判例検索β > 平成30年(ネ)第4442号
事件番号平成30(ネ)4442
裁判年月日令和元年11月28日
法廷名東京高等裁判所
裁判日:西暦2019-11-28
情報公開日2020-01-10 18:00:14
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主1文
一審原告の控訴及び一審原告の当審における追加請求(正社員復帰合意に基づく地位確認請求,債務不履行による損害賠償請求及び信義則違反を理由とする不法行為による損害賠償請求)をいずれも棄却する。

2
一審被告の控訴に基づき,原判決主文第2項から第6項までを次のとおり変更する。
一審被告は,一審原告に対し,5万5000円及びこれに対する平成27年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。イ
一審原告のその余の甲事件本訴各請求(当審における追加請求を除く。)をいずれも棄却する。
一審原告は,一審被告に対し,55万円及びこれに対する平成27年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ3
一審被告のその余の甲事件反訴請求を棄却する。

訴訟費用は,第1,2審並びに甲事件本訴反訴及び乙事件を通じ,これを5分し,その4を一審原告の負担とし,その余を一審被告の負担とする。
4
この判決は,第2項
事実及び理由

第1
1
控訴の趣旨
一審原告(以下の各請求の訴訟物の内容及び請求相互の関係等は,後記第2
原判決中,一審原告の損害賠償請求に関する部分を次のとおり変更する。イ
(主位的請求3)
一審被告は,一審原告に対し,330万円及びこれに対する平成27年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
原判決中,その余の一審原告敗訴部分を取り消す。
(主位的請求1)

一審原告が,一審被告に対し,正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(主位的請求2)

一審被告は,一審原告に対し,448万8000円及び別紙別表1中差額欄記載の額に対する各支払日欄の日の翌日から支払済みま
で年6分の割合による金員を支払え。


一審被告は,一審原告に対し,平成27年10月から本判決確定の日まで,毎月20日限り,48万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(予備的請求3-主位的請求2及び予備的請求2に対する予備的請求)一審被告は,一審原告に対し,2283万4000円及び平成30年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,第1,2審並びに甲事件本訴反訴及び乙事件を通じ,本訴反訴とも,一審被告の負担とする。
2
一審被告
原判決中,甲事件本訴反訴に係る一審被告敗訴部分をいずれも取り消す。一審原告の甲事件本訴請求をいずれも棄却する
一審原告は,一審被告に対し,330万円及びこれに対する平成27年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,第1,2審並びに甲事件本訴反訴及び乙事件を通じ,本訴反訴とも,一審原告の負担とする。

第2
1
事案の概要
本件乙事件は,語学スクールの運営等を目的とする株式会社である一審被告が,育児休業を取得し,育児休業期間が終了する一審原告との間で平成26年9月1日付けで締結した契約期間を1年とする契約社員契約(以下本件契約社員契約という。)は,一審被告が期間満了により終了する旨を通
知したことによって,平成27年9月1日,終了した(以下本件雇止めという。)と主張して,一審原告に対し,一審被告に対する労働契約上の権利を有する地位にないことの確認を求めた事案である。
本件甲事件本訴は,一審原告が,一審被告に対し,ア

一審原告が一審被

告との間で平成26年9月1日付けでした労働契約に関する合意(以下本件合意という。ただし,合意の解釈については争いがある。)によっても,一審被告との間で平成20年7月9日付けで締結した期間の定めのない労働契約(以下本件正社員契約という。)は解約されていない,

仮に,本

件合意が本件正社員契約を解約する合意であったとしても,①雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下均等法という。)及び育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成28年法律第17号による改正前のもの。以下育介法という。)に違反する,②一審原告の自由な意思に基づく承諾がない,③錯誤に当たるなどの理由により無効であり,本件正社員契約はなお存続すると主張して,本件正社員契約に基づき,正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,平成26年9月分から平成27年8月分までの未払賃金(ただし,別紙別表1のとおり,本件正社員契約に基づく賃金と本件契約社員契約に基づく既払賃金との差額)合計448万8000円及び別紙別表1中差額欄記載の額に対する各支払日欄の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに同年10月から弁済期である毎月20日限り賃金1か月48万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(主位的請求中の主位的請求),イ

仮に,本件

合意によって本件正社員契約が解約されたとしても,一審原告と一審被告は,本件合意において,一審原告が希望すればその希望する労働条件の正社員に戻ることができるとの停止条件付き無期労働契約を締結したと主張して,一
審原告の希望した所定労働時間の短縮された無期労働契約に基づき,正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,平成26年10月分から平成27年8月分までの未払賃金(ただし,別紙別表2のとおり,上記労働時間の短縮された無期労働契約に基づく賃金〔本件正社員契約に基づく賃金に0.86を乗じた金額〕と本件契約社員契約に基づく既払賃金との差額)合計337万4800円及び別紙別表2中差額欄記載の額に対する各支払日欄の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに同年10月から弁済期である毎月20日限り賃金1か月41万2800円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(主位的請求中の予備的請求),ウ

仮に,一審原告の一審被告に対する正

社員としての地位が認められないとしても,一審被告がした本件契約社員契約の更新拒絶(本件雇止め)は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないと主張して,本件契約社員契約に基づき,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,同月から弁済期である毎月20日限り賃金1か月10万6000円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(予備的請求),エ

一審被告が,一審原告を契約社員にした

上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連する一連の行為は違法であると主張して,不法行為に基づき,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円並びにこれに対する不法行為後の日(本件契約社員契約の期間満了日の翌日)である同年9月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
本件甲事件反訴は,一審被告が,一審原告に対し,一審原告が平成27年10月に行った記者会見(以下本件記者会見という。)の席において,内容虚偽の発言をし,これにより一審被告の信用等が毀損されたと主張して,
不法行為に基づき,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円並びにこれに対する不法行為の日(本件記者会見の日)である同月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は,ア

乙事件の訴えは,一審原告が甲事件において労働契約上の地

位を有することの確認を求めている以上,確認の利益がないから不適法であるとしてこれを却下し,イ

甲事件本訴の訴えのうち,原審の判決確定の日

の翌日以降の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分は,あらかじめ請求をする必要がある(民訴法135条)とはいえず,訴えの利益がないから,いずれも不適法であるとしてこれらを却下し,ウ

甲事件本訴の

その余の訴えに係る請求については,本件合意によって本件正社員契約は解約されたものの,本件雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないとして,本件契約社員契約に基づき,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求を認容するとともに,エ
賃金請

求については,一審被告に対し,平成27年10月から本判決確定の日まで弁済期である毎月20日限り賃金1か月10万6000円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し,オ

不法行為に基づく損害賠償請求については,

契約準備段階における信義則上の義務違反があるとして,一審被告に対し,慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円並びにこれに対する不法行為後の日(本件契約社員契約の期間満了日の翌日)である同年9月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し,その余の請求をいずれも棄却し,カ

一審被告の甲事件反

訴請求については,本件記者会見における発言がそれのみによって一審被告の名誉,信用が毀損される行為であるとは認められないとしてこれを棄却した。

当事者双方は,原判決中,各敗訴部分を不服として,それぞれ本件控訴を提起した。

一審原告は,当審において,甲事件本訴の訴えのうち,本判決確定の日の翌日以降の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を取り下げるとともに,予備的に,一審原告と一審被告との間で,一審原告が子を預ける保育園を確保して正社員に戻ることを希望した場合には,一審被告は速やかに正社員に復帰させる旨の合意(以下本件正社員復帰合意という。)が成立したと主張し,本件正社員復帰合意に基づく正社員の地位の確認請求及び未払賃金請求(後記主位的請求1の③,主位的請求2の③),本件正社員復帰合意の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求(後記予備的請求3)を追加し,本件合意が無効とする理由として,育介法23条違反,労働契約法12条違反を追加主張し,一審被告による正社員への復帰の拒否に関連する一連の行為が違法であるとする不法行為に基づく損害賠償請求の請求原因として,一審被告がその公式ウェブサイトに原判決に関して虚偽の事実を記載したことを追加し,甲事件本訴の請求を次のとおり整理した。
主位的請求1
正社員契約(①本件正社員契約,②停止条件付き無期労働契約,③本件正社員復帰合意に基づく正社員契約の順に主張する。以下同じ。)に基づく,正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求
主位的請求2
正社員契約(①本件正社員契約,②停止条件付き無期労働契約,③本件正社員復帰合意に基づく正社員契約)に基づく,平成26年9月分から平成27年8月分までの未払賃金(ただし,別紙別表1のとおり,正社員契約に基づく賃金と本件契約社員契約に基づく既払賃金との差額)
合計448万8000円及び別紙別表1中差額欄記載の額に対する各支払日欄の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに同年10月から本判決確定の日まで,弁済期である毎月20日限り賃金1か月48万円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求(なお,一審原告は,主位的請求2については,控訴状の控訴
主位的請求3
一審被告が一審原告を契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連する一連の行為は違法であることを理由とする,不法行為に基づく慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円並びにこれに対する不法行為後の日(本件契約社員契約の期間満了日の翌日)である平成27年9月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求
予備的請求1(主位的請求1に対する予備的請求)
本件契約社員契約に基づく,契約社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求
予備的請求2(主位的請求2に対する予備的請求)
本件契約社員契約に基づく,平成27年10月から本判決確定の日まで,弁済期である毎月20日限り未払賃金1か月10万6000円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求(なお,一審原告は,予備的請求2については,控訴状の
ものと解される。)
予備的請求3(主位的請求2及び予備的請求2に対する予備的請求)①本件正社員復帰合意が成立したにもかかわらず,一審被告が本件正
社員復帰合意に反して,一審原告を正社員に復帰させることを怠ったと主張して債務不履行に基づく損害賠償として,又は②仮に本件正社員復帰合意が認められないとしても,一審被告は,一審原告が保育園を確保して希望すれば合理的期間内にクラススケジュールを調整して一審原告を正社員へ復帰させなければならないという信義則上の義務を負っていたにもかかわらず,これを怠ったと主張し,不法行為に基づく損害賠償として,それぞれ損害金2283万4000円(ただし,平成30年12月26日付け訴えの追加的変更申立書の別紙別表1のとおり,平成26年10月1日復帰を前提とした同月分から平成30年11月分までの正社員給与相当額(月額48万円)と本件契約社員契約に基づく既払賃金との差額)及び①については請求の日の翌日から,②については不法行為後の日である同年12月28日(同月26日付け訴えの追加的変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求

一審被告は,当審において,本件雇止めの理由として,一審原告が保育園に正式に入園申請をしておらず,入園を辞退(キャンセル)した後も,この事実を秘匿し,むしろ,労働組合の交渉担当者が事実と異なる発言をしても,これを一切訂正せずに,正社員契約の再締結を求めて交渉をするなど背信的な態度をとっていたことを追加して主張し,他方,第1の2のとおり,不服の範囲を限定したため,原判決中,乙事件の訴えを却下した部分は,当審の審理の対象にはなっていない。

2
前提事実(争いのない事実又は後掲の証拠〔枝番のあるものは特に断らない限り枝番を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
当事者等

一審被告は,大学生及び社会人を対象としたキャリアデザインスクール
であるB,英語及び中国語のコーチングスクールであるC(以下
Cという。)の運営等を主たる事業とする,資本金1200万円,従業員数約22名の株式会社である。
一審被告代表者は,昭和▲年▲月生まれの女性である。一審被告は,一審被告代表者の亡夫が設立した会社であり,一審被告代表者は,平成23年に夫が死亡した後,一審被告の監査役となり,平成26年4月,一審被告の代表取締役となった。
D(以下Dという。)は,Cの執行役員であったものであり,E
(以下Eという。)は,Cの執行役員で,東京校のマネージャーであって,一審原告の上長であった。
F(以下F社労士という。)は,一審被告の顧問社会保険労務士であった。

一審原告は,昭和▲年▲月生まれの女性である。一審原告は,子供向け英会話スクールの講師等を経て,平成20年7月9日,一審被告との間で本件正社員契約を締結し,以後,Cにおいてコーチとして稼働していた。平成24年11月当時の本件正社員契約における一審原告の主な労働条件は,所定労働時間を1日7時間(完全フレックス制),賃金等を1か月48万円(ただし,本給35万3640円,定額時間外手当12万6360円の合計)などとするものであった。
(甲1,2,50,乙35,90から92まで)



育児休業の取得及び雇用契約書の作成

一審原告は,平成25年1月,出産のために産前休暇を取得し,同年3月▲日に長女を出産した後,産後休暇及び育児休業(終了日は子が1歳に達する日の前日である平成26年3月▲日)を取得した。


一審原告は,平成26年2月26日,さらに育児休業を6か月延長する旨を申し出て,育児休業期間は6か月延長(終了日は子が1歳6か月に達
する日の前日である同年9月1日)された。

一審原告は,平成26年9月1日,一審被告代表者らと面談した上,労働条件として,契約期間を期間の定めあり(平成26年9月2日から平成27年9月1日まで),雇用形態を契約社員,始業・終業の時刻及び休憩時間を原則水・土・日曜日/4時間勤務,賃金を月額10万6000円(クラス担当業務:7万6000円,その他業務:3万円)などとする記載のある雇用契約書(甲8。以下本件雇用契約書という。)に署名し,これを一審被告に交付した(本件合意)。
(甲8,50)

復職及び復職後の状況

一審原告は,平成26年9月2日付けで,復職し,同月3日から週3日勤務の契約社員として就労を開始した。


一審原告は,その後,一審被告に対し,子を預ける保育園が見付かったなどとして,週5日勤務の正社員に戻すように求め,何度か交渉をしたが,一審被告はこれに応じなかった。
(甲50)
本件雇止めに至る経緯等


一審被告は,平成27年5月29日,一審原告に対し,東京地方裁判所に,正社員としての地位が存在しないことの確認を求める労働審判を申し立てた(同裁判所平成27年(労)第395号)
。上記労働審判について
は,同年6月30日,第1回手続期日が開かれ,同年7月17日,第2回手続期日が開かれたが,一審被告は,同年8月1日,上記申立てを取り下げた。


一審被告は,一審原告に対し,平成27年7月11日頃,同月12日以降自宅待機を命じ,同月31日差出しの内容証明郵便をもって,本件契約
社員契約を同年9月1日限り期間満了により終了する旨通知し(本件雇止め),同年8月3日,東京地方裁判所に乙事件の訴えを提起した。(甲32,77,乙94,101,106)
本件記者会見等

一審原告は,平成27年10月22日,東京地方裁判所に甲事件本訴を提起し,一審原告訴訟代理人弁護士らとともに,厚生労働省記者クラブにおいて,本件記者会見をし,一審原告の氏名は匿名としながら,一審被告の名称を公表して,甲事件本訴を提起したとして,育児休業期間が終了し,保育園が見付からなかったため休職を申し出たものの認められず,1週間3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られ,やむを得ず契約社員としての雇用契約を締結したところ,1年後に雇止めされた,上司の男性から俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させると言われた,労働組合に加入したところ,一審被告代表者からあなたは危険人物ですと言われたなどと発言した(以下,各発言を総称して本件各発言という。)。


一審被告は,平成27年10月23日,一審被告の公式ウェブサイトに,本件記者会見における一審被告の元従業員の主張は,全く事実と反する内容であり,元従業員は自らの意思で契約社員を選択したものであって,元従業員との雇用契約の終了は,飽くまで元従業員の問題行動が理由であり,育児休業の取得その他の出産・育児等を理由とした不利益な取扱い(マタニティハラスメント)に当たる事実は一切ない旨の記事を掲載した。


一審被告は,一審被告の公式ウェブサイトに,原判決が言い渡された直後の平成30年9月12日,

今回出された第1審判決について,一部のマスコミの報道では,弊社のマタハラが認定されたかのように報じられているものがございますが,そのような事実はございません。

などの記載
のある記事を掲載した。
(甲45,66,乙68,71)
3
主な争点


本件合意の解釈及びその有効性

本件合意は本件正社員契約を解約するとの合意を含むものであるか。

本件合意は均等法や育介法に違反し又は錯誤等により無効であるか。

本件合意は停止条件付き無期労働契約の締結を含むものであるか。

本件合意は正社員復帰合意を含むものであるか。



本件契約社員契約の更新の有無
本件雇止めは,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると認められるか。



一審被告による不法行為の有無
一審被告が一審原告を契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連してした行為は違法であるか。



一審原告による不法行為の有無
一審原告が本件記者会見においてした本件各発言は内容虚偽のものであり,これにより一審被告の信用等が毀損されたか。

4
主な争点に対する当事者の主張
争点⑴(本件合意の解釈及びその有効性)
(一審原告の主張)

本件正社員契約の存続
一審原告は,本件合意の際,一審被告代表者から,その趣旨について,正社員への再変更が前提である,契約社員と正社員は福利厚生の点で同じであるが退職金の支払にのみ僅かな違いが出るとの説明を受けた。他方,一審被告代表者らも,本件合意の際,一審原告に対し,本件正社員契約が終了するとの説明をせず,本件合意の後,一審被告において一
審原告に対し退職金の支給など本件正社員契約の終了に伴う措置は執られていない。このように,一審原告と一審被告のいずれにも,本件合意により本件正社員契約が終了するとの認識はなかったものである。また,一審被告においては,【C】コーチの従業形態:2014年4月以降と題する書面(甲5。以下本件書面という。)に記載されているように,契約社員は正社員に復帰させることが前提
とされており,契約社員と正社員とで業務内容に違いはなく,一審被告からも,本件書面に基づき,時短勤務の正社員又は契約社員がフルタイム勤務の正社員に復帰するときは正社員時に期待されていた役割に戻すことを前提とするとの説明がされるなど,契約社員と時短勤務の正社員とは同列に扱われており,契約社員について契約期間である1年間で契約の存否を見直すことは想定されていなかった。
したがって,本件合意は,正社員としての無期労働契約を継続したまま一時的に勤務日数及び勤務時間を減らすという合意にすぎず,本件合意によっても,本件正社員契約は解約されず,潜在的に存続している。

本件合意の無効
仮に,本件合意が本件正社員契約の解約を含む合意であったとしても,次の理由により,無効である。
均等法及び育介法違反


子の養育又は家族の介護を行い,又は行うこととなる労働者の職業生活と家族生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号,以下育児介護指針という。)によれば,育児休業後においては原職
又は原職相当職への復帰させるように配慮することが求められ(第2の7

),退職又はいわゆる正規雇用労働者をパートタイム労働者等

のいわゆる非正規雇用労働者とするような労働契約内容の変更の強要を行うことが不利益な取扱いに当たるとされているのであるから,育児休業の取得等を契機として無期労働契約から有期労働契約への労働契約内容の変更を強要することは,原則として,均等法9条3項及び育介法10条の定める妊娠・出産・育児休業の取得等を理由とする不利益な取扱いに該当するものとして,無効である。
一審原告は,実際にも,本件合意により,期間の定めのない労働契約上の地位を失い,正社員として月例給与や賞与の支払を受ける権利等も失ったのであって,このような処遇は,不利益な取扱いに当
たる。一審原告は,本件合意当時,約40日の年次有給休暇を有しており,子の養育のための介護休暇を利用し,あるいは一審被告が休業を認めることによって,育児休業が終了しても,直ちに欠勤等により正社員たる地位を失うおそれはなかったにもかかわらず,一審被告は,自主退職になるなどと説明して,有期労働契約に誘導したものである。そして,一審原告は,本件合意に当たり,一審被告から正社員に復帰するための条件等はもとより,本件契約社員契約の更新拒絶事由等についても説明を受けておらず,本件雇用契約書にも,更新の有無及び判断基準の記載(平成20年厚生労働省告示第357号有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準)もなかったものである。このため,一審原告は,希望すれば確実に正社員に戻れるものと認識して本件雇用契約書に署名したのであり,仮に正社員に復帰するために課される条件があるとか,本件契約社員契約が更新されない可能性があるなどの説明を事前に受けていれば本件契約社員契約への変更を承諾することはあり得なかったから,一審原告は真意により本件正社員契約の解約を承諾したものではない。


育介法23条は,使用者に対し,3歳未満の子を養育する労働者の
申出に基づき所定労働時間を短縮する措置を講じることを義務付けている。これは,正社員であった労働者に対しては,正社員のままで所定労働時間の短縮措置を講じる義務を課していることを意味し,これ以外に,正社員を契約社員にする措置を認めていない。これは,強度の強行的必要性による政策であるから,公序として,かつ,強行規定として,これに反する合意を禁止するものである。
したがって,本件正社員契約を解消して本件契約社員契約を締結するという本件合意は,育介法23条に反し,無効である。


労働契約法12条は,就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分について無効としているところ,一審被告において育児休業終了後の復職時に適用される雇用形態は,正社員の通常勤務を定める部分及び正社員で4時間勤務とする部分以外は,一審被告の就業規則(以下,単に就業規則という。)や育児・介護休業規程(以下,単に育児介護規程という。)に根拠を置くものではないから,本件合意は,就業規則に定める労働条件に達しないものであり,無効である(そして,その無効部分については,所定労働時間の短縮のみが可能な正社員契約の労働条件が補充されることになる。)。
自由な意思に基づく同意の不存在又は錯誤



本件合意については,不利益な労働条件に対する労働者の同意の有無が問題となるから,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要するところ(最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁参照)ところ,前記

①のとおり,本件合意は一審原告にとって

不利益な労働条件の変更を内容とするものであり,一審原告が自由な意思に基づいて同意したものと認めるに足りる合理的な理由はない。②

一審原告は,一審被告代表者らの説明により,本件契約社員契約は一審原告が正社員として復職するための一時的なつなぎであり,一審原告が希望すれば自動的に正社員に戻れると認識して本件合意をしたものであって,一審原告がその希望により正社員に戻ることができることは,本件合意の内容となっていた。あるいは,これが本件合意を締結する動機であったとしても,一審被告に対し,明示的又は黙示的に表示されていた。そして,本件合意において,一審原告が,正社員に復帰するためには一審原告の希望以外の条件が課される旨認識していたとすれば,本件合意をすることはなかったのであるから,無条件で正社員に戻れることは,本件合意の要素であった。


停止条件付き無期労働契約の成立
仮に,本件合意が本件正社員契約の解約を含む合意であったとしても,本件合意は,一審原告が正社員への復帰を希望することを停止条件とする無期労働契約を含む合意であったというべきである。
そして,一審原告は,一審被告に対し,所定労働時間1日6時間の就業形態で正社員に復帰したいとの意思表示をしたから,上記停止条件は成就し,所定労働時間1日6時間の正社員(時短勤務)としての無期労働契約(本件時短正社員契約)に基づく権利を有する地位にある。


正社員復帰合意の成立
一審原告と一審被告との間で,一審原告が子を預ける保育園を確保して正社員に戻ることを希望した場合には,速やかに一審原告が担当するクラスのスケジュールを調整して正社員に復帰させる,どんなに遅くとも契約期間満了の日の翌日である平成27年9月2日までには,一審原告を正社員に復帰されるという合意(本件正社員復帰合意)が成立した。

一審被告は,平成26年10月1日までに,クラススケジュールを調整し,一審原告に3クラスを担当させることができた。仮に,そうでないとしても,一審被告は,一審原告が希望してから4か月後である平成27年1月8日までには,クラススケジュールを調整して,一審原告に担当させるクラスを割り当てることができた。仮に,そうでないとしても,契約期間満了の日の翌日である同年9月2日までには,クラススケジュールを調整して,一審原告に担当させるクラスを割り当てることができた。したがって,一審原告は,平成26年10月1日,そうでなくても平成27年1月8日,そうでなくても同年9月2日には本件正社員復帰合意に基づき,正社員の地位を有するに至った。
(一審被告の主張)

本件正社員契約の解約
一審原告は,育児休業終了日である平成26年9月1日までに子を預ける保育園が決まる見込みがなく,週5日勤務の正社員として復職することができないことから,週3日勤務の契約社員として復職することとして,同日,一審被告との間で,本件合意をした。すなわち,一審原告は,一審被告との間で,本件合意において,本件契約社員契約を締結すると同時に本件正社員契約を解約する旨の合意をしたものである。本件合意は,雇用形態を変更するものであり,本件正社員契約とは異なる労働条件による労働契約である本件契約社員契約を締結し直す合意であって,本件正社員契約を存続させる合意ではない。本件契約社員契約の締結が無期労働契約を継続して正社員のまま勤務時間のみを短縮する旨の合意であったと解することはできない。


本件合意の有効性
均等法及び育介法に違反しないこと


本件合意は,一審原告が育児休業を取得したことではなく,一審原
告が育児休業終了時に週5日勤務の正社員として復職できないことを理由としてされたものであるから,均等法9条3項及び育介法10条の定める育児休業の取得等を理由とするものではない。
また,一審原告は,育児休業終了に当たり,週5日勤務の正社員として復職できない状況にあり,仮に本件合意により本件契約社員契約を締結して週3日4時間勤務の契約社員として復職することができなければ,自己都合により退職するか,就労できずに解雇され得る立場にあった。したがって,本件契約社員契約の締結を伴う本件合意は,均等法9条3項及び育介法10条の定める不利益な取扱いに当た
らない。


育介法23条は,一日の所定労働時間を6時間以下とする措置を求めており,一審被告は,同条に基づく時間短縮措置を講じた上,法の要請を超える措置として週3日4時間から就労できる契約社員制度を設けたものである。一審原告は,一審被告が提示した複数の選択肢の中から,自らの自由な意思で週3日4時間勤務の契約社員を選択したものであり,本件合意は,同条に反するものではない(なお,そもそも,同条には私法的効力は認められていない。)。



一審被告の育児介護規程が定めるのは,育介法23条が要請する時間短縮措置,すなわち,時短勤務の正社員制度であるが,契約社員制度は,週3日4時間から就労できるものであり,育児介護規程ではカバーされてない範囲(空白部分)において,別段の定めをするものであるから,労働契約法12条に反するものではない。
真意に基づく同意の存在及び錯誤の不存在



一審原告は,平成26年2月22日に一審被告代表者らと面談し
て本件書面の交付を受け,Dに対し,同月26日送信した電子メールにおいて,既に,子を預ける保育園が決まらない場合には契約社
員として復職するとの意向を示していた。そして,一審被告代表者らによる一審原告に対する本件合意の内容に係る説明に不足はなく,一審原告は,本件契約社員契約の内容や,正社員としての契約への変更は一審被告との合意により可能である旨を理解した上で,本件雇用契約書に署名した。したがって,本件合意は,一審原告の真意に基づく同意により成立したものである。


また,一審原告は,一審被告代表者らから,本件合意の際,一審
原告が正社員に戻るためには一審被告との合意が必要であるとの説明を受け,その旨認識した上で,本件雇用契約書に署名し,本件正社員契約の解約と本件契約社員契約の締結を内容とする本件合意をしたものであるから,この点において,一審原告に錯誤はない。
仮に,この点において一審原告に錯誤があったとしても,一審被告
代表者は,一審原告に対し,本件合意に当たり,一審原告が正社員に戻るためには一審被告との合意が必要であること,すなわち,一審原告がその旨希望したからといって直ちに正社員に戻れるわけではないことを説明していたのであるから,一審原告には,重大な過失がある。ウ
停止条件付き無期労働契約の不存在
本件合意により本件契約社員契約が締結された後,一審原告が正社員に戻るためには,一審原告と一審被告が改めてその旨合意することが必要なのであって,一審原告が一方的に希望すれば正社員としての無期労働契約が成立するものではない。本件雇用契約書中にも,そのような記載はない。

正社員復帰合意の不存在
ウと同様,本件合意により本件契約社員契約が締結された後,一審原告が正社員に戻るためには一審被告が改めてその旨合意することが必要なのであって,一審原告が一方的に希望すれば一審被告が合意を義務付けられるものではない。本件雇用契約書中にも,そのような記載はない。
争点⑵(本件契約社員契約の更新の有無)
(一審原告の主張)

仮に,一審原告が,一審被告に対し,正社員としての労働契約上の権利を有する地位にないとしても,本件契約社員契約は,育児休業が終了した社員が正社員に復帰するまでのつなぎの制度であり,雇止めを想定していないものであって,期間の定めのない,あるいはそれと同視し得る労働契約であり,少なくとも,一審原告において契約期間満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる労働契約である。


そして,本件合意の経緯等からすれば,一審原告が,一審被告に対し,正社員への復帰を強く求め,労働局に相談したり,労働組合に加入して団体交渉を求めたり,マスコミに訴え出たりしたのは,当然のことであって,非難される理由はない。また,一審原告の正社員復帰について譲歩しなかったのは一審原告ではなく一審被告であった。一審原告が一審被告の他の従業員に対して批判したり一審被告の秩序を害したりする言動をしたことはなく,マスコミに対して虚偽の事実を述べたこともない。一審原告が一審被告代表者の許可なく一審被告代表者らとの会話を録音したのは,証拠を残して自己防衛をするためのやむを得ない行為であった。一審原告が一審被告代表者の注意や指導に従わなかったのは,注意や指導が不適切であり間違ったものであったからである。一審原告が一審被告において就労中に私用のメールを第三者に送信したのは1回だけで,その他の私用のメールは,一審原告が個人的に使用していたメールアドレスに送信したものであって,個人的な備忘録にすぎず,その内容も一審原告の内心を書き留めたものにすぎない。
したがって,本件雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上
相当であると認められない。

なお,一審原告は,本件雇用契約書に署名をして復職後一審被告から自宅待機命令を受けるまでの間,契約社員としての業務を誠実に果たしてきたのであるから,一審原告が正社員として復帰することにこだわっていたことによっても,一審原告に契約社員として就労する意思がなかったとはいえない。
(一審被告の主張)
一審原告は,一審被告に対し,本件契約社員契約を正社員としての契約に変更するよう要求し続けており,本件契約社員契約の更新を申し込んだことはなく,本件契約社員契約に基づき契約社員として就労する意思もなかった。
また,一審原告は,本件契約社員契約締結の直後から一審被告代表者の説明を無視し,一審被告に対し正社員に戻すよう要求し続けて自己の主張に固執し,一審被告の他の従業員に対し一審被告を誹謗中傷する言動をし,マスコミに対して一審被告からマタニティハラスメントを受けたとの虚偽の事実を吹聴し,一審被告執務室内において無断録音を繰り返し,一審被告代表者らからの注意指導を受けてもこれに従うことを拒否し,一審被告代表者から退社するよう命じられてもこれに従わずに一審被告代表者を追いかけるなどの異常な行動をし,就業時間内に業務外の電子メールを作成・送信した上で電子メールを削除したことがないと虚偽の説明をし,一審被告に対し社会的制裁を加えることを目的として一審被告に在籍している旨明言して,一審被告の社内秩序を侵害し,一審被告との信頼関係を毀損した。
さらに,原判決の言渡し後であるが,一審原告は,保育園が見付かったとして正社員契約の再締結を求めていたが,実際は,保育園は見付かっておらず,一審原告は,虚偽の事実を述べて交渉していたことが判明した。このように,一審原告は,一審被告からの指示や指導に一切従わない姿
勢を示し,一審被告の服務心得に多数回違反し,虚偽の事実を述べて交渉をするなど不誠実な態度に終始しており,改善の余地はない。
したがって,本件雇止めには,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であるというべきである。
争点

(一審被告による不法行為の有無)

(一審原告の主張)

一審被告は,妊娠,出産,育児休養を経た一審原告を嫌悪し,一審原告を一審被告から追放するために,一連の嫌がらせを重ねて,雇止めをし,その後も嫌がらせを重ねて,一審原告に正社員として復職することを断念させようとした。一審被告の次の行為は,それぞれが違法であるとともに,全体としていわゆるマタニティハラスメントに当たるものであり,一審原告はこれにより大きな不利益を被った。


正社員から契約社員への契約変更,正社員に戻すことの拒否,雇止め一審被告は,一審原告に対し,本件合意により本件契約社員契約の締結を強要して,均等法9条3項及び育介法10条に違反する不利益な取扱いをした。また,一審被告は,正社員に戻すよう申し出た一審原告に対し,平成26年9月19日の面談以降になって初めて,夜間のクラスを複数担当し,子の具合が悪くなっても欠勤しない体制を整えるよう求めるなど,無理難題を突きつけ,契約社員として就労を継続して正社員として就労が可能であることを実証するよう求めるなどして,一審原告の申出を拒否し,一審原告を正社員に戻すために行うべき検討や調整等を怠った。
さらに,一審被告は,本件雇止めをして,一審原告を職場から追放し,妊娠,出産,育児休業等を理由として一審原告に不利益な取扱いをした。


一審原告をクラスの担当から外したこと

一審被告は,平成26年9月19日の面談において,一審原告が労働局に相談に行ったことを知るや,一審原告にクラスを担当させることはできないとして,合理的な理由なく,一審原告を既に担当することが決定していたクラスの担当から外し,職場環境配慮義務を怠って,以後,一審原告に一度もクラスの担当をさせず,一審原告の能力向上の機会や仕事のやりがいを奪った。

業務改善指導に関する書面17通の交付
一審被告代表者は,一審原告に対し,一審原告が労働局や労働組合に相談に赴いた後の平成26年10月25日から同年11月1日までの間,面談と称して,一審原告の面前で業務改善指示書等を読み上げ,署名をするよう繰り返し迫った。一審被告代表者が一審原告に署名を要求した業務改善指示書等の数は合計17通に及び,その内容は,労働条件等に関する発言等を取り上げたものであって,業務に関連するものはほとんどなく,事実に反し,評価を誤った同内容のものが繰り返し発出されている上,復職前の事実を取り上げているなど不合理なものであり,指導ではなくいじめに当たるものであった。一審原告は,これによって,身に覚えのないことや不必要なことについての注意を受けて不快であったばかりでなく,別室に呼び出されて長時間にわたって署名を強要されて恐怖すら覚えた。

面談におけるマタハラ発言
一審被告代表者及びEは,一審原告に対し,平成26年9月19日,同月24日,同年10月29日の面談において,妊娠・出産する女性労働者の人格を無視した発言や,マタニティハラスメントを意図した発言,育児休業終了後のキャリアについての価値観を押しつける発言をし,育介法に関する誤った理解を植え付けるような発言をするなどした。一審原告は,これによって,自己の選択を否定されたような気持ちになり,深く傷ついた。


労働局への相談及び労働組合加入に対する嫌がらせ
一審被告代表者は,一審原告が労働局に相談し労働組合に加入したことを嫌悪し,一審原告に対し,労働局に相談したことにより正社員に戻ることができなくなるかのような発言をし,労働組合加入の経緯等を問い詰めるなど,一審原告を危険人物呼ばわりしたりした。一審被告代表者の上記態度は,労働者が正当な権利行使をすることを萎縮させるばかりでなく,労働者の人格をも攻撃するものであり,極めて悪質である。


一審原告を問題社員化するための注意指導
一審被告は,前記エに述べた業務改善指示書等交付のほか,一審原告のみに対して,執拗に注意指導を重ねた。注意指導の対象となった行為は,いずれも一審原告が行ったものではないか,業務上の必要性が乏しいにもかかわらず一審原告の行動のみを殊更問題とするものであって,上記注意指導は,単なる嫌がらせ・人格攻撃であった。
また,一審被告は,一審原告に対し,平成27年4月頃,労働者名簿作成と慶弔金支給を口実に,子の保育園の連絡先を提出するよう執拗に迫った。一審原告は,一審被告の執拗かつ卑劣な介入が私生活にも及ぶのではないかという不安を抱いた。


職場での孤立化
一審被告は,一審原告に対し,平成27年6月,一審被告社内のサーバーへの接続を遮断し,社内行事への参加の機会を与えなかったり,ミーティングの内容を共有させなかったりし,他の従業員に誤った情報を流すなどした。


職場からの追放
一審被告は,一審原告に対し,平成27年6月10日,早退を命じ,さらに,同年7月11日頃,自宅待機を命じて,一審原告を職場から排除した。


監視の継続
一審被告は,一審原告を自宅待機とした平成27年7月12日以降,一審原告のメールアドレスに対し送信された電子メールを閲読し,第三者に対し一審原告に不利益な情報を提供するなどして,一審原告のプライバシーを侵害し,名誉を毀損し,人格権を侵害した。


公式ウェブサイトへの情報掲載
一審被告は,平成27年10月23日から平成29年4月まで,一審被告の公式ウェブサイトに,一審被告の一方的な見解を内容とし,一審原告が自らの意思で契約社員を選択しながら正社員復帰を主張して職場内外で数々の問題行動に及んだ人物であるとの悪印象を与える,一審原告を誹謗中傷する内容の記事を掲載した。
一審被告は,原判決の言渡し後,一審被告の違法行為が認定されたにもかかわらず,マタハラが認定されていない旨の虚偽の事実を意図的に掲載して,一審原告をさらに貶めようとした。


一審原告が一審被告の上記一連の不法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料としては少なくとも300万円が相当である。また,本件に要した弁護士費用としては少なくとも30万円が相当である。

(一審被告の主張)

一審原告は,育児休業終了後も週5日勤務ができない状況にあったことから,週3日4時間勤務の契約社員として復職することを希望して自らの意思で本件契約社員契約を締結したが,復職後,実際に3日間勤務したにすぎない時期に,保育園が見付かったという虚偽の事実を述べて,強硬に正社員契約の再契約を求め,一審被告の度重なる指導にも従わなかったものである。このような一審原告の態度,行動等からは,信頼関係は到底形成できない。
本件は,育児休業の取得を理由とするものではなく,育児休業が終了し
復職した後の一審原告の数々の問題行動が原因となっているものであって,マタニティハラスメントなどではない。

本件合意は,均等法9条3項及び育介法10条の定める不利益な取扱いに当たるものではない。一審原告が正社員に戻るためには,一審被告との合意が必要であり,一審被告代表者は一審原告に対し本件合意に当たりその旨説明していた。一審原告が希望すれば正社員に戻れると考えていたとしても,それは一審原告の思い込みにすぎず,法的保護に値する期待権は発生していない。また,本件契約社員契約を締結した直後であるのに一審原告を正社員に戻すことは,スケジュールの再調整等,一審被告の業務に支障を生じ,時間を要することであったし,そもそも一審原告は,一審被告に対し正社員に戻すよう申し出た当時も,正社員として週5日労務の提供することができない状況にあった。一審原告が正社員に戻れなかったのは,その言動により一審被告との信頼関係を破壊した結果である。
さらに,前記

のとおり,一審原告は,一審被告からの指示や指導に一

切従わない姿勢を示し,一審被告の服務心得に多数回違反し,虚偽の事実を述べて交渉をするなど不誠実な態度に終始しているのであるから,本件雇止めには,客観的に合理的な理由があった。

一審被告は,一審原告が平成26年9月19日の面談において担当クラスを欠席してもよいと考えている旨明らかにし,一審被告を信用できない,契約に不満があるなどと発言したので,一審原告にクラスを担当させることはできないと判断したものである。


一審被告は,一審原告が育児休業終了後復職した直後から,数々の問題を起こし,一審被告の企業秩序を乱し,口頭指導によってもその態度が一向に改善されなかったことから,労働局の指導により,一審原告に対し,その目的を説明した上で,業務改善指示書等を交付したものであ
る。

一審被告代表者らは,一審原告に対し,平成26年9月19日の面談において,時短勤務の正社員であってもクラスを担当することが前提であることから,週3日勤務を継続して十分に可能でクラスの運営に支障がないことを確認できた段階で週5日勤務の正社員に変更する方がよいのではないかと助言し,極力欠勤しないような体制を求めたのにすぎない。また,Eの一審原告に対する面談時の発言を差別的表現とするのは曲解である。


一審被告代表者らは,一審原告に対し,一審原告が労働局に相談し労働組合に加入したことで正社員に戻ることが困難になるとは一言も言っていない。


一審被告の一審原告に対する注意指導は,いずれも合理的で必要なものであった。子の保育園の連絡先は,保育園から一審被告に電話連絡等があったときの対応のために一審被告において把握する必要があったものである。


一審被告は,一審原告に対し,平成27年6月10日,一審原告が一審被告代表者らの録音禁止等の注意指導に従わない姿勢を明らかにし,一審被告に対し提出していた機密保持の誓約書を撤回すると述べたことから,一審原告を顧客情報や機密情報に触れる業務に従事させないために,当日の就労を免除して退社させた。また,一審被告は,これを踏まえ,一審原告につき一審被告社内のサーバーへの接続を一部制限したが,2,3日後には一審原告専用のサーバーを作成し,一審原告の業務に支障を生じさせなかった。


一審被告は,一審原告が業務時間中に業務外のメールを送信し,退社を命じても従わず,会話の録音をしない旨誓約したのに一審被告執務室内で録音をし,一審被告代表者を執拗に追い掛け回したりしたことから,事実
調査のため,翌日以降の自宅待機を命じたものである。なお,一審被告は,一審原告に対し,自宅待機中も賃金を支払っていた。
一審被告は,一審原告が平成27年10月22日に甲事件本訴を提起するとともに本件記者会見を行い,一審被告の実名を公表して,育児休業を理由に契約社員となることを強要されたなどと事実無根の内容を話し,マスコミによりその内容が報道されたことから,一審被告社内の混乱を収め対外的な信頼の毀損を低減するため,公式ウェブサイトに外部に対して一審被告の立場から事実関係及び一審被告の認識を説明する記事を掲載したものである。その内容はいずれも真実であり,これは,一審原告の一方的かつ不当な言動に対する正当な対抗言論である。また,一審被告は,上記記事中に一審原告の実名を記載していない。
一審原告は,原審において,一審被告から,契約社員として復職するか,自己都合退職するかを迫られていたことをマタニティハラスメントと主張していたところ,原判決は,本件契約社員契約の締結が不利益な取扱いに該当せず,一審原告の自由な意思に基づきされ
たものであり,育介法に反するものではなく,マタニティハラスメントには該当しないことが認定された。もっとも,原判決は,契約準備段階における信義則上の義務違反を認定したので,弊社に至らぬ点があったとして一部損害賠償責任が認められたことを明らかにした上,教訓として真摯に受け止めるとしたものであり,何ら不法行
為を構成するものではない。
争点⑷(一審原告による不法行為の有無)
(一審被告の主張)

本件各発言は,一般人の感受性を基準とすれば,一審被告代表者らが一審被告全体として妊娠・出産・育児休業を経て復職する女性従業員に
対していじめや嫌がらせ・退職強要などといったマタニティハラスメントを行う企業であるという評価を一審被告の従業員や顧客を含めた社会一般に与え,一審被告の社会的評価すなわち名誉や信用を毀損するものである。

本件各発言の内容は真実ではなく,一審原告がこれを真実と信じたことについての相当性もない。また,甲事件本訴は一民間企業である一審被告とその従業員である一審原告との間の個別労使紛争にすぎないこと,一審原告は一審被告に社会的制裁を加える意図で本件各発言をしたものであることから,本件各発言の内容及び一審原告の目的に公益性はない。

一審原告は,本件各発言がそのままの形で報道されることに同意していたか,少なくとも本件各発言がそのままの形で報道される可能性が高いことを予測し,これを容認しながら本件記者会見において本件各発言をしたものであるから,本件各発言と一審被告の社会的評価の低下との間には因果関係がある。


本件各発言に基づく報道がされたことにより,一審被告の経営や営業活動には,マスコミや受講者等への対応を強いられるなどの支障が生じた。本件各発言の内容や態様,一審原告の意図等を考慮すれば,一審被告の被った損害の額は少なくとも300万円に弁護士費用30万円を加えた合計330万円が相当である。

(一審原告の主張)

本件各発言は,甲事件本訴に係る訴状の記載内容を説明し,一審原告の心情を述べたものにすぎず,これによって一審被告の社会的評価を著しく低下させるものではない。また,マタニティハラスメントとは,特定の具体的事実を指す言葉ではなく,法的な評価を含む言葉であって,一審原告の発言は,事実の摘示ではなく意見又は評論に当たるものである。これに対して,一審被告は,本件記者会見後,一審被告代表者が記者会見を行い,
一審被告の公式ウェブサイトに記事を掲載するなどして,その見解を表明している。

本件各発言の内容は,いずれも真実である。また,本件各発言は,育児休業終了時の労働者の取扱いという社会的に関心が高い事柄に係る労働事件である甲事件本訴の提起に関する本件記者会見における発言であって,公共の利害に関する事実に係るものであり,一審原告は育児休業から復職する者が安心して働き続けることを求めるために本件各発言をしたものであるから,公益の目的でされたものである。さらに,本件各発言は,その内容において,意見ないし論評としての域を逸脱するものではない。

一審被告がマスコミに対して行った対応は,訴えを提起された旨報道された企業が通常行うであろう範囲にとどまるものであって,損害には当たらない。

第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,原審とは異なり,一審原告の甲事件本訴各請求(当審における追加請求を含む。)については,不法行為による損害賠償として5万5000円及びこれに対する不法行為の日である平成27年9月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余の甲事件本訴各請求はいずれも理由がなく,一審被告の甲事件反訴請求については,不法行為による損害賠償として55万円及びこれに対する不法行為の日である同年10月22日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

2
認定事実
前記前提事実,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
一審被告の業務等


一審被告が経営するCは,主に社会人を対象とし,TOEIC,TOEFL,IELTS,英会話及び中国語のクラスを開講し,受講期間である2か月間で語学能力向上を達成することを目標にして,担当コーチによるカウンセリング等により進捗状況等をサポートするコーチングを特色としている。クラスは,平日(月曜日から金曜日)の夜(午後7時30分から午後10時まで)並びに週末(土曜日及び日曜日)の朝(午前10時から午後0時30分まで),昼(午後1時30分から午後4時まで)及び夜(午後4時30分又は午後5時から午後7時又は午後7時30分まで)の各時間帯に開講されており,そのため,コーチの就業形態は,平日の夜及び週末が中心となっている。


コーチは,Cの主要業務であるクラスを担当し,受講生に対するコーチング等を行うため,その専門性等を考慮して,管理部門の事務局,セクレタリーに比べて高い処遇がされている。


一審原告は,平成20年7月9日,一審被告に入社し,本件正社員契約を締結し,Cのコーチ正社員として,稼働していた。
Cのコーチは,平成26年9月当時,11名(うち女性コーチ6名)であった。


Cにおいては,開講の約2か月前にクラスの内容,教室,担当コーチ等を決定し,インターネットに公開して,受講生を募集している。また,クラスのレベル,教室,各コーチの適性,休暇等を考慮して調整して,コーチのスケジューリングが決定されるが,このスケジューリングの確定には通常約4か月程度を要する。
(乙4,35,83から86まで,91,原審における証人Eの証言,一審被告代表者本人尋問の結果)
一審原告の育児休業の取得及び一審被告における就業規則等の改定等

一審原告は,懐妊し,平成25年1月から産前休暇に入り,同年3月▲
日,長女を出産し,産後休暇及び育児休業を取得した。

一審被告においては,女性社員が多い上,一審原告が育児休業中であり,近いうちに復帰が予定されおり,初めての育児休業明けの社員となることから,社員のライフステージが多様化し,よりフレキシブルな働き方を選択できるような就業形態を導入することなどを目的として,就業規則等の見直しを行うこととし,女性社員らからなるプロジェクトチームを立ち上げ,約半年程度かけて見直しの検討を行った。
そして,その検討を踏まえ,本件書面(甲5)を作成し,就業規則(甲7の1),フレックスタイム運用規程(甲7の2),育児・介護休業規程(甲7の3)などを改定し,平成26年4月1日から施行した。このうち,就業規則,フレックスタイム運用規程及び育児・介護休業規程の概要は,別紙就業規則及び関係規程の概要記載のとおりである。


この見直しの要点を説明するために,平成26年2月12日付け就労規則の見直しについて(乙36)を作成したが,同書面には,主な変更事項として,就業規則に文言を追加して,契約社員制度を導入することが挙げられ,コーチについては,原則として,契約社員としての新規雇用をせず,育児休業明けの者に限り,契約社員として一時的に契約することができ,一審被告との相談により,契約社員から正社員へ復帰することも可能である旨が記載されていた。
また,本件書面には,就業形態として,正社員,正社員(時短勤務)及び契約社員(1年更新)の3つの形態があること,正社員(時短勤務)は,さらにその中に所定労働時間が月120時間(給与額は,正社員の給与に0.86を乗じた額を目安とする。),月100時間(給与額は,正社員の給与に)0.72を乗じた額を目安とする。)及び月80時間(給与額は,正社員の給与の0.58を乗じた額を目安とする。)の形態が細分化
され,契約社員はさらにその中に勤務日数4日(所定労働時間が月64時間から112時間まで)と勤務日数3日(所定労働時間が月48時間から84時間まで)に細分化され,補足説明として正社員,時短勤務,契約社員,いずれの形態であってもコーチ職の社員はコーチ業務(クラス担当)を必須とします,クラスを担当するコーチは,「突発的な理由により担当クラスに参加できないという事態にならないよう,必要なバックアップ体制などは,あらかじめ各自で準備するものとします」,契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です,ex入社時:正社員→(育休)→育休明け:契約社員→(子が就学)→正社員へ再変更などという記載がされていた。なお,本件書面の裏面には,事務局のセクレタリーの雇用形態が記載されていたが,コーチとは異なり,バックアップ体制の準備は求められてはいなかった。

一審被告は,平成26年2月26日,従業員らに対し,前記就労規則の見直し,本件書面を交付して,就業規則説明会を実施した。

一審被告は,上記就業規則説明会とは別に,平成26年2月22日,一審原告に対し,面談をし,個別に説明をすることとした。
一審原告は,復職後に子を預ける保育園として自宅近くの保育園1か所しか入園の申込みをしていなかったが,a区教育委員会教育長からその1か所の保育園につき平成26年1月31日付けで欠員がないため入所ができない旨の保育所保育実施不承諾通知書を受け取り,保育園の入園が厳しい現状にあることを知った。そこで,一審原告は,同年2月20日,Dに対し,認可保育園には入園できないこととなり,認証保育園には申込みをしているものの,入園は難しいという反応であることから,同年度中の復職は難しく平成27年4月からは復職が可能であるとの見込みを伝えた。
一審原告は,平成26年2月22日,一審被告から,前記就労規則の見直し及び本件書面を交付され,本件書面については,補足説明欄の内容も含めて説明を受け,また契約社員については,退職金の支給期間に算定されないことなど正社員と契約社員との異同についても説明を受け,就業規則等改定の説明も受けた。その際,一審被告代表者(当時は取締役)は,一審原告に対し,申込みをする保育園の対象を広げるように助言した。一審原告は,翌23日,Dに対し,私の復帰に間に合うよう就業形態などを見直ししていただき,大変感謝しております。後に続くママコーチも気持ちよく復帰できるよう,いい前例になれるように努めます。(主人に話をしたところ,私の仕事復帰に対してこれまで以上にいい反応でした。)とのメールを送信した。また,一審原告は,同月26日,Dに対し,

復帰のタイミングに合わせていろいろ整えてくださったこと,改めて感謝いたします。

と謝意を述べ,家族にも就業形態について話をしたこと,週5日預けられる保育園に空きを待って,正社員として週5日(時短)で復帰したい,8月31日まで育児休業を延長し,9月1日から週5日(時短)で復帰希望(その前に保育園に空きがあればその月から復帰の可能性あり),8月31日までに保育園に預けられなかった場合には,親族やスポット的な保育サービスを検討し,週3日からの復帰となるかもしれない旨を伝え,同年3月4日,Dに対し,

○○さんの話で刺激され,保育園の範囲を広げる申請をしました。つまり,遠方の保育園も候補に入れるよう変更手続を役所でしたということです。

とメールをした。育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則(平成27年厚生労働省令第73号による改正前のもの。以下育児介護規則という。)4条の2第1号は,保育所における保育の実施を希望し,申込みを行っているが,・・・当面その実施が行われない場合は,雇用の継続のために特に必要であると認め,1歳6か月まで育
児休業を取得できるものとしており,一審被告の改定前の育児介護規程(甲71)にも同様の定めがされていたところ,一審被告は,育児介護規程5条1項イ)の保育所に入所を希望しているが,入所できない場合に該当するとして,一審原告の育児休業を育児介護規則や育児介護規程上の最長期間である平成26年8月31日まで延長した。

一審原告は,平成26年5月18日,一審被告代表者らと面談し,同年4月1日に改定された就業規則の交付を受けた。
(甲4から6まで,34,50,乙33,36から38まで,75から77まで,原審における一審原告本人尋問の結果)
本件契約社員契約の締結等


一審原告は,平成26年7月20日の面談において,育児休業の終了までに保育園の入所の目途が立たなかったため,同年12月から長女が保育園に入所できると思われる平成27年4月までの約3か月であれば,夫によるサポートを受ける可能性があるなどとして,一審被告に対し,さらに平成26年12月までの3か月間の休職を求め,実母が平成27年春に定年になるが,それまではサポートを受けるのは困難である,夫には頼りたくない,無認可保育園は信用できず,ベビーシッターも夫が家に人が入るのを嫌がるので検討しない,同年1月には育児休業から復帰するコーチがいるのでその前に復帰しておきたい,契約社員は正社員より格下であるとの印象を持っており,転職も考えている旨述べた。
これに対し,一審被告は,既に最長期間の育児休業を取得しており,上記のような理由では,就業規則上の休職の要件に該当しないと判断し,特例は認められないと回答したところ,一審原告は,育児休業終了後に復職できない場合には解雇になるのかと尋ねたため,一審被告代表者は,自己の意思で辞める場合には,解雇ではなく,自己都合退職になる旨を回答した。

一審原告は,平成26年8月23日の面談においても,一審被告に対し,育児休業終了後にさらに3か月間の休職(その期間中は役所関係には育児休職として届出をする。)することを強く求めたが,一審被告は,同年7月20日の面談と同様,休職を認めない方針に変わりがない旨を述べた。そして,一審被告は,他に業務委託という方法もあり得る旨をも説明したが,一審原告は,業務委託は希望しないとし,退職する意向を表明した。そのため,一審被告は,一審原告が退職するものと考えていた。
ところが,その3日後である同月26日になって,一審原告は,Dに対し,電話をし,

往生際が悪くてすみません。

と述べ,一転して,週3日勤務の契約社員として復職を希望する旨を伝えてきた。
そこで,一審被告は,急遽,予定していたコーチを変更し,一審原告に,同年9月21日(日曜日)から毎週日曜日午前10時に開講されるクラス(FB14-9A)1コマを担当させる予定とした。

一審被告は,平成26年9月1日,一審被告代表者及びDのほか,F社労士が同席し,育児休業給付金の申請手続をした後,一審被告代表者らが,一審原告に対し,本件雇用契約書を示し,その内容を読み上げて説明するとともに,賃金は月額10万6000円であり,これは通常残業が想定されないため固定残業代分を除外して時間換算したものであること,就業規則の服務心得を遵守すること,クラス運営に支障が出ないよう,労働者側が育児のバックアップ体制を確立すること,契約社員としての働き方,給与から控除される社会保険料等についても併せて説明し,確認をした。一審原告は,保育園が決まれば週5日勤務の正社員に復帰できるのかと質問したが,Dは,クラススケジュールの問題がある旨述べ,F社労士は,正社員としての労働契約に変更するには一審被告との合意を要する旨述べた。一審原告は,このほか,本件雇用契約書中の記載内容等につき質問をすることなく,本件雇用契約書に署名し,

これで首の皮一枚つながりました。

と述べた。また,その際,就業規則に規定する秘密保持義務に基づく秘密保持に関する誓約書(甲29)にも署名をして,一審被告に提出した。
(甲8,29,50,乙55,90から92まで,97,原審におけるFの証言,一審原告本人及び一審被告代表者本人尋問の各結果)
一審原告の復職後の状況

一審原告は,平成26年9月2日付けで復職し,同月3日から就労を開始した。当時,Cのコーチは,一審原告を除きいずれもが正社員であった。一審原告は,同日,一審被告の従業員らに対し,育児休業を終えて復職した,自己の希望としては週5日勤務で復職したかったが子を保育園に入れることができなかったため週3日4時間勤務での復職となった,子を保育園に預けることができ次第また週5日勤務したいと記載したメールを送信した。


Eは,一審原告が復職後担当した説明会において,受講生からの質問に対し沈黙して適切な対応ができなかったことを見て,一審原告に対し,ブランクを解消することが必要であると考え,現場感覚を取り戻すこと,クラスの運営方法が育児休業取得前とは異なる部分があり,それを理解すること,現役コーチとのコミュニケーションを図ることなどを目的として,他のコーチが担当するクラス(FB14-8A)のオブザーブを提案した。一審原告は,平成26年9月7日,実際にオブザーブをしたが,他の従業員らのいる前で,Eに対し,そのコーチの能力に問題があり,危機感すら感じると発言した。また,一審原告は,同日,Eに対し,一審被告代表者又はDから聞いているかもしれないが,子を保育園に預けることができ次第,週5日勤務の正社員として働くことになる,まだいつになるか分からないが,その際は今よりも一審被告に貢献できるようになるかと思うと記載したメールを送
信した。
Eは,同日,一審被告代表者及びDに対し,上記メールを転送するとともに,契約社員としてしかるべきパフォーマンスを発揮した場合に正社員に戻るという認識と一審原告の認識との間で困惑している旨を伝えた。ウ
一審原告は,平成26年9月8日,Dに対し,メールを送信して,bにある保育園から同年10月に空きが出るとの電話連絡があった旨連絡した。また,一審原告は,同年9月9日,Dに対し,電話で,同年10月から週5日勤務の正社員として就労したい旨を申し出たが,Dは,本件契約社員契約を締結したばかりであると指摘した。一審原告は,Dに対し,上記電話での会話後,本件書面中には契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの記載があり,一審原告は,この文言をもとに,子を入れる保育園が見付かるまで暫定的に週3日勤務での復職を希望したまでであると記載したメールを送信した。
一審原告は,同年9月9日頃,Dに対し,保育園への回答期限は1週間以内であるとして早期の面談を希望し,これに対し,一審被告代表者は,同月16日,同月18日及び同月19日の3期日を候補日として提案したが,一審原告は,同月19日を希望したため,一審被告代表者は,同日に一審原告と面談をすることとした。


一審原告は,平成26年9月10日,一審被告代表者に対し,①本件書面に補足説明として記載されている契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの内容に基づいて契約の変更を希望する,②就業形態は週5日勤務,所定労働時間1日6時間・1か月120時間の正社員(時短勤務)を希望する,③時短勤務の開始は同年10月1日から,その終了は子が3歳になる年度末に当たる平成28年3月31日まで,勤務時間は午前9時から午後4時までを希望する,④担当予定の日曜日のクラスは担当するつもりであり,その他の調整については双方にと
って不利益がないよう話合いで合意に至ればと思うと記載したメールを送信した。
これに対し,一審被告代表者は,一審被告の方針としては現段階での正社員への契約変更は考えていないと記載したメールを直ちに返信した。オ
一審原告は,平成26年9月中旬,F社労士に対し,電話をし,一審被告には電話をしたことを内密にしてほしいとして,一審被告は正社員に戻すつもりがないのか,正社員に戻れないことは辞めなさいと言っているのと同じではないかなどと述べ,一審被告から退職勧奨を受けている旨訴えた。F社労士は,正社員として契約するには正社員として勤務する条件が整って双方が合意する必要があると説明し,一審被告が退職勧奨をしたことにはならない旨回答した。
(甲9から12まで,50,73,乙3,5,7,55,61,77,90,92,96,103,原審における証人Fの証言,一審原告本人及び一審被告代表者本人尋問の各結果)
平成26年9月19日の面談


一審原告は,平成26年9月19日,一審被告代表者,E及びF社労士と面談をした。


一審原告は,一審被告に対し,子を預ける保育園が見付かったとして,週5日勤務の正社員に復帰したい,本件書面に記載のあった就業形態のうち所定労働時間を1日6時間に短縮した正社員(時短勤務)を希望する,土曜日と日曜日の出勤により1週間4コマのクラスを担当できることから平日のクラス担当は考えていない,平日夜間の時間帯に就労できるかについては改めて検討する,フレックスタイムは午前9時から午後11時までであるから,午前9時から午後4時まで勤務し,サポート業務を行うことを想定しているなどと,自己の要求を述べた。


これに対し,一審被告代表者は,一審原告に土曜日と日曜日のクラス
のみを担当させられないことも十分あり得る,正社員であれば当然一人の要望だけを聞いてはいられない旨述べ,Eは,一審原告に土曜日と日曜日のクラスのみを担当させるのは難しい,正社員であれば他の正社員と同じ前提で働けることが条件である,正社員として働くということはサポート業務だけではなくリーダーとしての業務も行うことになるなどと述べた。
また,一審被告代表者は,正社員として就労することについて心配ないと判断できれば一審原告を正社員に戻すこともできるが,バックアップ体制が相当しっかりしていないと難しい旨述べた。また,Eも,クラスには穴を空けないということが大前提である旨述べた。

一審原告は,正社員に戻す前提であれば子を保育園に入れて勤務してみてもよいが,週5日勤務が可能であると言っているのに直ちに正社員に戻すことはないというのでは話が違うと不満を述べ,契約社員として働くことを拒否したらどうなるのかと尋ねた。これに対し,F社労士は,自己都合による退職になる旨答えた。


F社労士は,週5日勤務に戻ったとして,子の養育態勢がしっかりしておらずやはり無理となった場合には,指導,減給となり,最後は,辞めてもらう可能性もある旨述べたが,一審原告は,それでも構わない,そのときは自分がいけないと反省する点があるので,週5日勤務で問題が生じたらいつでもクビにしてもらってよい旨述べた。


一審原告は,後日正社員に復帰させるか否かを判断してくれるのかと尋ねたが,一審被告代表者は,それは信頼関係だと思っている,信頼関係を築いて初めて最終的なゴールにたどり着けるなどと述べ,F社労士は,最低4か月は無理であり,正社員に戻れる時期を確定はできない旨述べた。一審原告は,家族の協力を得ると言っているのに正社員に復帰できないのであれば,後日やはり正社員に戻れないという結果になるように思われ,
信頼できない旨不満を述べた。一審被告代表者は,一審原告を正社員に戻すのは,ある程度の時間をかけて問題がないか否か見て,一審被告が判断する旨述べ,さらに,一審原告が,平成26年12月までには正社員に戻れるかと尋ねたのに対し,それは分からないと回答した。
一審原告は,一審被告の回答に納得せず,労働局に相談に行く旨告げた。一審被告代表者は,そういうことをするとほんとに会社としてもどんどんあれになる,あまり波風を立てないで戻ってこれたらいいと思っているんですね,私の感覚では戻るということは波風を立てないということが一番クレバーだよ,それをされるとAさんがどんどん戻りにくい関係になっていくよAさんが思っているのとは逆の方向に行くかもしれない,

労働局と会社が話すことがあったとしても,会社の方針をお伝えするだけなので。状況が何かが大きく変わるというようなことではないですから

などと発言した。キ
Eは,一審原告が一審被告代表者らの説明が納得できないなどと述べ,クラス担当に支障が生じるおそれもあったことから,

会社との間できちっと労働契約が結ばれていないという状態になってしまうので。その状態で新業務を担当するのはちょっと難しいと思う

と述べ,クラスを担当させる否かについては追って判断して連絡すると伝えた。
Eは,上記面談後,同日中に,一審原告に対し,一審原告が担当する予定であった平成26年9月21日のクラス(FB14-9A)のコーチを変更し,TOEFLコースの資料の作成を指示する旨をメールで連絡をした。一審被告は,以後,一審原告にクラスを担当させなかった。


一審原告は,平成26年9月21日,一審被告の従業員らに対し,Eから産休コーチが帰ってくると組織のバランスが乱れると言われた旨話した。また,一審原告は,その後,一審被告の他の女性従業員らに対し,一審被告から正社員に復帰させてもらえないでいる,一審被告にいじめられて
いる,あなたも妊娠を考えているなら気をつけた方がいいなどと発言した。(甲13,14,乙55,61,89から92まで,原審における証人F及びEの各証言,一審原告本人及び一審被告代表者本人尋問の各結果)平成26年9月24日のやり取り
一審原告とEは,平成26年9月24日,面談をした。
一審原告は,この面談の席で,本件書面には本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提と書いてあるのに,それが一審被告の判断によるということになり,いつになるか分からないというのは間違っていると述べ,同月19日の面談時と同様の主張を繰り返し,Eは,一審被告の立場は変わらないので,一審原告が歩み寄ることが必要であると述べて,再検討を促した。その際,一審原告は,一審被告が少しでもよくなればという思いで行動していると述べ,

私が今置かれている立場になって,Eさんも,例えば,◇◇さん(Eの妻のこと)とかに置き換えて考えてみると,また違う考え方ができるんじゃないかなと思うんですけれども。

と述べたのに対し,Eが

それはケースバイケースだよ,Aさん。俺は彼女が妊娠したら,俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる。

と述べた。これに対し,一審原告は,

あ,まぁ,そう…。

と述べ,Eは,一審原告の考えが一審原告一人の考えかも知れないことを忘れてはいけない旨述べ,一審原告は,「うーん…。」と反応した。
(甲15,50,乙91,原審における証人Eの証言,一審原告本人尋問の結果)
その後の面談,団体交渉,業務改善指導書の交付等

一審原告は,平成26年9月22日,東京労働局長に対し,速やかに正社員に戻してほしい,退職勧奨を受けているので今後これをしないでほしいとして,個別労働関係紛争の解決援助の申出(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律4条)をした。

一審被告代表者とF社労士は,同年10月6日,東京労働局に赴いて事情を説明し,一審原告とは1年間の有期労働契約を締結しており,正社員への契約再締結が必要であるが,再契約の時期は確約できない,退職勧奨はしていないなどと説明した。労働局は,一審原告に対し,一審被告の説明内容を伝え,同日,助言・指導は終了し,一審原告もそれを了解した。なお,労働局は,一審原告の申出を前提として,一審被告に対し,正社員として再契約をするよう検討し,一定期間時短勤務の正社員として再契約することも含めて検討してはどうかと助言し,一審原告が退職勧奨をされたとしているので今後退職勧奨をしないように助言したものの,一審被告から上記のような説明を受け,文書による指導をすることはしなかった。イ
一審原告は,平成26年10月6日頃,労働組合であるG(以下本件組合という。)に加入した。本件組合は,一審被告に対し,同月9日付けで,本件契約社員契約を正社員としての労働契約に変更すること,勤務時間を午前11時から午後4時までを含む1日6時間とすることなどを求めて,団体交渉を申し入れた。一審被告と本件組合は,上記団体交渉を同月30日に行うことを合意した。


一審原告と一審被告代表者,Eは,平成26年10月18日,面談をした。
この面談の席で,一審原告は,正社員に戻れるのかどうか,その時期が
不明なままであるとの不満を述べ,一審被告代表者は,仕事を預けて大丈夫という信頼関係が構築される必要があるとして,具体的な時期等を明言することはなかった。また,Eも,一審原告には2年間のブランクがあり,いきなりクラスを担当させることにはどの程度のリスクがあるかも分からないため,徐々に慣らしていくことが絶対に必要であると述べ,一審被告代表者もこれに同調した。さらに,一審被告代表者は,一審原告をクラス
担当から外した理由について,

あなたが組合とかって関係なく,危険であるというところで。

と発言し,一審原告にクラスを担当させるにはリスクが大きいからである旨述べた。

Eは,一審原告に対し,平成26年10月22日,他のコーチのクラス運営について,危機感すら感じると他の社員に聞こえるように大きな声で発言したこと,同年9月21日,他の社員に対し,同月19日の面談で,産休コーチが帰ってくると組織の規律が乱れると言われたとの事実と異なる内容を話したこと,勤務時間について希望を過度に主張したことについて,これらの言動を慎み,勤務態度を改善するよう努力することを指導する旨記載のある同日付け業務指導書(甲16の1)を交付した。


一審被告代表者は,平成26年10月25日の面談において,一審原告に対し,同年9月13日付け業務改善指示書(甲17の1),同月14日付け注意指導書(甲17の2),同月17日付け業務改善指示書(甲17の3),同月20日付け業務改善指導書2通(甲17の4,5),同月21日付け業務改善指導書(甲17の6),同月24日付け警告書(甲17の7),同月27日付け注意指導書(甲17の8),同年10月1日付け警告書(甲17の9),同月8日付け業務改善指導書(甲17の10),同月15日付け業務改善指導書(甲17の11),同月18日付け注意指導書(甲17の12),同日付け業務改善指示書(甲17の13),同月25日付け勤務改善指示書(甲17の14),同日付け業務改善指導書(甲17の15),同日付け警告書(甲17の16)を一括して交付した。一審被告代表者は,一審原告に対し,上記の業務改善指導書等の趣旨について,一審被告が日頃から述べている主張や一審原告とのやり取り等を文書化して整理したものであり,指導に従うときには,上記各文書の文書の趣旨を理解し,改善向上に努めますとの記載がある欄に署名して提出し,異議があればその記載するよう求め,

従わないなら,従わないということで結構です。

と説明し,一審原告も,持ち帰って,熟読した上で,提出すると答えた。
このうち,平成26年9月21日付け業務改善指導書及び同月24日付け警告書は,一審被告が退職勧奨をしていないにもかかわらず,外部に対し,退職勧奨をした旨他言していることを指摘し,これを禁止するもの,同月27日付け注意指導書は,職場は健全な信頼関係が確立しており,他人から盗撮盗聴などという脅威ないしは安心して働けるところであるにも関わらず,録音機器を執務室に持ち込み秘密に録音をする行為が認められたとして,就業規則違反として注意をし,執務室における録音を禁止するものであり,同年10月1日付け警告書及び同月8日付け業務改善指導書は,

自分がターゲットにされている。

会社にいじめられている。

,妊娠したいなら気をつけた方がいい,『産休明けの社員が戻ってくると社内規律が乱れる』と経営陣が言っていると発言し,職場の秩序を乱し,社内不和を生じさせたとして指導をするというものであり,その他の業務改善指導書等は,概ね,一審原告と正社員として再契約を締結しないことについての一審被告の主張と,一審原告がこれに反して正社員に戻すことを求めていることへの批判であった。

一審被告代表者は,一審原告に対し,平成26年10月26日,再度,前記業務改善指示書等を示し,読み合わせをした上,提出するよう求めたが,一審原告は,内容に納得できないとして,持ち帰って検討することとした。
一審原告は,同月29日,一審被告代表者に対し,上記業務改善指示書等には内容に納得がいかないので署名しない旨述べるとともに,自己の行動に問題があるとは思わないなどと述べ,業務改善指示書等のいずれにも署名をせず,これらを一審被告代表者に返却した。これを受け,一審被告代表者は,一審原告に対し,業務改善指導に従わず,改善の見込みがない
として改めて厳重指導を行う,上司等の指示命令に従い誠実かつ忠実に業務を遂行することを求める旨の記載がある同日付け業務改善指導書(甲19)を交付した。

本件組合は,団体交渉に先立ち,一審被告に対し,平成26年10月28日付け抗議申入書(甲18)を送付し,一審被告が一審原告に対して業務改善指示書等を交付したことについて抗議をし,以後このような行為をしないよう申し入れた。
同月30日,一審原告,一審被告代表者,本件組合の関係者らが出席して,団体交渉が行われた。一審原告及び本件組合は,一審原告を正社員に戻すよう要求したが,一審被告代表者らは,直ちには応じられない,現状ではクラスを担当させることもできない旨回答した。その際,本件組合の関係者は,事実とは異なり,保育園の入園が決定しているとして正社員への復帰を求めたが,一審原告はこれを訂正することはなかった。また,本件組合は,口頭で,上記抗議申入書と同様の申入れをした。


一審被告代表者は,平成26年11月1日,一審原告に対し,数々の指導に関して改善を行うよう業務改善指示を行う,これは,労働局への相談や組合加入によるものでない,上司等の指示命令に従い誠実かつ忠実に業務を遂行することを求める旨の記載がある同日付け業務改善指示書(甲20)を交付した。


一審被告は,平成26年11月19日頃,同年9月19日に行われた面談以降の一審原告の言動を挙げつつ,一審原告が一審被告の指示命令に素直に従おうとせず,正社員に戻りたいとの自己の主張のみを押し通そうとして,一審被告との間の信頼関係を構築する努力を全くせず,一審原告と一審被告との間の信頼関係が既に破綻状態となっている状況で,雇用契約を正社員に変更することは不可能である旨を記載した回答書(甲21,乙28)を送付した。


平成26年12月2日,一審原告,本件組合の関係者ら,D・Eら一審被告の関係者らが出席して,団体交渉が行われたが,特段の合意には至らず,以後,団体交渉は一旦中断した。


一審原告は,平成26年12月10日,一審被告の業務用のパソコンを用い,一審被告から付与された業務用のメールアドレスにより,一審被告の他の従業員に対し,一審被告代表者の発言を批判するとともに,

早くあの場から去りたいですが,辞めると交渉権を失ってしまうので,会社の敗北をしかと見届けるまで,戦います。

面白いことに,時間が経てば経つほど,会社はボロを出してくれています。…引き続き,報告はさせてくださいまし。ひひ^^

等のメールを送信した。

一審被告は,本件組合から一審原告を正社員に復帰させない旨通告した理由等の説明を求められ,平成26年12月12日頃,本件組合に対し,一審原告が育児休業明けに職場復帰した当日に一審被告の全従業員に対し保育園が決まり次第,週5日勤務で働くことになっているなどと誤った内容の挨拶をし,正社員化への既成事実を作ろうとして不誠実な態度を取ったほか,自己中心的な要求を行って一審被告の労務管理担当を混乱させるとともに,一審被告の女性従業員に対し私,会社にいじめられているから,あなたも妊娠を考えているなら気をつけた方がいいよなどと事実でないことを吹聴し,いたずらに女性従業員の不安心理をあおり,企業秩序を乱す言動を行ったことなどを総合判断して,同年9月10日の時点において,一審原告を信頼してコーチとしてクラスを受け持たせ正社員に契約変更することは現段階ではできないと決定した旨を記載した回答書(乙48)を送付した。
(甲12,16から23,26,33,36,37,50,52,53,乙8から12,18から28,30の2,34,39から49まで,56から58,61,92,97,原審における一審原告本人及び一審被告代
表者本人尋問の各結果)
自宅待機命令に至るまでの経緯

一審被告は,インターネットの口コミサイトに,平成26年7月11日付けで

変な帰国子女講師に腹が立ち解約しました。

と題し,帰国子女の女性講師が受講生の前で恥をかかせて脅迫するだけの指導をしており,解約したのに,自分の写真が載ったハガキみたいなの送ってきましたなどとCの女性コーチを批判する記事が掲載されたことを知った。一審被告代表者は,同年12月2日の団体交渉の席上で,一審原告に対し,当該コーチは誰か知っているかと質問したところ,一審原告は,当該コーチが誰であるかを知っているかのような発言をした。そして,一審原告は,同月3日,一審被告代表者に対し,特定のコーチの名を挙げて回答したが,一審被告代表者は,帰国子女は一審原告のみであり,一審原告が名前を挙げたコーチが入社した時期には顔写真付きハガキを送付していないことなどの矛盾を指摘し,一審原告が虚偽の回答をしているとして,注意をした。
また,一審被告代表者は,一審原告に対し,同日,一審被告代表者が送信した給与明細の内容確認メール等に返信をしないことや,重要書類を上司の机に置くだけでその受領の確認もしないため,書類の提出の仕方についても注意をした。


一審原告は,平成26年12月13日,Eに対し,長女がノロウイルス感染症と診断されたため同日及び同月14日は欠勤する,本来電話で連絡するべきところ,Eが午後1時15分出勤予定とのことであり,一審原告の出勤予定時刻の後となるので,メールで連絡する旨を記載したメールを送信し,欠勤の連絡をした。これを受け,Eは,同日午前10時48分頃,了解した旨をメールで返信し,同日午後1時16分頃,一審被告の全従業員向けに,上記の旨告知するメールを送信した。

一審被告代表者は,一審原告に対し,同月17日,欠勤については電話連絡により承認を取るよう注意指導をした。これに対し,一審原告は,Eの出勤時刻前なのでメールで連絡をした旨述べた。さらに,一審被告代表者は,同月27日,一審原告に対し,上記の欠勤につき,家族によるバックアップ体制がどうなっているかを尋ねたところ,クラスを持っていたら休まなかった,クラスを持っていないので,子育てを優先してもいいと思ったなどと述べ,クラスを持たせてもらえれば,休みませんなどと発言した。そして,一審原告は,上記欠勤について,有給休暇ではなく看護休暇の取得を求めたため,一審被告は,看護休暇の取得を認めた。ウ
本件組合は,東京都労働委員会にあっせんの申請をし,平成27年2月3日から同年4月23日までの間,5回にわたるあっせん期日が開かれたが,あっせんは打ち切られた。


一審被告代表者は,平成27年3月24日頃,一審原告が子を入れる保育園が決まったと聞き及んだため,一審原告に対し,今後の保育園からの呼出し等に備えて保育園の連絡先を教えるよう求めた。これに対し,一審原告は,同月25日,緊急連絡先としては夫又は両親としたいと述べ,保育園の連絡先を教える必要性について尋ねた。一審被告代表者は,この後も,一審原告に対し,複数回,保育園の連絡先を教えるよう求めたが,一審原告は,同年4月4日,家族と話し合った結果,保育園の連絡先は一審被告には伝えたくないという結論に至った,その理由は,必要性が明確でないこと,子の個人情報をむやみに公開したくないことであるなどと述べた。
また,一審被告代表者は,同月5日までに,他の従業員と同様に,一審原告に対し,労働者名簿に記入をして提出するよう求めたが,一審原告は,直ちにこれに応じず,その必要性等の説明を求めた。一審被告代表者は,一審原告に対し,同日,電話で,労働者名簿作成の必要性等について説明
したところ,一審原告は,必要事項を記載した労働者名簿を提出した。オ
一審被告代表者は,本件組合から,一審被告が一審原告に対して労働者名簿の提出を求めたことが不当労働行為とも受け止められるものとする申入書の送付を受けたことから,平成27年4月18日,一審原告に対し,その趣旨を尋ねたところ,一審原告は,突然,録音を開始した。一審被告代表者は,一審原告に対し,執務室(スタッフルーム)における録音を止めるよう述べたが,一審原告は,これは私の記録として取りたいんですなどと述べて,録音を止めなかった。一審被告代表者は,執務室では録音をしないように複数回命じたが,一審原告は,これは業務指示ですか?と確認し,一審被告代表者が業務指示である旨述べても,

止められないです。

と述べて,録音を止めようとしなかった。

一審原告は,平成27年5月頃,マスコミ関係者らに接触し,一審原告が育児休業の終了に際して本件契約社員契約を締結し,その後正社員に戻すことを求めたが,一審被告がこれに応じなかったことに関する情報を録音データとともに提供し,同月12日,インターネット上のニュースサイトYOMIURIONLINE(乙98)に,マタハラ防止,動き鈍い企業との題名で,退職迫られるの見出しのもと,一審原告及び一審被告を匿名とし,東京都内の教育関係企業で働く女性が直属の男性上司から俺なら,俺の稼ぎだけで食わせる覚悟で,嫁を妊娠させると言われた,育児休業終了後に子が保育園に入れば正社員に戻すとの条件で週3日勤務の契約社員として復帰し,その後保育園が決まったのに,上司は正社員に戻すことを渋り,押し問答の末に上記発言が出た,女性は社長とも話し合ったが,産休明けの人を優先はしないなどと言われ,嫌なら退職をと迫られた,まさに社を挙げてのマタハラで,労働局の指導も会社は無視,女性の後に育休を取った複数の社員も嫌がらせを受けて退職した旨が報道された。一審原告は,一審被告の従業員らに対し,ことが大きくなる,どうせわかることだからなどと述べ上記記事及びテレビ取材の動画を見せて,自己が関与していることを明らかにした。
一審被告訴訟代理人弁護士らは,一審原告に対し,同年6月4日差出しの通知書(甲27。内容証明郵便)をもって,労働審判を申し立てたことを通知するとともに,上記報道記事記載の一審原告の発言は事実と大きく異なり真実に反するものであり,以後,マスコミを含む外部の第三者に対して本件に関する不用意な発言を厳に控えるよう強く要請する旨の通知をした。

一審原告は,平成26年9月に復職した直後から,一審被告代表者らに告げることなく,執務室内における会話を無断で録音していた。
一審原告は,平成27年6月6日の面談において,上記事実を認め,一審被告代表者は,録音を禁止する旨命じたが,一審原告は,一審被告代表者との会話は録音したいと述べるなどして,これを拒否した。一審被告代表者は,一審原告が平成26年9月1日に署名をして一審被告に提出した秘密保持に関する誓約書(甲29)や一審原告が提出していたJBLスタッフセキュリティチェックリスト(乙62)を引用して,録音の禁止を命じたが,一審原告は,上記誓約書の効力に疑問を述べるなどして,受け入れなかった。また,一審被告は,一審原告が,同年5月23日にHの交流会に参加し,顔写真も出していることなどを把握した上,前記カのYOMIURIONLINEの記事への関与を問い質したが,一審
原告は,この場ではお答えできない,弁護士と相談してお話しすると答え,一審被告代表者から笑っているように見えると言われると,本当にマスコミがお嫌いなんだなと思いましてと発言するなどした。一審被告代表者は,一審原告に対し,マスコミに情報を流すことをやめるように求め,一審原告の件で従業員らは動揺し,マスコミ対応に追われることで,業務もストップしているなどと述べた。


一審原告は,平成27年6月6日,一審被告の業務用のパソコンを用いて一審被告から付与された業務用のメールアドレスにより,一審原告の自宅パソコン宛てに,弁護士折衝においてと題して,今,「マタハラが脚光を浴びていること。提訴し,記者会見をすることで,裁判には前向きです。」,基本的に,私は,裁判に前向きです。その前に,早期解決を図るため金銭的和解に応じるのであれば,800万円。その金額以下で,裁判を避けることは考えておりません。提訴することが決まり,会社名を公表した記者会見をし,その後,和解,という流れで,会社に対して,十分な社会的制裁を与えることができれば,800万円という金額にはこだわりません。会社は,裁判というより「記者会見を嫌がるでしょう。記者会見を避けるために,こちらの言い値を支払うこともありえると思っています。」と記載したメール,Eに夏季休暇の確認をしたところ,一審被告代表者からメールが送信されたことに関して,

白状すると,私がちょっと嫌味なメールを送り,仕掛けたところがあります。

弁護士から内容証明が送られる6月5日以降に,反論したいと思っています。重箱の隅をつつくような反論ですが,「矛盾している点について,抗議の姿勢を示しておくこと

に意味があると思っています。」と記載したメールをそれぞれ送信した。


一審被告代表者は,平成27年6月10日の面談において,一審原告に対し,①執務室内において就業時間中に録音をしたことについて,厳重に注意をするとともに,今後これを一切禁止する,②退職を迫られたなどと一審被告がいわゆるマタニティハラスメントを行ったかのような明らかに真実と異なる事実を社外の第三者に摘示した行為について,注意をするとともに,今後このような不用意な発言を第三者に対して行うことを厳に控えるよう指導する旨記載した業務改善指導書(甲28)を交付した。これに対し,一審原告は,誓約書も撤回する,業務改善指導にも納得が
いかないなどと述べた。一審被告としては,一審原告がこのように業務改善指導に従わない,誓約書を撤回するなどと述べることから,情報漏洩の観点から不安があるとして,就労を免除し,帰宅させた。
そして,一審被告は,一審原告が一審被告社内のサーバーにアクセスできないよう遮断する措置を執り,その後,一審原告を専用のサーバーにのみアクセスさせる措置を継続した。
一審原告は,一審被告に対し,①本件組合との団体交渉において録音の扱いについて合意に至るまで執務室での録音は差し控える,②今後も,真実に反する話を社外に対してすることなく,取材等の依頼については,具体的な状況を鑑みて判断し対応する旨を記載して一審原告が署名した同月13日付け確認書(乙65)を提出した。

一審原告は,平成27年6月24日,一審被告から付与された業務用のメールアドレスを使用し,マスコミ関係者に対し,一審原告がボイスレコーダーによって録音したデータを提供し,インタビューを受けたことについて,個人が特定できないことを条件で他の番組における使用を許容する旨のメールを送信するなどのやり取りをした。
同日,テレビの報道番組において,マタハラ被害を受けたと主張する一審原告を含む女性5人が記者会見をした内容が報道され,その中で一審原告が仮名で取材に応じて発言した内容が育休明け“正社員→契約社員”“マタハラ被害”やりとり音声に・・・とのテロップを付して放映されるとともに,一審原告がボイスレコーダーにより録音したデータの一部が放映された。


一審被告代表者は,平成27年7月11日午後4時50分頃,一審原告が業務用のパソコンを用いて団体交渉との記載のあるメールを作成しているのを発見し,業務に関係のないメールではないかと指摘し,上記パソコンを一審原告が使用していた机上から引き揚げて,一審被告代表者の
机上に持って行った。一審被告代表者が上記パソコン内を確認しようとしたところ,一審原告は,一緒に確認をさせるよう求めたが,一審被告代表者はこれを拒み,一審原告に対し,事業所から退出するよう命じた。しかしながら,一審原告はこれに応じず,スマートフォンを用いてメールサーバーに保存されたメールの削除をしようとしたため,一審被告代表者は,スマートフォンで一審被告のメールサーバーにアクセスしないように伝えた。一審被告代表者は,一審原告に対し,繰り返し,事業所からの退出を命じたが,一審原告は,執務室内において,スマートフォンを用いて一方的に録音を開始した。
一審被告代表者は,繰り返し,事業所からの退出を命じ,翌日以降出社しなくてよい旨述べた。一審原告は,ようやく,午後5時30分ないし40分頃,一審被告の事業所を退出した。
なお,一審原告が業務用として使用していた上記パソコンのゴミ箱から削除されたメールを復元するなどしたところ,同年6月6日及び同月24日の就業時間中に一審原告が本件組合又は弁護士らに相談する内容を下書きしたメール(前記ク)や,マスコミ関係者とやり取りしたメール(前記コ)が発見された。

一審被告は,一審原告に対し,平成26年7月11日,就業時間中に業務に関連のないメールを送信するなどの職務専念義務違反行為があったこと,自らの誓約をほごにして執務室内で録音をしたこと,上記各行為に関する事実調査及び処分の検討を行う必要が生じたため,翌12日以降の出勤を認めず,自宅待機を命ずる,なお,自宅待機期間中の賃金は支払う旨記載した自宅待機命令書(甲30)を送付して,同日以降の自宅待機を命じた。
(甲24から31まで,43,50,乙30,34,46から54まで,61,62,65,80,98,104,111,112,原審における
一審原告本人及び一審被告代表者本人尋問の各結果)
本件雇止め等

一審被告は,一審原告に対し,平成27年7月31日差出しの雇用期間満了通知書(甲32。内容証明郵便)をもって,契約社員として本件契約社員契約を更新することができないとして,本件契約社員契約は,同年9月1日をもって終了する旨を通知した。


一審被告は,その後,一審原告が一審被告のメールサーバーにアクセスすることを制限した。
一審被告代表者は,一審被告が一審原告に対して付与した業務用のメールアドレスに送信された一審原告宛てのメールを閲読し,同年9月7日,上記メールアドレスにメールを送信していたH関係者らに対し,一審原告はメールを確認できない状況にあった,一審原告には就業規則違反と情報漏えいが認められたため同年7月に自宅待機処分となり,同年9月1日付けで退職した旨記載したメールを送信した。
(甲32,40,乙15)
本件記者会見等


一審原告は,平成27年10月22日,東京地方裁判所に,甲事件本訴を提起するとともに,同日,厚生労働省記者クラブにおいて,本件記者会見をし,一審原告及び一審原告訴訟代理人弁護士らは,本件記者会見において,一審被告の名称が記載された訴状の写しを資料として配布するとともに,一審被告の名称を公表して,甲事件本訴を提起したこと及びその訴状の内容を説明し,その中で,次のような発言(本件各発言)をした。平成26年9月に育児休業期間終了を迎えたが,保育園が見付からなかったため休職を申し出たものの認められず,一審被告から週3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られた(以下本件発言①という。)。

やむを得ず契約社員としての雇用契約を締結したところ,1年後に雇止めされた(以下本件発言②という。)。
子を産んで戻ってきたら,人格を否定された(以下本件発言③という。)。
上司の男性が,俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させると発言した(以下本件発言④という。)。一審原告が労働組合に加入したところ,一審被告代表者があなたは危険人物ですと発言した(以下本件発言⑤という。)。イ
平成27年10月22日,朝日新聞電子版に,育休取得後に雇い止め『マタハラで違法』と女性が提訴との見出しの下,一審被告の名称を公表して育児休業を取った後に正社員から契約社員になることを迫られ,1年後に雇い止めにされたのはマタニティーハラスメントにあたり違法だとして,東京都の女性(34)が22日,教育関連会社ジャパンビジネスラボ(東京)を相手取り,正社員としての地位確認や慰謝料330万円などを求めて東京地裁に提訴した。,

一審原告の女性は『子どもを産んで戻ってきたら,人格を否定された。雇い止めにされて,仕事のやりがいまで奪われた』と訴えている。

会社側の弁護士は『訴状が届いておらず,コメントは控えたいが,司法の場で適切に対処したい』と話した。

などの内容を含む記事が掲載された(以下本件報道①という。)。


平成27年10月22日,産経新聞電子版に,『あなたは危険人物』育休明けに非正規→雇い止めの“マタハラ”女性が会社を提訴との見出しの下,一審被告の名称を明らかにせずに,

育休明けに正社員から非正規社員への変更を迫られ,1年後に雇い止めになったとして,英会話学校を運営する会社の元社員の女性(34)が22日,東京地裁に正社員への復帰を求める訴訟を起こした。

会社側との話し合いの中では,上司の男性が『おれは彼女が妊娠したら,おれの稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる』と発言。女性が労働組合に加入したところ,会社代表が「あなたは危険人物です

と発言したこともあったという。」,提訴を受け,会社側の代理人は,『まだ訴状が届いていないので詳細なコメントは差し控えるが,当該労働者との間の雇用関係については司法の判断を仰ぐべくすでに当社の方から訴訟を提起しており,司法の場で適切に対処していきたい』とコメントした。などの内容を含む記事が掲載された(以下本件報道②という。)。

平成27年10月22日,テレビ東京で放映されたNEWSアンサーというニュース番組において,一審被告の名称を公表して本件記者会見の内容が報道された(以下本件報道③といい,本件報道①から③までを本件各報道という。)。


平成27年10月23日,本件記者会見に関する報道に接した視聴者又は読者から一審被告に対し,

マタハラ報道で貴社が育休後正社員を契約社員に変更し,さらに雇い止めをするという反社会敵(ママ)企業であることを知りました。

貴社が経営する英会話学校のCがマタハラによって育休後正社員を契約社員とし,さらにはその契約社員を雇い止めするという許されない事態を起こしていたことを報道で知りました。

などの内容を含むメールが2件届いた。


一審被告代表者は,マスコミからの問合せにより,甲事件本訴の提起と本件記者会見を知り,同月23日,一審被告の公式ウェブサイトに,2015年10月22日(木)の弊社に関する報道につきましてと題して,次の記載のある記事(甲45)を掲載した(以下本件記事①という。)。
本件記者会見をした一審被告の元従業員は,出産育児を機に本人の意思に反して,正社員から契約社員に職制を変更され,その後雇止めをさ
れたことがマタニティハラスメントに当たると主張しているとのことですが,全く事実と反する内容になっております。
元従業員は当初退職の意向も示されていましたが,最終的に当社の制度の下で職場復帰することを選択し,週3日の4時間勤務であれば育児と両立して勤務が可能であるとして自らの意思で契約社員を選択されました。
職場復帰に当たり,雇用契約内容に関してつぶさに説明を行い,本人の承諾を得た上で,契約社員としての雇用契約を締結しております。ところが,元従業員は,復職前後から約1年間にわたり,職場内外で数々の問題行動に及びました。
元従業員との雇用契約の終了は,飽くまで元従業員の問題行動が理由であり,育児休業の取得その他の出産,育児等を理由とした不利益取扱い(マタニティハラスメント)に該当する事実も一切ございません。キ
一審原告は,一審被告に対し,平成28年2月26日頃,本件記事の削除を求めたが,一審被告は,同年3月4日頃,これに応じない旨回答した。

一審被告は,一審被告の公式ウェブサイトに,原判決が言い渡された直後の平成30年9月12日,2018年9月11日(火)の弊社に関する報道につきましてと題するコメントを公開し,その中に

今回出された第1審判決について,一部のマスコミの報道では,弊社のマタハラが認定されたかのように報じられているものがございますが,そのような事実はございません。

などの記載のある記事(以下本件記事②という。)を掲載した。
(甲45から47まで,66,乙68から71)

2
争点

(本件合意の解釈及びその有効性)について

本件合意は本件正社員契約を解約する合意を含むものであるか。

前提認定事実によれば,一審被告においては,雇用形態として,正社員と契約社員が明確に区分されており,さらに正社員は時短勤務の有無で正社員と正社員(時短勤務)に細分化され,契約社員(1年更新)は週4日勤務と週3日勤務に細分化され,その中から選択するものとされていたところ,一審原告と一審被告が取り交わした雇用契約書には,契約期間欄に期間の定めなしと期間の定めありが区別されている中で,期間の定めありに○が付され,期間が平成26年9月2日~平成27年9月1日と明記され,雇用形態欄には契約社員との記載が明示されているのであるから,一審原告と一審被告との間で,上記の雇用形態のうち,正社員でなく契約社員(1年更新)が選択され,新たに契約社員として期間1年とする有期労働契約が締結されたものと認められる。
そして,正社員と契約社員とでは,契約期間の有無,勤務日数,所定労働時間,賃金の構成(固定残業代を含むか否か,クラス担当業務とその他の業務に係る賃金が内訳として区別されているか否か。)のいずれもが相違する上,一審被告における正社員と契約社員とでは,所定労働時間に係る就業規則の適用関係が異なり,また,業務内容について,正社員はコーチ業務として最低限担当するべきコマ数が定められており,各種プロジェクトにおいてリーダーの役割を担うとされているのに対し,契約社員は上記コマ数の定めがなく,上記リーダーの役割を担わないとの違いがあり,その担う業務にも相当の違いがあるから,単に一時的に労働条件の一部を変更するものとはいえない。
そうすると,一審原告は,雇用形態として選択の対象とされていた中から正社員ではなく契約社員を選択し,一審被告との間で本件雇用契約書を取り交わし,契約社員として期間を1年更新とする有期労働契約を締結したもの(本件合意)であるから,これにより,本件正社員契約を解約したものと認めるのが相当である。


これに対し,一審原告は,本件書面においても,正社員への再変更が前提となっており,本件合意の際にも,本件正社員契約が終了するとの説明を受けておらず,退職金の支給などの正社員契約の終了に伴う措置も執られていないことなどから,1年の契約期間は形式的なものにすぎず,本件合意は,本件正社員契約を継続させつつその労働条件の一部を変更する趣旨の合意である旨主張する。
しかしながら,前記認定事実のとおり,一審被告が一審原告に交付して説明をした本件書面においても,雇用形態として,正社員と契約社員は明確に区別され,それらが併存するものとはされておらず,かえって補足説明には,契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとし,改めて正社員契約の締結を要する旨の記載があり,また,就業規則の見直しについてと題する書面(乙36)にも,会社との相談により,契約社員から正社員へ復帰することも可能と同様の趣旨が記載されていたものである。しかも,一審被告の育児介護規程(甲7の3)上は,時間短縮勤務とするには育児短時間勤務申出書を提出することで足りることになっている(15条3項)が,一審原告と一審被告が取り交わしたのは雇用契約書であって,新たに契約社員契約を締結したものとなっており,その際,就業規則に基づく秘密保持に関する誓約書も作成されているのであるから,正社員契約を維持したまま単に勤務日・勤務時間といった労働条件の一部を変更するものとはなっていない。
一審原告は,原審における本人尋問において,正社員の地位を失うことになるとは考えなかった旨供述するが,一審原告は,一審被告に対し,一貫して,正社員に戻すことを求めており,このことは一審原告自身が,本件契約社員契約の締結によって正社員の地位を喪失したものと認識していたことを意味するものといえる。
また,契約社員であっても,一審被告との雇用関係は継続しており,一
審被告の退職金規程(甲64)には,契約社員の期間は,勤続年数に算入しない旨が記載され(5条1項⑤),改めて正社員契約を再締結し,正社員として就労した後に退職した際に,勤続年数から契約社員の期間を控除することとされているのであるから,契約社員契約の締結時に退職金が支給されないことをもって,正社員契約が継続する根拠にはならない。労働基準法施行規則5条1項1号の2(なお,一審原告が指摘する平成20年厚生労働省告示第357号は本件合意の当時既に廃止されていた。)にいう更新に関する基準の記載は,雇用契約書自体に明記することを要求したものではないから,本件雇用契約書に更新に関する基準の記載がないからといって,本件合意によって期間を1年とする有期労働契約を締結したと認定することの妨げにはならない。
一審原告の上記主張は,採用できない。


本件合意は均等法や育介法に違反するか。

一審原告が育児休業を取得する以前の本件正社員契約と本件契約社員契約の労働条件を単純に比較すると,前者は固定残業分が含まれており月額48万円であるのに対し,後者は時間の単価は変わらないものの,固定残業分がないため10万6000円であり,前者は雇用の期間が定められていないのに対し,後者は更新があるものの期間は1年であって,雇用の安定において差があり,退職金の算定に当たっても契約社員の期間は通算されないことなどの面において不利益があることは否定できない。もっとも,これは,一審原告が週5日の勤務が可能であることを前提にした場合である。
しかしながら,実際は,一審原告は,本件合意の時点においては,子を預ける保育園が見付からず,家族のサポートも十分に得られないため,週5日勤務が困難であり週3日4時間の就労しかできなかったのであるから,子を預ける保育園が確保できる見込みがないまま,週5日勤務の
正社員のコーチとして復職すれば,時間短縮措置を講じたとしても,コーチとしてクラスを担当すること自体が困難になったり,クラスを担当してもその運営に大きな支障が生じたりし,あるいは欠勤を繰り返すなどして自己都合による退職を余儀なくされるか,勤務成績が不良で就業に適さないとして解雇されるか(就業規則34条1項2号),さらには出勤常ならず改善の見込みがないものとして懲戒解雇される(就業規則31条2号)おそれがあるなどの状況にあったものである。

ところで,一審被告においては,育児休業明けの従業員らに対し,子の養育状況等の就労環境に応じて多様な雇用形態を設定し,正社員(週5日勤務),正社員(週5日の時短勤務),契約社員(週4日又は3日勤務)の中から選択することができるように就業規則等を見直し,契約社員制度を導入したものであるが,この制度改正については,育児休業中の一審原告に対しても個別に説明がされ,一審原告も,このような一審被告の取組に謝意を述べていたところであって,一審原告には,育児休業終了までの約6か月の間,子を預ける保育園の確保や家族にサポートを相談するなどして,復職する際の自己に適合する雇用形態を十分に検討する機会が与えられていたものである。そして,一審原告は,時間短縮措置を講じても正社員として週5日勤務することが困難な状況にあったため,一時は転職や退職を考えたものの,育児休業終了の6日前になって,正社員ではなく週3日4時間勤務の契約社員として復職したい旨を伝え,育児休業終了の前日に,契約書の記載内容,契約社員としての働き方や賃金の算定方法等について説明を受け,これを確認して,本件契約社員契約を締結したものである。
このような一審被告による雇用形態の説明及び本件契約社員契約締結の際の説明の内容並びにその状況,一審原告が育児休業終了時に置かれていた状況,一審原告が自ら退職の意向を表明したものの,一転して契約社員
としての復職を求めたという経過等によれば,本件合意には,一審原告の自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものといえる(最高裁平成26年10月23日第一小法廷判決・民集68巻8号1270頁参照)。
したがって,本件合意は,均等法9条3項や育介法10条の不利益な取扱いには当たらないというべきである。ウ
これに対し,一審原告は,一審原告が育児休業終了時に,本件合意をせずとも,有給休暇,看護休暇を取得し,一審被告が休業を命じれば,週5日勤務が可能であり正社員としての地位を維持することができたものであって,一審被告が,育児休業終了後に復職できない場合には自主退職となる旨説明して,契約社員契約に誘導したことは,契約社員契約を強要したものといえ,いわゆるマミートラックの典型であり,育介法の禁止する不利益な取扱いに当たるなどと主張する。
まず,前記のとおり,一審原告は,育児休業終了時において,子を預ける保育園が確保できず,家族のサポートも十分得られないため,時間短縮措置を講じても正社員として週5日就労することが困難であり,週3日4時間の就労しかできない状況にあったものであり,この点は,一審原告も,育児休業中の平成26年3月4日に,Dに対し,子を保育園に預けることができない場合には,週3日勤務での復職となる旨のメールを送信し,また,復職に際しても,従業員らに対し,

娘を保育機関に預けることができなかったため,週3日4時間(水・土・日)の出勤になりました。

とのメール(甲10)を送信していることなどからも明らかである。もっとも,一審原告は,同年9月1日から通勤経路内の保育園にも候補を広げて探したところ,同月3日になってbにある認証保育園に空きがあることが分かり,同月8日になって同園に入園が可能になったとして,正社員契約の再締結を求めてきたが,一審原告は,この点について,
保育園から空きがあると電話があり,1週間程度の猶予をもらったものの,面談の日が同月19日になってしまった上,一審被告が週5日勤務に戻さないため,キャンセルした,あるいは申込み自体を断念したと陳述,供述し(甲50,73,原審における一審原告本人),保育園の入園の目途が立っていたかのような供述等をしている。しかしながら,そもそも,一審原告は,同年3月4日には,保育園の候補を広げ遠方の保育園も対象にするように手続をした旨のメールをしていながら(甲34),育児休業の終了時までには,保育園は全く見付からず,復職後わずか数日で保育園が見付かるということ自体,不可解である上(仮に,見付かったのであれば,育児休業期間が延長された時期にどの程度熱心に保育園探しをしたのかについて疑問が生じるし,候補を広げるように手続をした旨のメールの信憑性にも疑問が生じるが,これらの疑問は当審において提出された弁護士法23条の2に基づく照会に対する回答(乙102)をまつまでもない。),一審原告は週5日勤務の正社員への復帰を強く求めており,そのためには子を預ける保育園を確保することが不可欠となっていたことは一審原告自身が十分に認識していたのであるから,簡単にキャンセルし,あるいは申込み自体を差し控えて,自ら入園の機会を放棄するとは考えられない(一審原告は,月160時間以上の勤務でなければ区からの補助金を受けられないため,週5日勤務の目途が立ってから保育園を探そうとしたとも陳述するが(甲73),区の補助制度は育児休業終了前に調査をすれば容易に判明するものであるから,キャンセルしたり,申込みを差し控える理由とはならないし,一審原告は,週3日勤務,すなわち週160時間以下の勤務を前提とする平成26年11月15日付けの就労証明書(甲41)の交付を受けて,平成27年3月
に保育園の入園を決めている。)。また,一審原告は,当該保育園に
入園するか否かの返答を1週間猶予してもらったというが,面談日程の調整において,格別,面談日を急いでいたものともうかがわれない。実際,一審原告は,平成26年9月19日の面談において,正社員に戻す前提であれば保育園に入れて勤務してみてもよいとか,週5日勤務で問題が生じたらいつでもクビにしてもらってよいなどと発言しており,保育園への入園について確実な目途が立ち,週5日勤務が可能になったことを理由として,正社員契約の再締結を求めていたものではない。そして,最終的には,一審原告は,平成27年3月になってようやく子を預ける保育園を確保できたのであるが,これは育児休業中の平成26年2月時点における想定とは何ら変わるものではなく,この間,保育園への入園の目途が立ったような事情もなく,また状況が変化して,家族のサポートが整ったような事情もない(なお,一審原告は,子を妊娠中に実家の近くに転居したというが,育児休業の終了に際し,実母は平成27年4月に定年を迎えるので,それまでサポートは困難であることを理由として3か月の休業を求めているのであるから,上記転居が事実としても,家族のサポートに変化が生じるものではない)。結局,一審原告は,本件合意の時点はもとより,近い将来においても,週5日の就労が困難であり週3日4時間の就労しかできない状況にあったものと認められる。一審原告は,週5日労務提供をする旨の意思表示をすれば足り,子の保育状況を報告し,就労可能性を証明する必要はないなどと主張するが,就労可能性は,単に主観的な意思のみで判断されるものではない。
一審原告は,育児介護指針により原職復帰が原則であると主張するが,本件は,休業前と同様のコーチとして復職するに当たり,時間短縮措置を講じても正社員として週5日勤務が困難な状況にあり,一審原告自身もそのような状況を踏まえ,継続して正社員として稼働することも選択肢に入
っていたものの,自らの意思で週5日勤務の選択をせずに,週3日4時間勤務の契約社員を選択したものであるから,育児介護指針に何ら反するものではない。
一審原告は,有給休暇や子の看護休暇の取得によって十分対応できるというが,一審原告が求めたのは,3か月にわたる休暇であって,有給休暇の取得や育介法及び就業規則17条3項に定める1年間に5日の子の看護休暇の取得では,そもそも賄えないものである。また,一審原告は休職を認めるべきであると主張する(一審原告は,訴状,準備書面2,4においては,就業規則38条1項2号の休職を求めた旨主張していたが,控訴理由書においては同条を挙げるのみであり,どの事由による休職を求めたのかについてさえ定かではない。)が,一審原告は欠勤したわけではないから,休職事由である

家事の都合,その他やむを得ない事由により1ヶ月以上欠勤したとき。

(就業規則38条1項2号)に該当しないことは明らかであるし,育介規則及び育児介護規程に基づき保育所に入所を希望しているが,入所できない場合に該当するとして,最長である1年6か月の育児休業を既に取得した一審原告が,さらに3か月に及ぶ休職を求める理由は,前記のとおり,子の保育方法を限定するなどしたことによるものであるから,

特別の事情があって,会社が休職をさせることを必要と認めたとき。

(就業規則38条1項3号)に該当しないと一審原告が判断したことも何ら不当なものとはいえない。もとより,労働契約における信義則上の配慮義務(労働契約法3条4項)に反するものともいえない。一審原告は,いわゆる待機児童問題は,一審原告の責任ではないというが,上記のとおり,一審原告は保育方法を限定するなどしている上,どの程度熱心に保育園探しをしたのかについて疑問があるところであるし,そもそも育介法等が定める最長の育児休業を取得した労働者に対し,さらに長期の休職を認めることが,事業者に義務付けられているものではない
(育介法第9章参照)。なお,一審原告は,一審被告において他に休職を認めた例があるとも供述しているが,一審原告も,その休職の事情は不明であると供述している上,もともと,育児休業を終了し復職したコーチは一審原告が初めてであるから,比較の対象となる実例があるとはいえず,一審被告が休職を認めなかったことに問題がないとの前記判断を左右するものではない。
一審原告は,一審被告が,育児休業終了後に復職できなければ自主退職となる旨説明し,契約社員契約に誘導したなどというが,前記認定のとおり,一審原告が,復職できない場合には,解雇になるのかと質問したのに対し,一審被告代表者が,自己の意思で辞める場合には,解雇ではなく,自己都合による退職になる旨を回答したにすぎず,一審原告に対し,正社員として稼働する選択を妨げたり,退職を迫って契約社員契約の締結に誘導したような事実もない。
一審原告は,本件契約社員契約は,マミートラックの典型であり,育児休業明けの労働者のキャリアの形成を阻害するものであるとか,育児休業制度を空洞化するものであるなどと批判をするが,育介法等が求める時間短縮措置を講じてもなお就労が困難な労働者に対し,雇用の継続を保障するという面があることは否定できないから,上記批判は当たらない上,本件は,時間短縮措置を講じてもなお正社員のコーチとして週5日就労することが困難な一審原告が,それを踏まえ,一審被告の雇用形態においては正社員として稼働する選択もできるようになっていた中で,自らの意思でその選択肢の中から契約社員のコーチとして週3日4時間勤務することを選択した事案であるから,これを育児休業明けの労働者のキャリア形成の問題に一般化して批判することは適当ではない。

なお,一審原告は,本件合意は,育介法23条に違反するとも主張するが,同条は,使用者に時間短縮措置を講じることを求めているところ,
一審被告は,同条に従って正社員の時間短縮勤務を設けた上,時間短縮措置を講じてもなお就労できない者の就労を可能にするため契約社員制度を設けたのであるから,週3日4時間勤務の契約社員契約の締結が同条に反するものではないことは明らかである。また,一審原告は,本件契約社員契約が労働契約法12条により無効であるとも主張するが,契約社員制度自体は,就業規則上にも規定(8条2項,9条1項,36条1項3号)がされているものの,その労働条件の詳細は,就業規則には定められていないのであるから,それを定める本件雇用契約書の労働条件が,同法12条により無効となるものではない。
本件合意は自由な意思に基づくものか。
一審原告は,本件合意には労働者が不利益な労働条件を受け入れる側面があることから,労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に認められることを要する(最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁参照)として,本件合意は真に自由な意思に基づくものではないから無効であると主張する。
しかしながら,前記

において説示したとおり,一審原告は,一審被告か

ら育児休業後の多様な雇用形態の説明を受け,自己が復職する際の雇用形態について約6か月の十分な検討期間が与えられていた中で,結局,子を預ける保育園が見付からず,家族のサポートも十分得られないため,時間短縮措置を講じても正社員として週5日の就労ができない状況にあったことから,一審原告において,そのような状況に適合する週3日4時間勤務の契約社員を自らの意思で選択し,本件契約社員契約を締結したものであって,一審被告が契約社員契約を強要した事実など全くないのであるから,本件合意に至る経緯,一審被告による雇用形態等の説明等に照らし,本件合意は,一審原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものというべきである。

一審原告の上記主張は,採用できない。
本件合意は錯誤により無効か。
一審原告は,自己が希望すれば無条件で正社員に戻れるものと認識して本件合意をしたのであって,一審被告との合意がなければ正社員に復帰できないのであれば本件合意を承諾することはなかったから,本件合意には錯誤がある(内容の錯誤,仮に動機の錯誤であるとしてもそれを明示又は黙示に表示した。)旨主張する。
しかしながら,本件書面中の契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの記載は,契約社員は,将来,正社員として稼働する環境が整い,本人が希望をした場合において,本人と一審被告との合意によって正社員契約を締結するという趣旨であり,本人からの申出のみで正社員としての労働契約の効力が生じるというものではない。本件雇用契約書中にも,契約期間内に一審原告からの申出により正社員としての契約に変更する旨の記載などない。このことは,本件合意の際,一審原告に対し,F社労士から,正社員としての労働契約に変更するためには,改めて一審被告と合意することを要する旨が説明され,一審原告はその説明を受けて本件合意をしたものであるから,一審原告においても,その旨を十分認識していたものと認められる。実際,一審原告も,一審被告代表者らとの面談において,同意が多分比較的容易に取れると思ってサインしたと述べており(甲13),一審被告の同意を要する旨を認識していたことを認めているところである。
このように,契約社員から再度正社員に戻るには,一審被告との合意が必要であることは,一審原告においても,十分認識していたものと認められるから,本件合意には錯誤はなく,一審原告の錯誤の主張は理由がない。一審原告の陳述書(甲50)及び供述(原審における本人尋問)中には,一審原告は希望すれば直ちにかつ確実に正社員に戻れると思って本件雇用契
約書に署名した旨の供述等があるが,上記の面談の際の発言等に照らし,採用できない。また,本件契約社員契約は正社員として復職するための一時的なつなぎであると認識していたとの供述等もあるが,つなぎという意味が,一審原告が希望すれば直ちに正社員に戻れることをいうのであれば,上記面談の際の発言等に照らし,同様に採用できず,将来において正社員に復帰する途があることをいうのであれば,内心の意思と表示ないし表示意思は一致しており,そもそも錯誤があるとはいえない。
本件合意は停止条件付き無期労働契約の締結を含むものであるか。一審原告は,本件合意は,一審原告が正社員への復帰を希望することを停止条件とする無期労働契約の締結を含むものと主張する。
しかしながら,前記

のとおり,本件書面中の契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの記載は,契約社員については,将来,正社員として稼働する環境が整い,本人が希望をした場合において,本人と一審被告との合意によって正社員契約を締結するという趣旨であり,本人からの申出のみで正社員としての労働契約の効力が生じるというものではない。本件雇用契約書中にも,契約期間内に一審原告からの申出により正社員としての契約への変更する旨の記載などない。そして,本件書面にも明らかように,正社員と契約社員の業務内容については,正社員はコーチ業務として最低限担当するべきコマ数が定められており,各種プロジェクトにおいてリーダーの役割を担うとされているのに対し,契約社員は上記コマ数の定めがなく,上記リーダーの役割を担わないとされており,その役割等に相当大きな差異があるのであって,コーチとして十分な業務ができるか否かについての一審被告の評価や判断を抜きにして,社員の一存で正社員への変更が可能と解する余地はない。
したがって,本件合意は,一審原告が正社員への復帰を希望することを停止条件とする無期労働契約の締結を含むものでないことは明らかである。
本件合意は正社員復帰合意を含むものか。
一審原告は,一審原告と一審被告との間で,一審原告が子を預ける保育園を確保して正社員に戻ることを希望した場合には,速やかに一審原告が担当するクラスのスケジュールを調整して正社員に復帰させる合意(本件正社員復帰合意)が成立したと主張する。
しかしながら,前記

に説示したとおり,本件書面中の契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの記載は,契約社員については,将来,正社員として稼働する環境が整い,本人が希望をした場合において,本人と一審被告との合意によって正社員契約を締結するという趣旨である。そして,正社員は,契約社員とは異なり,コーチ業務として最低限担当するべきコマ数が定められていることから,正社員として再契約するには,コマ数を増加させるためのスケジュール調整が必要であるが,それに加えて,正社員は,各種プロジェクトにおいてリーダーの役割を担うとされているのであるから,コーチとして十分な業務ができるか否かについて一審被告の評価や判断を抜きにして,スケジュールの調整ができさえすれば,一審被告に正社員契約の締結が義務付けられる性質のものではない。一審被告においても,一審原告について正社員として再契約をしない理由は,スケジュール調整の問題だけではない旨繰り返し説明しているところである。したがって,契約社員について,将来,正社員として稼働する環境が整い,本人が希望をした場合において,本人と一審被告との合意によって正社員契約を締結するとされているとしても,それはあくまで将来における想定にすぎず,本件契約社員契約の締結時において,契約社員が正社員に戻ることを希望した場合には,速やかに正社員に復帰させる合意があったとはいえない。小括
以上によれば,一審原告の①本件正社員契約,②停止条件付き雇用契約,③本件正社員復帰合意に基づく,正社員の地位の確認請求及び未払賃金等請
求はいずれも理由がない。また,本件正社員復帰合意の債務不履行による損害賠償請求も理由がない。
3
争点

(本件契約社員契約の更新の有無)

本件契約社員契約は,本件雇用契約書に記載されているように,1年という契約期間の定めのある有期労働契約である。
しかしながら,一審被告においては,コーチの新規採用は正社員(週5日勤務)のみとされるが,育児休業明けのコーチについては,正社員(週5日勤務)に加え,正社員(週5日の時短勤務),契約社員(週4日又は3日勤務,1年更新)の中から雇用形態を選択することができ,契約社員については,将来,正社員として稼働する環境が整い,本人が希望する場合には一審被告との合意によって正社員(週5日勤務)への契約を再締結するものとされ,例として入社時:正社員→(育休)→育休明け:契約社員→(子が就学)→正社員へ再変更が挙げられている。このように,一審被告における契約社員制度は,育児休業明けの社員のみを対象とするものであり,子の養育状況等によって,将来,正社員(週5日勤務)として稼働する環境が整い,本人が希望する場合には,正社員として期間の定めのない労働契約の再締結を想定しているものであるから,本件契約社員契約は,労働者において契約期間の満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる有期労働契約(労働契約法19条2号)に当たるものというべきである。
そこで,本件雇止めにつき,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められるか否かについて,検討する。

前記認定事実によれば,一審被告においては,就業規則上,秘密保持義務が規定され(4条),これを受けて,一審原告が署名した誓約書(甲29)には,①財務上,総務上,人事上及びその他経営上の情報並びに職務上知り得た個人情報,②語学の効果的学習方法,効果的教材の選択等のノ
ウハウ,アイディアその他の情報,③顧客及び取引先に関する情報,④その他一審被告が秘密保持すべき対象として指定した情報を一審被告の許可なく開示し,漏えい又は使用しないことを約する旨が記載され,一審原告がチエックをして提出したJBLスタッフセキュリティチエックリスト(乙62)には,ボイスレコーダー機能を搭載したアプリを使用しての録音は社内情報,顧客情報,関連企業情報の漏えいの恐れがあるため行わないこととされていたこと,一審被告は,平成26年9月27日付け注意指導書(甲17の8)により,一審原告に対し,信頼関係の確立に支障を生じ安心して働けなくなるなどとして,執務室内における録音を禁止するように指導し,実際にも,一審被告代表者は,一審原告に対し,面談や交渉の場面の録音は個別に許可するものの,執務室内における録音を禁止するように命じたことが認められる。
執務室内の会話を無断で録音することは,一審被告のコーチングといった業務上のノウハウ,アイディアや情報等が漏洩するおそれがあるほか,スタッフが少人数であり,執務室も限られたスペースであること(原審における一審被告代表者本人尋問の結果)から,コーチ同士の自由な意見交換等の妨げになり,職場環境の悪化につながる一方で,執務室内の会話をあえて秘密録音する必要性もないから,一審被告において,一般的に執務室内の録音を禁止し,従業員に対して個別に録音の禁止を命じることは,業務管理として合理性がないとはいえず,許容されるものと解される。しかるに,一審原告は,一審被告からの指導を受け,一審被告代表者からも録音の禁止を命じられたにもかかわらず,あえてこれに従うことなく,執務室内における録音を止めなかったのみならず,自らが署名した誓約書を撤回すると述べたり,執務室内における録音をしない旨を約する確認書を自ら提出したにもかかわらずこれを破棄して録音をしたものであるから,このような一審原告の行為は,服務規律に反し,円滑な業務に支障を与え
る行為というべきである。
これに対し,一審原告は,業務改善指導書等を交付されるなどして一審被告から不当な攻撃を受けたことから,自己の権利を守るために録音したとか,本件組合に伝えるために録音したとか,証拠として録音し,必要なものを除き,その都度消去し,目的外使用しなかったなどと弁解するが,組合に伝達するためであれば,メモ書でも足り,録音の必要性はなく,ボイスレコーダーを用いて執務室内の会話を録音していたのは,業務改善指導書の交付を受ける前の育児休業から復職した直後からであり,自己の権利を守るといいながら,結局,一審被告関係者らの発言を秘密裏に録音し,そのデータをマスコミ関係者らに手渡していたのであるから,録音を正当化するような事情はない。また証拠として録音したともいうが,本件では,一審原告は,一審被告に対し,正社員として再契約を締結することを求めているところ,それは就業環境というよりも交渉の問題であって,執務室内における言動とは直接関係はなく,仮に何らかの関連がなくはないとしても,執務室内における会話を録音することが証拠の保全として不可欠であるとまではいえず,結局,自己にとって有利な会話があればそれを交渉材料とするために収集しようとしていたにすぎないものである。

次に,前記認定事実のとおり,一審原告は,マスコミ関係者らに接触し,情報を伝え,録音データを提供した結果,①男性上司から俺なら,俺の稼ぎだけで食わせる覚悟で,嫁を妊娠させると言われた,②育児休業終了後に子が保育園に入れば正社員に戻すとの条件で週3日勤務の契約社員として復帰し,その後保育園が決まったのに,上司は正社員に戻すことを渋り,押し問答の末に上記発言が出た,③女性は社長とも話し合ったが,産休明けの人を優先はしないなどと言われ,嫌なら退職をと迫られた,④まさに社を挙げてのマタハラで,労働局の指導も会社は無視,⑤女性の後に育休を取った複数の社員も嫌がらせを受けて退職した旨の報道がされ,
録音データが再現されるなどしたものである。
このうち,②の保育園に入れば正社員に戻す条件があったとの事実は真実でない上,保育園が決まったのに正社員に戻すことを渋ったという事実についても,一審原告の説明でさえ,保育園はそもそも申込みすらしなかったというのであるから,保育園が決まったものではなく,保育園に子を預けることが決定したのに一審被告が正社員への再契約をしなかったというのは,真実ではない。③については,一審原告の求めが,自己の都合のみを優先し,土日のクラス担当のみを希望し,夜間にある平日のクラス担当は考えていないという現実味のないものであったことから,一審被告代表者らが,クラスの担当について一審原告の都合のみを優先するわけにはいかない旨を説明したことがあるが,育児休業明けの者を優先しないとは述べていないのであって,これも真実ではない。また,一審被告は,退職を迫ったこともないから,嫌なら退職をと迫られたというのも,真実ではない。④についても,一審被告は労働局の助言に従って一審原告と面談の機会を設けたものであって,労働局からの指導はなかったのであるから,労働局の指導を無視したというのは,真実ではない。⑤についても,一審原告が育児休業取得後に複数の社員が嫌がらせを受けて退職した事実はないから,真実ではない。一審原告は,Dからのメールで女性従業員が辞める理由は,育児に専念するために育児休業期間の満了により退職した旨説明を受けたものであるし(乙81),一審原告は,女性従業員らが面談を受け,圧迫さを感じたと言っていた旨供述するが,実際に本人に具体的な理由を確認したわけではない。そして,このように上記報道された事実のほとんどが真実ではないことは,一審原告がした録音データや一審原告が取得した労働局長の助言・指導処理票(甲36)等からも明らかであるし,一審被告からも繰り返しその旨の指摘を受け,一審原告自身それに根拠をもって反論できたわけではなかったのであるから,一審原
告も十分それを認識していたものというべきである。
そうすると,一審原告は,労働局に相談し,労働組合に加入して交渉し,労働委員会にあっせん申請をしても,自己の要求が容れられないことから,広く社会に報道されることを期待して,マスコミ関係者らに対し,一審被告の対応等について客観的事実とは異なる事実を伝え,録音したデータを提供することによって,社会に対して一審被告が育児休業明けの労働者の権利を侵害するマタハラ企業であるとの印象を与えようと企図したものと言わざるを得ない。
これに対し,一審原告は,報道は匿名でされており,録音行為も証拠収集として許容されるものであり,実際,一審被告の秘密が漏洩したものではなく,一審被告に損害は発生していないなどと主張する。
しかしながら,ここで問題にされているのは,一審原告の不法行為の成否ではなく(実際に一審被告に損害を与えていれば,懲戒解雇の事由となる。),企業秩序維持に反する行為を繰り返したことが就労の継続を期待する事由に当たるか否かであって,実際に,一審被告に損害が発生したかどうかはその判断に直接影響するものではない。そして,一審原告の録音行為は,マスコミ関係者らに録音データを提供するためのものとうかがわれる上,会社名を特定した報道がされたものではないとしても,他の情報等から一審被告を特定することも不可能ではなく,実際,一審原告は,周囲にその報道に関与したことを自ら明らかにしているのであるから,一審被告との信頼関係を破壊する背信行為であるとともに,一審被告の信用を毀損するおそれがある行為であることも否定することはできない。ウ
さらに,一審原告は,多数回にわたり,勤務時間内に,一審被告から業務上使用が許されていたパソコン及びメールアドレスを私的に利用していたものであり,職務専念義務違反があったものと認められる。
一審原告は,備忘のためであるとか,それによって情報が漏洩したこと
はないなどと主張するが,一審被告により貸与又は付与された業務用のパソコンやメールアドレスの勤務時間内の多数回にわたる私的利用が正当化されるものではない。

一審被告は,以上の事実に加えて,一審原告が自己の主張に固執して業務命令に従わないことや保育園の申込みをしていないにもかかわらず,それを秘して正社員への再契約を求めて交渉をする不誠実な態度に終始したことなどによっても,信頼関係が毀損されたなどと主張するが,少なくとも,一審原告の上記アからウの一連の行為のみをもってしても,一審被告代表者の命令に反し,自己がした誓約にも反して,執務室における録音を繰り返した上,職務専念義務に反し,就業時間中に,多数回にわたり,業務用のメールアドレスを使用して,私的なメールのやり取りをし,一審被告をマタハラ企業であるとの印象を与えようとして,マスコミ等の外部の関係者らに対し,あえて事実とは異なる情報を提供し,一審被告の名誉,信用を毀損するおそれがある行為に及び,一審被告との信頼関係を破壊する行為に終始しており,かつ反省の念を示しているものでもないから,雇用の継続を期待できない十分な事由があるものと認められる。
したがって,本件雇止めは,客観的に合理的な理由を有し,社会通念上相当であるというべきである。
以上によれば,本件契約社員契約は,期間満了により終了しているから,
一審原告の契約社員としての地位の確認請求及び未払賃金等請求は,いずれも理由がない。
4
争点

(一審被告による不法行為の有無)

一審原告は,一審被告が,育児休業明けの一審原告を嫌悪し,一審被告から追放するために,一連の嫌がらせを重ね,雇止めをして,一審原告に正社員として復職することを断念させようとしたものであって,マタニティハラスメントに当たる旨主張する。

前記認定事実によれば,一審被告が,一審原告に付与した業務用のメールアドレスに送信された一審原告宛てのメールを閲読し,そのメールを送信した社外の第三者らに対し,一審原告が就業規則違反と情報漏洩のため自宅待機処分となった旨を記載したメールを送信したことが認められる。一審被告は,一審原告が録音禁止の命令や指導に従わず,誓約書も撤回すると述べたことなどから,情報漏洩の観点から,一定期間,上記メールアドレスへのアクセスを禁止したものであり,その期間に上記メールアドレスに送信されたメールを一審被告が閲読することについては,業務上の正当性があるが,少なくとも就業規則違反と情報漏洩のため自宅待機処分となった事実は,一般的には他人に知られたくない情報であって,これを社外の者らに伝える必要性はないから,たとえ,相手方が一審原告が就業時間内に上記メールアドレスを使用してやり取りをしていたH関係者らであったとしても,その情報を伝えることは,一審原告のプライバシーを侵害する行為であることに変わりがない。
しかしながら,この点を除くと,以下のとおり,一審原告が主張する一審被告の行為が違法なものとは認められない。

まず,一審原告は,一審被告が本件合意をさせて正社員から契約社員への契約変更を強要し,正社員に戻すことの拒否した挙句,雇止めをしたことが違法であると主張する。
しかしながら,本件合意は,週3日4時間勤務しかできない一審原告が,真に自由な意思に基づいてしたものであり,均等法9条3項及び育介法10条の不利益な取扱いには当たらない上,正社員契約の再締結には合意を要するところ,前記のとおり,復職後も子を預ける保育園を確保する目途が立ったわけではなく,時間短縮措置を講じても週5日勤務が困難な状況に変わりがなかったのであるから,一審被告が信頼関係を形成できず正社員に復帰させるような状況にはないと判断してこれ
を拒否することは何ら違法なものではない。また,前記3に説示したとおり,本件雇止めには,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められるから,違法であるとはいえない。

一審原告は,一審被告が,一審原告の正社員に戻りたいとの要求を維持し労働局に相談する姿勢そのものを問題視し,クラス担当から外し,合理的理由なく中核的業務を取り上げたと主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,Cにおいては,2か月という受講期間に成果を達成するためのコーチングを特色としているため,担当コーチによるコーチングが最も重要な業務であり,コーチが受講生に密接に関わる必要があることなどから,高い処遇をする反面,クラス運営に極力支障が出ないような態勢を整えることを求めていたところ,平成26年9月19日の面談において,一審原告が求めた具体的な勤務状況は,自己の都合のみを主張し,土日のクラスのみを担当し,平日のクラス担当を全く考えていないなど全く現実味のないものであることが判明したことに加え,一審被告との労働契約に納得していない旨述べたため,一審被告にとって最も重要な業務であるクラス担当をさせるのは相当ではないと判断したものであるから,その判断には合理的な理由がある。加えて,一審原告は,同日の面談以降も,正社員への再変更を求めるだけであって,クラスの運営に支障が出ないようにバックアップ体制を整えることもなかったものである。
この点,一審原告は,労働者に育児のためのバックアップ体制の準備を要求することは,子の看護休暇の取得が権利として認められていることに反する旨主張するが,一審被告がバックアップ体制の準備を求めるのは,Cの最重要業務であるコーチングを担うコーチに対し,担当するクラスの運営に極力支障が出ないようにするためであって,あらかじめ子の看護休暇の取得を制限する趣旨ではない(実際,一審被告は平成26年12月1
3日及び14日の欠勤について,看護休暇の取得を認めている。)。一審原告は,労働局に相談する姿勢を問題視にするものであるというが,クラス担当から外すという話は,一審原告が労働局へ相談すると発言する前に既にされており,このことは,一審被告が繰り返しその旨を説明し,一審原告自身も認めているところである(甲37)。

一審原告は,一審被告は,労働契約上の指示・命令の外形を用いて,懲戒処分の可能性等をちらつかせ,17通の業務改善指導書等を交付し,服務規律や企業秩序維持と無関係である労働契約の締結に係る交渉場面における譲歩を一審原告に迫り,本件組合の抗議を受けても止めなかったことは,違法であると主張する。
しかしながら,業務改善指導書等は,日頃から述べている一審被告の主張や一審被告と一審原告との間のやり取りを文章化して整理したものであり,異議があれば記載するように説明して一括交付されたものであって,その内容も,執務室内における秘密録音を禁止し,実際にあった一審原告の言動を指摘し,外部に対して事実と異なり退職勧奨されたなどと述べたことを注意,指導するものである。確かに,一審原告が一審被告の主張に反する主張を繰り返していることを批判する部分もあるが,全体としてみれば,指導の範囲を逸脱した違法なものとまではいえない(なお,一審被告は退職勧奨をしたような事実はないが,一審原告は,労働局の担当者に事情を説明したところ,退職勧奨に当たる旨の回答を受けたなどと弁解している。しかしながら,一審原告が客観的事実ではなく,自己の主張する事実を述べた可能性もある上,一審原告が入手した労働局長の助言・指導処理票(甲36)にもそのような記載はなく,平成26年9月22日に労働局に個別労働関係紛争の解決援助の申出をするよりも前に,既にF社労士に退職勧奨があった旨述べ,それが事実と異なる旨の指摘をされていた上,同月21日付け業務改善指導書(甲17の6)でも同様の指摘を
受けていたところである。)。

一審原告は,平成26年9月19日の面談の際,一審被告代表者,E及びF社労士が,育介法22条所定の育児休業後の就業が円滑に行われるようにするための雇用管理等の必要な措置はしないという態度を示す発言をしたこと,子を持つ労働者の時短制度利用について一審被告が主観的専断的に決定する旨の発言をしたこと,育児休業明けの者は週3日で勤務すべきであるという価値観を押しつける発言をしたことは,違法であると主張する。
しかしながら,一審原告は,週5日勤務の正社員に戻ることを要求しているものの,一審原告の説明からは,週3日4時間勤務しかできないとして契約社員契約を締結した直後に週5日の勤務が可能になったような客観的な事情の変化があったとはいえず,一審原告が想定している具体的な勤務状況は,自己の都合のみを主張し,土日のクラスのみを担当し,平日のクラス担当を全く考えていないなど全く現実味のないものであることが判明したことなどから,しばらく週3日4時間勤務を継続することを勧め,一審被告としては,ある程度の時間を見て正社員への復帰を判断する旨を述べたものであって,何ら違法なものとはいえない。
次に,一審原告は,平成26年9月24日の面談において,Eが,一審原告に対し,

俺は彼女が妊娠したら,俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる。

旨のマタハラ発言をしたことは違法であると主張する。
前記認定のとおり,同日の面談において,一審原告が,一審被告のために行動している旨を述べ,Eに対し,私が今置かれている立場になって,Eさんも,例えば,◇◇さん(Eの妻のこと)とかに置き換えて考えてみると,また違う考え方ができるんじゃないかなと思うんですけれどもと述べ,Eの妻も一審原告と同様に正社員復帰を望むのではないかと尋ねた
のに対し,Eがこれを否定し,

それはケースバイケースだよ。Aさん。俺は彼女が妊娠したら,俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる。

と発言し,これを一審原告が無断で録音していたことが認められるが,この発言は,上記のような一審原告とEとの間の一連のやり取りの中で,仕事を辞めてEの留学に同行したEの妻の件を一審原告からわざわざ持ち出して質問したのに応じて,Eが自己の個人的な意見を表明したにすぎず(乙91,原審における証人Eの証言),上長の立場から部下に自己の価値観や家庭観を押し付けようとしてしたものではない。したがって,上記発言は,適切なものとはいえないものの,就業環境を害する違法なものとまではいえない。

一審原告は,一審被告が,一審原告に対し,労働局に相談したことを嫌悪して嫌がらせをするようになったこと,労働組合に加入したことを嫌悪し,加入の経緯を問い詰め,他の同僚もいる前で組合に関する意見を職場内で求めたりするなどし,これにより,一審原告を一審被告の職場内で孤立させ,人間関係からの切り離しを行ったものであり違法であると主張する。
しかしながら,一審被告代表者らは,平成26年9月19日の面談において,労働局に相談に行っても,正社員への復帰がどんどん難しくなる,一審被告は一審被告の方針を伝えるだけで,状況の変化はない旨述べ,本件組合に加入した時期を尋ね,抗議申入書の趣旨を尋ねたことなどがあるものの,一審原告による労働局への相談や本件組合を介した交渉を妨げたものとは認められず,労働局に出頭し,本件組合からの団体交渉の申入れにも応諾しているのであって,一審原告が労働局への相談や本件組合へ加入したことを契機として,一審被告が一審原告に対する嫌がらせを行い,一審原告を一審被告の職場内で孤立させるなどしたものとは認められない。

一審原告は,一審被告が一審原告に対し,インターネット上の口コミサ
イトで批判する書き込みをされたコーチが一審原告であると決めつける発言をしたこと,メール返信や書類の提出の仕方について注意をしたこと,平成26年12月13日及び同月14日に子の看護のため,電子メールでEに事前連絡の上,欠勤したことにつき,バックアップ体制がなっていないと注意指導したこと,電車遅延による遅刻に対して減給及び注意をしたことは,一審原告に対する嫌がらせであり,違法であると主張する。しかしながら,口コミサイトであるとはいえ,特定のコーチの指導方法について受講生らから具体的な批判がされていることを把握したのであるから,一審被告としては,事実関係について調査し,事実であれば改善を図ることは当然であるところ,一審原告が,上記コーチは,一審原告ではなく別の者であるとして特定のコーチの名を挙げたものの,その説明には矛盾があり,帰国子女であるコーチはその当時一審原告のみであったことなどから,一審被告代表者は,一審原告が虚偽の回答をしたと判断して注意をしたものであって,相当な根拠を持つものであり,上司としての業務上の注意・指導の範囲を逸脱したものではないから,違法なものとはいえない。また,一審被告代表者が一審原告に対し,一審被告代表者が送信した電子メールに返信をしないことや,書類の提出の仕方について注意をしたことも,上司による業務上の注意・指導の範囲を逸脱したものであるとはいえない。さらに,一審被告においては,欠勤については電話連絡により承認を取ることとされていたところ(乙29),一審原告は,平成26年12月13日及び同月14日に電子メールによって欠勤を連絡してきたため,一審被告代表者は,一審原告に対し,その旨を指摘して注意・指導し,バックアップ体制がないなどと述べたが,上記の欠勤については,一審原告の申請どおり,看護休暇の取得を承認したことが認められるのであって,上司による業務上の注意・指導の範囲を逸脱したものであるとはいえない。一審被告代表者は,一審原告に対し,電車の遅延について,遅刻
の連絡方法と遅延証明を取得してこなかったことについて注意をしたことは,いずれも上司による業務上の注意・指導の範囲を逸脱したものであるとはいえず,遅刻による減給措置も,他の一審被告の契約社員に対しても同様に行われているものであって,一審原告のみを対象として行われたものとは認められない。

一審原告は,一審被告が,一審原告に対し,使用者に届け出る必要がない保育園の連絡先を提出するよう複数回求めた行為は,他の社員に対しては求めていないものを一審原告に対してのみ求めたものであって,一審原告に対する悪質な嫌がらせであり,違法であると主張する。
しかしながら,一審被告代表者は,一審原告に対し,適切な労務管理を行う上で必要な事項と考えて保育園の連絡先についての報告を求めたこと,一審被告は,他の従業員らにも保育園の連絡先を確認していることが認められるから,一審被告が,一審原告に対し,保育園の連絡先の報告を求めたことが一審原告に対する悪質な嫌がらせとして行われたものとはいえない。


一審原告は,一審被告が平成27年6月,一審原告に対し,一審被告社内のサーバーにアクセスできないよう遮断する措置を執ったが,これは,一審原告を一審被告の職場内で孤立させ,人間関係からの切り離しを行ったものであり違法であると主張する。
しかしながら,一審被告が,一審原告に対し,上記の措置を執ったのは,一審原告が情報漏えい等をしない旨の誓約書を撤回し,一審被告代表者の命令にも従わない旨述べたことなどから,情報漏洩の疑いがあると判断したからであり,その判断は相当であって,違法なものとはいえない。

一審原告は,一審被告が一審原告に対し,平成27年7月11日,早退命令を発し,次いで,同月12日以降の自宅待機命令を発したが,早退命令及び自宅待機命令は,いずれも合理的な理由がない上,早退命令につい
ては弁明の機会を与えることなく発せられた点で違法であると主張する。しかしながら,早退命令及び自宅待機命令は,いずれも,一審被告代表者において,一審原告が就業規則に違反する行為をしたことを現認し,これに対する事実調査及び処分の検討を行う必要があるとして行われたものであるから,合理的な理由に基づく業務命令であるといえる。早退命令については,事実経過に照らし,調査を円滑に行うための業務命令として行ったものであると認められるから,弁明の機会を与えなかったことをもって,直ちに違法であるとはいえない。

一審原告は,一審被告が,平成27年10月23日,一審被告の公式ウェブサイトに一審原告を誹謗中傷する記事を掲載し,その削除要請にも応じず,掲載を継続したことは違法であると主張する。
しかしながら,一審被告の公式ウェブサイトに掲載された記事は,本件記者会見をした一審被告の元従業員の正社員から契約社員に職制変更されその後雇止めをされたことがマタニティハラスメントに当たるとの主張は,全く事実と反する内容となっていること,一審原告は自らの意思で契約社員を選択したこと,元従業員は,復職前後から約1年間にわたり,職場内外の数々の問題行動に及んだこと,育児休業の取得その他の出産・育児を理由として不利益な取扱い(マタニティハラスメント)に当たる事実も一切ないことなどを内容とするものであるところ,これらは,前記認定事実に照らせば,そのほとんどが真実であり,かえって,後記5において説示するように,真実と異なる事実を摘示した本件記者会見が行われ,これに基づく報道がされたことによって生じた一審被告の対外的な信用の毀損・低下を防ぐため,一審被告の立場から事実関係及び認識を説明したものであって,訴訟の反対当事者による対抗言論として正当なものである。また,一審原告は,一審被告が,平成30年9月12日,一審被告の公式ウェブサイトにおいて,原判決の内容について,事実に反する情報を意
図的に公開し,一審原告を貶めようとした行為は,違法であると主張する。しかしながら,一審被告の公式ウェブサイトに掲載された記事は,原判決に対するコメントとして,一部のマスコミの報道では一審被告のマタハラが認定されたかのように報じられているが,そのような事実はないとするものであるところ,原判決においては,一審被告の契約準備段階における信義則上の義務違反を認めたものの,マタニティハラスメントという言葉を用いた明示的な認定はされていないのであるから,一審被告の上記コメントが事実に反するものであるともいえない。
なお,原判決は,一審被告が契約準備段階における信義則上の義務に反する旨の判断をしているところ,はたして一審原告が原審においてそのような主張をしていると見ることができるのか疑問があるが,この点を措き,仮に,一審原告の当審における主張の中にそのような趣旨が含まれていると見る余地があるとしても,前記説示のとおり,一審被告の対応等が契約準備段階における信義則上の義務に反するような事情はない。
損害
以上によれば,一審原告が不法行為と主張する一審被告の行為のうち,一審原告が就業規則違反と情報漏洩のため自宅待機処分となった旨を記載したメールを第三者に送信したことについてのみ不法行為が成立するところ,メールの内容等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,上記一審被告の違法行為により一審原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は5万円が相当であり,弁護士費用のうち5000円が上記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
したがって,一審原告の不法行為に基づく損害賠償請求は,一審被告に対し,5万5000円及びこれに対する不法行為の日である平成27年9月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

5
争点

(一審原告による不法行為の有無)

本件記者会見は,本件甲事件本訴を提起した日に,一審原告及び一審原告訴訟代理人弁護士らが,厚生労働省記者クラブにおいて,クラブに加盟する報道機関に対し,訴状の写し等を資料として配布し,録音データを提供するなどして,一審被告の会社名を明らかにして,その内容が広く一般国民に報道されることを企図して実施されたものである。
そして,報道機関に対する記者会見は,弁論主義が適用される民事訴訟手続における主張,立証とは異なり,一方的に報道機関に情報を提供するものであり,相手方の反論の機会も保障されているわけではないから,記者会見における発言によって摘示した事実が,訴訟の相手方の社会的評価を低下させるものであった場合には,名誉毀損,信用毀損の不法行為が成立する余地がある。
一審原告は,記者会見は,報道機関に対するものであるから,記者らにとっては,記者会見における発言は,当事者が裁判手続で立証できる範囲の主張にすぎないと受け止めるものである,訴状を閲覧した報道機関からの取材に応じることと何ら変わるものではないなどと主張する。
しかしながら,一審原告らは,報道機関からの取材に応じるのとは異なり,自ら積極的に広く社会に報道されることを期待して,本件記者会見を実施し,本件各発言をしており,報道に接した一般人の普通の注意と読み方を基準とすると,それが単に一方当事者の主張にとどまるものではなく,その発言には法律上,事実上の根拠があり,その発言にあるような事実が存在したものと受け止める者が相当程度あることは否定できないし,実際,一審被告に対しては,マタハラ行為をしたとして苦情のメールがあったところでもある。そして,証拠(乙68,70,71)及び弁論の全趣旨によれば,一審原告らは,本件記者会見において本件各発言をしたことが認められる(このことは,本件甲事件訴状には,

原告の組合加入後は,原告を危険人物呼ばわりした。

(44頁)と記載されているだけであるにもかかわらず,本件報道②(乙71)には,女性側弁護士によると女性が労働組合に加入したところ,会社代表が「あなたは危険人物ですと発言したこともあったという。」とされていることなどからも明らかである。)から,その発言内容を事実として摘示したものというべきである。
そこで,本件各発言が一審被告の名誉又は信用を毀損するものといえるかにつき検討する。

本件発言①は,一審原告は,平成26年9月に育児休業終了を迎えたが,保育園が見付からなかったため,一審被告に対し,休職を申し出たものの認められず,一審被告から週3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られたというものであり,これに対応して,育児休業を取った後に正社員から契約社員になることを迫られた(本件報道①)又は育休明けに正社員から非正規社員への変更を迫られた(本件報道②)との報道がされたことが認められる。同発言部分は,一般読者の普通の注意と読み方によれば,一審被告が育児休業終了後復職しようとする一審原告に対し,正社員から契約社員への変更又は自主退職を迫ったとの事実を摘示するものであり,一審被告が育児休業後復職しようとする従業員に不利益な労働条件を押し付け,退職を強要するなど労働者の権利を侵害する企業であるかの印象を与えるものであるから,一審被告の社会的評価を低下させるものといえる。


本件発言②は,一審原告が,育児休業終了後,やむを得ず契約社員契約を締結したが,1年後に雇止めされたというものであり,これに対応して,育児休業を取った後に,正社員から契約社員になることを迫られ,1年後に雇い止めにされた(本件報道①),育休明けに正社員から非正規社員への変更を迫られ,1年後に雇い止めになった(本件報道②)との報道がされたことが認められる。

同発言は,育児休業終了に際しやむを得ず契約社員契約を締結したが1年後に雇止めをされた事実を摘示するものであるが,やむを得ずという部分は,一審原告の心情を述べたものと受け止められなくもなく,必ずしも,一審被告からの強要があったとの印象を与えるものではない。また,1年後に雇止めにされたこと自体は,その雇止めの理由が不当であること等についての指摘を含むものではないから,雇止めが有効か無効かについては争いがあるものとはいえ,一審被告が違法に雇止めをしたとの印象を与えるものではない。
したがって,本件発言②自体が,直ちに,一審被告の社会的評価を低下させるものとはいえない。

本件発言③は,一審原告が子を産んで職場に復帰したら,一審被告から人格を否定されたというものであり,これに対応して,

子どもを産んで戻ってきたら,人格を否定された。

(本件報道①)との報道がされたことが認められる。同発言部分は,一般読者の普通の注意と読み方によれば,育児休業終了後復職した一審原告が,一審被告から人格を否定するような言動を受けたとの事実を摘示するものであり,一審被告が育児休業を取得した従業員に対し,個人の尊厳を傷つけるような言動をしたとの印象を与えるものであるから,一審被告の社会的評価を低下させるものといえる。一審原告は,意見や評価であると主張するが,一般人の普通の注意と読み方によれば,証拠等をもってその存否を確定し得る事項であるから,意見や評価とはいえない。


本件発言④は,一審被告における上司の男性が,一審原告に対し,俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させると発言したというものであり,これに対応して,

会社側との話し合いの中では,上司の男性が『おれは彼女が妊娠したら,おれの稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる』と発言。

(本件報道②)との報
道がされたことが認められる。同発言部分は,上司が上記のような発言をしたという事実を摘示するものであり,一般読者の普通の注意と読み方によれば,男女の雇用均等や育児と家庭の両立等が求められている中,一審被告の管理職の立場にある者が妊娠して子を養育する女性労働者が働くことについて否定的な認識や価値観を有しているかのような印象を与えるものであるから,一審被告の社会的評価を低下させるものといえる。オ
本件発言⑤は,一審原告が労働組合に加入したところ,一審被告代表者が一審原告に対しあなたは危険人物ですと発言したというものであり,これに対応して,女性が労働組合に加入したところ,会社代表が「あなたは危険人物ですと発言したこともあった」(本件報道②)との報道がされたことが認められる。同発言部分は,一審被告代表者が組合に加入した一審原告に対し,危険人物であると発言したという事実を摘示するものであり,一般読者の普通の注意と読み方によれば,団結権や団体交渉権は権利として保障されているにもかかわらず,経営者である一審被告代表者が,労働組合の存在や従業員の組合加入について,嫌悪感を有しているとの印象を与えるものであるから,一審被告の社会的評価を低下させるものといえる。


したがって,本件発言①,③ないし⑤は,いずれも一審被告の社会的評価を低下させるものというべきである(なお,本件報道②は,一審被告の会社名を明らかにしたものではないが,本件各発言は,一審被告の会社名を明らかにしてされたものである上,本件報道①及び③は,一審被告の会社名を明らかにしているから,本件報道②も他の情報と併せれば一審被告についての報道であることが容易に特定できるものである)。
事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事
実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,
上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
そこで,公共性,公益目的については,しばらく措き,本件発言①,③ないし⑤について,摘示された事実がその重要な部分について真実であるといえるか又は真実と信ずるについて相当の理由があるといえるかを検討する。ア
前記説示によれば,一審原告が一審被告との間で本件合意をしたことについては,一審原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものであって,一審被告が正社員であった一審原告に対し,契約社員に変更するか又は自主退職するかを迫ったものではないから,本件発言①で摘示された事実については,真実であるとは認められない。また,この点については,一審被告から,繰り返し,指摘をされているところであって,一審原告は,これについて有意な反論もできなかったこと,本件合意の成立過程に自ら関与していることなどからすると,一審原告において,真実と信ずるについて相当の理由があるとも認められない。


本件発言③について,一審原告は,一審被告が一審原告の言動を意図的に歪めたり,虚偽を織り交ぜて一審原告の仕事ぶりを貶めてきたことに対する心情として,一審被告に人格を否定されたと表現したものであると陳述するが(甲50)が,人格を否定されたと発言しており,
のとおり,事実に対する評価や意見を述べたものではない。そして,一審原告の主張を見ても,一審被告による一審原告の人格を否定する言動を具体的に指摘するものではない上,証拠を踏まえても,一審原告が一審被告から人格を否定される言動を受けたことにつき,具体的な立証があったと
はいえない。
したがって,本件発言③で摘示された事実については,真実であるとの立証があるとは認められず,一審原告において,真実と信ずるについて相当の理由があるものとも認められない。

本件発言④については,Eが,

俺は彼女が妊娠したら,俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる。

などと発言したことが認められるから,本件発言④で摘示された事実については,真実であると認められる。


本件発言⑤は,一審原告と一審被告代表者,Eが平成26年10月18日に面談した際,Eが,一審原告には2年間のブランクがあり,いきなりクラスを担当させることにはどの程度のリスクがあるかも分からないため,徐々に慣らしていくことが絶対に必要であると述べ,一審被告代表者もこれに同調し,一審原告をクラス担当から外した理由について,一審被告代表者が,

あなたが組合とかって関係なく,危険であるというところで。

と発言し,一審原告にクラスを担当させるにはリスクが大きいからである旨述べたことを指していると思われるが,あなたは危険人物であるとの発言した事実は認められず,直前に組合とは関係がない旨明示的に述べていること及び話の文脈からすると,危険とは,クラスに穴を開けることが懸念されたなどの一審原告にクラス担当を任せることについてのリスクをもって危険という表現を用いたことが認められるのであって,一審被告代表者の上記発言が一審原告が労働組合に加入したことを嫌悪して行われたものとは認められない。
したがって,本件発言⑤で摘示された事実については,真実であるとは認められない。また,この点についても,一審被告から繰り返し指摘を受けていたところであり,一審被告代表者の上記の発言の内容は,一審原告自らが録音したデータ(甲37の1・2)によっても明らかであることな
どからすると,一審原告において,真実と信ずるについて相当の理由があるとも認められない。
そして,このように相当性がないことは,一審原告が,一審被告からマスコミに対し事実と異なる情報を提供しないように指導され,警告されていたこと(甲27,28),一審原告自身が,マタハラが脚光を浴びているとして,記者会見を一審被告に社会的制裁を与えて自己の金銭的要求を達成するための手段と考えている趣旨のメール(乙30の2,61)を作成していることなどからも裏付けられる。一審原告は,上記メールは,一審被告から労働審判の申立てをされたことなどから,その心情を記載したものにすぎないというが,上記メールは単に心情を述べたものではなく,一審原告の訴訟提起の方針等を弁護団に伝えるものであることはその文面上からも明らかである。
損害について
そして,本件各発言に基づく報道は,語学スクールを経営する一審被告があたかもマタハラ企業であるような印象を与えて社会的評価を低下させるものであり,実際に,一審被告を非難する意見等も寄せられたのであるから,本件各発言に基づく報道によって一審被告の受けた影響は小さくないが,本件各発言に基づく報道の中には一審被告の主張も併せて紹介したものがあったことや一審被告の公式ウェブサイトにおいて一審被告の見解を表明して反論していることなど本件に現れた一切の事情を考慮すると,一審原告らによる本件発言①,③及び⑤がされ,これに基づく報道がされたことにより,一審被告が被った名誉又は信用を毀損されたことによる無形の損害は,50万円と認めるのが相当である。
また,本件事案の難易,請求額,認容額等その他一切の事情を斟酌すると,一審被告に生じた弁護士費用のうち5万円は,一審原告の上記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。

以上によれば,一審被告の不法行為に基づく損害賠償請求は,一審原告に対し,55万円及びこれに対する不法行為の日である平成27年10月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第4

結論
以上の次第であって,一審原告の甲事件本訴各請求(当審における追加請求を
含む。)は,5万5000円及びこれに対する不法行為の日である平成27年9月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余の甲事件本訴各請求はいずれも理由なく,一審被告の甲事件反訴請求は55万円及びこれに対する不法行為の日である同年10月22日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の甲事件反訴請求は理由がない。
よって,一審原告の控訴及び一審原告の当審における追加請求をいずれも棄却し,一審被告の控訴に基づき,原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官

阿部
裁判官

田口治美
裁判官

上田洋幸潤
(別紙)


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