判例検索β > 平成30年(行コ)第35号
事件番号平成30(行コ)35
裁判年月日令和元年11月29日
法廷名福岡高等裁判所
原審裁判所名長崎地方裁判所
原審事件番号平成27(行ウ)4
裁判日:西暦2019-11-29
情報公開日2020-01-14 14:00:12
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主文1
本件各控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1章

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
処分行政庁が平成25年9月6日付けでした二級河川川棚川水系石木ダム建設工事並びにこれに伴う県道,町道及び農業用道路付替工事に係る事業認定処分を取り消す。

[以下,第2章事案の概要及び第3章当裁判所の判断の部分は原判決
を付加訂正した。下線を付した部分が当審において内容的に付加訂正を加えた主要な箇所である。それ以外の字句の訂正等については特に指摘していない。]第2章

事案の概要
本件は,
二級河川川棚川水系石木ダム建設工事並びにこれに伴う県道,町道及び農業用道路付替工事(以下本件事業という。
)の起業地内に存する
土地若しくは起業地内に存する土地上に存在する建物の所有者若しくは共有者,起業地内に存する土地上に存在する建物の居住者又は同建物の元居住者である控訴人らが,処分行政庁が土地収用法(以下,同法の条項を摘示する場合は単に法という。
)20条(法138条1項により準用される場合を含む。以

下同じ。
)に基づいてした本件事業に係る事業認定処分(平成25年9月6日付け九州地方整備局告示第157号に係るもの。以下本件事業認定という。
)は,法20条3号及び4号に違反する違法な処分であるとして,処分行政庁を設置する被控訴人に対し,本件事業認定の取消しを求める事案である。原審は,控訴人らのうち起業地内に存する土地又は建物の所有者又は共有者
とは認められない者(別紙1控訴人目録(以下控訴人目録という。)番号2ないし5,7,8,10,13,14,16,18,20,22,26,2
7,29,33,36,37,42,43,45ないし48)の原告適格を否定してそれらの訴えをいずれも却下し,その余の控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,これを不服として控訴人らが控訴した。
(なお,一審原告A(原判決別紙1原告目録番号38)及び一審原告B(原判決別紙1原告目録番号88)はいずれも控訴せず,原判決が確定した。また,
承継前一審原告C(原判決別紙1原告目録番号30)は,原審口頭弁論終結前の平成28年3月12日に死亡したところ,同訴訟承継人らのうち控訴人D(控訴人目録番号28)を除く相続人ら(E,F,G,H及びI)はいずれも控訴せず,原判決が確定した。)
第1

前提事実(認定根拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。なお,書証については,特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。また,洪水調節(治水)
,利水に関し前提となる概念は,別紙3のとおりである。)

1
本件事業の概要


起業者
長崎県(以下,行政主体として表記するときは県という。
)及び佐世
保市(以下,行政主体として表記するときは後記合併の前後を通じて市といい,県と併せて本件起業者という。

なお,市は,平成17年4月1日に長崎県北松浦郡に属していた吉井町及び世知原町と,平成18年3月31日に同郡に属していた宇久町及び小佐々
町と,平成22年3月31日に同郡に属していた江迎町及び鹿町町とそれぞれ合併した(乙A15〔5-11の59頁〕
。以下,上記各合併前からの佐
世保市の市域を佐世保地区
,上記各合併により市に編入された地域を
合併地区といい,合併地区のうち旧小佐々町の町域を小佐々地区という。。


なお,市は,認可を受けた水道事業者であり(水道法6条)
,河川法23
条の許可を受けた水源(6ダム及び3取水場の計9か所,合計7万7000
㎥/日。以下本件各許可水利権という。
)の他,慣行水利権(二級河川
相浦川水系相浦川(以下相浦川という。
)の三本木取水場及び四条橋取
水場,合計2万2500㎥/日。以下本件各慣行水利権という。,暫定)
豊水水利権(川棚川暫定豊水取水,5000㎥/日)
,湧水(岡本水源地,
1000㎥/日)を有している。なお,慣行水利権とは,水の事実上の支配
をもとに社会的に承認された権利で,主に灌漑用水の利用について社会的に成立した水利秩序が権利化したものであり,市の慣行水利権は,河川法の適用を受ける時点で取水していた者に認められるものである(河川法87,88条)(乙A15[2-4-2参考資料2頁],乙B26,弁論の全趣旨)。


事業の種類
二級河川川棚川水系石木ダム建設工事並びにこれに伴う県道,町道及び農業用道路付替工事



起業地
原判決別紙4のとおり(以下本件起業地といい,本件起業地のうち土という。




事業概要図
原判決別紙5のとおり



石木ダム及び貯水池等の概要
型式

重力式コンクリートダム(貯水池の水圧荷重に堤体重量により
抵抗し,これを基礎岩盤に伝達する構造物)

河川名

二級河川川棚川水系石木川(以下石木川という。


位置

左岸:川棚町岩屋郷地内,右岸:川棚町岩屋郷地内(川棚川合
流点から上流約2㎞の地点(乙A4〔2-2・13頁〕)


堤高(基礎地盤から非越流部の堤頂までの高さ)55.4m
堤頂長(ダム軸面と堤頂標高の水平面の交線上の堤体の長さ)234m堤体積(ダムの体積)15万7000㎥

貯水池

集水面積(集水区域の面積)9.3㎢
湛水面積(貯水池にサーチャージ水位まで水が溜まっている場合
の表面積)0.34㎢
総貯水容量(河床から満水位までの総容量)548万㎥
有効貯水容量(総貯水容量から死水容量及び堆砂容量を除いたも

の)518万㎥
なお,貯水池容量配分は,原判決別紙6のとおりである。


事業費

285億円

うち工事費約85.6億円,用地費及び補償費約160億円,その他約39.4億円であり,県がうち約92.6億円,市が約66.5億円,国土交
通省が約92.6億円,厚生労働省が約33.2億円を負担する予定とされている。


建設目的
洪水調節
人為的操作を要しない洪水調節方式である自然調節方式であり,ダム地
点における計画高水流量280㎥/秒のうち,220㎥/秒を調節し,60㎥/秒(最大70㎥/秒)を放流する。これに要する貯水容量は195万㎥とされている。

流水の正常な機能の維持
既得用水の補給等,流水の正常な機能の維持を図るために必要な流量
(基準点において1月ないし3月0.090㎥/秒,4月ないし12月0.120㎥/秒)を石木ダムにより確保する予定であり,これに要する貯水容量は74万㎥となる。

水道用水の確保
平成18年度当時における佐世保市の給水人口は24万4104人,1日最大給水量は9万9318㎥/日である。これに対して,本件起業者
によれば,既存の安定水源の給水能力は約8万㎥/日とされた。
また,本件起業者は,今後下水道の普及による生活用水の増加,大口需要や新規計画といった営業用水の増加等により,平成29年度には給水人口23万3694人,1日最大給水量は11万7300㎥になると予想し,石木ダムにより4万㎥/日(給水量3万8000㎥/日)の新規
水源の開発を行うとし,これに要する貯水容量は249万㎥としている。⑻

完成予定年度
当初平成29年3月とされていたが,県は,平成27年8月頃,工期を平成34年(令和4年)までとする方針を示した。もっとも,いまだ本体工事には着工していない。

(本項につき,甲A2,乙A2,4,23,弁論の全趣旨)
2
当事者等


控訴人ら
控訴人目録番号1,6,9,11,12,15,17,19,21,23
ないし25,28,31,32,34,35,39ないし41,44,49ないし87,89ないし104,106ないし110の各控訴人(同目録属性欄に所有者と記載のある者,以下控訴人所有者らという。

は,いずれも,本件事業認定時から現在まで,本件収用地に含まれる土地又は土地上の建物について所有権(共有権を含む。
)を有する者である。

控訴人目録番号4の控訴人Jは,本件起業地内に存する土地上に建物を所有していると主張する者である。
控訴人目録番号2,3,7,8,10,13,14,16,18,20,22,26,29,36,37,42,43,45の各控訴人(同目録属性欄に居住者と記載のある者,以下控訴人居住者らという。)は,

いずれも,本件事業認定時から現在まで,本件収用地に含まれる土地上の建物に居住する者である。

控訴人目録番号5,27,33,46ないし48の各控訴人(同目録属性欄に元居住者と記載のある者,以下控訴人元居住者らという。)
は,いずれも過去に本件収用地に含まれる土地上にあった建物に居住していたが,遅くとも本件訴え提起時には同建物に居住していなかった者である。⑵

被控訴人及び処分行政庁
被控訴人は,国家行政組織法3条1項,国土交通省設置法2条,4条1項6号,30条,31条,国土交通省組織令206条等に基づき,処分行政庁を設置する者である。
処分行政庁は,土地収用法施行規則26条に基づき国土交通大臣から委任を受け,法20条(法138条により準用される場合を含む。以下同じ。)

に基づき本件事業認定を行った者である。
3
起業地周辺の概況
二級河川川棚川水系川棚川(以下川棚川という。
)は,その源を長崎県
東彼杵郡波佐見町(以下波佐見町という。
)に発し,波佐見町中央部から
西部にかけて西方に流れ,波佐見町西部から南下して長崎県東彼杵郡川棚町
(以下川棚町という。
)中央部付近で支川である石木川と合流し,そのま
ま南下して大村湾に注ぐ,流路延長約19.4㎞,流域面積81.4㎢の二級河川である。川棚川及び石木川の河川管理者は,長崎県知事(以下県知事という。
)である(河川法10条1項)

川棚川水系の流域図は,原判決別紙7のとおりである。

流域人口は約2万人で,主に川棚町の下流部と波佐見町の上流部に集中している。
(乙A4[2-1・1頁])
4
本件事業認定に至る経緯


県は,昭和47年1月5日,川棚町に対し,石木ダム建設のための予備調査を申し入れ,同年4月,これに着手した。
(乙A15〔5-5・2頁〕

県知事並びに川棚町川原郷,岩屋郷及び木場郷の各総代は,同年7月29
日,川棚町長立会いの下,石木川の河川開発調査(予備調査)に関し,県が上記3郷の同意を得て調査を行うこと,県の調査の結果,建設の必要が生じたときは,改めて上記3郷と協議の上,書面による同意を受けた後で着手することなどを定めた覚書(甲D1,D2。以下本件覚書という。
)を交
わした。

県は,昭和48年4月,実施計画調査に着手した。
(乙A15〔5-5・
2頁〕



県知事は,昭和51年1月9日付けで,河川法(昭和62年法律第34号による改正前のもの)79条2項2号,河川法施行令(昭和62年政令第327号による改正前のもの)46条,45条1号の規定に基づき,建設大臣
(当時)から石木ダム建設を内容とする川棚川総合開発補助事業全体計画(以下,後記変更の前後を通じて全体計画という。
)の認可を受けた。
(乙A4〔2-2の22頁,2-3〕
,15〔2-3〕

県知事は,昭和57年4月2日,本件事業の準備のために他人の占有する土地への立入を許可し,これを公告した(法11条)
。県は,同年5月21

日から同年6月3日まで7回にわたり,機動隊を導入して本件事業の準備のため測量を行おうとしたが,地元住民等の抗議運動等を受け,これを中止した。

県は,平成9年11月,平成9年法律第69号による改正前の河川法16条1項の規定に基づき,
2級水系川棚川工事実施基本計画
(以下工実計画という。
)を策定した。工実計画では,水文資料の整理がされているこ
とや,最下流の川棚町市街地の洪水防御対象地区の上流端に位置することなどから,治水計画基準点を山道橋(その位置は原判決別紙7のとおりであり,石木川との合流地点から下流側で最直近の橋である。
)と設定した。工実計

画は,平成9年法律第69号の施行後,同法による改正後の河川法16条1項及び16条の2第1項の規定に基づき河川整備基本方針及び河川整備計画
が定められるまでの間,河川整備基本方針及び河川整備計画とみなすものとされた(平成9年法律第69号附則2条)(甲C13,乙A15〔2-3の。
2・3頁〕



市水道局は,平成12年10月頃,平成10年から平成29年までの水需要実績及び予測等を記載した佐世保市水道事業変更認可(平成12年10月25日認可)と題する資料を作成した。(甲B13)
また,市水道局は,平成16年9月30日,同年から平成29年までの水需要予測等を記載した平成16年度佐世保市水道水源整備事業再評価監視委員会資料<水需要予測の比較検討>を作成した。(甲B14)


県知事は,平成17年11月,川棚川水系河川整備基本方針(以下川棚川整備基本方針という。)を定め(河川法16条1項)
,基準点山道橋にお
ける基本高水のピーク流量を1400㎥/秒と設定し,このうち流域内の洪水調節施設で270㎥/秒を調節することにより,河道への配分流量を基準点において1130㎥/秒として,計画規模1/100とした。
(乙A4
〔2-1〕




市は,平成19年,同年から平成29年までの水需要予測等を記載した佐世保市第9期拡張事業平成19年水需要予測
(以下平成19年水需要予測という。
)を作成した。
(甲B3,弁論の全趣旨)


他方,県知事は,平成19年,川棚川水系河川整備計画(以下,次の変更の前後を通じて川棚川整備計画という。
)を定め,平成21年にこれを
変更した(河川法16条の2)
。川棚川整備計画では,計画対象期間を概ね
30年間とし,想定氾濫区域内における人口・資産の状況等を考慮して,計画規模を,川棚川石木川合流点下流については1/100,石木川合流点上流については1/30としたが,基準点山道橋における計画高水流量は川棚
川整備基本方針と同じ数値とした。
(乙A4〔2-2〕

全体計画は,平成19年6月29日及び平成21年3月11日,それぞれ
国土交通大臣との協議を経て変更された(河川法79条2項)(乙A4〔2。
-2の22頁,2-3〕
,A15〔5-5〕



市は,平成20年3月,
第6次佐世保市総合計画
(以下市総合計画
という。
)を策定し,施策として石木ダム建設による新規水源の確保を掲げた。
(乙A4〔3-8〕


5
本件事業認定


市は,平成21年10月14日,土地収用法の定める手続について県知事を代理人とした(法136条1項)(乙A2〔115,116頁〕。

県は,同年11月9日,処分行政庁に対し,本件事業について,事業認定申請書及び添付書類(乙A2)並びに事業認定申請書参考資料(川棚川整備
基本方針及び川棚川整備計画並びに市総合計画を含む。乙A4)を提出して本件事業の認定を申請した(法16条ないし18条)

また,県は,本件事業が事業面積の大規模なダム事業であり,未取得地全体について,事業認定の有効期間である1年以内に裁決申請することは,予算及び事務量等の問題から困難であると判断したため,本件事業認定申請と
同時に,処分行政庁に対し,本件起業地(土地及び漁業権)の一部について,事業認定後の収用又は使用の手続の保留の申立てをした(法31,32,138条)(乙A4〔5-2〕



国土交通大臣は,平成22年9月28日,県に対し,同月から臨時的かつ一斉にダム事業の再評価を実施する旨を定めた国土交通省所管公共事業の再評価実施要領及びダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目(以下ダム検証要領細目という。
)に基づき,本件事業の再評価を
行うことを要請した。
(乙C5)
県は,同年12月から,意見公募,地権者との意見交換,学識経験者,関
係利水者及び関係地方公共団体の長等からの意見聴取等の各手続を実施し,長崎県公共事業評価監視委員会による意見書の提出を経て,平成24年2月,
川棚川河川総合開発事業(施設名:石木ダム)の検証に係る検討結果報告書(乙A15〔2-3-4の10~67頁〕
。以下,同報告書に記載され
た検討内容を本件ダム検証という。
)を取りまとめ,その頃,国土交通
省に報告した。
(乙A15〔2-3-4〕

国土交通省水管理・国土保全局長は,同年6月11日付けで,県に対し,
本件事業について補助金交付に係る対応方針を継続と決定した旨通知した。
(乙A15〔2-3-4〕



市は,平成24年,平成24年度から平成36年度(令和6年度)までの水需要予測等を記載した佐世保市第9期拡張事業平成24年度再評価水需要予測資料(以下平成24年水需要予測という。
)を作成した。その総

括内容(平成23年度以前は実績値,平成24年度以降は予測値)は原判決別紙8のとおりであり,市が採用した水需要予測(計画一日最大給水量の算定)の手法の概略は,原判決別紙9のとおりである。
(甲B1,乙A15
〔2-4-2の水需要予測資料〕



処分行政庁は,平成25年5月7日付けで,県等に追加資料の提出依頼を行い,県は,同月16日頃,処分行政庁に平成24年水需要予測の内容等を含む追加資料を提出した。
(乙A14,15)
処分行政庁は,同月7日,専門的学識を有する者として,K東京大学大学院工学系研究科教授(以下Kという。
)及びL首都大学東京都市環境学
部特任教授(以下Lとい,KとLを併せて本件各有識者という。


に対し,生活用水,業務営業用水及び大口需要者の工場用水の各需要予測の推計並びに負荷率の設定の妥当性について意見を求めた(法22条)。本件
各有識者は,同月13日及び同月15日,上記の点についていずれも妥当である旨の意見をそれぞれ述べた(以下,併せて本件各有識者意見という。。
)(乙A16~18)



処分行政庁は,平成25年9月6日,本件事業認定をし,その旨を手続の
保留とともに告示した(法20条,26条,33条)



県は,平成27年度に公共事業評価を実施し,石木ダムについて費用対効果分析を行った。
(甲C31)

6
法令等の定め


河川法等の定め

河川法は,河川について,洪水等による災害の発生が防止され,河川が適正に利用され,流水の正常な機能が維持され,及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより,国土の保全と開発に寄与し,もって公共の安全を保持し,かつ,公共の福祉を増進することを目的とする(1条)
。そして,河川管理者は,その管理する河川につい

て,計画高水流量その他当該河川の河川工事及び河川の維持(河川の整備)についての基本となるべき方針に関する事項(河川整備基本方針)を定めておかなければならず(16条1項)
,また,これに沿って計画的に河川
の整備を実施すべき区間について,当該河川の整備に関する計画(河川整備計画)を定めておかなければならないとする(16条の2第1項)。


建設省は,昭和33年,
河川砂防技術基準(案)計画編
(以下技術基準(案)計画編という。
)を策定した。
(乙C1,弁論の全趣旨)
国土交通省は,河川等に関する調査,計画,設計及び維持管理を実施するに当たり法令の定める技術的基準等に加えて必要となる河川等に係る
技術的事項についての標準を定めるものとして,
国土交通省河川砂防技術基準
(平成16年6月30日付け改定版。以下,証拠として摘示する
場合も含め技術基準という。
)を定め(乙C1,4,15)
,国土交
通省河川局(監修者)及び社団法人日本河川協会(編者)は,平成17年11月,技術基準の趣旨等につき解説するものとして国土交通省河川砂防技術基準同解説・計画編(以下,証拠として摘示する場合も含め
技術基準解説という。
)を発行した(乙C3,11)


技術基準(4頁)は,河川計画に関する基本的な事項として,河川計画の策定に当たっては,河川の有する治水,利水,環境機能の調和に配慮するものとし,降雨量,流量等の水文諸量等を考慮するものとした上,河川整備基本方針においては,全国的なバランスを考慮し,また個々の河川や地域の特性を踏まえて,水系ごとの長期的な整備の方針や整備の
基本となるべき事項を定めなければならず,河川整備計画においては,河川整備基本方針に定められた内容に沿って地域住民の需要などを踏まえたおおよそ20ないし30年間に行われる具体的な整備の内容を定めなければならないとする。

社団法人日本河川協会は,平成5年3月,建設省の指導,教示を受けて二級水系工事実施基本計画策定に当たっての調査項目,調査手法等を示すことによって工事実施基本計画の円滑な立案に資することを目的として二級河川工事実施基本計画検討の手引き(案)(以下,証拠として摘示する場合も含め工実手引きという。
)を策定した。
(乙C9)
また,学識経験者,建設省及び都道府県の河川技術者から組織された中
小河川計画検討会は,平成11年9月,中小河川の特性を踏まえた治水計画や河道計画の策定を行う上での基本的な考え方やその計画策定に使用する技術的な手法について体系的に取りまとめた中小河川計画の手引き(案)(以下,証拠として摘示する場合も含め「中小河川手引き」
という。
)を策定した。
(乙C2,12)



水道法等の定め

水道法は,水道を計画的に整備し,及び水道事業を保護育成することによって,清浄にして豊富低廉な水の供給を図り,もって公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする(1条)
。そして,国及び

地方公共団体は,水道が国民の日常生活に直結し,その健康を守るために欠くことのできないものであり,かつ,水が貴重な資源であることに鑑み,
水源及び水道施設等に関し必要な施策を講じなければならないとし(2条1項)
,地方公共団体は,当該地域の自然的社会的諸条件に応じて,水道の計画的整備に関する施策を策定,実施するとともに,水道事業等の経営に当たって,その適正かつ能率的な運営に努めなければならないとして(2条の2第1項)
,水質基準や施設基準を定める(4条,5条)他,水

道事業者は,給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは,正当な理由がなければ,これを拒んではならず,給水を受ける者に対し,常時水を供給しなければならないものする(15条1項,同条2項)。

社団法人日本水道協会は,平成24年7月,
水道施設設計指針(日本水道協会発行)(乙A15〔2-4-2の参考資料125~161頁〕,

B1,B6。以下,乙A15の参考資料部分を証拠として摘示する場合も含め設計指針という。
)を発行した。設計指針は,法令の定める技術
的基準に沿った水道施設の計画・設計に係る指針を示すものであり,K及びLを含む数十名の学者や水道局の担当者等の専門家により構成される特別調査委員会が策定,改訂したものである(設計指針〔1頁〕
,乙B6)


第2

争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,①控訴人J,控訴人居住者ら及び控訴人元居住者らの原告適格(本案前の争点),②法20条3号の要件該当性,③法20条4号の要件該当性である。

1
争点①(控訴人J,控訴人居住者ら及び控訴人元居住者らの原告適格(本案前の争点)
)について
(控訴人らの主張)


控訴人J
控訴人Jは,本件起業地内にある建物を所有しているから,原告適格がある。



控訴人居住者ら

土地収用法は,土地を特定の事業の用に供するため,その土地にある所有権以外の権利を収用し,又は使用することができるとしており(5条1項1号)
,土地の使用権者を含む所有権者以外の者の利益の調整を図ることをも目的としている。
控訴人居住者らは,本件事業認定によって実際に本件起業地内の居住地に
居住し続けることができなくなるから,こうばるという土地における生活・歴史・文化・コミュニティを享受するという自らの権利利益を直接侵害される者といえ,原告適格が認められる。


控訴人元居住者ら
土地収用法は,特定の事業目的のための土地所有権等の制限を認める代わ
りに私有財産との調整を図ることを目的としているところ,上記私有財産との調整は,土地所有権等の権利の価値のみならず生活利益も考慮するものとされる。したがって,起業地について生活上特別の利益を有する者も当該起業地に係る事業認定の取消しを求める法律上の利益を有する。具体的には,起業地内に生まれ育ち,そこをふるさととして個人の人格を形成させている
者や,度々起業地内に帰省して当該土地との強い繋がりを有している者は,当該土地の存在や当該土地との関係性がその者の生活や人生の一部となっており,上記生活上特別の利益を有する者に当たる。
控訴人元居住者らは,本件起業地内の土地建物について所有権又は居住権を有しないが,本件起業地内の土地の所有権者(控訴人所有者ら)の推定相
続人であって,本件起業地内の土地で生まれ育ち,当該土地をふるさととして特別の関係を有することから,本件起業地内に人格権というべき生活上の利益を有しており,本件事業認定の取消しを求める法律上の利益を有する者に当たるというべきであり,原告適格が認められる。
(被控訴人の主張)


控訴人Jについて

控訴人Jが,本件起業地内の家屋の所有権を有することについて何ら立証がない。したがって,控訴人Jには原告適格はない。


控訴人居住者ら及び控訴人元居住者らについて
土地収用法は,憲法29条3項の規定の趣旨を受けて,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与する
ことを目的として制定されたものであり(1条)
,起業地内に私有財産を有
しない周辺居住者等の権利ないし利益を保護する趣旨,目的を有するものではなく,同法の定める事業認定の手続も同様の観点から設けられたものである。したがって,本件起業地内の土地又は土地上の立木等に所有権その他の権利を有する者以外の第三者に事業認定の取消しを求める法律上の利益はな
く,行政事件訴訟法9条1項の原告適格を認めることはできない。控訴人居住者らは,本件起業地内の土地建物の所有権者に従属してその下で占有している者にすぎず,当該土地建物の使用貸借契約等に基づき財産法上の権利義務関係が成立している等所有権者から独立した個別の権利を観念する実益は認められないし,控訴人元居住者らは,本件起業地内の土地又は
土地の上にある立木等について財産上の権利を有する者でない。したがって,これらの控訴人らは本件事業認定の取消しを求める法律上の利益を有しないから,これらの控訴人らの訴えは却下されるべきである。
2
争点②(法20条3号の要件該当性)について
(被控訴人の主張)


総論
法20条3項は,①得られる公共の利益と失われる利益を比較衡量した結果,前者が後者に優越すると認められること,②社会的,技術的及び経済的な観点から代替案と比較した結果,合理的な計画となっていることを具体的
要件とするものであり,本件事業は,これらの要件をいずれも満たす。技術基準への適合性は,これらを検証する上での一つの視点にはなるが,技術基
準は一般的技術的基準を定めるものであることから,個々の事業の条件によって総合的に判断することになる。


起業地がその事業の用に供されることによって得られるべき利益についてア
洪水調節効果(治水事業)のための必要性
川棚川の治水計画は,川棚川整備基本方針及び川棚川整備計画に基
づくものであるが,河川法16条及び16条の2は,河川整備基本方針及び河川整備計画を定めなければならないとするものの,内容自体を直接規律するものではなく,策定に当たって複数の要素を総合的に考慮すべきことを規定している。これは,河川整備計画等の策定に当たっては,政策的,技術的見地からの判断が必要不可欠であり,高度に技術的かつ専門的事項を含むことから,河川管理者の広範な裁量に委ねる趣旨であり,同法施行令10条の2において,河川整備基本方針において定めなければならないとされている基本高水,計画高水流量及び計画高水量についても,これらに付随する事項についても,県には広範な裁量が認め
られる。また,技術基準等資料は,法令の趣旨に則って一定の基準を示すのにとどまるのであり,該当し得る全てのケースを想定し,全ての禁止事項を網羅していないことは当然であって,計画された立案が技術基準等資料と積極的に合致していることが必要であるとの控訴人らの主張は,独自の見解に基づくものである。
基本高水流量の算定方法の妥当性について

a
基本高水流量は,技術基準等に沿って,具体的な計算根拠となる数値やデータ等に基づいて適切に設定されたものであり,その大まかな流れは,原判決別紙10のとおりであり,計画規模を決定し,降雨解析及び流出解析を行った上,基本高水流量を決定したものである。
b
計画規模の決定
県は,技術基準,技術基準解説及び中小河川手引きを踏まえ,平成
11年に,流域の重要度の評価指標と計画規模を対応させた長崎県二級河川流域重要度評価指標(以下県評価指標という。
)を設定し
た。計画規模の決定に当たっては,地理的特性や過去の災害の特性を含めた様々な要素を考慮する必要があるところ,どのような評価指標を設定するかは河川管理者である各都道府県知事の合理的裁量に委ねられており,他の都道府県の評価指標に当てはめた場合に過大であるからといって,当該計画規模の設定が直ちに不合理であるとはいえない。
県評価指標においては,計画規模の設定に当たり,①想定氾濫面積,
②想定氾濫区域内の宅地面積,③同区域内の人口,④同区域内の資産額及び⑤同区域内の工業出荷額の5つの評価項目(以下,上記各評価項目を項目①などという。
)のうち3項目以上適合することを基
本とするが,県庁所在地を始めとする県内主要都市を流れる河川については,過去に大規模な洪水被害を受けていることや,大規模開発が
計画されていることなどの流域状況を総合的に判断して決定するものとした。そして,長崎県は,山岳丘陵が海まで迫る急峻な地形となっているため,河川は山から海までの距離が短く,急勾配であり,豪雨が降ると短い時間で増水し,降雨がやむと短い時間で減水するほか,台風の常襲地域であり,梅雨前線停滞による大雨が頻発するという地
理的地形的特性がある。県は,このような地理的地形的特性や既往洪水による被害の実態も踏まえ,計画規模1/100の指標値は,項目①が70㏊以上,項目②が40㏊以上,項目③が3000人以上,項目④が100億円以上,項目⑤が30億円以上と設定した。そして,川棚川は,項目①が472㏊,項目②が59㏊,項目③が
2700人,項目④が927億円,項目⑤が70億円であり,上記5項目中,項目③を除く4項目が基準値を超えていることから計画規模
を1/100としたものである。また,川棚川は,長崎県内の同規模河川の中で項目①,②,④,⑤が平均値より大きく,また,項目③は平均値程度であることからも,上記計画規模は適正である。
なお,項目①(想定氾濫面積)について,河川計画の計画規模は,事業を実施する前に決定することが技術基準,技術基準解説及び中小河川手引きの文理上明らかであり,事業の進捗に応じて算出するものではない。県は,昭和50年度から一連の事業として河道整備とダムの最適な組合せによる治水対策を進めてきたから,河道整備前の昭和50年頃の河道状況を前提に氾濫想定面積を算定したことは妥当であ
る。なお,県は,平成18年に,昭和50年から平成17年までの河道整備の効果を加味した当時の状況を基に氾濫シミュレーションを実施したが,河川整備計画策定の検討過程で上下流の資産を確認するために行ったものであり,計画規模を設定するための想定氾濫区域の算出とは全く異なる。

計画規模は,川棚川水系のこれまでの治水事業においても検討されてきた。すなわち,県は,昭和31年8月洪水を契機として昭和33年から中小河川改修事業に着手した。その時点では既往最大主義に基づき,上記洪水の実績洪水対応としていたが,昭和39年に制定された現行河川法及び昭和33年に策定された技術基準(案)計画編に従
い,既往洪水の降雨の超過確率規模,事業の経済効果及び計画対象地域の重要度を総合的に考慮し,昭和50年には1/100と設定した。県は,その後の技術基準や工実手引きに基づき,河川の重要度の評価指標や他河川とのバランス等を総合的に考慮し,計画規模の妥当性を評価し,川棚川については,平成9年に計画規模1/100(基本高
水のピーク流量は1400㎥/秒,計画高水流量1020㎥/秒)とする工実計画について,建設大臣の許可を得,平成17年に策定され
た川棚川整備基本方針では,県評価指標に基づき1/100と設定したものである。
c
水文資料の収集整理
川棚川流域内外の観測所の雨量資料の存在状況を調査,整理した。
d
流域平均雨量の算定
川棚川流域の流域平均雨量(河川の流域ごとに面積平均した実況及び予想の雨量)は,同流域に雨量計が存在しなかった昭和22年から昭和60年までは,近隣の佐世保観測所を標本として,同観測所と川棚川流域の各観測所の雨量を推算した上で,ティーセン法(複数の雨量観測所での観測結果から流域平均降雨量を算定する一手法)によっ
て算定した結果,上記期間の川棚川流域平均雨量を,計算式[佐世保観測所雨量×0.94]と算出した。また,昭和61年以降は,実績降雨を基にティーセン法により算出した。
e
洪水到達時間・計画降雨の継続時間設定
洪水到達時間は,ピーク時差法(降雨のピークと基準点流量のピークの時差から洪水到達時間を求める方法)
,重心法(ハイエトグラフ
の重心の時刻と基準点流量のピークの時差から洪水到達時間を求める方法)
,等流流速法(流域最遠点から流路への流入時間と等流計算流
速から計算される基準点までの流下時間により洪水到達時間を求める
方法)及びクラーヘン法(流域最遠点から流路への流入時間と流路勾配によって定められた洪水伝播速度から計算される基準点までの流下時間により洪水到達時間を求める方法)の4手法により算定した結果,1.9時間から3.8時間程度となったことを踏まえ,3時間とした。上記4手法は,中小河川の手引きという技術基準に基づくものである。
降雨継続時間は,一雨降雨(無降雨期間:洪水到達時間の1/2,無降雨の条件:1.0㎜/時未満及び継続時間:洪水到達時間以上の
3条件を満足する,独立事象として扱うことのできる降雨のこと)の降雨継続時間の頻度分布を調査した結果,24時間程度あればほぼ全ての一雨降雨の降雨継続時間を包絡できる(ほぼ全ての一雨降雨の継続時間が24時間以下であることを意味する。
)こと,また,主要降
水について24時間雨量が総雨量に占める割合を調査した結果,主要
洪水12洪水のほぼ全てにおいて24時間雨量により総雨量を包絡できる(すなわち,
[24時間雨量÷総雨量≧1]となる)ことから,
24時間とした。
f
確率雨量
確率雨量とは,再現期間がある年数である雨量をいい,再現期間T
年の雨量をRT,RTの超過確率をW(RT)
,雨量の年平均生起回数
をmとしたとき,
[T=1/mW(RT)
]から求められる。
平成9年の工実計画策定時,昭和22年から平成6年までの佐世保観測所の雨量資料を基に,ハーゼン法,トーマス法,グンベル法,対数正規法及び岩井法の5つの確率計算手法によって算出された3時間
雨量(上記洪水到達時間内雨量)と24時間雨量(上記計画降雨継続時間内雨量)の平均値の直近上位値に,上記算出した係数0.94を乗じて,川棚川流域の3時間雨量を203.0㎜,同24時間雨量を400㎜とした。なお,近年までの降雨資料を追加し,12の確率計算手法により上記各確率雨量の妥当性を確認したところ,新手法によ
る各確率雨量の範囲に含まれていることから,上記数値を妥当と判断した。
g
検討対象降雨(群)の選定
対象降雨群は,時間雨量が整備されている昭和22年以降の洪水か
ら,上記年超過確率1/100の24時間雨量である400㎜の2分の1に当たる24時間雨量200㎜以上の洪水である①昭和23年9
月11日,②昭和28年6月26日,③昭和30年4月15日,④昭和32年7月25日,⑤昭和42年7月9日,⑥昭和53年8月6日,⑦昭和55年8月29日,⑧昭和57年7月23日,⑨昭和63年6月2日,⑩平成元年7月28日,⑪平成2年7月2日,⑫平成3年9月14日の各洪水(以下,これらの洪水をまとめて本件主要洪水

といい,個々の洪水については,発生年を冠して昭和23年洪水
などという。
)を抽出・選定した。
h
検討対象降雨の拡大(引き伸ばし)
・棄却検討
本件主要洪水の実績降雨群について,一般的な引き伸ばしの方法の一つである計画継続時間内雨量と洪水到達時間内雨量の両方を上記確
率雨量まで引き伸ばす方法(Ⅲ型)により引き伸ばし,到達時間内の3時間雨量の引き伸ばし率が2倍程度を上回った3洪水を棄却(除外)し,9洪水を対象とした。
i
流出量の算出・基本高水の決定
貯留関数法(流域からの流出高と流域内の雨水貯留高から流域の降水量による流出量を推定する方法)により流出計算を行った結果,流出量は昭和42年洪水を引き伸ばした後のハイドログラフ(昭和42年洪水型)が最大となったことから,基本高水のピーク流量として,昭和42年洪水型を採用し,このときの基準点山道橋での最大流量が
1391.1㎥/秒であること,基本高水流量は最大流量を10㎥/秒単位に切り上げるとされていることから,基準点山道橋における基本高水のピーク流量を1400㎥/秒とした。
なお,降雨強度は,上記のとおり既に検討がされている3時間雨量(洪水到達時間内雨量)と同義であるところ,改めて1時間当たりの
降雨強度を考慮して棄却するというのは技術基準等と異なる独自の手法であって妥当でない。なお,県においては,昭和57年7月の豪雨
で広範囲に150㎜/時以上の雨量を観測しており,平成28年6月にも長崎市で136㎜/時の雨量を観測していることから,昭和42年洪水型の引き伸ばし後の最大降雨である138㎜/時は実績降雨と比較しても過大ではない。したがって,基準点において基本高水のピーク流量が1400㎥/秒となるような降雨が生じる確率が500年
ないし1000年に1度にすぎないということにはならない。また,県は,石木川合流点より上流区間についても将来的には川棚川水系基本方針の計画規模1/100で整備することとしている。
石木ダム建設による治水効果について
a
川棚川整備計画においては,技術基準に記載された検討事項を考慮した上で,基準点山道橋の基本高水1400㎥/秒に対し,同基準点における既存ダム(野々川ダム)による調節後の流量が1320㎥/秒であること及び河道の流下能力が1020㎥/秒であることを考慮して,河道と洪水調節施設(ダム)の最適組合せの検討を行うとともに,後記のとおり治水代替案についても検討した結果,石木ダム建設
と河道改修によった場合が最も合理的と判断し,これによる基準点山道橋の計画高水流量を1130㎥/秒と決定し,同基準点において,石木ダムで190㎥/秒を調節することにしたものである。他方,石木ダム建設地点における基本高水のピーク流量280㎥/秒のうち220㎥/秒を調節し,60㎥/秒(最大70㎥/秒)を放流すること
とし,石木ダムによる洪水調節容量については,人工的な操作が不要な自然調節方式とした上で,最大となる昭和63年型洪水を基に計算した容量161万9400㎥を1.2倍し,1万㎥単位以下を切り上げて195万㎥としたものである。
b
石木ダムを建設せずに堤防の嵩上げ等の河道整備を行うことによる治水案は現実的ではない。

すなわち,堤防を一部区間であっても嵩上げする場合,計画高水位を現状から上げることになり,洪水をできるだけ低い水位で流すという治水の大原則に反する上,中小河川手引きにおいて,計画高水位の設定に当たっては,不等流計算に局所的な水位上昇量を加えて算出された各地点の水位を包絡するように直線近似で設定し,直線近似する区間をあまり短く設定しないように注意すべきものとされていることにも反する。また,堤防高についても,余裕高を計画高水位に加算すべき高さとして規定されているところ,余裕高とは堤防の構造上必要とされる高さの余裕のことであり,計画上の余裕を含むものではない。
なお,掘込河道における余裕高の特例(河川管理施設等構造令20条1項ただし書)に該当する場合,堤防の高さは背後地の状況や上下流又は対岸の堤防の高さ等を考慮の上決定するものとされ,背後地が人家連坦地域である場合には,計画高水流量に応じ所定の余裕高を確保することが多く,川棚川の下流部及び上流部は,背後地が人家連坦地
域であること及び築堤区間が存在することから,河川管理施設等構造令に基づく余裕高を計画高水位に加算することとし,河口から石木川合流部地点までの間の計画高水流量(1130㎥/秒から1170㎥/秒)を上記構造令(余裕高1mの範囲が500㎥/秒以上2000㎥/秒未満)に当てはめ余裕高を1mとしたものであり,嵩上げをし
なくても計画高水水量1130㎥/秒を安全に流下できるとはいえない。さらに,控訴人らの主張によっても,全21地点中15地点で洪水を安全に流すことのできる計画高水位を最大で43.9㎝超えてしまうことになり,堤防の余裕高は1m確保する必要があることから,嵩上げの影響範囲は控訴人らが主張するよりも広く,現実的な計画で
はない。
また,河道掘削案についても,河道の縦断形は,川床の安定等を考
慮して定めるが,一般には現況河道の縦断形を重視して定めるものとされること(技術基準)
,河床の掘削は河口部が堆積空間であること
からその維持管理に困難をきたす場合があるので極力避けるものとし,やむを得ない場合には十分な対策を考慮する必要があるとされていること(技術基準解説)から,河床の安定が図られず,大村湾の海底が高いために河床の維持管理に困難を来す上,河床に送水管が埋設されているため社会的影響が大きく,現実的な計画とはならない。控訴人らの主張によっても,全31地点中23地点で洪水を安全に流すことのできる計画高水位を越えてしまうこととなり,その掘削の影響範囲
は控訴人らの主張する限度にとどまるものではない。なお,本件ダム検証において検証している河道掘削案では,約3.3㎞の区間において深さ1.2mの連続する河床部の掘削のみならず,それに伴い,低水護岸,堰の改築,橋梁基礎の保護,導流堤などの工事が必要となることから,現実的な計画とはならない。

過去の洪水の原因分析について
住民の生命・身体や財産をできる限り水害から守るという河川管理者の責務に鑑みれば,洪水が発生し,あるいは発生すると予想される場合には,それが河川の氾濫とは別の原因によるものと確認することができない以上,河川の氾濫を前提に治水対策を検討するのが,あるべき基本
的姿勢である。
この点を措いても,県は,過去の洪水の原因を適切に調査,分析している。平成2年洪水については,外水の形跡の写真等の資料収集などの洪水痕跡調査を実施し,その結果,洪水時の記録写真からも,川棚川の水位が計画高水位を遥かに超え,更に江川橋付近では洪水が堤防を越え
たこと,川棚川に合流する野口川等の支川に川棚川本川の水が逆流して堤防ぎりぎりに迫り又は越流したことにより浸水被害が拡大したことが
確認された。なお,各浸水被害の直接の原因は,越水ではないものの,川棚川本川の水が逆流したことによるもので,川棚川本川の水が計画高水位を超えなければ洪水が逆流することはなく,各浸水被害も生じなかった。以上のとおり,県は,平成2年洪水について調査分析の結果,平成2年洪水の原因が控訴人らが主張するような内水氾濫(低地への降水
が河川等に流出できなかったことによる氾濫)ではなく,外水氾濫(河川の水が堤防から溢れたり堤防が決壊したりすることによる氾濫)によることを確認したものである。

流水の正常な機能の維持のための必要性
河川管理は,河川法に基づき,河川法施行令10条2号及び3号に列挙
された流水の清潔の保持や河口の閉塞の防止等の事項を総合的に考慮して定められた流量(維持流量)と,維持流量が定められた地点よりも下流における流水の占用のために必要な流量(水利流量)の双方をいずれも満たす流量が,当該河川の主要な地点で確保されている必要がある。そして,利水基準年(10年に1回程度の河川流量の少ない年)におい
て上記各流量を満足する流量(正常流量)を確保することができない場合には,ダム等によって補給することが必要となり,当該補給に必要なダム容量(不特定容量)を確保することを要する。
川棚川においては,渇水期の用水不足が著しく,特に昭和42年,昭和49年及び平成6年の渇水被害が深刻であった。そこで,流水の正常な
機能の維持を図るために必要な流量(1月から3月につき0.090㎥/秒,4月から12月につき0.120㎥/秒)を石木ダムにより確保し(利水容量のうち流水の正常な機能の維持を目的とするものは74万㎥である。,川棚川における既得用水への安定的補給と河川環境の改善)
を図り,川棚川水系を渇水に強くするための必要性がある。


水道用水の確保(利水事業)のための必要性

総論
市が行った合理的な平成24年水需要予測によれば,平成36年度(令和6年度)における市の計画取水量が11万7000㎥/日であるのに対し,保有水源が7万7000㎥/日であるから,4万㎥/日が不足し,石木ダムの利水容量のうち水道用水を目的とする249万㎥は,これを補うものであり,石木ダムは,安定した水道用水を確保するための水供給施設として,必要かつ有効なものである。
水道法の定める地方公共団体及び水道事業者としての責務の内容及び性質に照らすと,水道事業者は,長期的な給水区域内の水道需要及び供
給能力を合理的に予測した上,水道の計画的整備に関する施策を策定及び実施し,水道事業を適正かつ能率的に運営し,水道を安定的に供給し,渇水によって住民の生活が極力影響を受けないよう努力する責務を負っており,同施策の策定及び実施については,水道事業者の広範な裁量に委ねられている。また,水道法は,水道の計画的整備に関する施策の策
定及び実施に当たって,複数の要素を総合的に考慮すべきことを規定しているところ,上記施策の策定に当たっては,政策的,技術的見地からの判断が必要不可欠であり,高度に技術的かつ専門的事項を含むことから,これを水道事業者の広範な裁量に委ねる趣旨である。
そして,一般に,水道施設整備における水需要予測は,将来の水需要
や都市発展の状況,他の簡易水道事業等の統合等を視野に入れた上で,長期的な計画年次を定め,想定される渇水時においても安定的な水道供給を可能とするなど,リスク管理も考慮の上,能力規模が算定されるべきである。したがって,水需要予測と実績が乖離したからといって,同予測が直ちに不合理であるとはいえず,また,特段の事情がない限り実
績値は水需要予測の数値を下回ることが想定されており,かえって,水需要予測と実績値が同程度である場合には,水道供給能力に余力がない
ことを意味し,不適切な予測であるということになる。さらに,仮に過去の水需要予測に何らかの問題があったとしても,事業認定に当たっては,基礎資料の内容が適正かどうかを審査すれば足りるから,過去の水需要予測との比較が必須となるわけではないし,そもそも,水需要予測は,種々の要素に基づき評価時点における最新の予測を行うもので,過去の予測から時点修正で対応できる連続性を有するものではなく,手法の変化は,考慮すべき各要素の内容の変化に伴い必然的に生じたものであり,設計指針においても,水需要予測の手法は,過去に実施した手法に固定されるものではなく,その時点における社会経済情勢や地域特性
等を反映した実態と近い予測とするために,弾力的に運用すべきものとされている。
また,水道水の供給は,地形その他の自然的条件に影響を受けざるを得ないため,水道の計画的な整備は,当該地域の自然的条件,歴史的,文化的,社会的,経済的諸条件に即して合理的に行う必要があるところ,
水需要予測は,各水道事業者が個別具体的事情を踏まえてそれぞれ策定するものであるから,他のダムに係る事情を本件で考慮することには意味がない。
用途別一日平均有収水量について
a
生活用水について
生活用水の一日平均有収水量は,給水人口に原単位(市民1人1日当たりの使用水量)を乗ずることによって算出される。
市は,平成24年水需要予測において,設計指針が気候変動に伴う降雨の不安定化等の影響による水源の利水安全度の低下に留意して目標を設定することを定めていることを踏まえ,原単位の将来推計をす
るに当たり,最大連続43時間の断水をするなど甚大な被害があった平成6年から平成7年にかけての大渇水の翌年から平成23年までの
16年分の実績値を検討したところ,少雨による給水制限や節水対策のための広報等の何らかの渇水対策を行った年度は,前年度よりも原単位の数値が減少する傾向にあり,反対に渇水対策を実施していない年度は,前年度よりも原単位の数値が増加する傾向にあったことから,市の原単位が渇水による制約を受けている傾向を確認し,市民が渇水時には一般的な受忍限度を超えて我慢をしているものと考察した。そこで,市は,渇水対策を行っていない平常時の市民全体が使用する水需要の傾向を踏まえて予測するため,始めに,重回帰分析により,平成36年(令和6年)を予測の目途として,原単位の上限値(渇水の
影響が全くなくなった場合)と下限値(渇水の影響が続いた場合)を予測した。その結果,上限値が214ℓ,下限値が200ℓと算出されたことから,将来の原単位が上記上限値と下限値の間に収まるものと推測した。次に,市は,原単位について,平成6年から平成23年の過去実績を用いて時系列傾向分析を行ったが,この際,給水制限を受
けた実績を含めると,今後も給水制限を繰り返すことが前提となり妥当でないため,上記過去実績のうち少雨による給水制限の影響がある平成17年から平成19年の傾向を排除して分析を行った。その結果,目標年度である平成36年度(令和6年度)における予測値は,上記重回帰分析による上限値と下限値のほぼ中間の207ℓとなったこと
から,上記数値を原単位として採用した。
そして,上記原単位に,一般的な人口推計式を用いて算定した給水人口を乗じて,生活用水の一日平均有収水量を4万3290㎥/日(目標年度)と予測した。
なお,市は,全国他都市平均値との比較を行うなど,原単位の推計
結果の妥当性を検証した。また,本件各有識者は,平成24年の設計指針の改定に際し特別調査委員会の委員を務めた有識者であるところ,
いずれも,過去の渇水による抑圧効果が時間の経過により解消され,生活用水原単位が回復する結果,上記のような水需要予測となることについて妥当である旨の意見を述べていることからも,上記需要予測は妥当である。
b
業務営業用水について
大口需要は,米軍基地及び自衛隊である。市が防衛省から得た回
答文書には,基地関係の諸活動における水源確保の必要性が示されており,米軍基地及び自衛隊の重要性が高まっていくと考えられることから,設計指針にいう将来の使用水量が困難な場合に当たると判断し,過去実績の最大値である4234㎥/日(目標年度)と予
測した。そして,これらの水需要に関しては,国防上の問題が生じた場合には船舶の往来が増大することが考えられる等の事情があるから,安全値として,ある程度古い時期のものでも現実に生じた過去の最大実績値を用いることが不合理であるとはいえない。


小口需要には,観光業等が含まれる。佐世保地区の業務営業用水
の過去実績は,渇水と経済不況の影響が強く出ており,これらを含むことになる時系列分析は適切でないことから,要因別分析による推計(水使用に関連する要因に着目して,関連する社会経済要因の動きと連動させて推計する方法や,水量を構成する要因に分割する
方法等の総称。時系列傾向分析や回帰分析等の方法を組み合わせて用いる。
)を用いた。次いで,設計指針においては,水使用と観光
との関連性が示唆され,説明変数の例として観光客数が明記されているところ,平成15年から平成23年の実績値と観光客数との間に約0.7の相関係数が確認されたことから,観光客数を基礎に一
日平均有収水量を算定することとした。そして,市総合計画の推計によれば,将来,観光客数の増加が見込まれることから,増加を見
込み,1万7359㎥/日(目標年度)と予測した。
なお,給水人口が増加すれば業務営業用水の小口需要が増加する
という因果関係を合理的に説明することはできないから,給水人口を説明変数として用いないことは,設計指針に沿ったものであり,仮に給水人口と業務営業用水の小口需要との間の相関関係の方が高
いとしても,観光客数と業務営業用水の小口需要との間に相関関係があること自体が否定されるわけではなく,観光客数を説明変数として用いることが不合理であるとはいえない。
また,市総合計画では,ハウステンボスは他の観光施設への誘客
を図るための中心との位置付けを失い,市全体の観光戦略として,
ハウステンボスを含めた観光施設等の観光客数の目標値が設定されたことから,平成24年水需要予測においては,ハウステンボスを他の観光施設等と共に小口需要に位置付けた。


さらに,新規需要として,新規に建設する給食センター(230
㎥/日)に加え,現在は専用水道(地下水による自己水源)を利用
する施設について水道への転換による水量(5施設合計1179㎥/日)を見込んだ。


本件各有識者が,業務営業用水の需要予測の手法は妥当である旨
の意見を述べていることからも,上記需要予測は妥当である。

c
工場用水について
大口需要としては,佐世保重工業株式会社(以下SSKとい
う。
)があるところ,SSKは,平成27年度以降,新造船事業中
心の経営から艦艇・修繕船事業(以下修繕船事業という。
)中
心の経営に方針転換する旨の発表をしていたことから,市が実態調
査を行った結果,修繕船事業は,作業当初に船体洗浄作業において大量に水道を使用し,それ以外はあまり使用しないというもので,
SSKの一日平均有収水量(使用水量)を約500㎥/日と想定した場合,平均的な船体の洗浄作業における使用水量は約2200㎥/日であり,かつ同じ日に複数のドックで船体の洗浄作業が行われる事態が想定されることが判明し,一日最大給水量と一日平均給水量の差が激しい脈動的な使用形態になることが予想された。設計指
針においては,一日最大給水量は,用途別一日平均有収水量を合算した後に,全体の負荷率(平成24年水需要予測においては80.3%)で除することにより算定することとされているが,この手法では,622㎥/日(500㎥/日÷80.3%≒622㎥/日)となり,SSKの修繕船事業において想定される上記約2200㎥/日の給
水量に対応できない。そこで,過去の修繕船事業の実績値に基づき,修繕船1隻当たり平均使用水量を2206㎥/日と算出し,SSKが6つのドックのうち2つのドックで同じ日に船体洗浄に伴う脈動的な使用が生じることが想定できたことから,SSKの水量を4412㎥/日(2,206㎥/日×2=4,412㎥/日)と予測した。なお,
同予測は,SSKの売上高や事業費率の変化を用いてしたものではない。
本件各有識者が上記の予測手法について合理的であることを是認
していることからも,上記需要予測は妥当である。


また,小口需要について,市は,平成24年水需要予測において,過去の実績値に渇水や経済不況の影響が強く出ており時系列傾向分析は適切でなく,また,適切な要因が確認できないため要因別分析も適切ではないと判断した。設計指針においては,過去の水需要の変動から一定の傾向を見出すことが困難な場合等には典型的な推定
手法によれず,過去の水需要の平均値や最大値等を用いることもあるとされている。市は,上記設計指針を踏まえ,過去20年実績の
平均値である1114㎥/日を採用した。平成17年から平成19年に渇水の影響を受けていることや,過去に単年度の回復量が大きい年度が複数あることなどからすれば,上記予測は合理的なものである。
d
中水道について
市においては,下水処理水を原水とした再生水事業を行っており,これが中水道に該当する(中水道は,トイレの処理水などに利用されるものである。。市は,平成15年度に施設能力500㎥/日(最大)
供給可能水量)として再生水の供用を開始したが,事業開始以降は70㎥/日程度の実績にとどまっている。もっとも,渇水リスクの軽減
を図るために市は事業を継続しており,再生水施設の維持管理費を賄うことができる150㎥/日を目標値としたものである。
上記事情のほか,再生水は処理から供給までの全施設を上水道と別系統で整備する必要があり,遠隔地に再生水需要があっても容易に供給できるものではないこと,再生水の利用者においても別系統の配管
工事の費用負担が生じることから,中水道の水量は,市の努力によって増加させることができるものではない。
用途別一日平均有収水量以外の予測値について
a
負荷率
設計方針においては,負荷率の設定に当たり,過去の実績値や気象,渇水等による変動条件にも十分留意し,各々の都市の実情に応じて検討することとされている。市は,平成24年水需要予測において,平成6年度大渇水を契機に市民の水使用形態が大きく変化していることから,過去20年の実績のうち,平成6年の大渇水時を除いて最も変
動幅の大きい(すなわち,負荷率の小さい)平成11年度の80.3%を採用し,計画一日最大給水量は10万5461㎥/日(一日平均
給水量84,685㎥/日÷負荷率80.3%)とした。
b
安全率及び計画取水量
設計指針においては,計画取水量は,計画一日最大給水量に10%程度の安全率を加算して決定することを標準とするものとされている。市は,これを踏まえ,平成24年水需要予測において,計画一日最大
給水量11万7178㎥/日(105,461㎥/日÷(100-10)%)を計画取水量とした。
c
保有水源について
市の保有水源のうち,本件各許可水利権以外の水源は不安定水源
であり,不安定水源は,水量が豊富なときにのみ取水できる水源や
暫定的な水利権に基づくものなどであり,取水の権利又は水量の点で年間を通して安定した取水を確保できない水源であって,河川法23条の許可要件を満たさず,水道法上の認可水源となり得ないから,市の保有水源に含めるべきではない。市の保有水源量は,安定水源である本件各許可水利権の合計7万7000㎥/日であると見
るべきである。
すなわち,水道法における水源の認可を受けるためには,取水の
権利及び水量のいずれの点においても取水が確実であることが見込まれること(権利的安定性及び量的安定性)が条件とされ,河川取水に当たっては河川法23条の安定水利権の許可を受けることが条
件となっている。同条の許可は,10年に1回程度の渇水時の河川流量において,他の既得水利権量や河川の維持流量を控除した上で,年間を通して確実に取水可能な水量の範囲で許可されるものである。⒝
この点,慣行水利権は,現在の河川法の施行前から存在する水に
対する事実上の支配を基に社会的に承認された権利で,河川法87条により,同法23条の許可を受けたものとみなされる水利権であ
り,許可水利権と異なり,占有の目的及び条件,占有している流水の量並びに流水の占有の場所などの権利内容が,旧来からの慣習に委ねられており,不明確な点が多い。また,慣行水利権を有する者は,河川法88条,河川法施行令48条により上記権利内容等を河川管理者に届け出なければならないが,届出がされていても更新の機会や取水量の報告義務がないため,当該届出内容の正確性は不明であり,河川管理者が慣行水利権の実態を正確に把握することは困難である。これは,本件各慣行水利権を含む相浦川の慣行水利権についても同様である。

そして,水道法7条に係る同法施行規則1条の2第4号が,認可
申請における添付資料として,取水が確実かどうかの事情を明らかにする書類を定め,水道法8条に係る水道法施行規則6条10号が,取水に当たり河川法23条の規定に基づく許可を必要とする場合には,当該許可を受けているか,受けることが確実と見込まれること
を必要としていること,水道法5条1項2号が,水道施設の備えるべき要件として,貯水施設が渇水時(一般に10年に1回程度の頻度で生じ得るものと解される。
)においても必要量の原水の供給に
必要な貯水能力を有することを定め,設計指針等も,上記と同じ能力を備えた施設整備を進めていくことを求めている。以上からすれ
ば,概ね10年に1度の規模の渇水年度に取水できていない水源は,それ以外の年に当該水源から安定した取水ができていたとしても,保有水源として考慮することはできない。
本件各慣行水利権の届出水量は,三本木取水場が4500㎥/日,四条橋取水場が1万8000㎥/日となっているが,取水実績を見
ると,10年に1回相当の少雨であった平成19年度においては,河川からの取水を最大限行っていたにもかかわらず,三本木取水場
では上記届出水量分を取水できなかった日が多く,四条橋取水場では上記届出水量を取水できた日はなかった。また,県が調査した区間別の維持流量(当該流量が定められた地点より下流における流水の占有のために必要な流量)は,三本木取水場を含む区間が0.035㎥/秒(3024㎥/日)
,四条橋取水場を含む区間が0.1

05㎥/秒(9072㎥/日)であるところ,平成19年度において上記維持流量を確保しようとすると,本件各慣行水利権から全く取水できない日が10日以上存在することになる。
したがって,本件各慣行水利権は取水量的に安定しておらず,本
件各慣行水利権を保有水源に含めることはできないとの市の判断は,
妥当である。


また,小佐々地区等の保有水源について,市は,平成24年水需
要予測を行った当時合併地区と佐世保地区の水道施設の統合計画を策定していたところ,小佐々地区を含む合併地区の既存の水道施設
はいずれも小規模で,これらを継続使用すると費用面で経営効率が悪いこと,平成27年度に北部浄水場の供用が開始され,更に石木ダムが建設されれば,合併地区の必要水量は同浄水場から送水可能であることから,合併地区においては同浄水場からの送水を前提に施設を統合し,既存の小規模浄水場を廃止することとした。このと
き,上記小規模浄水場と一体として運用していた既存水源は,佐世保地区の浄水場に導水しない限り運用できなくなるが,市水道事業の財政面や業務遂行能力等を考慮すると,統合と同時期に導水管を整備することは困難であり,かつ,水源不足が深刻な小佐々地区等との統合が急がれることから,安定した水源として活用の見込みが
ないものは廃止し,安定水源については,今後,統合計画の進捗に合わせて検討,判断することとしたもので,このような市の方針に
は合理性がある。

費用対効果分析について
費用対効果分析は,公共事業の価値を評価する重要な指標の一つであるとはいえるものの,あくまでも一応の正確性を持った数字でシミュレーションすることが可能とされている限定された項目事項に関するものであり,
法20条3号の要件適合性の判断においては,一つの判断材料となるにすぎない。なお,県が平成27年度に当時の最新の統計資料を用いて行った石木ダムの費用対効果分析を,処分行政庁が本件事業認定処分時である平成25年に考慮することはそもそも不可能である。
仮にこの点を措くとしても,県は,国が定めた治水経済調査マニュアル
に基づき,川棚川河川総合開発事業の費用便益比を,適切に1.25と算定したものである。なお,事業評価に当たっては,河道整備とダム事業という治水事業を一連のものとして評価するのが妥当である。また,本件事業は流水の正常な機能の維持をも目的とするものであって,このために補給する不特定容量を確保することが必要となるから,この点も
本件事業の便益として捉えられる。


起業地がその事業の用に供されることによって失われる利益について県は,任意に条例に基づく環境影響評価を実施し,
川棚川総合開発事業石木ダム環境評価書を作成した。同評価書及びその他の調査によれば,本
件起業地及びその周辺の土地における動物への影響は小さく,植物については,環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類に掲載されているものについて,必要な保全措置を講じることとし,工事中は環境調査を行うことなどにより,本件事業の実施による環境への影響は,実現可能な範囲内で,できる限り回避又は低減される。また,本件起業地内には文化財保護法に基づく周知の埋蔵
文化財包蔵地は存在せず,工事施工中に遺跡等が確認された場合は,県教育委員会との協議により,記録保存等の措置を講じることとしている。
そして,本件起業者は,本件事業による本件起業地内からの移転対象者に対する生活再建策として,その意向に応じた集団移転地の造成や住宅資金借入れ利子の助成等をして,これらの者への配慮を行っている。なお,控訴人らは,本件事業により各生活の本拠を移転せざるを得なくなるものの,それは土地収用法に基づく適法な手続によるものであり,同法は,収用される土
地や建物の所有権,賃借権等が失われることのみならず,その所有者等が当該土地や建物に居住している場合には,その生活上の利益をも含めて損失補償の対象として,当該土地やその周辺地域を含めた生活上の利益が失われることをも当然に予定しているから,これらの補償の対象となる利益を超えて,包括生活基盤なる利益が土地収用法による損失補償によって賄うことができ
ないほど大きな利益として認められることはない。
したがって,本件事業の施行により失われる利益は軽微である。


比較衡量について
本件起業地が本件事業の用に供されることによって得られる公共の利益は,①川棚川流域の洪水被害の軽減(治水)
,②流水の正常な機能の維持及び③
市の水道用水の安定的な供給への寄与(利水)という極めて大きいものである。他方で,失われる利益及びそれが失われることによる影響は軽微である。したがって,得られる利益は失われる利益に優越している。

代替案と比較した計画の合理性について

代替案の検討の必要性について
法20条3号の要件は,事業計画そのものが適正かつ合理的であって公共性を有することを求めるものであるから,代替案との比較は,その要件の判断において論理必然に求められるものではないが,社会的,技術的及び経済的観点から代替案と比較検討することは,当該事業計画の合
理性を判断し申請事業の公益性を明らかにする上で有効な手法の一つであることから,本件事業認定においても代替案との比較検討を行ってい
る。

治水代替案
川棚川整備計画等における検討
県は,川棚川整備計画等において,技術基準を踏まえ,川棚川水系に
おける治水代替案として,①河道改修案,②ダム+河道改修案(申請案)
,③遊水地+河道改修案及び④放水路案を設定し,これらについて経済性のみならず社会性,自然条件までを含めた総合的な見地から比較検討を実施した。なお,①河道改修案については,㋐河道の掘削,㋑引堤及び㋒堤防の嵩上げの三つの方法が考えられるが,㋐は,川棚川の河
口に面する大村湾の海底が浅いため河床の維持管理が困難な上,河床に送水管が埋設されていることから社会的影響が大きく,㋒は,破堤等により洪水が氾濫した場合に氾濫流がより高いところから押し寄せ,災害ポテンシャルが増大することからいずれも適当でない。そこで,本件事業認定申請における代替案としては㋑を検討している。

そして,上記①ないし④の各案を比較検討した結果の概要は,原判決別紙11のとおりであり(なお,同別紙の河道改修案の治水対策の概要欄に記載された河床整正程度とは,軽微な掘削で,平均的な掘削深にして60㎝以内の掘削を指す。以下同じ。,実質的な代替案の検)
討を経て,申請案(②案)が経済性及び社会性の面から有利と判断され
た。
本件ダム検証における検討
さらに,被控訴人が本件事業認定の適否を判断するに当たっては,本件ダム検証における治水代替案の検討についても評価しており,河道改修案(上記①案)の検討においては,控訴人らが最適案であると主張す
る河道掘削案(上記①-㋐案)及び堤防嵩上げ案(上記①-㋒案)についても検討し,申請案(②案)が最も有利であると判断している。本件
ダム検証はダム検証要領細目に基づいており,川棚川水系においては,ダム検証要領細目において示された,河川を中心とした対策12案,流域を中心とした対策14案の計26案について,川棚川流域における適用可能性につき概略評価を行い,適用可能と抽出された8案の治水対策の概算事業費を算定し,安全度,コスト,実現性,持続性,柔軟性,地
域社会への影響及び環境への影響の複数の評価軸で総合的に評価した結果,申請案が有利と判断されたものである。

利水代替案
市は,石木ダム案(申請案)のほか,海水淡水化案,地下ダム案及び地下水案の4案を比較検討しており,石木ダム案(申請案)が最も妥当
な案であるとした。
また,市が平成25年3月に実施した水道施設整備事業再評価においても,申請案のほか14案の検討を行い,海水淡水化案を除く13案は,技術的,法的又は量的可能性等の面で取水量確保の可能性がなく,海水淡水化案も,地域社会への影響,技術的課題,環境への影響,事業費等
の面から,申請案が優位であるとしている。

ダムサイトの候補地の代替案等
県は,石木川におけるダムサイトの候補地について,上流サイト案,中流サイト案及び下流サイト案(申請案)を検討している。申請案は,他の2案に比べて支障家屋は最も多くなるが,ダムの規模が最も小さく施
工性に優れ貯水効率も最も優れており,事業費が最も合理的であることから,申請案を選択したことは妥当である。
(控訴人らの主張)

起業地がその事業の用に供されることによって得られるべき利益についてア
洪水調節効果(治水事業)のための必要性について
基本高水流量の算定方法の妥当性について

a
計画規模について
計画規模を小さくすると基本高水流量が小さくなってしまいダムは不要となるところ,県は,石木ダムを建設するという結論を導くために恣意的に計画規模を1/100としたものである。

そして,県評価指標は,既に定められていた川棚川の計画規模1/100に合わせるために設定されたもので,全国的な基準や他県の基準と比較して計画規模が高く評価されることになる異常な基準である。計画規模はより高い方が理想であるが,全ての河川において高い計画規模を求めることは不可能であり,資源の公平かつ有効な分配という
観点から河川の重要度に応じて計画規模に差を付ける必要があり,全国的な均衡が求められる。川棚川は,都市河川ではなく一般河川と評価すべきであり,その適正な計画規模は,技術基準解説によれば1/10ないし1/50,中小河川手引きによれば1/30又は1/50,工実手引きによれば1/30が妥当であり,香川県,三重県及び群馬
県の基準に当てはめると1/5ないし1/30となるところ,県評価指標は,技術基準等資料に積極的に合致している状況にない。
また,想定氾濫面積について,県は,県評価指標において,項目①(想定氾濫面積)川棚川整備基本方針策定時(平成17年)のシミュレーションを用いて472㏊と算定しているが,その前提となる河道
の状況は,あえて河道整備前の昭和50年頃の状況を基礎としており,河道整備が進んだ川棚川整備基本方針策定時の河道状況を採用しておらず不合理である。事業認定については,処分行政庁が事業認定を行った時点の事情を基礎とすべきであるから,本件事業認定の適法性を判断する前提となる事情である河道の状況についても,本件事業認定
時に存在していた事実等を基礎としなければならない。なお,県が平成18年3月作成の川棚川想定氾濫区域図等作成において行った

当時の河道状況に基づく想定結果を県評価指標に当てはめると,項目①及び④が計画規模1/100,項目②,③及び⑤が計画規模1/50となるところ,過半数の項目が該当する計画規模1/50が川棚川の計画規模となるべきである。また,上記川棚川想定氾濫区域図等作成で採用している数値を中小河川手引きの基準や他県の基準に当
てはめると,ほとんど全ての項目で計画規模1/30以下に該当し,計画規模1/100との評価がされる余地はない。
さらに,川棚川における計画規模は,昭和30年頃には1/30であったが,石木ダム建設事業に着手した昭和50年に,突如として合理的な理由なく1/100に変更されているところ,これは,そうし
なければ石木ダムが作れなかったためである。
川棚川整備計画においては,川棚川のうち石木川との合流地点から下流域の計画規模を1/100とし,同地点から上流域の計画規模を1/30としているところ,年超過確率1/100の基本高水のピーク流量が流下した場合には,上流域において流下能力流量を超過して
川棚川外部へ越水する結果,基準点山道橋付近においては流量が上記ピーク流量よりも大幅に減少するから,基準点山道橋を含む計画規模1/100の流域において基本高水のピーク流量が流下することはあり得ない。そして,川棚川整備計画においては,河道整備により下流域において1130㎥/秒の流下能力を確保することが予定されてい
るから,石木ダムがなくても下流域において越水が生じることはない。したがって,下流域の計画規模を上流域よりも大幅に高い1/100とすることには合理性がない。
b
洪水到達時間・計画降雨の継続時間設定について
県は,洪水到達時間を長く引き伸ばす非現実的な算定を意図的に行っている。県が採用した4手法は,何ら技術基準等にて定められた方
法ではなく,しかも何ら合理的な理由もなく算出した数値を2倍としたり,最大限長い時間とすべく本件起業者が独自に採用している手法にすぎない。実際の洪水到達時間を想定する降雨に応じて具体的にシミュレーションしているのが,洪水流出モデルによる流量変化なのであるから,これによる明確な洪水到達時間,すなわち1時間を用いる
ことが最も合理的である。また,技術基準が棄却検討を求めている趣旨からすれば,仮に洪水到達時間を3時間であるとするとしても,1時間ごとの降雨強度の超過確率の検討は,必要不可欠である。
c
検討対象降雨の選定,拡大(引き伸ばし)及び棄却検討について
県は,対象降雨群について,3時間雨量をⅢ型により引き伸ばし,そのうち昭和42年洪水型の雨量分布を採用して基本高水のピーク流量を1400㎥/秒としたが,これは現実に発生することのない数値であり不合理である。すなわち,技術基準及び技術基準解説にいう降雨強度は,ピーク流量を決定付ける影響の大きい降雨の継続時

間における瞬間的な雨の強さを1時間当たりに換算した,雨量の超過確率を意味するものと解すべきであり,対象降雨の降雨強度の超過確率の値と著しい差異がある場合には,単純に引き伸ばすことによって著しく不合理が生ずることから,対象降雨として採用することが不適当であると考えられるため,当該降雨パターンの引き伸ばし降雨を対
象降雨から棄却(除外)すべきである。貯留関数法を用いて流量を算出する場合,一定時間の降雨後は1時間当たり雨量と流量が比例する関係にあるから,1時間当たりの降雨強度の超過確率について検討しなければ,現実的な流量(基本高水のピーク流量)の設定はできないはずであり,1時間当たりの超過確率について検討する必要があるが,
県は,この超過確率について検討していない。とりわけ,県が採用した昭和42年洪水型の雨量分布は,1時間に約118㎜という集中し
た降雨があり,他の時間帯はその3分の1未満の降雨があったにすぎないという極めて特殊な雨の降り方であったから,3時間降雨についてのみ検討することは不合理である。
また,引き伸ばしについて,昭和42年洪水型の最大降雨強度118㎜/時の超過確率は1/150ないし1/200であり,更にこれ
をⅢ型により引き伸ばした後の降雨強度138㎜/時の超過確率は1/500ないし1/1000であって,計画規模である1/100とは5倍ないし10倍の差がある。上記のような雨量分布は,他の8洪水における雨量分布には見られないことからも,昭和42年洪水型は,対象降雨から棄却されなければならないものであった。

d
流出量の算出・基本高水の決定について
基準点山道橋における基本高水のピーク流量を1400㎥/秒と設定しているが,川棚川においては,過去に1400㎥/秒という流量を記録したことはなく,記録上,昭和23年洪水時に1018ないし
1116㎥/秒となったのが最大であって,上記ピーク流量は実績値をはるかに上回る異常な数値である。基準点において基本高水のピーク流量が1400㎥/秒となる降雨が発生する確率は,500年ないし1000年に1度にすぎず,計画規模(1/100年)との乖離が著しく治水計画に合理性がないことは明らかであるし,仮に想定され
た豪雨が発生したとしても,石木川合流地点よりも上流の地点で外部に越水するから,基準点において上記流量となることはない。
上記実績値を考慮すれば,ピーク流量は1116㎥/秒又はこれを引き伸ばした後の1130㎥/秒(一の位を切上げ)程度とすべきである。

石木ダムの必要性について
石木ダムを建設しなくても既存ダム(野々川ダム)による調節後の流
量1320㎥/秒の流下は可能である。
すなわち,石木ダムが存在しない場合の水位は,基準点山道橋における計画高水水量である1130㎥/秒を基本高水のピーク流量(1400㎥/秒)から野々川ダムによる調節分(80㎥/秒)を控除した1320㎥/秒に拡大することによって算定(逆算)することができ,その算定結果によれば全区間において堤防高を下回っている。なお,上記算定結果によれば,県が設定する堤防余裕高1mを下回る区間が存在するが,川棚川はいわゆる掘込河道で,河川管理施設等構造令20条1項本文において要求される1mの余裕高の適用を除外され(同項ただし書),

一般的には0.6m程度の余裕高を確保するものとされているものの法令の根拠があるわけではない。仮に上記0.6mの余裕高が必要であったとしても,上記余裕高を下回る区間は,片側(右岸)の数十メートル程度の限られた区間であり,その不足高も4㎝にすぎない。したがって,上記区間の堤防高を約4㎝嵩上げするだけで,県の想定する外水氾濫を
防ぎ,0.6mの堤防余裕高を確保することができる。さらに,仮に1mの余裕高が必要であったとしても,上記余裕高を下回る区間は,左岸が2か所(合計約60m)
,右岸が2か所(合計約670m)であって
長いとはいえず,不足高も最大で44㎝未満にすぎない。したがって,上記区間の前後の堤防のみを嵩上げし又は河道掘削の方法と複合するこ
とにより治水目的を達成することができる。
そもそも,本件起業者は,本件事業につき昭和47年の予備調査実施以降40年以上も事業認定申請を行わなかったのであり,このような事実経過に照らしても,石木ダムが不要であることは明らかである。過去の洪水の原因分析について

本件起業者は,過去の水害について,地域住民の指摘する内水氾濫や支流の氾濫,川棚川に流れ込む側溝の逆止弁の閉め忘れによる堤防内地
への逆流等,越流以外が要因であった可能性の有無等の原因分析や科学的調査をほとんど行わないままに治水計画を策定している。このような分析,調査を怠った治水計画は合理性を欠く上,過去の洪水の原因が越流以外にある場合には,石木ダムは現実的な治水対策とはならない。県は,平成2年洪水の被害について科学的,客観的な原因究明,調査
を行っていないところ,再度の洪水を防ぐためには水害の主な原因やその他の要因,それら複数の要因がどのように影響しあったかについて検証されなければならない。川棚町は,同洪水の主な原因が外水氾濫でなかったと結論付けているのであって,内水氾濫及び支流氾濫について具体的客観的効果が全く検証されていない石木ダムによって,再度の内水
氾濫・支流氾濫を防ぐことはできず,下流域の水害防止という事業目的を達成することはできない。

流水の正常な機能の維持のための必要性について
否認ないし争う。


水道用水の確保(利水事業)のための必要性について
総論
本件事業の利水の根拠である市の平成24年水需要予測は,石木ダムを建設する必要性を作出するため,約4万㎥/日が不足するという結論を先に設定した上で,これに合わせて市の水需要を過大に予測し,市の
保有水源を過小に予測したもので,設計指針に沿った検討もされておらず不合理であり,これらを適切に評価した場合には,市の水需要は市の保有水源によって賄うことができているから,石木ダムを建設する必要性はない。
このことは,平成24年水需要予測における各予測値が不合理である
ことに加え,市が実施した過去の水需要予測の手法が変遷していること,過去の水需要予測と実績値とが乖離していることからも明らかである。
すなわち,市は,昭和50年頃以降に実施した水需要予測において,石木ダムの必要性を作出するため,その度ごとに異なる予測手法を使用することにより数値を操作し,存在しない水需要を作出してきた。一般論として実績値が水需要予測の数値を下回ることがあり得るとしても,平成24年水需要予測及び過去の水需要予測において,用途別一日平均有収水量がいずれの用途についても予測どおりの実績値になっていないのは,予測手法が誤っているにもかかわらず,市が予測手法を変えず又は更に不合理な予測手法に変更したためである。
また,石木ダム建設により,給水単価が上昇することは明らかであり,
給水単価が上昇すれば当然供給単価も上昇し,水道料金値上げとなることが確実である。現に,全国的にも,岡山県の苫田ダム,岐阜県の徳山ダム,神奈川県の宮ケ瀬ダム,北海道の当別ダムなど,建設前に利水面での必要性がないことが指摘されていたにもかかわらずダム建設が強行された結果,自治体の財政をひっ迫させ,水道料金が値上げされた例が
ある。
用途別一日平均有収水量について
a
生活用水について
平成8年から平成26年にかけて,市の原単位の実績値は188ℓから196ℓで推移しており増加していない。全国的にも原単位は節
水機器の普及や社会情勢の変化などが影響して減少している。市は,平成19年水需要予測においても原単位の上昇を予測したが,実際には原単位は上昇しておらず,市の予測の不合理性を裏付けるものである。
市水道局が公開質問の席上において認めたように,佐世保市民が節
水どころではなく一般的な受忍限界を超えて我慢をしているなどということを示す根拠はないし,市が強調する渇水の防止は事業計画に挙
げられていない。石木ダムが完成して水不足が解消されれば佐世保市民は水使用を抑制しなくなり原単位が上昇するなどという説明は,石木ダムの建設により需要が増加するというもので,需要の増加に対応するために石木ダムを建設する必要があることの説明になっていない。石木ダムが完成すれば水道代は当然に値上がりするところ,元々節水
意識が高く節水技術も有している佐世保市民が高価な水を従前以上に使うはずはない。
また,市が実施した全国他都市の平均値との比較は,前提となる全国他都市の数や内容,選定基準,市の上下水道事業経営検討委員会の資料として示された,市がアンケートを実施した14都市との関係,
他都市における生活用水の定義等,不明な点が多く,信用性がない。仮に他都市の回答内容に信用性があるとしても,市における比較検討過程や公表方法が恣意的である。
さらに,本件各有識者意見は,不合理な市の需要予測を基礎資料としており,この予測に反する資料や意見が市から提示され又は自ら分
析した形跡はなく,市の推計が設計指針に形式的に合致することを述べるにとどまる限られた範囲についての意見にすぎず,平成24年水需要予測がそれ以前と違う予測をした理由や合理性については意見を述べていないから,市の予測が合理的であることの根拠にはならない。b
業務営業用水について
大口需要(米軍基地及び自衛隊)については,平成24年水需要
予測では,万が一の災害に備えて過去の実績最大値を採用したとするが,米軍基地については12年前,自衛隊については26年前に記録したものであり,
万が一の災害とは米軍基地や自衛隊駐屯

地等の火災を意味すると考えられるところ,実際にそのような災害は起きておらず,これらの施設は性質上渇水の影響もほとんど受け
ないから,実績最大値の水需要が生じることは絶対にあり得ず,これを採用することは不合理である。実際,平成12年から平成24年の各水需要予測に示された最新実績年の実績値の推移を見ると減少を続けている。


小口需要については,各年の観光客数と使用水量を具体的に比較
しても相関関係を見出すことはできず,現に,市は,平成19年水需要予測においては,5つのトレンド式による分析を行ったが,妥当な推算式が得られなかったとして過去実績を基に予測値を設定していた。むしろ,小口需要は観光客数よりも市の給水人口と高い相関関係にある。それにもかかわらず,平成24年水需要予測は,観
光客数のみを考慮し給水人口を無視したものであり,明らかに誤っている。観光客数と給水人口から多変量回帰分析により小口需要を予測すると,目標年度の平成36年(令和6年)の予測値は1万0911㎥/日となり,市の予測値である1万7359㎥/日は過大である。

また,市は,平成24年水需要予測からハウステンボスを従前の
大口需要から小口需要に変更したが,入場者数や使用水量に鑑みればハウステンボスは米軍基地や自衛隊と並ぶ大口需要であり,変更には合理的な理由がなく,小口需要と観光客数の相関関係を恣意的に作出するためのものである。その結果,平成24年水需要予測に
おける目標年度平成36年度(令和6年度)の予測値を直近実績年(平成23年度)の実績値で除した割合は,平成19年水需要予測以前よりも大きくなっている。

新規需要分の専用水道からの転換については,既に自己水源によ
り需要を賄っている営利企業が上水道に転換する必要はなく,市が転換させることになるが,企業がこれを承諾する義務はなく,予測
には合理性がない。
c
工場用水について
大口需要について,SSKの経営方針転換においては,修繕船事
業の売上げの総売上げに対する割合(事業構成比)を13%(平成
23年度実績値)から25%(平成26年度目標値)に引き上げることとされているが,新造船事業の採算が悪化し全体売上げが減少していることを前提とした経営再建策であって,新造船事業の規模を縮小する反射的効果として修繕船事業の事業構成比が約2倍になるというものにすぎず,売上高では約86億円(平成23年度実績
値)から100億円(平成26年度目標値)と1.16倍になるにすぎない。新造船事業の平成26年度目標値は,事業構成比が40%,目標額が150億円であり,SSKにおいて新造船事業が中心事業であることに変わりはなく,市がSSKの需要予測の根拠とした修繕船事業中心への事業方針の転換は前提を欠く。このこと

は,その後明らかになった実績値によれば,修繕船事業の売上高が最大である平成28年度において,同事業の事業費率は24%であり,売上高は平成23年度比約1.2倍にすぎないことからも明らかである。
市が平成24年水需要予測策定前に実施した調査に対するSSK

のこれまでの倍以上の水量を供給して頂くことも十分考えられる
という回答は,新造船事業と修繕船事業の合算について説明したものであり,SSK全体で平成23年度のSSKの実績値1166㎥/日の2倍の2300㎥/日程度を使用する可能性をいうにすぎない。また,平成24年水需要予測策定後に実施した調査については,
それ自体,結論を先行させて理由を後付けした証左である上,複数のドックで同時に船体洗浄作業を行うことの客観的,具体的根拠は
示されていないこと,SSKは自社の使用水量を把握しておらず,市が独自に算出した予測値を追認したものにすぎないことから,市の予測が合理的であることの根拠にはならない。そもそも,市は,修繕船が2隻同時にドック入りする事態が生じる可能性の頻度を把握しておらず,そのような極めて限定的な場合の使用水量を前提と
する根拠は乏しく,仮に上記事態が生じるのが年に数回程度であれば,SSK自身が必要な水量を事前に貯水若しくは融通し又はドック入りの日を調整するなどして対応すべきであり,SSKも,そのような事態に対応する水量の確保までは要求していないし,上記事態が発生するかどうかと売上高ないし受注量には何らの相関関係も
ない。
また,平成24年水需要予測においては,用途別一日平均有収水
量を基に一日平均給水量を算定し,これを負荷率で割り戻して一日最大給水量を算定しているが,SSKの水需要については,用途別一日平均有収水量を算定する時点で一日最大給水量を採用した。こ
れは水需要予測の原則を大きく変更するもので客観的な根拠に乏しい上,上記一日最大給水量を更に負荷率で割り戻すのは二重計上であって不当に水需要が水増しされている。
本件各有識者意見は,上記のとおり根拠が示されていないSSK
に対する意見聴取結果を前提に,妥当である旨の結論を述べている
にすぎず,いずれも信用性がない。


小口需要について
平成10年から平成23年までの14年間で小口需要は4割減少
しており時系列傾向が認められる。小口需要が市の採用した過去2
0年実績の平均値にまで回復することはあり得ず,その度ごとに手法を変更している市の予測は信用できない。

d
中水道について
市は,水需要を増加させる方向に作用する業務営業用水や工場用水については,過去の水需要予測から増加すると予測する一方で,水需要を減少させる方向に作用する中水道については,平成12年水需要予測以降減少すると予測しており,市の水需要予測が数字合わせであ
ることを裏付けている。また,市は,控訴人ら本件収用地の居住者の生活を破壊する石木ダムの建設よりも中水道を含む水源開発に注力すべきであるのに,中水道普及目標を削減しており,不合理である。用途別一日平均有収水量以外の予測値について
a
負荷率について
市は,平成16年水需要予測までは過去10年間の実績値の平均
を採用していたが,平成19年水需要予測で過去10年間の最低値に,平成24年水需要予測では

過去20年間の最低値(ただし,平成6年の数値は異常値として除く。

に変更している。市の負荷率の)
実績が平成9年以降徐々に改善していることからすれば,上記変更に
合理性はなく,負荷率を80.3%に設定するという結論を先行させたものである。
設計指針は,負荷率についてどのような値を採用してもよいとするものではなく,原則として他の同規模都市において採用されている基準ないし過去の水需要予測において採用されている基準と同一のもの
を採用すべきとしているものと解すべきであるところ,平成24年水需要予測が採用した基準は独自のもので,市にとって都合の良い数値を採用したにすぎず,著しく妥当性を欠く。
b
安全率及び計画取水量について
確かに,平成24年水需要予測が採用した安全率は,設計指針に合致しているが,過去の各水需要予測においては5%としていたにもか
かわらず,平成24年水需要予測においてのみ10%としている点で不合理であり,市は本件事業を成り立たせるために都合の良い数値を採用したもので,安全率を突然変更したことがその証左である。
c
保有水源について
市の保有水源の変遷を見ると,市は,平成7年に不安定水源

との用語を使い始め,それから時期を置いて平成11年時点で三本木取水場の慣行水利権と岡本水源地の湧水を安定水源から不安定水源に変更しており,市が恣意的に保有水源を少なく見せるために不安定水源との概念を用いていることが明らかである。


本件各慣行水利権は,市の保有水源に含めるべきである。
すなわち,慣行水利権は,河川法87条により許可水利権とみな
されることから,許可水利権と同等の権利性を有し,渇水時に許可水利権からの取水が慣行水利権からの取水に優先するという関係にはない。そして,許可水利権は,権利の安定性によって安定水利権,
豊水水利権及び暫定豊水水利権に分類されるところ,慣行水利権は,豊水の際にのみ使用できる豊水水利権や,ダム設置等を前提に認められる暫定豊水水利権の性質と矛盾するから,安定水利権に含まれる。また,許可水利権は,基準渇水流量から維持流量と既得水利権の流量(水利流量)を控除した範囲でのみ許可されるところ,慣行
水利権も既得水利権に含まれるから,慣行水利権者の同意なく慣行水利権を削減して新規の水利権が許可されることはない。したがって,本件各慣行水利権は,法的に許可水利権と同等の権利性を有する。
さらに,取水実績を見ても,市の一日最大給水量は,平成9年か

ら平成26年まで,市及び被控訴人が安定水源と称する本件各
許可水利権の合計である7万7000㎥/日を常に上回っていると
ころ,市及び被控訴人が不安定水源と称する水源から最大で2
万から3万㎥/日を取水している上,平成19年の渇水時の取水量を調査すると,本件許可水利権と本件各慣行水利権からほぼ同じ割合が執行(行使)されており,実績面においても,本件各慣行水利権は,市の保有水源に含めるべき安定した水源であり,河川法

23条の許可要件も満たす。仮に,10年に1度の渇水時であった平成19年に取水量が減少したとしても,本件慣行水利権による取水量の全てを保有水源から排除するのは不合理である。
また,水道法8条,水道法施行規則6条10号の規定は,水道事
業経営の認可の条件に関するものであるところ,市は現に認可を受
けて水道事業を行っており,また,本件各慣行水利権は本件事業により新たに増える水源ではないから,本件各慣行水利権につき上記認可が必要となることはない。また,水道法施行規則6条10号は,河川法23条の規定に基づく流水の占用の許可を必要とする場合に許可を受けることを条件とするが,本件各慣行水利権は河川法87
条により同法23条の許可を受けたものとみなされることから,上記許可を必要とする場合に当たらないか,許可を受けるという条件を満たしている。仮に被控訴人が主張するように本件各慣行水利権について河川法87条のみなし許可ではなく同法23条の許可が必要であると解しても,本件各慣行水利権について許可を申請すれば,
許可の要件を満たし,許可を受けることが確実であると見込まれる。したがって,上記各法条は,本件各慣行水利権を保有水源に含めない理由にはならない。

市は,平成24年水需要予測において小佐々地区等の水需要を含めているから,少なくとも小佐々地区等の保有水源量を明らかにし,これを有効活用するための費用を算定することが不可欠であるが,これ
を怠っている。

費用対効果分析について
本件事業による便益を検討するに当たっては,河道整備による便益を含めるべきではない。そして,川棚川の河道整備は平成14年までにほぼ完了しており,これによって100年に1度の豪雨が生じたとしても,
想定される水位は堤防高を超えないのであるから,川棚川の治水上,本件事業による便益は存在せず,本件事業の費用便益比率は0であり,仮に県の算定を基礎としても,不特定便益を除けば0.62,不特定便益を合理的に検討すれば0.66となり,要する費用に釣り合う便益が得られないことは明らかである。なお,同費用対効果分析の基礎となる事
実は本件事業認定当時から存在した。
そもそも,河川の流量は季節や自然気候に応じてその都度変化し,流域の住民や動植物は,その変化に応じて生活を営み生態系を維持しているのであるから,ダム建設は河川の流量の正常な機能を損なうものでしかなく,便益として評価することそれ自体が現在の社会常識に反する。し
たがって,流水の正常な機能の維持などとの目的を掲げ,これにつき便益として評価していること自体が不合理である。


起業地がその事業の用に供されることによって失われる利益について本件事業により,控訴人らが本件起業地内において培ってきた暮らし(生
活)が奪われることになる。こうした生活は,控訴人らの先祖からの継続的な努力によって成り立っているものであり,控訴人らにとっては,先祖代々住み続けてきた本件起業地内の土地に自身も住み続け,家屋や田畑,墓を守り,これらを次の世代に引き継ぐことが,控訴人らの生き方の根幹であり,控訴人らが尊厳ある人間として自律的に生きる上での包括生活基盤というべ
きものである。控訴人らは包括生活基盤としての本件起業地内に住み続ける利益を有しており,これは,憲法13条に基づく決して侵されることのない
権利ないし価値である。そして,控訴人らは,本件事業によって,本件起業地内の豊かな自然を破壊され,本件起業地から移転し新しい生活に慣れることを強いられることによって精神的苦痛を被ることになる。


比較衡量について
本件起業地が本件事業の用に供されることによって得られる公共の利益は,
利水及び治水のいずれの面においても存在しない。他方で,失われる利益は,憲法においても保障される,人が人として生きていくための権利(個人の尊厳ないし人格権)であり,金銭では贖うことのできない価値であって,最大限の尊重を要する権利ないし価値である。
したがって,前者(得られる利益)が後者(失われる利益)に優越するこ
とはなく,法20条3号の要件を満たさない。


代替案と比較した計画の合理性について
本件起業者及び被控訴人による代替案の検討は,以下の点において合理性がない。


検討すべき代替案を除外した点
仮に流下能力を向上させる必要があったとしても,堤防の嵩上げ又は堤防の嵩上げと河道掘削を併用することにより実現することができる。そして,本件ダム検証においては上記併用案が代替案として検討されたが,本件事業認定申請においてはこれらが除外されている。これは,県が石木ダムありきの方針に基づき,検討していた上記各代替案をあえて代替
案から除外することにより,石木ダムの形式的優位性を作出したものである。

本件事業の事業費の算定方法について
本件起業者は,代替案との比較において,石木ダムの事業費について,
残事業費に治水割合47%を乗じた額と維持管理費等とを合計して77億円と設定している。しかし,本件事業に利水目的の必要性がないこと
は明白であること,石木ダム建設事業自体は利水目的と治水目的で不可分一体であることから,少なくとも残事業費142億円全額を上記事業費として計上すべきである。さらに,工期の延長や建設費用の高騰による費用の増加が見込まれることから,当該増加分も加算すべきである。ウ
代替案の事業費の算定方法について
本件起業者は,各代替案の事業費に石木ダム中止に伴って発生する費用として62億円を計上しており,その内訳は,①付替道路完成にかかる費用,②既買収地の維持管理費用(50年分),③仮設水道の維持管
理費用(50年分)及び④過年度事業費に対する利水負担費用(県が市に支払う可能性のある費用)とされている。しかし,①は石木ダムを建
設しない場合に新たに発生する費用ではない。②,③は法令等の根拠なく50年間という長期間の費用を計上しており,かつ②は買収地の活用や譲渡等を検討していない。④は,県と市の間で費用支出について合意しておらず,県が負担する義務のない費用である。

代替案の内容について
川棚川の越流による洪水被害を防止するための方法としては,洪水時にのみ貯水できる小容量の貯水池を設け,又は,川棚川の一部区間の堤防高を嵩上げするなどの方法によりピーク流量を調整する方法があるにもかかわらず,本件起業者や被控訴人の検討する代替案は,いずれも石木ダムと同等の容量を確保しようとするもので,過大である。また,被控
訴人主張の①河道改修案は,従前及び将来の河道整備について考慮しておらず,過剰な内容になっている。
3
争点③(法20条4号の要件該当性)について
(被控訴人の主張)



本件事業は,法20条4号にいう土地を収用し,又は使用する公益上の必要性があることという要件を充足する。


法20条4号は,申請事業が同条1号ないし3号までの各要件に合致するものであってもなお,収用又は使用という手段を採ることについて公益上の必要に欠けるところがないかを判断するものであり,具体的には,①申請事業を早期に施行する必要性があること,②収用又は使用しようとする起業地の範囲が申請事業の公益性の発揮のために必要な範囲に存すること,③収用
又は使用の別の合理性等が考慮される。そして,公益性に関する判断は,処分行政庁の専門技術的,政策的判断に基づく自由裁量に属し,裁量権の範囲を超え又はその濫用があると認められる場合に限り違法とされる。⑶

この点,本件事業は早期に施行する必要性が高い。
すなわち,本件事業には,平成25年4月末時点において約139億円が
投ぜられ(平成27年3月末時点で158億円)
,本件起業地の約80%が
既に県によって買収され,県が収用裁決手続を進めていること,川棚川流域は,その地形的特徴から洪水被害が頻発しており,市においては安定して取水できる水源の給水能力が不足し,不安定取水(流水が正常流量を超えたときにのみ取水することができる豊水水利権等の取水)に依存している状況に
加え,更なる供給能力の不足が見込まれる将来の水需要への対応が必要となることから,川棚川流域の洪水被害の軽減,流水の正常な機能の維持及び水道用水の確保のためにできるだけ早期に本件事業を行う必要があり,市や川棚町,市民団体等も石木ダムの早期完成を強く要望している。
また,市では,既設ダムやこれと一体化した付帯施設の老朽化が激しく,
経年による土砂の堆積による有効貯水率の減少も見られるところ,既存施設の更新や土砂浚渫をするためには,ダムの水位を下げる必要があるが,市の水源には余裕がないため,これまで実施ができていなかったところ,本件事業で石木ダムが完成することによって既設施設の更新等が実現する。⑷

本件起業地の範囲は,本件事業の事業計画に必要な範囲である。また,収用の範囲は,全て本件事業の用に恒久的に供される範囲に留められており,
収用又は使用の別も合理的である。
さらに,ダムの調節方式について,技術基準解説は,小流域のダム等では自然調節方式をとることが望ましいとするところ,石木ダムを含む県が管理するダムは上記小流域のダムに該当することから,石木ダムにおいても自然調節方式を採用したもので,適切である。



なお,本件覚書について,事業認定に関する処分は,事業の公益性,土地利用の合理性等,法20条各号に定める要件を全て備えているか否かを審査するものであって,起業地内の権利関係や当該権利者の特殊個人的な事情は考慮すべき事項ではないから,本件起業地の地権者全員の書面による同意等の不存在は,本件事業認定の違法事由に当たらない。

(控訴人らの主張)


被控訴人の主張は,否認ないし争う。



本件事業を早期に施工する必要性はない。
すなわち,利水面に関して,市の水需要に対して保有水源が不足している事実はなく,治水面に関しても,石木ダムを建設しなくても川棚川整備計画
に基づく河道整備や堤防の嵩上げによって水害を防止することができる。⑶

また,本件起業地の範囲は最小限の範囲となっておらず,収用の範囲にも合理性がない。
利水面に関しては,市の水需要は充足されている以上,起業地が水需要に
応えるという公益性発揮のために必要最小限の範囲とはいえず,収用と使用の別についても,被控訴人は,控訴人らが奪われることになる生活利益や,破壊されることになる人格的利益を個別具体的に検討することなく,本件収用地の範囲を合理的と判断しており,根拠に乏しい。また,治水面に関しては,仮に本件起業者の想定する年超過確率1/100の降雨が発生しても,
川棚川の流量が最大になる1時間分の流量を調整すれば足りるにもかかわらず,石木ダムが自然調節式ダムであり,ピーク時の流量を調節するピークカ
ット方式による治水を行うことができないため,195万㎥という過大な洪水調節容量を有するダムの建設を計画しており,技術的な観点に照らし,最小限の土地の収用となっていない。


さらに,本件覚書は,地元住民が石木ダム建設に関し激しい反対運動をする中で,県が石木ダム建設のための予備調査を進めるため,予備調査に対す
る地元住民の同意を得る目的で締結されたものであり,当事者間の信義則として当事者の法律関係を法的に拘束する効力がある。したがって,県が本件事業を実施する場合には,本件覚書に基づき,川棚町川原郷,岩屋郷及び木場郷の全地権者の書面による同意を得て行わなければならず,又は少なくとも上記同意を得るための十分な努力をしなければならない。このような同意
又は同意に代わる十分な努力を欠く本件事業は,当事者間の信義則に反し,法20条4号に違反する。
第3章
第1

当裁判所の判断
争点①(控訴人J,控訴人居住者ら及び控訴人元居住者らの原告適格(本案
前の争点)
)について

1
行政事件訴訟法9条1項にいう処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸
収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益も法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによる
ことなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることになる利
益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)

(以上につき,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)

2
土地収用法は,公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的とする(法1条)
。そして,同法は,起業者が,事業の
用に供するため土地を必要とする場合において,その土地を当該事業の用に供
することが土地の利用上適性かつ合理的であるときは,当該土地を収用又は使用することができ(法2条)
,必要かつ相当である場合においては,その土地
にある地上権等土地に関する所有権以外の権利,土地の上にある立木,建物等その他土地に定着する物件等に関する所有権以外の権利等,土地に定着する物件等を収用又は使用することができる(法5条ないし7条)ことから,土地所
有者の他,収用される土地又は権利に関して質権等の権利を有する者や収用される物件等に関して所有権その他の権利を有する者を関係人として(法8条3項)
,収用又は使用によって土地所有者等及び関係人が受ける損失は起業者が補償しなければならないとし(法68条,138条)
,関係人に対しても,土
地所有者等と同様,補償等の周知のための措置(法28条の2)や土地調書及
び物件調書作成時の立会(法36条2項)
,収用裁決申請についての意見書の
提出(法43条1項)
,収用委員会の審理において意見を述べる権利(法63

条1項)等の手続を保障している(138条)

このように,土地収用法は,収用又は使用の対象となる土地又はこれにある権利ないし物件に所有権その他財産的権利を有する起業地内の土地所有者及び関係人について上記のような各規定を設けることにより,公共の利益の増進と私有財産との調整を図るものであるところ,これらの者は,仮に違法な事業の認定がされると,その財産的権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれが生じることになるから,事業の認定の取消しを求める訴えの原告適格を有するものと解するのが相当である(したがって,控訴人所有者らは,本件起業地内に土地又は建物を所有又は共有しているところ,本件事業認定の取消しを求め
る原告適格を有する。。

他方,土地収用法は,公共の利益と起業地内に個々人が有する所有権その他財産的権利の調整を図ろうとするものであり,補償の対象となる損失は財産権に限られること(憲法29条3項参照)に照らしても,起業地内に財産的権利を有しない者の人格権又はこれに類する権利等を個々人の個別的利益として保
護すべきものとする趣旨を含むとはいえない。
3⑴

控訴人居住者らについて
控訴人居住者らは,控訴人所有者らが所有する建物に,控訴人所有者らと共に居住する者である(甲E3,E4の1,E7,E9,E10の1,E12の1,E13の1,E14~E16,弁論の全趣旨)ところ,これらの者
は,土地にある建物について使用貸借による権利を有する者である可能性があり,本件事業により本件起業地内にある建物に居住することができなくなる不利益を被ることは否定できないところである。しかし,土地収用法の定める関係人に対する手続保障の内容からすれば,同法の使用貸借による権利とは,建物所有者とは別個独立に補償を受けるべき正当な利益を有する権利
をいい,建物所有者と共に居住している者については,その受ける不利益は所有者らの損失に含めて評価されるべきものであって,建物所有者とは別個
独立に補償を受けるべき正当な利益を有する等の事情がない限り,土地収用法上保護されるべき個別的利益を有するとはいえず,同法にいう関係人にも含まれないと解するのが相当である。そして,本件において,控訴人居住者らが控訴人所有者らとは別個独立に補償を受けるべき正当な利益を有すると認めるに足りる証拠はない。

そうすると,控訴人居住者らは,起業地内に個々人の個別的利益として保護すべき財産的権利を有しないというべきであるから,本件において原告適格があるということはできない。


控訴人元居住者らについて
控訴人元居住者らは,起業地内に個々人の個別的利益として保護すべき財
産的権利を有しないから,本件において原告適格があるということはできない。同人らの主張は,独自の見解によるものといわざるを得ず,前記2で説示したところに照らし,採用の限りでない。


控訴人Jについて
控訴人Jが本件起業地内に建物を所有していると認めるに足る証拠はない。
また,証拠(甲E14)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人Jは元居住者であると認められるが,上記⑵のとおり,元居住者であることから本件において原告適格があるということはできない。
4
以上によれば,控訴人居住者ら,控訴人元居住者ら及び控訴人Jについては,いずれも本件事業認定の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するというこ
とはできないから,上記控訴人らの各訴えはいずれも不適法というべきである。第2
1
争点②(法20条3号の要件該当性)について
土地収用法の目的(1条)等に鑑みれば,法20条3号に定める事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであることとは,当該土地が
当該事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益と,その土地が当該事業の用に供されることによって失われる私的な利益及び公共の利益を比
較衡量した結果,前者が後者に優越することをいうものと解するのが相当である。そして,その判断は,具体的には事業計画の内容,事業が達成されることによってもたらされる公共の利益,起業地の状況やその有する私的及び公共的価値等の多種多様な利益の比較衡量に基づく総合判断として行われるべきものであって,その性質上,政策的,技術的な見地から判断することが不可欠であ
る。そうすると,このような判断は,事業の認定をする行政庁の裁量に委ねられているというべきであり,裁判所が,これを審査するに当たっては,それが裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事
情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である(最高裁平成16年(行ヒ)第114号同18年11月2日第一小法廷判決・民集60巻9号3249頁参照)


また,取消訴訟は,行政処分に対する事後審査を行うものであることから,行政処分の適法性は当該処分がされた当時を基準として判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第132号同34年7月15日第二小法廷判決・民集13巻7号1062頁参照)
。したがって,本件事業認定の適否を判断するに当
たっては,同認定時に存在していた事実等を基礎とし,事業認定後に生じた事
実は,その処分当時の事情を推認させる間接事実等として役立つ限りにおいて斟酌することになる。
2
起業地がその事業の用に供されることによって得られるべき利益について⑴

洪水調節効果(治水事業)としての必要性について

技術基準(4~5頁)は,洪水防御計画は,河川の洪水による災害を防止又は軽減するため,計画基準点において計画の基本となる洪水のハイド
ログラフ,すなわち基本高水を設定し,基本高水に対して計画の目的とする洪水防御効果が確保されるよう策定するものとし,その河川に起こり得る最大洪水を目標に定めるものではないことに留意し,必要に応じて計画の規模を超える洪水(超過洪水)の生起についても配慮するものとした上で,河川整備基本方針においては,計画基準点における基本高水のピーク
流量とその河道及び洪水調節施設への配分並びに主要地点での計画高水流量を定め,河川整備計画においては,段階的に効果を発揮するよう目標年次を定め,一定規模の洪水の氾濫を防止し,必要に応じそれを超える洪水に対する被害を軽減する計画とするものとする。そして,基本高水は,原則として,計画規模を決定した上,計画基準点ごとに実績降雨(群)から
対象降雨を選定して設定するものとしている。
(乙C1,弁論の全趣旨)
本件事業認定の前提とされた川棚川整備基本方針では,概ね原判決別紙10の手順で,計画規模を1/100とし,降雨解析及び流出解析を行って,基本高水流量を1400㎥/秒と決定し,このうち流域内の洪水調節施設において270㎥/秒を調節するものとし,さらに,川棚川整
備計画においては,計画規模を川棚川石木川合流点より下流部は1/100とし,上流部は1/30とした上で,石木ダム建設による調節量を190㎥/秒としたものである。
(乙A4〔2-1・2―4〕


基本高水流量の算定方法について
計画規模について

a
長崎県の二級河川は,210水系,341河川,約1024㎞に及び,そのほとんどが,地理的・地形的要因により中小河川であり,山から海までの距離が短く,勾配が急であるため,洪水時には激流となって流下するが,平常時には流量が少ないという特徴がある。そして,
長崎県では,台風や豪雨等により頻繁に水害に見舞われ,昭和28年から昭和62年までの間に11回にわたり死者・行方不明者が生ずる
水害を被った(ただし,昭和38年豪雨の主な被災地域は五島であった。。その後も,平成3年及び平成11年に,台風や豪雨により死者)
・行方不明者が生じ,床上浸水を生じた水害は他にも発生した。
(乙
C6,C7)
川棚川については,過去に,原判決別紙13のとおり洪水被害が生
じた(同別紙の雨量欄上段記載の雨量は,川棚川流域平均雨量で
あり,同欄下段記載のかっこ書は,上記雨量を年超過確率に換算したものである。なお,昭和23年洪水の24時間雨量は,川棚川流域の当時の具体的な時間雨量の記録が存在しないため,当時の記録が存在し川棚川に最も近い佐世保観測所の24時間実績雨量から算出された
ものである。。
)(乙A4〔2-4のⅡ-4頁〕
,弁論の全趣旨)
川棚川流域は,主に川棚町の市街地である下流部と波佐見町の市街地である上流部に人口が集中しており,佐世保市に隣接することや交通網が発達していることにより下流域を中心に市街化が進んでいる。山道橋付近から下流の流域は,川棚町の都市計画区域に指定されてお
り,上・中流域の一部は波佐見町の都市計画区域に指定されている。(乙A4〔2-5の3-2頁〕
,A15〔2-1の1頁〕

川棚川は,掘込河道の区間が多いが,最下流部に位置しJR川棚駅に近い江川橋(原判決別紙7)下流左岸部には築堤河道の部分があり,その背後には人家が立ち並んでいる。また,山道橋・江川橋間及び江
川橋下流の各右岸部は,河川沿いの地盤高は堤防高と概ね同じであるが,背後地の住宅等の地盤高が計画高水位よりも低い部分が存在する。(乙A40の2〔1・17頁〕
,弁論の全趣旨)
b
県は,昭和31年洪水を契機として,昭和33年から,川棚川について中小河川改修事業として同洪水の実績に対応する形で山道橋地点における計画高水流量を1030㎥/秒と定め,築堤・掘削等の施工
に着手した。この時点における計画規模は1/30であった(なお,当時は,既往洪水の最高水位と最大流量を基礎とした計画洪水流量を基準にこれを安全に流下させるよう治水計画が策定されていた(既往最大主義))(乙A4〔1-1の3頁,2-4のⅡ-3頁〕
。。
,弁論の
全趣旨)
昭和39年に現行河川法が制定され,河川管理者は,その管理する河川について,計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施について基本となるべき事項,すなわち工事実施基本計画を定めておかなければならないとされ,工事実施基本計画には基本高水やその河道・洪
水調節ダムへの配分,主要な地点における計画高水流量に関する事項等について定めなければならないとされた(平成9年法律第69号による改正前の河川法16条1項,平成9年政令第342号による改正前の河川法施行令10条2項2号)

県は,昭和42年洪水が発生したことを受け,昭和48年に石木ダ
ムの実施計画調査に着手し,河川改修と石木ダム新設の組合せによる洪水調整計画を定めた。石木ダムの工期は当初は昭和48年度から昭和54年度までとされていたが,計画は遅延し,県は昭和50年から建設事業に着手した。その際,計画規模を1/100と設定し,また,山道橋地点(石木川の川棚川合流地点)における基本高水のピーク流
量は1390㎥/秒,河道への配分流量は1020㎥/秒とし,石木ダム建設予定地点において計画高水流量280㎥/秒のうち210㎥/秒の洪水調節を行うものとした。そして,昭和51年,全体計画について建設大臣の認可を受けた。
(乙A4〔2-3,2-4のⅡ-3
頁〕
,15〔2-2〕


県は,平成9年11月に策定した工実計画においても,計画規模を1/100とした。なお,このとき,流出計算手法の見直しにより,
洪水調節流量を変更した。
(甲C13,乙A15〔2-3〕

県は,平成11年,県評価指標を策定した。県評価指標は,流域重要度を評価する指標とそれに対応する計画規模の下限値を原判決別紙14のとおりとし,計画規模の設定に当たっては,項目①ないし⑤の5つの評価項目のうち3項目以上適合することを基本とするが,県庁所在地を始めとする県内の主要な都市を流れる河川である場合,過去に大規模な洪水被害を受けている場合,大規模開発が計画されている場合等流域の状況を総合的に判断して決定するものと定めた。
(乙A
4〔2-4のⅡ-10〕
,15〔2-3-1の32頁〕
,弁論の全趣旨)

川棚川についての広域基幹河川改修事業は,平成14年度に改修がほぼ終了した。
(乙A4〔2-4のⅡ-127頁〕

県評価指標(原判決別紙14)に基づく川棚川の各指標の数値は,次のとおりである。県は,項目③以外の4項目が1/100の下限値以上となることに加え,既往洪水の規模及び将来の増雨を見込んで,
1/100の計画規模が妥当であるとした。
(乙A4〔2-4のⅡ-
10,11頁,証人M〕
項目①

想定氾濫面積

472ha(昭和50年頃の河道状況下に

おいて想定される氾濫面積)
項目②

想定氾濫区域内の宅地面積

59ha(平成15年住宅・

土地統計調査による県の1戸当たりの敷地面積×想定氾濫

区域内の家屋棟数)
項目③

想定氾濫区域内の人口

2万7000人(平成12年国勢

調査地域メッシュ統計)
項目④
想定氾濫区域内の資産額

927億円(想定氾濫区域内の

家屋,家庭用品,農漁家,事業所及び農作物資産の合計
値)

項目⑤

想定氾濫区域内の工業出荷額

70億円(平成11年の

『長崎県の工業』における製造業従業員数1人当たりの
製造品出荷額〔町別〕×想定氾濫区域内の製造業従業員数)
県は,平成18年3月,整備計画を策定するに当たり,上流と下流の資産を確認し,上流から整備しなくてよいかどうかを確認するため平成17年当時の河道状況を基に氾濫シミュレーションを実施した川棚川想定氾濫区域図等を作成した。この中では,想定氾濫面積は約183ha,宅地面積は約18ha,人口は約900人,資産額は約281億円,工業出荷額は約21億円とされた。
(甲C11,証人M)

c
技術基準(5頁)は,計画規模は,河川の重要度を重視するとと
もに,既往洪水による被害の実態,経済効果等を総合的に考慮して定めるものとする。
(乙C1)
技術基準解説(29・30頁)は,計画規模について次のとおり
とする。計画規模は計画対象地域の洪水に対する安全の度合いを表
すものであり,それぞれの河川の重要度に応じて上下流,本支川でバランスが保持され,かつ全国的に均衡が保たれることが望ましい。上記重要度は,洪水防御計画の目的に応じて流域の大きさ,その対象となる地域の社会的経済的重要性,想定される被害の量と質,過去の災害の履歴などの要素を考慮して定めるものである。河川整備
基本方針の策定に当たって,計画規模を決定する際のおおよその基準として,河川をその重要度に応じてA級ないしE級の5段階に区分した場合の当該区分に応じた対象降雨の規模の標準は,原判決別紙15のとおりである。一般に,河川の重要度は,一級河川の主要区間においてはA級又はB級,一級河川のその他の区間及び二級河
川においては,都市河川はC級,一般河川は重要度に応じてD級又はE級が採用されている例が多い。なお,洪水により特に著しい被
害を被った地域にあっては,既往洪水を無視して計画規模を定めることは一般に好ましくなく,したがって,このような場合には,その被害の実態等に応じて,民生安定上,この実績洪水規模の再度の災害が防止されるように計画を定めるのが通例である。ただし,この場合においても,上下流及び本支川のバランスが保持されるよう配慮する必要がある。
(乙C3)
中小河川手引き(17頁)は,計画規模の設定に当たっての基本
方針として,河川の大きさ,流域の社会経済的重要性,想定される被害の実態,過去の災害の履歴,経済効果に加え,上下流バランス,
流域の将来の姿などに配慮し,また,河川の重要度を評価する流域の指標として,流域面積,流域の都市化状況,氾濫区域の面積,資産,人口,工業出荷額等が考えられるが,このほか水系として一貫した上下流,本支川でバランスが保たれ,また都道府県内の他河川とのバランスにも配慮して決定するものとするとし,参考事項とし
て,公平な安全度確保の観点から河川形態又は地形条件に応じて計画規模に差をつけるという考え方があることを紹介し,河川形態により計画規模を変更した例として原判決別紙16の内容を示す。
(乙
C2)
工実手引き(16~21頁)は,計画規模について次のとおりと

する。計画規模決定に当たっては,河川の大きさ,流域の社会経済的重要性,想定される被害の質量,過去の災害の履歴,経済効果に加え,流域の将来の姿などを配慮する。ただし,計画規模は,やむを得ない場合を除き原則として年超過確率1/30を下回らないように設定する。河川の重要度を評価する流域の指標として,流域面
積,流域の都市化状況,氾濫区域の面積,資産,人口,出荷額等が考えられるが,このほか水系として一貫して上下流,本支川でバラ
ンスが保たれ,また周辺河川とのバランスにも配慮して決定する。さらに,必要に応じ,計画規模を上回る洪水により被害を受けている場合,利水上のダム計画があって多目的ダムとすることが適当である場合等の要素を総合的に判断して定める。認可済みの二級水系の約240河川における計画規模と流域の重要度評価指標(項目①
ないし⑤)の相関関係を示すと,原判決別紙17の○点及び●点の分布のとおりとなり,同分布状況から計画規模の下限の平均的値と項目①ないし⑤の範囲を示すと,同別紙の赤線のとおりとなる。その計画規模別の評価指標の範囲は,原判決別紙18のとおりである(なお,上記の分布について,計画規模と各指標との関係は,ばら
つきが大きく,相関関数は0.3から0.4程度の値であり,回帰式表示はあまり意味を持たない。。これに県評価指標に基づく川棚)
川の項目①ないし⑤の数値と計画規模(1/100)を位置付けしたものが,原判決別紙17の青字部分である。計画規模を決定するに際しては,当該河川の流域の状況及び県内河川の計画規模とのバ
ランス等を総合的に配慮するが,上記各指標により与えられる計画規模の関係をも参考にするものとする。
(乙C9,10)
d
計画規模の定め方については法令上の基準はなく,上記技術基準
等各資料は法令の趣旨に則って基準を示しているにとどまり,また,
同各資料は複数の基準を示しており,かつ同等の要素を考慮する場合にもその内容には差異がある(例えば,技術基準解説では二級河川の計画規模は最大で1/100が目安とされているが,中小河川手引きでは中小河川の計画規模は最大で1/150が目安とされている。。したがって,計画規模の設定は,技術基準等各資料に示さ)

れた範囲を一つでも逸脱すれば直ちに不合理であるというものではなく,技術基準等各資料に照らし類似河川において一般に採用され
ている計画規模の範囲を理由なく逸脱している場合に合理性を欠くものというべきである。


技術基準及び技術基準解説によれば二級河川においてはC級ない
しE級が採用されている例が多く,C級の例が多いとされる都市河川とD・E級の例が多いとされる一般河川の区別については法的な
定義が存在しない(弁論の全趣旨)ところ,川棚川流域は一定程度市街化が進んでいること等(なお,都市計画区域に指定されていることは,一体の都市として総合的に整備し,開発し,及び保全する必要がある区域とされていることを示すものである。都市計画法5条1項参照)からすれば,川棚川が都市河川相当のC級であると判
断したことが直ちに不合理であるということはできない。
また,技術基準解説においては,特に著しい被害を被った地域に
ついては実績規模程度の災害の再発防止のために計画が設定されることが通例であるとされているところ,川棚川においては過去に複数回の洪水被害が生じており(原判決別紙13)
,とりわけ,昭和

23年洪水の24時間雨量の年超過確率は1/80程度であったこと,平成2年洪水においては総被害額約38億円,全半壊10戸,床上・床下浸水約400戸という被害があったことに鑑みれば,過去の洪水被害をも考慮して,実績規模に近似した1/100を計画規模として設定したことが,技術基準及び技術基準解説に照らして
不合理であるということはできない。


また,中小河川手引きに示された原判決別紙16の内容は,河川
形態等に応じて計画規模に差をつけるという考え方があることを紹介するための参考例という位置付けであり,中小河川手引きが直ち
に同表を計画規模の基準という位置付けで示したものとはいえないものの,これによれば一般都市域を流域とする築堤河道の河川の基
本的な計画規模は1/100であるとされているところ,川棚川流域は一定程度市街化が進んでおり,中でも比較的市街化の進んだ下流域に築堤河道の区間があってその背後に人家が立ち並んでいること等からすれば,川棚川流域が一般都市域という概念と文言上明らかに矛盾するとまではいえず,本件の計画規模が中小河川手引きに
おける上記参考事項と矛盾するものとはいえない。


さらに,工実手引きについて,まず,同手引きが示す原判決別紙
18の計画規模別の評価指標と比較すると,原判決別紙14の県評価指標は,同じ計画規模について氾濫面積など共通する項目におい
て小さい数値を基準としているが,原判決別紙18は計画規模の下限値の平均値を示すものであり,原判決別紙17のとおり,川棚川と同一の指標値又はそれ以下の値であっても,同じ計画規模を採用している河川がまま見られ,評価指標の各要素の数値が原判決別紙18に記載されたものより小さい場合に計画規模を高くすることが
許容されていないとはいえないし,県評価指標及びそれに基づく本件事業の計画規模が,原判決別紙17の示す二級河川の計画規模に関する全国的な分布に照らして過度に高い数値であるということもできない(なお,工実手引きは,原判決別紙17の図に示した計画規模と各指標との関係はばらつきが大きく,回帰式表示はあまり意
味を持たないとするが,計画規模と各指標の関係性を回帰分析により特定の回帰式で表示することが意味を持たないことをいうものにすぎず,計画規模の決定に際して,原判決別紙17の図のとおり各指標により与えられる計画規模の関係も参考にするものとしており,同図を活用することが有意義であることを述べていることは明らか
である。。また,工実手引きにおいても,計画規模決定に当たって)
配慮すべき要素として,過去の災害の履歴が挙げられており,この
ことは当然に過去の災害の発生の原因となるその地域の河川の特性を考慮すべきことを含むと解されるところ,長崎県の二級河川の勾配が急であることに照らすと,越水ないし溢水の程度が同等であっても,増水が緩やかな河川と比較して避難等の被害の予防がより困難であり,人的・物的被害を受けやすいといえる。さらに,同手引きは,計画規模について,下限値を示しており,やむを得ない場合を除き原則として年超過確率1/30を下回らないことなどとしていることに照らすと,年超過確率を低くすることについて慎重な態度を示しているといえる。以上によれば,県評価指標が,工実手引
きが示す下限値を採用しなかったことに合理性がないということはできない。
そして,川棚川の計画規模について,川棚川の各指標の数値を県
評価指標に当てはめた場合3項目以上が1/100となり,原判決別紙17のとおり,これは認可済みの他の河川の分布を逸脱するも
のとはいえない。
この点,県は川棚川の計画規模を決定するに当たり氾濫面積の前
提となる河道状況を昭和50年当時のものとしたが,県は,全体計画を策定した際に,河川改修と石木ダムの新設の組合せによる洪水調節計画を採用した(その内容は工実計画にも引き継がれた。
)と

ころ,石木ダムの新設は,河川改修と相まって所定の洪水調節機能を果たすことが予定され,これと一体のものとして計画されていた。実際の事業の進行としては,石木ダムは昭和54年度完成予定の計画が遅延し,他方で河川改修は平成14年度にはほぼ終了したものであるところ,上記のとおり石木ダム建設と河川改修事業は一体の
ものとして洪水調節機能を果たすことが計画されていたのであるから,計画に基づき先に進行した河川改修の結果を考慮した場合に想
定氾濫区域が減少することになったとしても計画を実施する過程で生じる当然の効果にすぎず,それによって当初設定した目標である計画規模を変更すべきものとはいえず,県が,河川整備基本方針及び河川整備計画を定めるに当たり,従前定めた計画規模を前提にしたとしても不合理であるとはいえない。
したがって,県において一連の事業の開始時である上記全体計画
の策定時(昭和50年)頃の河道状況を前提に想定氾濫面積を算定したことに合理性がないということはできない。
なお,県土木部河川課作成に係る平成17年3月付け河川関係説明資料集(案)の一部である河川整備基本方針策定における計画規模設定の基本的な考え方(甲C14)には,計画規模の設
定に当たり項目①ないし⑤のうち3項目以上適合することを基準とし,

その際,流域内で大規模開発が計画されているような場合には,現況での評価とあわせて将来の評価を行った上で決定するものとする。

との記載があるが,項目②ないし④(想定氾濫面積内の宅地面積,人口,資産額及び工業出荷額)について年超過確率を高くすべき事情が既にある場合にこれを考慮すべきとする趣旨のものにすぎず,現況の河道を前提としなければならないとするものではない。

仮に,平成17年当時の河道状況を基にした想定氾濫面積等を県
評価指標に当てはめた場合,項目①想定氾濫面積及び項目④資産額が計画規模1/100となり,項目②宅地面積,項目③人口及び項目⑤工業出荷額は計画規模1/50となる。県評価指標は,3項目以上適合することを基本とするものの,過去に大規模な洪水被害を
受けている場合等には流域の状況を総合的に判断して決定するものと定めているのであるから,川棚川の過去の洪水被害に照らせば,
平成17年当時の河道状況を基にした想定氾濫面積等を前提としても,計画規模を1/100とすることが不合理であるということはできない。
以上のとおり,県が川棚川の計画規模を1/100と設定したこ
とが,工実手引きに照らして不合理であるということはできない。
さらに,県内の他の河川との均衡について検討すると,河川整
備基本方針においては,県評価指標に照らして1/100相当と
される項目が3以上ある河川については,いずれも計画規模を1
/100と設定している(乙A4〔2-4のⅡ-13頁〕
)から,
川棚川の計画規模を1/100と設定することが,県内の他河川

との均衡を欠き不合理であるということもできない。
また,都道府県ごとに河川の本数や規模等は異なるところ,河
川管理者は,河川整備基本方針及び河川整備計画の策定の際に参
考とすべき評価指標を作成するに当たり,全国的な基準等を基礎
として,その地域的特性等を考慮する裁量を有しているものと解

されるから,単純に他の都道府県の評価指標に当てはめて過大で
あるからといって,そのような計画規模の設定が直ちに全国的な
均衡を欠く不合理なものであるとはいえない。

なお,川棚川の計画規模は,昭和30年代には1/30であった
ところ,県が石木ダム建設事業に着手した時点以降1/100に変更されたが,計画規模が変更されたことから直ちに変更後の計画規模が合理性を欠くということはできない。
また,川棚川上流域の計画規模は1/30とされているが,技術
基準(5頁)及び技術基準解説(30頁)
,中小河川手引き(18

頁)並びに工実手引き(16頁)は,いずれも上下流のバランス
(均衡)ないし整合性を保持すべき旨記載している。一般に下流域
の方が都市化の進行により洪水の影響が大きいことに加え,単純に計画規模をそろえることは多くの場合,超過洪水の生起に際して,上下流の間では下流が危険になるのが一般であるので,この点も考慮して整合性を保つよう配慮すべきであるとされている(技術基準解説30頁参照)ことに照らせば,段階的に河川改修等を実施し計
画規模を向上させる場合に,下流域から先行して計画規模を引き上げることが不合理であるということはできない。


以上のとおり,県が川棚川の計画規模を1/100と設定したこ
とが合理性を欠くということはできない。

対象降雨の選定について

a
対象降雨(計画降雨)は,降雨量,時間分布及び地域分布により表す。
このうち,降雨量は,計画規模及び降雨継続時間を定めることにより決定するところ,降雨継続時間は,流域の大きさ,降雨の特性,洪
水流出の形態,計画対象施設の種類及び過去の資料の得難さ等を考慮して決定する。
また,時間分布及び地域分布は,既往洪水等を検討して選定した相当数の降雨パターンについて,その降雨量を計画規模に等しくなるように定める。その方法としては,過去に生起したいくつかの降雨パタ
ーンをそのまま伸縮して時間分布と地域分布を作成し,これらが統計的に生起し難いものであると判断されない限り採用することが考えられ,計画継続時間内雨量と洪水到達時間(流域の最遠点から雨水が集中流下する時間)内雨量を計画確率年に相当する雨量の値により引き伸ばす方法(Ⅲ型引き伸ばし)等がある。

(本項につき,技術基準5頁,技術基準解説32頁,中小河川手引き34,39~41,45頁,弁論の全趣旨)

b
県は,水文資料の収集整理を行い,川棚川流域平均雨量を算出した。また,①ピーク時差による方法,②重心法,③等流流速法及び④クラーヘン式による方法の4手法により川棚川の洪水到達時間を算定した結果,その平均は,①が3.1時間,②が3.8時間,③が1.9
時間,④が2.8時間であり,概ね2時間から3時間の範囲であったことから,洪水到達時間を3時間とした。さらに,実降雨における一雨降雨の継続時間を把握するため,降雨規模が比較的大きい一雨降雨(昭和22年から平成15年までの57年間の一雨降雨として抽出された降雨のうち,総雨量の多い順に57の降雨)を対象としたところ,
降雨継続時間が24時間以内の一雨降雨が87.7%であったことから,降雨継続時間が24時間程度あれば,ほぼ全ての降雨継続時間を包絡できると判断した。これを踏まえ,24時間雨量が総雨量に占める割合(24時間雨量/総雨量)を洪水の頻度(回数)で分類した結果,後記選定に係る本件主要洪水(12洪水)のうち9洪水が1以上
であり,その余の3洪水も0.9以上であって,ほぼ全ての洪水において24時間雨量により総雨量を包絡できることから,24時間雨量により降雨を代表させることが妥当である一方,12時間雨量では半分以下の5洪水しか包絡できず,36時間雨量では12洪水全てを包絡できるが総雨量と比べて過大であることなども踏まえ,24時間雨
量を降雨継続時間として,これにより降雨を代表させることとした。平成9年の工実計画策定時に,昭和22年から平成6年までの佐世保雨量観測所の雨量資料を基に,年超過確率(1/100)の川棚川流域確率雨量を,①ハーゼン法,②トーマス法,③グンベル法,④対数正規法及び⑤岩井法の5手法により算定した平均値は,3時間雨量
(洪水到達時間)が203.0㎜,24時間雨量(降雨継続時間)が400㎜であったところ,県は,更に平成15年までの雨量資料を追
加し,上記①ないし⑤の手法に新たに12手法を加えた17手法により川棚川流域確率雨量を算定した結果,3時間雨量は183㎜から217㎜,24時間雨量は381㎜から434㎜であり,上記工実計画策定時の確率雨量がこの範囲に含まれていることから,同雨量は妥当であることを確認し,川棚川流域の年超過確率1/100の3時間雨
量を203㎜,24時間雨量を400㎜と設定した。
そして,24時間雨量が400㎜の2分の1に相当する200㎜以上である12の洪水(本件主要洪水)を抽出した上,川棚川の流域面積は81.4㎢と100㎢未満の小流域であることから,前記Ⅲ型引き伸ばしの方法により引き伸ばし,この中で,①3時間雨量又は24
時間雨量の引き伸ばし率(引き伸ばし後の雨量/実績雨量)が2倍程度以上となるもの及び②洪水到達時間内の確率評価が1/50以下又は1/200以上のものを棄却(除外)の対象とすることとし,①の24時間雨量につき,昭和28年洪水(2.657倍)
,昭和53年
洪水(2.538倍)及び昭和55年洪水(3.859倍)について
は,2倍を大きく上回ったことから棄却し,その余の9洪水を対象とすることとした(②による棄却の対象はなかった。。)
(本項につき,乙A4〔2-4のⅡ-16~104頁〕
,弁論の全趣
旨)
c
技術基準(5・6頁)及び技術基準解説(31・32頁)は,対象降雨の継続時間について,洪水の流域最遠点からの到達時間が数時間であるような河川においては,洪水のピーク流量に支配的な継続時間の降雨について別に検討する必要があるとし,対象降雨の時間分布及び地域分布について,降雨量を定めた上で過去に生起したいくつかの
降雨パターンを伸縮して作成し採用するという方法による場合には引き伸ばし率を2倍程度にすることが多いが,降雨量を引き延ばす場合,
時間的に高強度の雨量の集中が見られる降雨等においては,その河川のピーク流量に支配的な継続時間における降雨強度が対象降雨の降雨強度との間で,超過確率の値において著しい差異を生じる場合があり,例えば,短時間に降雨が比較的集中しているパターンを引き伸ばした結果,洪水のピーク流量に支配的な継続時間内での降雨強度の超過確率が計画規模の超過確率に対して著しく差異があるような場合は,対象降雨として採用することが不適当であると考えられるため,当該降雨パターンの引き伸ばし降雨を対象降雨から棄却するという処理法も考えられるとする。

また,中小河川手引き(40・41頁)は,実績降雨を引き伸ばして計画降雨(対象降雨)を作成する場合について,洪水到達時間が数時間程度の中小河川の場合,大河川のように実降雨の継続時間を包絡するような降雨継続時間を設定すると,継続時間の短い降雨では時間的に異常な引き伸ばしになることが多い等の問題が生じることから,
中小河川計画においては,各河川の規模,洪水調整施設の有無等の特性を十分に考慮し,適切な引き伸ばし方法を選択する必要があるとする。そして,引き伸ばしの方法のうち,大河川には一般的にⅠ型(継続時間内雨量を計画規模の確率雨量の値になるよう一定率で引き伸ばす方法)が用いられ,中小河川にはⅡ型(洪水到達時間内の雨量のみ
を計画確率年に相当する雨量の値に引き伸ばす方法)が適用しやすく,前記Ⅲ型引き伸ばしは,I型及びⅡ型の欠点を補うものであるが,大流域においては雨域の移動による影響を受け流域内において時間分布が異なることが予想されることから,分割流域によっては洪水到達時間以外の降雨強度が大きくなる等の不都合が生じていないかハイエト
グラフ(横軸に時間,縦軸に降雨量をとり,降雨量の時間的変動を表す。
)を描いて確認する必要があること,ダム等の洪水調節施設の計

画がある場合,その容量決定に当たってはⅠ型を採用することが多いが,降雨特性を勘案して必要があれば,実績著明洪水の降雨継続時間を概ね包絡する時間単位を降雨継続時間としてⅠ型又はⅢ型により計画降雨(対象降雨)を定めることも考えられることを示す。
なお,上記各記載内容によれば,技術基準解説にいう洪水のピーク流量に支配的な継続時間は,中小河川手引きにいう洪水到達時間と同義であり,洪水到達時間が数時間であるような中小河川では,洪水到達時間が流出ピークに大きく影響を及ぼす要素であると考えられているといえる。
(技術基準解説31頁の2.6.3の解説
,中
小河川手引き41~44頁,弁論の全趣旨)

d
県の一連の算定方法は,技術基準,技術基準解説及び中小河川手引きに記載された方法に従った一般的なものであり,特段不合理な点があるということはできない。
なお,中小河川において洪水到達時間を更に細分化した特定の1時
間における雨量の分布が流出ピークに大きな影響を与えると認めるに足る的確な証拠はなく,1時間当たりの雨量が高い降雨について直ちに検討から棄却すべき異常なものであるとはいえず,控訴人らの主張するように1時間当たりの雨量を抜き出して考慮すべき合理的な理由は見当たらない。実績面から見ても,長崎県においては,昭和57年
7月の長崎豪雨において最大187㎜/時(長与町役場)の雨量を観測し,近年においても平成27年8月に雲仙岳(気象庁観測所)で134.5㎜/時,平成28年6月に長崎市(県観測所)で136㎜/時の雨量を記録するなど,118㎜/時を超える時間雨量を少なからず観測していることが認められるから,控訴人らの指摘する昭和42
年洪水型の約118㎜/時という数値が検討対象から棄却すべき異常な数値であるということもできない。
(甲C23,乙C7,弁論の全

趣旨)
流出量の算出・基本高水の決定について
a
県は,前記

検討対象とした9洪水について,貯留関数法による

流出計算を行った結果,昭和42年洪水型の流出量(基準点山道橋で1391.1㎥/秒)が最大となったことから,上記流出量を10㎥
単位で切り上げた1400㎥/秒を基本高水のピーク流量とし,合理式(洪水到達時間から導いた降雨強度,流出係数及び流域面積からピーク流量を算定する方法)によるピーク流量算定によっても1320㎥/秒とほぼ同等の結果となったことから,上記基本高水流量の設定は妥当と判断した。
(乙A4〔2-4のⅡ-103~107頁〕


b
技術基準(6頁)及び技術基準解説(34頁)は,基本高水は,対象降雨について適当な洪水流出モデルを用いて洪水のハイドログラフを求め,これを基に既往洪水,計画対象施設の性質等を総合的に考慮して決定するが,通常,地域分布,時間分布等の検討結果により不適切な降雨は棄却されていることから,計算されたハイドログラフ群の
中から最大流量となるハイドログラフのピーク流量を,基本高水のピーク流量とするとしている。
c
県の基本高水の決定方法は,技術基準及び技術基準解説に記載された方法に従った一般的なものであり,不合理な点があるということは
できない。
なお,技術基準(4頁)は,既往最大主義を採用せず,洪水防御計画は,洪水による災害を防止又は軽減するため,計画基準点において計画の基本となる洪水のハイドログラフ(基本高水)を設定し,これに対して同計画の目的とする洪水防御効果が確保されるよう策定する
ものとし,対象降雨は,実績降雨の年超過確率が計画規模と等しくなるように,実績降雨の継続時間が対象降雨の継続時間よりも短い場合
には,前者を後者まで引き伸ばすことを原則としている。そして,実績降雨の年超過確率が計画規模に満たない場合には,基本高水のピーク流量が実績上のピーク流量を超過することが当然に想定され,既往洪水水量そのものを対象とした計画とはなっていないから,設定された基本高水のピーク流量が実績上のピーク流量と乖離しているとして
も,直ちに合理性を欠くということはできない。
計画高水流量の決定について
a
洪水防御計画においては,基本高水を合理的に河道,ダム等に配分して,主要地点の河道,ダム等の計画の基本となる高水流量(計画高水流量)を決定するが,その際,ダム等の洪水調節施設の設置,現河
道改修,放水路等への分流等についての技術的,経済的,社会的及び環境保全の見地からの検討をすることとされている(技術基準6・7頁)
。そして,河道計画は,計画高水位(その水位以下で計画高水流
量を流下させることができるよう設定された水位)を設定した上で策定する(技術基準解説126・127頁)


川棚川水系では,工実計画において計画高水位が設定されており,川棚川整備基本方針及び川棚川整備計画もこれを踏襲した。県は,基準点山道橋における既改修河道の流下能力を1020㎥/秒と算定し,基本高水のピーク流量1400㎥/秒に相当する年超過確率1/100の洪水を計画高水位以下で安全に流すために,改修の継続により河
道の流下能力を1130㎥/秒に引き上げ,基準点山道橋における残りの270㎥/秒の流量について,80㎥/秒を既設野々川ダムで,190㎥/秒を石木ダムにより調節することとした。なお,堤防高については1mの余裕高を設定した。
(乙A4〔2-4のⅡ-127~
248頁〕
,弁論の全趣旨)

b
技術基準(技術基準解説127頁参照)は,計画高水位が定められ
ている河川で河道計画の見直しを行う場合には,原則として既往の計画高水位を上回らないよう定めるものとし,やむを得ず部分的に計画高水位を上げることが必要となる場合においても,その範囲はできるだけ小さくし,できる限り既往洪水の最高水位以下に留めることが望ましいとしている。そして,技術基準解説(127頁)は,その趣旨
について,過去に計画高水位が定められている河川区間で河道計画の見直しを行う場合,計画高水位を以前よりも高くすることは,河川を大幅に再改修するに等しいことになり,部分的な場合を除き現実的でないばかりでなく,洪水をできるだけ低い水位で流すという治水の大原則に反するものであることから,既往の計画高水位を踏襲するのが
一般的であるとする。
したがって,県が,河道流下能力(1130㎥/秒)を算定するに当たり,県が工実計画において設定し,川棚川整備基本方針及び川棚川整備計画が踏襲した計画高水位を前提としたことは,技術基準及び技術基準解説に沿うものであり,不合理とはいえない。

c
また,河川管理施設等構造令18条1項は,堤防は,計画高水位以下の水位の流水の通常の作用に対して安全な構造とするものとし,20条1項は,堤防の高さは,堤防に隣接する堤内の土地の地盤高(堤内地盤高)が計画高水位より高く,かつ,地形の状況等により治水上
の支障がないと認められる区間を除き,計画高水流量に応じ,計画高水位に所定の値を加えた値以上とするものとし,計画高水流量(㎥/秒)が500以上2000未満であるときは,計画高水位に1mを加えるものとする。なお,上記除外に係る区間(余裕高特例区間)に関し,中小河川では,計画規模(安全度)が小さく計画を超える洪水の
頻度が高いため,越水被害を極力小さくする配慮が特に必要になることから,背後地が人家連坦地域である場合には,計画高水流量に応じ
所定の余裕高を確保することが多いとされている。
(財団法人国土開
発技術研究センター・編集,社団法人日本河川協会・発行『改定解説・河川管理施設等構造令』
(乙C13)

川棚川には築堤河道の部分があるから,当該部分は同構造令に従って1mの余裕高を設ける必要があり,堤内地盤高が計画高水位より高
い掘込河道の部分についても,川棚川の流域内人口は約2万人であり,川沿いに住宅等の建物が連なる範囲が存在するから,背後地が人家連坦地域であることを理由に1mの余裕高を設けた(乙A4〔1-1の1・2頁,2-1の4頁〕
,A15〔3-1の4~15頁〕
,弁論の全
趣旨)としても不合理とはいえない。

d
なお,代替案について,堤防の嵩上げは,計画高水位を現状より上げるもので前記のとおり洪水をできるだけ低い水位で流すという治水の大原則に反するものである。
また,河道掘削も,技術基準及び技術基準解説は,河道の縦断形は,
堤防法線及び河道の横断形と関連させて堤内地盤高,河川環境,河床の安定,経済性等を考慮して定めるが,一般には現状の河床勾配によることが将来の河道の維持に有利であることから,現況河道の縦断形を重視し,河床勾配が上流から下流に向かって急から緩になるように変化させるものとし,また,動植物の生息,生育環境や河川の利用面
等にも強く関連することから,縦断方向の連続性の確保など河川環境にも十分に考慮して検討する必要があるとする。さらに,河床の掘削は,堆積空間である河口部の維持管理に困難を来す場合があるので極力避け,やむを得ない場合には十分な対策を考慮する必要があるとする(技術基準解説130・133頁)


この点,県は,河道改修のみで計画高水を流す場合,川棚川については,嵩上げによる対応では災害ポテンシャルが増大し,JR橋,川
棚大橋が一部架け替えとなること,掘削のみによる対応では大村湾の海底が高く河床の維持管理が困難である上,河床に送水管が埋設されていること等から,いずれも社会的影響が大きく現実的でないとしている。また,石木川については,河床掘削では,流速が約6m/秒にも達することや,川棚川との合流点で川棚川と河床高が逆転するなどから,現実的でないとしている。そして,現実的な代替案としては,河床整正程度の掘削に加え,川棚川において6か所で2ないし10m程度,石木川において6か所で20ないし26m程度の引堤が,また5つの橋の架替え等が必要になる河道改修案(引堤案)を検討してい
る(乙A4〔2-4のⅡ-198・199頁〕。

したがって,わずかな区間の堤防の嵩上げ又は河床掘削により治水目的を達成できる旨の控訴人らの主張は,必ずしも現実的なものとはいえず,理由がない。
過去の洪水の原因分析について

水害対策に当たっては,降雨量など一定規模の外力を対象として水害を防止又は軽減することを基本とし,併せて一定規模を超える現象が発生した場合においても被害をできるだけ少なくするよう配慮することが重要であるとされている(技術基準2頁)ところ,県が,治水対策を検討するに当たり,災害をできるだけ防止・軽減するという観点から,洪
水について河川の氾濫が原因ではないと確認できない場合に河川の氾濫が原因である可能性を前提にしたとしても不合理とはいえない。なお,県は,過去の主たる洪水(昭和23年洪水,昭和31年洪水,昭和42年洪水及び平成2年洪水)について,当時の写真や新聞記事等を含む資料を収集し,被害状況を取りまとめ,平成2年洪水については,洪水痕
跡調査の結果,洪水時の記録写真等から江川橋付近で洪水が堤防を越えたことにより浸水被害が拡大したことを確認している。
(乙A4〔3-

1〕
,A15〔5-11の37・38頁〕
,弁論の全趣旨)

石木ダムの必要性について
以上によれば,石木ダム建設について治水効果のあるものとした県の判断は,不合理とはいえない。



流水の正常な機能の維持のための必要性について

県は,川棚川の夏期渇水期の用水不足が著しく,沿岸既成農地の灌漑用水及び既得の水道用水の取水に支障を来していること,昭和42年,昭和49年及び平成6年の渇水被害が特に甚大であったことから,農業,工業,水道及び河川維持の各既得用水の補給等を図るため,基準点山道橋において,維持流量として0.090㎥/秒(1月から3月)又は0.120㎥
/秒(4月から12月)を確保することした。なお,基準点山道橋下流に既得用水はないため,水利流量は計上していない。
(乙A4〔2-5〕
,A
15〔2-4〕


河川管理者は,河川整備基本方針において,河川整備の基本となるべき事項として,主要な地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する事項を定めなければならない(河川法16条,同法施行令10条の2第2号ニ)

そして,流水の正常な機能を維持するため必要な流量とは,舟運,漁業,観光,流水の清潔の保持,塩害の防止,河口の閉塞の防止,河川管理施
設の保護,地下水位の維持,景観,動植物の生息・生育地の状況,人と河川との豊かな触れ合いの確保等を総合的に考慮して定められた流量(維持流量)及びそれが定められた地点より下流における流水の占用のために必要な流量(水利流量)の双方を満足する流量(正常流量)をいう(技術基準7頁参照)


流水の正常な機能の維持は,渇水時にも維持流量及び水利流量を確保することを目的とするものであり,県が,原判決別紙12のとおり,市を
含む川棚川の周辺地域においては渇水被害が著しいことを踏まえ,上記維持流量を確保することとしたことが合理性を欠くということはできない。

水道用水の確保(利水事業)としての必要性について

設計指針は,水道施設整備の基本計画の策定に当たっては,上位計画に配慮した人口予測や経済成長率を反映させた水需要予測などにより施設規模を検討する必要があり,また,施設整備の途上で既存計画と社会的需要の不整合や人口の減少,社会経済情勢の変化等により,水需要予測と実績の乖離が大きくなっていく可能性があることから,適宜,点検・評価等を
行い,必要に応じて基本計画を見直すことが望ましいとする。そして,計画給水量算定に当たって必要となる需要水量の推計,すなわち需要予測の一般的な手順としては,原則として用途別有収(使用)水量実績から推計される用途別有収水量(将来値)を合算して計画一日平均有収水量を算定し,これを計画有収率で除して計画一日平均給水量を算定し,これを更に
計画負荷率で除した計画一日最大給水量を算定することとした。このうち,用途別有収水量実績から用途別有収水量(将来値)を推計するに当たっては,時系列傾向分析(過去の実績の傾向が今後も続いていくものとした推計手法で,実績の趨勢に最もよく適合する傾向曲線を用いて推計するもの)
,重回帰分析(水需要の変動に関係の深い社会・経済等の要因を説明
変数として用いる予測手法)
,要因別分析,使用目的別分析,その他(多
変量解析法,システム・ダイナミックス法等)の各手法を比較検討し,より適したものを選定することとしている。
本件事業認定の前提とされた平成24年水需要予測において,市は,原判決別紙9(⑶ないし⑸)のとおり,基本的には設計指針の示す手法に
より,有収水量の実績を基に将来の計画有収水量を用途別に予測して,それぞれの用途別一日平均有収水量を算出し,これらを合算した一日平
均有収水量(平成36年度(令和6年度)予測値は7万5542㎥)を算定した。そして,一日平均有収水量を有収率(平成36年度(令和6年度)89.2%)で除して,浄水場地点の水量である計画一日平均給水量(平成36年度(令和6年度)予測値は8万4685㎥)を算出し,年間変動を考慮した負荷率80.3%で除して,施設能力の基礎となる
一日最大給水量(平成36年度(令和6年度)予測値は10万5461㎥)を算定した。さらに,これに一定の割合(以下,便宜的に安全率という。
)を加えて水源地地点の原水量に置き換えた計画取水量11万7
000㎥/日を算出した。そして,市の保有する水源の取水能力が7万7000㎥/日であることを前提にし,石木ダムによって4万㎥/日の
新規水源を開発することを計画した。
なお,水道法は,地方公共団体は,当該地域の自然的社会的諸条件に応じて,水道の計画的整備に関する施策を策定,実施するものとする(2条の2第1項)
。その趣旨は,水は地域属性が強く,当該地域の地形等の
自然的条件に影響を受けざるを得ないことから,このような自然的条件
を考慮するとともに,当該地域の社会的諸条件に即して合理的な施策を策定しこれを実施すべきというものであるから,他の地域に係る事情を当該地域においても考慮すべきであると直ちにはいえない。

用途別一日平均有収水量の予測について
生活用水について

a
市は,昭和53年以降,原判決別紙12のとおり渇水対策を要する渇水に見舞われ,昭和53年,平成6年から平成7年,平成17年,平成19年には給水制限を実施し,とりわけ平成6年から平成7年にかけての渇水は,約9か月間の給水制限(断水を含む。
)を要するも

のであった。渇水の原因は,長崎県全体が,平地に乏しく,いたるところに山岳や丘陵が起伏し,山地から海岸までの距離が短く,急勾配
の中小河川が多いことにより,河川の保水能力が低いためである。そして,市が,渇水による給水制限(断水若しくは減圧)又はその予告等を実施した年の原単位は前年よりも減少する傾向にあることが認められた。
(乙A4〔3-4の2頁〕
,15〔3-4〕
,B16,C6,
平成24年水需要予測40頁,証人L)
市は,佐世保地区の平成4年以降の生活用水量原単位を分析した結果,平成5年度までの増加傾向が平成6年度に減少し,平成16年度まで緩やかな回復傾向であったが,平成17年度,平成19年度に再度減少し,平成23年度まで緩やかな回復傾向を示していること,近
年は全国同規模都市の原単位が減少傾向の中で,市の原単位は増加傾向を示していることから,上記原単位の減少の要因は市の渇水にあり,他都市と同様に節水機器の普及や社会情勢の変化という原単位の減少要因がありながら,なお原単位が渇水時を除いて増加傾向にあるのは,市民が,節水どころではなく,我慢をしており一般的な受忍限界を超
えていたため,本来の値に向かって回復傾向になっているものと考察し,石木ダムの完成により渇水危機がなくなれば更に原単位が増加(回復)するものと予想した。そして,単純な時系列傾向分析では,相関係数が0.06と非常に悪い上,今後も給水制限を繰り返すことが前提となり,水需要予測の本来の目的である安定供給になじまない
ため,まず,渇水の有無を変数とする重回帰分析により,平成36年度(令和6年度)における渇水の影響が全くなくなった場合の上限値と渇水の影響が続いた場合の下限値を予測した結果,上限値が210ℓ,下限値が200ℓとなった。その上で,時系列傾向分析を行ったが,平成6年から平成23年のうち,給水制限の影響がある平成17年か
ら平成19年の傾向を排除し,平成23年以降に過去の渇水からの回復傾向を適用する時系列傾向分析を行った(なお,時系列傾向分析に
おいては,節水機器の普及など生活用水の減少要因等が考慮されている。。その結果,相関係数が0.94と非常に高い上,平成36年度)
(令和6年度)の佐世保地区の予測値206ℓは同年の近郊都市予測値(211ℓ)と同水準であり,最も現実的であることから,佐世保地区206ℓ,合併地区等を併せた全体では207ℓを原単位として採
用した。そして,これに同年度の計画給水人口20万9119人を乗じ,生活用使用水量を4万3290㎥と推計した。
(平成24年水需
要予測,証人N(以下Nという。〔6~7頁〕

,弁論の全趣旨)
b
設計指針(27頁)は,生活用水の将来推計について,時系列傾向分析,回帰分析,要因別分析,使用目的別分析などの推計方法から,適切なものを選択組み合わせて行い,その際,生活習慣の変化等の増加要因や節水機器の普及等の減少要因の影響にも配慮する旨定めている。市は,前記のとおり,上記各増減要因の影響も考慮しつつ,重回帰分析により予測の幅を設定した上で,平成23年以降に過去の渇水
からの回復傾向を適用する時系列傾向分析により原単位を決定したもので,設計指針に沿うものといえ,その判断過程に不合理な点があるとはいえない。
なお,単純な時系列傾向分析によると,前記のように相関係数が極めて低い上,目標年度の原単位が188ℓとなり,平成4年から平成
23年の実績値で3番目に低い値になる(平成24年水需要予測35・37・41頁)ことからすれば,実績値の減少は渇水による給水制限やその予告が影響しているとの市の分析に,合理性がないとはいえない。そして,設計指針(32頁)によれば,時系列傾向分析は,水需要が将来も実績期間と同様な傾向で推移すると予想される場合に適
切な方法であるところ,水不足を解消するための水需要予測において,将来も過去と同様に給水制限が生じることを織り込んで予想を立てる
ことは不合理であるから,単純な時系列傾向分析を採用することは相当でないとした市の判断が,事実の基礎を欠く不合理なものということはできない。
加えて,水道統計に基づく平成21年度の全国平均原単位は230.5ℓであり(乙A15〔2-4-2の参考資料69頁〕,上記市の予)

測原単位はこれを下回るものであることも考慮すれば,市の上記予測原単位の設定が合理性を欠くということはできない(なお,市が比較の対象とした

全国同規模都市(寒冷地を除く。

の平成23年度の)
平均原単位は246ℓであるとされており,控訴人らはこれについて信用性を争うが,市の予測原単位が平成21年度の全国の平均原単位
を下回っていることからすれば,上記同規模都市の選択方法如何によって市の需要予測の合理性が左右されるとはいえない。。

c
さらに,水道料金は,水道事業全体の収支状況に基づいて算定されるものであること(水道法14条2項1号,同法施行規則12条),
起債制度の活用により負担を長期平準化できること(乙B8の3・4。
なお,石木ダム建設費用のうち企業債の返済に係る費用は平成21年以前から水道料金に含まれている。
)等から,石木ダムの完成が直ち
に水道料金の値上がりを招来するものとはいえない。また,市は平成22年4月1日に水道料金を19.68%値上げしたが,市(佐世保地区)の原単位は平成21年から平成23年にかけて189ℓ,19
0ℓ,189ℓと横ばいで推移している(平成24年水需要予測62頁,乙B8の1,8の4)から,水道料金の値上げが市民の水使用の抑制に直結することが明らかであるということもできない。
業務営業用水について
a
市は,平成24年,業務営業用水について,自衛隊及び米軍を大口需要とし,他の小口需要,新規分と区別して推計し,平成36年度
(令和6年度)の業務営業用使用水量を2万3323㎥(佐世保地区2万3002㎥(大口,小口及び新規分)と平成37年度(令和7年度)までに水道施設統合予定の小佐々地区321㎥の合計)と算出した(乙B12,平成24年水需要予測・30,46頁以下)ところ,設計指針(27・30頁)が,業務営業用水の水需要予測について,
推計する数値を業態別にするか業務営業用水の総量にするかを検討した上で推計方法を選択することとしていることからすれば,上記方法が合理性を欠くとはいえない。
b
大口需要について


九州防衛局長は,平成24年12月21日付けで,佐世保市長に
対し,石木ダム建設事業に伴う海上自衛隊佐世保総監部,陸上自衛隊相浦駐屯地及び米海軍佐世保基地等の防衛施設(以下市内各防衛施設という。)における水需要の将来見通しについて,市内各
防衛施設は我が国の西側の守りの拠点として重要な役割を有してお
り,今後ともこれらの役割はますます重く,また,高度な運用がされていくものと考えているところ,市内各防衛施設の安定的な運用に当たり,市の備える社会基盤は市内各防衛施設における多様な活動を支える重要な要素であり,九州防衛局としては,上記将来的視点や防衛活動の堅持の観点,更には近年重要性を増している市内各
防衛施設における運用を支え,万が一の災害等の緊急時や有事における迅速かつ適切な諸活動の遂行のためにも,十分かつ安定的な水源の確保がより重要になると認識しており,市内各防衛施設の安定的な運用環境確保の観点から,水源確保の施策がその実現に大きく寄与するものと認識しその推進を望んでいる旨回答した(以下九州防衛局長回答という。乙A15〔2-4-2の参考資料74頁〕。


市の担当者は,九州防衛局長回答には具体的な必要量等が示され
ていないが,基地関係の特殊性からそのような回答がされることが予想され,基地関係業務の性格上,市内各防衛施設の水需要は時系列傾向を示すものではなく,また,今後の計画を知ることもできないことから,九州防衛局長回答において,市内各防衛施設において
高度な運用がなされることや,万が一の災害等の緊急時等における適切な活動のためにも十分な水量確保が必要であることを踏まえ,各過去最大値の合計4234㎥(陸上自衛隊相浦駐屯地につき昭和62年の1955㎥/日,米海軍佐世保基地につき平成12年の2279㎥/日)を採用した。
(平成24年水需要予測〔46~49

頁〕
,証人N)


設計指針(2・6・7頁)は,計画給水量等の決定に当たっては,平常時だけでなく地震・渇水等の災害時及び事故時等の非常時の水運用を踏まえた量的な安全性を見込み,併せて,これに見合った水
源を確保する必要があるとしており,災害を含む非常時の水需要を想定して水需要を予測することには合理性がある。なお,九州防衛局長回答にいう万が一の災害等の緊急時とは,その前後の文脈
や,法律上,自衛隊の災害派遣について定めがある(自衛隊法83条)ことに照らせば,わが国において災害等の緊急事態が発生した
場合に緊急の活動をする必要が生じた場合を指すことが明らかである。
そして,設計指針(32頁)が,過去の水需要の変動から一定の
傾向を見出すことが難しい場合や,将来の使用水量や原単位,説明変数等の予測が困難な場合には,時系列傾向分析,重回帰分析,要
因別分析又は使用目的別分析によらず,過去の水需要の平均値や最大値等を用いることもあるとしていることからすれば,上記事情を
踏まえて過去最大値を採用した市の判断が不合理であるとはいえない。
c
小口需要について


市は,業務営業用水の小口需要について,平成17年から平成1
9年にかけての渇水と平成20年のリーマンショックによる大幅な減少があり,時系列傾向分析は適切でないことから,要因別分析として回帰式により予測することとした。そして,要因としては,業務営業用水の小口需要の水量のうち観光関連産業が全体の49.2%を占め,それ以外の一般事業所の中にも旅行代理店のように観光
客の増減が業績に影響する企業が含まれていると考えられることを踏まえ,過去の実績値と相関の高い観光客数を採用することとし,観光客数について市総合計画の値を佐世保地区に補正して推計し,これが増加するのに対応して小口需要についても増加すると予測
(平成25年以降は,グラフ上は直線的に増加すると予測)した。
(平成24年水需要予測〔46~50頁〕
,乙A15〔2-4-2
の参考資料71頁〕
,証人N)
なお,従前の市の総合計画においては,ハウステンボスはその他
の観光施設への誘客を図るための中心と位置付けられ,また,観光客数の目標値は設定されていなかったのに対し,平成20年3月に
策定された市総合計画においては,ハウステンボスは市の観光の基盤となる観光施設から除外され,他の観光施設や観光資源と連携強化を図る観点から必要に応じて側面的な支援を図るとの位置付けに後退し,また,ハウステンボスを含む観光施設等の観光客数の目標値が示されたことから,市は,平成19年水需要予測では大口需要
として位置付けていたハウステンボスを小口需要に位置付けた。
(甲B3,乙A4〔3-8の8~17頁〕
,A15〔2-4-2の

参考資料72頁〕
,証人N,弁論の全趣旨)


市が,リーマンショックによる市の経済への影響及びそれに伴う
各用途別一日平均有収水量への影響について検討したところ,業務営業用水については,企業の活動量の衰退や経費削減,観光客数の
減少により,使用水量の減少が見られた(乙A15〔2-4-2の参考資料29~34頁〕
)のであるから,リーマンショックによる
使用水量の減少傾向を含む時系列傾向分析が適切でないと判断したことが不合理であるということはできない。
そして,設計指針(12・27・30・32頁)は,水道施設整

備の全体目標を示す基本方針の決定に当たっては,地域や都市のマスタープラン等の上位の計画が既に策定されている場合,当該上位計画に十分留意して方針を決定する必要があり,業務・営業用水は観光都市などの都市特性等に影響を受けることから,その需要動向については,当該都市の発展動向,地方の総合計画等に配慮し,都
市特性に則した適切かつ合理的な推計を行う必要があるとした上,重回帰分析による推計において,業務営業用水を目的変数とした場合における業態別推計時の説明変数の例として観光客数を挙げる。本件において,市における小口の業務営業用水について,観光客数を説明変数とする要因別分析の相関係数は0.68であり,相関の
度合いは高くはないものの一定の相関関係があること(平成24年水需要予測50頁,証人L)
,市総合計画においてハウステンボス
の位置付けが変更され観光客数の目標値が明示化されたこと等に照らせば,市が,使用水量が多く,かつ水の使用形態が特殊な自衛隊及び米軍基地を大口需要とし,その余を小口需要とした上で,小口
需要はハウステンボスを含めた観光関連企業が使用量の約半分を占めることに鑑み,観光客数を説明変数とする重回帰分析を行ったこ
とが合理性を欠くということはできない。また,処分行政庁は,法20条3項に該当するか否かを審査するに当たり,その基礎となる平成24年水需要予測の客観的合理性を審査しており,かつ,それで足りるから,ハウステンボスの位置付けにつき平成24年水需要予測の内容が過去の水需要予測の内容から変更されているとしても,
平成24年水需要予測の合理性に直ちに影響するものでもない。
なお,重回帰分析は,複数の説明変数により水需要を推計するも
のであり,説明変数の選択に当たっては,統計的有意性だけでなく因果関係の合理性,妥当性を十分に考慮することとされている(設計指針32頁)ところ,控訴人ら主張に係る給水人口を説明変数と
する重回帰分析による推測は,相関係数自体は高くても,給水人口が増加すれば業務営業用水の小口需要が増加するという因果関係を合理的に説明できず,予測として意味のないものである可能性がある(証人L)
。したがって,市が,因果関係を合理的に説明するこ
とが困難な給水人口ではなく,業務営業用水の約5割を占める観光
関連産業と関連性が高い観光客数を説明変数として採用したことが不合理であるとはいえない。
d
新規分について


市は,平成25年度から新規に建設する中学校の給食センターに
ついて計画給水量230㎥/日,石木ダム完成後水道への統合が見
込まれる専用水道(101人以上又は日最大10㎥以上の自己水源(深井戸)
)について計画給水量1179㎥/日の合計1409㎥
を計上した。
(平成24年水需要予測〔47・49頁〕
,乙A15
〔2-4-2の参考資料75~77頁〕



設計指針(14頁)は,地下水の利用状況,特に多量使用する建
築物等の動向を調査し,水道水への切替えの予測を行うこと,上水
道を事故・災害時の備えと位置付けた上で地下水を雑用水(飲用目的ではない水)等に利用している場合には,地盤沈下等により水道水への転換があり得ることから十分な調査と対策の検討が必要であるとしている。本件で,市は,専用水道を使用する5施設のうち少なくとも4施設に対して聴取を実施し,いずれの施設からも水道へ
の切替えの可能性があることを確認しており(乙A4〔2-6の資-86~88頁〕
,A15〔2-4-2の参考資料49~51頁〕,

専用水道からの転換を見込んだことには具体的な根拠があるといえるから,上記予測が不合理なものであるとはいえない。
工場用水について

a
市は,工場用水について,SSKを大口需要とし,小口需要及び新規分と区別して推計し,平成36年度(令和6年度)の工場用使用水量を8979㎥(佐世保地区8185㎥(大口及び小口分並びに新規分1380㎥)と小佐々地区794㎥の合計)と算出した。
(平成2
4年水需要予測51頁以下)

b
大口需要(SSK)について


SSKの過去の使用水量の実績値は,平成4年以降では平成5年
の2386㎥/日が最大であり,その他は,平成8年の2160㎥/日を除き,2000㎥/日未満にとどまり,平均1610㎥/日
であった。また,修繕船事業における使用水量は過去9年間で平均331㎥/日であった。
(平成24年水需要予測〔52~56頁〕

SSKは,平成24年5月18日に平成24年3月期決算短信
において新造船事業の縮小及び修繕船事業の強化という経営方針の転換を発表し,同年10月25日に向こう3か年の経営方針(事業再構築について)において,事業構成を変革し,修繕船事業の占める割合を平成23年度13%から平成26年度25%(売上高
100億円)にすることなどにより,同年度には黒字化を達成する目標である旨発表した。
(甲B6,20)
佐世保市長は,同年12月13日付けで,SSKに対し,上記経
営方針の転換による水使用の影響の有無及び内容並びに上記経営方針はある程度中長期的な経営戦略であるか否かを文書で質問した。(甲B20)
これに対し,SSKは,同年12月28日付けで,新造船事業を
縮小することも含めて採算の改善を図る一方,修繕船事業等の事業の強化等を推進していくこと,具体的には,修繕船事業の事業構成
比を引き上げ,以後3年間で約2倍の受注拡大を図ることとしており,そのため,修繕船事業においてはこれまで以上に大量の水道水を一時期に集中して使用することになる,また,新造船事業においても,従来は必要でなかった引渡し前のファイナルドック(再塗装等)が納期の延長により必要となる可能性があり,その場合塗装作
業に先行して塩分除去のため水洗い作業が行われることから,従前の使途に加えて新たな水道水の使用が生じることが想定されている,そのため,運用状況によっては,各ドックで同時に水道水を使用することも想定され,従前の倍以上の水量を使用することも十分考えられることから,これを前提とした供給計画を策定してほしい旨回
答した(以下SSK回答①という。。
)(乙A15〔2-4-2
の参考資料87頁〕

市は,平成24年水需要予測において,SSKの平成15年から
平成23年の修繕船事業に係る給水量の実績値(平均値は,隻数が34.8,給水量が9万3711㎥/年)から導かれた1隻平均給
水量(水量÷修繕船受注数)2693㎥に,最初の船体洗浄にほとんどの水量を費やすという脈動的な使用であることにより,船体洗
浄の水使用比率8割と,残りの2割を作業日数10.5日で除した1日作業水量をそれぞれ乗じて,平均的な大きさの船体におけるドック修繕時の最初の船体洗浄を行う日を想定して一日平均給水量を2206㎥/日と算定した(2,693×(0.8+0.2÷10.5)=2,206)。
そして,SSKが修繕船事業について2倍の受注拡大を見込んでいることを踏まえ,上記給水量の2倍である4412㎥/日を計画給水量とした。なお,これは,複数のドックで同時に船体洗浄を行うことを想定したものであった。市は,上記修繕船事業の給水量を4412㎥/日として,これに修繕船事業以外の水量を加えるために,
過去20年間の平均値である水量1610㎥/日を加算した上,ここから過去9年間の平均値から導いた従前の修繕船事業における水使用量331㎥/日を控除し,SSKの計画給水量を5691㎥/日と算出した。
(平成24年水需要予測〔52,56頁(56頁に
売上高を約2倍と記載されているのは,
受注を約2倍の誤

りであると解される。〕
))
佐世保市長は,平成25年4月4日付けで,SSKに対し,SS
Kの必要水量について,SSKにおける今後の水使用及び増加水量をSSK独自又は市の再生水の利用により対応することの可能性について,改めて意見聴取した。
(乙A15〔2-4-2の参考資料

86頁〕

SSKは,同月8日付けで,佐世保市長に対し,今後の水使用に
ついては,SSK回答①と同旨のほか,基本的には経営方針に基づき事業を展開していくことから,1日に同時に大量の水道水を使用することが想定され,これまでの倍以上の水量を供給してもらうこ
とも考えられる,修繕船事業においては最初の船体洗浄作業に大量の清廉な水道水を使用するところ,同作業を複数のドックで同時に
行うことが想定される,同作業に使用する水量は,修繕内容等により違いはあるが,全体の作業で使用する水量の概ね8割程度になると考えられる,具体的な水量データは把握していないものの,市が平成24年水需要予測で分析,計上するとおり,同作業における使用水量は約2000㎥/日程度と考えており,将来のドックの新たな運用や稼働率の上昇による水量増加や過去の実態に加え,今後のSSKの経営戦略等を考えると,市が新規水量分として予測している4412㎥/日は最低限確保してほしいと考えている旨,また,増加水量の供給方法については,自社独自に再生水事業を行う場合,
施設整備の費用の問題に加え,処理した再生水を貯留しておく設備を設置する敷地の余裕がないことから,実現は困難である,市の再生水事業を利用する場合,供給能力の不足やSSKの使用実態から生じる運用上の問題があり,過去に導入の可否を検討した際には塩分濃度の問題により船の洗浄には利用できず,場内のトイレ洗浄等
にしか利用できないとの結果になった旨回答した(以下SSK回答②といい,SSK回答①と併せてSSK各回答という。。)
(乙A15〔2-4-2の参考資料84,85頁〕

SSKは,同年5月17日,新造船事業以外の事業における売上
目標の実現が厳しく,平成26年での黒字化の達成は厳しい見通し
になったとして,新たに新中期経営計画を策定し,平成27年度の黒字化及び平成28年度以降の収益安定を実現すべく取り組む旨発表したが,新計画においても事業構成の変革など基本となる経営方針の大枠に変更はないとした。
(甲B7)
SSKは,大小合わせて6つのドック(大2つ,中1つ,小3つ)
を有している(乙B9)
。SSKにおける修繕船事業の売上高は,
平成23年度は約86億円,平成24年度は約83億円,平成25
年度は約71億円,平成26年度は約39億円,平成27年度は約48億円,平成28年度は約103億円であった(甲B8,弁論の全趣旨)


SSKの平成15年から平成23年の修繕船給水量の実績値から
導かれた1隻給水量が2693㎥であること,修繕船事業においては,最初の船体洗浄にほとんどの水量を費やすという脈動的な使用がされていることに照らすと,市が,修繕船事業における最初の船体洗浄を行う日について給水量を2206㎥/日としたことについて合理性がないということはできない。

次に,市が,修繕船事業における水需要を,上記給水量の2倍で
ある4412㎥/日とした点について,確かに,SSKに対する従来の給水量の実績値を大幅に増加させるものではあるが,市が,平成24年水需要予測の前後にSSKから聴取した内容は,平成26年度に向けて修繕船事業について約2倍の受注拡大を図るというも
のであったこと,SSKは6つのドックを有しており,新造船作業におけるファイナルドックの際の船体洗浄作業と修繕船事業における最初の船体洗浄作業が重なることだけでなく,修繕船事業における最初の船体洗浄作業を複数のドックで同時に行うことも想定されていたこと(なお,SSK各回答の内容及び証拠(乙A15〔2-
4-2の参考資料89~92頁〕
)によれば,市は,平成24年水
需要予測に当たり,SSKに聞き取り調査を行い,修繕船事業において最初の船体洗浄の際にほとんどの水量を費やすことなどその水道水の使用の実態を把握しており,平成24年水需要予測後,正式に回答を求めたところ,同趣旨のSSK回答②がされたと推認でき
るから,書面の提出経過をもって市が結論を先行させて理由を後付けしたとは認められない。
)からすると,上記の推計に関し,その

基礎とされた重要な事実に誤認があり,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くことにより,その内容が社会通念に照らし,著しく妥当性を欠くとまでいうことはできない。また,水道事業者である市が,SSKに対し,修繕船が2隻同時にドック入りする事態が生ずる場合にドック入りの日を調整するなどして従前どおりの
供給水量で足りるようSSK自身で対応することを求めるべきであるともいえない。
そうすると,市が,SSKの修繕船事業に係る給水量を4412
㎥/日とし,これに修繕船事業以外の給水量を加えるために,過去の水量の実績値の平均である1610㎥/日を加え,過去の修繕船
事業に係る水量の平均値である331㎥/日を控除した上,SSKに対する計画給水量を5691㎥/日としたことについて,重要な事実の基礎を欠くとはいえない。

なお,実際には,経営方針転換後SSKの修繕船事業の売上高は
必ずしも順調に増えているわけではないが,SSKは,平成24年当時,修繕船事業について約2倍の受注拡大を図るとの方針を打ち出して事業再構築を推進し,平成25年に新中期経営計画を発表した後もその方針に変更はなかったことに加え,水使用量は受注量に影響されると考えられることや前記SSK各回答の内容等にも照ら
せば,上記SSKに対する計画給水量についての予測が直ちに不合理であるとはいえない。
また,市は,過去の修繕船事業における水使用量の平均値から,
平均的な大きさの船体につきドック修繕時の給水量を2206㎥/日と算定したものであり,これより大きな船体を洗浄する場合には
これを上回る水量が必要となることから,一日平均有収水量から一日最大有収水量を算定する負荷率の考え方をSSKの修繕船事業に
係る水需要にも適用して,他の水需要と同様に負荷率を乗じる対象とすることが不合理であるということはできない。
c
小口需要について


市は,佐世保地区の工業用水(小口需要)の水需要は,平成6年
度の大渇水により大きく減少し,平成10年までは回復傾向を示す
ものの以降は緩やかな減少傾向となっていること,更に平成17年から平成19年にかけての渇水及び平成20年のリーマンショックにより大きく減少したと分析し,渇水と経済不況の影響が強く時系列傾向分析は適切でなく,要因別(回帰式)分析による予測を試みたが,適切な要因が確認できなかったことから,現状が渇水の影響
を受けていること,過去に単年での回復量が大きい年度が複数あったことを踏まえ,最低でも過去20年の平均値までは回復する見込みが高いと判断して,過去20年平均値1114㎥を採用した。
(平成24年水需要予測52~55頁,乙A15〔2-4-2の12頁〕




市の上記分析は,渇水の影響について,平成5年以降の原単位を
見ると,給水制限等の渇水又はその警戒があった年には減少し,それらがなかった年には増加することが多かった(平成24年水需要予測〔55頁〕
)という実績に見合うもので,そのような評価が根

拠を欠くものということはできない。
そして,設計指針(30~33頁)は,工場用水の将来推計に当
たっては,工場の生産活動に影響を与える景気の将来動向等の状況について留意することが必要であるとし,また,水需要の推計手法一般について,時系列傾向分析は,水需要が将来も実績期間と同様
な傾向で推移すると予想される場合に適切な方法であり,過去の水需要の変動からの傾向判断が困難な場合や使用水量等の予測が困難
な場合には,過去の水需要の平均値等を用いることもあるとしている。渇水については,将来に同様の事態が生じることを前提とする予測は不適切であるし,リーマンショックについても,それが目標年度まで継続することを前提とすることは必ずしも妥当でないことからすれば,市が,工場用水の小口需要について,将来において実
績期間と同様の傾向で推移しないものと予想した上,時系列傾向分析及び要因別(回帰式)分析が困難であることを理由に,過去20年の平均値を採用したことが不合理であるということはできない。中水道について
a
市は,中水道水量について,市の下水処理場で再生処理した汚水を佐世保駅周辺において再利用しているところ,その需要が近年は50㎥/日で推移しており増加を見込めないが,市が検討する採算ラインである150㎥/日までは事業を推進することから,150㎥/日を有収水量から控除した(平成24年水需要予測58頁)


b
設計指針には,中水道に関する直接の記述はない。中水道は,水道水と別に新たな再生水の管路を敷設する必要があり,利用者に設備投資の負担がかかることから,既存の建物への普及は困難であるため,市は,新規開発地である佐世保駅周辺の再開発地区において再生水事業を行い,普及拡大を図ってきたが,実態としては普及拡大が進まず,
需要は伸びておらず,上記地区の再開発も完了している。
(乙B3,
B25,証人N,弁論の全趣旨)
以上の事実関係を前提とすれば,市において,現状以上の需要の増加は難しいと見込み,市が採算ラインとする現状の50㎥/日を上回る150㎥/日を中水道の使用量として見込んだことには相応の理由
があり,上記判断が合理性を欠くということはできないし,中水道の使用量のみ少なく予測しているとも,水需要予測が数字合わせである
ともいえない。

用途別一日平均有収水量以外の予測値について
負荷率について
a
市は,負荷率について,安全性を重視して過去20年実績値の最小値としたが,平成6年度の74.8%は大渇水による異常値であるた
め,これを除外し,平成11年度の80.3%を採用した。平成13年度以降の市の給水人口は,20万人を超え25万人未満であり,令和6年度の予測も20万人台である。
(平成24年水需要予測〔60
・62頁〕。

b
設計指針(20・21頁)は,負荷率は,給水量の変動の大きさを示すものであり,都市の規模によって変化するほか,都市の性格,気象条件によっても左右され,他方,一日最大給水量は,曜日・天候による水使用状況によって大きく影響を受け,時系列的傾向を有するものとはいえないため,負荷率の設定に当たっては,過去の実績値や,気象,渇水等による変動条件にも十分留意して,各々の都市の実情に
応じて検討することとされている。そして,昭和55年から平成21年の水道統計データを元に作成された給水人口規模10万人から25万人未満の負荷率の実績範囲は,約78%から約88%であるとしている。そうすると,仮に過去の水需要予測の際と異なる手法により負荷率を設定したとしても,過去の実績値と渇水の影響を考慮し,上記
実績範囲内である80.3%を負荷率として採用した市の判断が不合理であるということはできない。
安全率及び計画取水量について
a
市は,一日最大給水量10万5461㎥/日に対し,安全率を10%と設定し,百の位以下を切り捨てて,計画取水量を11万7000㎥/日と予測した(105,462㎥÷(100-10)/100=117,178.8㎥≒
117,000㎥)(乙A15〔2-4-2の16頁〕

,証人N)
b
設計指針(8頁)は,計画取水量は,計画一日最大給水量に10%程度の安全を見込んで決定することを標準とすることとしていることからすれば,市が安全率を10%と設定したことが合理性を欠くということはできないし,安全率は,計画一日最大給水量を超過する給水
の必要が生じた場合に備えて一定の余裕を確保する趣旨で設定されるもので,不確実な要素を予測するものであるから,過去の実績値を採用しなければならないともいえない。

水需要予測に関する小括
以上によれば,計画取水量を11万7000㎥/日とした市の平成24年水需要予測について明らかに不合理な点があるとはいえない。
なお,処分行政庁は,法20条3号に該当するか否かを審査するに当たり,申請に係る事業の事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであるかどうかを審査するものであるから,事業計画の前提とさ
れている水需要予測等に関し,過去の手法との比較が必ずしも必要であるとはいえない。また,設計指針(2頁)は,水需要予測は,施設整備の途上で既存計画と社会的ニーズの不整合や,人口の減少,社会経済情勢の変化などにより実績の乖離が大きくなっていく可能性があることから,適宜,点検・評価等を行い,必要に応じて基本計画を見直すことが
望ましいとしており,水需要予測の手法の見直しが当然に想定されているものと評価することができる。このことからしても,水需要予測の手法が変遷しているという事実のみをもって,当該変遷後の水需要予測等が不合理であるとはいえない。
また,設計指針が,計画給水量等の決定に当たっては,それぞれの水道
施設の条件により,平常時だけでなく非常時の水運用を踏まえた量的な安全性を見込む必要があることを示すように,非常時を見据えた需要量
を予測する必要がある以上,結果として想定した非常事態が発生しなかった場合に実績値が予測値を下回ることは当然に想定され,事後的に見た実績値が予測値を下回っていたとしても,このことが直ちに水需要予測が合理性を欠くことを意味するものとはいえない。
この他,O岐阜大学教授は,要旨,平成24年水需要予測は理由がなく
実態の水需要からも乖離しており,給水人口の減少傾向にも照らせば,事業の再評価が必要であり石木ダムに固執する必要はないとの意見を述べる(甲B58)が,上記判断を左右しない。

保有水源について
市は,本件各慣行水利権からは安定して取水できないものとして,
市の水源の取水能力は7万7000㎥/日であることを前提に,新たな水源の確保が必要とした。
(乙A15〔2-4-2の2頁以下,参考資
料2頁以下〕

慣行水利権について
a
本件各慣行水利権の水源のある相浦川は,昭和6年2月17日,県知事により旧河川法(明治29年法律第71号。以下旧河川法と
いう。
)に規定する事項を準用すべき河川(準用河川(旧河川法5条,
明治32年勅令第404號)
)と認定され,昭和40年4月1日,現
行河川法の施行に伴い,河川法施行法(昭和39年法律第168号)
2条(現行河川法の施行の際現に存する旧河川法5条の規定により同法が準用される河川等は,一級河川に指定されるものを除き,二級河川となる。
)により,二級河川とされた。
(乙A4〔1-2の3頁〕

佐世保市長は,平成12年6月8日,県知事に対し,本件各慣行水利権に関する河川法88条の規定に基づく届出を行った(なお,その
後,本件事業認定時まで届出はされていない。。これは,現行河川法)
の施行に伴う経過措置として,二級河川等の指定の際現に権原に基づ
き,現行河川法の規定により許可を要する行為を行っている者等は,従前と同様の条件により,当該行為等について現行河川法の規定による許可を受けたものとみなされる(同法87条。みなし水利権)ところ,上記経過措置により同法23条の流水占用許可を受けたものとみなされる者は,二級河川の指定があった日から1年以内に,占用している流水の量などを記載した書面を河川管理者に提出して必要な事項を届け出なければならないとされたことによるものであった(同法88条,同法施行令48条1項,2項4号)
。同届出書記載の取水量は,
三本木取水場が0.0521㎥/秒(4500㎥/日)
,四条橋取水

場が0.2084㎥/秒(1万8000㎥/日)であった。
(甲B2
2,23,乙A15〔2-4-2参考資料2・3頁〕
,B14,20)
総務省は,平成13年7月,
水資源に関する行政評価・監視結果に基づく勧告と題する文書を公表し,この中で,慣行水利権に基づく水利使用の実態の把握が不十分であるため,取水が行われていない
にもかかわらず,これを把握していない事例(7事例)や,届出をしている取水量と実際の取水量が相違している可能性が高いにもかかわらず,取水の実態を把握していない事例(2事例)があったことを明らかにした。
(乙B19〔10頁〕

県が同年9月に作成した相浦川水系河川整備基本方針によると,相
浦川は,流域面積約69.2㎢,幹線流路約20.1㎞の二級河川であり,流域の年平均降水量は2000㎜程度であるが,台風や梅雨期の集中豪雨の影響を強く受け,多雨年と少雨年,夏季と冬季の降水量較差が大きいとされている。また,相浦川も,県内の他の河川と同様に山地から海岸までの距離が短く急勾配であり,したがって,河川の
保水能力が低い。
(乙B16,17)
佐世保市に渇水があった平成19年度において,四条橋取水場では,
年間を通じて上記届出取水量分を取水できた日は1日もなく,全く取水できなかった日もあった。三本木取水場でも,届出取水量分を取水できなかった日が一定程度あり,わずかな水量しか取水できなかった日もあった。そのため,市は,渇水時は元より渇水ではない通常の年であっても取水できない日が多く存在する現状では,維持流量等を考
慮した場合,慣行水利権の安定水利権化は不可能であると思われるとしている。なお,同年においては,河川法53条の2の規定に基づく特例措置として,九州電力が保有する河川水利権の一部融通や水利権量を上回る特例取水及び民間所有井戸から河川への放流等の渇水対策が講じられていた。
(乙A15〔2-4-2参考資料2・3頁,3-

4の87~92頁〕
,B22,証人N,弁論の全趣旨)
b
許可水利権は,河川管理者(二級河川においては,原則として都道府県知事)の許可によるものである(同法7条,10条1項,23条)ところ,当該許可の申請に当たっては申請書に河川の流量と申請に係
る取水量及び関係河川使用者の取水量との関係を明らかにする計算を記載した図書を添付することを要する(同法施行規則11条2項1号ハ)上,河川管理者は,許可の条件(同法90条)として,通常,許可の期限の定め並びに取水量の計測及び報告義務を定めており,県も許可に際し,上記条件を付している。また,国土交通省は,ホームペ
ージや同省河川局水利調整室監修に係る水利権実務ハンドブック
において,申請された取水予定量が,基準渇水流量(10年に1回程度の渇水年における取水予定地点の渇水流量〔年355日流量〕
)か
ら維持流量及び水利権流量を控除した流量(基準流量)の範囲内である場合(10年に1回程度の渇水でも355日以上取水が可能である
場合)に限り,新規に水利権を許可することを原則としていることを公表している。
(乙A15〔2-4-1の10~22頁,2-4-2

の参考資料11頁〕
,B18,B19〔6頁〕

他方で,慣行水利権は,旧河川法の制定前又は河川法に基づく河川指定以前から長期に亘り反復継続して水を利用してきたという事実があり,当該水利用の正当性について社会的承認がされ,権利として認められたものをいい(前記第2章第1の1⑴)
,河川法87条,河川

法施行法20条1項,旧河川法18条,河川法施行規程11条1項により,河川法23条の許可を受けたものとみなされるが,同法88条の届出は要するものの,審査はされず,また,取水量の把握や報告も必要とされておらず,更新等見直しの機会もないことから,その実態を正確に把握することは困難である。
(乙B19,20,弁論の全趣

旨)
c
設計指針(16頁)は,地表水の水量については,年間を通じた流量や水位等,特に渇水時の流量や水位の把握が不可欠であるため,水源地域の特性等を考慮し,既往の最大渇水等についても調査すること
が望ましい,一般に河川等は水道用水,農業用水,工業用水の利水のほか,発電,漁業及び舟運等に利用されることから,新規に地表水を取水する場合には,水利権等水利用の実態について調査をするとしている。
なお,水道事業経営の認可は,当該水道事業の計画が確実かつ合理
的であること等所定の基準に適合していると認められるときに限り与えられる(水道法6条1項,7条1項,8条1項2号,同法施行規則1条の2第4号)ところ,具体的には,①取水に当たって河川法23条の規定に基づく流水の占用の許可を必要とする場合には,当該許可を受けているか,又は許可を受けることが確実であると見込まれるこ
と,②取水に当たって河川法23条の規定に基づく流水の占用の許可を必要としない場合にあっては,水源の状況に応じて取水量が確実に
得られると見込まれること等とされている(同法施行規則6条10号,11号)
。また,水道施設の備えるべき要件として,貯水施設は渇水
時においても必要量の原水を供給するのに必要な貯水能力を有するものであることが必要である(同法5条1項2号)ところ,施設整備計画策定に当たっては一般的に10年に1回程度の頻度で生じ得る渇水
を想定することが多いとされている(乙B23)
。設計指針(6・7
・16頁)も,水道は平常時のみならず渇水等の災害時や事故等の非常時においても住民の生活に著しい支障をきたすことがないよう水源の安定確保から給水までを考慮して量的な安全性を確保する必要があり,渇水規模は地理的条件や経済的な理由等により10年に1回程度
として決定することが多いとする。
d
上記慣行水利権の性質や水道施設整備に係る法令等の示す基準や指針に照らせば,市が,水道事業計画に当たり,本件各慣行水利権を本件各許可水利権と同様に扱うことなく,水源に含めなかったことが不
合理とまではいえない。
なお,本件各慣行水利権の実際の取水実績に基づく渇水時の取水の具体的な可能性の有無や程度について見ると,平成19年度においては,渇水に伴う水の融通があったにもかかわらず,四条橋取水場では年間を通じて届出取水量を取水できた日は1日もなく,三本木取水場
でも届出取水量を取水できなかった日が一定程度あった。市の渇水対策の実施状況(原判決別紙12)からすれば,平成19年度を10年に1回程度の渇水年に相当するとしても不合理とはいえず,また,保水能力が低いという市の自然的特性や河川の維持流量の確保の必要性(乙B21,弁論の全趣旨)等も踏まえ,渇水時に本件各慣行水利権
からの取水ができなくなる可能性を考慮すれば,本件各慣行水利権を市の保有水源から除外することが合理性を欠くということはできない。
この点,P法政大学教授は,要旨,本件各慣行水利権及び岡本貯水池に係る水利権並びに相浦取水場に設定された許可水利権について,既存のダムの貯水量を少し転用し補給すれば,相互に補い合って安定した取水量を確保でき,実際,市は平成19年度の渇水を上記方法により乗り切ったところ,慣行水利権を放棄するのではなく貴重な財産
として適切に評価すべきである等との意見を述べる(甲B57)が,当裁判所の上記判断を左右しない。
なお,三本木取水場については,市水道局作成に係る平成7年水道白書では安定水源とされている一方,市作成に係る平成11年度
水道水源整備事業再評価監視委員会委員会説明資料では安定水源(既認可施設)ではなく不安定水源とされており,取扱い変遷の理由は不明である(甲B15,16,弁論の全趣旨)が,同変遷の事実をもって上記判断が左右されるものでもない。
合併地区の保有水源について
a
市は,合併地区の既存の各浄水場が小規模で,現状での継続使用をすると,イニシャルコスト(初期経費)及びランニングコスト(運転経費)が生じ,市町合併のスケールメリット(規模の経済性)を発揮できず合理性を欠くことから施設の集約が望ましいとの方針の下,平成27年度から佐世保地区の山の田浄水場を更新して北部浄水場(仮
称)
(以下北部浄水場という。
)の供用を開始する予定であった。
そのため,合併地区には北部浄水場から送水し,既存の施設の更新や合併地区内への統合浄水場の新設を行わないこととした。
(乙B13)
そして,合併地区の保有水源について,取水の安定性と合理性(規模)の観点から,問題があるものからないものまで4段階に分ける総
合評価を行った結果,小佐々地区のつづらダム(許可水量2470㎥/日。評価は安定性に問題がないというものであった。
)は今後も水

源として使用する予定とした。しかし,それ以外の水源は,いずれも許可水量1000㎥/日未満の小規模な水源であり,かつ北部浄水場と佐世保地区のいずれからも距離があるため導水管敷設の費用面に問題があることも踏まえ,今後活用の見込みがないものは廃止し,安定性確保の可能性のある水源は,今後の統合計画の進捗に合わせて詳細を検討して判断することとし,当面は市の水源に含めないこととした。(乙A15〔1-2の38頁,2-4-2の3頁〕
,B13,

また,上記のつづらダムについて,本来は佐世保地区も慢性的に水源不足であり,北部浄水場から小佐々地区への給水開始時期と,つづ
らダムから北部浄水場への導水時期を一致させることが望ましい。しかし,渇水等により事業収益が減少傾向にある一方で,老朽化対策等により事業経費及び施設整備費は今後増加が見込まれることから,両者の差額を自己資金から補填しつつ,渇水等の対策経費や事業の支払のために保有すべきと考えられる自己資金(類似規模の全国平均と同
程度である収益の50%程度)を維持するためには,両者の実施時期を一致させることは困難である。そこで,市は,水道給水の安全確保に係る事業である佐世保地区以上に水源不足が深刻な小佐々地区等への配水を優先させるため,つづらダムから北部浄水場への導水は,令和9年以降に先送りすることとした。
(乙B13)

なお,小佐々地区の上水道は田原浄水系と楠泊浄水系の2系統があるが,田原浄水系の水源の中心であるつづらダムの容量は同水系の約31日分,楠泊浄水系の水源の中心である楠泊貯水池の容量は同水系の約20日分にすぎず,小佐々地区の水源はその多くを河川や井戸に頼っており,少雨傾向になると直ちに取水不足に陥る傾向が見られる。
小佐々地区の水源余裕率は合併地区の中で最も低い。平成19年渇水時には,佐世保地区の渇水対策(給水制限等)は平成20年3月26
日に終了したが,小佐々地区の渇水対策は同年4月30日まで継続した。また,平成23年渇水時には,佐世保地区では警戒体制への移行後,給水制限実施準備前に同体制は解除されたが,小佐々地区では佐々町からの応援給水の受け入れ等の渇水対策を実施した。
(乙A15
〔1-2の36~47頁,3-4の80・81・109頁〕
,B12,

B13,B27〔5・8頁〕

b
水道法は,地方公共団体は水道事業及び水道用水供給事業を経営するに当たっては適正かつ能率的な運営に努めなければならないとし(同法2条の2第1項)
,水道事業者が定める供給規程は料金が能率

的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること等の要件に適合するものでなければならないとする(同法14条2項1号)
。また,設計指針(2・13頁)は,水道事業の経営効率を高
めるため,イニシャルコストとランニングコストとを総合的にとらえた水道施設全体のライフサイクルコストについての検討や,各事業体
の実情や地域特性に応じて,スケールメリットが期待できる施設の共同化等の広域化の検討が重要である,給水区域の拡張や事業統合,安全な水の安定供給等には多額の資金を要することから,計画的に投資を行っていく必要があり,財政収支見通しを踏まえた効率的な整備計画を立てることが有効である等とする。

これらの法や設計指針の趣旨に照らせば,市が,合併地区の保有水源について,その全てを活用するのではなく,規模と水量という効率性の観点から今後の活用の有無を区別したこと,また,その一部について直ちに活用の有無を判断するのではなく,統合の進捗に合わせて順次検討することとしたことが,合理性を欠くということはできない。
また,限られた予算の中で,北部浄水場から水源不足が深刻な小佐々地区への給水を優先し,つづらダムから北部浄水場への導水を先送り
にすることとして,小佐々地区の保有水源を市の保有水源として考慮しなかったことが,合理性を欠くということはできない。
小括
以上によれば,市の保有する水源の取水能力を7万7000㎥と算定したことが合理性を欠くということはできない。


石木ダムの必要性について
以上によれば,市の計画年度時点における計画取水量11万7000㎥/日に対し,市の保有水源量は7万7000㎥/日であるから,約4万㎥/日を新規開発水量として確保する必要があり,石木ダム建設により上記水量確保の必要があるものと認められる。



費用対効果分析について
そもそも,費用対効果分析は公共事業の価値を評価する重要な指標ではあるものの,その一つにすぎず(後記マニュアルにおいては,治水経済調査は,治水事業全体を評価しているものではない上に基本的にはマイナスを0に戻
すことを便益と評価しているものであり,また,事業の実施に際しては効率性という観点だけではなく公平性の観点も必要になることから,総合的な評価指標の一つとして利用することを基本とするとされている。,更に法20)
条3号要件適合性の判断においては一つの判断材料となるにすぎない。そして,県は,石木ダム建設(本件事業のうち洪水調節及び流水の正常な
機能維持を目的とする部分)による費用便益比B/Cについて,平成19年度県公共事業評価においては1.43,平成23年度ダム検証においては1.27と算定し,また,本件事業認定後の平成27年度県公共事業評価においても1.25と算定している。
(甲C31,35,乙A4〔3-9〕
,15
〔2-3-4〕
,弁論の全趣旨)

この点,O岐阜大学教授は,要旨,石木ダムの費用便益比は流水の正常な機能維持を除けば0.93であり事業として成り立っていない等との意見を
述べる(甲B58)が,平成27年度県公共事業評価においてされた上記費用対効果分析は,国土交通省河川局が平成17年4月に作成した治水経済調査マニュアル(案)及びダムの不特定容量の便益算定について(平成
22年11月24日国河計第127号・国河環第74号・国河治第95号国土交通省河川局河川計画課長,同河川環境課長,同治水課長通知)に基づい
てされたものであるところ,その内容が不合理であるとはいえない。(甲C
35の3,乙A33,C17,弁論の全趣旨)


小括
以上によれば,本件起業者が本件事業の計画を策定するに当たりその前提として検討・採用した,河川整備基本方針や河川整備計画,水需要予測や水
源の見積もり等に基づく計画緒元について,いずれも特段不合理的な点は見当たらない。すなわち,本件事業は,①洪水調節のために基準点山道橋における流量のうち190㎥/秒を石木ダムにより調節することとし,②流水の正常な機能の維持のために,基準点山道橋において正常流量(維持流量)として0.090㎥/秒(1月から3月)又は0.120㎥/秒(4月から1
2月)を確保し,③水道用水の確保のために4万㎥/日を新規開発水量として確保するものであり,水道用水の確保,流水の正常な機能の維持及び洪水調節のための必要性があり,起業地が本件事業の用に供されることによって得られるべき利益があると認められる。
3
起業地がその事業の用に供されることによって失われる利益及びこれと得られる公共の利益との比較衡量について


失われる利益について

まず,本件事業により,67戸の家屋移転が必要となる(乙A2〔38頁〕
,A4〔2-4のⅡ-221頁〕
,A40の2〔9頁〕。本件起業者は,


平成9年11月に損失補償基準を妥結した後,移転対象者からの要望を受け,生活再建対策として,石木ダム本体建設予定地から約1.5㎞下流の
長崎県東彼杵郡川棚町石木郷字下石木・中石木地内に全29区画(第1期及び第2期の合計。造成規模3万0619㎡,宅地面積約1.99㏊)の代替宅地を造成した。収用地から任意に移転した54戸のうち,21戸が代替宅地に移転した(平成28年現在)(乙A40)

本件事業により移転の対象となる家屋の数は少ないとはいえないものの,
本件起業者は移転対象者の生活再建対策として上記のとおり代替宅地を造成しているところ,代替宅地は本件起業地から比較的近接した場所であり,また,比較的広範な土地にまとまった宅地として造成されており,移転対象者が希望して移転すれば本件起業地内に属する地域のコミュニティをある程度再現することも不可能ではなく(上記のとおり,既に移
転した54戸のうち21戸が代替宅地に移転している。,失われる居住)
の利益が極めて大きいということはできない。
なお,本件起業地内からの移転対象者は,従前培ってきた暮らし・生活を失い,新しい生活に慣れなければならないものの,これらは,土地が収用される場合には,その土地上に建物を所有したりこれに居住したり
する者に必然的に生じるものであって,土地収用法はこのような不利益を踏まえてもなお,必要がある場合には損失を補償して土地を収用できることを定めているといえるから,この不利益のみを重視することはできない。

また,県は,任意に環境調査を実施した上で,
川棚川総合開発事業石木ダム環境影響評価書を作成し,その中で,本件起業地及びその周辺の土地において,①動物については,絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律上の国内希少野生動植物や環境省のレッドリストの絶滅危惧ⅠB類・Ⅱ類として掲載されている動物の生息が確認されたが,いず
れも周辺に生息環境が残存するなどの理由から,本件事業による影響は小さいか又は想定されず,②植物については,上記レッドリストの絶滅危惧
Ⅱ類として掲載されている植物の生息が確認されたが,起業地外への移植等の必要な保全措置を講じ又は講じることとしている(乙A15〔3-5-1~3-5-4〕。なお,一般に,多目的ダムは治水及び利水の目的を)
達成し,あるいは失われる利益が最も大きい宅地等の移転を最小限にするため,河川の比較的上流の自然が豊かな場所に建設されることが多く,巨
大な構造物であるダムの建設によって,周辺の景観や自然環境に変化をもたらすことは,この種の事業において不可避的に生じるものといわざるを得ず,本件事業における上記変化が,他に比較して特に顕著であるとまでは認められない。
さらに,県は,本件起業地内に文化財保護法に基づく周知の埋蔵文化
財包蔵地がないことを確認し,工事施工中に遺跡等が確認された場合は,県教育委員会との協議により記録保存等の措置を講じることとした(乙A15〔3-6の2頁〕。

以上のとおり,動植物や埋蔵文化財に与える影響は軽微であるといえる。ウ
したがって,起業地が本件事業の用に供されることによって失われる利益が大きいということはできない。



得られる公共の利益との比較衡量について
県は,本件ダム検証において,本件事業により年平均浸水軽減戸数が129戸,年平均浸水軽減面積が11㏊となり,本件事業の便益は,渇水被害防
止の便益が115億円,流水の正常な機能の維持に関する便益が187億円であるとし,また,市は,本件事業を実施しなかった場合と比較して算定した断減水被害防止の便益が約8636億円であるとした(乙A15〔2-3-4の7頁,5-4の21頁〕。本件起業地が本件事業の用に供されること)
によって得られる利益は,水道用水の確保,流水の正常な機能の維持及び洪
水調節という地元住民の生命の安全にも関わるものであって,上記便益からも明らかなとおり,大きいものというべきである。

これに対し,失われる利益は,上記のとおり大きいとはいえない。したがって,本件起業地が本件事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益は,これによって失われる利益に優越していると認められる。4
代替案と比較した計画の合理性について


土地収用法は,申請に係る事業の計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであるか否かを審査するに当たって,代替案と比較検討すべきことや,その具体的方法について何ら規定していないから,処分行政庁には代替案の比較の方法につき一定の裁量がある。


治水代替案との比較について

県は,事業の実現性を踏まえ,①河道改修案(引堤案),②石木ダム+
河道改修案(申請案)
,③遊水池+河道改修案及び④放水路案の4案を比較検討した。その結果,原判決別紙11のとおり,経済性の面では,②案が137億5000万円で最も安価,かつ唯一費用便益比が1以下(1.00)であり,社会性の面では,②案は67戸の家屋移転が必要であるが,
①案は家屋48戸のほか橋梁13橋等,③案は水田35.9㏊や家屋4戸,橋梁9橋等の補償が必要となり,②案と比較した場合,①案は,事業費は10億円程度高額であり,②案と大きく異ならない数の家屋移転に加えて橋梁等の移転が必要であること,③案は,事業費が50億円程度高額である上,広範囲の水田の用地補償が必要となること,④案は,土地家屋の補
償は必要ないものの,事業費が78億円程度高額であり(②案の1.5倍以上)
,放水路のトンネル等の建設に長期間を要するとされた。
(乙A4
〔2-4のⅡ-197~221頁〕

また,県は,本件ダム検証において,ダム検証要領細目に基づき,ダム検証要領細目が提示する26の参考代替案について,川棚川流域での適
用の可能性を概略評価し,これにより抽出された8案(ダム案〔申請案〕,
遊水地案その1,同その2,放水路案,河道掘削案,引堤案,堤防嵩上
げ案及び複合案〔河道掘削+堤防嵩上げ+引堤案〕
)について比較検討し
た。その結果,原判決別紙19のとおり,ダム案(申請案)が経済性において最も安価で(79億円)
,代替案は最も安価なものでも206億円
(遊水地案その1)であり,最新の知見を踏まえたより多くの代替案との比較でもダム案(申請案)の経済的合理性が確認された。


なお,申請案について,石木ダムは治水目的と利水目的を兼ねた多目的ダムであり,前記のとおり利水事業としての必要性もあり一つのダムの建設によって複数の目的を達成する以上,事業費全体に治水目的に利する割合(治水割合)を乗じた金額を費用とすることが不合理とはいえない。

次に,代替案について,本件ダム検証においては,ダム検証要領細目に堤防嵩上げが参考代替案として記載されていることから,堤防嵩上げ案及びこれを含む複合案が検討されたが,これらの案は,目標を上回る洪水等が発生した場合の状態に関する安全度評価について,他の案より計画高水位が高いため破堤した場合に被害が大きくなるとして現行案よりも劣る
と評価され,本件事業認定申請時には代替案として挙げられなかった。上記のとおり,堤防嵩上げは低い水位で流水を流下させるという治水の大原則に反するもので,原則として避けるべきものであることや,費用面においても,複合案の概算総費用は203億円であり他の代替案と比べて特に優位であるとはいえないことに照らせば,県が本件事業認定申請時に複合
案を含めず,代わりに河床掘削と引堤の複合である河道改修案(引堤案)を検討対象としたことが合理性を欠くということはできない。また,申請案は複合案よりも費用面で大幅に有利であることに照らせば,申請案が最も優れた案であるとした県の判断の合理性を左右するものではない。(乙A15〔2-3-4〕
,C5)

また,代替案の事業費の算定方法について,川棚川整備計画等における治水代替案の比較検討(原判決別紙11)においては,石木ダムの中止
に伴う費用は計上されていない(乙A4〔2-4のⅡ-197~221頁〕
)一方,本件ダム検証における比較検討(原判決別紙19)においてはダム中止に伴う費用59億円が代替案に加算されている。しかし,同費用を控除しても申請案(概算総費用79億円)を下回る代替案は存在せず,申請案に経済合理性があることに変わりはない。
さらに,控訴人ら主張に係る洪水時にのみ貯水できる小容量の貯水池(遊水地)を設ける方法については,本件起業者は,代替案として遊水地+河道改修案を検討している。同案は,川棚川の石木川合流点より上流の,川棚川に効率的な洪水調節となる位置で,かつ補償物件等が
少ない利用可能な平地に遊水地を設定し,当該遊水地によって基準点山道橋の計画高水流量を1130㎥/秒にまで低下させ,調節後の流量が現況流下能力を上回る区間は,最も現実的かつ経済性の面においても有利な回収方法である一部小段の撤去と河床整正程度の掘削による河道の再改修を併用するというものである。県は,この基準に基づき2箇所の
遊水地(遊水地B及び遊水地C)を選定し,本件主要洪水のうち棄却対象としなかった9洪水に当てはめて洪水調節計算を行って計算容量等を算出し,遊水地の事業費(本工事費,附帯工事費,測量及び試験費,用地及び補償費並びに事務費等)を約108.5億円と算定したものである(その算定過程に控訴人らが主張するような過大な計上があったとは
認めるに足りない。
)ところ,これよりも低廉な価格で申請案を代替する
ことができるとはいえない。また,控訴人ら主張に係る川棚川の一部区間の堤防を嵩上げする方法について,堤防の嵩上げのみの方法によることは困難である(前記2⑴


。したがって,これらの点に関する控

訴人らの主張は採用できない。
(乙A4〔2-4のⅡ-204~221
頁〕

そして,県は,石木川合流点上流の治水について,現行の河道改修案に
加えて仮想ダムを併用する代替案についても検討しているところ,ここでは自然条件,社会条件及び経済性の面から前者を採用しており(乙A4〔2-4のⅡ-243頁〕,県がダム建設に拘泥しているとは認めら)
れず,代替案との比較がダム建設の結論ありきともいえない。


利水代替案との比較について
市は,平成19年度水道施設整備事業再評価において,利水代替案として,①海水淡水化案,②地下ダム案及び③地下水案を検討した。しかし,①案は,海水淡水化プラントのみで350億円程度と高価であることや造水コストが高いことなどにより,②案は,調査検討をしたが,地形及び地質構造上,ま
とまった取水量を確保することができないことが明らかになったことにより,③案は,市内62か所のボーリング調査を実施したが水源として利用可能な箇所がなかったことにより,いずれも比較すべき有効な案を選定できなかった。また,市は,平成24年度水道施設整備事業再評価において,上記3案を含む14案を検討したが,①案以外は代替案として不可能であるか又は適
さず,代替案となる可能性がある①案についても,完成費用が申請案より約56億円高額で,50年間に要する維持管理費用が約4倍であり,これらの総費用が申請案の約3倍であることのほか,地域社会や環境への影響等といった観点からも,申請案が有利であると評価した。
(乙A4〔4-3〕
,A1
5〔4-4〕


また,県は,本件ダム検証において,ダム検証要領細目に基づき,ダム検証要領細目が提示する14の参考代替案と川棚川流域の特性を勘案した2案の計16案について,川棚川流域での適用の可能性を概略評価し,これにより抽出された6案(ダム案〔申請案〕
,岩屋川ダム案,貯水池案その1,同
その2,地下トンネルダム案及び海水淡水化案)について比較検討した結果,
原判決別紙20のとおり,ダム案(申請案)が経済性において最も安価であり,最新の知見を踏まえたより多くの代替案との比較でも経済的合理性が確
認された。
(乙A15〔2-3-4の31~53頁〕



以上のとおり,申請案が,経済性及び社会性の両面において最も優れているとした本件起業者の判断が不合理であるとはいえない。

5
まとめ
以上によれば,本件事業が法20条3号の事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであることの要件を充足するとした処分行政庁の判断に,裁量を逸脱し又は濫用した違法はないというべきである。
第3

争点③(法20条4号の要件該当性)について

1⑴
市の既存水源施設は,明治41年建設の山の田ダムや昭和15年建設の菰田ダムなど,建設から相当年数が経過した施設が多く,ダムと一体化した付帯施設の老朽化が進行している。また,一般に,ダムは経年により上流からの土砂が堆積するところ,上記2ダムでは,計画上の堆砂容量を上回る土砂が堆積しており,有効貯水容量を確保できない状況にある。これら既存施設の更新や,貯水池の浚渫による堆砂の除去は,ダムの水位を下げて行う必要
があるが,市の保有水源には余裕がないため,これらの事業に着手することが困難な状況にある。
(乙A32,弁論の全趣旨)
⑵ア

本件起業者は,石木ダムのダムサイトの候補地として,石木川と岩屋川の合流点(上流サイト)
,同合流点から下流約200mの地点(中流サイ
ト)
,同合流点から下流約400mの地点(下流サイト)の3案を候補地
として選定し,地表踏査及びボーリング等の調査に基づき,下流サイトが3案中支障家屋が最も多くなるという点はあるものの,ダムの規模が3案中最も小さくなり施工性に優れる,貯水効率も3案中最も優れる,事業費が3案中最も廉価となることから,下流サイトを石木ダムのダムサイトと決定した。
(乙A2〔40~43頁〕


また,関連事業として施行する県道,町道及び農業用道路の付替工事は,トンネル区間及び貯水池上の長大橋が生じないよう,ダム本体部及び貯水
池の左岸側に県道嬉野川棚線及び農業用道路上辻線を,また対岸の右岸側に町道川原線を付け替える案が,用地面積が多くなるという点はあるが,支障となる宅地面積が少なくなり土地利用に与える影響が少ない,トンネル及び長大橋がなく施工性に優れる,事業費が廉価となる点から採用された。
(乙A2〔45,46頁〕



本件起業者は,本件起業地の範囲及び収用・使用の別について,土地のうち収用の部分は,①貯水池用地(河川管理施設等構造令に定める堤体の非越流部の標高72.8m以下の部分の土地)
,②ダム本体用地(重力式
コンクリートダム及び鞍部処理工の築造用地及び③関連事業用地(付替えに係る県道,町道及び農業用道路の用地)
,土地のうち使用の部分は,鞍

部処理工の設置工事並びに付替県道及び町道の橋台及び擁壁設置工事の床掘のために工事期間中一時的に使用が必要な範囲,漁業権のうち,収用の部分はダム本体部分に設定された権利とし,使用の部分は貯水池に設定された権利とした。ダム本体用地及び関連事業の用地並びに使用する土地については,いずれも必要最小限のものである。
(乙A2〔39頁〕。


2⑴

前記第2のとおり,本件事業の完成による便益は高く,その効果は,水道用水の確保(利水)
,洪水調節(治水)及び流水の正常な機能の維持という
地元住民の生命に関するものであって,重要な価値を有する。特に,渇水については,平成6年度の渇水により約50億円という対策費用が発生し,市の財政を圧迫する結果となっており(乙B27〔5頁〕,再度同様の渇水が)

発生すれば,このような高額かつ施設建設のような資産の残らない費用を再び支出することを余儀なくされることになる。また,前記1のとおり,市の保有水源に一定の余裕を持たせ,市の既存水源施設の更新及び浚渫を行う必要があるが,現状では困難であることも併せ考慮すると,本件事業を早期に施行する必要性は高いというべきである。



また,前記1のとおり,本件起業者は,本件事業に必要最小限度の範囲を
起業地とした上で,本件事業に恒久的に供される範囲のみを収用の部分とし,その余は使用の部分としていることが認められ,起業地の範囲及び収用・使用の別が不合理であるということはできない。
なお,技術基準解説(137頁)は,小流域のダム(概ね20㎢以下)及び洪水調節容量の少ないダム(概ね相当雨量〔洪水調節容量/流域面積〕5
0㎜以下)では,ゲート操作の繁雑さを避けるため自然調節方式とすることが望ましいとしているところ,石木ダムの流域面積(集水面積)は9.3㎢,相当雨量は210㎜(洪水調節容量は195万㎥)であるから(乙A4〔2-8の1頁〕
,原判決別紙6)
,石木ダムは,技術基準解説において自然調節
方式が望ましいとされている小流域のダムに当たる。また,石木川を含む県
の河川は勾配が急で洪水到達時間が短いこと

にも

照らせば,ゲート操作を行う時間的余裕に乏しいといえるから,本件起業者が,この点も考慮して自然調節方式を選択したことが合理性を欠くということはできない。


なお,県知事と地元の3郷の各総代は,昭和47年にダム等の建設の必要が生じたときはあらかじめ書面による同意を受けることなどとする本件覚書を交わしている(前記第2章第1の4⑴)

しかし,土地収用法は,公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等につい
て規定し,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的とするものであり(法1条),公共
の利益となる事業の用に供するため土地を必要とする場合において,その土地を当該事業の用に供することが土地の利用上適正且つ合理的であるときは,土地収用法の定めるところにより,これを収用し,又は使用することができ
るものとされている(法2条)
。そして,事業の認定は当該事業等のために
土地を収用し又は使用しようとするときの要件及び手続等を定めるものであ
って(法16条)
,法20条各号の要件の全てに該当することがその要件と
されているものであり(同条)
,事業認定に関する処分を行う機関は,法2
0条各号の要件を全て満たすか否かを審査することを要し,かつ,それで足りるものであって,被収用地に関する被収用者や第三者の私法上の権利義務関係の存否については,事業の認定の要件とはされていない以上,その審査
をすべきものではない。
したがって,仮に本件覚書の内容に係る合意が有効に形成されていたとしても本件事業認定の適法性に影響を与えないというべきである。
3
以上によると,本件事業について土地及び漁業権を収用し又は使用する公益上の必要性があり法20条4号所定の要件を充足するとした処分行政庁の判断
が合理性を欠くものとはいえず,同判断に裁量を逸脱し又は濫用した違法はない。
第4

その他,原審及び当審における当事者双方の主張に鑑み,証拠の内容を検討しても,当審における上記認定判断を左右しない。

第4章

結論
以上の次第で,控訴人目録番号2ないし5,7,8,10,13,14,1
6,18,20,22,26,27,29,33,36,37,42,43,45ないし48の控訴人らの訴えは,いずれも不適法であるから却下し,その余の控訴人らの各請求は,いずれも理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第4民事部

裁判長裁判官

西井和徒
裁判官

上村考由
裁判官

佐伯良子
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