判例検索β > 平成30年(ネ)第242号
損害賠償請求控訴事件
事件番号平成30(ネ)242
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日令和元年12月12日
法廷名高松高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名高知地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)129
裁判日:西暦2019-12-12
情報公開日2020-01-14 12:00:09
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主文1
本件控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,別紙当事者目録第1の1記載の各控訴人に対し,それぞれ200
万円及びこれに対する平成26年9月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被控訴人は,別紙当事者目録第1の2記載の各控訴人に対し,それぞれ100
万円及びこれに対する平成26年9月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
被控訴人は,別紙当事者目録第1の3記載の各控訴人に対し,それぞれ66万
6666円及びこれに対する平成26年9月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
被控訴人は,別紙当事者目録第1の4記載の各控訴人に対し,それぞれ50万
円及びこれに対する平成26年9月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
被控訴人は,控訴人Aに対し,25万円及びこれに対する平成26年9月19
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要等
事案の概要

本件は,アメリカ合衆国(以下米国という。
)が昭和29年3月から同年5月ま
でに,ビキニ環礁及びその付近において核実験を行い,その周辺の海域において漁船員らが被ばくしたにもかかわらず,被控訴人(一審被告)が,被ばくの事実及び被ばくに関する資料を平成26年9月19日に開示するまでの間隠匿し,被ばく者について追跡調査や生活支援等の施策を実施しなかったと主張し,これらの行為が違法であるとして,被ばくした漁船員ら及びその遺族並びにこれらの者の支援者である原判決別紙1当事者目録第1記載の一審原告らが,主位的に,被ばくした漁船員らは,必要な治療を受け,生命及び健康を維持する権利等を侵害され,支援者は被控訴人の違法行為により貴重な時間を浪費したとして,予備的に,上記一審原告らは,上記資料の開示によって被控訴人による違法行為を知り,
大きな怒りと衝撃を受けて精神的損害
が発生したとして,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,漁船員ら及びその支援者である一審原告一人につき200万円,
遺族である一審原告らは200万円
に対する法定相続分の割合を乗じた額の損害及びこれらに対する最終的な違法行為
の日である上記資料開示の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,一審原告らの請求をいずれも棄却し,一審原告らのうち,これを不服とする別紙当事者目録第1記載の控訴人ら(一審原告Bは,平成30年2月9日死亡し,控訴人C及び同Aがその法定相続分に応じて承継した上で控訴した。)が控訴した。

2
原判決の補正及び引用

前提事実,争点及び当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決第2の1から3までに記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決2頁26行目のあったから3頁5行目までを次のとおり改める。
あった。別紙当事者目録記載第1の1の控訴人らのうち,後記の各控訴人を除く控訴人らは,これらの漁船員に含まれる。遺族である控訴人ら別紙当事者目録記載第1の2から5までの各控訴人は,原判決別紙2の漁船員欄記載の者の,控訴人C及び同Aは,一審原告Bの各相続人であり,それぞれの相続分は,別紙当事者目録記載第1の2から5までのとおりである(甲14,甲86(各枝番を含む。。)⑵

原判決3頁22行目のというをといい,本件核実験の被害全般を「ビキニ被災又はビキニ事件といい,その被災者をビキニ被災者という」と改める。


原判決4頁5行目のを隠匿をの隠匿と改める。
原判決4頁20行目から7頁23行目までを次のとおり改める。

⑴争点1-1(被控訴人が本件資料等を隠匿したか)について(控訴人らの主張)ア隠匿の意思及び事実を推認させる事情について被控訴人及び米国は,当時の米ソ核開発競争の中で米国が優位に立つために米国の核実験の継続を優先させるという政治的思惑により,昭和30年1月4日,日米両政府間において,米国が,第五福竜丸関係等の僅かな補償のみ行い,その余の米国の責任は免除するという合意をして政治決着を行った(以下同日の日米の合意を「日米合意という。。被控訴人は,このような違法な合意を行うに当たり,本件被ばく者の)
人的被害は全て隠すという基本方針を決め,本件核実験直後の内閣以来の歴代内閣の閣僚(特に総理大臣,外務大臣,厚生(労働)大臣,農林水産大臣)は平成26年9
月19日まで,本件資料等を徹底して隠し続けてきた。このことは,以下の各間接事実から明らかである。なお,控訴人らは,これらの事実を個別の不法行為として主張するものではない。
被控訴人は,
本件被ばく当時,
厚生省の関係検査員が被ばく漁船の検査を行い,
多くの漁船から被ばくを確認したため,全国延べ992隻の漁船が採った魚を投棄し
たこと,調査船俊こつ丸の調査でもビキニ環礁等付近の海域の海水から放射能汚染が確認されたことから,本件被ばくの事実を知っていた。
被控訴人は,前記政治決着と並行して,昭和29年12月末をもって被災調査そのものを打ち切ることを閣議決定し,翌年以降調査を実施せず,これを地方自治体にも徹底し,強制した。

被控訴人の調査船俊こつ丸の調査では,海水中のプランクトン,船体,漁網等が放射性物質により汚染されていたことが判明していたにもかかわらず,被控訴人は,第二次調査を途中で打ち切り,以後,この調査結果は全く生かされなかった。被控訴人は,国民全体への情報提供において,ビキニ事件を第五福竜丸事件に特化し,第五福竜丸に対する対応の終了とともに,ビキニ事件を終わったものとし,国民は,そのように思わされた。
ビキニ被災者は,広島,長崎の被ばく者と同じく,核被災者であるにもかかわらず,被控訴人は,ビキニ被災者には被爆者健康手帳の交付を拒否し続けた。高知県幡多地域におけるビキニ被災の調査結果が教科書に掲載されようとしたとき,被控訴人は,教科書検定でこれを中止させた。
被控訴人は,
昭和61年3月7日の衆議院予算委員会でのD議員の質問に対し,
本件被ばくに関する資料は残っていない旨,
また,
新たな調査も困難である旨答弁し,
本件資料の提出を拒否した。
平成16年3月5日の高知県議会におけるE議員の質問を受けたF知事の,被控訴人に対するビキニ事件に関する資料の開示要請に対し,被控訴人は,ビキニ事件は解決済みであり,現在それを扱う窓口もないとして開示を拒否した。
平成25年,NHKが外務省に情報公開請求を行った際,同省は,一部の船の航路図,検査結果等を開示したが,被災船員の血液検査や医師の所見をマスキングする等全体像を明らかにしなかった。
G参議院議員及び控訴人Hらが,平成26年7月,厚生労働省に対して開示請求を行った際,本件資料の存在が判明するまで本件資料を出さなかった理由と責任を
追及し,速やかに開示するよう要求したにもかかわらず,開示はなかなか進まず,途中で担当職員が突然交代し,同年9月19日の開示当日まで本件資料の内容,枚数は示されなかった。また,同省は,開示後に同議員らによる記者会見が予定されていることを知るや,
先に国側の書面
(漁船員に健康を害する被ばくはない旨記載した書面)
を記者に配布し,記者会見主催者である太平洋核被災支援センター(控訴人H)及び
同議員らには同書面を渡さなかった等の経過があった。
しかも,本件資料の開示は,既に公開された外務省の開示文書にある旧厚生省関係の文書に含まれていた被災船員の血液・尿などの検査記録は除外されているなど,不十分なものであり,同議員らの追及により,同年10月29日に追加文書が開示されるに至った。
厚生労働省担当者は,前記開示に当たり,本件資料を外部倉庫で発見したと説明したが,
第三の被ばく事件として大問題となった事件に関する資料を遠くの倉庫まで運んで保管したというのは極めて不自然である。
また,開示に当たっては,個人情報と関係のない部分など,広範囲にマスキングがなされていた。
本件資料の開示後も,厚生労働省は,ビキニ研究班を作り,ビキニ被災者等か
ら全く聞取りもしないまま,机上で人の健康に影響するほどの被ばくはないとの報告書を発表した。
被控訴人は,本件資料以外にも,ビキニ被災に関する重要文書を隠しており,このことは,平成30年10月にI氏らが情報公開請求をして初めて開示されたものがあったことからも明らかである。
さらに,I氏が外務省に対し,汚染船舶航跡関係文書等の開示請求をした際,
開示に1年を要すると回答されるなどした。また,令和元年6月25日に開示されたこの文書は同省が過去に一度開示されたものを再度機密化し,開示を渋っていたものであり,これらの事実は,同省がいまだに文書を隠す意思を持ち続けていることを示す。
NHKの報道番組において,当時ビキニ事件に関与していた日米の高官は,取材に対し,次のように,ビキニ被災について隠したこと等を認める発言をした。a東西の冷戦時代,1950年代には,米ソの核開発競争で,米国は優位に立ちたいと考え,核開発の邪魔になるものは全て取り除かれました。この日本人漁船員の被曝も同じく隠してしまったのです。(米国エネルギー省元上級政策顧問Jの発言)
b

第五福竜丸以外にも被曝者はいたと感じていましたが,検査は途中で打ち切られた。歯がゆい。もっと自己反省をしなければいかん。元厚生省審議官Kの発言)



被控訴人の主張について
被控訴人は,本件資料を隠匿するつもりであれば破棄するはずであるが,破棄
せず残していたとして,隠匿の意思等がなかったと主張するが,行政文書の管理システム上,各文書の保存期間は決まっており,自由に廃棄できないし,歴史的に重要な公文書は廃棄されず,国立図書館等に移管され保存されることになっている。被控訴人は,本件資料を隠匿するつもりであれば,開示しないはずであるが,開示しているとして,隠匿の意思がなかったと主張するが,被控訴人は,米国の公文書館で発見された文書を突き付けられ,国会等で追及され,対応に窮して,開示したにすぎず,開示の事実をもって,隠匿の意思を否定することはできない。
(被控訴人の主張)

隠匿の意思及び事実がないことについて
被控訴人が,本件資料等を隠匿したことはない。控訴人らの指摘する各間接事
実は,その一部が認められるとしても,それぞれ別個独立の行為であって,その態様や相手方等も異なるものであり,これらのことから一体とした隠匿の意思や行為を認めることはできない。
仮に,被控訴人において,本件資料を隠匿する意図があったとすれば,破棄するはずであり,また,開示もしないはずであるが,実際には,被控訴人は本件資料を破棄せずに保管し,発見後速やかに開示したという経緯がある。

控訴人らの主張について
日米合意に際し,
被控訴人が本件被ばく者の人的被害を全て隠すという基本方

針を決めたというようなことはない。日米合意の内容からも,国全体としてビキニ被災を以後一貫して隠匿しようとの意思は読み取れない。漁船の被害を含めビキニ被災について既に当時から大きく報道されており,これらを隠すことは不可能であった。前記控訴人らの主張ア
の主張については,
D議員の質問に対し,
L説明員は,

昭和29年の核実験による漁船等に関する資料は,水産庁においては残念ながら手持ち資料はない。

と答弁し,M政府委員は,昨日の質問後資料を調べたが,見つからないと答弁したが,政府関係者が本件被ばくに関する資料はもう残っていない旨答弁した事実はない。
前記控訴人らの主張ア

の主張については,厚生労働省は,平成26年7月1

日,控訴人Hらから,
マーシャル水域において漁撈に従事しまたはこの水域を航行した漁船についての検査の実施についてと題する昭和29年4月26日付け厚生事
務次官通知を示され,
本件核実験による被災状況に関する資料を探すよう求められた。
これを受けて,情報公開法に基づく行政文書の開示請求を受けて行われる通常の探索方法(行政文書ファイル管理簿の検索並びに厚生労働省内の所管課の事務室及び書庫の探索)に加え,更に厚生労働省内及び外部倉庫を探索したところ,本件核実験によ
る被災状況に関する資料を発見した。
そして,厚生労働省は,平成26年9月19日,控訴人Hから,情報公開法に基づきビキニ核実験に係る資料一式に係る行政文書について開示請求を受け,同日,本件核実験による被災状況に関する資料を開示した。
本件資料の開示の経緯は,上記のとおりであって,現に,被控訴人は,本件資料が
発見された後,控訴人Hらから情報公開法に基づく行政文書開示請求を受けて,控訴人Hらに対し,速やかにこれを開示しているのであるから,被控訴人において,本件資料等を故意に隠匿し,開示を拒否し続けたという事実はない。
前記控訴人らの主張ア

の主張については,控訴人らが言及する資料等は,本

件資料の開示後に初めて開示請求がなされたもので,被控訴人は情報公開法等の関係諸法令の規定に基づき,必要な審査を経た上で請求から1月程度で開示決定をし,その数日後に開示を実施するなどしており,このような経緯からすれば,被控訴人に当該資料を隠匿する意図も隠匿の事実もないことは明らかである。
前記控訴人らの主張ア

の主張については,控訴人らが言及する資料は,当該

文書の性質上,開示の適否及び開示,不開示箇所の特定に慎重な判断を要する特定歴史公文書等が大量であり,現時点で公文書管理法16条1項1号イの利用制限事由に該当するかを検討する必要があることから,外務省外交史料館利用等規則15条4項に基づいて利用決定期限を令和2年4月と定めたものであるが,これは,閲覧不可の期間を表すものではなく,利用決定までの期限を定めたものであり,実際には,令和元年6月21日付けで特定歴史公文書等利用決定通知書を発出済みである。特定歴史公文書等に対する利用請求については,公文書管理法に基づき不開示箇所を特定しており,基本的に,一度開示された内容がその後不開示となることはなく,被控訴人(外務省)が過去に一度開示されていたものを再度機密化し,開示を渋っていたことはなく,ビキニ被災の資料を隠す意思があったこともない。前記控訴人らの主張ア

の主張については,
控訴人らが言及する報道番組中の

関係者の発言等は,いずれも,被控訴人において本件資料等の隠匿があったと述べたものではないし,個人の意見を述べるにとどまるものであり,隠匿の事実を認めるに足りるものではない。


カ原判決9頁10行目末尾に改行の上,次のとおり加える。契約上の義務前記各政府機関は,本件被ばく者らとの検査,検診契約に基づいて,各人に対し,検査,検診等を行ったものであり,本件資料は各人の健康管理に生かすための資料であって,検査結果は各人に報告するとともに,その健康管理に利用する契約上の義務を負っていた。しかるに,検査結果を各人に報告せず,その資料を隠す等の行為は,上記作為義務に違反する。⑹

原判決9頁11行目のカをキと改め,同18行目の行為であり,の
後にかつ,各人との契約上の義務に違反するものであって,と加える。⑺

原判決12頁24行目のあることの後に等と加える。



原判決13頁7行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

さらに,前記のとおり,被控訴人は,本件被ばく者らとの契約により行った検査,検診等の結果に基づいて,その健康維持のために必要な対策,援助をするべき作為義務を負っていた。



原判決14頁16行目及び18行目の遺族原告をいずれも遺族である控訴人らと改める。⑽
原判決15頁26行目から16頁17行目までを次のとおり改める。

控訴人らの主張する各違法行為のうち,
本件提訴日である平成28年5月9日

時点で既に20年を経過しているものについては,除斥期間が経過している。イ
これに対し,控訴人らは,被控訴人による本件資料の隠匿は,本件資料を隠す
という作為とこれを開示すべき作為義務があるのにあえて何もしないという不作為の連続する継続的不法行為である旨主張するが,被控訴人において,何ら行為や損害の一体性を認めることのできる違法行為があったとはいえないから,控訴人らの上記主張には理由がない。

第3
1
争点に対する判断
判断の概要

当裁判所も,控訴人らの請求は,いずれも理由がないから棄却するべきであると判断する。その理由は,後記2のとおり補正するほかは,原判決第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
2
原判決の補正



原判決17頁24行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

前提事実,後掲各証拠(認定事実に反する部分を除く。人証は,控訴人Nを除き,いずれも原審。,公知の事実,顕著な事実及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実)を認めることができる。



原判決18頁16行目の核兵器を水爆と,同17行目の水爆事件

を水爆実験とそれぞれ改める。


原判決19頁7行目の
日本船の海洋日本漁船の上記水域外

と改める。



原判決22頁7行目の放射能の後に,(以下,この語を,放射線,放射性

物質又はこれによる汚染の意味で使用することがある。

と加える。)

ウ原判決26頁18行目から27頁14行目までを次のとおり改める。控訴人N(甲73,甲91,控訴人N本人(原審・当審))控訴人Nは,100トンに満たない小型漁船であるひめ丸に乗り,昭和29年7月頃から,北緯5度ないし7度,東経140度ないし145度の海域で約20日間マグロ漁に従事し,同年8月17日,築地港(東京都)に帰港した。航海中は,海水や雨水で水浴し,捕れたマグロ等を多く食べるなどしていた。控訴人Nは,ひめ丸の帰港後に初めて本件核実験のことを聞かされた。また,漁獲したマグロや漁船員らの身体の放射線量の検査が行われたが,控訴人Nは,その際,身体に当てたガイガー測定器から音がし,針が大きく振れたことを記憶している。検査の結果,漁獲したマグロは水揚げ停止となり,一部を研究材料として提供させられ,残りは海洋投棄を命じられた。過酷な状況で漁業を行ってきたにもかかわらず,マグロの海洋投棄によって収入はゼロとなるため,漁船員らの落胆は大きかった。控訴人Nは,本件被ばく当時17歳であったが,その後,40歳頃から白血球の数が多くなり,45歳頃からは呼吸困難となって,慢性気管支炎と診断された。また,平成12年9月(64歳頃)に前立腺がんの診断を受け,平成19年(71歳頃)に狭心症で入院した。現在,身体障害3級の認定を受けており,平成29年には慢性閉塞性肺疾患と診断された。控訴人Nが,当時の漁船員らの消息を調べたところ,O(控訴人Pの夫)は,平成5年に白血病と診断され,それから10か月後に死亡したこと,Qは,平成12年頃に大腸がんを発症したこと,50歳頃から歯が抜け出し,現在は1本も残っていないこと,Rは,平成14年に前立腺がんを発症したこと,血液の病気の可能性を指摘されていることが判明した。また,Rは,控訴人Nに対し,本件被ばく時の状況について,夕方周囲がパーッと光り,昼間のように明るくなったと語っていた。⑹


原判決34頁26行目の同年を昭和29年と改める。


原判決29頁12行目の民集を民衆と改める。

原判決36頁24行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

オの2調査船俊こつ丸による調査(第二次)被控訴人(厚生省及び水産庁)は,前記俊こつ丸を再度ビキニ海域に派遣することとし,同船は,昭和31年5月26日から同年6月30日までの間,同海域において調査を行い,海水汚染が低レベルながら広範囲に広がり,大気中から著しい放射能が検知され,プランクトン,マグロ,イカの内臓から放射能が検知されるなどの調査結果が得られた。当時行われていた新たな核実験(レッド・ウイング作戦)の終了後にも調査を行う計画があったが,この調査は,実施されなかった。(甲1〔185~187頁〕甲3,〔70~71頁〕甲5,〔92~94頁〕甲79,〔80~84頁〕)


原判決39頁12行目の

かのうようです。

かのようです。

と改める。原判決40頁3行目の31日,本件被ばくのを31日限りで,事務次官検査通知に基づく漁船等のと改める。⑾⑿
原判決44頁20行目の出向を出港と改める。


原判決47頁12行目の
以下「日米合意
という。を
」日米合意
と改める。


原判決40頁19行目の委員会)の後にの文書と加える。

原判決51頁11行目の

行っていた。

を行っており,と改め,同17行
目の他のの前に,
幡多ゼミはと加える。

原判決52頁6行目のまたから7行目末尾までを次のとおり改める。
実教出版が作成した平成3年版の社会科教科書原稿に幡多ゼミの活動を高校生の地域調査活動として取り上げるページが設けられた。文部省は,同ページについて8箇所の修正意見を付したが,その後,同ページ自体が上記出版社により削除された。もっとも,上記修正意見中には,地名ないし国名表記の正確性に関する指摘,文章の主語述語の関係や前後の文章のつながりが分かりにくい点の指摘等些細な点についての意見も含まれていた。また,上記ページ中には,幡多地区の高校生がビキニ被災は第五福竜丸だけではないだろうと推測し,調査した結果,高知県だけでも270隻の漁船が放射性物質に汚染されたマグロを廃棄し,当時出漁していた漁民に,めまいや脱毛等の症状があり,入退院を繰り返している人もいることを知った等とする記載部分があったが,この部分については,修正意見は付されなかった。また,同年の社会科の教科書について付された検定意見は,1教科書当たり244箇所あった。⒃⒄
原判決55頁15行目の高知県ビキニ水爆実験を削る。


原判決54頁4行目の第五福竜を第五福竜丸と改める。

原判決61頁4行目から9行目までを次のとおり改める。

控訴人Hらは,平成26年7月1日,厚生労働省に対し,事務次官検査通知を示してビキニ被災に関する資料を探すよう求めた。当初これを担当した職員は,同年8月1日異動し,後任者が上記に関する準備等を行った。厚生労働省は,控訴人Hらに対し,同年9月19日に本件資料を開示したが,開示する文書の内容及びその枚数を示したのは当日であった。また,同省職員は,控訴人Hらに対し,その際,通常の探索場所に加え,厚労省内及び外部倉庫を探索したところ,関東近県にある医薬食品局食品安全部の倉庫において,本件資料を発見した旨説明した。(甲6,甲27,甲77)⒆
原判決61頁23行目末尾に改行の上,次のとおり加える。の2平成30年の開示請求についてI氏は,平成30年8月ないし9月頃,外務省に対し,アリソン・重光会談に関する文書の開示請求をし,外務省は同年10月頃これを開示した。同文書は,それまで公開ないし開示されていなかった。(甲94)の3平成31年の開示請求についてI氏は,平成31年4月22日頃,汚染船舶航跡関係文書等の開示請求をしたところ,外務大臣は,令和元年5月17日付けで,利用制限の審査に慎重な判断を要する特定歴史公文書等が大量であるためとして,利用決定期限を令和2年4月22日と定めたことを通知した。同文書は,平成25年に既に開示されたことのある文書であった。同文書は,令和元年6月25日に開示された。(甲94)の4NHK番組「水爆実験60年目の真実について
標記のNHKの報道番組は,控訴人H,同Sらからも取材するなどした上で,ビキニ被災者の被ばくが核開発競争の中で隠されてきた等と報道したものであるが,上記番組中には,米国において機密文書に接していたとする米エネルギー省元上級政策顧問Jの

アメリカは,核開発の邪魔になるものは全て取り除きました。この日本人漁船員の被ばくも同じく隠してしまったのです。

とか,

アメリカは核兵器の開発に不可欠だった核実験が中断されることを最も恐れていました。実験の邪魔となる不都合な事実は全て極秘としました。だからこそ,この日本人漁船員の被ばくの事実も隠してしまったのです。

との発言や,当時の厚生省の事情を知る人物とする元厚生省審議官Kについて,

Kさんは,第五福竜丸以外にも被ばく者はいたと感じていました。しかし,検査は途中で打ち切られたといいます。

とのナレーションや,同人の

歯がゆいっていうか。もっとしっかりせないかんと,自己反省しますわね。等の発言が含


まれていた。
上記番組は,平成26年8月6日放送された。
(甲64)


原判決62頁5行目の市場を資料と改め,同13行目の「ある。」の後
に,

上記研究の研究方法としては,記録,論文等の収集,整理を行った上で,これらの分析等を行うという方法がとられ,関係者からの聞取り等は行われなかった。

と加える。
原判決68頁22行目から78頁10行目の5までを次のとおり改める。2⑴争点1-1(被控訴人が本件資料等を隠匿したか)について控訴人らの主張について控訴人らは,日米合意当時,双方の政府関係者において,米国の核実験継続のため,ビキニ被災について隠匿しようとする意向等があったと主張し,確かに,前記1認定の事実等からすれば,その前後,米国関係者において,ソ連との核開発競争の中,その妨げにならないよう,我が国の反核運動の高まりを避け,ビキニ被災による被害弁償をできるだけ早期に,かつ,低額に抑えるよう政治決着を図りたいとの思惑を有したことが推認されるし,我が国の政府関係者においても,日米合意に応じた後においては,その後ビキニ被災が拡大したような場合,我が国において解決する必要があることから,補償の対象とならなかったビキニ被災があったとすれば,これが明らかになったり,大きく報道されたりすることは望ましくない状況にあったことは認められる。そして,控訴人らは,被控訴人の本件資料等の隠匿行為を推認させるべき間接事実として,前記第2の3⑴(控訴人らの主張)アからまでのとおり主張し,これらの事実は,前記1認定の範囲ではこれを認めることができる。⑵被控訴人に本件資料等を隠匿する意思や隠匿の事実(以下「隠匿の意思等と
いう。
)があったと認め難い事情について
しかしながら,前記のような日米の関係者の思惑等があったとしても,具体的に,これが被控訴人の情報の隠匿行為に結び付いたと認めるに足りる的確な証拠は見当たらないし,かえって,以下のとおり,被控訴人に隠匿の意思等があったとすることとは矛盾する事情が認められる。

前記1⑹のとおり,ビキニ被災については,第五福竜丸の被害以外にも,第十
三光栄丸の被害(前記1⑹ウ)や貨物船の被害(同カ)も報道されるなどしており,このように既に公になっている事実について,被控訴人が隠匿しようとしたとすることには無理がある。
また,控訴人らが特に問題視する漁船員らの身体検査の資料などに関しても,漁船員らが身体検査を受けたこと自体は当時から知られていた事実であるし,その結果について,これが放射線被ばくの長期影響について知見が十分でなかった当時においてセンセーショナルに報道されるようなものであったと認めるに足りる証拠も提出さ
れておらず,これらについて,被控訴人が隠匿を行わなければならないような動機があったというには疑問が大きい。

また,控訴人らは,日米合意当時から平成26年に至るまで一貫して,被控訴
人が本件資料等を隠匿したというのであるが,控訴人ら主張の各事実は,期間において約60年の長期間にわたり,一口に被控訴人といっても,主体においても,関係する機関,組織は様々で,これを構成する人は一時点のみを採ったとしても多数に上り得る上,上記の約60年間の間に,頻繁に交代していたものであって,極めて多人数にわたる。このような長期かつ関係者多様・多数の行為については,例えば,同一の事項を所管する大臣間や,同一省庁内で厳格な引継ぎ等がなされていれば,長期間にわたって,その意思が継続できると考えられるようなものでもない。この点,控訴人らは,歴代内閣の閣僚が徹底して本件資料等を隠匿してきたというのであるが,総理大臣及び閣僚についても,
この間,
所属する政党や政治的立場を異にする交代を含め,
多数回の交代がなされているのであり,その間で,隠匿の意思等が引き継がれてきたというのは,およそ現実的であるとは考え難い。また,この点をおくとしても,これが広範囲,長期間,多人数に及ぶ,関係の各機関及びその職員等に秘密裡に徹底され得るものであるとは到底考えられない。


さらに,仮に,被控訴人に,控訴人ら主張のような隠匿の意思等があったとす
れば,本件資料を廃棄することが最も簡単に目的を達する方法であると考えられるから,そもそも本件資料を廃棄しなかったというのは不自然というほかない。この点,控訴人らは,被控訴人において,文書等の保存期間が定まっていたこと等から廃棄できなかった等と主張する。
しかしながら,実際の公文書の管理は,前記1

認定のとおり,保存の可否の基準

や保存期間が整備されてきたのは,近年であって,それ以前は,今日から見て適切であったかどうかは別として,廃棄しようという意思があれば,容易に廃棄できたものと考えられる。また,控訴人らがいうように組織として本件資料等の隠匿という重大な違法行為を行おうとしたのであれば,保存期間違反という秘匿に比して重大とはいえない規律違反を恐れて廃棄しなかったというのも極めて不自然といわなければならない。これらのことからすれば,控訴人らの上記主張は採用できない。エ
また,仮に控訴人ら主張のような隠匿の意思等があったとすれば,それが適法
かどうかはともかくとして,厚生労働省は,平成26年に至っても,本件資料が存在しない,あるいは見当たらないとして,開示しないこともできたものと考えられるところ,実際には開示しているのであるから,隠匿の意思等があったとすることとこの開示行為も矛盾するものといわなければならない。
この点,控訴人らは,被控訴人はこの時点では隠し切れなくなって本件資料を開示した等と主張する。
しかしながら,開示に至った経緯は,前記認定のとおりであって,本件資料を保存している事実ないし保存している資料の内容が明らかになったため開示したというものではないから,隠し切れなくなったという事情は認められず,したがって,開示したことと,控訴人ら主張の隠匿の意思等との間に矛盾があることは左右されないというべきであり,控訴人らの上記主張も採用できない。

また,前記1

カ,同

のとおり,外務省は,平成3年の時点で,自発的に,

日米合意の裏にあった思惑を推認させる資料を公開したと認められるが,このことも,控訴人ら主張の隠匿の意思等とは一貫しない。

上記の各点を考慮すれば,日米合意の当時に日米政府関係者に前記のような思
惑等があった可能性はあるとしても,そのために情報の隠匿方針が決定され現在に至るまでその意思が貫徹してきたとは認め難いというべきである。

控訴人ら主張の各間接事実について

個別に,控訴人ら主張の間接事実についてみても,

前記第2の3⑴(控訴人らの主張)ア

の事実(本件被ばくの認識)について

みると,確かに,被控訴人全体を見ると,報道され公知となっていた事実のほか,直接,又は地方自治体等を通して間接的に,船舶の検査,漁獲物の検査,俊こつ丸の調査等を行っており,各閣僚を含め,被控訴人の担当の部署の職員らが,本件被ばくの事実の一部を知っていた可能性は高い。しかしながら,放射線被ばくの長期影響について知見が十分でなかった昭和30年頃,前記認定のビキニ被災に関し当時知られていた事実に照らし,本件被ばくにより重大な健康影響が生じ得るとは一般に考えられていなかったものと推認され,我が国の政府等においても同様であったと考えられる。このことは,知見の集積された今日から見れば,本件被ばくの影響を過少評価したも
のといわざるを得ないが,この点は結果論であって,上記のことから本件資料等の隠匿の意思等を推認することはできない。
イ同
の事実(被災調査の打切り)についてみると,前記1⒀のとおり,被控訴
人(厚生省)が被ばく調査中止を行ったことは認められるが,被ばく調査中止の通達は,放射性物質の性質等と人体に対する危険性を評価して調査を中止するとしているところ,その評価が放射線の人体影響について疫学研究等の進展した現在からみれば,不十分であったとの評価は十分あり得るとしても,他の目的で調査を中止したことをうかがわせる証拠もなく,また,その後,厚生省等において,後記ウのとおり俊こつ丸の調査も行うなどしていること等に照らしても,本件資料等の隠匿の意思等を推認するに足りないというべきである。
なお,前記1⒀認定の米国の関係者相互の書簡によれば,米国関係者において,厚
生省等に魚の放射能検査の中止を働き掛けていたことがうかがわれないではないが,同書簡によっても,漁獲物の危険性が低いとした日米会議が上記中止に影響したとしており,他の目的で被ばく調査中止が行われたものとはいえない。ウ同
の事実
(俊こつ丸調査打切り)
についてみると,
前記1⑾オの2のとおり,

被控訴人(厚生省及び水産庁)によりビキニ環礁付近に関する第二次調査が行われたことが認められるところ,その時期は,日米合意の約1年後である昭和31年のことであり,このことは,控訴人らの昭和30年の日米合意に当たり被控訴人が隠匿の基本方針を決めて,歴代内閣が隠し続けてきたとする主張とは矛盾する。なお,控訴人Hが著した文献(甲1等)によっても同調査が途中で打ち切られたとは認められないし,その後,俊こつ丸の調査結果が利用されたかどうかは明らかでな
いが,そのことから,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思等を推認することも困難である。
エ同
の事実(第五福竜丸に特化した情報提供)についてみると,前記1⑹等で
認定したとおり,本件被ばくの対象船舶を含め,第五福竜丸以外の被害も既に当時から報道されるなどしており,
第五福竜丸の被害が最も知られていたとしても,
それは,
報道機関等による報道対象の選択の結果により生じたものである可能性が高く,これについて,被控訴人が報道機関等に何らかの働き掛け等を行ったとする具体的な主張も立証もないのであって,この点が,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思等の推認根拠となるものではない。
オ同
の事実(被爆者健康手帳交付の拒否)についてみると,本件核実験による
被ばく者が,広島,長崎の原爆の被爆者でもあったような特殊な場合を除き,原爆医療法に始まる被爆者援護法等の立法による給付を受けることはできないが,これは,前記1⒃及び後記3⑹のとおり,同法の規定によるやむを得ないものであって,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思等を何ら推認させるものではない。カ同
の事実(教科書検定)についてみると,前記1⒇のとおり,文部省の検定
においては,ささいな点を含む修正意見が付されたにとどまり,同省が本件被ばくに関する記載の掲載を中止させたということはできないし,むしろ,本件被ばくに最も強く関連すると考えられる記載部分に意見が付されていない点は控訴人らの主張に沿わないというべきである。
また,同じ年の社会科の教科書においては,他の部分にも多数の意見が付されたというのであって,上記部分について殊更意見が付されたものともいえない。
したがって,上記事実によって,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思等を推認することはできない。
キ同
の事実(本件国会答弁)についてみると,前記1

のとおり,被控訴人の

関係委員らは,本件国会答弁において,本件被ばくに関する資料は残っていないと答弁したものではなく,手持ち資料がないとか,資料を調べたがなかなか見つからない等と回答したにすぎない。
確かに,
同委員らにおいて,
その時点以降,
更に調査を行うことが困難であるとか,
対策を講ずることは考えにくい等の答弁がなされているものの,その理由は,30年以上の時間の経過を理由とするものであって,本件資料等の存在を知りながら,提出を拒否したものとも認められず,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思等を推認させる
ものではない。
ク同
の事実
(高知県知事答弁)
についてみると,
前記1
認定の同答弁からは,

①被控訴人の関係職員が高知県知事に対し,ビキニ被災の問題は,国家間の問題としては解決済みであると複数回説明したこと,②同知事が被控訴人の担当窓口がどこかその時点で知らなかったことがうかがわれるにとどまり,被控訴人が本件資料の開示を拒否したことを同答弁が示すものではない。そして,上記①については,日米合意が有すると考えられる法的効力からすれば,
国家間の問題として解決済みであるとす
る説明が違法ないし不当であったとはいえない。また,上記②についても,被控訴人の担当部署が定まっていたと認めるに足りる証拠もないから,仮に,被控訴人の関係職員が知事に対し,担当窓口が設置されていない等と説明したとしても,虚偽の説明をしたともいえない。したがって,これらの説明が,被控訴人の本件資料等の隠匿の
意思等を推認させるものではない。
ケ同
の事実(NHKの情報公開請求)についてみると,前記1

のとおり,外

務省がNHKの情報公開請求に対し,一部不開示としたことは認めることができるが,外務省が情報公開法等の規定に反して,
これを行ったことを認めるに足りる証拠はな
く,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思等を推認させるものではない。コ同
の事実(本件資料の開示の経緯)についてみると,前記1

,認定の限

度で認めることができるが,同事実によれば,開示に関する要求があってから開示実施まで約80日を要しているが,対象文書が多数に上ること等を考慮すれば,開示担当者において,殊更遅延したものとはいえない。控訴人らは担当者の交代や当日まで本件資料の内容,枚数が示されなかったことを,本件資料等の隠匿と関連性があるかのようにいうが,何らその関連性は明らかでない。
また,厚生労働省が前記認定の書面を報道機関に交付し,控訴人らには交付しなかったことが認められるところ,そのことから,当時の厚生労働省の担当者が,控訴人らの求めるビキニ被災に対する救済等の必要性については消極の見解を有していたことがうかがわれないではないが,同時に,本件資料を開示していることに照らして
も,本件資料等の隠匿の意思等が推認されるとはいえない。
さらに,追加資料の開示についてみても,前記1
のとおり,厚生労働省は,控訴

人らの指摘する資料を保管していなかったため,外務省から提供を受けて追加で開示したものと認められるから,当初開示したものに,これらの資料が含まれていなかったとしても,これらを厚生労働省が隠匿しようとしたものとはいえない。また,控訴人らは,本件資料についても,一部不開示があったことについて主張するが,前記ケで述べたのと同様,開示担当者において,情報公開に関する法規に違反して一部不開示を行ったことを認めるに足りる証拠はなく,
被控訴人の本件資料等の
隠匿の意思や事実を推認させるものではない。
なお,控訴人らは,説明された本件資料の保管場所についても不自然である等の主張をするが,特に不自然とは認められない。

サ同
の事実(ビキニ研究班の報告)についてみると,前記1

認定の限度で認

めることができるが,一般に,記録,論文等の収集,整理,分析に基づく研究という手法は,疫学研究等における科学的な一手法であって,不当なものではなく,被災者からの聞き取りをしていなかったとしても,調査の方法が直ちに不当となるものとは考えられないし,その内容から,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思等を推認することもできない。
シ同
の事実(平成30年の開示請求)についてみると,前記1

の2認定の限

度で認めることができ,I氏は,これをもって,被控訴人に隠匿の意思がある旨陳述している(甲94)

しかしながら,
情報公開請求を受けた行政庁は,
当該情報公開請求の趣旨に応じて,
開示又は不開示の決定を行うことになるのであり,平成30年になって,ビキニ被災に関する新たな文書の開示が請求され,開示されたからといって,被控訴人が文書を隠匿しているということはできないし,そのことから遡って本件資料等の隠匿の意思等を推認することもできないというべきである。
ス同
の事実(平成31年の開示請求)についてみると,前記1

の3認定の限

度で認めることができるところ,
利用決定期限を1年先とした点については適切とは
いい難いが,実際の利用決定は速やかにされたものであるし,既に公開されたことのある文書が対象であったことからすれば,開示を遅らせることによって,何らビキニ被災についての情報を隠匿し得るものでもないのであって,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思等を推認することはできない。
セ同
の事実(NHK番組の高官発言)についてみると,前記1

の4認定の限

度で認めることができるが,控訴人らが指摘する元厚生省職員の発言は,ビキニ被災について更なる調査が可能であったのに,
これをしなかったことを遺憾に思う趣旨の
発言にとどまり,被控訴人における関係部署の担当者として,隠匿を指示し,又は指示された等,被控訴人において本件資料等を隠匿する意思等があったことを述べたものではないし,元米国高官の発言についても,米国の状況を述べるものであって,被
控訴人に関するものとはいえないから,これらによって,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思や事実を推認することはできない。


小括

以上のとおり,被控訴人に隠匿の意思等があったとすることとは矛盾する各事情が認められる上,控訴人らが主張する間接事実を個別に見ても,また,これらを総合しても,被控訴人の本件資料等の隠匿の意思や事実を推認することはできず,他に,これを認めるに足りる証拠はないから,控訴人らの争点1-1に関する主張は採用することができない。
3

原判決83頁24行目の使用をの爆発と改める。
原判決85頁16行目から20行目までを次のとおり改める。

⑺契約上の義務控訴人らは,被控訴人は,本件被ばく者らとの検査,検診契約に基づいて,各人に対し,検査,検診等を行ったものであり,本件資料は各人の健康管理に生かすための資料であって,検査結果は各人に報告するとともに,その健康管理に利用する契約上の義務を負っていた等と主張するが,本件に関する検査,検診等に関し,対象者がこれに同意したことは推認することができるものの,これを超えて,控訴人らの上記主張のような契約が締結されたことについては,これを認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人らの上記主張に基づいて,被控訴人が資料開示,施策実施義務を負うということもできない。⑻小括以上によれば,控訴人ら主張の憲法若しくは法律上の規定又は契約に基づいて,被控訴人ないし内閣総理大臣その他閣僚等において,資料開示・施策実施義務を負うとは認められないから,被控訴人に,本件資料の開示義務違反の違法又は調査・支援等施策不実施の違法があったとは認められない。4小括以上によれば,被控訴人において,本件資料等の隠匿の意思等,また,本件資料を開示し,又は調査・支援等施策を実施するべき法的作為義務は認められず,被控訴人の国賠法上の違法行為は認められないから,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人らの請求はいずれも理由がない。その他,控訴人らの所論に鑑み検討しても,前記認定判断を左右するに足りる事情は認められない。第4

結論

よって,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから,本件控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
高松高等裁判所第4部
裁判長裁判官

増田隆久
裁判官

林啓治郎裕美子
裁判官
河端
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