判例検索β > 平成29年(ワ)第5108号
意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)5108
事件名意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日令和元年12月17日
裁判所名大阪地方裁判所
権利種別意匠権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2019-12-17
情報公開日2020-01-17 16:00:20
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和元年12月17日判決言渡

同日原本受領

平成29年(ワ)第5108号

意匠権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日

裁判所書記官

令和元年10月18日
判決原告株
同訴訟代理人弁護士

櫻林正己
同訴訟復代理人弁護士

内藤正明
同訴訟代理人弁理士

櫻木信義被
株式会社ドリームファクトリー

告式会社MTG
同訴訟代理人弁護士

田佳孝山本哲男同東達也同平野惠稔同大和奈月同渡辺
同補佐人弁理士

釜同奥田主洋和雄文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1
1実及び理由
請求の趣旨
被告は,別紙被告商品目録記載のトレーニング機器を製造,譲渡,輸入,譲
渡の申出(譲渡のための展示を含む。)をしてはならない。
2
被告は,前項記載のトレーニング機器及びその金型を廃棄せよ。

3
被告は,原告に対し,(中略),及び内金1500万円について平成29年
6月6日から,内金(中略)について平成30年1月19日から,各支払済みまで
年5%の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要

本件は,原告が意匠権を有している後記登録意匠について,被告が,これと類似する意匠を用いて別紙被告商品目録記載のトレーニング機器(以下被告商品という。)を製造・販売しており,これは原告の意匠権の侵害にあたると主張して,意匠法37条1項及び2項に基づき,被告商品の製造・販売等の差止め及び同製品及びその金型の廃棄を求めるとともに,
意匠法39条2項,
民法709条に基づき,
(中略),及びうち1500万円について不法行為の後の日である平成29年6月6日(訴状送達の日)から,うち(中略)について平成30年1月19日(請求の
拡張申立書送達の日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)

当事者等

原告は,美容機器,健康機器及び化粧品等の開発,設計,製造,販売等を目的とする株式会社である。
被告は,医療機器,健康食品,装身具,日用品雑貨の販売等を目的とする株式会社である。


本件意匠権及び原告商品(甲1,2。書証は枝番号を含む。以下同じ。)

本件意匠権

原告は,下記の意匠権(以下,本件意匠権といい,その登録意匠を本件意匠という。)を有している。登録番号
意匠に係る物品
第1536247号
トレーニング機器

出願日

平成27年2月19日

登録日

平成27年9月18日

登録意匠

別紙本件意匠に係る公報記載のとおり

原告商品(甲7)

原告は,本件意匠を有する製品(商品名SIXPADAbsFit,
以下原告商品という。)を,平成27年7月より,製造・販売している。⑶

被告商品及び被告意匠


被告商品(甲3ないし5,乙1ないし8)

被告は,平成29年1月ころから,他の商品の購入特典として無償で被告商品の譲渡の受付を開始し,同年4月3日から,店舗及びインターネット通販において被告商品の販売を開始した。
被告商品の外見は,別紙被告商品目録添付写真のとおりである。

被告の意匠登録(乙42)

被告は,被告商品に係る意匠(以下被告意匠という。)につき,以下のとおり,意匠登録をした。
登録番号
意匠に係る物品

トレーニング機器

出願日

平成29年1月30日

登録日

平成29年11月24日

登録意匠

第1593189号

別紙被告意匠に係る公報記載のとおり


被告商品に係る仮処分手続(甲18の5,6)

原告は,原告商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の周知商品等表示に該当し,被告商品の製造等は原告商品と混同を生じさせる行為であるとして,被告を相第22023号),
東京地方裁判所は,平成30年1月25日,原告の申立てを相当と認め,被告は被告商品を製造してはならないこと等を内容とする仮処分決定をした(同月30日,
更正決定)。

号),東京地方裁判所は,同年11月2日,前記仮処分決定を認可する決定を行い,被告は,これを不服として保全抗告
号保全抗告申立事件)。
知的財産高等裁判所は,平成31年4月17日,原告商品の形態は自他識別標識として機能していること,原告商品の形態と被告商品の形態は類似していること,需要者において両製品を混同するおそれがあることを理由に,前記抗告を棄却する決定を行った。


被告意匠に係る無効審判請求(乙83,85ないし86)

原告は,前記⑶の被告意匠の登録について,平成30年2月28日,被告意匠は本件意匠に類似し,意匠法3条1項3号により意匠登録を受けることができず,同法48条1項1号の規定に該当し無効とすべきであるとして,無効審判請求をしたところ,特許庁は,同年10月23日,被告意匠は本件意匠に類似するということはできないとして,請求不成立の審判をした。
原告は,これを不服として審決取消訴訟を提起したが(平成30年(行ケ)第1
0169号),知的財産高等裁判所は,平成31年4月22日,両意匠は需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にするというべきであり,被告意匠は本件意匠に類似するとはいえないとして,原告の請求を棄却する旨の判決(以下,上記審決と併せて本件審決等という。)を行い,令和元年10月11日,上告不受理決定(最高裁判所令和元年(行ヒ)第235号)により,上記審決は確定した。


物品の同一性

本件意匠に係る物品及び被告商品は,いずれもトレーニング機器であり,物品は同一である。
原告商品及び被告商品は,いずれも人体に接触させて使用し,筋肉に電気的刺激を与えるEMS商品に属するものである。
2
争点



本件意匠及び被告意匠の構成態様



本件意匠と被告意匠との類否



差止め・廃棄請求の必要性



損害の発生及びその額

第3
1
争点についての当事者の主張
争点⑴(本件意匠及び被告意匠の構成態様)について
【原告の主張】


基本的構成態様

A
本件意匠の構成態様

6枚のパッド片からなるパッド部と,円形の電池部とを有する。

B
6枚のパッド片は,2列3段組みとして,電池部を中心に,左右対称に略横
長矩形状に配置されている。
C
電極部は,各パッド片の裏面に配置され,その一部が電池部に連接されてい
る。
イD
電池部は,パッド部の中央に配置されている。

E
具体的構成態様

中段のパッド片は,電池部を挟んで略水平に配置され,上段のパッド片は,
左右共にやや上方に傾斜して配置され,下段のパッド片は,左右共にほぼ水平に配置され,左右ともにやや先細りとなり,下辺が外上方に傾斜している。F
1段目と2段目及び2段目と3段目のパッド片の隙間は,先細りとなってお
り,その先端は尖っている。
G
パッド部上辺の輪郭は,中央に向かってやや内方に直線的に傾斜し,下辺の
輪郭は,中央部から外上方に向かって,直線的に傾斜しており,上辺及び下辺の中央部において,先細りの切込みを有しており,その先端は鋭角である。H
6枚の各パッド片の表面には,隅丸5角形の隆起部があり,隆起部の外周に
は3本の溝を有し,その外側にパッド片の周縁に沿って線模様が施されている。I
パッド部表面の周縁は,全周にわたってテーパー状に傾斜している。
J
電池部は,先端がパッド部から突出しており,表面上下に+と-が表示され
ている。
K
L
電池部とパッド片の間に4個の小穴が穿設されている。
電極部は隅丸長方形状をなし,中央3段を大,その外側の1段を中,その外
の2段を小とする横列の小穴を有し,各横列の小穴はその上下の小穴と千鳥状をなすように配置されている。
M
パッド部裏面中央には二重円形の電池部が配置され,その中央に蓋開閉用の
コイン掛けが凹設された電池蓋を有し,その周縁に細溝が凹設されている。⑵
被告意匠の構成態様

被告意匠の構成態様は,以下のとおりである。

基本的構成態様

a
6枚のパッド片からなるパッド部と,円形の電池部とを有する。

b
6枚のパッド片は,2列3段組みとして,電池部を中心に,左右対称に略横
長矩形状に配置されている。
c
電極部は,各パッド片の裏面に配置され,その一部が電池部に連接されてい
る。
イd
電池部は,パッド部の中央に配置されている。

e
具体的構成態様

中段のパッド片は,電池部を挟んで略水平に配置され,上段のパッド片は,
左右共にやや上方に傾斜して配置され,下段のパッド片は,上段のパッド片と対称に配置されており,パッド部は上下にも対称である。
f
1段目と2段目及び2段目と3段目のパッド片の隙間は,先細りとなってお
り,その先端は円弧状をなしている。
g
パッド部の上辺及び下辺の輪郭は中央に向かってやや内方に傾斜し,上辺か
ら側辺にかけて湾曲し,上辺に相当する部分がやや上方に傾斜し,側辺に相当する部分がやや下方に傾斜しており,上辺及び下辺の中央部において先細りの切込みを
有しており,その先端は円弧状をなしている。
h
6枚の各パッド片の表面には,上段M型,下段W型,中段チャンピオンベル
ト状の隆起部があり,上段と下段の各パッド片には,その周縁に沿って線模様が施されている。
i
パッド部表面の周縁は,全周にわたってテーパー状に傾斜している。
j
電池部は,先端がパッド部から突出しており,表面上下に+と-が表示され
ている。
k
l
電池部とパッド片の間に小穴は穿設されていない。
電極部は,上段と下段は,反った葉脈を有する木の葉状をなし,中段は,規
則正しい葉脈を有する略隅丸矩形状をなしている。
m
パッド部裏面中央には二重円形の電池部が配置され,その中央に蓋開閉用の
コイン掛けが凹設された電池蓋を有し,その周縁には細溝が凹設されていない。【被告の主張】


基本的構成態様

A
本件意匠の構成態様

全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略左右対称であり,6枚の
パッド片がそれぞれ独立して6つのパッド片で構成された本体と,本体の中央に設けられた略円形の操作部(強弱調整ボタン)で構成されている。
B
中央のパッド片は略横長隅丸4角形状で,左右端が若干上に傾くように配置
され,上部のパッド片は略横長隅丸5角形状で,左右端が中央のパッド片より上に傾くように配置され,下部のパッド片は略横長隅丸5角形状で,左右端が中央のパッド片より下に傾くように配置されている。
C
本体の上部及び下部のパッド片中央に,略V字状の切込みが形成されて
いる。

具体的構成態様

D
本体正面に,
外周を縁取る線模様が各パッド片に分断して合計6つ設けられ,

その内側に,各パッド片の外形に相似するような隅丸略5角形状の線溝が,相似形に3本施されている。
E
本体背面に,操作部よりも大きい円形の線模様が設けられ,各パッド片に電
極部が配置され,各電極部が中央の円形模様と接続され,円形模様の内側には,周囲に放射状の線模様が施され,中央に横向きのコイン掛け溝を有する電池開閉蓋が設けられている。
F
本体背面の電極部に関して,各パッド片には略横長隅丸4角形状の電極部が
配置されている。
G
電極部の区画が,略6角形状である。

H
操作部の斜め上下左右に,正面及び背面を貫通する略隅丸3角形状の通気孔
が設けられている。
I


被告意匠の構成態様


操作部に+及び-の表示が設けられている。

基本的構成態様

a
全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略左右対称であり,横長状
の上部のパッド片,中央のパッド片及び下部のパッド片の3つのパッド片で構成されている本体と,本体の中央に設けられた略円形の操作部(強弱調整ボタン)で構成されている。
b
中央パッド片の上下に上部パッド片と下部パッド片を略平行に配置した3
段組みであって,中央のパッド片が略横長隅丸4角形状で,左右に横方向に水平に延びていて先端に至る程幅が狭くなっていて,上部のパッド片は楓の種形状であって両パッド片の上部はアール形状であり,パッド片の左右端は,中央のパッド片の左右端と同じであり,また,上部のパッド片は中央のパッド片と略平行であり,下部のパッド片は楓の種形状であって両パッド片の下部はアール形状であり,パッド
片の左右端は,中央のパッド片の左右端と同じであり,また,下部のパッド片は中央のパッド片と略平行に配置されている。

c
本体の上部及び下部のパッド片中央に,先端部分が略半円形で,全体として
は略U字状の切込みが形成されている。

d
具体的構成態様
本体正面に関し,各パッド片には外形を縁取るような線模様や,相似形に3
本施された隅丸略5角形状の線溝は存在しない。
e
本体背面中央に,操作部よりも大きい円形の線模様が設けられ,各パッド片
に,電極部が配置され,各電極部が中央の円形模様と接続されており,円形模様の内側には,縦向きのコイン掛け溝を有する電池開閉蓋が設けられている。f
上部と下部のパッド片の電極部は楓の種形状であり,中央のパッド片の電極
部は先端に至る程幅狭とした葉っぱ状である。
gh
本体の正面及び背面を貫通する通気孔が設けられている。

i
操作部に+及び-の表示が設けられている。

2
電極部の区画が,葉脈状である。

争点⑵(本件意匠と被告意匠との類否)について

【原告の主張】


本件意匠の要部

本件意匠の出願時の審査において参考文献として参照された公知文献(①意匠登録第1135259号
低周波美容器用のパッド,
②EMS
SPOPAD
特許庁意匠課公知資料番号HC25009889,③EMSSPOPAD特許庁意匠課公知資料番号HJ25031013,④EMSSPOPAD特許庁意匠課公知資料番号HJ25031014。以下,本件参考文献①等といい,総称して本件参考文献という。)においては,本件意匠の基本的構成態様の各構成は全く開示されていないから,本件意匠は,極めて斬新かつ創作性の高い意匠である。

本件意匠に係る物品及び被告商品の主たる需要者は,美容や健康に関心を持つ一般消費者であり,斬新な形状,スタイリッシュな形状には特に強く注意を喚起され
る。
以上の観点から,本件意匠の基本的構成態様は,看者の注意を強く引く,意匠の要部を構成するものである。

本件意匠と被告意匠との対比


共通点

本件意匠と被告意匠との共通点は,①基本的構成態様のすべて(本件意匠AないしC,被告意匠aないしc),並びに具体的構成態様のうち,②電池部がパッド部の中央に配置されている点(本件意匠D,被告意匠d)及び③電池部は先端がパッド部から突出しており,表面上下に+と-が表示されている点(本件意匠J,被告意匠j)である。

差異点

本件意匠と被告意匠との差異点は,別紙
原告の主張する差異点の
本件意匠
及び被告意匠欄のとおりである。

本件意匠と被告意匠とが類似すること


共通点について

共通点①の基本的構成態様は,
上記のとおり,
本件意匠の要部をなす部分である。
また,前記のとおり,本件参考文献においても,本件意匠の基本的構成態様の各構成は全く開示されていないことからも明らかなとおり,本件意匠の斬新性と創作性は極めて高いものであって,この点における両意匠の共通性が類否判断に及ぼす影響は大きい。
共通点②は,4枚のパッド片を有する意匠では公知のものではあるが,6枚のパッド片を有する意匠において中央に配置されている公知例はなく,類否判断に及ぼす影響は大きい。
共通点③は,4枚のパッド片を有する意匠においては公知であるが,6枚のパッ
ド片を有する意匠においては,公知例に開示がなく,中央部の目立つ部分であるから,類否判断に及ぼす影響は大きい。


差異点について

差異点についての主張は,別紙原告の主張する差異点の原告による評価欄のとおりである。

まとめ

本件意匠と被告意匠は,意匠の要部を共通にし,美感の同一性をもたらしているところ,差異点のもたらす意匠的な効果は,この共通点による美感の同一性を凌駕し類否判断を左右するほどのものとは認められない。
よって,被告意匠は,本件意匠に類似する。


被告の主張に対する反論


本件意匠の特徴的部分について

6枚のパッド片からなるパッド部を有するEMS商品は,いずれも本件意匠の出願後かつ原告商品が販売された後に出現したものであるから,かかる構成が本件意匠の特徴的部分になり得ないとの被告の主張には根拠がない。また,6枚のパッド片からなるパッド部を有する商品の中にも多様な種類があることから,本件意匠の構成が技術的・機能的に不可避なものであるとはいえない。
本件意匠の先行意匠は,本件参考文献しか存在しなかったのであり,いずれも,電池部(操作部)を中央に配置し,その周囲に6枚のパッド片からなるパッド部を配置するという構成を採用していなかった。また,被告が近似発売したEMS商品(甲10)は,いずれも6枚のパッド片構成を採用していない。

したがって,EMS商品であれば6枚のパッド片からなるパッド部の構成は必然であるという被告の主張は失当である。

被告の主張する差異点について
被告が別紙被告の主張する差異点において主張する差異点についての,
原告の個別の反論は,同別紙の原告の反論欄に記載のとおりである。被告の主張する差異点のうち,
正面視及び側面視に関するものは,
いずれも,
6枚のパッド片に加えられたわずかな改変や微差に過ぎない。

また,本件意匠と被告意匠との間には,裏面の電極部について,それ相応の違いがあることが認められる。しかし,この種のEMS商品の需要者は,健康や美容に関心を持つ一般消費者であるところ,電気信号を伝えるという機能を持ち,かつ使用時に目立たない裏面については,ほとんど関心を持たず,実際に,原告商品及び被告商品の宣伝広告においては裏面の形態はほぼ表示されていない。ウ
本件審決等について

本件審決等は,本件意匠権についての判断ではない上,本件意匠権の出願後かつ被告意匠の出願前の意匠を参酌することにより,被告意匠の要部を認定し,類否判断を行っている。しかし,本件意匠権の侵害訴訟である本件において,要部認定の際に斟酌されうるのは,
本件意匠出願に先行する公知意匠
(すなわち本件参考文献)
のみであるから,本件訴訟における類否判断と本件審決等における類否判断とは,異なる結論となることもあり得る。
したがって,本件審決等において本件意匠と被告意匠が非類似と判断されたことは,本件訴訟における判断に影響を及ぼさない。

【被告の主張】


本件意匠及び被告意匠の特徴的部分(要部)について

原告が本件意匠の要部として主張する構成は,以下のとおり,いずれも特徴的部分とは認められない。

操作部とパッド部からなる構成

本件意匠に係る物品及び被告商品は,いずれもEMS商品といわれるものであり,電池を配置するコントロール部である操作部と,筋肉に電気的刺激を与える電極部が設置されるパッド部は,必須の構成要素であって,意匠的構成要素として特徴的部分ではない。

パッド部が6枚のパッド片から構成されている点
本件意匠に係る物品及び被告商品は,いずれも腹筋を引き締める用途に使用
するものであるところ,
6つに割れている腹部の筋肉を指す俗語として
sixpcakという語があり,これは,腹部の中央に2列に配置された腹直筋を横断して2,3本の腱画という組織が通っているため,脂肪が減少することによって,外見上,腹部に,縦2列×横3段又は縦2列×横4段のブロックが形成され,腹筋が6つ又は8つに分かれて見えるようになることに由来する。
本件意匠及び被告意匠のパッド部が6枚のパッド片から構成されているのは,上記腹直筋の6か所に対して電気刺激を与えることで,sixpackといわ
れるような6つに割れたように鍛えられた腹筋を作り出すためのトレーニング機器であるという目的に基づくものである。
EMS商品によりsixpackといわれるような腹筋に鍛えるトレーニ
ング機器を製作しようとすれば,腹直筋の6か所に対してパッド片を6枚設けて電気的刺激を与えることは誰でも容易に着想することであり,本件意匠のパッド部の6枚のパッド片も,
そういった機能的技術的な要請から導かれたものにすぎない。

このことは,原告が,原告商品に関する特許(特開2016-202690号)の明細書(乙14。以下,同特許に係る発明を乙14発明という。)において,
電極配置も腹直筋4の区画4aに併せた配置となる事で,各筋肉を効率よく刺激することが期待できる.と説明していることや,原告が原告商品に係るアプリにおいて,トレーニング部位を可視化できるものとしてsixpackの部位・
形状を表示していること等からも明らかである。
したがって,パッド部を6枚のパッド片から構成している点は,全部で8か所の区画に分かれている腹直筋のうちの6か所の区画を覆うように,上・中・下段の左右に6枚のパッド片を配することで,6か所の区画の筋肉を効率よく刺激することを目的とするものであって,当業者であれば通常取り得る不可避的な構成態様であるから,本件意匠に特有の独創的,個性的,特徴的な部分とはいえない。原告は,パッド部が6枚のパッド片から構成されている点について,本件意
匠の斬新性と創作性が極めて高いと主張する。
しかし,EMSは,電気刺激療法に使用する電気刺激装置の一種であって,遅く
とも平成13年ころには,健康機器としても利用されるようになり,これらの健康機器に係る公知文献等(乙70ないし73)には,6枚パッド片構成で,かつ本体部(電池部)がパッド片と結合した装置や,電気刺激装置を腹部に取り付けることによる腹筋増強の方法等が開示されていた。
EMS商品のうち,複数の各パッド片が分離しているもの(以下分離型という。の商品については,同年から公知文献においてパッド片が1ないし18枚)
(6
枚のものを含む。)からなるものが公開され,市場の商品にも平成17年よりパッド片が3ないし8枚(6枚のものを含む。)からなるものが登場した。本件意匠及び被告意匠と同様の,電極が設置された複数の各パッド片が結合して
いるもの(以下結合型という。)の商品については,平成14年から公知文献においてパッド片が2ないし18枚(6枚のものを含む。)からなるものが公開され,市場の商品にも平成24年よりパッド片が2ないし6枚からなるものが登場した。
本件意匠の出願前においてEMSで腹筋を鍛える商品について,公知文献上,分
離型は8件,結合型は11件(市場の商品では9件)であり,これらのうち6枚パッド片構成をとるものは,それぞれ1件及び2件であり,市場の商品でも1件存在した。
以上より,本件意匠出願当時,パッド片構成については,分離型も結合型も公知であったし,パッド片の枚数についても1から18枚とする様々な枚数が公知文献
上存在していたため,当業者であれば誰でも自由かつ容易に着想できる設計事項にすぎなかった。
また,パッド片を身体に装着する方法として,ベルトを使用するもの(以下ベルト方式という。)及び原告商品や被告商品のように貼付力を使用するもの(以下貼付方式という。)のいずれも,既に公知文献や市場における商品として存
在した。
したがって,本件意匠における6枚のパッド片構成部分は,既存のものを適宜組
み合わせたものにすぎず,斬新性と創作性が極めて高いということはできない。ウ
中央に操作部を配置させ,周囲に6枚のパッド片からなるパッド部を配置さ
せている点
電気的刺激を当てるパッド部を周囲に配置する関係上,技術的・機能的には,操作部を中央に配置させることが合理的であって,意匠的構成要素として特徴的部分とはいえない。
電池部(操作部)が装置の中央に配置されている電気刺激装置は,公知文献において開示されており,原告商品に先行して販売されていたEMS商品においてもみられる構成であった。また,本件意匠の後願意匠には,本件意匠と同じく中央に操
作部を配置させ,周囲に6枚のパッド片からなるパッド部を配置させる構成をとったものがあり,原告商品の販売開始後,操作部は円形状で,6枚のパッド片を操作部の周囲に配置したEMS商品が次々に販売開始された。
よって,EMS商品においては,円形状の操作部を中心に配置し,6枚のパッド片からなるパッド部をその周囲に配置するといった構成はありふれているから,本
件意匠におけるそのような構成は特徴的部分とはいえない。

各パッド片の間に切込み部分が設けられている点

原告の主張する具体的構成態様F,Gにおける各パッド片間に設けられた切込み部分も,本件部分の特徴部分ではない。
各パッド片を先端に向かって分離させパッド間に空間を設ける構成態様は,公知文献や先行商品に同様のものがあることからすれば,周知・慣用のありふれた構成態様である。また,EMS商品を含む電気刺激装置においては,電気刺激を与える複数の箇所に合わせて電極を配置し,その間に空間を設けて先端部分にかけて分離させる構成を採ることにより,装置の剥離・脱落や汗の付着・蒸れを防止することが考えられ,このような技術的課題を達成するために当業者であれば通常採り得る
不可避的な構成である。

出願前意匠の存在

中国における広告宣伝がなされていた意匠
本件意匠の出願日より前である平成27年2月3日に,中国において広告宣伝がなされている商品(乙79。中央下部に配置された円筒状の本体部とその上部に接合され左右やや上方に延伸する2枚のパッド片からなる電気刺激装置)の意匠は,原告の2枚パッド片構成の意匠(乙74)と類似し,本件意匠は上記意匠を6枚構成にアレンジしたものとの印象を受ける。
よって,本件意匠の正面視における本体部の形状と位置,切込み部からなる全体的形状やデザインも公知意匠との関係で,斬新かつ特徴的部分であるということはできない。
ヒラタ意匠



本件意匠の出願日より前である平成26年9月24日に発行された特許公
報(特許第5595562号。乙81)において開示された発明(特許権者は株式会社ヒラタ,発明の名称は電圧出力装置及び電圧出力ユニット。)は,EMS機器を対象とするものであり,その明細書には,実施例の一態様として,EMS機器におけるパッド部の意匠が開示されている(下記【図1】)。また,上記特許発明に係るEMS機器は製品化され,
平成26年4月18日より販売された
(下記
【図
2】。以下,当該製品及び上記実施例において開示された意匠を合わせてヒラタ意匠という。)。
【図1】

【図2】

ヒラタ意匠,本件意匠,被告意匠は,この順で公知となったところ,パッド片の構成,左右対称であること,左右に4か所,上下に2か所の切込み部が設けられていることにおいて共通する。
被告意匠のパッド部は,上中下3段に分断されたパッド部が,それぞれ各2枚のパッド片を有する構成であり,本件意匠よりもヒラタ意匠に近い。また,被告意匠の切込み部も,本件意匠のように先端部が鋭角で全体的に鋭く力強い印象を与えるものというより,先端部が丸みを帯び,穏やかで女性的な印象を与えるヒラタ意匠に近い。

以上のとおりこれら3意匠を対比し,本件意匠の権利範囲が公知意匠であるヒラタ意匠に及ぶことがないことに鑑みれば,その権利範囲は,ヒラタ意匠に近い被告意匠にも及ばないと解すべきである。


本件意匠は,ヒラタ意匠との関係で新規性及び創作非容易性を満たすものと
して登録を認められているのであるから,ヒラタ意匠との共通点である,パッド部が6枚のパッド片から構成されていること,左右対称であること,左右に4か所,上下に2か所の切込み部が設けられていることは,
本件意匠の要部とはなり得ない。
なお,このことは,本件意匠権の出願後に,乙15の文献に係る意匠がいずれも非類似として登録されていることからもうかがえる。


本件意匠と被告意匠との対比


共通点
基本的構成態様の共通点



全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略左右対称であり,本体の
中央に設けられた略円形の操作部(強弱調整ボタン)が存在する点。②

本体の上部及び下部のパッド片中央に切込みが形成されている点。具体的構成態様の構成要件



本体背面中央に,操作部よりも大きい円形の線模様が設けられ,各パッド片
に,電極部が配置され,各電極部が中央の円形模様と接続されている点。④
操作部に+及び-の表示が設けられている点。


差異点

本件意匠と被告意匠との差異点について,以下に述べる主な差異点以外も含めた詳細な主張は,別紙被告の主張する差異点の本件意匠及び被告意匠欄記載のとおりである。
基本的態様の差異点


本件意匠が,6枚のパッド片がそれぞれ独立して6つのパッド片で構成され
ていることに対し,被告意匠は,横長状の上部のパッド片,中央のパッド片及び下部のパッド片の3つのパッド片で構成されている点。


本体に関し,本件意匠は,中央のパッド片が略横長隅丸4角形状で,左右端
が若干上に傾くように配置され,上部のパッド片が略横長隅丸5角形状で,左右端が中央のパッド片より上に傾くように配置され,下部のパッド片が略横長隅丸5角形状で,左右端が中央のパッド片より下に傾くように配置されているのに対して,被告意匠は,中央パッド片の上下に上部パッド片と下部パッド片を略平行に配置した3段組みであって,中央のパッド片が略横長隅丸4角形状で,左右に横方向に水平に延びていて先端に至る程幅が狭くなっていて,上部のパッド片は楓の種形状で
あって両パッド片の上部はアール形状であり,パッド片の左右端は,中央のパッド片の左右端と同じであり,
また,
上部のパッド片は中央のパッド片と略平行であり,

下部のパッド片は楓の種形状であって両パッド片の下部はアール形状であり,パッド片の左右端は,中央のパッド片の左右端と同じであり,また,下部のパッド片は中央のパッド片と略平行に配置されている点。

本体の上部パッド片及び下部パッド片の切込みが,本件意匠は略V字状
であるのに対して,被告意匠は,先端部分が略半円形で,全体としては略U字状である点。
具体的態様の差異点


本体正面が,本件意匠は,外周を縁取る線模様が各パッド片に分断して合計
6つ設けられ,その内側に,各パッド片の外形に相似するような隅丸略5角形状の線溝が,相似形に3本施されているのに対して,被告意匠は,各パッド片には外形を縁取るような線模様や,相似形に3本施された隅丸略5角形状の線溝は存在しない点。


本体背面中央の円形模様の内側が,本件意匠は周囲に放射状の線模様が施さ
れ,
中央に横向きのコイン掛け溝を有する電池開閉蓋が設けられているのに対して,被告意匠の電池開閉蓋には縦向きのコイン掛け溝を有するものの放射状の線模様が施されてない点。


本体背面の電極部に関し,本件意匠は,各パッド片には略横長隅丸4角形状
の電極部が配置されているのに対して,被告意匠の上部と下部のパッド片の電極部は楓の種形状であり,中央のパッド片の電極部は先端に至る程幅狭とした葉っぱ状としている点。


電極部の区画が,本件意匠は略6角形状であるのに対して,被告意匠は葉脈
状である点。


本件意匠は,操作部の斜め上下左右に,正面及び背面を貫通する略隅丸3角
形状の通気孔が設けられているのに対して,被告意匠には,本体の正面及び背面を貫通する通気孔が設けられていない点。


本件意匠と被告意匠とが類似していないこと


共通点について

本件意匠と被告意匠との共通点である基本的構成対態様は,前記のとおり,いずれもありふれたものであり,かかる構成をもって本件意匠の特徴的部分とはいえない。また,以下のとおり,各共通点が,本件意匠と被告意匠との類比判断に与える影響は小さい。
共通点①について
本体正面の中央に設けられた略円形の操作部は,この種の機器の分野においては,周知慣用のありふれた態様であるから,両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また,仮に,被告意匠が6枚パッド片の構成態様を有しているとしても,前述の
とおり,特徴的部分とはいえないため,類否判断に与える影響は小さいといえる。共通点②について
本体の上部及び下部中央に切込み部が形成されている点は,本件参考文献にも見られるように周知慣用のありふれた態様であり,剥離や汗等の防止といった技術的要請から当業者であれば通常採り得る不可避的な態様でもあるので,前記のとおり,

特徴的部分とはいえず,類否判断に及ぼす影響は微弱といえる。
もっとも,切込み部の形状はパッド片全体の具体的な形状を形成しているから,この点が両意匠の類否判断に与える影響は一定程度認められる。
共通点③について
パッド片の背面に電極部を設けることや,各電極部が中央の円形模様と接続され
る点は,公知文献や他の商品にもみられる形態であるため,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
共通点④について
操作部に+及び-の表示を設けるという形態は,公知文献や他の商品にもみられる周知慣用のありふれた形態であるため,両意匠の類否判断に及ぼす影響
は微弱である。

差異点について

両意匠は,全体的に見た場合に,看者に異なった印象を与えるものとなっているところ,その理由は,以下のとおり,両意匠にモチーフの差異及びそれに関連して上下対称性の差異があることに起因する。

モチーフの差異

本件意匠は,前述のとおり,SIXPACK(6つに割れた腹筋)をモチ
ーフにしているのに対し,被告意匠は,6枚のパッド片のうち,中段部の2片は台形状の隅丸四角形であり,上下段部の4片はいずれも独特の曲線を配した形状であるところ,かかる上下段部の4片の形状は,モチーフである楓の種の形状に由来している。この4片の形状は,左右対称かつ上下対称であることから,正面視においては,上段部の右と下段部の左の2片,あるいは上段部の左と下段部の右の2片において同じ形状であり,左右それぞれの上(下)段部を裏返した形状が下(上)段部の形状となっている。
被告意匠は,パッド部のうち,上段及び下段を楓の種形状(あるいはプロペラ形状)にすることにより,正面の模様や色彩(隆起部や筋状模様)と相まって,プロ
ペラが持つような躍動感,爽快感,軽快感を奏する,スマートな印象を受ける形態となっている。


上下対称性の差異

本件意匠と被告意匠はともに全体形状が左右対称である点で共通するが,被告意匠は上下についても対称の形状及び模様となっているのに対し,本件意匠は上下については形状及び模様とも非対称である点において差異がある。
本件意匠が上下非対称であるのは,6つに割れた腹筋をイメージさせるために,6枚のパッド片のいずれもの先端部を上方に持ち上げた形態及び模様にしているからであり,他方,被告意匠が上下対称であるのは,パッド部の中段を水平に配置するとともに,上段及び下段には,それぞれ上方及び下方に向けて楓の種を配置させ
た形状をとっていることによるものであって,前記モチーフの差異に起因する違いである。

また,被告商品は,上下対称の構成をとっているため,ユーザーが間違えて上下を逆にして装着しても,同じ個所に電極部が位置することになるため,同じ筋肉電気的刺激を与えることができるという便利さがあるが,原告商品では,上下を逆に装着すると,同じ個所に電気的刺激を与えることができない。
本件意匠と被告意匠との個々の差異点についての主張のうち,主要なものは
以下の

ないし⒢記載のとおりであり,それ以外の詳細なものは,別紙被告の主張する差異点の被告による評価欄記載のとおりである。差異点①について
本件意匠は,独立した6つのパッド片を構成し,それが筋肉を連想させ,腹筋を鍛えるといった男性的で力強い印象を与えている。被告意匠は,楓の種をモチーフとしたひらひらと漂い落ちてくる3枚の羽を連想させ,流動的な女性的な印象を与えている。


差違点②について

本件意匠は,中央のパッド片が略横長隅丸4角形状で,左右端が若干上に傾くように配置され,上部のパッド片が略横長隅丸5角形状で,左右端が中央のパッド片よりも上に傾くように配置され,下部のパッド片が略横長隅丸5角形状で,左右端が中央パッド片よりも下に傾くように配置されていることや,本体の上部及び下部中央及び両側の略V字状の切込みが設けられていることや,これらの切込みにより6つのパッド片が放射状になっていることで,男性的で,変化に富み,いきいきと
した躍動感や力強さといった,意匠に係る物品を使用することによって達成しようとする目標に沿う印象を需要者に与えるものである。具体的には,6つに割れて引き締まった腹筋を想起させるものとなっている。
これに対して被告意匠は,中央パッド片の上下に上部パッド片と下部パッド片を略平行に配置した3段組みであって,中央のパッド片は上下に傾斜せずに横方向に
配置され,この中央のパッド片に対して略平行に配置された上部及び下部のパッド片は楓の種形状の形態であり,しかも,中央のパッド片と上部及び下部のパッド片
との間には幅が広くて操作部付近まで達する切込みにより上下のパッド片は中央のパッド片に対して自然の草木に見られる女性的で優美な形態となっている。そのため本件意匠とは異なり,被告意匠からは,男性的で,変化に富み,いきいきとした躍動感や力強さを需要者に与えるという印象はなく,
女性的で優美な印象を与える。
つまり両意匠は略反対の印象を与えることから,差異点②が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいものである。


差異点③について

本体の上部及び下部中央の切込みが,本件意匠は略V字状であることから,鋭く勢いのある印象を需要者に与えるのに対して,被告意匠は略U字状であることから,穏やかで静かな印象を与える。かかる切込み部の形状は6枚パッド片全体の形状を形成するものであるから,前記差異点①②と同様の理由から,差違点③が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。


差異点④について

本件意匠は,外周を縁取る線模様がパッド片ごとに分断して合計6つ設けられ,その内側に,各パッド片の外形に相似するような隅丸略5角形状の線溝が,相似形に3本施されていることから,引き締まった腹部の筋肉の盛り上がりをイメージさせるのに対して,被告意匠は,上部及び下部のパッド片の上下に2本の曲線模様があるに過ぎず,このことから被告意匠は単調な印象しか与えない。この差異点④が需要者に与える印象の違いは極めて大きく,両意匠の類否判断に与える影響は極め
て大きい。
差異点⑤について
本件意匠は,周囲に放射状の線模様が施され,中央に横向きのコイン掛け溝を有する電池開閉蓋が設けてあって煩雑な印象を与えるのに対して,被告意匠は単に縦向きのコイン掛け溝を有するに過ぎず,両意匠の類否判断に与える影響は大きくな
い。


差異点⑥⑦について

本体背面に設けられている電極部は,使用時は確かに目に付くものではないものの,販売店では通常は商品サンプルを手に取って観察するのが一般的であるため,本体背面の態様により需要者に異なる印象を与えることができる。本件意匠は,電極部が略横長隅丸4角形状で6枚のパッド片に同じ形態のものが配置され,
また多数の略6角形状の区画が略前面にわたって配置されていることと,中央の周囲に放射状の線模様が施された電池開閉蓋と相まって,腹部の筋肉を本体の前面で鍛えあげるような印象を需要者に与えるのに対して,被告意匠は,上部及び下部の電極部がパッド片の形状と略相似形の楓の種形状で,また各電極部の模様が葉脈状の態様であることから,腹部の筋肉を鍛えあげるような印象ではなく,単
に軽く且つ静かに筋肉を刺激させる印象を与え,そのため両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。


差異点⑧について

差異点⑧は,通気孔の有無であるが,本件意匠に設けられている通気孔は,本体中央に設けられている操作部の斜め上下左右という比較的需要者の注意を引く位置にあり,形状が略隅丸3角形であることから,シャープな印象を与えるものと思われるが,その孔自体はそれ程目立つものではなく,通気孔の部分が全体に占める割合もごく小さいことから,この点が需要者に与える印象の違いは小さいものと思われる。

共通点及び差異点についてのまとめ

両意匠は,共通点②が両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものの,その他の共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも小さいか,微弱なものであることから,共通点が両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らない。これに対して,差異点①ないし④,並びに差異点⑥及び⑦が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも大きいことから,差異点⑤及び⑧が両意匠の類否判断に及ぼ
す影響が大きくないとしても,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕しており,意匠全体として見た場合,差異点の印象は,共通点の印象を
凌駕し,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするものであるから,本件意匠と被告意匠とは非類似である。

本件審決等について

前記前提事実のとおり,被告意匠は適法に登録され,本件審決等においても,本件意匠とは非類似であるとの判断が下され,本件審決等は確定した。なお,本件審決等においては,本件意匠出願に後行する公知意匠は参酌されておらず,仮に,参酌されていたとしても,本件意匠出願に先行する公知意匠のみを参酌した場合と類否判断を異にしない。

まとめ

以上より,被告意匠は,本件意匠と類似しない。
3
争点⑶(差止め・廃棄請求の必要性)について

【原告の主張】
被告による被告商品の業としての製造,譲渡,輸入,譲渡の申出(譲渡のための展示を含む。)は,原告の意匠権を侵害するものであるので,原告は,被告に対し,本件意匠権に基づき,意匠法37条1項及び2項により,差止請求権及び廃棄請求権を有する。
【被告の主張】
争う。
4
争点⑷(損害の発生及びその額)について

【原告の主張】


意匠法39条1項に基づく損害算定(請求の趣旨には反映していない。)

被告商品の販売台数

被告は,平成29年4月3日に被告商品を販売開始してから平成30年1月までの間に,(中略)の被告商品を販売した。

原告商品の限界利益

原告は,上記アの期間中,原告商品を販売しており,その1台当たりの限界利益
額は,(中略)である。

推定される損害額

以上より,
意匠法39条1項により推定される原告の損害額は,
(中略)である。
(計算式)

(中略)

(万円未満切捨)



意匠法39条2項に基づく損害算定


被告商品の販売台数,販売金額

前記⑴のとおり,被告は,平成29年4月3日から平成30年1月までの間に,(中略)の被告商品を販売し,その売上額は(中略)である。

控除すべき経費
仕入額

被告商品の仕入額は,無償譲渡した分(1万4175台)を除き,(中略)となる。
その他,変動費として被告商品の限界利益から控除すべき経費はない。被告の主張する経費について
被告の主張する経費のうち,直営店にかかる給与手当等,法人販売にかかる派遣販売員
等,
インターネット通販にかかる
給与手当等の経費については,
いずれも被告商品を販売しない場合でも必要となる経費であり,変動費と認められない。また,被告が,共通の経費として主張する倉庫給与等についても,同様に変動費ではない。

以上より,被告の主張する経費は,いずれも変動費ではなく固定費であって,被告商品の利益額から控除すべきではない。

被告の主張(寄与率・推定覆滅)について

原告は,EMS商品が一般的でなかった時期に,独自の新しい意匠(本件意匠)を特徴とする原告商品を創り出し,多額の費用,時間,労力をかけて宣伝広告活動を行うことにより,新しい市場を開拓,確立した。原告商品及び被告商品の購入者は,6つの腹筋それぞれに直接はたらきかける機能を視覚的に直観させるデザイン
に誘引されて商品を購入するのであり,
本件意匠の販売への寄与は絶大
(100%)
である。この本件意匠の独自性,独創性と,これを背景とした原告による市場開拓にフリーライドしたのが被告商品である。
原告商品と被告商品との間には,被告が主張するほどの機能の差異はなく,原告商品も家電量販店において販売されているし,雑貨店等においても原告商品と被告商品は競合している。
被告は,被告商品は低額であるという事情や,他の競合品の存在を主張する。しかし,被告商品は,原告の開発努力及び市場努力にただ乗りをしたからこそ低価格での販売が可能となったのであり,このような場合に推定の覆滅を認めるべきでは
ない。また,被告の主張する他の競合品の多くは,インターネットを通じて海外の販売元から購入するものであって,国内企業(被告)が供給し,家電量販店等で実物を視認して購入できる被告商品とは比較にならない。
したがって,本件において,推定覆滅を認めるべき事情はない。

推定される損害額

以上より,
意匠法39条2項により推定される原告の損害額は,
(中略)である。
(計算式)

(中略)

(万円未満切捨)



意匠法39条3項に基づく損害算定(請求の趣旨には反映していない。)

無償譲渡分

被告は,被告商品の販売とは別に,他の商品の販売促進のために,被告商品1万4175台を無償譲渡した。これらにつき,意匠法39条3項に定められた実施料相当額の損害が生じる。
本件意匠の相当実施料は,
パイオニア意匠としての斬新製,
独創性等に鑑みれば,
1台3000円を下らないから,上記無償譲渡による相当実施料額は,4252万円である。

(計算式)1万4175台×3000円=4252万円(万円未満切捨)イ
有償譲渡分(予備的主張)

被告による寄与率・推定覆滅の主張等により,意匠法39条1項,2項に基づく損害推定が一部覆滅された場合に備えて,当該覆滅部分について,同条3項の相当実施料率に基づく損害賠償を予備的に請求する。
本件意匠の相当実施料は,パイオニア意匠としての斬新製,独創性等,及び被告商品の高い利益率に鑑みれば,販売価格の30%を下らない。


損害主張のまとめ


意匠法39条1項及び3項に基づく損害主張

意匠法39条1項及び3項により算定される原告の損害は,
推定される損害額
(中
略)と,無償譲渡分の相当実施料4252万円を合算した合計(中略)であり,これに弁護士・弁理士費用相当額として(中略)を加え,(中略)が原告の主張する損害額の合計となる。
なお,推定覆滅分については,予備的に,同条3項に基づく請求をする。イ
意匠法39条2項及び3項に基づく損害主張

意匠法39条2項及び3項により算定される原告の損害は,
推定される損害額
(中
略)と,無償譲渡分の相当実施料4252万円を合算した合計(中略)であり,これに弁護士・弁理士費用相当額として(中略)が原告の主張する損害額の合計となる。
なお,推定覆滅分については,予備的に,同条3項に基づく請求をする。【被告の主張】



意匠法39条1項に基づく主張について

争う。原告による原告商品1台当たりの限界利益額は,客観的資料による立証が何らなされていない。


意匠法39条2項に基づく主張について
被告商品の利益

平成29年4月3日から平成30年1月までの販売期間における被告商品の売上高は,別紙被告の利益計算表の売上額欄のとおりであり,同販売期間にお
ける売上高は,合計欄下段のとおり,(中略)である(争いなし)。これに対し,被告商品の仕入額は,同仕入欄の合計欄のとおり,(中略)である。
また,同販売期間における,直営店,法人販売,イー・コマース店舗(被告商品のみを展開している,インターネット通販サイトにおける被告のウェブサイト。以下ECという。)に個別に発生した経費,及びこれらに共通して発生した経費は,同直営店舗等経費欄記載のとおりであり,その合計は,(中略)である。したがって,被告が被告商品を販売することにより受けた利益は,(中略)である。

(計算式)

(中略)

推定を覆す事情
原告商品及び被告商品の目的及び機能

原告商品及び被告商品の購買者は,EMSという機能に着目し,意匠には着目しない。
目的及び機能面からも,原告商品は筋肉増強を目的とし,その目的を達成するために最も効率が良いとされる周波数に固定されているのに対し,被告商品は,ながらダイエット(何か別のことをしながらするダイエットを指す。)や腹部の脂肪を燃焼させることを目的とし,周波数もランダムかつ様々なリズムでの刺激が与えられる設計となっており,大きく異なっている。

原告商品の広告宣伝方法
原告は,原告商品を販売するに当たり,SIXPAD及びAbsFitという商標権を取得し,世界的に著名なスポーツ選手を広告塔にして膨大な広告宣伝を行い,上記商標の知名度を上げることにより,原告商品の売上に大きく寄与した。
原告商品及び被告商品の販売時の外見
被告商品は,販売時にはその半分ほどが覆われたパッケージに梱包されているた
め,購買者は当該パッケージから被告商品のパッド部全体を見ることはできない。したがって,被告商品の購買者は,被告意匠のパッド部のデザインを見て被告商品を購入するわけではない。
原告商品と被告商品との販売方法
原告は,原告商品を,ディスカウントを行わない高級雑貨店やスポーツ専門店等の販売店にしか販売せず,その販売店においては原告商品専用の棚が設けられるなどしていた一方,被告商品は,家電量販店や直営店における販売が中心で,他のEMS商品と同じ棚や列に並べて販売されることも多かった。
したがって,一般の販売店において,原告商品と被告商品は競合しておらず,被
告は直営店という独自の販売ルートを確保していたのであるから,被告商品の購買者が,被告商品がなければ原告商品を購買したはずであるとはいえない。原告商品と被告商品との価格差
原告商品は2万5704円(税込。以下同じ。)であるのに対し,被告商品は1万1800円であり,
販売店において値引き等をすることも許容されていた。
また,

原告商品又は被告商品と併用する消耗品であるジェルの価格も,原告商品は4104円であるのに対し,被告商品は2000円である。
よって,被告商品は,本体及び必須の消耗品の低価格によって特徴づけられ,これが購買者の購買の動機付けの大きな要素となっていた。
競合品の存在

原告商品及び被告商品が販売されていた時期において,同種のEMS商品は42種類存在しており,その中には,筋力トレーニング用の製品として販売されていたものも多い。これらの競合品は,本件意匠のパッド部分と類似した外見を有し,筋肉増強を目的とする原告商品と機能面においても共通している。
したがって,原告商品と上記競合品とは,その機能及びデザインという重要な要
素において共通するため,市場において顕著な競合関係にあったのであり,被告商品の購入者は,被告商品がない場合に原告商品ではなく上記競合品を購入した可能
性が高い。
まとめ
以上のとおり,本件意匠以外の要素が,原告商品の販売数量に大きな影響を及ぼしており,
これらの要素はいずれも意匠法39条2項の推定を覆す事情に該当する。そうすると,本件意匠自体が購買動機になる程度は極めて低く,その売上にかかる寄与率は10%と認めるのが相当である。

まとめ

以上より,意匠法39条2項による原告の損害額算定としては,(中略)から,その90%に当たる(中略)とすべきである。


意匠法39条3項に基づく主張について

被告商品の無償譲渡台数は認め,その余は否認ないし争う。本件意匠の相当実施料額は,客観的資料による立証が何らなされていない。
第4

当裁判所の判断

1


本件意匠の出願に先行する公知意匠


認定事実(前提事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨から認定できる事実)
本件参考文献(甲2の2,3,乙16,17の1,2,乙37の2)
本件参考文献①は,低周波美容器用パッドに係る登録意匠であり,しゃもじ形状の4枚のパッド片が上下左右に配置され,各根本部分において結合して一体となった形状であり,低周波美容器本体と電気コードを介して接続されることにより使用される。
本件参考文献②及び③は,SPOPADという名称のEMS商品の広告及び商品写真であり,同商品は,本体の中心部に略円形の操作部があり,その周囲の上下左右に略4角形状の4枚のパッド片が,各パッド片の間に略半円の切込みを介して配置された,全体として略4角形状のEMS商品であり,脂肪を燃焼させながら腹筋を効率的に引き締めます等と広告宣伝されている。本件参考文献④も,同様にSPOPADという名称の商品写真であり,同商
品は,参考文献②及び③の商品のパッド片を2枚としたものであり,本体の下部に略円形の操作部が配置され,
その上に,
左右の端が略半円の横長形状のパッド片が,
中央上部に略半円形の切込みを介して配置された商品である。

原告商品の販売開始時におけるその他の公知意匠等(乙36ないし39,7
0ないし73,79,81,82)
原告商品の販売が開始される平成27年7月時点において公知であった文献に開示された図面や,市場において販売されていたEMS商品の中には,6枚を含む複数のパッド片から構成されるデザインも認められるものの,分離型やベルト方式のものも多く,
原告商品及び被告商品と同じ結合型かつ貼付方式のものであっても,
中心にある操作部の周囲に,各パッド片の間に隙間又は切込みを設けて6枚のパッド片が結合して配置された形状のものは見られない。
なお,ヒラタ意匠に関連する特許の明細書(乙81)の実施例の図には,各パッド片の間に隙間又は切込みがある形で6枚のパッド片が結合して配置されたように見える電極シートが示されている。
しかし,
同発明は,
上記電極シート
(パッド片)

の中央に複数設けられた端子と,略ラグビーボール形状の電圧出力装置(操作部)の電極とを接合させて使用するものであって,同明細書の【図12】や同発明に係る製品についてのウェブサイトにおける説明及び掲載された写真によれば,同装置は顔面に使用することが予定されており,使用中は電極シートに電圧出力装置が接合されるため,電極シートの上記形状を観察することができない。⑵

本件意匠出願に後行する公知意匠等


原告は,本件意匠の出願後である平成28年2月12日に,6枚のパッド片
により構成される意匠2件を,意匠に係る物品をトレーニング機器として出願し,いずれも登録を得た(甲6)。

原告が平成27年4月24日に出願し,平成28年12月8日に登録された
乙14発明の明細書の【図1】ないし【図3】には,本件意匠とほぼ同一の図面が,【図4】には,同特許に係る装置を腹部に装着している様子が開示されている。
また,原告は,平成29年8月22日,発明の名称筋肉電気刺激装置とする特許(特開2017-213434)を出願し,平成29年12月7日に登録されたが,その明細書(乙66)には,本件意匠とほぼ同一の図面が複数掲載されている。
さらに,原告は,平成27年2月27日から同年5月21日までの間に,パッド片の数をそれぞれ2枚,4枚,6枚及び8枚とする,原告商品と同様のEMS商品に係る意匠を出願し,いずれも登録された(乙74ないし77)。ウ
同年11月12日から平成30年3月9日までの間に,原告又は被告以外の
第三者を意匠権者として,意匠に係る物品をトレーニング機器とする意匠が複数件出願され,いずれも登録された。これらは,いずれも略左右対称であって,6枚(又は上下3段)に分かれたパッド片を,左右に4か所・上下に2か所に切込み部を設けて円形状の操作部の周囲に配置したEMS商品であり,そのうちの1件について,原告は,意匠登録の無効を主張して無効審判請求,審決取消訴訟を行ったが,第三者の意匠登録は維持された(乙15,23ないし25,78)。

平成29年6月時点において,合計42個のEMS商品が市場において販売
されていたところ,これらは,操作部の周囲に,略左右対称に,上から複数段に分かれたパッド片が隙間又は切込みを介して配置されているデザインが多く,6枚のパッド片からなる商品も複数認められる(乙16)。
また,市場において販売される6枚のパッド片から構成されるEMS商品の広告写真には,
腹筋に沿うような形で商品を腹部に装着した形のものが多く見られる(乙
27ないし31)。


原告商品及び被告商品の宣伝広告(甲4,5,7,乙26)


原告商品を含むEMS商品のシリーズのパンフレットには,腹筋に沿うよう
な形で腹部に製品を装着したモデルの写真と共に,

身体を引き締めやすいEMSトレーニング。

身に着けるだけで,筋肉を鍛え,引き締まったボディへ。

等と記載され,原告商品の写真には,集中的に腹筋を鍛えるパッドとの説明が
あり,原告商品の後継品(Abs

Fit2)と連動するスマートフォン上のアプ

リケーションにおいて,6つの腹筋が強調されている画面が掲載されている。イ
被告のウェブサイトには,腹筋に沿うような形で腹部に被告商品を装着した
モデルの写真や,被告商品を大腿部に装着したモデルの写真と共に,

貼るだけで筋肉の伸縮運動を補助し,逞しく,そしてしなやかな理想的なボディライン作りをサポートします。

等と記載されている。2
争点⑴(本件意匠及び被告意匠の構成態様)について


構成態様について

被告意匠が本件意匠に類似すると認められるかについては,本件意匠,被告意匠それぞれについて,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合が,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて判断すべきこととされている(意匠法2条1項,24条2項)。
上記判断に当たっては,経験的に,両意匠の基本的構成態様,具体的構成態様を認定し,これを全体的に観察して,需要者の注意を最も引きやすい部分を要部とし
て把握するという順序で検討がなされることが多いが,ここで,基本的構成態様とは,意匠を大づかみに把握して,両意匠がその部分で大きく異なれば,さらに具体的なところを検討するまでもなく,両意匠は類似しないといえるような基本的な構成と位置づけることができ,具体的構成態様とは,基本的構成態様が大きく異なるものではないことを前提に,両意匠の物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの
結合について,より詳しく,あるいは細部について検討した結果得られる具体的な構成と位置付けることができる。
本件においては,前記第3の1に要約したとおり,両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様についての原告と被告の主張は一致していない。しかしながら,基本的構成態様と具体的構成態様の関係が上述のようなものであり,当事者の主張に
対する判断が後記⑷のとおりであることを前提に両意匠を対比すると,両意匠の構成態様については,以下の⑵及び⑶のとおりと認めるのが相当である。


本件意匠の構成態様


基本的構成態様


本体は薄いシート状であり,上下各1か所,左右各2か所の切込みにより,
6枚のパッド片を,本件中央部に結合したような形状である。

6枚のパッド片は,左右2列,上下3段に配置され,左右は対称である。

本体正面中央部に,略円柱状の操作部が設けられ,その背面には,電池部の
蓋が設けられている。


各パッド片の背面には,いずれも電極が設けられている。
具体的構成態様


上段及び下段のパッド片は,いずれも略横長隅丸5角形状で,上段パッド片
の上下底及び下段パッド片の下底は,中央から両端に向けて上方に傾斜している。Ⅵ
中段のパッド片は,いずれも略横長隅丸4角形状で,下底は,中央から左右
端に向けて,わずかに上方に傾斜している。

上下各1か所の切込みは略V字形であり,切込みの深さは,各パッド片の上
下幅の2分の1程度である。

左右各2か所の切込みは略V字形であり,上段と中段の間の切込みはやや上
方に開口し,
中段と下段の間の切込みはほぼ水平に開口している。
切込みの深さは,
上下段パッド片の左右幅の2分の1程度である。

本体正面には,外周を縁取る線模様が,各パッド片に分断して合計6つ設け
られ,その内側に,各パッド片の外形に相似するような略隅丸5角形状の線溝が,相似形に3本施されている。

操作部に+及び-の表示が設けられ,操作部の斜め上下左右に,正
面及び背面を貫通する略隅丸3角形状の通気孔が設けられている。Ⅺ
操作部背面の電池部の蓋には,中央に,横溝上の蓋開閉用コイン掛けが設け
られ,電池部の周囲には,円形の線模様が設けられている。

各パッド片背面には,略6角形状の電極多数を,略横長隅丸4角形状の区画
にまとめた電極部が設けられ,
各電極部と電池部は,
配線様の直線で結ばれている。


基本的構成態様


被告意匠の構成態様

本体は薄いシート状であり,上下各1か所,左右各2か所の切込みにより,
6枚のパッド片を結合したような形状である。

6枚のパッド片は,
左右2列,
上下3段に配置され,
上下左右に対称である。


本体正面中央部に,略円柱状の操作部が設けられ,その背面には,電池部の
蓋が設けられている。
ⅳイ
具体的構成態様


各パッド片の背面には,いずれも電極が設けられている。

上段パッド片の下底,下段パッド片の上底及び中段パッド片の上下底はいず
れも直線状であるが,その余の部分は曲線で構成され,上段パッド片の上底及び下段パッド片の下底は略弓形に湾曲している。

中段のパッド片は,いずれも中央から左右端に向けて徐々に上下の幅が狭く
なる略横長隅丸台形状で,略水平に設置されている。

上下各1か所の切込みは略U字形であり,切込みの深さは,各パッド片の上
下幅の3分の1程度である。

左右各2か所の切込みは,円弧状の頂点を有する細長い略3角形状の隙間で
あり,略水平に設置されている。切込みの深さは,上下段パッド片の左右幅の4分の3程度である。

上段及び下段のパッド片には,それぞれ,上底又は下底に沿って非連続の筋
状模様と,下底又は上底に沿って短く非連続の略3角形状模様が配され,また,左右のパッド片にわたって横長で略M字状又は略W字状の隆起部が形成されており,中段パッド片には,左右のパッドにわたって横長のベルト状の隆起部が形成されている。

操作部に+及び-の表示,並びに電源スイッチを示す表示がある。

本体背面中央に,縦向きのコイン掛け溝を有する電池開閉蓋及びこれよりも
大きい円形部分が設けられている。

各パッド片背面には,各パッド片の外周とほぼ相似する形状の,植物の葉の
外周と葉脈を想起させる電極部が設けられ,各電極部と電池部は,曲線で結ばれている。


当事者の主張について


被告は,被告意匠の基本的構成態様ⅰについて,本体は6枚ではなく3枚の
横長状の上部・中央・下部のパッド片から構成されると主張する。確かに,本件意匠においては,6枚のパッド片が本体に結合していると看取し得るものであるのに対し,被告意匠においては,各段の左右のパッド片が相互に結合しているとも解し得るものであり,若干の相違点が存する。
しかし,被告意匠においても,上下の切込みと本体中央部の操作部により,左右が区切られる形となっていることから,一般的な看者の立場では,2列3段6枚のパッド片であると認識するのが自然である。


原告と被告において,何を基本的構成態様とし何を具体的構成態様とするか
について争いがあることは前述のとおりであるが,意匠の類否を判断するに当たっては,基本的構成態様,具体的構成態様の双方を全体的に観察し,どこが最も看者の注意を引くかを検討するのであるから,基本的構成態様が大きく相違するといった場合でない限り,そのいずれに位置付けるかによって結論が左右されることはない。
3
争点⑵(本件意匠と被告意匠との類否)について



共通点及び差異点について


基本的構成態様

本件意匠と被告意匠の基本的構成態様として認定した事項のうち,①本体が薄いシート状であり,上下各1か所,左右各2か所の切込みがあって,6枚のパッド片を結合したような形状であること,②6枚のパッド片は,左右2列,上下3段に配
置され,
左右は対称であること,
③本体正中央部に,
略円柱状の操作部が設けられ,
その背面に電池部の蓋が設けられていること,④各パッド片の背面に電極が設けられていることは,双方に共通する。
これに対し,
⑤本件意匠は,
6枚パッド片を本体中央部に結合した形状であるが,
前述のとおり,被告意匠はパッド片相互を結合しているとも解し得ること,⑥本件意匠は左右対称であるにとどまるが,被告意匠は上下左右に対称であることは,差異点である。

具体的構成態様

本件意匠と被告意匠の具体的構成態様として認定した事項について,共通点として指摘し得るのは,①本体中央の操作部に,+及び-の表示が存すること(被告意匠には,さらに電源スイッチを意味する表示がある。Ⅹとⅹ),②操作部背面の電池部の蓋に,コイン掛けの溝があり(縦横は異なる。),その周囲に円形の部分があること(Ⅺとⅺ)程度である。
これに対し,③上段及び下段の切込みの形状,深さ(Ⅴとⅴ),④中段パッド片
の形状,傾斜(Ⅵとⅵ),⑤上下各1か所の切込みの形状,深さ(Ⅲとⅲ),⑥左右各2か所の切込みの形状,開口の方向,切込みの深さ(Ⅷとⅷ),⑦パッド片表面の模様,隆基部(Ⅸとⅸ),⑧各パッド片背面の電極の形状と,電池部との接続の仕方(Ⅻとⅻ)は,差異点である。


要部の認定


要部認定の意義

被告意匠が本件意匠に類似するかは,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて判断すべきものであることは前述のとおりであるから,まず,意匠に係る物品の需要者を想定し,物品の性質,用途,使用態様を前提に,需要者に生じる美感が類似するか相違するかを検討すべきこととなる。
本件意匠と被告意匠については,前記⑴で述べたとおり,多数の共通点,差異点が存するが,それが需要者に美感を与える程度は異なるから,単純に共通点,差異
点の多寡によって決したりすることはできず,需要者の注意を最も引きやすい部分を意匠の要部として把握し,両意匠の構成態様の要部における共通点,差異点を検討し,全体として両者の美感が類似するか相違するかを判断することになる。イ
物品の需要者及び使用態様

本件意匠及び被告意匠に係る物品は,いずれもトレーニング機器であって,背面電極部から流れる電流により腹筋等を刺激し,腹部の筋肉等を引き締めるためのものである点において共通する(各公報における意匠に係る物品の説明参照。)。原告商品及び被告商品の商品説明や広告宣伝方法(前記1⑶)からは,原告商品は腹筋を鍛えることに特化したものである一方,被告商品は腹部以外への装着も予定
されており,理想のボディラインを作ることに主眼が置かれているという違いが見られるものの,原告商品及び被告商品の需要者は,いずれも,上記公報の説明のとおり,腹部の筋肉等を引き締める目的でトレーニング機器を使用しようとする一般消費者である。
また,原告商品及び被告商品は,いずれも使用者の身体に貼付して装着し,当該
物品の背面に設けられている電極を直接肌に接触させて使用する物であるから,需要者は主に正面ないし斜め上方部から当該製品を見ることが多く,背面については着脱時等にある程度見る機会があるにとどまるというべきである。このことは,両製品の商品説明や広告宣伝において,正面から撮影した写真や身体に装着した状態の写真が多く用いられ,背面の写真は数少ないことからも推認することができる。

本件意匠の要部
以上を前提に検討すると,本件意匠については,前記2⑵アで基本的構成態
様と指摘した部分は,本件意匠の特徴をなすものとして需要者の注意を引くと考えられるから,本件意匠の要部というべきであるが,本件意匠については,さらに,同イの具体的構成態様のうちⅤないしⅧとして指摘した内容,すなわち,各パッド片の形状,各パッド片の結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状,深さについても,需要者に一定の美観を与え,需要者の注意を引くと考えられるから,これ
ら指摘した部分も,本件意匠の要部であると認めるのが相当である。他方,それ以外の点,すなわち前記2⑵イの具体的構成態様のうち,ⅨないしⅫ記載の点については,前述イの使用態様をも考慮すると,需要者の注意を特に引くとは考えにくいので,要部には当たらないと解するのが相当である。エ
双方の主張について
原告は,本件意匠出願時の公知意匠との対比において新規性を有することを
理由に,原告が基本的構成態様であると主張する部分(要旨,円形の電池部を中心に6枚のパッド片を左右対称2段3列に配置すること)のみが要部であると主張するのに対し,
被告は,
前記部分はありふれており,
要部には当たらないと主張する。
まず,原告の主張について検討するに,意匠に公知意匠にはない新規な構成があるときは,その部分は需要者の注意を引く度合いが強く,逆に公知意匠に類似した構成があるときは,その部分はありふれたものとして需要者の注意を引く度合いは弱いと考えられるから,その意味で,要部を認定するに当たり,公知意匠を参照する意義はある。

しかしながら,この場合における要部の認定は,意匠の新規性を判断するのではなく,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するか否かを判断するために行うものであるから,公知意匠にはない新規な構成であっても,特に需要者の注意を引くものでなければ要部には当たらないというべきであるし,公知意匠と共通するいわばありふれた構成であっても,使用態様のいかんによっては需要者の注意を引
き,要部とすべき場合もある。
すなわち,公知意匠との関係で新規性が認められれば,当然に要部とされるものではないし,新規性が認められる部分のみが要部となるわけでもなく,需要者に与える美感を具体的に検討する以外にない。
仮に原告の主張する基本的構成(円形の電池部を中心に6枚のパッド片を左右対
称2段3列に配置すること)をとった場合であっても,パッド片の形状やパッド片をどのように結合するか,あるいはパッド片を区切る切込みの形状や深さをどのよ
うにするかによって,需要者に与える美感は異なると考えられ,前記1の⑴及び⑵で認定した本件意匠に先行,後行する公知意匠を総合しても,本件意匠のパッド片の形状等がありふれたものであるとか,需要者の注意を引くものではないということはできない。
そうすると,本件意匠については,上記基本的構成のほか,各パッド片の形状,各パッドの結合方法(向き),各パッド間の切込みの形状や深さが全体として需要者に一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,前記ウのとおり,これらについても本件意匠の要部と認めるのが相当である。
仮に,上記基本的構成のみが要部であり,その部分が共通でありさえすれば本件
意匠と類似であると認められるとすると,パッド片の形状等がどれほど相違しても本件意匠の類似の範囲内にあるとすることになるが,それは本件意匠権を,具体的に得られる美感の観点を離れて抽象化,上位概念化することであり,原告の主張は採用できない。
次に被告の主張について検討するに,前記1⑴及び⑵で認定した本件意匠に
先行又は後行する公知意匠を参照しても,前記2⑵アの基本的構成がありふれたものであるとか,需要者の注意を引くものではないということはできない。上記基本的構成は,各パッド片や切込みの形状とあいまって,全体として需要者に一定の美感を与え,需要者の注意を引くというべきであるから,上記基本的構成が本件意匠の要部には当たらないとする被告の主張は採用できない。⑶

類否の判断


要部についての共通点

本件意匠の要部を前記⑶ウのように解すると,要部について本件意匠と被告意匠が共通するのは,前記⑴ア(基本的構成態様)の①(本体シート状,6枚のパッド片),②(2列3段,左右対称),③(略円形上の操作部)及び④(パッド背面の電極)であり,少なくともその限度では,美感の類似性が認められる。イ
要部についての相違点

本件意匠の要部を前記⑶ウのように解すると,要部における本件意匠と被告意匠との差異点は,前記⑴ア(基本的構成態様)の⑤(パッド片の結合)及び⑥(左右対称か上下対称か),並びに前記⑴イ(具体的構成態様)の③(上段,下段パッド片の形状,傾斜),④(中段パッド片の形状,傾斜),⑤(上下の切込みの形状,深さ)及び⑥(左右の切込みの形状,開口の方向,深さ)ということになり,これ
本件意匠の美感と被告意匠
本件意匠は,中段パッド片が略横長隅丸4角形状で左右端が若干上に傾くように配置され,上段及び下段パッド片は,略横長隅丸5角形状で,いずれも中段パッド片との間に,略V字形の,深さが上段及び下段パッド片の2分の1程度の切込みが設けられ,上段及び下段パッド片の各中央に略V字状の切込みが設けられていることから,各パッド片の各辺は概ね直線状となっていること,及び各パッド片の結合する中心部分が略6角形状に見えることと合わせて,全体的に上向きでがっしりとした印象を与え,躍動感や力強さといった,原告商品を使用することによって達成
しようとする目標(鍛えられ6つに割れた腹筋)を想起させるものとなっている。各パッド片の形状や切込みの形状は,機械的,幾何学的な形状と表現し得るものであり,そのために先進的,未来的な印象を与えるものであるが,被告意匠からそのような印象を受けることはない。
被告意匠の美感と本件意匠

被告意匠は,中央から左右端に向けて徐々に上下の幅が狭くなっている,略横長隅丸台形状の中段パッド片の上下に,それぞれ上底又は下底が略弓形に湾曲している上段及び下段パッド片が略水平に配置されており,いずれも中段パッド片との間に,先端部分を円弧状の頂点を有する細長い略3角形状の,切込みの深さが上段及び下段パッド片の3分の1程度の切込みが設けられており,全体的に上下対称であ
って,本体の輪郭線に曲線が多いこと,各パッド片の結合する中心部分が略柱状に見えること,及び上部又は下部のパッド片の根元が湾曲形状部分に比べて細く引き
締まった印象を与えることから,全体的に,しなやかで柔らかく,引き締まった軽快な印象を与える。
特に,上段パッド片について,中央の切込みが深くなく,左右のパッド片同士が結合しているようにも見えること,上底が略弓形に湾曲していることから,一対の羽根を広げた形状のような印象を受け,下段のパッド片がこれと上下対称となるよう配置されていることは,独特の美感を生じさせているということができるが,本件意匠にこのような要素はない。
まとめ
以上のように,本件意匠は,躍動感や力強さを感じさせる機械的,幾何学的な意
匠であるのに対し,被告意匠は,自然界に存在する羽根を想起させるやわらかで軽快な印象を与える意匠であって,両者が与える美感の差異は大きく,この点は,前記要部の共通点が存することによる美感の同一性を上回ると認められ,全体として評価すると,本件意匠と被告意匠が与える美感は,需要者において区別可能な程度には異なるということができる。



争点⑵の結論

前記前提事実のとおり,原告商品は被告商品に先行して販売され,前記1⑶アの宣伝により,需要者に広く知られていると認められるから,被告商品を見た需要者は,原告商品と同様の機能を有し,同様の用途に使用し得るEMS製品と考える可能性はあるものの,そのような広義の誤認混同のおそれは意匠法が規律するところではなく,上記検討したとおり,本件意匠と被告意匠が与える美感が異なり,需要者においてこれを区別することが可能である以上,被告意匠は本件意匠には類似しないというべきである。
第5

結語

以上検討したところによれば,その余の争点について検討するまでもなく,本件意匠権の侵害を理由とする原告の請求は,いずれも理由がない。
なお,被告意匠が本件意匠に類似しないことを理由に,被告意匠の登録の有効が
確定しており,被告意匠は,本件意匠又はこれに類似する意匠を利用するものではなく(意匠法26条1項),被告商品は,登録された被告意匠そのものの実施であって,被告意匠に類似するものではないと認められるから(同条2項),被告が業として被告商品を製造等することは,被告が専有する登録意匠の実施権(同法23条)の範囲内の行為ということなる。

大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官
谷有恒
裁判官
野上誠一島村陽子
裁判官
トップに戻る

saiban.in