含まれる表現であるから,被控訴人が死亡する危険が考えられない襲撃方
法を具体的に指示したとはいえない。
したがって,控訴人Eは本件襲撃を被控訴人の死亡する危険の高い行為であることを認識して指示したものであるから,被控訴人に対する殺意があるものというべきであり,Aに対して被控訴人を殺害する目的で本件襲撃を指示したと認めるのが相当である。



控訴人B,控訴人C及び控訴人Dの指示の有無について

控訴人Eは,Aに被控訴人を襲撃するよう指示したことは認めているものの,被控訴人を襲撃した理由について具体的に供述しておらず(甲34),証拠上,控訴人Eが個人的に被控訴人を襲撃する動機は認め難いのであって,むしろ,他者からの指示等に基づいて本件襲撃を敢行したものと見るのが合理的である。
しかるに,証拠(甲4,30,33,50)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,平成23年3月頃,控訴人Dと思しき人物が乗った同人使用車両が被控訴人方の周辺を徘徊しているのを目撃していること,Aは,本件襲撃の数日後,控訴人Eから現金50万円を受け取っており,その現金を提供
したのは控訴人Dであることの各事実が認められ,これらの事実からすれば,控訴人Dが被控訴人に危害を加えることを意図して被控訴人方を下見し,その意図に従って本件襲撃を実行したAに対して報酬を与えたものと認めるのが相当であり,ひいては,控訴人Dから控訴人Eに対して被控訴人に危害を加えるよう指示がされたものと認めるべきである。

さらに,前記⑴ア及びイの認定のとおり,工藤會は配下の構成員に対して警察への非協力を周知徹底し,組事務所への立入りなど警察の工藤會に対する捜査を極力回避することを方針としており,同方針は執行部のみならず上位の意思決定者である控訴人B及び控訴人Cによって決定されたものと推認されるところ,本件襲撃は,元警察官に対する加害行為であって,福岡県警
において重大な報復,牽制と受け止め,工藤會の関与が疑われて組事務所への捜索や控訴人Bらへ捜査の手が及ぶ事態が当然に想定されるものである。そのため,控訴人Dが控訴人Cや控訴人Bに図ることなく本件襲撃を実行することは,控訴人Cや控訴人Bの指示に反するものといえ工藤會内で許されない行為であるから,控訴人Dが控訴人Cや控訴人Bから叱責や懲罰を受け
るべき行為であるが,控訴人Dがこれらを受けた形跡はない。また,前記⑴ウの認定のとおり,控訴人Bは,平成21年4月のJに対する発言によって
被控訴人に強い憤りを感じており,被控訴人の退職後の平成23年4月ないし5月頃時点でも恨みに思い続けていたものと認められるから,被控訴人に危害を加える動機があるということができる。
そして,工藤會においては,前記1⑴アのとおり,上層部に対してできる限り捜査が及ばないようにするため,控訴人B,控訴人C,控訴人Dと順次指示がされることが厳に遵守されていたことからすれば,控訴人Bが控訴人Dに対して本件襲撃を直接指示するのは不合理であるから,控訴人Cもその指揮命令系統に当然含まれていたものと推認される。
これらの事情を総合すれば,控訴人Dが控訴人Eに対して指示をしたの
は,控訴人Bが被控訴人に危害を加えることを決定し,同決定を控訴人Cに指示し,更に同人が控訴人Dに指示したことによるものと推認するのが相当であり,これらの指示に基づいて,本件襲撃が行われたものというべきである。
なお,控訴人B,控訴人C,控訴人D及び控訴人Eへと順次指示された指
示の具体的な文言等は明らかでないが,工藤會における絶対的な指揮命令系統の存在に照らすならば,その指示が単に被控訴人を脅迫したり傷害に至るおそれの少ない軽い暴行等を意図したものではなく,拳銃を人の身体に向けて発射するという被控訴人の生命に危険を及ぼす行為を内容とするものであり,殺意を認定し得るものであったものと認めるのが相当である(軽い暴行
を指示したのに,本件襲撃のような殺人未遂行為に及んだとすれば,控訴人EやAが叱責や懲罰の対象となるはずであるが,同人らがこれらを受けた形跡はうかがわれない。)。
控訴人B,控訴人C及び控訴人Dは,本件襲撃を計画したり,指示したり指示されたりしたことはない旨主張し,証拠(乙イ1)がこれに沿う。
しかし,その主張は,具体的なものではなく,前記認定に照らせば,採用の限りでない。



控訴人らの責任
以上からすれば,本件襲撃は,控訴人B,控訴人C,控訴人D及び控訴人Eへと順次された指示に基づいて行われたものであるというべきであり,控訴人Eにおいて本件襲撃の具体的な計画をし,必要な道具を準備し,Aに指示し,Aにおいて現に本件襲撃を実行したものであって,控訴人ら,F及び
Aの各行為はいずれも民法709条の不法行為に該当し,本件襲撃はこれら行為が関連共同して行われていることから,民法719条の共同不法行為に該当するものというべきである。
したがって,控訴人らは,本件襲撃による被控訴人の損害について,連帯して賠償すべき責任を負う。

2
争点⑷(損害額)について


治療費

169万9062円

被控訴人は,本件襲撃によって左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負い(甲52),平成24年4月19日から平成27年1月8日(症状固定日)までの治療を受けており(甲53,54),その治療に要した費用は
169万9062円であると認められる(甲55)。


入院雑費

2万8500円

被控訴人は,本件襲撃によって平成24年4月19日から同年5月7日までの19日間入院したことが認められるところ(甲53),その入院期間中に要した諸雑費は1日当たり1500円が相当である。したがって,同期間
中の入院雑費は,合計2万8500円と認められる。


休業損害

59万0240円

証拠(甲56)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人の再就職先のG病院における平成23年分の給与収入は633万6728円であること,被控訴人は本件襲撃により34日間の欠勤を余儀なくされたことが認められる。したがって,被控訴人には,59万0240円の休業損害が生じたと認め
られる。
(計算式)
633万6728円÷365日=1万7360円
1万7360円×34日間=59万0240円


逸失利益

685万0243円

被控訴人の平成23年分の給与収入は,上記のとおり633万6728円である(甲56)。
被控訴人は本件襲撃により左股関節の可動域制限及び左股関節から大腿部の疼痛の後遺障害を負ったところ,同障害は地方公務員災害補償基金により地方公務員災害補償法施行規則別表第3の12級7号と認定されたことが認
められる(甲58)。したがって,被控訴人の労働能力喪失率を14パーセントと認めるのが相当である。
被控訴人は,症状固定時である平成27年1月8日(甲54)当時63歳であり,労働能力喪失期間は平均余命の半分程度の10年間(ライプニッツ係数・7.7217)が相当である。

したがって,被控訴人の逸失利益は,685万0243円(633万6728円×0.14×7.7217)である。


慰謝料

1000万0000円

本件襲撃は,暴力団による組織的背景を有する殺人未遂(故意)行為であり,拳銃による銃撃という被控訴人の生命を危険にさらし,入・通院治療を余儀なくさせたものであり,その目的も,警察官としての正当な職務行為に対する報復行為であって,これにより被控訴人が受けた精神的苦痛は極めて大きい。また,被控訴人は本件襲撃により後遺障害を負うだけでなく,外出に支障が生じるなど,極めて強い不安を感じ続けていて,行動の制限も受け
ている(甲60)。さらに,被控訴人の家族も強い不安を感じていて被控訴人も負担に感じている(甲60)。これらのほか,本件に顕れた一切の事情
を総合すると,被控訴人が本件襲撃により受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料は1000万円が相当である。
控訴人らは,交通事故における①入通院慰謝料と②後遺障害慰謝料の算定によれば①入通院慰謝料は32万円ないし60万円程度,②後遺障害慰謝料も250万円ないし300万円程度であり,併せても慰謝料の額は400万
円を超えるものではないと主張する。
しかし,本件は,前記のとおり,故意によるものであって,かつ,特定危険指定暴力団という暴力団の中でも極めて危険な団体による,組織的背景を有する殺人未遂行為という特殊な事案であるから,過失によって惹起されいずれの者も加害者にも被害者にもなり得ることを前提とする交通事故におけ
る算定基準に基づく金額をはるかに超える慰謝料が発生したものというべきである。


小計
1916万8045円



損益相殺

443万2080円

被控訴人は,地方公務員災害補償基金から,療養補償給付169万906
2円,休業補償給付29万0344円及び障害補償給付244万2674円の合計443万2080円の支給を受けていることが認められるから(甲55,57,59),同支給金額を前記⑴ないし⑸の損害から控除する(控除後の損害額は,1473万5965円である。)。


弁護士費用

150万0000円

本件事案の内容,本件訴訟に至る経緯,被控訴人の立証活動及びこれに対する控訴人らの対応等に照らせば,弁護士費用は150万円が相当である。⑼
3
合計

1623万5965円

小括
以上の次第であるから,控訴人らは,被控訴人に対し,共同不法行為責任に基づき,連帯して損害賠償金1623万5965円及びこれに対する不法行為
の日である平成24年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
なお,以上の認定説示からすれば,被控訴人の使用者責任に基づく請求及び暴対法31条の2に基づく請求の認容額は,これと選択的併合の関係にある共同不法行為に基づく請求についての認容額を超えないことが明らかである。
4
その他,原審及び当審における当事者双方の主張に鑑み,証拠を検討しても,当審における上記認定判断を左右するには足りない。

第4

結論
以上の次第で,被控訴人の請求は,控訴人らに対し,連帯して1623万5
965円及びこれに対する不法行為の日である平成24年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。

福岡高等裁判所第4民事部

裁判長裁判官

西井和徒
裁判官

上村考由
裁判官

佐伯良子
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